上林暁『星を撒いた街』 | 音盤ながし

上林暁『星を撒いた街』

●上林暁『星を撒いた街』
 本を手にし、装幀にふれただけで、この本がいかに大切に刊行されたかが伝わり嬉しくなる。『昔日の客』もそうした本だった。そうです、この本好きにとってたまらない2冊は吉祥寺の出版社夏葉社のものです。

 関口良雄さんの随筆集『昔日の客』に度々登場した私小説作家上林暁、関口さんが敬愛したこの作家の短編小説集がこの『星を撒いた街』。小説の初出一覧によると昭和6年から昭和38年までの7編が収められている。戦争をまたぎ高度成長へと向かう時代だけど、小説からそんな大きな背景は伺えない。

 小説には作者の日常がすくいあげられている。庭の月見草であったり、近所に住む老文学者のことであったり、出版社での営業の日々であったり、精神を病み長期入院中の妻とのことであったり、諷詠詩人の話しであったり、訪ねていった旧友の住む貧しい印刷工場街での出来事であったり、そんな作者の日常が小説となっている。

 これらの小説には天真爛漫な明るさやハッピーエンドはない。どちらかといえば、暗い辛い難儀な話しである。しかし作者は、これらを大声で泣き叫ぶことはしないし、声高に表明しまた同情を得ようという態度は見せない。

 あくまでも静かに語るのである。その静かさの中から悲しみがにじみ出る。辛さの中からうっすらとした光明を感じ取る。
昭和の高度経済成長が始まる前の日本人の生活、大多数の日本人がまだ豊かだとはいえない時代の日本が、この小説の中に息づいている。そこには澄んだ貧しさがあり、貧しさが星屑のように肩寄せ合いキラキラと輝いている。
上林暁傑作小説集『星を撒いた街』/上林暁
¥2,310
Amazon.co.jp