仏教的世界観における地獄の構造4 | 徒然草子

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3地獄の種類
(A)八大地獄
(7)プラターパナ地獄(極熱地獄、大焦熱地獄)
 プラターパナ地獄(極熱地獄)はターパナ地獄(炎熱地獄)の下方にあるとされ、広さはターパナ地獄(炎熱地獄)等と同じである。内外自他の身が共に猛火を出し、互いに相燻害するが故にその名があるとされる。この地獄は、殺生、盗み、淫欲、飲酒、虚言、因果の道理を否定したり、更に浄戒の尼を犯した者が堕ちる所で、その責め苦の期間は0.5アンタラ・カルパ(中劫)に及ぶとされる。その上、この地獄の苦しみはこれまで述べてきた諸地獄の苦しみの十倍に相当するとされている。
 『正法念処経』や源信によると、この地獄には一切方焦熱処、大身悪吼可畏処、火髻処、雨沙火処、内熱沸処、咜咜咜嚌(たたたざい)処、普受一切苦悩処、鞞多羅尼処、無間闇処、苦鬘処、雨縛鬘抖擻処、髪愧烏処、悲苦吼処、大悲処、無非闇処、木転処の計16の付属的地獄がある。

○一切方焦熱処は清浄な在家の女性仏教信者(優婆夷)を犯した者が堕ちる所で、針の穴程の隙間も無く虚空の高さに達する炎が常時燃え盛り、罪人はその中で常に焼かれていると言う。

○普受一切苦悩処は出家の身でありながら、戒律を守っている女性を酒を以って誘い誑かし、その者と性交した上、財物を与えた者が堕ちる所と言い、炎によってその身の皮が剥がされ、その上、灼熱の大地の熱さで焼かれ、更に沸騰した熱鉄がその身体に注がれると言う。

○大身悪吼可畏処は出家はしたが、まだ比丘尼にはなっていない女性を犯した者が堕ちると言う。獄卒が毛抜き鋏で全身の毛を肉もろとも一本ずつ抜いて苦しめると言う。

○火髻処は仏法を正しく修め、正しく実践している女性を犯した者が堕ちるとされる。弓の弦の様に細長い体に鋭い牙を持った虫が無数にいて獄卒に縛られた罪人の肛門から侵入し、内臓から脳まで食い尽くし、頭部を食い破って外に出てくるとされる。          

○雨沙火処は仏門に入って間もない尼僧を犯した者が堕ちるとされ、約500由旬の大火炎の底に灼熱状態の金剛の砂の巨大な蟻地獄があり、その砂に飲み込まれる。更に灼熱の砂の中には鋭く尖っていて突き刺さるものも混ざっていると言う。

○内熱沸処は三宝に帰依し、五戒を受けた女性を虐待した者が堕ちると言う。一面が炎に包まれている中で、五つの火山だけが木々が茂り、池がある。炎から逃れるべくその火山の麓に行くと、暴風に巻き上げられて火山の火口に落下し、火山内部で焼き尽くされると言う。

○咜咜咜嚌(たたたざい)処は受戒を済ませた正行の女性を犯した者が堕ちると言う。激しい風に吹き上げられて、その身が粉々になり、その肉片が一面に撒き散らされる。又、金剛の鼠に喰い散らかされ、芥子粒の様に細かく砕かれると言う。

○鞞多羅尼処は嫌がる女性を強いて性交した者が堕ちるとされる。暗黒の中で高熱の鉄の杖が雨のように降り注ぎ、罪人に次々と突き刺さると言う。

○無間闇処は善徳の人を女性に誘惑させて堕落させた者が堕ちると言う。金剛さえ突き破るほど鋭い嘴を持った虫が罪人の骨の髄まで食い荒らすと言う。

○苦鬘処は有徳の僧に対して王への讒言を以って脅迫して性的関係を結び、堕落させた女性が堕ちると言う。獄卒に鉄の鑢(やすり)でその肉を削り落とされると言う。

○雨縛鬘抖擻処は国家の危機的状況の混乱に乗じて持戒の尼僧を犯した者が堕ちると言う。回転する刀が到る所に生えており、身動きすると忽ち切り裂かれ、死ぬと直ちに再生し、又、切り裂かれて死ぬということが繰り返される。

○髪愧烏処は酒に酔って自身の姉妹を犯した者が堕ちると言う。灼熱の炉に放り込まれ、獄卒が鞴で火力を強める。又は太鼓の中に入れられ、獄卒がそれを激しく打ち鳴らすと言う。

○悲苦吼処は特別な儀式の最中であるにも関わらず、姉妹と自身の性的関係を持った者が堕ちると言う。一見、静寂そうな林があり、罪人は其処に逃れるが、その林には巨大な千の頭を有する龍が無数住していて、逃れてきた罪人をその口中にて噛み砕く。そして、罪人は龍の口中で生き返ると、又、噛み砕かれ、同じ事が延々と繰り返される。

○大悲処は仏典などを学んでいる善人の妻や娘などを騙して犯した者が堕ちると言う。刀が密集して生えている鑢状の床があり、獄卒にその床に擦り付けられ、形が留めなくなるまで擦り減らされると言う。

○無非闇処は自分の子の妻を犯した者が堕ちると言う。沸騰する釜の中で他の罪人と共に煮られた後、杵で搗かれて一塊の団子にされると言う。

○木転処は命を救ってくれた恩人の妻を犯した者が堕ちる所で沸騰した河に逆さ吊りにされて煮られ、巨大な魚に喰われると言う。

(8)アヴィーチ地獄(阿鼻地獄、無間地獄)
 アヴィーチ地獄(阿鼻地獄、無間地獄)はプラターパナ地獄(極熱地獄)の下方、地獄の最下層に位置するとされる。その広さは2万由旬にわたり、深さも2万由旬と言われている。その名称(※無間はアヴィーチの漢訳語であり、阿鼻はアヴィーチの音写。)の由来はその苦痛に絶え間無いからであるとか、又は楽が交じる事が全く無いからであるとかと言われているが、実際の所は不明である。
 この地獄は、五逆罪(※1)を犯したり、因果の道理を否定して釈尊の教えを誹謗したり、偽って自身が聖者であると宣言した者が行く所とされ、その責め苦は1アンタラ・カルパもの期間続くとされる。
 一方、源信によると、アヴィーチ地獄(無間地獄)の広さは8万由旬であり、その深さも同様である。その上、地獄自体が堅固な城塞の様であり、七重の鉄の城壁と七重の鉄網に囲まれ、更に下方は18の壁に隔てられ、四隅には身長40由旬で毛孔より強烈な悪臭を伴う猛火を出す銅の狗がいると言い、壁と壁の間には84000匹の鉄の大蛇がいて、毒や火を吐き、更に鉄丸を地獄内に雨の様に降らせると言う。その上、同じ所には500億匹の虫がいて、8万4000の嘴があり、火を吐いて雨の様に降らせると言う。又、アヴィーチ地獄(阿鼻地獄、無間地獄)の内部は炎に満ち、地獄の四門には鍋があり、其処から溶融した熱銅が流れ出して、地獄内を満たすと言う。
 ところで、アヴィーチ地獄(無間地獄)の苦悩は余の地獄の1000倍もあり、この地獄の罪人から見れば、すぐ上方のプラターパナ地獄(極熱地獄)の様相は欲界の最高処である他化自在天の様であると言う。又、この地獄の苦悩の相は言語的表現による描写は不可能であり、現生の人間がたとえその様相を聞き得たとしても、あまりの恐怖に忽ち血を吐いて死んでしまうと言う。
 又、源信は『瑜伽師地論』(サンスクリット名『ヨーガーチャーラブーミ』)の記述を引用してアヴィーチ地獄(無間地獄)の様相を明らかにしようとしているが、その概略を纏めてみよう。
 当該地獄の罪人に対して四方から炎が迫って来るが、その炎の力は皮膚や骨肉を断ち切る程であり、その苦しみに全く絶え間ない。その上、鉄で作られた箕で以って燃え立つ鉄より成る炭火を盛って浄める。又、罪人は熱せられた鉄の大地において同じく熱せられた諸山を登り下りさせられる。更に罪人の口から舌を引き出させて百もの鉄の棒で引き伸ばしなめしてしまう。又、熱せられた鉄より成る大地に罪人は仰向けにさせられ、熱鉄の鉗によってその口を開けられて炎が燃え立っている鉄丸を投げ込まれるが、その鉄丸の熱さで口、喉、内臓が焼き爛れる。又、口に煮え滾った銅が流し込まれて、口、喉、内臓を焼かれることもある。
 又、源信は『正法念処経』に基づき、この地獄には烏口処、一切向地処、無彼岸長受苦悩処、野干吼処、鉄野干食処、黒肝処、身洋処、夢見畏処、身洋受苦悩処、雨山聚処、閻婆度処、星鬘処、苦悩急処、臭気覆処、鉄鍱処、十一焔夢見畏処の計16の付属的地獄があると言う。

○鉄野干食処は仏像、仏具、僧房や僧の臥具を焼いた者が堕ちる所で、罪人の身体に火が燃え上がり、鉄の瓦が雨の様に降り注いでその身を砕き、炎の牙を有する野干が来て、その肉を喰らうと言う。

○黒肝処は仏の財物を盗んだ者が堕ちる所で、罪人は飢えのあまりに自らの肉を喰らい、喰らい終わるとその部分が再び生じる言い、又、黒腹の蛇が罪人に纏わりついて罪人の骨肉を食べたり、或いは猛火で焼かれたり、鉄の鍋で煮られたりすると言う。

○雨山聚処は独覚(辟支仏、縁覚)の食を取り、且つ人々に分け与えなかった者が堕ちる所で、罪人の上に巨大な鉄山が降ってその身を打ち砕き、又、十一の火炎に囲まれて焼かれ、獄卒に身を刀で切り刻まれ、その切れ目に熱い白蝋が流し込まれ、その上、常に四百四病に苦しめられると言う。

○閻婆度処は人々が利用している河を壊して人々を渇死させた者が堕ちる所で、罪人は閻婆という象の様な巨大な鳥に捕えられ、空中を舞い上がって飛び回った挙句に地に落とされ、その身を粉々にされると言い、又、道の上に満ちている鋭利な刃でその足を割かれたり、或は炎の歯を持つ狗に噛まれたりすると言う。

○烏口処は阿羅漢を殺害した者が堕ちると言う。獄卒が罪人の口を裂いて閉じることができない様にした上、沸騰する泥の河に落とす。溺れた罪人は泥の熱で内臓まで焼かれる。

○一切向地処は阿羅漢果を得ている尼僧を強姦した者が堕ちる所で、罪人は回転させながら炎で焼かれ、又、アルカリ性の灰汁の中で煮られてしまうと言う。

○無彼岸長受苦悩処は自身の母親を犯した者が堕ちる所で、鉄鉤で臍から心臓を取り出され、その心臓に鋭い棘を刺される。その後、臍に鉄の釘が打たれ、口に高熱で融解した鉄が注がれると言う。

○野干吼処は阿羅漢など聖者の過程に入っている者を謗った者が堕ちる所で、鉄の口を持つ火を吐く野干が罪人に群がり、手、足、舌など罪のある部分を次々に喰いちぎってゆくと言う。

○身洋処は仏に供養された財物を盗んだ者が堕ちる所で、炎に包まれた二本の巨大な鉄の木の間に罪人が囚われ、風で鉄の木が揺れて擦れ合う度に木と木の間にいる罪人達は粉々になる。その肉片は金剛の嘴を有する鳥に喰われると言う。

○夢見畏処は僧達の食料を奪い、飢えさせた者が堕ちる所で、鉄の箱の中に座らされ、杵で搗かれて肉の塊にされると言う。

○身洋受苦悩処は篤志家が出家僧や病人に布施した財物を僧を装って奪い取った者が堕ちる所と言い、高さ約800キロメートルの燃える鉄の木の下にある場所に囚われ、罪人はこの世の全ての病を患うと言う。

○星鬘処は修行の為に飢えている僧から食料を奪った者が堕ちる所と言う。地獄の形状は正方形で、四つの角の内、二つの角に大きな苦痛があると言う。一つは釜の中で回転させられながら煮られ、もう一つは剣刃が混ざっている激しい風に切り裂かれた後、釜の中で融解している熱銅の汁で煮られると言う。

○苦悩急処は仏教の教えを伝える為の書や絵画などを歪めたり、破損したり、悪戯した者が堕ちる所で、獄卒が罪人の両目に溶けた熱銅を流し込み、更にその両目を熱砂で擦り減らし、その上、身体の他の部分も同様に熱砂で擦り減らすと言う。

○臭気覆処は僧達の為の田畑、その他僧達に帰属すべき物を焼いた者が堕ちる所とされ、無数の針が生えている燃え上がる網にて捕らえられ、体中、刺し貫かれながら燃やされるとされる。

○鉄鍱処は食料などが不足している貧しい僧達に面倒を見ると言っておきながら、何もせずに飢えさせたままにしていた者が堕ちる所で、無数の炎に取り囲まれ、餓鬼道の餓鬼の様に飢渇の苦しみを与えられる。

○十一焔夢見畏処は仏像や仏塔、寺舎などを破壊したり、放火した者が堕ちる所で、罪人は鉄棒を持った獄卒に追いかけられ、蛇に噛まれたり、炎に焦がされながら、いつまでも逃げ続けることになると言う。
 
 以上の他に『観仏三昧海経』では火車地獄という付属的地獄が説かれているが、其処では罪人は火車に乗せられて、当該地獄に連行され、巨大な炎の車輪に縛り付けられて燃やされると言う。

※1:五逆罪は仏教で最も重いとされる罪の事。
一般的には以下の五つが列挙される。
・故意に父を殺すこと。
・故意に母を殺すこと。
・故意に阿羅漢を殺すこと。
・悪心により仏を傷つけて血を流させること。
・誤った考えにより仏教教団の和合を乱すこと。

ヴァスバンドゥ(世親)は『倶舎論』において五逆罪を次の様に敷衍させている。
・無漏定に至っている菩薩を殺すことは故意に父を殺すことに等しい。
・母や無学果に至っている比丘尼を犯すことは故意に母を殺すことに等しい。
・有学果、或いは無学果の聖者を殺すことは阿羅漢を殺すことに等しい。
・教団の和合の縁となっているものを奪うことは教団の和合を乱すことに等しい。
・仏塔を破壊することは仏を傷つけて血を流させることに等しい。

大乗仏典の『大薩遮尼乾子所説経』では以下のものが挙げられる。
・仏塔を壊し、経典を焼き、三宝の財物を盗むこと。
・声聞・縁覚・菩薩の三乗を謗って仏教の流布を妨げ、又、危難を加え、仏法の光を覆い隠して広まらないようにすること。
・持戒、無戒、破戒に関わらず、全ての出家者に対して罵り、打って苦しめ、過失を並べ立てて閉じ込め、還俗させて、駆り立てて使い、重税を課して遂には命を絶つまでに追い込むこと。
・父を殺し、母を害し、仏の身を傷つけて血を流し、教団の和を乱し、阿羅漢を殺すこと。
・因果の道理を否定し、常に十悪の罪を犯すこと。

『大方広十輪経』では次の様に説かれる。
・悪心により縁覚を殺すこと。これは殺生である。
・阿羅漢果を得た比丘尼を犯すこと。これは邪婬である。
・施された三宝の財物を横領すること。これは偸盗である。
・謝った考えを起こして教団の和を乱すこと。これは妄語である。
・飲酒