カズオ・イシグロ『日の名残り』
●カズオ・イシグロ『日の名残り』
カズオ・イシグロがこの小説で、世界的に権威のあるイギリスの文学賞「ブッカー賞」を受賞したことは、当時日本でも話題となった。長崎生まれで両親が日本人の英国作家ということでの話し。その頃の俺にとって、ブッカー賞はなんだか重い感じがして、難しい小説なんだろうな、と敬遠していた。ところがイシグロの『わたしを離さないで』を読んで、一躍彼のファンとなり、その作品を数冊読み、そして回り道ながらこの有名な小説を読むことができた。静かな、そして深い葛藤がにじみ出る、素晴らしい小説を堪能した。
小説の舞台は第二次大戦前夜のイギリス。主人公のスティーブンスは執事として、英政界の名士ダーリントン卿に仕えている。この格式高い卿の御館に仕える執事スティーブンスを語り手とした小説となっているので、非常にもったいぶった格式張った語り口が、この小説のトーンを醸し出している。
偉大なる執事とは、執事の品格とは、スティーブンスは常に心を砕く。それは主人への絶対的な忠誠心でもあるのだが、終章で彼はつぶやく「...私は選ばずに、信じたのです。私は卿の賢明な判断を信じました。卿にお仕えした何十年という間、私は自分が価値あることをしていると信じていただけなのです。自分の意志で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか?」
有能な執事を自認しながら主人ダーリントン卿の外交上の過ちに対し、執事の立場上、主人に意見することなどありえず、また自分に思いを寄せていた女中頭の恋心もわからない程、鈍い男だった、そんな後悔がラスト本人の口から吐き出される。
夕方、海を望む桟橋のベンチで泣くスティーブンス。そんな時、ひとりの男が言う「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚をのばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」...そしてスティーブンスは、新たに自分の気持ちを奮い立たせる。新たな主人であるアメリカ人に、立派なジョークで対応して差し上げようと。
大事な事を忘れていた。この小説はロード・ノベルでもあった。執事は新たな主人から休暇と旅行を勧められ、主人のフォードで、かつて一緒にダーリントン卿に仕えた女中頭ミス・ケントンの住む町をめざす。その旅をしながら、かつての日々を回想する、という構造になっていて、イギリスの田園風景や田舎町を旅し、そして過去と現在を行き来する小説の構造が、じつに自然で穏やかで、なんというか...巧いのだ。
カズオ・イシグロがこの小説で、世界的に権威のあるイギリスの文学賞「ブッカー賞」を受賞したことは、当時日本でも話題となった。長崎生まれで両親が日本人の英国作家ということでの話し。その頃の俺にとって、ブッカー賞はなんだか重い感じがして、難しい小説なんだろうな、と敬遠していた。ところがイシグロの『わたしを離さないで』を読んで、一躍彼のファンとなり、その作品を数冊読み、そして回り道ながらこの有名な小説を読むことができた。静かな、そして深い葛藤がにじみ出る、素晴らしい小説を堪能した。
小説の舞台は第二次大戦前夜のイギリス。主人公のスティーブンスは執事として、英政界の名士ダーリントン卿に仕えている。この格式高い卿の御館に仕える執事スティーブンスを語り手とした小説となっているので、非常にもったいぶった格式張った語り口が、この小説のトーンを醸し出している。
偉大なる執事とは、執事の品格とは、スティーブンスは常に心を砕く。それは主人への絶対的な忠誠心でもあるのだが、終章で彼はつぶやく「...私は選ばずに、信じたのです。私は卿の賢明な判断を信じました。卿にお仕えした何十年という間、私は自分が価値あることをしていると信じていただけなのです。自分の意志で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか?」
有能な執事を自認しながら主人ダーリントン卿の外交上の過ちに対し、執事の立場上、主人に意見することなどありえず、また自分に思いを寄せていた女中頭の恋心もわからない程、鈍い男だった、そんな後悔がラスト本人の口から吐き出される。
夕方、海を望む桟橋のベンチで泣くスティーブンス。そんな時、ひとりの男が言う「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚をのばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」...そしてスティーブンスは、新たに自分の気持ちを奮い立たせる。新たな主人であるアメリカ人に、立派なジョークで対応して差し上げようと。
大事な事を忘れていた。この小説はロード・ノベルでもあった。執事は新たな主人から休暇と旅行を勧められ、主人のフォードで、かつて一緒にダーリントン卿に仕えた女中頭ミス・ケントンの住む町をめざす。その旅をしながら、かつての日々を回想する、という構造になっていて、イギリスの田園風景や田舎町を旅し、そして過去と現在を行き来する小説の構造が、じつに自然で穏やかで、なんというか...巧いのだ。
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