新・バスコの人生考察 -18ページ目

ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?の考察・中編(パソコン読者用)

※2009年・4月15日の記事を再編集


 「バスコ、宴会の40人が来た!すぐに揚げ盛りを40人前作ってくれ!」


 店長に言われた僕は、しばし、放心状態になりました。


 手元には、フリーのオーダーが続々と入ってきます。ドンブラーの田辺を手伝えなくなるのはもちろん、手間のかかる『カモ南蛮そば』が8人前も入ってきたのです。


 そこで今回は、「ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?」の考察・中編です。


 ともあれ、僕はカモ南蛮の麺をゆで器に入れました。


 同時に揚げ盛りを完成させるため、コロッケ40個、から揚げ40個、ポテトフライ20人前をフライヤーに入れました。


 フライヤーは3つ並列されています。ですが、揚げ盛り40人前ともなると、それだけで満杯になります。僕はフリーのオーダーをあと回しにして、ひとまず、揚げ盛りとカモ南蛮を完成させることにしました。


 焼き場の玉井は、宴会用の焼き鳥を80本焼いています。オーブンの佐々木は、玉井を補助しながら自らのオーダーをこなしています。宴会用の大根サラダをすぐに出し、先ほど倒した16個の茶碗蒸し、そして今しがた来た40名の分も準備してくれたので、ひとまず前面は佐々木に任せることにしました。


 前田さんは板場に戻り、洗い場の阿部さんと、宴会の後半に出すネギトロを準備しています。白井さんは自分のオーダーをこなしながら、前田さんが切った刺身を盛り皿に盛っています。ところが1人だけどうにもならず、あたふたしている奴がいるのです。


 そう、田辺です。


 積み重なったオーダーを見て、半泣きになっています。カモ南蛮のダシを温めるためにドンブラーに行ったところ、耳を真っ赤にして尋常ではない様子なのです。


 「田辺、大丈夫か?」


 「うん」


 うんて、おい!テンぱってるやろ、どう考えても!


 「うん……」


 声ちっちゃ!相当ぶ厚い鼓膜がいる、俺のほうに!


 ホールの束ちゃんが来て言いました。


 「タナベサン、オキャクサンガオコッテマチュ!ギョウザヲ、ハヤクダシテクダチャイ!」


 ドンブラーの伝票を確認したところ、サイコロステーキ10、ギョウザ10、ソースヤキソバ5と、どきついオーダーが山のように溜まっています。なのに本人は12個ある鉄板器をフル稼働せず、サイコロステーキを2つ焼いているだけなのです。


 何してんねん、お前!ゆとり世代か!


 「田辺、もっと焼けよ!」


 「う、うん」


 うんと違うねん、だから!阿部さんもこいつに注意したってくれ!?


 「パリーン!」


 お前にも注意がいるわ!「割れ者注意」や、お前は!


 慌てた僕は、餃子を一気に焼くことにしました。


 空いている鉄板に餃子をセットし、同時に、背面にある鉄鍋でヤキソバを一気に作りにかかります。ですが、僕にも担当する揚げ場があります。ひとまず田辺をサイコロ専門にし、残りのオーダーを手が空いてる白井さんにお願いしたのですが、「ごめん、うちは火があかんねん!」と断りやがったのです。


 言うてる場合か、お前!手伝えよ、こんな状況やねんから!


 「白井さん、大根サーッがなくなりました!すぐに仕込んでくださいってご新規ジャクサーッ!」


 余裕あるやろ、お前!こんなときでも発音のいいお前は至って冷静やろ!


 「佐々木君、わかった!前面も忙しいやろうから、うちが大根サラダを作ってあげるわ!ノリ投げて!」


 「イエッサーッ!」


 ジャコサーッみたいに言うな!なあ、阿部さん!?


 「パリーン!」


 ええ加減にせいよ!で言うとくぞ、お前のせいでこの店、赤字やからな!いくら儲けがあっても、新しい皿の購入代で儲けがなくなるからな!


 結局、前田さんが田辺を手伝うことになりました。


 阿部さんもドンブラーに呼んで手伝わせ、僕は揚げ場に戻り、カモ南蛮と揚げ盛りを完成させました。そして前田さんが奮闘した結果、ドンブラーが落ち着いてきたのです。


 とはいえ、息つく暇もありません。


 しばらくして、予約していた宴会の16名が入ってきました。同時に、40名の宴会料理が第2弾に差しかかります。サイコロステーキ20人前を焼くことになり、前田さんが僕のところに来て言ったのです。


 「バスコ、サイコロを頼むわ!」


 無理無理!俺は揚げ盛りを16人前作らないとあかんから!


 めちゃくちゃなんですよ、このオッサン。忙しくなると、イヤな仕事を人に任せようとするのです。


 しかもこのオッサンは、鼻が右に曲がっています。その昔、ビールタンクが顔に倒れてきて鼻を折ったらしく、完全に曲がっているのです。


 イタリアか、その鼻!どう見てもイタリアに見えるぞ、お前の鼻!


 「お願い?」


 やかましいわ!ていうかもしかしてその鼻、「イタリアンフェア」とかそういうこと!?店でイタリアンフェアをやったとき、お前は気合い入りすぎて見た目から入ったんか!?


 「頼むわ!俺は板場を立て直さないとあかんねん!」


 鼻を直せ!板場の前にまず鼻を立て直せ!


 「阿部、洗い場に戻ります!」


 いちいち言わんでいいから!そんなんいいからお前はすぐに戻って皿洗え!


 「パリーン!」


 いきなりかい!なんでいきなり割んねん、お前は!


 「パリーン!」


 もうプロやわ、こいつ!「ブレーカー」という名の専門職やわ!


 厨房内は、加速度的に忙しくなってきました。


 5時入りの客が帰り、待っていた新規の客がわんさかと席に着きます。今まで以上に慌しさを増し、7名全員がオーダーに追われました。


 ですが、ここで福音が。


 店長の指示で、ホールの従業員を1人、厨房に回してくれることになったのです。


 その助っ人の名は、北村さん。


 厨房は得意ではないものの、何度か経験があり、来てもらえればだいぶ助かります。僕は宴会用のサイコロを焼くことにして、揚げ場を北村さんにお願いすることにしました。


 ですが北村さんは、料理がめちゃくちゃ雑なのです。揚がったかどうかを勘で判断するらしく、1度、目で見て生とわかるほどのから揚げを普通に客に出したのです。


 ゾンビ専門の居酒屋か、ここ!そんなレア、ゾンビと藤岡弘しか食わんぞ!


 しかも油が怖いらしく、フライヤーから離れて具材を投げつけます。隣で鉄鍋を振る僕に油が飛び、「熱いっ!」と言ってアピールしたものの、「忙しいから我慢してくれ!」と反論して僕にガンガンに油をかけてきたのです。


 お前、SMやぞ、これ!『CHUU棒』という名のSM倶楽部やぞ、この厨房!


 「バスコ、から揚げのタレにはショウガを何グラム入れるんだい?」


 完全にSMやんけ!その口調、完全に女王様やろ!


 「ご請求、生ハムピツァー!」


 お前は黙れ!お前のほうこそSMくらえ!


 「ご請求、バニラアイサーッ!」


 バニラアイスや!意味がわからん、もう!


 「バスコサン、ポチェソフライ、ゴセイチュウデチュ!」


 お前に至っては何言ってるかわからん!口ニチョニチョのジジイか!


 惨事は続きます。店長が現われ、白井さんに怒鳴ったのです。


 「白井さん!このアンキモ、アンキモが入ってないですよ!」


 白井さんは忙しさのあまり、アンキモにアンキモを入れませんでした。缶を開けるのを億劫がり、大量の小鉢に紛らせて1つ、モミジオロシとキュウリだけを入れたのです。


 何考えとんねん、お前!アンキモをアンキモなしで出すか、普通!?


 「(舌出して)店長、ごめん!」


 舌出すな、コラ!なあ、阿部さん!?


 「……」


 割れや、お前!割らんかったら割らんかったでちょっと寂しいやんけ!


 時刻は7時30分を回りました。


 僕は殺気立ちながら鉄鍋を振るい、サイコロを焼き続けました。そして、田辺が邪魔になってきたことから、しばらくのあいだ、ほかのポジションに回すことにしたのです。


 この段階では、前面が1番忙しいです。『かぼちゃアイス』が15人前入ったというのを聞き、田辺を洗い場の横のスペースに行かして、かぼちゃアイスを入れさせることにしました。


 ですが、田辺は、かぼちゃアイスを入れるごときで苦戦しています。忙しいながらも横目でちらっと見たところ、表面が固すぎてディッシャーが入らず、アイスにパンチをしているのです。


 何してんねん、お前!そもそもパンチしたところでどうなんねん!


 「田辺、それ固いから、チンしろ!」


 「チンってなんですか?」


 レンジでチンや!なんでわからんねん、チンが!


 「チンや!」


 「……チン?チン?」


 チンチンって言ってない!?お前、シコシコしろとか言うと思ったか、この状況で!お前のチンも固いか知らんけど、こんな状況でそんなことさせるか!


 「パリーン!」


 また割った!油断してたらまた割りやがった!


 「パリーン!パリパリーン!」


 何枚割んねん、お前!お菊さんはどうしたらいいねん、こんなにも皿割られて!


 「田辺、アイスは阿部さんにやってもらえ!ドンブラーは落ち着いたからお前は戻ってこい!」


 田辺をドンブラーに戻して、阿部さんにアイスをやらせることにしました。僕が洗い場に入り、溜まった皿を一気に片付けることにしたのです。


 前田さんが手伝って、宴会用の8人前のサイコロステーキを出します。厨房内も少し落ち着いてきました。北村さんもホールに帰ることになり、僕は揚げ場に戻りました。


 つかの間の休息とばかりに、僕はオーブンと揚げ場のあいだにある大型冷蔵庫に、在庫を取りに行くフリをして顔を突っ込みました。


 ここは、冷気が流れています。顔を突っ込むとたまらず、かなり癒されるのです。


 癒しついでに隣の冷凍庫を開け、中に入っているパインシャーベットをひと口食べました。


 うまい……。うますぎる……。


 おいしすぎて、泣きそうになりましたよ。ひと口で止まらなくなり、パインの中に手を突っ込んで、二口、三口とガンガンに食べてやりましたから。


 時刻は8時を回りました。


 落ち着きついでに、僕は各ポジションを回って、在庫を確認することにしました。


 ご飯が少なかったので、佐々木に米を炊かせました。すると佐々木が、「バスコさん、焼き場のホッケが残3です!解凍しますか?」と訊いてきたのです。


 在庫が少なくなると、僕、もしくは前田さんに報告します。


 ですが、こんな忙しい日に、残3で解凍しないわけがありません。佐々木は僕を笑わせようとして、こんなことを言いやがったのです。


 「お前、黙れ!しょうもないことを訊くな!」


 僕は怒鳴りました。


 すると田辺が、返す刀で、僕にこう報告してきたのです。


 「バスコさん、豚キムチの豚肉がマイナス2です!」


 マイナスかい!ちょっと待って、マイナスなん!?お前はマイナスになってから報告するタイプなんや!?


 「パリーン!」


 皿もマイナスなるわ!このままいったらもうすぐ皿なくなるわ!


 結局、店長にバレないように電子レンジで解凍したものの、これが疫病神となって再び、忙しくなってきました。10人、20人単位の客が次から次に入り、先ほどまでの忙しさを取り戻したのです。


 ドンブラーには、宴会用の皿うどんが10人前入りました。オーブンにも宴会用のピザが20人前入り、続々と入ってくるフリーのオーダーも相まって、厨房内が本日のピークを迎えたのです。


 全ポジションが大混乱で、ふと見た焼き場の伝票が、2メートル近く垂れ下がっています。誰もがテンぱる中、店長が、お酒を出す「カウンター」で働いているバイトに怒鳴りつけたのです。


 「われ、早くドリンク出さんか、コラ!新規の客を何分待たしとんねん!」


 カウンターの前に並べてあるワイングラスを手で叩き落とし、「何回も言わすな!殺すぞ!」と声を張り上げたのです。


 やばい……。店長のスイッチが入った……。


 店長は元ヤンキーで、キレたら止まりません。これを僕らは、店長の名前から「笠木エクスプレス」と呼んでおり、走り出した特急列車は止まらないのです。


 「お前らも早く出さんかい、コラ!」


 店長は厨房内に顔を向けて、声を荒げました。


 僕らは顔面蒼白です。年下にため口で怒鳴られた前田さんに至っては、びびりすぎて、鼻がますます曲がり始めました。イタリアどころか、「17分のときの長針」みたく、ほとんど真横に向いているのです。


 「ご請求、バニラアイサーッ!」


 1人だけ大丈夫やった!1人だけ空気読めてない奴がおった!


 「ホールさん、バニラアイサーッをさあ!サーーーーーッ!!!続けてご請求ジャクサーッ!サーーーーーッ!!!


 どんな生い立ち過ごしたん、自分!?もう幼少期に何かがあったとしか思えん、こんな奴!


 この状況で、佐々木だけが余裕をかましているのです。


 僕はそんな佐々木にイラッとしながらも、「みんな落ち着いていこう!心配せんでもなんとかなるから!」と声を出して、厨房の士気を高めました。


 そして厨房内を盛り上げるため、外国人客が来たのを見て、こう叫んだのです。


 「ウェルカーム!」


 これはウケたやろ……。全員が大爆笑やろ……。


 「パリーン!」


 皿割んな!俺がすべったみたいやんけ!すべったけど!


 しばらくして、滝のようなオーダーが揚げ場に押し寄せました。


 揚げ出し豆腐が10、ゲソのから揚げが10と、伝票が止まりません。周囲を助ける余裕もなく、ひたすら揚げ続けるしかないのです。


 スイッチの入った店長は止まりません。笠木エクスプレスは、増え続ける客のクレームに、ますます機嫌が悪くなっています。「早く出せ、コラ!」「これ、パセリが小さいやんけ!」と、ちょっとしたことでもイライラし始めたのです。


 それは、ホールも同じです。


 束ちゃんも怒られすぎて、不機嫌になっています。僕が「束ちゃん、そこにある、から揚げの下に敷く紙を取ってくれ!」とお願いしたところ、「シランワ!ジブンデトレ!」と暴言を吐いてきたのです。


 いやいや、俺にキレられても!切れんのはビザだけにしとけ、お前!


 「ワタシハ、サガサナイトイケナインデチュヨ、ホッチキチュヲ!」


 まだ探してんの、ホッチキス!?青い鳥探すみたいなノリでずっと探してるけど、何に使うのホッチキス!?


 ふと隣を見ると、鉄鍋を両手で持った田辺がうろちょろしています。


 鉄鍋には、皿うどん用のあんかけが10人前入っています。どこかに置いて麺にタレをかけたいものの、鉄板器がすべて埋まっているため、置くところが見つかりません。もとのコンロに1度戻せばいいのに、焦りすぎてそれに気づかず、結局、白井さんが使っているまな板の上に置いたのです。


 「あんた、どこに置いてんのよって熱っ!」


 白井さんは怒鳴ると同時に、腕が鉄鍋に当たってヤケドをしました。


 「あんた、ええ加減にしいや!もうやめっ、あんた!はっきり言って迷惑やわ!」


 田辺は、「すいません」と謝罪しました。そして、時を同じくしてやってきた店長も、田辺にキレたのです。


 「田辺!お前、この豚キムチ、何分待たしとんねん!お客さん、ブチギレとるやんけ!」


 田辺は顔を紅潮させています。


 すると謝るかと思いきや、叫んだのです。


 「無理じゃ、ボケ!!!」


 田辺が、あのおとなしい田辺が、店長に怒鳴り返したのです。


 現場の空気が張り詰めました。


 ですが、そこはさすがにエクスプレス。普通なら、「怒んなよ!」とでも言って一歩引くはずなのに、すぐに怒鳴り返して、厨房内に入ってこようとしたのです。


 「店長、落ち着いてください!」


 僕は声を張り上げて、店長を抑えにかかりました。


 「ケンカなんてしてる場合と違うでしょ!」


 こう言いながら、厨房の外に出てエクスプレスの走行を止めようとしたのですが、前田さんは知らんぷり。本来なら社員であるこのオッサンがあいだに入らなければならないのに、何食わぬ顔で料理を作ってやがるのです。


 ふざけんなよ、イタリア!お前、鼻を殴ってオーストラリアみたいにしたろか!もしくはちぎって沖縄みたいに本体から離したろか!


 幸いにも、僕にいさめられたエクスプレスは、落ち着きを取り戻しました。


 「とにかく、さっさと料理を出せ!」


 捨てゼリフを吐いて、ホールに戻って行ったのです。


 僕は田辺に、「落ち着け!大丈夫や!」と声をかけました。内心はむかついていたものの、怒って帰られると大変なことになります。田辺の手も借りたい状況で、こんな奴でも、いないよりかはましなのです。


 「すいませんでした」


 田辺は僕に謝罪しました。僕は揚げ場にスペースを作り、「田辺、ここに鉄鍋を置いて、あんかけをかけろ!」と言って鉄鍋を移動させたのですが、ほどなくして、阿部さんが洗い場から叫んだのです。


 「すいません!洗浄機が壊れました!」


 後編に続く……。

ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?の考察・中編(携帯読者用)

※2009年・4月15日の記事を再編集

 「バスコ、宴会の40人が来た!すぐに揚げ盛りを40人前作ってくれ!」

 店長に言われた僕は、しばし、放心状態になりました。

 手元には、フリーのオーダーが続々と入ってきます。ドンブラーの田辺を手伝えなくなるのはもちろん、手間のかかる『カモ南蛮そば』が8人前も入ってきたのです。

 そこで今回は、「ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?」の考察・中編です。

 ともあれ、僕はカモ南蛮の麺をゆで器に入れました。

 同時に揚げ盛りを完成させるため、コロッケ40個、から揚げ40個、ポテトフライ20人前をフライヤーに入れました。

 フライヤーは3つ並列されています。ですが、揚げ盛り40人前ともなると、それだけで満杯になります。僕はフリーのオーダーをあと回しにして、ひとまず、揚げ盛りとカモ南蛮を完成させることにしました。

 焼き場の玉井は、宴会用の焼き鳥を80本焼いています。オーブンの佐々木は、玉井を補助しながら自らのオーダーをこなしています。宴会用の大根サラダをすぐに出し、先ほど倒した16個の茶碗蒸し、そして今しがた来た40名の分も準備してくれたので、ひとまず前面は佐々木に任せることにしました。

 前田さんは板場に戻り、洗い場の阿部さんと、宴会の後半に出すネギトロを準備しています。白井さんは自分のオーダーをこなしながら、前田さんが切った刺身を盛り皿に盛っています。ところが1人だけどうにもならず、あたふたしている奴がいるのです。

 そう、田辺です。

 積み重なったオーダーを見て、半泣きになっています。カモ南蛮のダシを温めるためにドンブラーに行ったところ、耳を真っ赤にして尋常ではない様子なのです。

 「田辺、大丈夫か?」

 「うん」

 うんて、おい!テンぱってるやろ、どう考えても!

 「うん……」

 声ちっちゃ!相当ぶ厚い鼓膜がいる、俺のほうに!

 ホールの束ちゃんが来て言いました。

 「タナベサン、オキャクサンガオコッテマチュ!ギョウザヲ、ハヤクダシテクダチャイ!」

 ドンブラーの伝票を確認したところ、サイコロステーキ10、ギョウザ10、ソースヤキソバ5と、どきついオーダーが山のように溜まっています。なのに本人は12個ある鉄板器をフル稼働せず、サイコロステーキを2つ焼いているだけなのです。

 何してんねん、お前!ゆとり世代か!

 「田辺、もっと焼けよ!」

 「う、うん」

 うんと違うねん、だから!阿部さんもこいつに注意したってくれ!?

 「パリーン!」

 お前にも注意がいるわ!「割れ者注意」や、お前は!

 慌てた僕は、餃子を一気に焼くことにしました。

 空いている鉄板に餃子をセットし、同時に、背面にある鉄鍋でヤキソバを一気に作りにかかります。ですが、僕にも担当する揚げ場があります。ひとまず田辺をサイコロ専門にし、残りのオーダーを手が空いてる白井さんにお願いしたのですが、「ごめん、うちは火があかんねん!」と断りやがったのです。

 言うてる場合か、お前!手伝えよ、こんな状況やねんから!

 「白井さん、大根サーッがなくなりました!すぐに仕込んでくださいってご新規ジャクサーッ!」

 余裕あるやろ、お前!こんなときでも発音のいいお前は至って冷静やろ!

 「佐々木君、わかった!前面も忙しいやろうから、うちが大根サラダを作ってあげるわ!ノリ投げて!」

 「イエッサーッ!」

 ジャコサーッみたいに言うな!なあ、阿部さん!?

 「パリーン!」

 ええ加減にせいよ!で言うとくぞ、お前のせいでこの店、赤字やからな!いくら儲けがあっても、新しい皿の購入代で儲けがなくなるからな!

 結局、前田さんが田辺を手伝うことになりました。

 阿部さんもドンブラーに呼んで手伝わせ、僕は揚げ場に戻り、カモ南蛮と揚げ盛りを完成させました。そして前田さんが奮闘した結果、ドンブラーが落ち着いてきたのです。

 とはいえ、息つく暇もありません。

 しばらくして、予約していた宴会の16名が入ってきました。同時に、40名の宴会料理が第2弾に差しかかります。サイコロステーキ20人前を焼くことになり、前田さんが僕のところに来て言ったのです。

 「バスコ、サイコロを頼むわ!」

 無理無理!俺は揚げ盛りを16人前作らないとあかんから!

 めちゃくちゃなんですよ、このオッサン。忙しくなると、イヤな仕事を人に任せようとするのです。

 しかもこのオッサンは、鼻が右に曲がっています。その昔、ビールタンクが顔に倒れてきて鼻を折ったらしく、完全に曲がっているのです。

 イタリアか、その鼻!どう見てもイタリアに見えるぞ、お前の鼻!

 「お願い?」

 やかましいわ!ていうかもしかしてその鼻、「イタリアンフェア」とかそういうこと!?店でイタリアンフェアをやったとき、お前は気合い入りすぎて見た目から入ったんか!?

 「頼むわ!俺は板場を立て直さないとあかんねん!」

 鼻を直せ!板場の前にまず鼻を立て直せ!

 「阿部、洗い場に戻ります!」

 いちいち言わんでいいから!そんなんいいからお前はすぐに戻って皿洗え!

 「パリーン!」

 いきなりかい!なんでいきなり割んねん、お前は!

 「パリーン!」

 もうプロやわ、こいつ!「ブレーカー」という名の専門職やわ!

 厨房内は、加速度的に忙しくなってきました。

 5時入りの客が帰り、待っていた新規の客がわんさかと席に着きます。今まで以上に慌しさを増し、7名全員がオーダーに追われました。

 ですが、ここで福音が。

 店長の指示で、ホールの従業員を1人、厨房に回してくれることになったのです。

 その助っ人の名は、北村さん。

 厨房は得意ではないものの、何度か経験があり、来てもらえればだいぶ助かります。僕は宴会用のサイコロを焼くことにして、揚げ場を北村さんにお願いすることにしました。

 ですが北村さんは、料理がめちゃくちゃ雑なのです。揚がったかどうかを勘で判断するらしく、1度、目で見て生とわかるほどのから揚げを普通に客に出したのです。

 ゾンビ専門の居酒屋か、ここ!そんなレア、ゾンビと藤岡弘しか食わんぞ!

 しかも油が怖いらしく、フライヤーから離れて具材を投げつけます。隣で鉄鍋を振る僕に油が飛び、「熱いっ!」と言ってアピールしたものの、「忙しいから我慢してくれ!」と反論して僕にガンガンに油をかけてきたのです。

 お前、SMやぞ、これ!『CHUU棒』という名のSM倶楽部やぞ、この厨房!

 「バスコ、から揚げのタレにはショウガを何グラム入れるんだい?」

 完全にSMやんけ!その口調、完全に女王様やろ!

 「ご請求、生ハムピツァー!」

 お前は黙れ!お前のほうこそSMくらえ!

 「ご請求、バニラアイサーッ!」

 バニラアイスや!意味がわからん、もう!

 「バスコサン、ポチェソフライ、ゴセイチュウデチュ!」

 お前に至っては何言ってるかわからん!口ニチョニチョのジジイか!

 惨事は続きます。店長が現われ、白井さんに怒鳴ったのです。

 「白井さん!このアンキモ、アンキモが入ってないですよ!」

 白井さんは忙しさのあまり、アンキモにアンキモを入れませんでした。缶を開けるのを億劫がり、大量の小鉢に紛らせて1つ、モミジオロシとキュウリだけを入れたのです。

 何考えとんねん、お前!アンキモをアンキモなしで出すか、普通!?

 「(舌出して)店長、ごめん!」

 舌出すな、コラ!なあ、阿部さん!?

 「……」

 割れや、お前!割らんかったら割らんかったでちょっと寂しいやんけ!

 時刻は7時30分を回りました。

 僕は殺気立ちながら鉄鍋を振るい、サイコロを焼き続けました。そして、田辺が邪魔になってきたことから、しばらくのあいだ、ほかのポジションに回すことにしたのです。

 この段階では、前面が1番忙しいです。『かぼちゃアイス』が15人前入ったというのを聞き、田辺を洗い場の横のスペースに行かして、かぼちゃアイスを入れさせることにしました。

 ですが、田辺は、かぼちゃアイスを入れるごときで苦戦しています。忙しいながらも横目でちらっと見たところ、表面が固すぎてディッシャーが入らず、アイスにパンチをしているのです。

 何してんねん、お前!そもそもパンチしたところでどうなんねん!

 「田辺、それ固いから、チンしろ!」

 「チンってなんですか?」

 レンジでチンや!なんでわからんねん、チンが!

 「チンや!」

 「……チン?チン?」

 チンチンって言ってない!?お前、シコシコしろとか言うと思ったか、この状況で!お前のチンも固いか知らんけど、こんな状況でそんなことさせるか!

 「パリーン!」

 また割った!油断してたらまた割りやがった!

 「パリーン!パリパリーン!」

 何枚割んねん、お前!お菊さんはどうしたらいいねん、こんなにも皿割られて!

 「田辺、アイスは阿部さんにやってもらえ!ドンブラーは落ち着いたからお前は戻ってこい!」

 田辺をドンブラーに戻して、阿部さんにアイスをやらせることにしました。僕が洗い場に入り、溜まった皿を一気に片付けることにしたのです。

 前田さんが手伝って、宴会用の8人前のサイコロステーキを出します。厨房内も少し落ち着いてきました。北村さんもホールに帰ることになり、僕は揚げ場に戻りました。

 つかの間の休息とばかりに、僕はオーブンと揚げ場のあいだにある大型冷蔵庫に、在庫を取りに行くフリをして顔を突っ込みました。

 ここは、冷気が流れています。顔を突っ込むとたまらず、かなり癒されるのです。

 癒しついでに隣の冷凍庫を開け、中に入っているパインシャーベットをひと口食べました。

 うまい……。うますぎる……。

 おいしすぎて、泣きそうになりましたよ。ひと口で止まらなくなり、パインの中に手を突っ込んで、二口、三口とガンガンに食べてやりましたから。

 時刻は8時を回りました。

 落ち着きついでに、僕は各ポジションを回って、在庫を確認することにしました。

 ご飯が少なかったので、佐々木に米を炊かせました。すると佐々木が、「バスコさん、焼き場のホッケが残3です!解凍しますか?」と訊いてきたのです。

 在庫が少なくなると、僕、もしくは前田さんに報告します。

 ですが、こんな忙しい日に、残3で解凍しないわけがありません。佐々木は僕を笑わせようとして、こんなことを言いやがったのです。

 「お前、黙れ!しょうもないことを訊くな!」

 僕は怒鳴りました。

 すると田辺が、返す刀で、僕にこう報告してきたのです。

 「バスコさん、豚キムチの豚肉がマイナス2です!」

 マイナスかい!ちょっと待って、マイナスなん!?お前はマイナスになってから報告するタイプなんや!?

 「パリーン!」

 皿もマイナスなるわ!このままいったらもうすぐ皿なくなるわ!

 結局、店長にバレないように電子レンジで解凍したものの、これが疫病神となって再び、忙しくなってきました。10人、20人単位の客が次から次に入り、先ほどまでの忙しさを取り戻したのです。

 ドンブラーには、宴会用の皿うどんが10人前入りました。オーブンにも宴会用のピザが20人前入り、続々と入ってくるフリーのオーダーも相まって、厨房内が本日のピークを迎えたのです。

 全ポジションが大混乱で、ふと見た焼き場の伝票が、2メートル近く垂れ下がっています。誰もがテンぱる中、店長が、お酒を出す「カウンター」で働いているバイトに怒鳴りつけたのです。

 「われ、早くドリンク出さんか、コラ!新規の客を何分待たしとんねん!」

 カウンターの前に並べてあるワイングラスを手で叩き落とし、「何回も言わすな!殺すぞ!」と声を張り上げたのです。

 やばい……。店長のスイッチが入った……。

 店長は元ヤンキーで、キレたら止まりません。これを僕らは、店長の名前から「笠木エクスプレス」と呼んでおり、走り出した特急列車は止まらないのです。

 「お前らも早く出さんかい、コラ!」

 店長は厨房内に顔を向けて、声を荒げました。

 僕らは顔面蒼白です。年下にため口で怒鳴られた前田さんに至っては、びびりすぎて、鼻がますます曲がり始めました。イタリアどころか、「17分のときの長針」みたく、ほとんど真横に向いているのです。

 「ご請求、バニラアイサーッ!」

 1人だけ大丈夫やった!1人だけ空気読めてない奴がおった!

 「ホールさん、バニラアイサーッをさあ!サーーーーーッ!!!続けてご請求ジャクサーッ!サーーーーーッ!!!」

 どんな生い立ち過ごしたん、自分!?もう幼少期に何かがあったとしか思えん、こんな奴!

 この状況で、佐々木だけが余裕をかましているのです。

 僕はそんな佐々木にイラッとしながらも、「みんな落ち着いていこう!心配せんでもなんとかなるから!」と声を出して、厨房の士気を高めました。

 そして厨房内を盛り上げるため、外国人客が来たのを見て、こう叫んだのです。

 「ウェルカーム!」

 これはウケたやろ……。全員が大爆笑やろ……。

 「パリーン!」

 皿割んな!俺がすべったみたいやんけ!すべったけど!

 しばらくして、滝のようなオーダーが揚げ場に押し寄せました。

 揚げ出し豆腐が10、ゲソのから揚げが10と、伝票が止まりません。周囲を助ける余裕もなく、ひたすら揚げ続けるしかないのです。

 スイッチの入った店長は止まりません。笠木エクスプレスは、増え続ける客のクレームに、ますます機嫌が悪くなっています。「早く出せ、コラ!」「これ、パセリが小さいやんけ!」と、ちょっとしたことでもイライラし始めたのです。

 それは、ホールも同じです。

 束ちゃんも怒られすぎて、不機嫌になっています。僕が「束ちゃん、そこにある、から揚げの下に敷く紙を取ってくれ!」とお願いしたところ、「シランワ!ジブンデトレ!」と暴言を吐いてきたのです。

 いやいや、俺にキレられても!切れんのはビザだけにしとけ、お前!

 「ワタシハ、サガサナイトイケナインデチュヨ、ホッチキチュヲ!」

 まだ探してんの、ホッチキス!?青い鳥探すみたいなノリでずっと探してるけど、何に使うのホッチキス!?

 ふと隣を見ると、鉄鍋を両手で持った田辺がうろちょろしています。

 鉄鍋には、皿うどん用のあんかけが10人前入っています。どこかに置いて麺にタレをかけたいものの、鉄板器がすべて埋まっているため、置くところが見つかりません。もとのコンロに1度戻せばいいのに、焦りすぎてそれに気づかず、結局、白井さんが使っているまな板の上に置いたのです。

 「あんた、どこに置いてんのよって熱っ!」

 白井さんは怒鳴ると同時に、腕が鉄鍋に当たってヤケドをしました。

 「あんた、ええ加減にしいや!もうやめっ、あんた!はっきり言って迷惑やわ!」

 田辺は、「すいません」と謝罪しました。そして、時を同じくしてやってきた店長も、田辺にキレたのです。

 「田辺!お前、この豚キムチ、何分待たしとんねん!お客さん、ブチギレとるやんけ!」

 田辺は顔を紅潮させています。

 すると謝るかと思いきや、叫んだのです。

 「無理じゃ、ボケ!!!」

 田辺が、あのおとなしい田辺が、店長に怒鳴り返したのです。

 現場の空気が張り詰めました。

 ですが、そこはさすがにエクスプレス。普通なら、「怒んなよ!」とでも言って一歩引くはずなのに、すぐに怒鳴り返して、厨房内に入ってこようとしたのです。

 「店長、落ち着いてください!」

 僕は声を張り上げて、店長を抑えにかかりました。

 「ケンカなんてしてる場合と違うでしょ!」

 こう言いながら、厨房の外に出てエクスプレスの走行を止めようとしたのですが、前田さんは知らんぷり。本来なら社員であるこのオッサンがあいだに入らなければならないのに、何食わぬ顔で料理を作ってやがるのです。

 ふざけんなよ、イタリア!お前、鼻を殴ってオーストラリアみたいにしたろか!もしくはちぎって沖縄みたいに本体から離したろか!

 幸いにも、僕にいさめられたエクスプレスは、落ち着きを取り戻しました。

 「とにかく、さっさと料理を出せ!」

 捨てゼリフを吐いて、ホールに戻って行ったのです。

 僕は田辺に、「落ち着け!大丈夫や!」と声をかけました。内心はむかついていたものの、怒って帰られると大変なことになります。田辺の手も借りたい状況で、こんな奴でも、いないよりかはましなのです。

 「すいませんでした」

 田辺は僕に謝罪しました。僕は揚げ場にスペースを作り、「田辺、ここに鉄鍋を置いて、あんかけをかけろ!」と言って鉄鍋を移動させたのですが、ほどなくして、阿部さんが洗い場から叫んだのです。

 「すいません!洗浄機が壊れました!」

 後編に続く……。

ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?の考察・前編(パソコン読者用)

※2009年・4月14日の記事を再編集


 先日、大学時代の後輩と飲みに行きました。


 彼らと会うのは数年ぶりです。バイト先だった居酒屋の仲間で、当時、一緒によく遊んだのです。


 口をついて出るのは、バイトの話ばかりです。


 「あの店長、最悪やったわ!」


 「1度、サイコロステーキが20人前も入って大変やったわ!」


 お酒を飲みながら、当時を思い出して盛り上がりました。


 途中、メンバーの1人である玉井が、僕に訊きました。


 「バスコさん、あの日のことを覚えてます?」


 僕は思案顔をしていたのですが、しばらくして、玉井が教えてくれたのです。


 「バスコさんが、営業中に佐々木を殴った日ですよ!」


 僕は思い出しました。


 いや、「あの日」と言われた段階で実はすでに思い出していたのですが、口にするのがイヤで、気づかないフリをしていたのです。


 その日、居酒屋の厨房はごった返していました。年に1度あるかないかの忙しさで、厨房もホールも、てんてこまいだったのです。


 店は200席を超す、地域で1番の大型店。あまりの忙しさに誰もが自分を見失い、店全体がどえらいことになったのです。


 しかもその日は、店長が暇だと見越して、従業員が少なかったのです。僕が働く厨房は、普段は8人で回しているところを7人、それも7人中の4人が「使えない奴」だったのです。


 店は午後5時から営業し、午前0時に閉まります。


 普段なら、遅くとも0時半には仕事を終えて帰るのに、その日はアクシデントが重なって、仕事を終えたのが午前2時を回っていました。これは店が始まって以来のことで、売り上げも、店長の予想が40万円だったのに対して、100万円を超えたのです。


 ピーク時の居酒屋の厨房は、みなさまが思っている以上に壮絶です。増え続ける伝票に焦り、客からの請求に焦りで、自分を見失って、何をしているのかわからなくなってしまうのです。


 そこで今回は、「ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?」の考察・前編です。


 このお話は今から8年前、僕が大学5年生のときの秋口にさかのぼります。


 その日、僕はいつものように、バイト先である居酒屋に行きました。


 この居酒屋に入って、もう5年になります。


 僕は厨房専門です。仕事も完全に覚えて、ちょっとしたバイトリーダーになっていました。


 この日は、なんとない平日。手のかかる宴会料理も少なく、シフト表を見ると、新人が2人も入っています。


 「バスコ、今日は暇やろうから、新人に丁寧に仕事を教えたってくれ!」


 僕は店長にお願いされました。


 開店前、5時入りのメンバーが集まって、店の接客用語を叫ぶことになりました。


 厨房、ホールの全員が集まって、列になって叫びます。店長がバイトの中から音頭取りを指名して、その人のあとに言葉を続けるのです。


 この日の音頭取りに指名されたのは、中国人の「束」という女の子。


 10代後半のものすごい天然の子で、営業中に食材を買いに行かされた際、領収書に「束」と書かせたことがあるのです。


 お前、束様に会社が金払うか!落ちるか、そんな領収書!


 しかも、妙に図太いのです。1度、休憩が一緒になったとき、「バスコサン、イラナイオカネガアッタラ、ワタシニクダサイヨ!」と普通にお願いしてきたのです。


 なめてんのか、お前!大胆なホームレスか!


 「ケチデスネ!」


 そういう問題じゃないねん!母国の共産主義をこの国に持ち込むな!


 ですが、束ちゃんは憎めません。この日も、「イラッチャイマチェー!」「マタノオコシヲ、オマチチテオリマチュ!」と、周囲に笑いを振りまきました。


 午後5時になりました。


 仕込みを担当する従業員と入れ替わりに、僕は厨房に入りました。


 この日の営業がスタートです。開店と同時に数組のお客さんが入り、僕は仕込みの在庫を確認しながら、料理を作り始めました。


 厨房は前から、焼き場、オーブン、揚げ場、ドンブラー、一品、板場、洗い場と、7つのポジションに分けられています。各ポジションに1名ずつ入り、手が空いた者は、ほかのポジションを手伝います。


 揚げ場~洗い場までは横一列。焼き場とオーブンは、角を曲がったところにあることから「前面」と呼ばれ、外からガラス越しに見えます。焼き鳥を焼く姿が店の売りになるらしく、前面が入り口の近くにあるため、いつもお客さんが覗いているのです。


 5時の段階で厨房にいるのは、4名。


 板場には、前田という40歳の社員さんがいます。その後ろに、白井という50すぎのオバハンが入り、包丁で漬物を切っています。ここは一品と呼ばれる、突きだしや簡単な小物料理を出すところで、女性が入ることが多いのです


 僕は、この日は揚げ場の担当です。コロッケやポテトを揚げるところで、左隣のドンブラーを、6時入りの田辺という新人の到着を待って、手伝うことにしました。


 ドンブラーは、サイコロステーキや餃子を鉄板で焼き、同時に、背面にある鉄鍋でヤキソバを作ります。手のかかるポジションのため、田辺が少しでも仕事がしやすいようにと、僕はセッティングを固めていました。


 揚げ場の隣にあるオーブンは、ピザをオーブンで焼き、サラダや茶碗蒸し、デザートなどを担当します。


 ですが、そのオーブンに、僕の大嫌いな奴がいるのです。


 そいつの名は、佐々木。


 音楽の専門学校を出た、20歳のバンドマンです。半年前から働き出し、いつも焼き場かオーブンを担当しているのですが、死ぬほどチャラいのです。


 まず何が腹立つかって、そのしゃべり方です。


 この居酒屋では、料理が完成すると、「お料理をお願いします!」「ご新規、鉄板料理です!」などと告げて、料理を前のトレーに置きます。それをホールの従業員が運んでくれるのですが、佐々木は横文字の料理を出すとき、やたらと英語の発音がいいのです。


 「ご新規、シーザーサラダです!」と叫ぶところを、「ご新規のお客様へ。シーザーサーッ!」と、きどった言い方をしてきます。「ご新規のお客様へ」で1度止め、サラダを「サーッ!」と言うのです。


 そのことを店長に注意されたため、途中からだいぶマシになりました。ですが、『生ハムピザ』は絶対に「生ハムピツァー!」と叫び、1度、店でイタリアンフェアをやった際、『スモークサーモンとパルマ産生ハムのシーザーサラダ』を「スモークサーッとペルマ産の生ハムを載せた、シーザーサーッ!」と叫んだのです。


 何言ってんねん、お前!「シーザーサラダです!」だけでいいねん!ていうかそもそも、料理名を言わずに「お料理をお願いします!」だけでいいねん!


 「ご新規、ジャクサーッ!」


 ジャコサラダな!ジャコは英語と違うから!


 しかもこいつは営業中に、自作の歌を口ずさみます。


 「♪すれ違って 抱き合って ここに来たー!」


 サビの部分を必ず歌い、休憩中に至っては、くわえタバコでギターを弾き始めます。『丘』という自慢の曲だそうで、バイトの行き帰りも自転車に乗りながらガンガンに歌い、警察に職務質問されたんですよ。


 何考えとんねん、お前!ていうか、丘て!売れるか、そんな曲!


 「♪俺はここにいるんだよー!この丘に立ってるんだよー!」


 安い歌詞やの!そもそも、どこの丘やねん!丘だけやったら鳥取砂丘かもしらんやろ!


 加えて、妙な熱さを見せてきます。なにしろ手をヤケドした際、「病院に行ってこい!」と言う店長に、「仲間に迷惑をかけたくないので行きません、いや、行けません!」と返したのです。


 腹立つわ、こいつ!俺、1番嫌いやねん、こういう奴!


 こういうことを、マジで言う奴なのです。長靴に『GLORYUS DAYS』というステッカーを貼って店長に怒られたり、営業中に女の子をくどきにかかったりと、とにかくチャラいんですね。


 それでも、これらは直接迷惑をかけられたわけではないので、まだ我慢できます。ですが、こいつは1度、僕が買ってきたミスタードーナツを、休憩中に食べました。誰かの差し入れと勘違いしたらしく、怒る僕に、こう返したのです。


 「すいません!おわびに『丘』を歌うんで許してください!」


 ふざけんなよ、お前!丘とポンデリングを一緒にすんなよ!


 「♪すれ違って 抱き合って ここに来たー!」


 やかましいわ!きつすぎるわ、この歌詞!オリコン何位やねん!


 そのくせ見た目がシュッとしており、バイトの女の子にモテます。店長も、自分も昔バンドをやっていたことから佐々木のことが好きで、ミスをしてもかばうのです。


 したがって佐々木は、男から総スカンです。僕はこの日も、時折目が合う佐々木にイラッとしていました。


 そうこうするうちに、新人の玉井と田辺がやってきました。


 時刻は6時。玉井は焼き場で、左隣の佐々木が手伝いをします。僕は田辺の隣について、揚げ場を担当しながら手伝うことにしました。


 ですが、この田辺というのがまた、佐々木とは違った意味でイラッとします。


 田辺は、死ぬほど要領が悪いのです。店長いわく、「この居酒屋始まって以来の要領の悪さ」らしく、ミスを連発するのです。


 田辺は、大学に入学したての19歳。働き始めてまだ2週間なのですが、たった4回の営業で、餃子を30個以上焦がしました。ヤキソバを50分以上待たしたり、1度、鉄板をつかむトングがなくなったことに焦り、素手で鉄板を持ってトレーに載せようとしたのです。


 ウォーズマンか、お前!手が鉄じゃないと持てんぞ、そんなもん!


 「お、お、お料理をお願いしま、熱っ!」


 そりゃそうやろ!猿でもわかるわ!頭悪いほうの猿でもわかるわ!


 田辺は気が小さく、怒られるとシュンとします。僕はそれを見抜いており、あまり強くは言えません。


 「田辺、だいぶサイコロ焼くのうまくなったな!」


 「鉄鍋を振るのも様になってきたな!」


 こんなことを言いながら、褒めて伸ばすことにしました。


 ですが、田辺の左後ろにいる白井さんが、田辺のことが大嫌いなのです。見てるとイライラするらしく、ちょいちょい小言をはさんでくるのです。


 この日の突きだしは、ドンブラーが炒めたモヤシを小鉢に入れたものです。用意していた突きだしがなくなり、田辺に頼んだモヤシが遅いと、「田辺君、モヤシ、まだ?突きだしは、すぐに出さないとあかんのよ!」とイヤミを言ってきたのです。


 空気読めよ、お前!で、ブサイクすぎんねん、お前!山下真司みたいな顔しやがって!


 「田辺君、なんでそんなに汗かいてんの?たいして仕事もしてないのになんでもう汗かいてんのよ?」


 お前もなんでヒゲ生えてんねん!女のくせに、なんでうっすらとヒゲ生えてんねん!


 「なんで?なんでなんで?なんでなんでなんで?」


 友達おらんやろ、お前!こんなん言う奴、絶対友達おらんわ!


 「白井さん、そんなこと言わない!田辺もがんばってるんですから!」


 僕はこう言ってフォローし、田辺を手伝い続けました。


 6時半になり、店がピークを迎え始めました。


 といっても、今日は平日です。僕は余裕をかましながら田辺を手伝っていたのですが、段々と忙しくなってきました。それも、週末のピーク時に見られるような忙しさで、機械から出てくる伝票が床につくぐらい、オーダーでごった返したのです。


 やばい……。余裕をかましすぎた……。


 田辺を手伝えなくなるのはもちろん、揚げ場のオーダーをこなすだけで手一杯。5分おきに客足が増え、ホールの子に訊くと、ほとんどの客席が埋まったそうなのです。


 前面に移動してガラス越しに入り口を確認したところ、たくさんのお客さんが待っています。しかも、よく食べそうな体のでかい奴ばかり。誰もがいっぱいいっぱいで、ホールの子もドタバタと走り回っているのです。


 マジでやばい……。誰か、手の空いてる奴はおらんかな……。


 「ご新規のお客様へ!シーザーサーッ!」


 1人おった!1人だけいつもどおりの奴がおった!


 「お次もご新規シーザーサーッ!サーーーーーッ!!!」


 最後のなんやねん、おい!普通に奇声上げてるだけやんけ、それ!


 オーダーでごった返す中、佐々木が担当するオーブンだけが暇なのです。


 そこで、玉井がテンぱっていたことから佐々木を焼き場に回し、僕が揚げ場とオーブンの両方を担当することにしたのですが、作り置きしていた茶碗蒸し16個を、佐々木が蒸し機ごとひっくり返したんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!お前、ご新規であの世に行かしたろか!


 「やってもうターッ!」


 たーを発音よく言うな!たーは日本語やろ、おもいっきり!


 「焦ってきターッ!」


 俺も混乱してきターッ!こんなこと言われたら俺もおかしくなってきターッ!


 惨事は続きます。のれんをくぐって厨房の前にやってきた店長が、僕に叫んだのです。


 「バスコ、飛び込みの宴会が入った!40人や!」


 ちょっと待ってくれよ!40人!?よよよ、40人!?


 「とりあえず茶碗蒸しを40個蒸してくれ!」


 無理無理!まず、佐々木が倒した16個を作り直さないとあかんから!


 「ご新規、ジャクサーッ!」


 お前は黙れ!お前のせいでこっちはテンぱっとんねん!


 「田辺君、モヤシ、早くしてえな!」


 お前も黙れ!ていうかもう、ヒゲ入れろ!モヤシの代わりに小鉢に自分のヒゲ入れろ!


 「ご新規、リゾッツ!」


 リゾットや!複数にするってなんやねん!何がどうイケてんねん、それの!?


 「リゾッツ!サーーーーーッ!!!」


 その語尾なんやねん、さっきから!もう引いてきたわ、俺!


 「ホールさん、お料理を、さあ!」


 そこも「さあ」なん!?サーだけじゃなくて普通に「さあ」も使うタイプなんや!?


 「ホールさん、ジャクサーッをさあ!サーーーーーッ!!!」


 もうようわからん、それ!1つだけわかってるんは、お前が今すぐに病院に行かないとあかんということや!


 厨房は大混乱です。それはホールも同じで、束ちゃんも「タナベサン、サイコロチュテーキ、ハヤクヤイテクダチャイ!」とテンぱり出し、店長に、「センチョウ!」と叫んだのです。


 船長と違うわ、ボケ!船長って、乗組員なん、俺ら!?たしかに海賊みたいなヒゲ面のオバハンはおるけど!


 「センチョウ!センチョウ!」


 船長やあるか、お前!「雇われ船長」とかおるか!


 「センチョウ!ホッチキチュガコワレマチタ!」


 何の報告やねん、それ!このピーク時に何の報告やねん!


 そのときです。


 「おはようございまーす!」


 7時になり、7時入りの最後の乗組員が姿を現わしたのです。


 この人は梶原さんという、仕事のできる人です。今日は洗い場の担当で、洗い場をこなしながら、各ポジションを見て回ります。僕は、「梶原さん、すぐにドンブラーを手伝ってください!」と助けを求めたのですが、厨房に姿を現わした乗組員が梶原さんではなく、全然仕事のできない阿部というオッサンやったんですよ!


 なんでお前やねん!ちょっと待って、今日の洗い場、お前やったん!?


 梶原さんから阿部さんに代わったのに、店長がシフトに名前を書き換え忘れていたのです。店長は完全に忘れており、50すぎの小汚いオッサンが何食わぬ顔でやってきやがったのです。


 勘弁してくれよ、おい!家いとけよ、お前!家で月刊囲碁とか読んどけよ!


 この阿部さんというのがまた、田辺に負けず劣らず要領が悪いのです。特筆すべきは皿を割る量で、信じがたいレベルで皿を割ります。なにしろ1度、店長に「阿部さん、この宴会の皿は高いので気をつけてくださいね!」と釘を刺され、「わかりました!」と言って手にした瞬間に床に落としたんですよ!


 もうやめろ、お前!もしくは、あえて無断欠勤してくれ!家にいてくれたら「い賃」としてその分の時給を払うから


 阿部さんは「おはようございます!阿部、洗い場に入ります!」と叫んで、洗い場に入りました。僕は洗い場に行って、手が空いたらほかを手伝うように指示したのですが、僕が踵を返した瞬間、「パリーン!」って鳴ったんですよ


 いきなりかい!ちょっと待って、いきなりなん!?


 来て5秒で皿割ってるんですよ!僕の指示に「わかりました!」と返した「た」の2秒後に皿割ってるんですよ!


 手どうなってんねん、お前!何がどうなったらそんなにも皿割んねん!


 「パリーン!」


 また割った!この30秒で2枚割りやがった!


 「ご新規、生ハムピツァー!」


 お前は黙れ!お前はパンパンのふくらはぎで蹴り殺すぞ!


 「生ハムピツァーをさあ!サーーーーーッ!!!」


 おまわり呼ぶぞ、もう!もう警察に委ねないと無理やわ、こんな奴!


 「田辺君、モヤ……」


 わかってるわ、ボケ!もう田辺の「た」の段階でモヤシってわかったわ!


 「パリーン!」


 ええ加減にせいよ!ていうかもう、病院行け!「手科」に行け!


 「センチョウ!センチョウハドコデチュカ!?」


 船長はどこにもおらんわ!大海原あたりに行かないとおらんわ!


 「ホッチキチュハドコデチュカ!?」


 ホッチキス探してた!こんな状況でホッチキス探してやがった!


 「ホッチキチュハ!?ホッチキチュハドコ!?」


 「パリーン!」


 パリにあんの!?ホッチキチュはフランスのパリにあるんや!?


 このようにおかしな奴が多くて、近くにいる僕は大変なのです。


 前田さんの指示で、阿部さんは、飛び込み宴会用のネギトロを巻くことになりました。


 前田さんは板場をこなしながら、隣の田辺を手伝います。僕は揚げ場とオーブンをこなし、手が空いたら、前田さんに代わってドンブラーを手伝うことにしました。


 しばらくして、僕は茶碗蒸しの支度を始めました。


 佐々木に手伝ってもらい、飛び込み宴会用の茶碗蒸しを、順番に蒸し器の中に入れます。僕はひとまず、オーブンを佐々木に任せることにしました。


 ところが、揚げ場に戻った僕の目に、『カモ南蛮そば8人前』と書かれた伝票が飛び込んできたのです。


 揚げ場の横には麺のゆで器があり、揚げ場が担当します。ただ、麺類を注文するような客は少なく、多くても5人前まで。『カモ南蛮そば』に至っては死ぬほど手間がかかり、しかもこれ、8人客で、ひとり1人前ずつ頼んでいるのです。


 分けて食えよ、おい!戦時中を思い出せ、お前ら!


  「パリーン!」


 また割った!油断してたらまた割りやがった!


 なのにテンパる僕を尻目に、店長が僕の前に来て叫んだのです。


 「バスコ、宴会の40人が来た!すぐに揚げ盛りを40人前作ってくれ!」


 積み重なる猛烈なオーダーに、思わず天を仰ぐ自分がいました……。


 中編に続く……。


ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?の考察・前編(携帯読者用)

※2009年・4月14日の記事を再編集

 先日、大学時代の後輩と飲みに行きました。

 彼らと会うのは数年ぶりです。バイト先だった居酒屋の仲間で、当時、一緒によく遊んだのです。

 口をついて出るのは、バイトの話ばかりです。

 「あの店長、最悪やったわ!」

 「1度、サイコロステーキが20人前も入って大変やったわ!」

 お酒を飲みながら、当時を思い出して盛り上がりました。

 途中、メンバーの1人である玉井が、僕に訊きました。

 「バスコさん、あの日のことを覚えてます?」

 僕は思案顔をしていたのですが、しばらくして、玉井が教えてくれたのです。

 「バスコさんが、営業中に佐々木を殴った日ですよ!」

 僕は思い出しました。

 いや、「あの日」と言われた段階で実はすでに思い出していたのですが、口にするのがイヤで、気づかないフリをしていたのです。

 その日、居酒屋の厨房はごった返していました。年に1度あるかないかの忙しさで、厨房もホールも、てんてこまいだったのです。

 店は200席を超す、地域で1番の大型店。あまりの忙しさに誰もが自分を見失い、店全体がどえらいことになったのです。

 しかもその日は、店長が暇だと見越して、従業員が少なかったのです。僕が働く厨房は、普段は8人で回しているところを7人、それも7人中の4人が「使えない奴」だったのです。

 店は午後5時から営業し、午前0時に閉まります。

 普段なら、遅くとも0時半には仕事を終えて帰るのに、その日はアクシデントが重なって、仕事を終えたのが午前2時を回っていました。これは店が始まって以来のことで、売り上げも、店長の予想が40万円だったのに対して、100万円を超えたのです。

 ピーク時の居酒屋の厨房は、みなさまが思っている以上に壮絶です。増え続ける伝票に焦り、客からの請求に焦りで、自分を見失って、何をしているのかわからなくなってしまうのです。

 そこで今回は、「ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?」の考察・前編です。

 このお話は今から8年前、僕が大学5年生のときの秋口にさかのぼります。

 その日、僕はいつものように、バイト先である居酒屋に行きました。

 この居酒屋に入って、もう5年になります。

 僕は厨房専門です。仕事も完全に覚えて、ちょっとしたバイトリーダーになっていました。

 この日は、なんとない平日。手のかかる宴会料理も少なく、シフト表を見ると、新人が2人も入っています。

 「バスコ、今日は暇やろうから、新人に丁寧に仕事を教えたってくれ!」

 僕は店長にお願いされました。

 開店前、5時入りのメンバーが集まって、店の接客用語を叫ぶことになりました。

 厨房、ホールの全員が集まって、列になって叫びます。店長がバイトの中から音頭取りを指名して、その人のあとに言葉を続けるのです。

 この日の音頭取りに指名されたのは、中国人の「束」という女の子。

 10代後半のものすごい天然の子で、営業中に食材を買いに行かされた際、領収書に「束」と書かせたことがあるのです。

 お前、束様に会社が金払うか!落ちるか、そんな領収書!

 しかも、妙に図太いのです。1度、休憩が一緒になったとき、「バスコサン、イラナイオカネガアッタラ、ワタシニクダサイヨ!」と普通にお願いしてきたのです。

 なめてんのか、お前!大胆なホームレスか!

 「ケチデスネ!」

 そういう問題じゃないねん!母国の共産主義をこの国に持ち込むな!

 ですが、束ちゃんは憎めません。この日も、「イラッチャイマチェー!」「マタノオコシヲ、オマチチテオリマチュ!」と、周囲に笑いを振りまきました。

 午後5時になりました。

 仕込みを担当する従業員と入れ替わりに、僕は厨房に入りました。

 この日の営業がスタートです。開店と同時に数組のお客さんが入り、僕は仕込みの在庫を確認しながら、料理を作り始めました。

 厨房は前から、焼き場、オーブン、揚げ場、ドンブラー、一品、板場、洗い場と、7つのポジションに分けられています。各ポジションに1名ずつ入り、手が空いた者は、ほかのポジションを手伝います。

 揚げ場~洗い場までは横一列。焼き場とオーブンは、角を曲がったところにあることから「前面」と呼ばれ、外からガラス越しに見えます。焼き鳥を焼く姿が店の売りになるらしく、前面が入り口の近くにあるため、いつもお客さんが覗いているのです。

 5時の段階で厨房にいるのは、4名。

 板場には、前田という40歳の社員さんがいます。その後ろに、白井という50すぎのオバハンが入り、包丁で漬物を切っています。ここは一品と呼ばれる、突きだしや簡単な小物料理を出すところで、女性が入ることが多いのです。

 僕は、この日は揚げ場の担当です。コロッケやポテトを揚げるところで、左隣のドンブラーを、6時入りの田辺という新人の到着を待って、手伝うことにしました。

 ドンブラーは、サイコロステーキや餃子を鉄板で焼き、同時に、背面にある鉄鍋でヤキソバを作ります。手のかかるポジションのため、田辺が少しでも仕事がしやすいようにと、僕はセッティングを固めていました。

 揚げ場の隣にあるオーブンは、ピザをオーブンで焼き、サラダや茶碗蒸し、デザートなどを担当します。

 ですが、そのオーブンに、僕の大嫌いな奴がいるのです。

 そいつの名は、佐々木。

 音楽の専門学校を出た、20歳のバンドマンです。半年前から働き出し、いつも焼き場かオーブンを担当しているのですが、死ぬほどチャラいのです。

 まず何が腹立つかって、そのしゃべり方です。

 この居酒屋では、料理が完成すると、「お料理をお願いします!」「ご新規、鉄板料理です!」などと告げて、料理を前のトレーに置きます。それをホールの従業員が運んでくれるのですが、佐々木は横文字の料理を出すとき、やたらと英語の発音がいいのです。

 「ご新規、シーザーサラダです!」と叫ぶところを、「ご新規のお客様へ。シーザーサーッ!」と、きどった言い方をしてきます。「ご新規のお客様へ」で1度止め、サラダを「サーッ!」と言うのです。

 そのことを店長に注意されたため、途中からだいぶマシになりました。ですが、『生ハムピザ』は絶対に「生ハムピツァー!」と叫び、1度、店でイタリアンフェアをやった際、『スモークサーモンとパルマ産生ハムのシーザーサラダ』を「スモークサーッとペルマ産の生ハムを載せた、シーザーサーッ!」と叫んだのです。

 何言ってんねん、お前!「シーザーサラダです!」だけでいいねん!ていうかそもそも、料理名を言わずに「お料理をお願いします!」だけでいいねん!

 「ご新規、ジャクサーッ!」

 ジャコサラダな!ジャコは英語と違うから!

 しかもこいつは営業中に、自作の歌を口ずさみます。

 「♪すれ違って 抱き合って ここに来たー!」

 サビの部分を必ず歌い、休憩中に至っては、くわえタバコでギターを弾き始めます。『丘』という自慢の曲だそうで、バイトの行き帰りも自転車に乗りながらガンガンに歌い、警察に職務質問されたんですよ。

 何考えとんねん、お前!ていうか、丘て!売れるか、そんな曲!

 「♪俺はここにいるんだよー!この丘に立ってるんだよー!」

 安い歌詞やの!そもそも、どこの丘やねん!丘だけやったら鳥取砂丘かもしらんやろ!

 加えて、妙な熱さを見せてきます。なにしろ手をヤケドした際、「病院に行ってこい!」と言う店長に、「仲間に迷惑をかけたくないので行きません、いや、行けません!」と返したのです。

 腹立つわ、こいつ!俺、1番嫌いやねん、こういう奴!

 こういうことを、マジで言う奴なのです。長靴に『GLORYUS DAYS』というステッカーを貼って店長に怒られたり、営業中に女の子をくどきにかかったりと、とにかくチャラいんですね。

 それでも、これらは直接迷惑をかけられたわけではないので、まだ我慢できます。ですが、こいつは1度、僕が買ってきたミスタードーナツを、休憩中に食べました。誰かの差し入れと勘違いしたらしく、怒る僕に、こう返したのです。

 「すいません!おわびに『丘』を歌うんで許してください!」

 ふざけんなよ、お前!丘とポンデリングを一緒にすんなよ!

 「♪すれ違って 抱き合って ここに来たー!」

 やかましいわ!きつすぎるわ、この歌詞!オリコン何位やねん!

 そのくせ見た目がシュッとしており、バイトの女の子にモテます。店長も、自分も昔バンドをやっていたことから佐々木のことが好きで、ミスをしてもかばうのです。

 したがって佐々木は、男から総スカンです。僕はこの日も、時折目が合う佐々木にイラッとしていました。

 そうこうするうちに、新人の玉井と田辺がやってきました。

 時刻は6時。玉井は焼き場で、左隣の佐々木が手伝いをします。僕は田辺の隣について、揚げ場を担当しながら手伝うことにしました。

 ですが、この田辺というのがまた、佐々木とは違った意味でイラッとします。

 田辺は、死ぬほど要領が悪いのです。店長いわく、「この居酒屋始まって以来の要領の悪さ」らしく、ミスを連発するのです。

 田辺は、大学に入学したての19歳。働き始めてまだ2週間なのですが、たった4回の営業で、餃子を30個以上焦がしました。ヤキソバを50分以上待たしたり、1度、鉄板をつかむトングがなくなったことに焦り、素手で鉄板を持ってトレーに載せようとしたのです。

 ウォーズマンか、お前!手が鉄じゃないと持てんぞ、そんなもん!

 「お、お、お料理をお願いしま、熱っ!」

 そりゃそうやろ!猿でもわかるわ!頭悪いほうの猿でもわかるわ!

 田辺は気が小さく、怒られるとシュンとします。僕はそれを見抜いており、あまり強くは言えません。

 「田辺、だいぶサイコロ焼くのうまくなったな!」

 「鉄鍋を振るのも様になってきたな!」

 こんなことを言いながら、褒めて伸ばすことにしました。

 ですが、田辺の左後ろにいる白井さんが、田辺のことが大嫌いなのです。見てるとイライラするらしく、ちょいちょい小言をはさんでくるのです。

 この日の突きだしは、ドンブラーが炒めたモヤシを小鉢に入れたものです。用意していた突きだしがなくなり、田辺に頼んだモヤシが遅いと、「田辺君、モヤシ、まだ?突きだしは、すぐに出さないとあかんのよ!」とイヤミを言ってきたのです。

 空気読めよ、お前!で、ブサイクすぎんねん、お前!山下真司みたいな顔しやがって!

 「田辺君、なんでそんなに汗かいてんの?たいして仕事もしてないのになんでもう汗かいてんのよ?」

 お前もなんでヒゲ生えてんねん!女のくせに、なんでうっすらとヒゲ生えてんねん!

 「なんで?なんでなんで?なんでなんでなんで?」

 友達おらんやろ、お前!こんなん言う奴、絶対友達おらんわ!

 「白井さん、そんなこと言わない!田辺もがんばってるんですから!」

 僕はこう言ってフォローし、田辺を手伝い続けました。

 6時半になり、店がピークを迎え始めました。

 といっても、今日は平日です。僕は余裕をかましながら田辺を手伝っていたのですが、段々と忙しくなってきました。それも、週末のピーク時に見られるような忙しさで、機械から出てくる伝票が床につくぐらい、オーダーでごった返したのです。

 やばい……。余裕をかましすぎた……。

 田辺を手伝えなくなるのはもちろん、揚げ場のオーダーをこなすだけで手一杯。5分おきに客足が増え、ホールの子に訊くと、ほとんどの客席が埋まったそうなのです。

 前面に移動してガラス越しに入り口を確認したところ、たくさんのお客さんが待っています。しかも、よく食べそうな体のでかい奴ばかり。誰もがいっぱいいっぱいで、ホールの子もドタバタと走り回っているのです。

 マジでやばい……。誰か、手の空いてる奴はおらんかな……。

 「ご新規のお客様へ!シーザーサーッ!」

 1人おった!1人だけいつもどおりの奴がおった!

 「お次もご新規シーザーサーッ!サーーーーーッ!!!」

 最後のなんやねん、おい!普通に奇声上げてるだけやんけ、それ!

 オーダーでごった返す中、佐々木が担当するオーブンだけが暇なのです。

 そこで、玉井がテンぱっていたことから佐々木を焼き場に回し、僕が揚げ場とオーブンの両方を担当することにしたのですが、作り置きしていた茶碗蒸し16個を、佐々木が蒸し機ごとひっくり返したんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!お前、ご新規であの世に行かしたろか!

 「やってもうターッ!」

 たーを発音よく言うな!たーは日本語やろ、おもいっきり!

 「焦ってきターッ!」

 俺も混乱してきターッ!こんなこと言われたら俺もおかしくなってきターッ!

 惨事は続きます。のれんをくぐって厨房の前にやってきた店長が、僕に叫んだのです。

 「バスコ、飛び込みの宴会が入った!40人や!」

 ちょっと待ってくれよ!40人!?よよよ、40人!?

 「とりあえず茶碗蒸しを40個蒸してくれ!」

 無理無理!まず、佐々木が倒した16個を作り直さないとあかんから!

 「ご新規、ジャクサーッ!」

 お前は黙れ!お前のせいでこっちはテンぱっとんねん!

 「田辺君、モヤシ、早くしてえな!」

 お前も黙れ!ていうかもう、ヒゲ入れろ!モヤシの代わりに小鉢に自分のヒゲ入れろ!

 「ご新規、リゾッツ!」

 リゾットや!複数にするってなんやねん!何がどうイケてんねん、それの!?

 「リゾッツ!サーーーーーッ!!!」

 その語尾なんやねん、さっきから!もう引いてきたわ、俺!

 「ホールさん、お料理を、さあ!」

 そこも「さあ」なん!?サーだけじゃなくて普通に「さあ」も使うタイプなんや!?

 「ホールさん、ジャクサーッをさあ!サーーーーーッ!!!」

 もうようわからん、それ!1つだけわかってるんは、お前が今すぐに病院に行かないとあかんということや!

 厨房は大混乱です。それはホールも同じで、束ちゃんも「タナベサン、サイコロチュテーキ、ハヤクヤイテクダチャイ!」とテンぱり出し、店長に、「センチョウ!」と叫んだのです。

 船長と違うわ、ボケ!船長って、乗組員なん、俺ら!?たしかに海賊みたいなヒゲ面のオバハンはおるけど!

 「センチョウ!センチョウ!」

 船長やあるか、お前!「雇われ船長」とかおるか!

 「センチョウ!ホッチキチュガコワレマチタ!」

 何の報告やねん、それ!このピーク時に何の報告やねん!

 そのときです。

 「おはようございまーす!」

 7時になり、7時入りの最後の乗組員が姿を現わしたのです。

 この人は梶原さんという、仕事のできる人です。今日は洗い場の担当で、洗い場をこなしながら、各ポジションを見て回ります。僕は、「梶原さん、すぐにドンブラーを手伝ってください!」と助けを求めたのですが、厨房に姿を現わした乗組員が梶原さんではなく、全然仕事のできない阿部というオッサンやったんですよ!

 なんでお前やねん!ちょっと待って、今日の洗い場、お前やったん!?

 梶原さんから阿部さんに代わったのに、店長がシフトに名前を書き換え忘れていたのです。店長は完全に忘れており、50すぎの小汚いオッサンが何食わぬ顔でやってきやがったのです。

 勘弁してくれよ、おい!家いとけよ、お前!家で月刊囲碁とか読んどけよ!

 この阿部さんというのがまた、田辺に負けず劣らず要領が悪いのです。特筆すべきは皿を割る量で、信じがたいレベルで皿を割ります。なにしろ1度、店長に「阿部さん、この宴会の皿は高いので気をつけてくださいね!」と釘を刺され、「わかりました!」と言って手にした瞬間に床に落としたんですよ!

 もうやめろ、お前!もしくは、あえて無断欠勤してくれ!家にいてくれたら「い賃」としてその分の時給を払うから!

 阿部さんは「おはようございます!阿部、洗い場に入ります!」と叫んで、洗い場に入りました。僕は洗い場に行って、手が空いたらほかを手伝うように指示したのですが、僕が踵を返した瞬間、「パリーン!」って鳴ったんですよ!

 いきなりかい!ちょっと待って、いきなりなん!?

 来て5秒で皿割ってるんですよ!僕の指示に「わかりました!」と返した「た」の2秒後に皿割ってるんですよ!

 手どうなってんねん、お前!何がどうなったらそんなにも皿割んねん!

 「パリーン!」

 また割った!この30秒で2枚割りやがった!

 「ご新規、生ハムピツァー!」

 お前は黙れ!お前はパンパンのふくらはぎで蹴り殺すぞ!

 「生ハムピツァーをさあ!サーーーーーッ!!!」

 おまわり呼ぶぞ、もう!もう警察に委ねないと無理やわ、こんな奴!

 「田辺君、モヤ……」

 わかってるわ、ボケ!もう田辺の「た」の段階でモヤシってわかったわ!

 「パリーン!」

 ええ加減にせいよ!ていうかもう、病院行け!「手科」に行け!

 「センチョウ!センチョウハドコデチュカ!?」

 船長はどこにもおらんわ!大海原あたりに行かないとおらんわ!

 「ホッチキチュハドコデチュカ!?」

 ホッチキス探してた!こんな状況でホッチキス探してやがった!

 「ホッチキチュハ!?ホッチキチュハドコ!?」

 「パリーン!」

 パリにあんの!?ホッチキチュはフランスのパリにあるんや!?

 このようにおかしな奴が多くて、近くにいる僕は大変なのです。

 前田さんの指示で、阿部さんは、飛び込み宴会用のネギトロを巻くことになりました。

 前田さんは板場をこなしながら、隣の田辺を手伝います。僕は揚げ場とオーブンをこなし、手が空いたら、前田さんに代わってドンブラーを手伝うことにしました。

 しばらくして、僕は茶碗蒸しの支度を始めました。

 佐々木に手伝ってもらい、飛び込み宴会用の茶碗蒸しを、順番に蒸し器の中に入れます。僕はひとまず、オーブンを佐々木に任せることにしました。

 ところが、揚げ場に戻った僕の目に、『カモ南蛮そば8人前』と書かれた伝票が飛び込んできたのです。

 揚げ場の横には麺のゆで器があり、揚げ場が担当します。ただ、麺類を注文するような客は少なく、多くても5人前まで。『カモ南蛮そば』に至っては死ぬほど手間がかかり、しかもこれ、8人客で、ひとり1人前ずつ頼んでいるのです。

 分けて食えよ、おい!戦時中を思い出せ、お前ら!

  「パリーン!」

 また割った!油断してたらまた割りやがった!

 なのにテンパる僕を尻目に、店長が僕の前に来て叫んだのです。

 「バスコ、宴会の40人が来た!すぐに揚げ盛りを40人前作ってくれ!」

 積み重なる猛烈なオーダーに、思わず天を仰ぐ自分がいました……。

 中編に続く……。

馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察~ベスト版①~(パソコン読者用)

※過去の「ロストシャウト」の記事をごちゃ混ぜにして再編集


 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。


 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。


 そう、「ロストシャウト」です。


 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、『ロストシャウト帳』なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。


 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。


 なかでも、地方競馬のロストシャウター。


 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。


 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?」の考察~ベスト版①~です。


 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介させていただきます。


①「殺すぞ、福原!いや違った福永!」 50代・男性
 しょっぱなから凄いのがきましたよ。「福永祐一」というジョッキーがいるのですが、興奮しすぎて、「福原!」と間違って叫んでいるのです。


 これ、かっこ悪すぎるでしょ?「殺すぞ!」と叫んでいるくせに、名前を間違ってるんですよ?


 こんなもん、「結婚してくれ、ひろこ!いや違ったひろみ!」とプロポーズするのと同じですよ。訂正後のバツの悪さも相まって、めちゃくちゃかっこ悪いのです。


②「おえー!また、1着5着やんけ!」 40代・男性
 全然惜しくないやんけ!1着5着なんて全然惜しくないやんけ!


 「俺、毎回、1着5着!」


 逆に天才やな!毎回それが当たるんやったら、エスパーやぞもう!


 2頭を当てる馬連、もしくは馬単を買っているのでしょうが、1着5着なんて惜しくもなんともないです。なのに、「惜しかった俺の馬券を見てくれ?」とばかりに周囲に馬券を見せているので、滑稽で仕方がないのです。


③「(騎手に)わしはお前を見捨てへん!でも、お前はわしを見捨てよる!」 50代・男性
 知らんがな、そんなもん!知るかいや、そんなこと言われても!


 「見捨てるかな、普通!?」


 そんなこと言うかな、普通!?で、日本酒のつまみにサンドイッチなんて食うかな、普通!?


 このオッサンは、1人の騎手を追いかけているのでしょう。


 ですが騎手からしたら知ったことではなく、ていうかこいつはたぶん、見捨ててますからね。変にかっこをつけているだけで、こういう奴にかぎってすぐに浮気するのです。


④「おえー!俺、いつになったらソファー買えんねん!」 30代・男性
 買えよ、ソファーぐらい!買えるやろ、ソファーぐらいやったら!


 「ソファーないと冬越せんぞ!」


 意味わからん!もしかして、掛け布団なん、ソファーが!?あれぐらいの厚みがないと寒いんや!?


 しかも何がおかしいかって、こいつは、このレースに9000円も使っているのです。


 買えるやろ、その金で!いつになったらって今買えるわ、ソファー!ヘタしたら2個買えるわ!


 この種の発言はよく耳にするものの、本当に意味がわかりませんよ。


⑤「JRAは、こんな老いぼれから年金までをも搾り取んのか!」 70代・男性
 知らんがな、そんなもん!お前が自分判断で買ってんやろが!


 「傘地蔵でも来てくれんと、年越せんぞ、わし!」


 だから知らんねん、そんなこと言われても!冬越せん奴とか年越せん奴とかおおげさやねん、さっきから!


 このジジイは、壁をガンガンに殴っています。警備員に連行されても止またず、体を引きずられながら、「お前らは、老い先短いわしの自由まで奪うというのか!」とブチギレていました。


⑥「(網タイツとスカートを履いたオッサンが)蛯名!お前、頭おかしいんか!?」 60代・男性 
 お前もや!お前も頭おかしいねん!この星で5本の指に入るぐらい頭おかしいねん!


 この人は、阪神競馬場の名物おじさんです。頭に馬のかぶりものをし、「ハイセイコーがやってくる!外からハイセイコーがやってくる!」と実況するなど、完全に「そっちの人」なのです。


 隣に座った僕に1度、「朝の目覚めは、コップ一杯の野菜ジュースから」と、訳のわからないことを言って水筒のコップを渡してきたのですが、中身はウーロン茶だったのです。


 どういうことやねん!で、女装に目覚めた奴が朝も目覚めるって、お前は何回目覚めたら気が済むねん!


 ちなみにですが、「朝の目覚めは……」と言っておきながら、渡してきたのは昼でした。


⑦「(直線で)はい、5番来た!来い来い来い来い!5番来い来い来い来い!(叫びすぎて苦しくなって)ハアハア、ハアハア。(お茶をひと口飲んで)ゴクリ。ゴホンゴホン、ハアハア、来い」 70代・男性
 休めよ、お前!叫んでる場合と違うやろ!


 「(苦しそうに)こ、来い」


 医者がか!?もしくはお迎えがか!?


 発作に近いむせ方なのです。なのに心臓を叩いて立ち直り、「来い」と言いやがるので、おかしくて仕方がなかったですよ。


⑧「何度も言わせるな、武!」 60代・男性
 いやいや、聞こえてないから!お前が何回言ったかしらんけど、武には1度も聞こえてないから!


 「いつになったらわかるんや、お前は!?」


 お前もいつになったらわかんねん!お前も自分のアホさにいつ気づくねん!何度も言わせるな!


 これ、武豊のすぐ近くで叫んでましたからね。本人にはまったく聞こえてないのに、普通に説教してましたから。


⑨「もう!もーう!もーーーう!もーーーーーーう!!!」 20代・男性
 和牛か、お前!ハラヘの和牛か、お前!


 「もうもう!もーーーう!!!」


 何阪牛やねん、お前!何阪牛か教えろ、牧場の責任者に迎えに来させるから!


 「もうもう!うもうも!」


 うもうもて、おい!言いすぎて無茶苦茶なってるやんけ!


 ちなみに余談ですが、こいつが連れてた彼女は、オウム真理教の逃げてる奴にそっくりでした。


⑩「(壁に手をついて)だったらいつ取れるって言うんですか!?」 30代・男性
 誰に言ってんの、お前!?なあ教えてくれ、誰に訊いてんの?


 「だったらどの馬券を買ったらいいんですか!?」


 だったら星人か、お前!「だったら星」に帰れ、お前みたいな奴!だったら!


 これを叫んだのは、インテリ風のマジメそうな男です。「ギャンブルというのはマジメな大人の理性まで奪うのか……」と考えて、僕まで恐ろしくなりましたよ。


⑪「勝ったらソープ!負けたら母ちゃん!」 70代・男性
 おもろすぎるわ、お前!ていうか、70すぎて現役なん!?まだ母ちゃんの相手してんの!?


 「負けたら母ちゃんにするわ!」


 絶倫大王か、お前!ていうか、母ちゃんをもっと大切にしたれよ!勝っても負けても母ちゃんを選んだれよ!で、大勝ちしたらそのままの勢いでばあちゃんを抱け!絶倫のお前やったらいけるわ!


 もう、たまりませんよ、こんな奴。


⑫「(ベンチに座ってタバコに火をつけて)フー。フー。……♪どんな立場の 人であろうと いつかはこの世に おさらばをする たしかに順序に ルールはあるけど ルールには必ず 反則もある 街は 回っていく……」 50代・女性
 怖すぎるわ、お前!遺言聞かされてるみたいやんけ!


 「♪人ひとり 消えた日も……」


 遺言やんけ、完全に!立会人になってもうたやんけ、俺!


 ピッコロ大魔王みたいな顔をしたオバハンで、負けすぎたのか、今にも死にそうな顔をしています。しかも歌の途中で、鼻の穴に指2本突っ込んで鼻くそをほじり始めたのです。


 ETか、お前!ETクラスの鼻の穴じゃないと2本も入らんぞ!


 ちなみに余談ですが、このピッコロ大魔王は、顔が青白いです。しかもホクロだらけなので、「自分、チョコミントか?」と、僕はノドまで出かかりました。


⑬「(パドックで)安藤!せめて、傘くれ!」 50代・男性
 勝手なこと言うな、お前!自分で買えよ、傘ぐらい!


 「せめて傘だけくれよ!」


 やかましいわ!で、せめてってなんやねん!負けたか知らんけど、なんでお前にあげないとあかんねん!


 しかも、安藤騎手が雑誌で女性問題を叩かれたのをいいことに、「お前、たまには家帰ったれよ!」と、失礼なことを言い始めました。怒りをとおり越してもう、安藤騎手は笑ってましたよ。


⑭「(かわいく)最低!」 70代・男性
 ジジイやんな?かわいい声出してるけど、自分、ジジイやんな!?


 「もう、最低!」


 気持ち悪いねん!お前それは田嶋陽子が小倉優子のモノマネするようなもんやぞ!


 100歩譲って、少しでもフェミニンぽさがあるジジイなら、わかります。ですが、二言目には満州の話をしてきそうなジジイなのです。


 ジジイがギャル語使うか、普通!?戦没者は浮かばれんぞ!戦地で亡くなった仲間は、自分がしたかったことをお前に託したんや!なのにお前はギャル語て!内地に戻ってギャル語て!


 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴。


⑮「七夕やで?七夕なんやで?」 60代・男性
 知らんがな、そんなもん!知るかいや、そんなこと言われても!


 「七夕やのに~~~!」


 やかましいわ!彦星が全知全能やと思うな!


 これは僕の父親に言われたのですが、「だから何?」としか言いようがありません。ただ、「年に1回やで?年に1回だけやねんで?」と続けられて、「でも運営するJRAも七夕やで?」と返したら、急におとなしくなりました。


⑯「違う違う違う違う!違うって!」 50代・男性
 何がやねん!何が違うねん!


 「違う違う違う違う!」


 だから何が違うねん!なんや、気がか?お前の気が違うんか!?


 こいつは、レースが終わる度に、「違う違う違う違う!」と叫びます。ほかにも、「NONONONO!」と、これもなぜだか4回続けるのです。


 何回言うねん、お前!円広志か!


 この人は、園田競馬場のパドックの前に、毎日のようにいます。もし見かけたら、「4回おじさん!」と声をかけてあげてください。おそらく4回振り返りますから。


⑰「誰か財布落とせや!」 20代・男性
 なめてんのか、お前!そんな歩くボランティアみたいな奴おるか!


 「落としたらいいねん!」


 小指落とせ、お前!俺が財布落としたるから、代わりにお前はそのふざけた発言の責任を取って小指落とせ!


 「誰か落としてくれよ、金払うから!」


 交換やろ、それ!ただの交換やんけ、それ!ていうか小銭ばっかりやったらどうすんねん、そいつの財布が!?


 こいつは、ドロドロの作業着のまま競馬場に来ています。見た目そのままに荒々しい奴で、それを象徴するかのごとく、カツカレーを53秒で食べ切ってました。


⑱「(パドックで女性の騎手に)細江、お前、今日、生理か?」 50代・男性
 ごめん、何言ってんの、自分!?公衆の面前で何言ってくれてんの!?


 「生理なんか?」


 軽く訊くな、そんなこと!何を「今、何時?」ぐらいのノリで訊いてくれとんねん!


 「いつから生理なん?」


 ええ加減にせいよ!どこのどいつが「先週の火曜日からです!」とか答えんねん!そんな女、さっきのピッコロ大魔王だけや!


 こんなもん、田舎の親が聞いたら泣きますよ。男社会で孤軍奮闘しているのに、こんな暴言はないのです。


⑲「全部、下り坂にせいや!」 40代・男性
 無茶言うなよ、お前!無茶言うなって!


 「何もかも下り坂にしたらええねん!」


 どんなレースなんねん、それ!なんや、騎手は、転倒した馬を引きずってゴールすんのか!?ダービーに勝ったあとのインタビューで、「今日は引きずりましたよ!(急に泣いて)すいません。厩舎の方が、僕が引きずりやすいように馬をやせさせてくれたその苦労を思うと……」とか泣き出すんか?


 もう、たまりませんよ、こんな奴。



 そして、最後。


 これは大爆笑しました。今、思い出しても笑けてくるほどで、殿堂入りのロストシャウトです。


⑳「ハア。キョウモ、オケラデスワ……」 30代・外国人
 外人やんな?おけらとか言ってるけど、自分、外人やんな!?


 外人がおけらですよ、おけら?日本人でもめったに使わないのに、こんなディープな日本語を使いこなしてるんですよ!?


 お前、どこで覚えてん、そんな日本語!なあ教えてくれ、どんな文化交流をしたらオケラなんて言葉を覚えんの!?


 こいつは要注意キャラとしてずっとマークしていたのですが、まあ強烈でしたよ。競馬新聞を流暢に読み、「テンノウショウノヨンチャクハ、ダテジャナイヨ!」「コノウマハ、アガリサンハロンガキョウレツダナ!」などと、めちゃくちゃ専門的なことを言っているのです。


 外人が天皇賞ですよ、天皇賞!?100歩譲って、天皇賞はまだ理解できたとしても、上がり3ハロンですよ、上がり3ハロン!?


 これは、プロ野球を観にきたダライ・ラマが、「オエー、フィルダースチョイスカヨ!」と叫ぶぐらいのことです。吉野家で叶姉妹と出くわすぐらい、ありえないことでしょう。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみに、先ほどの外人と出会った日の僕は、3万3000円の大負け。


 ハア、マタ、オケラデスワ……。

馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察~ベスト版①~(携帯読者用)

※過去の「ロストシャウト」の記事をごちゃ混ぜにして再編集

 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。

 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。

 そう、「ロストシャウト」です。

 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、『ロストシャウト帳』なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。

 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。

 なかでも、地方競馬のロストシャウター。

 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。

 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?」の考察~ベスト版①~です。

 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介させていただきます。

①「殺すぞ、福原!いや違った福永!」 50代・男性
 しょっぱなから凄いのがきましたよ。「福永祐一」というジョッキーがいるのですが、興奮しすぎて、「福原!」と間違って叫んでいるのです。

 これ、かっこ悪すぎるでしょ?「殺すぞ!」と叫んでいるくせに、名前を間違ってるんですよ?

 こんなもん、「結婚してくれ、ひろこ!いや違ったひろみ!」とプロポーズするのと同じですよ。訂正後のバツの悪さも相まって、めちゃくちゃかっこ悪いのです。

②「おえー!また、1着5着やんけ!」 40代・男性
 全然惜しくないやんけ!1着5着なんて全然惜しくないやんけ!

 「俺、毎回、1着5着!」

 逆に天才やな!毎回それが当たるんやったら、エスパーやぞもう!

 2頭を当てる馬連、もしくは馬単を買っているのでしょうが、1着5着なんて惜しくもなんともないです。なのに、「惜しかった俺の馬券を見てくれ?」とばかりに周囲に馬券を見せているので、滑稽で仕方がないのです。

③「(騎手に)わしはお前を見捨てへん!でも、お前はわしを見捨てよる!」 50代・男性
 知らんがな、そんなもん!知るかいや、そんなこと言われても!

 「見捨てるかな、普通!?」

 そんなこと言うかな、普通!?で、日本酒のつまみにサンドイッチなんて食うかな、普通!?

 このオッサンは、1人の騎手を追いかけているのでしょう。

 ですが騎手からしたら知ったことではなく、ていうかこいつはたぶん、見捨ててますからね。変にかっこをつけているだけで、こういう奴にかぎってすぐに浮気するのです。

④「おえー!俺、いつになったらソファー買えんねん!」 30代・男性
 買えよ、ソファーぐらい!買えるやろ、ソファーぐらいやったら!

 「ソファーないと冬越せんぞ!」

 意味わからん!もしかして、掛け布団なん、ソファーが!?あれぐらいの厚みがないと寒いんや!?

 しかも何がおかしいかって、こいつは、このレースに9000円も使っているのです。

 買えるやろ、その金で!いつになったらって今買えるわ、ソファー!ヘタしたら2個買えるわ!

 この種の発言はよく耳にするものの、本当に意味がわかりませんよ。

⑤「JRAは、こんな老いぼれから年金までをも搾り取んのか!」 70代・男性
 知らんがな、そんなもん!お前が自分判断で買ってんやろが!

 「傘地蔵でも来てくれんと、年越せんぞ、わし!」

 だから知らんねん、そんなこと言われても!冬越せん奴とか年越せん奴とかおおげさやねん、さっきから!

 このジジイは、壁をガンガンに殴っています。警備員に連行されても止またず、体を引きずられながら、「お前らは、老い先短いわしの自由まで奪うというのか!」とブチギレていました。

⑥「(網タイツとスカートを履いたオッサンが)蛯名!お前、頭おかしいんか!?」 60代・男性 
 お前もや!お前も頭おかしいねん!この星で5本の指に入るぐらい頭おかしいねん!

 この人は、阪神競馬場の名物おじさんです。頭に馬のかぶりものをし、「ハイセイコーがやってくる!外からハイセイコーがやってくる!」と実況するなど、完全に「そっちの人」なのです。

 隣に座った僕に1度、「朝の目覚めは、コップ一杯の野菜ジュースから」と、訳のわからないことを言って水筒のコップを渡してきたのですが、中身はウーロン茶だったのです。

 どういうことやねん!で、女装に目覚めた奴が朝も目覚めるって、お前は何回目覚めたら気が済むねん!

 ちなみにですが、「朝の目覚めは……」と言っておきながら、渡してきたのは昼でした。

⑦「(直線で)はい、5番来た!来い来い来い来い!5番来い来い来い来い!(叫びすぎて苦しくなって)ハアハア、ハアハア。(お茶をひと口飲んで)ゴクリ。ゴホンゴホン、ハアハア、来い」 70代・男性
 休めよ、お前!叫んでる場合と違うやろ!

 「(苦しそうに)こ、来い」

 医者がか!?もしくはお迎えがか!?

 発作に近いむせ方なのです。なのに心臓を叩いて立ち直り、「来い」と言いやがるので、おかしくて仕方がなかったですよ。

⑧「何度も言わせるな、武!」 60代・男性
 いやいや、聞こえてないから!お前が何回言ったかしらんけど、武には1度も聞こえてないから!

 「いつになったらわかるんや、お前は!?」

 お前もいつになったらわかんねん!お前も自分のアホさにいつ気づくねん!何度も言わせるな!

 これ、武豊のすぐ近くで叫んでましたからね。本人にはまったく聞こえてないのに、普通に説教してましたから。

⑨「もう!もーう!もーーーう!もーーーーーーう!!!」 20代・男性
 和牛か、お前!ハラヘの和牛か、お前!

 「もうもう!もーーーう!!!」

 何阪牛やねん、お前!何阪牛か教えろ、牧場の責任者に迎えに来させるから!

 「もうもう!うもうも!」

 うもうもて、おい!言いすぎて無茶苦茶なってるやんけ!

 ちなみに余談ですが、こいつが連れてた彼女は、オウム真理教の逃げてる奴にそっくりでした。

⑩「(壁に手をついて)だったらいつ取れるって言うんですか!?」 30代・男性
 誰に言ってんの、お前!?なあ教えてくれ、誰に訊いてんの?

 「だったらどの馬券を買ったらいいんですか!?」

 だったら星人か、お前!「だったら星」に帰れ、お前みたいな奴!だったら!

 これを叫んだのは、インテリ風のマジメそうな男です。「ギャンブルというのはマジメな大人の理性まで奪うのか……」と考えて、僕まで恐ろしくなりましたよ。

⑪「勝ったらソープ!負けたら母ちゃん!」 70代・男性
 おもろすぎるわ、お前!ていうか、70すぎて現役なん!?まだ母ちゃんの相手してんの!?

 「負けたら母ちゃんにするわ!」

 絶倫大王か、お前!ていうか、母ちゃんをもっと大切にしたれよ!勝っても負けても母ちゃんを選んだれよ!で、大勝ちしたらそのままの勢いでばあちゃんを抱け!絶倫のお前やったらいけるわ!

 もう、たまりませんよ、こんな奴。

⑫「(ベンチに座ってタバコに火をつけて)フー。フー。……♪どんな立場の 人であろうと いつかはこの世に おさらばをする たしかに順序に ルールはあるけど ルールには必ず 反則もある 街は 回っていく……」 50代・女性
 怖すぎるわ、お前!遺言聞かされてるみたいやんけ!

 「♪人ひとり 消えた日も……」

 遺言やんけ、完全に!立会人になってもうたやんけ、俺!

 ピッコロ大魔王みたいな顔をしたオバハンで、負けすぎたのか、今にも死にそうな顔をしています。しかも歌の途中で、鼻の穴に指2本突っ込んで鼻くそをほじり始めたのです。

 ETか、お前!ETクラスの鼻の穴じゃないと2本も入らんぞ!

 ちなみに余談ですが、このピッコロ大魔王は、顔が青白いです。しかもホクロだらけなので、「自分、チョコミントか?」と、僕はノドまで出かかりました。

⑬「(パドックで)安藤!せめて、傘くれ!」 50代・男性
 勝手なこと言うな、お前!自分で買えよ、傘ぐらい!

 「せめて傘だけくれよ!」

 やかましいわ!で、せめてってなんやねん!負けたか知らんけど、なんでお前にあげないとあかんねん!

 しかも、安藤騎手が雑誌で女性問題を叩かれたのをいいことに、「お前、たまには家帰ったれよ!」と、失礼なことを言い始めました。怒りをとおり越してもう、安藤騎手は笑ってましたよ。

⑭「(かわいく)最低!」 70代・男性
 ジジイやんな?かわいい声出してるけど、自分、ジジイやんな!?

 「もう、最低!」

 気持ち悪いねん!お前それは田嶋陽子が小倉優子のモノマネするようなもんやぞ!

 100歩譲って、少しでもフェミニンぽさがあるジジイなら、わかります。ですが、二言目には満州の話をしてきそうなジジイなのです。

 ジジイがギャル語使うか、普通!?戦没者は浮かばれんぞ!戦地で亡くなった仲間は、自分がしたかったことをお前に託したんや!なのにお前はギャル語て!内地に戻ってギャル語て!

 本当に勘弁してほしいですよ、こんな奴。

⑮「七夕やで?七夕なんやで?」 60代・男性
 知らんがな、そんなもん!知るかいや、そんなこと言われても!

 「七夕やのに~~~!」

 やかましいわ!彦星が全知全能やと思うな!

 これは僕の父親に言われたのですが、「だから何?」としか言いようがありません。ただ、「年に1回やで?年に1回だけやねんで?」と続けられて、「でも運営するJRAも七夕やで?」と返したら、急におとなしくなりました。

⑯「違う違う違う違う!違うって!」 50代・男性
 何がやねん!何が違うねん!

 「違う違う違う違う!」

 だから何が違うねん!なんや、気がか?お前の気が違うんか!?

 こいつは、レースが終わる度に、「違う違う違う違う!」と叫びます。ほかにも、「NONONONO!」と、これもなぜだか4回続けるのです。

 何回言うねん、お前!円広志か!

 この人は、園田競馬場のパドックの前に、毎日のようにいます。もし見かけたら、「4回おじさん!」と声をかけてあげてください。おそらく4回振り返りますから。

⑰「誰か財布落とせや!」 20代・男性
 なめてんのか、お前!そんな歩くボランティアみたいな奴おるか!

 「落としたらいいねん!」

 小指落とせ、お前!俺が財布落としたるから、代わりにお前はそのふざけた発言の責任を取って小指落とせ!

 「誰か落としてくれよ、金払うから!」

 交換やろ、それ!ただの交換やんけ、それ!ていうか小銭ばっかりやったらどうすんねん、そいつの財布が!?

 こいつは、ドロドロの作業着のまま競馬場に来ています。見た目そのままに荒々しい奴で、それを象徴するかのごとく、カツカレーを53秒で食べ切ってました。

⑱「(パドックで女性の騎手に)細江、お前、今日、生理か?」 50代・男性
 ごめん、何言ってんの、自分!?公衆の面前で何言ってくれてんの!?

 「生理なんか?」

 軽く訊くな、そんなこと!何を「今、何時?」ぐらいのノリで訊いてくれとんねん!

 「いつから生理なん?」

 ええ加減にせいよ!どこのどいつが「先週の火曜日からです!」とか答えんねん!そんな女、さっきのピッコロ大魔王だけや!

 こんなもん、田舎の親が聞いたら泣きますよ。男社会で孤軍奮闘しているのに、こんな暴言はないのです。

⑲「全部、下り坂にせいや!」 40代・男性
 無茶言うなよ、お前!無茶言うなって!

 「何もかも下り坂にしたらええねん!」

 どんなレースなんねん、それ!なんや、騎手は、転倒した馬を引きずってゴールすんのか!?ダービーに勝ったあとのインタビューで、「今日は引きずりましたよ!(急に泣いて)すいません。厩舎の方が、僕が引きずりやすいように馬をやせさせてくれたその苦労を思うと……」とか泣き出すんか?

 もう、たまりませんよ、こんな奴。


 そして、最後。

 これは大爆笑しました。今、思い出しても笑けてくるほどで、殿堂入りのロストシャウトです。

⑳「ハア。キョウモ、オケラデスワ……」 30代・外国人
 外人やんな?おけらとか言ってるけど、自分、外人やんな!?

 外人がおけらですよ、おけら?日本人でもめったに使わないのに、こんなディープな日本語を使いこなしてるんですよ!?

 お前、どこで覚えてん、そんな日本語!なあ教えてくれ、どんな文化交流をしたらオケラなんて言葉を覚えんの!?

 こいつは要注意キャラとしてずっとマークしていたのですが、まあ強烈でしたよ。競馬新聞を流暢に読み、「テンノウショウノヨンチャクハ、ダテジャナイヨ!」「コノウマハ、アガリサンハロンガキョウレツダナ!」などと、めちゃくちゃ専門的なことを言っているのです。

 外人が天皇賞ですよ、天皇賞!?100歩譲って、天皇賞はまだ理解できたとしても、上がり3ハロンですよ、上がり3ハロン!?

 これは、プロ野球を観にきたダライ・ラマが、「オエー、フィルダースチョイスカヨ!」と叫ぶぐらいのことです。吉野家で叶姉妹と出くわすぐらい、ありえないことでしょう。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみに、先ほどの外人と出会った日の僕は、3万3000円の大負け。

 ハア、マタ、オケラデスワ……。

下町の商店街はどれだけ濃いか?の考察~お店編~(パソコン読者用)

※2008年・11月27日の記事を再編集


 前回は、商店街の中にいる通行人の特徴をご紹介しました。


 今回は、それを踏まえた「お店編」です。


 商店街のお店、ならびに、そこの店員がいかに濃いかについて、ご紹介したいと思います。


 そこで今回は、「下町の商店街はどれだけ濃いか?」の考察~お店編~です。


①めちゃくちゃダサい服を売ってる服屋がある
 商店街の一角に、ダサい衣類を販売している服屋があります。そのダサさは尋常ではなく、お店がまた、意味なくで
かいのです。


 妙に幅をきかせた店舗で、しかも「ブティック」と、横文字を使っているのが小賢しいです。「うちは舶来ものを置いてまっせ!」と言うかのごとく、ダサい服を売ってるくせに、やけに調子に乗っているのです。


 なかでも、オバハン服のダサさは、常軌を逸してますよ。大量のビーズをあしらったサマーセーター、ドブみたいな群青色のカーディガンなど、えげつないレベルでダサいのです。


 誰が買うねん、こんなもん!福袋に入れて始末する用の服やろ、こんな服!


 なのにオバハンがまた、うれしそうに買いやがるんですよ。手に取るやいなや、何の躊躇もなしにレジに持って行きます。つい先日も、「うわー、うち、これ探しててん!」と言って、オリに入れられたヒョウのセーターを買ったオバハンがいたのです。


 なんでそれ買うねん!それだけは選んだらあかんやろ!


 「やっと見つけたわ、これ!」


 なんでそれ探してた!?ていうか、オリに入れられたヒョウのセーターがあるって、なんで前もって知ってたん!?


 そして先日、行きつけの商店街で、過去最高にダサい、オバハン服を発見しました。


 今までは、マルコムXの顔面がプリントされたピンクのトレーナーが1位だったのですが、それは三色アイスみたいに、上から薄紫、黄緑、紫と色分けされた鎖かたびらのような服で、左上に「ALIVE(黒字)」と刺繍されてい

るのです。


 誰が買うねん、こんな服!ドラクエの道具屋でも買い取り断るぞ、こんなもん!


 「うわー、うち、こんなん探しててん!」


 探してる奴おった!ちょっと待って、これ買いたい奴おんの!?ALIVE服って、意外に需要あんの!?


 商店街の服屋には、必ずと言っていいほど、よくしゃべるオバハンの友達が長居をしています。


 店の前に自転車を停めて居座っており、しゃべり声がまた、めちゃくちゃでかいのです。大声で「わかるわかる!最近の子は避妊しないからな!」などと、デリカシーのない話をしているのです。


 なかでも、僕がこないだ見たオバハンは強烈でしたよ。


 買い物客を装ってリサーチする僕の後ろをとおり、「山崎さん、これ生ガキ!」と言って、スーパーの袋に生ガキを直接突っ込んで持ってきたんですよ!


 衛生面考えろよ、お前!生で入れんなよ、カキを!ほんまに生ガキやんけ!


 「全部で8ガキあるわ!」


 ごめん、それ何の数え方!?1ガキ2ガキなんて聞いたことないねんけど!?


 しかも、渡された店員のオバハンも強烈です。淡路島みたいな顔をしたオバハンで、金歯だらけの前歯に、矯正器具までつけています。ルパンから予告状が届きそうなほど、金やら銀やらで口の中がテカテカなのです。


 どうなってんねん、お前の口!お前もう口ごと質屋に持って行け!口を見せながら、「すいません、これ買い取ってください!」とか言え!


 ちなみにまったくの余談ですが、服屋のオバハン店員の3人に1人は、鼻の横にでかいホクロがあります。


②めちゃくちゃ適当な中華料理屋がある
 下町の商店街には、小汚い中華料理屋があります。


 個人経営のこじんまりとした店で、ショーウインドーに、カッチコチのチャーハンや餃子の食品サンプルが置いてあります。「明治維新以来そのままか?」というぐらい、ホコリまみれなのです。


 そのたたずまいを象徴するかのように、店員も適当です。


 2年前に閉店したのですが、僕の地元の商店街にある中華料理屋は、まあ適当でしたよ。チャンポンがおいしくて、年に何度か通っていたのですが、店内で犬を放し飼いにしているのです。


 客なめてんのか、お前!ムツゴロウ以外喜ぶか、そんなもん!


 食事をしていると、テーブルの下に入り込んできます。クンクン鳴きながら入り込み、たまに、勃起しているのです


 お前、なんで犬のチンチン見ながら飯食わないとあかんねん!なんや、「立ち食い」か?立ち食いって、そういう意味なんか!?


 僕が高校3年生のときのことです。


 友達と2人で行って、小エビの天ぷらを食べていました。犬が僕らのテーブルに近づき、それを見た店主のオッサンが、とんでもないことを言いやがったのです。


 「兄ちゃん、1個やったってくれ!」


 なんでやねん、お前!なんで客が犬にマカナイ食わさないとあかんねん!


 「塩、振ったってな!」


 やかましいわ!ていうかこれ、塩振ってないの!?そこが1番問題やんけ!


 ほかにもこの店は、餃子の皮が、死ぬほどもろいのです。


 カウンター席に座った僕は、1度、作っているところを盗み見しました。


 大皿の上に、具材を載せた皮を20個ほど置いています。それをものすごいスピードで包み始めたのですが、片手で1回握るだけ。具材がはみでようが形が悪かろうが関係なく、上から順番に片手で1回握っただけでOKを出しやがるのです。


 中華料理なめてんのか、お前!先輩が刻んできた3000年の歴史をなめんな!


 「餃子、お待ちどう!」


 餃子が爆死しとるやんけ、これ!そこの犬も文句言ったってくれ!?


 「ハアハア」


 勃起してた!意味なく興奮してやがった!


 このように、商店街の中華料理屋は適当です。この店にかぎったことではなく、「注文は、めちゃくちゃ早いか、めちゃくちゃ遅いかのどちらか」「味見で使ったレンゲを客に出す」「渡されたおつりにネギがついている」など、信じがたい適当さなのです。


③めちゃくちゃ暇をしている散髪屋がある
 商店街の片隅に、見ててブルーになるぐらい、暇をしている散髪屋があります。


 客がいるのを見たことがない散髪屋もあるぐらいで、イスに座ってボーッとしたり、開き直って昼寝を始めたりと、時間を持て余しまくってるのです。


 先日、朝に見たときに、イスに座って新聞を読んでいる美容師がいました。夕方に通りがかったときにその人を見たら、まったく同じ姿勢で新聞を読んでいたのです。


 何かの修行か、それ!もしくはお前、新聞部!?作るんじゃなくて、読むタイプの新聞部の人!?


 ほかにもその昔、1人でオセロをしている奴がいました。


 「そうきたか!俺もそう思ってたわ!」


 こんなことを言いながら、1人で白と黒を動かしていたのです。


 意味わからん!で、「俺もそう思ってたわ!」ってそりゃそうやろ!だってそれはお前やねんから!俺もそう思ってたわ!


 「くー!その手できますか!?」


 神社行け、お前!もうお祓いの対象やわ!


 「あー、負けた……」


 勝ったん誰やねん!勝者も敗者もお前やろ!


 その結果、店全体が醸し出す「負の空気感」がものすごいです。ドアを開けようとする気が起こらず、客が来ないのは当たり前なんですね。


 なにより、1番問題なのが、店の名前です。


 商店街の散髪屋の店名は、ダサすぎるのです。『サエキ』『ヒロタ』『マツダ』といった、名字をそのまま使った時代錯誤なものがほとんどで、1番ひどかったものに、『髪切り村』というのがあったのです。


 何の村やねん、それ!髪切り村!?なんや、美容師のお前は村長か!?カットクロスの代わりにゴザか何か敷いてくんのか!?


 一方、横文字の店名もあるにはあるものの、それはそれでダサいです。『フォルテッシモ』『エンペラー』といったセンスのないものばかりで、僕の仕事場近くの商店街に、『ジャパン』という散髪屋があるのです。


 ジャパンて、おい!なんや、「右翼系の散髪屋」とかそういうことか!?やたらと右側を重点的に切ってくんのか!


 この手の散髪屋は、店の売り文句をドアの外側に貼りまくっています。『デザインパーマできます!』『FAXあります!』などと、冷やし中華始めましたみたいなノリでガンガンに貼り付けているのです。


 何のメリットもないぞ、それ!デザインパーマができるような店なんて、逆に行きたくないからな!


 『メナード化粧品を使っています!』


 時代考えろ!メナードの役目は昭和で終わってん!


 『店内でかき氷を売ってます!』


 外で売れや、お前!あきんどが引きこもってどないすんねん!


 はっきり言いますけど、商店街の散髪屋に行く奴なんて、子供とジジイと、ホームシックにかかった外人だけですよ。「ビヨウシサン、ナニカ、オハナシヲシマセンカ?」とお願いするような人肌恋しい外人だけで、カット技術に惹かれて行く客など皆無でしょう。


④店主がほとんど死んでいる古本屋がある
 これも、よく見かけます。散髪屋同様に暇をしている、異常に小さい古本屋があるのです。


 店主にはジジイが多く、ほとんど死んでいます。「死後硬直が始まってないか?」というぐらい、ピクリともせずにイスに座っているのです。


 それを証拠に、話しかけると、死んでいるかのような長い間を取ってきます。


 「すいません、ここ、宮沢りえの写真集って、置いてます?」


 「……」


 「……宮沢りえの写真集、あります?」


 「……」


 「……宮沢りえの奴、あります?こないだ出た奴?」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 「えっ?」


 元号変わるわ!ていうか、えっ?ぐらいやったらすっと言えや!散々待たしといてそれかいや!


 しかもこの手のジジイは、ソロバンを使って計算してきます。ですが、死にかけのジジイです。手を震わせながらはじいてくるため、正確な計算ができないのです。


 ソロバン使うなよ、震えてるんやったら!多めに取られるやんけ、こっちは!


 「ハアハア、850円です……」


 高なっとるやんけ!罪に問いにくいタイプの犯罪者やんけ、こいつ!


 なかでも、僕の地元の古本屋のジジイは、強烈ですよ。


 ほとんど死んでいるのはもちろんのこと、尋常じゃないレベルで咳き込んできます。ぜんそく持ちで、「ゴホンゴホン!アー、ゴホンゴホン!」と延々と咳き込んでいるのです。


 静かにせいや、お前!落ち着いて本を選ばれへんやんけ!


 隣のうどん屋にいても、この咳が聞こえてきます。文句の言いにくい営業妨害で、うどん屋の店員も対応のしようがないんですね。


 店の前には、「100円コーナー」と題したワゴンがあります。


 ですが、本以外のものもぶち込んでいます。中古のホッチキス、木のハンガー、ほとんど残っていないZIPPOのオイル……。訳のわからないものばかりで、過去に1度、子供靴が片方だけ入れてあったのです。


 怖いわ!交通事故の残りもんみたいやんけ!


 2年ほど前のことです。


 近所のよしみで、このおじいさんに、僕の父親が作った野菜(キュウリとタマネギ)をあげました。非常に喜ばれて僕は店をあとにしたのですが、翌日に店の前を通りがかったら、100円コーナーにそのキュウリが置いてあったんですよ!『うしおととら』の横に昨日あげたキュウリが刺さっていたのです!


 なめてんのか、お前!で、そんなディープな漫画の横に置くなよ!せめて『NANA』とかの横に置いてくれよ!


 「おじいさん、このキュウリ、僕が昨日、あげたもんでしょ?」


 「ゴホンゴホン!アー、ゴホンゴホン!」


 便利やな、その咳!この生きる正当防衛が!


 このように、商店街の古本屋は強烈です。置いてある本もマニアックなものが多く、時代錯誤もいいところでしょう


⑤めちゃくちゃ無愛想な喫茶店がある
 商店街の喫茶店は、個性的な店が多いです。


 特筆すべきは接客態度で、めちゃくちゃ無愛想なのです。「いらっしゃいませ!」と言わないのはもちろんのこと、愛想が悪すぎてイライラしてくるのです。


 なかでも、僕が昨夏に大阪の場末で入った喫茶店は、すごかったですよ。


 まず何がすごいかって、壁に、めちゃくちゃ気持ち悪いマリオネットが飾ってあるのです。首ヨレヨレのピエロが泣きそうな顔をしながら、体中を糸で縛られているのです。


 怖すぎるわ!なんでそんなにオカルティにすんねん!


 ほかにも、浅野ゆう子のポスターが貼ってあったり、子供が作ったであろう工作が無造作に並べてあったりと、めちゃくちゃです。レジを置いている下の台に至っては、「水子供養」と書かれたお札が貼ってあるのです。


 どうなってんねん、ここ!岡本太郎より意味わからんわ、ここのデザイン!


 それらに輪をかけて、接客態度が最悪です。


 席に座っても、誰も出てきません。厨房のオッサンは仕込みをしており、ホールのオバハンは、イスに座って素無視なのです。


 「すいません、注文いいですかね?」


 しびれを切らした僕は、自ら声をかけました。


 オバハンは面倒臭そうに立ち上がり、僕が「メロンソーダとミックスフライ定食をください」と注文したところ、めちゃくちゃ小さい声で「うん」って言ったんですよ。


 うんやあるか、お前!ローソンの中国人店員か、お前は!


 「うん……」


 声ちっちゃ!腹筋ゼロか、お前!


 届いたメロンソーダも、まずいです。絵の具のようなウソ臭い黄緑色で、ほとんど水なのです。


 なめてんのか、お前!ていうかこれ、妖怪人間ベムを絞った!?このまずさからして、ベム、もしくはベロを絞ったとしか思えんねんけど!?


 頼んだ定食も、めちゃくちゃ遅いです。


 10分、15分たってもきません。僕は、店内の自販機でタバコを買うついでに、厨房を覗きました。すると、フライはもう揚がっているのに、キャベツにエビフライを立てかける角度に、やたらと時間を割いていたのです。「この角度は違う!」とばかりに、倒れたエビフライを何度もキャベツに立てかけていたのです。


 何のこだわりやねん、それ!海原雄山か!


 「ミックスフライ定食、お待ちどう!」


 倒れてんけど、エビフライ!?最高の角度に立てかけたか知らんけど、持ってくるこいつが雑やったら意味ないねんけど!?


 しかも付属のライスが、びっくりするぐらい、少ないのです。「試食か、これ?」というぐらいの量で、カッチコチです。米が硬すぎて、口の中が百姓一揆くらっているみたいなのです。


 口が戦国やわ、もう!ていうかこれ、監禁飯やんけ!どこかに監禁されてる奴が出されるタイプのライスやんけ、これ!


 はっきり言いますけど、この店に経営コンサルタントが来たら、頭から煙出ますよ。万が一、カルロス・ゴーンが改革に来たら、「トリアエズ、イッカイシンデ!」と、確実にブチギレますから。



 そして、最後。


 これこそが、「THIS IS 商店街」です。下町の商店街の最大の濃さ、と言って間違いありません。


⑥ありえない専門店がある
 商店街には、たくさんの専門店があります。


 ですが、訳のわからない専門店ばかり。毛糸だけを売る店、中華そばの麺だけを売る店、冷め切った唐揚げを売る鶏屋……。どの店も買う気のしない小汚い店構えで、事実、そのほとんどが暇をしているのです。


 僕の地元の商店街では、ババアが1人で、干した野菜の専門店を経営しています。


 2坪ほどの小さな店で、種類も少ないです。干したサツマイモや柿をザルに入れて販売しているのですが、「ひと口、かじってないか?」というぐらい、ボロボロの野菜なのです。


 誰が買うねん、こんなもん!脱走中の奴隷でも素通りするぞ、こんな店!


 しかもここのババアがまた、年に何回か髪の毛にシャギー入れやがるんですよ!何かあったのか、妙に色気づいている時期があるのです!


 ババア、てめえシャギー入れてんじゃねえよ!勘弁してくれよ、ババアのシャギーとか!


 「(リップを塗りながら)兄ちゃん、見てってや!」


 リップ塗ってんじゃねえよ、てめえ!ババアが潤い求めんなよ!


 この店には、頻繁に、近くの靴屋のババアが遊びにきます。来ると、商品を置いてある板の上に腰を下ろすのですが、ザルからはみ出した干し野菜を、お尻で踏んでいるときがあるのです。


 売りもんやんな、それ!?なんやったらもうちょっとつぶれてんねんけど、それ売りもんやんな!?


 「靴は売れてんのかいな、さっちゃん?」


 さっちゃんっていうの、このババア!?試合後のマイクタイソンみたいな顔してるけど、このババア、さっちゃんって言うんや!?


 しかも来たら来たで、訳のわからない会話が始まります。


 つい先日も、以下の会話が展開されました。


 「こないだ、亡くなったお姉ちゃんが、夢の中に出てきたわ」


 「それ、あんたに会いにきてんで!」


 「森の中で、山芋を掘ってたわ」


 何の夢やねん、それ!それたぶん成仏してないぞ、お前の姉ちゃん!


 「ハム食べながら、山芋を掘ってたわ」


 なんでハム食うねん、そいつ!ガム噛むノリでハム食うなよ!


 ほかにも、毎日、ひたすら天ぷらを揚げているオッサンがいます。買う人などほとんどいないのに、黙々と天ぷらを揚げ続けているのです。


 何がしたいねん、お前!で、寝ぐせが恐ろしすぎんねん、お前は!使いすぎた筆みたいになってるやんけ!


 「売れてる?」


 さっちゃん来た!さっちゃんが来やがった!で、よく見たらさっちゃん、鼻毛27本ぐらい出てんねんけど!?


 商店街の専門店は、おかしな店ばかりです。


 おもしろいことは言うに及ばず、客や店員を中心に、その場にあふれる人間味が味わい深いです。見ていて、たまらないものがあるのです。


 「商店街は、笑店街である」


 これが2回に渡ってお送りした、今回の考察の結論です。


 僕の地元の商店街に、油揚げの専門店があります。


 今回の記事を執筆するにあたり、僕はこの店のご主人に、お話をうかがいました。


 「おっちゃん、これ、売れるんですか?あんまりおいしくなさそうなんですけど、売れるんですかね?」


 失礼を承知で訊いてみたところ、このおじさんが、僕にこう言ったのです。


 「売れへん、売れへん!あんたの言うとおり、たいしてうまくないもん、うち!でも、そのうちに売れるやろ!」


 変にギスギスせず、商品がまずかろうが、いくら売れ残ろうが、平気です。生活こそ大変なものの、客やほかの店との密着感が強いため、「人との触れ合いが代金です!」と言うかのごとく、妙に明るい職人さんが多いのです。


 僕は、商店街のこういうところが好きなのです。


 「てめえ、また買いにきたのかよ!」とばかりに、客との距離が近いです。品質は劣るとも、その触れ合いを求めて、思わず、買ってしまいます。人を中心に、空間全体から迫ってくる濃密さが、ギスギスした人間関係に疲れた現代人には、何とも心地いいんですね。


 「下町の商店街は、人を癒してくれるアミューズメントパークである」


 こう考えて、間違いないです。


 僕には下町の商店街のアーケードが、ディズニーランドよりも輝いて見えます。


 変なパレードを見るよりも、ちょっとした計算でもソロバンを使うジジイや、ハゲ散らかしているのに平然と笑っているオッサンを見るほうが、よっぽど楽しいんですね。


 なによりそれらは、作り物ではないですから。作られたものではなく、創られたものでもなく、「人間が年輪を経て自然にできたおもしろさ」なので、体から放たれる人間っぽさに、人生のゆとりや楽しさを教えられるような気がするのです。


 話を聞かせてもらったお礼に、僕はその店の油揚げを買ってあげました。


 家に帰り、母親に焼いてもらって食べたところ、油でギトギトでしたよ。正直、今まで食べた中でも、1番まずかったですよ。


 ですが、「何十年も作り続けてこの味かよ……」と考えると、おかしくて仕方がありません。


 「食後に笑わしてくれる商品を販売している」


 こう考えるとやはり、下町の商店街はすごいですよ。


 ですが2度と、ここの油揚げは買いませんけどね……。

下町の商店街はどれだけ濃いか?の考察~お店編~(携帯読者用)

※2008年・11月27日の記事を再編集

 前回は、商店街の中にいる通行人の特徴をご紹介しました。

 今回は、それを踏まえた「お店編」です。

 商店街のお店、ならびに、そこの店員がいかに濃いかについて、ご紹介したいと思います。

 そこで今回は、「下町の商店街はどれだけ濃いか?」の考察~お店編~です。

①めちゃくちゃダサい服を売ってる服屋がある
 商店街の一角に、ダサい衣類を販売している服屋があります。そのダサさは尋常ではなく、お店がまた、意味なくでかいのです。

 妙に幅をきかせた店舗で、しかも「ブティック」と、横文字を使っているのが小賢しいです。「うちは舶来ものを置いてまっせ!」と言うかのごとく、ダサい服を売ってるくせに、やけに調子に乗っているのです。

 なかでも、オバハン服のダサさは、常軌を逸してますよ。大量のビーズをあしらったサマーセーター、ドブみたいな群青色のカーディガンなど、えげつないレベルでダサいのです。

 誰が買うねん、こんなもん!福袋に入れて始末する用の服やろ、こんな服!

 なのにオバハンがまた、うれしそうに買いやがるんですよ。手に取るやいなや、何の躊躇もなしにレジに持って行きます。つい先日も、「うわー、うち、これ探しててん!」と言って、オリに入れられたヒョウのセーターを買ったオバハンがいたのです。

 なんでそれ買うねん!それだけは選んだらあかんやろ!

 「やっと見つけたわ、これ!」

 なんでそれ探してた!?ていうか、オリに入れられたヒョウのセーターがあるって、なんで前もって知ってたん!?

 そして先日、行きつけの商店街で、過去最高にダサい、オバハン服を発見しました。

 今までは、マルコムXの顔面がプリントされたピンクのトレーナーが1位だったのですが、それは三色アイスみたいに、上から薄紫、黄緑、紫と色分けされた鎖かたびらのような服で、左上に「ALIVE(黒字)」と刺繍されているのです。

 誰が買うねん、こんな服!ドラクエの道具屋でも買い取り断るぞ、こんなもん!

 「うわー、うち、こんなん探しててん!」

 探してる奴おった!ちょっと待って、これ買いたい奴おんの!?ALIVE服って、意外に需要あんの!?

 商店街の服屋には、必ずと言っていいほど、よくしゃべるオバハンの友達が長居をしています。

 店の前に自転車を停めて居座っており、しゃべり声がまた、めちゃくちゃでかいのです。大声で「わかるわかる!最近の子は避妊しないからな!」などと、デリカシーのない話をしているのです。

 なかでも、僕がこないだ見たオバハンは強烈でしたよ。

 買い物客を装ってリサーチする僕の後ろをとおり、「山崎さん、これ生ガキ!」と言って、スーパーの袋に生ガキを直接突っ込んで持ってきたんですよ!

 衛生面考えろよ、お前!生で入れんなよ、カキを!ほんまに生ガキやんけ!

 「全部で8ガキあるわ!」

 ごめん、それ何の数え方!?1ガキ2ガキなんて聞いたことないねんけど!?

 しかも、渡された店員のオバハンも強烈です。淡路島みたいな顔をしたオバハンで、金歯だらけの前歯に、矯正器具までつけています。ルパンから予告状が届きそうなほど、金やら銀やらで口の中がテカテカなのです。

 どうなってんねん、お前の口!お前もう口ごと質屋に持って行け!口を見せながら、「すいません、これ買い取ってください!」とか言え!

 ちなみにまったくの余談ですが、服屋のオバハン店員の3人に1人は、鼻の横にでかいホクロがあります。

②めちゃくちゃ適当な中華料理屋がある
 下町の商店街には、小汚い中華料理屋があります。

 個人経営のこじんまりとした店で、ショーウインドーに、カッチコチのチャーハンや餃子の食品サンプルが置いてあります。「明治維新以来そのままか?」というぐらい、ホコリまみれなのです。

 そのたたずまいを象徴するかのように、店員も適当です。

 2年前に閉店したのですが、僕の地元の商店街にある中華料理屋は、まあ適当でしたよ。チャンポンがおいしくて、年に何度か通っていたのですが、店内で犬を放し飼いにしているのです。

 客なめてんのか、お前!ムツゴロウ以外喜ぶか、そんなもん!

 食事をしていると、テーブルの下に入り込んできます。クンクン鳴きながら入り込み、たまに、勃起しているのです。

 お前、なんで犬のチンチン見ながら飯食わないとあかんねん!なんや、「立ち食い」か?立ち食いって、そういう意味なんか!?

 僕が高校3年生のときのことです。

 友達と2人で行って、小エビの天ぷらを食べていました。犬が僕らのテーブルに近づき、それを見た店主のオッサンが、とんでもないことを言いやがったのです。

 「兄ちゃん、1個やったってくれ!」

 なんでやねん、お前!なんで客が犬にマカナイ食わさないとあかんねん!

 「塩、振ったってな!」

 やかましいわ!ていうかこれ、塩振ってないの!?そこが1番問題やんけ!

 ほかにもこの店は、餃子の皮が、死ぬほどもろいのです。

 カウンター席に座った僕は、1度、作っているところを盗み見しました。

 大皿の上に、具材を載せた皮を20個ほど置いています。それをものすごいスピードで包み始めたのですが、片手で1回握るだけ。具材がはみでようが形が悪かろうが関係なく、上から順番に片手で1回握っただけでOKを出しやがるのです。

 中華料理なめてんのか、お前!先輩が刻んできた3000年の歴史をなめんな!

 「餃子、お待ちどう!」

 餃子が爆死しとるやんけ、これ!そこの犬も文句言ったってくれ!?

 「ハアハア」

 勃起してた!意味なく興奮してやがった!

 このように、商店街の中華料理屋は適当です。この店にかぎったことではなく、「注文は、めちゃくちゃ早いか、めちゃくちゃ遅いかのどちらか」「味見で使ったレンゲを客に出す」「渡されたおつりにネギがついている」など、信じがたい適当さなのです。

③めちゃくちゃ暇をしている散髪屋がある
 商店街の片隅に、見ててブルーになるぐらい、暇をしている散髪屋があります。

 客がいるのを見たことがない散髪屋もあるぐらいで、イスに座ってボーッとしたり、開き直って昼寝を始めたりと、時間を持て余しまくってるのです。

 先日、朝に見たときに、イスに座って新聞を読んでいる美容師がいました。夕方に通りがかったときにその人を見たら、まったく同じ姿勢で新聞を読んでいたのです。

 何かの修行か、それ!もしくはお前、新聞部!?作るんじゃなくて、読むタイプの新聞部の人!?

 ほかにもその昔、1人でオセロをしている奴がいました。

 「そうきたか!俺もそう思ってたわ!」

 こんなことを言いながら、1人で白と黒を動かしていたのです。

 意味わからん!で、「俺もそう思ってたわ!」ってそりゃそうやろ!だってそれはお前やねんから!俺もそう思ってたわ!

 「くー!その手できますか!?」

 神社行け、お前!もうお祓いの対象やわ!

 「あー、負けた……」

 勝ったん誰やねん!勝者も敗者もお前やろ!

 その結果、店全体が醸し出す「負の空気感」がものすごいです。ドアを開けようとする気が起こらず、客が来ないのは当たり前なんですね。

 なにより、1番問題なのが、店の名前です。

 商店街の散髪屋の店名は、ダサすぎるのです。『サエキ』『ヒロタ』『マツダ』といった、名字をそのまま使った時代錯誤なものがほとんどで、1番ひどかったものに、『髪切り村』というのがあったのです。

 何の村やねん、それ!髪切り村!?なんや、美容師のお前は村長か!?カットクロスの代わりにゴザか何か敷いてくんのか!?

 一方、横文字の店名もあるにはあるものの、それはそれでダサいです。『フォルテッシモ』『エンペラー』といったセンスのないものばかりで、僕の仕事場近くの商店街に、『ジャパン』という散髪屋があるのです。

 ジャパンて、おい!なんや、「右翼系の散髪屋」とかそういうことか!?やたらと右側を重点的に切ってくんのか!?

 この手の散髪屋は、店の売り文句をドアの外側に貼りまくっています。『デザインパーマできます!』『FAXあります!』などと、冷やし中華始めましたみたいなノリでガンガンに貼り付けているのです。

 何のメリットもないぞ、それ!デザインパーマができるような店なんて、逆に行きたくないからな!

 『メナード化粧品を使っています!』

 時代考えろ!メナードの役目は昭和で終わってん!

 『店内でかき氷を売ってます!』

 外で売れや、お前!あきんどが引きこもってどないすんねん!

 はっきり言いますけど、商店街の散髪屋に行く奴なんて、子供とジジイと、ホームシックにかかった外人だけですよ。「ビヨウシサン、ナニカ、オハナシヲシマセンカ?」とお願いするような人肌恋しい外人だけで、カット技術に惹かれて行く客など皆無でしょう。

④店主がほとんど死んでいる古本屋がある
 これも、よく見かけます。散髪屋同様に暇をしている、異常に小さい古本屋があるのです。

 店主にはジジイが多く、ほとんど死んでいます。「死後硬直が始まってないか?」というぐらい、ピクリともせずにイスに座っているのです。

 それを証拠に、話しかけると、死んでいるかのような長い間を取ってきます。

 「すいません、ここ、宮沢りえの写真集って、置いてます?」

 「……」

 「……宮沢りえの写真集、あります?」

 「……」

 「……宮沢りえの奴、あります?こないだ出た奴?」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「えっ?」

 元号変わるわ!ていうか、えっ?ぐらいやったらすっと言えや!散々待たしといてそれかいや!

 しかもこの手のジジイは、ソロバンを使って計算してきます。ですが、死にかけのジジイです。手を震わせながらはじいてくるため、正確な計算ができないのです。

 ソロバン使うなよ、震えてるんやったら!多めに取られるやんけ、こっちは!

 「ハアハア、850円です……」

 高なっとるやんけ!罪に問いにくいタイプの犯罪者やんけ、こいつ!

 なかでも、僕の地元の古本屋のジジイは、強烈ですよ。

 ほとんど死んでいるのはもちろんのこと、尋常じゃないレベルで咳き込んできます。ぜんそく持ちで、「ゴホンゴホン!アー、ゴホンゴホン!」と延々と咳き込んでいるのです。

 静かにせいや、お前!落ち着いて本を選ばれへんやんけ!

 隣のうどん屋にいても、この咳が聞こえてきます。文句の言いにくい営業妨害で、うどん屋の店員も対応のしようがないんですね。

 店の前には、「100円コーナー」と題したワゴンがあります。

 ですが、本以外のものもぶち込んでいます。中古のホッチキス、木のハンガー、ほとんど残っていないZIPPOのオイル……。訳のわからないものばかりで、過去に1度、子供靴が片方だけ入れてあったのです。

 怖いわ!交通事故の残りもんみたいやんけ!

 2年ほど前のことです。

 近所のよしみで、このおじいさんに、僕の父親が作った野菜(キュウリとタマネギ)をあげました。非常に喜ばれて僕は店をあとにしたのですが、翌日に店の前を通りがかったら、100円コーナーにそのキュウリが置いてあったんですよ!『うしおととら』の横に昨日あげたキュウリが刺さっていたのです!

 なめてんのか、お前!で、そんなディープな漫画の横に置くなよ!せめて『NANA』とかの横に置いてくれよ!

 「おじいさん、このキュウリ、僕が昨日、あげたもんでしょ?」

 「ゴホンゴホン!アー、ゴホンゴホン!」

 便利やな、その咳!この生きる正当防衛が!

 このように、商店街の古本屋は強烈です。置いてある本もマニアックなものが多く、時代錯誤もいいところでしょう。

⑤めちゃくちゃ無愛想な喫茶店がある
 商店街の喫茶店は、個性的な店が多いです。

 特筆すべきは接客態度で、めちゃくちゃ無愛想なのです。「いらっしゃいませ!」と言わないのはもちろんのこと、愛想が悪すぎてイライラしてくるのです。

 なかでも、僕が昨夏に大阪の場末で入った喫茶店は、すごかったですよ。

 まず何がすごいかって、壁に、めちゃくちゃ気持ち悪いマリオネットが飾ってあるのです。首ヨレヨレのピエロが泣きそうな顔をしながら、体中を糸で縛られているのです。

 怖すぎるわ!なんでそんなにオカルティにすんねん!

 ほかにも、浅野ゆう子のポスターが貼ってあったり、子供が作ったであろう工作が無造作に並べてあったりと、めちゃくちゃです。レジを置いている下の台に至っては、「水子供養」と書かれたお札が貼ってあるのです。

 どうなってんねん、ここ!岡本太郎より意味わからんわ、ここのデザイン!

 それらに輪をかけて、接客態度が最悪です。

 席に座っても、誰も出てきません。厨房のオッサンは仕込みをしており、ホールのオバハンは、イスに座って素無視なのです。

 「すいません、注文いいですかね?」

 しびれを切らした僕は、自ら声をかけました。

 オバハンは面倒臭そうに立ち上がり、僕が「メロンソーダとミックスフライ定食をください」と注文したところ、めちゃくちゃ小さい声で「うん」って言ったんですよ。

 うんやあるか、お前!ローソンの中国人店員か、お前は!

 「うん……」

 声ちっちゃ!腹筋ゼロか、お前!

 届いたメロンソーダも、まずいです。絵の具のようなウソ臭い黄緑色で、ほとんど水なのです。

 なめてんのか、お前!ていうかこれ、妖怪人間ベムを絞った!?このまずさからして、ベム、もしくはベロを絞ったとしか思えんねんけど!?

 頼んだ定食も、めちゃくちゃ遅いです。

 10分、15分たってもきません。僕は、店内の自販機でタバコを買うついでに、厨房を覗きました。すると、フライはもう揚がっているのに、キャベツにエビフライを立てかける角度に、やたらと時間を割いていたのです。「この角度は違う!」とばかりに、倒れたエビフライを何度もキャベツに立てかけていたのです。

 何のこだわりやねん、それ!海原雄山か!

 「ミックスフライ定食、お待ちどう!」

 倒れてんけど、エビフライ!?最高の角度に立てかけたか知らんけど、持ってくるこいつが雑やったら意味ないねんけど!?

 しかも付属のライスが、びっくりするぐらい、少ないのです。「試食か、これ?」というぐらいの量で、カッチコチです。米が硬すぎて、口の中が百姓一揆くらっているみたいなのです。

 口が戦国やわ、もう!ていうかこれ、監禁飯やんけ!どこかに監禁されてる奴が出されるタイプのライスやんけ、これ!

 はっきり言いますけど、この店に経営コンサルタントが来たら、頭から煙出ますよ。万が一、カルロス・ゴーンが改革に来たら、「トリアエズ、イッカイシンデ!」と、確実にブチギレますから。


 そして、最後。

 これこそが、「THIS IS 商店街」です。下町の商店街の最大の濃さ、と言って間違いありません。

⑥ありえない専門店がある
 商店街には、たくさんの専門店があります。

 ですが、訳のわからない専門店ばかり。毛糸だけを売る店、中華そばの麺だけを売る店、冷め切った唐揚げを売る鶏屋……。どの店も買う気のしない小汚い店構えで、事実、そのほとんどが暇をしているのです。

 僕の地元の商店街では、ババアが1人で、干した野菜の専門店を経営しています。

 2坪ほどの小さな店で、種類も少ないです。干したサツマイモや柿をザルに入れて販売しているのですが、「ひと口、かじってないか?」というぐらい、ボロボロの野菜なのです。

 誰が買うねん、こんなもん!脱走中の奴隷でも素通りするぞ、こんな店!

 しかもここのババアがまた、年に何回か髪の毛にシャギー入れやがるんですよ!何かあったのか、妙に色気づいている時期があるのです!

 ババア、てめえシャギー入れてんじゃねえよ!勘弁してくれよ、ババアのシャギーとか!

 「(リップを塗りながら)兄ちゃん、見てってや!」

 リップ塗ってんじゃねえよ、てめえ!ババアが潤い求めんなよ!

 この店には、頻繁に、近くの靴屋のババアが遊びにきます。来ると、商品を置いてある板の上に腰を下ろすのですが、ザルからはみ出した干し野菜を、お尻で踏んでいるときがあるのです。

 売りもんやんな、それ!?なんやったらもうちょっとつぶれてんねんけど、それ売りもんやんな!?

 「靴は売れてんのかいな、さっちゃん?」

 さっちゃんっていうの、このババア!?試合後のマイクタイソンみたいな顔してるけど、このババア、さっちゃんって言うんや!?

 しかも来たら来たで、訳のわからない会話が始まります。

 つい先日も、以下の会話が展開されました。

 「こないだ、亡くなったお姉ちゃんが、夢の中に出てきたわ」

 「それ、あんたに会いにきてんで!」

 「森の中で、山芋を掘ってたわ」

 何の夢やねん、それ!それたぶん成仏してないぞ、お前の姉ちゃん!

 「ハム食べながら、山芋を掘ってたわ」

 なんでハム食うねん、そいつ!ガム噛むノリでハム食うなよ!

 ほかにも、毎日、ひたすら天ぷらを揚げているオッサンがいます。買う人などほとんどいないのに、黙々と天ぷらを揚げ続けているのです。

 何がしたいねん、お前!で、寝ぐせが恐ろしすぎんねん、お前は!使いすぎた筆みたいになってるやんけ!

 「売れてる?」

 さっちゃん来た!さっちゃんが来やがった!で、よく見たらさっちゃん、鼻毛27本ぐらい出てんねんけど!?

 商店街の専門店は、おかしな店ばかりです。

 おもしろいことは言うに及ばず、客や店員を中心に、その場にあふれる人間味が味わい深いです。見ていて、たまらないものがあるのです。

 「商店街は、笑店街である」

 これが2回に渡ってお送りした、今回の考察の結論です。

 僕の地元の商店街に、油揚げの専門店があります。

 今回の記事を執筆するにあたり、僕はこの店のご主人に、お話をうかがいました。

 「おっちゃん、これ、売れるんですか?あんまりおいしくなさそうなんですけど、売れるんですかね?」

 失礼を承知で訊いてみたところ、このおじさんが、僕にこう言ったのです。

 「売れへん、売れへん!あんたの言うとおり、たいしてうまくないもん、うち!でも、そのうちに売れるやろ!」

 変にギスギスせず、商品がまずかろうが、いくら売れ残ろうが、平気です。生活こそ大変なものの、客やほかの店との密着感が強いため、「人との触れ合いが代金です!」と言うかのごとく、妙に明るい職人さんが多いのです。

 僕は、商店街のこういうところが好きなのです。

 「てめえ、また買いにきたのかよ!」とばかりに、客との距離が近いです。品質は劣るとも、その触れ合いを求めて、思わず、買ってしまいます。人を中心に、空間全体から迫ってくる濃密さが、ギスギスした人間関係に疲れた現代人には、何とも心地いいんですね。

 「下町の商店街は、人を癒してくれるアミューズメントパークである」

 こう考えて、間違いないです。

 僕には下町の商店街のアーケードが、ディズニーランドよりも輝いて見えます。

 変なパレードを見るよりも、ちょっとした計算でもソロバンを使うジジイや、ハゲ散らかしているのに平然と笑っているオッサンを見るほうが、よっぽど楽しいんですね。

 なによりそれらは、作り物ではないですから。作られたものではなく、創られたものでもなく、「人間が年輪を経て自然にできたおもしろさ」なので、体から放たれる人間っぽさに、人生のゆとりや楽しさを教えられるような気がするのです。

 話を聞かせてもらったお礼に、僕はその店の油揚げを買ってあげました。

 家に帰り、母親に焼いてもらって食べたところ、油でギトギトでしたよ。正直、今まで食べた中でも、1番まずかったですよ。

 ですが、「何十年も作り続けてこの味かよ……」と考えると、おかしくて仕方がありません。

 「食後に笑わしてくれる商品を販売している」

 こう考えるとやはり、下町の商店街はすごいですよ。

 ですが2度と、ここの油揚げは買いませんけどね……。

下町の商店街はどれだけ濃いか?の考察~通行人編~(パソコン読者用)

※2008年・11月26日の記事を再編集


 先日、午前中の仕事を終えた僕は、大阪の街をブラブラしていました。


 10分ほど歩いて、こじんまりとした商店街を発見しました。


 ボロボロの店が軒をつらねており、入り口の近くには、たくさんの露店があります。なんとなしに足を向けてみたところ、強引にたこ焼きを売りつけているオバハンを発見したのです。


 トムソンガゼルみたいな顔をしたオバハンで、露店の前に出てきています。


 「兄ちゃん、買ってや!」


 「そこの人、頼むわ!8個入りの1番小さい奴でいいから!」


 こんなことを言いながら、通りがかる人に売りつけようとしています。断られてもしぶとく追いかけ、露店から10メートルぐらいのところにまで、まとわりついているのです。


 案の定、近くにいた僕のところにもやってきました。


 「兄ちゃん、たこ焼きはどう?うちのたこ焼きはチーズが入ってるで!」


 こう言って、僕の行く手をさえぎります。手にはたこ焼きを持っており、「口を開けてみ!いいから食べてみ!」と言いながら口元に持ってこられたため、思わず、口にしてしまったのです。


 正直、まずくはなかったです。ですが、お金を出して買うほどのものではありません。無視して立ち去ろうとしたのですが、このオバハンが「じゃあ300円ね!」と言って、お金を請求してきやがったんですよ!


 なんでやねん、お前!お前が食べてみって言うから食べてんやろが!


 「食べてんやったら、お金払ってや!」


 戦時中の物売りか、お前!そのズル賢さ、どう考えてもかたぎの奴の発想じゃないぞ!


 このオバハンは、冗談で言っているのではありません。半ギレで、普通にお金を請求してきやがったのです。


 「アホか、あんた!」


 僕は怒鳴りました。


 オバハンもそれ以上はついてこなかったのですが、しばらくして、僕が食べたそのたこ焼きの中に、たこが入っていなかったことに気がついたのです。


 ここのたこ焼きは、チーズを入れる代わりに、たこを抜いています。このオバハンが言う「チーズが入ってるから!」は、「たこもチーズも入ってます!」ではなく、「たこではなくてチーズが入ってます!」という意味なのです。


 このオバハンのように、商店街には濃い人が多いです。このケースは例外ではなく、似たような「濃さ」が日常茶飯事なのです。


 濃いのは商売人だけではありません。通行人や店自体など、商店街という空間の中に、異常に濃い人・物・事があふれ返っています。商店街を一歩出ればそこは「シャバ」で、泥臭いアーケードに囲まれたその商空間だけが、異様な濃密さを形成しているのです。


 そしてその商店街が、いわゆる「下町」であればあるほど、濃さはアップします。地域の密着度が強いため濃さが濃さが生み、都市部と隔絶された、濃いものだらけの異空間になっているのです。


 そこで今回は、「下町の商店街はどれだけ濃いか?」の考察~通行人編~です。


 今回は、「通行人編」「お店編」とに分けて、「下町の商店街がいかに濃いか」をご紹介します。


 まずは、通行人編です。


 僕が過去に遭遇した、商店街を歩いている「濃い人種」をご紹介します。


①歩くのが遅すぎるババアがいる
 これは、どの商店街にもいます。


 シャバのババアよりも、商店街のババアのほうが歩くのが遅いです。手でバギーを押しながら、のろのろと歩いています。僕はこれを「バギーババア」と呼んでおり、とにかく遅いのです。


 しかも、尋常じゃないレベルで、腰が曲がっています。シャバのババアは曲がって90度までなのですが、商店街のババアは120度、いやヘタしたら、180度近く曲がっています。「今日、犬のウンコを顔で踏んだわ!」なんて日本語が通用しそうなほど、腰が曲がりすぎて頭が垂れているのです。


 3週間前のことです。


 地元の商店街を歩いていると、僕の前に、120度クラスのバギーババアがいました。


 僕はバギーババアを抜いて、50メートルほど先のコンビニに入りました。そして、少年ジャンプを軽く立ち読みしてトイレを借り、店を出てもと来た道を引き返したら、すれ違ったんですよ。


 遅すぎるやろ、いくらなんでも!落ち武者か、お前!


 この人はマラソンを完走するのに、20年以上かかりますよ。スタート地点にいるとき、「ばあちゃん、がんばって!」と言ってたかわいい孫が、折り返し地点で「ババア、こづかいくれよ!」と成長してグレててもおかしくないほ

どなのです。


 また、商店街のババアは、シャバのババアにも増して、見た目が強烈です。


 特筆すべきは頭部で、猟奇的なレベルでハゲている奴がいます。頭部中央が更地で、その周囲を残った毛が森林のように囲んでいるため、琵琶湖みたいなのです。


 何かつけろよ、お前!一応は女やねんから、カツラか何かつけろや!


 しかも、異様に口をモグモグさせています。「それ、エアフェ○チオしてんの?」というぐらい、何も食べていないのに口をモグモグさせているのです。


 亡くなったジジイが恋しいんか、お前!「ジイサンとのあの夜をもう1度!」とかそういうことか!?


 下町の商店街には、「バギーババア」「琵琶湖ババア」「モグモグババア」など、個性的なババアがうじゃうじゃしています。シャバのババアとは一線を画しており、見ていて恐ろしいものがあるのです。


②買物をしすぎて、荷物が多すぎるオバハンがいる
 これも、頻繁に見かけます。


 商店街のスーパーマーケットは安いです。ミカンやら長ネギやらで、荷物がどえらいことになっています。僕はこれを「手荷物オバハン」と呼んでおり、ひどい場合、5袋以上も買い込んでいるのです。


 買いすぎやろ、いくらなんでも!ボーナスもらいたての外資系のOLか!


 手荷物オバハンは、袋を自転車にかけて帰ります。


 自転車のあらゆる部位に引っかけるため、漕ぎ姿が異様です。前カゴはもちろんのこと、左グリップに1袋、右グリップに2袋、後ろの荷台に2袋とすべてを利用し、フラフラになりながら大地を駆けるのです。


 なかでもその昔、僕が見た「6袋オバハン」はすごかったですよ。前カゴに1、左グリップに1、右グリップに1で、ベルにも1袋かけ、荷台に座らせた子供に両手で1袋ずつ持たせていたのです。


 夜逃げか、お前!日中の大胆な夜逃げか!


 前カゴに長ネギを刺しすぎて、八つ墓村みたいです。前から見たら、頭にダイナマイトをくくりつけいているみたいで怖いんですね。


 それでも100歩譲って、これは、まだわかります。


 なかには自転車ではなく、全身を使って持って帰ろうとするオバハンがいます。左腕に2袋、右腕に2袋を通し、残り1袋をリュックサックみたいに、袋に両腕を通して背中で担いでいる奴がいるのです。


 東京帰りの田舎者か、お前!おみやげ買いすぎたんか!


 なかでも、うちの母親はすごいですよ。先日も4袋持っていたのですが、左の二の腕に3袋通して手で1袋持ち、余った右手でみたらし団子を食べていたのです。


 家に着いてから食えや!ていうか、体が左に傾いてめちゃくちゃ食いにくそうやんけ!安定悪すぎて、串の先でほっぺた刺しそうやんけ!


 そんな手のふさがった状態なのに、ずってきたメガネを手で戻します。天然なのか何なのかわかりませんが、その「オバハンらしさ」に、毎度驚かされるのです。


③服がダサすぎるオッサンがいる
 これも、レギュラーでいます。ピーコが見たら頭から煙が出そうなほど、信じがたいコーディネートのオッサンがい
るのです。


 「肌が隠せてたらそれでいいわ!」とばかりに、人に見られることをまったく意識していません。奇跡のコーディネーターがうじゃうじゃしており、頻繁に目撃するのが、全身が黒(OR茶色)の奴です。


 「自分、焼死体か?」というぐらい、上着やズボン、靴や靴下に至るまで真っ黒です。色にかぎった話ではなく、ファイナルファンタジーに出てくるバーサーカーのように、全身、オオカミ柄で統一してる奴までいるのです。


 何があってん、お前!何かがないとそんなことにはならんぞ!聞いたるから俺に話してみろ!


 次に多いのが、「上下アンバランス型」です。


 めちゃくちゃなコーディネートで、色使いから何から、上下がまったく合っていません。つい先日も、黄緑色のニット帽をかぶり、上着はパンダのアップリケがついた紺色の長袖で、ズボンがヘビ柄の奴がいたのです。


 難民か、お前!物資に出遅れて、残りもんの服をつかまされた難民か!


 ですが、これらは、まだましです。僕が昨夏に見たオッサンなんて、麦わら帽子をかぶり、嫁が着ていたであろう女物のオレンジのジャンパーを着て、下は黄色の短パンやったんですよ。


 どこ行く気やねん、お前!あの世しか入れてくれるところないぞ、そんな格好やったら!


 これマジで、探せば、上がウェディングドレスで、下が柔道着の奴いますよ。そんな奴がいてもなんら不思議ではなく、先日も、阪神タイガースのハッピを着て、古いほうの巨人の帽子をかぶっているオッサンがいたのです。


 どこのファンやねん、お前!お前それは、共産党員がゲバラTシャツ着てるようなもんやぞ!


 一方、変にオシャレしすぎて、逆にダサいオッサンもいます。テンガロンハットをかぶるカウボーイ型や、若作りしようとして、破けたジーパンを履いたものの似合ってなかったりと、ダサいオッサンばかりなのです。


④ランボーそっくりのオバハンがいる
 これは最近知った法則なのですが、間違いありません。


 どの商店街にも、やたらとシルベスタいオバハンがいるのです。手入れが行き届いていないウェッティなロン毛、女性らしからぬ胸板の厚さ、特売品を狙う血走った目など、シルベスタさが尋常ではないのです。


 シルベスタいのは、見た目だけではありません。


 今回の記事を執筆するにあたり、何人かのランボーのあとをつけたのですが、まあ行動もランボーでしたよ。ワゴンセールへの突入感、値切る際の熱意、福引きの抽選機の回し方など、どれを取ってもランボー、いや「乱暴」なのです。


 ランボーは、より安い店を狙って、頻繁に移動をくり返します。最終的に、もといた店に帰ってきたりするので、「帰ってきたランボー」なのです。店を出るのは「怒りの脱出」で、物を買う店が「最後の戦場」なのです。


 ほかにも、小沢一郎そっくりのオバハンがいることにも気がつきました。


 こちらは、ランボーよりはレアなのですが、1時間もいれば、1人は必ず出くわします。


 一直線の一重、浅黒い肌、小太り……。「現状の政治に納得していない=現状の値段に納得していない」「壊し屋=まけてくれないと店の商品を壊しにかかる」など、意識や行動も小沢さんのそれなのです。


 なかでも1番多いのが、プロレスラーの天龍源一郎そっくりのオバハンですよ。


 パンチパーマのような髪の縮れ具合といい、切れ長の目といい、いびつな上半身といい、天龍そっくりのオバハンがごろごろしています。ゴキブリと同じで、「天龍を1人見たら100人は天龍がおる」と言っても過言ではないほど、下町の商店街は天龍だらけなのです。


 僕は過去に、3メートル四方の魚売り場で、天龍を3人見たことがあります。その空間の人間が「天龍、天龍、店員、天龍」みたく、安い魚をめぐって「海鮮バトルロイヤル」をくり広げていたのです。


 どうなってんねん、ここ!戦時中のドイツよりたち悪いぞ、この空間!


 「あんた、どきいや!」


 「あんたこそどきいや!」


 ケンカすんな、天龍同士で!ていうかこの店も「天龍は2人まで!」と貼り紙しとけよ!3人目が来たら、「奥さんすいません、うち、天龍は2人までなんですよ!」と断れよ!


 今回の記事の総仕上げに、先日、僕は行きつけの商店街に4時間いました。


 すると、6ランボー、3小沢、19天龍でしたからね。その後、食事をするために地元の商店街に行ったのですが、うどん屋に入るまでにランボーを2人見て、うどん屋を出た瞬間、目の前に天龍がいましたから。


⑤キチ○イが普通にいる
 下町の商店街には、キチ○イが普通にいます。「裏・商店街名物」といってもおかしくないほど、頭のおかしい奴が
紛れ込んでいるのです。


 僕が大学生のときのことです。


 近くの商店街を歩いていると、女装したオッサンが、僕にこう話しかけてきました。


 「兄ちゃん、ホタルイカ、いらんか?」


 何言ってんねん、お前!誰がもらうねん、そんなもん!


 「ホタルイカ、どう?」


 どうやあるか、お前!どこのどいつが見知らぬオッサンからホタルイカもらうねん!


 「いらないです」


 「なんで?」


 お前もなんで!?お前もなんで昼間っからそんなことしてんの!?


 こいつは、近所でも有名な奴です。プレゼントをダシに、若い男をホテルに誘い込むのが目的なのですが、そのプレゼントは妙なものばかり。ホタルイカが1番多く、僕に1度、「兄ちゃん、このつぶ貝、いらんか?」と話しかけてきたのです。


 なんで海鮮ばっかりやねん、お前!どんなナンパやねん、それ!


 ほかにも、半年ほど前のことです。


 地元の商店街を歩いていると、汚い格好をしたオッサンが道行く人に、以下の言葉をかけまくっていました。


 「できる人は、毎日、朝ごはんを食べてるよ!」


 知らんがな、そんなもん!知るかいや、そんなこと言われても!


 「朝ごはんを食べないと負け組になっちゃうよ!」


 お前も負け組やろ!だいたいお前は、朝ごはん食べてないやろ!そんなボロボロの格好をしてるお前に、そんな余裕なんてないやろ!じゃあお前は「できない人」やんけ!できないお前がなんでそんなこと言うねん!


 とはいえ、これらは、まだましです。


 僕が小学生のころなんて、商店街の中にある家の軒先に座り、上半身裸でサトウキビを生で吸ってるオバハンがいたのです。


 勘弁してくれよ、おい!同じ人間とは思えんぞ、お前みたいな妖怪!


 「お帰り!」


 ごめん、話しかけんといて!ていうか、お前はいつこっちの世界に帰ってくんの!?人のことはええから、お前のほうこそ早く帰ってきてくれ!俺らにも「お帰り!」と言わせてくれ!


 下町の商店街には、このタイプのおかしな奴が、普通にいます。


 もちろん、商店街じゃなくてもおかしな奴はいるのですが、商店街には「普通にいる」のです。


 存在に違和感がなく、泥臭い風景と同化しています。商店街特有の人情味に居心地がいいのか、普通に紛れ込んでいるのです。



 そして、最後。


 これこそが、商店街を歩く人の最大の特徴です。


⑥どっちかわからない奴がいる
 みなさまも、1度は思ったことがあるはずです。


 「あんた、オッサンとオバハン、どっちなん?」と。


 先ほどのランボーや天龍が、いい例でしょう。


 オバハンの見た目がオッサンぽく、オッサンもオッサンで、オバハンみたいな顔をしています。中性的なファッションをしている人が多く、肌がやけにツルツルの人も多いので、まったく区別がつかないんですね。


 下町の商店街のオッサンやオバハンは、基本的には全員、親指みたいな顔をしています。至近距離で見ないと区別がつかず、これマジで、額に「オス」とか「メス」とか書かないとダメですよ。ルックスだけだと判断がつかず、話しかけにくいのです。


 ほかにも、チンピラ。


 商店街にはチンピラがたくさんいるのですが、下町にはもともと、ガラの悪い奴が多いです。首に鎖を巻いているのに目がかわいい奴もいれば、見た目は普通なのに声にドスがきいている奴もおり、その筋の人かどうかの区別がつかないのです。


 なかでも、1番区別がつかないのが、ホームレスです。


 下町の商店街には、もともと小汚い奴が多いです。服装はきちんとしているのに顔が小汚い、服装は汚いけど顔はシュッとしているなど、どっちかわかりません。


 僕の家は代々、地域の民生委員をしています。その関係で、うちの母親がホームレスの方に話を聞いて回ることがあるのですが、「どっちかわからない人がおる!」と、毎回、言います。小汚いだけの人に、「寒くはないですか?」と訊くのは失礼なので、毎回、頭を悩ませているのです。


 先日、あまりにもどっちかわからない奴がいたため、僕はもう、訊いてやりましたよ。


 「すいません。失礼ですけど、どっちなんですか?」


 「えっ?」


 「オジサンは、どっちの人なんですかね?」


 「どっちって、何が?」


 「そっちの人なのか、普通の人なのか、ってことですよ」


 「あっ、はいはい」


 「どっちの人なんですか?」


 「そっちです」


 そっちですって、おい!そんな答え方あるか、お前!


 「そっちそっち!」


 明るいな、お前!ちょっと安心したわ!


 このように、商店街には、どっちかわからない奴が多いです。下町の味といえば味なのですが、商店街フリークの僕としては、そろそろはっきりしてほしいのです。



 以上が、今回の考察です。


 次回は、この通行人編を踏まえた、「お店編」をお送りします。


 商店街のお店、ならびにそこの店員は、通行人以上に濃いです。読まれる方は、覚悟してくださいね……。

下町の商店街はどれだけ濃いか?の考察~通行人編~(携帯読者用)

※2008年・11月26日の記事を再編集

 先日、午前中の仕事を終えた僕は、大阪の街をブラブラしていました。

 10分ほど歩いて、こじんまりとした商店街を発見しました。

 ボロボロの店が軒をつらねており、入り口の近くには、たくさんの露店があります。なんとなしに足を向けてみたところ、強引にたこ焼きを売りつけているオバハンを発見したのです。

 トムソンガゼルみたいな顔をしたオバハンで、露店の前に出てきています。

 「兄ちゃん、買ってや!」

 「そこの人、頼むわ!8個入りの1番小さい奴でいいから!」

 こんなことを言いながら、通りがかる人に売りつけようとしています。断られてもしぶとく追いかけ、露店から10メートルぐらいのところにまで、まとわりついているのです。

 案の定、近くにいた僕のところにもやってきました。

 「兄ちゃん、たこ焼きはどう?うちのたこ焼きはチーズが入ってるで!」

 こう言って、僕の行く手をさえぎります。手にはたこ焼きを持っており、「口を開けてみ!いいから食べてみ!」と言いながら口元に持ってこられたため、思わず、口にしてしまったのです。

 正直、まずくはなかったです。ですが、お金を出して買うほどのものではありません。無視して立ち去ろうとしたのですが、このオバハンが「じゃあ300円ね!」と言って、お金を請求してきやがったんですよ!

 なんでやねん、お前!お前が食べてみって言うから食べてんやろが!

 「食べてんやったら、お金払ってや!」

 戦時中の物売りか、お前!そのズル賢さ、どう考えてもかたぎの奴の発想じゃないぞ!

 このオバハンは、冗談で言っているのではありません。半ギレで、普通にお金を請求してきやがったのです。

 「アホか、あんた!」

 僕は怒鳴りました。

 オバハンもそれ以上はついてこなかったのですが、しばらくして、僕が食べたそのたこ焼きの中に、たこが入っていなかったことに気がついたのです。

 ここのたこ焼きは、チーズを入れる代わりに、たこを抜いています。このオバハンが言う「チーズが入ってるから!」は、「たこもチーズも入ってます!」ではなく、「たこではなくてチーズが入ってます!」という意味なのです。

 このオバハンのように、商店街には濃い人が多いです。このケースは例外ではなく、似たような「濃さ」が日常茶飯事なのです。

 濃いのは商売人だけではありません。通行人や店自体など、商店街という空間の中に、異常に濃い人・物・事があふれ返っています。商店街を一歩出ればそこは「シャバ」で、泥臭いアーケードに囲まれたその商空間だけが、異様な濃密さを形成しているのです。

 そしてその商店街が、いわゆる「下町」であればあるほど、濃さはアップします。地域の密着度が強いため濃さが濃さが生み、都市部と隔絶された、濃いものだらけの異空間になっているのです。

 そこで今回は、「下町の商店街はどれだけ濃いか?」の考察~通行人編~です。

 今回は、「通行人編」「お店編」とに分けて、「下町の商店街がいかに濃いか」をご紹介します。

 まずは、通行人編です。

 僕が過去に遭遇した、商店街を歩いている「濃い人種」をご紹介します。

①歩くのが遅すぎるババアがいる
 これは、どの商店街にもいます。

 シャバのババアよりも、商店街のババアのほうが歩くのが遅いです。手でバギーを押しながら、のろのろと歩いています。僕はこれを「バギーババア」と呼んでおり、とにかく遅いのです。

 しかも、尋常じゃないレベルで、腰が曲がっています。シャバのババアは曲がって90度までなのですが、商店街のババアは120度、いやヘタしたら、180度近く曲がっています。「今日、犬のウンコを顔で踏んだわ!」なんて日本語が通用しそうなほど、腰が曲がりすぎて頭が垂れているのです。

 3週間前のことです。

 地元の商店街を歩いていると、僕の前に、120度クラスのバギーババアがいました。

 僕はバギーババアを抜いて、50メートルほど先のコンビニに入りました。そして、少年ジャンプを軽く立ち読みしてトイレを借り、店を出てもと来た道を引き返したら、すれ違ったんですよ。

 遅すぎるやろ、いくらなんでも!落ち武者か、お前!

 この人はマラソンを完走するのに、20年以上かかりますよ。スタート地点にいるとき、「ばあちゃん、がんばって!」と言ってたかわいい孫が、折り返し地点で「ババア、こづかいくれよ!」と成長してグレててもおかしくないほどなのです。

 また、商店街のババアは、シャバのババアにも増して、見た目が強烈です。

 特筆すべきは頭部で、猟奇的なレベルでハゲている奴がいます。頭部中央が更地で、その周囲を残った毛が森林のように囲んでいるため、琵琶湖みたいなのです。

 何かつけろよ、お前!一応は女やねんから、カツラか何かつけろや!

 しかも、異様に口をモグモグさせています。「それ、エアフェ○チオしてんの?」というぐらい、何も食べていないのに口をモグモグさせているのです。

 亡くなったジジイが恋しいんか、お前!「ジイサンとのあの夜をもう1度!」とかそういうことか!?

 下町の商店街には、「バギーババア」「琵琶湖ババア」「モグモグババア」など、個性的なババアがうじゃうじゃしています。シャバのババアとは一線を画しており、見ていて恐ろしいものがあるのです。

②買物をしすぎて、荷物が多すぎるオバハンがいる
 これも、頻繁に見かけます。

 商店街のスーパーマーケットは安いです。ミカンやら長ネギやらで、荷物がどえらいことになっています。僕はこれを「手荷物オバハン」と呼んでおり、ひどい場合、5袋以上も買い込んでいるのです。

 買いすぎやろ、いくらなんでも!ボーナスもらいたての外資系のOLか!

 手荷物オバハンは、袋を自転車にかけて帰ります。

 自転車のあらゆる部位に引っかけるため、漕ぎ姿が異様です。前カゴはもちろんのこと、左グリップに1袋、右グリップに2袋、後ろの荷台に2袋とすべてを利用し、フラフラになりながら大地を駆けるのです。

 なかでもその昔、僕が見た「6袋オバハン」はすごかったですよ。前カゴに1、左グリップに1、右グリップに1で、ベルにも1袋かけ、荷台に座らせた子供に両手で1袋ずつ持たせていたのです。

 夜逃げか、お前!日中の大胆な夜逃げか!

 前カゴに長ネギを刺しすぎて、八つ墓村みたいです。前から見たら、頭にダイナマイトをくくりつけいているみたいで怖いんですね。

 それでも100歩譲って、これは、まだわかります。

 なかには自転車ではなく、全身を使って持って帰ろうとするオバハンがいます。左腕に2袋、右腕に2袋を通し、残り1袋をリュックサックみたいに、袋に両腕を通して背中で担いでいる奴がいるのです。

 東京帰りの田舎者か、お前!おみやげ買いすぎたんか!

 なかでも、うちの母親はすごいですよ。先日も4袋持っていたのですが、左の二の腕に3袋通して手で1袋持ち、余った右手でみたらし団子を食べていたのです。

 家に着いてから食えや!ていうか、体が左に傾いてめちゃくちゃ食いにくそうやんけ!安定悪すぎて、串の先でほっぺた刺しそうやんけ!

 そんな手のふさがった状態なのに、ずってきたメガネを手で戻します。天然なのか何なのかわかりませんが、その「オバハンらしさ」に、毎度驚かされるのです。

③服がダサすぎるオッサンがいる
 これも、レギュラーでいます。ピーコが見たら頭から煙が出そうなほど、信じがたいコーディネートのオッサンがいるのです。

 「肌が隠せてたらそれでいいわ!」とばかりに、人に見られることをまったく意識していません。奇跡のコーディネーターがうじゃうじゃしており、頻繁に目撃するのが、全身が黒(OR茶色)の奴です。

 「自分、焼死体か?」というぐらい、上着やズボン、靴や靴下に至るまで真っ黒です。色にかぎった話ではなく、ファイナルファンタジーに出てくるバーサーカーのように、全身、オオカミ柄で統一してる奴までいるのです。

 何があってん、お前!何かがないとそんなことにはならんぞ!聞いたるから俺に話してみろ!

 次に多いのが、「上下アンバランス型」です。

 めちゃくちゃなコーディネートで、色使いから何から、上下がまったく合っていません。つい先日も、黄緑色のニット帽をかぶり、上着はパンダのアップリケがついた紺色の長袖で、ズボンがヘビ柄の奴がいたのです。

 難民か、お前!物資に出遅れて、残りもんの服をつかまされた難民か!

 ですが、これらは、まだましです。僕が昨夏に見たオッサンなんて、麦わら帽子をかぶり、嫁が着ていたであろう女物のオレンジのジャンパーを着て、下は黄色の短パンやったんですよ。

 どこ行く気やねん、お前!あの世しか入れてくれるところないぞ、そんな格好やったら!

 これマジで、探せば、上がウェディングドレスで、下が柔道着の奴いますよ。そんな奴がいてもなんら不思議ではなく、先日も、阪神タイガースのハッピを着て、古いほうの巨人の帽子をかぶっているオッサンがいたのです。

 どこのファンやねん、お前!お前それは、共産党員がゲバラTシャツ着てるようなもんやぞ!

 一方、変にオシャレしすぎて、逆にダサいオッサンもいます。テンガロンハットをかぶるカウボーイ型や、若作りしようとして、破けたジーパンを履いたものの似合ってなかったりと、ダサいオッサンばかりなのです。

④ランボーそっくりのオバハンがいる
 これは最近知った法則なのですが、間違いありません。

 どの商店街にも、やたらとシルベスタいオバハンがいるのです。手入れが行き届いていないウェッティなロン毛、女性らしからぬ胸板の厚さ、特売品を狙う血走った目など、シルベスタさが尋常ではないのです。

 シルベスタいのは、見た目だけではありません。

 今回の記事を執筆するにあたり、何人かのランボーのあとをつけたのですが、まあ行動もランボーでしたよ。ワゴンセールへの突入感、値切る際の熱意、福引きの抽選機の回し方など、どれを取ってもランボー、いや「乱暴」なのです。

 ランボーは、より安い店を狙って、頻繁に移動をくり返します。最終的に、もといた店に帰ってきたりするので、「帰ってきたランボー」なのです。店を出るのは「怒りの脱出」で、物を買う店が「最後の戦場」なのです。

 ほかにも、小沢一郎そっくりのオバハンがいることにも気がつきました。

 こちらは、ランボーよりはレアなのですが、1時間もいれば、1人は必ず出くわします。

 一直線の一重、浅黒い肌、小太り……。「現状の政治に納得していない=現状の値段に納得していない」「壊し屋=まけてくれないと店の商品を壊しにかかる」など、意識や行動も小沢さんのそれなのです。

 なかでも1番多いのが、プロレスラーの天龍源一郎そっくりのオバハンですよ。

 パンチパーマのような髪の縮れ具合といい、切れ長の目といい、いびつな上半身といい、天龍そっくりのオバハンがごろごろしています。ゴキブリと同じで、「天龍を1人見たら100人は天龍がおる」と言っても過言ではないほど、下町の商店街は天龍だらけなのです。

 僕は過去に、3メートル四方の魚売り場で、天龍を3人見たことがあります。その空間の人間が「天龍、天龍、店員、天龍」みたく、安い魚をめぐって「海鮮バトルロイヤル」をくり広げていたのです。

 どうなってんねん、ここ!戦時中のドイツよりたち悪いぞ、この空間!

 「あんた、どきいや!」

 「あんたこそどきいや!」

 ケンカすんな、天龍同士で!ていうかこの店も「天龍は2人まで!」と貼り紙しとけよ!3人目が来たら、「奥さんすいません、うち、天龍は2人までなんですよ!」と断れよ!

 今回の記事の総仕上げに、先日、僕は行きつけの商店街に4時間いました。

 すると、6ランボー、3小沢、19天龍でしたからね。その後、食事をするために地元の商店街に行ったのですが、うどん屋に入るまでにランボーを2人見て、うどん屋を出た瞬間、目の前に天龍がいましたから。

⑤キチ○イが普通にいる
 下町の商店街には、キチ○イが普通にいます。「裏・商店街名物」といってもおかしくないほど、頭のおかしい奴が紛れ込んでいるのです。

 僕が大学生のときのことです。

 近くの商店街を歩いていると、女装したオッサンが、僕にこう話しかけてきました。

 「兄ちゃん、ホタルイカ、いらんか?」

 何言ってんねん、お前!誰がもらうねん、そんなもん!

 「ホタルイカ、どう?」

 どうやあるか、お前!どこのどいつが見知らぬオッサンからホタルイカもらうねん!

 「いらないです」

 「なんで?」

 お前もなんで!?お前もなんで昼間っからそんなことしてんの!?

 こいつは、近所でも有名な奴です。プレゼントをダシに、若い男をホテルに誘い込むのが目的なのですが、そのプレゼントは妙なものばかり。ホタルイカが1番多く、僕に1度、「兄ちゃん、このつぶ貝、いらんか?」と話しかけてきたのです。

 なんで海鮮ばっかりやねん、お前!どんなナンパやねん、それ!

 ほかにも、半年ほど前のことです。

 地元の商店街を歩いていると、汚い格好をしたオッサンが道行く人に、以下の言葉をかけまくっていました。

 「できる人は、毎日、朝ごはんを食べてるよ!」

 知らんがな、そんなもん!知るかいや、そんなこと言われても!

 「朝ごはんを食べないと負け組になっちゃうよ!」

 お前も負け組やろ!だいたいお前は、朝ごはん食べてないやろ!そんなボロボロの格好をしてるお前に、そんな余裕なんてないやろ!じゃあお前は「できない人」やんけ!できないお前がなんでそんなこと言うねん!

 とはいえ、これらは、まだましです。

 僕が小学生のころなんて、商店街の中にある家の軒先に座り、上半身裸でサトウキビを生で吸ってるオバハンがいたのです。

 勘弁してくれよ、おい!同じ人間とは思えんぞ、お前みたいな妖怪!

 「お帰り!」

 ごめん、話しかけんといて!ていうか、お前はいつこっちの世界に帰ってくんの!?人のことはええから、お前のほうこそ早く帰ってきてくれ!俺らにも「お帰り!」と言わせてくれ!

 下町の商店街には、このタイプのおかしな奴が、普通にいます。

 もちろん、商店街じゃなくてもおかしな奴はいるのですが、商店街には「普通にいる」のです。

 存在に違和感がなく、泥臭い風景と同化しています。商店街特有の人情味に居心地がいいのか、普通に紛れ込んでいるのです。


 そして、最後。

 これこそが、商店街を歩く人の最大の特徴です。

⑥どっちかわからない奴がいる
 みなさまも、1度は思ったことがあるはずです。

 「あんた、オッサンとオバハン、どっちなん?」と。

 先ほどのランボーや天龍が、いい例でしょう。

 オバハンの見た目がオッサンぽく、オッサンもオッサンで、オバハンみたいな顔をしています。中性的なファッションをしている人が多く、肌がやけにツルツルの人も多いので、まったく区別がつかないんですね。

 下町の商店街のオッサンやオバハンは、基本的には全員、親指みたいな顔をしています。至近距離で見ないと区別がつかず、これマジで、額に「オス」とか「メス」とか書かないとダメですよ。ルックスだけだと判断がつかず、話しかけにくいのです。

 ほかにも、チンピラ。

 商店街にはチンピラがたくさんいるのですが、下町にはもともと、ガラの悪い奴が多いです。首に鎖を巻いているのに目がかわいい奴もいれば、見た目は普通なのに声にドスがきいている奴もおり、その筋の人かどうかの区別がつかないのです。

 なかでも、1番区別がつかないのが、ホームレスです。

 下町の商店街には、もともと小汚い奴が多いです。服装はきちんとしているのに顔が小汚い、服装は汚いけど顔はシュッとしているなど、どっちかわかりません。

 僕の家は代々、地域の民生委員をしています。その関係で、うちの母親がホームレスの方に話を聞いて回ることがあるのですが、「どっちかわからない人がおる!」と、毎回、言います。小汚いだけの人に、「寒くはないですか?」と訊くのは失礼なので、毎回、頭を悩ませているのです。

 先日、あまりにもどっちかわからない奴がいたため、僕はもう、訊いてやりましたよ。

 「すいません。失礼ですけど、どっちなんですか?」

 「えっ?」

 「オジサンは、どっちの人なんですかね?」

 「どっちって、何が?」

 「そっちの人なのか、普通の人なのか、ってことですよ」

 「あっ、はいはい」

 「どっちの人なんですか?」

 「そっちです」

 そっちですって、おい!そんな答え方あるか、お前!

 「そっちそっち!」

 明るいな、お前!ちょっと安心したわ!

 このように、商店街には、どっちかわからない奴が多いです。下町の味といえば味なのですが、商店街フリークの僕としては、そろそろはっきりしてほしいのです。


 以上が、今回の考察です。

 次回は、この通行人編を踏まえた、「お店編」をお送りします。

 商店街のお店、ならびにそこの店員は、通行人以上に濃いです。読まれる方は、覚悟してくださいね……。