モスマンハンター(その7)
自分にとって、すっかり見慣れているはずの景色が、
なんだか、とても見知らぬ世界のように見えた。
落ち着かない。
すでに何度目かわからない、
私は背負った大剣を握って、目の前にかざし、
その感触と重さを確かめると、また、元の場所に戻した。
すでにここ数日の調査で、あのときのモンスターが、
また、この道を通るだろうことは分かっていた。
この密林に、誰よりも精通している私だから、
あれほどの体躯をしたモンスターであれば、
少し調べれば、通った痕跡を見つけるのは難しくない。
そして、どんなモンスターであっても、
自分だけの縄張りというものを持っているので、
一度その道を使ったら、大抵は、その後も、その場所を使い続ける
ものなのだ。
あとは、待つだけだった。
太陽は、すでに一番高いところから、傾きはじめていた。
はるか西のほうからは、厚い雲が流れてきている。
深い草の隙間からそれを見つめた私は、雨になるかも知れないな、と思った。
そういえば、あのときも雨が降っていた。
家を出てくるとき、弟たちは心配げな表情を出すまいとして、
わざと、あまり視線を合わそうとしなかった。
ただ、出て来るとき、手を握って私たちは別れた。
弟たちにも、きっと言いたかったことが、あっただろうと思う。
私も、何かを言おうとした。
心配するな、とか。
この武器にかけて、きっと勝って帰ってくるからな、とか。
でも、口を開けてみたけれど、言葉はなにも出てこなかった。
それどころか、唇は震え、ふいにそれまで抑えていた感情が
一気にあふれてきそうになって、私は思わず顔をそらした。
弟たちには、見られなかったと思う。
ただ、それによって言葉をかけるチャンスはついに失われて、
私は無言のまま、出てきてしまったのだった。
もし、あのとき何か言えたとして、私はなんと口にしていただろう。
弟たちの別れ際の、まっすぐな目を思い出し、
ふと、そんなことを考えていたとき、
ふいに、すぐ近くで草木が倒れる音がした。
私はすぐに剣を握り、音の聞こえたほうを見た。
いた。
青い肌、大きなクチバシ、飛竜族の特徴的な大きな翼。
あのときの、あいつだ。
私は背筋がゾクゾクした。
もう、負けられない。
これが、最後のチャンスだ。
私が立ち上がるのと、モンスターが自分に気づくのが一緒だった。
奇襲は通用しない。
それはわかっていた。
恐ろしく、耳がいいモンスターなのだ。
私はゆっくりと、弟たちと一緒に鍛え上げた剣を構えた。
弟たちは、この剣に名前をつけよう、といった。
密林を守るもの、ということで、「護林丸」と弟たちは名づけた。
私は護林丸を正面に構えて、モンスターとまっすぐ対峙した。
相手が私の姿を認め、まるで戦いの始まりを告げるように
大きく空に向かって吼えた。
それだけで私の全身は総毛だち、足が震えだす。
でも、だめだ。
こんなことじゃ、だめだ。
私は、決めていたのだ。
もう一度、あのモンスターと戦うことになったら、
そのときは、まず、私から向かっていくのだと。
動け、私の足。
さあ、行くんだ。
目の前にいる、あいつの元へっ!
私は剣を握り、まるで嵐の中心地にいるような威圧感の中を、
一気に駆けた。
そして、相手のがまだ吼えている中、そのふところにまで入り込み、
護林丸を勢いのままに叩きおろした。
ものすごい手ごたえがあり、血が飛び散って、
風でなびく野草のように、飛竜の体が揺らいだ。
効いてるっ!
この前は、たったの一度も攻撃を当てられなかったのに!!
私は、希望を見た気がした。
勝てるぞ。
そう思った。
宝石の原石のような大きな目を、真っ赤に染めて、
飛竜が私を睨んだ。
いいぞ、来いっ!
さあ、決戦だっ!
これは、一人のヒーローの物語。
