ブログを書き始めてから,気が付けば五百本ほどの記事を書いている。似たような話が多く,重複している内容も結構あるので,どこかに書いたままで,ブログに載せたかどうか定かでないものの一つに,「一万時間の法則」がある。
一万時間の法則というのは,心理学者のアンダース・エリクソンという人が調査した結果,様々な分野で傑出した能力を身につけるためには,およそ何事でも一万時間におよぶ練習や訓練を積み重ねる必要があるという法則だ。
エリクソンは,ベルリン音楽アカデミーで学ぶバイオリニストを3つのグループに分けて調査した。どういう基準でグループ分けしたかという点も重要だが,学生達を,いわゆるトップ・レベルのグループと,それに続くグループ,そして,明らかに二つに劣るグループの3つに分類して調査した結果,学生達を3つのグループに分けることになったのは,練習を開始した時期や師事した教官等に関係なく,ただ練習量の違いによるものだけだったことが分かったという。
もちろん,音楽の専門学校の学生ということもあって,ほとんどの学生は5歳前後で楽器の練習を始めていた,だが,20歳頃になった時点でのトップ・クラスの総練習時間は1万時間を超えており,それに次ぐグループは八千時間,劣るグループは四千時間ほどだったそうだ。
これは,バイオリンに限ったことではなく,ピアニストについても同様の調査を行ったところ,同じ結果だったことから,彼らが真の音楽家として成功するかどうかを分けたのは総練習時間が1万時間を超えるほど,熱心に練習したかどうかだったという話だ。
このエリクソンの説を踏まえて,一万時間の法則の代表例の一つとして,ビートルズが下積み生活を送ったハンブルクでの過酷な公演スケジュールを調べた結果,彼らがそこに至るまでの練習時間や毎日8時間ものライブの積み重ねが一万時間になっていたということを挙げている人もいる。
ただ,エリクソン自身は,「特定の弱みを克服し,特定の能力を向上させるという目標に向けて集中的に練習する限界的練習とプロとしての演奏時間だけを比較するのは正しくない」と言っているそうだ。元々,一万時間という時間そのものに何か根拠があるはずもなく,そのくらいの時間をかけて打ち込めば,たいていのことは一人前以上の腕になれるというのは確かだろう。
「石の上にも三年」という諺がある。よく使う割には,そもそも石の上に三年かけて何をするのだろうかと思って,改めて調べてみたら「冷たい石でも三年間座り続ければ暖まる」ということらしい。時間をかければ成し遂げることができるという意味よりも,何事にも忍耐力が必要だというニュアンスのようだ。英語では「A rolling stone gathers no moss」という言葉がある。
あのローリング・ストーンズのアルバム・タイトルにもあったと思うが,イギリスとアメリカでは,使い方が丸反対だというのは初めて知った。
イギリスでは「職や住居を変える人は,人生で成功せず,お金も貯まらないとされ,『辛抱して頑張る』ことが成功を収めることに繋がる」とされるのに対して,アメリカではイギリスでの考え方とは対照的に,「より積極的に活動し,よく職を変える人がキャリア・アップをし,成功を収めると考えられていて,じっとしていることは怠けることであり,古臭いアイデアばかりで苔が生えてしまう,だから常に行動し,新鮮な考え方を持った人間でなければならない」という考え方なのだそうだ。
どちらが正しいということではないだろう。「一万時間の法則」と「石の上にも三年」により,二つの偉大なバンドが繋がった。