初心者同志 -102ページ目

モスマンハンター(その4)

目を開けると、心配そうに覗きこむ弟たちの顔が見えた。


「大、丈、夫・・・・・・?」


私は、うなずいた。

とたんに、首のあたりから腰の近くにまで一気に痛みが走って、

私は思わず呻いてしまった。


くそっ、痛いな・・・・・・。


手で、なんとか体を探ると、すでに手当てがされているのがわかった。


「お前たちがやってくれたのか?」


聞くと、弟たち全員がゆっくりと首をふった。


「ア、イ、ルー、が・・・・・・」


私はそれで、おぼろげに、消えかかった意識の中で

見ていた光景を思い出した。


倒れている自分を担ぎ上げ、運んでいる小さな種族たちの姿。



MHFss058

アイルー。

直接の交流はないものの、彼らもまた、

この密林で平和な生活をつづけてきた、種族の一つだった。


私は痛みをこらえて立ち上がろうとした。

弟たちが、一斉の非難の声を、荒い鼻息と共にあげはじめる。


私をそれを制しながら、近くにあった木の幹を支えにして、

最後には、しぶしぶながら、背中を貸してくれた

弟たちの助けも借りて、ゆっくりと立ってみた。


体の痛みは、思ったほどではなく、

むしろ、立ち上がってみると、心地いい風を全身に受けて、

爽快だった。


だが、しばらく立って、密林の景色を眺めていると、

じょじょに、自分が無事だったという安堵感と共に、

何もできないまま、自分が戦いに敗れたんだ、という悔しさが沸きあがり、

その思いはやがて、全身を満たしていって、

私は息が詰まりそうになった。


それで俯こうとして、弟たちの視線があるのに気づき、

慌てて、顔を逸らそうとして、ふと、気がついたのだ。


あれ。


「おい、私のハンマーはどこにあるんだ?」


弟たちは互いに顔を見合わせて、フルフルと首をふった。


「ここに運ばれてきたときには、もうなかったのか?」


今度は一斉に頷いて、こくこく。


ということは、きっと、あのときだ。

私はすぐに思い当たった。


襲われて倒れたとき、あそこで、落としてきたに違いない。


あれは、私にとって大切なものだった。


いつ、いかなるときも自分の手元に置き、

寝食をずっと共にしてきた私の相棒だ。


元はといえば、密林で倒れていたハンターが持っていたものを、

私が拝借したものではあったが、

私が使うようになってからは、幾度となく私の命を救い、

そして、大勢の密林の仲間たちを救ってきてくれたのだ。


探しにいかなくては。


それで、まだ無理だ、と反対する弟たちをなんとか宥め、

私は、あのなんとか襲われた場所に戻った。


密林は、すでにあのときの戦いの跡をすっかり拭い去り、

元の自然の姿に戻っていた。


弟たちに手伝ってもらいながら、私は辺りを警戒しながら、

早速、自分のハンマーを探しはじめた。


弟たちはここへ来る途中、心配そうだった。

たぶん、ハンマーが、この場にまだ残っているとは限らない、

と思っているのだろう。


だが、私は心配していなかった。

なぜなら、真の勇者の武器とは、自ら、真の持ち主を選ぶものだからだ。


あのハンマーは、私が、これまでかつて、見たことがない、

すばらしい力を秘めたものだった。


あれだけの武器が、私のことを見捨てて、

誰かの持ち主になることなど、決してありえない!


それに、あのハンマーだって、今回の戦いで傷ついているはずた。

私だけじゃない、ハンマーにも手当ては必要だ。


ところが、しばらく探し回ったのに、

ハンマーは、なぜか見つからない。


そのうちに、日か傾きはじめ、

深い草むらに頭を突っ込んでまで探したのだが見つけられず、

ついには遠くの地平線に太陽が沈み始めた。


私はさすがに心配になって、さらに捜索の範囲を広げ、

地面に額がつきそうになるくらい密着してさらに探したのだが、

やっぱり見つからない。


ついには、日が完全に沈んで、夜になってしまった。


弟たちは、しばらくお互いの目を見合って、

言い辛そうにしていたが、やがて口を開いた。


「人、間、の、ハン、ター、少、し、前、こ、こ、に、い、た」


それで私は一気に、あのハンマーを自分が最初に

手に入れた時のことを思い出した。


「じ、じゃあ、つまり、あのハンマーは人間に持っていかれたっていうのか!?」


そんなはずはないっ。

あれは、真の持ち主を選ぶはずだ。


でも、一番の下の弟が、口を開いてさらに言った。


「人、間、何、か、持っ、て、た」


わーん、あれがなかったら、もう戦えないっ!

誰だよ、返してくれ、私の大切な相棒ーっ!!



MHFss059

オンラインゲーム「MHF」

これは、一人のヒーローの物語。


掃除の選択肢。

掃除機を使って、

部屋を綺麗にするのもキライではないのだけど、

それ以上に、床を雑巾で拭いている時間が、私は好きだ。


掃除機はとても便利だし、

家にあるサイクロン式の吸引力ときたら、

一瞬にして床を綺麗にしてしまうような、すごい威力なのだけど、

なぜだろう。

どうしても、自分で綺麗にしているのだ、という実感が

あまり生まれてこないんだ。


それはもしかしたら、

綺麗にしているのはあくまでも機械であって、

自分自身で、特別になにかしている訳ではないから、

なのかも知れない。


でも、雑巾だったら、そんなこともないんだよ。


自分の手で拭けば、拭いただけ、そのあとには、

綺麗になった床ができていく。


綺麗になった場所を確認して、よし、つぎの場所に移動!


うーん、やっぱり掃除の醍醐味といえば、これだよなあ。


やっぱり、成果というのは、

自分の労働力に見合った形で生まれてこそ、なんだよ。

うん!


と、思っていたのだけど、あるとき、その姿を見た友人から、


「ただでも殺風景な部屋で、一人、黙々と雑巾で床を拭く姿なんて、

あまりにも悲しいぞ!

誰も寄りつかなくなる前に、それだけは、やめておけっ!」


と言われてしまった。


とはいっても、床を掃除をしないわけにもいかないので、

それで結局、立ち上がった姿勢のままで床掃除ができる、

モップのような形をした掃除用品を買ってきて、

それを使うようになった。


のだけど、それだと自分自身か床に密着するのとは違い、

どうしても綺麗にしている、という実感が沸いてこない。


うーん、これだと掃除機を使うのと、あまり変わらないな。


それに、立ったままの姿勢で床を掃除するというのは、

なんだかとても尊大な感じがして、

どうしても自分には合わないんだ。


それで、改めて自分の手で拭くタイプの掃除用品を買ってきて、

使っているのだけど、


友人に見つかると、また、なにか言われてしまいそうで、

それらの道具一式は、見つからない場所に

コッソリと隠して使うようになってしまった。


なんだけど、人の目を気にして掃除しなくちゃいけないなんて、

なんだか間違ってるような気がするんだよ!


ああ、他になにかいい打開策はないものだろうか、うーむ・・・・・・。




anata nara doch ?



モスマンハンター(その3)

私がそれに気づいたのは、

ほんの些細な違和感がきっかけだった。


いつもの見慣れた景色であるハズなのに、

何かが、私の体をつかんで離そうとしなかった。


なんだ?


その場で立ち止まって、私は周りを見回した。



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相変わらずの強い雨が、密林に生える草たちを

まるで打楽器のように叩いて、大きな音をあげている。


切り立った岸壁からは滝のように雨が流れ、

地面に落ちた葉は、ぬかるんだ地表の表面で、

沈んでは浮かび、また沈むという、繰り返しをつづけていた。


わたしは、ふと、深い木々の奥に目を細めた。


なにかが、動いたように思えた。

しかし今は、降りつづけるこの雨のせいで、

密林のすべてが揺れ動いている。


それが、雨のせいなのかどうかを確かめようと

私が一歩、前に歩いたときだった。


突然、大地が激しく揺れたかと思うと、

直後、自分の鼻先数センチ先に、それは迫っていた。



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次の瞬間、私は顔面にものすごい衝撃をくらって後ろにふっとんで、

背中から地面に落下した。


な、なんだ・・・・・・?


その衝撃で、頭の先からつま先まで、

ビリビリと感電でもしたかのように痺れて、

胸が詰まり、息が今にも止まりそうだった。


襲われたのだ、と気がつくのに、

それから、さらに数秒が必要だった。


なんとか立ち上がり、相手を探そうとしたときには、

すでに相手の体がふたたび、私に迫っていた。


なにもできないまま、私は、また石ころのように簡単に吹き飛ばされた。

地面を転がり、泥水を全身に浴びながら、

意識がふいに遠のき、それでも必死に、しがみつくように、

今、目の前で起きている現実を理解しようとした。


立ち上がったのは、ほとんど本能だったと思う。

見えている世界がグラグラと揺れていて、

ついには回りだしていた。


すぐ目の前で、あの怪物が大きな口をあけて、

その喉の奥を真っ赤に燃やしているのが、

かろうじてわかった。


でも、それだけだった。


目の前が真っ白い光に埋め尽くされ、

私は痛みが伝わってくるよりも早く、

全身から、一気に力が抜けていくのを感じた。


怪物が、勝利の雄たけびをあげるように

首をのけぞって吼える姿を、倒れた地面の下から見ていたものの、

やがて、それも二重になり、三重になって、

私の視界からも、意識からも静かに消えていった。


ちくしょう、いてぇよお・・・・・・・。



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オンラインゲーム「MHF」

これは、一人のヒーローの物語。




唇を閉ざせ。

【 唇を閉ざせ 】

著 ハーラン・コーベン 1939年刊行

著者本来のユーモアを潜ませて描かれる、一途な思いに突き進んでいく男のミステリー。




主人公デビッド・ベックは、今も、あの時のことを考えずにはいられない。

きっと、何かが、あったはずだと。


それが起きるだろう、兆候が。

これまでとは違った、何かの異変が。

ほんの、なんでもない、些細なことだったのかも知れない。

しかし、何かがあったのはずなのに、

それを、自分はなぜ、見落としたのだろうか、と。



しかし、彼は結局、なにも気づかなかった。


そして、それは起きてしまったのだ。


若き小児科医のベックには、愛する妻がいた。

初めて会ったのは、お互いが七歳のとき。


それから二人は、どちらもが、いつかはきっと、

この関係は終わるだろうと思っていたのだが、

でも、やがて、二人はそのまま結婚し、

すでに七ヶ月が過ぎていた。


そして、その日が来た。


二人は、元はキャンプ場があった、湖に来ていた。


そこはベックの祖父がずっと昔に、格安で買い取った場所で、

デビッド家の別荘として使われていて、

一般の人間が近づくことは決してない場所だった。


一本の木に、二人は密かに自分たちのイニシャルを刻み、

それをハートマークで囲んで、

毎年ここへ来るたびに、その下に一本ずつ線を増やしていた。


これまでに刻まれた線は、全部で十二本。

今年で、十三本目。


今になって思うと、それも何かの予兆だったのかもしれない


とベックは思う。


周囲が夜の闇に落ちるころ、二人は湖に戻ってきて、泳いでいた。

誰も来ることがないのは分かっているから、二人とも裸のままだ。


月明かりの下、ベックは泳ぎ疲れて、

一人、湖に浮かんでいた浮き台に上り、横になって

子供っぽく、そのまま流れていくのに身を任せていた。


車のドアが閉まる音を聞いたのは、そのときだった。


ベックは身体を起こし、妻の名前を呼んだ。

反応がない。

浮き台は、いつのまにか、かなり漂い、岸から離れていた。


そのときだった。

夜の闇を裂くように、彼女の悲鳴が響きわたったのだ!


ベックは慌てて岸に向かって泳ぎだした。


実際には一瞬のことだったかもしれないが、

彼にとって、それは長い時間だった。


ようやく陸にたどり着き、妻の名前を叫びながら、

あたりに目を凝らそうとしたとき、

彼の身体に何かが襲いかかった。

ベックは何もできないまま、湖にふたたび転がり落ちた。


そして、そのまま意識を失いながら、

彼はゆっくりと沈んでいったのだった・・・・・・。



前回紹介した、「沈黙のメッセージ」 の著者、ハーラン・コーベンが、

マイロン・ボライターシリーズから離れ、

初めての単発作品として書かれたのが、

この、「唇を閉ざせ」です。

マイロンシリーズにおける魅力の一つは、

シリーズを重ねるごとに深く書き込まれていく、

登場人物たち自身だと、私は思っていました。


それだけに、シリーズではなく、

単発として書かれる著者の新作に、

最初はかなり、不安を抱いたように思います。


しかし、主人公デビッド・ベックが、妻と来ていたキャンプ場で、

何者かに襲われる一番最初のシーンを読み、

もはや、そんな最初の気持ちなど、どこかへ行ってしまい、


そのあとは、ただ、夢中で読つづけることになってしまったのでした。




湖の事件から八年後。


デビット・ベックは小児科医としての仕事をつづけながら、

一見、彼のことを何も知らない人が見れば、

何事もなかったかのように、暮らしていました。


しかし、親しい一部の友人たちは、八年前の出来事から、

彼がまったく立ち直れていないことを、みんな知っていました。


彼の妻の遺体は、誘拐されて五日後に、

道路脇に放置されているのが発見され、

ベックはその報告を、義理の父親の口から、

病室のベッドの上で聞いたのでした。


そしてその三週間後には、事件の犯人も逮捕され、

事件は終結します。


あとには、ただ、


たとえこの先、何があろうと、決してもう、

妻と会うことはできない。


という、デビット・ベックの非情な現実だけが、残ったのでした・・・・・・。



ちなみに、この作品。

原題「TELL NO ONE」のタイトルで映画化 もされています。

当時、出版と同時に四社の映画会社が

製作に名乗りをあげたそうですが、

最終的に映画化を決めたのは、フランスの映画会社だったようです。


舞台を完全にフランスに移し変えて、

全編フランス語によって作られているようです。


主人公の妻を演じたのは、

2003年のアカデミー外国語映画賞を受賞した

『みなさん、さようなら』に出ている、マリー=ジョゼ・クルーズ。


主人公が、『歌え!ジャニス・ジョプリンのように』で主役を努めた、

フランソワ・クリュゼ。


原作では同じ年齢という設定だった二人ですが、

映画だと、ちょっと年の離れたカップルのように見えてしまうのは、

私がフランス映画を見慣れていないせいでしょうか。


ちなみに、日本での公開は、現在のところ未定のようです。




 「 TELL NO ONE 」  Trailer


あるとき、デビッド・ベックのパソコンに、一通のメールが届きました。


タイトルは、


「E.P+D.B. /////////////////////」


それは、あの湖で、木に刻んでいたイニシャルと同じものでした。


スラッシュの数は21本。

もし、まだ彼の妻が生きていれば、

今年にはそうなっていたはずの、線の数。


メールの内容は、指定された時間に、

指定されたリンクをクリックしてほしい、というもの。


ベックは迷いつつも、メールの通りにします。


指定された時間。

ベックは、開いたブラウザが、ページを読み込むのを、

固唾を呑んで見守っていました。


長い時間が過ぎ、現れたのは、

どこかの道路を映してるライブカメラでした。


なんの変哲もない、街の路上を映している白黒画面。

でも、そのとき、その画面の中心で、一人の女性が足を止めます。


そして、カメラに向かって見上げたその顔は、

亡くなった妻そのものだったのです。


それも、八年前の彼女ではなく、あれから年を重ねつづけ、

八年という時間の経過を感じさせる姿をした、

妻の姿でした。


画面はすぐに途切れ、リンクは無効になってしまいます。

何が起きているのか、まったくわからないベック。


しかし、その直後、またメールが届きます。

そのメールには、こう書かれていました。


「監視されているわ。TELL NO ONE (誰にも言わないで)」


果たして、それは誰からのメールなのでしょうか。

一瞬だけカメラに写った女性は、一体誰なのでしょうか。


ベックは、有り得るはずがないとわかりつつも、

妻の姿を求め、一人、真実を突き止めようと動きだすのでした。


差出人不明のメールに書かれたとおり、

誰に打ち明けることもなく、唇を閉ざして。




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これは、作品を批評するものでも、お勧めするものでもありません。
あくまでもご紹介をすることに、努めています。
もし、興味をもたれた方は、周りの友人を頼る、試読できるショップや図書館を利用する等で、
まず、ご自分での評価をして頂けることを、強くお勧めします。
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夏のおわり。

そのときの季節が、


ああ、もう、そろそろ終わろうとしているんだな、


と実感する瞬間というのは、人によって、それぞれあると思う。

たとえば私だったら、


それが冬の場合なら、

朝、外に出て息を吐いても、それが白くならなかった時だったり、


それが春ならば、

仕事中に、汗を拭うためのタオルが必要だな、と感じたときだったり、


それが秋ならば、

着ていく服を選ぶとき、何か物足りなさを感じて、

冬物をしまっている棚をついつい、覗いてしまったときだったり。


うーん、大体、こんなところだろうか。


では、夏の場合なら、どうだろう。



一日の長い日照時間を終えて、今、ようやく太陽は沈もうとしている。


それに引っ張られるように気温も下がり、

曇一つない晴れた空は、鮮やかな青色から、

洗いすぎて若干、色が落ちたシャツのような、

薄い白色へと変わりはじめる。


ずっと上空から降りてきた、冷たい風に冷やされて、

肩に触れる空気も、ヒンヤリとして心地いい。

人の足を運ぶ速度は、わずかに速くなる。


やがて、太陽は山の向こうに完全に姿を隠してしまう。


あたりは完全に深い夜の闇に包まれ、

慌ただしい人の声と、車の走る音が、

醤油の焦げる香りと、衣の揚がる香ばしい匂いと一緒になって、

ずっと遠くから、やけに、はっきりと聞こえる。


私は耳をかたむける。


涼しくなった外を散歩する、家族の笑い声。

巣に帰ることを決めた鳥が、どこかの電線の上で鳴く声。


そして、セミが鳴いている。

昼の間にも、あれだけ鳴いていたセミが、まだ頑張って声を張り上げている。

夜は深くなっていく。

セミの声がいちだんと高くなる。


私は思う。


ああ、今年も、もう夏が終わるんだなあ・・・・・・。