新・バスコの人生考察 -8ページ目

ご挨拶(パソコン読者用)

 こんにちわ。バスコでございます。


 震災に遭われた方は、大変なことだとお察しします。阪神淡路大震災で被災した経験からも、震災がどれだけ大変かということは、僕も身に染みております。


 このブログの読者の方の中にも、もしかすると、被害に遭われた方がいるかもしれません。


 被災者の方で僕にお願いしたいことがある人は、僕のツイッターのほうにご連絡いただければ、と思います。力になりますので。ID baskobasko


 僕はこの状況でも、お笑いを続けます。ブログ、ならびにツイッターのほうでも、あえてボケをぶっ込んでまいります。僕がネットで展開できるのはお笑いしかないので、笑いのメッセージを送り続けます。


 さて、3月10日に発売した拙著『楽しく生き抜くための笑いの仕事術』ですが、地震の関係で、なんのプロモーションもできない状況になっております。


 時期が時期だけに、出版社のほうもプロモーションができません。著者の僕も表立って宣伝するわけにもいかず、本当にお手上げなのです。


 本というのは、発売から2週間で売れないと、本屋からどけられてしまいます。現に、すでに本屋に置いてないところもあるらしくて、壊滅的な状況なのです。


 ですので、買っていない方がいらしたら、お買い求めいただければ幸いです。中身には絶対の自信を持っているので、なにとぞ、よろしくお願いします。


 印税のほうは、その大部分を寄付にまわすことをお約束します。


 自分で言うことではありませんが、僕を含めた僕の家族で、サラリーマンの給料分ぐらいはすでに寄付しています。書籍印税も寄付にぶっ込むことを、お約束いたします。


 僕が求めているのは、クリエーターとしての飛躍、その一点です。ご理解のほど、どうかよろしくお願いします。


 最後になりましたが、『楽しく生き抜くための笑いの仕事術』の目次を紹介しておきます。出版社であるマガジンハウスにも簡単な紹介ページがあるので、リンクを貼っておきます。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/
¥1,470
Amazon.co.jp




『笑いの仕事術』 http://magazineworld.jp/books/2241/


第1章 「7色のボケ」を駆使して、職場の空気を変えろ!
①「ボケの効能と鉄則」を正しく理解
元芸人の営業マンが、注文を取りまくってくる秘密
ボケとは「精神力を強化するための投資」である!
「笑わせるタイプの人」と思わせてから、ボケること
②ボケ続けると、脳の仕組みが変わっていく
旅のボケはかきすて!日常の中でボケまくれ!
1日3回ボケていれば、「ボケ脳」に切り替わる
展開を予測することで、笑いの引き出しは増えていく
「よくある場面」には、事前にボケを用意する
「社内漫才」で取引先の心をほぐせ!
③意外と知られていない「ボケのつくり方」
すべての基本は「ずらし」にあった!
表現を具体的にすることで、笑いも大きく
自分の脳に「ボケ検索エンジン」をつくれ!
④プロの芸人から学ぶ!タイプ別ボケの極意
笑い飯から学ぶ「合気道ボケ」の極意
千原ジュニアから学ぶ「比喩ボケ」の極意
すべての芸人から学ぶ「造語ボケ」の極意
すべてのお笑いのネタから学ぶ「定番ボケ」の極意
松本人志から学ぶ「定番の言い回しボケ」の極意
ますだおかだ岡田から学ぶ「心の声ボケ」の極意


第2章 「ツッコミの達人」になって、すべてをあやつれ!
①ツッコミの真髄は「違和感の指摘」にあった!
ツッコミに秘められた知られざる効果
悪口と「愛のあるツッコミ」はまったくの別物
②プロの芸人から学ぶ!タイプ別ツッコミの極意
今田耕司から学ぶ「やさしいリアクションツッコミ」の極意
千原ジュニアから学ぶ「才気あふれるツッコミ」の極意
ブラマヨ小杉から学ぶ「広げるツッコミ」の極意
ますだおかだ岡田から学ぶ「擬音ツッコミ」の極意
③上司や取引先の間違いは、ツッコミで正せ!
職場では「波風を立てないツッコミ」を目指す
上司の発言が間違っているときは……
上司の話が長すぎるときは……
上司が見るからに機嫌が悪いときは……
上司に失礼なことを言われたときは……
上司の下ネタがしつこいときは……
上司につまらないボケを言われたときは……
上司が必要以上に謙遜しているときは……
④ツッコミを巧みに使い、自分も他人もコントロール
ツッコミは、あなたの「心の手綱」になる
タモリの話術に秘められた、「間の持たせ方」
「大変でしょ?」「腹が立つこともあるでしょ?」を使いこなせ!


第3章 うまい「返し」で、史上最強の愛されキャラに!
①「返し」は日常会話をガンガンまわす潤滑油
ボケ、ツッコミに並ぶ「第3のテクニック」
オーソドックスな「乗っかるの返し」を身につけろ!
ツッコミの代わりに乗っかって、お偉いさんを喜ばせる
相手の発言を認めたとき、人間関係は劇的にチェンジする
②シチュエーション別、返しの活用法
知ったかぶりをしているのに、絶対にバレない男
友近が教えてくれる「セクハラ上司のあしらい方」
チュートリアル徳井が、ハンサムなのに好かれる理由
③さあ、困った!取引先とのトラブルにはどう返す!?
いきなり納期を早められたら、二段階で前倒し
「謝罪」「努力」「対処」の3点セットで活路を開く
「取引先に嫌われない断り方」を身につけろ!
遅刻を許してもらうヒントは、ビートたけしの「こけ」にあり?
大ピンチを大チャンスに!芸人の切り札「手紙謝罪」
④その場の空気を変えろ!言葉と体のリアクション
超意外!?「リアクション」は返しの基本!
相手の「期待のハードル」を、さらに飛び越える!
ボウリング場は、リアクションのいい特訓場所
「絶対にやってはいけない返し」とは……


第4章 知られざる秘密兵器。「間」を使いこなせ!
①会話のクオリティは「間」の取り方が左右する
ネタのおもしろさよりも「間の使い方」が重要
②間の取り方で得られる8つのメリット
「言葉を強調する間」の取り方
「味わい深さを表現する間」の取り方
「聞き手を引きつける間」の取り方
「怒りを代弁する間」の取り方
「居心地を悪くする間」の取り方
「あきれを表現する間」の取り方
「スベったボケをウケさせる」間の取り方
「ツッコミを入れる間」の取り方


第5章 サラリーマン必須!超戦略的「太鼓持ち」の技術
①ヨイショのできない芸人は、大成しない!
有吉弘行は、お偉いさんよりも現場の人間に気を遣う?
②こんなに簡単!ゴマスリ&ヨイショの基本テク!
イスに座ったときは、身を乗り出してしゃべる
すべての言葉に「飾りつけ」をする
絶妙な「おべんちゃら」を使う
相手の「プロジェクトX」を認めてあげる
「特別視」していることを伝える
さりげなく恩を売る
あえて悪態つくことで「かわいさ」を演出する
リアルな愛想笑いをする
③超ズル賢い!?鉄板の飲み会必勝法!
出世の最短距離は、飲み会を攻略することである!
ノミマエ(飲む前)の必勝法
ノミナカ(飲んでいる最中)の必勝法
ノミアト(飲んだあと)の必勝法
④相手のタイプに応じて、キャラクターを使い分けろ!
神輿に乗るのは上司。神輿をかつぐのはあなた。
上司の「盾」になり、部下や後輩の「矛」になる



 被災者の方が、「楽しく生き抜ける」ことを願って。


 バスコ



ご挨拶(携帯読者用)

 こんにちわ。バスコでございます。

 震災に遭われた方は、大変なことだとお察しします。阪神淡路大震災で被災した経験からも、震災がどれだけ大変かということは、僕も身に染みております。

 このブログの読者の方の中にも、もしかすると、被害に遭われた方がいるかもしれません。

 被災者の方で僕にお願いしたいことがある人は、僕のツイッターのほうにご連絡いただければ、と思います。力になりますので。ID baskobasko

 僕はこの状況でも、お笑いを続けます。ブログ、ならびにツイッターのほうでも、あえてボケをぶっ込んでまいります。僕がネットで展開できるのはお笑いしかないので、笑いのメッセージを送り続けます。

 さて、3月10日に発売した拙著『楽しく生き抜くための笑いの仕事術』ですが、地震の関係で、なんのプロモーションもできない状況になっております。

 時期が時期だけに、出版社のほうもプロモーションができません。著者の僕も表立って宣伝するわけにもいかず、本当にお手上げなのです。

 本というのは、発売から2週間で売れないと、本屋からどけられてしまいます。現に、すでに本屋に置いてないところもあるらしくて、壊滅的な状況なのです。

 ですので、買っていない方がいらしたら、お買い求めいただければ幸いです。中身には絶対の自信を持っているので、なにとぞ、よろしくお願いします。

 印税のほうは、その大部分を寄付にまわすことをお約束します。

 自分で言うことではありませんが、僕を含めた僕の家族で、サラリーマンの給料分ぐらいはすでに寄付しています。書籍印税も寄付にぶっ込むことを、お約束いたします。

 僕が求めているのは、クリエーターとしての飛躍、その一点です。ご理解のほど、どうかよろしくお願いします。

 最後になりましたが、『楽しく生き抜くための笑いの仕事術』の目次を紹介しておきます。出版社であるマガジンハウスにも簡単な紹介ページがあるので、リンクを貼っておきます。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/
¥1,470
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『笑いの仕事術』 http://magazineworld.jp/books/2241/


第1章 「7色のボケ」を駆使して、職場の空気を変えろ!
①「ボケの効能と鉄則」を正しく理解
元芸人の営業マンが、注文を取りまくってくる秘密
ボケとは「精神力を強化するための投資」である!
「笑わせるタイプの人」と思わせてから、ボケること
②ボケ続けると、脳の仕組みが変わっていく
旅のボケはかきすて!日常の中でボケまくれ!
1日3回ボケていれば、「ボケ脳」に切り替わる
展開を予測することで、笑いの引き出しは増えていく
「よくある場面」には、事前にボケを用意する
「社内漫才」で取引先の心をほぐせ!
③意外と知られていない「ボケのつくり方」
すべての基本は「ずらし」にあった!
表現を具体的にすることで、笑いも大きく
自分の脳に「ボケ検索エンジン」をつくれ!
④プロの芸人から学ぶ!タイプ別ボケの極意
笑い飯から学ぶ「合気道ボケ」の極意
千原ジュニアから学ぶ「比喩ボケ」の極意
すべての芸人から学ぶ「造語ボケ」の極意
すべてのお笑いのネタから学ぶ「定番ボケ」の極意
松本人志から学ぶ「定番の言い回しボケ」の極意
ますだおかだ岡田から学ぶ「心の声ボケ」の極意


第2章 「ツッコミの達人」になって、すべてをあやつれ!
①ツッコミの真髄は「違和感の指摘」にあった!
ツッコミに秘められた知られざる効果
悪口と「愛のあるツッコミ」はまったくの別物
②プロの芸人から学ぶ!タイプ別ツッコミの極意
今田耕司から学ぶ「やさしいリアクションツッコミ」の極意
千原ジュニアから学ぶ「才気あふれるツッコミ」の極意
ブラマヨ小杉から学ぶ「広げるツッコミ」の極意
ますだおかだ岡田から学ぶ「擬音ツッコミ」の極意
③上司や取引先の間違いは、ツッコミで正せ!
職場では「波風を立てないツッコミ」を目指す
上司の発言が間違っているときは……
上司の話が長すぎるときは……
上司が見るからに機嫌が悪いときは……
上司に失礼なことを言われたときは……
上司の下ネタがしつこいときは……
上司につまらないボケを言われたときは……
上司が必要以上に謙遜しているときは……
④ツッコミを巧みに使い、自分も他人もコントロール
ツッコミは、あなたの「心の手綱」になる
タモリの話術に秘められた、「間の持たせ方」
「大変でしょ?」「腹が立つこともあるでしょ?」を使いこなせ!


第3章 うまい「返し」で、史上最強の愛されキャラに!
①「返し」は日常会話をガンガンまわす潤滑油
ボケ、ツッコミに並ぶ「第3のテクニック」
オーソドックスな「乗っかるの返し」を身につけろ!
ツッコミの代わりに乗っかって、お偉いさんを喜ばせる
相手の発言を認めたとき、人間関係は劇的にチェンジする
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ボウリング場は、リアクションのいい特訓場所
「絶対にやってはいけない返し」とは……


第4章 知られざる秘密兵器。「間」を使いこなせ!
①会話のクオリティは「間」の取り方が左右する
ネタのおもしろさよりも「間の使い方」が重要
②間の取り方で得られる8つのメリット
「言葉を強調する間」の取り方
「味わい深さを表現する間」の取り方
「聞き手を引きつける間」の取り方
「怒りを代弁する間」の取り方
「居心地を悪くする間」の取り方
「あきれを表現する間」の取り方
「スベったボケをウケさせる」間の取り方
「ツッコミを入れる間」の取り方


第5章 サラリーマン必須!超戦略的「太鼓持ち」の技術
①ヨイショのできない芸人は、大成しない!
有吉弘行は、お偉いさんよりも現場の人間に気を遣う?
②こんなに簡単!ゴマスリ&ヨイショの基本テク!
イスに座ったときは、身を乗り出してしゃべる
すべての言葉に「飾りつけ」をする
絶妙な「おべんちゃら」を使う
相手の「プロジェクトX」を認めてあげる
「特別視」していることを伝える
さりげなく恩を売る
あえて悪態つくことで「かわいさ」を演出する
リアルな愛想笑いをする
③超ズル賢い!?鉄板の飲み会必勝法!
出世の最短距離は、飲み会を攻略することである!
ノミマエ(飲む前)の必勝法
ノミナカ(飲んでいる最中)の必勝法
ノミアト(飲んだあと)の必勝法
④相手のタイプに応じて、キャラクターを使い分けろ!
神輿に乗るのは上司。神輿をかつぐのはあなた。
上司の「盾」になり、部下や後輩の「矛」になる



 被災者の方が、「楽しく生き抜ける」ことを願って。


 バスコ


心の防空壕を作るべきではないか?の考察(パソコン読者用)

※2009年・12月7日の記事を再編集


 先日、仕事で東京に行きました。


 旧友と再会し、お酒を飲みました。家に泊めてもらい、翌朝、打ち合わせまでに時間があったので、ひとりで東京の街をブラブラすることにしたのです。


 僕が向かった先は、五反田。


 正確には五反田を少し離れた下町で、ここに、小さなコインランドリーがあります。どこにでもある古ぼけたコインランドリーなのですが、僕にとっては特別な場所なのです。


 大学時代に東京をおとずれたとき、僕はここで、雨宿りをしました。傘がなくて、ひとりでなんとなしに立ち寄っただけなのですが、このときに過ごした時間が忘れられません。


 アスファルトに打ちつける雨、小走りで行き交うサラリーマン、静寂にうごめく洗濯機の音、鼻腔をさわやかにしてくれる洗剤の匂い……。


 劇的なことなど何もないのに、この空間で味わった時間が大好きで、東京に来るといつもこのコインランドリーに足が向いてしまうのです。


 みなさまにも、こういう場所ってありませんか?自分を癒してくれる、あなたオリジナルの場所が?


 この日は残念ながら、雨は降っていませんでした。


 ですが、空間に「記憶」が絶妙な味つけをして、僕を再び癒してくれたのです。


 なにより、ここは下町です。僕は下町の路地が大好きで、玄関先にオシロイバナが植えてあったり、誰かが道路に打ち水をしていたりと、その素朴さに癒されるのです。


 この殺伐とした現代は、このような癒し空間が必要でしょう。


 田舎の森林しかり、夜の海しかり、癒し空間に出向くことを、僕は「空間セラピー」と呼んでいます。


 これは言うなれば、「心の防空壕」です。


 自分に合った癒し空間を見つけ出し、何かイヤなことがあればその防空壕に入って、自分をリラックスさせるのです。


 そこで今回は、「心の防空壕を作るべきではないか?」の考察です。


 気持ちがブルーになると、仕事の生産性が著しく落ちます。


 なかでも、日曜日の夜。


 『情熱大陸』のエンディングテーマを聴いて、ブルーになる人は多いはずです。


 「ハア。また明日から仕事が始まるのか……」


 このように感じるものの、葉加瀬太郎が奏でる『エトピリカ』の旋律は、同時に我々を癒してくれます。この感覚こそが心の防空壕のキモで、心がエトピリくなればなるほど癒されるのです。


 以下、僕をリラックスさせてくれる防空壕をご紹介します。


①デパートの屋上
 デパートの屋上には、嘘くさい遊園地があります。最近は少なくなってきたものの、小さな空間の中に、壊れかけのアトラクションが密集しているのです。


 錆びたゴーカート、煙をまったく吐き出さない汽車、だるそうにしているオッサンの従業員……。


 しかも、「プレイランド」といった時代遅れのネーミングがたまらず、僕はこの怪しい感じが大好きなのです。


 デパートの屋上には、都会とは思えないような静けさがあります。


 ベンチに座ってタバコを吸うと、妙に癒されます。僕は癒されるためだけにここに足を運び、ここでクレープを食べるのが習慣になっています。


 平日の昼間に行くと、子供がたくさんいます。子供の嬌声が耳障りかと思いきやそんなことはなく、自分の子供のころを思い出して、妙にしんみりとするのです。


 デパートの屋上に来る親子は、貧乏くさい人が多いです。お金がないからこういう場所で遊ばせるのであり、そのわびしさがまた、空間のレトロさに拍車をかけるのです。


 デパートの屋上には、失われた原風景があります。あなたが営業マンなら、外回りのついでに1度、寄ってみてください。缶コーヒー片手に青い空を眺めると、不思議とやる気が出てきますから。


②ダイエーのカーテン売り場
 大きなデパートが乱立する中、ダイエーだけは、古きよき時代の日本を残しています。デパートの屋上と同じで、ダイエーに来ると、僕はホッとします。


 ダサい服、ボロボロのマネキン、誰ひとりとして買いにこない靴売り場……。形作られた空間が殺伐としており、その大衆さに癒されます。


 なかでも、カーテン売り場。


 ここが、妙に落ち着きます。人が異常に少なく、フロアの端にあることから、いい感じで暗いです。自分がこの空間を独占しているようで、空間が作る影と心の影とが共鳴して、「ここに住みたい!」とまで思うのです。


 カーテン特有の匂いが、癒しに拍車をかけます。近くで畳を販売していることが多いことからも、カーテンの匂いとイグサの匂いがマッチして、「死ぬほど地味な桃源郷」に思えます。たまにやって来る、小太りのオバハン従業員もいい味を出しており、ここに来ると毎回、離れられなくなるのです。


 大衆的な空間に入ると、心が洗われます。ダイエーしかり、下町の商店街しかり。その空間、そして、その空間に根付く人の温もりを肌で感じ、明日への活力が生まれるのです。


③夕暮れどきのバスのロータリー 
 駅前にある、バスのロータリー。中心部にはちょっとした噴水があり、この空間に入ると、自分がこの街の住人であることを再認識させられます。


 行き交うバスに乗るのは、この街の住人です。


 「ここで毎日、人が乗り降りしているんだな……」


 こう考えたとき、自分の街をどことなく好きに思えるのです。


 時代を経て駅が形作ってきた空間は、その街の文化そのものです。タクシー乗り場、たこ焼きを売る屋台、新聞紙を敷いて眠るホームレス……。人間がその風景を作り、風景そのものが街の文化として、空間に溶け込んでいます。


 僕は心が疲れると、ロータリーのガードレールにもたれかかり、この事実を噛み締めます。ロータリーを俯瞰すると、「この街の住人である俺は今日も生きてるなあ!」と、妙に前向きになれるのです。


 なかでも、夕暮れどき。


 いい感じで陽が差して、まばらな人の往来が、なんとも物悲しいです。立ち食いソバ屋から放たれるカツオのダシが鼻腔をくすぐり、不思議と癒されます。


 僕はいつもこのあとに、近くのミスタードーナツに入ります。カフェオレを飲みながら外のロータリーをボーッと眺めるのが好きで、これ以上ないぐらい、リラックスできるのです。


④雨の日の公園のどかんの中
 冒頭でもご紹介したとおり、雨というのは、心を落ち着かせます。雨は外に出るのを億劫がらせるものの、癒し効果を持ちあわせているのです。


 雨宿りをすると、耳に入るザーーーッという一定のリズムが、なんとも心地いいです。また、そのリズムに合わせるかのように葉っぱに付着した水滴が、ピチョンと音を奏でて落下します。


 「ザーーーッ、ピチョン、ザーーーッ、ピチョン」


 2つの音が交互に鳴るなど、自然のコンサートが始まるのです。


 寝転びながらこの音を聞くのが最高で、オススメなのが、公園のどかんの中です。


 雨の日の公園には、誰もいません。どかんで寝転ぶと、公園を独占しているという高揚感が癒しに拍車をかけて、心地いい雨音が心にダイレクトに届くのです。


 雨には、匂いもあります。土と混ざり合った、雨独特の匂いが鼻に届き、自然と同化するような錯覚に陥ります。雨粒が地面に跳ね返って顔に当たることもあり、このひんやり感がまた、たまらないのです。


 たまにやってくる変質者も、いい味を出します。それを含めて「風景」で、自分が風景と同化していることを意識すると、心が静まってくるのです。


⑤祭りの会場から少し離れたところにある神社
 お祭りが苦手な人は多いはずです。人混みに酔って気分が悪くなり、「ここを離れたい!」という欲求に駆られることでしょう。


 そんなときはおもいきって、会場を出てください。静かな場所が必ずあるので、そこに移動して何か飲み物でも飲めば、気持ちが落ち着くはずです。


 なかでもオススメなのが、神社です。


 祭りの会場付近には、必ずと言っていいほど、小さな神社があります。神社は本来、静かなところです。夜だとなおさらで、気持ちを落ち着かせるには絶好の空間でしょう。


 賽銭箱の前に腰掛けると、遠くから聞こえる祭りの喧騒が、最高のバランスで耳に届きます。「動と静」を同時に味わっているかのようで、これこそが粋な祭りの楽しみ方。至近距離で太鼓の音を聞くよりも、少し離れた静かな闇の中で聞くほうが、はるかに心地いいのです。


 「粋でぜいたくな時間を過ごしている」


 自分をこう客観的に見たとき、気持ちが落ち着き始めます。りんご飴を舐めながらだと、子供のころを思い出して、ますますリラックスできるでしょう。


⑥大きな本屋のトイレ
 トイレというのは、誰もが落ち着ける場所です。考えごとをするには最適で、利用されている方も多いでしょう。


 自分の家のトイレが1番落ち着くのでしょうが、毎日使用しているため、防空壕としての効果は低いです。


 「たまに行く」


 これがミソで、日常と乖離した空間こそが、あなたの心を沈めてくれるのです。


 そこでオススメなのが、大きな本屋のトイレです。


 大きな本屋は、トイレの完成度が高いです。紀伊国屋やジュンク堂など、清潔かつ設備が充実していることから居心地は最高。適度な芳香剤の匂い、薄暗い照明など、空間の演出が見事なのです。


 みなさまの中にも、「本屋のトイレですると快便になる」という人は多いはず。それほど居心地がよく、自分が落ち着ける本屋のトイレを仕事場近くで探してください。


 なにより、本屋そのものがリラックス空間です。


 たくさんの本に囲まれると、不思議と心が和みます。本屋で気持ちを落ち着かせ、さらに落ち着かせるためにトイレに入れば、一気にリラックスできるでしょう。


 便意がなくても、便座に座れば、パンツは下ろすべきです。


 なぜだかわかりませんが、下半身を露出しているほうがリラックスできます。「下半身をさらけ出して自分をさらけ出す」みたく、妙に素直な気持ちになれるのです。


⑦健康ランドにある、ザコ寝できる畳の上
 スーパー銭湯をはじめとする、いわゆる健康ランド。


 健康ランドの風呂場を出ると、ちょっとした休憩所があります。たくさんの人がザコ寝をするためのもので、ここがむちゃくちゃ癒されるのです。


 床は、畳の場合が多いです。イグサには癒しの効果があり、長風呂で体がだるくなった勢いのまま眠れば、おそろしいまでの快眠になります。


 女性の方も、妙なプライドはいりません。スッピンで結構、すべてをさらけ出して、大の字に寝転んでください。ありのままの自分をさらけ出して寝転んだとき、これ以上ないぐらい、心が洗われますから。


 このとき、目の上に、水で冷やしたタオルを載せるのがオススメです。視線が遮られて、よりリラックスできるのはもちろん、ほてった体にタオルの冷たさがたまりません。


 眠気がなくても、壁にもたれかかっているだけで、かなり癒されます。


 この空間に、時間に追われている人はいません。人のくつろぐ姿を見て、「俺もたまにはゆっくりしないとダメだな……」と、自分を省みることができるのです。


 スーパー銭湯や健康ランドは、湯船に浸かるためだけに行くのではありません。風呂場を出てからが本来の癒しで、風呂上がりのビールやマッサージ機などを組み合わせて、トータルで自分を癒しましょう。


⑧レイトショーの映画館
 僕は月に何度か、ひとりで映画を観に行きます。誰かに誘われても断り、それも必ず、レイトショーに行きます。


 夜の映画館は、人が少ないです。空間全体が静寂に包まれ、その静寂とアンバランスな映画館の華やかさが、心地いいです。夜を独り占めしているかのようで、映画そのものではなく、この空間自体が大好きなのです。


 事前に上映時刻を調べておき、少し早めに中に入ります。ロビーのイスに座って、人がまばらにやってくる様子を見るのが好きで、ここで飲むコーラがまた、おいしいです。雰囲気が味の底上げをし、シネコン特有の装飾も相まって、どこか異国に来ているような錯覚に陥るのです。


 映画が始まっても、それほど真剣には観ません。空間そのものを楽しむのが目的なので、ガラガラの客席を意味なく移動したり、ほかのスクリーンに移動して別の映画をちょっとだけ観たりと、ちょこまかと動き回るのが楽しいのです。


 映画終わりには、映画館を出たところにある、深夜喫茶に入ります。


 個人経営のこじんまりとした店で、小粋なジャズが心を落ち着かせてくれます。閑散としており、窓際に座って、外の道路工事を眺めるのが大好きなのです。


 小腹がすいていたら、ナポリタンスパゲティーを食べます。口をケチャップまみれにしながら外を眺め、外から薄く射し込んでくる街灯の明かりがまた、なんとも言えず風流なのです。



 そして、最後。


 ここは、僕のとっておきの防空壕です。癒されるのはもちろんのこと、人生そのものを見つめ直すことができます。


⑨真夜中のサービスエリア
 僕はたまに、友達の車でドライブをします。金曜日の夜が多く、あてもなく高速道路に乗りつけて、どこぞのサービスエリアに入ります。


 真夜中のサービスエリアは、暗闇を踏んづけるかのようにたたずんでいます。適度な明かりが心地よく、外観を見るだけでテンションが上がってくるのです。


 ここは、決して広くはない「箱」です。ですがこの箱の中に、たくさんのものが詰まっています。


 夜中なのに開いているフードコート、嘘くさいおみやげ売り場、紙でめくるタイプのアイスクリームの自動販売機……。すべてがいい味を醸し出し、混味一体となって「粋な箱」になっています。


 外のベンチに座ると、たくさんの車が行き交っているのが見えます。オレンジ色の照明が闇に生え、心を沈めてくれるのです。


 なにより、ほどよく人が集まっています。方々からやってくるトラックの運転手をはじめ、僕らのような、あてのない連中もいます。


 「みなさん、少しは人生の休憩をしましょうよ!」


 彼ら彼女らがこう語りかけてくるかのようで、休憩地であるサービスエリアが、人生の休憩地であるかのように思えてくるのです。


 イスに座ってコーヒーを飲むと、心の隅々まで浄化されます。他愛のないことなのですが、これほどホッとできる時間を僕は知りません。あまりのリラックス感に、空間そのものが鏡となり、自分を照らしだしてくれるかのようなのです。


 この気持ちで自分を見つめ直すと、前向きになれます。それが明日への活力になり、イヤなこととも戦えるのです。


 これを「極上の時間」と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょうか?


 「週に1度、自分がリラックスできる空間に行き、疲れた心を癒す」


 仕事が忙しくとも、週末なら時間は取れるはず。週に1度でいいので、心の防空壕に出向いてください。


 キーワードは、「闇」「静寂」「ひとり」「雨」です。


 これらを複合的に併せ持つ空間を見つけ出し、疲れた心を浄化させましょう。


 子供というのは、近所に「秘密基地」を作ります。子供が遊ぶために基地を作るのに対して、大人は自分を省みるために、自分だけの基地を作ります。それが心の防空壕であり、空間セラピーになるのです。


 それでも防空壕を出た瞬間、急に孤独感に襲われます。子供のころ、遊園地を出た瞬間に感じる寂しさにも似て、「ハア。またつらい現実が待っている……」と悲しくなるんですね。


 ですが探せば、それすらも感じさせない空間があります。それが最高の防空壕で、僕にとってのそれは、先ほどご紹介した映画館近くの深夜喫茶です。


 この店は、おばあさんと若い女性の2人で経営しています。店を出るとき、いつも2人が入り口まで出てきて、僕を見送ってくれます。


 「ありがとうございました!気をつけてお帰りくださいね!」


 僕は毎回、心があたたかくなります。この言葉を聞きたくて行っているようなところもあり、僕はここを「ヒーリングカフェ」と呼んでいるほどなのです。


 みなさまも、自分に合った最高の防空壕を見つけ出してください。


 探せば必ずあります、それを見つけ出して、イヤなことがあればそこに避難しましょう。


心の防空壕を作るべきではないか?の考察(携帯読者用)

※2009年・12月7日の記事を再編集

 先日、仕事で東京に行きました。

 旧友と再会し、お酒を飲みました。家に泊めてもらい、翌朝、打ち合わせまでに時間があったので、ひとりで東京の街をブラブラすることにしたのです。

 僕が向かった先は、五反田。

 正確には五反田を少し離れた下町で、ここに、小さなコインランドリーがあります。どこにでもある古ぼけたコインランドリーなのですが、僕にとっては特別な場所なのです。

 大学時代に東京をおとずれたとき、僕はここで、雨宿りをしました。傘がなくて、ひとりでなんとなしに立ち寄っただけなのですが、このときに過ごした時間が忘れられません。

 アスファルトに打ちつける雨、小走りで行き交うサラリーマン、静寂にうごめく洗濯機の音、鼻腔をさわやかにしてくれる洗剤の匂い……。

 劇的なことなど何もないのに、この空間で味わった時間が大好きで、東京に来るといつもこのコインランドリーに足が向いてしまうのです。

 みなさまにも、こういう場所ってありませんか?自分を癒してくれる、あなたオリジナルの場所が?

 この日は残念ながら、雨は降っていませんでした。

 ですが、空間に「記憶」が絶妙な味つけをして、僕を再び癒してくれたのです。

 なにより、ここは下町です。僕は下町の路地が大好きで、玄関先にオシロイバナが植えてあったり、誰かが道路に打ち水をしていたりと、その素朴さに癒されるのです。

 この殺伐とした現代は、このような癒し空間が必要でしょう。

 田舎の森林しかり、夜の海しかり、癒し空間に出向くことを、僕は「空間セラピー」と呼んでいます。

 これは言うなれば、「心の防空壕」です。

 自分に合った癒し空間を見つけ出し、何かイヤなことがあればその防空壕に入って、自分をリラックスさせるのです。

 そこで今回は、「心の防空壕を作るべきではないか?」の考察です。

 気持ちがブルーになると、仕事の生産性が著しく落ちます。

 なかでも、日曜日の夜。

 『情熱大陸』のエンディングテーマを聴いて、ブルーになる人は多いはずです。

 「ハア。また明日から仕事が始まるのか……」

 このように感じるものの、葉加瀬太郎が奏でる『エトピリカ』の旋律は、同時に我々を癒してくれます。この感覚こそが心の防空壕のキモで、心がエトピリくなればなるほど癒されるのです。

 以下、僕をリラックスさせてくれる防空壕をご紹介します。

①デパートの屋上
 デパートの屋上には、嘘くさい遊園地があります。最近は少なくなってきたものの、小さな空間の中に、壊れかけのアトラクションが密集しているのです。

 錆びたゴーカート、煙をまったく吐き出さない汽車、だるそうにしているオッサンの従業員……。

 しかも、「プレイランド」といった時代遅れのネーミングがたまらず、僕はこの怪しい感じが大好きなのです。

 デパートの屋上には、都会とは思えないような静けさがあります。

 ベンチに座ってタバコを吸うと、妙に癒されます。僕は癒されるためだけにここに足を運び、ここでクレープを食べるのが習慣になっています。

 平日の昼間に行くと、子供がたくさんいます。子供の嬌声が耳障りかと思いきやそんなことはなく、自分の子供のころを思い出して、妙にしんみりとするのです。

 デパートの屋上に来る親子は、貧乏くさい人が多いです。お金がないからこういう場所で遊ばせるのであり、そのわびしさがまた、空間のレトロさに拍車をかけるのです。

 デパートの屋上には、失われた原風景があります。あなたが営業マンなら、外回りのついでに1度、寄ってみてください。缶コーヒー片手に青い空を眺めると、不思議とやる気が出てきますから。

②ダイエーのカーテン売り場
 大きなデパートが乱立する中、ダイエーだけは、古きよき時代の日本を残しています。デパートの屋上と同じで、ダイエーに来ると、僕はホッとします。

 ダサい服、ボロボロのマネキン、誰ひとりとして買いにこない靴売り場……。形作られた空間が殺伐としており、その大衆さに癒されます。

 なかでも、カーテン売り場。

 ここが、妙に落ち着きます。人が異常に少なく、フロアの端にあることから、いい感じで暗いです。自分がこの空間を独占しているようで、空間が作る影と心の影とが共鳴して、「ここに住みたい!」とまで思うのです。

 カーテン特有の匂いが、癒しに拍車をかけます。近くで畳を販売していることが多いことからも、カーテンの匂いとイグサの匂いがマッチして、「死ぬほど地味な桃源郷」に思えます。たまにやって来る、小太りのオバハン従業員もいい味を出しており、ここに来ると毎回、離れられなくなるのです。

 大衆的な空間に入ると、心が洗われます。ダイエーしかり、下町の商店街しかり。その空間、そして、その空間に根付く人の温もりを肌で感じ、明日への活力が生まれるのです。

③夕暮れどきのバスのロータリー 
 駅前にある、バスのロータリー。中心部にはちょっとした噴水があり、この空間に入ると、自分がこの街の住人であることを再認識させられます。

 行き交うバスに乗るのは、この街の住人です。

 「ここで毎日、人が乗り降りしているんだな……」

 こう考えたとき、自分の街をどことなく好きに思えるのです。

 時代を経て駅が形作ってきた空間は、その街の文化そのものです。タクシー乗り場、たこ焼きを売る屋台、新聞紙を敷いて眠るホームレス……。人間がその風景を作り、風景そのものが街の文化として、空間に溶け込んでいます。

 僕は心が疲れると、ロータリーのガードレールにもたれかかり、この事実を噛み締めます。ロータリーを俯瞰すると、「この街の住人である俺は今日も生きてるなあ!」と、妙に前向きになれるのです。

 なかでも、夕暮れどき。

 いい感じで陽が差して、まばらな人の往来が、なんとも物悲しいです。立ち食いソバ屋から放たれるカツオのダシが鼻腔をくすぐり、不思議と癒されます。

 僕はいつもこのあとに、近くのミスタードーナツに入ります。カフェオレを飲みながら外のロータリーをボーッと眺めるのが好きで、これ以上ないぐらい、リラックスできるのです。

④雨の日の公園のどかんの中
 冒頭でもご紹介したとおり、雨というのは、心を落ち着かせます。雨は外に出るのを億劫がらせるものの、癒し効果を持ちあわせているのです。

 雨宿りをすると、耳に入るザーーーッという一定のリズムが、なんとも心地いいです。また、そのリズムに合わせるかのように葉っぱに付着した水滴が、ピチョンと音を奏でて落下します。

 「ザーーーッ、ピチョン、ザーーーッ、ピチョン」

 2つの音が交互に鳴るなど、自然のコンサートが始まるのです。

 寝転びながらこの音を聞くのが最高で、オススメなのが、公園のどかんの中です。

 雨の日の公園には、誰もいません。どかんで寝転ぶと、公園を独占しているという高揚感が癒しに拍車をかけて、心地いい雨音が心にダイレクトに届くのです。

 雨には、匂いもあります。土と混ざり合った、雨独特の匂いが鼻に届き、自然と同化するような錯覚に陥ります。雨粒が地面に跳ね返って顔に当たることもあり、このひんやり感がまた、たまらないのです。

 たまにやってくる変質者も、いい味を出します。それを含めて「風景」で、自分が風景と同化していることを意識すると、心が静まってくるのです。

⑤祭りの会場から少し離れたところにある神社
 お祭りが苦手な人は多いはずです。人混みに酔って気分が悪くなり、「ここを離れたい!」という欲求に駆られることでしょう。

 そんなときはおもいきって、会場を出てください。静かな場所が必ずあるので、そこに移動して何か飲み物でも飲めば、気持ちが落ち着くはずです。

 なかでもオススメなのが、神社です。

 祭りの会場付近には、必ずと言っていいほど、小さな神社があります。神社は本来、静かなところです。夜だとなおさらで、気持ちを落ち着かせるには絶好の空間でしょう。

 賽銭箱の前に腰掛けると、遠くから聞こえる祭りの喧騒が、最高のバランスで耳に届きます。「動と静」を同時に味わっているかのようで、これこそが粋な祭りの楽しみ方。至近距離で太鼓の音を聞くよりも、少し離れた静かな闇の中で聞くほうが、はるかに心地いいのです。

 「粋でぜいたくな時間を過ごしている」

 自分をこう客観的に見たとき、気持ちが落ち着き始めます。りんご飴を舐めながらだと、子供のころを思い出して、ますますリラックスできるでしょう。

⑥大きな本屋のトイレ
 トイレというのは、誰もが落ち着ける場所です。考えごとをするには最適で、利用されている方も多いでしょう。

 自分の家のトイレが1番落ち着くのでしょうが、毎日使用しているため、防空壕としての効果は低いです。

 「たまに行く」

 これがミソで、日常と乖離した空間こそが、あなたの心を沈めてくれるのです。

 そこでオススメなのが、大きな本屋のトイレです。

 大きな本屋は、トイレの完成度が高いです。紀伊国屋やジュンク堂など、清潔かつ設備が充実していることから居心地は最高。適度な芳香剤の匂い、薄暗い照明など、空間の演出が見事なのです。

 みなさまの中にも、「本屋のトイレですると快便になる」という人は多いはず。それほど居心地がよく、自分が落ち着ける本屋のトイレを仕事場近くで探してください。

 なにより、本屋そのものがリラックス空間です。

 たくさんの本に囲まれると、不思議と心が和みます。本屋で気持ちを落ち着かせ、さらに落ち着かせるためにトイレに入れば、一気にリラックスできるでしょう。

 便意がなくても、便座に座れば、パンツは下ろすべきです。

 なぜだかわかりませんが、下半身を露出しているほうがリラックスできます。「下半身をさらけ出して自分をさらけ出す」みたく、妙に素直な気持ちになれるのです。

⑦健康ランドにある、ザコ寝できる畳の上
 スーパー銭湯をはじめとする、いわゆる健康ランド。

 健康ランドの風呂場を出ると、ちょっとした休憩所があります。たくさんの人がザコ寝をするためのもので、ここがむちゃくちゃ癒されるのです。

 床は、畳の場合が多いです。イグサには癒しの効果があり、長風呂で体がだるくなった勢いのまま眠れば、おそろしいまでの快眠になります。

 女性の方も、妙なプライドはいりません。スッピンで結構、すべてをさらけ出して、大の字に寝転んでください。ありのままの自分をさらけ出して寝転んだとき、これ以上ないぐらい、心が洗われますから。

 このとき、目の上に、水で冷やしたタオルを載せるのがオススメです。視線が遮られて、よりリラックスできるのはもちろん、ほてった体にタオルの冷たさがたまりません。

 眠気がなくても、壁にもたれかかっているだけで、かなり癒されます。

 この空間に、時間に追われている人はいません。人のくつろぐ姿を見て、「俺もたまにはゆっくりしないとダメだな……」と、自分を省みることができるのです。

 スーパー銭湯や健康ランドは、湯船に浸かるためだけに行くのではありません。風呂場を出てからが本来の癒しで、風呂上がりのビールやマッサージ機などを組み合わせて、トータルで自分を癒しましょう。

⑧レイトショーの映画館
 僕は月に何度か、ひとりで映画を観に行きます。誰かに誘われても断り、それも必ず、レイトショーに行きます。

 夜の映画館は、人が少ないです。空間全体が静寂に包まれ、その静寂とアンバランスな映画館の華やかさが、心地いいです。夜を独り占めしているかのようで、映画そのものではなく、この空間自体が大好きなのです。

 事前に上映時刻を調べておき、少し早めに中に入ります。ロビーのイスに座って、人がまばらにやってくる様子を見るのが好きで、ここで飲むコーラがまた、おいしいです。雰囲気が味の底上げをし、シネコン特有の装飾も相まって、どこか異国に来ているような錯覚に陥るのです。

 映画が始まっても、それほど真剣には観ません。空間そのものを楽しむのが目的なので、ガラガラの客席を意味なく移動したり、ほかのスクリーンに移動して別の映画をちょっとだけ観たりと、ちょこまかと動き回るのが楽しいのです。

 映画終わりには、映画館を出たところにある、深夜喫茶に入ります。

 個人経営のこじんまりとした店で、小粋なジャズが心を落ち着かせてくれます。閑散としており、窓際に座って、外の道路工事を眺めるのが大好きなのです。

 小腹がすいていたら、ナポリタンスパゲティーを食べます。口をケチャップまみれにしながら外を眺め、外から薄く射し込んでくる街灯の明かりがまた、なんとも言えず風流なのです。


 そして、最後。

 ここは、僕のとっておきの防空壕です。癒されるのはもちろんのこと、人生そのものを見つめ直すことができます。

⑨真夜中のサービスエリア
 僕はたまに、友達の車でドライブをします。金曜日の夜が多く、あてもなく高速道路に乗りつけて、どこぞのサービスエリアに入ります。

 真夜中のサービスエリアは、暗闇を踏んづけるかのようにたたずんでいます。適度な明かりが心地よく、外観を見るだけでテンションが上がってくるのです。

 ここは、決して広くはない「箱」です。ですがこの箱の中に、たくさんのものが詰まっています。

 夜中なのに開いているフードコート、嘘くさいおみやげ売り場、紙でめくるタイプのアイスクリームの自動販売機……。すべてがいい味を醸し出し、混味一体となって「粋な箱」になっています。

 外のベンチに座ると、たくさんの車が行き交っているのが見えます。オレンジ色の照明が闇に生え、心を沈めてくれるのです。

 なにより、ほどよく人が集まっています。方々からやってくるトラックの運転手をはじめ、僕らのような、あてのない連中もいます。

 「みなさん、少しは人生の休憩をしましょうよ!」

 彼ら彼女らがこう語りかけてくるかのようで、休憩地であるサービスエリアが、人生の休憩地であるかのように思えてくるのです。

 イスに座ってコーヒーを飲むと、心の隅々まで浄化されます。他愛のないことなのですが、これほどホッとできる時間を僕は知りません。あまりのリラックス感に、空間そのものが鏡となり、自分を照らしだしてくれるかのようなのです。

 この気持ちで自分を見つめ直すと、前向きになれます。それが明日への活力になり、イヤなこととも戦えるのです。

 これを「極上の時間」と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょうか?

 「週に1度、自分がリラックスできる空間に行き、疲れた心を癒す」

 仕事が忙しくとも、週末なら時間は取れるはず。週に1度でいいので、心の防空壕に出向いてください。

 キーワードは、「闇」「静寂」「ひとり」「雨」です。

 これらを複合的に併せ持つ空間を見つけ出し、疲れた心を浄化させましょう。

 子供というのは、近所に「秘密基地」を作ります。子供が遊ぶために基地を作るのに対して、大人は自分を省みるために、自分だけの基地を作ります。それが心の防空壕であり、空間セラピーになるのです。

 それでも防空壕を出た瞬間、急に孤独感に襲われます。子供のころ、遊園地を出た瞬間に感じる寂しさにも似て、「ハア。またつらい現実が待っている……」と悲しくなるんですね。

 ですが探せば、それすらも感じさせない空間があります。それが最高の防空壕で、僕にとってのそれは、先ほどご紹介した映画館近くの深夜喫茶です。

 この店は、おばあさんと若い女性の2人で経営しています。店を出るとき、いつも2人が入り口まで出てきて、僕を見送ってくれます。

 「ありがとうございました!気をつけてお帰りくださいね!」

 僕は毎回、心があたたかくなります。この言葉を聞きたくて行っているようなところもあり、僕はここを「ヒーリングカフェ」と呼んでいるほどなのです。

 みなさまも、自分に合った最高の防空壕を見つけ出してください。

 探せば必ずあります、それを見つけ出して、イヤなことがあればそこに避難しましょう。

馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察⑤(パソコン読者用)

※2010年・1月16日の記事を再編集


 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。


 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。


 そう、「ロストシャウト」です。


 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、『ロストシャウト帳』なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。


 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。


 なかでも、地方競馬のロストシャウター。


 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。


 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?」の考察⑤です。


 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介します。


①「地方競馬は狂っとる!そのうちわしら全員眠らされて、練炭焚かれて終わりや!」 50代・男性
 いきなり凄いのがきましたよ。気性の荒いオッサンで、近くに職員がいるのに、平気でこんなことを言うのです。


 仲間のオッサンたちも、絵に描いたような荒くれ者です。全身から「隙があったら財布を盗みますよ!」と言わんばかりの殺気を放ち、そのうちの1人が「練炭ぐらいやったら、まだましや。これヘタしたら、鎌でアキレス腱を切ってきよるで」って言ったんですよ。


 そんなことするか、お前!心配せんでもシャバにそんなイカツイ看守は存在せえへんわ!


 ちなみにこのオッサンは、ぜん息持ちです。毎回、ホルモン串を食べるものの、咳き込んで軒並み口から飛んでいくため、実質、食べてません。


②「絶対に当たる新聞をよこさんかい!」 50代・男性
 むちゃ言うなよ、お前!そんな新聞ないねん、この世の中に!


 このオッサンは新聞を指で叩きながら、予想する記者のダメっぷりを仲間に説明しています。「野田はクズ、宮垣もクズ」と軒並みクズ呼ばわりし、小泉という記者に至っては、「小泉はクズ中のクズ。クズすぎて、クズ以外に言葉が見つからへん」って言ったんですよ。


 言いすぎやろ、お前!何も悪いことしてへんのにクズ中のクズて!


 「浜田は戦後最大のクズ」


 戦後最大なん!?なみいる犯罪者を押しのけて、この競馬記者が戦後最大のクズなんや!?


 ですが、このオッサンもクズです。なにしろこのオッサン、競馬場にパジャマのまま来ますから。


③「わかれよ、俺!」 20代・男性
 知らんがな、そんなもん!声に出して言うなよ、そんなこと!


 「わかれよ、俺!わかれって、俺!」


 お前もわかれや、自分がおかしいことに!まず自分のおかしさをわかれ、お前は!


 「ほんまによ……」


 やっと静かになった……。ようやく予想に集中できる……。


 「わかれよ、俺!」


 ええ加減にせいよ!そもそも何がわからんねん!お前の何がわからんかがわからんねんって、ややこしいわ!


 あと余談ですが、こいつの顔はソバカスだらけで、銀河系みたいでした。


④「(券売機の行列で)ジジイは来世にせいや!」 20代・男性
 むちゃ言うなよ、お前!現世で買わしたれよ!


 「老いぼれに金はいらんやろ!」 


 いるわ!そこそこいるわ!食費もそこそこかかるし、そこそこのお年玉を孫にやりたいねん!


 締め切り直前の券売機には行列ができ、前の客がのろいと、後ろの客が暴言を吐いてきます。僕も1度、真後ろのヤクザみたいなオッサンに、めちゃくちゃ低い声で「急げや、てめえ」と言われたのです。


 怖すぎるわ!ていうかそのわりにはあんた、手に1000円しか持ってへんねんけど!?ドスきかすわりには買い方は相当ショボいねんけど!?


 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴。


⑤「インポ治したいのに!」 40代・男性
 ごめん、何言ってんの、自分!?公衆の面前で何言ってくれてんの!?


 「立ちたいんや!」


 「勝ちたいんや!」みたいに言うな!


 「立たしてくれよ!」


 「勝たしてくれよ!」みたいに言うな!


 「腹立つわ!」


 腹は立つんや!?下は立たんけど腹は立つんや!?


 ちなみにこの人、持ってたちくわもフニャフニャでした。


⑥「オンドレのやっとることは、酢豚のパイナップルと一緒や!」 50代・男性
 ……ピンとこんわ!ちょっと考えたけどピンとこんわ!


 「馬が豚やとしたら、騎手のお前はパイナップルや!」


 ……それでもピンとこんわ!なんとなくはわかるけどピンとこんわ!


 このオッサンは負けがこんで、イライラしています。場内のモニターに映る騎手に怒りをぶちまけ、しまいには「九州もんの騎手は毎回落馬しよる!」と叫んだのです。


 どんなデータやねん、それ!そもそもそいつらだって毎回落馬するんやったら騎手なんてやめとるわ!九州もんやからって体までバリカタじゃないねん!


 ちなみに余談ですが、この人は、軍手に名前を書いてました。


⑦「表彰式とかせんでええから、その分の金で川崎さんところのチビに運動靴買ったってくれよ!」 40代・男性
 勝手なこと言うな、お前!総会屋か!


 「頼むわ!」


 やかましいわ!そもそも運動靴ぐらいお前が買ったれよ!お前が馬券買わんかったらその金ですぐに買えるやろ!


 このオッサンは要注意人物としてマークしていたのですが、まあ強烈でしたよ。常にブチギレており、フードコートでつまようじが折れた際、「つまようじすら俺の言うこときかん!」と叫んだのです。


 マル暴か、お前!その異常なテンション、スケを兄貴に寝取られたときのマル暴のテンションやんけ!


 もう訳がわかりませんよ、こんな奴。


⑧「負けるんわかってるから、先にやけ酒飲んできた!」 50代・男性
 意味わからん!普通の酒やろ、それ!まだ負けてないんやから荒れたくても荒れようないやろ!


 「飲みすぎたわ」


 「今日のお前、いつになく荒れてたぞ!」


 なんで荒れんねん、お前!荒れようあるか、そんなもん!


 「飲みすぎてもう一銭もないわ!」


 家いとけや、じゃあ!家で母ちゃんのパイパイでも吸っとけや!


 このオッサンは、ベロンベロンです。足元がフラフラで柱にぶつかったのですが、その柱に「ごめん」と謝ってました。


⑨「(僕に)なあ兄ちゃん、わしが買うヤキソバに入ってるキャベツ、毎回、半生やねんけど?」 60代・男性
 知らんがな、そんなもん!ていうか誰やねん、お前!俺はお前と一面識もないねん!


 「どうしたらいい?」


 俺もどうしたらいいねん!こんなこと言われて俺もどうしたらいいかわからんわ!


 このオッサンは近くにいる人に、普通に話しかけてきます。一緒にいる僕の友達に至っては、「兄ちゃん、顔色悪いな。風邪引いてるんやったら、イモリの黒焼きが1番やで!」と言ってきたのです。


 無人島か、ここ!無人島ぐらいしかせえへんぞ、そんな荒療治!


 「イモリの黒焼き食べて、そのあとに薬飲んだら一発で治るわ!」


 薬飲んでるやんけ!お前それ薬で治っとんねん!お前は自主的に罰ゲームを受けてるだけやねん!


 ちなみに余談ですが、このオッサンはダウンジャケットを着ています。左のポケットの底が破れており、「これ、なんで破れたんですか?」と訊いたら、「小銭入れすぎた」と答えました。


⑩「アユノシオヤキハ、イマガシュン!」 20代・外国人
 外人やんな?「旬」とか言ってるけど、自分、外人やんな!?


 「デモ、オカネヲツカイスギテモウテ、クワレヘンワ」 


 どこ大に留学してん、お前!奨学金返せ、そんな日本語使うんやったら!


 こいつは、たくさんの外国人仲間と競馬場に来ています。誰もが外の屋台の食べ物に興味津々で、そのうちの1人が、鮎の塩焼き片手に現われたのです。


 外人が鮎食うなよ!お前もジャップがシェイクにポテトひたして食うの見たら変な感じするやろ!


 「ソレ、ホネゴト、タベラレルヨ!」


 お手上げやわ!そんなことまで言われたらもう、ジャップも白旗!


 この外人集団は、頻繁に阪神競馬場にいます。ゴール前に陣取っていることが多いので、一度、聞き耳を立ててください。恐ろしいぐらい、ありえない日本語が飛び交っていますから。


⑪「憲法違反や!」 60代・男性
 何条!?JRAがやってることの何がどう憲法に違反してんの!?


 「あきらかに憲法違反や。何条か忘れたけど、『すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』っていう奴があるやろ?」


 関係あるか、そんなもん!国家はそこまで過保護じゃないねん!


 「最低限度の生活もできひんぞ、わし!」


 カツサンド食ってるやろ、今!カツサンドは勝ち組のパンやぞ、お前!


 ちなみにこのオッサンは、前歯がほとんどありません。上の前歯が中央の2本のみ、下は左に3本、右に3本しかなく、テトリスしながらカツサンド食ってました。


⑫「(全然知らん奴が僕に)おはよう!」 60代・男性 
 誰やねん、お前!なあ誰、当たり前のように俺にあいさつしてきたけど!?


 「どない?」


 何がやねん!何がどないやねん、お前!で、お前がかぶってるそのパドレスの帽子はどないやねん!?


 「ハム、いる?」


 いきなりハムなん!?ちょっと待って、初対面の奴に会って3秒でハム渡すタイプなん、自分!?


 「ほな!」


 帰った!謎のセリフ連発してどっか行ったぞ!


 ちなみに余談ですが、このオッサンは、正露丸をおやつ感覚で食べてました。


⑬「今年の目標は競馬場に来ないことや!」 20代・男性
 もう来とるやろ、今まさに!お前のその目標は、お前が今この競馬場にいる時点で達成しようがないねん!


 この日は1月6日で、こいつは仲間を3人連れています。そいつらにも「今年の目標は何?」と訊き始め、1人は「車を買うこと」、もう1人は「本をたくさん読むこと」と答えたものの、最後の1人が「大根のかつらむきができるようになること」と答えたのです。


 ちっちゃ、目標!ワタミの社長に怒られるぞ!


 「今年こそはむけるようになりたい」


 おちんちんか!その言い方やとおちんちんの話に聞こえるわ!ちなみに俺も今年こそはむけるようになりたいって、何言わすねん、お前!新年早々、何を言わすねん!


 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴。


⑭「逆にか……。やっぱり逆にやな……。(僕に)逆にやな?」 50代・男性
 何が?ごめん、まったく意味がわからんねんけど何が逆になん!?


 「結局、逆にやわ。逆に買っておけば当たるわ。なあ?」


 だから何が!?一応は「そうですね」と答えたけど逆に訊くわ、何が逆になん!?


 このオッサンは「逆に」を連発してきます。僕は4レースから7レースまで隣にいたのですが、その2時間のあいだだけで30回以上言ったのです。


 ノルマあんのか、お前!口のリハビリの先生に「がんばって毎日『逆に』を30回言いましょうね!」とか言われたんか!?


 このオッサンはその後、「お金がなくなった!」と言って競馬場をあとにしました。ただ、ここでも「逆に」を意識したのか、出口と逆の方向に帰っていきました。


⑮「(うつむきながら)ハア…。ハア…。ハア…。……………………ゼロ」 60代・男性
 ブルーなるわ!悲しすぎてブルーなんねん!


 「ハア、ゼロ」


 ブルーなんねん、だから!


 「アー、ゼロ」


 トラウマなるわ!ブルーどころじゃないぞ、さっきの「逆に」といいこのゼロといい完全にトラウマなるからな!


 ちなみにこのオッサン、髪の毛もゼロでした。


⑯「雪が降ってきたな」「ほんまや」「♪雪やこんこんあられやこんこん 降っては降っては……。ごめん、この続き、なんやったっけ?」「降っては降っては降り方知らぬ、やろ?」「違う違う。降っては降っては……」「(隣の僕が)ずんずん積もるでしょ?」「そうやそうや。兄ちゃん、歌手か?」 60代・男性
 なんでやねん、お前!なんでそこ知ってたら俺、歌手やねん!


 「♪降っては降ってはずんずん積もる。犬は、犬は……」


 「(僕が)喜び庭かけまわり」


 「そうやそうや。歌手か?」


 だから違うねん!なんで俺を歌手に仕立てあげようとすんねん!


 「ハア、ゼロ」


 まだ言ってた!さっきの奴がまだ言ってた!ていうかお前こそ「ゼロ」という名で歌手デビューしろ!「♪ヤーヤーヤー!」と歌うアスカに「ハンギンゼロ!」と合いの手を入れろ!売り上げはゼロやけどな!


 ちなみにこのオッサンは、毎回、同じ座席に陣取ります。場所を離れる際、座席をほかの人に取られないようにイスの上に物を置いていくのですが、このオッサンは1度、フランスパンを置いていました。


⑰「未来を信じて!」 20代・男性
 捕虜か、お前!熱い捕虜か!母さんとの再会をあきらめてない捕虜か!


 こいつは、僕の学生時代の後輩です。変に熱いところがあり、僕が単勝1万円買った馬が2着になった際、「2着でいいんですよ、バスコさん。1着ばっかりだったら天狗になりますよ」と真顔で言ってきたのです。


 牧師か、お前!博打に精神論を持ち込むな!


 「むしろラッキーと思わなきゃ!」


 思えるか、そんなもん!博打で心を満たしてくれるんは「常勝」の2文字だけや!


 あとまったくの余談ですが、こいつは大学時代、酔った勢いでにぎりっ屁をしたものの、手にウンコが入っていました。


⑱「ハアハア。ゴホン、ゴホン。ハアハア」 70代・警備員
 ヨボヨボやねんけど、この警備員!?警備員のくせに死にかけてんねんけど!?


 「ハアハア!ハアハア!」


 ハアハアやあるか、お前!縁故採用か何か知らんけど何の戦力にもならんねん、お前みたいな奴!


 ジャブで死にそうなほどのジジイなのに、普通に勤務しています。頻繁に咳き込むのは当たり前、たまに、杖をついて勤務しているのです。


 ふざけんなよ、お前!どこの世界に杖つく警備員がおんねん!


 「ゴホンゴホン!アー、ゴホンゴホン!」


 ゴホンゴホンやあるか、お前!お前の勤務は来世にせいや!


 ちなみにこのジジイは、ババアの手作り弁当持参で来ています。昼休みに1度、ベンチに座って食べているところを目撃したのですが、弁当箱のフタを取った瞬間、「うっひょお~!!!」と叫んでました。


⑲「(お店の前で僕に)そこの兄ちゃん、おでん食べへんか?」「いらないです」「食べ食べ、あったかいで!」「いらないです」「いいから食べ食べ!」「いらないです!」「いいから食べ食べ!いいからいいから、いいからいいから、いいからいいから食べ食べ!」 50代・女性店員
 飛田新地か、ここ!その必死さ、完全に遊郭の客引きババアのテンションやんけ!


 「イスもあるし!」


 だからなんやねん!「えっ、イスあるんですか!?」と驚くとでも思ったか!


 このオバハンは、場内でおでん屋をやっています。アピールの仕方が尋常ではなく、過去に1度、めちゃくちゃかわいい声で「食べてくれないと、おばちゃん、死んじゃう!」って言ったんですよ。


 死んじゃってくれ!かまへんから勝手に死んじゃってくれ!


 「イスもあるし!」


 だからそれなんやねん!イスを売りにするってどういうことやねん!


 「おばちゃん、本当に死んじゃう!」


 死んじゃえや、だから!死んじゃえ死んじゃえ、イモリの黒焼き食べて死んじゃえ!


 それでも1度、僕は勢いに負けて店内に入りました。おでんとライスを注文したのですが、ここのライスが「古古古米」レベルで固く、しかも隣に座るオッサンの靴下の裏が、向こう100年その記録が破られないぐらい、真っ黒でした。



 そして、最後。


 これは、知り合いの競馬関係者から聞きました。とある地方競馬場の「伝説の野次」になっているらしく、文句なしに殿堂入りです。


⑳「(パドックで)おい、○○!逃げるなら右手、追い込むなら左手上げてくれ!落馬するなら、今この段階で自決してくれ!」 年齢不詳・男性
 何考えとんねん、お前!どこのどいつが「はい、わかりました!」とか言うねん!


 「ヤオ(八百長)で落馬するんやったら、きちんと自決してくれよ!」


 ええ加減にせいよ!そもそも自決って、三島由紀夫か!三島関係以外で自決なんて言い方使わんぞ!


 規制の影響で少なくなったものの、少し前まではパドックで当たり前のように、こんなやり取りが行われていました。地方競馬だといまだに存在することがあり、騎手に直接、乗り方を質問します。冗談半分に挙手する騎手もいる始末で、ほとんどコントなんですね。


 こんなことを隣で叫ばれたら、僕は、マフィアに銃を突きつけられてても笑います。ヘタしたらマフィア自身が笑ってもおかしくないので、文句なしに殿堂入りです。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみに私ごとですが、昨年は久々に、プラス収支になりました。


 勝ったお金で、アユノシオヤキヲ、ホネゴトタベマスワ……。



馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察⑤(携帯読者用)

※2010年・1月16日の記事を再編集

 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。

 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。

 そう、「ロストシャウト」です。

 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、『ロストシャウト帳』なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。

 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。

 なかでも、地方競馬のロストシャウター。

 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。

 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?」の考察⑤です。

 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介します。

①「地方競馬は狂っとる!そのうちわしら全員眠らされて、練炭焚かれて終わりや!」 50代・男性
 いきなり凄いのがきましたよ。気性の荒いオッサンで、近くに職員がいるのに、平気でこんなことを言うのです。

 仲間のオッサンたちも、絵に描いたような荒くれ者です。全身から「隙があったら財布を盗みますよ!」と言わんばかりの殺気を放ち、そのうちの1人が「練炭ぐらいやったら、まだましや。これヘタしたら、鎌でアキレス腱を切ってきよるで」って言ったんですよ。

 そんなことするか、お前!心配せんでもシャバにそんなイカツイ看守は存在せえへんわ!

 ちなみにこのオッサンは、ぜん息持ちです。毎回、ホルモン串を食べるものの、咳き込んで軒並み口から飛んでいくため、実質、食べてません。

②「絶対に当たる新聞をよこさんかい!」 50代・男性
 むちゃ言うなよ、お前!そんな新聞ないねん、この世の中に!

 このオッサンは新聞を指で叩きながら、予想する記者のダメっぷりを仲間に説明しています。「野田はクズ、宮垣もクズ」と軒並みクズ呼ばわりし、小泉という記者に至っては、「小泉はクズ中のクズ。クズすぎて、クズ以外に言葉が見つからへん」って言ったんですよ。

 言いすぎやろ、お前!何も悪いことしてへんのにクズ中のクズて!

 「浜田は戦後最大のクズ」

 戦後最大なん!?なみいる犯罪者を押しのけて、この競馬記者が戦後最大のクズなんや!?

 ですが、このオッサンもクズです。なにしろこのオッサン、競馬場にパジャマのまま来ますから。

③「わかれよ、俺!」 20代・男性
 知らんがな、そんなもん!声に出して言うなよ、そんなこと!

 「わかれよ、俺!わかれって、俺!」

 お前もわかれや、自分がおかしいことに!まず自分のおかしさをわかれ、お前は!

 「ほんまによ……」

 やっと静かになった……。ようやく予想に集中できる……。

 「わかれよ、俺!」

 ええ加減にせいよ!そもそも何がわからんねん!お前の何がわからんかがわからんねんって、ややこしいわ!

 あと余談ですが、こいつの顔はソバカスだらけで、銀河系みたいでした。

④「(券売機の行列で)ジジイは来世にせいや!」 20代・男性
 むちゃ言うなよ、お前!現世で買わしたれよ!

 「老いぼれに金はいらんやろ!」 

 いるわ!そこそこいるわ!食費もそこそこかかるし、そこそこのお年玉を孫にやりたいねん!

 締め切り直前の券売機には行列ができ、前の客がのろいと、後ろの客が暴言を吐いてきます。僕も1度、真後ろのヤクザみたいなオッサンに、めちゃくちゃ低い声で「急げや、てめえ」と言われたのです。

 怖すぎるわ!ていうかそのわりにはあんた、手に1000円しか持ってへんねんけど!?ドスきかすわりには買い方は相当ショボいねんけど!?

 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴。

⑤「インポ治したいのに!」 40代・男性
 ごめん、何言ってんの、自分!?公衆の面前で何言ってくれてんの!?

 「立ちたいんや!」

 「勝ちたいんや!」みたいに言うな!

 「立たしてくれよ!」

 「勝たしてくれよ!」みたいに言うな!

 「腹立つわ!」

 腹は立つんや!?下は立たんけど腹は立つんや!?

 ちなみにこの人、持ってたちくわもフニャフニャでした。

⑥「オンドレのやっとることは、酢豚のパイナップルと一緒や!」 50代・男性
 ……ピンとこんわ!ちょっと考えたけどピンとこんわ!

 「馬が豚やとしたら、騎手のお前はパイナップルや!」

 ……それでもピンとこんわ!なんとなくはわかるけどピンとこんわ!

 このオッサンは負けがこんで、イライラしています。場内のモニターに映る騎手に怒りをぶちまけ、しまいには「九州もんの騎手は毎回落馬しよる!」と叫んだのです。

 どんなデータやねん、それ!そもそもそいつらだって毎回落馬するんやったら騎手なんてやめとるわ!九州もんやからって体までバリカタじゃないねん!

 ちなみに余談ですが、この人は、軍手に名前を書いてました。

⑦「表彰式とかせんでええから、その分の金で川崎さんところのチビに運動靴買ったってくれよ!」 40代・男性
 勝手なこと言うな、お前!総会屋か!

 「頼むわ!」

 やかましいわ!そもそも運動靴ぐらいお前が買ったれよ!お前が馬券買わんかったらその金ですぐに買えるやろ!

 このオッサンは要注意人物としてマークしていたのですが、まあ強烈でしたよ。常にブチギレており、フードコートでつまようじが折れた際、「つまようじすら俺の言うこときかん!」と叫んだのです。

 マル暴か、お前!その異常なテンション、スケを兄貴に寝取られたときのマル暴のテンションやんけ!

 もう訳がわかりませんよ、こんな奴。

⑧「負けるんわかってるから、先にやけ酒飲んできた!」 50代・男性
 意味わからん!普通の酒やろ、それ!まだ負けてないんやから荒れたくても荒れようないやろ!

 「飲みすぎたわ」

 「今日のお前、いつになく荒れてたぞ!」

 なんで荒れんねん、お前!荒れようあるか、そんなもん!

 「飲みすぎてもう一銭もないわ!」

 家いとけや、じゃあ!家で母ちゃんのパイパイでも吸っとけや!

 このオッサンは、ベロンベロンです。足元がフラフラで柱にぶつかったのですが、その柱に「ごめん」と謝ってました。

⑨「(僕に)なあ兄ちゃん、わしが買うヤキソバに入ってるキャベツ、毎回、半生やねんけど?」 60代・男性
 知らんがな、そんなもん!ていうか誰やねん、お前!俺はお前と一面識もないねん!

 「どうしたらいい?」

 俺もどうしたらいいねん!こんなこと言われて俺もどうしたらいいかわからんわ!

 このオッサンは近くにいる人に、普通に話しかけてきます。一緒にいる僕の友達に至っては、「兄ちゃん、顔色悪いな。風邪引いてるんやったら、イモリの黒焼きが1番やで!」と言ってきたのです。

 無人島か、ここ!無人島ぐらいしかせえへんぞ、そんな荒療治!

 「イモリの黒焼き食べて、そのあとに薬飲んだら一発で治るわ!」

 薬飲んでるやんけ!お前それ薬で治っとんねん!お前は自主的に罰ゲームを受けてるだけやねん!

 ちなみに余談ですが、このオッサンはダウンジャケットを着ています。左のポケットの底が破れており、「これ、なんで破れたんですか?」と訊いたら、「小銭入れすぎた」と答えました。

⑩「アユノシオヤキハ、イマガシュン!」 20代・外国人
 外人やんな?「旬」とか言ってるけど、自分、外人やんな!?

 「デモ、オカネヲツカイスギテモウテ、クワレヘンワ」 

 どこ大に留学してん、お前!奨学金返せ、そんな日本語使うんやったら!

 こいつは、たくさんの外国人仲間と競馬場に来ています。誰もが外の屋台の食べ物に興味津々で、そのうちの1人が、鮎の塩焼き片手に現われたのです。

 外人が鮎食うなよ!お前もジャップがシェイクにポテトひたして食うの見たら変な感じするやろ!

 「ソレ、ホネゴト、タベラレルヨ!」

 お手上げやわ!そんなことまで言われたらもう、ジャップも白旗!

 この外人集団は、頻繁に阪神競馬場にいます。ゴール前に陣取っていることが多いので、一度、聞き耳を立ててください。恐ろしいぐらい、ありえない日本語が飛び交っていますから。

⑪「憲法違反や!」 60代・男性
 何条!?JRAがやってることの何がどう憲法に違反してんの!?

 「あきらかに憲法違反や。何条か忘れたけど、『すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』っていう奴があるやろ?」

 関係あるか、そんなもん!国家はそこまで過保護じゃないねん!

 「最低限度の生活もできひんぞ、わし!」

 カツサンド食ってるやろ、今!カツサンドは勝ち組のパンやぞ、お前!

 ちなみにこのオッサンは、前歯がほとんどありません。上の前歯が中央の2本のみ、下は左に3本、右に3本しかなく、テトリスしながらカツサンド食ってました。

⑫「(全然知らん奴が僕に)おはよう!」 60代・男性 
 誰やねん、お前!なあ誰、当たり前のように俺にあいさつしてきたけど!?

 「どない?」

 何がやねん!何がどないやねん、お前!で、お前がかぶってるそのパドレスの帽子はどないやねん!?

 「ハム、いる?」

 いきなりハムなん!?ちょっと待って、初対面の奴に会って3秒でハム渡すタイプなん、自分!?

 「ほな!」

 帰った!謎のセリフ連発してどっか行ったぞ!

 ちなみに余談ですが、このオッサンは、正露丸をおやつ感覚で食べてました。

⑬「今年の目標は競馬場に来ないことや!」 20代・男性
 もう来とるやろ、今まさに!お前のその目標は、お前が今この競馬場にいる時点で達成しようがないねん!

 この日は1月6日で、こいつは仲間を3人連れています。そいつらにも「今年の目標は何?」と訊き始め、1人は「車を買うこと」、もう1人は「本をたくさん読むこと」と答えたものの、最後の1人が「大根のかつらむきができるようになること」と答えたのです。

 ちっちゃ、目標!ワタミの社長に怒られるぞ!

 「今年こそはむけるようになりたい」

 おちんちんか!その言い方やとおちんちんの話に聞こえるわ!ちなみに俺も今年こそはむけるようになりたいって、何言わすねん、お前!新年早々、何を言わすねん!

 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴。

⑭「逆にか……。やっぱり逆にやな……。(僕に)逆にやな?」 50代・男性
 何が?ごめん、まったく意味がわからんねんけど何が逆になん!?

 「結局、逆にやわ。逆に買っておけば当たるわ。なあ?」

 だから何が!?一応は「そうですね」と答えたけど逆に訊くわ、何が逆になん!?

 このオッサンは「逆に」を連発してきます。僕は4レースから7レースまで隣にいたのですが、その2時間のあいだだけで30回以上言ったのです。

 ノルマあんのか、お前!口のリハビリの先生に「がんばって毎日『逆に』を30回言いましょうね!」とか言われたんか!?

 このオッサンはその後、「お金がなくなった!」と言って競馬場をあとにしました。ただ、ここでも「逆に」を意識したのか、出口と逆の方向に帰っていきました。

⑮「(うつむきながら)ハア…。ハア…。ハア…。……………………ゼロ」 60代・男性
 ブルーなるわ!悲しすぎてブルーなんねん!

 「ハア、ゼロ」

 ブルーなんねん、だから!

 「アー、ゼロ」

 トラウマなるわ!ブルーどころじゃないぞ、さっきの「逆に」といいこのゼロといい完全にトラウマなるからな!

 ちなみにこのオッサン、髪の毛もゼロでした。

⑯「雪が降ってきたな」「ほんまや」「♪雪やこんこんあられやこんこん 降っては降っては……。ごめん、この続き、なんやったっけ?」「降っては降っては降り方知らぬ、やろ?」「違う違う。降っては降っては……」「(隣の僕が)ずんずん積もるでしょ?」「そうやそうや。兄ちゃん、歌手か?」 60代・男性
 なんでやねん、お前!なんでそこ知ってたら俺、歌手やねん!

 「♪降っては降ってはずんずん積もる。犬は、犬は……」

 「(僕が)喜び庭かけまわり」

 「そうやそうや。歌手か?」

 だから違うねん!なんで俺を歌手に仕立てあげようとすんねん!

 「ハア、ゼロ」

 まだ言ってた!さっきの奴がまだ言ってた!ていうかお前こそ「ゼロ」という名で歌手デビューしろ!「♪ヤーヤーヤー!」と歌うアスカに「ハンギンゼロ!」と合いの手を入れろ!売り上げはゼロやけどな!

 ちなみにこのオッサンは、毎回、同じ座席に陣取ります。場所を離れる際、座席をほかの人に取られないようにイスの上に物を置いていくのですが、このオッサンは1度、フランスパンを置いていました。

⑰「未来を信じて!」 20代・男性
 捕虜か、お前!熱い捕虜か!母さんとの再会をあきらめてない捕虜か!

 こいつは、僕の学生時代の後輩です。変に熱いところがあり、僕が単勝1万円買った馬が2着になった際、「2着でいいんですよ、バスコさん。1着ばっかりだったら天狗になりますよ」と真顔で言ってきたのです。

 牧師か、お前!博打に精神論を持ち込むな!

 「むしろラッキーと思わなきゃ!」

 思えるか、そんなもん!博打で心を満たしてくれるんは「常勝」の2文字だけや!

 あとまったくの余談ですが、こいつは大学時代、酔った勢いでにぎりっ屁をしたものの、手にウンコが入っていました。

⑱「ハアハア。ゴホン、ゴホン。ハアハア」 70代・警備員
 ヨボヨボやねんけど、この警備員!?警備員のくせに死にかけてんねんけど!?

 「ハアハア!ハアハア!」

 ハアハアやあるか、お前!縁故採用か何か知らんけど何の戦力にもならんねん、お前みたいな奴!

 ジャブで死にそうなほどのジジイなのに、普通に勤務しています。頻繁に咳き込むのは当たり前、たまに、杖をついて勤務しているのです。

 ふざけんなよ、お前!どこの世界に杖つく警備員がおんねん!

 「ゴホンゴホン!アー、ゴホンゴホン!」

 ゴホンゴホンやあるか、お前!お前の勤務は来世にせいや!

 ちなみにこのジジイは、ババアの手作り弁当持参で来ています。昼休みに1度、ベンチに座って食べているところを目撃したのですが、弁当箱のフタを取った瞬間、「うっひょお~!!!」と叫んでました。

⑲「(お店の前で僕に)そこの兄ちゃん、おでん食べへんか?」「いらないです」「食べ食べ、あったかいで!」「いらないです」「いいから食べ食べ!」「いらないです!」「いいから食べ食べ!いいからいいから、いいからいいから、いいからいいから食べ食べ!」 50代・女性店員
 飛田新地か、ここ!その必死さ、完全に遊郭の客引きババアのテンションやんけ!

 「イスもあるし!」

 だからなんやねん!「えっ、イスあるんですか!?」と驚くとでも思ったか!

 このオバハンは、場内でおでん屋をやっています。アピールの仕方が尋常ではなく、過去に1度、めちゃくちゃかわいい声で「食べてくれないと、おばちゃん、死んじゃう!」って言ったんですよ。

 死んじゃってくれ!かまへんから勝手に死んじゃってくれ!

 「イスもあるし!」

 だからそれなんやねん!イスを売りにするってどういうことやねん!

 「おばちゃん、本当に死んじゃう!」

 死んじゃえや、だから!死んじゃえ死んじゃえ、イモリの黒焼き食べて死んじゃえ!

 それでも1度、僕は勢いに負けて店内に入りました。おでんとライスを注文したのですが、ここのライスが「古古古米」レベルで固く、しかも隣に座るオッサンの靴下の裏が、向こう100年その記録が破られないぐらい、真っ黒でした。


 そして、最後。

 これは、知り合いの競馬関係者から聞きました。とある地方競馬場の「伝説の野次」になっているらしく、文句なしに殿堂入りです。

⑳「(パドックで)おい、○○!逃げるなら右手、追い込むなら左手上げてくれ!落馬するなら、今この段階で自決してくれ!」 年齢不詳・男性
 何考えとんねん、お前!どこのどいつが「はい、わかりました!」とか言うねん!

 「ヤオ(八百長)で落馬するんやったら、きちんと自決してくれよ!」

 ええ加減にせいよ!そもそも自決って、三島由紀夫か!三島関係以外で自決なんて言い方使わんぞ!

 規制の影響で少なくなったものの、少し前まではパドックで当たり前のように、こんなやり取りが行われていました。地方競馬だといまだに存在することがあり、騎手に直接、乗り方を質問します。冗談半分に挙手する騎手もいる始末で、ほとんどコントなんですね。

 こんなことを隣で叫ばれたら、僕は、マフィアに銃を突きつけられてても笑います。ヘタしたらマフィア自身が笑ってもおかしくないので、文句なしに殿堂入りです。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみに私ごとですが、昨年は久々に、プラス収支になりました。

 勝ったお金で、アユノシオヤキヲ、ホネゴトタベマスワ……。


死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?の考察・後編(パソコン読者用)

※2008年・8月31日の記事を再編集


 「ギャーーー!!!」


 神林のウンコを見た僕は、絶叫しました。


 現場は騒然です。直接見た僕はもちろんのこと、松山さんと吉田も、持っていたパンを落として腰を抜かしたのです。


 そこで今回は、「死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?」の考察・後編です。


 「お前、何者やねん!なんでこんなことすんねん!」


 先輩にもかかわらず、僕はため口で声を荒げました。


 僕に怒鳴られても、神林は平然としています。ワケのわからない言い訳を始めたのです。


 「洞窟でウンコをしたら、自然に失礼やろ。だからタッパにしたんや」


 どんなエコ精神やねん、それ!地球に優しくする前に俺らに優しくしてくれよ!


 「探検家は自然を愛してこそ探検家やねん」


 何を名言みたいな言い方してくれとんねん!言うとくけど、これがキッカケで戦争起こってもおかしくないねんぞ!柳条湖事件と同じぐらいのことやってんねんぞ、お前は!


 「ち、ちなみに、お尻は何で拭いたんですか?」


 「……」


 「何で拭いたんですか!?」


 「湖で泳ぎながら手で拭いた」


 勘弁してくれよ、おい!真横で泳いでたやんけ、俺ら!


 「湖で泳ぐまでは拭いてなかったってことですか!?」


 「そうや」


 そうややあるか、お前!なんで拭かへんねん!移動中の移民でもウンコしたらヤツデかなんかで拭くぞ!


 吉田なんて、ドン引きしてましたよ。春合宿のウンコ事件こそ聞かされて笑っていたものの、いざ自分が歴史の証人になって、言葉を失ったのです。


 松山さんもブチギレです。


 「死んだらええねん、お前!そりゃ4浪もするわな!」


 神林に怒鳴り散らし、「食欲がなくなった!」と言って、バナナを食べるのをやめたのです。


 このあと、行きしなに来た道を引き返すときも、話題はそのことで持ち切りです。


 「もう何なん、あいつ!」


 「頭おかしいんと違うか、あいつ!」


 僕らは神林に聞こえているのも承知で、悪口を言いまくります。


 なのに当の本人は、ことの重大さを理解していません。


 「写真を撮るよ!はい、チーズ!」


 こう言って、カメラのシャッターを押し続けたのです。


 空気読めよ、お前!そんな気分じゃないねん、お前のせいで!


 「その壁をバックに写真撮るわ!」


 普通の壁やんけ、これ!もうちょっとイケてる背景選べよ!


 「バスコ、シャッター押してくれ?」


 お前が撮れや!お前が誘ってんやったらお前がシャッター押せや!俺もう裁判用に証拠押さえにかかるぞ!この数時間だけで充分、お前を告訴できるんやからな!


 このように、やることなすことすべてにイライラさせられるのです。


 時刻は午後3時をまわりました。


 僕らは神林に振りまわされながらも、ようやく洞窟から出ました。8時間の長丁場だったものの、いろいろなことがありすぎて、とても速く感じられました。


 森を抜けて、テントに戻りました。


 テントの近くには、村人がいます。体の汚れを落とすために、「田んぼのホースを貸してもらえませんか?」とお願いしたところ、ご厚意で、家のお風呂を貸してもらえることになったのです。


 僕らは、家まで案内してもらいました。家に到着し、お風呂の大きさを考えて2人ずつ入ることになったのですが、松山さんと吉田が、有無を言わさず先に入ったのです。


 勘弁してくれよ、おい!なんで神林と一緒に入らないとあかんねん、俺!


 「えー、バスコと一緒に入んの!?」


 こっちのセリフじゃ!8000:0でこっちのセリフじゃ!『クイズ100人に聞きました』やったら、101人が「バスコさんのセリフです」って言うわ!


 「それよりバスコ、この家をバックに写真撮ってや?」


 何の記念になんねん、家の写真撮って!劇的ビフォーアフターやないねんぞ!


 「いや、やっぱりこのトラクターをバックにするわ!」


 専業農家か!「俺は米作り1本でいく!」みたいな奴か!


 結局、僕と神林は、外のガレージに座って待つことになりました。


 ありがたいことに、家の人がリンゴを剥いてくれました。


 しばらくして、神林がトイレを借りることになったのですが、手には例のタッパを持っています。家の人に、「割り箸を一膳もらえませんか?」とお願いしたのです。


 ウンコ流すんと違うんかい、それ!割り箸でウンコつかんで便器に流すんやろ!?


 「……お客さん、割り箸なんて何に使うんですか?」


 「タッパのウンコを箸で……」


 「いや、なんでもないです!トイレだけ貸してあげてください!」


 なんで俺がこんなこと言わないとあかんねん!しかも俺はタッパを引ったくってもうたやんけ!どんなキラーパスやねん、これ!


 この人は、リンゴをくれた先ほどの人と違います。食べ終わったリンゴのタッパと勘違いして、受け取ろうとしました。僕が慌てて、「いや、これは違うタッパなんで!」と訂正したのでよかったものの、親切な人にもキラーパスをしかけたのです。


 こんなもん、万が一渡してたら、えらいことになってましたよ。なにしろ、洗おうとフタを開けたら中身はウンコです。「おまわりさん、スカ○ロ好きの旅人が家のガレージにいます!」と通報されかねないんですね。


 しばらくして、松山さんと吉田が出てきました。僕もお風呂に入ることにしたのですが、神林が、体についたドロを落とさずに湯船に浸かりやがったのです。


 お前、あとに浸かる俺のことも考えろよ!ランボーでも民家の風呂借りるときはもうちょっと気遣うぞ!


 「あー、いい湯や!」


 ジジイか!冬場のジジイか!


 「まるでスーパー銭湯に来たみたいやわ!」


 温泉にせいや!そんなん言うんやったらもう温泉でええやんけ!比喩が中途半端やねん!


 結局、僕はシャワーだけで我慢しました。


 お風呂を出て、体を拭きました。家の人にお礼を言って家を出ようとしたところ、家の人がおにぎりを渡してくれました。今日はそれを晩ご飯にすることにし、僕らはテントに戻りました。


 時刻は夕方の5時をまわっています。


 おにぎりを食べ始めた僕らは、あまり会話をしません。僕を筆頭に誰もが神林にイライラしているため、テント内は殺伐としているのです。


 すると、松山さんが仕掛けました。


 「罰ゲームをかけて、UNOをしようや!」


 松山さんはUNOを持ってきています。全員でやることになり、UNOが始まるやいなや松山さんは、神林が負けるようにイカサマをしまくったのです。


 神林は鈍感です。神林が持ってる数字を指で教えたり、神林の札の色を、その色のモノを触ることで僕と吉田に知らせてきました。


 その結果、8割以上の確率で、神林が負けました。罰ゲームとして、「自分の靴の中に砂を入れる」「ここから近いスーパーではなく、ひとつ向こうのコンビニでジュースを買ってくる」などをやらされたのです。


 ざまあみろ、ボケ!ふざけたことばっかりしてるから罰が当たったんじゃ!


 エスカレートした僕は、こう提案しました。


 「次の罰ゲームは、自分の母親に電話して、『クン○リングス』と言うのはどうですかね?」


 ほかの3人も僕の話に乗り、究極の罰ゲームをかけた戦いが始まったのです。


 もちろん、十中八九、神林が負けます。僕はワクワクしていたのですが、僕が負けたんですよ!今まで1度も負けてなかったのに、神林と2人残されたとき、緊張で「UNO!」と言うのを忘れて手札がおもくそ増えてしまったのです!


 シャレならんわ、マジで!なんか宗教に入りたくなってきた!


 緊張しすぎて、体が震えてきました。


 「ほかの罰ゲームにしてもらえませんかね?」


 涙ながらにみんなにお願いしたものの、聞き入れてもらえません。松山さんの携帯電話を使って、僕の母親に電話することになったのです。


 幸いにも、クン○リングスではなく、クン○とリングスとに分け、何かの言葉に混ぜて言ってもいいように許可してもらいました。


 無理言って、お酒を飲ましてもらいました。ある程度酔うのを待って、僕は家に電話をしたのです。


 出るなよ、オカン……。オカンがいなかったら、この罰ゲームはしないで済むからな……。


 「はい、もしもし」


 出やがった!最悪や!


 「も、もしもし、オカン?」


 「たけし、か。どないしたん?」


 「い、今、探検部の合宿で、岡山に来てるんやんか」


 「そうなんや。元気か?」


 「うん、クン○クン○」


 「えっ?」


 「いや心配せんでも、クン○でやってるから」


 「……そうかいな」


 「何かおみやげ、いる?」


 「いらんよ、そんなん。気を遣わんでいいよ」


 「岡山やから、きびリングスだんごとかどう?」


 「えっ?」


 「きびリングスだんご」


 「きびだんごやろ?」


 「そうそう、きびだんご」


 「そんなことより、今度はいつ実家に帰ってくるんや?」


 「合宿が終わったら、すクン○帰るわ」


 「わかった」


 なんやねん、これ!なんやねんこれ、マジで!心配せんでもクン○でやってるからって、心配やわ、合宿でクン○するような奴!で、きびリングスだんごってなんやねん!しっとりしてて逆にうまそうんけ!


 電話を切ったあと、尋常じゃないぐらい、冷や汗が出てましたよ。このことがトラウマになり、今思い出すだけでも、体が震えてくるほどですから。


 時刻は9時をまわりました。


 明日も朝は早いです。UNOをやめて、そろそろ寝ることにしました。


 ですが、母親への電話のことを思い出して、僕は眠れません。とりわけ僕の脳裏には、僕が電話をしているときに大笑いしていた、神林の顔がこびりついています。神林が嫌いすぎて、本気で殺してやろうかな、とまで考えてしまうのです。


 気分転換に散歩をしようと思ったものの、雨が降り始めています。結局、この日もお酒を飲み、アルコールの力を使って眠りました。


 迎えた、翌朝。


 UNOで負けた神林が食事係になったことで、僕らは神林に起こされました。


 外は、あいにくの大雨です。テントの中で朝ご飯を食べ、ぬかるみで転倒しないように、トレッキングシューズに草を巻きつけました。


 時刻は6時30分。レインコートを羽織り、僕らは出発の準備を整えました。


 「じゃあ、行くぞ!雨降ってるから気をつけてな!」


 松山さんの号令のもと、僕らは森に入りました。


 昨日と同じルートで、森の中を進んでいきます。


 森全体に降りそそぐ雨が、木の葉を介して顔に当たってきます。そして途中、小さな川に架かった丸太橋で、神林が足をすべらして川に転落したのです。


 「ギャハハハハ!しっかりしてくださいよ、神林さん!」


 昨晩の仕返しとばかりに、僕はゲラゲラと笑ってやりました。


 10分ほど歩いて、洞窟の入り口に到着しました。


 大雨のため、洞内には水が侵入し始めています。危険なケービングになることが予想されたため、松山さんの指示で、今日もあまり深くには入洞しないことになりました。


 前日同様に、泥水の中を歩きます。松山さんを先頭に進み、メインホールに到着しました。


 メインホールには、たくさんの人がいます。


 訊くと、地元の岡山大学の探検部らしいです。一緒に座って話をすることになったのですが、メンバーの中に女の子を見つけた神林が、急にはりきり始めました。新入生だというのを聞いて、「新人やったら、ここの洞窟が手ごろやろうな!」と、やたらと上からしゃべり始めたのです。


 うざいわ、こいつ!取材きそうやわ、もう!


 「でも無理したらあかんぞ!探検家には引くことも大切やからな!」


 なんでそんな偉そうやねん、お前もほとんど新人のくせに!お前だって、転校生が初日からドッジボール仕切りだしたらイヤやろ!


 「たまには引けよ!!!」


 引くわ、俺ら!その引くじゃなくてドン引き、お前みたいな奴!で、たまにじゃないわ、ずっと引いてる!
 

 イライラした僕は、神林の鼻を折ってやることにしました。


 「神林さん、今日はタッパにウンコをしないでくださいよ!」


 ことの顛末を説明したところ、岡山大学の探検部は大爆笑です。「昨日どころか、春にここに来たときもタッパにウンコをしたんですよ!」と続けて、神林をさらしものにしてやったのです。


 あー、すっきりした!少しは憂さが晴れたわ!


 ムッとする神林を見て、胸のつっかえが取れました。


 ところがです。


 神林が、「してないよ、そんなこと!」と、めちゃくちゃな言い訳を始めました。


 「してたでしょ?このタッパにしてたでしょ!?」


 僕は神林にダメージを与えるために、勇気を出して、神林のカバンから例のタッパを取り出しました。取った拍子にタッパのフタが取れたのですが、まだウンコが入ってたんですよ!!!


 なんでやねん、お前!処理しとけよ、昨日のうちに!


 「なんで捨ててないねん!?」


 「捨てるところがなかったんや!」


 お前もう、親もろとも死ね!ここまできたらもう、お前を産んだ親にも責任取らせるわ、親もろとも死ね!


 岡山大学の探検部は、ドン引きです。松山さんが「すいません、こいつ、頭おかしいんですよ!」と謝罪したものの、全員の顔が青ざめているのです。


 逃げるように、岡大探検部は出発しました。


 遅れて僕らも出発することになり、僕はここで急遽、洞窟の奥にまで進むことを提案しました。雨が侵入しているため、簡単なケービングしかしない予定だったものの、SRTを必要とする難易度の高い穴を指定したのです。


 僕はケービングを極めたいがために、こんな提案をしたのではありません。神林にケガをさせることが目的なのです。


 SRTの練習をしたとき、神林はヘタでした。雨が侵入して壁面が濡れていることからも、降下中にミスをする可能性があるのです。


 正直、悪魔みたいな奴です。ですがこのときの僕は、心が完全にスターリン化していました。同じ空間で息をするのもイヤなぐらいで、何の躊躇もありませんでした。


 「そうやな!せっかくSRTを練習してきたことやしな!」


 松山さんも、僕の提案に乗ってくれました。そして先ほど岡大探検部に教えてもらった、見るからに危険そうな穴に降りることになったのです。


 穴には、松山さん、吉田、神林、僕の順で降下します。比較的技術のある僕が最後に残り、上から吉田と神林をサポートすることになりました。


 SRTは、穴の落ち口からザイル(ロープ)を垂らし 、「アセンダー」「ディセンダー」と呼ばれるギアを使用して昇り降りします。ザイルを岩場にくくりつけ、順番に降りて行くことになりました。


 「ザイル、ダウン!」


 松山さんが叫び、穴に降りていきました。続く吉田も不器用ながらもなんとか降り、神林の番になりました。


 神林は緊張しています。ゆっくりと降り始めたものの、声を震わせて僕に指示を仰いできます。


 「壁面が滑るんやけど、どうしたらいい?」


 「ディセンダーからミシミシと音がしてるけど、大丈夫かな?」


 アドバイスを求められても、僕は冷たいです。


 「大丈夫ですよ!とにかく、ごちゃごちゃ言わんと降りて行ったらいいから!」


 神林を突き放し、声をかけるどさくさに紛れて、べらぼうにツバを吐きかけてやりました。助けるフリをして目元にライトを当てたり、「右の突起をつかんで!違う、やっぱり左や、いや右や!」と、適当な指示を出してやったのです。


 ですが、僕の「努力」は報われません。神林が無事に到着しやがったのです。


 僕は、捲土重来を期してこの場はあきらめることにし、神林に続いて降りました。


 ここからは前日同様、匍匐前進が続きます。


 隊列はSRTのときと同様、松山さん、吉田、神林、僕の順。泥水の中を、体を屈めて進みます。


 前日とは比較にならないぐらい、幅は狭いです。口に泥が入るのはもちろん、周囲が暗くてめちゃくちゃ怖いのです。


 コウモリなど、当たり前のようにいます。さながらランボーがどこかを脱出するかのようで、冒険心に火がついた神林が、はりきり始めたのです。


 「♪テーテレッテー テーテテー!」


 また出た、このメロディー!こんな狭いところで歌うなよ!耳が甲子園球場なるわ!


 「♪テーテレッテー テーテ たん・けん・ぶ!」 


 それなんやねん、おい!何、その気持ち悪い替え歌!?


 「♪テーテレッテー テーテテー!テーテたんけん たんけん たんけん たんけん……」


 たんけんが多いねん!そんなにも入れる隙ないわ、この曲!


 「♪テーレッテテー!」


 たんけんぶって言えや、最後!お前、ノリ的に最後はたんけんぶやろ、この歌!気持ち悪い歌やけど締めるところはちゃんと締めてくれよ!


 このように常時、神林に振りまわされます。僕のイライラは、ますます膨らんできました。


 狭い洞内を、深部を目指して、ひたすら進みました。


 広い場所に出ると、立ち上がって歩きます。狭くなれば匍匐前進し、下穴があればSRTを使うなど、同じ作業を何度もくり返しました。


 さすがにSRTを必要とするところだけあって、場所によっては苦労しました。雨が入り込んでいるため、昨日よりも滑りやすいです。神林をいたぶる気にもなれないほど危険な穴があり、死力を尽くさなければなりません。


 かすり傷はもちろんのこと、足をすべらして地面に叩きつけられることもあります。夢中になりすぎて時間がたつのも忘れ、気がつくと、3時間以上も経過していました。


 そのときです。


 「松山さん、穴に挟まりました!」


 神林が穴に挟まりました。がんばったかいあって、ついに仕返しのチャンスが到来したのです。


 この穴は横穴で、穴の幅は狭いです。先に穴を通過した吉田は、道の幅が1メートルもないことから、狭すぎて神林を引っ張ることができません。助けられるのは後ろの僕しかいないのです。


 「バスコ、後ろから押してくれ!」


 神林が僕にお願いしてきたので、僕はこう言ってやりました。


 「神林さん、これ、手で押しても無理なんで、お尻を足で押してもいいですかね?」


 神林としても、そうしてもらうしかありません。正直、手で強く押せばなんとかなりそうなのに、唯一の命綱である僕がそう言うので、言うことを聞くしかないのです。


 「いいよ!とにかくなんでもいいから、俺の体が前に進むようにしてくれ!」


 なんでもいいんや……。何をしても許されるんや……。


 この瞬間、僕の中で、何かがはじけました。積年の恨みを思い出して、神林のお尻を蹴ることにしたのです。


 「お前が脱走したせいで、俺は重い砂を持たされたんや!」


 「なんでお前のウンコを3回も見ないとあかんねん!」
 
 「部でまわしてる裏ビデオを早く俺に渡せ!」


 こんなふうに心の中で叫び、足が折れるぐらい、蹴りたおしてやったのです。


 途中で、「痛い!蹴るんじゃなくて押してくれ!」と言われて勢いこそ削がれたものの、押すのでさえ、肛門にトレッキングシューズの金具の部分を押しつけてやりました。


 あー、すっとした!嫌いな奴を蹴るって、こんなにも気持ちのいいもんなんや!


 神林が穴から抜け出た瞬間、僕の目尻が下がりました。


 しかもこんなに蹴らしてもらえたのに、「ありがとう!」とお礼まで言われました。溜まっていたストレスが一気に発散されたのです。


 ですが、やりすぎた僕に、神様が罰を与えたのでしょう。神林に続いて僕も穴に体を通したところ、今度は僕が挟まってしまったのです。


 胴が完全に挟まり、力を込めたくても、周囲に持つところがありません。まったく身動きがとれないのです。


 「神林さん、今度は僕が挟まりました!助けてください!」


 僕は叫びました。


 とはいえ、神林は助けたくても、場所が狭すぎて手を貸せません。体の向きが反対のため助けようがなく、神林は僕を置き去りにして去って行ったのです。


 狭くて暗くて、半泣きになりました。友達のいない転校生のごとく、あまりに心細くて、今にも泣き出しそうなほどです。


 しばらくして、はるか向こうから頭を前にしてこちらにやってくる、1人の男を発見しました。


 「待ってろよ!」


 こう叫びながら、誰かが匍匐前進でこちらに向かってきたのです。


 それは顔中毛むくじゃらの男、そう、ほかならぬ神林だったのです。


 神林、いや神林さんは、広いところに出て向きを変え、Uターンしてくれました。


 「バスコ、今すぐに行くからな!」


 僕に声をかけて励まし、ゆっくりではあるものの、僕に近づいてきます。


 僕の前に到着して、狭いながらにも、僕の両手をつかみました。半身になって両足を壁面にぶつけ、力の反動を利用して僕を引っこ抜いてくれたのです。


 俺はなんてバカやったんや……。神林さんはこんなにいい人なのに……。


 神林さんのウンコが、アイドルのウンコのように清潔に思えてきました。ブサイクな顔面も、「見ようによれば、これは個性的と言えるな!」とばかりに、神林さんのことを好きになっていたのです。


 先ほど蹴りたおした自分を、殺したくなりました。神林さんが悪かったとはいえ、トータルで考えても、まだ「9:1」で悪いとはいえ、自分のその1が、とてつもなく情けないものに思えました。そして、神林さんの唯一の善なる行為が、黄金のように光り輝いて見えたのです。


 「神林さん、ありがとうございました!」


 心の底から、感謝の言葉を述べる自分がいました。そして2人して進み、松山さんたちと合流したのです。


 時刻はお昼をまわっています。眼前にある剥き出しの岩に座って、昼ご飯を食べることになりました。


 この岩場は、自然のかたまりです。かなり深部にまで来たこともあり、自然の息遣いが聞こえてくるかのようなのです。


 潤いを気化したかのような空気、マイナスイオンを集約したかのような透明のツララ、歴史を刻む琥珀色の鍾乳洞……。「俺は今、青春を謳歌しているんだな!」と自分を客観的に見たとき、自然と時間が調和された空間に、心が震えました。


 神林さんにしたことが、心底、恥ずかしく思えました。純正の自然を体感し、自省した気分で、ポリタンクに入ったポカリスエットを仲間でまわし飲みするのを見たとき、神林さんを含めた全員が、大親友のように思えました。


 ところがです。いろいろありましたが、この合宿、最後のところがです。


 僕らは昼ご飯を食べ終えました。いい時間になったので、引き返すことになりました。


 すると神林さんの近くに、天井から落下したと思われる、30センチほどの鍾乳石を発見したのです。黄色がかったキレイな鍾乳石で、僕はこれを見た瞬間、「持って帰りたい!」という衝動に駆られました。


 「俺、これ、持って帰ろうかな!」


 ですが、神林さん、いや神林が、「いや、これ、俺が持って帰るから!」と邪魔をしてきました。その存在すらも気づいていなかったのに、僕が感激するのでほしくなったのでしょう。「これ、俺が先に見つけたから!だからここに座ってたから!」と、まくしたててきたのです。


 僕としても、最後にケンカなどしたくはありません。スッキリとした気分で、合宿を終えたいのです。


 「神林さん、それやったら、ジャンケンをしましょうよ?」


 僕が不本意ながらも大人の提案をしたところ、神林がこう言ったのです。


 「バスコ、さっき助けてやったやんけ!」


 史上最低か、お前!それが20歳過ぎた奴の言うことか!


 「助けてやってんから、あきらめろや!」


 「イヤですよ!」


 「ほんまにバスコは人間が小さいよな!」


 お前に言われたくないねん!お前より小さいんはチンチンだけじゃ、俺!


 結局、ジャンケンをすることになったものの、僕は神林に負けました。散々苦しめられた神林に、最後におみやげまで奪われてしまったのです。


 来た道を引き返すとき、僕は今までにも増して、神林の背中にツバを吐きかけました。今までのイライラを完全に取り戻し、まわし飲みするポカリスエットの中に、タンを入れて渡してやったのです……。



 その日から、1週間後。


 部室に寄ると、机の上に、この合宿のアルバムが置いてありました。


 アルバム作成係は神林です。写真を収め、各写真にひと言コメントを添えたアルバムができあがっています。


 意外にも、完成度は高いです。時間軸に沿って構成してあり、僕が今まで見たアルバムの中でも最高のできばえだったのですが、めくっていくうちに、僕が苦しそうにしている写真を発見したのです。


 その写真には、こうコメントが添えられてありました。


 『穴に挟まるバスコ!今にも泣き出しそうな顔をしています!』


 そう、こいつはどさくさに紛れて、僕が穴に挟まってるときの顔を写真に収めていたのです!フラッシュをたいていないので写真こそ暗いものの、僕が焦ってまわりが見えないのをいいことに、僕の泣きそうな表情を撮ってやがったんですよ!


 死ね!幸せをつかむその直前に死ね!しかも三途の川で溺死してあの世ですら幽霊になれ!!!


死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?の考察・後編(携帯読者用)

※2008年・8月31日の記事を再編集

 「ギャーーー!!!」

 神林のウンコを見た僕は、絶叫しました。

 現場は騒然です。直接見た僕はもちろんのこと、松山さんと吉田も、持っていたパンを落として腰を抜かしたのです。

 そこで今回は、「死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?」の考察・後編です。

 「お前、何者やねん!なんでこんなことすんねん!」

 先輩にもかかわらず、僕はため口で声を荒げました。

 僕に怒鳴られても、神林は平然としています。ワケのわからない言い訳を始めたのです。

 「洞窟でウンコをしたら、自然に失礼やろ。だからタッパにしたんや」

 どんなエコ精神やねん、それ!地球に優しくする前に俺らに優しくしてくれよ!

 「探検家は自然を愛してこそ探検家やねん」

 何を名言みたいな言い方してくれとんねん!言うとくけど、これがキッカケで戦争起こってもおかしくないねんぞ!柳条湖事件と同じぐらいのことやってんねんぞ、お前は!

 「ち、ちなみに、お尻は何で拭いたんですか?」

 「……」

 「何で拭いたんですか!?」

 「湖で泳ぎながら手で拭いた」

 勘弁してくれよ、おい!真横で泳いでたやんけ、俺ら!

 「湖で泳ぐまでは拭いてなかったってことですか!?」

 「そうや」

 そうややあるか、お前!なんで拭かへんねん!移動中の移民でもウンコしたらヤツデかなんかで拭くぞ!

 吉田なんて、ドン引きしてましたよ。春合宿のウンコ事件こそ聞かされて笑っていたものの、いざ自分が歴史の証人になって、言葉を失ったのです。

 松山さんもブチギレです。

 「死んだらええねん、お前!そりゃ4浪もするわな!」

 神林に怒鳴り散らし、「食欲がなくなった!」と言って、バナナを食べるのをやめたのです。

 このあと、行きしなに来た道を引き返すときも、話題はそのことで持ち切りです。

 「もう何なん、あいつ!」

 「頭おかしいんと違うか、あいつ!」

 僕らは神林に聞こえているのも承知で、悪口を言いまくります。

 なのに当の本人は、ことの重大さを理解していません。

 「写真を撮るよ!はい、チーズ!」

 こう言って、カメラのシャッターを押し続けたのです。

 空気読めよ、お前!そんな気分じゃないねん、お前のせいで!

 「その壁をバックに写真撮るわ!」

 普通の壁やんけ、これ!もうちょっとイケてる背景選べよ!

 「バスコ、シャッター押してくれ?」

 お前が撮れや!お前が誘ってんやったらお前がシャッター押せや!俺もう裁判用に証拠押さえにかかるぞ!この数時間だけで充分、お前を告訴できるんやからな!

 このように、やることなすことすべてにイライラさせられるのです。

 時刻は午後3時をまわりました。

 僕らは神林に振りまわされながらも、ようやく洞窟から出ました。8時間の長丁場だったものの、いろいろなことがありすぎて、とても速く感じられました。

 森を抜けて、テントに戻りました。

 テントの近くには、村人がいます。体の汚れを落とすために、「田んぼのホースを貸してもらえませんか?」とお願いしたところ、ご厚意で、家のお風呂を貸してもらえることになったのです。

 僕らは、家まで案内してもらいました。家に到着し、お風呂の大きさを考えて2人ずつ入ることになったのですが、松山さんと吉田が、有無を言わさず先に入ったのです。

 勘弁してくれよ、おい!なんで神林と一緒に入らないとあかんねん、俺!

 「えー、バスコと一緒に入んの!?」

 こっちのセリフじゃ!8000:0でこっちのセリフじゃ!『クイズ100人に聞きました』やったら、101人が「バスコさんのセリフです」って言うわ!

 「それよりバスコ、この家をバックに写真撮ってや?」

 何の記念になんねん、家の写真撮って!劇的ビフォーアフターやないねんぞ!

 「いや、やっぱりこのトラクターをバックにするわ!」

 専業農家か!「俺は米作り1本でいく!」みたいな奴か!

 結局、僕と神林は、外のガレージに座って待つことになりました。

 ありがたいことに、家の人がリンゴを剥いてくれました。

 しばらくして、神林がトイレを借りることになったのですが、手には例のタッパを持っています。家の人に、「割り箸を一膳もらえませんか?」とお願いしたのです。

 ウンコ流すんと違うんかい、それ!割り箸でウンコつかんで便器に流すんやろ!?

 「……お客さん、割り箸なんて何に使うんですか?」

 「タッパのウンコを箸で……」

 「いや、なんでもないです!トイレだけ貸してあげてください!」

 なんで俺がこんなこと言わないとあかんねん!しかも俺はタッパを引ったくってもうたやんけ!どんなキラーパスやねん、これ!

 この人は、リンゴをくれた先ほどの人と違います。食べ終わったリンゴのタッパと勘違いして、受け取ろうとしました。僕が慌てて、「いや、これは違うタッパなんで!」と訂正したのでよかったものの、親切な人にもキラーパスをしかけたのです。

 こんなもん、万が一渡してたら、えらいことになってましたよ。なにしろ、洗おうとフタを開けたら中身はウンコです。「おまわりさん、スカ○ロ好きの旅人が家のガレージにいます!」と通報されかねないんですね。

 しばらくして、松山さんと吉田が出てきました。僕もお風呂に入ることにしたのですが、神林が、体についたドロを落とさずに湯船に浸かりやがったのです。

 お前、あとに浸かる俺のことも考えろよ!ランボーでも民家の風呂借りるときはもうちょっと気遣うぞ!

 「あー、いい湯や!」

 ジジイか!冬場のジジイか!

 「まるでスーパー銭湯に来たみたいやわ!」

 温泉にせいや!そんなん言うんやったらもう温泉でええやんけ!比喩が中途半端やねん!

 結局、僕はシャワーだけで我慢しました。

 お風呂を出て、体を拭きました。家の人にお礼を言って家を出ようとしたところ、家の人がおにぎりを渡してくれました。今日はそれを晩ご飯にすることにし、僕らはテントに戻りました。

 時刻は夕方の5時をまわっています。

 おにぎりを食べ始めた僕らは、あまり会話をしません。僕を筆頭に誰もが神林にイライラしているため、テント内は殺伐としているのです。

 すると、松山さんが仕掛けました。

 「罰ゲームをかけて、UNOをしようや!」

 松山さんはUNOを持ってきています。全員でやることになり、UNOが始まるやいなや松山さんは、神林が負けるようにイカサマをしまくったのです。

 神林は鈍感です。神林が持ってる数字を指で教えたり、神林の札の色を、その色のモノを触ることで僕と吉田に知らせてきました。

 その結果、8割以上の確率で、神林が負けました。罰ゲームとして、「自分の靴の中に砂を入れる」「ここから近いスーパーではなく、ひとつ向こうのコンビニでジュースを買ってくる」などをやらされたのです。

 ざまあみろ、ボケ!ふざけたことばっかりしてるから罰が当たったんじゃ!

 エスカレートした僕は、こう提案しました。

 「次の罰ゲームは、自分の母親に電話して、『クン○リングス』と言うのはどうですかね?」

 ほかの3人も僕の話に乗り、究極の罰ゲームをかけた戦いが始まったのです。

 もちろん、十中八九、神林が負けます。僕はワクワクしていたのですが、僕が負けたんですよ!今まで1度も負けてなかったのに、神林と2人残されたとき、緊張で「UNO!」と言うのを忘れて手札がおもくそ増えてしまったのです!

 シャレならんわ、マジで!なんか宗教に入りたくなってきた!

 緊張しすぎて、体が震えてきました。

 「ほかの罰ゲームにしてもらえませんかね?」

 涙ながらにみんなにお願いしたものの、聞き入れてもらえません。松山さんの携帯電話を使って、僕の母親に電話することになったのです。

 幸いにも、クン○リングスではなく、クン○とリングスとに分け、何かの言葉に混ぜて言ってもいいように許可してもらいました。

 無理言って、お酒を飲ましてもらいました。ある程度酔うのを待って、僕は家に電話をしたのです。

 出るなよ、オカン……。オカンがいなかったら、この罰ゲームはしないで済むからな……。

 「はい、もしもし」

 出やがった!最悪や!

 「も、もしもし、オカン?」

 「たけし、か。どないしたん?」

 「い、今、探検部の合宿で、岡山に来てるんやんか」

 「そうなんや。元気か?」

 「うん、クン○クン○」

 「えっ?」

 「いや心配せんでも、クン○でやってるから」

 「……そうかいな」

 「何かおみやげ、いる?」

 「いらんよ、そんなん。気を遣わんでいいよ」

 「岡山やから、きびリングスだんごとかどう?」

 「えっ?」

 「きびリングスだんご」

 「きびだんごやろ?」

 「そうそう、きびだんご」

 「そんなことより、今度はいつ実家に帰ってくるんや?」

 「合宿が終わったら、すクン○帰るわ」

 「わかった」

 なんやねん、これ!なんやねんこれ、マジで!心配せんでもクン○でやってるからって、心配やわ、合宿でクン○するような奴!で、きびリングスだんごってなんやねん!しっとりしてて逆にうまそうんけ!

 電話を切ったあと、尋常じゃないぐらい、冷や汗が出てましたよ。このことがトラウマになり、今思い出すだけでも、体が震えてくるほどですから。

 時刻は9時をまわりました。

 明日も朝は早いです。UNOをやめて、そろそろ寝ることにしました。

 ですが、母親への電話のことを思い出して、僕は眠れません。とりわけ僕の脳裏には、僕が電話をしているときに大笑いしていた、神林の顔がこびりついています。神林が嫌いすぎて、本気で殺してやろうかな、とまで考えてしまうのです。

 気分転換に散歩をしようと思ったものの、雨が降り始めています。結局、この日もお酒を飲み、アルコールの力を使って眠りました。

 迎えた、翌朝。

 UNOで負けた神林が食事係になったことで、僕らは神林に起こされました。

 外は、あいにくの大雨です。テントの中で朝ご飯を食べ、ぬかるみで転倒しないように、トレッキングシューズに草を巻きつけました。

 時刻は6時30分。レインコートを羽織り、僕らは出発の準備を整えました。

 「じゃあ、行くぞ!雨降ってるから気をつけてな!」

 松山さんの号令のもと、僕らは森に入りました。

 昨日と同じルートで、森の中を進んでいきます。

 森全体に降りそそぐ雨が、木の葉を介して顔に当たってきます。そして途中、小さな川に架かった丸太橋で、神林が足をすべらして川に転落したのです。

 「ギャハハハハ!しっかりしてくださいよ、神林さん!」

 昨晩の仕返しとばかりに、僕はゲラゲラと笑ってやりました。

 10分ほど歩いて、洞窟の入り口に到着しました。

 大雨のため、洞内には水が侵入し始めています。危険なケービングになることが予想されたため、松山さんの指示で、今日もあまり深くには入洞しないことになりました。

 前日同様に、泥水の中を歩きます。松山さんを先頭に進み、メインホールに到着しました。

 メインホールには、たくさんの人がいます。

 訊くと、地元の岡山大学の探検部らしいです。一緒に座って話をすることになったのですが、メンバーの中に女の子を見つけた神林が、急にはりきり始めました。新入生だというのを聞いて、「新人やったら、ここの洞窟が手ごろやろうな!」と、やたらと上からしゃべり始めたのです。

 うざいわ、こいつ!取材きそうやわ、もう!

 「でも無理したらあかんぞ!探検家には引くことも大切やからな!」

 なんでそんな偉そうやねん、お前もほとんど新人のくせに!お前だって、転校生が初日からドッジボール仕切りだしたらイヤやろ!

 「たまには引けよ!!!」

 引くわ、俺ら!その引くじゃなくてドン引き、お前みたいな奴!で、たまにじゃないわ、ずっと引いてる!

 イライラした僕は、神林の鼻を折ってやることにしました。

 「神林さん、今日はタッパにウンコをしないでくださいよ!」

 ことの顛末を説明したところ、岡山大学の探検部は大爆笑です。「昨日どころか、春にここに来たときもタッパにウンコをしたんですよ!」と続けて、神林をさらしものにしてやったのです。

 あー、すっきりした!少しは憂さが晴れたわ!

 ムッとする神林を見て、胸のつっかえが取れました。

 ところがです。

 神林が、「してないよ、そんなこと!」と、めちゃくちゃな言い訳を始めました。

 「してたでしょ?このタッパにしてたでしょ!?」

 僕は神林にダメージを与えるために、勇気を出して、神林のカバンから例のタッパを取り出しました。取った拍子にタッパのフタが取れたのですが、まだウンコが入ってたんですよ!!!

 なんでやねん、お前!処理しとけよ、昨日のうちに!

 「なんで捨ててないねん!?」

 「捨てるところがなかったんや!」

 お前もう、親もろとも死ね!ここまできたらもう、お前を産んだ親にも責任取らせるわ、親もろとも死ね!

 岡山大学の探検部は、ドン引きです。松山さんが「すいません、こいつ、頭おかしいんですよ!」と謝罪したものの、全員の顔が青ざめているのです。

 逃げるように、岡大探検部は出発しました。

 遅れて僕らも出発することになり、僕はここで急遽、洞窟の奥にまで進むことを提案しました。雨が侵入しているため、簡単なケービングしかしない予定だったものの、SRTを必要とする難易度の高い穴を指定したのです。

 僕はケービングを極めたいがために、こんな提案をしたのではありません。神林にケガをさせることが目的なのです。

 SRTの練習をしたとき、神林はヘタでした。雨が侵入して壁面が濡れていることからも、降下中にミスをする可能性があるのです。

 正直、悪魔みたいな奴です。ですがこのときの僕は、心が完全にスターリン化していました。同じ空間で息をするのもイヤなぐらいで、何の躊躇もありませんでした。

 「そうやな!せっかくSRTを練習してきたことやしな!」

 松山さんも、僕の提案に乗ってくれました。そして先ほど岡大探検部に教えてもらった、見るからに危険そうな穴に降りることになったのです。

 穴には、松山さん、吉田、神林、僕の順で降下します。比較的技術のある僕が最後に残り、上から吉田と神林をサポートすることになりました。

 SRTは、穴の落ち口からザイル(ロープ)を垂らし 、「アセンダー」「ディセンダー」と呼ばれるギアを使用して昇り降りします。ザイルを岩場にくくりつけ、順番に降りて行くことになりました。

 「ザイル、ダウン!」

 松山さんが叫び、穴に降りていきました。続く吉田も不器用ながらもなんとか降り、神林の番になりました。

 神林は緊張しています。ゆっくりと降り始めたものの、声を震わせて僕に指示を仰いできます。

 「壁面が滑るんやけど、どうしたらいい?」

 「ディセンダーからミシミシと音がしてるけど、大丈夫かな?」

 アドバイスを求められても、僕は冷たいです。

 「大丈夫ですよ!とにかく、ごちゃごちゃ言わんと降りて行ったらいいから!」

 神林を突き放し、声をかけるどさくさに紛れて、べらぼうにツバを吐きかけてやりました。助けるフリをして目元にライトを当てたり、「右の突起をつかんで!違う、やっぱり左や、いや右や!」と、適当な指示を出してやったのです。

 ですが、僕の「努力」は報われません。神林が無事に到着しやがったのです。

 僕は、捲土重来を期してこの場はあきらめることにし、神林に続いて降りました。

 ここからは前日同様、匍匐前進が続きます。

 隊列はSRTのときと同様、松山さん、吉田、神林、僕の順。泥水の中を、体を屈めて進みます。

 前日とは比較にならないぐらい、幅は狭いです。口に泥が入るのはもちろん、周囲が暗くてめちゃくちゃ怖いのです。

 コウモリなど、当たり前のようにいます。さながらランボーがどこかを脱出するかのようで、冒険心に火がついた神林が、はりきり始めたのです。

 「♪テーテレッテー テーテテー!」

 また出た、このメロディー!こんな狭いところで歌うなよ!耳が甲子園球場なるわ!

 「♪テーテレッテー テーテ たん・けん・ぶ!」 

 それなんやねん、おい!何、その気持ち悪い替え歌!?

 「♪テーテレッテー テーテテー!テーテたんけん たんけん たんけん たんけん……」

 たんけんが多いねん!そんなにも入れる隙ないわ、この曲!

 「♪テーレッテテー!」

 たんけんぶって言えや、最後!お前、ノリ的に最後はたんけんぶやろ、この歌!気持ち悪い歌やけど締めるところはちゃんと締めてくれよ!

 このように常時、神林に振りまわされます。僕のイライラは、ますます膨らんできました。

 狭い洞内を、深部を目指して、ひたすら進みました。

 広い場所に出ると、立ち上がって歩きます。狭くなれば匍匐前進し、下穴があればSRTを使うなど、同じ作業を何度もくり返しました。

 さすがにSRTを必要とするところだけあって、場所によっては苦労しました。雨が入り込んでいるため、昨日よりも滑りやすいです。神林をいたぶる気にもなれないほど危険な穴があり、死力を尽くさなければなりません。

 かすり傷はもちろんのこと、足をすべらして地面に叩きつけられることもあります。夢中になりすぎて時間がたつのも忘れ、気がつくと、3時間以上も経過していました。

 そのときです。

 「松山さん、穴に挟まりました!」

 神林が穴に挟まりました。がんばったかいあって、ついに仕返しのチャンスが到来したのです。

 この穴は横穴で、穴の幅は狭いです。先に穴を通過した吉田は、道の幅が1メートルもないことから、狭すぎて神林を引っ張ることができません。助けられるのは後ろの僕しかいないのです。

 「バスコ、後ろから押してくれ!」

 神林が僕にお願いしてきたので、僕はこう言ってやりました。

 「神林さん、これ、手で押しても無理なんで、お尻を足で押してもいいですかね?」

 神林としても、そうしてもらうしかありません。正直、手で強く押せばなんとかなりそうなのに、唯一の命綱である僕がそう言うので、言うことを聞くしかないのです。

 「いいよ!とにかくなんでもいいから、俺の体が前に進むようにしてくれ!」

 なんでもいいんや……。何をしても許されるんや……。

 この瞬間、僕の中で、何かがはじけました。積年の恨みを思い出して、神林のお尻を蹴ることにしたのです。

 「お前が脱走したせいで、俺は重い砂を持たされたんや!」

 「なんでお前のウンコを3回も見ないとあかんねん!」

 「部でまわしてる裏ビデオを早く俺に渡せ!」

 こんなふうに心の中で叫び、足が折れるぐらい、蹴りたおしてやったのです。

 途中で、「痛い!蹴るんじゃなくて押してくれ!」と言われて勢いこそ削がれたものの、押すのでさえ、肛門にトレッキングシューズの金具の部分を押しつけてやりました。

 あー、すっとした!嫌いな奴を蹴るって、こんなにも気持ちのいいもんなんや!

 神林が穴から抜け出た瞬間、僕の目尻が下がりました。

 しかもこんなに蹴らしてもらえたのに、「ありがとう!」とお礼まで言われました。溜まっていたストレスが一気に発散されたのです。

 ですが、やりすぎた僕に、神様が罰を与えたのでしょう。神林に続いて僕も穴に体を通したところ、今度は僕が挟まってしまったのです。

 胴が完全に挟まり、力を込めたくても、周囲に持つところがありません。まったく身動きがとれないのです。

 「神林さん、今度は僕が挟まりました!助けてください!」

 僕は叫びました。

 とはいえ、神林は助けたくても、場所が狭すぎて手を貸せません。体の向きが反対のため助けようがなく、神林は僕を置き去りにして去って行ったのです。

 狭くて暗くて、半泣きになりました。友達のいない転校生のごとく、あまりに心細くて、今にも泣き出しそうなほどです。

 しばらくして、はるか向こうから頭を前にしてこちらにやってくる、1人の男を発見しました。

 「待ってろよ!」

 こう叫びながら、誰かが匍匐前進でこちらに向かってきたのです。

 それは顔中毛むくじゃらの男、そう、ほかならぬ神林だったのです。

 神林、いや神林さんは、広いところに出て向きを変え、Uターンしてくれました。

 「バスコ、今すぐに行くからな!」

 僕に声をかけて励まし、ゆっくりではあるものの、僕に近づいてきます。

 僕の前に到着して、狭いながらにも、僕の両手をつかみました。半身になって両足を壁面にぶつけ、力の反動を利用して僕を引っこ抜いてくれたのです。

 俺はなんてバカやったんや……。神林さんはこんなにいい人なのに……。

 神林さんのウンコが、アイドルのウンコのように清潔に思えてきました。ブサイクな顔面も、「見ようによれば、これは個性的と言えるな!」とばかりに、神林さんのことを好きになっていたのです。

 先ほど蹴りたおした自分を、殺したくなりました。神林さんが悪かったとはいえ、トータルで考えても、まだ「9:1」で悪いとはいえ、自分のその1が、とてつもなく情けないものに思えました。そして、神林さんの唯一の善なる行為が、黄金のように光り輝いて見えたのです。

 「神林さん、ありがとうございました!」

 心の底から、感謝の言葉を述べる自分がいました。そして2人して進み、松山さんたちと合流したのです。

 時刻はお昼をまわっています。眼前にある剥き出しの岩に座って、昼ご飯を食べることになりました。

 この岩場は、自然のかたまりです。かなり深部にまで来たこともあり、自然の息遣いが聞こえてくるかのようなのです。

 潤いを気化したかのような空気、マイナスイオンを集約したかのような透明のツララ、歴史を刻む琥珀色の鍾乳洞……。「俺は今、青春を謳歌しているんだな!」と自分を客観的に見たとき、自然と時間が調和された空間に、心が震えました。

 神林さんにしたことが、心底、恥ずかしく思えました。純正の自然を体感し、自省した気分で、ポリタンクに入ったポカリスエットを仲間でまわし飲みするのを見たとき、神林さんを含めた全員が、大親友のように思えました。

 ところがです。いろいろありましたが、この合宿、最後のところがです。

 僕らは昼ご飯を食べ終えました。いい時間になったので、引き返すことになりました。

 すると神林さんの近くに、天井から落下したと思われる、30センチほどの鍾乳石を発見したのです。黄色がかったキレイな鍾乳石で、僕はこれを見た瞬間、「持って帰りたい!」という衝動に駆られました。

 「俺、これ、持って帰ろうかな!」

 ですが、神林さん、いや神林が、「いや、これ、俺が持って帰るから!」と邪魔をしてきました。その存在すらも気づいていなかったのに、僕が感激するのでほしくなったのでしょう。「これ、俺が先に見つけたから!だからここに座ってたから!」と、まくしたててきたのです。

 僕としても、最後にケンカなどしたくはありません。スッキリとした気分で、合宿を終えたいのです。

 「神林さん、それやったら、ジャンケンをしましょうよ?」

 僕が不本意ながらも大人の提案をしたところ、神林がこう言ったのです。

 「バスコ、さっき助けてやったやんけ!」

 史上最低か、お前!それが20歳過ぎた奴の言うことか!

 「助けてやってんから、あきらめろや!」

 「イヤですよ!」

 「ほんまにバスコは人間が小さいよな!」

 お前に言われたくないねん!お前より小さいんはチンチンだけじゃ、俺!

 結局、ジャンケンをすることになったものの、僕は神林に負けました。散々苦しめられた神林に、最後におみやげまで奪われてしまったのです。

 来た道を引き返すとき、僕は今までにも増して、神林の背中にツバを吐きかけました。今までのイライラを完全に取り戻し、まわし飲みするポカリスエットの中に、タンを入れて渡してやったのです……。


 その日から、1週間後。

 部室に寄ると、机の上に、この合宿のアルバムが置いてありました。

 アルバム作成係は神林です。写真を収め、各写真にひと言コメントを添えたアルバムができあがっています。

 意外にも、完成度は高いです。時間軸に沿って構成してあり、僕が今まで見たアルバムの中でも最高のできばえだったのですが、めくっていくうちに、僕が苦しそうにしている写真を発見したのです。

 その写真には、こうコメントが添えられてありました。

 『穴に挟まるバスコ!今にも泣き出しそうな顔をしています!』

 そう、こいつはどさくさに紛れて、僕が穴に挟まってるときの顔を写真に収めていたのです!フラッシュをたいていないので写真こそ暗いものの、僕が焦ってまわりが見えないのをいいことに、僕の泣きそうな表情を撮ってやがったんですよ!

 死ね!幸せをつかむその直前に死ね!しかも三途の川で溺死してあの世ですら幽霊になれ!!!

死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?の考察・中編(パソコン読者用)

※2008年・8月30日の記事を再編集


 「お前、何しとんじゃ、コラ!!!」


 森に靴を投げ捨てられた僕は、神林を怒鳴りつけました。体力強化合宿での一件もあり、溜まりに溜まった怒りが爆発したのです。


 そこで今回は、「死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?」の考察・中編です。


 「お前それ、俺の靴やろ!」


 僕の怒りは収まりません。口からツバを飛ばしながら声を荒げ、神林をニラみつけました。


 ですが、神林は意に介しません。「でも、松山さんが俺の靴を捨てたもん!」と、ワケのわからないことを言って謝らないのです。


 「ごちゃごちゃ言うな!とにかく、俺の靴を取ってこい!」


 僕は、さらに声を荒げました。神林も僕の剣幕に驚いたのでしょう。渋々とはいえ、僕の靴を取りに外に出て行きました。


 テント内の空気は、最悪です。


 「バスコ、怒りすぎやろ……」


 言葉にこそ出さないものの、松山さんと吉田がこう思っているのが、その表情からうかがえるのです。


 最悪やわ……。なんで合宿に来てこんな気持ちにならないとあかんねん……。


 しばらくして、神林が僕の靴を手に、帰ってきました。


 「はい、これ、バスコの靴!」


 僕としても、これ以上ケンカをするのは、本意ではありません。努めて冷静に話しかけ、神林の謝罪をもって、この問題に終止符を打つことにしました。


 「神林さん、僕の靴を捨てたらダメでしょ」


 「そりゃバスコの靴を捨てたのは間違いやったかもしらんけど、松山さんが俺の靴を捨てたもん!」


 「それは松山さんの責任ですよ!僕は関係ないでしょ!」


 「……」


 「とりあえず、謝ってください」


 「でも松山さんが俺の靴を捨てたのは事実やもん!」


 どんな教育受けてきてん、お前!タイガーマスクか、お前の生い立ち!


 「ねえ、松山さん?」


 加害者やねん、松山さんは!お前、被害者が加害者に同意求めてどないすんねん!お前だってヒトラーとユダヤ人のウイアーザワールドなんて聴きたくないやろ!


 本気でむかついてきましたよ。


 僕としても、「ごめんな」というひと言があれば、「僕のほうこそ大きな声を出してすいませんでした」と謝る用意はあります。なのに謝罪は一切なく、妙な言い訳ばかりしてくるのです。


 「もう、ええわ!」


 僕は、みんなに背中を向けました。


 まだ夜の8時です。本来なら仲よくトランプをするはずだったのに、寝袋に入ってもう、寝ることにしました。


 ほかの3人も最初こそ雑談をしていたものの、殺伐とした空気に耐えられなくなったのでしょう。気がつくと、寝袋に入っていました。


 僕は、神林の足が臭すぎて眠れません。僕から1番遠い場所で寝ているにもかかわらず、あいだの2人を飛び越えて、僕に匂いが届くのです。


 腹立つわ、こいつ……。何もかもが腹立つわ……。


 神林へのイライラに、脳が支配されました。


 体力強化合宿で脱走されたこと、殴りかかったのに体を押さえられたこと、試験前にノートを貸してくれなかったこと、部で貸し合っている裏ビデオがこいつで止まっていること……。たくさんの憤慨が思い出されて、僕は寝つけません。


 神林のいいところも考えて、許そうとはしました。


 ただ、ないのです、いいところが。


 いくら探しても、まったく出てきません。時間を訊いて答えてくれたこと、固い缶詰のフタを開けてくれたことレベルしかなく、許せるほどの決定材料にはならないのです。


 なのに当の本人は、気持ちよさそうに眠っています。それが腹立って腹立って、気がつくとテント内を移動して、神林の顔面に自分の陰毛を載せている自分がいました。子供のやることなのですが我慢できず、口を中心に、死ぬほど載せてやりました。「陰毛パックをしながら寝てます!」というぐらい、べらぼうな量を載せてやりましたから。


 明日は朝早いです。僕はもう、神林のことを考えるのはやめることにしました。


 匂いをブロックするため、鼻の下にタオルを置きました。夕食で松山さんが飲んでいた日本酒を口に含み、アルコールの力で眠りました。


 迎えた、翌朝。


 食事係の僕はひとり、6時に起きました。米を炊いておかゆを作り、ほかの3人を起こしました。


 幸いにも、松山さんと吉田に、昨晩のことを気にしている様子はありません。神林も、何ごともなかったかのようにふるまってきます。


 「神林さん、塩を取ってもらえません?」


 「わかった」


 神林とコミュニケーションも取れたので、僕は昨晩のことはひとまず、忘れることにしました。


 食事を終えた僕らは、出発の準備を整えます。つなぎに着替え、ヘッドライトを装着しました。


 「じゃあ、出発するからな!」


 松山さんの号令のもと、僕らは洞窟に向かって出発しました。


 時刻は7時をまわっています。


 森に入り、鬱蒼とした木々のあいだを抜けます。真っ白な霧がうっすらとかかっており、顔に当たるとヒンヤリとして気持ちがいいです。


 丸太の橋の上を渡り、10分ほど歩いて、洞窟の入口が見えてきました。


 これは胸が躍ります。楽しかった春のケービングを思い出して、ドラクエの整理券をもらったときのようにワクワクしてきました。


 それは神林も同じなのでしょう。


 神林は、この合宿の「アルバム作成係」として常時、カメラを手にしています。


 「みんなで写真を撮りましょう!」


 こう言って、僕らを洞窟の入口に集合させたのです。


 へー、意外と気が利くやんけ!いいところもあるんやな!


 テンションが高くなったこともあり、僕は神林、いや神林さんを見直しました。


 「じゃあ、次は僕が写真を撮るんで、神林さんも入ってくださいよ!」


 神林に気遣いを見せることで、僕らの関係を一気に修復しようとしたのですが、神林さん、いや神林が、「でも、バスコの写真はいつもブレるからな!」って言いやがったんですよ!


 なんでそんなこと言うねん、お前!俺の気持ちも考えてくれよ!


 「バスコの写真はブレまくりやからな!」


 腹立つわ、こいつ!なんか硬いもんで殴りたい!


 「ブレの貴公子やからな!」


 ようわからん、それ!けなされてんのかほめられてんのかようわからん!


 冗談で言ったのではなく、本気でイヤがっています。これがこいつのすごいところで、「カメラは脇を締めてこういうふうに持って……」と、カメラの使い方を僕に教えてきやがったのです。


 空気読めよ、お前!俺が大人の対応してることに気づけよ!


 「で、ここがシャッター押すところで、周囲が暗かったらフラッシュをたくようにして……」


 どっから教えんねん!文明知らずのマサイ族か、俺!それぐらい知ってるわ、さすがに!


 「目は閉じたらあかんで!」


 座頭市か、俺!撮る側の俺が目閉じるわけないやろ!「心眼カメラマン」とかおるか、ボケ!


 神林は、ワケのわからないことを連発してきます。僕は再び、イライラしてきました。


 写真を撮り終えた僕らは、洞窟の入り口に足を踏み入れました。


 入り口に入ってしばらくは、岩に囲まれたジャリ道を歩きます。


 僕は現在、神林の後ろを歩いています。


 「こいつは、なんでこんなにも髪の毛が縮れてんねん!」


 「こいつは若いくせに、なんでオッサンが着るような灰色のつなぎを着てんねん!」


 こんなふうに、神林の何を見るにつけてもイライラしてきたのです。


 今から洞窟に入るため、神林は補聴器をはずしています。べらぼうに耳が遠く、僕らは、普段の倍の声で話しかけなければなりません。なのに大きな声で話しかけると、「バスコ、声でかいわ!もう少し小さい声でしゃべってくれよ!」と怒ってくるのです。


 ふざけんなよ、お前!お前それは、難民が「えー!ここクーラーないの!?」とか言うようなもんやぞ!


 「バスコって、なんでそんなに声でかいの?」


 お前の耳が遠いからや!お前のために声でかくしとんねん、こっちは!


 「すいませんね!!!」


 「えっ?」


 聞こえてへんやんけ!声でかくしたらしたで聞こえてへんやんけ!


 「悪いけど、もう少し大きな声でしゃべってや!」


 なめてんのか、お前!ていうかもう、普通に訴えるぞ、俺!告訴に値する精神的苦痛やぞ、これ!弁護士自らが「この案件はぜひ私に!正義の名のもとに!」とか言ってくるぞ!


 それでも、今から楽しいケービングが始まります。正直、殺意にも似た感情が神林に芽生え始めていたのですが、僕は我慢しました。


 3分ほど歩いて、ようやく入洞することになりました。


 「じゃあ、今から洞窟に入るから!何かあったら、俺に報告しろよ!」


 松山さんの号令で、洞窟の中に入りました。ケービング初心者の吉田がいるため、今日はお遊び程度に洞内を巡ることにし、本格的な探索は、明日行われることになりました。


 膝上まである泥水の中を、松山さん、吉田、神林、僕の順で進んで行きます。先頭の松山さんが大きな懐中電灯で洞内を照らし、僕らはヘッドライトで周囲を確認しながら、ゆっくりと足を運びました。


 洞内では、ジメッとした土の匂いが、鼻を突きます。地底の匂い、とでも言いましょうか、独特の臭気が鼻を通り、「俺は今、冒険してるな!」と、興奮を覚えます。


 なのにそんな冒険気分を、神林が壊してくるのです。


 神林は、ドン臭いです。頻繁に足をすべらし、その都度僕らに迷惑をかけてきます。


 そのくせ自分の前を歩く吉田に、「大丈夫か?なあ大丈夫か、吉田?」と、ことあるごとに声をかけ始めました。吉田は悠然と進んでいるのに、「とにかく足元に注意して!」と、妙な先輩風を吹かし始めたのです。


 黙れよ、お前!そもそもお前と一緒にいることが1番危険やねんぞ!


  「吉田、こけないように注意しろよ!」


 お前もさっきこけたやろ!こけまくりやろ、お前!お前か谷口浩美かいうぐらいこけまくりやろ!


 「こけそうになったら壁をつかめよ!」


 お前は壁つかんでなかったやろ、さっき!なんやったら吉田の体つかんでたやろ、さっき!アドバイスしてる側がされてる側に迷惑かけるってどういうことやねん!


 「神林、うるさい!先輩やからって、かっこつけんな!」


 松山さんが怒鳴りました。


 しかし、神林はテンションが上がり切っています。「松山さん、僕は吉田が心配なだけですよ!」と珍しく口ごたえをし、インディージョーンズのテーマを口ずさみ始めたのです。


 小学生か、お前!そのテンション、今日の晩ご飯がハンバーグのときの小学生のテンションやんけ!


 「♪テーテレッテー テーテテー!テーテレッテー テーテ テーテーテー!」


 静かにせいや!で、俺がそのメロディーに合わせてツバ吐きかけてることに気づけよ、いい加減!


 「♪テーテレッテー テーテテー!」


 「……」


 「♪テーテレッテー テーテ テーテーテー!」


 「……」


 「♪テーテレッテー テーテテー!」


 いつ終わんねん、これ!いつまで俺らの耳をUSJにする気やねん!


 「♪テーテ テーテ テーテ テーテ レッツゴー!!!」


 最後なんやねん、おい!最後、べらぼうに気持ち悪いねんけど!?


 「神林、うるさい!マジで気持ち悪いから静かにしろ!」


 松山さんが怒声を上げました。神林は渋々歌うのをやめたものの、嫌いな奴の張り切る姿を見た僕は、猛烈にイライラしてきたのです。


 15分ほど進んで、ようやく泥水を抜けました。


 時刻は8時をまわっています。眼前に、洞内のメインホールが姿を現しました。


 ここは、20メートル四方の空間です。各方向にたくさんの洞穴があり、いろいろな場所に通じています。どの穴に入るべきかを検討するべく、休憩もかねて、この場に座ることにしました。


 ここのメインホールは、縦に走る断層の割れ目に沿って、鍾乳洞が形成されています。神林ではないですが、あまりの異空間に、映画の主人公になったような錯覚に陥るのです。


 ヒンヤリとした空気が、なんとも心地いいです。心が座禅するかのような静寂が辺りを包み込んでおり、神の存在を感じるほどなのです。


 なのに神林が、せっかくの神々しさを台なしにしてきます。吉田の前でかっこいいところを見せたいのか、防水袋から方位磁石を取り出して、「はいはい、北はこっちか!」と言って、できる探険家を演じ始めたのです。


 うざっ、こいつ!何なん、マジでお前!?


 「なるほど、こっちが北ね!」


 南やねん、そっち!お前は「できない探険家」やねん!


 「次は南を調べるとするか」


 真後ろが南やろ!調べんでも、北の逆方向が南やろ!お前、どこの大学出てんって、同じ大学やった!こんな奴と同じ大学に行ってた、俺!


 松山さんなんてもう、笑ってましたよ。イライラする僕に、「バスコ、もう楽しもうや!こういう奴は逆に楽しんでいかないと!」と妙な忠告をしてきましたから。


 休憩を終えて、洞穴に入ることになりました。


 ここからが、ケービング本番です。とりあえず手ごろな穴を選び、地下に向かって進んで行くことになりました。


 順番に、穴に体を通しました。穴を越えた先には、細い道が延々と続いています。幅も狭く、地下水路を進むかのように、匍匐前進で進んでいくことになりました。


 進む順番は、松山さん、吉田、僕、神林の順。休憩中に、「神林の姿を見たくないんです!」と松山さんにお願いして、僕は順番を変えてもらったのです。


 神林の姿が見えないだけで、精神的に楽です。仲のいい吉田と雑談しながら進めることもあり、僕はしばし、探検を楽しみました。


 狭く曲がりくねった洞内を、ひたすら進みます。コウモリを見たり、見慣れない爬虫類に出くわしたりと、非日常の刺激に心が洗われます。


 1時間ほど進み、立ち上がれるほどの広い場所に出ました。


 この場所で大きな滝を見たとき、僕はあまりの美しさに、声が出ませんでした。


 滝から放たれるマイナスイオンが、目に見えるようです。空間が形作る荘厳さに、体が浄化されていくような気がするのです。


 自然というのは偉大です。言うなれば、僕らの「大先輩」なので、その存在だけで、僕らの悩みごとに答えてくれるかのようです。


 時代をまたいで存在し続けたという事実が、風景への絶妙な重しになります。見ているだけで心が元気になり、僕は洞内のすべての風景に感激し、そして感謝し、非日常の空間を楽しみました。


 ところが、感激する僕らに、神林がくだらないことを言いやがったのです。


 「松山さん、下ネタしりとりしません?」


 なんでやねん、お前!なんで滝の横でチンチンとか言わないとあかんねん!


 「やりましょうよ、下ネタしりとり!」


 場違いもいいところやぞ!お前それは宮中晩餐会に猫ひろし呼ぶようなもんやぞ!


 下ネタ好きの松山さんが、神林の話に乗りました。僕もやらざるをえなかったのですが、僕としては黙って自然を楽しみたいんですね。


 しかも、神林は耳が遠いです。神林の前にいる僕は、「ガンシャ」「えっ?」「ガンシャ」「えっ?」と、何度も訊き返されるのです。


 お前、何が悲しくて洞窟でガンシャを連呼しないとあかんねん!泥はかかるけど、こっちはかけたくないねん!


 「ガンシャです!」


 「スマタ」


 「す」と違うわ!何回も言わせといて間違うなよ!ねえ、松山さん!?


 「田んぼでやる」


 ごめんなさい、何言ってるんですか!?もうため口で言うわ、お前も何言ってんねん!


 やり慣れているのか、神林は下ネタしりとりが強いです。僕がペ○スと言うと、すぐに「好き者!」と返してきます。困らせてやろうと、濁点のついた「陰部」という難しい言葉を渡しても、その1秒後に「ヴァ○ナ」って言ったんですよ。


 ヴァ○ナなんて、そうは出ないでしょ?相当品のある奴じゃないと、こんな日本語は出てこないでしょ!?


 しかもこれ、崖を降りている最中に答えました。僕が先に降り、着地する寸前に「陰部」と言うと、落ちるとケガをするような高さなのに、崖の突起をつかみながら「ヴァ○ナ!」と即答したのです。


 ここからは、小さな崖をひたすら降りていきます。


 僕らは下ネタしりとりをしながら、地下に進み続けました。美しい鍾乳洞に感激し、途中、神林が言った「朝までイラ○チオ」という答えにドン引きしながらも、洞窟の奥へと進んで行きました。


 11時をまわったところで、人ひとり入れるぐらいの、狭い穴に出くわしました。僕は、先に通った吉田に引っ張ってもらってなんとか通れたものの、僕の後ろの神林が挟まったのです。


 「松山さーん!挟まりました!」


 神林は叫んでいます。「松山さーん!松山さーん!」と、先に進む僕らに大声で助けを求めたのですが、先頭で匍匐前進をする松山さんが、神林に向かって叫びました。


 「自分でなんとかしろ!」


 ざまあみろ、ボケ!ふざけたことばっかりしてるからこんなことになるんや!


 これは、うれしいですよ。神林から離れるにつれ、「バスコ、体を引っ張ってくれ!」という声が小さくなるのが、めちゃくちゃ快感なのです。


 途中で広いところに出たので、僕は振り返って、後ろを確認しました。すると、神林の顔の前にコウモリが現われており、「ギャー!」「ウオー!」と叫んでいるのです。


 罰が当たったんじゃ、ボケ!お前はもう、ずっとそのままでいろ!


 僕らは、一向に助けようとしません。気がつくと神林を置いて、50メートル以上も進んでいました。


 しばらくして、大きなホールに辿り着きました。


 ここは先ほどのホールよりも、はるかに大きいです。近くには湖があり、ここで再び、休憩を取ることになりました。


 すると松山さんは、さすがに神林のことが心配になったのでしょう。僕に、「助けに行ったってくれ!」とお願いしてきたのです。


 ですが、僕がYESと言うはずがありません。優しい奴で知られる吉田でさえ、「僕もイヤですよ!」と断ったのですが、しばらくして僕らが通ってきた穴の中から、聞き覚えのある歌声が聞こえてきたのです。


 「♪テーテレッテー テーテテー!」


 死ね!食べたカキフライにのきなみ食あたりして死ね、お前みたいな奴!


 神林を見た松山さんが、穴に石でフタをしました。押してくる神林を大きな石で押し返し、「神林、引き返してくれ!」と、おちょくりました。


 神林が到着し、ほどなくして、湖に入ることになりました。


 水面が輝くキレイな湖で、僕は前回も、ここで遊びました。僕は泳げないものの、この湖はそれほど深くはありません。水を飲むぐらいの勢いで、はしゃぎたおしたのです。


 僕と吉田はつなぎを脱ぎ、用意してきた海パンに履き替えました。


 僕は今回、ゴーグルも用意してきています。地底に潜って珍しい魚を見るという、ちょっとしたスキューバーダイビングになったのです。


 僕はこの湖で泳ぎたいがために、再びこの合宿に参加したところがあります。楽しくて仕方がなく、地底湖が初めての吉田も興奮しています。プロレス技をかけ合うなどして楽しんでいたのですが、海パンを忘れた神林が白のブリーフで浸かってきたのです。


 なんで白のブリーフやねん、その歳で!白ブリだけは手出したらあかんやろ、ダサすぎて!白のブリーフは、戦後の日本が産み出した史上最低の発明品やぞ!


 それでも、相手しなければいいです。僕らは無視して泳いでいたのですが、途中でブリーフを脱いでフルチンで泳ぎ始めたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!お前のその股間に、スケート靴で電気あんましたろか!


 「やっほーい!」


 やっほーいやあるか、お前!で、お前のチンチン、細くて長いからなんか気持ち悪いねん!アンガールズみたいやんけ!


 泳ぐ気をなくした僕らは、湖から出ました。


 時計を見ると、昼を過ぎています。昼ご飯を食べることにし、食事終わりで、今日はもう引き返すことになりました。


 食料係の僕は、バナナと食パンをみんなにまわしました。そして食事をしながら、そばに置いてある、神林の防水カバンを何気に見たときのことです。


 カバンから、黄緑色のタッパがはみ出ていることに気がつきました。


 このタッパは、採取した洞内植物を入れるためのタッパです。今回、吉田と神林の2人が、その係に任命されています。


 前回の合宿で、神林はこのタッパに、ウンコをしていました。神林にイヤなことを思い出させてやろうと、僕は「神林さんは前回の合宿で、このタッパにウンコをしてたんですよね!」と、からかい半分にタッパのフタを開けたのですが、またウンコが入ってたんですよ!!!


 ちょっと待ってくれ、声が出ない!もしかするとデジャブかもしらんから頭を整理させてくれって、これどう見てもウンコやんけ!


 「ギャーーー!!!」


 ショックすぎるわ、こんなもん!こんなショック、よしもとばななのルックス知ったとき以来のショックやわ!


 この瞬間、本気で殺意を覚える自分がいました。


 後編へ……。


死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?の考察・中編(携帯読者用)

※2008年・8月30日の記事を再編集

 「お前、何しとんじゃ、コラ!!!」

 森に靴を投げ捨てられた僕は、神林を怒鳴りつけました。体力強化合宿での一件もあり、溜まりに溜まった怒りが爆発したのです。

 そこで今回は、「死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?」の考察・中編です。

 「お前それ、俺の靴やろ!」

 僕の怒りは収まりません。口からツバを飛ばしながら声を荒げ、神林をニラみつけました。

 ですが、神林は意に介しません。「でも、松山さんが俺の靴を捨てたもん!」と、ワケのわからないことを言って謝らないのです。

 「ごちゃごちゃ言うな!とにかく、俺の靴を取ってこい!」

 僕は、さらに声を荒げました。神林も僕の剣幕に驚いたのでしょう。渋々とはいえ、僕の靴を取りに外に出て行きました。

 テント内の空気は、最悪です。

 「バスコ、怒りすぎやろ……」

 言葉にこそ出さないものの、松山さんと吉田がこう思っているのが、その表情からうかがえるのです。

 最悪やわ……。なんで合宿に来てこんな気持ちにならないとあかんねん……。

 しばらくして、神林が僕の靴を手に、帰ってきました。

 「はい、これ、バスコの靴!」

 僕としても、これ以上ケンカをするのは、本意ではありません。努めて冷静に話しかけ、神林の謝罪をもって、この問題に終止符を打つことにしました。

 「神林さん、僕の靴を捨てたらダメでしょ」

 「そりゃバスコの靴を捨てたのは間違いやったかもしらんけど、松山さんが俺の靴を捨てたもん!」

 「それは松山さんの責任ですよ!僕は関係ないでしょ!」

 「……」

 「とりあえず、謝ってください」

 「でも松山さんが俺の靴を捨てたのは事実やもん!」

 どんな教育受けてきてん、お前!タイガーマスクか、お前の生い立ち!

 「ねえ、松山さん?」

 加害者やねん、松山さんは!お前、被害者が加害者に同意求めてどないすんねん!お前だってヒトラーとユダヤ人のウイアーザワールドなんて聴きたくないやろ!

 本気でむかついてきましたよ。

 僕としても、「ごめんな」というひと言があれば、「僕のほうこそ大きな声を出してすいませんでした」と謝る用意はあります。なのに謝罪は一切なく、妙な言い訳ばかりしてくるのです。

 「もう、ええわ!」

 僕は、みんなに背中を向けました。

 まだ夜の8時です。本来なら仲よくトランプをするはずだったのに、寝袋に入ってもう、寝ることにしました。

 ほかの3人も最初こそ雑談をしていたものの、殺伐とした空気に耐えられなくなったのでしょう。気がつくと、寝袋に入っていました。

 僕は、神林の足が臭すぎて眠れません。僕から1番遠い場所で寝ているにもかかわらず、あいだの2人を飛び越えて、僕に匂いが届くのです。

 腹立つわ、こいつ……。何もかもが腹立つわ……。

 神林へのイライラに、脳が支配されました。

 体力強化合宿で脱走されたこと、殴りかかったのに体を押さえられたこと、試験前にノートを貸してくれなかったこと、部で貸し合っている裏ビデオがこいつで止まっていること……。たくさんの憤慨が思い出されて、僕は寝つけません。

 神林のいいところも考えて、許そうとはしました。

 ただ、ないのです、いいところが。

 いくら探しても、まったく出てきません。時間を訊いて答えてくれたこと、固い缶詰のフタを開けてくれたことレベルしかなく、許せるほどの決定材料にはならないのです。

 なのに当の本人は、気持ちよさそうに眠っています。それが腹立って腹立って、気がつくとテント内を移動して、神林の顔面に自分の陰毛を載せている自分がいました。子供のやることなのですが我慢できず、口を中心に、死ぬほど載せてやりました。「陰毛パックをしながら寝てます!」というぐらい、べらぼうな量を載せてやりましたから。

 明日は朝早いです。僕はもう、神林のことを考えるのはやめることにしました。

 匂いをブロックするため、鼻の下にタオルを置きました。夕食で松山さんが飲んでいた日本酒を口に含み、アルコールの力で眠りました。

 迎えた、翌朝。

 食事係の僕はひとり、6時に起きました。米を炊いておかゆを作り、ほかの3人を起こしました。

 幸いにも、松山さんと吉田に、昨晩のことを気にしている様子はありません。神林も、何ごともなかったかのようにふるまってきます。

 「神林さん、塩を取ってもらえません?」

 「わかった」

 神林とコミュニケーションも取れたので、僕は昨晩のことはひとまず、忘れることにしました。

 食事を終えた僕らは、出発の準備を整えます。つなぎに着替え、ヘッドライトを装着しました。

 「じゃあ、出発するからな!」

 松山さんの号令のもと、僕らは洞窟に向かって出発しました。

 時刻は7時をまわっています。

 森に入り、鬱蒼とした木々のあいだを抜けます。真っ白な霧がうっすらとかかっており、顔に当たるとヒンヤリとして気持ちがいいです。

 丸太の橋の上を渡り、10分ほど歩いて、洞窟の入口が見えてきました。

 これは胸が躍ります。楽しかった春のケービングを思い出して、ドラクエの整理券をもらったときのようにワクワクしてきました。

 それは神林も同じなのでしょう。

 神林は、この合宿の「アルバム作成係」として常時、カメラを手にしています。

 「みんなで写真を撮りましょう!」

 こう言って、僕らを洞窟の入口に集合させたのです。

 へー、意外と気が利くやんけ!いいところもあるんやな!

 テンションが高くなったこともあり、僕は神林、いや神林さんを見直しました。

 「じゃあ、次は僕が写真を撮るんで、神林さんも入ってくださいよ!」

 神林に気遣いを見せることで、僕らの関係を一気に修復しようとしたのですが、神林さん、いや神林が、「でも、バスコの写真はいつもブレるからな!」って言いやがったんですよ!

 なんでそんなこと言うねん、お前!俺の気持ちも考えてくれよ!

 「バスコの写真はブレまくりやからな!」

 腹立つわ、こいつ!なんか硬いもんで殴りたい!

 「ブレの貴公子やからな!」

 ようわからん、それ!けなされてんのかほめられてんのかようわからん!

 冗談で言ったのではなく、本気でイヤがっています。これがこいつのすごいところで、「カメラは脇を締めてこういうふうに持って……」と、カメラの使い方を僕に教えてきやがったのです。

 空気読めよ、お前!俺が大人の対応してることに気づけよ!

 「で、ここがシャッター押すところで、周囲が暗かったらフラッシュをたくようにして……」

 どっから教えんねん!文明知らずのマサイ族か、俺!それぐらい知ってるわ、さすがに!

 「目は閉じたらあかんで!」

 座頭市か、俺!撮る側の俺が目閉じるわけないやろ!「心眼カメラマン」とかおるか、ボケ!

 神林は、ワケのわからないことを連発してきます。僕は再び、イライラしてきました。

 写真を撮り終えた僕らは、洞窟の入り口に足を踏み入れました。

 入り口に入ってしばらくは、岩に囲まれたジャリ道を歩きます。

 僕は現在、神林の後ろを歩いています。

 「こいつは、なんでこんなにも髪の毛が縮れてんねん!」

 「こいつは若いくせに、なんでオッサンが着るような灰色のつなぎを着てんねん!」

 こんなふうに、神林の何を見るにつけてもイライラしてきたのです。

 今から洞窟に入るため、神林は補聴器をはずしています。べらぼうに耳が遠く、僕らは、普段の倍の声で話しかけなければなりません。なのに大きな声で話しかけると、「バスコ、声でかいわ!もう少し小さい声でしゃべってくれよ!」と怒ってくるのです。

 ふざけんなよ、お前!お前それは、難民が「えー!ここクーラーないの!?」とか言うようなもんやぞ!

 「バスコって、なんでそんなに声でかいの?」

 お前の耳が遠いからや!お前のために声でかくしとんねん、こっちは!

 「すいませんね!!!」

 「えっ?」

 聞こえてへんやんけ!声でかくしたらしたで聞こえてへんやんけ!

 「悪いけど、もう少し大きな声でしゃべってや!」

 なめてんのか、お前!ていうかもう、普通に訴えるぞ、俺!告訴に値する精神的苦痛やぞ、これ!弁護士自らが「この案件はぜひ私に!正義の名のもとに!」とか言ってくるぞ!

 それでも、今から楽しいケービングが始まります。正直、殺意にも似た感情が神林に芽生え始めていたのですが、僕は我慢しました。

 3分ほど歩いて、ようやく入洞することになりました。

 「じゃあ、今から洞窟に入るから!何かあったら、俺に報告しろよ!」

 松山さんの号令で、洞窟の中に入りました。ケービング初心者の吉田がいるため、今日はお遊び程度に洞内を巡ることにし、本格的な探索は、明日行われることになりました。

 膝上まである泥水の中を、松山さん、吉田、神林、僕の順で進んで行きます。先頭の松山さんが大きな懐中電灯で洞内を照らし、僕らはヘッドライトで周囲を確認しながら、ゆっくりと足を運びました。

 洞内では、ジメッとした土の匂いが、鼻を突きます。地底の匂い、とでも言いましょうか、独特の臭気が鼻を通り、「俺は今、冒険してるな!」と、興奮を覚えます。

 なのにそんな冒険気分を、神林が壊してくるのです。

 神林は、ドン臭いです。頻繁に足をすべらし、その都度僕らに迷惑をかけてきます。

 そのくせ自分の前を歩く吉田に、「大丈夫か?なあ大丈夫か、吉田?」と、ことあるごとに声をかけ始めました。吉田は悠然と進んでいるのに、「とにかく足元に注意して!」と、妙な先輩風を吹かし始めたのです。

 黙れよ、お前!そもそもお前と一緒にいることが1番危険やねんぞ!

  「吉田、こけないように注意しろよ!」

 お前もさっきこけたやろ!こけまくりやろ、お前!お前か谷口浩美かいうぐらいこけまくりやろ!

 「こけそうになったら壁をつかめよ!」

 お前は壁つかんでなかったやろ、さっき!なんやったら吉田の体つかんでたやろ、さっき!アドバイスしてる側がされてる側に迷惑かけるってどういうことやねん!

 「神林、うるさい!先輩やからって、かっこつけんな!」

 松山さんが怒鳴りました。

 しかし、神林はテンションが上がり切っています。「松山さん、僕は吉田が心配なだけですよ!」と珍しく口ごたえをし、インディージョーンズのテーマを口ずさみ始めたのです。

 小学生か、お前!そのテンション、今日の晩ご飯がハンバーグのときの小学生のテンションやんけ!

 「♪テーテレッテー テーテテー!テーテレッテー テーテ テーテーテー!」

 静かにせいや!で、俺がそのメロディーに合わせてツバ吐きかけてることに気づけよ、いい加減!

 「♪テーテレッテー テーテテー!」

 「……」

 「♪テーテレッテー テーテ テーテーテー!」

 「……」

 「♪テーテレッテー テーテテー!」

 いつ終わんねん、これ!いつまで俺らの耳をUSJにする気やねん!

 「♪テーテ テーテ テーテ テーテ レッツゴー!!!」

 最後なんやねん、おい!最後、べらぼうに気持ち悪いねんけど!?

 「神林、うるさい!マジで気持ち悪いから静かにしろ!」

 松山さんが怒声を上げました。神林は渋々歌うのをやめたものの、嫌いな奴の張り切る姿を見た僕は、猛烈にイライラしてきたのです。

 15分ほど進んで、ようやく泥水を抜けました。

 時刻は8時をまわっています。眼前に、洞内のメインホールが姿を現しました。

 ここは、20メートル四方の空間です。各方向にたくさんの洞穴があり、いろいろな場所に通じています。どの穴に入るべきかを検討するべく、休憩もかねて、この場に座ることにしました。

 ここのメインホールは、縦に走る断層の割れ目に沿って、鍾乳洞が形成されています。神林ではないですが、あまりの異空間に、映画の主人公になったような錯覚に陥るのです。

 ヒンヤリとした空気が、なんとも心地いいです。心が座禅するかのような静寂が辺りを包み込んでおり、神の存在を感じるほどなのです。

 なのに神林が、せっかくの神々しさを台なしにしてきます。吉田の前でかっこいいところを見せたいのか、防水袋から方位磁石を取り出して、「はいはい、北はこっちか!」と言って、できる探険家を演じ始めたのです。

 うざっ、こいつ!何なん、マジでお前!?

 「なるほど、こっちが北ね!」

 南やねん、そっち!お前は「できない探険家」やねん!

 「次は南を調べるとするか」

 真後ろが南やろ!調べんでも、北の逆方向が南やろ!お前、どこの大学出てんって、同じ大学やった!こんな奴と同じ大学に行ってた、俺!

 松山さんなんてもう、笑ってましたよ。イライラする僕に、「バスコ、もう楽しもうや!こういう奴は逆に楽しんでいかないと!」と妙な忠告をしてきましたから。

 休憩を終えて、洞穴に入ることになりました。

 ここからが、ケービング本番です。とりあえず手ごろな穴を選び、地下に向かって進んで行くことになりました。

 順番に、穴に体を通しました。穴を越えた先には、細い道が延々と続いています。幅も狭く、地下水路を進むかのように、匍匐前進で進んでいくことになりました。

 進む順番は、松山さん、吉田、僕、神林の順。休憩中に、「神林の姿を見たくないんです!」と松山さんにお願いして、僕は順番を変えてもらったのです。

 神林の姿が見えないだけで、精神的に楽です。仲のいい吉田と雑談しながら進めることもあり、僕はしばし、探検を楽しみました。

 狭く曲がりくねった洞内を、ひたすら進みます。コウモリを見たり、見慣れない爬虫類に出くわしたりと、非日常の刺激に心が洗われます。

 1時間ほど進み、立ち上がれるほどの広い場所に出ました。

 この場所で大きな滝を見たとき、僕はあまりの美しさに、声が出ませんでした。

 滝から放たれるマイナスイオンが、目に見えるようです。空間が形作る荘厳さに、体が浄化されていくような気がするのです。

 自然というのは偉大です。言うなれば、僕らの「大先輩」なので、その存在だけで、僕らの悩みごとに答えてくれるかのようです。

 時代をまたいで存在し続けたという事実が、風景への絶妙な重しになります。見ているだけで心が元気になり、僕は洞内のすべての風景に感激し、そして感謝し、非日常の空間を楽しみました。

 ところが、感激する僕らに、神林がくだらないことを言いやがったのです。

 「松山さん、下ネタしりとりしません?」

 なんでやねん、お前!なんで滝の横でチンチンとか言わないとあかんねん!

 「やりましょうよ、下ネタしりとり!」

 場違いもいいところやぞ!お前それは宮中晩餐会に猫ひろし呼ぶようなもんやぞ!

 下ネタ好きの松山さんが、神林の話に乗りました。僕もやらざるをえなかったのですが、僕としては黙って自然を楽しみたいんですね。

 しかも、神林は耳が遠いです。神林の前にいる僕は、「ガンシャ」「えっ?」「ガンシャ」「えっ?」と、何度も訊き返されるのです。

 お前、何が悲しくて洞窟でガンシャを連呼しないとあかんねん!泥はかかるけど、こっちはかけたくないねん!

 「ガンシャです!」

 「スマタ」

 「す」と違うわ!何回も言わせといて間違うなよ!ねえ、松山さん!?

 「田んぼでやる」

 ごめんなさい、何言ってるんですか!?もうため口で言うわ、お前も何言ってんねん!

 やり慣れているのか、神林は下ネタしりとりが強いです。僕がペ○スと言うと、すぐに「好き者!」と返してきます。困らせてやろうと、濁点のついた「陰部」という難しい言葉を渡しても、その1秒後に「ヴァ○ナ」って言ったんですよ。

 ヴァ○ナなんて、そうは出ないでしょ?相当品のある奴じゃないと、こんな日本語は出てこないでしょ!?

 しかもこれ、崖を降りている最中に答えました。僕が先に降り、着地する寸前に「陰部」と言うと、落ちるとケガをするような高さなのに、崖の突起をつかみながら「ヴァ○ナ!」と即答したのです。

 ここからは、小さな崖をひたすら降りていきます。

 僕らは下ネタしりとりをしながら、地下に進み続けました。美しい鍾乳洞に感激し、途中、神林が言った「朝までイラ○チオ」という答えにドン引きしながらも、洞窟の奥へと進んで行きました。

 11時をまわったところで、人ひとり入れるぐらいの、狭い穴に出くわしました。僕は、先に通った吉田に引っ張ってもらってなんとか通れたものの、僕の後ろの神林が挟まったのです。

 「松山さーん!挟まりました!」

 神林は叫んでいます。「松山さーん!松山さーん!」と、先に進む僕らに大声で助けを求めたのですが、先頭で匍匐前進をする松山さんが、神林に向かって叫びました。

 「自分でなんとかしろ!」

 ざまあみろ、ボケ!ふざけたことばっかりしてるからこんなことになるんや!

 これは、うれしいですよ。神林から離れるにつれ、「バスコ、体を引っ張ってくれ!」という声が小さくなるのが、めちゃくちゃ快感なのです。

 途中で広いところに出たので、僕は振り返って、後ろを確認しました。すると、神林の顔の前にコウモリが現われており、「ギャー!」「ウオー!」と叫んでいるのです。

 罰が当たったんじゃ、ボケ!お前はもう、ずっとそのままでいろ!

 僕らは、一向に助けようとしません。気がつくと神林を置いて、50メートル以上も進んでいました。

 しばらくして、大きなホールに辿り着きました。

 ここは先ほどのホールよりも、はるかに大きいです。近くには湖があり、ここで再び、休憩を取ることになりました。

 すると松山さんは、さすがに神林のことが心配になったのでしょう。僕に、「助けに行ったってくれ!」とお願いしてきたのです。

 ですが、僕がYESと言うはずがありません。優しい奴で知られる吉田でさえ、「僕もイヤですよ!」と断ったのですが、しばらくして僕らが通ってきた穴の中から、聞き覚えのある歌声が聞こえてきたのです。

 「♪テーテレッテー テーテテー!」

 死ね!食べたカキフライにのきなみ食あたりして死ね、お前みたいな奴!

 神林を見た松山さんが、穴に石でフタをしました。押してくる神林を大きな石で押し返し、「神林、引き返してくれ!」と、おちょくりました。

 神林が到着し、ほどなくして、湖に入ることになりました。

 水面が輝くキレイな湖で、僕は前回も、ここで遊びました。僕は泳げないものの、この湖はそれほど深くはありません。水を飲むぐらいの勢いで、はしゃぎたおしたのです。

 僕と吉田はつなぎを脱ぎ、用意してきた海パンに履き替えました。

 僕は今回、ゴーグルも用意してきています。地底に潜って珍しい魚を見るという、ちょっとしたスキューバーダイビングになったのです。

 僕はこの湖で泳ぎたいがために、再びこの合宿に参加したところがあります。楽しくて仕方がなく、地底湖が初めての吉田も興奮しています。プロレス技をかけ合うなどして楽しんでいたのですが、海パンを忘れた神林が白のブリーフで浸かってきたのです。

 なんで白のブリーフやねん、その歳で!白ブリだけは手出したらあかんやろ、ダサすぎて!白のブリーフは、戦後の日本が産み出した史上最低の発明品やぞ!

 それでも、相手しなければいいです。僕らは無視して泳いでいたのですが、途中でブリーフを脱いでフルチンで泳ぎ始めたんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!お前のその股間に、スケート靴で電気あんましたろか!

 「やっほーい!」

 やっほーいやあるか、お前!で、お前のチンチン、細くて長いからなんか気持ち悪いねん!アンガールズみたいやんけ!

 泳ぐ気をなくした僕らは、湖から出ました。

 時計を見ると、昼を過ぎています。昼ご飯を食べることにし、食事終わりで、今日はもう引き返すことになりました。

 食料係の僕は、バナナと食パンをみんなにまわしました。そして食事をしながら、そばに置いてある、神林の防水カバンを何気に見たときのことです。

 カバンから、黄緑色のタッパがはみ出ていることに気がつきました。

 このタッパは、採取した洞内植物を入れるためのタッパです。今回、吉田と神林の2人が、その係に任命されています。

 前回の合宿で、神林はこのタッパに、ウンコをしていました。神林にイヤなことを思い出させてやろうと、僕は「神林さんは前回の合宿で、このタッパにウンコをしてたんですよね!」と、からかい半分にタッパのフタを開けたのですが、またウンコが入ってたんですよ!!!

 ちょっと待ってくれ、声が出ない!もしかするとデジャブかもしらんから頭を整理させてくれって、これどう見てもウンコやんけ!

 「ギャーーー!!!」

 ショックすぎるわ、こんなもん!こんなショック、よしもとばななのルックス知ったとき以来のショックやわ!

 この瞬間、本気で殺意を覚える自分がいました。

 後編へ……。