宿題の行方。 | 初心者同志

宿題の行方。

夏休みも、残り二日となったある日、

私の目の前にあったのは、

結局、手付かずのまま残ってしまった、夏休みの宿題。

二冊の白紙のノートだった。


これを、すべて自習して埋めてしまわなければ、

私は二日後、担任の教師に、なにをされるか分からない!


とはいえ、時間はもう、ほとんど残っていない。


ということで、私がとった手段というのが・・・・・・!



徹夜だった。


普通に考えて、ノート二冊を丸々埋めるというのは、

たとえ、全てのページを落書きで埋めたとしても、

たった二日間では、とても無理。


しかも今回は、それを、勉強して埋めないといけないのだ。

普段の授業でさえ、ほとんどノートなんてとらない私に、

これはものすごい大課題。


明らかに無理そうだぞ、まいったなあ。


でも、残った二日間を、一睡もしなければ、

もしかしたら、少しは、可能性があるかも知れない。


で、私は迷うことなく、徹夜する道をとったのだった。


いざ、始めてみると、危機感からなのか、

それとも、追い込まれたとたんに、

力を発揮する発揮するタイプだからなのか、

私はスラスラとノートを埋めていった。


うーん、快調、快調。


正直、それまで私は、自習なんて、したことがなくて、

一体、ノートに何を書いたらいいんだろうと思っていたんだけど、

やってみると、意外と書けるんだなぁ。


勉強、という意味では、ほとんど頭には入っていないし、

今後の授業に役にたつとも、とても言い難いけれど、

とにかく、ノートだけはどんどんと埋まっていく。


食事に呼ばれたときと、トイレに立つ以外は、

私はひたすら勉強机に向きあいつづけて

ついには、そのまま夜を越え、朝を迎えた。


それでも、疲れはあったのだけど、

集中力は自分でも不思議なくらい、途切れなかった。


一度切れてしまうと、もう二度と、

それだけの集中力を取り戻すことはできない、

という気がしたから、なのかも知りない。


それに、思ったほど、眠気が襲ってくることもなかった。

これは嬉しい予想外。


ノートはようやく、一冊目の後半に差し掛かったところではあったけど、

実際にそこまでにかけた時間は、約半日というところ。


あと二十四時間あれば、ノートをなんとか全て埋められそうな

ペースで、ここまでは来ていた。


そのまま、午前中も、変わらず好調だった。

集中力もある。

朝に感じた疲労感は、日が昇って、

部屋の中にも日がさしてくると、あまり感じなくなってしまった。


これほど長い時間、イスに座り続けるのは初めてで、

これほど長い時間、勉強しつづけるのも初めてだった。


でも、気にしている余裕は、そのときには当然、なかった。

なんといっても、夏休みは今日まで。

明日は始業式なのだ。


あーあ、夏休み最後の日にまで勉強なんて、と

思ったけれど、全ては自業自得。

あとの祭り。


お昼を過ぎて、さすがにペースは落ちてきていたけれど、

それでもまだ、勉強はつづけられていた。


これは、私にとってはすごいことだった。

今思い出しても、自分のどこに、そんな力があったんだろうと思う。


いや、きっと、なかったんだろうな

あれが私の力だったら、今頃、私は大人物になってるもんなあ。


とにかく、私はその頃、ようやく、ノートの一冊目を終えた。

時間はそろそろ、夕方を迎えようというところ。


一冊終えたという達成感からか、

それともただの疲労の蓄積が、ここへ来て一気に出たからなのか、

私はとたんに眠くなって、それからしばらく手が動かなかった。


それから夕飯まで、一気にペースは落ちてしまって、

ノートはさっぱり埋まらない。


夕食を食べたのを期に、再び気合を入れ直してみたものの、

やっぱりペースは、著しく落ちたままだった。


ただ、そこまで延々と書いてきた成果で、

どうすれば、より効率よくノートを埋められるか、が、

私には、わかり始めていた。


同じ書くにしても、綺麗に整頓して書いてしまうと、

ノートは埋まらない。

あえてノートを、無駄にいっぱい使って書くことで、

同じ量を書いても、ノートの埋まりかたはまったく違ってくるんだ。


おかげて、集中力がほとんど切れ、

書くペースもまったく上がらないのに、

なんとか、ノートだけは次々に埋まっていった。


最大の山は深夜だった。

一睡もしないで、二日目の夜を迎えるなんてことは、

当然、私には初めてのことだ。



眠気が一気に襲ってきて、ペンを持つ手も怪しくなった。

気がつくと、ノートに変なことを書いていたり、

文字が線からはみ出て、斜めに書き綴られていたりして、

きづいて、慌てて消して、また書き直すという作業に

無駄に、時間を注がなければいけなかった。


0時を越えた頃、ノートはまだ、ようやく半分を超えたところだった。

残り時間は学校へ行く時間ギリギリまでやったとして、あと八時間。


これまでどおり、普通にやれば終わらせられる時間だ、と思った。


でも、その「普通」が、難しかったんだ。

私の体にとつぜん、異変が起きたのがその頃だった。


まず、体が震えだした。


もう夏は終わりといっても、まだ八月だったというのに、

寒くて仕方なかったんだ。

放置していたら、ついには歯までが、ガチガチと鳴りだした。

それで、慌てて長袖の上着を出してきて、私はそれを着た。


でも、すぐに、今度は、足がガタガタと震えだした。


自分の意思とはまったく関係ないところで、

まるで理解できないことが起きているような気分だった。


机に向かいながら、ふと視界に入る自分の足が、

自分の意思とは無関係にガタガタと震えているのを見るのって、

すごく恐ろしいんだよ。


時間は深夜だし、家の中はすでに寝静まって、静かだしさ。


私はなんとか、足の上に毛布をかけて、

勉強を続行した。


集中力なんてものは、すでにもう、欠片もなく、

断続して襲ってくる睡魔に、まぶたは何度も沈みかけ、

体は寒さで震えて、

疲労で今にも、意識がとびそうだった。


唯一、それでも私を突き動かしたのは、

明らかに、あと数枚というところまで減ってきていた、

ノートの右側のページ部分の厚さだった。


ついに全てが終わったのは、早朝五時半。


私は達成感などなく、ただただ、時計を見て、

学校にいくまで、まだ少しは眠れるぞ、と思っただけだった。


ようやく全て埋めたノートと、他の宿題を全てカバンに入れ、

私はすぐさまベッドに倒れて、そのまま眠った。


次に目を覚ましたら、お昼だった。


うーん、あれ?どういうことだ、これは。

なにかの夢か?


あとになって聞いたことだけど、

なんでも、母が言うには、どれだけ起こそうとしても、

私はぜったい起きようとしなかったらしい。


寝起きは悪いほうではない私が、ここまで起きないのは、

きっと何かあるのだろうと思い、

それで、起こすのをやめたんだって。


学校には、体調不良で休むと、すでに連絡までされたあとだった。


へえ、徹夜の反動て、やっぱり無視できないものなんだなぁ・・・・・・。


なんて、言ってる場合じゃないっ!

じ、じゃあ、私がこの二日間、今日の始業式に持っていくために、

必死にやってきた宿題は、一体、どうなるんだよおっ!



結論から言うと、どうにもならなかった。


その日は始業式だけだから、学校は半日だけ。

すでに学校はおわっていたんだ。


結局、私はその翌日、堂々と宿題を提出して、

その危機的な私の夏休みは、こうして終えたのだった。



それから、二度と徹夜なんてするもんか、と、私が思ったのは、

言うまでもない、よなぁ・・・・・・。