初心者同志 -100ページ目

モスマンハンター(その9)

私の名前はモスマン。


始まりは、ほんの些細なことだった。


私はずっと密林で暮らしてきた。

そこは、決して全てにおいて、とまでは言えないものの、

まずまずの平和な、静かな世界だった。


確かに種族同士による争いや、

生きていくための生存競争としての、

生死をかけた戦いはあったものの、

それは、この世界ができたときから、ずっと続いているものだ。


それ以外には、至って平穏なところだった。


それが最近、これまでに見かけることのなかった、

巨大な飛竜種が姿を見せるようになって、

なにもかも変わってしまった。


彼らは、この密林を我が物顔で歩き、

他の種族を無差別に襲いはじめたのだ。


さらに、これまでは入ってくることのなかった人間のハンターたちが、

それを知って、希少な飛竜種を捕獲しようと、

大勢やってくるようになった。


密林の平和は乱れ始めた。

誰かが、それを阻止しなくては。


でも、もちろん、そのときは、その決断が、

あんな結果を生むなんて、私は思いもしなかった。


私は、自分に力があると思ったわけではない。

それでも、できることがあるのなら、何かをしたいと思った。


あるとき、巡回をしている途中、

私は一匹の飛竜に襲われた。


かろうじて私は命を拾い、その飛竜との再戦を、私は誓った。


三人の弟たちが力を貸してくれた。

新しい武器を一緒につくり、名前をつけた。


そして、私はあのときの飛竜と、もう一度戦い、

ついに追い詰めた。


しかし、寸でのところで、空を飛んで逃げられ、

止めを刺すまでには至らなかった。


そんな私を元気付けてくれたのは、やはり弟たちだった。

弟たちは、その飛竜を探そうと、といった。

自分たちのよく利く鼻で、匂いを追いかければ、見つけられるはずだ、と。


私は素直に助けを借りることにした。

飛竜はさっきの戦いで深い傷を追っている。

倒すなら今だ、と私は思った。


弟たちは、私の手助けができる、と喜んでいた。

そんな嬉しそうにする弟たちを見て、私も嬉しかった。


もちろん、それはすべて誤りだった。

あとになって、どれだけ考えても、全てはもう遅い。


弟たちは分担して、密林に散っていった。

やがて、二番目の弟が匂いをつかんだ。

私は弟と二人でその匂いを追いかけ、ついに飛竜を見つけた。


思っていた通り、飛竜の傷は相当深いようだった。

飛竜は背丈のある草の中に自分の姿を隠していたが、

体に刻まれた傷からは今もなお、かなりの血を流しつづけていた。


私は弟に下がるように言い、一人近づいた。

相手は手負いだ。

勝負は、すぐにつくだろうと思っていた。


今思えば、なんて大莫迦だったんだろう。


飛竜はこちらに、まったく気づかなかった。

きっと、それがまた、さらに私を増長させた。


気分は高揚していた。

さきほどの戦いの疲れは、まだ、体に残っていたはずなのに。

そのときは、しかし、それも感じなかった。


剣が届くところまで来た。

まだ、飛竜はこちらに気づかない。

大きな目を閉じ、ジッと体を堅くして、

眠っているようにも、瞑想しているようにも見えた。


私は剣を、音をたてない様にしながら、頭上に掲げた。

そして、ひと呼吸し、一気に振り下ろした。


ガキンッと、でかい手ごたえがあって、

飛竜の体は風に煽られた大木のように吹っ飛んだ。

私はすかさず体を回し、振り抜いた大剣をふたたび眼前に持ってくると、

全身を使ってもう一度、剣を振り下ろした。


飛竜は、ようやく私に気づいて目を見開き、

顔をこちらに上げようとしていたところだった。

がら空きとなった首の根元に、私の大剣の刃は見事に入り込み、

にぶい手ごたえと共に、その刃が深く潜り込んだ。



MHFss068


勝った、と思った。

それは、間違いなく、致命傷となる傷のように思えたのだ。


鮮血が噴水のように噴き出して、私の眼前は赤一色に染まった。


そして、それが起こった。


私はそのとき、飛竜が大きな断末魔をあげ、倒れていくところを想像していた。

しかしそれは起きることがなく、

それどころか、そこから、私にとって予想外だったことが、

次々と起きていった。


まず、飛竜は倒れなかった。

かろうじて踏みとどまり、黄色い目を真っ赤に充血させて、

私をにらみつけた。


そして、私に襲いかかってきた。

体中の傷から、血を撒き散らしながら。

私はまったく無防備なところに体当たりをうけ、大きく吹き飛んだ。


そして、見た。


私はきっと、この先も、それから見た光景のことを

決して、忘れることはないだろう。


飛竜は勢いのままに私に突撃すると、一瞬、私の姿を見失った。

しかし、怒りで、大きな口からは絶え間なく叫び声を吐き出し、

傷のことを気にしている様子もなく、

すぐ、また私を見つけて、

襲い掛かってくるだろうことがわかった。


私は、そのとき、情けないことに、

あまりの恐ろしさに、体が震えていた。


なんて弱いヒーローだろう。

密林を守るなんて言葉は、口だけのことでしたかなかった。


急に、これまでの疲れが蘇り、すぐ立ちあがる気力もなく、

ただ、倒れたまま、

そんな飛竜の姿を呆然と見つめていた。


そのとき、そんな私と飛竜の間に、割りこむ影があったのだ。


それは、弟だった。

後ろで待機しているように言った、弟だった。



MHFss066


弟は、私をチラリと心配そうに見ると、すぐに前を向いて

精一杯に吼えた。


それからのことは、なぜか、ゆっくりとした映像となって流れていく。


飛竜はすぐに私たちのいる場所を見つけた。

そして、向かってきた。

私は何かを叫んだかもしれない。

少なくとも、立ち上がりは、した。

剣も構えた。

しかし、弟はわずかに私の前に立った。


今までに聞いたことがない、背筋が冷たくなるような気味の悪い音がした。

そして弟の体が、何かに引っ張られたように、

とつぜん後ろに弾け飛んだ。



MHFss067


私の名前はモスマン。


私は、今も考える。

あのとき、私は、いったいいくつの間違いを犯したのか。

どれだけの私が間違いが、あんな結果を生み出したのか。


答えは出ない。

たぶん、この先も一生出ることはない。


そして、出たとしても、結果が変わるわけでもない。


私はそのとき、気がつくと、剣を振り上げ、飛竜に向かって走っていた。

言葉にならない声を上げながら。




オンラインゲーム「MHF」

これは、一人のヒーローの物語。

宿題の行方。

夏休みも、残り二日となったある日、

私の目の前にあったのは、

結局、手付かずのまま残ってしまった、夏休みの宿題。

二冊の白紙のノートだった。


これを、すべて自習して埋めてしまわなければ、

私は二日後、担任の教師に、なにをされるか分からない!


とはいえ、時間はもう、ほとんど残っていない。


ということで、私がとった手段というのが・・・・・・!



徹夜だった。


普通に考えて、ノート二冊を丸々埋めるというのは、

たとえ、全てのページを落書きで埋めたとしても、

たった二日間では、とても無理。


しかも今回は、それを、勉強して埋めないといけないのだ。

普段の授業でさえ、ほとんどノートなんてとらない私に、

これはものすごい大課題。


明らかに無理そうだぞ、まいったなあ。


でも、残った二日間を、一睡もしなければ、

もしかしたら、少しは、可能性があるかも知れない。


で、私は迷うことなく、徹夜する道をとったのだった。


いざ、始めてみると、危機感からなのか、

それとも、追い込まれたとたんに、

力を発揮する発揮するタイプだからなのか、

私はスラスラとノートを埋めていった。


うーん、快調、快調。


正直、それまで私は、自習なんて、したことがなくて、

一体、ノートに何を書いたらいいんだろうと思っていたんだけど、

やってみると、意外と書けるんだなぁ。


勉強、という意味では、ほとんど頭には入っていないし、

今後の授業に役にたつとも、とても言い難いけれど、

とにかく、ノートだけはどんどんと埋まっていく。


食事に呼ばれたときと、トイレに立つ以外は、

私はひたすら勉強机に向きあいつづけて

ついには、そのまま夜を越え、朝を迎えた。


それでも、疲れはあったのだけど、

集中力は自分でも不思議なくらい、途切れなかった。


一度切れてしまうと、もう二度と、

それだけの集中力を取り戻すことはできない、

という気がしたから、なのかも知りない。


それに、思ったほど、眠気が襲ってくることもなかった。

これは嬉しい予想外。


ノートはようやく、一冊目の後半に差し掛かったところではあったけど、

実際にそこまでにかけた時間は、約半日というところ。


あと二十四時間あれば、ノートをなんとか全て埋められそうな

ペースで、ここまでは来ていた。


そのまま、午前中も、変わらず好調だった。

集中力もある。

朝に感じた疲労感は、日が昇って、

部屋の中にも日がさしてくると、あまり感じなくなってしまった。


これほど長い時間、イスに座り続けるのは初めてで、

これほど長い時間、勉強しつづけるのも初めてだった。


でも、気にしている余裕は、そのときには当然、なかった。

なんといっても、夏休みは今日まで。

明日は始業式なのだ。


あーあ、夏休み最後の日にまで勉強なんて、と

思ったけれど、全ては自業自得。

あとの祭り。


お昼を過ぎて、さすがにペースは落ちてきていたけれど、

それでもまだ、勉強はつづけられていた。


これは、私にとってはすごいことだった。

今思い出しても、自分のどこに、そんな力があったんだろうと思う。


いや、きっと、なかったんだろうな

あれが私の力だったら、今頃、私は大人物になってるもんなあ。


とにかく、私はその頃、ようやく、ノートの一冊目を終えた。

時間はそろそろ、夕方を迎えようというところ。


一冊終えたという達成感からか、

それともただの疲労の蓄積が、ここへ来て一気に出たからなのか、

私はとたんに眠くなって、それからしばらく手が動かなかった。


それから夕飯まで、一気にペースは落ちてしまって、

ノートはさっぱり埋まらない。


夕食を食べたのを期に、再び気合を入れ直してみたものの、

やっぱりペースは、著しく落ちたままだった。


ただ、そこまで延々と書いてきた成果で、

どうすれば、より効率よくノートを埋められるか、が、

私には、わかり始めていた。


同じ書くにしても、綺麗に整頓して書いてしまうと、

ノートは埋まらない。

あえてノートを、無駄にいっぱい使って書くことで、

同じ量を書いても、ノートの埋まりかたはまったく違ってくるんだ。


おかげて、集中力がほとんど切れ、

書くペースもまったく上がらないのに、

なんとか、ノートだけは次々に埋まっていった。


最大の山は深夜だった。

一睡もしないで、二日目の夜を迎えるなんてことは、

当然、私には初めてのことだ。



眠気が一気に襲ってきて、ペンを持つ手も怪しくなった。

気がつくと、ノートに変なことを書いていたり、

文字が線からはみ出て、斜めに書き綴られていたりして、

きづいて、慌てて消して、また書き直すという作業に

無駄に、時間を注がなければいけなかった。


0時を越えた頃、ノートはまだ、ようやく半分を超えたところだった。

残り時間は学校へ行く時間ギリギリまでやったとして、あと八時間。


これまでどおり、普通にやれば終わらせられる時間だ、と思った。


でも、その「普通」が、難しかったんだ。

私の体にとつぜん、異変が起きたのがその頃だった。


まず、体が震えだした。


もう夏は終わりといっても、まだ八月だったというのに、

寒くて仕方なかったんだ。

放置していたら、ついには歯までが、ガチガチと鳴りだした。

それで、慌てて長袖の上着を出してきて、私はそれを着た。


でも、すぐに、今度は、足がガタガタと震えだした。


自分の意思とはまったく関係ないところで、

まるで理解できないことが起きているような気分だった。


机に向かいながら、ふと視界に入る自分の足が、

自分の意思とは無関係にガタガタと震えているのを見るのって、

すごく恐ろしいんだよ。


時間は深夜だし、家の中はすでに寝静まって、静かだしさ。


私はなんとか、足の上に毛布をかけて、

勉強を続行した。


集中力なんてものは、すでにもう、欠片もなく、

断続して襲ってくる睡魔に、まぶたは何度も沈みかけ、

体は寒さで震えて、

疲労で今にも、意識がとびそうだった。


唯一、それでも私を突き動かしたのは、

明らかに、あと数枚というところまで減ってきていた、

ノートの右側のページ部分の厚さだった。


ついに全てが終わったのは、早朝五時半。


私は達成感などなく、ただただ、時計を見て、

学校にいくまで、まだ少しは眠れるぞ、と思っただけだった。


ようやく全て埋めたノートと、他の宿題を全てカバンに入れ、

私はすぐさまベッドに倒れて、そのまま眠った。


次に目を覚ましたら、お昼だった。


うーん、あれ?どういうことだ、これは。

なにかの夢か?


あとになって聞いたことだけど、

なんでも、母が言うには、どれだけ起こそうとしても、

私はぜったい起きようとしなかったらしい。


寝起きは悪いほうではない私が、ここまで起きないのは、

きっと何かあるのだろうと思い、

それで、起こすのをやめたんだって。


学校には、体調不良で休むと、すでに連絡までされたあとだった。


へえ、徹夜の反動て、やっぱり無視できないものなんだなぁ・・・・・・。


なんて、言ってる場合じゃないっ!

じ、じゃあ、私がこの二日間、今日の始業式に持っていくために、

必死にやってきた宿題は、一体、どうなるんだよおっ!



結論から言うと、どうにもならなかった。


その日は始業式だけだから、学校は半日だけ。

すでに学校はおわっていたんだ。


結局、私はその翌日、堂々と宿題を提出して、

その危機的な私の夏休みは、こうして終えたのだった。



それから、二度と徹夜なんてするもんか、と、私が思ったのは、

言うまでもない、よなぁ・・・・・・。



モスマンハンター(その8)

慌てて低くした私の頭のすぐ上を、飛竜の尻尾が、

空気を引き裂くようにして過ぎていった。


私はそのまま地面を転がり、飛竜との距離をとって、

もう一度構えようとした。


でも、相手のほうが早かった。

立ち上がろうとしたところに、飛竜は体ごと突進を図ってきた。


避けられないっ!


私はとっさに大剣を目の前に掲げ、そのぶ厚い剣身で

衝撃をすべて受けた。


身体が、剣ごと後ろに吹っ飛びそうになりながら、

かろうじて私は飛竜の突進を受けきり、

剣を素早く斜めに構え直して、進行方向を変えることで、

飛竜そのものを後ろへと送り出した。


飛竜が勢いあまって頭から地面に突っ伏すのを見ながら、

私はすばやく剣を構えなおす。


腕が、肩が、全身が、今の衝撃で、ビリビリと震えていた。

すごい威力だ。

いつまでも受けきれるものじゃないぞ。


となれば、攻撃しかない!


私は剣を強く握り、一気に走り寄って、持っていた剣を振り下ろそうとした。

そのとき、地面に倒れていた飛竜の顔から、

燃えるような色をした眼が、私を睨むのが見えた。


私はとっさに、ほとんど無意識で、その場から慌てて飛び退いた。

とたん、さっきまで私がいた場所に、

ムチのようにしなった尻尾が、通り過ぎた。


私はすばやく立ち上がり、剣を振り上げた。

相手はまだ背中を見せたままだ。

一度は通り過ぎた尻尾が、再び空中で旋回して、風を裂いて迫ってくる。


でも、今度は私のほうが早かった。

弟たちが名づけた大剣「護林丸」が、強い手ごたえを私へと

伝えてきた。


MHFss063


瞬間、目の前に、大量の赤い鮮血がはじけ、

飛竜が初めて、悲痛の声を上げた。


私は手を緩めなかった。

これが、最後のチャンスとさえ、思った。


まだ、戦いが始まってから、時間と呼べそうなものは、

ほとんど経っていないというのに、私は緊張と熱さで頭がクラクラとして、

今にも座り込んでしまい衝動にかられていた。


時間はかけられない。

飛竜がバランスを崩し、倒れそうになっているのを見て、

私はその死角となりそうな、懐に入り込んだ。


そして剣を振り上げ、飛竜の身体に深く突き刺した。

そして、相手の悲鳴を聞く間もなく、またすぐに、

飛竜の足元へと潜った。


小さい私の身体が、ことごとく視界の外へと消えていくので、

飛竜は苛立っているようだった。


それが、さらに行動の隙を生み、

私は次々と相手の見えないところへと移動しながら、大剣を振るいつづけた。


体に刃が食い込む度に、飛竜は激しく吼え、

尻尾を無茶苦茶に振り回すが、私はその、どれにも当たらなかった。


やがて、辺りの地面が真っ赤に染まり、

私の身体もかなりの返り血を浴びたころ、

飛竜がとつぜん、羽を激しくばたつかせて、一段と高く吼えた。


そのとき、まさにクチバシのすぐ下に潜り込んで、

剣を下から突き上げようとしていた私は、その声をまとも聞いてしまった。


一瞬にして、聴覚を奪われ、そのせいで、

迫ってくる尻尾に気づけなかった。


頭にすごい衝撃があって、私はその場で地面に叩きつけられ、

地面を何度も転がった。



MHFss064


くそっ、油断したっ!


そう思ったけれど、それは、遅すぎる反省だった。

相手はずっと、このときを待っていたのだ。


私がなんとか立ち上がったときには、すでに飛竜は私に背を向けて、

羽を激しく動かして、助走を始めていた。



MHFss065

そして、フワリと身体を浮かせると、優雅に、

まるでその感触を確認するように、何度か空を回り、

そのまま飛び去っていったのだった。


激闘を示す、大量の血痕の跡だけを残して・・・・・・。




オンラインゲーム「MHF」

これは、一人のヒーローの物語。


残った宿題。

私のにとっての夏休みは、大抵、いつも、

そのまま、バイトの思い出だった。


初めてやったのは中学一年生のとき。


学校では禁止されていたのだけど、

親しい人から誘ってもらったことと、自分でも興味があったこともあって、

私は迷うことなく、やることにしたのだった。


実際、トラブルと呼べるようなものもなく、

一ヶ月を無事にやり遂げることができて、

私は給料をもらうことができた。


その額、実に当時の私の。半年分のお小遣いに匹敵した。


私はしっかりと貯金をして、その後、

・・・・・・その後、うーん、何かに使ったんだと思うけど、

何に使ったんだろう。


記憶にないということは、きっと、

大したものには使っていない、のだろうなあ


ただ、このときに問題だったのは、そんなことよりも、

夏休みに出されていた宿題のことだった。


というのも、当時の私はそんな事情だから、

バイトをして、部活に行ったら、一日はもう終わり。


友達と、どこかに遊びにいく時間もなければ、

当然、宿題をする時間なんて、あるはずもない。


しかも、慣れない労働で、中学生の体なんて、あっという間に

疲弊して、ちょっと時間ができても、大抵は寝るばかり。


夏休みはあっという間に過ぎていってしまったのだった。


しかも、間が悪いというのか、

当時、私のクラスの担任だった先生は、

自分の気に入らないことがあると、

その原因を作り出した生徒を、指をさして呼びつけて、

バッチーンと、今にも火花が出そうな、

ものすごいビンタをする横暴教師。


もし、夏休みの宿題を、僅かでも残そうものなら、

どんな結果になるのかは、もう、火を見るより明らか。


うーん、困ったな。


なんて思っているうちに、夏休みはどんどん減っていくし、

それでもバイトと部活は行かなくてはいけないし、

宿題はまったくもって、進まないし!


わーん、八方ふさがりじゃないかっ!


それでも、せめて宿題が、問題集のようなものだったら、

友人に写させてもらう、なんて方法もあったかも知れない。


でも、そこは、さすが学校。

相手も考えてるんだよ


当時の私たちに出された宿題というのが、なんと、白紙のノート二冊。

ノートは普通に授業の書き取りに使っている、あのノートだ。

それを渡されて、いったいどうするんだろう、と思ったら、


「何を勉強するかは、皆さんがそれぞれ自由に決めてください」


だって。


つまり、勉強の内容は指定しないけど、

とにかく、このノート二冊をすべて埋めなさい、ということらしい。


普通に黒板に書いてあることを写していったって、

一学期くらいの間じゃ、とてもノート一冊なんて埋め尽くせやしなっていうのに!


たった一ヶ月で、しかも、二冊すべて、自分たちの自習で

すべて埋めるなんて!


ただでも厳しい受験戦争を、勝ち抜いていかないといけない

世代なのに、こんな無責任でいいのか、学校はーっ!


と思ったけど、条件はみんな一緒だもんなあ。

やれと言われたものは、仕方ない。


もちろん、宿題はそれだけじゃなくて、研究レポートだったり、

読書感想文だったり、防火ポスターの製作だったり、

他にもどっさり、山のように出されていた。


当然、白紙のノートも含めて、あとで友達に見せてもらえば

すべて簡単に済む、なんてものは一つもなくて、

うっ、どうしよう、私はとても全部なんて、できないよ!


なんていっている間に八月も終わって、

夏休みも、残り二日となったある日。


なんとか、いくつかの宿題を片付けたものの、

私の目の前には、夏休みが始まる前に渡された白紙のノートが、

二冊、まったく白紙のまま、残されていた。


さあ、どうする!

もう時間がないぞ!


もし、やらなければ、担任の先生に、なにをされるか分からない!


そこで、私がとった手段というのが・・・・・・・っ!



というところで、以下、明日につづく・・・・・・。




モスマンハンター(その7)

自分にとって、すっかり見慣れているはずの景色が、

なんだか、とても見知らぬ世界のように見えた。


落ち着かない。

すでに何度目かわからない、

私は背負った大剣を握って、目の前にかざし、

その感触と重さを確かめると、また、元の場所に戻した。


すでにここ数日の調査で、あのときのモンスターが、

また、この道を通るだろうことは分かっていた。


この密林に、誰よりも精通している私だから、

あれほどの体躯をしたモンスターであれば、

少し調べれば、通った痕跡を見つけるのは難しくない。


そして、どんなモンスターであっても、

自分だけの縄張りというものを持っているので、

一度その道を使ったら、大抵は、その後も、その場所を使い続ける

ものなのだ。


あとは、待つだけだった。

太陽は、すでに一番高いところから、傾きはじめていた。

はるか西のほうからは、厚い雲が流れてきている。

深い草の隙間からそれを見つめた私は、雨になるかも知れないな、と思った。


そういえば、あのときも雨が降っていた。


家を出てくるとき、弟たちは心配げな表情を出すまいとして、

わざと、あまり視線を合わそうとしなかった。


ただ、出て来るとき、手を握って私たちは別れた。


弟たちにも、きっと言いたかったことが、あっただろうと思う。

私も、何かを言おうとした。


心配するな、とか。

この武器にかけて、きっと勝って帰ってくるからな、とか。


でも、口を開けてみたけれど、言葉はなにも出てこなかった。

それどころか、唇は震え、ふいにそれまで抑えていた感情が

一気にあふれてきそうになって、私は思わず顔をそらした。


弟たちには、見られなかったと思う。


ただ、それによって言葉をかけるチャンスはついに失われて、

私は無言のまま、出てきてしまったのだった。

もし、あのとき何か言えたとして、私はなんと口にしていただろう。


弟たちの別れ際の、まっすぐな目を思い出し、

ふと、そんなことを考えていたとき、

ふいに、すぐ近くで草木が倒れる音がした。


私はすぐに剣を握り、音の聞こえたほうを見た。


いた。

青い肌、大きなクチバシ、飛竜族の特徴的な大きな翼。

あのときの、あいつだ。

私は背筋がゾクゾクした。

もう、負けられない。


これが、最後のチャンスだ。

私が立ち上がるのと、モンスターが自分に気づくのが一緒だった。


奇襲は通用しない。

それはわかっていた。

恐ろしく、耳がいいモンスターなのだ。

私はゆっくりと、弟たちと一緒に鍛え上げた剣を構えた。


弟たちは、この剣に名前をつけよう、といった。

密林を守るもの、ということで、「護林丸」と弟たちは名づけた。


私は護林丸を正面に構えて、モンスターとまっすぐ対峙した。

相手が私の姿を認め、まるで戦いの始まりを告げるように

大きく空に向かって吼えた。


それだけで私の全身は総毛だち、足が震えだす。

でも、だめだ。

こんなことじゃ、だめだ。


私は、決めていたのだ。

もう一度、あのモンスターと戦うことになったら、

そのときは、まず、私から向かっていくのだと。


動け、私の足。

さあ、行くんだ。

目の前にいる、あいつの元へっ!


私は剣を握り、まるで嵐の中心地にいるような威圧感の中を、

一気に駆けた。


MHFss062


そして、相手のがまだ吼えている中、そのふところにまで入り込み、

護林丸を勢いのままに叩きおろした。


ものすごい手ごたえがあり、血が飛び散って、

風でなびく野草のように、飛竜の体が揺らいだ。


効いてるっ!

この前は、たったの一度も攻撃を当てられなかったのに!!

私は、希望を見た気がした。

勝てるぞ。

そう思った。


宝石の原石のような大きな目を、真っ赤に染めて、

飛竜が私を睨んだ。


いいぞ、来いっ!

さあ、決戦だっ!



オンラインゲーム「MHF」

これは、一人のヒーローの物語。