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馬券負けた奴の発言はどれだけすさまじいか?の考察⑥(パソコン読者用)

 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。


 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。


 そう、「ロストシャウト」です。


 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、「ロストシャウト帳」なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。


 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。


 なかでも、地方競馬のロストシャウター。


 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。


 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけすさまじいか?」の考察⑥です。


 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介します。


①「性病移したろか!」 20代・男性
 いきなりすごいのがきましたよ。


 こいつは、競馬場の直線の前に陣取っています。顔面を紅潮させて怒っており、馬に乗ってやってきた騎手に直接叫びやがったのです。


 一緒にいる仲間も、その暴言に対して何も言いません。一切注意せず、仲間の1人が「移したれ、移したれ!あのときのように!」って言ったんですよ。


 どのときやねん!めっちゃ怖いやんけ!


 「あの祭りを再び!」


 祭りってなんやねん!めっちゃ怖そうやねんけど、そのお祭り!?


 ちなみに余談ですが、こいつは若ハゲです。まだ20代なのにもかかわらず、残念なことに、毛沢東と同じハゲ方してました。


②「北方領土は返さんでええからわしの金返せ!」 60代・男性 
 勝手なこと言うな、お前!同じ天秤に載せんなよ、そんなもん!


 「国後とかはええからわしの晩飯代返せや!」


 お前の晩飯とかどうでもええわ!そんなに腹減ってるんやったらハズレ馬券食っとけ!腹壊して、「馬券は当たらんかったけど食いもんにあたったわ!」とか言っとけ!


 このオッサンは、園田競馬場の常連です。僕とは話をする仲で、僕に先日、「兄ちゃん、わし、ノドにハモの小骨が6年刺さったままやねん」って言ったんですよ。


 6年刺さってんの!?何考えてんねん、お前!


 「もう、慣れたわ」


 慣れるか、そんなもん!そもそも慣れさせる意味がわからん!医者に診てもらったらええやんけ!


 もうワケがわかりませんよ、こんな奴。


③「どこの馬の骨かわからんような馬を走らせんなよ!」 60代・男性
 ようわからん、お前!言葉の馬率が高すぎてようわからん!


 「海の物とも山の物ともどこの馬の骨かもわからようなこんな馬をよ!」


 ますますわからん!で、噛まんとよく言えたな、こんなややこしいセリフ!そこは認めるわ!


 このオッサンは、レースが終わるごとに叫びます。「どこの馬の骨~」と「海の物とも~」の2つを頻繁に使って叫び、しまいには「海の物とも山の物ともどこの物ともわからんような馬の骨ども」って言ったんですよ。


 意味わからん!何が言いたいのかまったくわからん!もうお前自体が海の物とも山の物ともわからんわ!


 あとまったくの余談ですが、このオッサンは、首の裏に、プリンみたいなイボがあります。


④「遅咲き!」 60代・男性 
 何があかんねん、遅咲きの!遅咲きでも別にええやんけ!


 「遅咲きのくせに調子乗んな!」


 やかましいわ!亀の生き様なめんな、お前!俺の知り合いのホストも童貞捨てたんは21のときやってんぞって何言わすねん、お前!関係あらへんやんけ!


 このオッサンは、返し馬をする騎手に罵声を浴びせています。「金返せ!」「しっかり乗らんかい!」はもちろんのこと、「携帯鳴ってるぞ!」って言ったんですよ。


 携帯持ってるか、騎乗中に!なんや、馬に乗りながらツイッターしてんのか!?「今、3番手なう」とか書き込んでんのか!?


 このオッサンは、阪神競馬場の常連です。僕はこのオッサンをかれこれ10年以上見てますが、ここ10年で、服2着です。


⑤「誰か、わしにタクシー代貸してくれ!?」 50代・男性 
 電車で帰れや!電車で帰れよ、人に金借りるんやったら!


 「頼むわ、タク代貸して?」


 やかましいわ!何をちょっと優雅に帰ろうとしとんねん!


 「3万でええから!」


 飲み代含んでない、それ!?飲み代と飲んだあとのタクシー代も含んでるとしか思えんねんけど、その金額!?


 このオッサンは負けが込んで、帰りの交通費がなくなったのでしょう。ですが、「金があらへん!」とか言いつつ、普通に翌日の競馬新聞を買ってました。


⑥「ノーディキャンゴンニダ!トーディチングルラシマーカネヨ!」 20代・韓国人 
 わからんねん、お前!キレてんのはわかるけど韓国語やから何言ってるかわからんねん!


 「ユウヘイスオンクニダ!サンレーステッドインクヘンセヨ!」


 3レースにキレてんの!?今、軽く3レースって聞こえてんけどさっきのレースにむかついてるんや!?


 「サンレースハンサンニダ?」


 「トーディゲンゴン、サンレースアムニ!」


 「サンレースアムニ!サンレース……」


 大使館行け、もうお前ら!大使館に行って聞いてもらえ、そんなクレーム!ていうかもうこの言い合いが第4レースやわ!「コリアン特別」やわ、この言い合い!


 この韓国人集団は、気性が荒いです。レースが終わるたびにツバを飛ばしながらまくしたてるので、見ていて恐ろしかったですよ。


⑦「♪ねえムーミン!ハンコついて!」 30代・男性
 怖いわ!怖すぎるわ、こんな替え歌!


 「♪後先かんが~えな~いで!」


 歌詞が怖い!歌詞がえげつなすぎる!


 「♪その場の勢いにま~か~せ~て!」


 語呂、おい!「その場の勢い」のところを言う勢いがすごいわ!スナフキンに編曲頼め!


 ちなみに余談ですが、こいつは、クチビルがガッサガサに荒れています。昼休みに場内のフードコートでうどんを食べ始めたのですが、スープを口にした瞬間、めちゃくちゃ高い声で「ウ~!チュミル~!」って言いました。


⑧「(網タイツとスカートを履いたオッサンが)どういうつもりやねん……」 50代・男性 
 お前もや!お前もどういうつもりやねん!


 「筋が通らんことすんなよ!」


 お前も筋通ってないねん!時代が時代やったら刑法触れてるぞ、お前みたいな奴!


 この人は、オッサン丸出しのオカマです。山下真司みたいな顔をしたオカマで、網タイツからすね毛が出まくっているのです。


 処理せいや、すね毛ぐらい!最低限のことはやれよ、オカマを名乗るんやったら!


 このオカマは、ウインズ難波の地下1階に頻繁にいます。勇気のある方は一度、声をかけてみてください。


⑨「さっき、そこに野茂がおったで!」 30代・男性
 ウソつけ!野茂がプライベートでウインズ来るか、お前!


 「絶対に野茂やわ、あれ」


 「ほんまか?ちなみに背番号は何番やった?」


 ユニフォームで来るか!なんでプライベートでユニフォーム着ないとあかんねん!なんや、フォークの握りで1万円札を券売機に入れんのか!?


 こいつは、ワケのわからないことを言いまくっています。パドックの前で馬を見ているときなんて、「ここ、微妙に半魚人臭いな」って言ったんですよ。


 お前、どこで半魚人の臭い嗅いでん、過去に!どこやねん、そんなイカツイ動物がおる湖!「ど湖」か教えろ!


 ちなみに余談ですが、こいつは色白です。色白の顔にそばかすがたくさんあるので、なんか梨みたいでした。


⑩「競馬で大勝ちしたら、みんなで立ち飲み屋に行くぞ~!」「お~~~!」 20代・男性
 座って飲めるところ行けや!金入ってんやったらもうちょっと高いところあるやろ!


 「アー!枝豆食いたい!」


 「俺もたまには枝豆食いたい!」


 「先走るな、お前ら!それは勝ってからの話や!」


 学徒の壮行会か、これ!「戦争勝ったらみんなで一杯行こうや!」みたいなノリやんけ、これ!


 「アー!キムチ食いたい!」


 韓国系おるやんけ!1人だけオモニ思い出してる学徒がおるやんけ!


 この集団はお金がないのか、やることなすことが軒並み、わびしいです。なにしろ昼休みに、笹かまぼこを3人で回し食いしてましたから。


⑪「今の騎手にはファイデンテテーがない!」 70代・男性 
 はっ?はっ?


 「ファイデンテテーのかけらも見られへん!」


 はっ?はっ? 


 「昔の騎手みたいに、もっとファイデンテテーを持てよ!」


 アイデンティティーのこと!?俺も確証はないけど、もしかしてアイデンティティーのこと言ってんの!?


 「すいません、それ、アイデンティティーと違いますかね?」


 「いや、違う。ボクサーが持ってる奴やで?」


 ……ファイティングスピリット!?ファイティングスピリットのことをファイデンテテーとか言ってんの!?


 口内炎何個できてんねん、お前!5、6個はできてないとそんな間違い方はせえへんぞ!


 ちなみにこのジジイは、昼間から酒を飲みまくっています。持参したサキイカがなくなったため、途中から、正露丸をつまみにビール飲んでました。


⑫「あまりにも腹立ったから、便器のウンコをそのままにしてやった!」 20代・男性 
 死んだらええねん!ぜひ死ぬべきやわ、お前みたいなしょうもない奴!


 「わかるわ、その気持ち」


 「わかるやろ。みんなやってるよな?」


 やってへんわ!全員がやるんやったら、競馬場もさすがに『頼むから流してください!』って貼り紙しとるわ!


 この集団は大学生のグループで、騒ぎたおしています。何をするにつけても目立っており、そのうちの1人が自動販売機で買ったお茶を口にした瞬間、「このお茶、微妙にクワガタの味がする」って言ったんですよ。


 クワガタ茶とかあるか、お前!ファーブルしか飲まんわ、そんなイカツイお茶!


 このグループには、1人だけ女性がいます。「この子だけはまともなんやろうな」と期待していたのですが、何気に見たその顔が、柔道の篠原にそっくりでした。


⑬「武(豊)は3億円事件に1枚噛んどる!」 60代・男性
 何言ってんねん、お前!低い声で何を意味わからんこと言ってんねん!


 「あの逃げ方は、3億円事件の犯人の逃げ方と同じや」


 ……逃げ切ったってこと!?競馬の逃げ切りと犯人が逃げ切ったことを同列にあつかってんの!?


 「そもそも武もキツネ目やしな」


 ええ加減にせいよ、お前!なんでそんなことで犯人あつかいされないとあかんねん!そもそも事件があったときに武はまだ生まれてないわ!


 あとまったくの余談ですが、このオッサンは、手作り弁当を持ってきています。昼休みにフタを空けていたので何気に見たところ、オカズの切り干し大根のシェア率が7割を超えてました。


⑭「(持参したクマのぬいぐるみに)クーちゃん、次のレース、何番がくる?2番?それとも9番?そうか。クーチャンは9番か。……ほんとに9番?」 30代・女性
 病院行け、お前!おそらく脳に黒いのができてるわ!


 「ほんとに9番かな?もう一回訊くよ、ほんとに9番?」


 最初から2番って言わせろや、じゃあ!すべてはお前次第やねんから最初から2番って言わしたらええやんけ!


 「クーちゃんだから、9番にしたんじゃないの?」


 やかましいわ!気持ち悪いうえにダジャレ言うってどういうことやねん!和田勉か!


 ずっとしゃべってるんですよ、クマのぬいぐるみと。周囲が引いてるのもおかまいなしにしゃべり続け、馬券を買うために席を離れる際、めちゃくちゃかわいい声で「クーちゃん、しばしのお別れ!!!」って言ったんですよ。


 気持ち悪っ、こいつ!ていうか持って行けや、クーちゃん!そこまで好きやったら一緒に連れて行ったらええやんけ!


 ちなみに余談ですが、こいつの携帯の待ち受け画面は、ヴェルディ時代のはしゃいでる武田でした。


⑮「(全然知らん奴が僕に)よう!」 50代・男性
 誰やねん、お前!なあ誰、当たり前のように俺にあいさつしてきたけど!?


 「まだコート着るんは早いやろ?」


 誰やねん、だからお前!なんで全然知らん奴にそんなこと言われないとあかんねん!


 「水口さん、来てる?」


 誰やねん、水口って!お前が誰かもわからんのに水口なんて知ってるわけないやろ!


 「チャボは?」


 誰やねんチャボって!そんな東南アジア系の知り合いなんておらんわ、俺!


 もうワケがわかりませんよ、こんな奴。


⑯「(全然知らん奴が僕に)兄ちゃん、このハッサク、剥いてや?」 50代・男性
 誰やねん、お前も!なあ誰、何の面識もない俺にいきなりムチャな要求してきたけど!?


 「すいません、僕も剥くのが苦手なんで」


 「苦手でも、がんばったら剥けるもんやで」


 じゃあお前が剥けや!お前ががんばったらええやんけ!ていうかなんでこんなにフレンドリーやねん、この競馬場!チャボがどうやとかハッサクがどうやとかよ!


 「じゃあ、チャボ、剥いてや?」


 チャボおった!俺の近くにまさかのチャボが!


 「いいよ」


 OKやった!ていうかオッサンやんけ、チャボって!てっきり外人やと思ってたら普通のオッサンやんけ!


 「チャボって、執行猶予いつまでやったっけ?」


 ごめん、席移動するわ、俺!なんかここ怖い!いろんな意味で怖い!


 地方競馬は、客同士の距離感が近いです。みなさまも一度、足を運んでみてください。ベンチに座ろうものなら、100%、話しかけられますから。


⑰「(直線で)いいね!いいね!いいね!」 30代・男性
 フェイスブックか!「いいね!」って今流行りのフェイスブックやんけ!


 「いいねいいねいいね!」


 なんぼほどいいね渡すねん、お前!誰でもいいから友達増やしたい奴か!


 こいつは、僕の大学時代の後輩です。僕とは競馬場に一緒に行く仲で、その昔、阪神競馬場で行われるG1「宝塚記念」でゴール前の席を確保するために、僕らは朝から入場門の前に並んでいました。いざ開門し、こいつがものすごいスピードで駆け抜けたので、僕は「すごい気合いやな!」と頼もしかったのですが、そのままトイレ行ったんですよ。


 トイレのダッシュ、それ!?5時間以上並んだのにトイレに行くの!?


 「トイレ行かしてください!膀胱がディープインパクトなんです!」


 ようわからん、それ!「いいね!」はやれんぞ、そんなんには!


 ちなみにそんな彼ですが、こいつはその昔、亡くなった母親の命日に、人妻風俗に普通に行きました。


⑱「お前みたいな奴は家に帰ってバアチャンのオッパイでも吸っとけ!」 50代・男性
 母ちゃんにせいや!なんでババアの黒乳吸わないとあかんねん!


 「ずっとチューチュー吸っとけ!」


 吸えるか、あんなゴミ!ババアの乳なんてゴミと一緒じゃ!「萌えないゴミ」じゃ、あんなもん!


 こいつは、ブチギレています。場内のモニターに映る騎手に怒りをぶちまけ、とある騎手が現れた瞬間、「ワレ、帰り道、気つけろよ!」って言ったんですよ。


 おまわり呼ぶぞ、もう!警備員と違うぞ、もうおまわりを呼ぶぞ!


 「原付きで突っ込んだるからな!」


 バイクにせいや!お前、さっきからなんで意図的にグレード下げんねん!ハーレーかなんかで突っ込めよ、やるんやったら!


 このオッサンは、口に、ずっと爪楊枝をくわえています。それをいつ武器に使わないかと、見ている僕はヒヤヒヤでしたよ。


⑲「(僕に)なあ兄ちゃん、わしのチンチンの上がり3ハロン教えたろか?」 70代・男性 
 ごめん、何言ってんの、自分!?初対面の俺に急に何言ってくれてんの!?


 「すごいぞ、わしのチンチンの上がりタイム!」


 意味わからん!チンチンの上がりって、もしかして「立つ」ってこと!?チンチンが立ち上がるまでにかかった時間のこと言ってんのか!?


 「ババアが悪くても32秒台や!」


 馬場や!お前のババアのテクニック知らんわ、こっちは!


 「ババアが湿ってても32秒台や!」


 馬場や、だから!ババアの濡れっぷりを想像させんなよ、気持ち悪い!濡れるババアなんて見つけ次第うば捨て山行きじゃ、メモっとけ!


 この人はお酒を飲みすぎて、完全に自分を見失っています。途中でソフトクリームを購入したものの、自分の話に夢中になりすぎて、食べ切るのに10分以上かかってました。



 そして、最後。


 これはマジで、自分の目を疑いました。正確には野次でもなんでもないのですが、今回の殿堂入りとさせていただきます。


⑳「ハアハア、ハアハア」 90代・男性
 大丈夫!?生きるというそれ自体に息切れてんねんけど、マジでこんなところにいて大丈夫!?


 「ハアハア、ウグッ」


 ほんまに大丈夫!?あきらかに老衰へのカウントダウンが始まってんねんけど大丈夫!?


 「差せ……」


 声ちっちゃ!むしろ俺のほうに補聴器がいる!


 「もう、わしから取らんといて……」


 家いとけや、お前!余命考えたらもういらんやろ、お前に金は!


 ほとんど死んでるんですよ、このジジイ。ミイラと紙一重のジジイで、体が常にプルプルと震えているのです。


 競馬場には、サービスエリアのように、紙コップのお茶を無料で提供しています。このジジイもお茶を手にしたのですが、体が震えすぎて歩きながらこぼし、席に戻るころにはほとんど残ってないんですよ。


 家いとけって、マジで!震えでお茶こぼすような奴、マジで家いとけって!


 「熱い……」


 温茶いくなよ、お前!こぼすのを見越して冷たいほういけや!


 競馬場には、100歳近い老人もいます。やることなすことがツッコミどころ満載で、その発言ではなく、その存在自体を殿堂入りとさせていただきます。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみに⑳でご紹介した、死にかけのジジイ。


 このジジイはその後、場内のフードコートにある吉野家に行って、「半ライスくれ……」って言いました。

 

馬券負けた奴の発言はどれだけすさまじいか?の考察⑥(携帯読者用)

 最近、競馬場とウインズに寄るのが日課になりました。

 平日は帰宅の道すがらにある、地方競馬場に寄ります。休日出勤のときは大阪のウインズに、休日に仕事がないときも地元の阪神競馬場に行くなどして、「あるもの」を徹底的にリサーチしたのです。

 そう、「ロストシャウト」です。

 僕は競馬場の野次、罵声、嘆息など、ひっくるめてロストシャウトと定義しています。最近では調べるのが日課になり、「ロストシャウト帳」なるネタ帳を常時、携行するようになったのです。

 人間は、お金が絡むと本性が出ます。馬券をはずした怒りで我を忘れ、とんでもない言葉をシャウトするのです。

 なかでも、地方競馬のロストシャウター。

 本当にこいつらだけは、常軌を逸してますよ。キャラも濃く、毎日開催されていることから人生を賭けた猛者ばかりで、キレっぷりが尋常ではないのです。

 そこで今回は、「馬券負けた奴の発言はどれだけすさまじいか?」の考察⑥です。

 以下、競馬歴25年の僕が過去に聞いた、とんでもないロストシャウトの数々をご紹介します。

①「性病移したろか!」 20代・男性
 いきなりすごいのがきましたよ。

 こいつは、競馬場の直線の前に陣取っています。顔面を紅潮させて怒っており、馬に乗ってやってきた騎手に直接叫びやがったのです。

 一緒にいる仲間も、その暴言に対して何も言いません。一切注意せず、仲間の1人が「移したれ、移したれ!あのときのように!」って言ったんですよ。

 どのときやねん!めっちゃ怖いやんけ!

 「あの祭りを再び!」

 祭りってなんやねん!めっちゃ怖そうやねんけど、そのお祭り!?

 ちなみに余談ですが、こいつは若ハゲです。まだ20代なのにもかかわらず、残念なことに、毛沢東と同じハゲ方してました。

②「北方領土は返さんでええからわしの金返せ!」 60代・男性 
 勝手なこと言うな、お前!同じ天秤に載せんなよ、そんなもん!

 「国後とかはええからわしの晩飯代返せや!」

 お前の晩飯とかどうでもええわ!そんなに腹減ってるんやったらハズレ馬券食っとけ!腹壊して、「馬券は当たらんかったけど食いもんにあたったわ!」とか言っとけ!

 このオッサンは、園田競馬場の常連です。僕とは話をする仲で、僕に先日、「兄ちゃん、わし、ノドにハモの小骨が6年刺さったままやねん」って言ったんですよ。

 6年刺さってんの!?何考えてんねん、お前!

 「もう、慣れたわ」

 慣れるか、そんなもん!そもそも慣れさせる意味がわからん!医者に診てもらったらええやんけ!

 もうワケがわかりませんよ、こんな奴。

③「どこの馬の骨かわからんような馬を走らせんなよ!」 60代・男性
 ようわからん、お前!言葉の馬率が高すぎてようわからん!

 「海の物とも山の物ともどこの馬の骨かもわからようなこんな馬をよ!」

 ますますわからん!で、噛まんとよく言えたな、こんなややこしいセリフ!そこは認めるわ!

 このオッサンは、レースが終わるごとに叫びます。「どこの馬の骨~」と「海の物とも~」の2つを頻繁に使って叫び、しまいには「海の物とも山の物ともどこの物ともわからんような馬の骨ども」って言ったんですよ。

 意味わからん!何が言いたいのかまったくわからん!もうお前自体が海の物とも山の物ともわからんわ!

 あとまったくの余談ですが、このオッサンは、首の裏に、プリンみたいなイボがあります。

④「遅咲き!」 60代・男性 
 何があかんねん、遅咲きの!遅咲きでも別にええやんけ!

 「遅咲きのくせに調子乗んな!」

 やかましいわ!亀の生き様なめんな、お前!俺の知り合いのホストも童貞捨てたんは21のときやってんぞって何言わすねん、お前!関係あらへんやんけ!

 このオッサンは、返し馬をする騎手に罵声を浴びせています。「金返せ!」「しっかり乗らんかい!」はもちろんのこと、「携帯鳴ってるぞ!」って言ったんですよ。

 携帯持ってるか、騎乗中に!なんや、馬に乗りながらツイッターしてんのか!?「今、3番手なう」とか書き込んでんのか!?

 このオッサンは、阪神競馬場の常連です。僕はこのオッサンをかれこれ10年以上見てますが、ここ10年で、服2着です。

⑤「誰か、わしにタクシー代貸してくれ!?」 50代・男性 
 電車で帰れや!電車で帰れよ、人に金借りるんやったら!

 「頼むわ、タク代貸して?」

 やかましいわ!何をちょっと優雅に帰ろうとしとんねん!

 「3万でええから!」

 飲み代含んでない、それ!?飲み代と飲んだあとのタクシー代も含んでるとしか思えんねんけど、その金額!?

 このオッサンは負けが込んで、帰りの交通費がなくなったのでしょう。ですが、「金があらへん!」とか言いつつ、普通に翌日の競馬新聞を買ってました。

⑥「ノーディキャンゴンニダ!トーディチングルラシマーカネヨ!」 20代・韓国人 
 わからんねん、お前!キレてんのはわかるけど韓国語やから何言ってるかわからんねん!

 「ユウヘイスオンクニダ!サンレーステッドインクヘンセヨ!」

 3レースにキレてんの!?今、軽く3レースって聞こえてんけどさっきのレースにむかついてるんや!?

 「サンレースハンサンニダ?」

 「トーディゲンゴン、サンレースアムニ!」

 「サンレースアムニ!サンレース……」

 大使館行け、もうお前ら!大使館に行って聞いてもらえ、そんなクレーム!ていうかもうこの言い合いが第4レースやわ!「コリアン特別」やわ、この言い合い!

 この韓国人集団は、気性が荒いです。レースが終わるたびにツバを飛ばしながらまくしたてるので、見ていて恐ろしかったですよ。

⑦「♪ねえムーミン!ハンコついて!」 30代・男性
 怖いわ!怖すぎるわ、こんな替え歌!

 「♪後先かんが~えな~いで!」

 歌詞が怖い!歌詞がえげつなすぎる!

 「♪その場の勢いにま~か~せ~て!」

 語呂、おい!「その場の勢い」のところを言う勢いがすごいわ!スナフキンに編曲頼め!

 ちなみに余談ですが、こいつは、クチビルがガッサガサに荒れています。昼休みに場内のフードコートでうどんを食べ始めたのですが、スープを口にした瞬間、めちゃくちゃ高い声で「ウ~!チュミル~!」って言いました。

⑧「(網タイツとスカートを履いたオッサンが)どういうつもりやねん……」 50代・男性 
 お前もや!お前もどういうつもりやねん!

 「筋が通らんことすんなよ!」

 お前も筋通ってないねん!時代が時代やったら刑法触れてるぞ、お前みたいな奴!

 この人は、オッサン丸出しのオカマです。山下真司みたいな顔をしたオカマで、網タイツからすね毛が出まくっているのです。

 処理せいや、すね毛ぐらい!最低限のことはやれよ、オカマを名乗るんやったら!

 このオカマは、ウインズ難波の地下1階に頻繁にいます。勇気のある方は一度、声をかけてみてください。

⑨「さっき、そこに野茂がおったで!」 30代・男性
 ウソつけ!野茂がプライベートでウインズ来るか、お前!

 「絶対に野茂やわ、あれ」

 「ほんまか?ちなみに背番号は何番やった?」

 ユニフォームで来るか!なんでプライベートでユニフォーム着ないとあかんねん!なんや、フォークの握りで1万円札を券売機に入れんのか!?

 こいつは、ワケのわからないことを言いまくっています。パドックの前で馬を見ているときなんて、「ここ、微妙に半魚人臭いな」って言ったんですよ。

 お前、どこで半魚人の臭い嗅いでん、過去に!どこやねん、そんなイカツイ動物がおる湖!「ど湖」か教えろ!

 ちなみに余談ですが、こいつは色白です。色白の顔にそばかすがたくさんあるので、なんか梨みたいでした。

⑩「競馬で大勝ちしたら、みんなで立ち飲み屋に行くぞ~!」「お~~~!」 20代・男性
 座って飲めるところ行けや!金入ってんやったらもうちょっと高いところあるやろ!

 「アー!枝豆食いたい!」

 「俺もたまには枝豆食いたい!」

 「先走るな、お前ら!それは勝ってからの話や!」

 学徒の壮行会か、これ!「戦争勝ったらみんなで一杯行こうや!」みたいなノリやんけ、これ!

 「アー!キムチ食いたい!」

 韓国系おるやんけ!1人だけオモニ思い出してる学徒がおるやんけ!

 この集団はお金がないのか、やることなすことが軒並み、わびしいです。なにしろ昼休みに、笹かまぼこを3人で回し食いしてましたから。

⑪「今の騎手にはファイデンテテーがない!」 70代・男性 
 はっ?はっ?

 「ファイデンテテーのかけらも見られへん!」

 はっ?はっ? 

 「昔の騎手みたいに、もっとファイデンテテーを持てよ!」

 アイデンティティーのこと!?俺も確証はないけど、もしかしてアイデンティティーのこと言ってんの!?

 「すいません、それ、アイデンティティーと違いますかね?」

 「いや、違う。ボクサーが持ってる奴やで?」

 ……ファイティングスピリット!?ファイティングスピリットのことをファイデンテテーとか言ってんの!?

 口内炎何個できてんねん、お前!5、6個はできてないとそんな間違い方はせえへんぞ!

 ちなみにこのジジイは、昼間から酒を飲みまくっています。持参したサキイカがなくなったため、途中から、正露丸をつまみにビール飲んでました。

⑫「あまりにも腹立ったから、便器のウンコをそのままにしてやった!」 20代・男性 
 死んだらええねん!ぜひ死ぬべきやわ、お前みたいなしょうもない奴!

 「わかるわ、その気持ち」

 「わかるやろ。みんなやってるよな?」

 やってへんわ!全員がやるんやったら、競馬場もさすがに『頼むから流してください!』って貼り紙しとるわ!

 この集団は大学生のグループで、騒ぎたおしています。何をするにつけても目立っており、そのうちの1人が自動販売機で買ったお茶を口にした瞬間、「このお茶、微妙にクワガタの味がする」って言ったんですよ。

 クワガタ茶とかあるか、お前!ファーブルしか飲まんわ、そんなイカツイお茶!

 このグループには、1人だけ女性がいます。「この子だけはまともなんやろうな」と期待していたのですが、何気に見たその顔が、柔道の篠原にそっくりでした。

⑬「武(豊)は3億円事件に1枚噛んどる!」 60代・男性
 何言ってんねん、お前!低い声で何を意味わからんこと言ってんねん!

 「あの逃げ方は、3億円事件の犯人の逃げ方と同じや」

 ……逃げ切ったってこと!?競馬の逃げ切りと犯人が逃げ切ったことを同列にあつかってんの!?

 「そもそも武もキツネ目やしな」

 ええ加減にせいよ、お前!なんでそんなことで犯人あつかいされないとあかんねん!そもそも事件があったときに武はまだ生まれてないわ!

 あとまったくの余談ですが、このオッサンは、手作り弁当を持ってきています。昼休みにフタを空けていたので何気に見たところ、オカズの切り干し大根のシェア率が7割を超えてました。

⑭「(持参したクマのぬいぐるみに)クーちゃん、次のレース、何番がくる?2番?それとも9番?そうか。クーチャンは9番か。……ほんとに9番?」 30代・女性
 病院行け、お前!おそらく脳に黒いのができてるわ!

 「ほんとに9番かな?もう一回訊くよ、ほんとに9番?」

 最初から2番って言わせろや、じゃあ!すべてはお前次第やねんから最初から2番って言わしたらええやんけ!

 「クーちゃんだから、9番にしたんじゃないの?」

 やかましいわ!気持ち悪いうえにダジャレ言うってどういうことやねん!和田勉か!

 ずっとしゃべってるんですよ、クマのぬいぐるみと。周囲が引いてるのもおかまいなしにしゃべり続け、馬券を買うために席を離れる際、めちゃくちゃかわいい声で「クーちゃん、しばしのお別れ!!!」って言ったんですよ。

 気持ち悪っ、こいつ!ていうか持って行けや、クーちゃん!そこまで好きやったら一緒に連れて行ったらええやんけ!

 ちなみに余談ですが、こいつの携帯の待ち受け画面は、ヴェルディ時代のはしゃいでる武田でした。

⑮「(全然知らん奴が僕に)よう!」 50代・男性
 誰やねん、お前!なあ誰、当たり前のように俺にあいさつしてきたけど!?

 「まだコート着るんは早いやろ?」

 誰やねん、だからお前!なんで全然知らん奴にそんなこと言われないとあかんねん!

 「水口さん、来てる?」

 誰やねん、水口って!お前が誰かもわからんのに水口なんて知ってるわけないやろ!

 「チャボは?」

 誰やねんチャボって!そんな東南アジア系の知り合いなんておらんわ、俺!

 もうワケがわかりませんよ、こんな奴。

⑯「(全然知らん奴が僕に)兄ちゃん、このハッサク、剥いてや?」 50代・男性
 誰やねん、お前も!なあ誰、何の面識もない俺にいきなりムチャな要求してきたけど!?

 「すいません、僕も剥くのが苦手なんで」

 「苦手でも、がんばったら剥けるもんやで」

 じゃあお前が剥けや!お前ががんばったらええやんけ!ていうかなんでこんなにフレンドリーやねん、この競馬場!チャボがどうやとかハッサクがどうやとかよ!

 「じゃあ、チャボ、剥いてや?」

 チャボおった!俺の近くにまさかのチャボが!

 「いいよ」

 OKやった!ていうかオッサンやんけ、チャボって!てっきり外人やと思ってたら普通のオッサンやんけ!

 「チャボって、執行猶予いつまでやったっけ?」

 ごめん、席移動するわ、俺!なんかここ怖い!いろんな意味で怖い!

 地方競馬は、客同士の距離感が近いです。みなさまも一度、足を運んでみてください。ベンチに座ろうものなら、100%、話しかけられますから。

⑰「(直線で)いいね!いいね!いいね!」 30代・男性
 フェイスブックか!「いいね!」って今流行りのフェイスブックやんけ!

 「いいねいいねいいね!」

 なんぼほどいいね渡すねん、お前!誰でもいいから友達増やしたい奴か!

 こいつは、僕の大学時代の後輩です。僕とは競馬場に一緒に行く仲で、その昔、阪神競馬場で行われるG1「宝塚記念」でゴール前の席を確保するために、僕らは朝から入場門の前に並んでいました。いざ開門し、こいつがものすごいスピードで駆け抜けたので、僕は「すごい気合いやな!」と頼もしかったのですが、そのままトイレ行ったんですよ。

 トイレのダッシュ、それ!?5時間以上並んだのにトイレに行くの!?

 「トイレ行かしてください!膀胱がディープインパクトなんです!」

 ようわからん、それ!「いいね!」はやれんぞ、そんなんには!

 ちなみにそんな彼ですが、こいつはその昔、亡くなった母親の命日に、人妻風俗に普通に行きました。

⑱「お前みたいな奴は家に帰ってバアチャンのオッパイでも吸っとけ!」 50代・男性
 母ちゃんにせいや!なんでババアの黒乳吸わないとあかんねん!

 「ずっとチューチュー吸っとけ!」

 吸えるか、あんなゴミ!ババアの乳なんてゴミと一緒じゃ!「萌えないゴミ」じゃ、あんなもん!

 こいつは、ブチギレています。場内のモニターに映る騎手に怒りをぶちまけ、とある騎手が現れた瞬間、「ワレ、帰り道、気つけろよ!」って言ったんですよ。

 おまわり呼ぶぞ、もう!警備員と違うぞ、もうおまわりを呼ぶぞ!

 「原付きで突っ込んだるからな!」

 バイクにせいや!お前、さっきからなんで意図的にグレード下げんねん!ハーレーかなんかで突っ込めよ、やるんやったら!

 このオッサンは、口に、ずっと爪楊枝をくわえています。それをいつ武器に使わないかと、見ている僕はヒヤヒヤでしたよ。

⑲「(僕に)なあ兄ちゃん、わしのチンチンの上がり3ハロン教えたろか?」 70代・男性 
 ごめん、何言ってんの、自分!?初対面の俺に急に何言ってくれてんの!?

 「すごいぞ、わしのチンチンの上がりタイム!」

 意味わからん!チンチンの上がりって、もしかして「立つ」ってこと!?チンチンが立ち上がるまでにかかった時間のこと言ってんのか!?

 「ババアが悪くても32秒台や!」

 馬場や!お前のババアのテクニック知らんわ、こっちは!

 「ババアが湿ってても32秒台や!」

 馬場や、だから!ババアの濡れっぷりを想像させんなよ、気持ち悪い!濡れるババアなんて見つけ次第うば捨て山行きじゃ、メモっとけ!

 この人はお酒を飲みすぎて、完全に自分を見失っています。途中でソフトクリームを購入したものの、自分の話に夢中になりすぎて、食べ切るのに10分以上かかってました。


 そして、最後。

 これはマジで、自分の目を疑いました。正確には野次でもなんでもないのですが、今回の殿堂入りとさせていただきます。

⑳「ハアハア、ハアハア」 90代・男性
 大丈夫!?生きるというそれ自体に息切れてんねんけど、マジでこんなところにいて大丈夫!?

 「ハアハア、ウグッ」

 ほんまに大丈夫!?あきらかに老衰へのカウントダウンが始まってんねんけど大丈夫!?

 「差せ……」

 声ちっちゃ!むしろ俺のほうに補聴器がいる!

 「もう、わしから取らんといて……」

 家いとけや、お前!余命考えたらもういらんやろ、お前に金は!

 ほとんど死んでるんですよ、このジジイ。ミイラと紙一重のジジイで、体が常にプルプルと震えているのです。

 競馬場には、サービスエリアのように、紙コップのお茶を無料で提供しています。このジジイもお茶を手にしたのですが、体が震えすぎて歩きながらこぼし、席に戻るころにはほとんど残ってないんですよ。

 家いとけって、マジで!震えでお茶こぼすような奴、マジで家いとけって!

 「熱い……」

 温茶いくなよ、お前!こぼすのを見越して冷たいほういけや!

 競馬場には、100歳近い老人もいます。やることなすことがツッコミどころ満載で、その発言ではなく、その存在自体を殿堂入りとさせていただきます。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみに⑳でご紹介した、死にかけのジジイ。

 このジジイはその後、場内のフードコートにある吉野家に行って、「半ライスくれ……」って言いました。

ブログ、再開のお知らせ(パソコン読者用)

 こんにちわ。バスコです。


 読者のみなさま、いつも当ブログをご覧になっていただきまして、ありがとうございます。


 来週からブログを再開することにしたので、ご報告しておきます。


 ご承知のとおり、昨年末に下ネタの記事が引き金となって、前ブログ『バスコの人生考察』を強制退会させられました。それから3ヶ月使って、目立った過去記事を再アップして参りました。


 半分しかアップできませんでしたが、なんとか形になったと思います。書き切れなかった記事は、別の機会にさせてください。


 ならびに、アメブロにアップできなかった下ネタの記事に関しては、いずれ新しいブログを立ち上げます。3月中にやっておきたかったのですが、時間が取れませんでした。追って新しく立ち上げ、そこにアップしますので、いずれまた告知させてください。


 ところで、僕の新刊『楽しく生き抜くための笑いの仕事術』をお買い求めになった方、ありがとうございます。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/

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 まだの方は、ぜひ、当ブログの購読料代わりとして1冊、ご購入ください。


 まだ印税は入っていませんが、その大部分を、震災の寄付にまわします。現段階で寄付してる分も含めて、僕と僕の両親とで、安い車を買えるぐらいの金額は寄付しますので。


 それと、ちょうど1ヶ月前に出版の告知をし、アメンバーの申請を受けつけました。たくさんの人に申請していただき、僕の本を紹介してくれる条件で「木下さんは何者か?の考察~特別編~」の記事を読めるようにしたのですが、まだ3分の1の人にも紹介してもらってません。読み逃げだけはマジで勘弁してください。僕もたくさんの時間を使って記事を書きましたので。


 ならびに、宣伝にご協力いただいた方には、心よりお礼を申し上げます。


 中には、そこまでしてくれるか、という方もおられます。心より感謝の言葉を申し上げます。本当にありがとうございます。


 次に、ブログを再開するにあたって、アンケート調査をさせてください。


 このアンケート調査をもとにして、今後の記事を構成していきます。対象となる記事は、「新・バスコの人生考察」になってからアップした、以下の記事になります。この中から5つを選んで、「1位~5位」という形で、コメントとして記入、もしくは、アメブロのメッセージ機能を使ってご連絡いただければ、と思います。


 特に、このブログの読者の中には、弁護士や医者といった、お堅い職業に就かれている方もいます。そういった方が、僕のブログのどこで笑っているのかが、とても気になるのです。


 アンケートの際には、以下の6点をご記入いただければ、幸いです。


・年齢
・性別
・職業
・このブログをどこで知ったか。
・カレーにゴーヤ、ありか、なしか?

・ババアの三つ編み、なしか、なしか?


 エントリー記事は、以下の32タイトルになります。


●これは何なのか?の考察
●餃子の王将のランチピーク時はどれだけ雑か?の考察
●ブルーを乗り越えるにはどうすればいいか?の考察
●焼肉奉行はやめにするべきではないか?の考察
●ベロンベロンの酔っ払いの相手はどれだけ大変か?の考察
●流すのがもったいないほど芸術性の高いウンコが出た場合はどうするべきか?の考察
●オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察
●日本の政治家はどれだけユーモアセンスがないか?の考察
●ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?の考察
●片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?の考察
●木下さんは何者か?の考察
●グイグイはやめにするべきではないか?の考察
●床に落とした食べ物、どこまで拾って食べていいか?の考察
●ヨン様会はそれだけ凄いか?の考察
●大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?の考察
●餃子の王将はどれだけ濃いか?の考察
●馬券負けた奴の発言はどれだけ凄まじいか?の考察
●度がすぎる合席はやめにするべきではないか?の考察
●北斗の拳でケンシロウに殺された雑魚の遺族はその後どうなったか?の考察
●告白しない片思いに何か意味はあるか?の考察
●山で野グソをするときに注意しなければならないことは何か?の考察
●銭湯で隣にヤクザが座ったらどうやって体を洗うべきか?の考察
●結婚式で花嫁を奪い去るときに注意しなければならないことは何か?の考察
●死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?の考察
●それ、言ってどうするのか?の考察
●鬼太郎に出てくる妖怪はおかしくないか?の考察
●そんなときは夜の散歩ではないか?の考察
●若手社員のやる気を引き出すために、どういった社内サービスをするべきか?の考察
●下町の商店街はどれだけ濃いか?の考察
●心の防空壕を作るべきではないか?の考察
●高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?の考察
●神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察


 初期のころからお読みの方で、もし、「ここにない記事をもう1度読みたい」とおっしゃる方がいたら、ご連絡ください。折を見て、再アップさせていただきますので。


 最後になりましたが、軽い雑感を。


 当ブログも、おかげさまで、もうすぐ5年になります。


 この5年、いろいろなことがありました。特に昨年末、ブログの記事を全部消されたときは、本当に参りました。


 ご承知のとおり、僕のブログは超長文です。プライベートの時間と睡眠時間を削るしか、時間を捻出できません。それだけのことをやって書いた記事を全部消されたので、生まれて初めてですよ、「終わった……」って言葉を口にしたの。


 ただ、狂気に身を委ねてこそ、得られるものもあります。誰もやったことがない発想のステージに足を踏み入れたという自負があるので、そこで得た創作能力は、僕の脳と手に残りました。ブログの創作過程で得た能力やノウハウを、今後のクリエーター人生に活かせれば、と思っております。


 この先どこまで続くかわかりませんが、いずれにしましても、またくだらない記事を書いていきます。時間を捻出しながらの執筆になるので、更新が滞った場合は、どうかご容赦ください。


 1年2ヵ月の休載を経て、新生バスコの人生考察、再開いたします。


 バスコ


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 半分しかアップできませんでしたが、なんとか形になったと思います。書き切れなかった記事は、別の機会にさせてください。

 ならびに、アメブロにアップできなかった下ネタの記事に関しては、いずれ新しいブログを立ち上げます。3月中にやっておきたかったのですが、時間が取れませんでした。追って新しく立ち上げ、そこにアップしますので、いずれまた告知させてください。

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 ならびに、宣伝にご協力いただいた方には、心よりお礼を申し上げます。

 中には、そこまでしてくれるか、という方もおられます。心より感謝の言葉を申し上げます。本当にありがとうございます。

 次に、ブログを再開するにあたって、アンケート調査をさせてください。

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 特に、このブログの読者の中には、弁護士や医者といった、お堅い職業に就かれている方もいます。そういった方が、僕のブログのどこで笑っているのかが、とても気になるのです。

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●これは何なのか?の考察
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●焼肉奉行はやめにするべきではないか?の考察
●ベロンベロンの酔っ払いの相手はどれだけ大変か?の考察
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●オバハン連中と行く山登りはどれだけ大変か?の考察
●日本の政治家はどれだけユーモアセンスがないか?の考察
●ピーク時の居酒屋の厨房はどれだけごった返しているか?の考察
●片思いの男性への手作り弁当はどのように創るべきか?の考察
●木下さんは何者か?の考察
●グイグイはやめにするべきではないか?の考察
●床に落とした食べ物、どこまで拾って食べていいか?の考察
●ヨン様会はそれだけ凄いか?の考察
●大学のサークル選びは死ぬほど考えるべきではないか?の考察
●餃子の王将はどれだけ濃いか?の考察
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●度がすぎる合席はやめにするべきではないか?の考察
●北斗の拳でケンシロウに殺された雑魚の遺族はその後どうなったか?の考察
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●山で野グソをするときに注意しなければならないことは何か?の考察
●銭湯で隣にヤクザが座ったらどうやって体を洗うべきか?の考察
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●死ぬほど嫌いな奴がメンバーにいる旅行はどれだけ大変か?の考察
●それ、言ってどうするのか?の考察
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●そんなときは夜の散歩ではないか?の考察
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●高級バイキングで値段以上の満足感を得るにはどうすればいいか?の考察
●神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察


 初期のころからお読みの方で、もし、「ここにない記事をもう1度読みたい」とおっしゃる方がいたら、ご連絡ください。折を見て、再アップさせていただきますので。


 最後になりましたが、軽い雑感を。

 当ブログも、おかげさまで、もうすぐ5年になります。

 この5年、いろいろなことがありました。特に昨年末、ブログの記事を全部消されたときは、本当に参りました。

 ご承知のとおり、僕のブログは超長文です。プライベートの時間と睡眠時間を削るしか、時間を捻出できません。それだけのことをやって書いた記事を全部消されたので、生まれて初めてですよ、「終わった……」って言葉を口にしたの。

 ただ、狂気に身を委ねてこそ、得られるものもあります。誰もやったことがない発想のステージに足を踏み入れたという自負があるので、そこで得た創作能力は、僕の脳と手に残りました。ブログの創作過程で得た能力やノウハウを、今後のクリエーター人生に活かせれば、と思っております。

 この先どこまで続くかわかりませんが、いずれにしましても、またくだらない記事を書いていきます。時間を捻出しながらの執筆になるので、更新が滞った場合は、どうかご容赦ください。

 1年2ヵ月の休載を経て、新生バスコの人生考察、再開いたします。

 バスコ

神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~米子沢編④・後編~(パソコン読者用)

 沢に沿って10分ほど歩いたところで、連瀑帯に出ました。


 連瀑帯は、階段のような岩場に滝が流れています。水際の階段を登り切り、休憩を取ることになりました。


 「あー、しんどっ!」


 僕はクタクタです。緑が生い茂る草むらに、リュックを枕にして寝転びました。


 ほどなくして吉田が、「この近くに大きな池があるぞ!」と知らせてきました。


 僕らは合宿に来てから、1度もお風呂に入っていません。池に入って、体を洗うことにしました。


 医療係である吉田が、シャンプーと石鹸を貸してくれます。僕は全裸になって、頭を洗いました。ハンドタオルに石鹸をこすりつけて体を洗い始めたのですが、ふと見た神林リーダーが、ふんどしで体を洗っているのです。


 ルソン島か、ここ!オアシスを見つけた一等兵か、お前は!


 「それにしても、やっぱり沢は最高やな!ここに陽子を連れてきてやりたかったわ!」


 しょうもないウソつくな!お前みたいな奴に彼女なんておるわけないやろ!


 「神林さん、彼女がおるなんてウソ、つかんといてくださいよ」


 「ウソと違うわ」


 「ウソでしょ。じゃあ訊きますけど、その彼女とはどこまでいってるんですか?」


 「恥ずかしいからそんなこと言わすなよ!」


 「いいから答えてくださいよ。本当やったら答えられるでしょ?」


 「それはご想像にお任せするわ。Aなのか、Bなのか。それともCなのか」


 東京裁判か!AとかBって、戦後の戦犯の階級やんけ!


 「まあでも正直、BとCのあいだぐらいかな」


 どこで終えんねん!BとCのあいだって、そこまでいってんやったら全部やれよ!彼女も迷惑やろ!それこそA級戦犯やろ!


 「でも、クチビルを奪うときはさすがに緊張したな!」


 昭和一桁生まれか!クチビル奪うなんて言わんぞ、今日日!「リゾラバ」ぐらい言わんぞ!


 「ちなみにバスコは、(小指を立てて)これはいるの?」


 酔っ払いのオッサンか、お前!なんでさっきから酔っ払いが絡んでくるときに言うセリフばっかり言うねん!


 「いますよ」


 「ウソつけよ!ほんまにバスコはウソつきやわ!」


 お前がウソつきやねん!100:2でお前のほうがウソつきやねん!ちなみにこの2は、俺がチンコの皮を剥いてることのウソや!このウソは認めるわ!


 時刻は8時30分になりました。


 休憩を終えた僕らは、源頭を目指して再び、歩き始めました。


 遡行図で位置を確認したところ、残り3分の1といったところ。ナメ床を進み、しばらくして、6メートルほどのチムニー滝が姿を現しました。


 チムニーとは煙突のことです。岩が裂けた煙突のような細い場所を流れ落ちる滝を、チムニー滝と呼びます。


 このチムニー滝は、ほとんど直角です。幅は130センチほどで、高さは6メートルぐらいしかないものの、両壁に足を引っ掛けながら登るしかありません。ビルの隙間を縦に登っていく感じで、ほとんどロッククライミングなのです。


 「俺がまず登るわ!俺の登り方をじっくりと見とけよ!」


 神林リーダーが威勢よく叫び、壁面に足をかけました。


 ですが、いざ登り始めたものの、苦戦しています。壁面に足の置き場がないところもあり、その場合は壁の突起をつかんで腕の力で登らなければなりません。途中で落下しそうになるなど、見るからに大変なのです。


 焦る神林リーダーを見た松山さんが、下から叫んで邪魔をします。


 「神林、落ちても死なへんから、1回落ちてみたらどうや?」


 こんなふうに茶化し、楽しそうだったので、僕も茶々を入れることにしました。


 「神林さん、どんな感じですか?」


 「……」


 「足場はもろくないですか?」


 「……」


 「神林さんって、5浪でしたよね?」


 「4浪や!」


 ここだけ返してきた!振り返って反論してきやがった!


 「陽子さんが応援してますよ!」


 「わかってるわ!言われなくても俺と陽子は常に1つ!」


 気持ち悪っ、こいつ!おりもしない彼女にこんなこと言ってるぞ!


 「永遠(とわ)に陽子と……」


 体震えてきた、俺!永遠(とわ)とか言う奴と初めて出会って体震えてきた!大西も何か言ったってくれ!?


 「神林さん、背中にナイフが刺さってますよ!」


 何言ってんねん、お前!どさくさに紛れて何言ってんねん!


 「ククク、バスコさん、背中にナイフが刺さってたら、さすがに登れないですよね?」


 何がおもろいねん、だから!どこでスイッチ入んねん!


 「途中で絶対に出血多量で死ぬわ!あかん腹痛い、腹痛い!」


 シャブ打ってない、だから?神林といいお前といい、マジでシャブ打ってるとしか思えんねんけど!?


 5分ほどして、神林リーダーは登り切りました。


 神林リーダーが上からザイルを投げ、僕らはそれをハーネスに連結します。順番に登り始め、苦戦しながらも無事、全員登り切りました。


 チムニー滝を越えると、アップダウンの激しい河原に出ました。


 巨大な岩石が広範囲に散乱し、僕らの行く手を遮ります。その1つ1つを乗り越えなければならず、進むのに時間がかかります。


 よろよろとした足取りながらも、僕らは歩を進めました。


 僕らは、昨日の昼から食事をしていません。空腹に耐えて足を運び、河原を抜けたところで、眼前に全長100メートルほどの雪渓が現われました。


 ここからは、雪渓の上を歩きます。


 といっても地面に直接付着した雪渓で、厚みも150センチほどしかありません。踏み出す足が雪にはまり込むことはあるものの、慎重に進めば問題ありません。全員でうだうだとしゃべりながら進むことにしました。


 「松山さん、今、何が1番食べたいです?」


 「俺はチャーハンが食べたいな」


 「チャーハンいいですね」


 「バスコは何が食べたいの?」


 「僕もチャーハンと豚骨ラーメンが食べたいですわ」


 「いいな、豚骨ラーメン。大西は?」


 「ビーフです」


 カウボーイか!ビーフなんて言い方、カウボーイしか使わんぞ!


 「おかきもいいですね」


 ババアか!ひと息ついてるときのババアか!


 「黒い豆の入ったおかきが食べたいです」


 クソババアか!お前それ、クソババア専門のおかきやんけ!ゴリゴリのクソババアしか食わんわ、そんな趣味悪いおかき!


 「それより、バスコは家に帰ったら、まず何がしたい?」


 「そうですね。まあでも、すぐに飯食いますかね」


 「そうやろな。大西は?」


 「犬と遊びます」


 ムツゴロウか!とりあえず飯食えよ!犬と遊ぶんは飯食ってからにせいや!


 「神林さんは、帰ったらまず何をします?」


 「えっ?」


 耳鼻科行け、まず!お前は何をおいてもまず耳鼻科に行け!


 「(大西が)ドスン!」


 落ちた!大西が雪渓の下に落ちた!胸から下が全部雪に埋まった!


 「バスコさん、手を貸してください」


 「ほんまにお前だけは……」


 「ありがとうございます。助かりましたわ、ツルン!」


 居残れ、もうここに!もう山に居残ってくれ、人間界のために!長い目で見たらそれはお前のためにもなるから!


 雪渓を越え、再び、沢の本流に出ました。


 源頭まではもう、そんなに遠くはありません。近くの滝の下で、最後の休憩を取ることになりました。


 ふと見ると、神林リーダーと大西が、プロレスの話で盛り上がっています。神林リーダーもプロレスが大好きです。2人で延々とマサ斉藤の話をするなど、やけに仲がよくなっているのです。


 大西は、この合宿であか抜けました。


 初日はあれほど無口だったのに、今では自分から話しかけてきます。成長と呼んでいいのかはわかりませんが、体に芯が通ったことは間違いないでしょう。


 途中から、神林リーダーと大西が下ネタしりとりを始めました。


 前回同様、ものすごい応酬です。途中で「夜の職員室」と聞こえてくるなど、前回にも増してすごいボキャブラリーになっているのです。


 時刻は10時をまわりました。


 休憩を終えた僕らは、遡行を再開しました。


 進むにつれて、沢の水かさが増してきました。


 上流のほうからは、スノーブリッジの崩れる音が響いてきます。不安で仕方がなく、ほどなくして僕らの眼前に、激流が現れました。


 この激流は、ゴルジュになっています。ゴルジュというのは、流れの両岸に、垂直に近い岸壁が迫った地形のことです。壁のあいだに川が流れ、このゴルジュは幅が広いため、両方の壁に足を掛けられません。片方の壁に張りついて岩の突起をつかみ、30メートル近い距離をトラバースする(横に移動する)しかないのです。


 中央に流れる川は、激流になっています。足を踏み外せば、どこまで流されるかわかりません。


 最悪や……。まさか沢登りで、こんなところに遭遇するとは思ってなかった……。


 いずれにせよ、進むしかありません。ほかに道はなく、水面から50センチほど上の壁面に張りついて、横にゆっくりと移動し始めました。


 隊列は、神林リーダー、大西、僕、吉田、松山さんの順。リュックが重すぎて、背中から落ちそうになります。岩の突起をつかんで慎重に足を運び、8メートルほど進んだ地点で、後半の壁にコケが生えていることに気がつきました


 コケに足を掛けたらすべります。トラバースは無理で、少し先の壁面の下に砂地があります。僕らはひとまずその砂地に着地し、そこで話し合った結果、激流に身を預け、縦に押しくらまんじゅうをしながら突破することになったのです。


 幸いにも、水深はそれほど深くありません。ぎりぎり足が届くので、激流に浸かって縦に並び、壁の突起や前の人のリュックをつかみながら前進することになりました。


 コケの直前から始めると危険です。この砂地からスタートすることになり、僕はドキドキです。祈るような気持ちで激流に身を預けたのですが、進み始めるやいなや、僕の前を進む神林リーダーと大西が下ネタしりとりを始めたのです。


 なんでやねん、お前!状況考えろよ、お前ら!いつ流されてもおかしくないねんぞ!


 「胸」


 「寝巻きのままやる」


 「る、る、る……」


 「パスか?なあ大西、パスか?」


 やかましいわ!パスやあるか、こんな状況で!


 「類人猿とやる」


 意味わからん!ていうか、その時代は相手も類人猿やねん!その時代のスタンダードやねん、それは!


 それでもなんとかして進み、激流を突破していきます。ところが岸壁がカーブになった瞬間に水圧が強くなり、先頭の神林リーダーがバランスを崩しました。それにつられて後ろの僕らも態勢を崩し、僕らはなんとか壁の突起をつかんだのですが、つかむところのなかった大西が激流に流されていったんですよ!


 「大西!大西!」


 「閉経!!!」


 続き!?下ネタしりとりの続き!?流されながら閉経とか言うの!?もし死んだら遺言が閉経になるけどいいの!?お前のお母さんに「息子は最後に何か言ってましたか?」と訊かれて「閉経って言ってました」と報告するけどいいの!?


 「閉経!閉経!」


 お前の思いは受け取った!お前のその最後の言葉をお前の両親に伝えるわ!


 「アグググググ、南大……」


 みなまで言うな!大丈夫や、閉経ってちゃんと南大門にも伝えるから!


 僕らはどうすることもできません。ひとまずゴルジュを抜けました。


 10分ほどして、大西の叫び声が聞こえてきました。


 「みなさーん!僕はここです!」


 どうやら助かったようです。


 ザイルを投げて、大西のリュックに連結させました。僕らはザイルを引っ張り、大西はリュックをビーチ板にして泳いできました。


 訊くと、30メートル以上も流されたそうです。岸壁にせき止められ、体を打ちつけました。腕と腰の軽い打撲で済んだらしく、急死に一生を得たのです。


 大西の無事を確認し、僕らは遡行を再開しました。


 遡行図で確認したところ、残りはあとわずか。小さな滝を高巻きながら進み、しばらくして、20メートルの滝が姿を現しました。


 この滝は水流の勢いがすごく、ほとんど直角です。ロッククライミングするしかなく、表面は水あかでヌルヌルとしています。突起も少なく、高巻くのが当然なのですが、これが最後の難関です。最後に逃げるのはダメだ、という空気が僕らのあいだに流れており、暗黙の了解で登ることになりました。


 落下したら、命に関わります。先頭の神林リーダーにもビレイを設置することになりました。


 岩場の途中で、神林リーダーはハーケンを打ちつけます。そこにザイルを通してハーネスに連結し、下で待つ松山さんが残りのザイルを体に巻きつけます。こうすることで足を滑らせても、ハーケンの位置で体が止まるのです。


 ですが、経験者の神林リーダーでさえ、苦戦しています。登り切るのに10分近くかかり、次の吉田も悪戦苦闘なのです。


 吉田が登り切り、僕の番になりました。


 岩場に足をかけると、思っていた以上に滑ります。腕の力で登ろうとするものの、連日のヤブこぎがたたって力が入りません。それでも僕は奮起し、10分以上かかって、なんとか登り切りました。


 次は、大西です。大西は先ほど腕を打撲したため、僕ら以上に手に力が入りません。登るのが異常に遅く、頻繁に足を滑らせるなど、見ていて痛々しいのです。


 「大西、そこで止まっとけ!俺らがザイルで引っ張り上げたるわ!」


 見かねた神林リーダーが声を張り上げました。上には3人いるので、大西をザイルで引っ張り上げられます。


 ですが、大西がそれをよしとしません。


 「僕は自分の力で登ります!」


 こう言って、僕らに反論してきたのです。


 こんな大西を、見たことがありません。あんなに弱かった大西が「邪魔をしないでください!」と僕らを怒ってきたのです。


 大西は、ゆっくりと登ってきました。覚えたての技術を駆使して、途中で岩場にハーケンを打ちつけました。そこにザイルを引っかけてビレーを増やし、一歩一歩僕らに近づいてきたのです。


 途中で足を滑らせて、何度も宙吊りになります。腕もピクピクと痙攣しており、登り始めてから30分が経過しています。それでもあきらめずにがんばり、最後まで登り切ったのです。


 「大西、お疲れさん!よくやったな!」


 自然発生的に、拍手が生まれました。全員が手を叩いて喜び、感極まったのか、大西が泣き始めたのです。


 大西には根性があります。そしてその根性は、この合宿を通じて得られたものでしょう。性格も明るくなっていますし、成長した大西の姿を見ると、先輩の僕らも泣けてくるのです。


 「泣くな、大西!このタオルで顔拭け!」


 「ありがとうございます、バスコさん。僕の泣く姿なんて、南大門さんには見せられないですよ……」


 また出た、南大門!いい雰囲気やったのに台なしやわ!もうファイナル南大門にしてくれ、これを!


 松山さんも登り切り、時刻は12時をまわりました。


 源頭はもう、目と鼻の先です。ここからは米子沢名物「大ナメ」です。


 グランドフィナーレを飾るこの大ナメは、源頭に向かって、延々とナメが続いています。ナメに陽光が降りそそぎ、沢全体が光をたたえているかのようなのです。


 岸辺には、無数の蓮が葉を広げて水面を覆っています。沢全体が放つ荘厳な空気は、霊気としか言いようがないほど張り詰めているのです。


 神林リーダーを先頭に、僕らは光の中を歩きました。


 「みなさん、集合写真を撮りましょうよ!」


 撮影係の大西が言いました。


 そしてこの写真は、僕の探検部における、最後の記念写真となったのです。



 僕らは無事、合宿を終了しました。


 源頭に到着し、下山しました。その日の夜に現地で打ち上げを行い、翌日の夜に大学に戻ってきて、解散しました。



 合宿を終えて、4日後のことです。


 僕は部の仲間に別れのあいさつをして、探検部を去ることになりました。


 荷物をまとめて部室を出ようとしたところ、大西が僕に話しかけてきました。


 「バスコさん、短いあいだでしたけど、ありがとうございました」


 「元気でな、大西」


 「はい。またいつか、下ネタしりとりしましょうね」


 「そうやな」


 「これ、こないだの合宿の集合写真です。持っていってください」


 「……ありがとう」


 「今度、南大門さんと食事をするんですけどバスコさんも一緒に来ませ……」


 「いや、それはやめとくわ。じゃあな」


 僕は部室を出ました。階段を下り始めたところ、途中の踊り場で、授業を終えて戻ってきた神林と出くわしたのです。


 いろいろあったとはいえ、神林との戦いは、今となっては思い出です。もう迷惑をかけられることもありません。僕は最後に、お礼を言って別れることにしました。


 「神林さん、僕、探検部をやめてきました」


 「……そうか」


 「今までありがとうございました」


 「いや、俺もやめんねん」


 はっ?はっ?


 「俺も体力強化合宿がイヤやからやめんねん」


 お前じゃあCLとか引き受けんなよ!お前の今後を考えて松山さんがリーダーに抜擢したのに、やめるんやったら何の意味もなかったやんけ!俺らは遭難損やったやんけ!


 死ね!陽子も一緒に死ね!関係ないけど南大門も巻き添えにして死ね!!!


神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~米子沢編④・後編~(携帯読者用)

 沢に沿って10分ほど歩いたところで、連瀑帯に出ました。

 連瀑帯は、階段のような岩場に滝が流れています。水際の階段を登り切り、休憩を取ることになりました。

 「あー、しんどっ!」

 僕はクタクタです。緑が生い茂る草むらに、リュックを枕にして寝転びました。

 ほどなくして吉田が、「この近くに大きな池があるぞ!」と知らせてきました。

 僕らは合宿に来てから、1度もお風呂に入っていません。池に入って、体を洗うことにしました。

 医療係である吉田が、シャンプーと石鹸を貸してくれます。僕は全裸になって、頭を洗いました。ハンドタオルに石鹸をこすりつけて体を洗い始めたのですが、ふと見た神林リーダーが、ふんどしで体を洗っているのです。

 ルソン島か、ここ!オアシスを見つけた一等兵か、お前は!

 「それにしても、やっぱり沢は最高やな!ここに陽子を連れてきてやりたかったわ!」

 しょうもないウソつくな!お前みたいな奴に彼女なんておるわけないやろ!

 「神林さん、彼女がおるなんてウソ、つかんといてくださいよ」

 「ウソと違うわ」

 「ウソでしょ。じゃあ訊きますけど、その彼女とはどこまでいってるんですか?」

 「恥ずかしいからそんなこと言わすなよ!」

 「いいから答えてくださいよ。本当やったら答えられるでしょ?」

 「それはご想像にお任せするわ。Aなのか、Bなのか。それともCなのか」

 東京裁判か!AとかBって、戦後の戦犯の階級やんけ!

 「まあでも正直、BとCのあいだぐらいかな」

 どこで終えんねん!BとCのあいだって、そこまでいってんやったら全部やれよ!彼女も迷惑やろ!それこそA級戦犯やろ!

 「でも、クチビルを奪うときはさすがに緊張したな!」

 昭和一桁生まれか!クチビル奪うなんて言わんぞ、今日日!「リゾラバ」ぐらい言わんぞ!

 「ちなみにバスコは、(小指を立てて)これはいるの?」

 酔っ払いのオッサンか、お前!なんでさっきから酔っ払いが絡んでくるときに言うセリフばっかり言うねん!

 「いますよ」

 「ウソつけよ!ほんまにバスコはウソつきやわ!」

 お前がウソつきやねん!100:2でお前のほうがウソつきやねん!ちなみにこの2は、俺がチンコの皮を剥いてることのウソや!このウソは認めるわ!

 時刻は8時30分になりました。

 休憩を終えた僕らは、源頭を目指して再び、歩き始めました。

 遡行図で位置を確認したところ、残り3分の1といったところ。ナメ床を進み、しばらくして、6メートルほどのチムニー滝が姿を現しました。

 チムニーとは煙突のことです。岩が裂けた煙突のような細い場所を流れ落ちる滝を、チムニー滝と呼びます。

 このチムニー滝は、ほとんど直角です。幅は130センチほどで、高さは6メートルぐらいしかないものの、両壁に足を引っ掛けながら登るしかありません。ビルの隙間を縦に登っていく感じで、ほとんどロッククライミングなのです。

 「俺がまず登るわ!俺の登り方をじっくりと見とけよ!」

 神林リーダーが威勢よく叫び、壁面に足をかけました。

 ですが、いざ登り始めたものの、苦戦しています。壁面に足の置き場がないところもあり、その場合は壁の突起をつかんで腕の力で登らなければなりません。途中で落下しそうになるなど、見るからに大変なのです。

 焦る神林リーダーを見た松山さんが、下から叫んで邪魔をします。

 「神林、落ちても死なへんから、1回落ちてみたらどうや?」

 こんなふうに茶化し、楽しそうだったので、僕も茶々を入れることにしました。

 「神林さん、どんな感じですか?」

 「……」

 「足場はもろくないですか?」

 「……」

 「神林さんって、5浪でしたよね?」

 「4浪や!」

 ここだけ返してきた!振り返って反論してきやがった!

 「陽子さんが応援してますよ!」

 「わかってるわ!言われなくても俺と陽子は常に1つ!」

 気持ち悪っ、こいつ!おりもしない彼女にこんなこと言ってるぞ!

 「永遠(とわ)に陽子と……」

 体震えてきた、俺!永遠(とわ)とか言う奴と初めて出会って体震えてきた!大西も何か言ったってくれ!?

 「神林さん、背中にナイフが刺さってますよ!」

 何言ってんねん、お前!どさくさに紛れて何言ってんねん!

 「ククク、バスコさん、背中にナイフが刺さってたら、さすがに登れないですよね?」

 何がおもろいねん、だから!どこでスイッチ入んねん!

 「途中で絶対に出血多量で死ぬわ!あかん腹痛い、腹痛い!」

 シャブ打ってない、だから?神林といいお前といい、マジでシャブ打ってるとしか思えんねんけど!?

 5分ほどして、神林リーダーは登り切りました。

 神林リーダーが上からザイルを投げ、僕らはそれをハーネスに連結します。順番に登り始め、苦戦しながらも無事、全員登り切りました。

 チムニー滝を越えると、アップダウンの激しい河原に出ました。

 巨大な岩石が広範囲に散乱し、僕らの行く手を遮ります。その1つ1つを乗り越えなければならず、進むのに時間がかかります。

 よろよろとした足取りながらも、僕らは歩を進めました。

 僕らは、昨日の昼から食事をしていません。空腹に耐えて足を運び、河原を抜けたところで、眼前に全長100メートルほどの雪渓が現われました。

 ここからは、雪渓の上を歩きます。

 といっても地面に直接付着した雪渓で、厚みも150センチほどしかありません。踏み出す足が雪にはまり込むことはあるものの、慎重に進めば問題ありません。全員でうだうだとしゃべりながら進むことにしました。

 「松山さん、今、何が1番食べたいです?」

 「俺はチャーハンが食べたいな」

 「チャーハンいいですね」

 「バスコは何が食べたいの?」

 「僕もチャーハンと豚骨ラーメンが食べたいですわ」

 「いいな、豚骨ラーメン。大西は?」

 「ビーフです」

 カウボーイか!ビーフなんて言い方、カウボーイしか使わんぞ!

 「おかきもいいですね」

 ババアか!ひと息ついてるときのババアか!

 「黒い豆の入ったおかきが食べたいです」

 クソババアか!お前それ、クソババア専門のおかきやんけ!ゴリゴリのクソババアしか食わんわ、そんな趣味悪いおかき!

 「それより、バスコは家に帰ったら、まず何がしたい?」

 「そうですね。まあでも、すぐに飯食いますかね」

 「そうやろな。大西は?」

 「犬と遊びます」

 ムツゴロウか!とりあえず飯食えよ!犬と遊ぶんは飯食ってからにせいや!

 「神林さんは、帰ったらまず何をします?」

 「えっ?」

 耳鼻科行け、まず!お前は何をおいてもまず耳鼻科に行け!

 「(大西が)ドスン!」

 落ちた!大西が雪渓の下に落ちた!胸から下が全部雪に埋まった!

 「バスコさん、手を貸してください」

 「ほんまにお前だけは……」

 「ありがとうございます。助かりましたわ、ツルン!」

 居残れ、もうここに!もう山に居残ってくれ、人間界のために!長い目で見たらそれはお前のためにもなるから!

 雪渓を越え、再び、沢の本流に出ました。

 源頭まではもう、そんなに遠くはありません。近くの滝の下で、最後の休憩を取ることになりました。

 ふと見ると、神林リーダーと大西が、プロレスの話で盛り上がっています。神林リーダーもプロレスが大好きです。2人で延々とマサ斉藤の話をするなど、やけに仲がよくなっているのです。

 大西は、この合宿であか抜けました。

 初日はあれほど無口だったのに、今では自分から話しかけてきます。成長と呼んでいいのかはわかりませんが、体に芯が通ったことは間違いないでしょう。

 途中から、神林リーダーと大西が下ネタしりとりを始めました。

 前回同様、ものすごい応酬です。途中で「夜の職員室」と聞こえてくるなど、前回にも増してすごいボキャブラリーになっているのです。

 時刻は10時をまわりました。

 休憩を終えた僕らは、遡行を再開しました。

 進むにつれて、沢の水かさが増してきました。

 上流のほうからは、スノーブリッジの崩れる音が響いてきます。不安で仕方がなく、ほどなくして僕らの眼前に、激流が現れました。

 この激流は、ゴルジュになっています。ゴルジュというのは、流れの両岸に、垂直に近い岸壁が迫った地形のことです。壁のあいだに川が流れ、このゴルジュは幅が広いため、両方の壁に足を掛けられません。片方の壁に張りついて岩の突起をつかみ、30メートル近い距離をトラバースする(横に移動する)しかないのです。

 中央に流れる川は、激流になっています。足を踏み外せば、どこまで流されるかわかりません。

 最悪や……。まさか沢登りで、こんなところに遭遇するとは思ってなかった……。

 いずれにせよ、進むしかありません。ほかに道はなく、水面から50センチほど上の壁面に張りついて、横にゆっくりと移動し始めました。

 隊列は、神林リーダー、大西、僕、吉田、松山さんの順。リュックが重すぎて、背中から落ちそうになります。岩の突起をつかんで慎重に足を運び、8メートルほど進んだ地点で、後半の壁にコケが生えていることに気がつきました。

 コケに足を掛けたらすべります。トラバースは無理で、少し先の壁面の下に砂地があります。僕らはひとまずその砂地に着地し、そこで話し合った結果、激流に身を預け、縦に押しくらまんじゅうをしながら突破することになったのです。

 幸いにも、水深はそれほど深くありません。ぎりぎり足が届くので、激流に浸かって縦に並び、壁の突起や前の人のリュックをつかみながら前進することになりました。

 コケの直前から始めると危険です。この砂地からスタートすることになり、僕はドキドキです。祈るような気持ちで激流に身を預けたのですが、進み始めるやいなや、僕の前を進む神林リーダーと大西が下ネタしりとりを始めたのです。

 なんでやねん、お前!状況考えろよ、お前ら!いつ流されてもおかしくないねんぞ!

 「胸」

 「寝巻きのままやる」

 「る、る、る……」

 「パスか?なあ大西、パスか?」

 やかましいわ!パスやあるか、こんな状況で!

 「類人猿とやる」

 意味わからん!ていうか、その時代は相手も類人猿やねん!その時代のスタンダードやねん、それは!

 それでもなんとかして進み、激流を突破していきます。ところが岸壁がカーブになった瞬間に水圧が強くなり、先頭の神林リーダーがバランスを崩しました。それにつられて後ろの僕らも態勢を崩し、僕らはなんとか壁の突起をつかんだのですが、つかむところのなかった大西が激流に流されていったんですよ!

 「大西!大西!」

 「閉経!!!」

 続き!?下ネタしりとりの続き!?流されながら閉経とか言うの!?もし死んだら遺言が閉経になるけどいいの!?お前のお母さんに「息子は最後に何か言ってましたか?」と訊かれて「閉経って言ってました」と報告するけどいいの!?

 「閉経!閉経!」

 お前の思いは受け取った!お前のその最後の言葉をお前の両親に伝えるわ!

 「アグググググ、南大……」

 みなまで言うな!大丈夫や、閉経ってちゃんと南大門にも伝えるから!

 僕らはどうすることもできません。ひとまずゴルジュを抜けました。

 10分ほどして、大西の叫び声が聞こえてきました。

 「みなさーん!僕はここです!」

 どうやら助かったようです。

 ザイルを投げて、大西のリュックに連結させました。僕らはザイルを引っ張り、大西はリュックをビーチ板にして泳いできました。

 訊くと、30メートル以上も流されたそうです。岸壁にせき止められ、体を打ちつけました。腕と腰の軽い打撲で済んだらしく、急死に一生を得たのです。

 大西の無事を確認し、僕らは遡行を再開しました。

 遡行図で確認したところ、残りはあとわずか。小さな滝を高巻きながら進み、しばらくして、20メートルの滝が姿を現しました。

 この滝は水流の勢いがすごく、ほとんど直角です。ロッククライミングするしかなく、表面は水あかでヌルヌルとしています。突起も少なく、高巻くのが当然なのですが、これが最後の難関です。最後に逃げるのはダメだ、という空気が僕らのあいだに流れており、暗黙の了解で登ることになりました。

 落下したら、命に関わります。先頭の神林リーダーにもビレイを設置することになりました。

 岩場の途中で、神林リーダーはハーケンを打ちつけます。そこにザイルを通してハーネスに連結し、下で待つ松山さんが残りのザイルを体に巻きつけます。こうすることで足を滑らせても、ハーケンの位置で体が止まるのです。

 ですが、経験者の神林リーダーでさえ、苦戦しています。登り切るのに10分近くかかり、次の吉田も悪戦苦闘なのです。

 吉田が登り切り、僕の番になりました。

 岩場に足をかけると、思っていた以上に滑ります。腕の力で登ろうとするものの、連日のヤブこぎがたたって力が入りません。それでも僕は奮起し、10分以上かかって、なんとか登り切りました。

 次は、大西です。大西は先ほど腕を打撲したため、僕ら以上に手に力が入りません。登るのが異常に遅く、頻繁に足を滑らせるなど、見ていて痛々しいのです。

 「大西、そこで止まっとけ!俺らがザイルで引っ張り上げたるわ!」

 見かねた神林リーダーが声を張り上げました。上には3人いるので、大西をザイルで引っ張り上げられます。

 ですが、大西がそれをよしとしません。

 「僕は自分の力で登ります!」

 こう言って、僕らに反論してきたのです。

 こんな大西を、見たことがありません。あんなに弱かった大西が「邪魔をしないでください!」と僕らを怒ってきたのです。

 大西は、ゆっくりと登ってきました。覚えたての技術を駆使して、途中で岩場にハーケンを打ちつけました。そこにザイルを引っかけてビレーを増やし、一歩一歩僕らに近づいてきたのです。

 途中で足を滑らせて、何度も宙吊りになります。腕もピクピクと痙攣しており、登り始めてから30分が経過しています。それでもあきらめずにがんばり、最後まで登り切ったのです。

 「大西、お疲れさん!よくやったな!」

 自然発生的に、拍手が生まれました。全員が手を叩いて喜び、感極まったのか、大西が泣き始めたのです。

 大西には根性があります。そしてその根性は、この合宿を通じて得られたものでしょう。性格も明るくなっていますし、成長した大西の姿を見ると、先輩の僕らも泣けてくるのです。

 「泣くな、大西!このタオルで顔拭け!」

 「ありがとうございます、バスコさん。僕の泣く姿なんて、南大門さんには見せられないですよ……」

 また出た、南大門!いい雰囲気やったのに台なしやわ!もうファイナル南大門にしてくれ、これを!

 松山さんも登り切り、時刻は12時をまわりました。

 源頭はもう、目と鼻の先です。ここからは米子沢名物「大ナメ」です。

 グランドフィナーレを飾るこの大ナメは、源頭に向かって、延々とナメが続いています。ナメに陽光が降りそそぎ、沢全体が光をたたえているかのようなのです。

 岸辺には、無数の蓮が葉を広げて水面を覆っています。沢全体が放つ荘厳な空気は、霊気としか言いようがないほど張り詰めているのです。

 神林リーダーを先頭に、僕らは光の中を歩きました。

 「みなさん、集合写真を撮りましょうよ!」

 撮影係の大西が言いました。

 そしてこの写真は、僕の探検部における、最後の記念写真となったのです。


 僕らは無事、合宿を終了しました。

 源頭に到着し、下山しました。その日の夜に現地で打ち上げを行い、翌日の夜に大学に戻ってきて、解散しました。


 合宿を終えて、4日後のことです。

 僕は部の仲間に別れのあいさつをして、探検部を去ることになりました。

 荷物をまとめて部室を出ようとしたところ、大西が僕に話しかけてきました。

 「バスコさん、短いあいだでしたけど、ありがとうございました」

 「元気でな、大西」

 「はい。またいつか、下ネタしりとりしましょうね」

 「そうやな」

 「これ、こないだの合宿の集合写真です。持っていってください」

 「……ありがとう」

 「今度、南大門さんと食事をするんですけどバスコさんも一緒に来ませ……」

 「いや、それはやめとくわ。じゃあな」

 僕は部室を出ました。階段を下り始めたところ、途中の踊り場で、授業を終えて戻ってきた神林と出くわしたのです。

 いろいろあったとはいえ、神林との戦いは、今となっては思い出です。もう迷惑をかけられることもありません。僕は最後に、お礼を言って別れることにしました。

 「神林さん、僕、探検部をやめてきました」

 「……そうか」

 「今までありがとうございました」

 「いや、俺もやめんねん」

 はっ?はっ?

 「俺も体力強化合宿がイヤやからやめんねん」

 お前じゃあCLとか引き受けんなよ!お前の今後を考えて松山さんがリーダーに抜擢したのに、やめるんやったら何の意味もなかったやんけ!俺らは遭難損やったやんけ!

 死ね!陽子も一緒に死ね!関係ないけど南大門も巻き添えにして死ね!!!

神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~米子沢編④・前編~(パソコン読者用)

※2010年・2月20日の記事を再編集(記事が長くなったので、2つに分割します)


 「ちょっと待って、何、この滝……」


 昨晩、僕らが眠っているあいだに、軽く雨が降りました。上流から流れ出す雪解け水に雨が加わって、この滝だけではなく、沢全体の水かさが増しているのです。


 沢に流れる川は、いわゆる「河川」ではありません。川そのものに溺れるということはないにしても、沢全体の水が多いことから、滝壺は深くなっているでしょう。


 ためしに目の前の滝壺に足を突っ込んでみたところ、僕の身長ぐらいの深さはあります。僕は水が大の苦手で、足がつかない、と想像するだけでパニックになるのです。


 最悪や……。まさか沢登りにきて水に恐怖するとは思ってなかった……。


 「大丈夫や!こんな水ぐらい、たいしたことあらへん!CLの俺がおるから心配ないわ!」


 お前がおるから心配やねん!水も怖いけど、それと同レベルでお前の存在が恐ろしいねん!


 「♪必ず!最後に愛は勝ちゅ!」


 もう負けたぞ、お前!そこ噛むような奴、もう負けや!


 「神林さん、僕は泳げないんですけど、まさか沢で溺れるなんてことはないですよね?」


 「えっ?」


 「沢で溺れるなんてことはないですよね?」


 「えっ?」


 「沢で溺れるなんてことはないですよね!?」


 「えっ?」


 べらぼうに耳遠いやんけ、こいつ!補聴器はずしてるから死ぬほど耳遠いやんけ!


 「もう、いいですわ!」


 「えっ?」


 「もういいですわ!」


 「えっ?」


 これももういい!これすらももういい!お前の一挙手一投足ノーサンキュー!


 沢の氾濫を見て、神林リーダーの鼻息は荒いです。「リーダーの腕の見せどころや!」とばかりに張り切っており、見ていて怖いぐらいなのです。


 そこで今回は、神林合宿の最終話、「神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?」の考察~米子沢編④~です。


 眼前の滝は、7メートルほどのナメ滝です。ただでさえ激流なのに、岩場はヌルヌルしています。雪も付着しており、横道によけて高巻くのが常識でしょう。


 ですが、神林リーダーが「俺は登る!」と息巻いています。


 「無理なのは俺もわかってる!でも挑戦することに意義があるんや!」


 最終日であることから、神林リーダーのルートどりは攻撃的。僕らはついて行けず、無視しました。勝手に横道のほうに高巻き始めたのですが、ふと下を見たところ、神林リーダーがものすごい雄たけびを上げて滝に挑戦しているのです。


 「あきらめるな!絶対にあきらめるな!」


 誰に言ってんねん、お前!心の声が出てもうてるやんけ!


 「人間はあきらめたときにあきらめる!」


 意味わからん!4浪の原因、たぶん国語やわ!


 「できないだって?できないなんて誰が決めたの?」


 はっ?はっ?


 「できるかどうかは、やってから考えたらいいんじゃないの?挑戦する前からなんであきらめるとか言うの?」


 はっ?はっ?


 「やれるかどうかは自分次第!だったら挑もうよ、神林!」


 何をごちゃごちゃ言うとんねん、お前!猟師に撃たれても文句言えんわ、こんな気持ち悪い奴!


 気持ち悪すぎて、僕らは正視できません。神林リーダーは、少し登っては滝壷に落下するのを繰り返しています。ほどなくして僕らの耳に、「ゲッチュアドリーーーム!」と聞こえてきたのです。


 ごめん、パルプンテくらってない!?ドラクエのパルプンテくらってるとしか思えんねんけど大丈夫!?


 「ゲッチュアゲッチュア!ゲッチュアゲッチュア!」


 ゲッチュアをため出しやがった!気持ち悪すぎて鳥肌立ってきた!


 「ゲッチュアゲッチュア、ゲッチュアデュリーーーム!!!」


 脳死やわ、お前!生きてるけどおそらく脳死やわ!脳が死んでないとこんなことにはならん!


 結局、神林リーダーは登れませんでした。山際の横道を通って、上で待つ僕らのところに現われたのですが、どこか得意げなのです。


 「お前ら、挑戦し続ける俺の背中を見て育てよ!」


 こう叫ぶかのごとく、気どった表情で僕らを見てきます。やることなすことが気持ち悪いのです。


 沢の本流に沿って、20分ほど遡行しました。


 ここからは、小さな滝が連続します。流れがきついとはいえ、それほど難しいものではありません。慎重に滝の斜面を登り、危険なら高巻くなどして進み、しばらくして、10メートルを越す大きな滝が現われました。


 ここは滑りやすいナメ滝ではなく、スダレ状の滝になっています。傾斜はきつくないものの、たくさんの細い流水が飛散しながら流れているため、簡単には登れません。


 高巻こうと思っても、横道には雪がびっしりと詰まっています。逆に危険なので、滝の水際を登らざるをえません。それでも慎重に登ればなんとかなりそうで、まず神林リーダーが登り、上からザイルを投げることになりました。


 さすがに経験者だけあって、神林リーダーは、すいすいと登ります。ハーケン(金属製のくさび)やビレイ(下からの補助)もなしに登り切り、次は僕の番。ハーネスにザイルを連結させて、僕は足を滑らさないようにゆっくりと登り始めたのですが、上から神林リーダーが妙な指示を出してきました。


 「バスコ、ゆっくりでいいからな!ゆっくり、ゆっくり!」


 うざいわ、こいつ……。うるさすぎて集中できへんやんけ……。


 「ゆっくりゆっくり!とにかくゆっくり!」


 「……」


 「焦ったらあかんで!ゆっくりゆっくり!ゆっくりゆっくり!」


 「……」


 「そうや、そうや!そうそう!そうそう!」


 ジジイのリハビリか、これ!足骨折したジジイか、俺は!お前は医者で俺は手すり持ちながら歩く練習してんのか!


 「そこは滑りやすいから気をつけろよ!」


 どこやねん、そこって!そこがどこかわからんねん!


 「そことそことそこが滑りやすいから、そこの滑りにくいところに足かけろ!」


 通訳挟んでくれ!全然わからんから通訳挟んでくれ!


 「そこは普通!」


 ……普通やったら言わんでええやんけ!ややこしいこと言うなよ!


 「右の突起をつかめ!」


 「……」


 「右の突起や!」


 「……」


 「聞いてるかバスコ、右の突起や!」


 俺から見たら左やねん、そこ!お前が上から見てる右は俺から見たら左やねん!


 「神林さん、僕のほうからの言い方してくださいよ!」


 「えっ?」


 だるっ、こいつ!信じられへんぐらいだるい!広辞苑で「だるい」を調べたら、「①体が疲れている様子②神林の行動。また、神林そのもの」とか出てきそうやわ!


 「神林、黙れ!静かにしろ!」


 見かねた松山さんが、神林リーダーを注意してくれました。


 神林リーダーは静かになったものの、松山さんにバレない範囲で、小声で僕に指示を出してきます。僕は無視して登り続けたのですが、登り終わった瞬間、僕を柔和な表情で見つめ、ウインクしながら小声で「お疲れ」って言ったんですよ。


 気持ち悪っ、こいつ!やばいぐらい気持ち悪い!


 「バスコ、お疲れ」


 保険入ろっかな、俺!なんかわからんけど急に何かの保険に入りたくなってきたわ!


 時刻は7時30分をまわりました。


 残りの3人も、無事に登り終えました。10分ほど遡行して、目の前に大きなナメが現われました。


 ここからはナメ床が続きます。神林リーダー、大西、吉田、僕、松山さんの順で、ゆっくりと進んでいきます。


 コケが生えているため、滑りやすいです。連日のヤブこぎがたたって、僕らの足は筋肉痛。足取りは重く、ナメに足を取られて頻繁に転倒してしまうのです。


 なかでも、大西。大西はすでにスタミナが切れており、ツルンツルンと滑りたおしています。


 僕と松山さんは、「今から10分以内に大西が何回こけるか」を予想しました。僕は3回、松山さんは4回と予想したのですが、7回こけたんですよ。


 吉本新喜劇か!こけるプロか、お前は!


 「大丈夫か、大西?」


 「大丈夫です!ツルン!」


 「ほんまに大丈夫か?」


 「大丈夫です大丈夫です!ツルン!」


 ダチョウ倶楽部入れ、お前!そんなにリアクションのいい奴はダチョウ倶楽部かたけし軍団に入れ!


 気がつけば、大西は最後尾です。僕と松山さんが手を貸しながら進み、20分ほどして僕らの眼前に、特大のスノーブリッジが姿を現しました。


 スノーブリッジというのは、谷に雪渓が挟まって橋になっている状態のことです。


 このスノーブリッジは、地面から3メートル上の両壁に張りついています。厚みは6メートル近くあり、全長は40メートル。この先に沢が続いているため、このスノーブリッジの下をくぐるしかありません。


 春になって暖かくなってきたことから、いつ崩れてもおかしくありません。それを証拠に、雪が溶けて水がポタポタと落ちています。万が一崩れてきたら、確実に死ぬのです。


 迂回したくても、西も東も鬱蒼と茂った森です。森に入れば時間がかかり、なにより、再び遭難してしまう可能性も0ではないでしょう。


 これはもう、勝負に出るしかありません。地面はナメで滑りやすいものの、一気に走り抜けるほうが危険性は低いです。神林リーダーを先頭に、僕らはスノーブリッジの下を駆け抜けることになりました。


 「突入!!!」


 神林リーダーの合図と同時に、僕らは突っ込みました。


 こけない程度にすばやく進み、10メートル通過。吉田は冗談で「あー、お母さーん!」と叫んでいます。ほかのメンバーも、緊張をごまかすかのように饒舌。「今、地震がきたら終わりやな!」「ここで1泊してみたいわ!」など

と軽口を叩いていたのですが、大西だけが真剣に、声を震わせて叫びました。


 「あー、南大門さーん!」


 また出た、南大門!「お母さーん!」とか言えや、お前!なんでこの状況で南大門やねん!


 「南大門さんの息子さーん!」


 名前で呼べや!その言い方やったら南大門のオチンチンみたいやんけ!「最後にあの固いのをもう一度!」みたいに聞こえるやんけ!


 「ツルン!」


 またこけた!こんなところでもこけやがった!


 「大丈夫か!?」


 うざいのが出てきた!こんな状況で引き返してきやがった!


 「(神林が)ツルン!」


 「(大西が)ツルン!」


 新喜劇か、ここ!なんもボケてへんぞ、俺!むしろボケなんはお前らのほうやぞ!


 「大丈夫か?ツルン!」


 「大丈夫です!ツルン!」


 どうなってんねん、お前ら!その礼には礼をみたいなこけの応酬はなんやねん!


 「神林さん、大西は僕がなんとかするんで先に行っててください!」


 「えっ?」


 「いいから先に行っててください!」


 「えっ?」


 「いいから先に行け!!!」


 「バスコ、声でかいわ!」


 死ね!ぜひ、死ね!家族の前で爆死しろ!


 幸いにも、スノーブリッジは崩れてきませんでした。神林リーダーと大西に振りまわされながらも、僕らはなんとか通過しました。


 続く……。


神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~米子沢編④・前編~(携帯読者用)

※2010年・2月20日の記事を再編集(記事が長くなったので、2つに分割します)

 「ちょっと待って、何、この滝……」

 昨晩、僕らが眠っているあいだに、軽く雨が降りました。上流から流れ出す雪解け水に雨が加わって、この滝だけではなく、沢全体の水かさが増しているのです。

 沢に流れる川は、いわゆる「河川」ではありません。川そのものに溺れるということはないにしても、沢全体の水が多いことから、滝壺は深くなっているでしょう。

 ためしに目の前の滝壺に足を突っ込んでみたところ、僕の身長ぐらいの深さはあります。僕は水が大の苦手で、足がつかない、と想像するだけでパニックになるのです。

 最悪や……。まさか沢登りにきて水に恐怖するとは思ってなかった……。

 「大丈夫や!こんな水ぐらい、たいしたことあらへん!CLの俺がおるから心配ないわ!」

 お前がおるから心配やねん!水も怖いけど、それと同レベルでお前の存在が恐ろしいねん!

 「♪必ず!最後に愛は勝ちゅ!」

 もう負けたぞ、お前!そこ噛むような奴、もう負けや!

 「神林さん、僕は泳げないんですけど、まさか沢で溺れるなんてことはないですよね?」

 「えっ?」

 「沢で溺れるなんてことはないですよね?」

 「えっ?」

 「沢で溺れるなんてことはないですよね!?」

 「えっ?」

 べらぼうに耳遠いやんけ、こいつ!補聴器はずしてるから死ぬほど耳遠いやんけ!

 「もう、いいですわ!」

 「えっ?」

 「もういいですわ!」

 「えっ?」

 これももういい!これすらももういい!お前の一挙手一投足ノーサンキュー!

 沢の氾濫を見て、神林リーダーの鼻息は荒いです。「リーダーの腕の見せどころや!」とばかりに張り切っており、見ていて怖いぐらいなのです。

 そこで今回は、神林合宿の最終話、「神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?」の考察~米子沢編④~です。

 眼前の滝は、7メートルほどのナメ滝です。ただでさえ激流なのに、岩場はヌルヌルしています。雪も付着しており、横道によけて高巻くのが常識でしょう。

 ですが、神林リーダーが「俺は登る!」と息巻いています。

 「無理なのは俺もわかってる!でも挑戦することに意義があるんや!」

 最終日であることから、神林リーダーのルートどりは攻撃的。僕らはついて行けず、無視しました。勝手に横道のほうに高巻き始めたのですが、ふと下を見たところ、神林リーダーがものすごい雄たけびを上げて滝に挑戦しているのです。

 「あきらめるな!絶対にあきらめるな!」

 誰に言ってんねん、お前!心の声が出てもうてるやんけ!

 「人間はあきらめたときにあきらめる!」

 意味わからん!4浪の原因、たぶん国語やわ!

 「できないだって?できないなんて誰が決めたの?」

 はっ?はっ?

 「できるかどうかは、やってから考えたらいいんじゃないの?挑戦する前からなんであきらめるとか言うの?」

 はっ?はっ?

 「やれるかどうかは自分次第!だったら挑もうよ、神林!」

 何をごちゃごちゃ言うとんねん、お前!猟師に撃たれても文句言えんわ、こんな気持ち悪い奴!

 気持ち悪すぎて、僕らは正視できません。神林リーダーは、少し登っては滝壷に落下するのを繰り返しています。ほどなくして僕らの耳に、「ゲッチュアドリーーーム!」と聞こえてきたのです。

 ごめん、パルプンテくらってない!?ドラクエのパルプンテくらってるとしか思えんねんけど大丈夫!?

 「ゲッチュアゲッチュア!ゲッチュアゲッチュア!」

 ゲッチュアをため出しやがった!気持ち悪すぎて鳥肌立ってきた!

 「ゲッチュアゲッチュア、ゲッチュアデュリーーーム!!!」

 脳死やわ、お前!生きてるけどおそらく脳死やわ!脳が死んでないとこんなことにはならん!

 結局、神林リーダーは登れませんでした。山際の横道を通って、上で待つ僕らのところに現われたのですが、どこか得意げなのです。

 「お前ら、挑戦し続ける俺の背中を見て育てよ!」

 こう叫ぶかのごとく、気どった表情で僕らを見てきます。やることなすことが気持ち悪いのです。

 沢の本流に沿って、20分ほど遡行しました。

 ここからは、小さな滝が連続します。流れがきついとはいえ、それほど難しいものではありません。慎重に滝の斜面を登り、危険なら高巻くなどして進み、しばらくして、10メートルを越す大きな滝が現われました。

 ここは滑りやすいナメ滝ではなく、スダレ状の滝になっています。傾斜はきつくないものの、たくさんの細い流水が飛散しながら流れているため、簡単には登れません。

 高巻こうと思っても、横道には雪がびっしりと詰まっています。逆に危険なので、滝の水際を登らざるをえません。それでも慎重に登ればなんとかなりそうで、まず神林リーダーが登り、上からザイルを投げることになりました。

 さすがに経験者だけあって、神林リーダーは、すいすいと登ります。ハーケン(金属製のくさび)やビレイ(下からの補助)もなしに登り切り、次は僕の番。ハーネスにザイルを連結させて、僕は足を滑らさないようにゆっくりと登り始めたのですが、上から神林リーダーが妙な指示を出してきました。

 「バスコ、ゆっくりでいいからな!ゆっくり、ゆっくり!」

 うざいわ、こいつ……。うるさすぎて集中できへんやんけ……。

 「ゆっくりゆっくり!とにかくゆっくり!」

 「……」

 「焦ったらあかんで!ゆっくりゆっくり!ゆっくりゆっくり!」

 「……」

 「そうや、そうや!そうそう!そうそう!」

 ジジイのリハビリか、これ!足骨折したジジイか、俺は!お前は医者で俺は手すり持ちながら歩く練習してんのか!

 「そこは滑りやすいから気をつけろよ!」

 どこやねん、そこって!そこがどこかわからんねん!

 「そことそことそこが滑りやすいから、そこの滑りにくいところに足かけろ!」

 通訳挟んでくれ!全然わからんから通訳挟んでくれ!

 「そこは普通!」

 ……普通やったら言わんでええやんけ!ややこしいこと言うなよ!

 「右の突起をつかめ!」

 「……」

 「右の突起や!」

 「……」

 「聞いてるかバスコ、右の突起や!」

 俺から見たら左やねん、そこ!お前が上から見てる右は俺から見たら左やねん!

 「神林さん、僕のほうからの言い方してくださいよ!」

 「えっ?」

 だるっ、こいつ!信じられへんぐらいだるい!広辞苑で「だるい」を調べたら、「①体が疲れている様子②神林の行動。また、神林そのもの」とか出てきそうやわ!

 「神林、黙れ!静かにしろ!」

 見かねた松山さんが、神林リーダーを注意してくれました。

 神林リーダーは静かになったものの、松山さんにバレない範囲で、小声で僕に指示を出してきます。僕は無視して登り続けたのですが、登り終わった瞬間、僕を柔和な表情で見つめ、ウインクしながら小声で「お疲れ」って言ったんですよ。

 気持ち悪っ、こいつ!やばいぐらい気持ち悪い!

 「バスコ、お疲れ」

 保険入ろっかな、俺!なんかわからんけど急に何かの保険に入りたくなってきたわ!

 時刻は7時30分をまわりました。

 残りの3人も、無事に登り終えました。10分ほど遡行して、目の前に大きなナメが現われました。

 ここからはナメ床が続きます。神林リーダー、大西、吉田、僕、松山さんの順で、ゆっくりと進んでいきます。

 コケが生えているため、滑りやすいです。連日のヤブこぎがたたって、僕らの足は筋肉痛。足取りは重く、ナメに足を取られて頻繁に転倒してしまうのです。

 なかでも、大西。大西はすでにスタミナが切れており、ツルンツルンと滑りたおしています。

 僕と松山さんは、「今から10分以内に大西が何回こけるか」を予想しました。僕は3回、松山さんは4回と予想したのですが、7回こけたんですよ。

 吉本新喜劇か!こけるプロか、お前は!

 「大丈夫か、大西?」

 「大丈夫です!ツルン!」

 「ほんまに大丈夫か?」

 「大丈夫です大丈夫です!ツルン!」

 ダチョウ倶楽部入れ、お前!そんなにリアクションのいい奴はダチョウ倶楽部かたけし軍団に入れ!

 気がつけば、大西は最後尾です。僕と松山さんが手を貸しながら進み、20分ほどして僕らの眼前に、特大のスノーブリッジが姿を現しました。

 スノーブリッジというのは、谷に雪渓が挟まって橋になっている状態のことです。

 このスノーブリッジは、地面から3メートル上の両壁に張りついています。厚みは6メートル近くあり、全長は40メートル。この先に沢が続いているため、このスノーブリッジの下をくぐるしかありません。

 春になって暖かくなってきたことから、いつ崩れてもおかしくありません。それを証拠に、雪が溶けて水がポタポタと落ちています。万が一崩れてきたら、確実に死ぬのです。

 迂回したくても、西も東も鬱蒼と茂った森です。森に入れば時間がかかり、なにより、再び遭難してしまう可能性も0ではないでしょう。

 これはもう、勝負に出るしかありません。地面はナメで滑りやすいものの、一気に走り抜けるほうが危険性は低いです。神林リーダーを先頭に、僕らはスノーブリッジの下を駆け抜けることになりました。

 「突入!!!」

 神林リーダーの合図と同時に、僕らは突っ込みました。

 こけない程度にすばやく進み、10メートル通過。吉田は冗談で「あー、お母さーん!」と叫んでいます。ほかのメンバーも、緊張をごまかすかのように饒舌。「今、地震がきたら終わりやな!」「ここで1泊してみたいわ!」などと軽口を叩いていたのですが、大西だけが真剣に、声を震わせて叫びました。

 「あー、南大門さーん!」

 また出た、南大門!「お母さーん!」とか言えや、お前!なんでこの状況で南大門やねん!

 「南大門さんの息子さーん!」

 名前で呼べや!その言い方やったら南大門のオチンチンみたいやんけ!「最後にあの固いのをもう一度!」みたいに聞こえるやんけ!

 「ツルン!」

 またこけた!こんなところでもこけやがった!

 「大丈夫か!?」

 うざいのが出てきた!こんな状況で引き返してきやがった!

 「(神林が)ツルン!」

 「(大西が)ツルン!」

 新喜劇か、ここ!なんもボケてへんぞ、俺!むしろボケなんはお前らのほうやぞ!

 「大丈夫か?ツルン!」

 「大丈夫です!ツルン!」

 どうなってんねん、お前ら!その礼には礼をみたいなこけの応酬はなんやねん!

 「神林さん、大西は僕がなんとかするんで先に行っててください!」

 「えっ?」

 「いいから先に行っててください!」

 「えっ?」

 「いいから先に行け!!!」

 「バスコ、声でかいわ!」

 死ね!ぜひ、死ね!家族の前で爆死しろ!

 幸いにも、スノーブリッジは崩れてきませんでした。神林リーダーと大西に振りまわされながらも、僕らはなんとか通過しました。

 続く……。

神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~米子沢編③~(パソコン読者用)

※2010年・2月15日の記事を再編集


 時刻は4時30分になりました。


 周囲は、まだ薄暗いです。僕らはヘッドライトを装着し、ヤブこぎを再開させました。


 足元には残雪があります。赤シャツを着ていても肌寒く、霧も立ちこめています。進むのは大変なのですが、神林リーダーだけが張り切っているのです。


 神林リーダーは先頭を1人、さくさくと進んでいます。僕は最後尾を1人でとぼとぼと歩いており、しばらくして僕のトランシーバーに、神林リーダーから連絡が入りました。


 「お疲れさまです。神林です」


 「……なんっすか?」


 「えっ?」


 もう!?もうなん!?朝の第一声からもう聞こえへんの!?


 「なんですか!?」


 「後ろはどうなってる?」


 1番後ろやねん、俺!誰もおらんねん、俺の後ろには!


 「僕の後ろには幽霊がいます」


 「えっ?」


 「幽霊がいます」


 「えっ?」


 「幽霊がいます!」


 スベったのに何回も言わすなよ!屈辱やねんぞ、スベったボケを何回も言わされるんは!ドMの芸人やったら失禁もんやぞ、この口撃!


 「冗談言うんやったら切るで!」


 切れや、勝手に!お前、何を俺のほうが用事あるみたいな言い方してくれとんねん!


 「こっちは真剣やのに、冗談なんて言うなや!ガチャッ!」


 腹立つわ、こいつ!こんな時間からすでにうっとうしい!


 僕はイライラしながら進んでいたのですが、15分ほどして再び、僕のトランシーバーが鳴りました。


 「はい」


 「バスコ、さっきは怒って悪かったな」


 何なん、お前!マジで何なん!


 「ごめんな。許してや?」


 「……わかりました。許しますわ」


 「えっ?」


 「許します!」


 「えっ?」


 やっぱり許せんわ!さっきのことは許すけど、今あらたに許せないことが見つかったわ!


 「許します!」


 「えっ?」


 「もう、いいですわ……」


 「何がもういいねん?」


 なんでそれは聞こえてんねん!そこだけなんでバッチリ聞こえてんねん!意味わからん、こいつ!


 「気にしてないんで大丈夫です!」


 「そうか。モグモグ。それより、山の朝は、やっぱり寒いな」


 「そうですね」


 「足元に雪があるから、余計に寒いんやろな」


 「……そうですね」


 「寒いから風邪引かんようにしいや」


 フォローがヘタすぎんねん!見え見えやねん、そんな優しさ!


 「モグモグ。寒かったら、首の裏を手でこすり。そしたら暖かくなるから」


 意味ないねん、そんなことしても!何の効果もないわ!アリクイにグルメ雑誌渡すようなもんや!


 「モグモグ。じゃあ、またあとで。モグモグ」


 ルマンド食ってない!?さっきから気になっててんけど、お菓子食いながら俺に謝罪してないか!?


 時刻は5時30分になりました。


 最後尾だった僕は、神林リーダーに振りまわされながらも、ようやく仲間に追いつきました。


 この段階で、霧がますます濃くなってきました。


 僕の少し先で神林リーダーが、霧を手で払いながら地図を見ています。表情はどこか自信なさげで、それを見た僕は不安になってきたのです。


 そこで今回は、「神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?」の考察~米子沢編③~です。


 時刻は6時をまわりました。


 森に陽が射し込み、明るくなってきました。僕らはヘッドライトをはずし、はぐれないように、距離を詰めて進むことになりました。


 神林リーダー、吉田、僕、大西、松山さんの順で、ゆっくりと進みます。しかし進めども進めども、道らしい道は見つかりません。それどころかますますヤブが多くなり、周囲の景色はもちろん、足元すら見えない状況に陥ったのです。


 平泳ぎのように手を動かして、ヤブを左右にかき分けながら進みます。深いヤブが僕らの進行を阻害し、10分かかって10メートルしか進めない場所などザラなのです。


 飲み水もありません。ヤブにところどころ雪が付着しているとはいえ、口に入れたら、泥臭い味がします。ムシャムシャと食べるわけにもいかず、ノドが渇き切っている僕らは、すでにクタクタなのです。


 突然、僕の前を進む吉田が叫びました。


 「ハチや!ハチの大群や!」


 見ると、吉田の左3メートル前方にハチの巣があります。巣からハチが溢れだしているのです。


 「うわーーー!!!」


 僕らは悲鳴を上げたのですが、それを聞いた神林リーダーが振り返り、「何匹?」って訊いたんですよ。


 知らんがな、そんなもん!この危機的状況で数えようあるか、お前!日本野蜂の会か、俺ら!


 「吉田、何匹いるの?」


 「30匹はいます!」


 「えっ?」


 「30匹はいます!」


 「えっ?」


 今逃げようや、俺ら!こんなアホを相手してる暇があったら今すぐに逃げようや!


 「30匹はいます!!!」


 「30匹か。でも、みんな心配いらんで!お菓子でも持ってないかぎり、ハチが寄ってくることはないから!」


 ルマンド持ってるやろ、お前!こぼしすぎてお前の上着にいっぱいルマンドついとんねん!ハチからしたら格好の標的やねん!牛角を前にしたゾンビみたいなもんや!


 「慌てない、慌てない!一休みしようや!」


 一休さんか!お前それ、一休さんがCM明けのときに言うセリフやんけ!何を余裕かましとんねん、こんなときに!


 僕らは神林リーダーを無視し、駆け足でバックしました。


 横たわる松の大木を壁にして、ハチに見つからないように息を潜めます。祈る気持ちで身を寄せ合っていたのですが、大西がうつむきながら、なにやら肩を震わせています。


 「どないしてん、大西?」


 「ククク。バスコさん、僕らは今、インディジョーンズみたいですね」


 何がおもろいねん、お前!インディジョーンズみたいやからって、何がどうおかしいの!?


 「ロードショーやないねんから」


 淀川長治か!ロードショーってなんやねん!映画でええやんけ!


 幸いにも、ハチに襲われることはありませんでした。神林リーダーも合流し、僕らは巣から離れた場所に迂回しました。


 1時間ほどヤブをこいで、ササの密生地に出ました。


 ササにはヤブのように、細かい枝はありません。肌に当たっても痛くはなく、葉の表面は雪でシットリと濡れています。軽い下り坂だったので、僕はササに身を任せて、一気に駆け下りました。


 「ゴロゴロゴロ!ゴロゴロゴロ!」


 僕の後ろから、誰かが転げ落ちる音が聞こえてきました。


 振り返ると、大西が転倒しています。足から落ちたようで、ヒザに手を当てています。


 「大丈夫か、大西?」


 「大丈夫です、バスコさん。たいしたことないんで」


 「そうか。大ケガじゃなくてよか……」


 「大丈夫か、大西!?」


 うざいのが出てきた!1人で進んでたのに神林が猛スピードで引き返してきやがった!


 「吉田!大西がこけた!すぐに医療タッパを持ってきてくれ!」


 衛生兵か!硫黄島の衛生兵やんけ、その異常なテンション!


 「打ったのはヒザだけか?打ったのはヒザだけか?」


 「ヒザだけです」


 「えっ?」


 迷惑やねん、お前!ケガ人に訊き返す奴なんて迷惑なだけやねん!


 「ヒザだけです!」


 「頭は打ってないか?」


 お前も打ってないか?頭打ってるとしか思えんねんけど、お前みたいな奴!?


 ほどなくして、吉田と松山さんがやってきました。


 この合宿の医療係は、吉田です。ヒザから血を流しているとはいえ、大西のケガはたいしたことありません。大西は「僕は大丈夫です!」と治療を拒否したのですが、神林リーダーが強引に赤チン(消毒液)をぶっかけやがったのです。


 おばあさんか、お前!孫を溺愛するおばあさんのやり方やんけ、それ!


 「痛い痛い痛い!めっちゃしみるめっちゃしみる!赤チンが痛い痛い痛い!」


 お前もお前で痛がりすぎやねん!初アナルか!


 「いてーよ!赤チンがいてーよ!」


 ハート様か!北斗の拳のハートの痛がり方やんけ、それ!


 「いーたったったったったっ!いーたったったったったっ!」


 ケンシロウやんけ!1人北斗の拳やんけ!


 時刻は8時30分になりました。


 大西の治療を終えた僕らは、再び歩き始めました。


 ササの密生地を抜けると、眼前に再び、ヤブが姿を現しました。見渡すかぎりヤブで、僕らの戦意を喪失させてくるのです。


 僕らは固まって歩き、ひたすらヤブをこぎます。10分ほど歩いたところで、最後尾にいた松山さんが、神林リーダーを呼びつけて言いました。


 「神林、悪いけどもう無理やわ、米子沢は!」


 僕らが言おうとしてのみ込んでいた言葉を、ついに口にしてくれたのです。


 今の時間を考えると、このあとすぐに米子沢に出られたとしても、遡行を終えてこの日のうちにナルミズ沢に移動するのは難しいです。僕らはそのことに気づいており、神林リーダーにねちねち文句を言われるのがイヤで、言いたくても言えなかったのです。


 松山さんは、今すぐに尾根に出て下山し、ナルミズ沢に移動するべきだ、と主張します。この場所からは、はるか先とはいえ、山の稜線が見えています。稜線に出てすぐに下山すれば、夜にはナルミズ沢に到着し、明日の1日を丸々ナルミズ沢の遡行に当てられるのです。


 僕ら3人も、松山さんと同意見です。このまま遭難し続けるよりはましで、米子沢をあきらめることこそがベストの選択でしょう。


 「松山さん、それはできません!」


 神林リーダーは声を荒げました。リーダーとして事前に立てた計画を遂行したいらしく、松山さんと言い合いになりました。


 「あのな、神林。たしかに、この合宿のリーダーはお前や。ただ、そのリーダーの言うことを聞いた結果、こうやって遭難してるんや」


 「遭難なんてしてませんよ」


 「遭難やろ、これ!どう見ても遭難やろ!」


 「迷ってるだけですよ」


 遭難やろ!山で迷うことを遭難って言うねん!


 「道がわからなくなっただけですよ」


 遭難やろ!道がわからなくなることを遭難って言うねん!


 「少し遭難しただけですよ」


 遭難やんけ!遭難って言うてもうてるやんけ、もう!


 「じゃあ訊くわ。これから先、どのルートを進んだら米子沢に出れんねん?」


 「……」


 「それを答えてくれ。きっちりとルートを示してくれたら、俺らもお前の言うことを聞くわ」


 「あっちです」


 なめてんのか!あっちやあるか、お前!


 「あっちの緑の多いところです」


 あっちじゃないねんだから!もっと具体的に言えよ!


 「あっちの緑の角に飛び込んでいきます」


 アタックチャンスか!緑の角に飛び込むって、完全にアタックチャンスやんけ!茨木市からお越しの山田さんか!


 「ふざけんな!頭おかしいんか、お前!そりゃ5浪もするわな!」


 「……」


 「松山さん、ちょっと言いすぎですよ!」


 「関係あるか!こんな勝手な奴、なんぼでも言ったったらええねん!」


 「松山さん」


 「なんや?」


 「僕、4浪なんですけど?」


 どっちでもええわ、4浪でも5浪でも!8浪でも同じやわ、俺から言わしたら!


 「5浪の奴なんかと一緒にしないでくださいよ!」


 どう違うの、4浪と5浪!?浪人魂に触れてんやったら謝るけど、どう違うの4浪と5浪!?


 結局、松山さんが押し切りました。神林リーダーも渋々了承し、進路を変えて、山の稜線を目指すことになったのです。


 ケンカついでに、休憩を取ることになりました。


 急いでいたことから、本日最初の休憩です。僕は、そばにあった雪をかじりました。


 ふと見ると、神林リーダーがココナッツサブレを食べています。


 「神林さん、それ、1枚だけもらえません?」


 「イヤや」


 腹立つわ、こいつ!お前のせいでこんなことになってんやから1枚ぐらいええやんけ!


 「これは嗜好品や。個人的に買ったもんやから、人にあげる理由なんてないわ」


 座禅組んでこい、お前!長時間の座禅がいるわ、こんなふざけた奴!


 時刻は9時30分になりました。


 休憩を終えた僕らは、稜線に続く道を探して出発しました。


 神林リーダーと松山さんは、常時、方位磁石を手にしています。今度こそ迷わないように、慎重に進みました。


 僕は現在、神林リーダーの後ろを歩いています。神林リーダーはリュックの後ろに、「カラビナ」と呼ばれる鉄製の輪っかをたくさん結びつけています。神林リーダーが進むたびに、それが僕の体に当たってくるのです。


 「神林さん、そのカラビナが僕の体に当たって痛いんで、はずしてもらえませんかね?」


 「えっ?」


 「そのカラビナをはずしてもらえませんかね?」


 「えっ?」


 「そのカラビナをはずしてもらえませんかね!?」


 「……いや、俺は豚骨が1番好き」


 どんな耳してんねん、だから!ラーメンの話なんてしてないわ!「しょう油ラーメンが1番好きですか?」とか訊いてないわ!


 「バスコは塩?味噌?」


 だからラーメンの話なんてしてないねん!


 「ヘソ?」


 ヘソ味とかあんの!?ゴマとか入ってんの、それ!?


 高いところに来たことで、霧は、ますます濃くなってきました。


 尾根に続く道は、一向に見つかりません。稜線は、まだ、はるか先にあります。僕は「この道、あってんのかな……」と不安になりながらも、歩みを進めました。


 僕らは全員、機嫌が悪いです。一向に終わらないヤブこぎにイライラし、眉間には常時、シワが寄っています。


 なにしろ、水がありません。渇きがピークに達したことで、5人とも錯乱しています。意識をもうろうとさせながら進み、しばらくして大西の首に、ヒルが吸いつきました。


 「うわーーー!!!」


 見ると、2匹のヒルが大西の体内に侵入しようとしています。手で払おうとしたものの取れず、焦った大西がめちゃくちゃ高い声で「あーもう、ヒルなんてノーサンキュー!」って言ったんですよ。


 帰国子女か、お前!で、英語がおかしいねん!ノーサンキューはおかしいやろ!


 「ヒルなんて、ノーサンキューです!!!」


 何前留学してん、お前!何前や、そんなおかしな英語教えてる英会話教室!


 松山さんが手でヒルを引っ張りだしたものの、これをきっかけに大西が壊れ始めました。「あー!もうイヤ、こんな合宿!」と叫ぶなど、完全に錯乱しているのです。


 時刻は13時をまわりました。大西が精神に異常をきたし始めたことから、昼休憩を取ることにしました。


 ですが、昼ごはんはありません。こんなことになるとは思っていなかったため、用意していたのは今日の朝ごはんが最後。残りの米も行きしなに駅に寄ったときに、コインロッカーに入れてきたのです。


 仕方なく、非常食を分けて食べることになりました。


 非常食は、ミカンの缶詰とカンパンです。といっても、ミカンの缶詰は1缶しかありません。カンパンも、5センチ四方のものが1人2枚。仕方なくミカンの缶詰をまわし食いすることにしたのですが、最初に口をつけた神林リーダーが死ぬほど食べやがったのです。


 勘弁してくれよ、おい!少しは仲間意識ないんか、お前!聖書を8000回ぐらい読め、お前みたいな奴!


 「神林さん、食べすぎですよ!」


 「だってお腹が減ってるんやもん」


 俺らも減っとんねん!イーブンストマックじゃ、今!


 神林リーダーのせいで、ミカンの缶詰は、ほとんどなくなりました。カンパンもあっという間に食べ終わり、ふと見ると、神林リーダーが自分の嗜好品であるフランスパンをかじっています。空腹の僕は我慢できず、僕の嗜好品であるアメとフランスパン一切れを交換してもらったのですが、このフランスパンがびっくりするぐらい硬いのです。


 硬っ、これ!お前これ、ガンプラより硬いやんけ!このフランスパンをもしババアがかじったら、ひとかじりで前歯全滅やぞ!その後泣きながらおじいさんの胸に飛び込んでいくぞ!なあ、大西!?


 「カンパンって、戦時中やないねんからフフフ……」


 また笑ってた!また妙なところでツボに入ってた!もうイヤ、ここ!


 休憩を終えた僕らは、出発することになりました。


 松山さんの発案で、2組に分かれることになりました。


 分かれて探せば、尾根に続いている道を見つけやすくなります。見つけ次第、トランシーバーで連絡することになり、神林リーダーと吉田は東に、僕と大西と松山さんは西に進むことになりました。


 松山さんを先頭に、僕らのチームはヤブこぎを再開させました。


 神林リーダーがいないおかげで、精神的にかなり楽です。ですが、大西が一緒です。ヤブこぎに必死で会話こそ少ないものの、たまにワケのわからないことを言ってくるのです。


 「バスコさん、バスコさん」


 「なんや?」


 「いや、やっぱりいいです」


 「なんやねん?」


 「いや、本当にどうでもいいことなんで」


 「いいから言えや」


 「包茎って、実際のところどれぐらいおるんですかね?」


 ほんまにどうでもいいな!びっくりするぐらい、どうでもよかったわ!こっちの予想を超えてたわ!


 「知らんわ、そんなこと……」


 「僕、包茎なんですよ」


 「そうなんや」


 「せっかく大学に入ったのに、こんなんじゃモテないですよ。包茎やのに包容力もないですし……」


 なんやねん包茎やのに包容力がないって!包むとか関係ないわ!女性を包み込むと皮が包み込むを同列にあつかうなよ!


 大西に振りまわされながらも、僕は歩き続けます。


 しかし、尾根に続く道は見つかりません。1時間近く進んだものの見つからず、それどころか遠目に見えていた稜線も見えなくなり、僕らは自分の位置すらわからなくなったのです。


 「松山さん、これ、また迷ったんと違います?」


 「いいから黙って歩け!」


 松山さんは機嫌が悪いです。僕は絶望に包まれていたのですが、ほどなくして、僕のトランシーバーが鳴りました。


 まさか道が見つかったのでは……。神林リーダーがついに結果を出したのでは……。


 「はい、バスコです!」


 「バスコ」


 「神林さん、見つかりましたか?」


 「今、どこ?」


 死ね!親族丸々死ね!3親等以内、全員がそろばん名人のはじいた流れ玉が後頭部に当たって死ね!


 時刻は15時になりました。


 時間が時間だけに、今すぐに尾根に続く道を見つけたとしても、今日中にナルミズ沢に到着するのは無理です。ナルミズ沢には、下山してから6時間以上かかります。下山時間を考えても不可能で、もうなす術がないのです。


 ハア、もうどうでもいいわ……。命さえ助かれば、なんでもいいわ……。


 そうあきらめかけていた矢先に再び、僕のトランシーバーが鳴りました。僕は期待せずに出たのですが、神林リーダーが声を弾ませて報告してきたのです。


 「バスコ、米子沢に続く道が見つかったわ!」


 神林リーダーは、自分たちが今いる場所から沢が見える、と言います。木に登って双眼鏡で確認したらしく、100メートルほど下ったところに、前日に僕らの行く手を遮っていた例の雪渓があるそうなのです。


 僕らは神林リーダーの居場所を確認し、すぐにそちらに向かいました。


 「おーい、バスコ!こっちや!」


 全員が合流しました。耳を澄ましたところ、遠くから水が流れる音が聞こえてきます。眼前のヤブさえ制覇すれば、沢の舞台に復帰できるのです。


 時刻は15時40分。僕らは休憩も取らず、ヤブこぎを再開させました。


 進むにつれて、水の音が大きくなってきます。猛スピードでヤブを制覇し、ついに僕らの眼前に、米子沢が姿を現したのです。


 「やったー!やっと戻ってきた!」


 目の前は、大きなナメになっています。川らしい川はここにはないものの、中央には水がちょろちょろと流れており、飲み水としては充分なのです。


 水で顔を洗い、ガブガブと飲みました。神林リーダーお手製の遡行図で確認したところ、源頭まではだいたい、残り5分の3です。例の雪渓を乗り越えられたようで、山中で遭難して26時間もかかったものの、なんとか迂回に成功したのです。


 時刻は16時をまわりました。


 神林リーダーと松山さんが話し合った結果、最終日である明日に、米子沢の残りを制覇することになりました。


 源頭まで行って尾根伝いに下山すれば、夕方に現地で解散できます。ナルミズ沢に行くことは叶わなかったものの、もうこれで充分でしょう。


 陽も落ちてきたので、今日はもう終了です。近くの河原にテントを設営し、中に入りました。リュックを下ろして僕はその場に寝転んだのですが、僕の隣に寝転んだ神林リーダーの足が殺人的に臭いのです。


 この国を出ろ、もう!悪いけどもう、ジャパンにおらんといて!最低限、本州から足だけは出してくれ!


 一気にテンションが下がりましたよ。晩ごはんはありませんし、非常食も食べ尽くしました。明日に至っては、食料なしで米子沢を遡行しなければならないのです。


 ほかのメンバーは、お酒を飲み始めました。僕もイヤな気分を紛らわせるためにお酒を口にし、それは大西も同じです。下戸の大西も、「飲まないとやってられませんよ、こんなこと!」と言って日本酒をガブ飲みし始めました。


 1時間後のことです。


 ふと見た大西の様子が、なにやらおかしいです。顔面が真っ赤で、目が完全に座っています。


 「バスコさん、バスコさん」


 「何?」


 「前から訊きたかったんすけど、プロ野球とJリーグやったら、どっちを愛してるんすか?」


 「はっ?」


 「僕はJリーグを好きな奴なんて、頭おかしいと思ってるんすよ!」


 キャラ変わりすぎやんけ、こいつ!ちょっと待って、何このキャラ!?


 「Jリーグ見る奴なんて、全員、偏差値7ですよ!」


 お前は6やわ!お前のほうがアホやからお前は6やわ!ちなみに「変」差値やったら70あるわ、お前!


 「俺は野球とサッカーやったら、野球かな。でも、俺はマラソンを見るのが1番好きやけどな」


 「マラソンはいいっすよね。有森のこと好きですか?有森?有森?」


 「……有森、いいよな」


 「最高っすよ、あいつ。アトランタの女子マラソン、見ました?あんな輝き、なかなか放てないっすよ!」


 「そ、そうやな」


 「それより僕ね、この合宿が終わったら、バスコさんを南大門さんに会わせようと思ってるんすよ」


 また出た、南大門!もうないと思って油断してたらまた言いやがった!


 「南大門さんはすごいっすよ。南大門さんの息子さんのあの話、バスコさんにしましたっけ?」


 「いや、聞いてないよ」


 「言いましょうか?」


 「……じゃあ、教えてや」


 「僕の家の庭に倉庫があるんすけど、こないだ屋根が壊れたんすよ。そしたら、たまたま家に遊びに来てた南大門さんの息子さんが、僕が直してあげますよ、って言うんすよ」


 「そうなんや」


 「南大門さんの息子さんは普通のサラリーマンですよ!修理の仕事とかをしてるわけじゃないんですよ!なのに修理を引き受けてくれて、僕は直せるもんなら直してみいや、と思いながら部屋でマンガを読んでたんすよ!そしたら30分もしないうちに『大西君、屋根が直ったよ!』って庭から叫んでくるんですよ!」


 「……」


 「ククク、何の修理経験もない人が30分で修理するなんてありえへんありえへん!しかも直し方は完璧、ククク!素人が元通りにできるなんてありえへんありえへん!」


 ごめん、シャブ打ってない?相当きつめのシャブを打ってるとしか思えんねんけど、自分、シャブ打ってない!?


 時刻は20時になりました。明日のことを考えて、もう寝ることにしました。


 大西は、先ほどの元気がなんだったかと思うほど、穏やかな表情で眠っています。僕も疲れていたので、すぐに眠りに落ちました。


 迎えた、翌朝。


 早朝5時30分に、恒例の目覚ましが鳴り響きました。


 「♪クルルンパッ!そーれっ!クルルンパッ!」


 また出た!またイヤな気分にさせられるわ!


 「そーれっ!起きようよ!そーれっ、ガチャッ!」


 セリフの前に止められた!で、なかったらなかったでちょっと寂しいやんけ!正直まだ止めんといてほしかったわ!


 そそくさとテントを畳み、すぐに出発することになりました。沢登りの服装に着替え、僕らは大ナメを歩き始めました。


 合宿はもう、今日で終わりです。食事がないとはいえ、沢登りは楽しいです。僕の足取りは軽かったのですが、200メートルほどのナメ床を遡行し終えた地点で、沢が荒れていることに気がついたのです。


 上流には雪が多いです。暖かくなってきたことから、雪が溶け始めています。眼前に現れた滝に雪解け水が侵入し、沢全体がうねりをあげているのです。


 泳げない僕は、思わず、天を仰ぎました……。


 怒涛の最終日へ……。


神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~米子沢編③~(携帯読者用)

※2010年・2月15日の記事を再編集

 時刻は4時30分になりました。

 周囲は、まだ薄暗いです。僕らはヘッドライトを装着し、ヤブこぎを再開させました。

 足元には残雪があります。赤シャツを着ていても肌寒く、霧も立ちこめています。進むのは大変なのですが、神林リーダーだけが張り切っているのです。

 神林リーダーは先頭を1人、さくさくと進んでいます。僕は最後尾を1人でとぼとぼと歩いており、しばらくして僕のトランシーバーに、神林リーダーから連絡が入りました。

 「お疲れさまです。神林です」

 「……なんっすか?」

 「えっ?」

 もう!?もうなん!?朝の第一声からもう聞こえへんの!?

 「なんですか!?」

 「後ろはどうなってる?」

 1番後ろやねん、俺!誰もおらんねん、俺の後ろには!

 「僕の後ろには幽霊がいます」

 「えっ?」

 「幽霊がいます」

 「えっ?」

 「幽霊がいます!」

 スベったのに何回も言わすなよ!屈辱やねんぞ、スベったボケを何回も言わされるんは!ドMの芸人やったら失禁もんやぞ、この口撃!

 「冗談言うんやったら切るで!」

 切れや、勝手に!お前、何を俺のほうが用事あるみたいな言い方してくれとんねん!

 「こっちは真剣やのに、冗談なんて言うなや!ガチャッ!」

 腹立つわ、こいつ!こんな時間からすでにうっとうしい!

 僕はイライラしながら進んでいたのですが、15分ほどして再び、僕のトランシーバーが鳴りました。

 「はい」

 「バスコ、さっきは怒って悪かったな」

 何なん、お前!マジで何なん!

 「ごめんな。許してや?」

 「……わかりました。許しますわ」

 「えっ?」

 「許します!」

 「えっ?」

 やっぱり許せんわ!さっきのことは許すけど、今あらたに許せないことが見つかったわ!

 「許します!」

 「えっ?」

 「もう、いいですわ……」

 「何がもういいねん?」

 なんでそれは聞こえてんねん!そこだけなんでバッチリ聞こえてんねん!意味わからん、こいつ!

 「気にしてないんで大丈夫です!」

 「そうか。モグモグ。それより、山の朝は、やっぱり寒いな」

 「そうですね」

 「足元に雪があるから、余計に寒いんやろな」

 「……そうですね」

 「寒いから風邪引かんようにしいや」

 フォローがヘタすぎんねん!見え見えやねん、そんな優しさ!

 「モグモグ。寒かったら、首の裏を手でこすり。そしたら暖かくなるから」

 意味ないねん、そんなことしても!何の効果もないわ!アリクイにグルメ雑誌渡すようなもんや!

 「モグモグ。じゃあ、またあとで。モグモグ」

 ルマンド食ってない!?さっきから気になっててんけど、お菓子食いながら俺に謝罪してないか!?

 時刻は5時30分になりました。

 最後尾だった僕は、神林リーダーに振りまわされながらも、ようやく仲間に追いつきました。

 この段階で、霧がますます濃くなってきました。

 僕の少し先で神林リーダーが、霧を手で払いながら地図を見ています。表情はどこか自信なさげで、それを見た僕は不安になってきたのです。

 そこで今回は、「神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?」の考察~米子沢編③~です。

 時刻は6時をまわりました。

 森に陽が射し込み、明るくなってきました。僕らはヘッドライトをはずし、はぐれないように、距離を詰めて進むことになりました。

 神林リーダー、吉田、僕、大西、松山さんの順で、ゆっくりと進みます。しかし進めども進めども、道らしい道は見つかりません。それどころかますますヤブが多くなり、周囲の景色はもちろん、足元すら見えない状況に陥ったのです。

 平泳ぎのように手を動かして、ヤブを左右にかき分けながら進みます。深いヤブが僕らの進行を阻害し、10分かかって10メートルしか進めない場所などザラなのです。

 飲み水もありません。ヤブにところどころ雪が付着しているとはいえ、口に入れたら、泥臭い味がします。ムシャムシャと食べるわけにもいかず、ノドが渇き切っている僕らは、すでにクタクタなのです。

 突然、僕の前を進む吉田が叫びました。

 「ハチや!ハチの大群や!」

 見ると、吉田の左3メートル前方にハチの巣があります。巣からハチが溢れだしているのです。

 「うわーーー!!!」

 僕らは悲鳴を上げたのですが、それを聞いた神林リーダーが振り返り、「何匹?」って訊いたんですよ。

 知らんがな、そんなもん!この危機的状況で数えようあるか、お前!日本野蜂の会か、俺ら!

 「吉田、何匹いるの?」

 「30匹はいます!」

 「えっ?」

 「30匹はいます!」

 「えっ?」

 今逃げようや、俺ら!こんなアホを相手してる暇があったら今すぐに逃げようや!

 「30匹はいます!!!」

 「30匹か。でも、みんな心配いらんで!お菓子でも持ってないかぎり、ハチが寄ってくることはないから!」

 ルマンド持ってるやろ、お前!こぼしすぎてお前の上着にいっぱいルマンドついとんねん!ハチからしたら格好の標的やねん!牛角を前にしたゾンビみたいなもんや!

 「慌てない、慌てない!一休みしようや!」

 一休さんか!お前それ、一休さんがCM明けのときに言うセリフやんけ!何を余裕かましとんねん、こんなときに!

 僕らは神林リーダーを無視し、駆け足でバックしました。

 横たわる松の大木を壁にして、ハチに見つからないように息を潜めます。祈る気持ちで身を寄せ合っていたのですが、大西がうつむきながら、なにやら肩を震わせています。

 「どないしてん、大西?」

 「ククク。バスコさん、僕らは今、インディジョーンズみたいですね」

 何がおもろいねん、お前!インディジョーンズみたいやからって、何がどうおかしいの!?

 「ロードショーやないねんから」

 淀川長治か!ロードショーってなんやねん!映画でええやんけ!

 幸いにも、ハチに襲われることはありませんでした。神林リーダーも合流し、僕らは巣から離れた場所に迂回しました。

 1時間ほどヤブをこいで、ササの密生地に出ました。

 ササにはヤブのように、細かい枝はありません。肌に当たっても痛くはなく、葉の表面は雪でシットリと濡れています。軽い下り坂だったので、僕はササに身を任せて、一気に駆け下りました。

 「ゴロゴロゴロ!ゴロゴロゴロ!」

 僕の後ろから、誰かが転げ落ちる音が聞こえてきました。

 振り返ると、大西が転倒しています。足から落ちたようで、ヒザに手を当てています。

 「大丈夫か、大西?」

 「大丈夫です、バスコさん。たいしたことないんで」

 「そうか。大ケガじゃなくてよか……」

 「大丈夫か、大西!?」

 うざいのが出てきた!1人で進んでたのに神林が猛スピードで引き返してきやがった!

 「吉田!大西がこけた!すぐに医療タッパを持ってきてくれ!」

 衛生兵か!硫黄島の衛生兵やんけ、その異常なテンション!

 「打ったのはヒザだけか?打ったのはヒザだけか?」

 「ヒザだけです」

 「えっ?」

 迷惑やねん、お前!ケガ人に訊き返す奴なんて迷惑なだけやねん!

 「ヒザだけです!」

 「頭は打ってないか?」

 お前も打ってないか?頭打ってるとしか思えんねんけど、お前みたいな奴!?

 ほどなくして、吉田と松山さんがやってきました。

 この合宿の医療係は、吉田です。ヒザから血を流しているとはいえ、大西のケガはたいしたことありません。大西は「僕は大丈夫です!」と治療を拒否したのですが、神林リーダーが強引に赤チン(消毒液)をぶっかけやがったのです。

 おばあさんか、お前!孫を溺愛するおばあさんのやり方やんけ、それ!

 「痛い痛い痛い!めっちゃしみるめっちゃしみる!赤チンが痛い痛い痛い!」

 お前もお前で痛がりすぎやねん!初アナルか!

 「いてーよ!赤チンがいてーよ!」

 ハート様か!北斗の拳のハートの痛がり方やんけ、それ!

 「いーたったったったったっ!いーたったったったったっ!」

 ケンシロウやんけ!1人北斗の拳やんけ!

 時刻は8時30分になりました。

 大西の治療を終えた僕らは、再び歩き始めました。

 ササの密生地を抜けると、眼前に再び、ヤブが姿を現しました。見渡すかぎりヤブで、僕らの戦意を喪失させてくるのです。

 僕らは固まって歩き、ひたすらヤブをこぎます。10分ほど歩いたところで、最後尾にいた松山さんが、神林リーダーを呼びつけて言いました。

 「神林、悪いけどもう無理やわ、米子沢は!」

 僕らが言おうとしてのみ込んでいた言葉を、ついに口にしてくれたのです。

 今の時間を考えると、このあとすぐに米子沢に出られたとしても、遡行を終えてこの日のうちにナルミズ沢に移動するのは難しいです。僕らはそのことに気づいており、神林リーダーにねちねち文句を言われるのがイヤで、言いたくても言えなかったのです。

 松山さんは、今すぐに尾根に出て下山し、ナルミズ沢に移動するべきだ、と主張します。この場所からは、はるか先とはいえ、山の稜線が見えています。稜線に出てすぐに下山すれば、夜にはナルミズ沢に到着し、明日の1日を丸々ナルミズ沢の遡行に当てられるのです。

 僕ら3人も、松山さんと同意見です。このまま遭難し続けるよりはましで、米子沢をあきらめることこそがベストの選択でしょう。

 「松山さん、それはできません!」

 神林リーダーは声を荒げました。リーダーとして事前に立てた計画を遂行したいらしく、松山さんと言い合いになりました。

 「あのな、神林。たしかに、この合宿のリーダーはお前や。ただ、そのリーダーの言うことを聞いた結果、こうやって遭難してるんや」

 「遭難なんてしてませんよ」

 「遭難やろ、これ!どう見ても遭難やろ!」

 「迷ってるだけですよ」

 遭難やろ!山で迷うことを遭難って言うねん!

 「道がわからなくなっただけですよ」

 遭難やろ!道がわからなくなることを遭難って言うねん!

 「少し遭難しただけですよ」

 遭難やんけ!遭難って言うてもうてるやんけ、もう!

 「じゃあ訊くわ。これから先、どのルートを進んだら米子沢に出れんねん?」

 「……」

 「それを答えてくれ。きっちりとルートを示してくれたら、俺らもお前の言うことを聞くわ」

 「あっちです」

 なめてんのか!あっちやあるか、お前!

 「あっちの緑の多いところです」

 あっちじゃないねんだから!もっと具体的に言えよ!

 「あっちの緑の角に飛び込んでいきます」

 アタックチャンスか!緑の角に飛び込むって、完全にアタックチャンスやんけ!茨木市からお越しの山田さんか!

 「ふざけんな!頭おかしいんか、お前!そりゃ5浪もするわな!」

 「……」

 「松山さん、ちょっと言いすぎですよ!」

 「関係あるか!こんな勝手な奴、なんぼでも言ったったらええねん!」

 「松山さん」

 「なんや?」

 「僕、4浪なんですけど?」

 どっちでもええわ、4浪でも5浪でも!8浪でも同じやわ、俺から言わしたら!

 「5浪の奴なんかと一緒にしないでくださいよ!」

 どう違うの、4浪と5浪!?浪人魂に触れてんやったら謝るけど、どう違うの4浪と5浪!?

 結局、松山さんが押し切りました。神林リーダーも渋々了承し、進路を変えて、山の稜線を目指すことになったのです。

 ケンカついでに、休憩を取ることになりました。

 急いでいたことから、本日最初の休憩です。僕は、そばにあった雪をかじりました。

 ふと見ると、神林リーダーがココナッツサブレを食べています。

 「神林さん、それ、1枚だけもらえません?」

 「イヤや」

 腹立つわ、こいつ!お前のせいでこんなことになってんやから1枚ぐらいええやんけ!

 「これは嗜好品や。個人的に買ったもんやから、人にあげる理由なんてないわ」

 座禅組んでこい、お前!長時間の座禅がいるわ、こんなふざけた奴!

 時刻は9時30分になりました。

 休憩を終えた僕らは、稜線に続く道を探して出発しました。

 神林リーダーと松山さんは、常時、方位磁石を手にしています。今度こそ迷わないように、慎重に進みました。

 僕は現在、神林リーダーの後ろを歩いています。神林リーダーはリュックの後ろに、「カラビナ」と呼ばれる鉄製の輪っかをたくさん結びつけています。神林リーダーが進むたびに、それが僕の体に当たってくるのです。

 「神林さん、そのカラビナが僕の体に当たって痛いんで、はずしてもらえませんかね?」

 「えっ?」

 「そのカラビナをはずしてもらえませんかね?」

 「えっ?」

 「そのカラビナをはずしてもらえませんかね!?」

 「……いや、俺は豚骨が1番好き」

 どんな耳してんねん、だから!ラーメンの話なんてしてないわ!「しょう油ラーメンが1番好きですか?」とか訊いてないわ!

 「バスコは塩?味噌?」

 だからラーメンの話なんてしてないねん!

 「ヘソ?」

 ヘソ味とかあんの!?ゴマとか入ってんの、それ!?

 高いところに来たことで、霧は、ますます濃くなってきました。

 尾根に続く道は、一向に見つかりません。稜線は、まだ、はるか先にあります。僕は「この道、あってんのかな……」と不安になりながらも、歩みを進めました。

 僕らは全員、機嫌が悪いです。一向に終わらないヤブこぎにイライラし、眉間には常時、シワが寄っています。

 なにしろ、水がありません。渇きがピークに達したことで、5人とも錯乱しています。意識をもうろうとさせながら進み、しばらくして大西の首に、ヒルが吸いつきました。

 「うわーーー!!!」

 見ると、2匹のヒルが大西の体内に侵入しようとしています。手で払おうとしたものの取れず、焦った大西がめちゃくちゃ高い声で「あーもう、ヒルなんてノーサンキュー!」って言ったんですよ。

 帰国子女か、お前!で、英語がおかしいねん!ノーサンキューはおかしいやろ!

 「ヒルなんて、ノーサンキューです!!!」

 何前留学してん、お前!何前や、そんなおかしな英語教えてる英会話教室!

 松山さんが手でヒルを引っ張りだしたものの、これをきっかけに大西が壊れ始めました。「あー!もうイヤ、こんな合宿!」と叫ぶなど、完全に錯乱しているのです。

 時刻は13時をまわりました。大西が精神に異常をきたし始めたことから、昼休憩を取ることにしました。

 ですが、昼ごはんはありません。こんなことになるとは思っていなかったため、用意していたのは今日の朝ごはんが最後。残りの米も行きしなに駅に寄ったときに、コインロッカーに入れてきたのです。

 仕方なく、非常食を分けて食べることになりました。

 非常食は、ミカンの缶詰とカンパンです。といっても、ミカンの缶詰は1缶しかありません。カンパンも、5センチ四方のものが1人2枚。仕方なくミカンの缶詰をまわし食いすることにしたのですが、最初に口をつけた神林リーダーが死ぬほど食べやがったのです。

 勘弁してくれよ、おい!少しは仲間意識ないんか、お前!聖書を8000回ぐらい読め、お前みたいな奴!

 「神林さん、食べすぎですよ!」

 「だってお腹が減ってるんやもん」

 俺らも減っとんねん!イーブンストマックじゃ、今!

 神林リーダーのせいで、ミカンの缶詰は、ほとんどなくなりました。カンパンもあっという間に食べ終わり、ふと見ると、神林リーダーが自分の嗜好品であるフランスパンをかじっています。空腹の僕は我慢できず、僕の嗜好品であるアメとフランスパン一切れを交換してもらったのですが、このフランスパンがびっくりするぐらい硬いのです。

 硬っ、これ!お前これ、ガンプラより硬いやんけ!このフランスパンをもしババアがかじったら、ひとかじりで前歯全滅やぞ!その後泣きながらおじいさんの胸に飛び込んでいくぞ!なあ、大西!?

 「カンパンって、戦時中やないねんからフフフ……」

 また笑ってた!また妙なところでツボに入ってた!もうイヤ、ここ!

 休憩を終えた僕らは、出発することになりました。

 松山さんの発案で、2組に分かれることになりました。

 分かれて探せば、尾根に続いている道を見つけやすくなります。見つけ次第、トランシーバーで連絡することになり、神林リーダーと吉田は東に、僕と大西と松山さんは西に進むことになりました。

 松山さんを先頭に、僕らのチームはヤブこぎを再開させました。

 神林リーダーがいないおかげで、精神的にかなり楽です。ですが、大西が一緒です。ヤブこぎに必死で会話こそ少ないものの、たまにワケのわからないことを言ってくるのです。

 「バスコさん、バスコさん」

 「なんや?」

 「いや、やっぱりいいです」

 「なんやねん?」

 「いや、本当にどうでもいいことなんで」

 「いいから言えや」

 「包茎って、実際のところどれぐらいおるんですかね?」

 ほんまにどうでもいいな!びっくりするぐらい、どうでもよかったわ!こっちの予想を超えてたわ!

 「知らんわ、そんなこと……」

 「僕、包茎なんですよ」

 「そうなんや」

 「せっかく大学に入ったのに、こんなんじゃモテないですよ。包茎やのに包容力もないですし……」

 なんやねん包茎やのに包容力がないって!包むとか関係ないわ!女性を包み込むと皮が包み込むを同列にあつかうなよ!

 大西に振りまわされながらも、僕は歩き続けます。

 しかし、尾根に続く道は見つかりません。1時間近く進んだものの見つからず、それどころか遠目に見えていた稜線も見えなくなり、僕らは自分の位置すらわからなくなったのです。

 「松山さん、これ、また迷ったんと違います?」

 「いいから黙って歩け!」

 松山さんは機嫌が悪いです。僕は絶望に包まれていたのですが、ほどなくして、僕のトランシーバーが鳴りました。

 まさか道が見つかったのでは……。神林リーダーがついに結果を出したのでは……。

 「はい、バスコです!」

 「バスコ」

 「神林さん、見つかりましたか?」

 「今、どこ?」

 死ね!親族丸々死ね!3親等以内、全員がそろばん名人のはじいた流れ玉が後頭部に当たって死ね!

 時刻は15時になりました。

 時間が時間だけに、今すぐに尾根に続く道を見つけたとしても、今日中にナルミズ沢に到着するのは無理です。ナルミズ沢には、下山してから6時間以上かかります。下山時間を考えても不可能で、もうなす術がないのです。

 ハア、もうどうでもいいわ……。命さえ助かれば、なんでもいいわ……。

 そうあきらめかけていた矢先に再び、僕のトランシーバーが鳴りました。僕は期待せずに出たのですが、神林リーダーが声を弾ませて報告してきたのです。

 「バスコ、米子沢に続く道が見つかったわ!」

 神林リーダーは、自分たちが今いる場所から沢が見える、と言います。木に登って双眼鏡で確認したらしく、100メートルほど下ったところに、前日に僕らの行く手を遮っていた例の雪渓があるそうなのです。

 僕らは神林リーダーの居場所を確認し、すぐにそちらに向かいました。

 「おーい、バスコ!こっちや!」

 全員が合流しました。耳を澄ましたところ、遠くから水が流れる音が聞こえてきます。眼前のヤブさえ制覇すれば、沢の舞台に復帰できるのです。

 時刻は15時40分。僕らは休憩も取らず、ヤブこぎを再開させました。

 進むにつれて、水の音が大きくなってきます。猛スピードでヤブを制覇し、ついに僕らの眼前に、米子沢が姿を現したのです。

 「やったー!やっと戻ってきた!」

 目の前は、大きなナメになっています。川らしい川はここにはないものの、中央には水がちょろちょろと流れており、飲み水としては充分なのです。

 水で顔を洗い、ガブガブと飲みました。神林リーダーお手製の遡行図で確認したところ、源頭まではだいたい、残り5分の3です。例の雪渓を乗り越えられたようで、山中で遭難して26時間もかかったものの、なんとか迂回に成功したのです。

 時刻は16時をまわりました。

 神林リーダーと松山さんが話し合った結果、最終日である明日に、米子沢の残りを制覇することになりました。

 源頭まで行って尾根伝いに下山すれば、夕方に現地で解散できます。ナルミズ沢に行くことは叶わなかったものの、もうこれで充分でしょう。

 陽も落ちてきたので、今日はもう終了です。近くの河原にテントを設営し、中に入りました。リュックを下ろして僕はその場に寝転んだのですが、僕の隣に寝転んだ神林リーダーの足が殺人的に臭いのです。

 この国を出ろ、もう!悪いけどもう、ジャパンにおらんといて!最低限、本州から足だけは出してくれ!

 一気にテンションが下がりましたよ。晩ごはんはありませんし、非常食も食べ尽くしました。明日に至っては、食料なしで米子沢を遡行しなければならないのです。

 ほかのメンバーは、お酒を飲み始めました。僕もイヤな気分を紛らわせるためにお酒を口にし、それは大西も同じです。下戸の大西も、「飲まないとやってられませんよ、こんなこと!」と言って日本酒をガブ飲みし始めました。

 1時間後のことです。

 ふと見た大西の様子が、なにやらおかしいです。顔面が真っ赤で、目が完全に座っています。

 「バスコさん、バスコさん」

 「何?」

 「前から訊きたかったんすけど、プロ野球とJリーグやったら、どっちを愛してるんすか?」

 「はっ?」

 「僕はJリーグを好きな奴なんて、頭おかしいと思ってるんすよ!」

 キャラ変わりすぎやんけ、こいつ!ちょっと待って、何このキャラ!?

 「Jリーグ見る奴なんて、全員、偏差値7ですよ!」

 お前は6やわ!お前のほうがアホやからお前は6やわ!ちなみに「変」差値やったら70あるわ、お前!

 「俺は野球とサッカーやったら、野球かな。でも、俺はマラソンを見るのが1番好きやけどな」

 「マラソンはいいっすよね。有森のこと好きですか?有森?有森?」

 「……有森、いいよな」

 「最高っすよ、あいつ。アトランタの女子マラソン、見ました?あんな輝き、なかなか放てないっすよ!」

 「そ、そうやな」

 「それより僕ね、この合宿が終わったら、バスコさんを南大門さんに会わせようと思ってるんすよ」

 また出た、南大門!もうないと思って油断してたらまた言いやがった!

 「南大門さんはすごいっすよ。南大門さんの息子さんのあの話、バスコさんにしましたっけ?」

 「いや、聞いてないよ」

 「言いましょうか?」

 「……じゃあ、教えてや」

 「僕の家の庭に倉庫があるんすけど、こないだ屋根が壊れたんすよ。そしたら、たまたま家に遊びに来てた南大門さんの息子さんが、僕が直してあげますよ、って言うんすよ」

 「そうなんや」

 「南大門さんの息子さんは普通のサラリーマンですよ!修理の仕事とかをしてるわけじゃないんですよ!なのに修理を引き受けてくれて、僕は直せるもんなら直してみいや、と思いながら部屋でマンガを読んでたんすよ!そしたら30分もしないうちに『大西君、屋根が直ったよ!』って庭から叫んでくるんですよ!」

 「……」

 「ククク、何の修理経験もない人が30分で修理するなんてありえへんありえへん!しかも直し方は完璧、ククク!素人が元通りにできるなんてありえへんありえへん!」

 ごめん、シャブ打ってない?相当きつめのシャブを打ってるとしか思えんねんけど、自分、シャブ打ってない!?

 時刻は20時になりました。明日のことを考えて、もう寝ることにしました。

 大西は、先ほどの元気がなんだったかと思うほど、穏やかな表情で眠っています。僕も疲れていたので、すぐに眠りに落ちました。

 迎えた、翌朝。

 早朝5時30分に、恒例の目覚ましが鳴り響きました。

 「♪クルルンパッ!そーれっ!クルルンパッ!」

 また出た!またイヤな気分にさせられるわ!

 「そーれっ!起きようよ!そーれっ、ガチャッ!」

 セリフの前に止められた!で、なかったらなかったでちょっと寂しいやんけ!正直まだ止めんといてほしかったわ!

 そそくさとテントを畳み、すぐに出発することになりました。沢登りの服装に着替え、僕らは大ナメを歩き始めました。

 合宿はもう、今日で終わりです。食事がないとはいえ、沢登りは楽しいです。僕の足取りは軽かったのですが、200メートルほどのナメ床を遡行し終えた地点で、沢が荒れていることに気がついたのです。

 上流には雪が多いです。暖かくなってきたことから、雪が溶け始めています。眼前に現れた滝に雪解け水が侵入し、沢全体がうねりをあげているのです。

 泳げない僕は、思わず、天を仰ぎました……。

 怒涛の最終日へ……。