新・バスコの人生考察 -7ページ目

高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?の考察~食事編~(PC読者用)

※2007年・2月5日の記事を再編集


 前回は、高級バイキングにおける、パトロール方法についてご紹介しました。


 今回は、それを踏まえた食事編です。パトロールから得た情報をもとに、いよいよ料理を口にしていきます。


 そこで今回は、「高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?」の考察~食事編~です。


 口にする料理には、優先順位があります。


 それは、「食べたことのない料理>普段、あまり口にできない料理>食べたい料理」の順。食べたい料理を優先するのが筋なのでしょうが、それでは前回の僕のように、普通においしいだけのつみれ汁ばかり飲んでしまいます。


 とりわけ庶民は、カレー、餃子、パスタなど、普段食べている料理のほうが口に合うのは決まっています。その意識で望んでしまうと、高いお金を払った意味がないのです。


 初めてフカヒレを食べたのであれば、「俺、こないだ初めてフカヒレを食べた!」と、話の種になります。今年初めて食べる松茸に喜び、もしかすると、「今まで食べた松茸の中で1番おいしい!」と感動するかもしれません。


 要するに、食べたいものではなく、初めて食べるものや久し振りに食べるものを優先することで、胃に付加価値をつけるのです。付加価値の積み重ねで心を満足させ、高級バイキングに来た意味を噛み締めるのです。


 おいしいだけのどこにでもある料理なら、普段行く店の料理をたくさん食べればしまいです。まずはこの優先順位を頭に入れ、パトロールで得た情報をもとに、料理を峻別してください。


 そして以下に、「バイキングでの食事心得8ヵ条」をご紹介します。


 あなたはこの8ヵ条を胸に、「食べたことのない料理>普段、あまり口にできない料理>食べたい料理」の順で料理を口にしてください。


①飲んでいいお酒は、最初の1杯だけだ!
 アルコールは、ご法度です。「宴」と考えるのであれば、あまりにもふさわしくない場所。普段通りにお酒を楽しみたい人であれば、本来、来るべき場所ではないでしょう。


 飲んでいいのは、最初の1杯だけです。お腹が膨れることを考慮して、ビールは避けたほうがいいでしょう。


 ですが、ビールを含めたアルコール類には、胃を活性化させるというメリットもあります。


 戦いに支障をきたさない程度なら、飲んでもかまいません。胃袋と相談して、量を調節してください。


②ご飯を食べるな!
 ご飯は途中で食べたくなるものです。


 庶民は、「すべてにご飯をつけたがる症候群」という病気です。ご飯に合いそうなもの、ご飯に合うかもしれないもの、もっと言えば、「普段食べているご飯が近くにあれば何か落ち着く」なんて理由で、ついそばに置いてしまいます。庶民の米への依存はもはや宗教的で、「この米、最高ですか?」と農家の人に訊かれて、「最高でーす!」とお茶碗をかかげるようなレベルでしょう。


 ですがそれでも、我々は神を裏切らなければなりません。バイキングにおけるご飯は、いつでも食べられる、お腹が膨れる、原価が安いという「負の3重奏」を持ち合わせているからです。


 そして、ご飯でお腹が膨むほど、バカな話はありません。高いお金を払った意味がなく、後悔するに決まっているのです。


 高級バイキングに、宗教は必要ありません。自らに言い聞かせるためにも、踏み絵代わりに、店の炊飯器のコンセントを抜くぐらいの気概が必要でしょう。


③湯気にだまされるな!
 高級バイキングは、大きな皿に料理が盛られ、なくなるとシェフが新しい皿に交換します。


 このとき、できたての料理から昇り立つ湯気に、庶民はやられます。三途の川にいる幽霊が「おいで、おいで!」と手招きするかのごとく、我々庶民を高カロリーの館にいざなおうとするのです。


 もちろん、お腹の膨れない、軽い料理なら問題ありません。ですが、湯気が昇り立つような料理は、あんかけチャーハンやドリアといった、胃袋ハンターが多いのです。


 僕は、庶民の唾液を分泌させるこの湯気を「悪魔の汗」と呼んでおり、悪魔に魂を売ってはいけません。大量に吸ってしまうと、気がつくと大量のドリアを皿に入れてしまっているといった、深手を負ってしまいます。


 高級バイキングには、神も悪魔も必要ありません。現実論で勝負し、悪魔の汗を放つ料理は距離を置いて見る、口にしても問題ないような軽い料理であっても、くれぐれも冷静さだけは失わないでください。油断すると悪魔はつけ込み、場合によっては致命傷になってしまいますから。


④パスタとラザニアは食べるな!
 パスタは食べ慣れています。つい食べたくなるのですが、時間がたつにつれて胃袋の中で膨張し、後半に効いてくるのです。


 それでも100歩譲って、パスタは、まだわかります。食べるのを少量にすればよく、今回の僕も少しだけですが、渡り蟹の冷製パスタを口にしましたから。


 問題は、ラザニアです。


 そのダメージは尋常ではなく、桁外れのボリューム感なのです。


 しかも、すくうスプーンが大きいことから、ある程度の大きさを入れなければなりません。スプーンにチーズが絡まってすくいにくく、後ろに並ぶ人を待たせてはいけないという焦りも相まって、思わず、そこそこ大きいものを入れてしまうのです。


 これは、店側のトラップです。ナイフを用意しないで大きいスプーンを置き、大きめのラザニアを食べさせて、戦意を喪失させようとしているのです。


 僕は前回、ラザニアから悪魔の汗をくらいました。「これぐらいの大きさは、むしろ食べたいぐらいや!」と気に止めなかったのですが、食べて後悔しました。1キロのバーベルを飲み込んだようにお腹がパンパンになり、一気に食欲が失せてしまったのです。


 パスタを食べるにしても、少量までです。ラザニアに至っては、「無人島でも食べるか!」ぐらいの覚悟で、徹底的に無視してください。


⑤ひと息と称して、途中でデザートを挟むな!
 お腹が5分目ぐらいになると、「ちょっとひと息入れるわ!」と言って、デザートを入れてくる人がいます。


 ですが、これがひと息レベルでは済みません。高級バイキングのデザートコーナーの充実度は、半端ではないからです。


 ケーキ、プリン、ソフトクリーム……。あまりの充実度に、お菓子の国に迷い込んだような錯覚に陥ります。「あれも食べたい!あー、これも食べたい!」と興奮してしまい、一服のはずが気がつくと、取り皿にたくさん入れてしまっているのです。


 デザートは脂肪分が多いです。胃袋へのダメージは大きく、なによりその甘さが脳に信号を送ることで、「もうこれ以上は無理して食べなくていいよ!」と、優しい母親のような「妥協球」を投げてきます。


 タバコで一服するのも、これと同じです。食後に一服する普段の生活習慣から、燃え盛っていた食欲への炎が小さくなってしまうのです。


 したがって、途中でのティラミス、マロングラッセといった「非日常デザート」は避けてください。口にしていいのはフルーツだけで、万が一、口にしてしまっても、妥協球を投げてくる優しい母親に「うるさいわ、クソババア!」と暴言を吐くぐらいの気概を持ちましょう。



 以上の①~⑤は「ディフェンス」です。


 正確に言えば、「やってはいけないこと」で、胃袋を死守するための守りになります。


 そして以下の⑥~⑧は、そのディフェンスに対する、「オフェンス」です。


 あなたは①~⑤のディフェンスで胃袋をガードし、ここからは、以下の方法で攻撃を仕掛けていきます。


⑥回転率の高い料理を口にせよ!
 高級バイキングは、料理がなくなると、新しいものが追加されます。先ほどは、この際の湯気に注意しろ、と説明しましたが、これは裏を返せば、「回転率の高い料理は人気の証」とも言えます。


 たしかに、口にした客のレベルが低ければ、一緒にだまされてしまう可能性もあります。ですが、その料理を口にしているのが、パトロール編で言うところの「目利きのすごいOL」なら、その人気が本物である可能性が高いのです。


 もちろん、エビチリやフカヒレスープといった誰もが食べたい料理なら、回転率が高いのは当然です。ただ、おいしいという共通認識がないのにすぐになくなる料理なら、掘り出しものの可能性が高いのです。


 今回、『牛スネのポトフ』という聞き慣れない料理の回転率が高く、僕が一目置いているOLも足を運んでいました。口にしたところ、これが、この日に食べた中で1、2を争うぐらいの美味だったのです。


 料理を取りに行くときは、必ず、OLの動きを注視してください。得体の知れない料理だったとしても、OLが食べて回転率が高い料理なら、食べてみる価値はあります。


⑦料理の食べたい部分だけを取っちまえ!
 料理には、「食べたい部分」というのが存在します。


 酢豚であれば豚だけ、フカヒレスープなら卵はいらない。もっと言えば、寿司のネタだけを食べたい、と思うのが人間の性でしょう。


 今回、僕が行った店に、『エビとホウレンソウのサラダ』というのがありました。揚げたエビにホウレンソウの葉を混ぜた料理でおいしかったのですが、ホウレンソウなどどうでもよく、誰もが食べたいのは、絶妙にマヨネーズがかったぷりぷりのエビだけ。そのために、わかりやすく言えば、「ビーズの松本は無視して、稲葉だけをゲットする」のです。


 ですが、いくらなんでも、エビだけを食べるのはマナー違反です。周囲に人がいなければやったもの勝ちなのですが、混雑するバイキングにおいて、そう簡単にはできないでしょう。


 僕は、前の人のトングを使った取り方から、エビとホウレンソウの比率を確認しました。ほとんどの人が、エビ1匹に対してホウレンソウの葉が5枚、という相場を発見しました。


 したがって、エビ1匹に対してホウレンソウの葉が3枚という取り方をすれば、かなり得したことになるのです。


 そこで、先にホウレンソウだけを取り皿に入れ、「エビを取らないなんて、この人はホウレンソウが好きなだけなのかな」と後ろの人に思わせておき、最後にエビをまとめて入れるという方法を使いました。(エビは相場以上に入れました)


 こうすることで、ホウレンソウの枚数まで数えている人はいないでしょうから、実は相場よりもエビの比率が高いのに、エビをたくさん取ったという見え方にはなりにくいです。悪く見えても、ちょっと欲張ったぐらいなのです。


 各料理を熟視することで、いくらでも作戦は出てきます。ビーズの松本を避けて稲葉だけをゲットすれば、おいしいものだけでお腹を膨らませることができるでしょう。


⑧おふくろの味でひと息つけ!
 これは、最良の一服方法です。デザートでひと息つくようなデメリットもありません。


 庶民は、「おふくろの味=食べ慣れている料理」を口にすると、心が和みます。「こんな異空間にも日常が!」と考えて気持ちがほっとし、絶妙の癒しになるのです。


 ですが、肉じゃがやサバの味噌煮はダメ。あくまで休憩なので、胃袋を膨らませるおふくろの味では意味がないのです。


 お腹が膨れず、かつ、胃袋の休憩になるおふくろの味。


 これは、「味噌汁」しかありません。味噌汁を飲み、胃袋と知略を尽くした脳を癒すのです。


 1度、お試しになればわかります。本当に、砂漠でオアシスを発見したように気持ちが蘇るのです。


 飲むのは、制限時間が2時間なら、1時間経過したぐらいがベスト。胃袋で言えば、6分目ぐらいのときがベストでしょう。


 とはいえ、僕は前回、つみれ汁を何杯も飲んでお腹が膨れてしまったので、注意が必要です。


 あくまで、あなたのおふくろさんは1人です。1杯の味噌汁が後半へ向けての英気を養ってくれるので、1杯飲んだ時点でおふくろさんとはお別れをし、くれぐれも、かきたま汁や豚汁を飲むという「義母さん行脚」は避けてください。



 以上の①~⑧が、バイキングにおける、基本ディフェンスとオフェンスになります。


 時間も押し迫り、満腹になったことでしょう。


 もちろん、最後はデザートです。ここでは童心に帰って、胃袋がはち切れそうになるまで、デザートを口にしてもらって結構です。


 ただ、最後の注意事項があります。


 「デザート終わりにあたたかい日本茶を飲み、最後に、今日食べた中で1番おいしかった料理をもう1度食べる」


 これは非常に重要なので、くれぐれも遵守してください。



 以上が、バイキング必勝法です。


 今回の店の料金は、6000円と高額です。今回の作戦で、100%採算が取れたとは言えないものの、今までにない満足感を僕は得ました。前回のリベンジを果たすことができたのです。


 しかし、まだ考察は終わりではありません。


 考察のタイトルにもあるとおり、今回の考察は「値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?」なので、払った金額を下回るような満足感ではダメなのです。


 では、値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?


 それが以下にご紹介する、最後にして史上最大の作戦です。


 それは、「家まで歩いて帰る」ということです。


 家が遠くて無理だと言うなら3駅分でもかまいません、店に入る前に購入した重い荷物を持って、歩いて帰るのです。


 繰り返し申し上げるとおり、高級バイキングというのは、非日常の異空間です。ディズニーランドやUSJといった遊園地にも通じるところがあり、すべてに共通していることがあります。


 それは、「中にいるときは楽しいが、外に出た瞬間、素に戻ってしまう」ということです。


 料理を食べているときは楽しい、ジェットコースターに乗っているときは楽しいものの、一歩外に出れば、現実に引き戻されてしまうのです。


 そこで、気持ちが冷めないようにするために、「その空間が楽しかっただけではなく、外に出てからも楽しい気分に浸る」と後味をよくすることで、「行為に付加価値をつける」のです。


 では、なぜ歩いて帰るのか?歩いて帰ることが、どう付加価値をつけることになるのか?


 これには、2つの意味があります。


 まず、「食べた分のカロリーを消費するため」です。


 バイキングの翌日は、確実にウエイトオーバーになります。体重計に乗って、気分がげんなりするでしょう。


 そこで、食べた分を運動で消費するために歩いて帰り、自分の体に「おいしい食事をしたのに太ることはなかった」という付加価値をつけるのです。


 心配しなくても、歩いて帰る際は、翌日からの2連休でテンションは上がっています。おいしい料理を効率的に食べられた喜びも相まって、歩くのは普段に比べて苦痛ではありません。家に帰るまでに、食べたものすべてのカロリーを消費できれば、それは最高の付加価値になるのです。


 そして、デザート後に飲んだ日本茶と、最後に口にした1番おいしいものが、ここで効いてきます。


 たらふく食事をしたので、歩いて帰るときに、ゲップをすることは間違いありません。ゲップは、最後に食べた料理の味が口の中に広がってくる行為のことで、歩いて帰る際、「自分の口の中に1番おいしかったあの味が蘇ってくる」のです。


 デザート後に日本茶を飲んだのは、デザートと食事が混ざった気持ち悪いゲップをしないようにするためで、あたたかい日本茶には、それ以前の食事をリセットする効果があります。そして、道すがらゲップをすることで、楽しかったバイキングを思い出し、「あー、あのエビチリうまかったな!」と感慨に浸ることができるのです。


 それでも、くたくたになって帰宅するのは間違いないのですが、これも問題ありません。翌日からは2連休なので、ゆっくりと眠れるからです。


 「究極にしんどい運動後に、最高の気分で、好きなだけ眠ることができる」


 金曜日の夜にした最大の理由は、ここにあります。最高の気分で行う運動なので心地いいのは間違いなく、家に帰ってお風呂に入ってから布団に入ると、快眠になります。普段できないような快眠ができるので、こんな付加価値はないのです。


 要するに、「高級バイキングは、家に帰るまでがバイキング」なのです。


 恋人と楽しんだ遊園地は帰りの車中の雰囲気が大事、エッチのあとは腕枕でのトークが大事、コンパは解散してからの駆け引きが大事など、事後に付加価値をつけることで、「トータルで楽しい時間を過ごせた!」という感想を自分にもたせるのです。そして、店を出てからの最高の気分が値段以上のものをあなたに与え、つまりは、「今回のバイキングで値段以上の満足感を得た!」と思えるのです。


 もっと言えば、バイキング料金への足らない部分を補うために、「心(気持ち)で足らずをペイさせる」のです。


 いくらバイキングが最高だったとしても、食べすぎた体ですぐに眠ってしまったら、翌日、大幅に体重が増えています。げんなりした気分で休日を過ごさなければならず、値段以上の満足感を得たとは言いがたいです。あくまで、「あのバイキングはよかった止まり」で、そうならないようにするために、値段以上の満足感という付加価値を得るために、重い荷物を持って歩いて帰るのです。


 たしかに翌日、疲れて体はしんどいです。ただそれでも、「楽しい思い出>疲労」なので、「家まで歩いて帰ってきた!」との達成感も相まって、充実感のほうが大きいのです。


 しかも休みは1日ではなく、2日あります。仮に疲れが大きくても、日曜日の段階では、完全に抜けているのです。


 今回、僕はこの検証をするために、重い荷物を持って家に帰りました。


 時間にして3時間以上かかったのですが、途中でスーパー銭湯に寄ってから家に到着したので、最高の充実感がありました。次の日に仕事がなかったことからも、近年にないレベルで、ぐっすりと眠ることができたのです。


 加えて、このくそ長い記事もすらすらと書くことができ、これは「最高の時間を過ごしたことが、次の日の仕事に良い影響を与える」ということを表しているのです。


 こんな付加価値はないですよ。仕事がはかどるなんて、僕みたいな仕事をしている人には、たまらないのです。


 とはいえ僕は、今回の考察において、1つだけミスを犯しました。


 それは、「思っていたよりも、A4のコピー用紙が重かった」ということです。


 途中で死ぬかと思いましたし、こんなことを実行した自分を、道すがら本気で呪いましたから……。


高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?の考察~食事編~(携帯読者用)

※2007年・2月5日の記事を再編集

 前回は、高級バイキングにおける、パトロール方法についてご紹介しました。

 今回は、それを踏まえた食事編です。パトロールから得た情報をもとに、いよいよ料理を口にしていきます。

 そこで今回は、「高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?」の考察~食事編~です。

 口にする料理には、優先順位があります。

 それは、「食べたことのない料理>普段、あまり口にできない料理>食べたい料理」の順。食べたい料理を優先するのが筋なのでしょうが、それでは前回の僕のように、普通においしいだけのつみれ汁ばかり飲んでしまいます。

 とりわけ庶民は、カレー、餃子、パスタなど、普段食べている料理のほうが口に合うのは決まっています。その意識で望んでしまうと、高いお金を払った意味がないのです。

 初めてフカヒレを食べたのであれば、「俺、こないだ初めてフカヒレを食べた!」と、話の種になります。今年初めて食べる松茸に喜び、もしかすると、「今まで食べた松茸の中で1番おいしい!」と感動するかもしれません。

 要するに、食べたいものではなく、初めて食べるものや久し振りに食べるものを優先することで、胃に付加価値をつけるのです。付加価値の積み重ねで心を満足させ、高級バイキングに来た意味を噛み締めるのです。

 おいしいだけのどこにでもある料理なら、普段行く店の料理をたくさん食べればしまいです。まずはこの優先順位を頭に入れ、パトロールで得た情報をもとに、料理を峻別してください。

 そして以下に、「バイキングでの食事心得8ヵ条」をご紹介します。

 あなたはこの8ヵ条を胸に、「食べたことのない料理>普段、あまり口にできない料理>食べたい料理」の順で料理を口にしてください。

①飲んでいいお酒は、最初の1杯だけだ!
 アルコールは、ご法度です。「宴」と考えるのであれば、あまりにもふさわしくない場所。普段通りにお酒を楽しみたい人であれば、本来、来るべき場所ではないでしょう。

 飲んでいいのは、最初の1杯だけです。お腹が膨れることを考慮して、ビールは避けたほうがいいでしょう。

 ですが、ビールを含めたアルコール類には、胃を活性化させるというメリットもあります。

 戦いに支障をきたさない程度なら、飲んでもかまいません。胃袋と相談して、量を調節してください。

②ご飯を食べるな!
 ご飯は途中で食べたくなるものです。

 庶民は、「すべてにご飯をつけたがる症候群」という病気です。ご飯に合いそうなもの、ご飯に合うかもしれないもの、もっと言えば、「普段食べているご飯が近くにあれば何か落ち着く」なんて理由で、ついそばに置いてしまいます。庶民の米への依存はもはや宗教的で、「この米、最高ですか?」と農家の人に訊かれて、「最高でーす!」とお茶碗をかかげるようなレベルでしょう。

 ですがそれでも、我々は神を裏切らなければなりません。バイキングにおけるご飯は、いつでも食べられる、お腹が膨れる、原価が安いという「負の3重奏」を持ち合わせているからです。

 そして、ご飯でお腹が膨むほど、バカな話はありません。高いお金を払った意味がなく、後悔するに決まっているのです。

 高級バイキングに、宗教は必要ありません。自らに言い聞かせるためにも、踏み絵代わりに、店の炊飯器のコンセントを抜くぐらいの気概が必要でしょう。

③湯気にだまされるな!
 高級バイキングは、大きな皿に料理が盛られ、なくなるとシェフが新しい皿に交換します。

 このとき、できたての料理から昇り立つ湯気に、庶民はやられます。三途の川にいる幽霊が「おいで、おいで!」と手招きするかのごとく、我々庶民を高カロリーの館にいざなおうとするのです。

 もちろん、お腹の膨れない、軽い料理なら問題ありません。ですが、湯気が昇り立つような料理は、あんかけチャーハンやドリアといった、胃袋ハンターが多いのです。

 僕は、庶民の唾液を分泌させるこの湯気を「悪魔の汗」と呼んでおり、悪魔に魂を売ってはいけません。大量に吸ってしまうと、気がつくと大量のドリアを皿に入れてしまっているといった、深手を負ってしまいます。

 高級バイキングには、神も悪魔も必要ありません。現実論で勝負し、悪魔の汗を放つ料理は距離を置いて見る、口にしても問題ないような軽い料理であっても、くれぐれも冷静さだけは失わないでください。油断すると悪魔はつけ込み、場合によっては致命傷になってしまいますから。

④パスタとラザニアは食べるな!
 パスタは食べ慣れています。つい食べたくなるのですが、時間がたつにつれて胃袋の中で膨張し、後半に効いてくるのです。

 それでも100歩譲って、パスタは、まだわかります。食べるのを少量にすればよく、今回の僕も少しだけですが、渡り蟹の冷製パスタを口にしましたから。

 問題は、ラザニアです。

 そのダメージは尋常ではなく、桁外れのボリューム感なのです。

 しかも、すくうスプーンが大きいことから、ある程度の大きさを入れなければなりません。スプーンにチーズが絡まってすくいにくく、後ろに並ぶ人を待たせてはいけないという焦りも相まって、思わず、そこそこ大きいものを入れてしまうのです。

 これは、店側のトラップです。ナイフを用意しないで大きいスプーンを置き、大きめのラザニアを食べさせて、戦意を喪失させようとしているのです。

 僕は前回、ラザニアから悪魔の汗をくらいました。「これぐらいの大きさは、むしろ食べたいぐらいや!」と気に止めなかったのですが、食べて後悔しました。1キロのバーベルを飲み込んだようにお腹がパンパンになり、一気に食欲が失せてしまったのです。

 パスタを食べるにしても、少量までです。ラザニアに至っては、「無人島でも食べるか!」ぐらいの覚悟で、徹底的に無視してください。

⑤ひと息と称して、途中でデザートを挟むな!
 お腹が5分目ぐらいになると、「ちょっとひと息入れるわ!」と言って、デザートを入れてくる人がいます。

 ですが、これがひと息レベルでは済みません。高級バイキングのデザートコーナーの充実度は、半端ではないからです。

 ケーキ、プリン、ソフトクリーム……。あまりの充実度に、お菓子の国に迷い込んだような錯覚に陥ります。「あれも食べたい!あー、これも食べたい!」と興奮してしまい、一服のはずが気がつくと、取り皿にたくさん入れてしまっているのです。

 デザートは脂肪分が多いです。胃袋へのダメージは大きく、なによりその甘さが脳に信号を送ることで、「もうこれ以上は無理して食べなくていいよ!」と、優しい母親のような「妥協球」を投げてきます。

 タバコで一服するのも、これと同じです。食後に一服する普段の生活習慣から、燃え盛っていた食欲への炎が小さくなってしまうのです。

 したがって、途中でのティラミス、マロングラッセといった「非日常デザート」は避けてください。口にしていいのはフルーツだけで、万が一、口にしてしまっても、妥協球を投げてくる優しい母親に「うるさいわ、クソババア!」と暴言を吐くぐらいの気概を持ちましょう。


 以上の①~⑤は「ディフェンス」です。

 正確に言えば、「やってはいけないこと」で、胃袋を死守するための守りになります。

 そして以下の⑥~⑧は、そのディフェンスに対する、「オフェンス」です。

 あなたは①~⑤のディフェンスで胃袋をガードし、ここからは、以下の方法で攻撃を仕掛けていきます。

⑥回転率の高い料理を口にせよ!
 高級バイキングは、料理がなくなると、新しいものが追加されます。先ほどは、この際の湯気に注意しろ、と説明しましたが、これは裏を返せば、「回転率の高い料理は人気の証」とも言えます。

 たしかに、口にした客のレベルが低ければ、一緒にだまされてしまう可能性もあります。ですが、その料理を口にしているのが、パトロール編で言うところの「目利きのすごいOL」なら、その人気が本物である可能性が高いのです。

 もちろん、エビチリやフカヒレスープといった誰もが食べたい料理なら、回転率が高いのは当然です。ただ、おいしいという共通認識がないのにすぐになくなる料理なら、掘り出しものの可能性が高いのです。

 今回、『牛スネのポトフ』という聞き慣れない料理の回転率が高く、僕が一目置いているOLも足を運んでいました。口にしたところ、これが、この日に食べた中で1、2を争うぐらいの美味だったのです。

 料理を取りに行くときは、必ず、OLの動きを注視してください。得体の知れない料理だったとしても、OLが食べて回転率が高い料理なら、食べてみる価値はあります。

⑦料理の食べたい部分だけを取っちまえ!
 料理には、「食べたい部分」というのが存在します。

 酢豚であれば豚だけ、フカヒレスープなら卵はいらない。もっと言えば、寿司のネタだけを食べたい、と思うのが人間の性でしょう。

 今回、僕が行った店に、『エビとホウレンソウのサラダ』というのがありました。揚げたエビにホウレンソウの葉を混ぜた料理でおいしかったのですが、ホウレンソウなどどうでもよく、誰もが食べたいのは、絶妙にマヨネーズがかったぷりぷりのエビだけ。そのために、わかりやすく言えば、「ビーズの松本は無視して、稲葉だけをゲットする」のです。

 ですが、いくらなんでも、エビだけを食べるのはマナー違反です。周囲に人がいなければやったもの勝ちなのですが、混雑するバイキングにおいて、そう簡単にはできないでしょう。

 僕は、前の人のトングを使った取り方から、エビとホウレンソウの比率を確認しました。ほとんどの人が、エビ1匹に対してホウレンソウの葉が5枚、という相場を発見しました。

 したがって、エビ1匹に対してホウレンソウの葉が3枚という取り方をすれば、かなり得したことになるのです。

 そこで、先にホウレンソウだけを取り皿に入れ、「エビを取らないなんて、この人はホウレンソウが好きなだけなのかな」と後ろの人に思わせておき、最後にエビをまとめて入れるという方法を使いました。(エビは相場以上に入れました)

 こうすることで、ホウレンソウの枚数まで数えている人はいないでしょうから、実は相場よりもエビの比率が高いのに、エビをたくさん取ったという見え方にはなりにくいです。悪く見えても、ちょっと欲張ったぐらいなのです。

 各料理を熟視することで、いくらでも作戦は出てきます。ビーズの松本を避けて稲葉だけをゲットすれば、おいしいものだけでお腹を膨らませることができるでしょう。

⑧おふくろの味でひと息つけ!
 これは、最良の一服方法です。デザートでひと息つくようなデメリットもありません。

 庶民は、「おふくろの味=食べ慣れている料理」を口にすると、心が和みます。「こんな異空間にも日常が!」と考えて気持ちがほっとし、絶妙の癒しになるのです。

 ですが、肉じゃがやサバの味噌煮はダメ。あくまで休憩なので、胃袋を膨らませるおふくろの味では意味がないのです。

 お腹が膨れず、かつ、胃袋の休憩になるおふくろの味。

 これは、「味噌汁」しかありません。味噌汁を飲み、胃袋と知略を尽くした脳を癒すのです。

 1度、お試しになればわかります。本当に、砂漠でオアシスを発見したように気持ちが蘇るのです。

 飲むのは、制限時間が2時間なら、1時間経過したぐらいがベスト。胃袋で言えば、6分目ぐらいのときがベストでしょう。

 とはいえ、僕は前回、つみれ汁を何杯も飲んでお腹が膨れてしまったので、注意が必要です。

 あくまで、あなたのおふくろさんは1人です。1杯の味噌汁が後半へ向けての英気を養ってくれるので、1杯飲んだ時点でおふくろさんとはお別れをし、くれぐれも、かきたま汁や豚汁を飲むという「義母さん行脚」は避けてください。


 以上の①~⑧が、バイキングにおける、基本ディフェンスとオフェンスになります。

 時間も押し迫り、満腹になったことでしょう。

 もちろん、最後はデザートです。ここでは童心に帰って、胃袋がはち切れそうになるまで、デザートを口にしてもらって結構です。

 ただ、最後の注意事項があります。

 「デザート終わりにあたたかい日本茶を飲み、最後に、今日食べた中で1番おいしかった料理をもう1度食べる」

 これは非常に重要なので、くれぐれも遵守してください。


 以上が、バイキング必勝法です。

 今回の店の料金は、6000円と高額です。今回の作戦で、100%採算が取れたとは言えないものの、今までにない満足感を僕は得ました。前回のリベンジを果たすことができたのです。

 しかし、まだ考察は終わりではありません。

 考察のタイトルにもあるとおり、今回の考察は「値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?」なので、払った金額を下回るような満足感ではダメなのです。

 では、値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?

 それが以下にご紹介する、最後にして史上最大の作戦です。

 それは、「家まで歩いて帰る」ということです。

 家が遠くて無理だと言うなら3駅分でもかまいません、店に入る前に購入した重い荷物を持って、歩いて帰るのです。

 繰り返し申し上げるとおり、高級バイキングというのは、非日常の異空間です。ディズニーランドやUSJといった遊園地にも通じるところがあり、すべてに共通していることがあります。

 それは、「中にいるときは楽しいが、外に出た瞬間、素に戻ってしまう」ということです。

 料理を食べているときは楽しい、ジェットコースターに乗っているときは楽しいものの、一歩外に出れば、現実に引き戻されてしまうのです。

 そこで、気持ちが冷めないようにするために、「その空間が楽しかっただけではなく、外に出てからも楽しい気分に浸る」と後味をよくすることで、「行為に付加価値をつける」のです。

 では、なぜ歩いて帰るのか?歩いて帰ることが、どう付加価値をつけることになるのか?

 これには、2つの意味があります。

 まず、「食べた分のカロリーを消費するため」です。

 バイキングの翌日は、確実にウエイトオーバーになります。体重計に乗って、気分がげんなりするでしょう。

 そこで、食べた分を運動で消費するために歩いて帰り、自分の体に「おいしい食事をしたのに太ることはなかった」という付加価値をつけるのです。

 心配しなくても、歩いて帰る際は、翌日からの2連休でテンションは上がっています。おいしい料理を効率的に食べられた喜びも相まって、歩くのは普段に比べて苦痛ではありません。家に帰るまでに、食べたものすべてのカロリーを消費できれば、それは最高の付加価値になるのです。

 そして、デザート後に飲んだ日本茶と、最後に口にした1番おいしいものが、ここで効いてきます。

 たらふく食事をしたので、歩いて帰るときに、ゲップをすることは間違いありません。ゲップは、最後に食べた料理の味が口の中に広がってくる行為のことで、歩いて帰る際、「自分の口の中に1番おいしかったあの味が蘇ってくる」のです。

 デザート後に日本茶を飲んだのは、デザートと食事が混ざった気持ち悪いゲップをしないようにするためで、あたたかい日本茶には、それ以前の食事をリセットする効果があります。そして、道すがらゲップをすることで、楽しかったバイキングを思い出し、「あー、あのエビチリうまかったな!」と感慨に浸ることができるのです。

 それでも、くたくたになって帰宅するのは間違いないのですが、これも問題ありません。翌日からは2連休なので、ゆっくりと眠れるからです。

 「究極にしんどい運動後に、最高の気分で、好きなだけ眠ることができる」

 金曜日の夜にした最大の理由は、ここにあります。最高の気分で行う運動なので心地いいのは間違いなく、家に帰ってお風呂に入ってから布団に入ると、快眠になります。普段できないような快眠ができるので、こんな付加価値はないのです。

 要するに、「高級バイキングは、家に帰るまでがバイキング」なのです。

 恋人と楽しんだ遊園地は帰りの車中の雰囲気が大事、エッチのあとは腕枕でのトークが大事、コンパは解散してからの駆け引きが大事など、事後に付加価値をつけることで、「トータルで楽しい時間を過ごせた!」という感想を自分にもたせるのです。そして、店を出てからの最高の気分が値段以上のものをあなたに与え、つまりは、「今回のバイキングで値段以上の満足感を得た!」と思えるのです。

 もっと言えば、バイキング料金への足らない部分を補うために、「心(気持ち)で足らずをペイさせる」のです。

 いくらバイキングが最高だったとしても、食べすぎた体ですぐに眠ってしまったら、翌日、大幅に体重が増えています。げんなりした気分で休日を過ごさなければならず、値段以上の満足感を得たとは言いがたいです。あくまで、「あのバイキングはよかった止まり」で、そうならないようにするために、値段以上の満足感という付加価値を得るために、重い荷物を持って歩いて帰るのです。

 たしかに翌日、疲れて体はしんどいです。ただそれでも、「楽しい思い出>疲労」なので、「家まで歩いて帰ってきた!」との達成感も相まって、充実感のほうが大きいのです。

 しかも休みは1日ではなく、2日あります。仮に疲れが大きくても、日曜日の段階では、完全に抜けているのです。

 今回、僕はこの検証をするために、重い荷物を持って家に帰りました。

 時間にして3時間以上かかったのですが、途中でスーパー銭湯に寄ってから家に到着したので、最高の充実感がありました。次の日に仕事がなかったことからも、近年にないレベルで、ぐっすりと眠ることができたのです。

 加えて、このくそ長い記事もすらすらと書くことができ、これは「最高の時間を過ごしたことが、次の日の仕事に良い影響を与える」ということを表しているのです。

 こんな付加価値はないですよ。仕事がはかどるなんて、僕みたいな仕事をしている人には、たまらないのです。

 とはいえ僕は、今回の考察において、1つだけミスを犯しました。

 それは、「思っていたよりも、A4のコピー用紙が重かった」ということです。

 途中で死ぬかと思いましたし、こんなことを実行した自分を、道すがら本気で呪いましたから……。

高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?の考察~パトロール編~(PC読者用)

※2007年・2月4日の記事を再編集


 先週の金曜日に、とある高級バイキングに行きました。


 大阪の都心部にある店で、料金は6000円と高額。ですが、和洋中、なんでもそろっており、雑誌に何度も載るような、関西では有名なバイキングなのです。


 実はこの店には、以前にも行ったことがあります。


 ただ、そのときの僕は、食べ方を失敗しました。


 僕を始めとする庶民は、高級バイキングに行くと、あまりのゴージャスさに我を忘れてしまいます。後先考えずになんでも皿に盛り、店を出る際、「しまった。くだらない料理ばかり食べて、本当はもっと食べたいものがあったのに……」と、後悔してしまうです。


 僕は前回、つみれ汁をおかわりしすぎました。それだけでお腹が膨れてしまい、松茸やフカヒレといった高級料理を、ほとんど食べられなかったのです。


 したがって我々庶民は、店に入る前の段階から、食べ方の作戦を立てなければなりません。言うなれば、「バイキングは、店に入る前からバイキング」なのです。


 僕は前回の失敗を糧に、事前に「バイキングでの立ち居振る舞い」を考察しました。


 今回、用意したその作戦を実践したところ、勝ちました。作戦は大成功に終わり、非常に満足な時間を過ごすことができたのです。


 そこで今回は、「高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?」の考察~パトロール編~です。


 今回は、僕が実践して成功を収めた「バイキング必勝法」をご紹介します。


 まず、作戦を実行するにあたり、その店は「数千円レベル」のバイキングで、「2時間以内」という時間制限があることが条件です。(90分でもOK)


 そして、「5時」に開店する店で、仲間同士で「7時」に行き、「金曜日の夜」に行くようにしてください。なかでも、金曜日の夜にすることは非常に重要なので、くれぐれも金曜日の夜にしてください。


 次に、当たり前ですが、食べ物を粗末にしてはいけません。途中で吐きに行くのもNGで、皿に盛った料理は、すべて食べ切ることとします。


 ところで、高級バイキングは、店に入る前からすでに戦いが始まっています。


 昼ご飯を食べすぎたという胃の失敗があれば、もうその段階であなたは負け。心技体、すべてがそろった状態で行かなければならず、勝利するためには、店に入る前の段階で、以下の4原則を遵守しなければなりません。


 「当日の朝ご飯を抜いて、昼ご飯を軽めにする」


 「店に入るまでの飲み物を、すべてアミノサプリにする」


 「店まで重い荷物を持って行く」


 「店に入る30分前からガムを噛む」


 当日の昼ご飯を抜く人がいますが、賢明ではありません。胃袋というのは、減りすぎると、逆に食べられないからです。


 みなさまもご経験があるはずです、お腹が減りすぎて気持ち悪くなり、逆に食べられなかったことが……。


 前回のバイキングで、僕は前日の昼ご飯以来、一切口にしませんでした。久し振りの食事に胃が気持ち悪くなり、あまり食べることができなかったのです。


 したがって胃を減らすのではなく、「胃を活発にする」ことこそがベスト。活発化した胃が食欲を引き出してくれるので、朝ご飯を抜き、昼ご飯を軽めにしてください。


 次に、あなたが当日に口にする飲み物は、アミノサプリだけです。


 アミノ酸は、脂肪を燃やしてくれます。飲みながら仕事をすると、お腹が減りやすいのです。


 また、重い荷物を持って行くことでカロリーを消費させ、空腹に拍車をかけます。


 僕は今回、近くのドンキホーテに売っていた、A4のコピー用紙500枚入りを4つ持って、店に向かいました。めちゃくちゃ重かったのですが、店に着いたころには、いい感じで胃も体も疲れていました。


 なにより、「やっと重たい荷物を置ける!」とテンションが上がり、食事に対してスーパーサイヤ人になれるのです。


 最後に、店に入る30分前から、ガムを噛むようにしてください。


 ただでさえ、空腹で荷物が重くてつらいです。この状態でガムを噛むと、極限までに唾液が分泌され、「もう、このガムをこのまま飲み込んでしまいたい!」と思うほどの飢餓に陥るのです。


 今回、僕はこの4原則を遵守して、店に向かいました。


 あまりの飢餓感で、地面に落ちているたこ焼きのソースがついたトレーを舐めそうになりました。馬面のオジサンが前から歩いてきたときなど、首元にかぶりつきそうになったのです。


 この4原則は絶対条件です。くれぐれも遵守してください。


 そして、店の中に入ります。


 席に着いて、いよいよ戦いが始まるのですが、ここでいきなり動いてはいけません。仲間が料理を取りに行くのを尻目に、最初の10分は席でボーッとしておいてください。


 仲間が帰ってくるのを待つことで、どれがおいしいかという情報が入ってくるからです。


 「このスープ、おいしい!」


 「この肉、固いわ……」


 このように、料理を取ってきた仲間が、次々と評価を口にしていくのです。


 バイキングは情報が命。心配しなくても、2時間もあれば最初の10分など、たいしたことありません。あなたはタバコを吸う、タバコを吸わないのであれば水を飲むなどして、聞き耳を立てながらじっとしておいてください。


 10分経過したら、あなたは動き始めます。


 ですが、ここでもまだ、料理を口にしてはいけません。


 この段階であなたがしなければならないのは、「料理のパトロール」です。すべての料理を1つひとつチェックし、チェックしなければならないのは、食べたい料理ではなく、食べてはいけない料理です。


 バイキングには、客の胃袋を膨らませるための「トラップ料理」がたくさん仕掛けられています。店からすれば、原価の安い料理で客を満腹にさせられば、儲けが多くなるからです。


 今回、パトロール編と表現したのは、警察同様、「胃袋の被害者にならないために、胃袋を必要以上に満たしてくる加害者がいないかどうか見回りに行く」という意味があるのです。


 「このチャーハンは異常なし!」


 「このイカメシは外から見たらたいしたことはなさそうだけど、中のご飯の量が半端じゃないから異常あり!」


 パトロールの際は、こんなふうに心の中で叫びながら、巡回してください。


 このパトロールは、時間にして20分は必要でしょう。あまり席に戻らないと不審に思われるので、途中で1度戻り、胃袋を満たさないような軽いサラダやフルーツを口にして、周囲を欺いてください。


 そして以下、大事な情報を仕入れるためのパトロールポイントを、6つご紹介します。


①ほかのテーブルの客に近づいて、情報を仕入れる
 高級バイキングの客は、会話のほとんどが料理の感想です。


 「この酢豚おいしい!」


 「このそばは、麺がふにゃふにゃ!」


 軽い興奮状態にあることから、料理の感想を矢継ぎ早に口にします。料理を選ぶフリでもしながら各テーブルを周って聞き耳を立てれば、いい情報がたくさん入ってくるのです。


 金曜日の夜にしたのは、1つはこのためです。


 土日は仕事が休みの人が多く、金曜日の夜は店が混んでいます。いろいろなところから情報が入ってくるのです。


 席に座る人はもちろん、立って料理を選ぶ人や列を待つ人、はたまたトイレに至るまで、あらゆるところから情報が入ってきます。人が多ければ多いほど、料理の感想を口にする絶対数が多くなるわけです。


 それを証拠に、今回、途中でトイレに行ったとき、小便をしながら会話をしている男性から、ここの春雨スープは薄い、という特ダネを仕入れました。飲んでみたら本当に薄く、危うくだまされるところだったのです。


 平日でガラガラであれば、これほどの情報を仕入れることはできません。混雑していて料理がすぐになくなるというデメリットを差し引いても、金曜日を選ぶほうがベターというわけです。(心配しなくても、すぐに代わりの料理がやってきます)


②OLの取り皿をチェックする
 OLは、会社の同僚を誘ってこういう店に行くものです。彼女らは、雑誌や知人から得た情報で店を選び、食べ放題形式の店が大好きなのです。


 僕が行ったこの日も、OLと思われる女性グループがたくさんいました。そしてOLというのは、「この手の店に行き慣れている=食べ慣れている」ので、高級バイキングにおいても、食べるべきものとそうでないものとの目利きに長けているのです。


 ましてや、女性で食が細いです。高い料金なのも相まって目は血走っており、ほとんどプロなんですね。


 したがって、スーパーの主婦レベルで峻別していくことから、彼女らの皿の上にある料理は、基本的には「選ばれし料理」なのです。事実、前もってこのことを知っている僕は、OLのいるテーブルや、料理を選ぶ際の取り皿をチェックして料理を選択したのですが、まあハズレはなかったですよ。


 また、僕がチェックしたOLたちは、その会話から、この店に以前にも来たことがあるのがわかります。回を重ねるごとに食べ方がうまくなっているのがわかるので、「常連の意見に偽りはない」というわけです。


 加えて、金曜日の夜です。明日から2連休という開放感から、よくしゃべるんですよ。


 「このエビ、まずいわ!」


 「このフランスパンは固すぎるわ!」


 このように饒舌で、ぽろぽろと情報を落としてくれるのです。


③デブの取り皿をチェックする
 こってり料理は胃を膨らませます。基本的には食べないほうがベターで、そのために今度は、太っている人の取り皿をチェックします。


 太っている人は、お腹が減ると油っこいものが食べたくなります。皿の上にすさまじい料理を盛り、この日のために腹ペコにしてきていることからも、「とにかく何かを食べて胃袋を落ち着かせたい!」と、こってりへの欲望がすさまじいのです。


 そう、②のOLがいい情報をくれるのに対して、太っている人は、「食べてはいけない負の情報」をくれるのです。


 事実、今回の店にいた100キロ近くある男性なんて、店に来てすぐに、高カロリーの料理を皿に盛りまくっていました。同じ皿の上にイカメシとチャーハンを載せ、その上に豚の角煮を6切れも載せていたのです。


 近くに行って食べるのを見たところ、その形相はすさまじかったです。食べるというよりも喰らう、いや補給していると表現してもおかしくないほど、ガンガンに口の中に掘り込んでいます。結果、すぐに息切れし、早い段階でデザート組になっていたのです。


 したがって、彼を反面教師にすれば、胃袋への爆弾を避けられます。人にもよるのですが、太っている人の息の切れ方が、疲れているときのハアハアではなく、「空腹で、目の前にたくさんの食べものがあることへの興奮からくるハアハア」であれば間違いありません、その人は、負の情報の運び屋です。


④料理をすくうスプーン(とんぐ)の大きさをチェックする
 料理だけではなく、すくうスプーンもチェックしなければなりません。バイキングは、「高級料理(原価が高い)ほどすくうスプーンが小さく、安物でボリュームのある料理(原価が安い)ほどすくうスプーンが大きい」のです。


 これは、原価の安い、ボリュームのある料理で客の腹を膨らませようとする、店側の作戦でしょう。すくうスプーンが必要以上に大きい料理は、取り皿に1度載せた料理は戻すことができないという人間心理を巧みについた、店側のテクニックなのです。


 スプーンに入れすぎて戻そうと思っても、戻そうとスプーンを振れば、全部落ちてしまうタイプの形状をしています。そのため、「まあいいか、面倒臭いし、全部入れてしまえ!」という気持ちになりやすく、店側はその反応を見越しているのでしょう。


 もちろん、グラタンのように、「ある程度の大きさでなければ味がわからない系」の料理であれば、すくうスプーンが大きくてもわかります。ただ、それだけでは説明がつかないほど、ムダに大きい場合があります。事実、今回の店の肉団子のスプーンは、すくうところが20センチ近くもあったのです。


 それはスープ類も同じで、フカヒレだけがあからさまにスプーンが小さかったことからも、これはトラップと考えて間違いないでしょう。ボリュームのある料理を食べさせて、文字通り、高級料理への「口を封じる」ための作戦で、必要以上にスプーンの大きい料理は、もうその事実だけで食べないほうがいいのです。


 それを証拠に、少しだけ食べたい人用に小さいスプーンを、切るタイプの料理なら、付属でナイフを置いておけばいいのに、そんな配慮はありません。もう、そのスプーンを使った段階で、ある程度の大きさを入れなければならないのです。


 ですが、これは裏を返せば、「必要以上に小さいスプーンなら、いい料理の可能性がある」ということです。


 スプーンの大きさを基準に、料理を峻別する視点を持ちましょう。


⑤アルバイトを見抜いて質問する
 アルバイトは時給制です。店に利害関係がなく、店に不利な情報でも口にしやすいのです。


 正社員なら、店の利益を上げるために、ウソを教える可能性があります。儲けを気にする必要のないアルバイトは、つい本音が出てしまう、というわけです。


 アルバイトといえども、まかないで店の料理を食べています。余った料理を持って帰ることもあるでしょうから、店の料理偏差値は、客である我々よりも、はるかに詳しいのです。


 したがって、接客する従業員の中からアルバイトを見抜き、「ここのオススメ料理は何ですか?」と訊けば、情報を落としてくれます。仮に、「全部おいしいです!」と通り一遍に答えるような人でも、「本当に肉はおいしいの?」「フカヒレスープは本当においしいの?」としつこく訊けば、情報を落とさないまでも、顔に出るのです。


 今回、店の入り口にアルバイト募集のチラシが貼ってあったのを確認して、この作戦を決行しました。気の弱そうな、いかにもと思えるアルバイトらしき女性がいたので、「何かオススメはあります?」と訊いたところ、「酢豚がおいしいです」と答えてくれました。


 ですがこの答えは、こういう客がいることを見越して、マニュアルで決まっている可能性があります。そこで、「サラダは何がおいしいの?」「ステーキはおいしいの?」と質問攻めをしたところ、「ステーキはおいしいの?」の質問のときにだけ一瞬顔が曇ったのを、僕は見逃しませんでした。


 事実、たしかめるために後輩に食べさせたところ、めちゃくちゃ固かったのです。


 数千円レベルのバイキングなら、正社員ではなく、アルバイトが接客をしているところが多いです。責任のないアルバイトは、言うなれば「こちら側の人間」なので、意外と情報をくれるのです。


⑥客の帰ったテーブルの上をチェックする
 この段階で、5時~6時のあいだに入った客が帰り始めるころです。


 客がいなくなったテーブルの上には、たくさんの残飯があります。そのテーブルの状況から、残した料理をチェックして行くのです。


 食べものを残さない、できた人ばかりではありません。何かを残す人は必ず存在し、残した料理というのは、お腹がいっぱいで食べ切れなかった、個人的に嫌いなだけ、とも考えられるものの、かなりの確率で「何らかの欠陥がある料理=まずい料理」なのです。おいしければ残すことはありませんし、たとえお腹がいっぱいでも、おいしければ無理してでも食べるでしょうから。


 残飯は、バイキングにおける料理偏差値を如実に示しています。店に入るのを7時にしたのはこれが理由で、客が残した料理を帰ったあとにチェックすれば、おのずと料理偏差値がわかる、というわけです。


 なかでも、複数の人が残した料理なら間違いありません。それは確実にまずいです。



 以上の6つが、パトロールのチェックポイントです。


 これらの視点で料理を精査し、情報収集に努めてください。


 この段階で、30分が経過しました。


 周囲を欺くための軽い食事をしているだけでしょうが、心配ありません。残り90分もあれば充分で、パトロールで得た情報さえあれば、むしろ長いぐらいですから。


 食事編に続く……。


高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?の考察~パトロール編~(携帯読者用)

※2007年・2月4日の記事を再編集

 先週の金曜日に、とある高級バイキングに行きました。

 大阪の都心部にある店で、料金は6000円と高額。ですが、和洋中、なんでもそろっており、雑誌に何度も載るような、関西では有名なバイキングなのです。

 実はこの店には、以前にも行ったことがあります。

 ただ、そのときの僕は、食べ方を失敗しました。

 僕を始めとする庶民は、高級バイキングに行くと、あまりのゴージャスさに我を忘れてしまいます。後先考えずになんでも皿に盛り、店を出る際、「しまった。くだらない料理ばかり食べて、本当はもっと食べたいものがあったのに……」と、後悔してしまうです。

 僕は前回、つみれ汁をおかわりしすぎました。それだけでお腹が膨れてしまい、松茸やフカヒレといった高級料理を、ほとんど食べられなかったのです。

 したがって我々庶民は、店に入る前の段階から、食べ方の作戦を立てなければなりません。言うなれば、「バイキングは、店に入る前からバイキング」なのです。

 僕は前回の失敗を糧に、事前に「バイキングでの立ち居振る舞い」を考察しました。

 今回、用意したその作戦を実践したところ、勝ちました。作戦は大成功に終わり、非常に満足な時間を過ごすことができたのです。

 そこで今回は、「高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?」の考察~パトロール編~です。

 今回は、僕が実践して成功を収めた「バイキング必勝法」をご紹介します。

 まず、作戦を実行するにあたり、その店は「数千円レベル」のバイキングで、「2時間以内」という時間制限があることが条件です。(90分でもOK)

 そして、「5時」に開店する店で、仲間同士で「7時」に行き、「金曜日の夜」に行くようにしてください。なかでも、金曜日の夜にすることは非常に重要なので、くれぐれも金曜日の夜にしてください。

 次に、当たり前ですが、食べ物を粗末にしてはいけません。途中で吐きに行くのもNGで、皿に盛った料理は、すべて食べ切ることとします。

 ところで、高級バイキングは、店に入る前からすでに戦いが始まっています。

 昼ご飯を食べすぎたという胃の失敗があれば、もうその段階であなたは負け。心技体、すべてがそろった状態で行かなければならず、勝利するためには、店に入る前の段階で、以下の4原則を遵守しなければなりません。

 「当日の朝ご飯を抜いて、昼ご飯を軽めにする」

 「店に入るまでの飲み物を、すべてアミノサプリにする」

 「店まで重い荷物を持って行く」

 「店に入る30分前からガムを噛む」

 当日の昼ご飯を抜く人がいますが、賢明ではありません。胃袋というのは、減りすぎると、逆に食べられないからです。

 みなさまもご経験があるはずです、お腹が減りすぎて気持ち悪くなり、逆に食べられなかったことが……。

 前回のバイキングで、僕は前日の昼ご飯以来、一切口にしませんでした。久し振りの食事に胃が気持ち悪くなり、あまり食べることができなかったのです。

 したがって胃を減らすのではなく、「胃を活発にする」ことこそがベスト。活発化した胃が食欲を引き出してくれるので、朝ご飯を抜き、昼ご飯を軽めにしてください。

 次に、あなたが当日に口にする飲み物は、アミノサプリだけです。

 アミノ酸は、脂肪を燃やしてくれます。飲みながら仕事をすると、お腹が減りやすいのです。

 また、重い荷物を持って行くことでカロリーを消費させ、空腹に拍車をかけます。

 僕は今回、近くのドンキホーテに売っていた、A4のコピー用紙500枚入りを4つ持って、店に向かいました。めちゃくちゃ重かったのですが、店に着いたころには、いい感じで胃も体も疲れていました。

 なにより、「やっと重たい荷物を置ける!」とテンションが上がり、食事に対してスーパーサイヤ人になれるのです。

 最後に、店に入る30分前から、ガムを噛むようにしてください。

 ただでさえ、空腹で荷物が重くてつらいです。この状態でガムを噛むと、極限までに唾液が分泌され、「もう、このガムをこのまま飲み込んでしまいたい!」と思うほどの飢餓に陥るのです。

 今回、僕はこの4原則を遵守して、店に向かいました。

 あまりの飢餓感で、地面に落ちているたこ焼きのソースがついたトレーを舐めそうになりました。馬面のオジサンが前から歩いてきたときなど、首元にかぶりつきそうになったのです。

 この4原則は絶対条件です。くれぐれも遵守してください。

 そして、店の中に入ります。

 席に着いて、いよいよ戦いが始まるのですが、ここでいきなり動いてはいけません。仲間が料理を取りに行くのを尻目に、最初の10分は席でボーッとしておいてください。

 仲間が帰ってくるのを待つことで、どれがおいしいかという情報が入ってくるからです。

 「このスープ、おいしい!」

 「この肉、固いわ……」

 このように、料理を取ってきた仲間が、次々と評価を口にしていくのです。

 バイキングは情報が命。心配しなくても、2時間もあれば最初の10分など、たいしたことありません。あなたはタバコを吸う、タバコを吸わないのであれば水を飲むなどして、聞き耳を立てながらじっとしておいてください。

 10分経過したら、あなたは動き始めます。

 ですが、ここでもまだ、料理を口にしてはいけません。

 この段階であなたがしなければならないのは、「料理のパトロール」です。すべての料理を1つひとつチェックし、チェックしなければならないのは、食べたい料理ではなく、食べてはいけない料理です。

 バイキングには、客の胃袋を膨らませるための「トラップ料理」がたくさん仕掛けられています。店からすれば、原価の安い料理で客を満腹にさせられば、儲けが多くなるからです。

 今回、パトロール編と表現したのは、警察同様、「胃袋の被害者にならないために、胃袋を必要以上に満たしてくる加害者がいないかどうか見回りに行く」という意味があるのです。

 「このチャーハンは異常なし!」

 「このイカメシは外から見たらたいしたことはなさそうだけど、中のご飯の量が半端じゃないから異常あり!」

 パトロールの際は、こんなふうに心の中で叫びながら、巡回してください。

 このパトロールは、時間にして20分は必要でしょう。あまり席に戻らないと不審に思われるので、途中で1度戻り、胃袋を満たさないような軽いサラダやフルーツを口にして、周囲を欺いてください。

 そして以下、大事な情報を仕入れるためのパトロールポイントを、6つご紹介します。

①ほかのテーブルの客に近づいて、情報を仕入れる
 高級バイキングの客は、会話のほとんどが料理の感想です。

 「この酢豚おいしい!」

 「このそばは、麺がふにゃふにゃ!」

 軽い興奮状態にあることから、料理の感想を矢継ぎ早に口にします。料理を選ぶフリでもしながら各テーブルを周って聞き耳を立てれば、いい情報がたくさん入ってくるのです。

 金曜日の夜にしたのは、1つはこのためです。

 土日は仕事が休みの人が多く、金曜日の夜は店が混んでいます。いろいろなところから情報が入ってくるのです。

 席に座る人はもちろん、立って料理を選ぶ人や列を待つ人、はたまたトイレに至るまで、あらゆるところから情報が入ってきます。人が多ければ多いほど、料理の感想を口にする絶対数が多くなるわけです。

 それを証拠に、今回、途中でトイレに行ったとき、小便をしながら会話をしている男性から、ここの春雨スープは薄い、という特ダネを仕入れました。飲んでみたら本当に薄く、危うくだまされるところだったのです。

 平日でガラガラであれば、これほどの情報を仕入れることはできません。混雑していて料理がすぐになくなるというデメリットを差し引いても、金曜日を選ぶほうがベターというわけです。(心配しなくても、すぐに代わりの料理がやってきます)

②OLの取り皿をチェックする
 OLは、会社の同僚を誘ってこういう店に行くものです。彼女らは、雑誌や知人から得た情報で店を選び、食べ放題形式の店が大好きなのです。

 僕が行ったこの日も、OLと思われる女性グループがたくさんいました。そしてOLというのは、「この手の店に行き慣れている=食べ慣れている」ので、高級バイキングにおいても、食べるべきものとそうでないものとの目利きに長けているのです。

 ましてや、女性で食が細いです。高い料金なのも相まって目は血走っており、ほとんどプロなんですね。

 したがって、スーパーの主婦レベルで峻別していくことから、彼女らの皿の上にある料理は、基本的には「選ばれし料理」なのです。事実、前もってこのことを知っている僕は、OLのいるテーブルや、料理を選ぶ際の取り皿をチェックして料理を選択したのですが、まあハズレはなかったですよ。

 また、僕がチェックしたOLたちは、その会話から、この店に以前にも来たことがあるのがわかります。回を重ねるごとに食べ方がうまくなっているのがわかるので、「常連の意見に偽りはない」というわけです。

 加えて、金曜日の夜です。明日から2連休という開放感から、よくしゃべるんですよ。

 「このエビ、まずいわ!」

 「このフランスパンは固すぎるわ!」

 このように饒舌で、ぽろぽろと情報を落としてくれるのです。

③デブの取り皿をチェックする
 こってり料理は胃を膨らませます。基本的には食べないほうがベターで、そのために今度は、太っている人の取り皿をチェックします。

 太っている人は、お腹が減ると油っこいものが食べたくなります。皿の上にすさまじい料理を盛り、この日のために腹ペコにしてきていることからも、「とにかく何かを食べて胃袋を落ち着かせたい!」と、こってりへの欲望がすさまじいのです。

 そう、②のOLがいい情報をくれるのに対して、太っている人は、「食べてはいけない負の情報」をくれるのです。

 事実、今回の店にいた100キロ近くある男性なんて、店に来てすぐに、高カロリーの料理を皿に盛りまくっていました。同じ皿の上にイカメシとチャーハンを載せ、その上に豚の角煮を6切れも載せていたのです。

 近くに行って食べるのを見たところ、その形相はすさまじかったです。食べるというよりも喰らう、いや補給していると表現してもおかしくないほど、ガンガンに口の中に掘り込んでいます。結果、すぐに息切れし、早い段階でデザート組になっていたのです。

 したがって、彼を反面教師にすれば、胃袋への爆弾を避けられます。人にもよるのですが、太っている人の息の切れ方が、疲れているときのハアハアではなく、「空腹で、目の前にたくさんの食べものがあることへの興奮からくるハアハア」であれば間違いありません、その人は、負の情報の運び屋です。

④料理をすくうスプーン(とんぐ)の大きさをチェックする
 料理だけではなく、すくうスプーンもチェックしなければなりません。バイキングは、「高級料理(原価が高い)ほどすくうスプーンが小さく、安物でボリュームのある料理(原価が安い)ほどすくうスプーンが大きい」のです。

 これは、原価の安い、ボリュームのある料理で客の腹を膨らませようとする、店側の作戦でしょう。すくうスプーンが必要以上に大きい料理は、取り皿に1度載せた料理は戻すことができないという人間心理を巧みについた、店側のテクニックなのです。

 スプーンに入れすぎて戻そうと思っても、戻そうとスプーンを振れば、全部落ちてしまうタイプの形状をしています。そのため、「まあいいか、面倒臭いし、全部入れてしまえ!」という気持ちになりやすく、店側はその反応を見越しているのでしょう。

 もちろん、グラタンのように、「ある程度の大きさでなければ味がわからない系」の料理であれば、すくうスプーンが大きくてもわかります。ただ、それだけでは説明がつかないほど、ムダに大きい場合があります。事実、今回の店の肉団子のスプーンは、すくうところが20センチ近くもあったのです。

 それはスープ類も同じで、フカヒレだけがあからさまにスプーンが小さかったことからも、これはトラップと考えて間違いないでしょう。ボリュームのある料理を食べさせて、文字通り、高級料理への「口を封じる」ための作戦で、必要以上にスプーンの大きい料理は、もうその事実だけで食べないほうがいいのです。

 それを証拠に、少しだけ食べたい人用に小さいスプーンを、切るタイプの料理なら、付属でナイフを置いておけばいいのに、そんな配慮はありません。もう、そのスプーンを使った段階で、ある程度の大きさを入れなければならないのです。

 ですが、これは裏を返せば、「必要以上に小さいスプーンなら、いい料理の可能性がある」ということです。

 スプーンの大きさを基準に、料理を峻別する視点を持ちましょう。

⑤アルバイトを見抜いて質問する
 アルバイトは時給制です。店に利害関係がなく、店に不利な情報でも口にしやすいのです。

 正社員なら、店の利益を上げるために、ウソを教える可能性があります。儲けを気にする必要のないアルバイトは、つい本音が出てしまう、というわけです。

 アルバイトといえども、まかないで店の料理を食べています。余った料理を持って帰ることもあるでしょうから、店の料理偏差値は、客である我々よりも、はるかに詳しいのです。

 したがって、接客する従業員の中からアルバイトを見抜き、「ここのオススメ料理は何ですか?」と訊けば、情報を落としてくれます。仮に、「全部おいしいです!」と通り一遍に答えるような人でも、「本当に肉はおいしいの?」「フカヒレスープは本当においしいの?」としつこく訊けば、情報を落とさないまでも、顔に出るのです。

 今回、店の入り口にアルバイト募集のチラシが貼ってあったのを確認して、この作戦を決行しました。気の弱そうな、いかにもと思えるアルバイトらしき女性がいたので、「何かオススメはあります?」と訊いたところ、「酢豚がおいしいです」と答えてくれました。

 ですがこの答えは、こういう客がいることを見越して、マニュアルで決まっている可能性があります。そこで、「サラダは何がおいしいの?」「ステーキはおいしいの?」と質問攻めをしたところ、「ステーキはおいしいの?」の質問のときにだけ一瞬顔が曇ったのを、僕は見逃しませんでした。

 事実、たしかめるために後輩に食べさせたところ、めちゃくちゃ固かったのです。

 数千円レベルのバイキングなら、正社員ではなく、アルバイトが接客をしているところが多いです。責任のないアルバイトは、言うなれば「こちら側の人間」なので、意外と情報をくれるのです。

⑥客の帰ったテーブルの上をチェックする
 この段階で、5時~6時のあいだに入った客が帰り始めるころです。

 客がいなくなったテーブルの上には、たくさんの残飯があります。そのテーブルの状況から、残した料理をチェックして行くのです。

 食べものを残さない、できた人ばかりではありません。何かを残す人は必ず存在し、残した料理というのは、お腹がいっぱいで食べ切れなかった、個人的に嫌いなだけ、とも考えられるものの、かなりの確率で「何らかの欠陥がある料理=まずい料理」なのです。おいしければ残すことはありませんし、たとえお腹がいっぱいでも、おいしければ無理してでも食べるでしょうから。

 残飯は、バイキングにおける料理偏差値を如実に示しています。店に入るのを7時にしたのはこれが理由で、客が残した料理を帰ったあとにチェックすれば、おのずと料理偏差値がわかる、というわけです。

 なかでも、複数の人が残した料理なら間違いありません。それは確実にまずいです。


 以上の6つが、パトロールのチェックポイントです。

 これらの視点で料理を精査し、情報収集に努めてください。

 この段階で、30分が経過しました。

 周囲を欺くための軽い食事をしているだけでしょうが、心配ありません。残り90分もあれば充分で、パトロールで得た情報さえあれば、むしろ長いぐらいですから。

 食事編に続く……。

それ、言ってどうするのか?の考察~ベスト版①~(パソコン読者用)

※過去の「それ、言ってどうするのか?」の記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日、家の台所で、僕の父親と食事をしていたときのことです。


 テレビで、盗撮魔を追いかけるドキュメンタリー番組が放送されていました。


 駅で刑事が、星を陰から見張っています。しばらくして、星が女性のスカートにビデオカメラを入れたのですが、その瞬間に番組がCMに変わり、僕の父親が僕を見て言いました。


 「しかしテレビというのは、ほんまに、いいところでCMに行くよな!」


 これ、毎回言われるんですよ。みなさまも言われたことないですか、これ?


 しかも、どこか得意気です。「すごいこと言ったった!」とばかりに、自分の目の付けどころに酔いしれているところがあるのです。


 こんなことを得意気に言われても、「そうやな」としか答えようがありません。おもしろいわけでもなく、鋭いわけでもなく、「それ、言ってどうすんの?」と思うんですね。


 世の中には、「それ、言ってどうするの?」と思わずにはいられない、謎のフレーズが存在します。諸所の理由で口にする人がいるものの、言われたほうからすれば正直、迷惑なのです。


 そこで今回は、「それ、言ってどうするのか?」の考察~ベスト版①~です。


 以下、誰もが1度は聞いたであろう、「それ言ってどうするのかフレーズ」をご紹介します。


①「宝くじで1億円当たったらどうする?」
 これは、年に何回か耳にします。みなさまも1度は聞いた、もしくは1度ぐらい、口にしたことがあるかもしれま
せん。


 ですが、よく考えてください。これ、話、広がります?盛り上がったことなんてあります!?


 その多くは、ひと言返すだけです。


 「半分は親にあげて、半分はギャンブルに使うわ」


 「とりあえず車を買うわ」


 このように、ひと言返して会話が終了するのです。


 僕はこの質問をされたら、「じゃあお前はどうすんの?」と訊き返します。するとその多くが、「そうやな。1億円当たったらか……」と考え込むなど、人に訊いといて自分の答えを持っていないのです。


 ふざけんなよ、お前!訊いたお前がそれやったら、そりゃ盛り上がらんわな!


 「やっぱり、貯金かな」


 全然おもんないやんけ!貯金だけは答えたらあかんやろ!1番広がらんぞ、それは!


 一方、答えるほうも答えるほうです。なかには、真剣に返答してくる奴がいるからです。


 「家のローンの残りが2000万あるから、それを支払うやろ。車のローンと息子の養育費を引いたら、残りは6500万か。週に1回焼肉に行ったとして……」


 ガチで答えんなよ、お前!ただの遊びやろ、こんな質問!


 「俺はマンションを買うな」


 「でもマンション買ったら、固定資産税で苦労するで」


 堅っ、何こいつ!絶対友達なられへんわ、こんな奴!


 これと同種の質問に、「無人島に1つだけ持って行くとしたら何を持って行く?」というのがあります。


 ですが、これもまあ、盛り上がりませんよ。毎回、「冷蔵庫やな」「いや、テレビやろ?」といった不毛な言い争いになるだけなのです。


 どうでもいいわ、こんな質問!ていうかよく考えろ、冷蔵庫みたいな重いもん、かついで行けるわけないやろ!


 「ドラえもんやな」


 なんか腹立つわ!「やったった!」みたいな顔がなんか腹立つわ!


 そもそも、なぜひとつしか持って行けないのか、わかりません。「持てるだけ持って行ったらいいやろ!」という話で、質問自体がすでに意味不明でしょう。


②「今日は意外と冷えるね?」
 この主の発言は、頻繁に耳にします。会うと季節、もしくは天気の話をしてくるのです。


 これ、いります?「一応、言っとかないと!」という理由だけで口にしてません!?


 もちろん、「寒いね」「暑いね」ぐらいなら何の問題もないのですが、言い方にひねりを加えてくる奴がいます。


 「俺はベタな言いまわしはしないよ!」


 こう口にするかのごとく、どこか得意気に言ってくるため、その妙な小賢しさが鼻につくのです。


 なかでもタイトルにある、「今日は意外と冷えるね?」。


 こんなもん、意外と冷えるかどうかなんて、個人個人で違うんですよ。「お前は意外か知らんけど俺にとっては予想してた範囲のことよ!」ってなものなのに、勝手な意見を強引に押しつけてくるのです。


 お前、人間の体温が全員一緒やと思うな!で、いくら寒い日でも着込む服の量で感じ方は違ってくるから、「お互い、基礎体温も着込んでる服の量も違いますけど暴論を承知で言わしてください、今日は意外と冷えますね?」って言え!それはそれでうっとうしいけど!


 「ここ最近、いい天気が続いてますね?」


 だからなんやねん!続いたからどうやねん!いい天気が続いてなかったとしても別にどうってことないわ!専業農家じゃあるまいし!


 僕の近所に、会うと必ず、天気の話をしてくるオッサンがいます。毎度凝った表現をし、先日も自動販売機でタバコを買う僕に、「兄ちゃん、昨日あたりから、じわーっと涼しくなってきたな?」と話しかけてきたのです。


 言ってどうすんねん、そんなこと!どういう展開を求めてんの、お前は!?


 「明日もじわーっと涼しいんかな?」


 俺が知るわけないやろ!それは石原良純あたりに訊いてくれ!


 「ほんまに、じわーっと涼しなってきた。この時期、毎年じわーっとくる。じわーっと涼しなるから……」


 暑なってきたわ、お前のせいで!お前が妙なことばっかり言うから暑なってきたわ!じわーっと!


 天気の話は、万国共通のテーマでしょう。ですが、どう考えても広がりようのないテーマです。さらっと言うだけならまだしも、長々と引っ張るのはやめましょう。


③「今年はなんか、正月って感じがしないね」
 これは、典型的な「それ言ってどうするのかフレーズ」です。


 なにしろこれ、毎年言うんですよ。1月3日あたりに、必ず誰かが口にするのです。


 意味わからん!ていうか、お前にとっての本物の正月ってなんやねん!


 「しかし俺、毎年、正月に風邪引くわ」


 これもよう聞くぞ、おい!毎年はウソやろ、どう考えても!


 「今年系」は、頻繁に耳にします。「今年の風邪はたち悪いらしいで」「今年の夏は暑いらしいで」はもちろんのこと、僕の母親なんて今年、「今年の梅雨は雨が多いな」って言ったんですよ。


 梅雨は毎年雨多いやろ!お前それは「今年の林家ペーはピンクやな!」とか言うようなもんやぞ!


 とりわけお正月には謎のフレーズが多く、たとえば、年賀状。


 年賀状に、印字ではなく手書きで「皆様のご健康とご多幸をお祈りしております」と書いてくる人がいるのですが、こんなもん、祈られても気持ち悪いだけなんですよ。赤の他人に「ああ、バスコさんが病気になりませんように!ああ、バスコさんが幸せになりますように!」と祈祷をするなんて、ほとんどカルト宗教なのです。


 勝手に祈んなよ、お前!気持ちはうれしいけどやりすぎやろ!


 「妻ともども、お祈りしております」


 夫婦で祈ってんの!?夫婦そろって入信したんや!?


 ほかにも、年賀状でボケてくる人。新年早々、小粋なジョークを放ってくるのですが、これが正直、きついのです


 今年も、この手の年賀状が1通届きました。夫婦でエジプトに行ったらしく、ピラミッドでの記念写真の下に、以下の文面が添えられていました。


 「私、約5000年前にトリップしてまいりました!ですが妻からは、『あんた、ミイラよりもシワが多いんと違うの?』と言われる始末で……(冷や汗)。そんなミイラが、違った、私が今年も邁進してまいります!」


 全然おもんないやんけ!新年早々何をスベってくれとんねん、お前!


 「ご健康をお祈りしております」


 また祈られた!ちょっと待って、俺、何人に祈られてんの!?いろんな奴に陰で祈られてめちゃくちゃ怖いねんけど!?


 今年の年賀状だけでも、僕は7人に祈られました。僕の父親に至っては11人に祈られるなど、勝手なお祈りは怖いのです。


④「(ビンゴ大会で)50番!」「うおー、51番ならあったのに!」
 ちょっとしたイベントや結婚式の2次会などで、ビンゴをする機会があります。このとき、数字の惜しさを、やた
らとアピールしてくる人がいるのです。


 ビンゴカードは中央に穴が空いており、24個の数字があります。75個中の24個なので、惜しい数字はいっぱいあります。なのに毎回「うおー!」と叫ぶので、滑稽で仕方がないんですね。


 それでも1番違いなら、まだわかります。ただ、「50番!」と知らされて、「うおー!47番ならあったのに!」と叫ぶ奴がいるのです。


 全然惜しくないわ、お前!ていうか48番と49番持ってる奴が腐るほどおるわ!51番52番53番もおるし、その場の大半がお前と一緒や!


 先日、僕は結婚式の2次会で、ビンゴをやりました。


 参加者の多くにお酒が入っており、テンションは高いです。すると1人のオッサンが、「あと3個そろったらリーチ!」と叫んだのです。


 2個しかそろってないやろ、お前!そろってないほうが多いやろ!


 「12番!」


 「うおー!22番ならあんのにーーー!」


 「3番!」


 「長嶋!わしは長嶋が好きやのに3番がない!」


 「69番!」


 「シックスナ○ン!」


 ええ加減にせいよ!もうええ加減にせいよ、コラ!お前、そこに置いてある酒樽持ってこい!そこに頭から突っ込ませて2、3年フタしたるわ!


 それでも、このオッサンはビンゴになりました。嬉々としてプレゼントを受け取り、僕の隣で包みを開け始めたのですが、中身が黄緑色のヌンチャクやったんですよ。


 散々盛り上がっといてそれかいや!で、主催者もヌンチャクなんて用意すんなよ!少林寺の関係者か、俺ら!


 「うおー、旅行券がほしかったのに!仕方がない、代わりに兄ちゃんが旅行券当たるよう、祈っといたるわ!」


 また祈られた!ちょっと待って、俺、どこに行ったらいいの!?


 「祈っといたる!祈っといたる!」


 ルーラ唱えたいわ、もう!怖すぎて今すぐこの国を出たいわ!


 空気を読まずにはしゃぎ倒すのは、よくありません。それが祝宴ともなると、目も当てられないでしょう。


⑤「おい、オバハン!」「誰がオバハンやねん!もう1回言ってみ!」
 これも、よく聞きます。自分が悪く言われたことに対して、「もう1回言ってみ!」と声を荒げるのです。


 ですが、よく考えてください。この人は、「オバハン」と言われたことに対して怒っているわけです。「もう1回言ってみ!」と返したら、その「オバハン」をもう1回言われてしまいます。言われてイヤなことなのに、自分からもう1回お願いしているのです。


 意味わからん!何のおかわりやねん、それ!


 「もう1回言ってみ!」


 「オバハン!」


 「誰がオバハンやねん!」


 お前が言わしてんやろ!お前が言えって言うから言ったんやろ、そいつ!


 「あんたもいつかオッサンになるんやで!」


 だからなんやねん!ていうか、お前もオッサンって言うてもうてるやんけ!お前も口悪いやろ、たいがい!


 オバハンという人種は頻繁にワケのわからないことを口にし、たとえば、散髪。オバハンは散髪に行くことを、「カットに行く」って言うのです。


 カットて、おい!シフトか!


 「3時にカット予約してるから!」


 カットの予約ってなんやねん!なんや、「斬られ役」ってことか!?3時に映画村で北大路欣也と待ち合わせか!


 「『野イチゴ』に3時にカット予約してるから!」


 野イチゴて、おい!野イチゴって、あきらかにオバハン多そうやねんけど!?頭にパーマ当てられながら全員、女性セブン読んでるような店としか思えんねんけど!?


 オバハンは、カットを重要行事と位置づけています。やけに力を入れており、しかもカット終わりのオバハンは、自分に自信があります。


 「私は生まれ変わりましたよ!」


 こう口にするかのごとく、自分のカットっぷりを見せつけてきます。そのとき、「よく似合ってますね、その髪型!」と褒めようものなら、数日後に、甘味の少ない手作りのスイートポテトを届けられる可能性があるのでご注意ください。


⑥「山の手線ゲーム!SMAPのメンバー!パンパン、木村拓哉!」「パンパン、香取慎吾!って、5人で終わるやないか~い!!!」
 これは、えげつないです。


 こんなもん、ウケるわけないんですよ。口にする前にそのことはわかるはずで、なのに言われたほうもまた、「パンパン、香取慎吾!って」と、1回乗りやがるのです。


 きつすぎるぞ、これ!子供がやってもゲンコツいるぞ、このノリ!


 そして、このタイプの奴は十中八九、以下の言葉を続けます。


 「でも、森君入れたら6人やで?」


 言ってどうすんねん、そんなこと!言ったところでどうなんねん、それ!?


 「ちなみに森君って、オートレースはどうなったん?」


 「全然ダメみたいやで。でもまあ、うまくいくよう、祈っといたろうや!」


 また祈る奴おった!あーもう神様助けてって、俺も祈ってるやんけ!ごめん!


 僕の上司に、この手のつまらないことを言う人がいます。何かにつけて寒く、こないだもなんとなしに咳をした僕に、「新型インフルエンザ?なあ自分、新型インフルエンザ?」と訊いてきたのです。


 全然おもんないねんけど!?びっくりするわ、何それ!?


 「(ボールペンを僕の頭に当てて)はい、注射!はい、注射!」


 はい注射やあるか、お前!どっちか言うたらお前のほうに注射いるやろ!


 本当につまらないのです、この人。つい先日も、使い終わった爪楊枝を僕に向けて、「シュッシュッ!シュッシュッ!」とフェンシングを始めたのです。


 死んだらええねん!死に値するボケやわ、これ!


 「2ラウンド、突入~!!!」


 タオル投げてくれ、もう!勝ち負けとかはいいから、誰かもうタオル投げてくれ!


 なかでも以下のジョークだけは、殺意を覚えました。その昔、「今、何時です?」と訊いて返された言葉に、僕は本気で首を絞めそうになったのです。


 「(腕時計を見て)スジャータが、午後5時をお知らせします!」


 子供おるんやろ!?あんたには子供がおるんやから、お父さんがそんなことしたらあかんやろ!?


 「とか言いつつ、まだ4時59分だったりして!?」


 言ってどうすんねん、そんなこと!シャレならんわ、こいつ!


 これを聞いたとき、僕は仕事をやめようと、本気で思いました。


 「こんな苦労をしてまでこの仕事をしたくない……」


 こんなふうに思いつめて自分を見失い、週末に墓参りをしましたから。



 そして、最後。これだけは、本当の本当に意味がわかりません。


⑦「そこの兄ちゃん、~してや?」
 街を歩いていると、見知らぬ誰かが話しかけてくることがあります。


 このとき、その多くが「お願い」です。「兄ちゃん、今、何時?」ぐらいなら何の問題もないものの、なかには、ありえないお願いをしてくる人がいるのです。


 なかでも、大阪のオバハン。


 大阪のオバハンの図々しさだけは、尋常ではありません。何の面識もない人に、平気な顔であつかましいお願いをしてくるのです。


 先日、大阪の屋台で、たこ焼きを買うために列に並んでいたときのことです。


 10分ほど並んで、ようやくたこ焼きが買えました。近くの壁にもたれかかって食べ始めたところ、オバハンの2人組が僕の前にやってきて言いました。


 「兄ちゃん、1個ちょうだいや?」


 なんでやねん、お前!なんでやらないとあかんねん、全然知らん奴に!


 「1個でいいから?」


 1個に決まってるやろ!やるとしても1個が限度じゃ!


 オバハンは必死です。あまりにしつこいので1個あげたのですが、「熱っ!」と叫んで僕のトレーに吐き出しやがったんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!なんで見知らぬオバハンにたこ焼き吐かれないとあかんねん!


 「なんでこんなに熱いんよ、兄ちゃん!」


 俺に言うなよ!で、なんでお前は手に『an・an』持ってんねん!『an・an』にオバハンが望む特集なんてないぞ!「今、日傘が熱い!」みたいな特集ないぞ!


 オバハンは言います。


 「あんまりおいしくないわ。並ぶのやめよか?」


 オバハン2人で顔を見合わせ、僕にお礼も言わずに立ち去りました。そうこのオバハンたち、列に並ぶかどうかの判断を、僕のたこ焼きを食べて決めやがったのです。


 ほかにも、雨の日のことです。


 傘を差していると、後ろから1人のオバハンがやってきました。柄本明そっくりのオバハンで、「兄ちゃん、ごめんな!ちょっとだけやから入れてな!」と、有無を言わさず僕の傘に侵入してきたのです。


 誰やねん、お前!なあ誰、傘の柄の部分を勝手につかんできたけど!?


 「兄ちゃん、こっちに行く用事ないか?」


 なんで俺がお前の方向に行かないとあかんねん!海賊と同じやぞ、お前のやってること!


 「ないです!」


 「こっちに、いいコンビニあるで!」


 いいコンビニってなんやねん!コンビニはチェーン店やからどこも置いてるもん一緒やろ!そもそもお前の方向に行かんでも俺らの目の前にコンビニあるやろ!


 「ジュースも置いてるで!」


 ジュース置いてないコンビニ探すほうが大変やぞ、お前!で、金歯何本あんねん、お前!前歯の7割金歯やんけ!宝物隠してるみたいになってるやんけ、お前の口!


 それでも1億歩譲って、これらはよしとしましょう。なにしろ一度、路上を歩いていたら、「兄ちゃん、1000円くれへんか?」と普通に訊いてきたオバハンがいたのです。


 お前、どこのどいつが2つ返事で「どうぞ!」とか言うねん!そんな歩くボランティアみたいな奴おるか!


 「いらん1000円ない?」


 いらん1000円ってなんやねん!いらん金とかあるか、お前!


 「ないです!」


 「クーーー!」


 ……なんやねん、それ!クーーー!ってなんやねん!
 

 「クーーー!!!」


 なんやねんそれ、だから!で、お前も金歯多すぎんねん!金と銀でテカテカやねん、お前の口!「将棋口」って呼ぶぞ、お前の口のこと!


 みなさまも一度、大国町や西成といった大阪のディープなところに行ってみてください。こんなオバハンがごろごろしていて、ワケのわからないことを連発してきますから。



 以上が、今回の考察です。


 それ言ってどうするのかフレーズは、積もり積もると嫌われます。


 もちろん、そんなことを気にしていたら、会話などできません。ですが、言わないにこしたことがないことは、避けるべきでしょう。


 ちなみに⑥でご紹介した、寒い、僕の上司。


 昨日、数日前に仕事で撮影した記念写真を、仕事場の掲示板に貼り付けていました。


 とある女性を囲んだ写真で、僕を含めて5人写っています。ところがその写真の下に、以下の文章が書かれたシールが貼られてあったのです。


 「美女を囲む5人の騎士達!」


 なんか寒いわ!!!



それ、言ってどうするのか?の考察~ベスト版①~(携帯読者用)

※過去の「それ、言ってどうするのか?」の記事をごちゃ混ぜにして再編集

 先日、家の台所で、僕の父親と食事をしていたときのことです。

 テレビで、盗撮魔を追いかけるドキュメンタリー番組が放送されていました。

 駅で刑事が、星を陰から見張っています。しばらくして、星が女性のスカートにビデオカメラを入れたのですが、その瞬間に番組がCMに変わり、僕の父親が僕を見て言いました。

 「しかしテレビというのは、ほんまに、いいところでCMに行くよな!」

 これ、毎回言われるんですよ。みなさまも言われたことないですか、これ?

 しかも、どこか得意気です。「すごいこと言ったった!」とばかりに、自分の目の付けどころに酔いしれているところがあるのです。

 こんなことを得意気に言われても、「そうやな」としか答えようがありません。おもしろいわけでもなく、鋭いわけでもなく、「それ、言ってどうすんの?」と思うんですね。

 世の中には、「それ、言ってどうするの?」と思わずにはいられない、謎のフレーズが存在します。諸所の理由で口にする人がいるものの、言われたほうからすれば正直、迷惑なのです。

 そこで今回は、「それ、言ってどうするのか?」の考察~ベスト版①~です。

 以下、誰もが1度は聞いたであろう、「それ言ってどうするのかフレーズ」をご紹介します。

①「宝くじで1億円当たったらどうする?」
 これは、年に何回か耳にします。みなさまも1度は聞いた、もしくは1度ぐらい、口にしたことがあるかもしれません。

 ですが、よく考えてください。これ、話、広がります?盛り上がったことなんてあります!?

 その多くは、ひと言返すだけです。

 「半分は親にあげて、半分はギャンブルに使うわ」

 「とりあえず車を買うわ」

 このように、ひと言返して会話が終了するのです。

 僕はこの質問をされたら、「じゃあお前はどうすんの?」と訊き返します。するとその多くが、「そうやな。1億円当たったらか……」と考え込むなど、人に訊いといて自分の答えを持っていないのです。

 ふざけんなよ、お前!訊いたお前がそれやったら、そりゃ盛り上がらんわな!

 「やっぱり、貯金かな」

 全然おもんないやんけ!貯金だけは答えたらあかんやろ!1番広がらんぞ、それは!

 一方、答えるほうも答えるほうです。なかには、真剣に返答してくる奴がいるからです。

 「家のローンの残りが2000万あるから、それを支払うやろ。車のローンと息子の養育費を引いたら、残りは6500万か。週に1回焼肉に行ったとして……」

 ガチで答えんなよ、お前!ただの遊びやろ、こんな質問!

 「俺はマンションを買うな」

 「でもマンション買ったら、固定資産税で苦労するで」

 堅っ、何こいつ!絶対友達なられへんわ、こんな奴!

 これと同種の質問に、「無人島に1つだけ持って行くとしたら何を持って行く?」というのがあります。

 ですが、これもまあ、盛り上がりませんよ。毎回、「冷蔵庫やな」「いや、テレビやろ?」といった不毛な言い争いになるだけなのです。

 どうでもいいわ、こんな質問!ていうかよく考えろ、冷蔵庫みたいな重いもん、かついで行けるわけないやろ!

 「ドラえもんやな」

 なんか腹立つわ!「やったった!」みたいな顔がなんか腹立つわ!

 そもそも、なぜひとつしか持って行けないのか、わかりません。「持てるだけ持って行ったらいいやろ!」という話で、質問自体がすでに意味不明でしょう。

②「今日は意外と冷えるね?」
 この主の発言は、頻繁に耳にします。会うと季節、もしくは天気の話をしてくるのです。

 これ、いります?「一応、言っとかないと!」という理由だけで口にしてません!?

 もちろん、「寒いね」「暑いね」ぐらいなら何の問題もないのですが、言い方にひねりを加えてくる奴がいます。

 「俺はベタな言いまわしはしないよ!」

 こう口にするかのごとく、どこか得意気に言ってくるため、その妙な小賢しさが鼻につくのです。

 なかでもタイトルにある、「今日は意外と冷えるね?」。

 こんなもん、意外と冷えるかどうかなんて、個人個人で違うんですよ。「お前は意外か知らんけど俺にとっては予想してた範囲のことよ!」ってなものなのに、勝手な意見を強引に押しつけてくるのです。

 お前、人間の体温が全員一緒やと思うな!で、いくら寒い日でも着込む服の量で感じ方は違ってくるから、「お互い、基礎体温も着込んでる服の量も違いますけど暴論を承知で言わしてください、今日は意外と冷えますね?」って言え!それはそれでうっとうしいけど!

 「ここ最近、いい天気が続いてますね?」

 だからなんやねん!続いたからどうやねん!いい天気が続いてなかったとしても別にどうってことないわ!専業農家じゃあるまいし!

 僕の近所に、会うと必ず、天気の話をしてくるオッサンがいます。毎度凝った表現をし、先日も自動販売機でタバコを買う僕に、「兄ちゃん、昨日あたりから、じわーっと涼しくなってきたな?」と話しかけてきたのです。

 言ってどうすんねん、そんなこと!どういう展開を求めてんの、お前は!?

 「明日もじわーっと涼しいんかな?」

 俺が知るわけないやろ!それは石原良純あたりに訊いてくれ!

 「ほんまに、じわーっと涼しなってきた。この時期、毎年じわーっとくる。じわーっと涼しなるから……」

 暑なってきたわ、お前のせいで!お前が妙なことばっかり言うから暑なってきたわ!じわーっと!

 天気の話は、万国共通のテーマでしょう。ですが、どう考えても広がりようのないテーマです。さらっと言うだけならまだしも、長々と引っ張るのはやめましょう。

③「今年はなんか、正月って感じがしないね」
 これは、典型的な「それ言ってどうするのかフレーズ」です。

 なにしろこれ、毎年言うんですよ。1月3日あたりに、必ず誰かが口にするのです。

 意味わからん!ていうか、お前にとっての本物の正月ってなんやねん!

 「しかし俺、毎年、正月に風邪引くわ」

 これもよう聞くぞ、おい!毎年はウソやろ、どう考えても!

 「今年系」は、頻繁に耳にします。「今年の風邪はたち悪いらしいで」「今年の夏は暑いらしいで」はもちろんのこと、僕の母親なんて今年、「今年の梅雨は雨が多いな」って言ったんですよ。

 梅雨は毎年雨多いやろ!お前それは「今年の林家ペーはピンクやな!」とか言うようなもんやぞ!

 とりわけお正月には謎のフレーズが多く、たとえば、年賀状。

 年賀状に、印字ではなく手書きで「皆様のご健康とご多幸をお祈りしております」と書いてくる人がいるのですが、こんなもん、祈られても気持ち悪いだけなんですよ。赤の他人に「ああ、バスコさんが病気になりませんように!ああ、バスコさんが幸せになりますように!」と祈祷をするなんて、ほとんどカルト宗教なのです。

 勝手に祈んなよ、お前!気持ちはうれしいけどやりすぎやろ!

 「妻ともども、お祈りしております」

 夫婦で祈ってんの!?夫婦そろって入信したんや!?

 ほかにも、年賀状でボケてくる人。新年早々、小粋なジョークを放ってくるのですが、これが正直、きついのです。

 今年も、この手の年賀状が1通届きました。夫婦でエジプトに行ったらしく、ピラミッドでの記念写真の下に、以下の文面が添えられていました。

 「私、約5000年前にトリップしてまいりました!ですが妻からは、『あんた、ミイラよりもシワが多いんと違うの?』と言われる始末で……(冷や汗)。そんなミイラが、違った、私が今年も邁進してまいります!」

 全然おもんないやんけ!新年早々何をスベってくれとんねん、お前!

 「ご健康をお祈りしております」

 また祈られた!ちょっと待って、俺、何人に祈られてんの!?いろんな奴に陰で祈られてめちゃくちゃ怖いねんけど!?

 今年の年賀状だけでも、僕は7人に祈られました。僕の父親に至っては11人に祈られるなど、勝手なお祈りは怖いのです。

④「(ビンゴ大会で)50番!」「うおー、51番ならあったのに!」
 ちょっとしたイベントや結婚式の2次会などで、ビンゴをする機会があります。このとき、数字の惜しさを、やたらとアピールしてくる人がいるのです。

 ビンゴカードは中央に穴が空いており、24個の数字があります。75個中の24個なので、惜しい数字はいっぱいあります。なのに毎回「うおー!」と叫ぶので、滑稽で仕方がないんですね。

 それでも1番違いなら、まだわかります。ただ、「50番!」と知らされて、「うおー!47番ならあったのに!」と叫ぶ奴がいるのです。

 全然惜しくないわ、お前!ていうか48番と49番持ってる奴が腐るほどおるわ!51番52番53番もおるし、その場の大半がお前と一緒や!

 先日、僕は結婚式の2次会で、ビンゴをやりました。

 参加者の多くにお酒が入っており、テンションは高いです。すると1人のオッサンが、「あと3個そろったらリーチ!」と叫んだのです。

 2個しかそろってないやろ、お前!そろってないほうが多いやろ!

 「12番!」

 「うおー!22番ならあんのにーーー!」

 「3番!」

 「長嶋!わしは長嶋が好きやのに3番がない!」

 「69番!」

 「シックスナ○ン!」

 ええ加減にせいよ!もうええ加減にせいよ、コラ!お前、そこに置いてある酒樽持ってこい!そこに頭から突っ込ませて2、3年フタしたるわ!

 それでも、このオッサンはビンゴになりました。嬉々としてプレゼントを受け取り、僕の隣で包みを開け始めたのですが、中身が黄緑色のヌンチャクやったんですよ。

 散々盛り上がっといてそれかいや!で、主催者もヌンチャクなんて用意すんなよ!少林寺の関係者か、俺ら!

 「うおー、旅行券がほしかったのに!仕方がない、代わりに兄ちゃんが旅行券当たるよう、祈っといたるわ!」

 また祈られた!ちょっと待って、俺、どこに行ったらいいの!?

 「祈っといたる!祈っといたる!」

 ルーラ唱えたいわ、もう!怖すぎて今すぐこの国を出たいわ!

 空気を読まずにはしゃぎ倒すのは、よくありません。それが祝宴ともなると、目も当てられないでしょう。

⑤「おい、オバハン!」「誰がオバハンやねん!もう1回言ってみ!」
 これも、よく聞きます。自分が悪く言われたことに対して、「もう1回言ってみ!」と声を荒げるのです。

 ですが、よく考えてください。この人は、「オバハン」と言われたことに対して怒っているわけです。「もう1回言ってみ!」と返したら、その「オバハン」をもう1回言われてしまいます。言われてイヤなことなのに、自分からもう1回お願いしているのです。

 意味わからん!何のおかわりやねん、それ!

 「もう1回言ってみ!」

 「オバハン!」

 「誰がオバハンやねん!」

 お前が言わしてんやろ!お前が言えって言うから言ったんやろ、そいつ!

 「あんたもいつかオッサンになるんやで!」

 だからなんやねん!ていうか、お前もオッサンって言うてもうてるやんけ!お前も口悪いやろ、たいがい!

 オバハンという人種は頻繁にワケのわからないことを口にし、たとえば、散髪。オバハンは散髪に行くことを、「カットに行く」って言うのです。

 カットて、おい!シフトか!

 「3時にカット予約してるから!」

 カットの予約ってなんやねん!なんや、「斬られ役」ってことか!?3時に映画村で北大路欣也と待ち合わせか!?

 「『野イチゴ』に3時にカット予約してるから!」

 野イチゴて、おい!野イチゴって、あきらかにオバハン多そうやねんけど!?頭にパーマ当てられながら全員、女性セブン読んでるような店としか思えんねんけど!?

 オバハンは、カットを重要行事と位置づけています。やけに力を入れており、しかもカット終わりのオバハンは、自分に自信があります。

 「私は生まれ変わりましたよ!」

 こう口にするかのごとく、自分のカットっぷりを見せつけてきます。そのとき、「よく似合ってますね、その髪型!」と褒めようものなら、数日後に、甘味の少ない手作りのスイートポテトを届けられる可能性があるのでご注意ください。

⑥「山の手線ゲーム!SMAPのメンバー!パンパン、木村拓哉!」「パンパン、香取慎吾!って、5人で終わるやないか~い!!!」
 これは、えげつないです。

 こんなもん、ウケるわけないんですよ。口にする前にそのことはわかるはずで、なのに言われたほうもまた、「パンパン、香取慎吾!って」と、1回乗りやがるのです。

 きつすぎるぞ、これ!子供がやってもゲンコツいるぞ、このノリ!

 そして、このタイプの奴は十中八九、以下の言葉を続けます。

 「でも、森君入れたら6人やで?」

 言ってどうすんねん、そんなこと!言ったところでどうなんねん、それ!?

 「ちなみに森君って、オートレースはどうなったん?」

 「全然ダメみたいやで。でもまあ、うまくいくよう、祈っといたろうや!」

 また祈る奴おった!あーもう神様助けてって、俺も祈ってるやんけ!ごめん!

 僕の上司に、この手のつまらないことを言う人がいます。何かにつけて寒く、こないだもなんとなしに咳をした僕に、「新型インフルエンザ?なあ自分、新型インフルエンザ?」と訊いてきたのです。

 全然おもんないねんけど!?びっくりするわ、何それ!?

 「(ボールペンを僕の頭に当てて)はい、注射!はい、注射!」

 はい注射やあるか、お前!どっちか言うたらお前のほうに注射いるやろ!

 本当につまらないのです、この人。つい先日も、使い終わった爪楊枝を僕に向けて、「シュッシュッ!シュッシュッ!」とフェンシングを始めたのです。

 死んだらええねん!死に値するボケやわ、これ!

 「2ラウンド、突入~!!!」

 タオル投げてくれ、もう!勝ち負けとかはいいから、誰かもうタオル投げてくれ!

 なかでも以下のジョークだけは、殺意を覚えました。その昔、「今、何時です?」と訊いて返された言葉に、僕は本気で首を絞めそうになったのです。

 「(腕時計を見て)スジャータが、午後5時をお知らせします!」

 子供おるんやろ!?あんたには子供がおるんやから、お父さんがそんなことしたらあかんやろ!?

 「とか言いつつ、まだ4時59分だったりして!?」

 言ってどうすんねん、そんなこと!シャレならんわ、こいつ!

 これを聞いたとき、僕は仕事をやめようと、本気で思いました。

 「こんな苦労をしてまでこの仕事をしたくない……」

 こんなふうに思いつめて自分を見失い、週末に墓参りをしましたから。


 そして、最後。これだけは、本当の本当に意味がわかりません。

⑦「そこの兄ちゃん、~してや?」
 街を歩いていると、見知らぬ誰かが話しかけてくることがあります。

 このとき、その多くが「お願い」です。「兄ちゃん、今、何時?」ぐらいなら何の問題もないものの、なかには、ありえないお願いをしてくる人がいるのです。

 なかでも、大阪のオバハン。

 大阪のオバハンの図々しさだけは、尋常ではありません。何の面識もない人に、平気な顔であつかましいお願いをしてくるのです。

 先日、大阪の屋台で、たこ焼きを買うために列に並んでいたときのことです。

 10分ほど並んで、ようやくたこ焼きが買えました。近くの壁にもたれかかって食べ始めたところ、オバハンの2人組が僕の前にやってきて言いました。

 「兄ちゃん、1個ちょうだいや?」

 なんでやねん、お前!なんでやらないとあかんねん、全然知らん奴に!

 「1個でいいから?」

 1個に決まってるやろ!やるとしても1個が限度じゃ!

 オバハンは必死です。あまりにしつこいので1個あげたのですが、「熱っ!」と叫んで僕のトレーに吐き出しやがったんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!なんで見知らぬオバハンにたこ焼き吐かれないとあかんねん!

 「なんでこんなに熱いんよ、兄ちゃん!」

 俺に言うなよ!で、なんでお前は手に『an・an』持ってんねん!『an・an』にオバハンが望む特集なんてないぞ!「今、日傘が熱い!」みたいな特集ないぞ!

 オバハンは言います。

 「あんまりおいしくないわ。並ぶのやめよか?」

 オバハン2人で顔を見合わせ、僕にお礼も言わずに立ち去りました。そうこのオバハンたち、列に並ぶかどうかの判断を、僕のたこ焼きを食べて決めやがったのです。

 ほかにも、雨の日のことです。

 傘を差していると、後ろから1人のオバハンがやってきました。柄本明そっくりのオバハンで、「兄ちゃん、ごめんな!ちょっとだけやから入れてな!」と、有無を言わさず僕の傘に侵入してきたのです。

 誰やねん、お前!なあ誰、傘の柄の部分を勝手につかんできたけど!?

 「兄ちゃん、こっちに行く用事ないか?」

 なんで俺がお前の方向に行かないとあかんねん!海賊と同じやぞ、お前のやってること!

 「ないです!」

 「こっちに、いいコンビニあるで!」

 いいコンビニってなんやねん!コンビニはチェーン店やからどこも置いてるもん一緒やろ!そもそもお前の方向に行かんでも俺らの目の前にコンビニあるやろ!

 「ジュースも置いてるで!」

 ジュース置いてないコンビニ探すほうが大変やぞ、お前!で、金歯何本あんねん、お前!前歯の7割金歯やんけ!宝物隠してるみたいになってるやんけ、お前の口!

 それでも1億歩譲って、これらはよしとしましょう。なにしろ一度、路上を歩いていたら、「兄ちゃん、1000円くれへんか?」と普通に訊いてきたオバハンがいたのです。

 お前、どこのどいつが2つ返事で「どうぞ!」とか言うねん!そんな歩くボランティアみたいな奴おるか!

 「いらん1000円ない?」

 いらん1000円ってなんやねん!いらん金とかあるか、お前!

 「ないです!」

 「クーーー!」

 ……なんやねん、それ!クーーー!ってなんやねん!

 「クーーー!!!」

 なんやねんそれ、だから!で、お前も金歯多すぎんねん!金と銀でテカテカやねん、お前の口!「将棋口」って呼ぶぞ、お前の口のこと!

 みなさまも一度、大国町や西成といった大阪のディープなところに行ってみてください。こんなオバハンがごろごろしていて、ワケのわからないことを連発してきますから。


 以上が、今回の考察です。

 それ言ってどうするのかフレーズは、積もり積もると嫌われます。

 もちろん、そんなことを気にしていたら、会話などできません。ですが、言わないにこしたことがないことは、避けるべきでしょう。

 ちなみに⑥でご紹介した、寒い、僕の上司。

 昨日、数日前に仕事で撮影した記念写真を、仕事場の掲示板に貼り付けていました。

 とある女性を囲んだ写真で、僕を含めて5人写っています。ところがその写真の下に、以下の文章が書かれたシールが貼られてあったのです。

 「美女を囲む5人の騎士達!」

 なんか寒いわ!!!

銭湯で隣にヤクザが座ったらどうやって体を洗うべきか?の考察(パソコン読者用)

※2007年・5月23日の記事を再編集


 昨日、地元の商店街の銭湯に行きました。


 この銭湯に行くのは、初めてです。僕には行きつけのスーパー銭湯が別にあるのですが、そこが改築工事をします。僕の母親に教えてもらい、地元の大衆銭湯に行くことにしたのです。


 この銭湯は、お湯がキレイです。


 井戸水をろ過してから沸騰させるらしく、塩ラーメンのスープのように澄み切っています。お風呂場自体はこじんまりしているものの、お湯の清潔感に魅せられた僕は、今度からはここに来ようと、スーパー銭湯が目ではなくなりました。


 ところが体を洗おうとイスに座った瞬間、ほとんど同じタイミングで僕の隣に、入れ墨をしたヤクザが座ってきたのです。


 僕は、お湯に感激しすぎていました。大衆銭湯での最注意事項である「ヤクザの動き」に気が行ってなかったのです。


 この銭湯は、席の間隔が狭いです。1つひとつのスペースがほとんどなく、あくびで腕を上げただけで、傷害罪に問われそうなほどなのです。


 これは困りましたよ。


 ヤクザの真横で洗わなければならず、このヤクザの入れ墨がまた、えげつないのです。とんでもない顔をした般若で、「少しでもアタイに泡をかけたら、このキバで首をかっ切るからな!」と叫んでいるかのようなのです。


 入れ墨は、ヤクザの左肩にあります。左に座った僕は、真横でニラまれているような気がするのです。


 もちろん、席を移動すればいいだけの話でしょう。そうすれば、石立鉄男に似たこのヤクザ(以下、鉄男さん)にキレられることも、般若に首をかっ切られることもありません。


 ですが、移動したら、怖くて逃げたのがバレバレです。さすがの僕もこんな情けないことはできず、「おい兄ちゃん、わしが何か悪いことしたか?」なんて訊かれたら、コメントのしようがないのです。


 狭いので1つ席を空けるという見せ方も、隣の席が空いていないため、できません。


 ほかにも、今は頭だけ洗いたかった、髭だけ剃りたかったという見せ方で、一度浴槽に戻って時間を潰し、鉄男さんがいなくなってから洗うという方法も、あるにはあります。


 ですが、鉄男さんが体を洗っていなくなるという保証はありません。僕のようにお湯に感化されて、般若と一緒に戯れるなんてことも、ない話ではないでしょう。そして、しびれを切らした僕が再び洗い始めれば、席を立った行動とに辻褄が合わなくなり、「おい、お前、なんでさっき席を立ってん?」と訊かれる可能性があるのです。


 たしかに、考えすぎでしょう。


 ただ、こんなことを考えずにはいられないほど、鏡越しに見える鉄男さんの顔が怖いのです。「わしは趣味で人を殺してます!」と言うかのごとく、丸坊主で日焼けした顔がめちゃくちゃ怖いのです。


 体格も、半端ではありません。ニシキヘビで2重跳びしそうなほどの腕の太さで、こんなもん、鉄男さんがデコピンしたら、森光子だったら死にますよ。


 したがってもう、戦うしかありません。帰ってすぐにしなければならない仕事がありますし、そもそも、僕は何も悪いことはしてないのですから。


 そこで今回は、僕の失敗談に学ぶ、「銭湯で隣にヤクザが座ったらどうやって体を洗うべきか?」の考察です。


 僕のお風呂は長いです。


 頭の汚れをお湯で洗い落とす、シャンプーをする、リンスをする、歯を磨く、ヒゲを剃る、洗顔する、体を洗う、の7部構成で、これだけでも40分以上かかります。


 ただ、今回は真横に鉄男さんがいます。鉄男さんだけではなく、付き添い、いや、顔面の恐ろしさからプチボディーガードと呼べるほどの般若がニラみをきかしているため、7部すべてを実行できるかはわかりません。


 でもまあ、なんとかなるやろ……。慎重に運べば迷惑をかけることはないやろ……。


 僕はこう前向きに考えて、慎重にシャワーのレバーをひねったのですが、いきなり水を出してもうたんですよ。


 僕の前の客が、シャワーで最後に水浴びをしていたのです。レバーをお湯に戻すのを忘れており、気づかずに僕がひねったところ、水が噴き出してしまったのです。


 ですが、前もって心の準備をしていたため機転がきき、1秒出たか出ないかのタイミングで水を止めました。戻したと言うよりも、戻せたと言うほうが正しく、めちゃくちゃ早かったですよ、水を止めるのが。「それで飯食っていけよ!」と言われそうなほど、天才的な反射神経でしたから。


 鉄男さんにかかってはいないと思うものの、僕は念のため、こう口にしました。


 「おえー!レバーをお湯に戻しとけよ、前の客!」


 前の客の不手際であることを強調して、自分の正当防衛をアピールしたのです。


 ハア、しょっぱなからこれやったら、先が思いやられるな……。般若の目も、さっきよりつり上がっているように見える……。


 僕は、妙な被害妄想に遭いながらも、レバーをひねってお湯に変えました。手で周到に温度を確認しながら、頭にお湯をかけ始めました。


 とはいえ、鉄男さんにかけてはいけないという意識が働いて、僕の手元はおぼつきません。


 汚れを落とすどころか、頭を軽くかいているだけです。100歳のババアがするマッサージぐらいの力、と思ってもらって差し支えないですから。


 その動きは、シャンプーとて同じです。


 このあと髪にシャンプーを塗り始めたものの、洗うというよりも、すり込んでいます。忍び足ならぬ忍び指で、頭を指でなぞっているだけなのです。


 シャンプーを流すときも、うかつに強くはこすれません。このまま帰って家のシャワーで洗い流す、といった発想すら出てきましたから。


 しかも運悪く、この段階で鉄男さんはヒゲを剃っています。僕も経験があるのでわかるのですが、ヒゲを剃っているときに横からかかる水しぶきは、こちらが思っている以上に迷惑です。手元が狂いたくないため、少しでも水がかかろうものなら、腹が立ってくるのです。


 僕、鉄男兄貴の気持ち、わかりますよ。水しぶきがかかってイヤな気分になるあなた様のお気持ち、自分のことのようにわかりますよ。


 こう考えた、いや、こう自分に言い聞かせた僕は、7割方はシャワーでゆっくりと流しました。残り3割は風呂桶にお湯を溜め、そこに頭を突っ込んで洗い流すという慎重さで、ヘタれぶりを発揮したのです。


 結局、いつもはシャンプーだけで10分以上かかる僕なのに、今回ばかりは、ものの数分で洗い終えました。


 するとシャンプー終わりで、般若が僕に、こう言っているような気がしたのです。


 「おい、お前、今日はリンスはするなよ?」


 般若の眼光は、異常なまでに鋭いです。「死にたくなかったらリンスはあきらめろ!」と怒鳴りつけているような気がしたのです。


 ですが、僕としても、リンスをしないわけにはいきません。


 次の日は、忙しくてお風呂に入っている時間がありません。リンスを避けるわけにはいかず、なにより、これは男としてのプライドです。ヘタレにも、ヘタレなりの意地があるのです。


 そこで、般若の忠告と自分のプライドを、折衷することにしました。普段の7部構成の順序を入れ替え、鉄男さんが頭を洗うタイミングを待って、リンスをすることにしたのです。


 そうすれば鉄男さんにかかっても、それほど迷惑にはなりません。僕は「これは逃げてるわけではない!」と自分に言い聞かせて、リンスはあとまわしにすることにしました。


 ですがこの瞬間、「ヤクザのチンチンがどれほどのものなのか見てみたい!」という衝動に駆られたのです。やばいとは知りつつも、こんな怖そうなヤクザがどのようなチンチンをしているのか、妙に気になりだしたのです。


 僕は結局、その好奇心を抑えることができなくなってしまいました。


 鉄男さんは、ヒゲを剃り終えて歯を磨き始めました。それを見た僕は、鉄男さんにタイミングを合わせるかのように、歯ブラシに歯磨き粉を塗り始めました。そして、歯磨き粉を塗りながら横目でさりげなく股間を確認したところ、鉄男さんの股間は、まさしく鉄男さんでしたよ。


 もうね、馬ですよ、こんなもん。馬のチンチン、もしくは、「少し焦げたアメリカンドック」なみのすさまじい巨根なのです。


 小さく前にならえをしたら、前の奴に確実に当たります。ていうか、小さく前にならえと言われても、そもそも小さくありません。先生は、「鉄男君以外は小さく前にならえ!」と言わざるをえないほどの巨根なのです。


 しかも、固いのが視覚だけで認識できます。「股間界の衣笠祥雄 」と呼べるほどの鉄人っぷりなのです。


 思わず、鉄男さんのチンチンに敬語を使いそうになりました。「寒かったら皮をかぶらせましょうか?」と、生まれて初めて、人のチンチンにコビそうになりましたから。


 そして、顔の怖さ、体の大きさ、般若の凄み、チンチンの偏差値などを総合的に判断した僕は、「この人は本物のヤクザだ!」と確信しました。見かけ倒しのチンピラなどではなく、数々の修羅場をかいくぐってきた本物のヤクザであると。


 否が応にも、背筋はピンとなります。僕は今まで以上に、「何があってもこの人に迷惑をかけてはいけない!」と自分に言い聞かせました。


 僕の歯磨きから、音という概念は消え去りました。


 泡を絶対にかけてはいけない、との猛烈なストッパーがかかり、激しいブラッシングができません。奥歯こそ普通に磨くものの、泡がとびやすい前歯のブラッシングは、歯ブラシを当てているだけなのです。


 ただ悲しいかな、恐怖で体が震えています。当てているだけでも、そこそこ磨けてしまうのです。「新しいタイプの電動歯ブラシ」みたく、僕の命という電池が切れないかぎり、ある程度は磨けてしまうのです。


 磨き終わってうがいを始めたものの、水を吐き出すのも、顔を完全に左に向けて吐きました。左の人に「お前、俺の右足にかけんなよ!」と注意されそうなほど、鉄男さんから距離のある左側のみに吐き出したのです。


 いずれにせよ、7部構成の3つまでは終了しました。


 リンスをあとまわしにしたとはいえ、もう折り返し地点は目前。僕はすべてを前向きに考えて、大きく深呼吸をしました。


 ところがです。


 僕がヒゲを剃るために泡を塗り始めた際、ふと横を見ると、歯を磨き終えた鉄男さんが桃の洗顔フォームを使い始めたのです。


 ヤクザが桃の洗顔フォームですよ?ヤクザが洗顔フォームを使うだけでもおかしいのに、ピーチですよピーチ!?こんなもん、めちゃくちゃおもしろいでしょ!?


 しかも各部分を丹念に洗い、「ヒゲを剃った部分は念入りに!」的なかわいい指さばきです。ピーチの粒を鼻と口のあいだの溝にすり込んでいる鉄男さんが、見ていてたまらないのです。


 加えて、落ちた泡が鉄男さんのチンチンに付着しています。「こんなにすごいチンチンにかわいい桃の粒が!」と考えてたまりません。「衣笠祥雄がピンクのキャミソールを着ている」みたく、そのギャップがおかしくて仕方がないのです。


 気がつくと、僕は笑っていました。声こそ出さなかったものの、顔を左に向けて、肩を揺らしてしまったのです。


 鉄男さんが僕を見ているのが、鏡越しに確認できました。何か言いたそうに僕をニラんでおり、般若も、「われ、何を笑っとんねん!?」と怒鳴っているような気がしたのです。


 僕の心臓がバクバク言い始めました。ここが図書館なら、「すいませんけど、心臓を静かにしてもらえませんかね?」と注意されそうなほど、心臓が「バスコ、やべえよ!今すぐここから逃げろ!」と語りかけてきたのです。


 でもまあ、大丈夫やろ……。鉄男さんとて、顔に泡がついたこの状態で、さすがにキレはしないやろ……。


 こう自分に言い聞かして僕はヒゲを剃り始めたのですが、そうは問屋がおろしませんよ。


 さすがにシャレの通じないヤクザは、肩を揺らして笑う僕に不快感を抱きました。鉄男さん、いや鉄男様が、地獄の底からのような恐ろしく低いお声で、僕にこう、おっしゃられはられらっしゃりおられたのです。


 「なんやねん、お前?」


 僕は、背筋が完全に凍ったのを感じました。


 「いや、なんでもないです!」


 僕はすぐにこう返したものの、顔面から桃の匂いを放ち、目にしみないように薄目で言われたため、それがまたおかしくて半笑いで返してしまったのです。


 「なんやねん、お前!?」


 鉄男様は、声を大きくして続けました。


 僕は恐怖のあまり、固まっています。


 そばに置いてある鉄男さんのカミソリが、ドスに見えてきました。鉄男さんと般若がダブルでニラんでくるため、ヘタな銃を向けられるよりも、はるかに怖いのです。


 とはいえ、すいません、と言えないところがもどかしいです。すいませんと言ってしまうと、鉄男さんを見て笑ったのを認めることになるからです。


 すいませんは、「ヤクザが桃の洗顔フォームを使うのがおかしくて、笑ってしまってすいません!」を意味しています。謝るのではなく、笑ったベクトルをずらし、「あなた様のことを笑ったのではないですよ!」と、事実を否定しなければならないのです。


 僕は、このことを咄嗟に判断しました。そして、笑ったことにもっともらしい理由をつけるために、こう口にしたのです。


 「いやあの、ナベちゃんのおもしろい顔を思い出したんで……」


 僕にナベちゃんなんて、ベタなあだ名の友達はいません。ナベちゃんのおもしろい顔という、「庶民の日常における戯れ感」を出すことで、言い訳にリアリティーを出そうと考えました。「あなた様はお上で、私は底辺の庶民ですよ!」とばかりに、互いの生活環境の乖離を、ナベちゃんという庶民丸出しのあだ名で強調したのです。


 すると、勇気を出して大ボラを吹いた僕に、神様がご褒美をくれたのでしょう。咄嗟の悪知恵が功を奏し、鉄男さんは、チッ、と舌打ちをして僕をニラみつけたものの、それ以上怒ることはなかったのです。


 ハア、助かった……。般若のつり上がった目も、心なしか穏やかに見える……。


 一命をとりとめた僕は、手を震わせながらも、ヒゲ剃りを再開しました。


 とはいえテンぱりすぎて、同じところを何度も剃っています。すでに剃り終わった場所なのに、左の頬を何度も往復させているのです。


 こんな自分を見て、僕は思いました。


 「今後、どんなことがあっても絶対に笑わない!」と。


 黒人に「郷に入っては郷に従えだよ!」と話しかけられても笑わない、内田裕也が、生クリームを落とさないように丁寧にクレープを食べていても絶対に笑わない、と。


 ですが、こう言い聞かせても、先ほどの「ピーチ洗顔フォーム事件」がツボに入っています。時折目に入る鉄男さんのかわいい指さばきが、たまらないのです。


 加えて、左に座るおじいさんの、チンチンの小ささに反して異常にでかいキン○マも、おもしろいです。ヒゲを剃りながら僕の視界に入ってきた、ジャガイモから芽を出した、と言わんばかりのアンバランスな性器が、僕の笑いのツボを刺激してきたのです。


 ですが、笑うわけにはいきません。今度失態を犯せば、確実に殺されるでしょうから。


 「次笑ったら、死ぬものやと思え!」


 僕は不断の決意をしました。髭を剃り終え、洗顔フォームでそそくさと洗顔を始め、やけに丁寧に泡を落とす鉄男さんがおもしろく感じられたものの、なんとか持ちこたえたのです。


 やがて、何ごともなかったかのように、緩やかな時間が流れました。気持ちも落ち着いてきたので、洗顔をするのも、それほど苦には感じられませんでした。


 しかし、ここで僕を悩ませる問題が発生しました。


 キン○マがいなくなって、僕の左隣の席が空いたのです。


 これは、本当に悩みましたよ。


 たしかに、鉄男さんと般若から逃れるためには、席を1つ空けるのが得策でしょう。ですが、このタイミングで移動すると、「ヤクザが理不尽なキレ方をするから逃げた=ややこしい奴に関わらないようにするために移動した」と思われなくもないのです。考えすぎかもしれませんが、鉄男さんを一度怒らせたことを考えると、キン○マ席に移動するのは、必ずしも正解とは言えないんですね。


 なにより、「おい、お前、なんで向こうに行くねん?」とピーチ臭い顔面で訊かれた日には、僕は再び笑いかねないのです。


 洗顔しながら、あらゆる事態を想定して考えたのですが、結局、僕はこの場に残ることにしました。


 とはいえ、一刻も早くこの場を離れたいという気持ちに変わりはありません。僕は、すべての作業を今までの倍のスピードで終えよう、と考えました。


 残りの洗顔、リンス、体洗いの3つを倍のスピードで終えれば、その分だけリスクは減ります。僕は、少しでも速く洗顔を切り上げようと、桶にお湯を溜めて顔の泡を落とし始めました。


 すると、洗顔を終えた鉄男さんがシャンプーを始めたので、僕はすぐにリンスをすることにしました。僕は肌の手入れにはうるさいです。いつもは洗い落とすだけで10分近くもかけるのに、今回ばかりは2分足らずで洗い終えました。


 ところがです。神は僕に再び、試練を与えたのです。


 僕が頭にリンスを塗り始めるやいなや、シャンプーを終えた鉄男さんが、小さな袋を取り出してリンスを始めたんですよ!


 ヤクザがリンスて!こんなもん、めちゃくちゃおもしろいでしょ?もう一度言わしてください、ヤクザがリンスですよ、リンス!?


 思わず、ツボにロックした錠前がはずれかかったのですが、ここで、僕の心の中の天使が語りかけてきました。


 笑ってはいけません、バスコさん。ヤクザがリンスをしたぐらいで笑ってはいけません。あなたは、まだ死にたくないんでしょ?やり残したことがたくさんあるんでしょ?


 ヤクザが、あなたと同じリンスを使っていたとしても、笑ってはいけません。たとえそのリンスが、髪の毛を保湿しサラサラにすると言われている、資生堂の水分ヘアパックだったとしても笑ってはいけません。


 その小さな袋が試供品だったとしても、笑ってはいけません。ヤクザが街で配られる試供品を手に取っていたとしても、笑ってはいけません。ヤクザがそれを大切に保管し、「これ、今度の銭湯で使っちゃおう!」と考えたとしても笑ってはいけません。


 バスコさんは考えすぎなのです!そんなことは何もおもしろくなく、あなたは笑いの感覚がずれているのです!


 と、天使がツボをガードしてくれたのです。


 ただ、天使がいれば悪魔もいます。もう一方の悪魔が、僕にこう語りかけてきたのです。


 バスコ、ヤクザがリンスをするんだぜ?頭をいい匂いにしようとするヤクザだぜ?「エチケットヤクザ」なんてこの世にいるか?


 こいつ、街中で試供品をもらってるぜ?2つあることを考えると、「すいません、もう1個くーださーい!」と、自分からお願いしたかもしれないぜ?


 しかもこいつ、丸坊主だぜ?丸坊主の奴が、シャンプーのあとにリンスをするんだぜ?


 なかでも、これが1番のツボなんだけど、水分ヘアパックは、髪の毛をサラサラにするんだぜ?丸坊主で髪の毛をサラサラにしようとする奴なんているか?「保湿ヤクザ」なんてこの世にいるか?


 おもしれえよ、このヤクザ!社会のルールは無視するくせに、髪の毛のルールは守ってやがるよ!


 こんなもん、笑わない奴はいねえよ!笑えよ、バスコ!笑っちまえよ!笑って楽になれよ!!!


 「あかん、ほんまにナベちゃんの顔、やばいわ!」


 結局、僕は悪魔に負けてしまったのです。


 気がつくと、こう言って肩を揺らしていました。そして、風呂道具を袋にしまい、リンスを落とさないまま、鉄男さんから遠く離れた湯船に浸かっていたのです。


 恐怖と爆笑が同時に迫ってきたため、体がおかしくなりました。事実、笑いをこらえるあまりにノドがおかしくなり、急にシャックリが出始めたのです。


 そしてこのまま湯船に浸かり、この場所から1番近い席で洗う、という見せ方で、自分の行動に整合性をつけようと考えました。


 1番近い席なら、先ほどと場所が変わっても、不自然ではありません。鉄男さんに気づかれても、おかしく思われないでしょうから。


 とはいえ、今すぐに移動すると、逃げたのがバレバレです。僕は、しばらくのあいだは湯船に浸かることにし、「ああ、いい湯や……」とばかりにリラックス感を演出していたのですが、僕と目が合う向かい側の浴槽に鉄男さんが浸かってきたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、こんなもん!


 たしかに2つある浴槽はすいていたので、どこに浸かってもおかしくはないですよ!ただ鉄男さんは、僕が見える場所に浸かったとしか思えないのです!浴槽の造りからして普通は横に浸かるのに、造りを無視して縦に浸かり、僕が見えるように体を向けているのです!


 しかも、完全に僕をニラんでるんですよ!先ほどは薄目だったものの、今度は北斗の拳のジャコウを殺すときのファルコなみの視線でニラみつけているのです!


 またこの目が、めちゃくちゃ鋭いんですよ!ブラックジャックでも手の施しようがないレベルで一直線なのです!ぱっちり感など皆無、亀田の親父ですら泣き出しそうなほどに獰猛で、こんなもん、瞳ではなくて「人見」ですよ!


 こんな目にニラまれたら、あの夜回り先生とて、「この人の言う通りにしなさい!じゃあ!」と、あきらめて帰りますよ!この視線があれば、ビン・ラディンなんてすぐに出てきますし、この視線で募金をすれば、ザイールの国家予算ぐらいならすぐに集まりますよ!


 僕の心臓が止まりました。水風呂に浸かっているような錯覚に陥るほど、身も心も凍りついたのです。


 とはいえ同時に、考えすぎかな、とも思いました。ヘタれ特有の被害妄想なだけかもしれないのです、いやこう思いたいのです、こう思って自分を納得させたいのです。なにしろ、「しかし、きれいなお湯やな……」と心の声を口にして、「あなたのことをまったく意識していませんよ感」を出さなければならないほど、人見が放つウイルスに僕は犯されていたのです。


 人見に耐えられなくなった僕は、そろそろ1番近い席に移動することにしました。


 時間がたったので、今移動しても不自然ではありません。なにより、この距離でこれ以上ウイルスを放たれたら、本当に体を壊しそうな気がしたのです。


 ところが、いざ移動しようとしたものの、その席にほかの奴が座ってるんですよ!


 どけよ、ジジイ!そりゃな、たしかに今の俺はお前と余命は互角や!いやヘタしたら、お前のほうが寿命があるかもしらん!ただ、頼むからどいてくれ!1万円払うからどいてくれ!


 気が弱そうなおじいさんを、僕はニラみつけました。


 ですが、僕の瞳ごときで、どいてくれるはずもありません。人見じゃないと無理ですし、なにより、追いつめられた僕の心のうちなど、このおじいさんは知る由もないのです。


 結局、僕はこの席をあきらめて、2番目に近い席に移動することを余儀なくされました。


 しかし、その席に行くためには、鉄男さんを横切らなければなりません。浴槽のタイルから乗り出した般若の真横を通らなければならず、僕にとっては、ある種のチキンレースなのです。


 とはいえ、仕方がありません。ここは勇気を出して横切るしかありません。なにしろ僕の頭には、リンスがつきっぱなしなのですから。


 僕は、「がんばれ、バスコ!お前ならできる!」と自らを鼓舞しました。そして一歩、また一歩と鉄男さんとの距離を詰めたのですが、般若を横切ろうとしたまさにその瞬間、僕の耳に聞き覚えのある、地獄の底からの声が聞こえてきたのです。



 「おい?」



 それは紛れもなく鉄男様で、ドスがおききになった、恐ろしく低いお声でした。


 そのお声が耳に届いた僕は、席に移動するのをやめました。


 運よく、出口はその席の延長線上にあります。体を洗うために湯船を出たのではなく、帰るために出た、という見せ方で聞こえていないフリをして、そのまま風呂場をあとにしたのです。


 ただ、小走りでロッカーに向かったものの、テンぱりすぎて鍵穴に鍵が入りません。あまりの切迫感に、「開けんかいや!」とロッカーを破壊するぐらいの勢いなのです。


 しかも、服を着るスピードの速いこと速いこと。体もビショビショのまま、信じがたいスピードで服を着たのです。


 幸いにも、その後、鉄男さんに絡まれることはありませんでした。そそくさと服を着た僕を、鉄男さんが追いかけてくることはなかったのです。


 ですが助かったとはいえ、鉄男さんがどうしているのか、気になりました。どこかMっ気があるのか、もう一度鉄男さんを見たい、という衝動に駆られたのです。


 そこで怖いとは思いつつも、風呂場のドア付近にある体重計に乗るフリをして、ガラス越しに鉄男さんを見ました。リュックを背負い、服を着て体重計に乗るというありえないことをしながら、鉄男さんのほうに視線を投げたのです。


 すると背中越しに、僕を散々苦しめた悪しき般若と、最後に目が合いました。


 彼女、僕にこう言ってましたよ。


 「われ、危なかったな。まあ、助かった玉(命)、大事にせえよ」


 この般若の顔を、僕は一生忘れません。きき入れ墨というゲームがあれば、「これ、鉄男さん!」と即答できるぐらい、目に焼きついていますから。


 「目に般若の入れ墨をされる」


 これは、ヤクザを見て笑った僕に、任侠の神様が与えた罰だと解釈しております。


 鉄男さんの「おい?」の続きは何だったのでしょうか?あのまま会話をしていれば、僕は今ごろ、どうなっていたのでしょうか?


 それは知る由もありません。


 ただ、1つだけはっきりしていること。


 それは、僕が2度とこの銭湯には行かないということです……。



 「ヤクザに隣に座られた時点で負けだ!」


 今回の経験を通して、僕はこう結論づけます。


 隣に座られた時点で、洗いようがないのです。ヤクザの動きに注意するという初動時のリサーチが、なにより肝心なのです。


 泡がかからないように洗うという方法も、あるにはあります。空いていれば、席を移動するのも手でしょう。


 ただ、どの方法をとっても、絡まれる可能性が0だとは言えないんですね。


 とりわけ、桃の洗顔フォームを使い、試供品のリンスを使うヤクザに隣に座られたら、笑いをこらえることなど不可能です。万が一、キティちゃんのスポンジを使うヤクザ、「お風呂を出たら、ミックスのソフトクリームを食べよう!」と独り言を言うヤクザなどにでも出くわしたら、大笑いしてしまうでしょう。


 したがって、ヤクザの動きに注意するのはもちろんのこと、とんでもないヤクザがいる場合は、狭くとも、あえて人と人とのあいだの席に座るべきなのです。そうすれば隣に座られずに済んで、迷惑をかけることもありません。


 そして、万が一隣に座られたときは、逃げるというのも、卑下されたものではありません。今思えば、隣に座られた時点で逃げればよかったと、僕も後悔しているぐらいですから。


 みなさまも今後、僕の二の舞にならないように、お気をつけください。銭湯では、1にヤクザ、2にヤクザと肝に銘じ、くれぐれも隣に座られないようにご注意ください。


 そして最後に、「バイクのヘルメットにリンスが付着すると、とんでもないことになる」という豆知識をご紹介して、震えたペンを置かせていただきマッスル。


 ああ、こんなおもしろくないことを言ったら、また鉄男さんに怒られるかな……。心なしか、目の前の般若がニラんでいるような気がする……。


銭湯で隣にヤクザが座ったらどうやって体を洗うべきか?の考察(携帯読者用)

※2007年・5月23日の記事を再編集

 昨日、地元の商店街の銭湯に行きました。

 この銭湯に行くのは、初めてです。僕には行きつけのスーパー銭湯が別にあるのですが、そこが改築工事をします。僕の母親に教えてもらい、地元の大衆銭湯に行くことにしたのです。

 この銭湯は、お湯がキレイです。

 井戸水をろ過してから沸騰させるらしく、塩ラーメンのスープのように澄み切っています。お風呂場自体はこじんまりしているものの、お湯の清潔感に魅せられた僕は、今度からはここに来ようと、スーパー銭湯が目ではなくなりました。

 ところが体を洗おうとイスに座った瞬間、ほとんど同じタイミングで僕の隣に、入れ墨をしたヤクザが座ってきたのです。

 僕は、お湯に感激しすぎていました。大衆銭湯での最注意事項である「ヤクザの動き」に気が行ってなかったのです。

 この銭湯は、席の間隔が狭いです。1つひとつのスペースがほとんどなく、あくびで腕を上げただけで、傷害罪に問われそうなほどなのです。

 これは困りましたよ。

 ヤクザの真横で洗わなければならず、このヤクザの入れ墨がまた、えげつないのです。とんでもない顔をした般若で、「少しでもアタイに泡をかけたら、このキバで首をかっ切るからな!」と叫んでいるかのようなのです。

 入れ墨は、ヤクザの左肩にあります。左に座った僕は、真横でニラまれているような気がするのです。

 もちろん、席を移動すればいいだけの話でしょう。そうすれば、石立鉄男に似たこのヤクザ(以下、鉄男さん)にキレられることも、般若に首をかっ切られることもありません。

 ですが、移動したら、怖くて逃げたのがバレバレです。さすがの僕もこんな情けないことはできず、「おい兄ちゃん、わしが何か悪いことしたか?」なんて訊かれたら、コメントのしようがないのです。

 狭いので1つ席を空けるという見せ方も、隣の席が空いていないため、できません。

 ほかにも、今は頭だけ洗いたかった、髭だけ剃りたかったという見せ方で、一度浴槽に戻って時間を潰し、鉄男さんがいなくなってから洗うという方法も、あるにはあります。

 ですが、鉄男さんが体を洗っていなくなるという保証はありません。僕のようにお湯に感化されて、般若と一緒に戯れるなんてことも、ない話ではないでしょう。そして、しびれを切らした僕が再び洗い始めれば、席を立った行動とに辻褄が合わなくなり、「おい、お前、なんでさっき席を立ってん?」と訊かれる可能性があるのです。

 たしかに、考えすぎでしょう。

 ただ、こんなことを考えずにはいられないほど、鏡越しに見える鉄男さんの顔が怖いのです。「わしは趣味で人を殺してます!」と言うかのごとく、丸坊主で日焼けした顔がめちゃくちゃ怖いのです。

 体格も、半端ではありません。ニシキヘビで2重跳びしそうなほどの腕の太さで、こんなもん、鉄男さんがデコピンしたら、森光子だったら死にますよ。

 したがってもう、戦うしかありません。帰ってすぐにしなければならない仕事がありますし、そもそも、僕は何も悪いことはしてないのですから。

 そこで今回は、僕の失敗談に学ぶ、「銭湯で隣にヤクザが座ったらどうやって体を洗うべきか?」の考察です。

 僕のお風呂は長いです。

 頭の汚れをお湯で洗い落とす、シャンプーをする、リンスをする、歯を磨く、ヒゲを剃る、洗顔する、体を洗う、の7部構成で、これだけでも40分以上かかります。

 ただ、今回は真横に鉄男さんがいます。鉄男さんだけではなく、付き添い、いや、顔面の恐ろしさからプチボディーガードと呼べるほどの般若がニラみをきかしているため、7部すべてを実行できるかはわかりません。

 でもまあ、なんとかなるやろ……。慎重に運べば迷惑をかけることはないやろ……。

 僕はこう前向きに考えて、慎重にシャワーのレバーをひねったのですが、いきなり水を出してもうたんですよ。

 僕の前の客が、シャワーで最後に水浴びをしていたのです。レバーをお湯に戻すのを忘れており、気づかずに僕がひねったところ、水が噴き出してしまったのです。

 ですが、前もって心の準備をしていたため機転がきき、1秒出たか出ないかのタイミングで水を止めました。戻したと言うよりも、戻せたと言うほうが正しく、めちゃくちゃ早かったですよ、水を止めるのが。「それで飯食っていけよ!」と言われそうなほど、天才的な反射神経でしたから。

 鉄男さんにかかってはいないと思うものの、僕は念のため、こう口にしました。

 「おえー!レバーをお湯に戻しとけよ、前の客!」

 前の客の不手際であることを強調して、自分の正当防衛をアピールしたのです。

 ハア、しょっぱなからこれやったら、先が思いやられるな……。般若の目も、さっきよりつり上がっているように見える……。

 僕は、妙な被害妄想に遭いながらも、レバーをひねってお湯に変えました。手で周到に温度を確認しながら、頭にお湯をかけ始めました。

 とはいえ、鉄男さんにかけてはいけないという意識が働いて、僕の手元はおぼつきません。

 汚れを落とすどころか、頭を軽くかいているだけです。100歳のババアがするマッサージぐらいの力、と思ってもらって差し支えないですから。

 その動きは、シャンプーとて同じです。

 このあと髪にシャンプーを塗り始めたものの、洗うというよりも、すり込んでいます。忍び足ならぬ忍び指で、頭を指でなぞっているだけなのです。

 シャンプーを流すときも、うかつに強くはこすれません。このまま帰って家のシャワーで洗い流す、といった発想すら出てきましたから。

 しかも運悪く、この段階で鉄男さんはヒゲを剃っています。僕も経験があるのでわかるのですが、ヒゲを剃っているときに横からかかる水しぶきは、こちらが思っている以上に迷惑です。手元が狂いたくないため、少しでも水がかかろうものなら、腹が立ってくるのです。

 僕、鉄男兄貴の気持ち、わかりますよ。水しぶきがかかってイヤな気分になるあなた様のお気持ち、自分のことのようにわかりますよ。

 こう考えた、いや、こう自分に言い聞かせた僕は、7割方はシャワーでゆっくりと流しました。残り3割は風呂桶にお湯を溜め、そこに頭を突っ込んで洗い流すという慎重さで、ヘタれぶりを発揮したのです。

 結局、いつもはシャンプーだけで10分以上かかる僕なのに、今回ばかりは、ものの数分で洗い終えました。

 するとシャンプー終わりで、般若が僕に、こう言っているような気がしたのです。

 「おい、お前、今日はリンスはするなよ?」

 般若の眼光は、異常なまでに鋭いです。「死にたくなかったらリンスはあきらめろ!」と怒鳴りつけているような気がしたのです。

 ですが、僕としても、リンスをしないわけにはいきません。

 次の日は、忙しくてお風呂に入っている時間がありません。リンスを避けるわけにはいかず、なにより、これは男としてのプライドです。ヘタレにも、ヘタレなりの意地があるのです。

 そこで、般若の忠告と自分のプライドを、折衷することにしました。普段の7部構成の順序を入れ替え、鉄男さんが頭を洗うタイミングを待って、リンスをすることにしたのです。

 そうすれば鉄男さんにかかっても、それほど迷惑にはなりません。僕は「これは逃げてるわけではない!」と自分に言い聞かせて、リンスはあとまわしにすることにしました。

 ですがこの瞬間、「ヤクザのチンチンがどれほどのものなのか見てみたい!」という衝動に駆られたのです。やばいとは知りつつも、こんな怖そうなヤクザがどのようなチンチンをしているのか、妙に気になりだしたのです。

 僕は結局、その好奇心を抑えることができなくなってしまいました。

 鉄男さんは、ヒゲを剃り終えて歯を磨き始めました。それを見た僕は、鉄男さんにタイミングを合わせるかのように、歯ブラシに歯磨き粉を塗り始めました。そして、歯磨き粉を塗りながら横目でさりげなく股間を確認したところ、鉄男さんの股間は、まさしく鉄男さんでしたよ。

 もうね、馬ですよ、こんなもん。馬のチンチン、もしくは、「少し焦げたアメリカンドック」なみのすさまじい巨根なのです。

 小さく前にならえをしたら、前の奴に確実に当たります。ていうか、小さく前にならえと言われても、そもそも小さくありません。先生は、「鉄男君以外は小さく前にならえ!」と言わざるをえないほどの巨根なのです。

 しかも、固いのが視覚だけで認識できます。「股間界の衣笠祥雄 」と呼べるほどの鉄人っぷりなのです。

 思わず、鉄男さんのチンチンに敬語を使いそうになりました。「寒かったら皮をかぶらせましょうか?」と、生まれて初めて、人のチンチンにコビそうになりましたから。

 そして、顔の怖さ、体の大きさ、般若の凄み、チンチンの偏差値などを総合的に判断した僕は、「この人は本物のヤクザだ!」と確信しました。見かけ倒しのチンピラなどではなく、数々の修羅場をかいくぐってきた本物のヤクザであると。

 否が応にも、背筋はピンとなります。僕は今まで以上に、「何があってもこの人に迷惑をかけてはいけない!」と自分に言い聞かせました。

 僕の歯磨きから、音という概念は消え去りました。

 泡を絶対にかけてはいけない、との猛烈なストッパーがかかり、激しいブラッシングができません。奥歯こそ普通に磨くものの、泡がとびやすい前歯のブラッシングは、歯ブラシを当てているだけなのです。

 ただ悲しいかな、恐怖で体が震えています。当てているだけでも、そこそこ磨けてしまうのです。「新しいタイプの電動歯ブラシ」みたく、僕の命という電池が切れないかぎり、ある程度は磨けてしまうのです。

 磨き終わってうがいを始めたものの、水を吐き出すのも、顔を完全に左に向けて吐きました。左の人に「お前、俺の右足にかけんなよ!」と注意されそうなほど、鉄男さんから距離のある左側のみに吐き出したのです。

 いずれにせよ、7部構成の3つまでは終了しました。

 リンスをあとまわしにしたとはいえ、もう折り返し地点は目前。僕はすべてを前向きに考えて、大きく深呼吸をしました。

 ところがです。

 僕がヒゲを剃るために泡を塗り始めた際、ふと横を見ると、歯を磨き終えた鉄男さんが桃の洗顔フォームを使い始めたのです。

 ヤクザが桃の洗顔フォームですよ?ヤクザが洗顔フォームを使うだけでもおかしいのに、ピーチですよピーチ!?こんなもん、めちゃくちゃおもしろいでしょ!?

 しかも各部分を丹念に洗い、「ヒゲを剃った部分は念入りに!」的なかわいい指さばきです。ピーチの粒を鼻と口のあいだの溝にすり込んでいる鉄男さんが、見ていてたまらないのです。

 加えて、落ちた泡が鉄男さんのチンチンに付着しています。「こんなにすごいチンチンにかわいい桃の粒が!」と考えてたまりません。「衣笠祥雄がピンクのキャミソールを着ている」みたく、そのギャップがおかしくて仕方がないのです。

 気がつくと、僕は笑っていました。声こそ出さなかったものの、顔を左に向けて、肩を揺らしてしまったのです。

 鉄男さんが僕を見ているのが、鏡越しに確認できました。何か言いたそうに僕をニラんでおり、般若も、「われ、何を笑っとんねん!?」と怒鳴っているような気がしたのです。

 僕の心臓がバクバク言い始めました。ここが図書館なら、「すいませんけど、心臓を静かにしてもらえませんかね?」と注意されそうなほど、心臓が「バスコ、やべえよ!今すぐここから逃げろ!」と語りかけてきたのです。

 でもまあ、大丈夫やろ……。鉄男さんとて、顔に泡がついたこの状態で、さすがにキレはしないやろ……。

 こう自分に言い聞かして僕はヒゲを剃り始めたのですが、そうは問屋がおろしませんよ。

 さすがにシャレの通じないヤクザは、肩を揺らして笑う僕に不快感を抱きました。鉄男さん、いや鉄男様が、地獄の底からのような恐ろしく低いお声で、僕にこう、おっしゃられはられらっしゃりおられたのです。

 「なんやねん、お前?」

 僕は、背筋が完全に凍ったのを感じました。

 「いや、なんでもないです!」

 僕はすぐにこう返したものの、顔面から桃の匂いを放ち、目にしみないように薄目で言われたため、それがまたおかしくて半笑いで返してしまったのです。

 「なんやねん、お前!?」

 鉄男様は、声を大きくして続けました。

 僕は恐怖のあまり、固まっています。

 そばに置いてある鉄男さんのカミソリが、ドスに見えてきました。鉄男さんと般若がダブルでニラんでくるため、ヘタな銃を向けられるよりも、はるかに怖いのです。

 とはいえ、すいません、と言えないところがもどかしいです。すいませんと言ってしまうと、鉄男さんを見て笑ったのを認めることになるからです。

 すいませんは、「ヤクザが桃の洗顔フォームを使うのがおかしくて、笑ってしまってすいません!」を意味しています。謝るのではなく、笑ったベクトルをずらし、「あなた様のことを笑ったのではないですよ!」と、事実を否定しなければならないのです。

 僕は、このことを咄嗟に判断しました。そして、笑ったことにもっともらしい理由をつけるために、こう口にしたのです。

 「いやあの、ナベちゃんのおもしろい顔を思い出したんで……」

 僕にナベちゃんなんて、ベタなあだ名の友達はいません。ナベちゃんのおもしろい顔という、「庶民の日常における戯れ感」を出すことで、言い訳にリアリティーを出そうと考えました。「あなた様はお上で、私は底辺の庶民ですよ!」とばかりに、互いの生活環境の乖離を、ナベちゃんという庶民丸出しのあだ名で強調したのです。

 すると、勇気を出して大ボラを吹いた僕に、神様がご褒美をくれたのでしょう。咄嗟の悪知恵が功を奏し、鉄男さんは、チッ、と舌打ちをして僕をニラみつけたものの、それ以上怒ることはなかったのです。

 ハア、助かった……。般若のつり上がった目も、心なしか穏やかに見える……。

 一命をとりとめた僕は、手を震わせながらも、ヒゲ剃りを再開しました。

 とはいえテンぱりすぎて、同じところを何度も剃っています。すでに剃り終わった場所なのに、左の頬を何度も往復させているのです。

 こんな自分を見て、僕は思いました。

 「今後、どんなことがあっても絶対に笑わない!」と。

 黒人に「郷に入っては郷に従えだよ!」と話しかけられても笑わない、内田裕也が、生クリームを落とさないように丁寧にクレープを食べていても絶対に笑わない、と。

 ですが、こう言い聞かせても、先ほどの「ピーチ洗顔フォーム事件」がツボに入っています。時折目に入る鉄男さんのかわいい指さばきが、たまらないのです。

 加えて、左に座るおじいさんの、チンチンの小ささに反して異常にでかいキン○マも、おもしろいです。ヒゲを剃りながら僕の視界に入ってきた、ジャガイモから芽を出した、と言わんばかりのアンバランスな性器が、僕の笑いのツボを刺激してきたのです。

 ですが、笑うわけにはいきません。今度失態を犯せば、確実に殺されるでしょうから。

 「次笑ったら、死ぬものやと思え!」

 僕は不断の決意をしました。髭を剃り終え、洗顔フォームでそそくさと洗顔を始め、やけに丁寧に泡を落とす鉄男さんがおもしろく感じられたものの、なんとか持ちこたえたのです。

 やがて、何ごともなかったかのように、緩やかな時間が流れました。気持ちも落ち着いてきたので、洗顔をするのも、それほど苦には感じられませんでした。

 しかし、ここで僕を悩ませる問題が発生しました。

 キン○マがいなくなって、僕の左隣の席が空いたのです。

 これは、本当に悩みましたよ。

 たしかに、鉄男さんと般若から逃れるためには、席を1つ空けるのが得策でしょう。ですが、このタイミングで移動すると、「ヤクザが理不尽なキレ方をするから逃げた=ややこしい奴に関わらないようにするために移動した」と思われなくもないのです。考えすぎかもしれませんが、鉄男さんを一度怒らせたことを考えると、キン○マ席に移動するのは、必ずしも正解とは言えないんですね。

 なにより、「おい、お前、なんで向こうに行くねん?」とピーチ臭い顔面で訊かれた日には、僕は再び笑いかねないのです。

 洗顔しながら、あらゆる事態を想定して考えたのですが、結局、僕はこの場に残ることにしました。

 とはいえ、一刻も早くこの場を離れたいという気持ちに変わりはありません。僕は、すべての作業を今までの倍のスピードで終えよう、と考えました。

 残りの洗顔、リンス、体洗いの3つを倍のスピードで終えれば、その分だけリスクは減ります。僕は、少しでも速く洗顔を切り上げようと、桶にお湯を溜めて顔の泡を落とし始めました。

 すると、洗顔を終えた鉄男さんがシャンプーを始めたので、僕はすぐにリンスをすることにしました。僕は肌の手入れにはうるさいです。いつもは洗い落とすだけで10分近くもかけるのに、今回ばかりは2分足らずで洗い終えました。

 ところがです。神は僕に再び、試練を与えたのです。

 僕が頭にリンスを塗り始めるやいなや、シャンプーを終えた鉄男さんが、小さな袋を取り出してリンスを始めたんですよ!

 ヤクザがリンスて!こんなもん、めちゃくちゃおもしろいでしょ?もう一度言わしてください、ヤクザがリンスですよ、リンス!?

 思わず、ツボにロックした錠前がはずれかかったのですが、ここで、僕の心の中の天使が語りかけてきました。

 笑ってはいけません、バスコさん。ヤクザがリンスをしたぐらいで笑ってはいけません。あなたは、まだ死にたくないんでしょ?やり残したことがたくさんあるんでしょ?

 ヤクザが、あなたと同じリンスを使っていたとしても、笑ってはいけません。たとえそのリンスが、髪の毛を保湿しサラサラにすると言われている、資生堂の水分ヘアパックだったとしても笑ってはいけません。

 その小さな袋が試供品だったとしても、笑ってはいけません。ヤクザが街で配られる試供品を手に取っていたとしても、笑ってはいけません。ヤクザがそれを大切に保管し、「これ、今度の銭湯で使っちゃおう!」と考えたとしても笑ってはいけません。

 バスコさんは考えすぎなのです!そんなことは何もおもしろくなく、あなたは笑いの感覚がずれているのです!

 と、天使がツボをガードしてくれたのです。

 ただ、天使がいれば悪魔もいます。もう一方の悪魔が、僕にこう語りかけてきたのです。

 バスコ、ヤクザがリンスをするんだぜ?頭をいい匂いにしようとするヤクザだぜ?「エチケットヤクザ」なんてこの世にいるか?

 こいつ、街中で試供品をもらってるぜ?2つあることを考えると、「すいません、もう1個くーださーい!」と、自分からお願いしたかもしれないぜ?

 しかもこいつ、丸坊主だぜ?丸坊主の奴が、シャンプーのあとにリンスをするんだぜ?

 なかでも、これが1番のツボなんだけど、水分ヘアパックは、髪の毛をサラサラにするんだぜ?丸坊主で髪の毛をサラサラにしようとする奴なんているか?「保湿ヤクザ」なんてこの世にいるか?

 おもしれえよ、このヤクザ!社会のルールは無視するくせに、髪の毛のルールは守ってやがるよ!

 こんなもん、笑わない奴はいねえよ!笑えよ、バスコ!笑っちまえよ!笑って楽になれよ!!!

 「あかん、ほんまにナベちゃんの顔、やばいわ!」

 結局、僕は悪魔に負けてしまったのです。

 気がつくと、こう言って肩を揺らしていました。そして、風呂道具を袋にしまい、リンスを落とさないまま、鉄男さんから遠く離れた湯船に浸かっていたのです。

 恐怖と爆笑が同時に迫ってきたため、体がおかしくなりました。事実、笑いをこらえるあまりにノドがおかしくなり、急にシャックリが出始めたのです。

 そしてこのまま湯船に浸かり、この場所から1番近い席で洗う、という見せ方で、自分の行動に整合性をつけようと考えました。

 1番近い席なら、先ほどと場所が変わっても、不自然ではありません。鉄男さんに気づかれても、おかしく思われないでしょうから。

 とはいえ、今すぐに移動すると、逃げたのがバレバレです。僕は、しばらくのあいだは湯船に浸かることにし、「ああ、いい湯や……」とばかりにリラックス感を演出していたのですが、僕と目が合う向かい側の浴槽に鉄男さんが浸かってきたんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、こんなもん!

 たしかに2つある浴槽はすいていたので、どこに浸かってもおかしくはないですよ!ただ鉄男さんは、僕が見える場所に浸かったとしか思えないのです!浴槽の造りからして普通は横に浸かるのに、造りを無視して縦に浸かり、僕が見えるように体を向けているのです!

 しかも、完全に僕をニラんでるんですよ!先ほどは薄目だったものの、今度は北斗の拳のジャコウを殺すときのファルコなみの視線でニラみつけているのです!

 またこの目が、めちゃくちゃ鋭いんですよ!ブラックジャックでも手の施しようがないレベルで一直線なのです!ぱっちり感など皆無、亀田の親父ですら泣き出しそうなほどに獰猛で、こんなもん、瞳ではなくて「人見」ですよ!

 こんな目にニラまれたら、あの夜回り先生とて、「この人の言う通りにしなさい!じゃあ!」と、あきらめて帰りますよ!この視線があれば、ビン・ラディンなんてすぐに出てきますし、この視線で募金をすれば、ザイールの国家予算ぐらいならすぐに集まりますよ!

 僕の心臓が止まりました。水風呂に浸かっているような錯覚に陥るほど、身も心も凍りついたのです。

 とはいえ同時に、考えすぎかな、とも思いました。ヘタれ特有の被害妄想なだけかもしれないのです、いやこう思いたいのです、こう思って自分を納得させたいのです。なにしろ、「しかし、きれいなお湯やな……」と心の声を口にして、「あなたのことをまったく意識していませんよ感」を出さなければならないほど、人見が放つウイルスに僕は犯されていたのです。

 人見に耐えられなくなった僕は、そろそろ1番近い席に移動することにしました。

 時間がたったので、今移動しても不自然ではありません。なにより、この距離でこれ以上ウイルスを放たれたら、本当に体を壊しそうな気がしたのです。

 ところが、いざ移動しようとしたものの、その席にほかの奴が座ってるんですよ!

 どけよ、ジジイ!そりゃな、たしかに今の俺はお前と余命は互角や!いやヘタしたら、お前のほうが寿命があるかもしらん!ただ、頼むからどいてくれ!1万円払うからどいてくれ!

 気が弱そうなおじいさんを、僕はニラみつけました。

 ですが、僕の瞳ごときで、どいてくれるはずもありません。人見じゃないと無理ですし、なにより、追いつめられた僕の心のうちなど、このおじいさんは知る由もないのです。

 結局、僕はこの席をあきらめて、2番目に近い席に移動することを余儀なくされました。

 しかし、その席に行くためには、鉄男さんを横切らなければなりません。浴槽のタイルから乗り出した般若の真横を通らなければならず、僕にとっては、ある種のチキンレースなのです。

 とはいえ、仕方がありません。ここは勇気を出して横切るしかありません。なにしろ僕の頭には、リンスがつきっぱなしなのですから。

 僕は、「がんばれ、バスコ!お前ならできる!」と自らを鼓舞しました。そして一歩、また一歩と鉄男さんとの距離を詰めたのですが、般若を横切ろうとしたまさにその瞬間、僕の耳に聞き覚えのある、地獄の底からの声が聞こえてきたのです。


 「おい?」


 それは紛れもなく鉄男様で、ドスがおききになった、恐ろしく低いお声でした。

 そのお声が耳に届いた僕は、席に移動するのをやめました。

 運よく、出口はその席の延長線上にあります。体を洗うために湯船を出たのではなく、帰るために出た、という見せ方で聞こえていないフリをして、そのまま風呂場をあとにしたのです。

 ただ、小走りでロッカーに向かったものの、テンぱりすぎて鍵穴に鍵が入りません。あまりの切迫感に、「開けんかいや!」とロッカーを破壊するぐらいの勢いなのです。

 しかも、服を着るスピードの速いこと速いこと。体もビショビショのまま、信じがたいスピードで服を着たのです。

 幸いにも、その後、鉄男さんに絡まれることはありませんでした。そそくさと服を着た僕を、鉄男さんが追いかけてくることはなかったのです。

 ですが助かったとはいえ、鉄男さんがどうしているのか、気になりました。どこかMっ気があるのか、もう一度鉄男さんを見たい、という衝動に駆られたのです。

 そこで怖いとは思いつつも、風呂場のドア付近にある体重計に乗るフリをして、ガラス越しに鉄男さんを見ました。リュックを背負い、服を着て体重計に乗るというありえないことをしながら、鉄男さんのほうに視線を投げたのです。

 すると背中越しに、僕を散々苦しめた悪しき般若と、最後に目が合いました。

 彼女、僕にこう言ってましたよ。

 「われ、危なかったな。まあ、助かった玉(命)、大事にせえよ」

 この般若の顔を、僕は一生忘れません。きき入れ墨というゲームがあれば、「これ、鉄男さん!」と即答できるぐらい、目に焼きついていますから。

 「目に般若の入れ墨をされる」

 これは、ヤクザを見て笑った僕に、任侠の神様が与えた罰だと解釈しております。

 鉄男さんの「おい?」の続きは何だったのでしょうか?あのまま会話をしていれば、僕は今ごろ、どうなっていたのでしょうか?

 それは知る由もありません。

 ただ、1つだけはっきりしていること。

 それは、僕が2度とこの銭湯には行かないということです……。


 「ヤクザに隣に座られた時点で負けだ!」

 今回の経験を通して、僕はこう結論づけます。

 隣に座られた時点で、洗いようがないのです。ヤクザの動きに注意するという初動時のリサーチが、なにより肝心なのです。

 泡がかからないように洗うという方法も、あるにはあります。空いていれば、席を移動するのも手でしょう。

 ただ、どの方法をとっても、絡まれる可能性が0だとは言えないんですね。

 とりわけ、桃の洗顔フォームを使い、試供品のリンスを使うヤクザに隣に座られたら、笑いをこらえることなど不可能です。万が一、キティちゃんのスポンジを使うヤクザ、「お風呂を出たら、ミックスのソフトクリームを食べよう!」と独り言を言うヤクザなどにでも出くわしたら、大笑いしてしまうでしょう。

 したがって、ヤクザの動きに注意するのはもちろんのこと、とんでもないヤクザがいる場合は、狭くとも、あえて人と人とのあいだの席に座るべきなのです。そうすれば隣に座られずに済んで、迷惑をかけることもありません。

 そして、万が一隣に座られたときは、逃げるというのも、卑下されたものではありません。今思えば、隣に座られた時点で逃げればよかったと、僕も後悔しているぐらいですから。

 みなさまも今後、僕の二の舞にならないように、お気をつけください。銭湯では、1にヤクザ、2にヤクザと肝に銘じ、くれぐれも隣に座られないようにご注意ください。

 そして最後に、「バイクのヘルメットにリンスが付着すると、とんでもないことになる」という豆知識をご紹介して、震えたペンを置かせていただきマッスル。

 ああ、こんなおもしろくないことを言ったら、また鉄男さんに怒られるかな……。心なしか、目の前の般若がニラんでいるような気がする……。


木下さんは何者か?の考察~ベスト版⑧~(パソコン読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日のことです。


 僕は夜中に家で仕事をすることが多く、仕事が行き詰まったら、近所を散歩します。この日も原稿に行き詰まり、息抜きがてらブラブラすることにしたのですが、家の近くの公園に、近所のおじさんを発見したのです。


 時刻は深夜0時を過ぎています。おじさんは手に懐中電灯を持っており、公園の茂みを手でかきわけながら、なにやら懐中電灯で照らしています。


 「おっちゃん、何やってんの、こんな時間に?」


 不審に思った僕は、近づいて声をかけました。


 このおじさんは酔っ払っています。僕が話しかけてもポカーンで、「何やってんのよ、こんな時間に?」ともう1度同じ質問をしたところ、「やわらかい猫探してんねん」って言ったんですよ。


 はっ?はっ?


 「急にやわらかい猫を触りたくなってん!」


 何の発作やねん、それ!キャットタッチ症候群とか聞いたことないぞ!


 真夜中に野良猫を探しているのです、このおじさん。猫の体を急に撫でたくなったらしく、「触らないと寝れんわ、今夜は!」と、ワケのわからないことを言うのです。


 ですが、野良猫は見つかりません。おじさんを説得して家に帰すことにしたのですが、道すがら、前から1匹の野良犬がやってきました。


 「猫じゃないけど、まあええか!」


 こう言って、このおじさんは野良犬に近づきました。「よしよし!よしよし!」と言いながら笑顔で犬の頭を撫で始めたのですが、犬の胸の肉を触るやいなや、めちゃくちゃ高い声で「あー、このやわらかさじゃない!!!」って言ったんですよ。


 お前、何言ってんねん、こんな時間に!さっきから全然意味わからんねん!


 「思ってたのと違う!」


 知らんがな、そんなもん!で言うとくぞ、俺もお前は思ってたのと違ったからな!こんなに頭がおかしい奴とは初対面では夢にも思わんかったからな!


 このおじさんの名前は、木下さん。


 僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 日ごろからおかしなことを連発し、つい先日も僕の家で晩ごはんを食べることになった際、「木下君、何が食べたい?」と訊く僕の母親に、「ハム!」と答えたのです。


 お前、もてなす側のプライドも考慮してくれよ!招待しといてハムはごちそうできんやろ、いくらなんでも!


 「ハムと牛乳!」


 飼育係か、俺ら!ハムとミルクって動物のエサやんけ、完全に!


 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版⑧~です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。


検証エピソード①『あんま』
 木下さんは、ターザンよりも暇です。自転車屋が儲かっておらず、暇ができると僕の家に遊びに来るか、近所を散
歩しています。


 先日のことです。


 僕は、近所のあんま屋に行きました。


 このあんま屋は、民家で経営しています。家の中であんまを施し、あんまをしてくれる先生は60歳を過ぎた女性。近所でも人格者として有名な方で、たくさんのボランティアをやる、それはもうできた方なのです。


 あんまだけではなく、この先生と話をするのも楽しいです。僕は月に1度は通い、この日もいつものように、60分コースのあんまを受けていました。


 「たけちゃん、ここにおんの?」


 あんまが始まって20分ほどしたころ、木下さんがやってきました。


 訊くと、僕の母親に僕の行き先を聞いたらしいです。


 「差し入れを持ってきたで!」


 こう言って勝手に中に入ってきたのですが、この差し入れが1・5リットルのコーラなのです。


 どんなセンスしてんねん、お前!安かったか知らんけどいらんわ、こんなもん!


 「炭酸飲んだらスタミナつくよ!」


 意味わからん!マラソンの給水所にチェリオ置いてる奴見たことあんのか、お前!?


 僕の母親は買物をしに、家を出たらしいです。相手をしてくれる人がいないため、ここにやってきたのでしょう。僕は先生に事情を説明して、隣の部屋で木下さんを待たせることにしました。


 ですが、僕は気が気ではありません。隣の部屋には、先生の母親が寝ているからです。


 87歳のおばあさんで、足が悪くて寝たきりです。耳も異常に遠く、木下さんが何か粗相をしないかと不安で仕方がないのです。


 隣の部屋の引き戸は、半開きになっています。うつ伏せであんまをしてもらう中、案の定、隣の部屋から妙な会話が聞こえてきました。


 「はじめまして。木下っていいます」


 「あっ、どうも」


 「コーラ飲みます?」


 いきなりかい!ちょっと待って、いきなりコーラなん!?会って5秒でババアにコーラ勧めんの!?


 「えっ?」


 「コーラ飲みます?」


 「……すいません、耳が遠いのでもう1度?」


 「コ・カ・コ・-・ラ・を・飲・み・ま・-・す?」


 ゆっくりしゃべっても耳遠い奴には関係ないねん!声を大きくしろよ!で、なんで最後「まーす」って伸ばしてん


 「ください」


 飲むの!?ババアもババアでコーラ飲むの!?炭酸やねんけど、ババアのくせにノド現役なんまだ!?


 「僕は、ここから10分ほど歩いたところにある自転車屋で商店街をやってるんです!」


 逆や!自転車屋の中に商店街って、よく賛同したな、ほかの店!この不景気にどえらい博打やぞ、それは!


 「おばあさん、言ってもらったら、いつでも自転車を修理しにきますよ!」


 自転車乗るか、こんなババアが!乗るんはもう霊柩車だけや!


 「自転車は乗らないです。そんなことよりヨーグルト食べます?」


 ババアも何言ってんねん、急に!何がどうなったらいきなりヨーグルトの話になんねん!


 「杏仁豆腐もありますよ?」


 ハイカラやな、おい!ババアがハイカラなもんに手出すなよ!ハイカラが許されんのは70までや、メモっとけ!


 「木下さんは、ヨーグルトはお好きですか?」


 「普通です」


 好きでええやんけ!お前、人の親切をなんやと思ってんねん!そこはウソでも好きって言えよ!


 「自家製のヨーグルトなんです」


 「高かったでしょ?」


 自家製や言うてるやろ!ていうか、まだババアと会話して1分やぞ!?1分でこんなにも言わなあかんことがあるんやぞ!?ナイツのツッコミか、俺は!


 「おっちゃん、もうこっちにおいで!俺の隣にいとき!」


 あまりにも会話が成立しないため、僕はドクターストップをかけました。


 するとそれを見た人格者であるはずの先生が、僕の耳元で「あの人、だいぶイッてますね」って言いましたからね。人の悪口など言ったことがない先生が、何の躊躇もなく「やばい男ですね」って言いましたから。


検証エピソード②『サウナ』
 昨夏、僕の地元に新しい銭湯ができました。


 僕は銭湯が大好きです。僕の家に遊びにきていた木下さんに訊くと、ここは朝の10時からやっているらしいのです。


 木下さんはタダ券を持っています。その日の昼すぎに、僕は木下さんに連れられて、この銭湯に行きました。


 のれんをくぐって中に入り、ロビーのイスに座りました。


 僕がタバコを吸い始めたところ、「タバコの煙をかけんといてくれ!」と、木下さんが怒ってきました。


 訊くと、テレビ番組の健康診断で、自分の血液が汚れていることに気がついたそうです。この銭湯に来るのはサウナで毒素を出すためらしく、「吸うんやったらあっちに行ってくれ!」と、すごんできたのです。


 事情が事情なので、僕はタバコの火を消しました。そそくさと銭湯に入り、イスに座って体を洗い始めました。


 しばらくして、木下さんがやってきました。僕に関わることなく、一直線にサウナに向かいました。


 10分後。


 「ハアハア!」


 荒い呼吸で、木下さんがサウナから出てきました。1人用の水風呂に入り、1分ほどそこに浸かってから、サウナに戻って行きました。


 5分後。再び、サウナから木下さんが出てきました。誰かが水風呂に浸かっていたものの、隣に強引に浸かり、サウナに戻りました。


 3分後。再び、サウナから木下さんが出てきました。


 10分、5分、3分と、段々と時間が短くなってきています。疲れてきたのか、このあとも2分、2分、1分とどんどん時間が短くなり、しまいには7秒で出てきたんですよ!


 もう入んなよ、お前!限界きとるやろ、完全に!


 「アウー!」


 限界ボイスやんけ、それ!お前それ、人間が限界に達したときにしか言わへん奇声やんけ!


 木下さんはロビーに戻りました。飲料水の出る蛇口に口をつけて、休憩しています。体を洗い終えた僕は、サウナの横のラベンダー風呂に浸かって、木下さんの動向を見守っていました。


 しばらくして、休憩を終えた木下さんが戻ってきました。


 体は回復した模様です。きりりとした表情でサウナに入り、3分、5分たっても出てきません。苦しそうにしているものの、がんばっています。


 10分ほどたって、木下さんが出てきました。


 ですが、水風呂にはオッサン2人が浸かっています。「ハアハア!ハアハア!」と死にそうになっているのに、1人用に2人も浸かっているので、入りようがないのです。


 どう見ても付け入る隙はありません。2人とも前を向いて浴槽にジャストフィットしているため、木下さんはあきらめるしかありません。結局、水風呂をあきらめて、比較的ぬるい浴槽を求めてさまよい始めたのですが、どれもこれも熱い浴槽なのです。


 木下さんはテンぱっています。胸をかきむしり、死にそうな顔でさまよい歩いた結果、我慢できなくなったのでしょう。水風呂に駆け寄り、前を向いて体育座りをする2人のあいだに体をねじ込んでいったのですが、狭すぎて真ん中に入り込めず、左に浸かるオッサンの両脚の上に座ったんですよ!


 ホモのカップルか、お前!男色同士の銭湯デートか、これは!


 しかも縦の幅が狭すぎて途中から中腰になり、オッサンの顔面に木下さんのお尻がぶつかってるんですよ!オッサンもきつきつになったことから出られず、3人のオッサンが全裸で体をこすりつけ合っているのです!


 何の乱交パーティーやねん、これ!昼間っから人前で何してくれとんねん!


 「何してんねん、あんた!」


 お尻を顔にぶつけられたオッサンが怒りました。木下さんは「すいません」と謝罪し、右側のオッサンが出てくれたので右に移動したのですが、オッサンは笑ってましたからね。「顔にケツをつけられたらもう笑うしかない!」とばかりに、普通に笑ってましたから。


検証エピソード③『トイレ』
 興奮しているときの木下さんは、普段の3倍、おかしくなります。取り乱し方は尋常ではなく、意味不明の言葉を
連発します。


 僕が小学校高学年のときのことです。


 その日、地元にある甲子園球場に、木下さんと2人でプロ野球を観に行きました。


 僕は試合中、ウンコを我慢していました。ずっとお腹が痛かったものの、試合が白熱していたため、席を立てなかったのです。


 ですが、我慢の限界がきました。阪神の攻撃が終了したのを見て、木下さんと一緒にトイレに行きました。


 大便器は10個近くあります。ただ、すべて入られているのはもちろん、行列ができているのです。


 甲子園では、阪神の攻撃が終わると同時に、トイレに行く人が多いです。僕のように我慢していた人がたくさんいたために入れず、僕は列に並ぶことになりました。


 僕は、顔から脂汗が出ています。しばらくして列の先頭に踊り出たものの、手でお尻を押さえるぐらい、我慢の限界がきました。


 すると僕を見かねた木下さんが、大便器のドアを叩き始めました。


 「まだか?なあ、まだウンコ終わらへんのか?」


 「速くしたってくれ!たけちゃんがもう限界やから!」


 「5分でいいから!たけちゃんは5分で終わるから出てきてくれ!」


 前から順番に叩いて、半ギレでまくしたてたのです。


 ですが、今の僕に木下さんを注意する余裕はありません。恥ずかしい、と思いながらも何も言えず、ようやく1つ空いたので、僕は中に飛び込みました。


 僕は便器にしゃがみました。「助かった……」と思いながら用を足していたのですが、外で、木下さんが誰かと口論になっているのです。


 ケンカの相手は、僕と入れ替わりに大便器を出た人です。「静かにせいや!常識ないんか、ボケ!」と、木下さんに怒鳴り散らしています。


 一方、怒鳴られた木下さんは、珍しく強気です。相手は小柄な男性で、木下さんは、自分よりも弱い存在には強いです。ケンカをしても勝てると踏んだのか、こう怒鳴り返したのです。


 「やかましいわ!子供がウンコ我慢してんのに、ウンコをする大人がどこにおんねん!」


 おるわ、そんなもん!おるおる!おりまくりじゃ、そんなもん!


 「お前、歳、いくつや?」


 「40や」


 「40の大人がウンコをすんな!」


 何言ってんねん、お前!するに決まってるやろ、そんなもん!


 「お前はじゃあ、歳、いくつやねん?」


 「人は人や!じゃあお前は、人を殺したら人を殺すんか?家が火事になったら、人の家も火事になんのか!?」


 「何を意味わからんこと言うとんねん!」


 「相手は子供やぞ?子供が我慢してんのに、ウンコを我慢する奴がどこにおんねん!」


 ええ加減にせいよ、お前!全部日本語間違ってんねん、さっきから!で、大便器に入ってる奴、全員笑ってるやんけ!俺の隣の隣の奴の笑い声まで聞こえてきたやんけ!


 僕は外に出られません。用を足し終えたものの、恥ずかしくてドアを開けられないのです。


 ほどなくして、警備員らしき人がトイレにやって来たのがわかりました。大事になると大変です。僕は事情を説明するべく勇気を出して外に出たのですが、木下さんがケンカ相手を指差して、「警備員さん、こいつがウンコを我慢してるんですよ!」って言ったんですよ。


 自殺したいわ、俺!こんなこと隣で叫ばれるんやったら死んだほうがましやわ!


 「大人のくせにウンコを我慢してるんです、こいつ!」


 死んだらええねん、もう!ていうか、死んで!お前が切腹でもしてくれないとこの行動に責任取れんわ!


 結局、僕が事情を説明したので大事にはならなかったものの、阪神は逆転されてましたからね。木下さんのワケのわからない日本語が聞こえて混乱したのか、好調だったピッチャーが四球を連発してましたから。


検証エピソード④『ビックリマン』
 僕が小学校5年生のときに、ビックリマンが大流行しました。


 いつ買いに行っても、売り切れです。たまに入荷しても、1人1個と決められていたのです。


 売っているお店を見つけたら、僕はいつも、家族の誰かを連れて行きました。誰かを連れて行くことで、2個以上買えます。父親や母親、はたまたおじいちゃんまで連れて行くなど、僕はビックリマンに夢中でした。


 それは、木下さん一家も同じです。


 僕と木下さんの息子は、小学校の同級生です。ビックリマンが流行したときに同じクラスだったことから、木下さん親子を頻繁にお菓子屋で見かけました。


 ですが、木下さんの息子は僕に会うと、いつもこう言いました。


 「うちのお父さん、『豚魔(とんま)』ばっかり当てんねん!」


 豚魔というのは、悪魔シールです。1番ランクの低いのが悪魔で、この豚魔というのが、憎たらしい顔をしています。僕も豚魔を当てたときはいつもイライラしていたぐらいで、木下さんの息子いわく、木下さんが購入したビックリマンは、2回に1回は豚魔らしいのです。あまりにも豚魔が多いため、それが原因で親子ゲンカをしたそうなのです。


 ある日のことです。


 僕の家で木下さんの息子と遊んでいると、木下さんがやってきました。ニヤニヤしながら僕らに近づき、「ビックリマン、買ってきたで!」と伝えてきたのです。


 木下さんはビックリマンを買うために、町中のお菓子屋を探しまわりました。3個のビックリマンをゲットしたらしく、「たけちゃんにも1個あげるわ!」と言ってくれたのです。


 「おっちゃん、ありがとう!」


 僕はお礼を言って意気揚々と封を開けたのですが、中身は豚魔だったのです。


 出た、豚魔!うわさには聞いてたけど、こいつの運のなさは半端じゃない!


 僕がヘコんでいるのを尻目に、木下さんの息子も封を開け始めました。


 1つ目は悪魔シールでハズレ。祈るように2つ目に手を出したのですが、中身は豚魔やったんですよ。


 なんでそんなに豚魔出んねん、お前!お前がトンマか知らんけどいくらなんでも出すぎやろ!


 「うわーーー!」


 豚魔を見た木下さんの息子が、発狂しました。「なんで豚魔ばっかりやねん!」と叫び、木下さんにつかみかかったのです。


 結局、僕が止めに入ってケンカは収まりました。木下さんも「ごめんな!」と謝り、2人は仲直りをしました。


 その日から、1ヵ月後のことです。


 近くのお菓子屋に、ビックリマンが入荷するという情報が飛び込んできました。


 僕は早起きをして店に向かうことにしたのですが、僕の両親は、眠たい、と言って来てくれません。仕方なく1人で向かい、途中、木下さん親子に出会いました。


 3人して、店の前に行きました。


 開店前なのに、すでに行列ができています。この日は大雨です。雨の中、傘を差しながら待ち、なんとか買うことができました。


 僕らは屋根のある酒屋の軒下に移動して、封を開けました。


 僕の中身はお守りシール。可もなく不可もなくといったぐらいのもので、それでも、悪魔よりはましです。隣にいる木下さんの息子は悪魔シールで、意気消沈しているのです。


 残るは、木下さん1人。木下さんはもう、封を開け終えています。


 ですが、背中を向けたままで、僕らのほうを見ようとはしません。木下さんの息子が「お父さん、何が当たったん?」と訊いても、返事をしないのです。


 「なあお父さん、何が当たったんよ!?」


 息子は声を荒げたものの、それでも返事をしません。


 「お父さん、もしかして、豚魔?」


 「……」


 「いいから答えて、それ豚魔なん?」


 「……」


 木下さんは半泣きになっています。肩を震わせており、その反応を見た木下さんの息子も泣き声になりました。


 「お父さん、それ豚魔なんやろ?」


 「……」


 「なあ、それ豚魔なんやろ!?」


 「……」


 木下さんの息子は、しびれを切らしました。雨の中、外に飛び出して木下さんの正面にまわり、木下さんの両肩に手を当てました。そして、「お父さん、いいから答えて、それ豚魔なん!?」と泣きながら声を張り上げたところ、木下さんがヒザから崩れ落ち、消え入りそうな声で「ごめん、豚魔や……」って言ったんですよ。


 何のドラマやねん、これ!なあ教えてくれ、何の青春ドラマなん!?


 「(泣きながら)ご、ごめん、ほ、ほ、ほんまにごめん、また豚魔や……」


 泣くようなことか、これ!見てる俺のほうが泣きたいわ!


 このあと、2人は抱き合ってましたからね。息子も「お父さん、僕も悪かった!」と反省の言葉を口にするなど、隣で見ていて恐ろしいものがありましたよ。


検証エピソード⑤『ドレミの歌』
 先日、僕の家に姪っ子が遊びにきました。


 「愛子」という名の7歳の子で、台所には僕と木下さんがいます。3人で何かをして遊ぶことになり、愛子が「ドレミの歌ゲームをしよう!」と提案してきました。


 訊くと、愛子の小学校で流行っているらしいです。ドレミの歌を順番に口にし、このとき、「ドーはドーナツのドー!」ではなく、「ドーはどかんのドー!」「シーはシーラカンスのシー!」などと、違う単語を順番に当てはめていきます。順番に歌い、「さあ、歌いましょう!」をみんなで叫んで1セット。それを3セットくりかえし、3セット目の最後に「さあ、終わりましょう!終わり!」とみんなで叫んでゲーム終了です。


 同じ単語を2回言うのはダメで、歌う順番も、始める直前に決めます。「1番、2番、3番」と書かれた紙を引いて、すぐに歌い始めます。自分がどのパートを担当するかわからないので考える時間が少なく、それがこのゲームのミソなのです。


 7歳とはいえ、それなりに語彙力もあります。姪っ子の成長を見きわめるにはもってこいで、僕は意気揚々と始めることにしたのですが、愛子以上に語彙力のない奴がいるのです。


 そう、木下さんです。


 もうね、むちゃくちゃなんですよ。語彙力以前に、ルールを把握できないのです。


 僕はこれ以上ないぐらいに、わかりやすく説明しました。「とりあえず1回やってみよう!」となり、1番を引いた木下さんが「ドーはドーナツのミー!」と叫んだのです。


 どこ変えてんねん、お前!そこ変えて何がおもろいねん、このゲーム!真ん中を変えろ!


 「ドーはドービルのドー!」


 ごめん、ドービルって何?初めて聞いてんけど、それ何!?


 僕は10分近くかけて、説明し直しました。木下さんもようやくのみ込めたようで、木下さんにもできるように、ゆっくりめに歌うことにしました。ゆっくりと歌えば、考える時間ができますから。


 なのに毎回、木下さんのパートで止まってしまうのです。たまに2周目まではいくものの、「レーはレモンのレー!」「ファーはバファリンのファー!」と間違い、ファーのパートで1度、「ナーはナッパのパー!」と叫んだのです。


 お前、何がどうなったらそう間違うねん!ていうか、パーはお前やぞ!


 「ローはロッポのロー!」


 ごめん、もう手のつけようないわ!どこから指摘していいかわからんから、あえてツッコミ入れるんはやめるわ!


 挑戦回数は20回を越えました。


 僕らはクタクタです。とはいえ、さすがの木下さんも要領をつかめてきました。たまにワケのわからないことを言うものの、2周目までは必ず進むようになったのです。


 そして、迎えた24回目。


 ここにきて初めて、3周目に突入しました。


 順番は、僕、愛子、木下さんの順。3周目なので、「ド」と「ファ」と「シ」が木下さん、「レ」と「ソ」が僕、「ミ」と「ラ」を愛子が担当します。


 「ドーは、ドッキングのドー!」


 いいよ、おっちゃん!なんでドッキングを選んだかわからんけどよくやったぞ!


 「レーはレンコンのレー!」


 順調や!テンション上がってきた!


 「ミーは都のミー!」


 愛子もいいよ!あと4つで終わりや!


 「ファーは、ファックスファクシミリのファー!」


 ま、ま、まあええわ!そんな言葉はないけど、お前の中ではそれがファックスなんやろうから正解にするわ!


 「ソーはソーメンのソー!」


 順調や!あと少しや!


 「ラーはらくだのラー!」


 あと1つや!頼むぞ、おっちゃん!


 「シーは柴田のターーー!!!」


 ええ加減にせいよ、お前!もうええ加減にせいよ、コラ!ていうか、柴田て!なんでもありか、お前!


 「さあ、終わりましょう!」


 終われるか!終わりたいけど終われるか、こんなもん!


 1時間近くやったものの、結局、ゴールはできませんでした。途中で愛子が怒り始めるなど、木下さんのバカっぷりに、僕らはクタクタだったのです。



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 ちなみにこのドレミの歌ですが、2週間ほどして再び3人で挑戦したとき、木下さんは「ハーは破壊のカー!」って言いました……。

木下さんは何者か?の考察~ベスト版⑧~(携帯読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集

 先日のことです。

 僕は夜中に家で仕事をすることが多く、仕事が行き詰まったら、近所を散歩します。この日も原稿に行き詰まり、息抜きがてらブラブラすることにしたのですが、家の近くの公園に、近所のおじさんを発見したのです。

 時刻は深夜0時を過ぎています。おじさんは手に懐中電灯を持っており、公園の茂みを手でかきわけながら、なにやら懐中電灯で照らしています。

 「おっちゃん、何やってんの、こんな時間に?」

 不審に思った僕は、近づいて声をかけました。

 このおじさんは酔っ払っています。僕が話しかけてもポカーンで、「何やってんのよ、こんな時間に?」ともう1度同じ質問をしたところ、「やわらかい猫探してんねん」って言ったんですよ。

 はっ?はっ?

 「急にやわらかい猫を触りたくなってん!」

 何の発作やねん、それ!キャットタッチ症候群とか聞いたことないぞ!

 真夜中に野良猫を探しているのです、このおじさん。猫の体を急に撫でたくなったらしく、「触らないと寝れんわ、今夜は!」と、ワケのわからないことを言うのです。

 ですが、野良猫は見つかりません。おじさんを説得して家に帰すことにしたのですが、道すがら、前から1匹の野良犬がやってきました。

 「猫じゃないけど、まあええか!」

 こう言って、このおじさんは野良犬に近づきました。「よしよし!よしよし!」と言いながら笑顔で犬の頭を撫で始めたのですが、犬の胸の肉を触るやいなや、めちゃくちゃ高い声で「あー、このやわらかさじゃない!!!」って言ったんですよ。

 お前、何言ってんねん、こんな時間に!さっきから全然意味わからんねん!

 「思ってたのと違う!」

 知らんがな、そんなもん!で言うとくぞ、俺もお前は思ってたのと違ったからな!こんなに頭がおかしい奴とは初対面では夢にも思わんかったからな!

 このおじさんの名前は、木下さん。

 僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。

 日ごろからおかしなことを連発し、つい先日も僕の家で晩ごはんを食べることになった際、「木下君、何が食べたい?」と訊く僕の母親に、「ハム!」と答えたのです。

 お前、もてなす側のプライドも考慮してくれよ!招待しといてハムはごちそうできんやろ、いくらなんでも!

 「ハムと牛乳!」

 飼育係か、俺ら!ハムとミルクって動物のエサやんけ、完全に!

 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。

 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版⑧~です。

 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。

 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。

検証エピソード①『あんま』
 木下さんは、ターザンよりも暇です。自転車屋が儲かっておらず、暇ができると僕の家に遊びに来るか、近所を散歩しています。

 先日のことです。

 僕は、近所のあんま屋に行きました。

 このあんま屋は、民家で経営しています。家の中であんまを施し、あんまをしてくれる先生は60歳を過ぎた女性。近所でも人格者として有名な方で、たくさんのボランティアをやる、それはもうできた方なのです。

 あんまだけではなく、この先生と話をするのも楽しいです。僕は月に1度は通い、この日もいつものように、60分コースのあんまを受けていました。

 「たけちゃん、ここにおんの?」

 あんまが始まって20分ほどしたころ、木下さんがやってきました。

 訊くと、僕の母親に僕の行き先を聞いたらしいです。

 「差し入れを持ってきたで!」

 こう言って勝手に中に入ってきたのですが、この差し入れが1・5リットルのコーラなのです。

 どんなセンスしてんねん、お前!安かったか知らんけどいらんわ、こんなもん!

 「炭酸飲んだらスタミナつくよ!」

 意味わからん!マラソンの給水所にチェリオ置いてる奴見たことあんのか、お前!?

 僕の母親は買物をしに、家を出たらしいです。相手をしてくれる人がいないため、ここにやってきたのでしょう。僕は先生に事情を説明して、隣の部屋で木下さんを待たせることにしました。

 ですが、僕は気が気ではありません。隣の部屋には、先生の母親が寝ているからです。

 87歳のおばあさんで、足が悪くて寝たきりです。耳も異常に遠く、木下さんが何か粗相をしないかと不安で仕方がないのです。

 隣の部屋の引き戸は、半開きになっています。うつ伏せであんまをしてもらう中、案の定、隣の部屋から妙な会話が聞こえてきました。

 「はじめまして。木下っていいます」

 「あっ、どうも」

 「コーラ飲みます?」

 いきなりかい!ちょっと待って、いきなりコーラなん!?会って5秒でババアにコーラ勧めんの!?

 「えっ?」

 「コーラ飲みます?」

 「……すいません、耳が遠いのでもう1度?」

 「コ・カ・コ・-・ラ・を・飲・み・ま・-・す?」

 ゆっくりしゃべっても耳遠い奴には関係ないねん!声を大きくしろよ!で、なんで最後「まーす」って伸ばしてん!

 「ください」

 飲むの!?ババアもババアでコーラ飲むの!?炭酸やねんけど、ババアのくせにノド現役なんまだ!?

 「僕は、ここから10分ほど歩いたところにある自転車屋で商店街をやってるんです!」

 逆や!自転車屋の中に商店街って、よく賛同したな、ほかの店!この不景気にどえらい博打やぞ、それは!

 「おばあさん、言ってもらったら、いつでも自転車を修理しにきますよ!」

 自転車乗るか、こんなババアが!乗るんはもう霊柩車だけや!

 「自転車は乗らないです。そんなことよりヨーグルト食べます?」

 ババアも何言ってんねん、急に!何がどうなったらいきなりヨーグルトの話になんねん!

 「杏仁豆腐もありますよ?」

 ハイカラやな、おい!ババアがハイカラなもんに手出すなよ!ハイカラが許されるんは70までや、メモっとけ!

 「木下さんは、ヨーグルトはお好きですか?」

 「普通です」

 好きでええやんけ!お前、人の親切をなんやと思ってんねん!そこはウソでも好きって言えよ!

 「自家製のヨーグルトなんです」

 「高かったでしょ?」

 自家製や言うてるやろ!ていうか、まだババアと会話して1分やぞ!?1分でこんなにも言わなあかんことがあるんやぞ!?ナイツのツッコミか、俺は!

 「おっちゃん、もうこっちにおいで!俺の隣にいとき!」

 あまりにも会話が成立しないため、僕はドクターストップをかけました。

 するとそれを見た人格者であるはずの先生が、僕の耳元で「あの人、だいぶイッてますね」って言いましたからね。人の悪口など言ったことがない先生が、何の躊躇もなく「やばい男ですね」って言いましたから。

検証エピソード②『サウナ』
 昨夏、僕の地元に新しい銭湯ができました。

 僕は銭湯が大好きです。僕の家に遊びにきていた木下さんに訊くと、ここは朝の10時からやっているらしいのです。

 木下さんはタダ券を持っています。その日の昼すぎに、僕は木下さんに連れられて、この銭湯に行きました。

 のれんをくぐって中に入り、ロビーのイスに座りました。

 僕がタバコを吸い始めたところ、「タバコの煙をかけんといてくれ!」と、木下さんが怒ってきました。

 訊くと、テレビ番組の健康診断で、自分の血液が汚れていることに気がついたそうです。この銭湯に来るのはサウナで毒素を出すためらしく、「吸うんやったらあっちに行ってくれ!」と、すごんできたのです。

 事情が事情なので、僕はタバコの火を消しました。そそくさと銭湯に入り、イスに座って体を洗い始めました。

 しばらくして、木下さんがやってきました。僕に関わることなく、一直線にサウナに向かいました。

 10分後。

 「ハアハア!」

 荒い呼吸で、木下さんがサウナから出てきました。1人用の水風呂に入り、1分ほどそこに浸かってから、サウナに戻って行きました。

 5分後。再び、サウナから木下さんが出てきました。誰かが水風呂に浸かっていたものの、隣に強引に浸かり、サウナに戻りました。

 3分後。再び、サウナから木下さんが出てきました。

 10分、5分、3分と、段々と時間が短くなってきています。疲れてきたのか、このあとも2分、2分、1分とどんどん時間が短くなり、しまいには7秒で出てきたんですよ!

 もう入んなよ、お前!限界きとるやろ、完全に!

 「アウー!」

 限界ボイスやんけ、それ!お前それ、人間が限界に達したときにしか言わへん奇声やんけ!

 木下さんはロビーに戻りました。飲料水の出る蛇口に口をつけて、休憩しています。体を洗い終えた僕は、サウナの横のラベンダー風呂に浸かって、木下さんの動向を見守っていました。

 しばらくして、休憩を終えた木下さんが戻ってきました。

 体は回復した模様です。きりりとした表情でサウナに入り、3分、5分たっても出てきません。苦しそうにしているものの、がんばっています。

 10分ほどたって、木下さんが出てきました。

 ですが、水風呂にはオッサン2人が浸かっています。「ハアハア!ハアハア!」と死にそうになっているのに、1人用に2人も浸かっているので、入りようがないのです。

 どう見ても付け入る隙はありません。2人とも前を向いて浴槽にジャストフィットしているため、木下さんはあきらめるしかありません。結局、水風呂をあきらめて、比較的ぬるい浴槽を求めてさまよい始めたのですが、どれもこれも熱い浴槽なのです。

 木下さんはテンぱっています。胸をかきむしり、死にそうな顔でさまよい歩いた結果、我慢できなくなったのでしょう。水風呂に駆け寄り、前を向いて体育座りをする2人のあいだに体をねじ込んでいったのですが、狭すぎて真ん中に入り込めず、左に浸かるオッサンの両脚の上に座ったんですよ!

 ホモのカップルか、お前!男色同士の銭湯デートか、これは!

 しかも縦の幅が狭すぎて途中から中腰になり、オッサンの顔面に木下さんのお尻がぶつかってるんですよ!オッサンもきつきつになったことから出られず、3人のオッサンが全裸で体をこすりつけ合っているのです!

 何の乱交パーティーやねん、これ!昼間っから人前で何してくれとんねん!

 「何してんねん、あんた!」

 お尻を顔にぶつけられたオッサンが怒りました。木下さんは「すいません」と謝罪し、右側のオッサンが出てくれたので右に移動したのですが、オッサンは笑ってましたからね。「顔にケツをつけられたらもう笑うしかない!」とばかりに、普通に笑ってましたから。

検証エピソード③『トイレ』
 興奮しているときの木下さんは、普段の3倍、おかしくなります。取り乱し方は尋常ではなく、意味不明の言葉を連発します。

 僕が小学校高学年のときのことです。

 その日、地元にある甲子園球場に、木下さんと2人でプロ野球を観に行きました。

 僕は試合中、ウンコを我慢していました。ずっとお腹が痛かったものの、試合が白熱していたため、席を立てなかったのです。

 ですが、我慢の限界がきました。阪神の攻撃が終了したのを見て、木下さんと一緒にトイレに行きました。

 大便器は10個近くあります。ただ、すべて入られているのはもちろん、行列ができているのです。

 甲子園では、阪神の攻撃が終わると同時に、トイレに行く人が多いです。僕のように我慢していた人がたくさんいたために入れず、僕は列に並ぶことになりました。

 僕は、顔から脂汗が出ています。しばらくして列の先頭に踊り出たものの、手でお尻を押さえるぐらい、我慢の限界がきました。

 すると僕を見かねた木下さんが、大便器のドアを叩き始めました。

 「まだか?なあ、まだウンコ終わらへんのか?」

 「速くしたってくれ!たけちゃんがもう限界やから!」

 「5分でいいから!たけちゃんは5分で終わるから出てきてくれ!」

 前から順番に叩いて、半ギレでまくしたてたのです。

 ですが、今の僕に木下さんを注意する余裕はありません。恥ずかしい、と思いながらも何も言えず、ようやく1つ空いたので、僕は中に飛び込みました。

 僕は便器にしゃがみました。「助かった……」と思いながら用を足していたのですが、外で、木下さんが誰かと口論になっているのです。

 ケンカの相手は、僕と入れ替わりに大便器を出た人です。「静かにせいや!常識ないんか、ボケ!」と、木下さんに怒鳴り散らしています。

 一方、怒鳴られた木下さんは、珍しく強気です。相手は小柄な男性で、木下さんは、自分よりも弱い存在には強いです。ケンカをしても勝てると踏んだのか、こう怒鳴り返したのです。

 「やかましいわ!子供がウンコ我慢してんのに、ウンコをする大人がどこにおんねん!」

 おるわ、そんなもん!おるおる!おりまくりじゃ、そんなもん!

 「お前、歳、いくつや?」

 「40や」

 「40の大人がウンコをすんな!」

 何言ってんねん、お前!するに決まってるやろ、そんなもん!

 「お前はじゃあ、歳、いくつやねん?」

 「人は人や!じゃあお前は、人を殺したら人を殺すんか?家が火事になったら、人の家も火事になんのか!?」

 「何を意味わからんこと言うとんねん!」

 「相手は子供やぞ?子供が我慢してんのに、ウンコを我慢する奴がどこにおんねん!」

 ええ加減にせいよ、お前!全部日本語間違ってんねん、さっきから!で、大便器に入ってる奴、全員笑ってるやんけ!俺の隣の隣の奴の笑い声まで聞こえてきたやんけ!

 僕は外に出られません。用を足し終えたものの、恥ずかしくてドアを開けられないのです。

 ほどなくして、警備員らしき人がトイレにやって来たのがわかりました。大事になると大変です。僕は事情を説明するべく勇気を出して外に出たのですが、木下さんがケンカ相手を指差して、「警備員さん、こいつがウンコを我慢してるんですよ!」って言ったんですよ。

 自殺したいわ、俺!こんなこと隣で叫ばれるんやったら死んだほうがましやわ!

 「大人のくせにウンコを我慢してるんです、こいつ!」

 死んだらええねん、もう!ていうか、死んで!お前が切腹でもしてくれないとこの行動に責任取れんわ!

 結局、僕が事情を説明したので大事にはならなかったものの、阪神は逆転されてましたからね。木下さんのワケのわからない日本語が聞こえて混乱したのか、好調だったピッチャーが四球を連発してましたから。

検証エピソード④『ビックリマン』
 僕が小学校5年生のときに、ビックリマンが大流行しました。

 いつ買いに行っても、売り切れです。たまに入荷しても、1人1個と決められていたのです。

 売っているお店を見つけたら、僕はいつも、家族の誰かを連れて行きました。誰かを連れて行くことで、2個以上買えます。父親や母親、はたまたおじいちゃんまで連れて行くなど、僕はビックリマンに夢中でした。

 それは、木下さん一家も同じです。

 僕と木下さんの息子は、小学校の同級生です。ビックリマンが流行したときに同じクラスだったことから、木下さん親子を頻繁にお菓子屋で見かけました。

 ですが、木下さんの息子は僕に会うと、いつもこう言いました。

 「うちのお父さん、『豚魔(とんま)』ばっかり当てんねん!」

 豚魔というのは、悪魔シールです。1番ランクの低いのが悪魔で、この豚魔というのが、憎たらしい顔をしています。僕も豚魔を当てたときはいつもイライラしていたぐらいで、木下さんの息子いわく、木下さんが購入したビックリマンは、2回に1回は豚魔らしいのです。あまりにも豚魔が多いため、それが原因で親子ゲンカをしたそうなのです。

 ある日のことです。

 僕の家で木下さんの息子と遊んでいると、木下さんがやってきました。ニヤニヤしながら僕らに近づき、「ビックリマン、買ってきたで!」と伝えてきたのです。

 木下さんはビックリマンを買うために、町中のお菓子屋を探しまわりました。3個のビックリマンをゲットしたらしく、「たけちゃんにも1個あげるわ!」と言ってくれたのです。

 「おっちゃん、ありがとう!」

 僕はお礼を言って意気揚々と封を開けたのですが、中身は豚魔だったのです。

 出た、豚魔!うわさには聞いてたけど、こいつの運のなさは半端じゃない!

 僕がヘコんでいるのを尻目に、木下さんの息子も封を開け始めました。

 1つ目は悪魔シールでハズレ。祈るように2つ目に手を出したのですが、中身は豚魔やったんですよ。

 なんでそんなに豚魔出んねん、お前!お前がトンマか知らんけどいくらなんでも出すぎやろ!

 「うわーーー!」

 豚魔を見た木下さんの息子が、発狂しました。「なんで豚魔ばっかりやねん!」と叫び、木下さんにつかみかかったのです。

 結局、僕が止めに入ってケンカは収まりました。木下さんも「ごめんな!」と謝り、2人は仲直りをしました。

 その日から、1ヵ月後のことです。

 近くのお菓子屋に、ビックリマンが入荷するという情報が飛び込んできました。

 僕は早起きをして店に向かうことにしたのですが、僕の両親は、眠たい、と言って来てくれません。仕方なく1人で向かい、途中、木下さん親子に出会いました。

 3人して、店の前に行きました。

 開店前なのに、すでに行列ができています。この日は大雨です。雨の中、傘を差しながら待ち、なんとか買うことができました。

 僕らは屋根のある酒屋の軒下に移動して、封を開けました。

 僕の中身はお守りシール。可もなく不可もなくといったぐらいのもので、それでも、悪魔よりはましです。隣にいる木下さんの息子は悪魔シールで、意気消沈しているのです。

 残るは、木下さん1人。木下さんはもう、封を開け終えています。

 ですが、背中を向けたままで、僕らのほうを見ようとはしません。木下さんの息子が「お父さん、何が当たったん?」と訊いても、返事をしないのです。

 「なあお父さん、何が当たったんよ!?」

 息子は声を荒げたものの、それでも返事をしません。

 「お父さん、もしかして、豚魔?」

 「……」

 「いいから答えて、それ豚魔なん?」

 「……」

 木下さんは半泣きになっています。肩を震わせており、その反応を見た木下さんの息子も泣き声になりました。

 「お父さん、それ豚魔なんやろ?」

 「……」

 「なあ、それ豚魔なんやろ!?」

 「……」

 木下さんの息子は、しびれを切らしました。雨の中、外に飛び出して木下さんの正面にまわり、木下さんの両肩に手を当てました。そして、「お父さん、いいから答えて、それ豚魔なん!?」と泣きながら声を張り上げたところ、木下さんがヒザから崩れ落ち、消え入りそうな声で「ごめん、豚魔や……」って言ったんですよ。

 何のドラマやねん、これ!なあ教えてくれ、何の青春ドラマなん!?

 「(泣きながら)ご、ごめん、ほ、ほ、ほんまにごめん、また豚魔や……」

 泣くようなことか、これ!見てる俺のほうが泣きたいわ!

 このあと、2人は抱き合ってましたからね。息子も「お父さん、僕も悪かった!」と反省の言葉を口にするなど、隣で見ていて恐ろしいものがありましたよ。

検証エピソード⑤『ドレミの歌』
 先日、僕の家に姪っ子が遊びにきました。

 「愛子」という名の7歳の子で、台所には僕と木下さんがいます。3人で何かをして遊ぶことになり、愛子が「ドレミの歌ゲームをしよう!」と提案してきました。

 訊くと、愛子の小学校で流行っているらしいです。ドレミの歌を順番に口にし、このとき、「ドーはドーナツのドー!」ではなく、「ドーはどかんのドー!」「シーはシーラカンスのシー!」などと、違う単語を順番に当てはめていきます。順番に歌い、「さあ、歌いましょう!」をみんなで叫んで1セット。それを3セットくりかえし、3セット目の最後に「さあ、終わりましょう!終わり!」とみんなで叫んでゲーム終了です。

 同じ単語を2回言うのはダメで、歌う順番も、始める直前に決めます。「1番、2番、3番」と書かれた紙を引いて、すぐに歌い始めます。自分がどのパートを担当するかわからないので考える時間が少なく、それがこのゲームのミソなのです。

 7歳とはいえ、それなりに語彙力もあります。姪っ子の成長を見きわめるにはもってこいで、僕は意気揚々と始めることにしたのですが、愛子以上に語彙力のない奴がいるのです。

 そう、木下さんです。

 もうね、むちゃくちゃなんですよ。語彙力以前に、ルールを把握できないのです。

 僕はこれ以上ないぐらいに、わかりやすく説明しました。「とりあえず1回やってみよう!」となり、1番を引いた木下さんが「ドーはドーナツのミー!」と叫んだのです。

 どこ変えてんねん、お前!そこ変えて何がおもろいねん、このゲーム!真ん中を変えろ!

 「ドーはドービルのドー!」

 ごめん、ドービルって何?初めて聞いてんけど、それ何!?

 僕は10分近くかけて、説明し直しました。木下さんもようやくのみ込めたようで、木下さんにもできるように、ゆっくりめに歌うことにしました。ゆっくりと歌えば、考える時間ができますから。

 なのに毎回、木下さんのパートで止まってしまうのです。たまに2周目まではいくものの、「レーはレモンのレー!」「ファーはバファリンのファー!」と間違い、ファーのパートで1度、「ナーはナッパのパー!」と叫んだのです。

 お前、何がどうなったらそう間違うねん!ていうか、パーはお前やぞ!

 「ローはロッポのロー!」

 ごめん、もう手のつけようないわ!どこから指摘していいかわからんから、あえてツッコミ入れるんはやめるわ!

 挑戦回数は20回を越えました。

 僕らはクタクタです。とはいえ、さすがの木下さんも要領をつかめてきました。たまにワケのわからないことを言うものの、2周目までは必ず進むようになったのです。

 そして、迎えた24回目。

 ここにきて初めて、3周目に突入しました。

 順番は、僕、愛子、木下さんの順。3周目なので、「ド」と「ファ」と「シ」が木下さん、「レ」と「ソ」が僕、「ミ」と「ラ」を愛子が担当します。

 「ドーは、ドッキングのドー!」

 いいよ、おっちゃん!なんでドッキングを選んだかわからんけどよくやったぞ!

 「レーはレンコンのレー!」

 順調や!テンション上がってきた!

 「ミーは都のミー!」

 愛子もいいよ!あと4つで終わりや!

 「ファーは、ファックスファクシミリのファー!」

 ま、ま、まあええわ!そんな言葉はないけど、お前の中ではそれがファックスなんやろうから正解にするわ!

 「ソーはソーメンのソー!」

 順調や!あと少しや!

 「ラーはらくだのラー!」

 あと1つや!頼むぞ、おっちゃん!

 「シーは柴田のターーー!!!」

 ええ加減にせいよ、お前!もうええ加減にせいよ、コラ!ていうか、柴田て!なんでもありか、お前!

 「さあ、終わりましょう!」

 終われるか!終わりたいけど終われるか、こんなもん!

 1時間近くやったものの、結局、ゴールはできませんでした。途中で愛子が怒り始めるなど、木下さんのバカっぷりに、僕らはクタクタだったのです。


 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。

 ちなみにこのドレミの歌ですが、2週間ほどして再び3人で挑戦したとき、木下さんは「ハーは破壊のカー!」って言いました……。