ブラフマー3 | 徒然草子

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3 ヒンドゥー教におけるブラフマー
(3)図像
今日のヒンドゥー教においてブラフマーの図像は四面四臂で表現されるが、ブラフマーの四面は当該神の図像上の最大の特徴でもあり、四面により聖典『ヴェーダ』を構成する『リグ・ヴェーダ』などの四つの『ヴェーダ』を表していると言われている。
尚、嘗て、ブラフマーの面数は五面であったが、ブラフマーの態度に激怒したシヴァがその首の一つを刎ねた為、四面になったという伝承もある。
又、ブラフマーの面相に関して、しばしば豊かな髭を蓄えた翁相で表現される事もあるが、その所以はブラフマンの神格化であるブラフマーの原初性を表現する為とも言われている。
ブラフマーの持物としては蓮華、数珠、聖典、水瓶が一般的であるが、その他に祭儀で用いる杓を持したり、与願印を結んでいたりしている。ヴァーハナ(乗物)はハンサ鳥。
しかしながら、ヒンドゥー教以前の、所謂、バラモン教と呼ばれる時代においてブラフマーは図像的に四面四臂の神として観念されていなかったらしい。この頃のバラモンの祭儀において神像が用いられる事は無かったから、バラモン達がブラフマーを具体的にどの様に思い描いていたかに関して知る術は無いものの、ガンダーラの仏教遺跡において発見されている仏陀の三尊像においてインドラと対を成して脇侍として釈尊の左側に侍しているブラフマーは一面二臂の通常の人間と同じ姿で表現されているから、古くは一面二臂の神として観念されていた様である。
眷族に関して、先ず妃としてブラフマーと同じく『ヴェーダ』の管理者と言われるサラスヴァティーや『ヴェーダ』の母と呼ばれるガーヤトリーがいる。又、子としてはプラジャーパティとされるマーリチ、アトリ、アンギラス、プラスティヤ、プラハ、クラトゥ、ヴァシシュタ、ダクシャ、ブリグ、ナーラダといった聖仙(リシ)等がいる。

(4)神格と信仰
ブラフマーの性格はプラーナ系の伝承において、しばしば、尊大、或いは傲慢と言われている。それ故、度々、触れてきた様にブラフマーはシヴァの怒りを買った事があり、又、聖仙ブリグが彼を訪ねて来た時に挨拶もしないで無視していた為、ブリグに呪われ、後世、ブラフマーの信者は殆どいなくなったとされている。
しかしながら、数は少ないとは言え、今日、南インドを中心にブラフマーを本尊とするヒンドゥー教寺院がインドにおいて幾つか存在し、一定の信仰が保たれている事が伺える。
又、『ヴェーダ』の管理者という性格上、ブラフマーは智慧の神と看做され、又、運命の神としてこの世界の衆生の運命を定めているとも言われている。
運命の神としてのブラフマーは祭儀の執行者を意味するヴィディ(Vidhi)、或いは摂理の支配者を意味するヴィダータ(Vidhata)等と呼ばれ、個々の衆生の運命に関して自身の書に記していると言う。尤もその内容に関して、通常の人間が伺う事はできないが、聖仙(リシ)の他、熟練のヨーガ行者(yogi)ならば、伺う事ができると言う。
その他、ブラフマー自身はシヴァやヴィシュヌの様に武器を有する事は無いものの、ブラフマーストラ(Brahmastra)やブラフマーシルシャーストラ(Brahmashirshastra)と呼ばれる武器を創造したと言われている。これらの武器は『ラーマヤーナ』、『マハーバーラタ』等に登場するもので、一種の投擲武器であり、ブラフマーがこの世界の摂理を守るべく創造したとされている。
ブラフマーストラの威力に関しては、1000の太陽の光に匹敵する炎と煙を発すると言い、この武器を受けた一帯の生類は尽く死に絶える他、その地域を不毛の大地とし、その地に生きる人々は、性別を問わず、不妊に苦しむと言う。尚、ブラフマーストラに対抗すべくブラフマー自身が創造した兵器がブラフマーダンダーストラ(Brahmadhandaastra)で、先程のブラフマーストラの威力を無力化させることができると言う。
ブラフマーストラをより強力にした兵器がブラフマーシルシャーストラ(Brahmashirshastra)で、『マハーバーラタ』などに登場し、ブラフマーストラの4倍の威力があると言い、この兵器を用いられた大地では、12年の間、草も生えず、雨も降らず、大地は毒されると言う。尚、かかるブラフマーシルシャーストラに関しても、先掲のブラフマーダンダーストラによって対抗できると言う。