「日本はいっぱい赤字支出してるのに経済成長していない。これは少子高齢化という構造の問題だ」

こういう誤った話をよく聞きます。
日本政府や大本営マスコミ、または20世紀脳の緊縮派が広めたデマにより、こういった誤謬が世の中にはびこってしまいました。

本記事を読んでいただいている皆さんはご存じの通り、勿論、事実は以下のグラフが示す通りです。

作成:Create_commonsさん


一目瞭然、回帰分析により経済成長と少子化に相関性がないことは証明されています。
(日本の場合、15年後くらいに人口減による真の供給力毀損が起こり始めればこの限りではないと考えられますが、まだギリギリ持ちこたえています)

そして政府が支出すれば経済成長することも常識です。
(上図を見て、「支出⇒成長」という因果関係を逆転させて考える人がいますが、予算が執行されて需要が起こり経済成長につながるので、何を言ってるんだか意味不明です。回帰分析が因果関係自体を示さないとしてもこんな奇妙なことを言うのはひねくれているからでしょうかね)


しかしながら、日本の累積債務は1400兆円ととても多く見え、債務対GDP比でも266%と世界で断トツクラスに多いのは事実です。
それなりに財政を出してきたからこそ累積債務が積みあがっているのは確かです。

でも、それなりに財政を出したのに経済成長しないのはなぜでしょうか?

その答えをMMTの創始者のひとり、ランダル・レイ教授に教えてもらいましょう。

講演資料から引用します。

 

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▼ 日経ビジネスイノベーションフォーラム「現代貨幣理論とコロナ危機」 1月22日
https://channel.nikkei.co.jp/e/mmttheory?fbclid=IwAR2Ir8m_tx20ZbQLybdEEK2PIaqO_26wI9f7ox85r6WdsPhjwZTEsPgjANc
【講演資料と書き起こし】https://note.com/turuzonosan/n/nee2ce0974491



日本は景気後退に直面した際には一時的かつ十分ではない財政刺激策を行い、景気が回復し始めると思われるときには必ず緊縮財政を行うという、ストップ・ゴー型の財政措置を一貫して選択してきた。
これを赤字と債務が大きすぎるという信念によって正当化した。
[中略]

日本が大きい赤字と債務を抱えているのは、積極的な財政政策をしたためではなく、積極的な財政政策をしなかったためである。
[中略]

MMTの見解を実際に採用したならば、日本はより良い成果を上げることができたであろう。
[中略]



日本では、(負債と金利の上昇に伴う)債務返済の増加によって赤字が手に負えなくなるという主流派の予測とは逆の結果が出ている。債務が増加するにつれて、政府の利払いは減少している。
国債金利の低下(日銀の政策による)は、債務水準の上昇にもかかわらず、日本の債務返済コストを低下させている。
MMTが主張するように、金利は政策変数であるため、必要であれば、政策によって債務返済を低く抑えることができる。
[中略]

多くの経済学者や政策立案者は、MMTが強力なツールになり得ると考える財政政策が有効ではなかったことを日本が実証した、と信じている。
これは、日本が不動産バブル崩壊後、財政政策で景気刺激を図ろうとしてきたが、あまり成果を上げていないという見方に起因するものである。
日本は1990年の8月に公式に景気後退に入り、1994年に景気後退から抜け出したものの、わずか三年後の1997年に再び景気後退に陥った。
それ以来、最長の景気回復は2004年から2008年までであり、景気後退への出入りを繰り返している。

(最新の利用可能なデータによれば)日本は1990年から2020年の第2四半期までの122の四半期のうち70の四半期においてGDPギャップがマイナスであった。
しかし、GDPギャップを潜在GDPから計算すると、それを過少に見積もることになるだろう。
なぜなら、潜在生産力自体が、国内消費のための投資が抑制されているため、不十分な需要と成長によって慢性的に低迷しているからだ。
[中略]

1990年初頭、日本は経済を不況から脱出させようと、大規模な財政刺激策と思われるいくつかの政策を発表した。
日本の財政政策には少なくとも2つの問題があった。
第一に、実際の景気刺激策への支出額は明らかに発表された額を下回った。
Posen (1998、41頁)によれば「公表されたすべての日本の財政計画は景気刺激の中身を2倍以上の大きさで誇張している」。
[中略]

第二に、景気が回復し始めると思われるたびに、景気刺激策のプラグがあまりにも早く抜かれてしまい、景気回復を妨げた(Posen 1998)。[中略]
実際、日本の財政政策は、一見拡張的に見えるが、実際にはこの期間かなり緊縮的であった(Posen 1998)。
[中略]

消費税の導入とその後の引き上げの正当化は、税金を政府支出の資金源と見なしたりせず、大きな財政赤字やそれ自体を問題と見なしたりしないMMTとは矛盾している。

表1は、過去40年間における経済4部門のGDP成長への寄与度を示したものである。見ての通り、家計消費と純輸出の寄与度は減少し続けている。また、政府部門の寄与度も他の2つの部門が残したギャップを埋めるのではなく、同様に減少している
[中略]



Posen (34-35頁) は、90年代に日本が蓄積した債務は、大規模な裁量的支出によるものではなく、不況と緊縮的な財政政策による税収の減少によるものであったと論じている。
[中略]

Koo (2003)は財政引き締め政策による税収の落ち込みが1990年の財政赤字を拡大させたと主張している 。


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日本政府が今と変わらず過去にも財政を粉飾していたのには笑ってしまうけど、とりあえず引用はここで終えます。

レイ教授いわく「日本が巨額の債務を抱えた理由は、積極的な財政政策をしたためではなく、積極的な財政政策をしなかったため」であり、「日本は、景気後退時に一時的にちょっとだけ財政出動し、景気が回復し始めると緊縮してしまって、支出の効果を弱める『Stop-Go-Stop財政政策』を講じる」というバカなことやってきたため、「赤字が積みあがっても成長しない」のだということです。

なるほど、しっくりきますね。


レイ教授は、この仮説を裏付けるのに、「レイ曲線」なる概念を使って説明しています。
(ここからは引用ではなく、私が手短に説明します)

【レイ曲線について】




<ダメな例>の説明。
上図をご覧ください。 スタート地点は図の「A」です。
不況で景気が悪くなると「成長率が落ち、支出するので赤字債務が膨らむ」ことになるので、「B」の位置に移動します。
景気が回復すると、税収が上がり赤字支出をしなくなるのでゆっくりと「C」、そして「D」の位置に移動します。
この<ダメな例>が日本のケースです。

<良い例>の説明。
「A」からスタートし、景気が悪くなる前に即座に赤字支出をして、「C」の位置にジャンプします。
そして景気が落ち着いたら、「D」の位置に移行するという流れです。
これはグリーン・ニューディールのような<良い例>です。

日本は、この30年間、A→B→C→D⇒A⇒B⇒C⇒D....とダメなサイクルを繰り返して、経済成長を伴わず債務を膨張させるにまかせてきたということです。

余談ですけど、Wray曲線だから、かたちが「w」になってるのかなあ(笑)


これをふまえて、実際の日本経済の軌跡を見てみましょう。



上図のスタート地点となる1980年からの黄色の線を追ってみますと、景気が良い時期にはGDP比の債務が減っているのがわかりますね。
問題は90年から。「レイ曲線」の<ダメな例>そのものです。
不況で景気後退すると債務を増やし、ちょっと景気回復すると赤字支出を減らし緊縮し、また景気後退し債務が膨らむということを二回繰り返しています。


上図は2000年から2010年までです。
レイ曲線でいう<ダメな例>の1ターム(A→B→C→D)を回してしまっています。


2010年から2018年までは経済成長を差し出す代わりに債務を減らしています。
この後、消費増税不況+コロナ恐慌が来るので、経済成長率は下がり債務は膨らむことが決定しています。


いやあ、すごいですね。
レイ曲線の<ダメな例>をそのまま三十年も実行する日本政府は、ある意味で才能があります。

「安物買いのゼニ失い」という慣用表現がありますが、こういうことじゃないですかね。

ダメなことを続けてきた結果がこれです。


出典: Tasanさん

GDPが20年で何倍になったか。一目瞭然。

小さすぎて見えないから捕捉すると、一番右側が日本です。


出典: Tasanさん

政府支出をケチるから給与もこの通り。
日本人の平均給与はすでに香港やシンガポールに抜かれ、韓国に追いつかれようとしています

このままバカなことを繰り返していれば、「アジアの小国」まっしぐらです。

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最近、立憲の原口副代表が、上述したレイ教授と同じようなことを言っていて頼もしいです。

「緊縮してきたから逆に赤字が膨らんだ」という向きです。

皆さんにもぜひ原口議員に注目していただきたいと思っています。

 

 


本日はここまで。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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