新・バスコの人生考察 -21ページ目
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オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~3合目⇒6合目編~(パソコン読者用)

※2009年・9月3日の記事を再編集


 「空気めっちゃおいしいやん、ここ!」


 「ほんまや!癒されるわ!」


 「アメちゃん、いる人?」


 「はーい!」


 「はいはいはいはいはい!」


 到着した風吹岩は、360度見渡せるパノラマです。六甲の山々の連なりが見えることから、オバハン全員が興奮しています。


 「高田さん、見てみ、あの雲!ワタガシみたいやで!」


 「岡村さん、食べてきたら?」


 「無理無理!うちはドラえもんと違うから!」


 微妙にようわからん!ウルトラマンやったらわかるけど、ドラえもんは空は飛ばんやろ!


 「あんた、それ言うんやったら、スッパマンやろ?」


 それもようわからんわ!スッパマンって、そんな高いところまで飛んでたっけ!?


 「あー、お腹空いた!」


 3時間前に肉食ったよな!?ガバニン経験者やんな、自分!?


 「急に、サムギョプサルが食べたくなってきたわ!」


 何の発作やねん、それ!ラーメンとかやったらわかるけど、急にサムギョプサルってなんやねん!ていうか、サムギョプサルって肉やろ!


 「もうちょっと我慢し!」


 だいぶ我慢せい!あとちょっとで消化できるか、あんなヘビーな肉!


 「あれっ。何も触ってへんのに、手から砂が出てきた!」


 サイババか、お前!サイババしかできんぞ、そんな荒技!


 「岡村さんそれ、日ごろの行いが悪いからやで!」


 ようわからんねんお前、さっきから!なんで日ごろの行いが悪かったらサイババなんねん!お前の理屈やと海老蔵は常に砂まみれやぞ!


 「♪あー、わたしーの恋はー、南のー!」


 シーラカンスやんな?ルックス無視してすごい歌口ずさんでるけど、誰かに刺される覚悟があってのことやろな!?


 「♪風に乗って走ーるわー!」


 やかましいわ!海に潜って泳げ、お前みたいな魚!


 「(ケンシロウが)♪くーもり、ガラスの向こうは、風の街」


 女やんな!?俺、ルビーの指輪を口ずさむ女に初めて出会って面食らってんねんけど、ごめんもう1回だけ訊かして、自分、女やんな!?


 「♪トゥールールッ、トゥールットゥルッ、トゥールットゥルッ」


 そこ歌うか、普通!?女がそのハミング歌うかな、普通!?で、女やのに、渋さ出てんねんけど!?貫禄ありすぎて、その渋さに何の違和感もないねんけど!?


 「トゥールールッ、トゥールットゥルッ」


 「トゥールトゥルッ」


 「トゥールットゥルットゥ!!!」


 全員入ってきた!全員が同時に口ずさみ始めた!


 「トゥルル、トゥールットゥルッ……」


 何の団体やねん、これ!前代未聞やぞ、ルビー口ずさむ女の団体なんて!職質くらっても文句は言えんぞ!


 近くでは、たくさんの登山客が休憩をしています。


 老人、子供、外国人と多種多様。その多くがヨン様会のテンションに面食らっており、1人の外国人が、「一緒に写真を撮らせてくれ」とお願いしてきたのです。


 モンスターあつかいやんけ!「珍しいもの」と思われてるやんけ!


 「イッショニ、シャシンヲトラセテモラエマセンカ?」


 「うわー!どうしよう!」


 キレイからとかと違うわ!珍獣を見たからや!ネッシーを撮るのと同じ感覚や!


 「もっとお化粧してきたらよかった!」


 あんまり変わらんわ!「リアル恥の上塗り」や!


 僕は撮影を頼まれました。その外国人にデジカメを手渡されたのですが、ファインダー越しに見たオバハンが全員、すました顔をしやがるのです。


 勘弁してくれよ、おい!で、メンバーに1人、志村けんの「あいーん」をしてる奴がおんねんけど!?しかもシャクらせすぎて、ほとんど真上向いてんねんけど!?首の傷しか映ってないねんけどって、ケンシロウやんけ!お前、傷口アップで見せんなよ!


 「みんな、あいーんしようや!」


 僕がデジカメのあつかいに手間取っているあいだに、ケンシロウは提案しています。外国人にもあいーんを指南し、僕はその姿を撮ることになったのですが、メンバーに1人、アゴに手をあてずにアゴだけ突き出してるオバハンがおるんですよ!あいーんでもなんでもない、単なる「アゴ突き出し」なんですよ!


 ただのアホやんけ、お前!アゴだけ突き出しても意味わからんねん!


 「あいーん!」


 やかましいわ!お前、写真撮られるときにアゴ突き出すって、どう思われたいの!?目を大きくするとかやったらわかるけど、何のメリットあんの、それ!?事情知らん奴が見たらただの頭おかしい奴やぞ!


 「花木さん、アゴに手をあてないと、あいーんにならないでしょ!」


 「あっほんまやあたしアギョに手をはてるの忘れてたへへへへへ!」


 速い速い!で、シャクらせながら言うな!ただでさえ聞き取りにくいのに何言ってるかまったくわからんやんけ!


 しかもシーラカンスが、今世紀最大の顔面をしています。気になってズームで見たところ、目をひんむいたえげつないシャクらせ方をしており、僕は軽い嘔吐を覚えたのです。


 お前もう、サーカスに行け!パートなんてせんでいいから、見世物で食っていけ!


 「たけちゃん、早く撮って!アゴがつりそう!」


 何個つんねん、お前!足がつり、アゴがつり、顔は魚で魚釣りって、何個つんねん、お前!


 「早く撮ってくれないとイヤイヤーン!」


 お前は黙れ!ていうかもう、俺は山岳保険に入るぞ!人間関係も含めた山岳保険を誰か作ってくれ!


 「たけちゃん、念のため、2枚撮ってな?」


 無理無理!これ以上見るんは肉体的に無理!俺は恐怖で手が震えて写真ブレそうやから!


 これは推測ですけど、現像した写真を見たこの外国人はたぶん、その足で大使館に駆け込みますよ。


 「スイマセン、コノクニニ、カイブツガイマシタ!シキュウ、オバマニレンラクシテクダサイ!」


 こう要求しながら、そこそこ大きめのミサイルを要求しますから。


 時刻は午前10時になりました。


 休憩を終えた僕らは、登山を開始します。僕は「怪物」を引きつれて再び、頂上を目指すことになったのです。


 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~3合目⇒6合目編~です。


 「じゃあ、そろそろ行きますよ!」


 「おーーー!!!」


 恒例のかけ声のもと、僕らは出発しました。


 ここからは、平坦な尾根道が続きます。


 岩場はもう、ほとんどありません。整備された登山道で、僕を先頭に、各自が自分のペースで登って行くことになりました。


 休憩を取ったことで、オバハン連中は元気です。疲れてきてはいるものの、おしゃべりは止まりません。僕の後ろから、妙な会話がガンガンに聞こえてきたのです。


 「さっきの外人、変な顔してたな」


 「ほんまやな。全員がトムクルーズとはかぎらんな」


 シーラカンスと足の親指やんな!?文句を言う資格なんてないし、ウイルス宿しててもおかしくないぐらいの顔面してるよな!?


 「高田さん、トムクルーズが好きなんや?」


 「大好きやで。うちのタイプはそうやな。ヨン様は言うまでもなく、チャン・ドンゴン、キム・スンウ、トム・クルーズ……」


 ぜいたく言うなよ、お前!お前それは、小学校しか出てへんのに外務省への就職を望むようなもんやぞ!


 「あと、田中星児」


 最後、おい!最後にすごい落差があってんけど!?トムクルーズと並んで、ビューティフルサンデーのオッサン出てきてんけど!?


 「この人たちやったら、うち、旦那を捨てるわ」


 何様やねん、お前!どう転んでも無理やわ!無人島で2人っきりになっても、トムクルーズは木のほうを抱くわ!魚のお前は食料や!


 「岡村さんは誰が好きなん?」


 「うちもキム・スンウは好きやで。あと個人的には、イドイド、イドイド、イ・ドンゴンが好きやな」


 なんて!?今、すごい名前の長い人いたけど、それ誰!?


 「あと、松村雄基も好きやで」


 渋すぎるわ!なんで韓流スターからいきなり大映ドラマになんねん!死語やぞもう、松村雄基って!


 「あっ、雄基、いいね」


 関係者か!なんでそんなになれなれしいねん、お前!


 「楽しそうにしてるけど、何の話をしてんの?」


 「ヨン様以外で有名人は誰がタイプか、って話をしてんねん。花木さんは誰が好きなん?」


 「うちはそうやな本木雅弘渡部篤郎……」


 速い速い!もう誰が誰かわからん!


 「あと、速水もこみち」


 名前も速いな!早口の奴が速水て!


 「もこみち君、いいよな!」


 「いいやろ、もこみち君!8頭身らしいで、もこみち君!」


 もこみち君て、おい!体もこもこの奴がもこみち君て!この2頭身どもが!


 「あと、トヨエツもいいよな?」


 「うち、トヨエツ嫌い」


 「なんで?」


 「うち、爬虫類系はあかんねん」


 お前は魚類系やろ!海で泳いでたら、船からモリが飛んできそうなぐらい魚やろ!


 「うちも爬虫類系はあかんわ」


 お前は指系やろ!お前に至っては何かの一部分やろ!で、より正確に言えば、オッサンの足の親指やからな!


 「それより、たけちゃんのこと、どう思う?」


 「たけちゃんか……。いや、悪くはないねんで。いい子やねんけど、悪いけど、うちはタイプじゃない!」


 やかましいわ、足の親指!何を上から言ってくれとんねん!家、軽トラのくせによ!


 「うち、たけちゃんはタイプやで」


 シーラカンス……。ごめん、今まで言いすぎたわ。お前みたいな奴でも、そんなこと言ってくれるとうれしいわ。


 「でも、結婚は無理やな」


 やかましいわ!こっちから願い下げじゃ、ボケ!想像しただけですでにマリッジブルーやわ、俺!


 「あの子はたぶん、仕事人間やで」


 やかましいねん、だから!で言うとくぞ、俺は少なくとも仕事「人間」やからな!お前は魚で、人間の俺は少なくとも呼吸は鼻でしてるからな!


 声が大きすぎて、このように丸聞こえなのです。


 途中からは、別の登山客を巻き込んで盛り上がっています。


 ふと振り返ったところ、親しくなったその登山客のオバハンが、「脱皮に失敗したニシキヘビ」みたいな顔してたんですよ。


 なんでブサイク固まんねん、こんなにも!集まりすぎやろ、一箇所に!この国で5本の指に入るブサイクが集まったのはおろか、指自体がおるやんけ!


 「私も爬虫類系は無理ですわ!」


 爬虫類やろ、お前!お前自身がニシキヘビやろ!


 「見るだけでゾッとするんです!」


 どうやって化粧した!?丁寧に化粧してるけど、鏡見ないでどうやって化粧した!?


 このあと、僕の母親とケンシロウも巻き込み、7人で会話を始めました。


 ですが、僕は心のスタミナが切れたため、1人で先に行きました。聞かされるのがしんどく、さくさくと歩いて行きました。


 20分ほど歩いて、『横池』と呼ばれる、大きな池に到着しました。


 ここは中央に、100メートル四方の大きな池があります。生え茂った木々に囲まれ、風も涼しいです。あまりの清涼感に、ほかのメンバーが来るまで池のほとりで寝転ぶことにしたのですが、ほどなくしてやってきたケンシロウが、寝転ぶ僕を上から見て言ったのです。


 「たけちゃん、野グソしたいねんけど?」


 知らんがな、そんなもん!黙って行けよ、お前!隊長に報告する義務とかないねん、野グソに!


 「鼻噛んだからティッシュがないねん」


 だったらティッシュくれって言えや!どこの世界に野グソしたいねんけどって言い方する女がおんねん!


 僕は、箱ティッシュを丸ごと持ってきています。人気のない、近くの草むらまで一緒に連れて行き、ティッシュをケンシロウに渡しました。


 5分ほどして、ほかのメンバーがぞろぞろとやってきました。


 全員、汗だくです。Tシャツのそでを肩までたくし上げており、うちの母親の脇毛が、完全に見えているのです。風が強いことから、軽くなびいてるんですよ。


 俺もう、死にたいねんけど!?その脇毛見るたびに、急に手首切りたい衝動に駆られんねんけど!?


 「どない?」


 どないやあるか、お前!条件よかったら誰かの養子に入るぞ、俺!


 とはいえ、上には上がいます。


 僕の母親に少し遅れて、そでをたくし上げたシーラカンスがやってきました。


 僕の母親の脇毛はそれでも、軽く生えているだけです。何気にシーラカンスの脇を見たところ、普通に生えてたんですよ。


 当たり前のようにそのままなんですよ!ボーボーもボーボー、「脇で、まっくろくろすけ飼ってます!」というぐらい、普通に黒々してるんですよ!


 旦那連れて来い、もう!もう旦那に訊くわ、「これの何がありやったの?」って!


 「たけちゃん、元気やな!」


 ごめん、話しかけんといて!ていうか俺、お前みたいな奴に結婚断られんの!?脇毛生えてる魚にプロポーズ断られるんや!?


 このように、どいつもこいつも完全に女を捨てているのです。


 僕は、ケンシロウが野グソをしていることを告げました。この4人のペースが落ちてきていたため先に行かし、僕はケンシロウを待って、あとを追うことにしました。


 僕は再び、池のほとりに寝転びました。


 手持ちのタオルを池で濡らして、汗で湿った体を拭きます。1人になれたことからも、ようやくひと息つけました。


 ですが、いつまでたっても、ケンシロウは戻ってきません。


 草むらに入ってもう、20分は経過しています。一向に戻ってくる気配はなく、心配になった僕は見に行くことにしました。


 僕は、草むらの入り口に来ました。


 「山本さん、遅いですけど、大丈夫ですか?」


 遠目から叫んだものの、返事はありません。おかしいな、場所を変えたんかな、と思いながらも何気に視線を投げたところ、僕の近くの木の下で、ケンシロウがくわえタバコでウンコしてたんですよ。


 両手を握り締めて、鼻から煙出しながらウンコしてるんですよ!僕の3メートル先にしゃがみ、「いっぱい出んかい、コラ!」と叫ぶかのごとく、眉間にシワ寄せながらおもいっきりきばってるんですよ!


 射殺対象やわ、もう!猟師が撃ってきても文句言えんわ、こんな怪物!


 「ちょっと!」


 こっちのセリフじゃ、そんなもん!この何十年で1番すごいもん見たわ!


 「何しに来たん?」


 会話する気!?肛門からウンコ出しながら俺と会話する気!?至って冷静やねんけど、怪物のお前はこんなことでは動じひんねや!?


 「心配なんで見に来たんですよ!」


 「下痢や下痢!最初は普通のウンコやってんけど、途中から急に下痢になったんや!」


 R指定やわ、こんな品ない日本語!下品すぎて、人に見せるのに躊躇するわ!


 怖くなった僕は、すぐにその場を立ち去りました。


 しばらくしてケンシロウもやってきたのですが、「このこと、誰にも言わんといてな!」って言わなかったですからね。堂々と僕の前に現われ、「あんた、気つけや!」と、ひと言注意しただけでしたから。


 僕は、ケンシロウからティッシュを返されました。


 ただこのティッシュが、死ぬほど減っているのです。「修学旅行あけの男子中学生か!」というぐらい、ほとんど新品だったのに半分近く使っているのです。


 どれだけでかいウンコしてん!何サウルスやねん、お前!


 「ちょっと山本さん、ティッシュ、使いすぎでしょ?」


 「だって出るんやもん!」


 出るんやもんやあるか、お前!少しは品ないんか!吉永小百合を見習え、少しは!


 野グソに苦戦したため、ケンシロウは汗ばんでいます。


 「靴下変えるわ」


 僕の隣に座って靴を脱ぎ始めたのですが、その足がまた、尋常じゃないぐらい大きいのです。


 「や、山本さん、足のサイズって、いくつなんですか?」


 「いや、でも27やで」


 でかすぎるわ!俺、足が27の女に初めて出会ってんけど!?で、「いやでも」って何!?「そんなに大きくないやろ」みたいなニュアンス出したけど、どこの集落で過ごしたらそんな価値観になんの!?


 しかも、指の1つひとつが特大です。特筆すべきは親指で、「そこだけ戸愚呂兄に乗っ取られてんの?」というぐらい、小さめの携帯電話ぐらいあるのです。


 お前、電波何本やねん、それ!すごい電波が入りそうやねんけど!?


 「あかん、微妙に足臭い!」


 オッサンやんけ!で、そのオッサンみたいな親指、岡村さんにそっくりやんけ!「岡村さん、こんなところにおったんですか」と俺はノドまで出かかったやんけ!


 「それより山本さん、足の裏から血がいっぱい出てるじゃないですか!」


 「血豆が壊れた。でも大丈夫や、これぐらい」


 「バンドエイドと包帯あるんで、よかったら治療しましょうか?」


 「いらん。こんなもん、根性でなんとかなるわ」


 アウンサンスーチーか、お前!女でそのガッツ、スーチークラスじゃないと出せんぞ!


 「それより、汗で体もニチョニチョや。そこの池で、石鹸で体を洗いたいわ」


 石鹸派なん!?ボディーシャンプーじゃないの、女やのに!?


 「や、山本さんって、ボディーシャンプーじゃないんですか?」


 「あんなチャラいもん使えるかいな!」


 別にチャラないよ、ボディーシャンプーは!石倉三郎あたりも普通に使ってるよ!


 「お腹が痛い!また野グソしてくるわ!」


 野グりすぎやねん、さっきから!マルコポーロか!


 僕はあまりの衝撃に、軽く心臓が止まりました。たくさんの規格外を見せつけられて、生きてる心地がしないのです。


 10分ほどして、ケンシロウが戻ってきました。


 時刻は午前11時。僕は立ち上がり、ケンシロウと2人して登山道に移動しました。


 ほかの4人は、僕らのはるか先を行っているようです。僕はケンシロウと並び、どんどん歩みを進めました。


 ケンシロウは元気です。普段から散歩を日課にしているだけあって、僕に余裕でついてきます。血豆が壊れた影響など微塵も見せず、僕を追い越すこともあるぐらいなのです。


 途中でケンシロウの前に、たくさんのクモの巣が現われました。


 ですが普通、こんなもん、よけません?


 近くには、よけるためのスペースもあります。どう考えてもよけるのが筋なのに、顔面から普通に突入して行ったんですよ。


 機関車トーマスか、お前!ていうかそれ、昼飯か?「怪物のエサ」とかそういうことか!?


 ケンシロウは顔についた巣を、何ごともなかったかのように手ではらいました。


 「いつものことよ!」


 こう叫ぶかのごとく平然とはがしたのですが、ふと見たケンシロウの首が、傷口にクモが張りついて刺青みたいになっているのです。


 怖すぎんねんけど!?自主的に財布差し出してまいそうやねんけど、俺!?


 「山本さん、首にクモがいますよ!」


 「(手で叩いて)あー、もう!」


 指で飛ばせよ!なんで殺すねん、お前!首も汚れるし、指で飛ばしたらいいやろ!


 「それよりもう1回、野グソさして?」


 クモ殺し終わりで野グソなん!?ちょっと待って、すごいスケジュールやねんけど、それ!?1時間目正座、2時間目正座、3時間目マラソン大会なみのえげつない時間割りやねんけど!?


 「♪トゥールールッ、トゥールットゥルッ、トゥールットゥルッ!」


 ルビーを口ずさみながら野グソに行くな!ていうか、そこ歌うか、普通!?そこ歌う女なんて向こう100年出そうにないわ!


 本当に一線を越えてますよ、このオバハン。


 年齢、性別、人種……。すべてが一線を越えており、同じ人間とは思えません。僕はおびえながら、ケンシロウの後ろを歩き続けました。


 途中、僕は勇気を出して、岡村さんとの件を口にしました。


 「山本さん、岡村さんと仲よくしてくださいよ」


 「無理無理!うちはあの子、ほんまに嫌いやから!」


 ケンシロウは、僕の忠告を聞きません。「せっかくの登山なんですから!」と続けても嫌いの一点張りで、まったく聞く耳を持たないのです。


 20分ほど歩いて、キレイに整備された登山道に出ました。


 ここからは起伏が少ないです。僕らはどんどん歩みを進め、しばらくして、ゴルフ場の横に来ました。


 ここは山の6合目。草に覆われた小さな広場があり、広場では、先に進んでいた4人が休憩しています。


 ですが、視界に入った僕の母親が、持参のオニギリをほおばっているのです。


 何飯やねん、それ!4時間ちょっと前に焼肉食ってたけど、それ何飯なん!?


 「いる?」


 いらんわ!ガバニン残っとるわ、まだ胃に!


 「遅かったやん」


 僕とケンシロウを見たシーラカンスが、口にしました。


 すると、シーラカンスの隣にいた岡村さんが、余計なことを言いやがったのです。


 「たけちゃん、事務総長と一緒で大変やったやろ?」


 ケンシロウの顔色が変わりました。


 「えっ、なんて?岡村さん、うちがなんてなんて!?」


 こう言って、ケンシロウは岡村さんに歩み寄りました。


 そしてこのあと、この登山、最大の事件が勃発するのです……。


 続く……。


オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~3合目⇒6合目編~(携帯読者用)

※2009年・9月3日の記事を再編集

 「空気めっちゃおいしいやん、ここ!」

 「ほんまや!癒されるわ!」

 「アメちゃん、いる人?」

 「はーい!」

 「はいはいはいはいはい!」

 到着した風吹岩は、360度見渡せるパノラマです。六甲の山々の連なりが見えることから、オバハン全員が興奮しています。

 「高田さん、見てみ、あの雲!ワタガシみたいやで!」

 「岡村さん、食べてきたら?」

 「無理無理!うちはドラえもんと違うから!」

 微妙にようわからん!ウルトラマンやったらわかるけど、ドラえもんは空は飛ばんやろ!

 「あんた、それ言うんやったら、スッパマンやろ?」

 それもようわからんわ!スッパマンって、そんな高いところまで飛んでたっけ!?

 「あー、お腹空いた!」

 3時間前に肉食ったよな!?ガバニン経験者やんな、自分!?

 「急に、サムギョプサルが食べたくなってきたわ!」

 何の発作やねん、それ!ラーメンとかやったらわかるけど、急にサムギョプサルってなんやねん!ていうか、サムギョプサルって肉やろ!

 「もうちょっと我慢し!」

 だいぶ我慢せい!あとちょっとで消化できるか、あんなヘビーな肉!

 「あれっ。何も触ってへんのに、手から砂が出てきた!」

 サイババか、お前!サイババしかできんぞ、そんな荒技!

 「岡村さんそれ、日ごろの行いが悪いからやで!」

 ようわからんねんお前、さっきから!なんで日ごろの行いが悪かったらサイババなんねん!お前の理屈やと海老蔵は常に砂まみれやぞ!

 「♪あー、わたしーの恋はー、南のー!」

 シーラカンスやんな?ルックス無視してすごい歌口ずさんでるけど、誰かに刺される覚悟があってのことやろな!?

 「♪風に乗って走ーるわー!」

 やかましいわ!海に潜って泳げ、お前みたいな魚!

 「(ケンシロウが)♪くーもり、ガラスの向こうは、風の街」

 女やんな!?俺、ルビーの指輪を口ずさむ女に初めて出会って面食らってんねんけど、ごめんもう1回だけ訊かして、自分、女やんな!?

 「♪トゥールールッ、トゥールットゥルッ、トゥールットゥルッ」

 そこ歌うか、普通!?女がそのハミング歌うかな、普通!?で、女やのに、渋さ出てんねんけど!?貫禄ありすぎて、その渋さに何の違和感もないねんけど!?

 「トゥールールッ、トゥールットゥルッ」

 「トゥールトゥルッ」

 「トゥールットゥルットゥ!!!」

 全員入ってきた!全員が同時に口ずさみ始めた!

 「トゥルル、トゥールットゥルッ……」

 何の団体やねん、これ!前代未聞やぞ、ルビー口ずさむ女の団体なんて!職質くらっても文句は言えんぞ!

 近くでは、たくさんの登山客が休憩をしています。

 老人、子供、外国人と多種多様。その多くがヨン様会のテンションに面食らっており、1人の外国人が、「一緒に写真を撮らせてくれ」とお願いしてきたのです。

 モンスターあつかいやんけ!「珍しいもの」と思われてるやんけ!

 「イッショニ、シャシンヲトラセテモラエマセンカ?」

 「うわー!どうしよう!」

 キレイからとかと違うわ!珍獣を見たからや!ネッシーを撮るのと同じ感覚や!

 「もっとお化粧してきたらよかった!」

 あんまり変わらんわ!「リアル恥の上塗り」や!

 僕は撮影を頼まれました。その外国人にデジカメを手渡されたのですが、ファインダー越しに見たオバハンが全員、すました顔をしやがるのです。

 勘弁してくれよ、おい!で、メンバーに1人、志村けんの「あいーん」をしてる奴がおんねんけど!?しかもシャクらせすぎて、ほとんど真上向いてんねんけど!?首の傷しか映ってないねんけどって、ケンシロウやんけ!お前、傷口アップで見せんなよ!

 「みんな、あいーんしようや!」

 僕がデジカメのあつかいに手間取っているあいだに、ケンシロウは提案しています。外国人にもあいーんを指南し、僕はその姿を撮ることになったのですが、メンバーに1人、アゴに手をあてずにアゴだけ突き出してるオバハンがおるんですよ!あいーんでもなんでもない、単なる「アゴ突き出し」なんですよ!

 ただのアホやんけ、お前!アゴだけ突き出しても意味わからんねん!

 「あいーん!」

 やかましいわ!お前、写真撮られるときにアゴ突き出すって、どう思われたいの!?目を大きくするとかやったらわかるけど、何のメリットあんの、それ!?事情知らん奴が見たらただの頭おかしい奴やぞ、お前は!

 「花木さん、アゴに手をあてないと、あいーんにならないでしょ」

 「あっほんまやあたしアギョに手をはてるの忘れてたへへへへへ!」

 速い速い!で、シャクらせながら言うな!ただでさえ聞き取りにくいのに何言ってるかまったくわからんやんけ!

 しかもシーラカンスが、今世紀最大の顔面をしています。気になってズームで見たところ、目をひんむいたえげつないシャクらせ方をしており、僕は軽い嘔吐を覚えたのです。

 お前もう、サーカスに行け!パートなんてせんでいいから、見世物で食っていけ!

 「たけちゃん、早く撮って!アゴがつりそう!」

 何個つんねん、お前!足がつり、アゴがつり、顔は魚で魚釣りって、何個つんねん、お前!

 「早く撮ってくれないとイヤイヤーン!」

 お前は黙れ!ていうかもう、俺は山岳保険に入るぞ!人間関係も含めた山岳保険を誰か作ってくれ!

 「たけちゃん、念のため、2枚撮ってな?」

 無理無理!これ以上見るんは肉体的に無理!俺は恐怖で手が震えて写真ブレそうやから!

 これは推測ですけど、現像した写真を見たこの外国人はたぶん、その足で大使館に駆け込みますよ。

 「スイマセン、コノクニニ、カイブツガイマシタ!シキュウ、オバマニレンラクシテクダサイ!」

 こう要求しながら、そこそこ大きめのミサイルを要求しますから。

 時刻は午前10時になりました。

 休憩を終えた僕らは、登山を開始します。僕は「怪物」を引きつれて再び、頂上を目指すことになったのです。

 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~3合目⇒6合目編~です。

 「じゃあ、そろそろ行きますよ!」

 「おーーー!!!」

 恒例のかけ声のもと、僕らは出発しました。

 ここからは、平坦な尾根道が続きます。

 岩場はもう、ほとんどありません。整備された登山道で、僕を先頭に、各自が自分のペースで登って行くことになりました。

 休憩を取ったことで、オバハン連中は元気です。疲れてきてはいるものの、おしゃべりは止まりません。僕の後ろから、妙な会話がガンガンに聞こえてきたのです。

 「さっきの外人、変な顔してたな」

 「ほんまやな。全員がトムクルーズとはかぎらんな」

 シーラカンスと足の親指やんな!?文句を言う資格なんてないし、ウイルス宿しててもおかしくないぐらいの顔面してるよな!?

 「高田さん、トムクルーズが好きなんや?」

 「大好きやで。うちのタイプはそうやな。ヨン様は言うまでもなく、チャン・ドンゴン、キム・スンウ、トム・クルーズ……」

 ぜいたく言うなよ、お前!お前それは、小学校しか出てへんのに外務省への就職を望むようなもんやぞ!

 「あと、田中星児」

 最後、おい!最後にすごい落差があってんけど!?トムクルーズと並んで、ビューティフルサンデーのオッサン出てきてんけど!?

 「この人たちやったら、うち、旦那を捨てるわ」

 何様やねん、お前!どう転んでも無理やわ!無人島で2人っきりになっても、トムクルーズは木のほうを抱くわ!魚のお前は食料や!

 「岡村さんは誰が好きなん?」

 「うちもキム・スンウは好きやで。あと個人的には、イドイド、イドイド、イ・ドンゴンが好きやな」

 なんて!?今、すごい名前の長い人いたけど、それ誰!?

 「あと、松村雄基も好きやで」

 渋すぎるわ!なんで韓流スターからいきなり大映ドラマになんねん!死語やぞもう、松村雄基って!

 「あっ、雄基、いいね」

 関係者か!なんでそんなになれなれしいねん、お前!

 「楽しそうにしてるけど、何の話をしてんの?」

 「ヨン様以外で有名人は誰がタイプか、って話をしてんねん。花木さんは誰が好きなん?」

 「うちはそうやな本木雅弘渡部篤郎……」

 速い速い!もう誰が誰かわからん!

 「あと、速水もこみち」

 名前も速いな!早口の奴が速水て!

 「もこみち君、いいよな!」

 「いいやろ、もこみち君!8頭身らしいで、もこみち君!」

 もこみち君て、おい!体もこもこの奴がもこみち君て!この2頭身どもが!

 「あと、トヨエツもいいよな?」

 「うち、トヨエツ嫌い」

 「なんで?」

 「うち、爬虫類系はあかんねん」

 お前は魚類系やろ!海で泳いでたら、船からモリが飛んできそうなぐらい魚やろ!

 「うちも爬虫類系はあかんわ」

 お前は指系やろ!お前に至っては何かの一部分やろ!で、より正確に言えば、オッサンの足の親指やからな!

 「それより、たけちゃんのこと、どう思う?」

 「たけちゃんか……。いや、悪くはないねんで。いい子やねんけど、悪いけど、うちはタイプじゃない!」

 やかましいわ、足の親指!何を上から言ってくれとんねん!家、軽トラのくせによ!

 「うち、たけちゃんはタイプやで」

 シーラカンス……。ごめん、今まで言いすぎたわ。お前みたいな奴でも、そんなこと言ってくれるとうれしいわ。

 「でも、結婚は無理やな」

 やかましいわ!こっちから願い下げじゃ、ボケ!想像しただけですでにマリッジブルーやわ、俺!

 「あの子はたぶん、仕事人間やで」

 やかましいねん、だから!で言うとくぞ、俺は少なくとも仕事「人間」やからな!お前は魚で、人間の俺は少なくとも呼吸は鼻でしてるからな!

 声が大きすぎて、このように丸聞こえなのです。

 途中からは、別の登山客を巻き込んで盛り上がっています。

 ふと振り返ったところ、親しくなったその登山客のオバハンが、「脱皮に失敗したニシキヘビ」みたいな顔してたんですよ。

 なんでブサイク固まんねん、こんなにも!集まりすぎやろ、一箇所に!この国で5本の指に入るブサイクが集まったのはおろか、指自体がおるやんけ!

 「私も爬虫類系は無理ですわ!」

 爬虫類やろ、お前!お前自身がニシキヘビやろ!

 「見るだけでゾッとするんです!」

 どうやって化粧した!?丁寧に化粧してるけど、鏡見ないでどうやって化粧した!?

 このあと、僕の母親とケンシロウも巻き込み、7人で会話を始めました。

 ですが、僕は心のスタミナが切れたため、1人で先に行きました。聞かされるのがしんどく、さくさくと歩いて行きました。

 20分ほど歩いて、『横池』と呼ばれる、大きな池に到着しました。

 ここは中央に、100メートル四方の大きな池があります。生え茂った木々に囲まれ、風も涼しいです。あまりの清涼感に、ほかのメンバーが来るまで池のほとりで寝転ぶことにしたのですが、ほどなくしてやってきたケンシロウが、寝転ぶ僕を上から見て言ったのです。

 「たけちゃん、野グソしたいねんけど?」

 知らんがな、そんなもん!黙って行けよ、お前!隊長に報告する義務とかないねん、野グソに!

 「鼻噛んだからティッシュがないねん」

 だったらティッシュくれって言えや!どこの世界に野グソしたいねんけどって言い方する女がおんねん!

 僕は、箱ティッシュを丸ごと持ってきています。人気のない、近くの草むらまで一緒に連れて行き、ティッシュをケンシロウに渡しました。

 5分ほどして、ほかのメンバーがぞろぞろとやってきました。

 全員、汗だくです。Tシャツのそでを肩までたくし上げており、うちの母親の脇毛が、完全に見えているのです。風が強いことから、軽くなびいてるんですよ。

 俺もう、死にたいねんけど!?その脇毛見るたびに、急に手首切りたい衝動に駆られんねんけど!?

 「どない?」

 どないやあるか、お前!条件よかったら誰かの養子に入るぞ、俺!

 とはいえ、上には上がいます。

 僕の母親に少し遅れて、そでをたくし上げたシーラカンスがやってきました。

 僕の母親の脇毛はそれでも、軽く生えているだけです。何気にシーラカンスの脇を見たところ、普通に生えてたんですよ。

 当たり前のようにそのままなんですよ!ボーボーもボーボー、「脇で、まっくろくろすけ飼ってます!」というぐらい、普通に黒々してるんですよ!

 旦那連れて来い、もう!もう旦那に訊くわ、「これの何がありやったの?」って!

 「たけちゃん、元気やな!」

 ごめん、話しかけんといて!ていうか俺、お前みたいな奴に結婚断られんの!?脇毛生えてる魚にプロポーズ断られるんや!?

 このように、どいつもこいつも完全に女を捨てているのです。

 僕は、ケンシロウが野グソをしていることを告げました。この4人のペースが落ちてきていたため先に行かし、僕はケンシロウを待って、あとを追うことにしました。

 僕は再び、池のほとりに寝転びました。

 手持ちのタオルを池で濡らして、汗で湿った体を拭きます。1人になれたことからも、ようやくひと息つけました。

 ですが、いつまでたっても、ケンシロウは戻ってきません。

 草むらに入ってもう、20分は経過しています。一向に戻ってくる気配はなく、心配になった僕は見に行くことにしました。

 僕は、草むらの入り口に来ました。

 「山本さん、遅いですけど、大丈夫ですか?」

 遠目から叫んだものの、返事はありません。おかしいな、場所を変えたんかな、と思いながらも何気に視線を投げたところ、僕の近くの木の下で、ケンシロウがくわえタバコでウンコしてたんですよ。

 両手を握り締めて、鼻から煙出しながらウンコしてるんですよ!僕の3メートル先にしゃがみ、「いっぱい出んかい、コラ!」と叫ぶかのごとく、眉間にシワ寄せながらおもいっきりきばってるんですよ!

 射殺対象やわ、もう!猟師が撃ってきても文句言えんわ、こんな怪物!

 「ちょっと!」

 こっちのセリフじゃ、そんなもん!この何十年で1番すごいもん見たわ!

 「何しに来たん?」

 会話する気!?肛門からウンコ出しながら俺と会話する気!?至って冷静やねんけど、怪物のお前はこんなことでは動じひんねや!?

 「心配なんで見に来たんですよ!」

 「下痢や下痢!最初は普通のウンコやってんけど、途中から急に下痢になったんや!」

 R指定やわ、こんな品ない日本語!下品すぎて、人に見せるのに躊躇するわ!

 怖くなった僕は、すぐにその場を立ち去りました。

 しばらくしてケンシロウもやってきたのですが、「このこと、誰にも言わんといてな!」って言わなかったですからね。堂々と僕の前に現われ、「あんた、気つけや!」と、ひと言注意しただけでしたから。

 僕は、ケンシロウからティッシュを返されました。

 ただこのティッシュが、死ぬほど減っているのです。「修学旅行あけの男子中学生か!」というぐらい、ほとんど新品だったのに半分近く使っているのです。

 どれだけでかいウンコしてん!何サウルスやねん、お前!

 「ちょっと山本さん、ティッシュ、使いすぎでしょ?」

 「だって出るんやもん!」

 出るんやもんやあるか、お前!少しは品ないんか!吉永小百合を見習え、少しは!

 野グソに苦戦したため、ケンシロウは汗ばんでいます。

 「靴下変えるわ」

 僕の隣に座って靴を脱ぎ始めたのですが、その足がまた、尋常じゃないぐらい大きいのです。

 「や、山本さん、足のサイズって、いくつなんですか?」

 「いや、でも27やで」

 でかすぎるわ!俺、足が27の女に初めて出会ってんけど!?で、「いやでも」って何!?「そんなに大きくないやろ」みたいなニュアンス出したけど、どこの集落で過ごしたらそんな価値観になんの!?

 しかも、指の1つひとつが特大です。特筆すべきは親指で、「そこだけ戸愚呂兄に乗っ取られてんの?」というぐらい、小さめの携帯電話ぐらいあるのです。

 お前、電波何本やねん、それ!すごい電波が入りそうやねんけど!?

 「あかん、微妙に足臭い!」

 オッサンやんけ!で、そのオッサンみたいな親指、岡村さんにそっくりやんけ!「岡村さん、こんなところにおったんですか」と俺はノドまで出かかったやんけ!

 「それより山本さん、足の裏から血がいっぱい出てるじゃないですか!」

 「血豆が壊れた。でも大丈夫や、これぐらい」

 「バンドエイドと包帯あるんで、よかったら治療しましょうか?」

 「いらん。こんなもん、根性でなんとかなるわ」

 アウンサンスーチーか、お前!女でそのガッツ、スーチークラスじゃないと出せんぞ!

 「それより、汗で体もニチョニチョや。そこの池で、石鹸で体を洗いたいわ」

 石鹸派なん!?ボディーシャンプーじゃないの、女やのに!?

 「や、山本さんって、ボディーシャンプーじゃないんですか?」

 「あんなチャラいもん使えるかいな!」

 別にチャラないよ、ボディーシャンプーは!石倉三郎あたりも普通に使ってるよ!

 「お腹が痛い!また野グソしてくるわ!」

 野グりすぎやねん、さっきから!マルコポーロか!

 僕はあまりの衝撃に、軽く心臓が止まりました。たくさんの規格外を見せつけられて、生きてる心地がしないのです。

 10分ほどして、ケンシロウが戻ってきました。

 時刻は午前11時。僕は立ち上がり、ケンシロウと2人して登山道に移動しました。

 ほかの4人は、僕らのはるか先を行っているようです。僕はケンシロウと並び、どんどん歩みを進めました。

 ケンシロウは元気です。普段から散歩を日課にしているだけあって、僕に余裕でついてきます。血豆が壊れた影響など微塵も見せず、僕を追い越すこともあるぐらいなのです。

 途中でケンシロウの前に、たくさんのクモの巣が現われました。

 ですが普通、こんなもん、よけません?

 近くには、よけるためのスペースもあります。どう考えてもよけるのが筋なのに、顔面から普通に突入して行ったんですよ。

 機関車トーマスか、お前!ていうかそれ、昼飯か?「怪物のエサ」とかそういうことか!?

 ケンシロウは顔についた巣を、何ごともなかったかのように手ではらいました。

 「いつものことよ!」

 こう叫ぶかのごとく平然とはがしたのですが、ふと見たケンシロウの首が、傷口にクモが張りついて刺青みたいになっているのです。

 怖すぎんねんけど!?自主的に財布差し出してまいそうやねんけど、俺!?

 「山本さん、首にクモがいますよ!」

 「(手で叩いて)あー、もう!」

 指で飛ばせよ!なんで殺すねん、お前!首も汚れるし、指で飛ばしたらいいやろ!

 「それよりもう1回、野グソさして?」

 クモ殺し終わりで野グソなん!?ちょっと待って、すごいスケジュールやねんけど、それ!?1時間目正座、2時間目正座、3時間目マラソン大会なみのえげつない時間割りやねんけど!?

 「♪トゥールールッ、トゥールットゥルッ、トゥールットゥルッ!」

 ルビーを口ずさみながら野グソに行くな!ていうか、そこ歌うか、普通!?そこ歌う女なんて向こう100年出そうにないわ!

 本当に一線を越えてますよ、このオバハン。

 年齢、性別、人種……。すべてが一線を越えており、同じ人間とは思えません。僕はおびえながら、ケンシロウの後ろを歩き続けました。

 途中、僕は勇気を出して、岡村さんとの件を口にしました。

 「山本さん、岡村さんと仲よくしてくださいよ」

 「無理無理!うちはあの子、ほんまに嫌いやから!」

 ケンシロウは、僕の忠告を聞きません。「せっかくの登山なんですから!」と続けても嫌いの一点張りで、まったく聞く耳を持たないのです。

 20分ほど歩いて、キレイに整備された登山道に出ました。

 ここからは起伏が少ないです。僕らはどんどん歩みを進め、しばらくして、ゴルフ場の横に来ました。

 ここは山の6合目。草に覆われた小さな広場があり、広場では、先に進んでいた4人が休憩しています。

 ですが、視界に入った僕の母親が、持参のオニギリをほおばっているのです。

 何飯やねん、それ!4時間ちょっと前に焼肉食ってたけど、それ何飯なん!?

 「いる?」

 いらんわ!ガバニン残っとるわ、まだ胃に!

 「遅かったやん」

 僕とケンシロウを見たシーラカンスが、口にしました。

 すると、シーラカンスの隣にいた岡村さんが、余計なことを言いやがったのです。

 「たけちゃん、事務総長と一緒で大変やったやろ?」

 ケンシロウの顔色が変わりました。

 「えっ、なんて?岡村さん、うちがなんてなんて!?」

 こう言って、ケンシロウは岡村さんに歩み寄りました。

 そしてこのあと、この登山、最大の事件が勃発するのです……。

 続く……。

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~出発⇒3合目編~(パソコン読者用)

※2009年・8月29日の記事を再編集


 「♪オーソレミーヨー!オソレミーヨー!」


 「事務総長は、ほんまに元気やな!ハハハハハ!」


 「プゥ!」


 「高田さん、オナラしてばっかりやないの!ハハハハハ!」


 先頭を歩く僕の耳に、オバハンの大きなしゃべり声が聞こえてきます。オバハン連中のトークは止まらず、周囲の登山客を圧倒しているのです。


 しかも、会話の大半は意味不明。ケンシロウとシーラカンスを中心に、訳のわからない会話を連発しています。


 「高田さん、見てみ。外人がいてるで」


 「ほんまや。外人のくせに、日本の山に登るんやな」


 失礼やろ!お前らも汚いオバハンのくせによ!


 「フィンランド人かな?」


 何を根拠に言ってんの、それ!?インド人とかやったらまだわかるけど、フィンランド人に何か特徴あったっけ!?


 「いや、欧米の人やろ」


 広いねん!「本州の人やろ」とか言うようなもんやぞ、それ!ていうか、フィンランドは欧米やろ!


 「(僕の母親が)あの外人、すね毛濃いな!」


 お前は脇毛濃いやろ!お前、公衆の面前で脇毛さらされる息子の俺の身にもなれよ!引きこもる動機としては充分やねんぞ!


 「でも、芦屋だけに、高そうな家が多いな」


 「ほんまやな」


 「毎日、いい食事してるんやろな」


 「そうやろな。毎日、グラタンとか食べてるんと違う?」


 グラタンって高いか?さらっと言ったけど、価値観おかしくないか!?


 「絶対、そうやわ。グラタンに、ゴンゾリアンとか載してんで」


 はっ?はっ?


 「絶対にゴンゾリアン載してるわ」


 はっ?はっ?


 「金持ってる奴はだいたいゴンゾリアン……」


 ゴルゴンゾーラのこと!?ゴンゾリアンって、もしかしてゴルゴンゾーラチーズのこと言ってんの!?


 「事務総長、それ、ゴーゴンゾーラと違う?」


 ゴルゴンゾーラや!ゴーゴンゾーラやったら、食った奴全員が石になるやんけ!目隠ししてオーブンに入れないとあかんやんけ!


 「それより、見てみ、この家。すごい高そうな犬がおるで」


 「毛並みもすごいな。やっぱり、グラタン食べてる犬は違うな」


 なんでグラタン基準やねん、なんでもかんでも!マカロニストか、お前!


 「うちなんて犬のエサ代がないとき、ゴミ食べさしてるで」


 ゴミ食わしてんの、お前の家!?ゴミのようなエサじゃなくて、ゴミそのものを与えてるんや!?「シュレッダー犬」かなんかか!?


 「何のゴミあげてんの?」


 そういう問題と違うわ!お前、何をいいゴミやったら大丈夫みたいな言い方してくれとんねん!質にかぎらずゴミの時点で全部ノーサンキューじゃ、犬は!


 「でも、飼い主の見た目はたいしたことないな。お金持ってても、キレイとはかぎらんな」


 シーラカンスやんな、自分?吉村作治にいつ顔面を網で捕獲されてもおかしくないよな!?


 「あっ、イノシシや!しかし、ひどい顔してんな!」


 だからお前もやねん!なんか論文書けそうなほどやねん、お前の顔面!


 「あっ、向こうに行った!」


 よけられとるやんけ!お前を強敵と見なしてイノシシはよけたんや!


 「ブチンッ!ちょっと待って、靴のヒモが切れたわ!」


 「高田さん、ほんまによう、靴のヒモ切れんな」


 テリーマンか!そんなに靴のヒモ切れる奴、キン肉マンに出てくるテリーマンしかおらんぞ!


 「この運動靴、小さいねん」


 「買ったらいいねん。うちの近所のリサイクルショップで、安いの売ってるで」


 サラで買えや!お前、サラ勧めろよ、靴ぐらい!シンデレラでも靴なくしたらまずダイエーに行くぞ!


 「お金ないねん。でも、大丈夫。ヒモが切れても、強引に結んだらなんとかなるから」


 「そうかいな」


 「……よし、これでOK。じゃあ行こう」


 「了解」


 「ブチンッ!」


 テリーマンか、だから!遅刻しそうになったら電車を体で止めるタイプか、お前!?


 しばらくして、『高座の滝』と呼ばれる、小さな滝の前に来ました。


 オバハンは、大はしゃぎです。


 「うわー!滝や!」


 「うわー!水が飛んでくる!」


 滝などたいして珍しくもないのに興奮し、ふと見た花木さんが、興奮しすぎてヨダレをたらしているのです。


 ノドカラカラ探検隊か、お前!山にいる乾いたタイプの奴か!


 「この滝すごい水が飛んでくるマイナスイオンもすごいから体がめちゃくちゃ癒される!」


 速い速い!過半数わからん!録音しても8回ぐらい聞かないとわからん!


 「たけちゃん、滝をバックに写真撮ってや?」


 ナイアガラやったっけ、ここ!?ちょろちょろとしか流れてないけど、ここ写真撮るようなスポットやったっけ!?


 「見てみ。あの外人も、滝を見てはしゃいでるわ」


 「ほんまや。外人でも滝のよさはわかるんやな」


 わかるわ、そんなもん!ネイチャーラブはワールドワイドや!


 「あの子、でもやっぱり、アメリカ人と違う?」


 「そうやな。すね毛も濃いしな」


 どういうことやねん!すね毛が濃いからアメリカ人ってどういうことやねん!俺もまあまあ濃いけどジャップ歴30年越えてるぞ!


 オバハン連中は終始、はしゃぎ倒しています。妙な会話の連続で、聞いてるだけで疲れてくるんですね。


 時刻は午前8時40分。高座の滝を抜け、ようやく芦屋ロックガーデンに到着しました。


 いよいよ、登山のスタートです。たくさんの「怪物」を引き連れて、僕は山に足を踏み入れます。


 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~出発⇒3合目編~です。


 ロックガーデンはその名のとおり、隆起した岩が連続しています。


 傾斜は40度ほど。全長は70メートル近くあり、岩を手でつかみながら登っていきます。


 「落ちることはないと思いますけど、念のため、足元に気をつけて進んでくださいね!」


 僕はオバハン連中に、注意事項を口にしました。


 同時に、登山のマナーや心構えを丁寧に説明したのですが、その都度全員が手を挙げて、「おー!」と叫ぶのです。


 「石が落下したら、『落石!』と叫んで下の登山客に伝えてくださいね!」


 「おーーー!」


 いちいちうるさいねん、お前ら!警察学校か!


 「脱水症状になると危険ですから、しっかりと水分補給をしてくださいね!」


 「おーーー!」


 だからうるさいねん!全共闘か!


 「途中にトイレはないので、したくなったら山に入ってしてくださいね!」


 「おーーー!!!」


 何のおーやねん、これ!便秘合宿か、これ!


 「プゥ!」


 もう出とるやんけ!もう軽く出とんねん、シーラカンス!


 「高田さん、こきすぎ!いつもより出てるんと違う?ハハハハハ!」


 「ハハハハハ!」


 「ハハハハハハハ!プゥ!」


 「あんたもかいや!ハハハハハ!」


 「ハハハハハハハ!」


 もう何なん、お前ら!俺もう、すでに帰りたいねんけど!?脇毛見せながら笑う母親を見て、帰りたくて仕方がないねんけど!?


 このように、とにかく元気なのです。


 ともあれ、ロックガーデンに足を踏み入れることになりました。


 僕を先頭に、オバハン連中が続きます。


 陽射しは強く、汗かきの僕は、すでに汗だくです。タオル片手に、ゆっくりと登り始めました。


 足場が不安定とはいえ、それほど危険なものではありません。ふと振り返ったところ、全員、ゆっくりながらも岩をつかんで登ってきています。ケンシロウに至っては、僕を追い抜いてさくさくと登っているのですが、口にタバコをくわえているのです。


 次元か、お前!ルパンの次元なみのヘビーな吸い方やぞ、さっきから!


 「山本さん、こんなところでタバコ吸ったらダメですよ!」


 僕は注意しました。


 ただ、「ごめん、我慢できひんわ!携帯灰皿持ってきてるんやから文句はないやろ!?」と、首の傷を見せながら言い返されました。がたいと傷がすごすぎて、引き下がるしかないんですね。


 15分ほど登って、僕とケンシロウは傾斜地を登り終えました。


 ロックガーデンの頂上には、むき出しの岩場がたくさんあります。僕らは並んで座り、ほかのメンバーの到着を待つことにしました。


 ケンシロウは、リュックからペットボトルのジュースを取り出しました。


 ですが普通、荷物の重さを考慮して、500ミリリットルの奴を持ってきません?


 ましてや、女性です。譲って1リットルなら理解できるものの、このオバハン、1・5リットルを2本持ってきてるんですよ。


 なんでやねん、お前!ちょっと待って、飲み物の荷物だけで3キロもあんの!?筋トレ兼ねてない!?


 「あー、うまい!」


 女やんな?「うまい」とか言ってるけど、自分、女やんな!?


 「これ、『鬼ごろ』で割ったらもっとうまいで!」


 鬼ごろて、おい!で、それ炭酸やんけ!すごい勢いで飲んでるけどスプライトやろ、それ!


 「ガッ!」


 もう男やわ!もう女かどうかをこれ以上訊くのはやめにするわ、お前は男や!ヒゲもうっすら生えてることやし!


 ケンシロウは、ガンガンに飲んでいます。


 3分後。ふと見たスプライトが、ほとんど残ってないんですよ。


 今、来たところやんな!?まだ9時前で、出発して1時間もたってないよな!?


 「ガッ!ガーーーッ!!!」


 ごめん、何かわからんけどジュラ紀に迷い込んだ気分!今遭遇してることすべてが事実だと思われへん!


 スプライトの残量を見た僕は、夜の9時かどうかを一瞬疑いましたからね。それを確認する意味で、「今、何時ですか?」と、ケンシロウに直接訊きましたから。


 しばらくして、シーラカンスが近づいてくるのがわかりました。


 ケンシロウは、使い捨てカメラを手にしています。


 「高田さん、写真撮るよ!」


 シーラカンスに声をかけたところ、シーラカンスが岩場にへばりつき、おちょぼ口のめちゃくちゃすました顔をしやがったのです。


 気持ち悪い、気持ち悪い!正直、手のつけようがないほどの顔面やねんけど!?あまりの顔面に、地球全体がおかしくなりそうやねんけど!?


 「落石!」


 おかしくなった!大地が怒った!


 「たくさんの石が落石!」


 怒り狂ってるやんけ!「顔面も環境も破壊しやがって!」と地球が怒り狂ってるやんけ!


 「たけちゃん、落石やで!」


 俺は上におんねん!下の奴に言えよ、お前!なあ、ケンシロウ!?


 「ガッ!」


 ええ加減にせいよ!カメラ持ってるときぐらいゲップは我慢せいよ!


 「ガーーーッ!!!」


 「落石!」


 そりゃそうやわ!こんなこと女にやられたら、そりゃ石ぐらい落ちてくるわ!


 ケンシロウはペットボトル片手に、登ってくる仲間を順に撮影しています。全員がすました顔をして立ち止まり、しばらくして、岡村さんがやってきました。


 岡村さんは足の親指みたいな顔をしており、化粧も濃いです。ケンシロウが岡村さんにシャッターを向けた際、ふと見たその顔が汗で化粧が溶けてドゥルンドゥルンで、「腐った足の親指」みたいだったのです。


 モザイクいるわ、これ!ていうか現像に出したら、店員はこの写真捨てるぞ!「お客様のためでございます!」とか言いながら気を遣って捨てるぞ!


 「お待たせ!」


 待ってない待ってない!できれば来てほしくなかったから!金払ってでも落下してほしかったから!


 「もう、事務総長ったら!アップで撮らないでくださいよ~!」


 ブリッコすんな!上からブーメラン投げつけるぞ!本場の!


 すると僕の気持ちを代弁するかのように、ケンシロウが岡村さんに吠えました。


 「あんた、気持ち悪い声を出すのはやめて。で、うちも写真を撮りたくて撮ったんと違うから」


 朝の一件を思い出したのか、ケンシロウが悪態ついたのです。


 「ああ、そうですか」


 岡村さんは、素っ気なく返しました。ヨン様会に再び、不穏な空気が流れたのです。


 僕の母親と花木さんも登り終え、全員が到着しました。岩場に座り、休憩を取ることになりました。


 ですが、空気は悪いです。


 「もう仲直りしいや、あんたら!」


 ほかのメンバーが声をかけても、ケンシロウと岡村さんは目も合わせません。


 「もう、うちらのことはほっといて!」


 ケンシロウはこれの一点張り。岡村さんも同じで、2人して歩み寄ろうとはしないのです。


 まあでも、そのうちに仲直りするやろ……。気にしても仕方がないか……。


 僕は前向きに考えて、隊を出発させることにしました。


 ここからもしばらく、岩場が続きます。


 傾斜はほとんどないものの、まだまだ足場は不安定。僕は最後尾に陣取り、難易度の高い岩場は、オバハンの背中を押してあげることにしました。


 ケンシロウを先頭に、僕の母親、シーラカンス、花木さん、岡村さん、僕の順で進みます。体力のある、ケンシロウと僕の母親はさくさくと進み、かなり離れてシーラカンス、そこから少し離れて花木さんと岡村さんと、隊列が分かれました。


 30分ほど歩けば、山の3合目である、『風吹岩』に到着します。僕らは休憩なしに、そこまで進むことにしました。


 岩場を越えながら、山の中に入って行きました。


 雲に邪魔されてないむき出しの太陽が、容赦なく照りつけてきます。Tシャツはすでにビショビショで、額から汗がポタポタと滴り落ちてきます。


 「たけちゃん、チョコレート食べる?」


 道すがら、花木さんがチョコレートを割って、僕に渡してくれました。


 ですがこれ、尋常じゃないぐらい溶けているのです。「渡す前にわかるやろ!」というぐらい、渡すほうも渡されるほうも手がニチョニチョなのです。


 ほとんど液体やんけ、これ!悪いけど、オバハンの体温で溶けたチョコレートなんて勘弁してほしいわ!


 「ゴクゴクゴクゴク!」


 お前も1・5リットルやんけ!なんで特大サイズやねん、どいつもこいつも!


 「あーおいしい体が生き返ってきたわあんたも飲む?」


 速い速い!セナか!


 それでも、進むにつれて、空気がおいしくなってきました。


 2合目を通過して、木々も増えてきました。緑を重ね塗りしたかのような深い緑樹で、本格的に山という感じです。


 オバハン連中の口数も減ってきています。僕はようやく、山そのものを楽しむことができました。


 ところがしばらくして、タバコの匂いが鼻に届いたのです。ケンシロウが先でタバコを吸っており、しかもその匂いは、どことなく臭いのです。


 そう、シーラカンスが1人なのをいいことに、前でオナラをしまくっているのです。せっかくのおいしい空気が、ケンシロウのタバコとシーラカンスのガスにかき消されたのです。


 もう何なん、お前ら!むしろ苦しいねんけど、俺!?山の空気がまずいなんて、俺の人生で初めてやねんけど!?


 「ボフッ!」


 すごい音が聞こえた!1番臭そうな音が上から聞こてきたって、臭っ、これ!ちょっと待って、何、この匂い!?メロスが走るのあきらめそうなぐらい臭いねんけど!?


 「ちょっと高田さん、またオナラしたでしょ?」


 「いやーん、バレた!?」


 バレバレじゃ、お前!これヘタしたらふもとの連中も気づいとるわ!


 「落石!」


 地球も怒ってるやんけ!お前のブサイクさと臭さに怒り狂ってるやんけ!


 「オナラをするなんてイヤイヤーン!」


 お前は黙れ!ていうか、ここ一帯どうなってんねん、おい!俺はお前らの臭さとブサイクさに嗅覚も視覚もつぶされたぞ!さっきの液体チョコレートで味覚も攻撃されてるしよ!


 「(ケンシロウが)たけちゃーん、うちらは先に、風吹岩まで行ってるからーーー!!!」


 聴覚もつぶされた!あまりの大声に耳までやられた!


 ほどなくして、大きな岩場にやってきました。岡村さんが登るのに苦戦したため、僕は背中を押してあげたのですが、Tシャツが汗でビショビショで、僕の手がヌルヌルになったのです。


 触覚までつぶされた!触ったことで手までおかしくなった!ちょっと待って、俺、五感すべてをやられてんけど!?お前らのせいで体が遭難してんけど!?


 そのときです。


 「痛い痛い痛い!足がつった!」


 岩場を越えたところで、シーラカンスが足をつらせたのです。


 五感をやられたとはいえ、僕はあわてて駆けつけました。


 「大丈夫ですか?」


 近づいて声をかけたのですが、痛みで悶絶するシーラカンスが、両鼻から1センチ以上の鼻水たらしてるんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!口にも入ってもうてるやんけ!


 「ベジータ!」


 ベジータが出た!ここにきてベジータが出た!


 「ベジータ!ブチンッ!」


 ヒモも切れた!ベジータのパワーがすごすぎて靴のヒモも切れた!


 「高田さん落ち着いてくださいとりあえず足の筋を伸ばしてくださいそこに壁があるんで手をつけて伸ばしてください!」


 速い速い!とりあえずお前が落ち着け!


 「痛い痛い痛い!プゥ!」


 落ち着け!大丈夫や!


 「助けて!プリッ!」


 大丈夫や!ちゃんと足の筋伸ばしたら治るから!


 「あかん、鼻水が止まらへん!」


 ごめん、もう安楽死でいい!?お前を本来の意味で助けてやるには安楽死がベストやと思うねんけど、どう!?


 結局、3人がかりで、シーラカンスの足の筋を伸ばしました。


 ですがシーラカンスは、汗、涙、鼻水、オナラと、同時に4つ出てましたからね。それを見た僕は、「この人のためには、殺してやるのが最善策と違うやろか……」と、本気で考えましたから。


 時刻は午前9時30分をまわりました。


 いろいろあったものの、僕ら4人は無事、風吹岩に到着しました。


 現場には、すでにケンシロウと僕の母親がいます。僕らが到着するやいなや、全員がガンガンにしゃべり始めたのです。


 「高田さんが足つって、大変やったんですよ!」


 「ほんまかいな!高田さん、しっかりしいや!」


 「足つりながらオナラもしたんですよ!」


 「またかいな!ハハハハハ!」


 「ハハハハハハハ!」


 あかん、こいつら、まだまだ元気や……。口数が減ってきたと思ったのに、すぐに息を吹き返した……。


 見上げた青い空が、思わず曇って見えました。


 続く……。


オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~出発⇒3合目編~(携帯読者用)

※2009年・8月29日の記事を再編集

 「♪オーソレミーヨー!オソレミーヨー!」

 「事務総長は、ほんまに元気やな!ハハハハハ!」

 「プゥ!」

 「高田さん、オナラしてばっかりやないの!ハハハハハ!」

 先頭を歩く僕の耳に、オバハンの大きなしゃべり声が聞こえてきます。オバハン連中のトークは止まらず、周囲の登山客を圧倒しているのです。

 しかも、会話の大半は意味不明。ケンシロウとシーラカンスを中心に、訳のわからない会話を連発しています。

 「高田さん、見てみ。外人がいてるで」

 「ほんまや。外人のくせに、日本の山に登るんやな」

 失礼やろ!お前らも汚いオバハンのくせによ!

 「フィンランド人かな?」

 何を根拠に言ってんの、それ!?インド人とかやったらまだわかるけど、フィンランド人に何か特徴あったっけ!?

 「いや、欧米の人やろ」

 広いねん!「本州の人やろ」とか言うようなもんやぞ、それ!ていうか、フィンランドは欧米やろ!

 「(僕の母親が)あの外人、すね毛濃いな!」

 お前は脇毛濃いやろ!お前、公衆の面前で脇毛さらされる息子の俺の身にもなれよ!引きこもる動機としては充分やねんぞ!

 「でも、芦屋だけに、高そうな家が多いな」

 「ほんまやな」

 「毎日、いい食事してるんやろな」

 「そうやろな。毎日、グラタンとか食べてるんと違う?」

 グラタンって高いか?さらっと言ったけど、価値観おかしくないか!?

 「絶対、そうやわ。グラタンに、ゴンゾリアンとか載してんで」

 はっ?はっ?

 「絶対にゴンゾリアン載してるわ」

 はっ?はっ?

 「金持ってる奴はだいたいゴンゾリアン……」

 ゴルゴンゾーラのこと!?ゴンゾリアンって、もしかしてゴルゴンゾーラチーズのこと言ってんの!?

 「事務総長、それ、ゴーゴンゾーラと違う?」

 ゴルゴンゾーラや!ゴーゴンゾーラやったら、食った奴全員が石になるやんけ!目隠ししてオーブンに入れないとあかんやんけ!

 「それより、見てみ、この家。すごい高そうな犬がおるで」

 「毛並みもすごいな。やっぱり、グラタン食べてる犬は違うな」

 なんでグラタン基準やねん、なんでもかんでも!マカロニストか、お前!

 「うちなんて犬のエサ代がないとき、ゴミ食べさしてるで」

 ゴミ食わしてんの、お前の家!?ゴミのようなエサじゃなくて、ゴミそのものを与えてるんや!?「シュレッダー犬」かなんかか!?

 「何のゴミあげてんの?」

 そういう問題と違うわ!お前、何をいいゴミやったら大丈夫みたいな言い方してくれとんねん!質にかぎらずゴミの時点で全部ノーサンキューじゃ、犬は!

 「でも、飼い主の見た目はたいしたことないな。お金持ってても、キレイとはかぎらんな」

 シーラカンスやんな、自分?吉村作治にいつ顔面を網で捕獲されてもおかしくないよな!?

 「あっ、イノシシや!しかし、ひどい顔してんな!」

 だからお前もやねん!なんか論文書けそうなほどやねん、お前の顔面!

 「あっ、向こうに行った!」

 よけられとるやんけ!お前を強敵と見なしてイノシシはよけたんや!

 「ブチンッ!ちょっと待って、靴のヒモが切れたわ!」

 「高田さん、ほんまによう、靴のヒモ切れんな」

 テリーマンか!そんなに靴のヒモ切れる奴、キン肉マンに出てくるテリーマンしかおらんぞ!

 「この運動靴、小さいねん」

 「買ったらいいねん。うちの近所のリサイクルショップで、安いの売ってるで」

 サラで買えや!お前、サラ勧めろよ、靴ぐらい!シンデレラでも靴なくしたらまずダイエーに行くぞ!

 「お金ないねん。でも、大丈夫。ヒモが切れても、強引に結んだらなんとかなるから」

 「そうかいな」

 「……よし、これでOK。じゃあ行こう」

 「了解」

 「ブチンッ!」

 テリーマンか、だから!遅刻しそうになったら電車を体で止めるタイプか、お前!?

 しばらくして、『高座の滝』と呼ばれる、小さな滝の前に来ました。

 オバハンは、大はしゃぎです。

 「うわー!滝や!」

 「うわー!水が飛んでくる!」

 滝などたいして珍しくもないのに興奮し、ふと見た花木さんが興奮しすぎてヨダレをたらしているのです。

 ノドカラカラ探検隊か、お前!山にいる乾いたタイプの奴か!

 「この滝すごい水が飛んでくるマイナスイオンもすごいから体がめちゃくちゃ癒される!」

 速い速い!過半数わからん!録音しても8回ぐらい聞かないとわからん!

 「たけちゃん、滝をバックに写真撮ってや?」

 ナイアガラやったっけ、ここ!?ちょろちょろとしか流れてないけど、ここ写真撮るようなスポットやったっけ!?

 「見てみ。あの外人も、滝を見てはしゃいでるわ」

 「ほんまや。外人でも滝のよさはわかるんやな」

 わかるわ、そんなもん!ネイチャーラブはワールドワイドや!

 「あの子、でもやっぱり、アメリカ人と違う?」

 「そうやな。すね毛も濃いしな」

 どういうことやねん!すね毛が濃いからアメリカ人ってどういうことやねん!俺もまあまあ濃いけどジャップ歴30年越えてるぞ!

 オバハン連中は終始、はしゃぎ倒しています。妙な会話の連続で、聞いてるだけで疲れてくるんですね。

 時刻は午前8時40分。高座の滝を抜け、ようやく芦屋ロックガーデンに到着しました。

 いよいよ、登山のスタートです。たくさんの「怪物」を引き連れて、僕は山に足を踏み入れます。

 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~出発⇒3合目編~です。

 ロックガーデンはその名のとおり、隆起した岩が連続しています。

 傾斜は40度ほど。全長は70メートル近くあり、岩を手でつかみながら登っていきます。

 「落ちることはないと思いますけど、念のため、足元に気をつけて進んでくださいね!」

 僕はオバハン連中に、注意事項を口にしました。

 同時に、登山のマナーや心構えを丁寧に説明したのですが、その都度全員が手を挙げて、「おー!」と叫ぶのです。

 「石が落下したら、『落石!』と叫んで下の登山客に伝えてくださいね!」

 「おーーー!」

 いちいちうるさいねん、お前ら!警察学校か!

 「脱水症状になると危険ですから、しっかりと水分補給をしてくださいね!」

 「おーーー!」

 だからうるさいねん!全共闘か!

 「途中にトイレはないので、したくなったら山に入ってしてくださいね!」

 「おーーー!!!」

 何のおーやねん、これ!便秘合宿か、これ!

 「プゥ!」

 もう出とるやんけ!もう軽く出とんねん、シーラカンス!

 「高田さん、こきすぎ!いつもより出てるんと違う?ハハハハハ!」

 「ハハハハハ!」

 「ハハハハハハハ!プゥ!」

 「あんたもかいや!ハハハハハ!」

 「ハハハハハハハ!」

 もう何なん、お前ら!俺もう、すでに帰りたいねんけど!?脇毛見せながら笑う母親を見て、帰りたくて仕方がないねんけど!?

 このように、とにかく元気なのです。

 ともあれ、ロックガーデンに足を踏み入れることになりました。

 僕を先頭に、オバハン連中が続きます。

 陽射しは強く、汗かきの僕は、すでに汗だくです。タオル片手に、ゆっくりと登り始めました。

 足場が不安定とはいえ、それほど危険なものではありません。ふと振り返ったところ、全員、ゆっくりながらも岩をつかんで登ってきています。ケンシロウに至っては、僕を追い抜いてさくさくと登っているのですが、口にタバコをくわえているのです。

 次元か、お前!ルパンの次元なみのヘビーな吸い方やぞ、さっきから!

 「山本さん、こんなところでタバコ吸ったらダメですよ!」

 僕は注意しました。

 ただ、「ごめん、我慢できひんわ!携帯灰皿持ってきてるんやから文句はないやろ!?」と、首の傷を見せながら言い返されました。がたいと傷がすごすぎて、引き下がるしかないんですね。

 15分ほど登って、僕とケンシロウは傾斜地を登り終えました。

 ロックガーデンの頂上には、むき出しの岩場がたくさんあります。僕らは並んで座り、ほかのメンバーの到着を待つことにしました。

 ケンシロウは、リュックからペットボトルのジュースを取り出しました。

 ですが普通、荷物の重さを考慮して、500ミリリットルの奴を持ってきません?

 ましてや、女性です。譲って1リットルなら理解できるものの、このオバハン、1・5リットルを2本持ってきてるんですよ。

 なんでやねん、お前!ちょっと待って、飲み物の荷物だけで3キロもあんの!?筋トレ兼ねてない!?

 「あー、うまい!」

 女やんな?「うまい」とか言ってるけど、自分、女やんな!?

 「これ、『鬼ごろ』で割ったらもっとうまいで!」

 鬼ごろて、おい!で、それ炭酸やんけ!すごい勢いで飲んでるけどスプライトやろ、それ!

 「ガッ!」

 もう男やわ!もう女かどうかをこれ以上訊くのはやめにするわ、お前は男や!ヒゲもうっすら生えてることやし!

 ケンシロウは、ガンガンに飲んでいます。

 3分後。ふと見たスプライトが、ほとんど残ってないんですよ。

 今、来たところやんな!?まだ9時前で、出発して1時間もたってないよな!?

 「ガッ!ガーーーッ!!!」

 ごめん、何かわからんけどジュラ紀に迷い込んだ気分!今遭遇してることすべてが事実だと思われへん!

 スプライトの量を見た僕は、夜の9時かどうかを一瞬疑いましたからね。それを確認する意味で、「今、何時ですか?」と、ケンシロウに直接訊きましたから。

 しばらくして、シーラカンスが近づいてくるのがわかりました。

 ケンシロウは、使い捨てカメラを手にしています。

 「高田さん、写真撮るよ!」

 シーラカンスに声をかけたところ、シーラカンスが岩場にへばりつき、おちょぼ口のめちゃくちゃすました顔をしやがったのです。

 気持ち悪い、気持ち悪い!正直、手のつけようがないほどの顔面やねんけど!?あまりの顔面に、地球全体がおかしくなりそうやねんけど!?

 「落石!」

 おかしくなった!大地が怒った!

 「たくさんの石が落石!」

 怒り狂ってるやんけ!「顔面も環境も破壊しやがって!」と地球が怒り狂ってるやんけ!

 「たけちゃん、落石やで!」

 俺は上におんねん!下の奴に言えよ、お前!なあ、ケンシロウ!?

 「ガッ!」

 ええ加減にせいよ!カメラ持ってるときぐらいゲップは我慢せいよ!

 「ガーーーッ!!!」

 「落石!」

 そりゃそうやわ!こんなこと女にやられたら、そりゃ石ぐらい落ちてくるわ!

 ケンシロウはペットボトル片手に、登ってくる仲間を順に撮影しています。全員がすました顔をして立ち止まり、しばらくして、岡村さんがやってきました。

 岡村さんは足の親指みたいな顔をしており、化粧も濃いです。ケンシロウが岡村さんにシャッターを向けた際、ふと見たその顔が汗で化粧が溶けてドゥルンドゥルンで、「腐った足の親指」みたいだったのです。

 モザイクいるわ、これ!ていうか現像に出したら、店員はこの写真捨てるぞ!「お客様のためでございます!」とか言いながら気を遣って捨てるぞ!

 「お待たせ!」

 待ってない待ってない!できれば来てほしくなかったから!金払ってでも落下してほしかったから!

 「もう、事務総長ったら!アップで撮らないでくださいよ~!」

 ブリッコすんな!上からブーメラン投げつけるぞ!本場の!

 すると僕の気持ちを代弁するかのように、ケンシロウが岡村さんに吠えました。

 「あんた、気持ち悪い声を出すのはやめて。で、うちも写真を撮りたくて撮ったんと違うから」

 朝の一件を思い出したのか、ケンシロウが悪態ついたのです。

 「ああ、そうですか」

 岡村さんは、素っ気なく返しました。ヨン様会に再び、不穏な空気が流れたのです。

 僕の母親と花木さんも登り終え、全員が到着しました。岩場に座り、休憩を取ることになりました。

 ですが、空気は悪いです。

 「もう仲直りしいや、あんたら!」

 ほかのメンバーが声をかけても、ケンシロウと岡村さんは目も合わせません。

 「もう、うちらのことはほっといて!」

 ケンシロウはこれの一点張り。岡村さんも同じで、2人して歩み寄ろうとはしないのです。

 まあでも、そのうちに仲直りするやろ……。気にしても仕方がないか……。

 僕は前向きに考えて、隊を出発させることにしました。

 ここからもしばらく、岩場が続きます。

 傾斜はほとんどないものの、まだまだ足場は不安定。僕は最後尾に陣取り、難易度の高い岩場は、オバハンの背中を押してあげることにしました。

 ケンシロウを先頭に、僕の母親、シーラカンス、花木さん、岡村さん、僕の順で進みます。体力のある、ケンシロウと僕の母親はさくさくと進み、かなり離れてシーラカンス、そこから少し離れて花木さんと岡村さんと、隊列が分かれました。

 30分ほど歩けば、山の3合目である、『風吹岩』に到着します。僕らは休憩なしに、そこまで進むことにしました。

 岩場を越えながら、山の中に入って行きました。

 雲に邪魔されてないむき出しの太陽が、容赦なく照りつけてきます。Tシャツはすでにビショビショで、額から汗がポタポタと滴り落ちてきます。

 「たけちゃん、チョコレート食べる?」

 道すがら、花木さんがチョコレートを割って、僕に渡してくれました。

 ですがこれ、尋常じゃないぐらい溶けているのです。「渡す前にわかるやろ!」というぐらい、渡すほうも渡されるほうも手がニチョニチョなのです。

 ほとんど液体やんけ、これ!悪いけど、オバハンの体温で溶けたチョコレートなんて勘弁してほしいわ!

 「ゴクゴクゴクゴク!」

 お前も1・5リットルやんけ!なんで特大サイズやねん、どいつもこいつも!

 「あーおいしい体が生き返ってきたわあんたも飲む?」

 速い速い!セナか!

 それでも、進むにつれて、空気がおいしくなってきました。

 2合目を通過して、木々も増えてきました。緑を重ね塗りしたかのような深い緑樹で、本格的に山という感じです。

 オバハン連中の口数も減ってきています。僕はようやく、山そのものを楽しむことができました。

 ところがしばらくして、タバコの匂いが鼻に届いたのです。ケンシロウが先でタバコを吸っており、しかもその匂いは、どことなく臭いのです。

 そう、シーラカンスが1人なのをいいことに、前でオナラをしまくっているのです。せっかくのおいしい空気が、ケンシロウのタバコとシーラカンスのガスにかき消されたのです。

 もう何なん、お前ら!むしろ苦しいねんけど、俺!?山の空気がまずいなんて、俺の人生で初めてやねんけど!?

 「ボフッ!」

 すごい音が聞こえた!1番臭そうな音が上から聞こてきたって、臭っ、これ!ちょっと待って、何、この匂い!?メロスが走るのあきらめそうなぐらい臭いねんけど!?

 「ちょっと高田さん、またオナラしたでしょ?」

 「いやーん、バレた!?」

 バレバレじゃ、お前!これヘタしたらふもとの連中も気づいとるわ!

 「落石!」

 地球も怒ってるやんけ!お前のブサイクさと臭さに怒り狂ってるやんけ!

 「オナラをするなんてイヤイヤーン!」

 お前は黙れ!ていうか、ここ一帯どうなってんねん、おい!俺はお前らの臭さとブサイクさに嗅覚も視覚もつぶされたぞ!さっきの液体チョコレートで味覚も攻撃されてるしよ!

 「(ケンシロウが)たけちゃーん、うちらは先に、風吹岩まで行ってるからーーー!!!」

 聴覚もつぶされた!あまりの大声に耳までやられた!

 ほどなくして、大きな岩場にやってきました。岡村さんが登るのに苦戦したため、僕は背中を押してあげたのですが、Tシャツが汗でビショビショで、僕の手がヌルヌルになったのです。

 触覚までつぶされた!触ったことで手までおかしくなった!ちょっと待って、俺、五感すべてをやられてんけど!?お前らのせいで体が遭難してんけど!?

 そのときです。

 「痛い痛い痛い!足がつった!」

 岩場を越えたところで、シーラカンスが足をつらせたのです。

 五感をやられたとはいえ、僕はあわてて駆けつけました。

 「大丈夫ですか?」

 近づいて声をかけたのですが、痛みで悶絶するシーラカンスが、両鼻から1センチ以上の鼻水たらしてるんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!口にも入ってもうてるやんけ!

 「ベジータ!」

 ベジータが出た!ここにきてベジータが出た!

 「ベジータ!ブチンッ!」

 ヒモも切れた!ベジータのパワーがすごすぎて靴のヒモも切れた!

 「高田さん落ち着いてくださいとりあえず足の筋を伸ばしてくださいそこに壁があるんで手をつけて伸ばしてください!」

 速い速い!とりあえずお前が落ち着け!

 「痛い痛い痛い!プゥ!」

 落ち着け!大丈夫や!

 「助けて!プリッ!」

 大丈夫や!ちゃんと足の筋伸ばしたら治るから!

 「あかん、鼻水が止まらへん!」

 ごめん、もう安楽死でいい!?お前を本来の意味で助けてやるには安楽死がベストやと思うねんけど、どう!?

 結局、3人がかりで、シーラカンスの足の筋を伸ばしました。

 ですがシーラカンスは、汗、涙、鼻水、オナラと、同時に4つ出てましたからね。それを見た僕は、「この人のためには、殺してやるのが最善策と違うやろか……」と、本気で考えましたから。

 時刻は午前9時30分をまわりました。

 いろいろあったものの、僕ら4人は無事、風吹岩に到着しました。

 現場には、すでにケンシロウと僕の母親がいます。僕らが到着するやいなや、全員がガンガンにしゃべり始めたのです。

 「高田さんが足つって、大変やったんですよ!」

 「ほんまかいな!高田さん、しっかりしいや!」

 「足つりながらオナラもしたんですよ!」

 「またかいな!ハハハハハ!」

 「ハハハハハハハ!」

 あかん、こいつら、まだまだ元気や……。口数が減ってきたと思ったのに、すぐに息を吹き返した……。

 見上げた青い空が、思わず曇って見えました。

 続く……。

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~出発編~(パソコン読者用)

※2009年・8月26日の記事を再編集


 「ヨン様会、六甲の山頂を目指して、しゅっぱーーーつ!」


 「おーーー!!!」


 僕は今、六甲山のふもとにいます。訳あって登ることになり、出発地点に「仲間」と一緒にいます。


 「みんな、おやつは、まだ食べたらあかんで!」


 「わかってる、わかってる!これ以上太ったら困るから、できるだけ食べへんよ!ハハハハハ!」


 僕の周りには、オバハン連中がいます。僕の母親を含めて大勢おり、このオバハンたちを引き連れて山登りをすることになったのです。


 このオバハンの集まりは、ヨン様会。


 このブログで2度に渡ってご紹介した、ペ・ヨンジュンを応援するために結成された私設のファンクラブなのです。


 ヨン様会の活動は、ヨン様を応援するだけではありません。最近では四国お遍路巡りに参加するなど、活動の領域を広げ始めたのです。


 先月末、僕は母親(63)にお願いされました。


 「六甲山に登りたいから、あんた、連れて行ってくれへん?」


 六甲山は、僕の地元の兵庫県を代表する名山。標高は931メートルで、僕は大学時代、探検部に所属していました。山に何度も登ったことがあり、登山の技術には長けているのです。


 六甲山に至っては、中学と高校の遠足で、毎年来ていました。それを見込んで、母親がお願いしてきたんですね。


 僕は仕事で忙しく、最初は断りました。


 六甲山は、登山客用にきちんと整備されています。オバハンだけでも安全で、僕が行く必要はありません。


 ですが、ヨン様会のメンバーに、何度もお願いされました。


 「頼むわ。うちらは年寄りやから、あんたがいてくれたら助かんねん」


 「あんたが暇なときでいいから。頼むわ、あんたが暇なときでいいから」


 このように、毎日のように頭を下げられたため、思わずOKしてしまったのです。


 参加するのは、僕を含めて6人。ヨン様会のメンバーは8人いるものの、健康上の理由で3名が辞退し、元気なオバハンだけが参加することになりました。


 まあ、なんとかなるか……。たまには親孝行するのも悪くないか……。


 僕は、こう前向きに考えて参加したのですが、僕の考えは甘かったのです。いろいろなことがあり、なによりメンバーのキャラが濃すぎて、相手をする僕は大変だったのです。


 オバハンというのは、よくしゃべります。本当に元気で、山登りのしんどさうんぬんよりも、このオバハンたちの相手をするほうが大変だったのです。


 そこで今回は、オバハンと僕との「山の戦い」をご紹介する大長編の第1話、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~出発編~です。


 8月23日の日曜日。


 うだるような暑さの中、午前6時半に、ヨン様会のメンバーが僕の家に集まりました。


 「おはよう!」


 「おはよう!うち、山登りが楽しみで寝られへんかったわ!」


 オバハン連中は朝からうるさく、ふと見ると、参加しないはずのメンバーが1人います。理由を訊いたところ、「見送りに来た!」と言うのです。


 いらんわ、見送りとか!エベレスト登るんと違うぞ!


 「何かあったらあかんから!」


 何もないわ!子供でも登れるような山で何もないわ!


 「もしものことがあるやろ?」


 ないねん、だから!ていうか、このこと自体が大ごとやわ!もう何かあったわ!


 台所に集まって、朝ご飯を食べることになりました。


 メンバーの1人が、具材を買い込んできています。その人が中心となって作ることになったのですが、これ、焼肉なんですよ。


 出征兵士か、俺ら!なんで朝から牛掘り込まないとあかんねん!


 「食わないと山登りなんてやってられへんやろ!?」


 女やんな?「食う」なんて言い方してるけど、自分、女やんな!?


 このオバハンは、山本さん(68)。


 ヨン様会の事務総長を務める、とんでもないオバハンなのです。


 68歳とは思えないほどのパワフルな人で、なにしろこの人、177センチ、75キロなのです。


 SASUKE出ろ、お前!そのサイズ、ボクシングで言ったらライトヘビー級やぞ!


 「ニンニク、入れる奴?」


 奴て、おい!女が奴!?


 「ニンニク入れる奴は誰?」


 怖すぎるわ、お前!ていうか入れるか、そんなもん!朝からニンニク食う女なんておるか!


 「はーい!」


 「はーい!」


 「ガバガバで!」


 全員が手挙げた!全員が異常者やった!


 「うちもガバニンで!」


 ごめん、ガバニンって何!?「ニンニクをガバガバに入れる」とかなんやろうけど、女の口からこんなこと言われたらドン引きやねんけど!?


 「ガバニンの奴は何人?」


 ガバニンの奴て、おい!ピーいるわ、こんなドギツイ日本語!


 「私もガバニン!」


 「うちもガバニン!」


 「じゃあうちもガバニンで!」


 フルガバニンやんけ!ていうか、なんで見送りに来ただけの奴まで焼肉食うねん!お前はもう帰って寝るだけやろ!


 このように、全員が普通ではないのです。


 なかでも、山本さんはトラックの運転手をしていたほどの猛者で、首筋から胸元にかけて、ケンシロウばりのとんでもない傷があります(以下、ケンシロウ)。腕なんて、マグロを手で解体できそうなほどに太く、キムチを漬けたタルを毎回、当たり前のように2つかついでくるのです。


 女やんな?しつこいけどもう一回訊くわ、自分、女やんな!?


 「この傷は3トントラックで壁に突っ込んだときにできてん!へへへへへ!」


 人間やんな?もう性別どころの話じゃないわ、自分、人間やんな!?


 ケンシロウは、豚足が大好物です。ヨン様会でハイキングに行った際、場所が近所の公園だったので僕は見に行ったのですが、周囲がサンドイッチを食べているのを尻目に、この人は素手で豚足をかじっていたのです。


 どんなハイキングやねん、これ!ハイキングにコラーゲンはいらんやろ!


 「骨のきわが1番うまいねん!」


 オッサンやんけ!こんなん言う奴、立ち飲み屋で長居するタイプのオッサンやんけ!


 ケンシロウは、立てヒザで豚足にむしゃぶりついています。歯に詰まってつまようじを使い、取れた詰まり物が僕の体に飛んできたのですが、これ、豚の足の爪やったんですよ。


 どこまで食うねん、お前!サタンか!


 「あー、鬼ごろし、うまい!」


 ハイキングやんな?昼間からえげつない酒飲んでるけど、これ、たしかハイキングやったやんな!?


 このように、とにかく恐ろしいのです。


 ケンシロウを怒らせるわけにはいかず、朝から焼肉だとて文句は言えません。僕はケンシロウの隣に座り、寝起きの胃袋に無理矢理、焼肉を掘り込みました。


 「おはようございます!すいません、遅れました!」


 しばらくして、メンバーの1人である、岡村さん(58)がやってきました。


 「あんた、ここに座り!」


 僕の母親がこう言ってイスを用意したのですが、それをケンシロウが許しません。


 「あんた、ええ加減にしいや。せっかくたけちゃん(僕)が山に連れて行ってくれんのに、どういうつもりなん?」


 ケンシロウは吠えました。眉間にシワを寄せ、お地蔵さんでも震えかねないほどの視線で、岡村さんをにらみつけたのです。


 「山本さん、僕は気にしてないんで。岡村さん、ここに座ってください」


 「あんたは黙っとき!」


 僕は言い返したものの、ケンシロウにシャットアウト。


 「あんた、謝ったらなんでも済むと思ったらあかんで。この際やから言うけど、うちはあんたをヨン様会のメンバーとして認めてないから」


 ケンシロウは岡村さんのことが大嫌いで、岡村さんは、何かにつけてわがままを言います。愚痴や弱音も多く、弱さをよしとしないケンシロウにとっては、何かと目障りなんですね。


 しかも岡村さんは、いい歳してブリッコをします。ケンシロウは、そのしゃべり方が鼻につくらしく、ヨン様会からはずそうと画策したこともあるほどなのです。


 一方、岡村さんもケンシロウのことが大嫌い。僕も愚痴を聞かされたことがあり、この2人はめちゃくちゃ仲が悪いのです。


 「せっかくの登山やのに、ケンカはやめましょうよ!」


 結局、メンバーの1人である花木さん(41)があいだに入り、ことなきを得ました。


 とはいえ、空気は最悪。何気に見たケンシロウが、ちょいちょい岡村さんをにらんでいます。「肉→ニンニク→にらむ→肉→ニンニク→にらむ」を繰り返し、ヨン様会に不穏な空気が流れました。


 「みなさんに、ちょっと聞いてほしいことがあるんですよ!」


 こう言って花木さんが、空気を変えようとしました。


 花木さんは、ヨン様会では最年少。韓流を中心とする芸能情報に詳しいなど、話題も豊富です。元シェフで、頻繁に手料理を披露してくれることからも、ヨン様会では人気者なのです。


 ですが、めちゃくちゃ早口なのです。


 よくしゃべる早口なので、話が聞き取れないことなどザラ。このときも、「こないだみんなで見た『宿命』って映画あるじゃないですかあれ兵役除隊後のソン・スンホンと『悲しき恋歌』でスンホンと共演できなかった親友クォン・サンウが撮影終了後に涙を流し……」と、まくしたてたのです。


 速すぎんねん、お前!流しそうめんか、お前の口!


 「こないだ七面鳥の丸焼きを作ったんですけどお肉が固くて噛み切れなくて歯が折れそうになりましたへへへへへ!」


 ごめん、どこで笑ったらいいかわからん!速すぎてどこがボケなんかわからん!


 それでも、僕がそのことにツッコミを入れたことが笑いになって、空気は改善しました。ケンシロウも笑い、岡村さんと目を合わせないものの、何とか丸く収まりました。


 いずれにせよ、出発です。


 見送りに来ていたメンバーの1人は帰り、僕らは食事を終えました。


 「じゃあ、そろそろ行くか!」


 ケンシロウのかけ声で、出発することになりました。


 メンバーは全員、リュックを背負っています。


 服装は、半そでのTシャツにジーパン。準備を整え、山登りのスタート地点である、阪急の芦屋川駅に向かうことになりました。


 駅へは僕の家の車で向かいます。5人しか乗れないため、ケンシロウはバイクで向かうと聞いています。僕はてっきり原付きバイクだと思っていたのですが、250CCの大型バイクやったんですよ。


 なんでやねん、お前!完全に走り屋のバイクやんけ、これ!


 「ブウォウォウォウォン!ブウォウォウォウォン!」


 空吹かしすんな、オバハンが!てうかもう戦争に行け、お前!見送る側ではなく、出征する側として戦争に参加しろ!確実に生き残るわ!


 僕はケンシロウにおびえています。車に乗り込み、ケンシロウは僕らが走る車にバイクで併走してきたのですが、信号待ちで、眉間にシワ寄せながらセブンスターを吸い始めたのです。


 前代未聞やぞ、セッター吸うババアなんて!JTもマーケットにアラシックスは想定してないぞ!


 「ふーっ!」


 くゆらせんな!で、完全に飲んでんねんけど!?吸うじゃなくて飲んでるとしか思えんねんけど!?


 ケンシロウは、フルフェイスに近いヘルメットをかぶっています。首筋の傷が見えることからも、「俺の名を言ってみろ?」でおなじみの、北斗の拳のジャギみたいです。いつ「俺の身長を言ってみろ?」と訊かれるかとヒヤヒヤで、僕は生きてる心地がしないのです。


 車は僕の母親が運転し、僕は助手席に座っています。


 後部座席は、左から花木さん、高田さん(63)、岡村さんの並びで座り、岡村さんがケンシロウの悪口を言っています。


 「あの人、オッサンみたいで気持ち悪いわ」


 ケンシロウがいないのをいいことに、悪態ついているのです。


 ですが、ケンシロウが岡村さんをイヤがる気持ちはわかります。車内のほかのメンバーが「あんたが悪いんやろが。事務総長の悪口を言いな」と言っていさめようとしても、「ちょっと遅れたぐらいで何よ!」と子供みたいなことを言うのです。


 しかも岡村さんはブリッコなので、話し方にイラッとします。


 「本当にまいっちゃうわ!」


 こうかわいく叫び、体を振りながら「事務総長なんてイヤイヤーン!」って言ったんですよ。


 気持ち悪いねん、お前!質屋入れたろか!


 「怒られるのはイヤイヤーン!」


 ガンなるわ!これ以上こんなこと言われたら、体のどっかがガンなるわ!


 結局、隣に座る高田さんが、言って聞かせました。岡村さんも落ち着き、車内が平穏を取り戻しました。


 とはいえ、この高田さんというのがまた、キャラが濃いのです。


 なにしろこの人、死ぬほどブサイクなんですよ。魚介類みたいな顔をしており、「ケンシロウと高田さんやったらどっち抱く?」と訊かれたら、僕はケンシロウの腕枕を選ぶほど、筋金入りのブサイクなのです。


 高田さんは、シーラカンスにそっくりです(以下、シーラカンス)。「自分、どこ呼吸なん?」というぐらい魚類系の顔をしています。家が近いため、たまに僕の家で食事をするのですが、僕は隣に座ってサンマを食べていた際、サンマとこのオバハンの顔を見間違って、顔を箸でつかみかけたのです。


 ややこしいねん、お前!額に「ノー フィッシュ」とか書いとけや!


 「暑いから海に行きたいわ!」


 魚やんけ!完全に魚やろ、お前!


 しかもこのシーラカンスは、当たり前のようにオナラをします。自分でもブサイクなのを自覚しており、女を完全に捨てています。毎回、「あら、ごめん!」と言ってオナラをし、この車内でもオナラをしたのですが、「ベジータ!」って鳴ったんですよ。


 ベジータて、おい!ベベベ、ベジータ!?


 「ベジータ!」


 肛門どうなってんねん!肛門に仙豆入れろ、お前は!


 またこのオナラが、めちゃくちゃ臭いのです。スーパーサイヤ人の名に恥じないスーパーな臭気で、危険を感じた僕の母親が一旦、車を停めたのです。


 何食ってんねん、お前!もしかしてゾンビか何か食った!?


 「高田さん、昨日、何食べたんですか?」


 「魚」


 共食いやんけ!ちょっと待って、魚が魚を食ったん!?


 「魚は体にいいから食べや」


 めちゃくちゃ説得力あるわ!魚に直接言われたら食わなしゃあないわ!


 あまりにもオナラが臭いため、僕は窓を開けました。ほかの3人も窓を開けてくれたので、ようやく車を発進できました。


 ですが、車内には匂いが残っています。僕は窓から顔を出して外の空気を吸っていたのですが、僕の顔の真横をセブンスターを口にくわえたケンシロウが猛スピードで走り去ったんですよ!


 完全にライダーやんけ、こいつ!おもいっきり風切って走ってるやんけ!


 「まだ臭い!ほんまに臭いほんまに臭いほんまに臭いからもっと窓開けて!」


 速い速い!早口すぎんねん、お前!


 「オナラをするなんてイヤイヤーン!」


 お前は黙れ!ていうか、ここどうなってんねん、おい!俺はどこに避難したらいいねん!うちの母親は母親で口が死ぬほどニンニク臭いしよ!


 家を出て30分もたっていないのに、僕はくたくたです。


 なにより、オバハンだけによくしゃべります。


 「暑いから、もっとクーラー効かしてや」


 「あんた、太ってるから暑いねんで」


 「うるさいわ!ハハハハハ!」


 「ハハハハハハハ!」


 このように、ニンニク臭い口でガンガンにしゃべります。聞かされる僕は、たまったもんじゃないんですね。


 それでもようやく、出発地点の芦屋川駅に到着しました。


 時刻は午前8時。車をコインパーキングに止め、ケンシロウは、コンビニにバイクを止めに行きました。


 スタート地点に、メンバー全員が集まりました。


 駅前には、大勢の登山客がいます。意味なく大きなサンバイザーをつけたオバハンがたくさんおり、どのオバハンもベラベラとしゃべっているのです。


 どこのオバハンも同じか……。おかしいのは、うちのオバハンだけじゃないんやな……。


 「ごめん、出発する前にニコチン補給さして!」


 「暑いからペットボトルをもっと冷やしてきたらよかったわ氷のように固めてきたほうがよかったかな!」


 「プゥ!」


 うちだけやった!ここまでおかしいのはうちだけやった!


 周囲を凌駕するほど、ヨン様会はおかしいのです。


 それを証拠に、全員で記念写真を撮ったあと、ケンシロウが叫びました。


 「ヨン様会、六甲の山頂目指して、しゅっぱーーーつ!」


 「(手を挙げて)おーーー!!!」


 ちょっと待って、何、この気持ち悪い感じ!?完全に浮いてんねんけど、俺ら!?


 「行くぞーーー!!!」


 「おーーー!!!」


 特攻隊か、お前ら!その異様な熱さ、完全に特攻隊やんけ!で、手を挙げたのはいいけど、メンバーに1人、軽く脇毛生えてる奴おんねんけど!?半そでのすそから軽く見えてんけどって、うちの母親やんけ、おい!


 「オ、オカン、脇毛生えてない?」


 「そうや」


 そうややあるか、お前!何を胸張って言ってくれとんねん、そんなこと!


 「別に気にならん」


 俺が気になんねん!家族、いや親族にまでトラウマ与えてくるほどのことやねん!


 「みんな、おやつはまだ食べたらあかんで!」


 「わかってる、わかってる!これ以上太ったら困るから、できるだけ食べへんよ!ハハハハハ!」


 声でかいねん、お前ら!ほかの登山客は引いてるやんけ!


 「プゥ!」


 何発こくねん、シーラカンス!で、「こいたった!」みたいな顔すんな!


 「高田さんのオナラにはまいっちゃうわ!」


 ブリッコすんな!で言うとくぞ、お前も大概の顔面やからな!シーラカンスの陰になって目立ってないだけで、お前も足の親指みたいな顔してるからな!


 オバハン連中は、しゃべり続けます。最初の山登り地点である、芦屋ロックガーデンへの移動を前にして、僕は猛烈な不安に襲われました。


 「このオバハンたちのせいで、この山登りは大変なことになるぞ!」


 僕の第六感が、こう知らせてきたのです。


 そして、僕の不安は的中します。オバハンに振り回される、「山の戦い」の火蓋が切られたのです……。


 続く……。


オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~出発編~(携帯読者用)

※2009年・8月26日の記事を再編集

 「ヨン様会、六甲の山頂を目指して、しゅっぱーーーつ!」

 「おーーー!!!」

 僕は今、六甲山のふもとにいます。訳あって登ることになり、出発地点に「仲間」と一緒にいます。

 「みんな、おやつは、まだ食べたらあかんで!」

 「わかってる、わかってる!これ以上太ったら困るから、できるだけ食べへんよ!ハハハハハ!」

 僕の周りには、オバハン連中がいます。僕の母親を含めて大勢おり、このオバハンたちを引き連れて山登りをすることになったのです。

 このオバハンの集まりは、ヨン様会。

 このブログで2度に渡ってご紹介した、ペ・ヨンジュンを応援するために結成された私設のファンクラブなのです。

 ヨン様会の活動は、ヨン様を応援するだけではありません。最近では四国お遍路巡りに参加するなど、活動の領域を広げ始めたのです。

 先月末、僕は母親(63)にお願いされました。

 「六甲山に登りたいから、あんた、連れて行ってくれへん?」

 六甲山は、僕の地元の兵庫県を代表する名山。標高は931メートルで、僕は大学時代、探検部に所属していました。山に何度も登ったことがあり、登山の技術には長けているのです。

 六甲山に至っては、中学と高校の遠足で、毎年来ていました。それを見込んで、母親がお願いしてきたんですね。

 僕は仕事で忙しく、最初は断りました。

 六甲山は、登山客用にきちんと整備されています。オバハンだけでも安全で、僕が行く必要はありません。

 ですが、ヨン様会のメンバーに、何度もお願いされました。

 「頼むわ。うちらは年寄りやから、あんたがいてくれたら助かんねん」

 「あんたが暇なときでいいから。頼むわ、あんたが暇なときでいいから」

 このように、毎日のように頭を下げられたため、思わずOKしてしまったのです。

 参加するのは、僕を含めて6人。ヨン様会のメンバーは8人いるものの、健康上の理由で3名が辞退し、元気なオバハンだけが参加することになりました。

 まあ、なんとかなるか……。たまには親孝行するのも悪くないか……。

 僕は、こう前向きに考えて参加したのですが、僕の考えは甘かったのです。いろいろなことがあり、なによりメンバーのキャラが濃すぎて、相手をする僕は大変だったのです。

 オバハンというのは、よくしゃべります。本当に元気で、山登りのしんどさうんぬんよりも、このオバハンたちの相手をするほうが大変だったのです。

 そこで今回は、オバハンと僕との「山の戦い」をご紹介する大長編の第1話、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~出発編~です。

 8月23日の日曜日。

 うだるような暑さの中、午前6時半に、ヨン様会のメンバーが僕の家に集まりました。

 「おはよう!」

 「おはよう!うち、山登りが楽しみで寝られへんかったわ!」

 オバハン連中は朝からうるさく、ふと見ると、参加しないはずのメンバーが1人います。理由を訊いたところ、「見送りに来た!」と言うのです。

 いらんわ、見送りとか!エベレスト登るんと違うぞ!

 「何かあったらあかんから!」

 何もないわ!子供でも登れるような山で何もないわ!

 「もしものことがあるやろ?」

 ないねん、だから!ていうか、このこと自体が大ごとやわ!もう何かあったわ!

 台所に集まって、朝ご飯を食べることになりました。

 メンバーの1人が、具材を買い込んできています。その人が中心となって作ることになったのですが、これ、焼肉なんですよ。

 出征兵士か、俺ら!なんで朝から牛掘り込まないとあかんねん!

 「食わないと山登りなんてやってられへんやろ!?」

 女やんな?「食う」なんて言い方してるけど、自分、女やんな!?

 このオバハンは、山本さん(68)。

 ヨン様会の事務総長を務める、とんでもないオバハンなのです。

 68歳とは思えないほどのパワフルな人で、なにしろこの人、177センチ、75キロなのです。

 SASUKE出ろ、お前!そのサイズ、ボクシングで言ったらライトヘビー級やぞ!

 「ニンニク、入れる奴?」

 奴て、おい!女が奴!?

 「ニンニク入れる奴は誰?」

 怖すぎるわ、お前!ていうか入れるか、そんなもん!朝からニンニク食う女なんておるか!

 「はーい!」

 「はーい!」

 「ガバガバで!」

 全員が手挙げた!全員が異常者やった!

 「うちもガバニンで!」

 ごめん、ガバニンって何!?「ニンニクをガバガバに入れる」とかなんやろうけど、女の口からこんなこと言われたらドン引きやねんけど!?

 「ガバニンの奴は何人?」

 ガバニンの奴て、おい!ピーいるわ、こんなドギツイ日本語!

 「私もガバニン!」

 「うちもガバニン!」

 「じゃあうちもガバニンで!」

 フルガバニンやんけ!ていうか、なんで見送りに来ただけの奴まで焼肉食うねん!お前はもう帰って寝るだけやろ!

 このように、全員が普通ではないのです。

 なかでも、山本さんはトラックの運転手をしていたほどの猛者で、首筋から胸元にかけて、ケンシロウばりのとんでもない傷があります(以下、ケンシロウ)。腕なんて、マグロを手で解体できそうなほどに太く、キムチを漬けたタルを毎回、当たり前のように2つかついでくるのです。

 女やんな?しつこいけどもう一回訊くわ、自分、女やんな!?

 「この傷は3トントラックで壁に突っ込んだときにできてん!へへへへへ!」

 人間やんな?もう性別どころの話じゃないわ、自分、人間やんな!?

 ケンシロウは、豚足が大好物です。ヨン様会でハイキングに行った際、場所が近所の公園だったので僕は見に行ったのですが、周囲がサンドイッチを食べているのを尻目に、この人は素手で豚足をかじっていたのです。

 どんなハイキングやねん、これ!ハイキングにコラーゲンはいらんやろ!

 「骨のきわが1番うまいねん!」

 オッサンやんけ!こんなん言う奴、立ち飲み屋で長居するタイプのオッサンやんけ!

 ケンシロウは、立てヒザで豚足にむしゃぶりついています。歯に詰まってつまようじを使い、取れた詰まり物が僕の体に飛んできたのですが、これ、豚の足の爪やったんですよ。

 どこまで食うねん、お前!サタンか!

 「あー、鬼ごろし、うまい!」

 ハイキングやんな?昼間からえげつない酒飲んでるけど、これ、たしかハイキングやったやんな!?

 このように、とにかく恐ろしいのです。

 ケンシロウを怒らせるわけにはいかず、朝から焼肉だとて文句は言えません。僕はケンシロウの隣に座り、寝起きの胃袋に無理矢理、焼肉を掘り込みました。

 「おはようございます!すいません、遅れました!」

 しばらくして、メンバーの1人である、岡村さん(58)がやってきました。

 「あんた、ここに座り!」

 僕の母親がこう言ってイスを用意したのですが、それをケンシロウが許しません。

 「あんた、ええ加減にしいや。せっかくたけちゃん(僕)が山に連れて行ってくれんのに、どういうつもりなん?」

 ケンシロウは吠えました。眉間にシワを寄せ、お地蔵さんでも震えかねないほどの視線で、岡村さんをにらみつけたのです。

 「山本さん、僕は気にしてないんで。岡村さん、ここに座ってください」

 「あんたは黙っとき!」

 僕は言い返したものの、ケンシロウにシャットアウト。

 「あんた、謝ったらなんでも済むと思ったらあかんで。この際やから言うけど、うちはあんたをヨン様会のメンバーとして認めてないから」

 ケンシロウは岡村さんのことが大嫌いで、岡村さんは、何かにつけてわがままを言います。愚痴や弱音も多く、弱さをよしとしないケンシロウにとっては、何かと目障りなんですね。

 しかも岡村さんは、いい歳してブリッコをします。ケンシロウは、そのしゃべり方が鼻につくらしく、ヨン様会からはずそうと画策したこともあるほどなのです。

 一方、岡村さんもケンシロウのことが大嫌い。僕も愚痴を聞かされたことがあり、この2人はめちゃくちゃ仲が悪いのです。

 「せっかくの登山やのに、ケンカはやめましょうよ!」

 結局、メンバーの1人である花木さん(41)があいだに入り、ことなきを得ました。

 とはいえ、空気は最悪。何気に見たケンシロウが、ちょいちょい岡村さんをにらんでいます。「肉→ニンニク→にらむ→肉→ニンニク→にらむ」を繰り返し、ヨン様会に不穏な空気が流れました。

 「みなさんに、ちょっと聞いてほしいことがあるんですよ!」

 こう言って花木さんが、空気を変えようとしました。

 花木さんは、ヨン様会では最年少。韓流を中心とする芸能情報に詳しいなど、話題も豊富です。元シェフで、頻繁に手料理を披露してくれることからも、ヨン様会では人気者なのです。

 ですが、めちゃくちゃ早口なのです。

 よくしゃべる早口なので、話が聞き取れないことなどザラ。このときも、「こないだみんなで見た『宿命』って映画あるじゃないですかあれ兵役除隊後のソン・スンホンと『悲しき恋歌』でスンホンと共演できなかった親友クォン・サンウが撮影終了後に涙を流し……」と、まくしたてたのです。

 速すぎんねん、お前!流しそうめんか、お前の口!

 「こないだ七面鳥の丸焼きを作ったんですけどお肉が固くて噛み切れなくて歯が折れそうになりましたへへへへへ!」

 ごめん、どこで笑ったらいいかわからん!速すぎてどこがボケなんかわからん!

 それでも、僕がそのことにツッコミを入れたことが笑いになり、空気は改善しました。ケンシロウも笑い、岡村さんと目を合わせないものの、何とか丸く収まりました。

 いずれにせよ、出発です。

 見送りに来ていたメンバーの1人は帰り、僕らは食事を終えました。

 「じゃあ、そろそろ行くか!」

 ケンシロウのかけ声で、出発することになりました。

 メンバーは全員、リュックを背負っています。

 服装は、半そでのTシャツにジーパン。準備を整え、山登りのスタート地点である、阪急の芦屋川駅に向かうことになりました。

 駅へは、僕の家の車で向かいます。5人しか乗れないため、ケンシロウはバイクで向かうと聞いています。僕はてっきり原付きバイクだと思っていたのですが、250CCの大型バイクやったんですよ。

 なんでやねん、お前!完全に走り屋のバイクやんけ、これ!

 「ブウォウォウォウォン!ブウォウォウォウォン!」

 空吹かしすんな、オバハンが!てうかもう戦争に行け、お前!見送る側ではなく、出征する側として戦争に参加しろ!確実に生き残るわ!

 僕はケンシロウにおびえています。車に乗り込み、ケンシロウは僕らが走る車にバイクで併走してきたのですが、信号待ちで、眉間にシワ寄せながらセブンスターを吸い始めたのです。

 前代未聞やぞ、セッター吸うババアなんて!JTもマーケットにアラシックスは想定してないぞ!

 「ふーっ!」

 くゆらせんな!で、完全に飲んでんねんけど!?吸うじゃなくて飲んでるとしか思えんねんけど!?

 ケンシロウは、フルフェイスに近いヘルメットをかぶっています。首筋の傷が見えることからも、「俺の名を言ってみろ?」でおなじみの、北斗の拳のジャギみたいです。いつ「俺の身長を言ってみろ?」と訊かれるかとヒヤヒヤで、僕は生きてる心地がしないのです。

 車は僕の母親が運転し、僕は助手席に座っています。

 後部座席は、左から花木さん、高田さん(63)、岡村さんの並びで座り、岡村さんがケンシロウの悪口を言っています。

 「あの人、オッサンみたいで気持ち悪いわ」

 ケンシロウがいないのをいいことに、悪態ついているのです。

 ですが、ケンシロウが岡村さんをイヤがる気持ちはわかります。車内のほかのメンバーが「あんたが悪いんやろが。事務総長の悪口を言いな」と言っていさめようとしても、「ちょっと遅れたぐらいで何よ!」と子供みたいなことを言うのです。

 しかも岡村さんはブリッコなので、話し方にイラッとします。

 「本当にまいっちゃうわ!」

 こうかわいく叫び、体を振りながら「事務総長なんてイヤイヤーン!」って言ったんですよ。

 気持ち悪いねん、お前!質屋入れたろか!

 「怒られるのはイヤイヤーン!」

 ガンなるわ!これ以上こんなこと言われたら、体のどっかがガンなるわ!

 結局、隣に座る高田さんが、言って聞かせました。岡村さんも落ち着き、車内が平穏を取り戻しました。

 とはいえ、この高田さんというのがまた、キャラが濃いのです。

 なにしろこの人、死ぬほどブサイクなんですよ。魚介類みたいな顔をしており、「ケンシロウと高田さんやったらどっち抱く?」と訊かれたら、僕はケンシロウの腕枕を選ぶほど、筋金入りのブサイクなのです。

 高田さんは、シーラカンスにそっくりです(以下、シーラカンス)。「自分、どこ呼吸なん?」というぐらい魚類系の顔をしています。家が近いため、たまに僕の家で食事をするのですが、僕は隣に座ってサンマを食べていた際、サンマとこのオバハンの顔を見間違って、顔を箸でつかみかけたのです。

 ややこしいねん、お前!額に「ノー フィッシュ」とか書いとけや!

 「暑いから海に行きたいわ!」

 魚やんけ!完全に魚やろ、お前!

 しかもこのシーラカンスは、当たり前のようにオナラをします。自分でもブサイクなのを自覚しており、女を完全に捨てています。毎回、「あら、ごめん!」と言ってオナラをし、この車内でもオナラをしたのですが、「ベジータ!」って鳴ったんですよ。

 ベジータて、おい!ベベベ、ベジータ!?

 「ベジータ!」

 肛門どうなってんねん!肛門に仙豆入れろ、お前は!

 またこのオナラが、めちゃくちゃ臭いのです。スーパーサイヤ人の名に恥じないスーパーな臭気で、危険を感じた僕の母親が一旦、車を停めたのです。

 何食ってんねん、お前!もしかしてゾンビか何か食った!?

 「高田さん、昨日、何食べたんですか?」

 「魚」

 共食いやんけ!ちょっと待って、魚が魚を食ったん!?

 「魚は体にいいから食べや」

 めちゃくちゃ説得力あるわ!魚に直接言われたら食わなしゃあないわ!

 あまりにもオナラが臭いため、僕は窓を開けました。ほかの3人も窓を開けてくれたので、ようやく車を発進できました。

 ですが、車内には匂いが残っています。僕は窓から顔を出して外の空気を吸っていたのですが、僕の顔の真横をセブンスターを口にくわえたケンシロウが猛スピードで走り去ったんですよ!

 完全にライダーやんけ、こいつ!おもくそ風切って走ってるやんけ!

 「まだ臭い!ほんまに臭いほんまに臭いほんまに臭いからもっと窓開けて!」

 速い速い!早口すぎんねん、お前!

 「オナラをするなんてイヤイヤーン!」

 お前は黙れ!ていうか、ここどうなってんねん、おい!俺はどこに避難したらいいねん!うちの母親は母親で口が死ぬほどニンニク臭いしよ!

 家を出て30分もたっていないのに、僕はくたくたです。

 なにより、オバハンだけによくしゃべります。

 「暑いから、もっとクーラー効かしてや」

 「あんた、太ってるから暑いねんで」

 「うるさいわ!ハハハハハ!」

 「ハハハハハハハ!」

 このように、ニンニク臭い口でガンガンにしゃべります。聞かされる僕は、たまったもんじゃないんですね。

 それでもようやく、出発地点の芦屋川駅に到着しました。

 時刻は午前8時。車をコインパーキングに止め、ケンシロウは、コンビニにバイクを止めに行きました。

 スタート地点に、メンバー全員が集まりました。

 駅前には、大勢の登山客がいます。意味なく大きなサンバイザーをつけたオバハンがたくさんおり、どのオバハンもベラベラとしゃべっているのです。

 どこのオバハンも同じか……。おかしいのは、うちのオバハンだけじゃないんやな……。

 「ごめん、出発する前にニコチン補給さして!」

 「暑いからペットボトルをもっと冷やしてきたらよかったわ氷のように固めてきたほうがよかったかな!」

 「プゥ!」

 うちだけやった!ここまでおかしいのはうちだけやった!

 周囲を凌駕するほど、ヨン様会はおかしいのです。

 それを証拠に、全員で記念写真を撮ったあと、ケンシロウが叫びました。

 「ヨン様会、六甲の山頂目指して、しゅっぱーーーつ!」

 「(手を挙げて)おーーー!!!」

 ちょっと待って、何、この気持ち悪い感じ!?完全に浮いてんねんけど、俺ら!?

 「行くぞーーー!!!」

 「おーーー!!!」

 特攻隊か、お前ら!その異様な熱さ、完全に特攻隊やんけ!で、手を挙げたのはいいけど、メンバーに1人、軽く脇毛生えてる奴おんねんけど!?半そでのすそから軽く見えてんけどって、うちの母親やんけ、おい!

 「オ、オカン、脇毛生えてない?」

 「そうや」

 そうややあるか、お前!何を胸張って言ってくれとんねん、そんなこと!

 「別に気にならん」

 俺が気になんねん!家族、いや親族にまでトラウマ与えてくるほどのことやねん!

 「みんな、おやつはまだ食べたらあかんで!」

 「わかってるわ、わかってる!これ以上太ったら困るから、できるだけ食べへんよ!ハハハハハ!」

 声でかいねん、お前ら!ほかの登山客は引いてるやんけ!

 「プゥ!」

 何発こくねん、シーラカンス!で、「こいたった!」みたいな顔すんな!

 「高田さんのオナラにはまいっちゃうわ!」

 ブリッコすんな!で言うとくぞ、お前も大概の顔面やからな!シーラカンスの陰になって目立ってないだけで、お前も足の親指みたいな顔してるからな!

 オバハン連中は、しゃべり続けます。最初の山登り地点である、芦屋ロックガーデンへの移動を前にして、僕は猛烈な不安に襲われました。

 「このオバハンたちのせいで、この山登りは大変なことになるぞ!」

 僕の第六感が、こう知らせてきたのです。

 そして、僕の不安は的中します。オバハンに振り回される、「山の戦い」の火蓋が切られたのです……。

 続く……。

ご挨拶~はじめに~(パソコン読者用)

 こんにちわ、バスコでございます。


 読者のみなさま、いつも当ブログをご覧になっていただいて、ありがとうございます。


 ご存知の方も多いと思いますが、4年半に渡ってお送りした『バスコの人生考察』は、2010年・12月13日をもって、強制退会させられました。ツイッター(baskobasko)のほうでご説明したとおり、すべての記事を削除されてしまったのです。


 そのことに対して、まず、執筆者として謝罪させてください。読者のみなさま、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした。


 とりわけ、長編のお話が途中になっております。今年の2月から過去記事の再編集記事をアップしておりますが、初めて読まれる方も多いと思います。興を削ぐタイムラグができてしまったことを、クリエーターとして恥じます。重ねて謝罪させてください、本当にごめんなさい。


 今回、新しいブログを立ち上げました。


 新しいブログのタイトルは、「新・バスコの人生考察」です。


 「新・バスコの人生考察」 http://ameblo.jp/baskobasko/


 URLをご登録いただくか、このタイトルでネット検索していただければ、と思います。


 現在、できるだけ前回のブログの形に近づけるように、ブログ全体を再構築しております。


 幸いにも、完成原稿ではございませんが、記事のデータは残してあります。ネットで記事のタイトルを検索すればキャッシュが残っていることも多いので、それらを拾い集めてなんとかします。


 ですが、下ネタの記事は、再アップできそうにありません。


 そこで、下ネタが多い記事用に、新しく別のブログを立ち上げます。追って、このブログにリンクを貼るようにするので、もう1度読みたいと思われる方は、そちらで読んでいただけたら、と思います。


 その場合、1つの記事を、何回かに分けざるをえません。僕の記事は長いため、ほかのブログサービスの文字数制限を考えると、1つの記事で完結させるのは難しいのです。


 僕の記事は、テンポが命です。畳み掛けないと大きな笑いは取れず、長いのを承知で、1発の記事で完結させることを目標としています。本意ではないのですがどうしようもありません、キリのいいところでバランスを取りながら、記事を分割したいと思います。


 ただ、どの言葉がフィルタリングに引っかかるのか、わかりません。このブログサービスは規制が厳しすぎて、お笑いを扱う者としては表現しづらいです。ビクビクしながら書くのは絶対にイヤなので、ややこしそうな場合でも突っ切ります。


 それと申し訳ないのですが、すべての記事を再アップすることはできません。時間が取れそうになく、今の僕の考えでは、今年の2月から再編集した記事、及び、過去のアンケート調査で人気が高かった記事はすべて、再アップします。100本~150本のイメージです。


 また、読者の方からいただいた過去のコメントも、すべて削除されてしまいました。


 たくさんのお声を頂戴して、涙ぐむこともありました。ヘコんでいたときに励まされたことも、数えればキリがないほどです。


 それらはすべて、僕にとっての宝物です。もうありませんが、心に刻み付けております。一生忘れません、本当にありがとうございました。


 今回の件を知らない方は、たくさんおられます。突然消されたので説明のしようがなく、僕が自主的にやめたと思われている方も多いでしょう。


 中には、このブログを立ち上げた頃から、懇意にしていただいている方もいます。そこでお手数ですが、この記事を読まれた方で、過去に僕のブログにコメントをしたことがある方は、「私、戻ってきましたよコメント」をください。空のコメントでもかまいません、ハンドルネームだけ以前のままでいてくれれば、僕はその人を把握できます。


 同時に、僕のブログを読んでくれていた方が周囲にいたら、「バスコが帰ってきたぞ」と声をかけてください。何かウェブサイトをお持ちであれば、告知していただけたら助かります。


 さて、本来であれば、来年の1月の後半から新規の記事をアップする予定でした。


 実は現在、本を執筆しております。発売時期との兼ね合いもあって、初稿が仕上がるぐらいのタイミングでの復活を予定していたのですが、どうかブログを再構築する作業を優先させてください。あと2ヶ月ほどいただけたら、と思います。それが終われば再び、新規の記事をアップして参りますので。


 ところで、今回の件で、たくさんの方から応援メッセージをいただきました。本当にありがとうございました。


 ご心配なさらなくても、僕は元気でやっております。また今回の件を機に、ブログ絡みで、何名かの方とご縁をいただきました。実際にお会いした方もおり、このピンチの中でも得るものはあったので、今は前向きに考えております。


 ただ、今回の記事の最後に、どうしても申し上げておきたいことがあります。そしてそのことは、クリエーターとしての、僕の信念にほかなりません。


 自分の信念を紹介するなんて、お笑いのブログには合いません。避けたいところなのですが、命をかけてやってきた自分の作品をすべて消されたことで、表現で飯を食う者として、自分の信念を見つめ直しました。その結果、自分の考え方は間違っていない、という結論に至ったのです。


 僕は、モノを創る人間は、表現する分野にタブーをつくってはいけない、と思っています。


 何かを表現するとき、脳になんらかの縛りができると、発想のクオリティーが著しく下がります。腰の引けた表現には、熱はこもりません。作品から創作者の叫び声が聞こえてきそうなものこそが本物で、それは結局、「創り手がその作品をどれだけ愛しているか」という一点に尽きると思うのです。だからこそ自分の好きな分野を突き詰めるべきで、結果としてそれが社会から叩かれる分野であったとしても、「戦う」の2文字を胸に作品に熱を込めるべきなのです。


 いいモノ=売れるモノとはかぎりません。おもしろい芸人=売れる芸人とはかぎりません。クリエーターの方にはおわかりいただけると思いますが、より売れるモノにしようと思えば、自分のやりたいことと離れてしまうことが多いです。表現者は常にその葛藤を抱えており、ミュージシャンしかり、小説家しかり、カメラマンしかり、自分の確固たる信念に基づいて作品を産みだしているのです。


 僕はブログといえども、一言一句に魂を込めてやっています。申し訳ございませんが、読者のことを考えて記事は書いておりません。自分の好きな分野で、1人のクリエーターとして、自分の感性を日々、突き詰めているのです。


 僕はいつも言うのですが、サザエさんをやっているようでは、笑いは取れません。本当におもしろい笑いは、往々にして、あたたかさと真逆のところにあるのです。


 「おじいさん」なんて言い方をしていては、笑いは取れません。「ジジイ」って言わないと、誰も笑ってくれません。たとえその人が命の恩人でも、「崖から落ちそうになってる俺に手を差し伸べるんはいいけど、手ニチョニチョやんけ!手洗ってから助けろや、クソジジイ!」とキレるのが笑い。その理不尽さに人は笑い、それがお金になるのです。


 もちろん、それらはすべて、倫理と背中合わせです。芸風が嫌われて、世間からつまはじきにされることもあるでしょう。社会人としての倫理観も当然求められるのですが、お笑いをするそのとき一点において、僕が「おじいちゃん」と呼ぶことはありません。全部、胸を張って、ジジイって呼びます。


 今回の件で、僕は、自分の書いてきた記事が、青少年に悪影響を及ぼしたとは思っていません。たしかに下ネタは多かったですが、僕の記事を読んだ青少年たちの人格形成を阻害したとは、思っていません。


 同時に僕は、自分が表現したことに対して誰かを直接傷つけたのであれば、その人に謝罪する用意はあります。これは信念というよりも「考え方」で、自分が使った言葉で青少年に悪い影響を与えたのなら、親御さんに謝る用意はあります。


 ただ、その人への申し訳なさはあったとしても、自分の表現の仕方を変えるつもりはありません。僕は表現するのが好きだから今の仕事につき、このようなブログを書いてきました。下ネタで笑いを取るのが好きだからそうしたのであり、「ごめんなさいね、下品で!」と言うことはあっても、自分がしたこと自体に謝罪することはできません。


 僕は、表現と倫理に関する問題は、本来、理屈で考えるべきことではない、と思っています。


 テレビのバラエティー番組ひとつとっても、とある芸人が、誰かのメガネを取って投げ捨てても問題ないのに、それがメガネではなく補聴器だったら、大問題になるのです。


 ですがこれは、目が悪いか、耳が悪いかだけの違いです。悪い部位が違うだけなのに、「補聴器をつけている人は何かかわいそう」という先入観から、筋の通らないクレームをつけているのです。


 毒舌もそうです。自分が太っていて、「デブとか言うなよ!」と怒っている人でも、ハゲネタでは笑ったりします。モノの価値観は多様で、どの角度から掘り下げても、人によって見え方は違います。理屈で語れないところがあり、要するに、「表現した側が何を表現したか。同時に、何を表現できたか」という、表現者のマインドの問題になってくるのです。


 僕は、表現というのは、客と戦うのではなく、自分の作品との戦いだと思っています。


 客に合わせるのはいいが、コビてはダメ。どんな制約があろうと、常に、高い到達点で妥協する。自分の責任で表現し、自分の責任でケツを拭く。それが一流であり、それができるクリエーターこそが、たくさんの人を魅了すると思うのです。


 もしその考え方が間違っていたり、時代に合わないのであれば、売れない、人気が出ないといった、強烈な市場原理が創り手に返ってきます。それはこちらも承知しており、今回の僕は、強制退会という結果を受けました。ルールに反したことで社会人としては間違っていたかもしれませんが、クリエーターとしては間違っていないと、確信しています。



 長くなりましたが、僕からは、そんな感じです。


 今回の記事を、新生バスコの人生考察のご挨拶とさせていただきます。


 いずれにいたしましても、ひとまず、「ヨン様会」の記事から始めます。そのあとは僕のほうで順番を構成しながら、過去記事を順次、アップしていきます。


 偉そうなことを言いましたが、僕はまだまだ、二流のクリエーターです。このブログサービスにもう1度お世話になりたいので、露骨な下ネタはもう言いません。こんな僕でよければ、応援よろしくお願いしまん毛、あっ間違った、よろしくお願いします。


 バスコ


ご挨拶~はじめに~(携帯読者用)

 こんにちわ、バスコでございます。

 読者のみなさま、いつも当ブログをご覧になっていただいて、ありがとうございます。

 ご存知の方も多いと思いますが、4年半に渡ってお送りした『バスコの人生考察』は、2010年・12月13日をもって、強制退会させられました。ツイッター(baskobasko)のほうでご説明したとおり、すべての記事を削除されてしまったのです。

 そのことに対して、まず、執筆者として謝罪させてください。読者のみなさま、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした。

 とりわけ、長編のお話が途中になっております。今年の2月から過去記事の再編集記事をアップしておりますが、初めて読まれる方も多いと思います。興を削ぐタイムラグができてしまったことを、クリエーターとして恥じます。重ねて謝罪させてください、本当にごめんなさい。

 今回、新しいブログを立ち上げました。

 新しいブログのタイトルは、「新・バスコの人生考察」です。

 「新・バスコの人生考察」 http://ameblo.jp/baskobasko/

 URLをご登録いただくか、このタイトルでネット検索していただければ、と思います。

 現在、できるだけ前回のブログの形に近づけるように、ブログ全体を再構築しております。

 幸いにも、完成原稿ではございませんが、記事のデータは残してあります。ネットで記事のタイトルを検索すればキャッシュが残っていることも多いので、それらを拾い集めてなんとかします。

 ですが、下ネタの記事は、再アップできそうにありません。

 そこで、下ネタが多い記事用に、新しく別のブログを立ち上げます。追って、このブログにリンクを貼るようにするので、もう1度読みたいと思われる方は、そちらで読んでいただけたら、と思います。

 その場合、1つの記事を、何回かに分けざるをえません。僕の記事は長いため、ほかのブログサービスの文字数制限を考えると、1つの記事で完結させるのは難しいのです。

 僕の記事は、テンポが命です。畳み掛けないと大きな笑いは取れず、長いのを承知で、1発の記事で完結させることを目標としています。本意ではないのですがどうしようもありません、キリのいいところでバランスを取りながら、記事を分割したいと思います。

 ただ、どの言葉がフィルタリングに引っかかるのか、わかりません。このブログサービスは規制が厳しすぎて、お笑いを扱う者としては表現しづらいです。ビクビクしながら書くのは絶対にイヤなので、ややこしそうな場合でも突っ切ります。

 それと申し訳ないのですが、すべての記事を再アップすることはできません。時間が取れそうになく、今の僕の考えでは、今年の2月から再編集した記事、及び、過去のアンケート調査で人気が高かった記事はすべて、再アップします。100本~150本のイメージです。

 また、読者の方からいただいた過去のコメントも、すべて削除されてしまいました。

 たくさんのお声を頂戴して、涙ぐむこともありました。ヘコんでいたときに励まされたことも、数えればキリがないほどです。

 それらはすべて、僕にとっての宝物です。もうありませんが、心に刻み付けております。一生忘れません、本当にありがとうございました。

 今回の件を知らない方は、たくさんおられます。突然消されたので説明のしようがなく、僕が自主的にやめたと思われている方も多いでしょう。

 中には、このブログを立ち上げた頃から、懇意にしていただいている方もいます。そこでお手数ですが、この記事を読まれた方で、過去に僕のブログにコメントをしたことがある方は、「私、戻ってきましたよコメント」をください。空のコメントでもかまいません、ハンドルネームだけ以前のままでいてくれれば、僕はその人を把握できます。

 同時に、僕のブログを読んでくれていた方が周囲にいたら、「バスコが帰ってきたぞ」と声をかけていただけたら助かります。何かウェブサイトをお持ちであれば、告知していただけたら助かります。

 さて、本来であれば、来年の1月の後半から新規の記事をアップする予定でした。

 実は現在、本を執筆しております。発売時期との兼ね合いもあって、初稿が仕上がるぐらいのタイミングでの復活を予定していたのですが、どうかブログを再構築する作業を優先させてください。あと2ヶ月ほどいただけたら、と思います。それが終われば再び、新規の記事をアップして参りますので。

 ところで、今回の件で、たくさんの方から応援メッセージをいただきました。本当にありがとうございました。

 ご心配なさらなくても、僕は元気でやっております。また今回の件を機に、ブログ絡みで、何名かの方とご縁をいただきました。実際にお会いした方もおり、このピンチの中でも得るものはあったので、今は前向きに考えております。

 ただ、今回の記事の最後に、どうしても申し上げておきたいことがあります。そしてそのことは、クリエーターとしての、僕の信念にほかなりません。

 自分の信念を紹介するなんて、お笑いのブログには合いません。避けたいところなのですが、命をかけてやってきた自分の作品をすべて消されたことで、表現で飯を食う者として、自分の信念を見つめ直しました。その結果、自分の考え方は間違っていない、という結論に至ったのです。

 僕は、モノを創る人間は、表現する分野にタブーをつくってはいけない、と思っています。

 何かを表現するとき、脳になんらかの縛りができると、発想のクオリティーが著しく下がります。腰の引けた表現には、熱はこもりません。作品から創作者の叫び声が聞こえてきそうなものこそが本物で、それは結局、「創り手がその作品をどれだけ愛しているか」という一点に尽きると思うのです。だからこそ自分の好きな分野を突き詰めるべきで、結果としてそれが社会から叩かれる分野であったとしても、「戦う」の2文字を胸に作品に熱を込めるべきなのです。

 いいモノ=売れるモノとはかぎりません。おもしろい芸人=売れる芸人とはかぎりません。クリエーターの方にはおわかりいただけると思いますが、より売れるモノにしようと思えば、自分のやりたいことと離れてしまうことが多いです。表現者は常にその葛藤を抱えており、ミュージシャンしかり、小説家しかり、カメラマンしかり、自分の確固たる信念に基づいて作品を産みだしているのです。

 僕はブログといえども、一言一句に魂を込めてやっています。申し訳ございませんが、読者のことを考えて記事は書いておりません。自分の好きな分野で、1人のクリエーターとして、自分の感性を日々、突き詰めているのです。

 僕はいつも言うのですが、サザエさんをやっているようでは、笑いは取れません。本当におもしろい笑いは、往々にして、あたたかさと真逆のところにあるのです。

 「おじいさん」なんて言い方をしていては、笑いは取れません。「ジジイ」って言わないと、誰も笑ってくれません。たとえその人が命の恩人でも、「崖から落ちそうになってる俺に手を差し伸べるんはいいけど、手ニチョニチョやんけ!手洗ってから助けろや、クソジジイ!」とキレるのが笑い。その理不尽さに人は笑い、それがお金になるのです。

 もちろん、それらはすべて、倫理と背中合わせです。芸風が嫌われて、世間からつまはじきにされることもあるでしょう。社会人としての倫理観も当然求められるのですが、お笑いをするそのとき一点において、僕が「おじいちゃん」と呼ぶことはありません。全部、胸を張って、ジジイって呼びます。

 今回の件で、僕は、自分の書いてきた記事が、青少年に悪影響を及ぼしたとは思っていません。たしかに下ネタは多かったですが、僕の記事を読んだ青少年たちの人格形成を阻害したとは、思っていません。

 同時に僕は、自分が表現したことに対して誰かを直接傷つけたのであれば、その人に謝罪する用意はあります。これは信念というよりも「考え方」で、自分が使った言葉で青少年に悪い影響を与えたのなら、親御さんに謝る用意はあります。

 ただ、その人への申し訳なさはあったとしても、自分の表現の仕方を変えるつもりはありません。僕は表現するのが好きだから今の仕事につき、このようなブログを書いてきました。下ネタで笑いを取るのが好きだからそうしたのであり、「ごめんなさいね、下品で!」と言うことはあっても、自分がしたこと自体に謝罪することはできません。

 僕は、表現と倫理に関する問題は、本来、理屈で考えるべきことではない、と思っています。

 テレビのバラエティー番組ひとつとっても、とある芸人が、誰かのメガネを取って投げ捨てても問題ないのに、それがメガネではなく補聴器だったら、大問題になるのです。

 ですがこれは、目が悪いか、耳が悪いかだけの違いです。悪い部位が違うだけなのに、「補聴器をつけている人は何かかわいそう」という先入観から、筋の通らないクレームをつけているのです。

 毒舌もそうです。自分が太っていて、「デブとか言うなよ!」と怒っている人でも、ハゲネタでは笑ったりします。モノの価値観は多様で、どの角度から掘り下げても、人によって見え方は違います。理屈で語れないところがあり、要するに、「表現した側が何を表現したか。同時に、何を表現できたか」という、表現者のマインドの問題になってくるのです。

 僕は、表現というのは、客と戦うのではなく、自分の作品との戦いだと思っています。

 客に合わせるのはいいが、コビてはダメ。どんな制約があろうと、常に、高い到達点で妥協する。自分の責任で表現し、自分の責任でケツを拭く。それが一流であり、それができるクリエーターこそが、たくさんの人を魅了すると思うのです。

 もしその考え方が間違っていたり、時代に合わないのであれば、売れない、人気が出ないといった、強烈な市場原理が創り手に返ってきます。それはこちらも承知しており、今回の僕は、強制退会という結果を受けました。ルールに反したことで社会人としては間違っていたかもしれませんが、クリエーターとしては間違っていないと、確信しています。


 長くなりましたが、僕からは、そんな感じです。

 今回の記事を、新生バスコの人生考察のご挨拶とさせていただきます。

 いずれにいたしましても、ひとまず、「ヨン様会」の記事から始めます。そのあとは僕のほうで順番を構成しながら、過去記事を順次、アップしていきます。

 偉そうなことを言いましたが、僕はまだまだ、二流のクリエーターです。このブログサービスにもう1度お世話になりたいので、露骨な下ネタはもう言いません。こんな僕でよければ、応援よろしくお願いしまん毛、あっ間違った、よろしくお願いします。

 バスコ

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