宏美さんの「愛がいっぱい」詰まった、4年ぶり会心のオリジナル・アルバム『Love』。取り上げて語りたい曲だらけであるが、まず今日は可愛らしい愛に包まれたこの曲をチョイス。
この「ベリー」は、亡くなった愛犬ベリーへの想いを綴った歌。作詞・作曲は『Dear Friends』で共演、その後シングル「始まりの詩、あなたへ」も提供している大江千里さん。宏美さんと親交があり、ベリーのこともよく知っている千里さんだからこそ書けた曲だ。古くからのファンならば、1982年の「ワン・碗」を彷彿とされた方も多いであろう。宏美さんのお家のワンちゃんは、歴代ミニチュアダックスと言うのは宏美ファンには周知の事実。「ワン・碗」は、当時の岩崎家で飼われていたガンバロン、ミルミル夫妻の歌なのである。
この曲は、ベリーがチョコチョコと駆け回るようなイントロでスタート。その雰囲気のままの伴奏に乗って、ベリーと「ママ」こと宏美さんとの出会いから始まり、さまざまなエピソードを織り込み2人の思い出が語られる。よく聴いてみると、この素敵な歌の魅力の裏には、構成が大いに関係していると思われるので、以下に述べてみたい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
A:いつもかまってほしい〜
A’:最初ママに会ったの〜
B:ベリー あなたはいつでも〜
A:早くお風呂に入ろ〜
A’:強がるママは弱い〜
B:ベリー ウインクするから〜
C:クリスマスにとなかいになって〜
B’:ベリー あなたはいつしか〜
B:ベリー ペンダントの中〜
D:ベリー ベリー ベリー I love you〜
B’:べリー あなたに会いたい〜
B’’:ママの隣ですねてる〜
D:ベリー ベリー ベリー I love you〜
A":いつもかまってほしい………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お分かりいただけただろうか。AとCのパートはベリーの一人称、BとDのパートはママの視点で歌われているのだ。ベリーのパートはやんちゃないたずら坊主、ママのパートは慈愛に満ちたマドンナのように、宏美さんは自然に歌い分けている。そして、一度しか現れないCメロのあと、再び繰り返されるBメロに、「♪ ベリー ペンダントの中 〜」という言葉が出てきて、聴く者はベリーの死を悟るのだ。
そして、最後の最後にベリーのパートのはずのAメロが回帰し、「♪ いつもかまってほしい……」がママの気持ちを纏って歌われ、余韻を残して終わる。ベリーは、宏美さんが一人で最も元気がない時期に、元気づけてくれたかけがえのない存在だった。最初の「いつもかまってほしい」はベリーの気持ちだが、最後のそれは宏美さんの気持ちではなかったか。
私の生家は商売屋で、生き物を飼うことができなかった。後年妻の実家に同居するようになった頃、家にチンチラのベティという猫がいた。ベティは、新参者の私には懐かなかったが、子どもたちは可愛がっていた。娘が小学校4年生の時、ベティは天寿を全うした。朝目が覚めて、祖母からベティの死を知らされた娘は、ベティの傍に座り込み、冷たくなってゆく彼女を撫でながら、無言でポロポロと大粒の涙を流していた。この「ベリー」を聴くと、あの時の娘の様子を思い出すのだ。
(2013.6.19 アルバム『Love』収録)