今日は成人の日。新型コロナウィルスの感染拡大により、各地で式典の開催が心配された。私の住む町でも二部制にしてどうにか実施された。式に出かける息子にネクタイの締め方を教えてやり、送り出した。全国各地で新成人を迎えた皆さんに、心からお祝いを申し上げたい。🎉

 

 「あなたへ〜いつまでも いつでも〜」は、宏美さんの65枚目(※「ぼくのベストフレンドへ」「ピンクと呪文」を含む)のシングル。宏美さんが「生き神様」と仰ぐさだまさしさんに、「百恵ちゃんには『秋桜』があるのに、どうして私には書いてくれないの」と言い続けて、ようやく念願かなってまさしさんから書き下ろしてもらった記念すべきシングル曲である。

 

 宏美さんへの書き下ろしと言いながら、「あなたへ〜いつまでも いつまでも/糸遊」のいずれも宏美さんのシングル発売の4ヶ月も前に、さださんご本人がアルバム『もう来る頃…』ですでに発表している。内容的には、歌ひとすじの宏美さんからファンへのメッセージソングである。「たとえ傷ついても、悲しみの底にあっても前を向こう。私はいつもここで歌ってるから」というものだ。タイミング的には、まさしさんの中で東日本大震災で被災された方々が頭にあったのは間違いないであろう。まずはさださんの歌からどうぞ。

 

 

 さださんをはじめ、他の方のカバーもタイトルは「あなたへ」だけだが、宏美さんの場合「〜いつまでも いつでも〜」と副題のようなものが付いている。これは、99年のアルバム『Never Again〜許さない』に、ドリアン助川&筒美京平の書き下ろし「あなたへ」がすでに宏美さんのオリジナルとして存在しているためである。

 

 この歌は、ワンコーラスたった12小節で、7番まで歌われる。歌が進むうち、徐々に過去から未来へと視点が変わってゆき、傷ついた人に前を向くよう背中を押す歌だ。繰り返すたびに節回しを変え、音域を上げながらバックの音数を増やしていって7回繰り返す、という大変珍しい作りになっている。2オクターブ以上の音域で、最後はさださんもシャウトするように歌い切っている。

 

 この歌を宏美さんが歌うに当たっては、アレンジの上杉洋史さんは相当に苦労されたことが完成した音源から窺える。2オクターブ超の持ち歌が、宏美さんにない訳ではない。そのことは「哀しみの環状線」のブログで触れた。ただ、それはあくまで地声からファルセットまで含めた音域である。まさしさんの歌のように、7コーラス目を力強く歌い切るためには、ギリギリ地声で歌える音域に設定しなければならない。となると今度は低い音域が歌えなくなる。

 

 そこで上杉さんのとった手法は、2度転調させながら、それぞれの節回しで宏美さんのジャストフィットな音域に設定する、というものであった。まさしさんのバージョンは、1番から7番までCメジャーで転調していない。宏美盤は、Aメジャー(1〜3番)→Fメジャー(4番)→Dメジャー(5〜7番)と転調(3度ずつ下げる)を繰り返し、その結果7番の「♪ あなたを思ってー歌ってるからー」の語尾の太字部分(B音)が、まさしさんの歌い方を意識したような、地声を振り絞るような歌唱になっている。

 

 バックのサウンドも、1番は上杉クンのピアノ一本、2番で静かにストリングスが入ってきて真部クンのバイオリンが美しく響く。その後の短い間奏で石川さんのドラムスと今は亡きゲルCこと渡辺茂さんのベースが入ってきていつメン勢揃い、徐々に盛り上げてゆくのだ。

 

 

 この「あなたへ〜いつまでも いつでも〜」は、当時コンサートの最後でファンを前にして歌われ、絶大な効果を発揮した。だが、シングルとしては必ずしも成功したとは言えなかったのではないか。「未完の肖像」の時も似たようなことを感じたが、テレビでこの1曲だけ歌うような場合、まして放送時間の関係で短縮版だったりしたら、この歌の素晴らしさが充分に伝わらないのではないか、と思うのだ。

 

 このシングル発売の翌年、オリジナル・アルバム『Love』がリリースされ、宏美さんはこの曲のボーカルを録り直す入れ込みようだった。だが、2013年6月、『Love』の発売記念イベントがLAZONA川崎で行われた際、何とこの曲は歌われなかったのだ。当時の最新シングルかつこのアルバムの収録曲である。だが当日のイベントで歌われたのは、「ロマンス」「ベリー」「時の針」「いのちの理由」の4曲だけだった。理由の一つはやはりこのような曲数の限られたイベントではなかなか聴衆に訴えかけにくい楽曲であるということ、もう一つは、音域いっぱいに地声で歌い上げるこの曲は宏美さんの負担も大きかったのではないか、と推測するのだ。

 

 むしろ、宏美さんの還暦のお祝いに新たにまさしさんが書き下ろした「残したい花について」の方が、シングルカットはなかったにも関わらず、テレビ番組や様々なイベントなどで好んで歌われていたように思う。

 

 せっかくのまさしさんの作品でありながら、どことなく不完全燃焼で終わってしまった感があるのを惜しんでいるのは、恐らく私ひとりではないであろう。

 

(2012.10.3 シングル)