私は平和に、「アメリカの黒人ヒップホップ文化とイスラム教と反緊縮運動の関係性を調査する研究」に没頭したいんだけど、いろんな事件が起こって、いろんな人が誤った経済に関する発言をするので、放っておくことができず、自分の研究を放置するハメになっています。

 

特に、本心ではリベラル派にはあまり反論したくないです。

ポリコレ杖を振り回すバラモン様に襲撃されるのは面倒くさい。

でも彼らがあまりにもマクロ経済学的におかしなことを言ってるから反論せずにいられません。

 

そんなわけで高卒程度の学歴しかないオレが、高学歴エリートに反論してみるシリーズです。

 

11月19日に弁護士の明石順平先生が特別寄稿したというこんな記事が出ました。

▼ 最近お菓子が小さくなったり値上がりしてない? 話題のMMTがもたらすのは絶望の未来か…

https://dot.asahi.com/dot/2020111300062.html?page=1

今回は、この記事に逐一反論していこうと思います。

明石先生のような、いわゆる緊縮財政派は主流メディアでその言論を大きく取り扱われ、我々反緊縮派はこじんまりと反論する以外の手はありませんので、こういう反論集的なものはどんどん作るべきだと考えます。

 

まずはこちらの発言から検証します。

 

明石先生:

MMTとは、Modern Monetary Theory(現代貨幣理論)の略です。これは端的に言うと、「自国通貨建ての国債はデフォルトにならないので、インフレにならない限り、財政赤字は問題無い」という主張です。だからもっと借金して財政支出をたくさんしろと言うのです。しかし、これは全く真新しいことを言っていません。

 

自国通貨建の国債の場合、市中消化しきれなくなれば、最後の手段として自国の中央銀行に直接引受をさせれば、形式的にはデフォルトを避けることができます。

______

 

明石先生は2019年の2月に「データが語る日本財政の未来」なる書籍を出して、「日本は絶対に財政破綻しないと言えますか」と、財政破綻はありえるという論を展開していました。

 

私は「日本は財政破綻はしない」と考えているので、明石氏と仲の良い井手栄策・慶応大教授の発言を引用する形で以下のような画像を作成し、ツイッターに放出しました。

 

 

すると、その結果かどうなのかはわかりませんが、直接私が無礼な発言をしたわけでもないのに、ツイッターで明石先生からブロックを食らいました。

 

それはさておき、明石先生は、1年半前は「財政破綻する」と言っていたのに、MMTの議論が広く流布されるやいなや、「形式的には財政破綻しない」と発するようになったということになります。

この彼の変節自体は歓迎したいと思いますが、「(MMTは)全く真新しいことを言っていません」と言う彼の物言いには首をかしげたくなります。

 

上記のように、現在の明石先生の態度は、MMT創始者のランダル・レイ教授の言説に沿うと第三段階にあるように見えます。

 

次々検証していきます。

 

明石先生:

自国通貨建の国債の場合、市中消化しきれなくなれば、最後の手段として自国の中央銀行に直接引受をさせれば、形式的にはデフォルトを避けることができます。

 

ところが、それをやると事実上政府の裁量で通貨を発行し放題になることを意味します。すると、為替市場の参加者達は「円がたくさん発行されて円の価値が下がるぞ」と予想し、円が売られてしまいます。そうなると円安インフレが発生します。円安インフレが進行し過ぎると、それに合わせて財政支出を増やさないと追いつかなくなります。そこで財政支出を増やすと、また「円の価値が下がるぞ」と思われてやはり円が売られて円安インフレが悪化します。

______

 

そしてこの後の記事の中ほど部分でもこのように発しています。

 

明石先生:

円安インフレの原因はアベノミクス第1の矢「異次元の金融緩和」です。日銀が国債を爆買いして円を大量供給したため、為替市場の参加者達が「円の価値が落ちる」と予想して円を売り、民主党時代と比較して大幅な円安となったのです。

______

 

明石先生の説によると、政府が供給するお金(マネーストック)が増えても、日銀が供給するお金(マネタリーベース)が増えても、投資家が「円が増えて価値が下がる」と判断し、円を売るので円安になるということになります。

 

上記で明石先生が言うように、「為替市場の参加者達は『円がたくさん発行されて円の価値が下がるぞ』と予想し、円が売られてしまいます」ということは、”それなりに”起こりました。

 

「それなりに起こった」というのは、それが為替の変動要因の主因ではないからです。

為替市場に参加する殆どの投機筋の人たちは、「円が増えるから円の価値が下がり円安になる」などとは考えていません。金融市場の原理に精通した彼らは別のロジックを元に動いています。

 

彼らは、基本的にはほぼ「日米の金利差」で投資行動を決定しています。

 

 

為替市場の変動要因として、金融資本家の投機がどれほど大きいのかは、たった一日で数百兆円規模の取引が行われていることからも想像できますが、門前小僧さんが、おおまかな為替変動要因に関して説明してくれていますのでぜひ参照ください。

 

 

細かいテクニカルな部分を語るのは控えますが、簡単に言うと、「日本が利上げしたら、利上げできるくらい経済が上向いている」ので、ドルを両替して円を買う。すると円の需要が高まるので円高になる。

逆に「米国が利上げしたら、利上げできるくらい経済が上向いている」ので、円を両替して米ドルを買い、円に対してドル高になる(円安になる)というロジックです。

(現在の日米の金利はゼロ近傍なのでこの限りではありません。もっとテクニカルな論理が必要なようです)

 

以下に短期と長期で見た場合の例を提示します。

(*中長期では単純な相関関係にはありません)

 

出典 https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_gb_yield_ja-us.php

 

上図で一目瞭然ですが、日本がゼロ金利を、またはマイナス金利を採用する、もしくは米国がゼロ金利を採用する、または利上げするなどというときには瞬間最大風速が過剰になるのでその時点ではぶれますが、短期ではピッタリ連動します。

 

ですので、13年から16年にかけて円安が亢進したのは、日米金利差が極小化したからという説明が成り立ちます。

14年の後半に円安が進んだのは米国が一気に利下げしたからで、15年後半には再び金利差が開き米国が利上げしたので再度円安傾向となりました。その後は日本がゼロ金利に張り付いたので円高基調のまま大きく動かなくなったといえます。

 

出典 https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_gb_yield_ja-us.php

 

何が言いたいのかと言うと、「量的金融緩和や財政出動によって円が増えたからといって円安になるとは言えないし、だいたいの為替市場の投資家もそのことを理解している」ということです。

 

例えば、すごく大雑把には量的金融緩和(MBの増大)と連動しているように見えても、最大の変動要因は金利操作です。

ちなみにですが、その金利は基本的には政策変数となりますので、何か投資家たちの信用などという気分を反映することだけで動くことはなく、これを自然現象であるかのように捉えるのは誤りとなります。

 

マネタリーベースと為替変動の関連性に注目するソロスチャート(日米の月間マネタリーベース比率:日銀/FRB=1ドルあたりの円供給量)というものも存在しますが、これは大雑把な指標にしかなりません。金融緩和をする場合は、金利操作と共に量的緩和も行われるので、このような結果になるのだということです。

 

出典 ソロスチャート  https://lets-gold.net/chart_gallery/soros_chart.php

 

もし明石先生の言うように、貨幣量(MB)の増大と共に為替安になるのだとしたら、なぜ以下の図ように、EUのMB発行量とユーロ為替が連動しないのでしょう?

 

 

出典  ユーロのマネタリーベース 

https://sdw.ecb.europa.eu/quickview.do;jsessionid=F17273070163835687F8D92B007FDB86?SERIES_KEY=123.ILM.M.U2.C.LT00001.Z5.EUR

 

例えばMMT派ではない人も以下のように発しています。

(*下記記事においての「債務超過」とは、中銀の発行するMB(中銀の債務)が中銀保有資産(国債など)よりも多いということを表現してのものです)

 

株式会社みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト・唐鎌 大輔氏

「中銀の債務超過それ自体に何か本質的な意味があるわけではないと思います。少なくともそれと通貨価値がリンクすることは無く、債務超過と円安は殆ど何の関係もありません。

 近年ではスイス国立銀行(SNBも債務超過の可能性が取り沙汰されました。これは強過ぎる自国通貨の変動を受けて為替差損が膨張し、債務超過になったという話でした。

 通貨の信認が強過ぎて中銀が債務超過になったわけです。その債務超過を受けてマルクやフランが下がったでしょうか?下がるわけありません」

https://newspicks.com/news/2484786

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明石先生は続いて以下のように発しています。

 

明石先生:

円安インフレが進行し過ぎると、それに合わせて財政支出を増やさないと追いつかなくなります。そこで財政支出を増やすと、また「円の価値が下がるぞ」と思われてやはり円が売られて円安インフレが悪化します。

 

このように、財政支出増大→インフレ→インフレに合わせて支出増大→さらにインフレ進行→インフレに合わせて支出増大→さらにインフレ進行という無限のスパイラルが発生するのです。これが理解できないので、ベネズエラではずーっとこのスパイラルが止まらず、インフレが進行しっぱなしです。

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明石先生は、「(財政拡大→インフレのループの繰り返しで)ベネズエラではずーっとこのスパイラルが止まらず、インフレが進行しっぱなしです」と、あたかもベネズエラのハイパーインフレのメカニズムが日本にも当てはまるというようなことを綴っていますが、これもまったくの誤りとなります。

このような錯誤はドルペッグなどの固定相場制(ベネズエラのような途上国)と変動相場制(日本のような先進国)を混同した結果生じるものだと考えられます。

 

明石先生は「中央銀行がお金(マネタリーベース)を増やすと通過安となり、その通貨安に対する埋め合わせとして政府が財政支出でMS(マネーストック)を増やして、さらにそれが物価高騰をもたらし、ついにはベネズエラのような高インフレのスパイラル(ハイパーインフレ)につながる」のだと考えているようですが、そういった経緯を辿ることは一定の条件下以外ではありえないはずです。

 

一定の条件下というのは以下のような場合で、高インフレの亢進、とくにハイパーインフレの発生する条件はケイトー研究所の調査により学術的に確立されています。

 

日本は主権通貨を発行し、変動相場制を採用する、政治的に安定した先進国ですので、高インフレ・ハイパーインフレになりようがありません。

現在までにハイパーインフレの起こったケースは57件で、その全てにおいて、次の三つの発生条件がかかわっています。

 

①戦争などの理由で国内生産が停止、輸入も不可能になったケース。供給が需要にまったく追いつかない状態に、対外債務問題や紙幣の濫発などが加わる

 

②旧体制が瓦解し、国家が新体制に移行する際に起こるケース

 

③もともと二桁台のインフレが何十年も続いているところに、発展の遅れやマクロ経済管理の失敗が加わってインフレが止まらなくなるケース

 

わが国は内需国ですので、自国経済内で需給を完結できる供給力の強固な国でもあります。

戦争でもない限り、高インフレの主因である供給力の破壊という状況に容易に陥ることはありません。

 

国債をいっぱい発行して、貨幣量を増やしただけではハイパーインフレにはならないということです。

 

【参考】 ▼ 「池上氏の国の借金デマに反論する」ブログに対する質問にお答えします。

https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12619583897.html

 

ケイトー研究所とスティーブ・ハンケ教授の研究の元ソースはこちら

https://www.cato.org/research/world-inflation-and-hyperinflation-table

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明石先生は貨幣数量説やフリードマンのマネタリズムに影響され過ぎているためなのか、「インフレの主因が貨幣発行量に依存する」と考えているように感じます。

 

中銀がMBを増やしてもそれのみが通貨安を牽引するとは言い難く、さらにその埋め合わせ(?)として国債、つまりMS(マネーストック)を増やしただけでは、変動相場制を採用する先進国では高インフレが亢進することはないということです。

確かにアベノミクスのコストプッシュ・インフレ型の物価上昇は7年で7%にも及びましたが、その間、消費増税で5%も強制的に物価が引き上げられたことも忘れることはできませんし、為替の変動や財政拡大だけをもって物価高騰のきっかけになると結論づけることはできません。

 

以上を鑑みると、下記の明石先生の結論も誤りだということがわかります。

 

明石先生:

MMT論者の主張を見ていると、「今はモノやサービスの需要に対して供給が過剰だからデフレなのだ。供給不足にならない限りインフレにならない」と思い込んでいるようです。しかし、財政への信頼喪失からくる通貨安インフレは、モノやサービスの需給とは別の次元の話です。

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緊縮財政派は「財政への信頼喪失で通貨安になる」という説を採用することが好きみたいですが、これはまさに根拠の薄弱な抽象概念でしかありません。

そして「供給不足にならない限りインフレにはならない」ということもなく、MMTerの主張は、正しくは「供給破壊が起こらない限り”高インフレ”にはならない」だと思います。

輸入コストの増大が物価に影響することは言わずもがなですし。

 

続けて、明石先生は以下のように「アベノミクスの金融緩和で円安になり、輸入物価の高騰により物価高となった」というような説を展開します。

 

明石先生:

2019年と2012年を比較すると消費者物価指数は7%以上も上昇しています。これは日本国内の需要が増えたからではなく、消費税増税に円安インフレを被せたからです。

 

 円安インフレの原因はアベノミクス第1の矢「異次元の金融緩和」です。日銀が国債を爆買いして円を大量供給したため、為替市場の参加者達が「円の価値が落ちる」と予想して円を売り、民主党時代と比較して大幅な円安となったのです。

 

そうすると、外国との取引の決済に使用するドルを得るために、今までよりも多くの円を支払う必要があるため、輸入物価が上がります。それは国内物価に転嫁されるので、国内物価が上昇するのです。

 

 そして、消費税増税よりも、円安インフレの方が物価に与えた影響が大きいです。物価だけが上昇してしまったため、GDPの約6割を占める実質民間最終消費支出は、2014年から3年連続で下落しました。これは戦後初です。つまり、アベノミクスは戦後最悪の消費停滞を引き起こしました。

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「アベノミクスは戦後最悪の消費停滞を引き起こした」ということに関してはその通りです。

しかし、「輸入物価が上がると国内物価に転嫁されるので、国内物価が上昇する」というのは片手落ちという感じで、やっぱり重要な点で近視眼になっていると感じます。

例えば物価決定要因には①需給バランス、②マネーサプライ量、③為替相場、④輸入浸透度、⑤労働コストが影響を与えるとされますが、「①を無視して③だけで決まる」などとは言えないと思います。

物価を決定する最も大きな要因は①の「需給バランス」だからです。

(もちろん輸入物価の高騰は需給バランスにも影響を及ぼしますが)

 

以下の日韓の為替と物価の動向を確認してください。

為替が動いても、そこまで機敏に物価が反応することはありません。

 

ドルウォン https://jp.tradingview.com/symbols/USDKRW/

 

韓国の消費者物価指数の推移 https://ecodb.net/country/KR/imf_cpi.html

 

ドル円 https://jp.tradingview.com/symbols/USDJPY/

 

日本の消費者物価指数の推移 https://ecodb.net/country/JP/imf_cpi.html

 

大事なのは、国内に旺盛な消費需要があり景気が良くなり、給料が上がるとそれに対して物価も上がるという好循環が物価上昇のエンジンになっているということです。

為替の場合、特に通貨高の要因はその国の需給が安定し、利上げを含む形で景気が良くなり、投資家が通貨を購買する形で起こります。

 

もし「貨幣が増える→通貨価値下落」という単純なロジックがあるのならば、MB(もしくはMS)が少ない国ほど通貨高になり、多い国ほど通貨安になるって話に帰結されませんでしょうか。

じゃあ今の円高傾向にある日本のMB(もしくはMS)は世界的に見て少ないのか?と考えると、それは違うだろうとなるのです。

 

もちろん、為替の変動が物価に影響を与えることもありますが、俯瞰して見ると、特に安倍政権の期間にだけ消費増税や輸入コスト増の影響によるコストプッシュ型インフレが起こったように思えます。

 

同じようなコストプッシュ・インフレとして、70年代のオイルショック時の物価高騰が挙げられます。

これは俗説では石油価格の高騰が原因とされますが、同時期の国民の平均的給与所得も物価上昇率以上にがっていますので、需要増・給与増による物価上昇が大きな原因だったと考えるべきでしょう。

 

下記のTasanさん(https://twitter.com/tasan_121)のグラフを見れば即座にわかるように、73年から始まった「狂乱物価」に先立って給与所得の上昇が起こっています。

つまり、主に給与の上昇が物価高をけん引したと言えるのではないでしょうか。(*石油価格の影響がなかったという主張ではありません)

 

 

私は以前、共産党幹部の方に「MMTや反緊縮派はビルトインスタビライザーがあればインフレを抑えられると言うが、今よりビルトインスタビライザーが強く実装されていたオイルショック時であっても、物価高騰で庶民は苦しんだ」とのお話を伺い、「ビルスタも万能ではないのだな」と感じ、その時は有効な反論をできなかった経験があります。

でも、後になって当時の物価高騰の実態が「物価よりも先に、またより多く給与が上がっていた」ことを知り、考えを改めたことがあります。

 

以上のことからも、アベノミクス下で円安の影響程度でコストプッシュ・インフレになったのは、そもそも財政出動と有効需要の創出が足らず、しょぼいインフレ率だったから、その影響が円安で際立って可視化されただけにすぎないということが言えます。

 

 

明石先生:

みなさんも、お菓子が小さくなったうえに値上がりしているのに気付いたでしょう。それは円安が進行して輸入物価が上がってしまったからです。このように、需要が伸びなくても通貨安インフレによって物価が上がることはあります。MMT論者は、この「通貨安インフレ」というものを全く無視しています。

______

 

MMT派はとくに通貨安インフレは無視してないと思います。

コストプッシュ型インフレも注視していますが、そんなに力んで指摘しないだけでしょう。

それより、明石先生がおっしゃっている「需要が伸びない」こと、そして「給料が上がらない」ことのほうが大きな問題だと捉えていると思います。

 

 

明石先生:

したがって、「インフレにならない限り財政赤字は問題無い」なんて、当たり前なのです。財政赤字が増え過ぎれば、財政への信頼低下により、通貨が為替市場で売られて通貨安インフレが発生してしまうからです。

______

 

「財政赤字が増え過ぎれば、財政への信頼低下により、通貨が為替市場で売られて通貨安インフレが発生する」のだというなら、現在、GDP比10%程度もの巨額の財政出動を重ねる世界中の国々で財政への信頼が低下し、通貨安インフレが発生していなければなりませんが、実際はまったくそうはなっていません。

 

むしろ現在はコロナ不況により需要が大きく減退したことにより、世界中がディスインフレの傾向にあります。

日本なんかは、2020年はマイナスの物価上昇率、つまり「デフレになる」とIMFに予測(下図)されています。

このことからも、物価決定要因は、明石先生がおっしゃる為替要因は軽微なものであることがわかり、需給バランスこそが最大の物価決定要因であることがわかります。

 

出典 IMF - World Economic Outlook Databases (2020年10月版)より筆者が作成

https://www.imf.org/en/Publications/SPROLLS/world-economic-outlook-databases

 

つまり、明石先生が言うように、「財政赤字が増えすぎると通貨の信認が損なわれ(または投資家に円の価値が下がると判断され)、通貨が売られて通貨安インフレになる」ということは、アベノミクスのような不安定な経済を存続させる特定の状況下で顕著に起こる現象であって、経済動向全てに当てはまるわけではなく、単純に「通貨安+財政赤字」が物価高騰を引き起こすのではないことがわかります。

 

問題とされるのは、この悪いコストプッシュ・インフレが起こった時に、国民の給料が全然増えていないことで、それにより国民が苦しむことです。

給料を上げるためには需要を創出するべく、政府が責任をもって財政赤字を出すべきなのです。

 

 

明石先生:

MMT論者は、「誰かの赤字は誰かの黒字」という言葉をよく使います。誰かが借金しないと他の誰かの黒字は生まれないということです。間違いではありません。しかし、ここでも、「通貨安インフレ」という要素が無視されています。国債を市中消化できなくなれば、つまり、国家財政への信頼が失われれば、通貨は信頼を失って暴落するのです。そうすると、いくら通貨をたくさん持っていても無意味です。その価値が無くなってしまうからです。ハイパーインフレに襲われた国だって、政府は大赤字、民間は大黒字でしょう。

 

なぜMMTを支持する人がいるのか。それは極めて単純です。「負担はしたくない。でもお金は欲しい」というわがままな欲望を叶えたいからです。

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「国債を市中消化できなくなれば、つまり、国家財政への信頼が失われれば、通貨は信頼を失って暴落する」とのことですが、変動相場制を採用し自国通貨を発行する国家の中央銀行は「最後の貸し手( Lender of Last Resort = LLR)であり、いつでも中銀が政府に貸し出す(準備預金の供給)ので、信頼を失うというご心配には及びません。

 

そして、上述した通り、ハイパーインフレは基本的に供給能力が低く、固定相場制や外債に依存する途上国のみで起こる現象ですので、日本の貨幣現象に当てはめるのはナンセンスであるとしか言えません。

 

また、「MMTを支持する人は、『負担はしたくない。でもお金は欲しい』というわがままな欲望を叶えたいから」とのことですが、上述したように国債は中銀の発行する準備預金と交換されているだけであり、国民が国債の原資を(税金で)負担する必要もないため、「わがままな欲望」でもなんでもないことがよくわかります。

 

明石先生:

全ては為替市場次第と言って良いでしょう。どんなに無茶苦茶な財政支出をしてもたいして円安が進行しなければ、いつまでも財政支出をし続けることができます。しかし、ひとたび為替市場の信頼を失い、円が暴落すれば終わりです。

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上述した通り、為替の変動要因は「日米金利差」が最も大きく、また、金利は政策変数ですので政府・中銀のコントロール下にありますし、「全ては為替市場次第と言って良い」という極論は事実とかけ離れています。

ただ、日本で不況が続き利上げできない状況にありながら、アメリカだけが好景気・利上げという状態になると、円安が進んでしまいますので、柔軟性を確保するためにも政府が財政支出して国民経済を良好に保つことが大切です。

 

また、「円が暴落する」どころか、投資家たちはドルやユーロ資産の回避先として円を位置付ている面もありますので、すぐに円高になる傾向があります。そのため、コロナ不況の真っただ中の現在も円高が進行しています。

2020年は、去年までより50兆円も余計に国債を刷っていますが、財政や通貨の信認とやらが毀損されるようなこともありませんでした。

 

明石先生:

本稿は極めて短くまとめましたので、これだけで理解をするのは難しいと思います。より詳しく知りたい方は拙著「キリギリスの年金」や「ツーカとゼーキン」を読んでください。

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私はまだ拝読していませんが、明石先生のご著書を読まれた湖東先生は以下のように評価されていました。

 

 

 

以上、長文失礼いたしました。

最後までご覧いただきありがとうございます。

また次回。

 

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