モスマンハンター(その9) | 初心者同志

モスマンハンター(その9)

私の名前はモスマン。


始まりは、ほんの些細なことだった。


私はずっと密林で暮らしてきた。

そこは、決して全てにおいて、とまでは言えないものの、

まずまずの平和な、静かな世界だった。


確かに種族同士による争いや、

生きていくための生存競争としての、

生死をかけた戦いはあったものの、

それは、この世界ができたときから、ずっと続いているものだ。


それ以外には、至って平穏なところだった。


それが最近、これまでに見かけることのなかった、

巨大な飛竜種が姿を見せるようになって、

なにもかも変わってしまった。


彼らは、この密林を我が物顔で歩き、

他の種族を無差別に襲いはじめたのだ。


さらに、これまでは入ってくることのなかった人間のハンターたちが、

それを知って、希少な飛竜種を捕獲しようと、

大勢やってくるようになった。


密林の平和は乱れ始めた。

誰かが、それを阻止しなくては。


でも、もちろん、そのときは、その決断が、

あんな結果を生むなんて、私は思いもしなかった。


私は、自分に力があると思ったわけではない。

それでも、できることがあるのなら、何かをしたいと思った。


あるとき、巡回をしている途中、

私は一匹の飛竜に襲われた。


かろうじて私は命を拾い、その飛竜との再戦を、私は誓った。


三人の弟たちが力を貸してくれた。

新しい武器を一緒につくり、名前をつけた。


そして、私はあのときの飛竜と、もう一度戦い、

ついに追い詰めた。


しかし、寸でのところで、空を飛んで逃げられ、

止めを刺すまでには至らなかった。


そんな私を元気付けてくれたのは、やはり弟たちだった。

弟たちは、その飛竜を探そうと、といった。

自分たちのよく利く鼻で、匂いを追いかければ、見つけられるはずだ、と。


私は素直に助けを借りることにした。

飛竜はさっきの戦いで深い傷を追っている。

倒すなら今だ、と私は思った。


弟たちは、私の手助けができる、と喜んでいた。

そんな嬉しそうにする弟たちを見て、私も嬉しかった。


もちろん、それはすべて誤りだった。

あとになって、どれだけ考えても、全てはもう遅い。


弟たちは分担して、密林に散っていった。

やがて、二番目の弟が匂いをつかんだ。

私は弟と二人でその匂いを追いかけ、ついに飛竜を見つけた。


思っていた通り、飛竜の傷は相当深いようだった。

飛竜は背丈のある草の中に自分の姿を隠していたが、

体に刻まれた傷からは今もなお、かなりの血を流しつづけていた。


私は弟に下がるように言い、一人近づいた。

相手は手負いだ。

勝負は、すぐにつくだろうと思っていた。


今思えば、なんて大莫迦だったんだろう。


飛竜はこちらに、まったく気づかなかった。

きっと、それがまた、さらに私を増長させた。


気分は高揚していた。

さきほどの戦いの疲れは、まだ、体に残っていたはずなのに。

そのときは、しかし、それも感じなかった。


剣が届くところまで来た。

まだ、飛竜はこちらに気づかない。

大きな目を閉じ、ジッと体を堅くして、

眠っているようにも、瞑想しているようにも見えた。


私は剣を、音をたてない様にしながら、頭上に掲げた。

そして、ひと呼吸し、一気に振り下ろした。


ガキンッと、でかい手ごたえがあって、

飛竜の体は風に煽られた大木のように吹っ飛んだ。

私はすかさず体を回し、振り抜いた大剣をふたたび眼前に持ってくると、

全身を使ってもう一度、剣を振り下ろした。


飛竜は、ようやく私に気づいて目を見開き、

顔をこちらに上げようとしていたところだった。

がら空きとなった首の根元に、私の大剣の刃は見事に入り込み、

にぶい手ごたえと共に、その刃が深く潜り込んだ。



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勝った、と思った。

それは、間違いなく、致命傷となる傷のように思えたのだ。


鮮血が噴水のように噴き出して、私の眼前は赤一色に染まった。


そして、それが起こった。


私はそのとき、飛竜が大きな断末魔をあげ、倒れていくところを想像していた。

しかしそれは起きることがなく、

それどころか、そこから、私にとって予想外だったことが、

次々と起きていった。


まず、飛竜は倒れなかった。

かろうじて踏みとどまり、黄色い目を真っ赤に充血させて、

私をにらみつけた。


そして、私に襲いかかってきた。

体中の傷から、血を撒き散らしながら。

私はまったく無防備なところに体当たりをうけ、大きく吹き飛んだ。


そして、見た。


私はきっと、この先も、それから見た光景のことを

決して、忘れることはないだろう。


飛竜は勢いのままに私に突撃すると、一瞬、私の姿を見失った。

しかし、怒りで、大きな口からは絶え間なく叫び声を吐き出し、

傷のことを気にしている様子もなく、

すぐ、また私を見つけて、

襲い掛かってくるだろうことがわかった。


私は、そのとき、情けないことに、

あまりの恐ろしさに、体が震えていた。


なんて弱いヒーローだろう。

密林を守るなんて言葉は、口だけのことでしたかなかった。


急に、これまでの疲れが蘇り、すぐ立ちあがる気力もなく、

ただ、倒れたまま、

そんな飛竜の姿を呆然と見つめていた。


そのとき、そんな私と飛竜の間に、割りこむ影があったのだ。


それは、弟だった。

後ろで待機しているように言った、弟だった。



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弟は、私をチラリと心配そうに見ると、すぐに前を向いて

精一杯に吼えた。


それからのことは、なぜか、ゆっくりとした映像となって流れていく。


飛竜はすぐに私たちのいる場所を見つけた。

そして、向かってきた。

私は何かを叫んだかもしれない。

少なくとも、立ち上がりは、した。

剣も構えた。

しかし、弟はわずかに私の前に立った。


今までに聞いたことがない、背筋が冷たくなるような気味の悪い音がした。

そして弟の体が、何かに引っ張られたように、

とつぜん後ろに弾け飛んだ。



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私の名前はモスマン。


私は、今も考える。

あのとき、私は、いったいいくつの間違いを犯したのか。

どれだけの私が間違いが、あんな結果を生み出したのか。


答えは出ない。

たぶん、この先も一生出ることはない。


そして、出たとしても、結果が変わるわけでもない。


私はそのとき、気がつくと、剣を振り上げ、飛竜に向かって走っていた。

言葉にならない声を上げながら。




オンラインゲーム「MHF」

これは、一人のヒーローの物語。