ベネズエラの経済のことを考えてみました。
ベネズエラの最近の政変に関してリベラル派の間で評価が分かれケンカになっています。
ベネズエラ情勢に関する有識者の緊急声明に賛同したリスト。ハイパーインフレーションをもたらしたベネズエラに課された主な制裁リスト。5ページにも渡る。1ページのみ掲載。 pic.twitter.com/qQ9SrAnfDn
— 日仏共同テレビ局France10及川健二 (@esperanto2600) 2019年2月23日
今日はベネズエラの現政権を支持する日本のリベラル知識人の集いに参加した。データも細かかったが、ハイパーインフレーションは度重なる経済制裁が理由。田中龍作さんが現地入りして、人道危機を煽っているが、人道的介入という名の軍事介入を狙うのがいまの欧米諸国。トランプはCIAを投入している。
— 日仏共同テレビ局France10及川健二 (@esperanto2600) 2019年2月21日
サンダースはマドゥロ政権を批判する旨のツイートを投じるが、それを支持者に批判されている
Super sad to see Bernie continue to repeat CIA talking points and propaganda. He is repeating the words and narrative of war criminals that first must convince people that another OIL RICH nation is ruled by a dictator & needs invading Why he does this shit is anybody's guess. https://t.co/udGFiomD9m
— Jimmy Dore (@jimmy_dore) 2019年2月24日
上記は一例ですが、とても揉めている。
評価を左右する点のひとつがハイパーインフレ問題。
欧米が暫定大統領だと推すグエイド派は「経済制裁前からハイパーインフレ化していた」と言うが、現大統領のマドゥーロ派は「米国の制裁後にハイパーインフレ化した」と言っているという状況なのです。
そんなわけで、どっちが事実なんだろうかという視点で、インフレ率と為替レートを追ってみました。
https://ecodb.net/country/VE/imf_inflation.html ;
2010 28.19
2011 26.09
2012 21.07
2013 43.53
2014 57.31
2015 111.80
2016 254.39
2017 1,087.52 ←ココ!
2018 1,370,000.00
https://m.jp.investing.com/currencies/vef-usd-historical-data
2014年01月日 0.15890
2015年01月日 0.15890
2016年01月日 0.15890
2017年01月日 0.10020
2018年01月日 0.10015
2018年02月日 0.00000 ←ココ!
2018年03月日 0.00000
2019年01月日 0.00030
上記データから、ハイパーインフレの発生時期は18年初頭と言えるはずです。
トランプの経済制裁は17年の8月末から段階的に講じられていますので、経済学クラスタ的視点では、ハイパーインフレの定義は年率1.3万%ですので「ハイパーインフレは制裁後に始まった」といえるのですが、Wikiで改めて調べたら「ハイパーインフレの定義は3年累積で100%」とも書いてあります。
私は経済学素人なのですが、経済学クラスタの言説に触れることが多く、漠然と「年率1.3%」と覚えていたので、Wikiに「3年累積で100%」と書いてあってびっくりしました。
ベネズエラでは「経済制裁前まではインフレ率数十%~250%くらいで推移していたのが、制裁後に一気に1000~100万%以上に暴騰したということですね。
ですので、グエイド派とマドゥロ派の両派は、認識しているハイパーインフレの定義が違うだけなのだろうと類推しました。
しかしながら経済制裁されたことで、即ハイパーインフレ化したのではありません。
その背景にはチャベス-マドゥロ政権の失策も少なからずあったわけです。
立命館の松尾先生にも聞いてみたところ、以下のようなお答えが返ってきました。
政権側は、生活物資を安く輸入して、国営の配給網を通じて配給することで国民掌握の手段にしていたので、かえってそのことを望ましいことととらえて、国内産業が壊滅するに任せたようです。
そのために、のちに原油価格が下がって通貨が下落しても、輸出が増えようにも生産できる輸出品はなく、生活物資は輸入し続けるほかなかったので、輸入インフレに見舞われたということです。
それを、通貨の増発で解決しようとしたためにインフレが悪化して...と、以降はご指摘のとおりですね。
「ご指摘の通り」というのは以下のような私の考察のことですが、ハイパーインフレが起こるには「供給能力の低下」という必要条件があることにご留意いただき、下記読み進めていただければと思います。
まず、2014年半ばに原油価格の暴落が起こったため、貿易額が1/4に激減してしまいました。
石油経済に偏重していたベネズエラでは物資が不足することになり、物価が上がったことで人々が困窮。
そこでマドゥロ政権が良かれと思って通貨を増発し、最低賃金を上げたり補助金として政府支出を増やした。
下図でも明らかであるようにマネーサプライ(M2≒市中に出回るお金の量)が16年くらいから徐々に増え、17年の5月あたりから急増していますが、物価高騰→通貨増発→物価高騰→通貨増発という悪循環が生まれたのだと思います。
興味深いことに、反米国家であるはずのベネズエラの主要貿易相手国はアメリカです(2015年のデータでベネズエラの輸出全体の44%、輸入の28%を占める)ので、17年の米国発の経済制裁が効きすぎるほど効いた、物価高騰に追い討ちとなったという背景もあるようです。
なお、固定相場制はチャベス政権下の2003年からマドゥロ政権下(13年~)の2017年5月までとなりますが、固定相場制下ではマンデル・フレミングの法則からも金融政策が効かなかったため、財政支出しすぎたことでMSが増加したのかなあとも思いました。
そんなわけで、現在のベネズエラのハイパーインフレは、まずチャベス元大統領やマドゥロ大統領の経済政策の失敗が下地にあり、アメリカの経済制裁が重なったことで爆発したといえるでしょう。
ハイパーインフレ問題を解決したことで、チャベス=マドゥロ体制にも問題があることがわかりました。
しかしながら私個人は、今回のクーデターまがいの政変に関してはアメリカが仕掛けていると思っています。
参考: ベネズエラの駐日大使の発言 ( https://www.youtube.com/watch?v=V7V2zmc99jQ )
トランプは「軍を出す」と脅していますし、いつものアメリカのやり口で、リビアやシリアのような内戦に発展しなければと願っています。
Qanon情報を妄信し、トランプを救世主と崇めている人たちは、もっとよく考えたほうが良いですよ。
— Marco Rubio (@marcorubio) 2019年2月24日
リビアのガダフィ大佐の残虐なリンチ写真を投じることで、「マドゥロもこうなるべきだ」と示唆する頭のおかしいマルコ・ルビオ上院議員(共和党)
本日はここまで。
最後までご覧いただきありがとうございました。
また次回。
cargo
20190225追記:
▼メディアが絶対に報じない!トランプが転覆もくろむベネズエラ危機の正体 by 勝俣 誠、桜井均、新藤通弘、西谷修、清宮美稚子2019 02 21
https://www.youtube.com/watch?v=ehCDpM1xbdE
20190226追記:
「支援物資を運ぶトラックに火炎瓶を投げ込み自演テロを講じる反体制派」とのことだが、もうこうなると真実は誰にもわからなくなる。確かなのはリビアのトリポリやシリアのダルアー、ウクライナで見た光景がベネズエラにもあるということ。米国の工作員が紛れ込んで内紛を煽ってると疑われるということ https://t.co/JCz5Kwuf1S
— cargo🌹 (@cargojp) 2019年2月25日
元大統領候補のロン・ポール(共和党)も、ベネズエラへの支援トラックに火炎瓶を投げたのは反体制派で、これは偽旗作戦だと語っている。 https://t.co/DS8xcdQjjQ
— cargo🌹 (@cargojp) 2019年2月25日
○ツイッターで @N_urikabe さんという方に「闇レート」なるものを教えててもらいました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Economy_of_Venezuela#Currency_black_market
これを見るとチャベス政権期の12年くらいから財政赤字の拡大と重なるように高インフレ化がはじまってることがわかります。
チャベス政権は石油事業などを国営化していったので、財政支出する時にネポティズム的なバイアスがかかり汚職なども広がったのだろうと予測できます。
▼南米・ベネズエラでいま何が起きているのか?
坂口安紀×荻上チキ
https://synodos.jp/international/20074
チャベスが国有化していったために生産部門が投資を控え供給基盤が縮小、そして石油価格が高騰していた時期でさえ、貧困層への福祉供給を行っていたため財政赤字が拡大、インフレやモノ不足が深刻化していった経緯が語られています。
しかし反米の小国(独立独歩を望む小国)は欧米からの攻撃を防衛するために、リビアやシリアのように独裁的な体制を取らざるを得ないこともまた規定パターンです。
【ベネズエラ・カラカス発~連投15】
— 田中龍作 (@tanakaryusaku) 2019年2月26日
当地の友人から「米国と日本はどういう関係なんだ?」と尋ねられた。
田中が「キューバとベネズエラの関係だ」と答えると、友人はもの凄く納得していた。
=カストロ議長の操り人形と化したマドゥロ大統領 23日、カラカス市内で田中龍作撮影= pic.twitter.com/DISDPu2ML2