中央線で読む新書 -67ページ目

満鉄調査部

読み応え感が薄く物足りない。その分満鉄調査部をさくっとまとめてはいる。
また読者層が高齢であることを見込んでか、活字が大きい。

大川周明が在籍した同時期に佐野学(共産党委員長。後に獄中転向)も居た。
これに見られるように清濁併せ呑む満州そのままの機関であるが、むしろ
後者が主流となる。ソ連研究・中共研究からやがて「満鉄マルクス主義」が
生まれ、思想的前歴者が多数入社する。やがて憲兵によって「満鉄調査部
事件」(農業合作社の運動に左翼が多く集まった。それを共産主義運動と
認定した憲兵が検挙・解体をはじめる。それに連座する恰好で満鉄調査部員
を大量検挙する)によって解体される。

「企画院事件」(経済統制のセクション・企画院が統制の名の下に進歩主義
的な政策を実施し日本共産党の目標実現に努力したと憲兵が企画院調査官
を検挙。逮捕されたメンバーには戦後になって経済安定本部に入り傾斜生産
方式による「日本株式会社」の推進を行う和田博雄、勝間田清一らがいる)と
と満鉄調査部事件、この二つの事件に見られるような性格の満州から、
革新官僚・岸信介、日本株式会社のプランナー・宮崎正義らが戦後日本を
形成していくこととなる。
そこが一番面白いところなのだろうが本書の最終章「それぞれの戦後」は
控えめすぎ。

【話のネタ本にはGOOD】 2005年

小林 英夫
満鉄調査部―「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊

大追跡!現代の海賊

海賊に襲われ船舶を奪われ、救命ボートで漂流するハメとなった1999年の
アロンドラ・レインボー事件
http://www.fujitv.co.jp/unb/contents/p125_4.html )についての、
第一章「日本船と積荷十二億円強奪の最新事件を追う」はなかなか読ませる。

【時間つぶしにはGOOD】 2000年 

室伏 哲郎
大追跡!現代の海賊

松下政経塾とは何か

硲宗夫による松下幸之助を取材して書いた「悲しい目をした男
松下幸之助」 、愛人・隠し子について触れているために松下電器が
買い取ったとあとあるが、ネットで調べると出回っているようだ。

その硲宗夫は「結局のところ、幸之助は自分流に世の中をつくり変えた
かっただけ」と松下政経塾を評価する。この新書の読後感も同様である。

地盤看板のない者も政治家に…を目的とする私塾だが、結果的には
どうだろうか。
次のようなエピソードが載っている。

現在横浜市長で元国会議員の中田宏。彼は横浜市長だった高秀秀信に
近づき、その娘と交際。ところが日本新党の細川護煕が注目を集めると
細川の紹介による女性と結婚、挙げ句は高秀のライバル候補の応援に
回る。選挙後に高秀の元へ行き「仕方がなかったんです」と涙して詫びる。

結局はスポンサー探しが必要であるようだ。

【時間つぶしにはGOOD】 2004年

出井 康博
松下政経塾とは何か

アニメーション学入門

著者紹介に「主要研究領域は、日本アニメーション史、アニメーション
文献史」とある。
また次のように書いている。
CMアニメーションやPVは、『消費される映像』という度合いが強く、
後に資料として残りにくい側面があるが、制作当時の世相やブームが
色濃く反映されている分野であり、体系的な研究が望まれる。」(168)

これではモーショングラフィックもモーションタイポグラフィーも無視され
るので、ソール・バスも谷田一郎やEric Augierなんかも登場のしようがない。

文献・資料がないとどうにもならないでは、お勉強の域を抜けることがない。

まあ、正直にアニメーション入門と言っているのだから、
どうこう言うのも無粋だが。

【車窓からの眺めの方がマシ】 2005年

津堅 信之
アニメーション学入門

イラク戦争と情報操作

ふつうに情報に接していれば知っていることばかり。
あまり新聞・テレビ・webからのニュースを得ない人にはいいかも
知れないが、そういう人はこの書物も手にしないだろう。

【車窓からの眺めの方がマシ】 宝島新書 2004年

川上 和久
宝島社新書「イラク戦争と情報操作」

知っていそうで知らない台湾

日本には、朝鮮・台湾人から戦前の統治を感謝されると有頂天になって
喜び、批判されると憤慨する、そういう単純な日本ファンが大勢いる。
彼らは朝鮮両国では批判が当然多いので、「でも台湾は親日である」と
思うことでバランスを取ってきた。

そのせいか、先日の大阪高裁が小泉首相の靖国神社参拝を違憲とした
訴訟の原告が台湾人と知って、あわてふためいた者がネットの掲示板に
溢れていた。
手放しで他国を「だーいすき」とは、どこの国もいくものではなかろうに。
台湾のお墨付きをもらわないことには「愛国心」が揺らぐのだろう。

その台湾について、産経新聞の特派員による本書。とても読みやすい。

台湾議会の乱闘がたびたび日本のテレビでも紹介されるが、
選挙戦も激しくて、総統選の直前にはテレビ大手三局が流すCMの
七割が選挙関連のものに達する。51ページに写真があるが、
政治資金集めのパーティーには2万人以上が集まるのであった。

【時間つぶしにGOOD】 2001年

杉江 弘充
知っていそうで知らない台湾―日本を嫌わない隣人たち

サバイバルとしての金融

10代におすすめできる良書。
著者は興銀出身でJPモルガン、メリルリンチ、リーマンブラザーズと
渡り歩いた人物。

企業買収というと、どうも「金で何とかする」ネガティブなイメージが
作られがちだが、買収が経済の新陳代謝を強烈に促すものであることが
10代の者にも理解できよう。

そもそも株とは、企業とは、という根本的な問いにもヒントを与えてくれる。
厳しい情報公開の要求に応えてニューヨーク証券取引所に上場した
ホンダと、旧財閥の和を保つ世界に留まろうとした三菱自動車の
対比など、非常に分かり易い。

日本興業銀行・富士銀行・第一勧業銀行が合併して「みずほ」となったが、
既に認知されており、外国人にも発音しやすい富士銀行とすべきであった
と著者。その点でエッヂの名を捨て買収先のライブドアを取った堀江貴文
を評価している。

それにしても書名で損をしている。せっかく著者が丁寧に分かり易く
書いているのに、こんな取っつきにくい書名では台無しである。

【通勤用にGOOD】 2005年

岩崎 日出俊
サバイバルとしての金融―株価とは何か・企業買収は悪いことか

世界を制した中小企業

帯の「世界シェアトップの中小企業は100社もある」に惹かれて読む。
内容は優秀な中小企業のプロフィールの羅列。

技術力が企業の生命線のために雇用も柔軟で、前川製作所
(産業用冷凍庫の国内60-70% 冷凍船の冷蔵庫の世界シェア80%)
は92歳の研究者(井上和平さん )が居るほど。

ボール製造のモルテン(広島市)のように軍需産業から出発した
企業が多く取り上げられている。
裏を返すと、国家総動員で戦った戦争の置きみやげみたいなもので、
東京名古屋大阪以外にも優秀な中小企業が点在しているということ。
これは大企業が大都市に集中するのと異なる点である。

すなわち中小企業支援は同時に地方経済の支援ということになろうかと思う。

【暇つぶしにはGOOD】 2003年

黒崎 誠
世界を制した中小企業

ヤミ金融

読売新聞社が中央公論を買収してのシナジー効果が中公新書ラクレ。
読売新聞社の書籍部として稼働している。本書も読売新聞社会部による。

年利の7000%の世界「1章 恐怖のヤミ金融」は一気に読ませる筆力。
読むに連れて無気味なネットワークや弁護士などのヤミ金ゴロが
浮かび上がってくる。

借りたカネを返さない方が悪い という借り手批判もあろうが、
ヤミ金融被害は 巧妙に貸し付けるところから始まる。
川上(大手消費者金融)から川下(ヤミ金融)に流れてくる客を
名簿業者からの名簿で見つけ出し、狙い打ちする。

ひとたび川下に下れば、無数のヤミ金業者にしゃぶりつくされる。
「客が業者の間をぐるぐる回っているから、俺たちの商売は成り立つ」(165)
結果 自由金利の世界では通常の市場と違い金利が跳ね上がっていくのである。

【暇つぶしにGOOD】 2003年 中公新書ラクレ

読売新聞社会部
ヤミ金融

フォト・ジャーナリズム

朝日新聞社の報道カメラマンで執筆時は「映像センターデスク」の
著者による。おおむね面白く読める。

ところが、報道被害についても触れるのだが、これが酷い。
和歌山毒カレー事件ではマスコミが事件のあった地域を占拠し続けた。
(この著者もその場に居る。)

この事故で長男を亡くした母親がその遺体を自宅に連れ戻る際も
マスコミは取り囲み、それが母親には堪えられなかったと後日告白した
とある。

それについてこの著者は

取材方法は適切か、被害者への配慮は十分になされているか、と
繰り返し自問しつつ、この母親の心情を忘れずにシャッターを切ら
なければならない。(155-156)

念じようが念じまいが、被害者の母親にとっては同じである。
これは朝日新聞社社内では通じるかも知れないが、一般社会では
まったく通じまい。

<「おばあちゃん ごめんよ」と念じながらダマしました>とマルチ商法の
詐欺師が言っているようなものである。

【暇つぶしにはGOOD】 2001年

徳山 喜雄
フォト・ジャーナリズム―いま写真に何ができるか