1897年~1949年のSF、冒険、戦記、探偵小説を書いた小説家。
去年から少しずつ読み始めて43話読みました。
短編が多いのでサクサク読めます。
全部ネット上の青空文庫(無料)で読めます。
テレビで見るフィクション・ドラマより、発想やかなり妙な言動が面白いです。
宇宙戦艦ヤマトのプロデューサーは海野十三ファンだったらしいですが、年配の人はよく知っているのではないかと思います。
この海野十三は戦前は英米を仮想敵国とした戦記物を多く書き、戦後はSF、探偵小説、冒険ものを書いた大御所です。
日本にも戦前はハリウッド映画みたいに軍人が活躍する小説があったんですね。
関東大震災や空襲も経験していて、当時の様子なども小説の背景を通して実感出来ます。
この人、Wikipediaで説明を読んでも面白いです。
『犬神家の一族』などで知られる横溝正史が疎開中に東京で住む家が無くなってしまったのでお金を渡して家を建ててあげた。
アドルフ・ヒトラーを英雄視していた。
色んな政策を遂行して一時的であれ国を再建させたからかな。
戦時中20代前半だった山田風太郎は、大本営発表を聞いても『負け続けている米軍が太平洋を渡って日本に近づけるはずがない。』とその嘘を看破するが、海野十三(40代。家庭あり。)は鵜呑みにして『米軍来るなら来い。いくらでも叩いてやる。』と日記に書いている。
山田風太郎は戦時中までは、現在の岩波文庫になっている国内外古今の名作を一日一冊は読んでいたが、戦後になって医学部を卒業する頃には、当時の探偵小説も読み始め、海野十三の小説も少し読み始めたようだ。
風太郎自身がもうその頃、江戸川乱歩にも認められ新人作家として多額の原稿料が入るようになっていて、当時の色々な作家との付き合いも始まっていた。
風太郎の日記には、5月23日に若林179の海野十三氏の葬儀手伝いに行き、横溝正史や島田一男らと飲んでグデングデンになって帰る、と書いてある。
その後風太郎は海野十三が建てて挙げた横溝正史の成城の家も訪問している。
今はテレビやネットが発達してドラマとか観てもマンネリが多いと思いますが、別の時代で違った体験をして来た人の描き出すものは逆に新鮮です。
単なる小説ですが、現代のニュースなどでもよく出て来る社会問題などももちろん昔にも在ったことがよく分かります。
以下iPadに保存しておいた読後メモ。
『海底都市』★★★★★
非常に面白い!
1948年。小学生が友達に連れられてタイムマシンに乗って行った先は20年後だった。
戦争に負けた日本は地上で田畑を耕し、海底に都市を作って膨れ上がった人口を養っていた。
そこで会った博士によると、その海底都市も最近何者かの攻撃を受けているという。
少年は博士の依頼で海底に赴き、その正体を突き止めようとする。
『浮かぶ飛行島』1938年。★★★★。
おそらく戦前、戦時中書かれた少年向け空想軍事小説。
ハリウッド張りのアクションもの。
こういうのを読んで軍国少年は育ったのかもしれない。
シンガポールと香港の間の洋上にイギリスが巨大な人工島を造る。
それが日本攻撃の拠点と考えた日本は大尉を潜入させて諜報活動を行わせる。
『深夜の市長』中編。★★★★★
1936年、つまり戦前に書かれた作品。
T市市長とは、東京市の市長を指す。つまり東京が東京市と呼ばれていた時代の話。
真っ暗な深夜に散歩する探偵小説作家(本職は司法官司補)が事件に巻き込まれる。
『十八時の音楽浴』刊行年不明。★★★★
民衆をコントロールする音楽放送を開発した博士と権力者(大統領)の話。
地上は滅んで人類は地下に住んでいる。
『空襲葬送曲』中編。1932年。★★★★
弦三は、空襲で東京市が5トンの爆弾を浴びれば焦土になる、毒ガスも撒かれるよ予想し、父・長造の誕生日に手製のガスマスクをあげる。長造は外国の飛行機が東京を爆撃出来ないと信じているが、弦三は軍人の講話より空の防衛体制が出来ていないことを知っている。
二回目の上海事変。
上海共同租界内で滝本総領事が中国人の襲撃を受け殺される。
そしてついに米国との太平洋戦争が始まる。
『火星兵団』中長編。1939年。著者42歳頃の作品。★★★★★。
蟻田博士の火星兵団の話は警察に信じてもらえず、報道規制も敷かれる。
そんな中、千二少年は変な物体を目撃。丸木という奇怪な男に捕まる。
またモロー彗星が接近していて地球が破壊されてしまうという予測が博士によってされる。
珍妙な会話、予想もつかないシナリオ展開、大傑作。
『棺桶の花嫁』中編。1937年。★★★★。
演劇の練習中、女学生ミチミが突然失踪する。
杜とミチミはいっしょに名前を変えていっしょに住み始めるが関東大震災で離れ離れになってしまう。謎を追って行くミステリー。
『爆薬の花籠』中編。1940-1941年。★★★★。
メキシコから帰国する船上から話は始まる。なかなか面白い。
帆村壮六:メキシコに新型爆薬を取りに行く。曲馬団というサーカス団に混じって帰国。
同じ船に巨大な陰謀を遂行しようという組織のメンバーも乗船していた。
『地獄街道』短編。1933年。★★★★★。
話はS駅(たぶん新橋駅)の貨物倉庫から始まる。
ユダヤ横丁という謎の組織のアジト。
三人の死体が出た地獄街道の秘密とは。
最後は笑えた。