新・バスコの人生考察 -20ページ目

餃子の王将のランチピーク時はどれだけ雑か?の考察(パソコン読者用)

※2008年・5月20日の記事を再々編集


 「餃子の王将」という中華料理屋があります。関西では知らない人がいないほどの有名店で、全国展開していることからも、ご存知の方は多いでしょう。


 僕は、王将が大好きです。通算で500回以上も利用しており、安くてうまいを地でいく、すばらしい中華料理屋でしょう。


 ですが、1つだけ、大きな欠点があります。そしてその欠点が時として、客をイライラさせてしまうのです。


 それは、「雑さ」です。


 味こそおいしいものの、王将の雑さと適当さといったら、尋常ではないのです。


 王将は、カウンター席に座ると、厨房が見えます。雑すぎて笑けてくるほどで、なにしろカウンター席から、作り置きのチャーハンが丸見えなのです。


 棺桶みたいなカゴに、チャーハンがぶち込まれています。厨房内の汚さも相まって、ゾウのエサにしか見えません。


 フロアの床も、「愛液まいたんか?」というぐらいヌルヌルで、杖をついた老人が来ようものなら、見ていてヒヤヒヤするのです。


 なかでも、1番忙しい時間帯であるランチタイムは、まぁ雑ですよ。


 ひと言で言うと「戦争」で、全従業員がすさまじい剣幕で料理戦争を繰り広げているのです。


 そこで今回は、「餃子の王将のランチピーク時はどれだけ雑か?」の考察です。


 以下、僕が過去に目撃した、ランチピーク時の「雑さ」についてご紹介します。


 全店舗に共通するわけではございませんが、僕は現在も7店舗使い分けています。それらを見た上での判断なので、信憑性は高いです。


①あまりの忙しさに、厨房の従業員がケンカを始める
 ピーク時における従業員の口の悪さは、半端ではありません。


 どの従業員も、溜まった伝票への切迫感から、機嫌が悪いです。厨房内でケンカが始まり、つい先日も、こんなやり取りがありました。


 「おい、餃子、あと何分で焼けんねん?」


 「……」


 「聞いてんのか!あと何分や?」


 「知るかいや、ボケ!機械に言えや、そんなこと!」


 「機械なんて関係あるか!お前の焼き方に問題があるんと違うんか!?」


 「お前のほうこそ人のことはええから、さっさとカラアゲ揚げろや!」


 「とっくにやっとるわ!文句あるんやったらフライヤーに言えや!」


 「お前も機械のせいにしとるやないか!」


 漫才やんけ、これ!このやり取り、完全にプロの漫才やんけ!


 客に丸聞こえなんですよ、これ。カラアゲを注文した客が目の前にいるのに、平気でこんなケンカを始めるのです。


 ほかにも、「米炊いたか?おい、米炊いたんか?」「すぐには無理ですよ、店長!」「アホ!ランチの米を食い放題にしてる店が、米切らしてどないすんねん!」「(客が)すいません、ご飯のおかわりをもらえますかね?」「ほらみろ!このままやとなくなるやろが!」「じゃあ店長が炊いてくださいよ!」「無理じゃ、ボケ!」「じゃあ昨日の残りの米を使いますよ?」「アホか!それはチャーハンに使え!」と、チャーハンを頼んだ僕の横で叫んだのです。


 ふざけんなよ、お前!お前それは、風俗の入口に客がいんのに「性病のあの女、病院に行ったんか?」「行ってません!」と会話するのと同じやぞ!


 手間のかかるオーダーが入ると、ますます機嫌が悪くなります。


 先日、お子様セットが3つ注文されたときのこと。「なんで昼間からお子様やねん!」「客が頼んでんからしゃあないやろ!」「なんでお子様を食うかな……」「(客が)お忙しいのでしたら、お子様セットはやめましょうか?」「……いやいや、とんでもないです!失礼しました!」と、客のほうが気を遣っていたのです。


 なめてんのか、お前!で、ちょっと考えたやろ今!?一瞬、やめてもらおうかなとか思ったやろ!?


 なかでも、パーティーセットを注文されたときの口の悪さだけは、常軌を逸してますよ。「なんで昼時にパーティーセットなんて持って帰んねん!」と叫び、しまいには、「だいたい、王将の飯なんかでパーティーすんなよ!」と、自分の店の料理を全否定したのです。


 何考えとんねん、お前!それはもう、完全に客への悪口やぞ!


 「シャレならんわ!」


 お前がシャレならんわ!本気でシャレならんこと言ってるぞ!


 丸聞こえのお持ち帰りの客は、すさまじい悲壮感を漂わせています。「ほんまに大丈夫かここ……」と、不安そうな顔で長時間待たされているので、はたから見れば、おかしくて仕方がないのです。


②イライラを食材と新人従業員にぶつける
 これは、必ず見かけます。イライラして、何かに当たらないと気が済まない従業員が現われるのです。


 機嫌の悪さは、まず、食材へのやつ当たりで出ます。


 王将は、大きなザルに野菜が入っています。手に取るのではなくひんだくり、また、その炒め方がすさまじいのです。「シャブ切れたんか?」というぐらい鬼の形相で鉄鍋をふり倒し、しかもテンぱりすぎてこぼしまくっているのです。


 こぼしすぎやねん!そのこぼした分だけで、奴隷の2日分はあるぞ!


 なかでも、チャーハンのこぼし方だけは、尋常じゃないですよ。「半分以上こぼしてないか?」というぐらい周囲に撒き散らし、手づかみで味見したかと思えば、「熱っ!」と叫んで床に吐き出すのです。


 吐くなよ、おい!食う気なくすやんけ、こっちは!


 「からいやんけ、これ!」


 お前のせいやろ、それは!からいのは100%、お前のせいやろ!


 その昔、餃子16人前と、から揚げ8人前が注文されたときのこと。聞かされた従業員が「餃子、16!?ふざけんなよ!」と声を荒げ、キャベツを床に叩きつけたのです。


 ケガ人出るわ、もう!何かわからんけど、そんなことやられたらケガ人出そうやわ!


 「そんなに食うんやったら、もうパーティーセット頼めや!」


 それはそれで怒るやろ、お前!パーティーセットなんて頼まれたら、キャベツどころかチャーハンカゴごと叩きつけるやろ!


 そのイライラは次第に、仕事のできない新人従業員に向けられます。「悪口のプロ」みたいな奴がおり、新人に、えげつない暴言を吐くのです。つい先日も、「おい、そこのブタ!オイスターソースを追加しとけ!」「オイスターソースってどこにあるんですか?」「なんで知らんねんボケ!しばき倒し回すぞ!」って言ったんですよ。


 しばき倒し回すぞですよ!?しばいて倒すだけでは飽き足らず、まだ回すんですよ!?


 ほかにも、「おい、ブタ!お前、キャベツ切ったんか?」「すいません、まだです!」「死ね!焼死しろ!」と、死に方まで指定したかと思えば、ブタがオーダーを間違って作ったときなど、首の裏にハイキックを入れたのです。


 死人出るわ、もう!ケガ人どころの話じゃないわ、死人出るわマジでもう!


 ですが、蹴られたブタも慣れっこなのか、文句を言いません。「はい、いつものハイキックがきた!」とばかりに意に介さず、当たり前のように作業を続けるのですが、蹴ったほうもテンぱりすぎて、自分を見失っています。重ねてある、お持ち帰り用のトレーをブタが倒した際、めちゃくちゃかわいい声で「もうっ!」と叫んだのです。


 何キャラやねん、お前!キャラをはっきりせいや!お前それは、ヤ○ザがサンリオグッズ集めるようなもんやぞ!


 この王将は、僕の家からは遠いです。ですが、僕はこの2人のかけ合いを見るためだけに、わざわざ通っているほどなのです。


③厨房がピンチになると、ホールから助っ人が乱入して、中途半端な料理を作る
 王将は料理の出が悪いと、ホールスタッフを乱入させます。ですがたまに、女子高生がやってくるのです。


 もちろん、ちゃんと作れるなら、いいですよ。とはいえ、適当もいいところ。以前に一度、作り置きのチャーハンを作っているのを見たことがあるのですが、量が多すぎて鉄鍋が持てず、まったく振れていません。味付けも適当で、おたまで丸く皿に載せられず、手で丸めやがったのです。


 新妻か、お前!手料理バージンの新妻か、お前は!


 王将は、料理名を専門用語で呼びます。皿うどんのことを「バリ」と呼んでいるのですが、この子は厨房から直接渡す際、僕に「バリお待たせしました!」と言って渡してきたのです。


 いやいや、バリとか言われても!もしかしてそれ、「私はバリバリアホです!」とかそういうこと!?


 「テンハンは、もうちょっと待ってくださいね!」


 テンハンて、おい!噛んだチャオズか、お前!


 それでも100歩譲って、女子高生は、まだ許せます。なにしろなかには、どう考えても戦力にならない、とんでもない奴が乱入してくることがあるのです。


 その昔、とある王将で、洗い場専門のオッサンが調理場に回されました。


 このオッサンは、異常にトイレが近いです。「トイレ、行かしてください!」「すいません、またトイレに!」と、ピーク中なのに10分おきにトイレに行きやがるのです。


 膀胱どうなってんねん、お前!論文書けるわ、お前の体で!


 ひと段落してから行けばいいのに、餃子が焼けそうなタイミングで「すいません、もう一度トイレに!」と叫びます。しまいには店長に、「~さん、もういいから洗い場に戻ってください!」と怒られ、「わかりました!ただ、その前にもう一度トイレに!」と言ってまたトイレに行ったんですよ!


 もう働くな、お前!金輪際、飲食で働くな!


 「もう一度トイレに~~~!」


 トイレに住め、お前はもう!ドアに「使用 中」みたいな名前っぽい表札掲げとけ!


 なのに王将は、忙しくても休憩に行く奴がいます。散々客を待たせているのに、「休憩いただきまーす!」と、マカナイ持参で厨房を出て行く奴がいるのです。


 何考えとんねん、お前!しばき倒し回したろか!


 「ゆっくり休んでこいよ!」


 やかましいわ!しばき倒し回し蹴り殺したろか!


 「あっ、今日のマカナイ、ヤキソバか」


 ごめん、俺、ヤキソバ待ってんねんけど!?客より先に従業員がマカナイで持って行ってもうてんけど!?


 もうね、怒りを通り越して、笑けてきますよ。


④ただでさえ従業員のキャラが濃いのに、忙しさに比例して、どんどん濃くなっていく
 王将の従業員は、濃い奴が多いです。男臭い猛者ばかりで、忙しくなるにつれて、どんどんキャラが濃くなっていく
のです。


 僕が通うスポーツジムの近くの王将に、10センチ以上のアゴヒゲをたくわえたオッサンがいます。この人は忙しくなると、周りが見えません。ピーク中は毎回、アゴヒゲに何らかの食材が付着しており、ネギやキャベツは当たり前、一度、ピンクのカマボコが付いていたのです。


 釣りに行け、お前!海にアゴ浸けとったら、まぁまぁの魚が捕れるわ!


 「そこのマヨネーズを取ってくれ!」


 お前がまず取れ!それ取ったら取ったるわ!


 僕とは話をする仲なのですが、とにかく強烈です。客が注文した生中をひと口飲んでから渡したり、忙しくてテンぱると、コップに入れてある日本酒を景気づけで飲むのです。


 商売なめてんのか、お前!お前は松下幸之助の本を8000回読め!


 ひと口飲んだ生中を渡す際、口ヒゲには泡が付着しています。「お前、飲んだやろ?」と、いつ客に突っ込まれないかと、近くの僕は生きてる心地がしないのです。


 ヒヤヒヤさせんなよ、お前!デブの馬跳び見てるみたいやわ!


 先日、顔にガーゼを付けていました。僕が「どうしたんですか?」と訊くと、「足にギプスをしたまま働いたんやけど、バランスを崩して顔にヤキソバをこぼしちゃったよ、へへへへへ!」と軽く言ったんですよ。


 お前、顔にヤキソバこぼすか、普通!?医者に説明しようないわ、そんなもん!


 ほかにも、僕が大学生のときのことです。


 大学の近くの王将にいじめられている従業員がいて、こいつに至っては、心の声が口に出てしまっていました。「餃子を焦がしたら、また店長に怒られるわ」「鈴木さんが休憩終わったら、今度は僕が休憩に行く番やわ」と、完全に心の声が出ています。その声は忙しくなるにつれてエスカレートし、「本当はやめたいけど、お金がほしいからやめられへんわ!」と、客の目の前でガンガンにしゃべっているのです。


 よう面接通ったな、お前!お前だけじゃなくて店長もおもろいわ!


 「店長に髪を切れと怒られたけど、僕はそんなに長くないわ!」


 やかましいわ!ていうか、普段はどうしてんのお前?寝ながらも、「僕は今、怖い夢を見てるわ。でも夢やから大丈夫やわ」とか言ってんのか!?


 キャラが濃いのは、従業員だけではありません。王将のカウンターには、腹をすかせた猛者が集まります。定食を2つ食べる奴など当たり前、こないだ見た客なんて、「とりあえず、餃子4つ!」って言ったんですよ。


 とりあえずと違うわ、お前!フィニッシュにせいや、それで!


 隣の客が残していった料理を食べる奴までおり、とにかく普通ではありません。とりわけ注文が遅いと、「早く持ってこいや!」「俺のほうが先に頼んだのに、なんでこいつのほうが先やねん!」と怒鳴り始めるので、隣に座ると気が気でないのです。



 そして、最後。これだけは本当に、「どういうつもりなん?」と説教したいです。


⑤中国人従業員のテンぱり方が尋常ではない
 テンぱるのは、厨房だけではありません。それはホールも同じで、最近は、片言の日本語を話す中国人が多く、中国
人のテンぱり方がまた、尋常ではないのです。


 僕の近所の王将に、中国人の若い女の子がいます。この子は店内の電話が鳴ると、「ギョウザノオウショウーーー!!!」と叫んで電話に出るのです。


 どこの王将やねん、お前!相手びっくりするやろ!間違ってかけてたらまったく意味わからんやろ!


 「オマチシテマーーース!!!」


 行く気なくすわ!お前がおるんやったらバーミヤンのほう行くわ!


 王将では厨房にオーダーを通す際、料理名(専門用語)をマイクで叫ぶのですが、この子はめちゃくちゃな言葉を叫びます。たとえば、餃子2人前とチャーハン1人前で、「リャンガーコーテル、ソーハンイー!」と言うところを、「リャン、リャリャリャリャン、リャンリャンタンタンガー、ココーデルー、ソソソソ、ソーリャンソーリャン……」と叫ぶのです。


 何言ってんねん、お前!で、タンタンガーって何!?いくら探してもそれっぽい言葉が見つからへんねんけど!?


 「タンタンガー、イー!」


 そんなもんないねん、この店に!それは完全にお前の造語やねん!


 しかもたまに、「タイガイニセー!」と聞こえてきます。「リャンリャンコーテル、ソソーハンイー、チャイタイタイ、タイガイニセー!」的なことを言ってくるので、こんなもん、「お前が大概にせえよ!」という話なんですね。


 とはいえ、「ジャンボヤナギ(ラーメン大盛り)」のときだけは、やたらと発音がいいです。気に入っているのか、「待ってました!」とばかりに、「ジャンボヤナギ!」「はい、ジャンボヤナギ!」と満面の笑みで言ってくるので、そのギャップがおかしくて仕方がないんですね。


 ほかの従業員は、この子のテンぱり具合にあきれています。そのうちの1人が「お前、もうええから、レタス買ってこい!」と怒鳴りつけたところ、「イツ?」って言ったんですよ。


 今や!こんな忙しいのに未来のこと頼むか、ボケ!


 「イツ、イッタライイノ?」


 今逝け!行くんじゃなくて、逝け!迷惑やから今すぐに死んでくれ!


 それでも、これらは一生懸命にやっています。まだ許せるものの、こちらが話しかけると、「アンッ?」と返してきます。「すいません、タルタルソースってあります?」「アンッ?」「いやあの、タルタルソースです」「タルタル?」「タルタルです」「…………アンッ?」「もういいですわ!」と、あきらめざるをえないのです。


 国に帰れ、もう!国に帰って、もう一度共産主義に身を委ねろ!お前に資本主義は無理やわ!


 最低限のマナーも知らない外国人など、雇ってはダメです。僕は笑って許しているものの、ニラみつけている客もいます。関係のない客からしたらヒヤヒヤで、食事どころではないのです。



 以上が、今回の考察です。


 このように王将は、すべてが雑なのです。


 なかでも、「関西」「休日の12時30分~13時」「駐車場のある大型店舗」の3つの条件を満たせば、かなりの確率で、上記のような「雑さ」に遭遇します。


 とはいえ、僕は王将が大好きです。


 その雑さを差し引いても、値段と味は文句のつけようがありません。僕は本当に、世界ナンバーワンの中華料理屋だと思っていますから。


 ちなみに、先ほどの中国人。


 この子は、店から10メートルもないところに住んでいます。なのにその10メートルを、原付きに乗ってやってくるのです。


 歩けよ、お前!停車する時間考えたら、歩いたほうが早いやろ!


 お前、タイガイニセー!!!



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餃子の王将のランチピーク時はどれだけ雑か?の考察(携帯読者用)

※2008年・5月20日の記事を再々編集

 「餃子の王将」という中華料理屋があります。関西では知らない人がいないほどの有名店で、全国展開していることからも、ご存知の方は多いはずです。

 僕は、王将が大好きです。通算で500回以上も利用しており、安くてうまいを地でいく、すばらしい中華料理屋でしょう。

 ですが、1つだけ、大きな欠点があります。そしてその欠点が時として、客をイライラさせてしまうのです。

 それは、「雑さ」です。

 味こそおいしいものの、王将の雑さと適当さといったら、尋常ではないのです。

 王将は、カウンター席に座ると、厨房が見えます。雑すぎて笑けてくるほどで、なにしろカウンター席から、作り置きのチャーハンが丸見えなのです。

 棺桶みたいなカゴに、チャーハンがぶち込まれています。厨房内の汚さも相まって、ゾウのエサにしか見えません。

 フロアの床も、「愛液まいたんか?」というぐらいヌルヌルで、杖をついたジジイが来ようものなら、見ていてヒヤヒヤするのです。

 なかでも、1番忙しい時間帯であるランチタイムは、まあ雑ですよ。

 ひと言で言うと「戦争」で、全従業員がすさまじい剣幕で、料理戦争を繰り広げているのです。

 そこで今回は、「餃子の王将のランチピーク時はどれだけ雑か?」の考察です。

 以下、僕が過去に目撃した、ランチピーク時の「雑さ」についてご紹介します。

 全店舗に共通するわけではございませんが、僕は現在も、7店舗使い分けています。それらを見た上での判断なので、信憑性は大きいです。

①あまりの忙しさに、厨房の従業員がケンカを始める
 ピーク時における従業員の口の悪さは、半端ではありません。

 どの従業員も、溜まった伝票への切迫感から、機嫌が悪いです。厨房内でケンカが始まり、つい先日も、こんなやり取りがありました。

 「おい、餃子、あと何分で焼けんねん?」

 「……」

 「聞いてんのか!あと何分や?」

 「知るかいや、ボケ!機械に言えや、そんなこと!」

 「機械なんて関係あるか!お前の焼き方に問題があるんと違うんか!?」

 「お前のほうこそ人のことはええから、さっさとから揚げを揚げろや!」

 「とっくにやっとるわ!文句があるんやったらフライヤーに言えや!」

 「お前も機械のせいにしとるやないか!」

 漫才やんけ、これ!このやり取り、完全にプロの漫才やんけ!

 客に丸聞こえなんですよ、これ。から揚げを注文した客が目の前にいるのに、平気でこんなケンカを始めるのです。

 ほかにも、「米炊いたか?おい、米炊いたんか?」「すぐには無理ですよ、店長!」「アホ!ランチの米を食い放題にしてる店が、米切らしてどないすんねん!」「(客が)すいません、ご飯のおかわりをもらえますかね?」「ほらみろ!このままやとなくなるやろが!」「じゃあ店長が炊いてくださいよ!」「無理じゃ、ボケ!」「じゃあ昨日の残りの米を使いますよ?」「アホか!それはチャーハンに使え!」と、チャーハンを頼んだ僕の横で叫んだのです。

 ふざけんなよ、お前!お前それは、風俗の入口に客がいるのに、「性病のあの女、病院に行ったんか?」「行ってません!」と会話するのと同じやぞ!

 手間のかかるオーダーが入ると、ますます機嫌が悪くなります。

 先日、お子様セットが3つ注文されたときのこと。「なんで昼間からお子様やねん!」「客が頼んでんからしゃあないやろ!」「なんでお子様を食うかな……」「(客が)お忙しいのでしたら、お子様セットはやめましょうか?」「……いやいや、とんでもないです!失礼しました!」と、客のほうが気を遣っていたのです。

 なめてんのか、お前!で、ちょっと考えたやろ、今!?一瞬、やめてもらおうかな、と思ったやろ!?

 なかでも、パーティーセットを注文されたときの口の悪さだけは、常軌を逸してますよ。「なんで昼時にパーティーセットを持って帰んねん!」と叫び、しまいには、「だいたい、王将の飯なんかでパーティーすんなよ!」と、自分の店の料理を全否定したのです。

 何考えとんねん、お前!それはもう、完全に客への悪口やぞ!

 「シャレならんわ!」

 お前がシャレならんわ!本気でシャレにならんこと言ってるぞ!

 丸聞こえのお持ち帰りの客は、すさまじい悲壮感を漂わせています。「ほんまに大丈夫か、ここ……」と、不安そうな顔で長時間待たされているので、はたから見れば、おかしくて仕方がないのです。

②イライラを食材と新人従業員にぶつける
 これは、必ず見かけます。イライラして、何かに当たらないと気が済まない従業員が現われるのです。

 機嫌の悪さは、まず、食材へのやつ当たりで出ます。

 王将は、大きなザルに野菜が入っています。手に取るのではなくひんだくり、また、その炒め方がすさまじいのです。「クスリ切れたんか?」というぐらい鬼の形相で鉄鍋をふり倒し、しかもテンぱりすぎて、こぼしまくっているのです。

 こぼしすぎやねん!そのこぼした分だけで、奴隷の2日分はあるぞ!

 なかでも、チャーハンのこぼし方だけは、尋常ではないですよ。「半分以上こぼしてないか?」というぐらい周囲に撒き散らし、手づかみで味見したかと思えば、「熱っ!」と叫んで床に吐き出すのです。

 吐くなよ、おい!食う気なくすやんけ、こっちは!

 「からいやんけ、これ!」

 お前のせいやろ、それは!からいのは100%、お前のせいやろ!

 その昔、餃子16人前と、から揚げ8人前が注文されたときのこと。聞かされた従業員が「餃子、16!?ふざけんなよ!」と声を荒げ、キャベツを床に叩きつけたのです。

 ケガ人出るわ、もう!何かわからんけど、そんなことやられたらケガ人が出そうやわ!

 「そんなに食うんやったら、もうパーティーセット頼めや!」

 それはそれで怒るやろ、お前!パーティーセットなんて頼まれたら、キャベツどころかチャーハンをカゴごと叩きつけるやろ!

 そのイライラは次第に、仕事のできない新人従業員に向けられます。「悪口のプロ」みたいな奴がおり、新人に、えげつない暴言を吐くのです。つい先日も、「おい、そこのブタ!オイスターソースを追加しとけ!」「オイスターソースってどこにあるんですか?」「なんで知らんねん、ボケ!しばき倒し回すぞ!」って言ったんですよ。

 しばき倒し回すぞですよ!?しばいて倒すだけでは飽き足らず、まだ回すんですよ!?

 これは推測ですが、こいつの機嫌の悪さがMAXになったら、「お前、殺しバラし埋めるぞ!」とか言いますよ。いやテンぱりすぎて、「殺しバラし、葬式を挙げるぞ!」と、「最後、いい奴やんけ!」と突っ込まれかねないほどの暴言を吐いてもおかしくないのです。

 ほかにも、「おい、ブタ!お前、キャベツ切ったんか?」「すいません、まだです!」「死ね!焼死しろ!」と、死に方まで指定したかと思えば、ブタがオーダーを間違って作ったときなど、首の裏にハイキックを入れたのです。

 死人出るわ、もう!ケガ人どころの話じゃないわ、死人が出るわ!

 ですが、蹴られたブタも慣れっこなのか、文句を言いません。「はい、いつものハイキックがきた!」とばかりに意に介さず、当たり前のように作業を続けるのですが、蹴ったほうもテンぱりすぎて、自分を見失っています。重ねてある、お持ち帰り用のトレーをブタが倒した際、めちゃくちゃかわいい声で「もうっ!」と叫んだのです。

 何キャラやねん、お前!キャラをはっきりせいや!お前それは、ヤ○ザがサンリオグッズ集めるようなもんやぞ!

 この王将は、僕の家からは遠いです。ですが、僕はこの2人のかけ合いを見るためだけに、わざわざ通っているほどなのです。

③厨房がピンチになると、ホールから助っ人が乱入して、中途半端な料理を作る
 王将は料理の出が悪いと、ホールスタッフを乱入させます。ですがたまに、女子高生がやってくるのです。

 もちろん、ちゃんと作れるなら、いいですよ。とはいえ、適当もいいところ。1度、作り置きのチャーハンを作っているのを見たことがあるのですが、量が多すぎて鉄鍋が持てず、まったく振れていません。味付けも適当で、おたまで丸く皿に載せられず、手で丸めやがったのです。

 新妻か、お前!手料理バージンの新妻か、お前は!

 王将は、料理名を専門用語で呼びます。皿うどんのことを「バリ」と呼んでいるのですが、この子は厨房から直接渡す際、僕に「バリお待たせしました!」と言って渡してきたのです。

 いやいや、バリとか言われても!もしかしてそれ、「私はバリバリアホです!」とかそういうこと!?

 「テンハンは、もうちょっと待ってくださいね!」

 テンハンて、おい!噛んだチャオズか、お前!

 それでも100歩譲って、女子高生は、まだ許せます。なにしろなかには、どう考えても戦力にならない、とんでもない奴が乱入してくることがあるのです。

 その昔、とある王将で、洗い場専門のオッサンが調理場に回されました。

 このオッサンは、異常にトイレが近いです。「トイレ、行かしてください!」「すいません、またトイレに!」と、ピーク中なのに10分おきにトイレに行きやがるのです。

 膀胱どうなってんねん、お前!論文書けるわ、お前の体で!

 ひと段落してから行けばいいのに、餃子が焼けそうなタイミングで、「すいません、もう1度トイレに!」と叫びます。しまいには店長に、「~さん、もういいから洗い場に戻ってください!」と怒られ、「わかりました!ただ、その前にもう1度トイレに!」と言ってまたトイレに行ったんですよ!

 もう働くな、お前!金輪際、飲食で働くな!

 「もう1度トイレに~~~!」

 トイレに住め、お前はもう!ドアに「使用 中」みたいな名前っぽい表札掲げとけ!

 なのに王将は、忙しくても休憩に行く奴がいます。散々客を待たせているのに、「休憩いただきまーす!」と言って、マカナイ持参で厨房を出て行く奴がいるのです。

 何考えとんねん、お前!しばき倒し回したろか!

 「ゆっくり休んでこいよ!」

 やかましいわ!しばき倒し回し蹴り殺したろか!

 「あっ、今日のマカナイ、ヤキソバか」

 ごめん、俺、ヤキソバ待ってんねんけど!?客より先に、従業員がマカナイで持って行ってもうてんけど!?

 もうね、怒りを通り越して、笑けてきますよ。

④ただでさえ従業員のキャラが濃いのに、忙しさに比例して、どんどん濃くなっていく
 王将の従業員は、濃い奴が多いです。男臭い猛者ばかりで、忙しくなるにつれて、どんどんキャラが濃くなっていくのです。

 僕が通うスポーツジムの近くの王将に、10センチ以上のアゴヒゲをたくわえたオッサンがいます。

 この人は忙しくなると、周りが見えません。ピーク中は毎回、アゴヒゲに何らかの食材が付着しており、ネギやキャベツは当たり前、1度、ピンクのカマボコが付いていたのです。

 釣りに行け、お前!海にアゴ浸けとったら、まあまあの魚が捕れるわ!

 「そこのマヨネーズを取ってくれ!」

 お前がまず取れ!それ取ったら取ったるわ!

 僕とは話をする仲なのですが、とにかく強烈です。客が注文した生中をひと口飲んでから渡したり、忙しくてテンぱると、コップに入れてある日本酒を景気づけで飲むのです。

 商売なめてんのか、お前!お前は松下幸之助の本を8000回読め!

 ひと口飲んだ生中を渡す際、口ヒゲには泡が付着しています。「お前、飲んだやろ?」と、いつ客に突っ込まれないかと、近くの僕は生きてる心地がしないのです。

 ヒヤヒヤさせんなよ、お前!デブの馬跳び見てるみたいやわ!

 先日、顔にガーゼを付けていました。僕が「どうしたんですか?」と訊くと、「足にギプスをしたまま働いたんやけど、バランスを崩して顔にヤキソバをこぼしちゃったよ、へへへへへ!」と軽く言ったんですよ。

 お前、顔にヤキソバこぼすか、普通!?医者に説明しようないわ、そんなもん!

 ほかにも、僕が大学生のときのことです。

 大学の近くの王将にいじめられている従業員がおり、こいつに至っては、心の声が口に出てしまっていました。「餃子を焦がしたら、また店長に怒られるわ」「鈴木さんが休憩終わったら、今度は僕が休憩に行く番やわ」と、完全に心の声が出ています。その声は忙しくなるにつれてエスカレートし、「本当はやめたいけど、お金がほしいからやめられへんわ!」と、客の目の前でガンガンにしゃべっているのです。

 よく面接通ったな、お前!お前だけじゃなくて店長もおもろいわ!

 「店長に髪を切れと怒られたけど、僕はそんなに長くないわ!」

 やかましいわ!ていうか、普段はどうしてんの、お前?寝ながらも、「僕は今、怖い夢を見てるわ。でも夢やから大丈夫やわ」とか言ってんのか!?

 キャラが濃いのは、従業員だけではありません。王将のカウンターには、腹をすかせた猛者が集まります。定食を2つ食べる奴など当たり前、こないだ見た客なんて、「とりあえず、餃子4つ!」って言ったんですよ。

 とりあえずと違うわ、お前!フィニッシュにせいや、それで!

 隣の客が残していった料理を食べる奴までおり、とにかく普通ではありません。とりわけ注文が遅いと、「早く持ってこいや!」「俺のほうが先に頼んだのに、なんでこいつのほうが先やねん!」と怒鳴り始めるので、隣に座ると気が気でないのです。


 そして、最後。これだけは本当に、「どういうつもりなん?」と説教したいです。

⑤中国人従業員のテンぱり方が尋常ではない
 テンぱるのは、厨房だけではありません。それはホールも同じで、最近は、片言の日本語を話す中国人が多く、中国人のテンぱり方がまた、尋常ではないのです。

 僕の近所の王将に、中国人の若い女の子がいます。この子は店内の電話が鳴ると、「ギョウザノオウショウーーー!!!」と叫んで電話に出るのです。

 どこの王将やねん、お前!だいたい、相手はびっくりするわ!間違ってかけてたらまったく意味わからんわ!

 「オマチシテマーーース!!!」

 行く気なくすわ!お前がおるんやったらバーミヤンのほうに行くわ!

 厨房にオーダーを通す際、料理名(専門用語)をマイクで叫ぶのですが、この子は、めちゃくちゃな言葉を叫びます。たとえば、餃子2人前とチャーハン1人前で、「リャンガーコーテル、ソーハンイー!」と言うところを、「リャン、リャリャリャリャン、リャンリャンタンタンガー、ココーデルー、ソソソソ、ソーリャンソーリャン……」と叫ぶのです。

 何言ってんねん、お前!で、タンタンガーって何!?いくら探しても、それっぽい言葉が見つからへんねんけど!?

 「タンタンガー、イー!」

 そんなもんないねん、この店に!それは完全にお前の造語やねん!

 しかもたまに、「タイガイニセー!」と聞こえてくるのです。「リャンリャンコーテル、ソソーハンイー、チャイタイタイ、タイガイニセー!」的なことを言ってくるので、こんなもん、「お前が大概にせえよ!」という話なんですね。

 とはいえ、「ジャンボヤナギ(ラーメン大盛り)」のときだけは、やたらと発音がいいのです。気に入っているのか、「待ってました!」とばかりに、「ジャンボヤナギ!」「はい、ジャンボヤナギ!」と満面の笑みで言ってくるので、そのギャップがおかしくて仕方がないんですね。

 ほかの従業員は、この子のテンぱり具合にあきれています。そのうちの1人が「お前、もうええから、レタス買ってこい!」と怒鳴りつけたところ、「イツ?」って言ったんですよ。

 今や!こんな忙しいのに未来のこと頼むか、ボケ!

 「イツ、イッタライイノ?」

 今逝け!行くんじゃなくて、逝け!迷惑やから今すぐに死んでくれ!

 それでも、これらは一生懸命にやっています。まだ許せるものの、こちらが話しかけると、「アンッ?」と返してきます。「すいません、タルタルソースってあります?」「アンッ?」「いやあの、タルタルソースです」「タルタル?」「タルタルです」「…………アンッ?」「もういいですわ!」と、あきらめざるをえないのです。

 国に帰れ、もう!国に帰って、もう1度共産主義に身を委ねろ!お前に資本主義は無理やわ!

 最低限のマナーも知らない外国人など、雇ってはダメです。僕は笑って許しているものの、ニラみつけている客もいます。関係のない客からしたらヒヤヒヤで、食事どころではないのです。


 以上が、今回の考察です。

 このように王将は、すべてが雑なのです。

 なかでも、「関西」「休日の12時30分~13時」「駐車場のある大型店舗」の3つの条件を満たせば、かなりの確率で、上記のような「雑さ」に遭遇します。

 とはいえ、僕は王将が大好きです。

 その雑さを差し引いても、値段と味は文句のつけようがありません。僕は本当に、世界ナンバーワンの中華料理屋だと思っていますから。

 ちなみに、先ほどの中国人。

 この子は、店から10メートルもないところに住んでいます。なのにその10メートルを、原付きに乗ってやってくるのです。

 歩けよ、お前!停車する時間考えたら、歩いたほうが早いやろ!

 お前、タイガイニセー!!!

これは何なのか?の考察~ベスト版①~(パソコン読者用)

※過去の「ナンナン」の記事をごちゃ混ぜにして再編集


 ヤフーに、「知恵袋」という掲示板があります。


 ユーザーが掲示板に質問をし、それを見た人が疑問に答えるのですが、ふざけた質問がたくさんあります。先日、仕事の関係で知恵袋を利用したところ、「『ハウスバーモンドカレー』じゃなくて『ハウスバーモントカレー』って知ってました?」という質問があったのです。


 こんなことを言われても、「だから何なん?」としか言いようがありません。なのに、「へー、そうなんですか!」と、わざわざ返答している奴がいるのです。


 とはいえ、こんな質問は、まだましです。いろいろと検索したところ、あり得ない質問がたくさん出てきたのです。


 「ウンコ味のウンコとカレー味のウンコならどちらが食べたいですか?」


 ウンコやろ、両方とも!さすがにカレー味を選ぶわ、それは!で、「食べたいですか?」ってなんやねん!


 「彼女が伊良部秀輝に似ているのですが、どうしたらいいですか? 」


 別れろ!性格がどうとかは関係ないわ、別れろ!伊良部に似てるんやったらもう理屈じゃないから!


 「最近、スマップの石倉三郎さんを見かけないのですが、あの続きはどうなっているのでしょうか?」


 スマップと違うわ、あいつ!入れるか、あんな深海魚みたいなオッサン!で、あの続きってどの続きやねん!?


 僕は、世の中の「これ、何なん?」と思わずにはいられない人・物・事を、「ナンナン」と単位化しています。この「訳のわからない質問をしてくる奴」はナンナンにほかならず、迷惑以外の何物でもないのです。


 そこで今回は、「これは何なのか?」の考察~ベスト版①~です。


 以下、僕が考えるナンナンの数々をご紹介させていただきます。


①交通警察の注意の仕方 1ナンナン
 原付きに乗る僕は、年に1度は、違反切符を切られます。


 もちろん、違反したのは僕なので、切符を切られるのは仕方がありません。


 ただ、注意の仕方に腹が立つのです。切符を切られたことよりも、警察の言い分に納得が行かないのです。


 たとえばスピード違反をした場合、警察は十中八九、「そんなにスピード出して、人でも跳ねたらどないすんねん!」と怒鳴ります。


 ですが、僕が乗っているのは原付きです。スピードの出しすぎが人を跳ねると考えるのであれば、僕よりスピードを出している人は、ほかにたくさんいます。乗用車はもちろん、何だったら、僕を捕まえようと追いかけてきたパトカーは、僕よりもスピードを出しているのです。


 これ、おかしいでしょ?言ってる意味、まったくわからないでしょ!?


 しかもたまに、出っ歯の奴が、「お前、出しすぎや!」と注意してくるのです。


 お前も出しすぎやねん!そんなに歯出して人でも噛んだらどないすんねん!


 「出すにも限度があるやろ!」


 お前も限度あんねん!お前のその歯も限度超えとんねん!お前は「違反歯講習」を受けろ!


 ほかにもその昔、踏み切りで一旦停止をせず、捕まったことがあります。ただ、現場を間近で押さえたのではなく、30メートル先に隠れてチェックしていたのです。


 こんなもん、おかしいでしょ?「見たから!」とか言われても、説得力ないでしょ!?


 しかも何が腹立つかって、こいつはメガネをしているのです。


 目悪いやんけ、お前!視力低い奴が何を偉そうに言うとんねん!


 「俺、見とった!この目でちゃんと見とった!」


 だからその目はメガネやろ!説得力ないねん、お前に言われても!


 取り締まりのプロを自認するのであれば、相手を納得させなければなりません。2度と違反させないように啓発するのが本来の目的で、相手を納得させないまま帰らせれば、取り締まった意味がないでしょう。


②意味のわからないメールを送ってくる人 2ナンナン
 携帯電話に、どう返事すればいいのかわからない、謎のメールを送ってくる人がいます。


 たとえばその昔、「米が炊けました!」と言って、僕の携帯に炊飯器の写メールを送ってきた後輩がいたのです。


 これ、何なんですか?僕はどう返したらいいんですかね!?


 こいつとは今も付き合いがあり、たまにメールが送られてきます。つい先日も、「今年から我が家の暖房器具が変わりました!」と、ハロゲンヒーターの写メールが送られてきたのです。


 知らんがな、そんなもん!お前の家のあったか事情なんて興味ないねん!


 一応は「あったかそうやな」と返したものの、変な感じなんですよ。


 ほかにも仕事の同期に、やたらと熱いメールを送ってくる奴がいます。過去に、何の脈絡もなく、以下のメールが送られてきました。


 「俺、人は変われると思う」


 何言ってんねん、お前!夜中の2時に何を言ってくれとんねん!


 今年の正月には、年賀状メールが送られてきました。しかし、これがまた熱く、ちょっと気持ち悪いのです。


 「平成も21年目!牛のように熱く、猛々しく!今年もお互い、さらなる飛躍を!!!」


 なんやねん、それ!何なん、その気持ち悪い感じ!?だいたい、牛は猛々しくないからな!バッファローやったらわかるけど牛はおとなしいからな!


 あとまったく関係ないですけど、こいつは死ぬほど活舌が悪いです。しかも早口なので毎回訊き直さなければならず、僕は「もう1回言って?」ではなく、「もう2回言って?」とお願いするのです。次の1回でも聞きとれないことはわかっているので、毎回、2回請求するのです。


 しっかりしゃべれよ、お前!安倍譲二か!


 いずれにせよ、訳のわからないメールはナンナンです。身に覚えのある方は、ご注意ください。


③バレバレのカツラをかぶっている人 3ナンナン
 薄毛に悩み、カツラをかぶる人がいます。


 もちろん、かぶるのは自由なのですが、バレバレの人がいます。通称「バレリーナ」と呼ばれる人で、軽めのハイキックで取れそうなぐらい、頭にのっけているだけの人がいるのです。


 もっと頭使えよ、お前!頭使って頭をなんとかせいよ!


 サイズが合わず、境目から地肌が見えている人もいます。薄毛のエリアが拡大しすぎて、カツラを追い越してしまっているのです。


 イチゴか、それ!完全にイチゴのヘタやぞ、そのヅラ!


 僕が通うスポーツジムに、最近、重度のバレリーナが入会してきました。


 S級のバレリーナで、毛がやたらと左に集まっています。「部分リーゼント」みたく、左に偏りすぎて右側はスカスカ。「雨宿りできるわ!」というぐらい、左側がモッコリしているのです。


 どう思われたいねん、お前!どう思われたくてそのヅラ選んでん!?


 このオッサンは、バレリーナのくせにサウナに入ります。先日、サウナで一緒になったのですが、こいつがまた、ものすごい包茎なのです。


 何個かぶんねん、お前!何個かぶったら気が済むねん!で、皮むいてるけどバレバレやぞ、お前の包茎!上も下もバレリーナで下は厚着のバレリーナや!


 ほかにも討論番組にたまに登場する、とある経営コンサルタント。この人もバレリーナなのですが、この人の座右の銘は『人と違うことをやる』なのです。


 それでなん?なあ、それでヅラかぶってんの!?


 「若いんだから人と違うことをやれよ!」


 めちゃくちゃ説得力あるわ!そんなすごいことやられたらやらなしゃあないわ、こっちは!


 このオッサンは、たくさんの本を出しています。著書に『かしこい頭の使い方』という本があるのです。


 何考えてんねん、お前!ていうか、経営の相談に乗る前にお前は髪の毛の相談に乗ってもらえ!経営はできてても毛営はできてないねん!


 あまりにひどいヅラは、セクハラならぬ、カミハラです。周囲はヒヤヒヤするので、即刻、バレリーナを引退するべきでしょう。


④北斗の拳のジャギ 4ナンナン
 ケンシロウの兄であるジャギは、道行く人に「お前、俺の名を言ってみろ?」と質問します。何の面識もない奴に、
いきなり自分の名前を答えさせようとするのです。


 知るかいや、お前の名前なんて!そもそもメットで顔隠してるやろ、お前!答えようあるか、そんなもん!


 なのに、答えられないと銃殺してきます。無茶ブリしといて、「知りません!」と答えた奴を問答無用で射殺してくるのです。


 何考えてんねん、お前!ペナルティー重すぎるやろ、いくらなんでも!


 ジャギは、ケンシロウに嫉妬しています。その結果、「貴様のその耳が弟に似ている!」と言って、ガンガンに村人を殺していくのです。


 お前、なんで耳が似てるだけで殺されないとあかんねん!そもそも耳なんて全員一緒やろ!お前の耳もケンシロウとたいして変わらんわ!


 「兄よりすぐれた弟なんぞ存在しねえんだよ!」


 知らんがな、そんなもん!病院に行って聞いてもらえ、そんな愚痴!


 北斗の拳には、おかしなキャラが多いです。


 ほかにも1巻に、村に種モミを届けようとしたジジイが登場します。こいつは「今日より明日じゃ!」と言って、種モミを遠方から仕入れてくるのですが、悪党に捕まった際、「この種モミをやっと探し出して、1週間、何も口にせず戻ってきたんじゃ!」と、自分のがんばり度をやけにアピールしているのです。


 かっこつけんなよ、ジジイ!偽善者か!


 ケンシロウに助けられたジジイは、こう言います。


 「半年ものあいだ探し回って、ようやくこれだけ……」


 だから努力をアピールすんなよ!で、半年探し回った割にそこそこ肌艶ええやんけ!お前さては、途中で何かいいもん食ったやろ?明日とか言ってるくせに今を優先したやろ!?


 なのにこいつのせいで、村人が殺されます。悪党に村の場所を知られてしまい、罪のない村人が皆殺しに遭うのです


 勝手なことすんなよ、ジジイ!で、はっきり言うわ、正直、明日よりも今日やわ!村人のほとんどがその種モミを今すぐに食いたいと思ってるわ!


 「ああ、明日が!ああ、明日が!」


 やかましいわ!だいたいこんなカラカラの大地で米ができるか!現実を見ろ、現実を!明日明日言うんやったらせめて水もセットで持って帰って来い!


 みなさまも1度、北斗の拳を違った角度からご覧になってみてください。本当におかしなことばかりですから。


⑤乳首が立ちすぎている 5ナンナン
 これは、「ボディーナンナン」です。悪気はないものの、そのボディーがすごすぎて、近くにいると気になって仕方が
ないのです。


 なかでもタイトルにある、乳首が立ちすぎている人。


 ピチピチのTシャツを着た男性に多く、尋常じゃないぐらい立っているのです。


 去年の夏に電車に乗ったとき、乳首が立ちまくっている人がいました。Tシャツから乳首が浮き出ており、電車が揺れた瞬間、僕はその乳首をつかみかけたのです。つり皮が見つからず、瞬間的にその乳首につかまることが選択肢の1つに入ったのです。


 ふざけんなよ、お前!俺はワイセツ罪になるやんけ!スポーツ新聞に「乳首につかまって捕まる」とか書かれるやんけ!


 なかでも僕の父親の乳首だけは、尋常じゃないですよ。乳輪も大きく、1センチ近く立っていることがあるのです


 1センチですよ、1センチ?こんなもん、腕立て伏せしたら床につくでしょ!?


 夏場に家にいるときは、いつも上半身裸です。ある日、クーラーにハタキをかけた際、落下してきたホコリのかたまりが父親の乳首で止まったのです。


 ピタッと止まってるんですよ!ひっついたんじゃないんですよ、立ちまくった左乳首にホコリが着地してるんですよ


 受け止めんなよ、お前!もしかして、「俺の胸に飛び込んでこい!」ってそういうこと!?母親によく言うからたのもしいと思ってたけど、よく考えたら下ネタやんけ!


 ボディーナンナンは、乳首だけではありません。


 ほかにも、鼻毛や耳毛が出まくっている人はもちろん、僕の上司に毎回、両目に目くそが付いている人がいます。メガネの真ん中の奴と区別がつかないほどに大きなかたまりで、隣に座ると気になって会議どころではないのです。


 気になんねん、お前!目が行ってまうねん!銭湯にいる外人のチンチンぐらい目が行ってまうねん!


 ボディーが強烈すぎると、ナンナンになってしまいます。身だしなみには、くれぐれもご注意ください。


⑥積極的に話しかけてくるジジイ 6ナンナン
 お年寄りというのは、話し相手が少ないです。寂しくて、誰彼かまわず話しかけてきます。


 ですが、訳のわからない話を振ってくるお年寄りがいるのです。


 なかでも、ジジイ。70を過ぎたジジイにもなると、会話がまったく成立しないことがあるのです。


 先日、通っているスポーツジムのベンチに座っていると、隣に見知らぬジジイがきました。


 ジジイは何の自己紹介もなしに、「兄ちゃん。わしな、こないだ70になってん」と言いました。僕は「ああ、そうですか」と返し、「兄ちゃんは、いくつや?」と訊かれたので、「30です」と口にしたところ、「あっ、まーちゃんと一緒か」って言ったんですよ。


 誰やねん、まーちゃんって!お前は知ってるか知らんけど、俺は知らんやろ!


 「そうか30か。30足したら還暦やな」


 なんで足した?足す意味がまったくわからんねんけど!?


 「それよりな、わし、整骨院に通ってんねん。わしは今、70や。70やから、病院に行っても、金は安いがな。1回で120円や。2回行っても240円や」


 だからなんで足したり掛けたりすんの、さっきから!?なんで妙な理数系を出してくんの!?


 「で、こないだの話や。ジムにいる知り合いにな、まあ知り合いや言うても、そんなに親しくはない。親友でもないし、友達と呼べるほどの関係でもない。まあ言うたら、ジムにきたときにだけ話す……」


 どっちでもええわ、知り合いでも親友でも!ジジイの交友関係なんてまったく興味ないわ!


 ジジイは続けます。「で、そいつに教えたったんや、整骨院が安いことを。そしたら、そいつが整骨院にきたんや。ただ、4時から開くのに、3時半からもう、病院の前で待っとんねん。(笑いながら)ずっと行ってる俺でさえ10

分前に行くのに、そいつは30分も前から……」と1人で盛り上がり始め、「そいつは30分も前から並んでんねんで?なーーー!」と、最後になーーー!って叫んだんですよ!


 なんやねん、それ!オチのあとに叫ぶって、どういうことやねん!


 ジジイは、なおも続けます。「でも、この辺も変わったな。昔は、よくこの辺で火事があってな。わしの近所でも火事があって、もう少しでわしの家も燃えるところやったわ、なーーー!」と叫び、ポケットからラップに包まれたい

なり寿司を出してきたものの、アゲの粘着がなさすぎて、シャリの部分が根こそぎ地面に落ちたんですよ!


 おもろすぎるわ、お前!たまらんわ、お前みたいなジジイ!


 「なーーー!」


 なーーーと違うわ、お前!何がなーーーやねん!気になるから知恵袋に書き込むぞ!「今日、隣に来たジジイが『なーーー!』と叫んでいたのですが、これは何なんですか?」と書き込むぞ!おそらく「ベストアンサーに選ばれた回答」として「それはキ○ガイです」が選ばれるわ!


 みなさまも1度、ジジイの隣に座ってみてください。高い確率で話しかけられ、その会話のほどんどが意味不明ですから。



 そして、最後。


 これだけは、本当に意味がわかりません。ナンナンなんて言い方では済まされず、「マジデイミガワカラナイ」に認定したいと思います。


⑦書道展における、小学生の作品 1マジデイミガワカラナイ
 デパートに行くと、頻繁に書道展が開催されています。小学生や中学生が授業で書道をし、その作品を掲示板に貼っ
てあるのです。


 ですが、たまに、ありえない作品があります。ヘタとかそういうことではなく、「なぜ、その字を選んだの?」と、文字の選択基準が意味不明なのです。


 僕はデパートの書道展、及び、新聞に掲載された作品をチェックしています。先日、某新聞で「特別優秀作品」に選ばれた作品が、『鼻歌』だったのです。


 なんでそれ選んでん、お前!鼻歌!?知るかいや、そんなこと書かれても!


 なのにプロの書道家が、以下の選評を寄せているのです。


 「腕を大きく回し、太い線で力強く書き上げ、形もご立派。東野君の鼻歌が聞こえてくるかのようです」


 やかましいわ、ボケ!「なんで鼻歌を選んだの?」とツッコミ入れろよ!


 とはいえ、こんな作品は序の口です。なかには、目を疑うような作品を発表している生徒がいるのです。


 『迷宮入り』 


 どういうことやねん!もしかして、刑事の息子か何か?父親の無念を筆に込めたんか!?


 『くるぶし』


 意味わからん!何がどうなったらそれ選ぶねん!


 『義母』


 ブルーなるわ!母親でええやろ!お前の家で何があってん!?話聞いてやりたくなるわ!


 『クリ』


 カタカナで書くなよ!卑猥に聞こえるやろ!


 『トリ』


 だからカタカナで書くなよ!『クリ』と『トリ』が縦に並んでたら中止やぞ、書道展!その下に『巣』とかあったら大人の書道展やぞ!


 そして以下は、兵庫県宝塚市の、とある小学校の生徒が書いた作品群です。小学校5年生のクラスで、信じがたい作品がデパートのブースに貼り付けられていたのです。


 『和平』


 堅っ!堅すぎる、何こいつ!


 『温故知新』


 また堅い!なんでこんなに堅いねん、このクラス!


 『棒』


 アホがおった!1人だけアホがおった!ちょっと安心した!


 『繭』


 小5やんな?すごいのに挑戦してるけど、自分、小5やんな!?


 『繭』


 かぶった!かぶったぞ、おい!『繭』なんてかぶるか、普通!?


 『ハムサンド』


 意味わからん!ハムサンドて!『和平』の隣にハムサンドて!


 このように、意味がわからないのです。


 とりわけ以下の作品だけは、僕は頭から煙が出そうになりました。


 『ジャンボ鶴田』 


 ジャンボ鶴田?ジャジャジャ、ジャンボ鶴田!?


 どういうことやねん、お前!子供やからって許されると思うなよ!で、『ジャンボ鶴田』の下にある『緑の犬』って何?これに至ってはまったく意味がわからんねんけど!?


 このクラス、相当、おかしいですよ。夏目漱石と猫ひろしが同じクラスにいるみたいで、カオスとしか言いようがありません。



 以上が、今回の考察です。


 僕の口の悪さに、この記事自体がナンナンだ、と思われる方がいるかもしれません。ですが、僕は根はいい奴なのでどうかお許しください、なーーー!



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これは何なのか?の考察~ベスト版①~(携帯読者用)

※過去の「ナンナン」の記事をごちゃ混ぜにして再編集

 ヤフーに、「知恵袋」という掲示板があります。

 ユーザーが掲示板に質問をし、それを見た人が疑問に答えるのですが、ふざけた質問がたくさんあります。先日、仕事の関係で知恵袋を利用したところ、「『ハウスバーモンドカレー』じゃなくて『ハウスバーモントカレー』って知ってました?」という質問があったのです。

 こんなことを言われても、「だから何なん?」としか言いようがありません。なのに、「へー、そうなんですか!」と、わざわざ返答している奴がいるのです。

 とはいえ、こんな質問は、まだましです。いろいろと検索したところ、あり得ない質問がたくさん出てきたのです。

 「ウンコ味のウンコとカレー味のウンコならどちらが食べたいですか?」

 ウンコやろ、両方とも!さすがにカレー味を選ぶわ、それは!で、「食べたいですか?」ってなんやねん!

 「彼女が伊良部秀輝に似ているのですが、どうしたらいいですか? 」

 別れろ!性格がどうとかは関係ないわ、別れろ!伊良部に似てるんやったらもう理屈じゃないから!

 「最近、スマップの石倉三郎さんを見かけないのですが、あの続きはどうなっているのでしょうか?」

 スマップと違うわ、あいつ!入れるか、あんな深海魚みたいなオッサン!で、あの続きってどの続きやねん!?

 僕は、世の中の「これ、何なん?」と思わずにはいられない人・物・事を、「ナンナン」と単位化しています。この「訳のわからない質問をしてくる奴」はナンナンにほかならず、迷惑以外の何物でもないのです。

 そこで今回は、「これは何なのか?」の考察~ベスト版①~です。

 以下、僕が考えるナンナンの数々をご紹介させていただきます。

①交通警察の注意の仕方 1ナンナン
 原付きに乗る僕は、年に1度は、違反切符を切られます。

 もちろん、違反したのは僕なので、切符を切られるのは仕方がありません。

 ただ、注意の仕方に腹が立つのです。切符を切られたことよりも、警察の言い分に納得が行かないのです。

 たとえばスピード違反をした場合、警察は十中八九、「そんなにスピード出して、人でも跳ねたらどないすんねん!」と怒鳴ります。

 ですが、僕が乗っているのは原付きです。スピードの出しすぎが人を跳ねると考えるのであれば、僕よりスピードを出している人は、ほかにたくさんいます。乗用車はもちろん、何だったら、僕を捕まえようと追いかけてきたパトカーは、僕よりもスピードを出しているのです。

 これ、おかしいでしょ?言ってる意味、まったくわからないでしょ!?

 しかもたまに、出っ歯の奴が、「お前、出しすぎや!」と注意してくるのです。

 お前も出しすぎやねん!そんなに歯出して人でも噛んだらどないすんねん!

 「出すにも限度があるやろ!」

 お前も限度あんねん!お前のその歯も限度超えとんねん!お前は「違反歯講習」を受けろ!

 ほかにもその昔、踏み切りで一旦停止をせず、捕まったことがあります。ただ、現場を間近で押さえたのではなく、30メートル先に隠れてチェックしていたのです。

 こんなもん、おかしいでしょ?「見たから!」とか言われても、説得力ないでしょ!?

 しかも何が腹立つかって、こいつはメガネをしているのです。

 目悪いやんけ、お前!視力低い奴が何を偉そうに言うとんねん!

 「俺、見とった!この目でちゃんと見とった!」

 だからその目はメガネやろ!説得力ないねん、お前に言われても!

 取り締まりのプロを自認するのであれば、相手を納得させなければなりません。2度と違反させないように啓発するのが本来の目的で、相手を納得させないまま帰らせれば、取り締まった意味がないでしょう。

②意味のわからないメールを送ってくる人 2ナンナン
 携帯電話に、どう返事すればいいのかわからない、謎のメールを送ってくる人がいます。

 たとえばその昔、「米が炊けました!」と言って、僕の携帯に炊飯器の写メールを送ってきた後輩がいたのです。

 これ、何なんですか?僕はどう返したらいいんですかね!?

 こいつとは今も付き合いがあり、たまにメールが送られてきます。つい先日も、「今年から我が家の暖房器具が変わりました!」と、ハロゲンヒーターの写メールが送られてきたのです。

 知らんがな、そんなもん!お前の家のあったか事情なんて興味ないねん!

 一応は「あったかそうやな」と返したものの、変な感じなんですよ。

 ほかにも仕事の同期に、やたらと熱いメールを送ってくる奴がいます。過去に、何の脈絡もなく、以下のメールが送られてきました。

 「俺、人は変われると思う」

 何言ってんねん、お前!夜中の2時に何を言ってくれとんねん!

 今年の正月には、年賀状メールが送られてきました。しかし、これがまた熱く、ちょっと気持ち悪いのです。

 「平成も21年目!牛のように熱く、猛々しく!今年もお互い、さらなる飛躍を!!!」

 なんやねん、それ!何なん、その気持ち悪い感じ!?だいたい、牛は猛々しくないからな!バッファローやったらわかるけど牛はおとなしいからな!

 あとまったく関係ないですけど、こいつは死ぬほど活舌が悪いです。しかも早口なので毎回訊き直さなければならず、僕は「もう1回言って?」ではなく、「もう2回言って?」とお願いするのです。次の1回でも聞きとれないことはわかっているので、毎回、2回請求するのです。

 しっかりしゃべれよ、お前!安倍譲二か!

 いずれにせよ、訳のわからないメールはナンナンです。身に覚えのある方は、ご注意ください。

③バレバレのカツラをかぶっている人 3ナンナン
 薄毛に悩み、カツラをかぶる人がいます。

 もちろん、かぶるのは自由なのですが、バレバレの人がいます。通称「バレリーナ」と呼ばれる人で、軽めのハイキックで取れそうなぐらい、頭にのっけているだけの人がいるのです。

 もっと頭使えよ、お前!頭使って頭をなんとかせいよ!

 サイズが合わず、境目から地肌が見えている人もいます。薄毛のエリアが拡大しすぎて、カツラを追い越してしまっているのです。

 イチゴか、それ!完全にイチゴのヘタやぞ、そのヅラ!

 僕が通うスポーツジムに、最近、重度のバレリーナが入会してきました。

 S級のバレリーナで、毛がやたらと左に集まっています。「部分リーゼント」みたく、左に偏りすぎて右側はスカスカ。「雨宿りできるわ!」というぐらい、左側がモッコリしているのです。

 どう思われたいねん、お前!どう思われたくてそのヅラ選んでん!?

 このオッサンは、バレリーナのくせにサウナに入ります。先日、サウナで一緒になったのですが、こいつがまた、ものすごい包茎なのです。

 何個かぶんねん、お前!何個かぶったら気が済むねん!で、皮むいてるけどバレバレやぞ、お前の包茎!上も下もバレリーナで下は厚着のバレリーナや!

 ほかにも討論番組にたまに登場する、とある経営コンサルタント。この人もバレリーナなのですが、この人の座右の銘は『人と違うことをやる』なのです。

 それでなん?なあ、それでヅラかぶってんの!?

 「若いんだから人と違うことをやれよ!」

 めちゃくちゃ説得力あるわ!そんなすごいことやられたらやらなしゃあないわ、こっちは!

 このオッサンは、たくさんの本を出しています。著書に『かしこい頭の使い方』という本があるのです。

 何考えてんねん、お前!ていうか、経営の相談に乗る前にお前は髪の毛の相談に乗ってもらえ!経営はできてても毛営はできてないねん!

 あまりにひどいヅラは、セクハラならぬ、カミハラです。周囲はヒヤヒヤするので、即刻、バレリーナを引退するべきでしょう。

④北斗の拳のジャギ 4ナンナン
 ケンシロウの兄であるジャギは、道行く人に「お前、俺の名を言ってみろ?」と質問します。何の面識もない奴に、いきなり自分の名前を答えさせようとするのです。

 知るかいや、お前の名前なんて!そもそもメットで顔隠してるやろ、お前!答えようあるか、そんなもん!

 なのに、答えられないと銃殺してきます。無茶ブリしといて、「知りません!」と答えた奴を問答無用で射殺してくるのです。

 何考えてんねん、お前!ペナルティー重すぎるやろ、いくらなんでも!

 ジャギは、ケンシロウに嫉妬しています。その結果、「貴様のその耳が弟に似ている!」と言って、ガンガンに村人を殺していくのです。

 お前、なんで耳が似てるだけで殺されないとあかんねん!そもそも耳なんて全員一緒やろ!お前の耳もケンシロウとたいして変わらんわ!

 「兄よりすぐれた弟なんぞ存在しねえんだよ!」

 知らんがな、そんなもん!病院に行って聞いてもらえ、そんな愚痴!

 北斗の拳には、おかしなキャラが多いです。

 ほかにも1巻に、村に種モミを届けようとしたジジイが登場します。こいつは「今日より明日じゃ!」と言って、種モミを遠方から仕入れてくるのですが、悪党に捕まった際、「この種モミをやっと探し出して、1週間、何も口にせず戻ってきたんじゃ!」と、自分のがんばり度をやけにアピールしているのです。

 かっこつけんなよ、ジジイ!偽善者か!

 ケンシロウに助けられたジジイは、こう言います。

 「半年ものあいだ探し回って、ようやくこれだけ……」

 だから努力をアピールすんなよ!で、半年探し回った割にそこそこ肌艶ええやんけ!お前さては、途中で何かいいもん食ったやろ?明日とか言ってるくせに今を優先したやろ!?

 なのにこいつのせいで、村人が殺されます。悪党に村の場所を知られてしまい、罪のない村人が皆殺しに遭うのです。

 勝手なことすんなよ、ジジイ!で、はっきり言うわ、正直、明日よりも今日やわ!村人のほとんどがその種モミを今すぐに食いたいと思ってるわ!

 「ああ、明日が!ああ、明日が!」

 やかましいわ!だいたいこんなカラカラの大地で米ができるか!現実を見ろ、現実を!明日明日言うんやったらせめて水もセットで持って帰って来い!

 みなさまも1度、北斗の拳を違った角度からご覧になってみてください。本当におかしなことばかりですから。

⑤乳首が立ちすぎている 5ナンナン
 これは、「ボディーナンナン」です。悪気はないものの、そのボディーがすごすぎて、近くにいると気になって仕方がないのです。

 なかでもタイトルにある、乳首が立ちすぎている人。

 ピチピチのTシャツを着た男性に多く、尋常じゃないぐらい立っているのです。

 去年の夏に電車に乗ったとき、乳首が立ちまくっている人がいました。Tシャツから乳首が浮き出ており、電車が揺れた瞬間、僕はその乳首をつかみかけたのです。つり皮が見つからず、瞬間的にその乳首につかまることが選択肢の1つに入ったのです。

 ふざけんなよ、お前!俺はワイセツ罪になるやんけ!スポーツ新聞に「乳首につかまって捕まる」とか書かれるやんけ!

 なかでも僕の父親の乳首だけは、尋常じゃないですよ。乳輪も大きく、1センチ近く立っていることがあるのです。

 1センチですよ、1センチ?こんなもん、腕立て伏せしたら床につくでしょ!?

 夏場に家にいるときは、いつも上半身裸です。ある日、クーラーにハタキをかけた際、落下してきたホコリのかたまりが父親の乳首で止まったのです。

 ピタッと止まってるんですよ!ひっついたんじゃないんですよ、立ちまくった左乳首にホコリが着地してるんですよ!

 受け止めんなよ、お前!もしかして、「俺の胸に飛び込んでこい!」ってそういうこと!?母親によく言うからたのもしいと思ってたけど、よく考えたら下ネタやんけ!

 ボディーナンナンは、乳首だけではありません。

 ほかにも、鼻毛や耳毛が出まくっている人はもちろん、僕の上司に毎回、両目に目くそが付いている人がいます。メガネの真ん中の奴と区別がつかないほどに大きなかたまりで、隣に座ると気になって会議どころではないのです。

 気になんねん、お前!目が行ってまうねん!銭湯にいる外人のチンチンぐらい目が行ってまうねん!

 ボディーが強烈すぎると、ナンナンになってしまいます。身だしなみには、くれぐれもご注意ください。

⑥積極的に話しかけてくるジジイ 6ナンナン
 お年寄りというのは、話し相手が少ないです。寂しくて、誰彼かまわず話しかけてきます。

 ですが、訳のわからない話を振ってくるお年寄りがいるのです。

 なかでも、ジジイ。70を過ぎたジジイにもなると、会話がまったく成立しないことがあるのです。

 先日、通っているスポーツジムのベンチに座っていると、隣に見知らぬジジイがきました。

 ジジイは何の自己紹介もなしに、「兄ちゃん。わしな、こないだ70になってん」と言いました。僕は「ああ、そうですか」と返し、「兄ちゃんは、いくつや?」と訊かれたので、「30です」と口にしたところ、「あっ、まーちゃんと一緒か」って言ったんですよ。

 誰やねん、まーちゃんって!お前は知ってるか知らんけど、俺は知らんやろ!

 「そうか30か。30足したら還暦やな」

 なんで足した?足す意味がまったくわからんねんけど!?

 「それよりな、わし、整骨院に通ってんねん。わしは今、70や。70やから、病院に行っても、金は安いがな。1回で120円や。2回行っても240円や」

 だからなんで足したり掛けたりすんの、さっきから!?なんで妙な理数系を出してくんの!?

 「で、こないだの話や。ジムにいる知り合いにな、まあ知り合いや言うても、そんなに親しくはない。親友でもないし、友達と呼べるほどの関係でもない。まあ言うたら、ジムにきたときにだけ話す……」

 どっちでもええわ、知り合いでも親友でも!ジジイの交友関係なんてまったく興味ないわ!

 ジジイは続けます。「で、そいつに教えたったんや、整骨院が安いことを。そしたら、そいつが整骨院にきたんや。ただ、4時から開くのに、3時半からもう、病院の前で待っとんねん。(笑いながら)ずっと行ってる俺でさえ10分前に行くのに、そいつは30分も前から……」と1人で盛り上がり始め、「そいつは30分も前から並んでんねんで?なーーー!」と、最後になーーー!って叫んだんですよ!

 なんやねん、それ!オチのあとに叫ぶって、どういうことやねん!

 ジジイは、なおも続けます。「でも、この辺も変わったな。昔は、よくこの辺で火事があってな。わしの近所でも火事があって、もう少しでわしの家も燃えるところやったわ、なーーー!」と叫び、ポケットからラップに包まれたいなり寿司を出してきたものの、アゲの粘着がなさすぎて、シャリの部分が根こそぎ地面に落ちたんですよ!

 おもろすぎるわ、お前!たまらんわ、お前みたいなジジイ!

 「なーーー!」

 なーーーと違うわ、お前!何がなーーーやねん!気になるから知恵袋に書き込むぞ!「今日、隣に来たジジイが『なーーー!』と叫んでいたのですが、これは何なんですか?」と書き込むぞ!おそらく「ベストアンサーに選ばれた回答」として「それはキ○ガイです」が選ばれるわ!

 みなさまも1度、ジジイの隣に座ってみてください。高い確率で話しかけられ、その会話のほどんどが意味不明ですから。


 そして、最後。

 これだけは、本当に意味がわかりません。ナンナンなんて言い方では済まされず、「マジデイミガワカラナイ」に認定したいと思います。

⑦書道展における、小学生の作品 1マジデイミガワカラナイ
 デパートに行くと、頻繁に書道展が開催されています。小学生や中学生が授業で書道をし、その作品を掲示板に貼ってあるのです。

 ですが、たまに、ありえない作品があります。ヘタとかそういうことではなく、「なぜ、その字を選んだの?」と、文字の選択基準が意味不明なのです。

 僕はデパートの書道展、及び、新聞に掲載された作品をチェックしています。先日、某新聞で「特別優秀作品」に選ばれた作品が、『鼻歌』だったのです。

 なんでそれ選んでん、お前!鼻歌!?知るかいや、そんなこと書かれても!

 なのにプロの書道家が、以下の選評を寄せているのです。

 「腕を大きく回し、太い線で力強く書き上げ、形もご立派。東野君の鼻歌が聞こえてくるかのようです」

 やかましいわ、ボケ!「なんで鼻歌を選んだの?」とツッコミ入れろよ!

 とはいえ、こんな作品は序の口です。なかには、目を疑うような作品を発表している生徒がいるのです。

 『迷宮入り』 

 どういうことやねん!もしかして、刑事の息子か何か?父親の無念を筆に込めたんか!?

 『くるぶし』

 意味わからん!何がどうなったらそれ選ぶねん!

 『義母』

 ブルーなるわ!母親でええやろ!お前の家で何があってん!?話聞いてやりたくなるわ!

 『クリ』

 カタカナで書くなよ!卑猥に聞こえるやろ!

 『トリ』

 だからカタカナで書くなよ!『クリ』と『トリ』が縦に並んでたら中止やぞ、書道展!その下に『巣』とかあったら大人の書道展やぞ!

 そして以下は、兵庫県宝塚市の、とある小学校の生徒が書いた作品群です。小学校5年生のクラスで、信じがたい作品がデパートのブースに貼り付けられていたのです。

 『和平』

 堅っ!堅すぎる、何こいつ!

 『温故知新』

 また堅い!なんでこんなに堅いねん、このクラス!

 『棒』

 アホがおった!1人だけアホがおった!ちょっと安心した!

 『繭』

 小5やんな?すごいのに挑戦してるけど、自分、小5やんな!?

 『繭』

 かぶった!かぶったぞ、おい!『繭』なんてかぶるか、普通!?

 『ハムサンド』

 意味わからん!ハムサンドて!『和平』の隣にハムサンドて!

 このように、意味がわからないのです。

 とりわけ以下の作品だけは、僕は頭から煙が出そうになりました。

 『ジャンボ鶴田』 

 ジャンボ鶴田?ジャジャジャ、ジャンボ鶴田!?

 どういうことやねん、お前!子供やからって許されると思うなよ!で、『ジャンボ鶴田』の下にある『緑の犬』って何?これに至ってはまったく意味がわからんねんけど!?

 このクラス、相当、おかしいですよ。夏目漱石と猫ひろしが同じクラスにいるみたいで、カオスとしか言いようがありません。


 以上が、今回の考察です。

 僕の口の悪さに、この記事自体がナンナンだ、と思われる方がいるかもしれません。ですが、僕は根はいい奴なのでどうかお許しください、なーーー!

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~頂上編~(パソコン読者用)

※2009年・9月15日の記事を再編集


 「ヨン様会が全員、六甲の山頂に到着したで!」


 「よっしゃーーー!!!」


 ケンシロウのかけ声に、オバハン連中は雄たけびを上げました。


 最高峰であるこの場所は、360度の大パノラマです。


 標高931メートルのこの場所からは、神戸の街並みが一望できます。連なる山々が美しく、雲ひとつない空は、青というよりも、濃い水色。空を見上げていると、スライムの中に閉じ込められたかのような錯覚に陥ります。


 周囲は、深緑のブナとクヌギに囲まれています。木々のあいだを縫って吹き抜ける風が、頬をやわらかく撫でてきます。頂上全体が清々しさに満ちており、オバハン連中のテンションが上がり始めました。


 ケンシロウは、すっかり元気を取り戻しています。花木さん、岡村さんも元気で、カメラ片手にはしゃぎ倒しているのです。


 一方、僕の母親とシーラカンスは、くたくたです。雄たけびを上げる元気もなく、2人して汗だくのまま、その場に倒れ込んでいます。


 「2人ともいつまで寝てるんや!そろそろ起きろ!」


 クレヨンと徳さんがやってきました。


 「ほれっ!立たんか!」


 こう言って、僕の母親とシーラカンスに手を貸します。2人とも渋々立ち上がったのですが、クレヨンがそばにいる僕のところにやってきて再び、訳のわからない話をしてきたのです。


 「兄ちゃんも、えらい疲れてんな」


 「大変でしたもん」


 「山登りって、そんなに大変か?」


 お前がおったからや!俺はお前の相手に大変やってん!お前と一緒やったらどの山もエベレストや!


 「そりゃな、わしも登り始めのころは大変やったよ」


 「そうですか」


 「でも何度も登ってるうちに、棒になってた脚も、すっかり元気マンよ」


 「…………はっ?」


 「足も腰も足腰も、骨も体も、今では若い奴に負けへんぐらい、足腰よ!」


 ごめん、全然意味わからん!東大卒の通訳いるわ、これ!


 「ちょっと、わしのこの、左のフクラハギの筋肉を触ってみ」


 「……あっ、すごいですね」


 「今度は右のフクラハギを触ってみ」


 「……あっ、ここもすごいですね」


 「今度はこの太ももを触ってみ」


 「ここもすごいですね」


 「今度はこの太ももの裏を……」


 痴女か、お前!周囲に見られたいタイプの痴女か!どれだけ触らすねん、さっきから!


 「今度はこのお尻の筋肉を……」


 痴女やんけ!徐々にやばいところ触らしてるやんけ!


 「とにかく元気よ、わしは。わしは糖尿やねんけど、こないだ医者が、わしに何て言ったと思う?」


 「いや、ちょっとわからないです」


 「当ててみ?」


 当たるか、そんなもん!お前のクイズ難しすぎんねん、さっきから!


 「いいから、当ててみ?」


 「血糖値が改善してますね、ですか?」


 「ブー!」


 「……血圧が下がってますね、ですか?」


 「ブー!」


 「……すべてがよくなってますね、ですか?」


 「ブー!全然、ブー!!!」


 腹立つわ、こいつ!プロの仕業としか思えん、このイライラのさせ方!


 「その医者な、わしにこう言いよったわ。あなたは、たしかに糖尿病です。でもこれだけ元気があれば、いずれその病は治るかもしれないでしゅ、ってな」


 噛んだぞ、おい!散々引っ張っといて決めゼリフ噛んだぞ、こいつ!


 「で、頻繁に運動してるから、食事のおいしいことおいしいこと!今では毎日、カツ丼よ!」


 「そうですか」


 「兄ちゃんの周りにおるか、年寄りでカツ丼食うような奴?」


 焼肉がおんねんけど!?それも朝からフルガバニンやねんけど!?


 「病気に勝たないとあかんからカツ丼とか、そういうことと違うで!そんなんと違う、そんなんと!ハハハハハ、病気に勝たないとあかんからカツ丼とかそんなんと違う!」


 何がおかしいねん、お前!さっきから急にツボに入るけど、それのどこがおもしろいの!?なあ、徳さん!?


 「あー、うまい、このたくわん」


 たくわん食ってた!俺の真横で1本丸ごとかじってた!ちょっと待って、俺、たくわん丸ごとかじってる奴を初めて見てんけど!?


 「それよりも兄ちゃん、わし、ボーリングによう行くねんけど、なんぼ出すと思う?」


 「いや、わからないです」


 「いいから言ってみ?」


 「……100ですか?」


 「アホな」


 「150ですか?」


 「アホな!150ぐらいやったら、わざわざ発表なんてせえへんよ!」


 「じゃあなんぼ出すんですか?」


 「170や」


 あんまり変わらんやんけ!150とあんまり変わらんやろ!


 「たまに170出すんや」


 たまになん!?偉そうに啖呵切ってたけどたまになんや!?


 「この徳さんなんて、毎回、100そこそこや」


 「アホ言え!わしかて170出すこともあるわいや!」


 「たまにやろ?」


 お前もたまにやろ!お前も170出すんはたまにやろ!


 「2人とも、アベレージはどれぐらいなんですか?」


 「アベレージって何?」


 「……平均値です。平均したら、1ゲームでだいたい、どれぐらいなんですか?」


 「そうやな。平均にしたら、だいたい100やな」


 ヘタやろ、お前!偉そうに言ってたけど、アベレージ100って普通にヘタやんけ!


 「わしは100もないな」


 ドヘタやんけ!お前に至ってはドヘタやろ!何を2人して偉そうに言っとんねん!


 「拓美ちゃんは毎回、70ぐらいやな」


 家いとけや、拓美ちゃん!アベレージ70の奴がのうのうと毎回行くなよ!婿養子で家に居場所がないかどうか知らんけどよ!


 「兄ちゃんもボーリングとかすんの?」


 「たまにしますよ」


 「アベレージはどれぐらい?」


 「……僕は120ぐらいですかね」


 「アベレージで?」


 「……ええ」


 「ほんまにアベレージで?」


 「ええ」


 「最高得点じゃなくて、アベレージがほんまに120なん?」


 アベレージって言いたいだけやろ、お前!覚えたての横文字使いたいだけやろ!NOVA帰りのサラリーマンか!


 「わしなんてもうすぐ、マイボールを買おうと思ってんのよ。すごいやろ、わしはもうすぐ、マイボールを買おうと思ってんねんで?」


 買ってから言えや!買おうと思ってるだけやろ、お前は!


 「兄ちゃんに1回、わしが投げてるところを見せてやりたいわ」


 「ま、まあ、機会があれば」


 「しゃあない。今日は特別に、ここで投げるところを見せたるわ」


 「いや、また今度でいいですよ!」


 「ボールをこうカーッと持ってやな!ボールの穴にこうカーッと指を入れてやな!」


 「あー、そうですか」


 「ボールをこうカーッと握ってやな!ボールにこうカーッと指先の力を集中してやな!」


 どこ説明してんねん、さっきから!ボールの持ち方とかどうでもええわ!投げ方を説明せいや!


 「足は開いたらあかん!足を開いて投げたらミゾにはまってしまう!」


 「そうですか」


 「で、視線は前や!前だけをカーッと見て、ほかは何も見るな!」


 「そうですか……」


 「目をカーッと見開いて、中央の長い棒だけをカーッと見すえて余計なことは一切考えずに……」


 いつ投げんねん、お前!なあ、マジでいつ投げんの!?このままいったら俺が餓死するかお前が老衰するかのどっちかやぞ!


 「で、ボールを見て念じるんや!ストライク出ろ、ストライク出ろってな!」


 技術関係ないやんけ!お前、足がどうとか視線がどうとか言っといて結局は神頼みかいや!


 「で、持ち上げたボールを後ろに回して……」


 やっときた!我慢したかいあってやっと投げるところまできた!


 「カーッと投げるんや!」


 ええ加減にせいよ、お前!全然わからんねん、お前の説明!で、カーッとってなんやねん、さっきから!池上彰ブチギレるぞ、そんな説明してたら!


 「それより徳さん、たくわん食ってるやんけ!」


 「うまいわ、これ」


 「たくわんあるんやったら言ってくれよ!」


 「めっちゃうまいわ」


 「ひと口よこせよ、この野郎!」


 「イヤじゃ」


 「いいからひと口よこせよ!」


 「落ち着け、落ち着け!」


 何のこぜり合いやねん、これ!なあ何、このオッサン同士の気持ち悪いじゃれ合い!?


 「ひと口よこせよ、拓美ちゃんところのたくわん!」


 漬物屋なん、拓美ちゃんって!?漬物屋に婿養子に入ったん!?未来あんの、その人!?


 僕はオッサンの相手に疲れたため、オバハンのほうに移動しました。


 ですが、オバハンのほうの相手も大変です。


 僕の母親とシーラカンスも、キレイな景色を見たことから、元気を取り戻しています。全員して往路同様、訳のわからない会話を連発しているのです。


 そこで今回は、「山の戦い」の最終話、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~頂上編~です。


 「やっほー!」


 「やっほー!やっほー!」


 オバハン連中は、やまびこを求めて叫び始めました。


 近くには、ほかの登山客もいます。頻繁に大声を出すなど、ここでも周囲を圧倒しているのです。


 「やっほー!やっほー!……ちょっとたけちゃん、返ってこおへんねんけど!?」


 知らんがな、そんなもん!俺が隊長か知らんけどなんで俺の責任やねん!


 「やっほー!……ちょっと、たけちゃん!?」


 わがままもええ加減にせいよ、お前ら!貴族か!


 「山の神様が眠っているんと違うか?」


 クレヨンが入ってきた!後ろから急に来やがった!


 「今日は日曜日。山の神様も休日で……」


 「やっほー!」


 無視された!オバハンにあからさまに無視された!


 「山の神様も人の子。時にはお休みになられる」


 「やっほー!」


 「体をいたわりになられ、山の神様とはいえ、夏には汗をおかきになる」


 「やっほー!」


 「そのしずくが雨となって乾いた山々に潤いを与え……」


 「やっほー!」


 あきらめろや、もう!いじめに近いレベルで無視されてるんやから、さすがにあきらめろや!かわいそうやからもう、俺が聞いたるわ!


 「山の神様も、汗をかくんですね」


 「山の神様も人の子。汗をかけば用も足される。その汗が雨になり、機嫌が悪いときには嵐にもなる。それが山の神様でそれを受け止めた人間は……」


 長い長い!元号変わるわ、もう!


 「しかしいい天気やなこんなに晴れてるんやったら布団干してきたらよかったわへへへへへ!」


 お前は速い速い!長さと速さのコラボ!


 「ところで兄ちゃん、徳さんのたくわん食べへんか?」


 いらんわ!なんで漬物回し食いしないとあかんねん!


 「あんたは?」


 「いりません」


 「あんたは?」


 「いりません」


 「岡村さんは?」


 「いりません」


 「山本さんは?」


 「いらん」


 全員に訊くなよ!たくわん丸ごと渡されてかじる奴なんておるわけないやろ!


 「あんたは?」


 「ちょうだい」


 おった!シーラカンスがもらった!


 「あっ、これおいしい!」


 「そうなんや。じゃあうちもひと口ちょうだい?」


 「うちもちょうだい?」


 「うちもうちも!」


 疎開先か、ここ!配給に群がってんのか!


 「(ほかの登山客に)あんたもどうや?」


 引いてるやんけ、そいつ!見知らぬ奴にたくわん見せられてドン引きやんけ!


 「あんたは?」


 俺や!さっき断った俺や、おい!散々相手したった俺や!今日、お前の相手に命削ってがんばったバスコや!


 「あっ、兄ちゃんか」


 なんで忘れんねん!ケンシロウ、もうそろそろこいつにキレたってくれ!?


 「あかん、酒がほしくなってきた」


 酒が切れた!怒るとかじゃなくて酒が切れた!


 「山本さん、ウイスキーがあるよ」


 「いいねえ」


 また出た、この会話!どぎつい会話がまた出た!


 「あそこに徳さんがおるから効かしといで!」


 効かすも出た!悪質なデジャヴやわ、これ!


 オッサンとオバハンの会話に巻き込まれた僕は、異常なまでの疲労を覚えました。急に1人になりたくなり、その場を離れました。


 僕はここまで、タバコを我慢しています。頂上まで我慢したら、そこで吸うタバコが最高においしいからです。


 近くの草むらに入ってタバコを吸ったところ、おいしすぎて卒倒しそうになりました。たくさんの怪物をクリアしてきた充実感からも、泣きそうになるほどなのです。


 この季節、眼下に広がる空の青は、目にまぶしいほどです。


 一方、近くではススキが風に揺れ、秋の到来を感じさせます。


 季節の変わり目をダイレクトに受け止め、その感覚がタバコのおいしさに拍車をかけます。僕は携帯灰皿でタバコをもみ消し、気がつくともう、次のタバコに火を点けていました。


 「たけちゃん、記念写真を撮ろうや!」


 しばらくして、ケンシロウが僕のところにやってきました。


 遠目に見ると、「931メートル」と標記された標柱の前に、全員が集まっています。クレヨンと徳さんもおり、見知らぬ人にカメラを渡して、僕の到着を待っています。僕は駆け足でその場に向かったのですが、全員がもう、あいーんの顔で静止してるんですよ!


 何の集まりやねん、これ!なあ何、この妙なカルト宗教!?


 「たへちゃん、早く来へよ!」


 シャクらせながら言うな!ていうか、顔戻せよ!シャッター押す寸前でいいねん、そんな顔!


 花木さんに至っては、またしてもアゴに手をあてるのを忘れています。今度は腰に手をあてて仁王立ちしながらアゴだけシャクらせているのです。


 だからどう思われたいねん、さっきから!なんや、お前のことを好きな奴がシャクレフェチなんか!?


 「たへちゃんがはやく来へくれないとアゴがおかひくな○△※☆♯○△※#!」


 速い速い速い速い!最後もうわからん、ほんで!


 「早く来へくれないとイヤヒヤーン!」


 お前は黙れ!シャクレながらブリッコすんなよ、気持ち悪い!


 「あいーん、兄ちゃん、早くしへえな!」


 あいーんっていちいち言うな!ていうかクレヨン、あいーんは、あいーんと言わないとダメって勘違いしてないか!?ケンシロウに指南されたんやろうけど、「あいーんはアゴだけではなく言葉もセットで」と思ってないか!?


 「兄ちゃん、アゴが痛ひから早く来へくれ、あいーん!」


 やっぱりそうや!クレヨンは勘違いしてる!


 僕は恐怖におののきながらも、端っこに陣取りました。


 すると横から見たメンバーの口元が、たくわん食べたせいで軒並み黄色いんですよ!「ペンキを主食にしてます!」というぐらい、全員が目をひんむきながら黄色い口をおもいっきり突き出してるんですよ!


 何がお前らにそうさせんねん!言うとくけど、今もしB29が来たら、ピンポイントでここ爆撃してくるぞ!それぐらい危険な集まりやぞ、この団体!


 シャッターを押してくれた女性は、ずっと半笑いでした。僕もおかしくて肩の震えが止まらないなど、人類史上に残る写真撮影だったのです。


 「そろそろ、昼ご飯にしようや!」


 「よっしゃー!!!」


 時刻は午後2時40分。頂上を少し下ったところにある広場に移動して、遅めの昼ご飯を食べることになりました。


 昼ご飯は全員、持参してきています。用意してきていなかったクレヨンと徳さんも誘い、総勢8名で食べることになりました。


 僕の母親は僕の分も含めて、たくさんのおにぎりを用意してきています。岡村さんは手作り弁当で、シーラカンスはコンビニ弁当です。


 元シェフの花木さんは、仲間のためにたくさんのおかずを用意してきています。サンドイッチ、ハム、から揚げ……。色とりどりのおかずを見て、全員が歓声を上げました。


 ところがメンバーに1人、えげつない食料を持参している奴がいるのです。「エサ」と表現しても差し支えなく、まだフタを開けていないにも関わらず、すでに外側から獰猛さが漂っているのです。


 その女、いやその男、いやその怪物は、「あー、たまらんわ!」と言って、弁当箱のフタを開けました。恐る恐る見たところ、豚足がびっしり詰まってたんですよ。


 勘弁してくれよ、おい!ランチやんな、これ!?出兵する沖縄人の壮行会会場と違うよな、ここ!?


 「いい匂いしとるわ!」


 完全に怪物が言いそうなセリフやんけ、それ!昔話で、怪物が人間を食おうと鍋煮てるときのセリフやんけ!


 中央であぐらをかくこの怪物は、弁当箱を2つ用意してきています。1つは豚足だったので、もう1つはさすがにヘルシーな奴やろ、と高をくくっていたのですが、ふと見たもう1つの弁当箱に、特大のイカメシが3つ入っていたのです。


 一揆の前か、お前!そのボリューム、これから戦いに行く奴の飯の量やんけ!


 「2人とも遠慮せんと、花木さんのサンドイッチを食べや!」


 お前のをやれ!ちょっと待って、1人で食う気なん、これ!?全員でつつくとかは考えてないの!?


 その怪物は素手で豚足をつかみ、骨ごとゼラチン質にむしゃぶりついています。イカメシも素手でつかむなど、女性色は皆無、それこそ人間色も皆無な、完全なるケモノなのです。


 なのに驚く僕を尻目に、オバハン連中は意に介しません。


 「事務総長のいつものエサやで!」


 こう言うかのごとく、そのことに一切触れません。ゲラゲラと笑いながら食事をしているのです。


 「事務総長、豚足を1個、いただいてよろしいでしょうか?」


 「1個だけやで」


 「ありがとうございます!」


 「それにしても事務総長、よく食べますね?」


 「当たり前やろ。歳いってきたら、食べてなんぼやで!」


 「ほんまやな。ハハハハハ!」


 「ハハハハハ!」


 「プゥ!」


 「またオナラかいや!ハハハハハ!」


 「ハハハハハハハ!」



 この連中を見ていると、価値観が変わります。ことの良し悪しは別にしても、人間らしい自分が顔を出すのです。


 僕は今日1日をとおして、抱き続けていた1つの感覚がありました。山に登りながらも常に、その「何か」を考えていました。そしてその答えが何なのか、この連中の笑顔を見て、はっきりとわかったのです。


 それは、「おおらかさ」です。


 全員が全員、腹の底から笑っているのです。


 汚い顔したオバハンも、脇毛を生やすオバハンも、ブリッコをするオバハンも、早口のオバハンも、オッサンみたいなオバハンも、今というこの瞬間を心底楽しんでいるのです。


 こんなオバハンといえども、この人たちはこの人たちで、背負っているものがあります。


 僕の母親は、娘夫婦の関係で悩んでいます。離婚するしないでもめており、そのことを考えると、食事がノドをとおりません。


 岡村さんの家は、めちゃくちゃ貧乏です。幼少のころからずっと貧しく、人生を通じて、まともな生活をしたことがありません。


 花木さんはバツイチです。旦那と別れ、同時に、勤めていた大阪のレストランもつぶれました。昨年、中学生の子供と一緒に、実家のある尼崎市に帰ってきたのです。


 シーラカンスには子供がいません。「養子に入らへんか?」と僕に頼んできたこともあるぐらいで、子供ができないことを悲しみ、今でも子供の話になると、目に涙を浮かべて話すのです。


 ケンシロウに至っては、6年前に、旦那さんを病気で亡くしています。


 僕は今でも忘れません。お葬式で、ケンシロウが旦那の棺桶から離れなかった姿を。


 「おとうちゃーん!」


 泣き叫ぶその姿は、まるで旦那のぬくもりを搾り出そうとしているかのようで、いまだに僕の網膜から離れないのです。


 オッサン2人もそうです。


 話をするうちに、2人は若き日に、同じ工場で働いていた同僚だということがわかりました。


 クレヨンは持病の糖尿が悪化して2年前にやめ、徳さんは途中から工場を経営し始めたものの、昨秋に潰れて現在は無職。借金が3000万円あり、クレヨンは健康改善に、徳さんはイヤなことを忘れるために月に1度、この六甲の山を登っているそうなのです。


 みなさん、こいつら見てくださいよ。こいつらの人生、見たってくださいよ。


 こんな奴らが、ゲラゲラと笑っているのです。背負う十字架を引きちぎって、人生を謳歌しているのです。


 食事中も、この連中は、ひたすらくだらない話をしています。


 「あんた、借金、3000万もあんの?」


 「そうや。何回、自殺考えたことか」


 「どうするんよ?」


 「知らん。何とかなるやろ。それよりもわしは、下山してからのビールのことで頭がいっぱいや!ハハハハハ!」


 「笑いごとと違うやろ、あんた!」


 「それよりあんた、男みたいな顔してんな。金を貯めて、整形とかしたら?」


 「やかましいわ!」


 「ハハハハハ!」


 「ハハハハハハハ!」


 クレヨンに至っては60すぎの病人にも関わらず、ケンシロウの巨乳をちらちらと見ているのです。


 バカ話を繰り返す中、シーラカンスが言いました。


 「みんな欠点ばっかりやな!ハハハハハハハ!」


 人間は、みんな欠点だらけです。欠点だらけで、悩みごとだらけです。ただそれでも、今日1日を笑えたら、こんなすばらしい人生はないのです。


 ここにいる連中の視線は、そう語っています。年輪を経た深みのある視線が、語らずとも、若僧である僕にそう語っているのです。


 このことに気づいたとき、ここにいる人間が全員、山の神様に見えました。


 なにしろこの連中、これから下山するというのに、いつまでもゲラゲラと笑っています。再び苦難が待ち受けているというのに、誰もが幸せそうに笑い続けているのです。


 それはほかの登山客も同じで、年配の方が多い中、誰もが笑っています。人生にくたびれている素振りも見せず、今この瞬間という時間に、青春しちゃってるんですよ。


 その姿を見ていると、何とも言えず、心地いいです。自分のことのようにうれしく、「俺は今、生きているんだな!」と、自分の人生すらも輝いて見えるのです。


 「山の神様というのは、山にいる人間のことである」


 誇張でもなんでもなく、僕は心の底から、こう思いました。


 むき出しのおおらかさを見せられると、自分の悩みごとがアホらしく思えてきます。体中の血流がたぎり、何だか空も飛べそうな気がしました。



 食事を終えた僕らは、下山することになりました。


 みんなで弁当箱を片付ける中、僕の母親が僕に訊きました。


 「今日、ありがとうな。いろいろと大変やったやろうけど、今日の登山、どうやった?」


 僕はこの「山の戦い」で、いろいろと苦しめられました。言いたいことがたくさんあったのですが、この連中のおおらかさにやられて、当たり前のように、こう口にしていたのです。


 「楽しかったわ!」

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~頂上編~(携帯読者用)

※2009年・9月15日の記事を再編集

 「ヨン様会が全員、六甲の山頂に到着したで!」

 「よっしゃーーー!!!」

 ケンシロウのかけ声に、オバハン連中は雄たけびを上げました。

 最高峰であるこの場所は、360度の大パノラマです。

 標高931メートルのこの場所からは、神戸の街並みが一望できます。連なる山々が美しく、雲ひとつない空は、青というよりも、濃い水色。空を見上げていると、スライムの中に閉じ込められたかのような錯覚に陥ります。

 周囲は、深緑のブナとクヌギに囲まれています。木々のあいだを縫って吹き抜ける風が、頬をやわらかく撫でてきます。頂上全体が清々しさに満ちており、オバハン連中のテンションが上がり始めました。

 ケンシロウは、すっかり元気を取り戻しています。花木さん、岡村さんも元気で、カメラ片手にはしゃぎ倒しているのです。

 一方、僕の母親とシーラカンスは、くたくたです。雄たけびを上げる元気もなく、2人して汗だくのまま、その場に倒れ込んでいます。

 「2人ともいつまで寝てるんや!そろそろ起きろ!」

 クレヨンと徳さんがやってきました。

 「ほれっ!立たんか!」

 こう言って、僕の母親とシーラカンスに手を貸します。2人とも渋々立ち上がったのですが、クレヨンがそばにいる僕のところにやってきて再び、訳のわからない話をしてきたのです。

 「兄ちゃんも、えらい疲れてんな」

 「大変でしたもん」

 「山登りって、そんなに大変か?」

 お前がおったからや!俺はお前の相手に大変やってん!お前と一緒やったらどの山もエベレストや!

 「そりゃな、わしも登り始めのころは大変やったよ」

 「そうですか」

 「でも何度も登ってるうちに、棒になってた脚も、すっかり元気マンよ」

 「…………はっ?」

 「足も腰も足腰も、骨も体も、今では若い奴に負けへんぐらい、足腰よ!」

 ごめん、全然意味わからん!東大卒の通訳いるわ、これ!

 「ちょっと、わしのこの、左のフクラハギの筋肉を触ってみ」

 「……あっ、すごいですね」

 「今度は右のフクラハギを触ってみ」

 「……あっ、ここもすごいですね」

 「今度はこの太ももを触ってみ」

 「ここもすごいですね」

 「今度はこの太ももの裏を……」

 痴女か、お前!周囲に見られたいタイプの痴女か!どれだけ触らすねん、さっきから!

 「今度はこのお尻の筋肉を……」

 痴女やんけ!徐々にやばいところ触らしてるやんけ!

 「とにかく元気よ、わしは。わしは糖尿やねんけど、こないだ医者が、わしに何て言ったと思う?」

 「いや、ちょっとわからないです」

 「当ててみ?」

 当たるか、そんなもん!お前のクイズ難しすぎんねん、さっきから!

 「いいから、当ててみ?」

 「血糖値が改善してますね、ですか?」

 「ブー!」

 「……血圧が下がってますね、ですか?」

 「ブー!」

 「……すべてがよくなってますね、ですか?」

 「ブー!全然、ブー!!!」

 腹立つわ、こいつ!プロの仕業としか思えん、このイライラのさせ方!

 「その医者な、わしにこう言いよったわ。あなたは、たしかに糖尿病です。でもこれだけ元気があれば、いずれその病は治るかもしれないでしゅ、ってな」

 噛んだぞ、おい!散々引っ張っといて決めゼリフ噛んだぞ、こいつ!

 「で、頻繁に運動してるから、食事のおいしいことおいしいこと!今では毎日、カツ丼よ!」

 「そうですか」

 「兄ちゃんの周りにおるか、年寄りでカツ丼食うような奴?」

 焼肉がおんねんけど!?それも朝からフルガバニンやねんけど!?

 「病気に勝たないとあかんからカツ丼とか、そういうことと違うで!そんなんと違う、そんなんと!ハハハハハ、病気に勝たないとあかんからカツ丼とかそんなんと違う!」

 何がおかしいねん、お前!さっきから急にツボに入るけど、それのどこがおもしろいの!?なあ、徳さん!?

 「あー、うまい、このたくわん」

 たくわん食ってた!俺の真横で1本丸ごとかじってた!ちょっと待って、俺、たくわん丸ごとかじってる奴を初めて見てんけど!?

 「それよりも兄ちゃん、わし、ボーリングによう行くねんけど、なんぼ出すと思う?」

 「いや、わからないです」

 「いいから言ってみ?」

 「……100ですか?」

 「アホな」

 「150ですか?」

 「アホな!150ぐらいやったら、わざわざ発表なんてせえへんよ!」

 「じゃあなんぼ出すんですか?」

 「170や」

 あんまり変わらんやんけ!150とあんまり変わらんやろ!

 「たまに170出すんや」

 たまになん!?偉そうに啖呵切ってたけどたまになんや!?

 「この徳さんなんて、毎回、100そこそこや」

 「アホ言え!わしかて170出すこともあるわいや!」

 「たまにやろ?」

 お前もたまにやろ!お前も170出すんはたまにやろ!

 「2人とも、アベレージはどれぐらいなんですか?」

 「アベレージって何?」

 「……平均値です。平均したら、1ゲームでだいたい、どれぐらいなんですか?」

 「そうやな。平均にしたら、だいたい100やな」

 ヘタやろ、お前!偉そうに言ってたけど、アベレージ100って普通にヘタやんけ!

 「わしは100もないな」

 ドヘタやんけ!お前に至ってはドヘタやろ!何を2人して偉そうに言っとんねん!

 「拓美ちゃんは毎回、70ぐらいやな」

 家いとけや、拓美ちゃん!アベレージ70の奴がのうのうと毎回行くなよ!婿養子で家に居場所がないかどうか知らんけどよ!

 「兄ちゃんもボーリングとかすんの?」

 「たまにしますよ」

 「アベレージはどれぐらい?」

 「……僕は120ぐらいですかね」

 「アベレージで?」

 「……ええ」

 「ほんまにアベレージで?」

 「ええ」

 「最高得点じゃなくて、アベレージがほんまに120なん?」

 アベレージって言いたいだけやろ、お前!覚えたての横文字使いたいだけやろ!NOVA帰りのサラリーマンか!

 「わしなんてもうすぐ、マイボールを買おうと思ってんのよ。すごいやろ、わしはもうすぐ、マイボールを買おうと思ってんねんで?」

 買ってから言えや!買おうと思ってるだけやろ、お前は!

 「兄ちゃんに1回、わしが投げてるところを見せてやりたいわ」

 「ま、まあ、機会があれば」

 「しゃあない。今日は特別に、ここで投げるところを見せたるわ」

 「いや、また今度でいいですよ!」

 「ボールをこうカーッと持ってやな!ボールの穴にこうカーッと指を入れてやな!」

 「あー、そうですか」

 「ボールをこうカーッと握ってやな!ボールにこうカーッと指先の力を集中してやな!」

 どこ説明してんねん、さっきから!ボールの持ち方とかどうでもええわ!投げ方を説明せいや!

 「足は開いたらあかん!足を開いて投げたらミゾにはまってしまう!」

 「そうですか」

 「で、視線は前や!前だけをカーッと見て、ほかは何も見るな!」

 「そうですか……」

 「目をカーッと見開いて、中央の長い棒だけをカーッと見すえて余計なことは一切考えずに……」

 いつ投げんねん、お前!なあ、マジでいつ投げんの!?このままいったら俺が餓死するかお前が老衰するかのどっちかやぞ!

 「で、ボールを見て念じるんや!ストライク出ろ、ストライク出ろってな!」

 技術関係ないやんけ!お前、足がどうとか視線がどうとか言っといて結局は神頼みかいや!

 「で、持ち上げたボールを後ろに回して……」

 やっときた!我慢したかいあってやっと投げるところまできた!

 「カーッと投げるんや!」

 ええ加減にせいよ、お前!全然わからんねん、お前の説明!で、カーッとってなんやねん、さっきから!池上彰ブチギレるぞ、そんな説明してたら!

 「それより徳さん、たくわん食ってるやんけ!」

 「うまいわ、これ」

 「たくわんあるんやったら言ってくれよ!」

 「めっちゃうまいわ」

 「ひと口よこせよ、この野郎!」

 「イヤじゃ」

 「いいからひと口よこせよ!」

 「落ち着け、落ち着け!」

 何のこぜり合いやねん、これ!なあ何、このオッサン同士の気持ち悪いじゃれ合い!?

 「ひと口よこせよ、拓美ちゃんところのたくわん!」

 漬物屋なん、拓美ちゃんって!?漬物屋に婿養子に入ったん!?未来あんの、その人!?

 僕はオッサンの相手に疲れたため、オバハンのほうに移動しました。

 ですが、オバハンのほうの相手も大変です。

 僕の母親とシーラカンスも、キレイな景色を見たことから、元気を取り戻しています。全員して往路同様、訳のわからない会話を連発しているのです。

 そこで今回は、「山の戦い」の最終話、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~頂上編~です。

 「やっほー!」

 「やっほー!やっほー!」

 オバハン連中は、やまびこを求めて叫び始めました。

 近くには、ほかの登山客もいます。頻繁に大声を出すなど、ここでも周囲を圧倒しているのです。

 「やっほー!やっほー!……ちょっとたけちゃん、返ってこおへんねんけど!?」

 知らんがな、そんなもん!俺が隊長か知らんけどなんで俺の責任やねん!

 「やっほー!……ちょっと、たけちゃん!?」

 わがままもええ加減にせいよ、お前ら!貴族か!

 「山の神様が眠っているんと違うか?」

 クレヨンが入ってきた!後ろから急に来やがった!

 「今日は日曜日。山の神様も休日で……」

 「やっほー!」

 無視された!オバハンにあからさまに無視された!

 「山の神様も人の子。時にはお休みになられる」

 「やっほー!」

 「体をいたわりになられ、山の神様とはいえ、夏には汗をおかきになる」

 「やっほー!」

 「そのしずくが雨となって乾いた山々に潤いを与え……」

 「やっほー!」

 あきらめろや、もう!いじめに近いレベルで無視されてるんやから、さすがにあきらめろや!かわいそうやからもう、俺が聞いたるわ!

 「山の神様も、汗をかくんですね」

 「山の神様も人の子。汗をかけば用も足される。その汗が雨になり、機嫌が悪いときには嵐にもなる。それが山の神様でそれを受け止めた人間は……」

 長い長い!元号変わるわ、もう!

 「しかしいい天気やなこんなに晴れてるんやったら布団干してきたらよかったわへへへへへ!」

 お前は速い速い!長さと速さのコラボ!

 「ところで兄ちゃん、徳さんのたくわん食べへんか?」

 いらんわ!なんで漬物回し食いしないとあかんねん!

 「あんたは?」

 「いりません」

 「あんたは?」

 「いりません」

 「岡村さんは?」

 「いりません」

 「山本さんは?」

 「いらん」

 全員に訊くなよ!たくわん丸ごと渡されてかじる奴なんておるわけないやろ!

 「あんたは?」

 「ちょうだい」

 おった!シーラカンスがもらった!

 「あっ、これおいしい!」

 「そうなんや。じゃあうちもひと口ちょうだい?」

 「うちもちょうだい?」

 「うちもうちも!」

 疎開先か、ここ!配給に群がってんのか!

 「(ほかの登山客に)あんたもどうや?」

 引いてるやんけ、そいつ!見知らぬ奴にたくわん見せられてドン引きやんけ!

 「あんたは?」

 俺や!さっき断った俺や、おい!散々相手したった俺や!今日、お前の相手に命削ってがんばったバスコや!

 「あっ、兄ちゃんか」

 なんで忘れんねん!ケンシロウ、もうそろそろこいつにキレたってくれ!?

 「あかん、酒がほしくなってきた」

 酒が切れた!怒るとかじゃなくて酒が切れた!

 「山本さん、ウイスキーがあるよ」

 「いいねえ」

 また出た、この会話!どぎつい会話がまた出た!

 「あそこに徳さんがおるから効かしといで!」

 効かすも出た!悪質なデジャヴやわ、これ!

 オッサンとオバハンの会話に巻き込まれた僕は、異常なまでの疲労を覚えました。急に1人になりたくなり、その場を離れました。

 僕はここまで、タバコを我慢しています。頂上まで我慢したら、そこで吸うタバコが最高においしいからです。

 近くの草むらに入ってタバコを吸ったところ、おいしすぎて卒倒しそうになりました。たくさんの怪物をクリアしてきた充実感からも、泣きそうになるほどなのです。

 この季節、眼下に広がる空の青は、目にまぶしいほどです。

 一方、近くではススキが風に揺れ、秋の到来を感じさせます。

 季節の変わり目をダイレクトに受け止め、その感覚がタバコのおいしさに拍車をかけます。僕は携帯灰皿でタバコをもみ消し、気がつくともう、次のタバコに火を点けていました。

 「たけちゃん、記念写真を撮ろうや!」

 しばらくして、ケンシロウが僕のところにやってきました。

 遠目に見ると、「931メートル」と標記された標柱の前に、全員が集まっています。クレヨンと徳さんもおり、見知らぬ人にカメラを渡して、僕の到着を待っています。僕は駆け足でその場に向かったのですが、全員がもう、あいーんの顔で静止してるんですよ!

 何の集まりやねん、これ!なあ何、この妙なカルト宗教!?

 「たへちゃん、早く来へよ!」

 シャクらせながら言うな!ていうか、顔戻せよ!シャッター押す寸前でいいねん、そんな顔!

 花木さんに至っては、またしてもアゴに手をあてるのを忘れています。今度は腰に手をあてて仁王立ちしながらアゴだけシャクらせているのです。

 だからどう思われたいねん、さっきから!なんや、お前のことを好きな奴がシャクレフェチなんか!?

 「たへちゃんがはやく来へくれないとアゴがおかひくな○△※☆♯○△※#!」

 速い速い速い速い!最後もうわからん、ほんで!

 「早く来へくれないとイヤヒヤーン!」

 お前は黙れ!シャクレながらブリッコすんなよ、気持ち悪い!

 「あいーん、兄ちゃん、早くしへえな!」

 あいーんっていちいち言うな!ていうかクレヨン、あいーんは、あいーんと言わないとダメって勘違いしてないか!?ケンシロウに指南されたんやろうけど、「あいーんはアゴだけではなく言葉もセットで」と思ってないか!?

 「兄ちゃん、アゴが痛ひから早く来へくれ、あいーん!」

 やっぱりそうや!クレヨンは勘違いしてる!

 僕は恐怖におののきながらも、端っこに陣取りました。

 すると横から見たメンバーの口元が、たくわん食べたせいで軒並み黄色いんですよ!「ペンキを主食にしてます!」というぐらい、全員が目をひんむきながら黄色い口をおもいっきり突き出してるんですよ!

 何がお前らにそうさせんねん!言うとくけど、今もしB29が来たら、ピンポイントでここ爆撃してくるぞ!それぐらい危険な集まりやぞ、この団体!

 シャッターを押してくれた女性は、ずっと半笑いでした。僕もおかしくて肩の震えが止まらないなど、人類史上に残る写真撮影だったのです。

 「そろそろ、昼ご飯にしようや!」

 「よっしゃー!!!」

 時刻は午後2時40分。頂上を少し下ったところにある広場に移動して、遅めの昼ご飯を食べることになりました。

 昼ご飯は全員、持参してきています。用意してきていなかったクレヨンと徳さんも誘い、総勢8名で食べることになりました。

 僕の母親は僕の分も含めて、たくさんのおにぎりを用意してきています。岡村さんは手作り弁当で、シーラカンスはコンビニ弁当です。

 元シェフの花木さんは、仲間のためにたくさんのおかずを用意してきています。サンドイッチ、ハム、から揚げ……。色とりどりのおかずを見て、全員が歓声を上げました。

 ところがメンバーに1人、えげつない食料を持参している奴がいるのです。「エサ」と表現しても差し支えなく、まだフタを開けていないにも関わらず、すでに外側から獰猛さが漂っているのです。

 その女、いやその男、いやその怪物は、「あー、たまらんわ!」と言って、弁当箱のフタを開けました。恐る恐る見たところ、豚足がびっしり詰まってたんですよ。

 勘弁してくれよ、おい!ランチやんな、これ!?出兵する沖縄人の壮行会会場と違うよな、ここ!?

 「いい匂いしとるわ!」

 完全に怪物が言いそうなセリフやんけ、それ!昔話で、怪物が人間を食おうと鍋煮てるときのセリフやんけ!

 中央であぐらをかくこの怪物は、弁当箱を2つ用意してきています。1つは豚足だったので、もう1つはさすがにヘルシーな奴やろ、と高をくくっていたのですが、ふと見たもう1つの弁当箱に、特大のイカメシが3つ入っていたのです。

 一揆の前か、お前!そのボリューム、これから戦いに行く奴の飯の量やんけ!

 「2人とも遠慮せんと、花木さんのサンドイッチを食べや!」

 お前のをやれ!ちょっと待って、1人で食う気なん、これ!?全員でつつくとかは考えてないの!?

 その怪物は素手で豚足をつかみ、骨ごとゼラチン質にむしゃぶりついています。イカメシも素手でつかむなど、女性色は皆無、それこそ人間色も皆無な、完全なるケモノなのです。

 なのに驚く僕を尻目に、オバハン連中は意に介しません。

 「事務総長のいつものエサやで!」

 こう言うかのごとく、そのことに一切触れません。ゲラゲラと笑いながら食事をしているのです。

 「事務総長、豚足を1個、いただいてよろしいでしょうか?」

 「1個だけやで」

 「ありがとうございます!」

 「それにしても事務総長、よく食べますね?」

 「当たり前やろ。歳いってきたら、食べてなんぼやで!」

 「ほんまやな。ハハハハハ!」

 「ハハハハハ!」

 「プゥ!」

 「またオナラかいや!ハハハハハ!」

 「ハハハハハハハ!」


 この連中を見ていると、価値観が変わります。ことの良し悪しは別にしても、人間らしい自分が顔を出すのです。

 僕は今日1日をとおして、抱き続けていた1つの感覚がありました。山に登りながらも常に、その「何か」を考えていました。そしてその答えが何なのか、この連中の笑顔を見て、はっきりとわかったのです。

 それは、「おおらかさ」です。

 全員が全員、腹の底から笑っているのです。

 汚い顔したオバハンも、脇毛を生やすオバハンも、ブリッコをするオバハンも、早口のオバハンも、オッサンみたいなオバハンも、今というこの瞬間を心底楽しんでいるのです。

 こんなオバハンといえども、この人たちはこの人たちで、背負っているものがあります。

 僕の母親は、娘夫婦の関係で悩んでいます。離婚するしないでもめており、そのことを考えると、食事がノドをとおりません。

 岡村さんの家は、めちゃくちゃ貧乏です。幼少のころからずっと貧しく、人生を通じて、まともな生活をしたことがありません。

 花木さんはバツイチです。旦那と別れ、同時に、勤めていた大阪のレストランもつぶれました。昨年、中学生の子供と一緒に、実家のある尼崎市に帰ってきたのです。

 シーラカンスには子供がいません。「養子に入らへんか?」と僕に頼んできたこともあるぐらいで、子供ができないことを悲しみ、今でも子供の話になると、目に涙を浮かべて話すのです。

 ケンシロウに至っては、6年前に、旦那さんを病気で亡くしています。

 僕は今でも忘れません。お葬式で、ケンシロウが旦那の棺桶から離れなかった姿を。

 「おとうちゃーん!」

 泣き叫ぶその姿は、まるで旦那のぬくもりを搾り出そうとしているかのようで、いまだに僕の網膜から離れないのです。

 オッサン2人もそうです。

 話をするうちに、2人は若き日に、同じ工場で働いていた同僚だということがわかりました。

 クレヨンは持病の糖尿が悪化して2年前にやめ、徳さんは途中から工場を経営し始めたものの、昨秋に潰れて現在は無職。借金が3000万円あり、クレヨンは健康改善に、徳さんはイヤなことを忘れるために月に1度、この六甲の山を登っているそうなのです。

 みなさん、こいつら見てくださいよ。こいつらの人生、見たってくださいよ。

 こんな奴らが、ゲラゲラと笑っているのです。背負う十字架を引きちぎって、人生を謳歌しているのです。

 食事中も、この連中は、ひたすらくだらない話をしています。

 「あんた、借金、3000万もあんの?」

 「そうや。何回、自殺考えたことか」

 「どうするんよ?」

 「知らん。何とかなるやろ。それよりもわしは、下山してからのビールのことで頭がいっぱいや!ハハハハハ!」

 「笑いごとと違うやろ、あんた!」

 「それよりあんた、男みたいな顔してんな。金を貯めて、整形とかしたら?」

 「やかましいわ!」

 「ハハハハハ!」

 「ハハハハハハハ!」

 クレヨンに至っては60すぎの病人にも関わらず、ケンシロウの巨乳をちらちらと見ているのです。

 バカ話を繰り返す中、シーラカンスが言いました。

 「みんな欠点ばっかりやな!ハハハハハハハ!」

 人間は、みんな欠点だらけです。欠点だらけで、悩みごとだらけです。ただそれでも、今日1日を笑えたら、こんなすばらしい人生はないのです。

 ここにいる連中の視線は、そう語っています。年輪を経た深みのある視線が、語らずとも、若僧である僕にそう語っているのです。

 このことに気づいたとき、ここにいる人間が全員、山の神様に見えました。

 なにしろこの連中、これから下山するというのに、いつまでもゲラゲラと笑っています。再び苦難が待ち受けているというのに、誰もが幸せそうに笑い続けているのです。

 それはほかの登山客も同じで、年配の方が多い中、誰もが笑っています。人生にくたびれている素振りも見せず、今この瞬間という時間に、青春しちゃってるんですよ。

 その姿を見ていると、何とも言えず、心地いいです。自分のことのようにうれしく、「俺は今、生きているんだな!」と、自分の人生すらも輝いて見えるのです。

 「山の神様というのは、山にいる人間のことである」

 誇張でもなんでもなく、僕は心の底から、こう思いました。

 むき出しのおおらかさを見せられると、自分の悩みごとがアホらしく思えてきます。体中の血流がたぎり、何だか空も飛べそうな気がしました。


 食事を終えた僕らは、下山することになりました。

 みんなで弁当箱を片付ける中、僕の母親が僕に訊きました。

 「今日、ありがとうな。いろいろと大変やったやろうけど、今日の登山、どうやった?」

 僕はこの「山の戦い」で、いろいろと苦しめられました。言いたいことがたくさんあったのですが、この連中のおおらかさにやられて、当たり前のように、こう口にしていたのです。

 「楽しかったわ!」

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~8合目⇒頂上編~(パソコン読者用)

※2009年・9月9日の記事を再編集


 「2人ともお疲れさん!大変やったやろ?」


 近づいてくるケンシロウと僕の母親に、クレヨンは声をかけました。


 「大変やったわ!」


 「もう、くたくた!」


 「体がくたくたになる。それが、山や」


 …………なんやねん、それ!名言風に言ったけど、よく考えたら普通のこと言ってるやんけ!


 「それこそが、山や」


 どう思われたいねん、お前!全然かっこよくないねん、さっきから!


 僕とオッサン2人は、土に直接、腰を下ろしています。クレヨンは自分のリュックをどけ、「ここ座れ、ここ座れ!」と言って座る場所を手ではらったのですが、そこも土なのです。


 土はらってもそこは土やろ、お前!はらったところで何もキレイにならんやろ!


 「ここ座れ!遠慮はいらん、この土に座れ!」


 土って言うてもうてるやんけ、もう!お前、何をいい場所紹介したったみたいな言い方してくれとんねん!


 「ヨウカン、食べる?」


 いきなりかい!とりあえず「何か飲む?」とか訊けよ!息が切れてるこの状態で、いきなりヨウカン食う奴なんておるわけないやろ!


 「ちょうだい!」


 おった!目の前におった!


 「うちもちょうだい!」


 2人ともやった!2人とも異常者やった!


 「全部ちょうだいや!」


 勝手なこと言うな!マッカーサーか!


 クレヨンは、ケンシロウと僕の母親にヨウカンを手渡しました。


 2人は飲み物も飲まずに、すぐにそれをほおばります。オバハンに口がパサパサかどうかなんて関係ないんですね。


 ケンシロウは、Tシャツのそでを肩までたくし上げています。意外にも脇毛は生えていなかったのですが、ヨウカンをつかむその二の腕が、ライト級のボクサーなみに太いのです。


 どこの地下プロレス出身やねん、お前!京極夏彦の文庫本ぐらい太いやんけ、その腕!


 「バリうまい、このヨウカン」


 バリて、おい!女やのにバリとか言うの!?俺、初めて出会ってんけどバリとか言う女に!?


 「たけちゃん、何か飲み物ない?」


 ペットボトルは!?1・5リットルを2本持ってきてたけど、それはどうなった!?


 「や、山本さん、持ってきた2本のジュースは?」


 「さっきなくなった」


 往路やんな!?念のために訊くけど、たしかまだ往路やったやんな!?


 「ノドが乾きすぎてゴクゴク行ってもうた」


 行ってもうたやあるか、お前!4時間半で3リットルって、それはもう水分補給の意味合いを超えてもうてるぞ!逆に「加水症状」とかになるぞ!


 僕のジュースがほとんど残っていなかったため、クレヨンが水筒を差し出してくれました。


 中身はあたたかい、こぶ茶です。ケンシロウはコップをひんだくるようにして受け取り、ヨウカンともども、むさぼり倒しているのです。


 しばらくして、徳さんがケンシロウの隣にやってきました。


 「あんた、これ飲むか?」


 徳さんは、携帯用のウィスキーボトルを手にしています。キャップのついたアルミのケースで、中身がウィスキーだと知らされたケンシロウが、めちゃくちゃ渋い声で「いいねえ」って言ったんですよ。


 オッサンやんけ!ゴリゴリのオッサンやんけ!


 「どうや?」


 「効くねえ」


 効くて、おい!効くとかなかなか言わんぞ、今日日!


 「バリ効くねえ」


 もう、俺が効いたわ!こんなこと真横で聞かされたら体がもたんわ!


 「兄ちゃんもどうや?効かしてみいひんか?」


 意味わからん!効かしてみるってなんやねん!


 「徳さん、わしも効かさしてくれ?」


 流行ってるやんけ!「効かす」が流行ってもうてるやんけ!


 5分ほどして、岡村さんと花木さんがやってきました。


 すると岡村さんを見たクレヨンと徳さんが、襟を正したのです。「キレイな人が来た!」と叫ぶかのごとく、岡村さんが自分たちの隣に座れるようにスペースを開け始めたのです。


 見えてるよな!?すごい奴を選んだけど、ほんまに見えてる!?


 「岡村さん、ここにおいで!」


 「ここに来い!ここに来い!」


 オーマイガッド!もうオーマイガッドとしか言えない!


 「あんがと~ね~!」


 ブリッコすんな、足の親指!で、オッサン2人も「この人、かわいい!」みたいな顔すんな!


 「岡村さんも効かしてみいひんか?」


 意味わからん!ていうかもう、岡村さんは顔が効いてるから!顔面にすでにパンチが効いてるから、これ以上は効かさせんといてくれ!


 ほどなくして、遠目に1人歩く、シーラカンスの姿が目に入りました。


 シーラカンスはフラフラです。それを見たオバハン連中が、「高田!高田!」と、高田コールを始めたのです。


 シーラカンスも、コールに気がつきました。そのコールに応えるかのごとく、コールの拍子に合わせて体をくねらせ、チョケた顔をしながら踊り始めたのです。


 気持ち悪い、気持ち悪い!山の天気変わるわ!


 「高田!高田!」


 「はーい!はーい!」


 死ね!28回死ね、お前みたいな奴!輪廻転生を繰り返しながら、28回とも全然知らんオッサンに看取られながら死ね!


 「お待た~!」


 「高田さん、わしの隣においで!」


 「わしの隣も空いてんで!」


 シーラカンスもストライクゾーンなん!?ちょっと待って、足の親指だけじゃなくて魚もタイプなん!?


 「高田さん、はいこれ、こぶ茶!」


 「高田さん、足、揉んだろか?」


 誰でもええんか、お前ら!それやったらもう、家に帰って脚立でも抱いとけや!脚立抱きながら「脚立だけに天に登り詰めそうだよハアハア」とか言っとけや!


 ともあれ、全員が到着しました。


 シーラカンスも交えて、休憩を取ります。オッサン2人はオバハン連中にぴったりと寄り添い、ずっとご機嫌でした。


 時刻は昼の1時になりました。


 僕は休憩を終わらせて、隊を出発させることにしました。


 この登山も、いよいよ正念場。新たに加わった怪物を引き連れて、僕は残りの急勾配を制覇します。


 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~8合目⇒頂上編~です。


 ここからは、今まで以上にアップダウンが激しいです。


 整備されているとはいえ、足場には、ゴツゴツとした大きな石がたくさん転がっています。それらをよけながらのクライミングで、急な上り坂が続きます。腰にかかる負担が大きく、暑さも相まって、一筋縄ではいきません。


 僕は過去に何度も、このルートで登っています。ここからの登山道のしんどさを知っていることから、全員に檄を飛ばしました。


 「みなさん、あと少しなんで、がんばりましょうね!」


 ですが、いつものような「おー!」のかけ声は返ってきません。


 全員がくたくたで、あのケンシロウでさえ、元気がありません。シーラカンスに至っては足元もおぼつかなく、僕の言葉は届かないのです。


 それでも、僕は「それじゃあ出発しまーす!」と声を張り上げて、隊を出発させました。オバハンの底力を信じることにしたのです。


 僕を先頭に、再び、山に足を踏み入れました。


 案の定、道の起伏は激しいです。急勾配の狭い山道が続くため、疲れた脚には負担が大きいのです。


 日中を過ぎたころから、粘りつくような暑さになってきています。


 額には常時、汗がにじんでいます。耳が汗ばみ、滴りが首から胸へと筋を引きます。僕は1人でさくさくと歩くものの、自分との戦いで精一杯なのです。


 僕はそれでも、このつらさが嫌いではありません。この苦労があるからこそ、ゴールしたときの感激が一塩だからです。


 眼下に広がる景色が変わるごとに、新しいセミが現われます。残り短い夏に何かを主張するかのごとく、セミは全身を使って鳴いています。熱された空気全体が彼らに鳴動しているようで、時折、土の湿り気を帯びた風が森を駆け抜けて、何とも心地いいのです。


 1人になった僕は、しばし、山そのものを楽しみました。学生時代を思い出して、あんなこともあったな、こんなこともあったなと記憶を手繰り寄せて、青春時代を懐かしみました。


 ところがしばらくして、クレヨンと徳さんが僕に追いついてきたのです。1人でせっかく感傷に浸っていたのに、この小さいオッサン2人が再び、僕を邪魔してきたのです。


 「兄ちゃん、今まで、どんな山に登ったことがあんの?」


 僕の真後ろにやってきたクレヨンが訊いてきました。


 「僕は山登りが好きなんで、結構、登りましたよ」


 「富士山は?」


 「登りました」


 「大山は?」


 「登りました」


 「北岳は?」


 「……登りました」


 「槍ヶ岳は?」


 何個訊くねん、お前!最終面接か!


 「槍ヶ岳も登りましたよ」


 「徳さん、この兄ちゃん、槍ヶ岳に登ったらしいで!」


 「そうなんや。どうやった?」


 訊き方が広すぎる!「槍ヶ岳はどうやった?」とか訊かれても答えようがないわ!


 「今度、わしらと松木さんで槍ヶ岳に登ろうと思ってんのよ」


 誰やねん、松木さんって!なあ誰、そのいかにも山に登りそうな名前してる奴!?


 「それより徳さん、最近、松木さんは何してんの?」


 「知らん。こないだ2人で東急ハンズに枕を買いに行ったきり会ってない」


 オッサン2人で枕買いに行ったん!?ちょっと待って、何、その仲のよさ!?ホモっぽい感じがしてすごい気になんねんけど!?


 「そうなんや。でもそんなこと言われたら、わしも枕を変えたくなってきたわ」


 「枕は大事やで。合ってない枕を使ってたら、心臓に悪いらしいからな」


 「そうなんや。それより兄ちゃんは、どんな枕を使ってんの?」


 「いや、普通の枕ですよ。四角の奴です」


 「どう?」


 「はっ?」


 「四角の枕はどう?」


 「いや、どうって言われても……。ま、まあ、普通ですよ」


 「自転車は何乗ってんの?」


 「えっ?」


 「自転車は何乗ってんの?」


 「いや、自転車は乗らないですね」


 「乗られへんの?」


 「いやそうじゃなくて、乗る機会があまりない、ってことです」


 「じゃあ普段は何乗ってんの?電車か?」


 「……いや、電車は私物で所有しているわけではないんで、原付きに乗ってます」


 「大型?中免の大型特製免許?」


 「……いや、原付きのほうです、50CCの」


 「50CCか。松木さんも50CCやで」


 ええ加減にせいよ、コラ!もうええ加減にせいよ、お前!もう1回言うわ、ええ加減にせいよ!


 ええ加減にせいよ、もう1回言うたった!で言うとくぞ、この30秒の会話だけで、言わなあかんことが5個以上あるからな!でもツッコミ入れてたらキリがないから、目立ったところを1つだけピックアップして言うわ、中免の大型特製免許って何?この謎の免許は、どこヶ丘教習所が交付してんの!?で、その免許があったら、どのサイズのバイクに乗れんの!?


 このように、訳のわからない話を矢継ぎ早にしてくるのです。


 僕はこの2人を先に行かすため、立ち小便をすることにしました。「おしっこがしたい」とウソをついて、1人で草むらに入って行ったのですが、「待つわ!」と言うのです。


 ごめん、待たんといて!そんなハチ公的な忠誠心はいらんから!


 「わしらは待っとくわ!いつまでも待つわ!」


 あみんか!そんなあみん的な待たれ方されても困んねん、こっちは!


 「それより兄ちゃん、山の神様ごめんなさいって言わないとあかんで!」


 また出た、山の神様!油断してたらこのタイミングで言いやがった!


 「心の中で山の神様ごめんなさい、山の神様ごめんなさいって言うんや。何回も何回も山の神様ごめんなさい山の神様ごめんなさいって唱えてたら、それを聞いた山の神様が……」


 もう小便終わったわ!お前のセリフが長すぎて、俺もう帰ってきたわ!セリフの途中で俺はもうお前の目の前におんねん!


 「山の神様は正直者に許しをお与えになる。山の神様は……」


 俺もう、軽く進んでんねんけど!?どうしたらいいの、俺は!?


 「でもまあ、山に立ちションは、つきもんやからな」


 「そうや。この徳さんなんて、野グソの常連や。毎回、ウサギの大便みたいな小さい奴をポロポロと出しよる」


 「アホ言え!俺のはごっついわ!」


 「ウソ言え!」


 「ほんまや!わしは大便、1発で出すタイプや!」


 「ウソ言えよ!どうせたいした大便と違うんやろ?」


 「わしは1発で決めるわ!山の男の大便をなめんな!」


 何の言い合いやねん、これ!なんやねん、この世界で1番しょうもないケンカ!


 「わしはいつも1本で決める!」


 全然かっこよくないねんけど!?1本で決めるとか言われても気持ち悪いだけやねんけど!?


 「兄ちゃんも1本派か?」


 何の派閥やねん、それ!1本派とか知るか、お前!そもそも日によって違うわ、そんなもん!


 「徳さん、ほんまに1本派なんか?」


 「ほんまや!松木さんと一緒にすんな!」


 何本派なん、松木さんって!?ていうか、なんで松木さんのそんなこと知ってんの!?


 訳のわからない話ばかりで、一緒にいると異常に疲れます。僕は2人を振り切ろうと、歩くスピードを速めました。


 ところが、2人は僕に余裕でついてきます。2人して、年齢を感じさせない健脚。「兄ちゃん、離さへんで!」とばかりに、当たり前のように張りついてきたのです。


 「兄ちゃん、仕事は何してんの?」


 クレヨンが訊いてきました。


 「放送作家です」と答えると、話がややこしくなりそうです。「普通のサラリーマンです」とウソをついたのですが、これをきっかけに再び、訳のわからない話になったのです。


 「サラリーマンなんや。どんなサラリーマン?」


 「製造業です」


 「スリッパか?」


 なんで製造業=スリッパやねん!何がどうなったらそんな瞬時につながんねん!


 「そうです」


 僕は言い返すのがしんどくて、もう、そういうことにしました。


 「スリッパか。たしかに兄ちゃん、いいスリッパ作りそうやな」


 どう見えてんの、さっきから俺!?糖尿とか、いいスリッパ作りそうとかどういう見え方してんの俺は!?


 「わしらにもくれよ、スリッパ!」


 「まあ、また今度」


 「3足くれよ、拓美ちゃんにもやりたいから!」


 松木さんにやれ!お前、散々松木さん松木さん言っといて、そこは松木さんにやれよ!


 「拓美ちゃん、婿養子やねん」


 知らんがな、そんなもん!ていうか、なんで婿養子やったらスリッパやらないとあかんねん!


 「それよりスリッパって、日に何足ぐらい作るもんなん?」


 「だいたい、500足ぐらいですかね」


 「500足か。まるでムカデやな?ハハハハハ!」


 「……そうですね」


 「ハハハハハ!」


 「……」


 「ハハハハハ!」


 「……」


 「ハハハハハハハ!」


 いつまで笑っとんねん、お前!ていうか、そんなにおもしろいか、それ!?なあ、徳さん!?


 「ムカデて!ハハハハハ!」


 徳さんも笑ってた!結構離れてんのにツボに入ってた!


 「傑作やわ!」


 「傑作やろ?」


 お笑いなめんな、お前ら!こんなんで傑作やったら誰でも芸人なれるわ!山口県にも芸能プロダクションできるわ!


 「それより、徳さんは今、無職なんよ。雇ったってくれへんかな?」


 知るかいや、そんなこと!ていうか、製造業ってウソついた俺は罪悪感を感じるやんけ!徳さんの後ろに家族が見えて悪い気がしてきたわ!


 話がややこしくなってきたので、僕は休憩を取ることにしました。


 オッサン2人も、同じく休憩です。


 山はまもなく、9合目に入ります。オバハン連中を待つため、僕はリュックを枕に、その場に倒れ込みました。


 時刻は1時30分を回りました。


 オッサン2人も、僕と同じようにその場に寝転んでいます。


 ですが、訳のわからない会話は健在。現場は、僕、クレヨン、徳さんの並びで、川の字に寝転んでいます。ボーッとする僕を巻き込んで、再び妙な会話が展開されたのです。


 「徳さん、松木さんの作る、チーズの入ったクロワッサンパン、食べたことある?」


 「ない」


 「兄ちゃんは?」


 あるか!あるわけないやろ、そんなもん!で、クロワッサンパンってなんやねん!語尾に総称をつけんな!


 「1回、食べさしてもらい。あれ、カツ丼よりうまいで」


 なんでカツ丼と比べた!?お前それは「キムタクよりもポルシェのほうがかっこいい」とか言うようなもんやぞ!


 「それより松木さんところのパン屋、最近、もうかってんの?」


 「もうかってないらしいで。最近よう、余ったパンをくれるもん」


 「そうなんや。徳さんは松木さんところのパンで、何パンが好き?」


 「そうやな。四角の奴で、ゴマが載ってる奴あるやろ?」


 「あるな。茶色の奴やろ?」


 大概茶色やろ!パンは大概茶色やろ!


 「あかん、名前が出てこない」


 「ハムカツパンか?」


 「違う」


 「チョコか?ジャムか?」


 「違う」


 「生クリームパンか?」


 何個訊くねん、だから!最終面接か、さっきから!


 「緑のヨモギか?」


 緑って言うてもうてるやんけ!お前さっき、茶色の奴やろって自分で言ってたやんけ!


 「兄ちゃん、知ってる?」


 エスパー魔美か、俺!部外者の俺がわかるわけないやろ、さっきから!


 訊かれた僕はおちょくり半分に、こう答えました。


 「クロワッサンパンと違います?」


 「いや、クロワッサンじゃない」


 クロワッサンパンって言えや!お前、乗っかってやったのにそれかいや!相当、たち悪いな!


 「でも、こんな話してたら、急にパンを食べたくなってきたわ」


 「ほんまやな。近所の駅前にパン屋ができたから、帰ったら食べようや」


 松木さんの店に行け!お前ら、松木さんの店に行けよ!松木さんのパンの話で盛り上がってるんやから、ここはどう考えても松木さんの店やろ!


 しばらくして、オバハン連中が一気にやってきました。


 全員、疲労困憊です。木を杖代わりにして歩いているオバハンまでいます。


 「みんな、こっちにおいで!あたたかいこぶ茶があるで!」


 クレヨンにうながされて、オバハン連中はその場に倒れ込みました。


 「もうあかんわ、うち!もう限界!」


 「うちも無理!足が痛くて前に進まへん!」


 誰もが弱音を吐いています。あのケンシロウでさえ仰向けになり、ハアハアと言っているのです。


 するとクレヨンが立ち上がり、寝転ぶオバハンに向かって叫びました。


 「若いのに何を言うとるか!しっかりせんかい!」


 いいこと言うな……。お前よりも年上の奴がいるのは気になるけど、たまにはいいこと言うな……。


 「山の神様も……」


 また出た、山の神様!これ聞いたら一気に萎えるわって、誰も聞いてないやんけ!


 「ごめん、静かにして!」


 怒られた!啖呵切ったのにめちゃくちゃかっこ悪い!


 「山の神様も……」


 「静かにせいや、お前!!!」


 ケンシロウがキレた!これではさすがの神様もたちうちできない!


 「あと30分で山頂ですよ!山頂に着いたら、すぐに食事にしますから!」


 結局、僕のこの言葉に勇気づけられて、全員、立ち上がりました。


 山頂はもう、目前です。休憩もそこそこに、僕はすぐに出発させることにしました。


 オッサン2人が先頭を行きます。僕は隊列の中間に陣取り、傾斜の強いところは上から手を貸します。フラフラのオバハンにはリュックを持ってあげるなどして、オバハン連中を何とか前に進ませました。


 口をきくものなど、誰ひとりとしていません。「あと何分で着くのよ?」と僕に頻繁に訊くなど、機嫌も悪いです。シーラカンスに至っては肩で息をしており、頻繁に足を止めるのです。


 それでも、シーラカンスはがんばります。背中を押す僕にお礼を言うなど、まだ元気は残っています。それを証明するかのごとく、やりやがったのです。


 「ベジータ……」


 ちっちゃ!オナラのスタミナまで切れやがった!


 「ベジータ……」


 数で勝負してきやがった!威力ないから2人呼び出しやがった!


 しばらくして、僕にも限界がきました。


 僕は途中から、シーラカンスのリュックも背負っています。「なんで俺が持たないとあかんねん!」と、親切にしたことを後悔するなど、イライラが顔を出し始めたのです。


 ただ、そんな僕を、山は柔和に包み込んでくれます。


 自然というのは、意味なくそこに鎮座しているのではありません。「自然の息吹」という言葉にもあるとおり、むき出しの自然に触れると、はっきりとその息遣いを感じることができます。


 自然の前では、人はウソをつけません。計算高さ、ずるさ、汚さ……。自分の弱さを見透かされているようで、素直な自分になれるのです。


 そしてその素直さは次第に、人への優しさへと変わります。とりわけ弱者に対して、非常に人間らしい、根源的な優しさが顔を出します。疲れている人、老人、女性など、弱い人を見る目が変わってくるのです。


 現在、最後尾付近を、僕の母親とシーラカンスが歩いています。僕は、山という自然に背中を押され、気がつくと最後尾に移動して、こう口にしていました。


 「オカン、そのリュックを貸せ。俺が持ったるわ」


 「でもあんた、高田さんのリュックも持ってるやろ」


 「大丈夫や。いいから貸せ」


 「……ありがとう。ほんまに助かるわ」


 少し照れくさいとはいえ、こんな自分をうれしく思えました。


 時刻は午後2時を回りました。


 がんばったかいあって、この段階でようやく、頂上が見えてきました。


 ゴールまであと少し。先頭を進んでいたオッサン2人は、すでに到着しています。


 「あと少しや!がんばれ!」


 オッサン2人が頂上から叫んでいます。


 5分ほどして、ケンシロウ、岡村さん、花木さんがゴールしました。残されたのは僕の母親とシーラカンス、そして最後尾に陣取る僕の3人です。


 頂上まで、残り50メートルを切りました。


 ここからは、急な上り坂です。3人してゴールを目指す中、到着したメンバーが僕らに向かって叫んでいます。


 「ふーちゃん(僕の母親)、がんばれ!」


 「高田さん、がんばれ!」


 「たけちゃん、がんばれ!あと少しやで!」


 僕ら3人は肩を並べて、ゆっくりと歩みを進めました。


 こんな状況でも、隣で歩く僕の母親は、僕の顔の汗をタオルで拭いてくれます。それが照れくさいながらもどこかうれしく、年老いた母親の姿も相まって、感極まりそうになりました。


 そして、午後2時15分。


 「お疲れさん!よくがんばったな!」


 ケンシロウに出迎えられて、僕らはその頂きに足を踏み入れたのです。


 頂上では仲間が笑っています。誰もが充実感でいっぱいで、ほどなくしてクレヨンが僕に歩み寄り、嬉々とした表情を浮かべて言いました。


 「兄ちゃん、さっきのパン、思い出したわ!あれ、猫パンや!」


 第一声がそれ!?ハアハア言ってる俺にいきなりそんなこと言うの!?


 「猫パン!猫パン!」


 猫パンってなんやねん、ほんで!お前らの交友関係を考えたら、ほんまに猫入れてそうやねんけど!?


 いずれにせよ、到着です。


 所要時間、6時間15分。僕らは無事全員、栄光のゴールを手にしたのです。


 頂上編へ……。

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~8合目⇒頂上編~(携帯読者用)

※2009年・9月9日の記事を再編集

 「2人ともお疲れさん!大変やったやろ?」

 近づいてくるケンシロウと僕の母親に、クレヨンは声をかけました。

 「大変やったわ!」

 「もう、くたくた!」

 「体がくたくたになる。それが、山や」

 …………なんやねん、それ!名言風に言ったけど、よく考えたら普通のこと言ってるやんけ!

 「それこそが、山や」

 どう思われたいねん、お前!全然かっこよくないねん、さっきから!

 僕とオッサン2人は、土に直接、腰を下ろしています。クレヨンは自分のリュックをどけ、「ここ座れ、ここ座れ!」と言って座る場所を手ではらったのですが、そこも土なのです。

 土はらってもそこは土やろ、お前!はらったところで何もキレイにならんやろ!

 「ここ座れ!遠慮はいらん、この土に座れ!」

 土って言うてもうてるやんけ、もう!お前、何をいい場所紹介したったみたいな言い方してくれとんねん!

 「ヨウカン、食べる?」

 いきなりかい!とりあえず「何か飲む?」とか訊けよ!息が切れてるこの状態で、いきなりヨウカン食う奴なんておるわけないやろ!

 「ちょうだい!」

 おった!目の前におった!

 「うちもちょうだい!」

 2人ともやった!2人とも異常者やった!

 「全部ちょうだいや!」

 勝手なこと言うな!マッカーサーか!

 クレヨンは、ケンシロウと僕の母親にヨウカンを手渡しました。

 2人は飲み物も飲まずに、すぐにそれをほおばります。オバハンに口がパサパサかどうかなんて関係ないんですね。

 ケンシロウは、Tシャツのそでを肩までたくし上げています。意外にも脇毛は生えていなかったのですが、ヨウカンをつかむその二の腕が、ライト級のボクサーなみに太いのです。

 どこの地下プロレス出身やねん、お前!京極夏彦の文庫本ぐらい太いやんけ、その腕!

 「バリうまい、このヨウカン」

 バリて、おい!女やのにバリとか言うの!?俺、初めて出会ってんけどバリとか言う女に!?

 「たけちゃん、何か飲み物ない?」

 ペットボトルは!?1・5リットルを2本持ってきてたけど、それはどうなった!?

 「や、山本さん、持ってきた2本のジュースは?」

 「さっきなくなった」

 往路やんな!?念のために訊くけど、たしかまだ往路やったやんな!?

 「ノドが乾きすぎてゴクゴク行ってもうた」

 行ってもうたやあるか、お前!4時間半で3リットルって、それはもう水分補給の意味合いを超えてもうてるぞ!逆に「加水症状」とかになるぞ!

 僕のジュースがほとんど残っていなかったため、クレヨンが水筒を差し出してくれました。

 中身はあたたかい、こぶ茶です。ケンシロウはコップをひんだくるようにして受け取り、ヨウカンともども、むさぼり倒しているのです。

 しばらくして、徳さんがケンシロウの隣にやってきました。

 「あんた、これ飲むか?」

 徳さんは、携帯用のウィスキーボトルを手にしています。キャップのついたアルミのケースで、中身がウィスキーだと知らされたケンシロウが、めちゃくちゃ渋い声で「いいねえ」って言ったんですよ。

 オッサンやんけ!ゴリゴリのオッサンやんけ!

 「どうや?」

 「効くねえ」

 効くて、おい!効くとかなかなか言わんぞ、今日日!

 「バリ効くねえ」

 もう、俺が効いたわ!こんなこと真横で聞かされたら体がもたんわ!

 「兄ちゃんもどうや?効かしてみいひんか?」

 意味わからん!効かしてみるってなんやねん!

 「徳さん、わしも効かさしてくれ?」

 流行ってるやんけ!「効かす」が流行ってもうてるやんけ!

 5分ほどして、岡村さんと花木さんがやってきました。

 すると岡村さんを見たクレヨンと徳さんが、襟を正したのです。「キレイな人が来た!」と叫ぶかのごとく、岡村さんが自分たちの隣に座れるようにスペースを開け始めたのです。

 見えてるよな!?すごい奴を選んだけど、ほんまに見えてる!?

 「岡村さん、ここにおいで!」

 「ここに来い!ここに来い!」

 オーマイガッド!もうオーマイガッドとしか言えない!

 「あんがと~ね~!」

 ブリッコすんな、足の親指!で、オッサン2人も「この人、かわいい!」みたいな顔すんな!

 「岡村さんも効かしてみいひんか?」

 意味わからん!ていうかもう、岡村さんは顔が効いてるから!顔面にすでにパンチが効いてるから、これ以上は効かさせんといてくれ!

 ほどなくして、遠目に1人歩く、シーラカンスの姿が目に入りました。

 シーラカンスはフラフラです。それを見たオバハン連中が、「高田!高田!」と、高田コールを始めたのです。

 シーラカンスも、コールに気がつきました。そのコールに応えるかのごとく、コールの拍子に合わせて体をくねらせ、チョケた顔をしながら踊り始めたのです。

 気持ち悪い、気持ち悪い!山の天気変わるわ!

 「高田!高田!」

 「はーい!はーい!」

 死ね!28回死ね、お前みたいな奴!輪廻転生を繰り返しながら、28回とも全然知らんオッサンに看取られながら死ね!

 「お待た~!」

 「高田さん、わしの隣においで!」

 「わしの隣も空いてんで!」

 シーラカンスもストライクゾーンなん!?ちょっと待って、足の親指だけじゃなくて魚もタイプなん!?

 「高田さん、はいこれ、こぶ茶!」

 「高田さん、足、揉んだろか?」

 誰でもええんか、お前ら!それやったらもう、家に帰って脚立でも抱いとけや!脚立抱きながら「脚立だけに天に登り詰めそうだよハアハア」とか言っとけや!

 ともあれ、全員が到着しました。

 シーラカンスも交えて、休憩を取ります。オッサン2人はオバハン連中にぴったりと寄り添い、ずっとご機嫌でした。

 時刻は昼の1時になりました。

 僕は休憩を終わらせて、隊を出発させることにしました。

 この登山も、いよいよ正念場。新たに加わった怪物を引き連れて、僕は残りの急勾配を制覇します。

 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~8合目⇒頂上編~です。

 ここからは、今まで以上にアップダウンが激しいです。

 整備されているとはいえ、足場には、ゴツゴツとした大きな石がたくさん転がっています。それらをよけながらのクライミングで、急な上り坂が続きます。腰にかかる負担が大きく、暑さも相まって、一筋縄ではいきません。

 僕は過去に何度も、このルートで登っています。ここからの登山道のしんどさを知っていることから、全員に檄を飛ばしました。

 「みなさん、あと少しなんで、がんばりましょうね!」

 ですが、いつものような「おー!」のかけ声は返ってきません。

 全員がくたくたで、あのケンシロウでさえ、元気がありません。シーラカンスに至っては足元もおぼつかなく、僕の言葉は届かないのです。

 それでも、僕は「それじゃあ出発しまーす!」と声を張り上げて、隊を出発させました。オバハンの底力を信じることにしたのです。

 僕を先頭に、再び、山に足を踏み入れました。

 案の定、道の起伏は激しいです。急勾配の狭い山道が続くため、疲れた脚には負担が大きいのです。

 日中を過ぎたころから、粘りつくような暑さになってきています。

 額には常時、汗がにじんでいます。耳が汗ばみ、滴りが首から胸へと筋を引きます。僕は1人でさくさくと歩くものの、自分との戦いで精一杯なのです。

 僕はそれでも、このつらさが嫌いではありません。この苦労があるからこそ、ゴールしたときの感激が一塩だからです。

 眼下に広がる景色が変わるごとに、新しいセミが現われます。残り短い夏に何かを主張するかのごとく、セミは全身を使って鳴いています。熱された空気全体が彼らに鳴動しているようで、時折、土の湿り気を帯びた風が森を駆け抜けて、何とも心地いいのです。

 1人になった僕は、しばし、山そのものを楽しみました。学生時代を思い出して、あんなこともあったな、こんなこともあったなと記憶を手繰り寄せて、青春時代を懐かしみました。

 ところがしばらくして、クレヨンと徳さんが僕に追いついてきたのです。1人でせっかく感傷に浸っていたのに、この小さいオッサン2人が再び、僕を邪魔してきたのです。

 「兄ちゃん、今まで、どんな山に登ったことがあんの?」

 僕の真後ろにやってきたクレヨンが訊いてきました。

 「僕は山登りが好きなんで、結構、登りましたよ」

 「富士山は?」

 「登りました」

 「大山は?」

 「登りました」

 「北岳は?」

 「……登りました」

 「槍ヶ岳は?」

 何個訊くねん、お前!最終面接か!

 「槍ヶ岳も登りましたよ」

 「徳さん、この兄ちゃん、槍ヶ岳に登ったらしいで!」

 「そうなんや。どうやった?」

 訊き方が広すぎる!「槍ヶ岳はどうやった?」とか訊かれても答えようがないわ!

 「今度、わしらと松木さんで槍ヶ岳に登ろうと思ってんのよ」

 誰やねん、松木さんって!なあ誰、そのいかにも山に登りそうな名前してる奴!?

 「それより徳さん、最近、松木さんは何してんの?」

 「知らん。こないだ2人で東急ハンズに枕を買いに行ったきり会ってない」

 オッサン2人で枕買いに行ったん!?ちょっと待って、何、その仲のよさ!?ホモっぽい感じがしてすごい気になんねんけど!?

 「そうなんや。でもそんなこと言われたら、わしも枕を変えたくなってきたわ」

 「枕は大事やで。合ってない枕を使ってたら、心臓に悪いらしいからな」

 「そうなんや。それより兄ちゃんは、どんな枕を使ってんの?」

 「いや、普通の枕ですよ。四角の奴です」

 「どう?」

 「はっ?」

 「四角の枕はどう?」

 「いや、どうって言われても……。ま、まあ、普通ですよ」

 「自転車は何乗ってんの?」

 「えっ?」

 「自転車は何乗ってんの?」

 「いや、自転車は乗らないですね」

 「乗られへんの?」

 「いやそうじゃなくて、乗る機会があまりない、ってことです」

 「じゃあ普段は何乗ってんの?電車か?」

 「……いや、電車は私物で所有しているわけではないんで、原付きに乗ってます」

 「大型?中免の大型特製免許?」

 「……いや、原付きのほうです、50CCの」

 「50CCか。松木さんも50CCやで」

 ええ加減にせいよ、コラ!もうええ加減にせいよ、お前!もう1回言うわ、ええ加減にせいよ!

 ええ加減にせいよ、もう1回言うたった!で言うとくぞ、この30秒の会話だけで、言わなあかんことが5個以上あるからな!でもツッコミ入れてたらキリがないから、目立ったところを1つだけピックアップして言うわ、中免の大型特製免許って何?この謎の免許は、どこヶ丘教習所が交付してんの!?で、その免許があったら、どのサイズのバイクに乗れんの!?

 このように、訳のわからない話を矢継ぎ早にしてくるのです。

 僕はこの2人を先に行かすため、立ち小便をすることにしました。「おしっこがしたい」とウソをついて、1人で草むらに入って行ったのですが、「待つわ!」と言うのです。

 ごめん、待たんといて!そんなハチ公的な忠誠心はいらんから!

 「わしらは待っとくわ!いつまでも待つわ!」

 あみんか!そんなあみん的な待たれ方されても困んねん、こっちは!

 「それより兄ちゃん、山の神様ごめんなさいって言わないとあかんで!」

 また出た、山の神様!油断してたらこのタイミングで言いやがった!

 「心の中で山の神様ごめんなさい、山の神様ごめんなさいって言うんや。何回も何回も山の神様ごめんなさい山の神様ごめんなさいって唱えてたら、それを聞いた山の神様が……」

 もう小便終わったわ!お前のセリフが長すぎて、俺もう帰ってきたわ!セリフの途中で俺はもうお前の目の前におんねん!

 「山の神様は正直者に許しをお与えになる。山の神様は……」

 俺もう、軽く進んでんねんけど!?どうしたらいいの、俺は!?

 「でもまあ、山に立ちションは、つきもんやからな」

 「そうや。この徳さんなんて、野グソの常連や。毎回、ウサギの大便みたいな小さい奴をポロポロと出しよる」

 「アホ言え!俺のはごっついわ!」

 「ウソ言え!」

 「ほんまや!わしは大便、1発で出すタイプや!」

 「ウソ言えよ!どうせたいした大便と違うんやろ?」

 「わしは1発で決めるわ!山の男の大便をなめんな!」

 何の言い合いやねん、これ!なんやねん、この世界で1番しょうもないケンカ!

 「わしはいつも1本で決める!」

 全然かっこよくないねんけど!?1本で決めるとか言われても気持ち悪いだけやねんけど!?

 「兄ちゃんも1本派か?」

 何の派閥やねん、それ!1本派とか知るか、お前!そもそも日によって違うわ、そんなもん!

 「徳さん、ほんまに1本派なんか?」

 「ほんまや!松木さんと一緒にすんな!」

 何本派なん、松木さんって!?ていうか、なんで松木さんのそんなこと知ってんの!?

 訳のわからない話ばかりで、一緒にいると異常に疲れます。僕は2人を振り切ろうと、歩くスピードを速めました。

 ところが、2人は僕に余裕でついてきます。2人して、年齢を感じさせない健脚。「兄ちゃん、離さへんで!」とばかりに、当たり前のように張りついてきたのです。

 「兄ちゃん、仕事は何してんの?」

 クレヨンが訊いてきました。

 「放送作家です」と答えると、話がややこしくなりそうです。「普通のサラリーマンです」とウソをついたのですが、これをきっかけに再び、訳のわからない話になったのです。

 「サラリーマンなんや。どんなサラリーマン?」

 「製造業です」

 「スリッパか?」

 なんで製造業=スリッパやねん!何がどうなったらそんな瞬時につながんねん!

 「そうです」

 僕は言い返すのがしんどくて、もう、そういうことにしました。

 「スリッパか。たしかに兄ちゃん、いいスリッパ作りそうやな」

 どう見えてんの、さっきから俺!?糖尿とか、いいスリッパ作りそうとかどういう見え方してんの俺は!?

 「わしらにもくれよ、スリッパ!」

 「まあ、また今度」

 「3足くれよ、拓美ちゃんにもやりたいから!」

 松木さんにやれ!お前、散々松木さん松木さん言っといて、そこは松木さんにやれよ!

 「拓美ちゃん、婿養子やねん」

 知らんがな、そんなもん!ていうか、なんで婿養子やったらスリッパやらないとあかんねん!

 「それよりスリッパって、日に何足ぐらい作るもんなん?」

 「だいたい、500足ぐらいですかね」

 「500足か。まるでムカデやな?ハハハハハ!」

 「……そうですね」

 「ハハハハハ!」

 「……」

 「ハハハハハ!」

 「……」

 「ハハハハハハハ!」

 いつまで笑っとんねん、お前!ていうか、そんなにおもしろいか、それ!?なあ、徳さん!?

 「ムカデて!ハハハハハ!」

 徳さんも笑ってた!結構離れてんのにツボに入ってた!

 「傑作やわ!」

 「傑作やろ?」

 お笑いなめんな、お前ら!こんなんで傑作やったら誰でも芸人なれるわ!山口県にも芸能プロダクションできるわ!

 「それより、徳さんは今、無職なんよ。雇ったってくれへんかな?」

 知るかいや、そんなこと!ていうか、製造業ってウソついた俺は罪悪感を感じるやんけ!徳さんの後ろに家族が見えて悪い気がしてきたわ!

 話がややこしくなってきたので、僕は休憩を取ることにしました。

 オッサン2人も、同じく休憩です。

 山はまもなく、9合目に入ります。オバハン連中を待つため、僕はリュックを枕に、その場に倒れ込みました。

 時刻は1時30分を回りました。

 オッサン2人も、僕と同じようにその場に寝転んでいます。

 ですが、訳のわからない会話は健在。現場は、僕、クレヨン、徳さんの並びで、川の字に寝転んでいます。ボーッとする僕を巻き込んで、再び妙な会話が展開されたのです。

 「徳さん、松木さんの作る、チーズの入ったクロワッサンパン、食べたことある?」

 「ない」

 「兄ちゃんは?」

 あるか!あるわけないやろ、そんなもん!で、クロワッサンパンってなんやねん!語尾に総称をつけんな!

 「1回、食べさしてもらい。あれ、カツ丼よりうまいで」

 なんでカツ丼と比べた!?お前それは「キムタクよりもポルシェのほうがかっこいい」とか言うようなもんやぞ!

 「それより松木さんところのパン屋、最近、もうかってんの?」

 「もうかってないらしいで。最近よう、余ったパンをくれるもん」

 「そうなんや。徳さんは松木さんところのパンで、何パンが好き?」

 「そうやな。四角の奴で、ゴマが載ってる奴あるやろ?」

 「あるな。茶色の奴やろ?」

 大概茶色やろ!パンは大概茶色やろ!

 「あかん、名前が出てこない」

 「ハムカツパンか?」

 「違う」

 「チョコか?ジャムか?」

 「違う」

 「生クリームパンか?」

 何個訊くねん、だから!最終面接か、さっきから!

 「緑のヨモギか?」

 緑って言うてもうてるやんけ!お前さっき、茶色の奴やろって自分で言ってたやんけ!

 「兄ちゃん、知ってる?」

 エスパー魔美か、俺!部外者の俺がわかるわけないやろ、さっきから!

 訊かれた僕はおちょくり半分に、こう答えました。

 「クロワッサンパンと違います?」

 「いや、クロワッサンじゃない」

 クロワッサンパンって言えや!お前、乗っかってやったのにそれかいや!相当、たち悪いな!

 「でも、こんな話してたら、急にパンを食べたくなってきたわ」

 「ほんまやな。近所の駅前にパン屋ができたから、帰ったら食べようや」

 松木さんの店に行け!お前ら、松木さんの店に行けよ!松木さんのパンの話で盛り上がってるんやから、ここはどう考えても松木さんの店やろ!

 しばらくして、オバハン連中が一気にやってきました。

 全員、疲労困憊です。木を杖代わりにして歩いているオバハンまでいます。

 「みんな、こっちにおいで!あたたかいこぶ茶があるで!」

 クレヨンにうながされて、オバハン連中はその場に倒れ込みました。

 「もうあかんわ、うち!もう限界!」

 「うちも無理!足が痛くて前に進まへん!」

 誰もが弱音を吐いています。あのケンシロウでさえ仰向けになり、ハアハアと言っているのです。

 するとクレヨンが立ち上がり、寝転ぶオバハンに向かって叫びました。

 「若いのに何を言うとるか!しっかりせんかい!」

 いいこと言うな……。お前よりも年上の奴がいるのは気になるけど、たまにはいいこと言うな……。

 「山の神様も……」

 また出た、山の神様!これ聞いたら一気に萎えるわって、誰も聞いてないやんけ!

 「ごめん、静かにして!」

 怒られた!啖呵切ったのにめちゃくちゃかっこ悪い!

 「山の神様も……」

 「静かにせいや、お前!!!」

 ケンシロウがキレた!これではさすがの神様もたちうちできない!

 「あと30分で山頂ですよ!山頂に着いたら、すぐに食事にしますから!」

 結局、僕のこの言葉に勇気づけられて、全員、立ち上がりました。

 山頂はもう、目前です。休憩もそこそこに、僕はすぐに出発させることにしました。

 オッサン2人が先頭を行きます。僕は隊列の中間に陣取り、傾斜の強いところは上から手を貸します。フラフラのオバハンにはリュックを持ってあげるなどして、オバハン連中を何とか前に進ませました。

 口をきくものなど、誰ひとりとしていません。「あと何分で着くのよ?」と僕に頻繁に訊くなど、機嫌も悪いです。シーラカンスに至っては肩で息をしており、頻繁に足を止めるのです。

 それでも、シーラカンスはがんばります。背中を押す僕にお礼を言うなど、まだ元気は残っています。それを証明するかのごとく、やりやがったのです。

 「ベジータ……」

 ちっちゃ!オナラのスタミナまで切れやがった!

 「ベジータ……」

 数で勝負してきやがった!威力ないから2人呼び出しやがった!

 しばらくして、僕にも限界がきました。

 僕は途中から、シーラカンスのリュックも背負っています。「なんで俺が持たないとあかんねん!」と、親切にしたことを後悔するなど、イライラが顔を出し始めたのです。

 ただ、そんな僕を、山は柔和に包み込んでくれます。

 自然というのは、意味なくそこに鎮座しているのではありません。「自然の息吹」という言葉にもあるとおり、むき出しの自然に触れると、はっきりとその息遣いを感じることができます。

 自然の前では、人はウソをつけません。計算高さ、ずるさ、汚さ……。自分の弱さを見透かされているようで、素直な自分になれるのです。

 そしてその素直さは次第に、人への優しさへと変わります。とりわけ弱者に対して、非常に人間らしい、根源的な優しさが顔を出します。疲れている人、老人、女性など、弱い人を見る目が変わってくるのです。

 現在、最後尾付近を、僕の母親とシーラカンスが歩いています。僕は、山という自然に背中を押され、気がつくと最後尾に移動して、こう口にしていました。

 「オカン、そのリュックを貸せ。俺が持ったるわ」

 「でもあんた、高田さんのリュックも持ってるやろ」

 「大丈夫や。いいから貸せ」

 「……ありがとう。ほんまに助かるわ」

 少し照れくさいとはいえ、こんな自分をうれしく思えました。

 時刻は午後2時を回りました。

 がんばったかいあって、この段階でようやく、頂上が見えてきました。

 ゴールまであと少し。先頭を進んでいたオッサン2人は、すでに到着しています。

 「あと少しや!がんばれ!」

 オッサン2人が頂上から叫んでいます。

 5分ほどして、ケンシロウ、岡村さん、花木さんがゴールしました。残されたのは僕の母親とシーラカンス、そして最後尾に陣取る僕の3人です。

 頂上まで、残り50メートルを切りました。

 ここからは、急な上り坂です。3人してゴールを目指す中、到着したメンバーが僕らに向かって叫んでいます。

 「ふーちゃん(僕の母親)、がんばれ!」

 「高田さん、がんばれ!」

 「たけちゃん、がんばれ!あと少しやで!」

 僕ら3人は肩を並べて、ゆっくりと歩みを進めました。

 こんな状況でも、隣で歩く僕の母親は、僕の顔の汗をタオルで拭いてくれます。それが照れくさいながらもどこかうれしく、年老いた母親の姿も相まって、感極まりそうになりました。

 そして、午後2時15分。

 「お疲れさん!よくがんばったな!」

 ケンシロウに出迎えられて、僕らはその頂きに足を踏み入れたのです。

 頂上では仲間が笑っています。誰もが充実感でいっぱいで、ほどなくしてクレヨンが僕に歩み寄り、嬉々とした表情を浮かべて言いました。

 「兄ちゃん、さっきのパン、思い出したわ!あれ、猫パンや!」

 第一声がそれ!?ハアハア言ってる俺にいきなりそんなこと言うの!?

 「猫パン!猫パン!」

 猫パンってなんやねん、ほんで!お前らの交友関係を考えたら、ほんまに猫入れてそうやねんけど!?

 いずれにせよ、到着です。

 所要時間、6時間15分。僕らは無事全員、栄光のゴールを手にしたのです。

 頂上編へ……。

オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~6合目⇒8合目編~(パソコン読者用)

※2009年・9月6日の記事を再編集


 「えっ、なんて?岡村さん、うちがなんてなんて!?」


 岡村さんに悪態をつかれたケンシロウは、顔色を変えました。


 疲れで息が切れているにもかかわらず、目つきは尋常ではありません。スーパー銭湯への入場を断られそうなほどの形相で、岡村さんに歩み寄ったのです。


 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~6合目⇒8合目編~です。


 「あんた、もう1回言ってみ?」


 ケンシロウは声を荒げました。


 「山本さん、落ち着いてください!」


 あわてた僕は、ケンシロウの腕をつかみました。


 ですが、ケンシロウはエキサイトしています。


 「あんたは黙ってい!」


 こう怒鳴り返して、僕の手を引き離したのです。


 黙ってい、て……。あかん、このオッサン、怖すぎる……。


 ほかのメンバーも止めに入ったものの、ケンシロウに振り切られます。体から発せられるオーラがすごすぎて、常人では止めようがないのです。


 一方、岡村さんも、黙ってはいません。立ち上がって、ケンシロウに言い返しました。


 「いや、たけちゃんがね、あなたと一緒やったじゃないですか。だから、大変やったんと違うかな、と思って」


 「大変ってどういう意味やの?」


 「いろいろと大変じゃないですか、あなたと一緒やと」


 「……あんた、何様やの?」


 「あんたも何様なん!?」


 「…………」


 現場の空気が、異様なまでに張り詰めました。


 周囲には、ほかの登山客もいます。「この人たち、山で何をしてんの……」とばかりに、あっけにとられているのです。


 僕と僕の母親はケンシロウの前に立ち、ケンシロウをいさめようとしました。シーラカンスと花木さんは、岡村さんの腕を引っ張ってケンシロウから距離を取り、「落ち着き!」と、言って聞かせています。


 ケンシロウはうつむいて、地面の一点を見据えています。僕は腕をぎゅっとつかみ、「落ち着いて!とにかく落ち着いて!」と声をかけ続けたのですが突然、ケンシロウが目をカッとひんむいて前を見据え、僕らのあいだを縫って岡村さんに二の腕からぶつかって行ったんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!女が拳交えるとかやめてくれよ!


 「われ、コラ!!!」


 怖すぎるわ!ピラニアより気荒いやんけ、こいつ!


 岡村さんは、ふっとばされました。あわてた僕はすぐに、スーパーサイヤ人になったケンシロウを羽交い絞めにしました。地面に倒して後ろから動きを止めたのですが、ケンシロウが頭を上下に揺らして、後頭部を僕の鼻にぶつけてきたんですよ!


 痛い痛い痛い!鼻血出そうや!


 「離さんかい!オラッ!オラッ!」


 ガチではずそうとしてるやんけ、こいつ!で、痛いだけじゃなくて、頭、めっちゃ臭いねんけど!?汗と脂が混ざった匂いがして正直、離したいねんけど!?


 あまりの痛さと臭さに、僕は手を離してしまいました。猛獣に自由を与えてしまったのです。


 一方、やられた岡村さんもスーパーサイヤ人。起き上がってケンシロウのもとに歩み寄ったのですが、突然、2人の小さいオッサンが現われました。


 「やめんかい!」


 「あんたら何してんねん!?」


 口から大量のツバを飛ばしながら叫び、岡村さんの動きを手で止めて強引に仲裁してきたのです。


 誰やねん、お前ら!で、仲裁してくるのはいいけど周囲一帯にツバ撒き散らすなよ!


 「やめろ!」


 「やめろやめろ!」


 だからツバを飛ばすな!で、お前らは小さすぎてまったく戦力になってないねん!目の前でチョコマカと動かれて邪魔なだけやねん!


 「あんた、ほんまにどつき回したろか!」


 「うるさいわ!あんたの身勝手さでヨン様会がどれだけ迷惑してると思ってんのよ!」


 「2人とも落ち着いてせっかくの登山やのにケンカなんてしてる場合と違うでしょハアハア!」


 速い速い!お前が落ち着け!


 「やめろ!」


 「やめろやめろ!」


 お前らもツバ飛ばすのやめろ!人に言う前にまずお前らがやめろ!


 「やめろよ、兄ちゃん!」


 なんで俺に言うねん!俺は仲裁してる側やろ!


 「それより兄ちゃん、わしの足、踏むなよ!」


 今そんなことどうでもええやろ!お前、足ぐらい踏むやろ、こんな状況やねんから!なんで怒られないとあかんねん、そんなことで!


 現場は大混乱。たくさんの人が入り乱れて何が何だかわかりません。花木さんは泣いています。僕の母親も泣き声になっています。誰もが我を忘れる中、ほどなくして僕の耳に聞き覚えのある、1つの音が届いたのです。


 「ベジータ!」


 ベジータが出た!こんな状況でベジータが出た!ここにもスーパーサイヤ人がおった!


 「ブゥ」


 魔人ブウも出た!この状況でもっとすごい奴が出た!


 僕の真横で立ち尽くすシーラカンスが、平然と魔物を解き放ったのです。


 結果、ケンシロウにやられた鼻の痛みも相まって、僕の怒りは頂点に達しました。


 「ええ加減にせい、お前ら!!!」


 僕は全員を怒鳴りつけました。


 僕はこう見えて、普段は温厚です。めったに怒らない僕の怒った姿を見て、現場が静まり返ったのです。


 それを見た小さいオッサンの1人が、僕のところに歩み寄りました。


 「兄ちゃん、何があったか、説明してみ?」


 オッサンは僕に訊きました。


 僕は興奮しながらも、冷静に言い返します。


 「すいません、関係のない人は黙っててもらえませんかね。これは僕らの問題なんで」


 「関係ないことないやろ!山はみんなのもんや!」


 はっ?はっ?


 「山はみんなのもん!山の水はわしのもんであり、あんたらのもん!」


 はっ?はっ?


 「登山客というのは仲間や!仲間のもめごとは、わしらのもめごと!」


 何言ってんねんお前、さっきから!ツバ飛ばしながら何言ってんねん!


 「山の神様も怒っとる!あんたらのケンカのせいで目覚めた神様が、天井から怒鳴りつけとる!」


 ごめん、全然意味わからん!いいこと言ってる感じはつかめんねんけど、まったく伝わってこない!


 「静かにしろー。静かにしてくれよー、ってな」


 あんまり怒ってへんやんけ、山の神様!のん気やろ、なんやったら!


 「とりあえず、向こうに行っててくれ!俺が解決するから部外者は黙っててくれ!」


 僕は声を荒げました。


 するとオッサンはひるむかと思いきや僕をカッとにらみつけ、めちゃくちゃ高い声で「部外者じゃなーーーい!!!」って言ったんですよ。


 何なん、お前!なあ、何なん!?いろいろありすぎて何なんとしか言いようがないねんけど!?


 「わしらは、仲間ーーー!!!」


 何を言うとんねん、お前!で、仲間の「ま」で俺にタン飛んできてんけど!?


 「みんな仲間やねんから仲間が仲間同士ちゃんと仲間になって……」


 早口言葉か!その文体、完全に早口言葉やんけ!それやったら、うちに花木っていうすごい奴がおるぞ!


 「たしかに私たちは仲間です仲間同士が手を取り合って助け合いながら山を登っていきたいと……」


 もう書記いるわ、これ!書記、及び、通訳がいないと一緒に行動するんは無理やわ!


 「とにかく山本さんと岡村さん、こっちにおいで!」


 僕はこのオッサンを無視して、2人を別の場所に連れて行くことにしました。


 渋るケンシロウに、「いいから来い!」と怒鳴りつけて手を引っ張り、人気のない、近くの草むらに連れて行ったのです。


 僕があいだに立って、2人に話し合いをさせることにしました。


 「この際やから、思ってることをなんでも言いましょ!」


 こう口にして、仲裁の司会役を引き受けることにしたのです。


 2人は、相手を見据えて立っています。まず、岡村さんが口火を切りました。


 「この人、ほんまに身勝手なんよ!うちのお姉ちゃんも、この人のせいでヨン様会を脱退させられたんよ!」


 岡村さんは、姉妹でヨン様会に参加していました。


 ですが、半年ほど前に姉のほうがケンシロウともめ、事務総長権限でメンバーをはずされました。そのことを根にもっており、まず姉の話題を持ち出してきたのです。


 ケンシロウは、すぐに言い返します。そしてここから口角泡を飛ばす、ものすごい言い合いになったのです。


 「そんなこと、妹のあんたに関係ないやろ!関係のない話を出してごまかすんはやめ!うちはあんたが遅刻ばっかりするから怒ってるんや!」


 「関係のない話じゃないでしょ!で、遅刻遅刻言いますけど、あなただって遅刻したことはあるでしょ!?」


 「あんたに言われたくないわ!で、うちはあんたの、そのしゃべり方が嫌いやねん!いい歳して、かわいい声なんて出しなや、気持ち悪い!」


 「しゃべり方は関係ないでしょ!で、はっきり言いますけど、あなたも充分、気持ち悪いですよ!」


 「何?」


 「なあたけちゃん、この人、気持ち悪いよな?」


 「……」


 やばい、黙ってもうた!ほんまに気持ち悪いから思わず黙ってもうた!この無言は肯定を意味してる!すぐに何かしゃべらないと!


 「……そんなことないですよ!キレイですよ!」


 何言ってんねん、俺!キレイではないやろ、どう考えても!こんな怪物、キレイのは内臓だけやろ!


 「ウソつきなや、たけちゃん!」


 「やかましいわ!あんたに見た目のことをごちゃごちゃ言われたくないねん!」


 「あなたよりは、ましなつもりです!」

 

 ごめん、それは互角やわ!悪いけど正直、互角!キャバクラで働いたら2人とも50年は指名がこない!


 「とにかく落ち着いてください!2人とも、子供みたいなケンカはやめましょうよ!」


 僕は冷静に努めてケンカの落としどころを探ったのですが、このあと、思わず口にしてしまったのです。


 「とりあえずケンシロウ、違うわ山本さん、とりあえず落ち着きましょ!」


 やばい……。ケンシロウって言うてもうた……。首の傷が7つの傷に見えて思わず言ってもうた……。


 「何なん、ケンシロウって?」


 聞こえてた……。で、この人、北斗の拳を読んでるんやった……。どうしよう、どうやってこのピンチを乗り切ろう……。


 「違います違います、健康って言ったんですよ!山本さんって、ほんまに健康ですよね?だからその健康っぷりを、人への優しさに変えていきましょうよ!」


 何言ってんねん、俺!ケンシロウと健康!?苦しすぎるわ、いくらなんでも!


 「……そんなことよりあんた、ほんまに遅刻だけはやめて!」


 助かった!たいして気にしてなかった!


 「たしかに遅刻は謝ります。でもうちの家は、みんなの家よりも遠いじゃないですか。だからそのへんはわかってほしいんですよ」


 いい感じになってきた!話が収まりかけてる!


 「家が遠いとかは関係ないやろ!」


 そんなことなかった!反省の色を見せたのに全然効果なかった!


 「あんたよりも家遠い奴が、遅刻せんとちゃんと来てるやないの!オウッ!?」


 ブチギレてるやんけ!オウッとか言い出したやんけ!


 「あんたはいつも勝手やねん。こないだの四国お遍路巡りでもそうや。あんたは年上のうちらに、コンビニに買い物に行かしたやろ?なんで年上のうちらがあんたの分を買ってこないとあかんのよ!オウッ!?」


 関係ないことにもキレだした!状況はどんどん悪化してる!


 「それだけじゃないで。キムチもそうや。あんた、うちが漬けたキムチを食べて、からすぎる、って言ったらしいな?」


 それはお前が悪いやろ!そんなもん、からすぎたら誰だって文句のひとつぐらい言うやろ!


 「オウッ!?」


 何ジョンイルやねん、お前!ファシズムやぞ、お前のやってること!


 途中から、岡村さんは泣き始めました。ケンシロウにガンガンに言われて、返す言葉がなくなってしまったのです。


 「わかりました!もう、このへんにしておきましょ!」


 見かねた僕は、もうこの討論を終わらせることにしました。


 「とりあえず岡村さん、1回謝りましょ!遅刻はよくないですから、そのことに対して1回謝りましょ!」


 「……すいませんでした」


 僕にうながされて、岡村さんは泣きながら頭を下げました。


 そして返す刀で、僕はケンシロウにも謝罪をうながしたのです。


 どんな理由があるにせよ、暴力はよくありません。僕は勇気を出してそのことを問いただしたところ、ケンシロウも「ぶつかって行ったのは悪かった。ごめんな」と謝罪したのです。


 僕は続けます。


 「山本さん、僕はどちらにも非があると思います。どちらが正しいとかじゃないんです、山本さんにも間違った部分はありますし、岡村さんにも間違った部分はあります。でも、友達じゃないですか。ヨン様を愛する、仲間じゃないですか。なにより岡村さん、もう遅刻はしないですよね?」


 「しません」


 岡村さんは泣きながらも、きっぱりと決意を口にしました。「本当にすいませんでした!」と続け、それを見た僕も思わず、泣けてきました。


 ケンシロウも珍しく、優しい表情を見せています。女の友情を垣間見た気がして、ほろっときたんですね。


 熱くなった僕は、ケンシロウに言いました。


 「これが仲間というもんですよ。仲間同士であれば、必ず仲直りできるんですよ。そうでしょ、ケンシロウ!?」


 やってもうた!決めゼリフやのに間違った!熱くなりすぎて我を見失ってた!


 「だから何なん、ケンシロウって!?」


 また聞こえてた!優しい顔が一瞬でもとに戻った!今度はどう言い訳しよっ!


 「いやあの、山本さんって、すごくたくましいじゃないですか。ケンシロウみたいに頼りになるから、僕は心の中でいつも、自分のお兄さんだと思ってるんですよ。僕は昔から、お兄さんがほしかったんですよ」


 何言ってんねん、俺!で、お兄さんって言うてもうた!お姉さんにしておけばよかった!


 「ふんっ」


 怖すぎる!今度は俺が助けてほしい!


 それでも、ケンカは収まりました。ケンシロウはどこか腑に落ちない様子なものの、いい大人です。


 「せっかくの登山なんですから、楽しくやりましょうよ!」


 僕のこの言葉に納得して、岡村さんを許したのです。


 3人して、もといた場所に戻りました。


 現場には仲間が待っています。僕の母親と花木さんは泣いており、僕は「ちゃんと仲直りしたから!」と報告して安心させました。


 ふと見ると近くに、先ほどの小さいオッサンがいます。2人して、どうなったか興味津々な様子で、先ほどの「部外者じゃなーーーい!」が僕に話しかけてきました。


 「兄ちゃん、どうなった?山の神様のご機嫌は取れたんか?」


 いきなり何言ってんねん、お前!鼻毛過半数出しながら何言ってくれとんねん!


 「おかげさんで、なんとか丸く収まりました」


 「山の神様はちゃんと見とる!山の神様は、正しいことをした人間に力をお貸しになる!」


 山の神様山の神様うるさいねん!スポンサーついてんのか!


 このように訳のわからないことを連発し、僕に握手してきたんですよ。


 何の握手やねん、これ!なんで俺とお前が握手すんねん!俺らは別にケンカしてないやろ!


 「(もう1人が僕の手を握って)兄ちゃん、よくやったな!」


 お前とも!?お前に至ってはまったく接点ないねんけど、これは何の握手なん!?


 時刻は12時を回りました。


 出発してから、4時間が経過しています。僕らは6合目をあとにして、頂上目指して再び、歩き始めました。


 ここからは傾斜が強いです。アップダウンも多いことから、ヒザにかかる負担が大きいです。


 長い休憩だったとはいえ、メンバーは疲れています。元気だとはいえ、そこはやはり平均年齢60歳のヨン様会。ここにきて、急に疲れを見せ始めたのです。


 あんなに元気だったケンシロウも、歩くスピードが落ちています。岡村さんとのバトルでスタミナが切れたのか、珍しく息切れしているのです。


 「あと少しやから、がんばりましょうね!」


 僕はメンバーに声をかけました。


 僕は、まだまだ元気です。汗びっしょりになりながらも、先頭をさくさくと歩いていたのですが、しばらくして、先ほどの小さいオッサン2人が僕に張りついてきたのです。


 このオッサンたちも、僕らと同じルートで頂上を目指しています。


 僕は、なぜだか気に入られた様子です。僕の両隣に1人ずつ張りつき、なかでも「部外者じゃなーーーい!」。のっぺりとした、クレヨンみたいな顔をしたオッサンで(以下、クレヨン)、訳のわからない話をガンガンにしてきたのです。


 「兄ちゃんたち、アマ(尼崎市)から来たみたいやな?」


 「よく知ってますね。ほかのメンバーに聞いたんですか?」


 「そうや。さっき、ちょっと話をしたんや」


 「そうですか。お2人は、どこから来られたんですか?」


 「当ててみ」


 当たるか!お前、何の情報もないのに当たるわけないやろ!当てさすんやったら少しは情報を出せよ!


 「京都ですか?」


 「違う」


 「大阪ですか?」


 「違う。ヒントやろか?」


 だるっ、こいつ!だるすぎるわ!で、オッサンがヒントて!


 「もったいつけないで教えてくださいよ!」


 イライラした僕は、声を張り上げました。


 すると急に立ち止まり、「耳を貸せ!」と命令してきたのです。何ごとかと気になりながらも耳を貸したところ、僕の耳元に口をあてて、めちゃくちゃかわいい声で「わ・し・ら・も・ア・マ!」って言ったんですよ。


 気持ち悪っ、何こいつ!俺、ここ何十年で1番気持ち悪い奴に出会ってんけど!?


 「(ささやくように)アマ!」


 だからなんやねん!で、口臭すぎんねん、お前!場末の古本屋みたいな匂いするやんけ!


 「駅の近くや!」


 どこの駅やねん!その説明で俺はどう納得したらいいねん!


 「駅の近くの駅らへんの駅や!」


 駅やろ、もう!駅の近くの駅らへんの駅やったらもう駅やろ、そこ!なんや、キヨスクにホームステイしてんのか!?「リアル駅前留学」とかそういうことか!?


 「兄ちゃん、いくつなん?」


 「31です。おじさんは、おいくつなんですか?」


 「当ててみ」


 なんでクイズ形式やねん、さっきから!だるすぎんねん、お前と会話すんの!


 「65ですか?」


 「ブー!」


 「……63ですか?」


 「ブー!惜しいけどブー!」


 ブーって、おい!ブーって久し振りに聞いたわ!で、オッサンの口からは初めて聞いたわ!


 「(ささやくように)62!」


 なんでささやくの!?なんでさっきから、かわいい感じを見せてくんの!?


 「ろく、じゅう、に!」


 テロやわ、もうこれ!オッサンにこんな声出されたら、これはもうちょっとしたテロやわ!


 「で、この徳さんは58や」


 「57や」


 「58やろ?」


 「57や」


 「58やろ?」


 「57や」


 「……58やろ?」


 「57や」


 どっちでもええわ!で、言い合いの回数が多すぎる!相場は2回までやねん!


 「あっ、58や」


 58なん!?ちょっと待って、散々言い返しといてお前のほうが間違ってたん!?


 「ごめんごめん、58や」


 「そうやろ」


 「そうや、そうや。あと12年したら、もう70や」


 60のほう言えや!お前、その流れやったらどう考えても60のこと先に言うやろ!なんでムダに10年足すねん!


 「で、話変わんねんけどヨウカン食べる?」


 変わりすぎ!並みの変わり方じゃないねんけど!?「地元を訊く→年齢を訊く→ヨウカン」ってすごい流れやねんけど!?


 「すいません、僕、和菓子はダメなんですよ」


 「和菓子ダメなんや。若いのに?」


 「……あんこがダメなんですよ」


 「あんこ、おいしいのに!わしは糖尿やねんけど、あんこ食べ続けてたら治ってきたで!」


 「……糖尿なんですか?」


 「糖尿糖尿!余裕で糖尿!」


 ごめん、まとめてツッコミ入れるわ!見逃そうと思ったけどやっぱり無理、まとめて行くわ!


 まず、若者のほうが和菓子を嫌うのはおかしいって、これどういう価値観?「年寄りやのに?」やったらわかるけど、若者が和菓子を嫌うのは別におかしくないやろ!


 次に、あんこ食べ続けてたら糖尿が治ったって、どういうこと?確実に悪化してると思うねんけど、お前は、どこ記念病院に行ってんの!?


 ほんで、最後!余裕で糖尿って、ノリ軽すぎんねんけど!?さらっと言ったけど、こんな明るい病人、前代未聞やねんけど!?


 「兄ちゃんも糖尿か?」


 どう見えてんねん、俺!俺の外面の何が糖尿っぽいの!?砂糖Tシャツとか着てる、俺!?


 「いや、僕は違います」


 「糖尿にならんように気つけや」


 「はい」


 「ドロップばっかり舐めてたらあかんで」


 節子か、俺!蛍の墓の節子か、俺!ずっとビチビチか、俺はさっきから!


 「アメチャン舐めてる奴は、だいたい糖尿やからな」


 すごいこと言ってるぞ、お前!お前の理屈やと番地レベルで病院1ついるぞ!医者は儲かりすぎて毎晩ドンペリ開けてるぞ!


 このように、訳のわからないことを連発してきます。同じ地元だということに興奮したのか、オバハン連中と遜色ないほどにおしゃべりなんですね。


 なにより、見た目が強烈です。


 2人してヨレヨレのTシャツを着ており、のっぺりとした顔のクレヨンは、温暖化の影響をもろにくらったかのような色黒。ヒゲも「カミソリがヒゲ負けするわ!」というぐらい濃く、まゆ毛も、新右衛門さんみたいなまゆ毛をしているのです。


 もう1人の徳さんというオッサンに至っては、髪の毛の中央部が完全にハゲています。さらし首みたいなハゲ中のハゲで、ハゲた中央部を囲うように左右と後ろに少しだけ毛が残っているため、便座みたいなんですよ。「人類はついにここまでのハゲを産み出したか!」というぐらい、前代未聞の「便座ハゲ」なのです。


 時刻は12時30分を回りました。


 僕は、『本庄橋跡』と呼ばれる、7合目と8合目の中間地点に到着しました。オバハン連中を待つため、しばらくのあいだ、ここで休憩を取ることにしました。


 ただ、オッサン2人も、ここで休憩なのです。


 地面に腰を下ろす僕の隣に、ぴったりと張りついてきました。クレヨンを中心に、再び話しかけてきたのです。


 「兄ちゃん。あんたらの仲間で、水色のTシャツを着てる人、おるやろ?」


 「はいはい、岡村さんね」


 「岡村さんって言うんや」


 「そうです」


 「あの人、キレイやな」


 えっ?えっ?


 「あの人、めっちゃキレイやわ」


 ごめん、俺は疲れてきて耳がおかしくなってるわ、今、なんて!?


 「徳さん、お前はあのメンバーの中やと、誰が好み?」


 「わしも岡村さん」


 どうなってんねん、お前ら!オッサンの足の親指やで、あいつ!?お前らは靴下脱いだらいつでも見れんねんで!?


 「たまらんわ」


 たまらんの、足の親指が!?蚊か!


 「で、岡村さんとケンカしてたさっきの人。あの人は、名前、なんて言うの?」


 「山本さんです」


 「あの人もオッパイが大きくてええな、へへへへへ!」


 筋肉やで、あれ!?7:3で筋肉やで、あのオッパイ!?で、そのやわらかいほうの3も、中身はヘタしたら豚汁か何かやで!?


 「山本さん、オッパイ、いくつなん?」


 俺が知るわけないやろ、そんなこと!ていうか何なん、お前らマジで!俺はお前らと出会ってから、急激にスタミナ減ってんけど!?


 しばらくして、オバハン連中がぞろぞろとやってきました。


 ここから頂上まで、1時間足らず。僕はオバハンだけではなく、こんな訳のわからないオッサンを引き連れて、頂上を目指すことになったのです……。


 続く……。


オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察~6合目⇒8合目編~(携帯読者用)

※2009年・9月6日の記事を再編集

 「えっ、なんて?岡村さん、うちがなんてなんて!?」

 岡村さんに悪態をつかれたケンシロウは、顔色を変えました。

 疲れで息が切れているにもかかわらず、目つきは尋常ではありません。スーパー銭湯への入場を断られそうなほどの形相で、岡村さんに歩み寄ったのです。

 そこで今回は、「オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?」の考察~6合目⇒8合目編~です。

 「あんた、もう1回言ってみ?」

 ケンシロウは声を荒げました。

 「山本さん、落ち着いてください!」

 あわてた僕は、ケンシロウの腕をつかみました。

 ですが、ケンシロウはエキサイトしています。

 「あんたは黙ってい!」

 こう怒鳴り返して、僕の手を引き離したのです。

 黙ってい、て……。あかん、このオッサン、怖すぎる……。

 ほかのメンバーも止めに入ったものの、ケンシロウに振り切られます。体から発せられるオーラがすごすぎて、常人では止めようがないのです。

 一方、岡村さんも、黙ってはいません。立ち上がって、ケンシロウに言い返しました。

 「いや、たけちゃんがね、あなたと一緒やったじゃないですか。だから、大変やったんと違うかな、と思って」

 「大変ってどういう意味やの?」

 「いろいろと大変じゃないですか、あなたと一緒やと」

 「……あんた、何様やの?」

 「あんたも何様なん!?」

 「…………」

 現場の空気が、異様なまでに張り詰めました。

 周囲には、ほかの登山客もいます。「この人たち、山で何をしてんの……」とばかりに、あっけにとられているのです。

 僕と僕の母親はケンシロウの前に立ち、ケンシロウをいさめようとしました。シーラカンスと花木さんは、岡村さんの腕を引っ張ってケンシロウから距離を取り、「落ち着き!」と、言って聞かせています。

 ケンシロウはうつむいて、地面の一点を見据えています。僕は腕をぎゅっとつかみ、「落ち着いて!とにかく落ち着いて!」と声をかけ続けたのですが突然、ケンシロウが目をカッとひんむいて前を見据え、僕らのあいだを縫って岡村さんに二の腕からぶつかって行ったんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!女が拳交えるとかやめてくれよ!

 「われ、コラ!!!」

 怖すぎるわ!ピラニアより気荒いやんけ、こいつ!

 岡村さんは、ふっとばされました。あわてた僕はすぐに、スーパーサイヤ人になったケンシロウを羽交い絞めにしました。地面に倒して後ろから動きを止めたのですが、ケンシロウが頭を上下に揺らして、後頭部を僕の鼻にぶつけてきたんですよ!

 痛い痛い痛い!鼻血出そうや!

 「離さんかい!オラッ!オラッ!」

 ガチではずそうとしてるやんけ、こいつ!で、痛いだけじゃなくて、頭、めっちゃ臭いねんけど!?汗と脂が混ざった匂いがして正直、離したいねんけど!?

 あまりの痛さと臭さに、僕は手を離してしまいました。猛獣に自由を与えてしまったのです。

 一方、やられた岡村さんもスーパーサイヤ人。起き上がってケンシロウのもとに歩み寄ったのですが、突然、2人の小さいオッサンが現われました。

 「やめんかい!」

 「あんたら何してんねん!?」

 口から大量のツバを飛ばしながら叫び、岡村さんの動きを手で止めて強引に仲裁してきたのです。

 誰やねん、お前ら!で、仲裁してくるのはいいけど周囲一帯にツバ撒き散らすなよ!

 「やめろ!」

 「やめろやめろ!」

 だからツバを飛ばすな!で、お前らは小さすぎてまったく戦力になってないねん!目の前でチョコマカと動かれて邪魔なだけやねん!

 「あんた、ほんまにどつき回したろか!」

 「うるさいわ!あんたの身勝手さでヨン様会がどれだけ迷惑してると思ってんのよ!」

 「2人とも落ち着いてせっかくの登山やのにケンカなんてしてる場合と違うでしょハアハア!」

 速い速い!お前が落ち着け!

 「やめろ!」

 「やめろやめろ!」

 お前らもツバ飛ばすのやめろ!人に言う前にまずお前らがやめろ!

 「やめろよ、兄ちゃん!」

 なんで俺に言うねん!俺は仲裁してる側やろ!

 「それより兄ちゃん、わしの足、踏むなよ!」

 今そんなことどうでもええやろ!お前、足ぐらい踏むやろ、こんな状況やねんから!なんで怒られないとあかんねん、そんなことで!

 現場は大混乱。たくさんの人が入り乱れて何が何だかわかりません。花木さんは泣いています。僕の母親も泣き声になっています。誰もが我を忘れる中、ほどなくして僕の耳に聞き覚えのある、1つの音が届いたのです。

 「ベジータ!」

 ベジータが出た!こんな状況でベジータが出た!ここにもスーパーサイヤ人がおった!

 「ブゥ」

 魔人ブウも出た!この状況でもっとすごい奴が出た!

 僕の真横で立ち尽くすシーラカンスが、平然と魔物を解き放ったのです。

 結果、ケンシロウにやられた鼻の痛みも相まって、僕の怒りは頂点に達しました。

 「ええ加減にせい、お前ら!!!」

 僕は全員を怒鳴りつけました。

 僕はこう見えて、普段は温厚です。めったに怒らない僕の怒った姿を見て、現場が静まり返ったのです。

 それを見た小さいオッサンの1人が、僕のところに歩み寄りました。

 「兄ちゃん、何があったか、説明してみ?」

 オッサンは僕に訊きました。

 僕は興奮しながらも、冷静に言い返します。

 「すいません、関係のない人は黙っててもらえませんかね。これは僕らの問題なんで」

 「関係ないことないやろ!山はみんなのもんや!」

 はっ?はっ?

 「山はみんなのもん!山の水はわしのもんであり、あんたらのもん!」

 はっ?はっ?

 「登山客というのは仲間や!仲間のもめごとは、わしらのもめごと!」

 何言ってんねんお前、さっきから!ツバ飛ばしながら何言ってんねん!

 「山の神様も怒っとる!あんたらのケンカのせいで目覚めた神様が、天井から怒鳴りつけとる!」

 ごめん、全然意味わからん!いいこと言ってる感じはつかめんねんけど、まったく伝わってこない!

 「静かにしろー。静かにしてくれよー、ってな」

 あんまり怒ってへんやんけ、山の神様!のん気やろ、なんやったら!

 「とりあえず、向こうに行っててくれ!俺が解決するから部外者は黙っててくれ!」

 僕は声を荒げました。

 するとオッサンはひるむかと思いきや僕をカッとにらみつけ、めちゃくちゃ高い声で「部外者じゃなーーーい!!!」って言ったんですよ。

 何なん、お前!なあ、何なん!?いろいろありすぎて何なんとしか言いようがないねんけど!?

 「わしらは、仲間ーーー!!!」

 何を言うとんねん、お前!で、仲間の「ま」で俺にタン飛んできてんけど!?

 「みんな仲間やねんから仲間が仲間同士ちゃんと仲間になって……」

 早口言葉か!その文体、完全に早口言葉やんけ!それやったら、うちに花木っていうすごい奴がおるぞ!

 「たしかに私たちは仲間です仲間同士が手を取り合って助け合いながら山を登っていきたいと……」

 もう書記いるわ、これ!書記、及び、通訳がいないと一緒に行動するんは無理やわ!

 「とにかく山本さんと岡村さん、こっちにおいで!」

 僕はこのオッサンを無視して、2人を別の場所に連れて行くことにしました。

 渋るケンシロウに、「いいから来い!」と怒鳴りつけて手を引っ張り、人気のない、近くの草むらに連れて行ったのです。

 僕があいだに立って、2人に話し合いをさせることにしました。

 「この際やから、思ってることをなんでも言いましょ!」

 こう口にして、仲裁の司会役を引き受けることにしたのです。

 2人は、相手を見据えて立っています。まず、岡村さんが口火を切りました。

 「この人、ほんまに身勝手なんよ!うちのお姉ちゃんも、この人のせいでヨン様会を脱退させられたんよ!」

 岡村さんは、姉妹でヨン様会に参加していました。

 ですが、半年ほど前に姉のほうがケンシロウともめ、事務総長権限でメンバーをはずされました。そのことを根にもっており、まず姉の話題を持ち出してきたのです。

 ケンシロウは、すぐに言い返します。そしてここから口角泡を飛ばす、ものすごい言い合いになったのです。

 「そんなこと、妹のあんたに関係ないやろ!関係のない話を出してごまかすんはやめ!うちはあんたが遅刻ばっかりするから怒ってるんや!」

 「関係のない話じゃないでしょ!で、遅刻遅刻言いますけど、あなただって遅刻したことはあるでしょ!?」

 「あんたに言われたくないわ!で、うちはあんたの、そのしゃべり方が嫌いやねん!いい歳して、かわいい声なんて出しなや、気持ち悪い!」

 「しゃべり方は関係ないでしょ!で、はっきり言いますけど、あなたも充分、気持ち悪いですよ!」

 「何?」

 「なあたけちゃん、この人、気持ち悪いよな?」

 「……」

 やばい、黙ってもうた!ほんまに気持ち悪いから思わず黙ってもうた!この無言は肯定を意味してる!すぐに何かしゃべらないと!

 「……そんなことないですよ!キレイですよ!」

 何言ってんねん、俺!キレイではないやろ、どう考えても!こんな怪物、キレイのは内臓だけやろ!

 「ウソつきなや、たけちゃん!」

 「やかましいわ!あんたに見た目のことをごちゃごちゃ言われたくないねん!」

 「あなたよりは、ましなつもりです!」

 ごめん、それは互角やわ!悪いけど正直、互角!キャバクラで働いたら2人とも50年は指名がこない!

 「とにかく落ち着いてください!2人とも、子供みたいなケンカはやめましょうよ!」

 僕は冷静に努めてケンカの落としどころを探ったのですが、このあと、思わず口にしてしまったのです。

 「とりあえずケンシロウ、違うわ山本さん、とりあえず落ち着きましょ!」

 やばい……。ケンシロウって言うてもうた……。首の傷が7つの傷に見えて思わず言ってもうた……。

 「何なん、ケンシロウって?」

 聞こえてた……。で、この人、北斗の拳を読んでるんやった……。どうしよう、どうやってこのピンチを乗り切ろう……。

 「違います違います、健康って言ったんですよ!山本さんって、ほんまに健康ですよね?だからその健康っぷりを、人への優しさに変えていきましょうよ!」

 何言ってんねん、俺!ケンシロウと健康!?苦しすぎるわ、いくらなんでも!

 「……そんなことよりあんた、ほんまに遅刻だけはやめて!」

 助かった!たいして気にしてなかった!

 「たしかに遅刻は謝ります。でもうちの家は、みんなの家よりも遠いじゃないですか。だからそのへんはわかってほしいんですよ」

 いい感じになってきた!話が収まりかけてる!

 「家が遠いとかは関係ないやろ!」

 そんなことなかった!反省の色を見せたのに全然効果なかった!

 「あんたよりも家遠い奴が、遅刻せんとちゃんと来てるやないの!オウッ!?」

 ブチギレてるやんけ!オウッとか言い出したやんけ!

 「あんたはいつも勝手やねん。こないだの四国お遍路巡りでもそうや。あんたは年上のうちらに、コンビニに買い物に行かしたやろ?なんで年上のうちらがあんたの分を買ってこないとあかんのよ!オウッ!?」

 関係ないことにもキレだした!状況はどんどん悪化してる!

 「それだけじゃないで。キムチもそうや。あんた、うちが漬けたキムチを食べて、からすぎる、って言ったらしいな?」

 それはお前が悪いやろ!そんなもん、からすぎたら誰だって文句のひとつぐらい言うやろ!

 「オウッ!?」

 何ジョンイルやねん、お前!ファシズムやぞ、お前のやってること!

 途中から、岡村さんは泣き始めました。ケンシロウにガンガンに言われて、返す言葉がなくなってしまったのです。

 「わかりました!もう、このへんにしておきましょ!」

 見かねた僕は、もうこの討論を終わらせることにしました。

 「とりあえず岡村さん、1回謝りましょ!遅刻はよくないですから、そのことに対して1回謝りましょ!」

 「……すいませんでした」

 僕にうながされて、岡村さんは泣きながら頭を下げました。

 そして返す刀で、僕はケンシロウにも謝罪をうながしたのです。

 どんな理由があるにせよ、暴力はよくありません。僕は勇気を出してそのことを問いただしたところ、ケンシロウも「ぶつかって行ったのは悪かった。ごめんな」と謝罪したのです。

 僕は続けます。

 「山本さん、僕はどちらにも非があると思います。どちらが正しいとかじゃないんです、山本さんにも間違った部分はありますし、岡村さんにも間違った部分はあります。でも、友達じゃないですか。ヨン様を愛する、仲間じゃないですか。なにより岡村さん、もう遅刻はしないですよね?」

 「しません」

 岡村さんは泣きながらも、きっぱりと決意を口にしました。「本当にすいませんでした!」と続け、それを見た僕も思わず、泣けてきました。

 ケンシロウも珍しく、優しい表情を見せています。女の友情を垣間見た気がして、ほろっときたんですね。

 熱くなった僕は、ケンシロウに言いました。

 「これが仲間というもんですよ。仲間同士であれば、必ず仲直りできるんですよ。そうでしょ、ケンシロウ!?」

 やってもうた!決めゼリフやのに間違った!熱くなりすぎて我を見失ってた!

 「だから何なん、ケンシロウって!?」

 また聞こえてた!優しい顔が一瞬でもとに戻った!今度はどう言い訳しよっ!

 「いやあの、山本さんって、すごくたくましいじゃないですか。ケンシロウみたいに頼りになるから、僕は心の中でいつも、自分のお兄さんだと思ってるんですよ。僕は昔から、お兄さんがほしかったんですよ」

 何言ってんねん、俺!で、お兄さんって言うてもうた!お姉さんにしておけばよかった!

 「ふんっ」

 怖すぎる!今度は俺が助けてほしい!

 それでも、ケンカは収まりました。ケンシロウはどこか腑に落ちない様子なものの、いい大人です。

 「せっかくの登山なんですから、楽しくやりましょうよ!」

 僕のこの言葉に納得して、岡村さんを許したのです。

 3人して、もといた場所に戻りました。

 現場には仲間が待っています。僕の母親と花木さんは泣いており、僕は「ちゃんと仲直りしたから!」と報告して安心させました。

 ふと見ると近くに、先ほどの小さいオッサンがいます。2人して、どうなったか興味津々な様子で、先ほどの「部外者じゃなーーーい!」が僕に話しかけてきました。

 「兄ちゃん、どうなった?山の神様のご機嫌は取れたんか?」

 いきなり何言ってんねん、お前!鼻毛過半数出しながら何言ってくれとんねん!

 「おかげさんで、なんとか丸く収まりました」

 「山の神様はちゃんと見とる!山の神様は、正しいことをした人間に力をお貸しになる!」

 山の神様山の神様うるさいねん!スポンサーついてんのか!

 このように訳のわからないことを連発し、僕に握手してきたんですよ。

 何の握手やねん、これ!なんで俺とお前が握手すんねん!俺らは別にケンカしてないやろ!

 「(もう1人が僕の手を握って)兄ちゃん、よくやったな!」

 お前とも!?お前に至ってはまったく接点ないねんけど、これは何の握手なん!?

 時刻は12時を回りました。

 出発してから、4時間が経過しています。僕らは6合目をあとにして、頂上目指して再び、歩き始めました。

 ここからは傾斜が強いです。アップダウンも多いことから、ヒザにかかる負担が大きいです。

 長い休憩だったとはいえ、メンバーは疲れています。元気だとはいえ、そこはやはり平均年齢60歳のヨン様会。ここにきて、急に疲れを見せ始めたのです。

 あんなに元気だったケンシロウも、歩くスピードが落ちています。岡村さんとのバトルでスタミナが切れたのか、珍しく息切れしているのです。

 「あと少しやから、がんばりましょうね!」

 僕はメンバーに声をかけました。

 僕は、まだまだ元気です。汗びっしょりになりながらも、先頭をさくさくと歩いていたのですが、しばらくして、先ほどの小さいオッサン2人が僕に張りついてきたのです。

 このオッサンたちも、僕らと同じルートで頂上を目指しています。

 僕は、なぜだか気に入られた様子です。僕の両隣に1人ずつ張りつき、なかでも「部外者じゃなーーーい!」。のっぺりとした、クレヨンみたいな顔をしたオッサンで(以下、クレヨン)、訳のわからない話をガンガンにしてきたのです。

 「兄ちゃんたち、アマ(尼崎市)から来たみたいやな?」

 「よく知ってますね。ほかのメンバーに聞いたんですか?」

 「そうや。さっき、ちょっと話をしたんや」

 「そうですか。お2人は、どこから来られたんですか?」

 「当ててみ」

 当たるか!お前、何の情報もないのに当たるわけないやろ!当てさすんやったら少しは情報を出せよ!

 「京都ですか?」

 「違う」

 「大阪ですか?」

 「違う。ヒントやろか?」

 だるっ、こいつ!だるすぎるわ!で、オッサンがヒントて!

 「もったいつけないで教えてくださいよ!」

 イライラした僕は、声を張り上げました。

 すると急に立ち止まり、「耳を貸せ!」と命令してきたのです。何ごとかと気になりながらも耳を貸したところ、僕の耳元に口をあてて、めちゃくちゃかわいい声で「わ・し・ら・も・ア・マ!」って言ったんですよ。

 気持ち悪っ、何こいつ!俺、ここ何十年で1番気持ち悪い奴に出会ってんけど!?

 「(ささやくように)アマ!」

 だからなんやねん!で、口臭すぎんねん、お前!場末の古本屋みたいな匂いするやんけ!

 「駅の近くや!」

 どこの駅やねん!その説明で俺はどう納得したらいいねん!

 「駅の近くの駅らへんの駅や!」

 駅やろ、もう!駅の近くの駅らへんの駅やったらもう駅やろ、そこ!なんや、キヨスクにホームステイしてんのか!?「リアル駅前留学」とかそういうことか!?

 「兄ちゃん、いくつなん?」

 「31です。おじさんは、おいくつなんですか?」

 「当ててみ」

 なんでクイズ形式やねん、さっきから!だるすぎんねん、お前と会話すんの!

 「65ですか?」

 「ブー!」

 「……63ですか?」

 「ブー!惜しいけどブー!」

 ブーって、おい!ブーって久し振りに聞いたわ!で、オッサンの口からは初めて聞いたわ!

 「(ささやくように)62!」

 なんでささやくの!?なんでさっきから、かわいい感じを見せてくんの!?

 「ろく、じゅう、に!」

 テロやわ、もうこれ!オッサンにこんな声出されたら、これはもうちょっとしたテロやわ!

 「で、この徳さんは58や」

 「57や」

 「58やろ?」

 「57や」

 「58やろ?」

 「57や」

 「……58やろ?」

 「57や」

 どっちでもええわ!で、言い合いの回数が多すぎる!相場は2回までやねん!

 「あっ、58や」

 58なん!?ちょっと待って、散々言い返しといてお前のほうが間違ってたん!?

 「ごめんごめん、58や」

 「そうやろ」

 「そうや、そうや。あと12年したら、もう70や」

 60のほう言えや!お前、その流れやったらどう考えても60のこと先に言うやろ!なんでムダに10年足すねん!

 「で、話変わんねんけどヨウカン食べる?」

 変わりすぎ!並みの変わり方じゃないねんけど!?「地元を訊く→年齢を訊く→ヨウカン」ってすごい流れやねんけど!?

 「すいません、僕、和菓子はダメなんですよ」

 「和菓子ダメなんや。若いのに?」

 「……あんこがダメなんですよ」

 「あんこ、おいしいのに!わしは糖尿やねんけど、あんこ食べ続けてたら治ってきたで!」

 「……糖尿なんですか?」

 「糖尿糖尿!余裕で糖尿!」

 ごめん、まとめてツッコミ入れるわ!見逃そうと思ったけどやっぱり無理、まとめて行くわ!

 まず、若者のほうが和菓子を嫌うのはおかしいって、これどういう価値観?「年寄りやのに?」やったらわかるけど、若者が和菓子を嫌うのは別におかしくないやろ!

 次に、あんこ食べ続けてたら糖尿が治ったって、どういうこと?確実に悪化してると思うねんけど、お前は、どこ記念病院に行ってんの!?

 ほんで、最後!余裕で糖尿って、ノリ軽すぎんねんけど!?さらっと言ったけど、こんな明るい病人、前代未聞やねんけど!?

 「兄ちゃんも糖尿か?」

 どう見えてんねん、俺!俺の外面の何が糖尿っぽいの!?砂糖Tシャツとか着てる、俺!?

 「いや、僕は違います」

 「糖尿にならんように気つけや」

 「はい」

 「ドロップばっかり舐めてたらあかんで」

 節子か、俺!蛍の墓の節子か、俺!ずっとビチビチか、俺はさっきから!

 「アメチャン舐めてる奴は、だいたい糖尿やからな」

 すごいこと言ってるぞ、お前!お前の理屈やと番地レベルで病院1ついるぞ!医者は儲かりすぎて毎晩ドンペリ開けてるぞ!

 このように、訳のわからないことを連発してきます。同じ地元だということに興奮したのか、オバハン連中と遜色ないほどにおしゃべりなんですね。

 なにより、見た目が強烈です。

 2人してヨレヨレのTシャツを着ており、のっぺりとした顔のクレヨンは、温暖化の影響をもろにくらったかのような色黒。ヒゲも「カミソリがヒゲ負けするわ!」というぐらい濃く、まゆ毛も、新右衛門さんみたいなまゆ毛をしているのです。

 もう1人の徳さんというオッサンに至っては、髪の毛の中央部が完全にハゲています。さらし首みたいなハゲ中のハゲで、ハゲた中央部を囲うように左右と後ろに少しだけ毛が残っているため、便座みたいなんですよ。「人類はついにここまでのハゲを産み出したか!」というぐらい、前代未聞の「便座ハゲ」なのです。

 時刻は12時30分を回りました。

 僕は、『本庄橋跡』と呼ばれる、7合目と8合目の中間地点に到着しました。オバハン連中を待つため、しばらくのあいだ、ここで休憩を取ることにしました。

 ただ、オッサン2人も、ここで休憩なのです。

 地面に腰を下ろす僕の隣に、ぴったりと張りついてきました。クレヨンを中心に、再び話しかけてきたのです。

 「兄ちゃん。あんたらの仲間で、水色のTシャツを着てる人、おるやろ?」

 「はいはい、岡村さんね」

 「岡村さんって言うんや」

 「そうです」

 「あの人、キレイやな」

 えっ?えっ?

 「あの人、めっちゃキレイやわ」

 ごめん、俺は疲れてきて耳がおかしくなってるわ、今、なんて!?

 「徳さん、お前はあのメンバーの中やと、誰が好み?」

 「わしも岡村さん」

 どうなってんねん、お前ら!オッサンの足の親指やで、あいつ!?お前らは靴下脱いだらいつでも見れんねんで!?

 「たまらんわ」

 たまらんの、足の親指が!?蚊か!

 「で、岡村さんとケンカしてたさっきの人。あの人は、名前、なんて言うの?」

 「山本さんです」

 「あの人もオッパイが大きくてええな、へへへへへ!」

 筋肉やで、あれ!?7:3で筋肉やで、あのオッパイ!?で、そのやわらかいほうの3も、中身はヘタしたら豚汁か何かやで!?

 「山本さん、オッパイ、いくつなん?」

 俺が知るわけないやろ、そんなこと!ていうか何なん、お前らマジで!俺はお前らと出会ってから、急激にスタミナ減ってんけど!?

 しばらくして、オバハン連中がぞろぞろとやってきました。

 ここから頂上まで、1時間足らず。僕はオバハンだけではなく、こんな訳のわからないオッサンを引き連れて、頂上を目指すことになったのです……。

 続く……。