先日アップした「池上氏の国の借金デマに反論する」ブログに、珍しく24000弱もの多くのアクセスがあり、その影響でとても良いコメントをいただけましたのでそれにお答えしようと思います。

この手の議論はだいたい二年前くらいから盛んにツイッター上でやりとりしていたので、貨幣論ウォッチャーの方にとっては飽きているかもしれませんが、おさらいだと思ってぜひ読んでみてください。

ちなみに、当アメブロはオフィシャル版というやつで、コメ欄にて返信ができない仕様になっていますので、この場をお借りしてお答えしようというかたちとなります。
 

コメント①
池上氏は「個人の家計」と貨幣発行権を持つ「国家の会計」を「意図的に」混同してますね。庶民には自分の財布と比較して説明されると「そうだな!」と思い、cargoさんが苦労して策されたこの説明を理解するのも、なかなか大変ですから。その意味で「マスゴミ」の威力を感じます。池上氏ならこの程度の事は十分理解でき、問題は国家信用の失墜による為替レートの急激な悪化を伴うハイパーインフレをどう阻止するか、だけだと思うのですが。次回はその点についても判りやすい解説をお願いします。
bangaisou 2020-08-19 12:58:56

 

【私の返答】
仰る通りで、池上氏は経済学を解説する書籍も執筆されているくらいですので、去年から新聞や経済誌等で取りざたされるMMTにかかわる議論も知っているはずで、「国の借金」とやらが返済不要であるという話も知っているはずです。
それにも関わらず、「国の借金は返済が必須」とする一方の”誤った”論理だけを採用するのは不誠実だと言わざるを得ません。

ハイパーインフレに関しては、主権通貨を発行し、変動相場制を採用する、政治的に安定した先進国では起こりえません。
現在までにハイパーインフレの起こったケースは57件で、その全てにおいて、次の三つの発生条件がかかわっています。

①戦争などの理由で国内生産が停止、輸入も不可能になったケース。供給が需要にまったく追いつかない状態に、対外債務問題や紙幣の濫発などが加わる

②旧体制が瓦解し、国家が新体制に移行する際に起こるケース

③もともと二桁台のインフレが何十年も続いているところに、発展の遅れやマクロ経済管理の失敗が加わってインフレが止まらなくなるケース

そしてハイパーインフレが起こった実例としては以下のようなケースが挙げられますが、いずれも現在の日本には当てはまりません。

ジンバブエ   : 供給体制の破壊と紙幣の乱発(白人の農場を現地人が接収したが、運営難に陥り崩壊した)

戦前のドイツ  : 戦争による供給体制の破壊と紙幣の乱発

戦後の日本   : 戦争による供給体制の破壊と紙幣の乱発

ベネズエラ   : 輸入依存でインフレ体質であったうえに、経済制裁で供給体制が破壊され、紙幣を乱発。固定相場制でもあった

アルゼンチン  : フォークランド紛争により経済が混乱。固定相場制下でドル建て国債を発行し続けたが、IMFが融資拒絶し信用崩壊。債務不履行しそれが引き金に

ロシア     : 旧ソ連体制が瓦解、物資不足に陥る。固定相場制(ドルペッグ)でルーブル建て国債(事実上のドル建て国債)だったが、変動相場制に切り替えたことで通貨暴落、債務不履行に陥った。


参考資料:
▼ ハイパーインフレの発生条件 ー 京都大学大学院准教授・柴山桂太
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20180807/
▼ ベネズエラのハイパーインフレ 米国の経済制裁後?制裁前? cargo
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12442729260.html
▼ アルゼンチンの財政破綻、国家破産の事例
https://finalrich.com/crisis/crisis-default-case-argentina.html
▼ ロシアのデフォルトから学ぶ国際金融資本のやり口[三橋TV第158回]三橋貴明
https://www.youtube.com/watch?v=gLclLDi-ueA

上記のように、日本は主権通貨を発行し、変動相場制を採用する、政治的に安定した先進国ですので、ハイパーインフレになりようがありません。
また、わが国は内需国ですので、自国経済内で需給を完結できる供給力の強固な国でもあります。
戦争でもない限り、高インフレの主因である供給力の破壊という状況に容易に陥ることはありません。

国債をいっぱい発行して、貨幣量を増やしただけではハイパーインフレにはならないということです。

例えコロナ禍であっても、新規国債を何十兆と増発しても殆ど円安にならないし、金利もゼロ近傍でびくともしませんでした。
むしろ通貨の信認がありすぎて(他国通貨を円に換える需要があった)、円高になったほどでした。

ご存じでしょうけど、財務省も「ハイパーインフレの可能性はゼロに等しい」と太鼓判を押しています。

 

コメント②
個人も国家も同じでしょう。
- 2020-08-19 16:15:41


【私の返答】
「個人も国家も同じ」というのが、「政府債務も家計の債務も同じ」ということであれば、それは違います。
家計の債務(企業の債務でも同じですが)は、基本的には返済しなくてはなりません。
債務者が死ぬときに相続人が相続放棄すれば債務は消えますが、基本的には、債務者はどこかでお金を稼いできて返済しなければなりません。
債務者(お金を借りた人)と債権者(お金を貸した人)がいれば、債務者は返す責任があります。

これが、国家財政になるとまったく話が変わります。
国家財政においては、債務者と債権者が同一人物になるからです。
この場合、債務者は政府、債権者は中央銀行となります。
「中央銀行は独立した機関だ!」とおっしゃる方がいますが、政府の発行した債務(国債)を、中銀は最終的に必ず受け入れる仕組みになっていますので、政府と中銀は一体なのです。(*政府による中銀の株式保有率はあまり関係ありません)
これを「統合政府論」と言います。

統合政府が発行した債務を統合政府自身が買い取り、統合政府にお金を返す。
簡単に言い表すと、こういう仕組みになっていて、政府の発行した国債は、中銀の発行した準備預金と交換されるだけであり、国債というものは「準備預金を受け取りましたよ」という単なる領収書みたいなものだと言えます。

通貨を発行する権限のない個人と、通貨発行権のある政府を比較することはできないということです。

 

 

コメント③
「あなたの私有財産である銀行預金を、私企業である銀行が勝手に使って投資しているわけがない」

投資と着服を混同してませんか。銀行の本業は企業や個人に投資して金利を受け取り、預金金利との利ザヤを稼ぐことですよ
たく 2020-08-19 16:19:16

 

【私の返答】
まずこちらをご覧ください。

元銀行員の方の証言

皆さんはどこかで、こんな事を習いませんでしたか?
”銀行は皆からお金を集め、そのお金を元に他人に融資をして、その利ザヤで稼いでる”と。
僕も銀行員時代、研修で嫌って程この事を習わされました。
しかしこれは嘘です!
銀行は預金者から預かったお金を又貸しして他者の口座に金額を振り込んでる訳ではありません!
単に借用者の銀行口座に金額を書き込んでるだけに過ぎないんです。預金者のお金は全く関与しません。
銀行は借用書を顧客から受け取るだけで、無から貨幣である銀行預金を発行させることができるんです
https://note.com/satton0723/n/n8c57e30396da

経済学の教科書や銀行員でさえ「銀行は預金を貸し出している」と間違った認識を持っているので、多くの人が誤解をしていますが、これは事実ではありません。
この事実を確認するためには、「信用創造=Money Creation」と「信用貨幣論」を知る必要があります。

まず、銀行は、個人の預金を他の誰かに又貸ししているわけではありません。
投資や融資をする際は、誰かの預金を使うわけではなく、新しくお金を創造(信用創造=Money Creation)しています。

「銀行は又貸しして利ざやを稼ぐ」という表現は金本位制の時の名残でしょう。


知人のたむりん氏がイングランド銀行(イギリスの中央銀行)の信用創造の解説を抄訳されていますので、事実を確認ください。

信用創造の主要な方法は、市中銀行が貸し付けをすることによってなのだ。
銀行が貸し付けをする時には常に、銀行は、借り手の銀行口座に同額の預金を同時に作り出す。そのようにして、新しいお金を作るのだ。

お金が今日どのように作成されるかの現実は、いくつかの経済学教科書で見つかる記述とは異なる:
家計が貯蓄する時に銀行が預金を受け取りそれを貸し出していると言うより、むしろ銀行の貸し付けが預金を作り出しているのだ。


さらに、これまた知人である望月慎氏(「最新MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本」の著者)が、イングランド銀行の信用創造の解説をより細かく訳してくれています。
こちらも理解に役立つと思います。
イングランド銀行は「貨幣の創造の現実は、いくつかの経済学の教科書で見受けられる記述とは異なるものである」としながら、以下のように記述しています。

商業銀行は新しい貸付により、銀行預金という形で、貨幣を創造する。
銀行が貸付を行うとき…例えば、誰かが家の購入のために借入を行うとき、通常は借主に大量の銀行券を手渡したりはしない。
その代わりに、借主の預金口座に、借り入れた金額分の銀行預金が記帳される。
まさにそのとき、新しいお金が創造される
のである。
このため、経済学者の一部は、銀行預金のことを「万年筆マネー」と呼ぶ。
銀行家が貸付を増やした時に、銀行家のペンの一筆で創造されるからだ。

バランスシートが得意な方は上図をご覧ください。
貸し出しと同時に、銀行と個人に資産と負債が生まれています。
他の人の預金など使っていません。

いかがでしょうか?
これが信用創造の仕組みで、お金を創造する際に、この貸し借り(資産と負債)が同時に裏表のかたちで生まれることを「信用貨幣論」と呼びます。
要するに、貨幣とは、誰かがお金を借りた時の記録なのです。
ですので、銀行が融資や投資をする時は、銀行預金でファイナンスしているのではなく、無から創造しているのです。
 

まだ信じられないのであれば、証拠も提示しましょう。

これまた知人の高橋聡さんが素晴らしいブログをあげておられましたので、資料をお借りします。
(知人が総出演してますねw ちょっと良い資料はないかとググっただけですぐに知人のブログが見つかりますが、皆さん、非常に良い記事を書いてます)

銀行が預金を貸し出しているのなら、貸出額はその預金額に制約される(預貸率は100%を超えない)はずですが、実際には銀行はその預金額以上の貸し出しを行っています。


預貸率とは「銀行への預貯金に対して、融資がどれくらいの金額か?」という指標です。
上図により、銀行の融資・貸付は「預金残高に依存しない」という事実が示されました。
(*実際に日本も2003年までは、預貸率100%以上だったそうです)

民間銀行の個人や企業への貸し出しは、預金を元手にしているわけではないことがわかりました。
また、民間銀行が国債を買うお金は、先日のブログで示した通り、中央銀行が準備預金を動かして、それを元手にしていることもわかりました。
どちらの場合にも、個人の銀行預金のお金は使われていないことが確認できます。


さて、余談ですが、上述した知人らがこの事実をWikipediaに伝えたおかげで、日本語版Wikipediaの「信用創造」の説明も、「又貸し説」から「信用貨幣論」に替わったそうです。
1年くらい前までは、又貸し説を主軸とした記述だったのですけどね。

そのページの一行目にはこう書かれています。

「信用創造(しんようそうぞう、英: money creation)とは、銀行が貸し付けによって預金通貨を創造できる仕組みを表す」


経済学の教科書や銀行員の教本も、正しい記述に書き直さなくてはなりませんよね。


まだ3つほどコメントをいただきているのですが、長くなってきたので、続きは次回にします。
ご覧いただきありがとうございました。

cargo

 

 

追記:

面白い事実を再発見しましたので追記!