日本国民にとっての悲劇は、自公維を中心とする保守派系のネオリベ連合に相対する役どころとなるはずの立憲・国民民主らリベラル派にも多くのネオリベが存在することです。
右を向いても左を向いてもネオリベだらけなのですから絶望しかありませんが、諦めずに彼らの経済学的な誤りを指摘していくことが大事だと思います。

今回のブログは「なぜ日本人は新自由主義に魅了されるのか」シリーズの捕捉となります。

立憲民主党が、ネオリベの「生産性ヒエラルキーにもとづいたトリクルダウン理論」と離別できないでいることは以前にブログで指摘しました。

また、国民民主党もいまだにカイカク派として、規制緩和による過当競争(デフレ化政策)を推進しようとしています。


国民民主の玉木代表は2年程前から積極財政を謳い、反緊縮派から称賛されてきた経緯がありますが、なぜかその積極財政を台無しにする、有効需要の破壊行為と位置付けるべき「規制緩和」を推しています。

上記拙ツイの「ヒステリシス効果」とは「負の履歴効果」とも訳され、これは高圧経済を謳うイエレン米財務長官らが採用し、玉木氏自身も「緊縮財政によって需要不足になるとヒステリシス効果で経済が悪くなる」といった向きで何度も口にしてきたものです。

このヒステリシス効果は、経済の基盤を揺るがす大きな出来事が発生、これに対応する過程で経済構造が変化した結果、経済環境が元に戻っても経済成長率が低水準にとどまったり、失業率が高止まりしたりしてしまうことがある、その経済的なダメージの「履歴」が、経済活動の低迷を招いてしまう効果として認識されています。

2016年に当時FRB議長だったイエレン財務長官は、このヒステリシス効果を「経済不況によって需要不足が起こり、それが供給側にも悪影響を与える」として説明しました。
この当時の演説はこちらの拙ブログ記事で翻訳していますので、詳しく知りたい人は確認してください。
ちなみにですが、ヒステリシス効果はMMT派にも採用されています。

このヒステリシス効果を、玉木氏は規制緩和による有効需要の破壊行為によって自ら実現しようとしているのですから、あまりにもマクロ経済に無理解であると判断できるでしょう。
玉木氏もまた、己の中に住まうネオリベという名の獣を葬ることはできなかったようです。

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さて、今日の本題です。
野党系のネオリベといえばこの人、国民民主の前原誠司議員。
今回は前原氏の国会質問にツッコミを入れていこうと思いますので、しばしお付き合いください。

野党系の議員にもまだ新自由主義と緊縮財政の定義がままならず勘違いしている人も多いので、ぜひ読んでいただきたく思います。

【国会中継】衆院予算委 岸田首相出席で質疑(2022年1月25日)

令和04年01月25日 予算第3号08_前原誠司委員 より

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動画の6:15:30あたり(https://youtu.be/lIIAyhopZvA?t=22557)
〇前原議員
これから質問することは、やはり国家の今後の運営に関わる話として、是非ここだけはまず確認しておきたいのは、このMMTとか積極財政派の方々の中には、自国通貨を発行できる国は過度なインフレが起きない限り幾ら借金をしても財政破綻はしない、こういう考え方がベースになっている方がおられるわけですね。かなり勢いづいていると思います。
【中略】
もう既に、日本は世界最悪の水準の財政赤字を抱えているわけですね。国で一千兆円、そして地方で二百兆円、千二百兆円。
今、GDPは六百兆円にまだ届いていませんから、GDP二年強の借金を抱えているということで、かなり積極財政をやっていて、だったらこれからも続けても大丈夫だろうということには私はならないんだろうと思うんですね。
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【cargoのツッコミ】
どうやら前原氏は「積極財政」の定義を「債務対GDP比の増加」として捉えているようですが、これはとてもおかしいです。
まず、債務対GDP比自体は、国際比較をしてみてもほとんど意味をなさない指標ではないでしょうか。

 

https://ecodb.net/ranking/imf_ggxwdg_ngdp.html
前原氏の論理に沿うと、上記ランキング上位のスーダンやギリシャ、エリトリアも積極財政だ、という認識になってしまいますが、そんなわけはないですよね。

また、米国はコロナ禍において約600兆円の積極財政を行いましたが、財政赤字は約11%減少、債務対GDP比も2.6%縮小しました。
つまり、債務を増やす積極財政を行った結果、逆に債務対GDPが縮小しているのです。
不思議ですよね。でもこのことからも、債務対GDP比の増加が積極財政を示すものではないとわかります。

衆議院議員となった米山隆一氏も、この手の勘違いを解消していないので、いわゆるネオリベ傾向にあるバラモン左翼特有の誤解なのだと思います。

 

 

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6:18あたり(https://youtu.be/lIIAyhopZvA?t=22689)
〇前原議員
日本がどんどんどんどん実質的な財政ファイナンスを行って、そして幾らでも借金をするということになれば、いずれ通貨の下落、暴落というものが起きて、そしてよくないインフレというのが起きるというような、一つのメカニズムとして考えられるということ。
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【cargoのツッコミ】
前原氏の言う財政ファイナンスとは「日銀の買いオペによって政府の資金調達を支えている状態」のことだと考えられますが、政府が債務を発行する、もしくは財政支出することによって通貨価値が下落するという根拠は薄弱です。
貨幣流通量が増えたからといって円安になるわけではないことは、マネーストックとドル円の相関関係をググれば一目瞭然です。(*注:ソロスチャートのことではありません)
基本的に、為替の変動は日米金利差で決定されますので、行き過ぎた円安を警戒するのなら日米の金利を注視すべきです。

そして前原氏の言う「貨幣を発行すればインフレが起こる」というのはネオリベの教祖フリードマンが採用した「貨幣数量説」でしょうか。これもマネーストックとインフレ率の相関をググれば即座に誤りであることがわかるはずです。

上記2点は、前原氏と同じく慶応大学の井手栄策先生を盟友とする弁護士の明石順平氏も同じ誤解を持ち続けていましたので、以前その誤りを拙ブログにて指摘しました。詳細を確認してください。

ひょっとしたら井手さんも上記の2人と同じ誤解をしているのかもしれませんね。
その人を立憲は新設の「持続可能な社会ビジョン創造委員会」の有識者メンバーに選んだというのですから考えものです。

また、余談ですけど、リベラル左派が財政ファイナンスと呼び、政府の資金調達を支えているとする買いオペ(量的金融緩和)ですが、別に日銀が必要以上に国債を買う必要はありませんし、実際は資金調達でもありません。

 

 

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6:19:30あたり(https://youtu.be/lIIAyhopZvA?t=22778)
〇前原議員
これだけ異次元の金融緩和で金利が抑えられているにもかかわらず、元利返済はかなり大きなものになっている、二十四・三兆円になって、そしてそれをまた補うために、特例国債が三十・七、建設国債が六・三、合わせて三十七兆円の国債を発行するということになっているわけですね。
【中略】
やはり安定財源というものをしっかりと担保しないと予算が組めないし、先ほど総理は信認が必要だということをおっしゃったけれども、世界の信認を得ようと思ったら、やはり歳入歳出のバランスを取るということになると、新たな歳入の確保というのは不可欠じゃないですか。
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【cargoのツッコミ】
この部分は何が言いたいのかやや不明瞭でありましたが、前原氏が「元利返済が国債発行によって行われている」と認めていると読むことができます。
元利返済が国債発行(貨幣発行)によって行われていると認識するのなら、累積債務の増加を心配する理由がなくなるはずなんですが、前原氏はなぜか緊縮財政の呪縛から逃れられないようです。

累積債務の増加を心配する必要がないため、国債発行こそが「安定財源の確保」「歳入の確保」となります
前原氏は増税による歳入確保をしたいようですが、増税すれば景気が腰折れになることは二度の消費増税で嫌というほど確認できたではないですか。

「分配なくして成長なし」「支出こそが財源(税収)となる」ことは、コロナ禍で積極財政したことにより税収を増やし債務を縮小させた米国が立証しています。

 

 

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P.2
〇前原議員
(岸田総理が言う21年度の)税収が増えているというのは事実であります。でもそれは、コロナ対策をあれだけ、事業費で百二十兆円以上もしたら、それは税収は増えるでしょう。
【中略】
じゃ、伺いますけれども、経済成長を行ったら、この特例国債の三十兆円余り、言ってみれば足りないわけですよね、これが埋まるぐらいの税収が上がって、それだけの経済成長はしますか。
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【cargoのツッコミ】
「120兆円の事業費」が何を意味するのかわかりませんが、2020年以降の補正予算の真水・執行分、3年間の合計は7,80兆だと思われます。
また、税収が若干増えたのは、日本の場合はコロナ禍にあっても減税等の措置を行わず国民から召し取ったためと考えられるので、決して褒められるものではありません。
アメリカでは約600兆円の積極財政と並行して給与税(社会保険料)の減額や年金の減免、利息の控除等の「広義の減税」も行っています。

日本の場合はアメリカと違って、いつでも「Too Little, Too Late」であり、ストップゴー型のドケチ財政を行っています。不況で少しばかり予算を増やしてもすぐに緊縮してしまうので、経済成長もできずヒステリシス効果を深めるという愚かな政策を繰り返してきました。


【参考】
▼ 【更新版】コロナ対策費、米国は637兆円、日本は59兆円!!【衰退国家ニッポン】
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12670848967.html
 (*注:21年の4月の記事です。ここに岸田の補正予算がプラスされます)

▼ 少子高齢化は問題じゃない。レイ教授に教わる日本の「Stop-Go-Stop政策(ドケチ財政)」
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664539224.html

 

 

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6:26:30あたり(https://youtu.be/lIIAyhopZvA?t=23185)
〇前原議員
国と地方の基礎的財政収支二〇二五年黒字化目標、
【中略】
これは財政再建の第一歩でしかない
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【cargoのツッコミ】
前原氏は「補正予算で何十兆も出しているのにプライマリーバランスの黒字化などできない」と政府批判をしていますが、世界で唯一のバカげた目標「PB黒字化」は破棄すべきということに限ります。

野党議員は「PB黒字化ができないのはけしからん!」と怒るのではなく、「PB黒字化なんて馬鹿げたものは廃棄しろ!」と迫るべきです。
そのまっとうな主張をしているのは唯一、れいわ新選組だけとなります。

 

 

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6:27:30(https://youtu.be/lIIAyhopZvA?t=23255)
〇前原議員
それから、PB黒字化・経済成長の前提となっているのは全要素生産性ですよ。全要素生産性の上昇率は、この二〇二五年のプライマリーバランス黒字化の前提となっている数字は御存じですか。一・三%ですよ、上昇率は。今、足下どのぐらいか御存じですか。〇・四ですよ。
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【cargoのツッコミ】
全要素生産性(TFP)は資本・労働投入の要素が除外された指標となります。
資本投入、とくに政府支出による需要創出がなされなければ企業の設備投資も滞り、賃金も上がらないため、生産性(TFPも)も上がりづらい状況になります。
政府支出が少なすぎて需要創出がままならない状況なのに、どうやってTFPを上げようというのでしょうか。
こんなものは馬に餌を与えず無理やり走らせている状態にしかならないのではないでしょうか。

いずれにしてもTFPを政府目標の指針に使用することに何の意味があるのか不明です。
長期的視点での年間の財政出動額を指標にするというのならわかりますが。

政府の設定した条件もトンチンカンなら、追及する側の前原氏もトンチンカン。まさに絶望的です。

 

 

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6:53あたりから(https://youtu.be/lIIAyhopZvA?t=24789)
〇前原議員
これは、国民がやはりこの円安によって、つまり、金融緩和がもたらしている円安によって国民がどんどんどんどん貧しくなるということを表しているんじゃないですか。
【中略】
国民に実質賃金をマイナスにするということを押しつけている、そういう金融政策であるということは明確に申し上げておきたいと
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【cargoのツッコミ】
量的金融緩和、つまりマネタリーベースを増やす行為自体によって円安になることは殆どありませんが、日銀が金利を低廉に保つ政策を行っていることは事実です。
先述したように日米金利差こそが為替の変動要因ですので、量的金融緩和によって円安になり、さらに実質賃金が下がるということは考えにくいです。

しかし金利の調整(金融調整・アコモデーション)は、必要以上に量的金融緩和をせずとも実行できるため、富裕層の株式や不動産等の資産価格の上昇を支えるような量的金融緩和はやめるべきでしょう。

また、為替の変動は日米金利差により決定されるため、日本が金利を0%近傍で固定し、かつ米国が利上げすれば円安に動くことは予想できます。
現在米国が利上げに動いている状況のなか、これ以上の円安を阻止するために、日本に利上げできる余地があるかと問われれば、簡単には答えが出せません。

端的にいえば、実質実効為替レートや通貨価値が弱いのは、日本が利上げもできないほど国内の需要が弱い、つまり経済が疲弊しているためです。
また為替市場において円に対する投資需要よりも、好景気の米ドルに対する投資需要のほうが高いためでもあります。

利上げをして通貨価値を高くするためには、その前に財政政策によって消費減税や各種給付金・助成制度を進める必要があるという結論になります。

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さて、前原氏の質問で唯一褒められるのは、この例の図を提示し、企業が配当金を増やし賃金を削っているとして株主資本主義を批判した部分だけでしょうか。


しかし問題は、賃上げの方法が岸田政権も前原・国民民主も間違っているということです。
緊縮財政に囚われていては積極財政・需要創出もままなりませんし、規制緩和にこだわっていては労働法制の規制もできません。
この二つが揃わなければ賃上げもままならないでしょう。

岸田首相も、前原氏と国民民主党も、一刻も早く新自由主義から脱却してください。

そのためには新自由主義の定義から理解しなければなりませんので、私の「なぜ、日本人は新自由主義に魅了されるのか?」シリーズを読んでほしいと思います。

高卒程度の学力しかない私よりもエリートである自分達が愚かであったことを認識するところから話は始まります。


本日はここまで。
長文をご覧いただきありがとうございました。
また次回!

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