新・バスコの人生考察 -3ページ目

これは何なのか?の考察⑦(パソコン読者用)

 先日、仕事終わりに、職場近くのドン・キホーテに行ったときのことです。


 僕は枕カバーを買うのが目的です。布団売り場をうろちょろしていたところ、やってきた若者2人が平気な顔でタバコを吸っているのです。


 当たり前ですが、店内は禁煙です。茶髪にピアスをしたチャラい若者2人で、本人たちも店内が禁煙なのは知っているでしょう。僕は注意しようと2人に近づいたのですが、僕より先に、客である1人のオッサンが若者の前に立ちはだかりました。


 「お前ら、どこでタバコ吸っとんじゃ!」


 オッサンのすごい剣幕に、若者は驚いています。店内はざわつき始め、オッサンは「やったった!」とばかりに得意げな顔をしていたのですが、ほどなくしてオッサンの前に、身の丈190センチを超えるチンピラ丸出しの若者が現れたのです。


 「どないしてん、お前ら?」


 このチンピラは、若者2人のボスです。金のネックレスをしたヤクザ風の男で、それに気づいたこのオッサンが、「タバコを吸ってはダメでしょ」と急に敬語使い始めたんですよ。


 最低か、お前!ビビってるか知らんけど30も年下の奴に敬語なんて使うなよ!


 「ここは店内ですから、タバコはダメだと思うんですよ」


 思うとか言ってるやんけ!なんぼほど根性ないねん、こいつ!


 しばらくして店員が来ました。騒ぎは収まり、捨てゼリフを吐きながらチンピラたちは店を出たのですが、チンピラがいなくなった瞬間、このオッサンが近くの若い女の子に聞かせるかのような大声で「ほんまにええ加減にしとけよ、あいつら!」と叫んだのです。


 おもろいわ、お前!もうおもろい!たまらんわ、お前みたいなわかりやすい奴!


 「今度こんなことしやがったら承知せんぞ!」


 あかん、おもろすぎて涙出てきた!友達になりたい!


 相手に応じて、このオッサンは態度をころころと変えます。ほかの客も笑っており、かっこ悪いこと極まりないんですね。


 僕は、世の中の「これ、何なん?」と思わずにはいられない人・物・事を「ナンナン」と単位化しています。この「本当は気の弱い勇者気取り」はナンナンにほかならず、「何なん?」としか言いようがないのです。


 そこで今回は、「これは何なのか?」の考察⑦です。


 以下、僕が考えるナンナンをご紹介します。


①山田さん 1ナンナン
 この国では「佐藤」という名字が1番多いと言われていますが、山田が1番多いような気がしてなりません。や
けに山田という人に知り合う機会が多く、事実、名刺ファイルや携帯電話のメモリーを見ても、山田が圧倒的に多いのです。


 みなさまも自分の知り合いを思い出してみてください、山田が1番多くないですか?冷静に周りを見渡してください、佐藤よりも鈴木よりも山田が1番多くないですか?


 先日も、ヤマダ電機に山田という店員がいました。その後、テレビの値段を比較するために近くのコジマ電機に行ったところ、テレビのコーナーに足を踏み入れて2秒後にやってきた店員の名前が山田だったのです。


 なんでこんなにも山田多いねん!そもそもヤマダのライバルのコジマに山田がおったらあかんのと違うんか!


 「お客さま、何か質問はございますか?」


 なんでこんなにも山田多いねん!もうそれをお前に直接訊くわ、なんでこんなにも山田が多いか教えろ!


 つい先日なんて、仕事の打ち合わせで5人中3人が山田でした。全員がほとんど初対面なことから、それぞれ名字で呼び合います。山田が飛び交ってややこしく、山田じゃない人が「山田さんのおっしゃってることは山田さんの会社だけが得して山田さんの会社が得しないんですよ!」と言ったことに対してもう1人の山田さんが口を挟もうとしたら、「山田さんは黙っててください!今は山田さんの会社と山田さんの会社との話をしているんです!」って言ったんですよ。


 もう誰が誰かわからん!まず呼び名の打ち合わせいるわ、これ!


 「ねえ、山田さん」


 どの山田!?その山田はどの山田のこと言ってんの!?


 「たしかに山田さんのおっしゃることはわかります、ただそれは山田さんの会社が儲かってるからで山田さんの会社と比べたときに……」


 トラウマなるわ!今後山田って奴と出会うたびにドキッとするわ!「山」登りすら怖くてなんか二の足踏むわ!


 はっきり言いますけど、このまま行ったらいつか日本、全員が山田になりますよ。恐ろしいのは中国人による乗っ取りではなく、山田ですから。


②綱引き 2ナンナン
 僕は綱引きが嫌いです。言いたいことがたくさんあり、まずこれ、「勝ったからどうやねん」って思いません?
「勝った先に何があんの?」という話で、汗だくになって引っ張ったところで得られるものなど何1つないのです。


 やってどうすんねん、そんなこと!このデスクワーク全盛の時代に馬力競ってなんの意味あんねん!


 「オーエス!オーエス!」


 やかましいわ!そもそも綱引きでそんなにがんばれるんやったらもっと普段の仕事がんばれよお前ら!


 「よっしゃ!勝ったぞ!」


 だからなんやねん!むしろ勝った側の肉体派の奴のほうが人生では負け組多いやろ!メガネかけたひょろい奴のほうが高給取りやったりするぞ、人生は!


 綱の最後尾には、尋常じゃないレベルのデブが陣取っています。「綱引きやるためだけに産まれてきました!」みたいなどぎつい奴が体中に綱を巻きつけており、そいつにとっての綱引きは遊びではありません。顔面を真っ

赤にして体中で引っ張り、勝敗が決しても「俺は1人でも戦いますよ!」とばかりにしばらく綱から手を離さず、1対30みたいなものすごい戦いを繰り広げるのです。


 弁慶か、お前!平成の武蔵坊って呼ぶぞ、お前のこと!


 「オラー!オラオラオラー!」


 何があってん、お前!話聞いたるわ俺、何があってん!?遠慮せんでいいから俺に話してみ、仕事でなんかイヤなことでもあってんやろ!?


 それでもせっかくなので、やるからには勝ったほうがいいです。仕方なく一生懸命に引っ張るのですが、自分のチームの中に、なんの戦力にもならないひょろひょろのジジイが何匹か紛れ込んでやがるのです。


 家いとけや、お前!綱とか引っ張らんでええから家でババアの頭の網引っ張って遊んどけや!


 「オーエス……」


 声ちっちゃ!一応言っとる、こいつ!むしろ士気下がるわ、老いぼれのボイス!


 綱引きをやったところで得られるものなどありません。お年寄りだと脳の血管が切れてもおかしくないので、一刻も早くやめるべきでしょう。


③百人一首の大会 3ナンナン
 百人一首には、「競技かるた」と呼ばれる大会があります。読み手が読み上げたカードを見つける速さを競う競
技で、みなさまもテレビなどでご覧になったことがあるでしょう。


 ですが、興味のない人からしたら、こんなことにのめり込む気持ちがわかりません。綱引き以上に「だからなんやねん!」という話で、手でパーンとカードを叩かれたところでアホとしか思えないのです。


 やってどうすんねん、そんなこと!もうちょっと光の当たるところに魂ぶつけようや!


 「花の色は~、移りにけりないたづらに~」


 「はい!」


 だからなんやねん!見つけたからどうやねん!そんなん見つけんでええから自分の正しい生き方見つけろよ!


 しかも、カードを取ったときの顔面が気持ち悪いです。スパーンと切れ味よく手のひらを叩きつけ、「やったった!」とばかりに妙に得意げな顔をしやがるのです。


 腹立つわ、こいつ!で、読み上げてる奴の自分に酔ってる読み方も気持ち悪いねん!「私が今この場所を仕切ってます!」みたいな顔がめっちゃ腹立つねん!


 「花の色は……」


 「はい!」


 速っ、こいつ!手が早漏!


 「春……」


 「はい!」


 「わ……」


 「はい!」


 速すぎて引くわ!速すぎてドン引き!ちなみに早漏の俺も彼女に「速すぎて引くわ」って言われたことがあるって何言わすねん、お前!思い出したくない過去言わせんなよ!まだ引きずってんねんぞ!


 そもそも、「そのカード、ほんまに合ってんの?」という話です。競技かるたでは、叩いた勢いでほかのカードも何枚かふっ飛びます。真偽がどこかいかがわしく、典型的なナンナンといえるでしょう。


④テニスをするババア 4ナンナン
 昨今のババアは元気です。登山や水泳などスポーツに勤しむ人も多く、見ていて微笑ましいのですが、中にはバ
バアのキャラを無視して煌びやかなウェアをまとい、うれしそうにテニスをしやがる奴がいるのです。


 勘弁してくれよ、おい!ババアが今さら何をラリーする必要があんねん!


 「ジュースやな!」


 やかましいわ!頭ハゲたゴリゴリのババアが何を一人前にジュースとか言ってくれとんねん!


 僕の近所に、市が運営する貸しテニスコートがあります。ここはオバハンとババアの巣窟で、施設全体に、獰猛なまでのどぎつい香水の匂いが充満しています。先日、近くを通りがかったときにネット越しに中を見たところ、80歳近いヒョロヒョロのババア2人が、ともに水色のスカート履いてラリーしてたんですよ。


 家帰れや、お前ら!家帰ってなんか煮っ転がしとけや!


 「ワンモア?お願い、もう1ゲームワンモア?」


 年金没収じゃ、お前ら!ワンモアとか言うババア、むしろ適当に理由つけて課税するわ!


 老いぼれ同士の戦いのため、ボールを打つだけで精一杯です。打ち返すボールに恐ろしいまでに力がなく、左右に打ち分けるテクニックなど皆無、お互いが立つ場所の前にポトンと落とすだけなのです。


 駆け引きせいや、少しはお前ら!やってて何がおもろいねん、これ!


 「(ウインクしながら)ワンモア?お願い、ワンモア?」


 射殺や、もう!じいさんには悪いけどスカート履いてウインクするようなババアを野放しにはできん、至近距離からトカレフでズドンや!


 しかもこの2人は、背が低いです。150センチぐらいしかないため、ラケットが異様に大きく見えます。そんな奴らがお互いの体の前にボールを落とし合うので見ていておかしく、腕に力がないことから、サーブ以外はすべて両手でラケットを持ちます。ラケットが間に合わずに空振りすることなどざらで、力みすぎて一度、隣のコートにラケット飛んで行ったんですよ。


 お前、何がどうなったらラケット飛んで行くねん!室伏みたいなことすんなよテニスで!


 「(舌出しながら)ワンモア?お願い、ワンモア?」


 撲殺や、もう!射殺のように楽には死なさんぞ、舌出すようなババアはじいさんが丹精こめてつくった大根を武器に撲殺や!しかもそのあとその大根を煮て、じいさんに「これ、つくりすぎたのでよかったら」と優しい隣人のフリしながらおすそ分けして、じいさんが食べてるときに「その大根、実はあんたのばあさんをさっき殴り殺したときの大根なんだよ、イヒヒ」って電話入れたるわ!


 お年寄りにはお年寄りなりの過ごし方があります。度が過ぎる行動はナンナンといえるでしょう。


⑤日本全国酒飲み音頭 5ナンナン
 『日本全国酒飲み音頭』という歌があります。最近、とあるCMのタイアップ曲として使用され、歌っているの
はバラクーダという往年のコミックバンド。みなさまも「♪1月は正月で酒が飲めるぞ~!」という歌詞を耳にしたことがあるはずです。


 ですが、歌詞のグダグダさが尋常ではありません。この歌の歌詞は「♪2月は豆まきで酒が飲めるぞ!」「♪3月はひな祭りで酒が飲めるぞ!」など、その月のイベントを紹介しながら、それを酒を飲める理由としています。イベントのない月の歌詞は苦しく、5月は「♪5月は子供の日で酒が飲めるぞ!」で、6月に至っては「♪6月は田植えで酒が飲めるぞ!」なのです。


 無理矢理やんけ、お前!この国の全員が田植えやってるわけと違うわ!土百姓限定の話やろ、それは!


 「♪7月は七夕で酒が飲めるぞ~!」


 どう飲むねん、七夕で!病んでる奴の妙な短冊見ながらどう杯が進むねん!織姫と彦星のラブホ中継してくれるんやったらまだしもよ!


 「♪8月は暑いから酒が飲めるぞ~!」


 8月だけと違うわ、暑いの!7月も9月も暑いし、冬場でも松岡修造が隣におったらそれはそれで暑く感じるわ


 「♪9月は台風で酒が飲めるぞ~!」


 そんな余裕ないわ、台風のとき!屍飛び交ってるような状況で酒なんか飲めるか!台風きてテンション上がる奴なんて病的なドMと世を厭うニートだけや!


 「♪10月は運動会で酒が飲めるぞ~!」


 2人目のお父さんか!運動会で酒浴びる親父なんて、育児放棄してるいかつい2人目のお父さんしかおらんぞ!ゴザに座って立てヒザでワンカップ飲みながら「太郎、ぶちかまさんかい!」とか言ってる奴や!


 「♪11月は何もないけど酒が飲めるぞ~!」


 言うてまいやがった!もうないから何もないって言うてまいやがった!


 「♪12月はドサクサで酒が飲めるぞ~!」


 開き直りやがった!開き直りがすごい、この歌!今の菅内閣みたい!


 この歌には2番もあり、各都道府県の名産品を紹介します。その歌詞は「♪北海道は毛ガニで酒が飲めるぞ!」「♪秋田はきりたんぽで酒が飲めるぞ!」など1番にも増してひどく、なにしろ鹿児島は「♪鹿児島は西郷隆盛と酒が飲めるぞ!」ですから。


⑥キャラが安定してない奴 6ナンナン
 たまに、キャラが安定していない人がいます。「自分、何キャラなん?」と訊きたくなるほどつかみどころがな
く、接し方が非常に難しいのです。


 4ヶ月ほど前に、仕事で東京に行ったときのことです。仕事終わりに懇親会が開かれ、僕は「マナーコンサルタント」という肩書きの女性と席が隣になりました。


 マナーコンサルタントだけあって、この人は何ごともきちんとされています。40歳そこそこの東大出身の方で、食事のマナーは完璧。口にする言葉も異常なまでに丁寧で、テーブルのことを「おテーブル」、年齢を訊くときは「失礼ではございますが、お歳のほうはお幾つでございますでしょうか?」と質問するなど、気品に満ち溢れているのです。


 「バスコさんって、本をお出しになっておられるんですよね?」


 途中で僕に訊いてきました。品なく豚の角煮にかぶりつく僕を尻目に、平目のムニエルをナイフで綺麗に切りながらの質問です。僕は口をモゴモゴさせながら「そうっすよ」と返事をしたところ、フォークで刺した平目にレモンを絞りながら、「書籍化には、どうこぎつけたんですか?」って言ったんですよ。


 こぎつけたて、おい!こぎつけたとか言うの、東大出身の才女が!?こぎつけるなんて日本語、立ち飲み屋で串かつ食い散らかすような男臭い奴しか使わんぞ!


 「どのようにしてこぎつけおられたのですか?」


 こぎつけおられたってなんやねん!こぎつけおられた!?けなされてんのか敬われてんのかわからんわ、俺!


 「そ、それがいろいろとありましてね」


 「そうでしょうね。出版にこぎつけおられるなんて、生半可な努力では無理でございますでしょうからね」


 日本語ヘタやろ、さてはお前!よく聞いたら敬語むちゃくちゃやんけ!で、才女のわりに前歯ガタガタやんけ、こいつ!リアス式海岸みたいやんけ!


 このように、この人はキャラが安定していません。ちょいちょいおかしなことを口にし、途中で「好きな食べ物は何か」が話題になりました。僕は「ラーメンです」と返答したところ、この人が平目に添えられたクレソンをナイフで薄く削ぎ切りしながら「豚トロでございます」って言ったんですよ。


 豚トロ好きなん!?親父が外交官とか言ってる奴の好物は豚の死肉なんや!?


 「豚トロがあったらラガービール、何杯でもいけますわ」


 シャンパンと違うの!?三国語しゃべれる奴が豚の肩の肉食いながらラガー飲んでんの!?来てよかったわ俺、東京まで!お前みたいな奴と知り合えて遠いところ来たかいあったわ!


 しかもこの人、休日に競艇に行ってましたからね。旦那の影響でギャンブルにはまっているらしく、自分の部屋に、競艇のカレンダーを貼ってるらしいですから。



 そして、最後。これはナンナンどころの話ではありません。ナンナンなんて言い方では済まされず、「リカイフノウ」に認定したいと思います。


⑦迷惑メールの文章 1リカイフノウ
 出会い系に代表される、いわゆる迷惑メール。携帯やパソコンのメールに毎日のように送られ、一度も受信した
ことがない人などいないでしょう。


 迷惑メールは年々、巧妙になってきています。添付のURLをクリックさせようと必死で、先日僕の携帯に来た迷惑メールのタイトルが『全裸盆踊り大会のお知らせ』だったのです。


 誰が信用すんねん、そんなもん!行くわけあるか、ボケ!


 「8月15日 雨天決行です!」


 終戦記念日やんけ!お前、戦没者浮かばれるか、残ったもんがこんなことやってたら!散っていった奴らはこんな未来のために命捧げたんと違うぞ!


 迷惑メールのタイトルは、インパクトのあるものが多いです。このメールにかぎったことではなく、以下のような信じがたいタイトルが頻繁に送られてきます。


 『布団の中で相撲しませんか?』


 意味わからん!「穴春日」とかと違うわ、俺!


 『家がパン工場なのでお金はあります』


 そんなにないやろ、パン工場やったら!もっとマネー臭がプンプンの工場にせいや!「金色多めの仏壇つくってます」とか言えや!


 『主人のペ○スが取れて1年が過ぎました』


 何言ってんねん、お前!そもそもなんで取れてん!なんの末期症状やねん、その病気!


 『今、あなたの包茎が熱い!』


 関西ウォーカーか!何を情報誌の宣伝文句みたいに俺の包茎語ってくれとんねん!それよりいつのまに俺の下の息子がスポットライト浴びてんの!?そもそもスポットライト浴びたくても皮の中に引きこもってるから浴びようないやろ!


 『早漏でも大丈夫!』


 これは行こうかな!この出会いならほしい!なんか勇気づけられたわ、ありがとう!


 ひどいのはタイトルだけではありません。タイトルに輪をかけてひどいのが本文で、その昔、『信じてください!』というタイトルで以下の迷惑メールが来ました。


 「はじめまして。キーボード越しでこうしてメールとしてメッセージをお伝えてしているだけではおわかり頂けないかも知れませんが、私はチンパンジーでございます。数年に渡る知能訓練を受けて、自分の思考を文章としてアウトプットできるようになりました。最初、私は自分を人間だと思っていました。しかし様々な知識を得て、自分がほかと異なるのを理解し、チンパンジーであるのを今は知っています。私はあなたへの興味を止めることができません。人間界ではブサメンで非モテなあなたでも、チンパンジー界ではイケメンです。あなたはチンパンジー受けする顔なのでございます。私ならあなたをナンパすることができる、と飼育されてきました。イケモンキーのあなたに、私を知ってほしいという気持ちが日増しに強くなってきています。どうしてもあなたとのデートにこぎつけたいんです!」


 さっきのオバハンやろ、さてはお前!こぎつけるってさっきのオバハンやんけ、どう考えても!


 「檻の中の猿が自由を望むのはいけないことなのでございますでしょうか?」


 さっきのオバハンやんけ、完全に!そのおかしな敬語、どう見てもさっきのオバハンやんけ!さてはお前、歯の矯正代稼ぐために副業で働いてるやろ!?豚トロにかぶりつきながらこの文章打ったやろ!?


 迷惑メールというのは、本当にバカバカしいものが多いです。最近では見るのが楽しみなぐらいで、みなさまも一度、ゆっくりとご覧になってみてください。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみに⑥でご紹介した、マナーコンサルタントの女性。「好きな映画はなんですか?」という僕の質問に、「グラディエーター」と答えました……。


 

楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/


これは何なのか?の考察⑦(携帯読者用)

 先日、仕事終わりに、職場近くのドン・キホーテに行ったときのことです。

 僕は枕カバーを買うのが目的です。布団売り場をうろちょろしていたところ、やってきた若者2人が平気な顔でタバコを吸っているのです。

 当たり前ですが、店内は禁煙です。茶髪にピアスをしたチャラい若者2人で、本人たちも店内が禁煙なのは知っているでしょう。僕は注意しようと2人に近づいたのですが、僕より先に、客である1人のオッサンが若者の前に立ちはだかりました。

 「お前ら、どこでタバコ吸っとんじゃ!」

 オッサンのすごい剣幕に、若者は驚いています。店内はざわつき始め、オッサンは「やったった!」とばかりに得意げな顔をしていたのですが、ほどなくしてオッサンの前に、身の丈190センチを超えるチンピラ丸出しの若者が現れたのです。

 「どないしてん、お前ら?」

 このチンピラは、若者2人のボスです。金のネックレスをしたヤクザ風の男で、それに気づいたこのオッサンが、「タバコを吸ってはダメでしょ」と急に敬語使い始めたんですよ。

 最低か、お前!ビビってるか知らんけど30も年下の奴に敬語なんて使うなよ!

 「ここは店内ですから、タバコはダメだと思うんですよ」

 思うとか言ってるやんけ!なんぼほど根性ないねん、こいつ!

 しばらくして店員が来ました。騒ぎは収まり、捨てゼリフを吐きながらチンピラたちは店を出たのですが、チンピラがいなくなった瞬間、このオッサンが近くの若い女の子に聞かせるかのような大声で「ほんまにええ加減にしとけよ、あいつら!」と叫んだのです。

 おもろいわ、お前!もうおもろい!たまらんわ、お前みたいなわかりやすい奴!

 「今度こんなことしやがったら承知せんぞ!」

 あかん、おもろすぎて涙出てきた!友達になりたい!

 相手に応じて、このオッサンは態度をころころと変えます。ほかの客も笑っており、かっこ悪いこと極まりないんですね。

 僕は、世の中の「これ、何なん?」と思わずにはいられない人・物・事を「ナンナン」と単位化しています。この「本当は気の弱い勇者気取り」はナンナンにほかならず、「何なん?」としか言いようがないのです。

 そこで今回は、「これは何なのか?」の考察⑦です。

 以下、僕が考えるナンナンをご紹介します。

①山田さん 1ナンナン
 この国では「佐藤」という名字が1番多いと言われていますが、山田が1番多いような気がしてなりません。やけに山田という人に知り合う機会が多く、事実、名刺ファイルや携帯電話のメモリーを見ても、山田が圧倒的に多いのです。

 みなさまも自分の知り合いを思い出してみてください、山田が1番多くないですか?冷静に周りを見渡してください、佐藤よりも鈴木よりも山田が1番多くないですか?

 先日も、ヤマダ電機に山田という店員がいました。その後、テレビの値段を比較するために近くのコジマ電機に行ったところ、テレビのコーナーに足を踏み入れて2秒後にやってきた店員の名前が山田だったのです。

 なんでこんなにも山田多いねん!そもそもヤマダのライバルのコジマに山田がおったらあかんのと違うんか!

 「お客さま、何か質問はございますか?」

 なんでこんなにも山田多いねん!もうそれをお前に直接訊くわ、なんでこんなにも山田が多いか教えろ!

 つい先日なんて、仕事の打ち合わせで5人中3人が山田でした。全員がほとんど初対面なことから、それぞれ名字で呼び合います。山田が飛び交ってややこしく、山田じゃない人が「山田さんのおっしゃってることは山田さんの会社だけが得して山田さんの会社が得しないんですよ!」と言ったことに対してもう1人の山田さんが口を挟もうとしたら、「山田さんは黙っててください!今は山田さんの会社と山田さんの会社との話をしているんです!」って言ったんですよ。

 もう誰が誰かわからん!まず呼び名の打ち合わせいるわ、これ!

 「ねえ、山田さん」

 どの山田!?その山田はどの山田のこと言ってんの!?

 「たしかに山田さんのおっしゃることはわかります、ただそれは山田さんの会社が儲かってるからで山田さんの会社と比べたときに……」

 トラウマなるわ!今後山田って奴と出会うたびにドキッとするわ!「山」登りすら怖くてなんか二の足踏むわ!

 はっきり言いますけど、このまま行ったらいつか日本、全員が山田になりますよ。恐ろしいのは中国人による乗っ取りではなく、山田ですから。

②綱引き 2ナンナン
 僕は綱引きが嫌いです。言いたいことがたくさんあり、まずこれ、「勝ったからどうやねん」って思いません?「勝った先に何があんの?」という話で、汗だくになって引っ張ったところで得られるものなど何1つないのです。

 やってどうすんねん、そんなこと!このデスクワーク全盛の時代に馬力競ってなんの意味あんねん!

 「オーエス!オーエス!」

 やかましいわ!そもそも綱引きでそんなにがんばれるんやったらもっと普段の仕事がんばれよお前ら!

 「よっしゃ!勝ったぞ!」

 だからなんやねん!むしろ勝った側の肉体派の奴のほうが人生では負け組多いやろ!メガネかけたひょろい奴のほうが高給取りやったりするぞ、人生は!

 綱の最後尾には、尋常じゃないレベルのデブが陣取っています。「綱引きやるためだけに産まれてきました!」みたいなどぎつい奴が体中に綱を巻きつけており、そいつにとっての綱引きは遊びではありません。顔面を真っ赤にして体中で引っ張り、勝敗が決しても「俺は1人でも戦いますよ!」とばかりにしばらく綱から手を離さず、1対30みたいなものすごい戦いを繰り広げるのです。

 弁慶か、お前!平成の武蔵坊って呼ぶぞ、お前のこと!

 「オラー!オラオラオラー!」

 何があってん、お前!話聞いたるわ俺、何があってん!?遠慮せんでいいから俺に話してみ、仕事でなんかイヤなことでもあってんやろ!?

 それでもせっかくなので、やるからには勝ったほうがいいです。仕方なく一生懸命に引っ張るのですが、自分のチームの中に、なんの戦力にもならないひょろひょろのジジイが何匹か紛れ込んでやがるのです。

 家いとけや、お前!綱とか引っ張らんでええから家でババアの頭の網引っ張って遊んどけや!

 「オーエス……」

 声ちっちゃ!一応言っとる、こいつ!むしろ士気下がるわ、老いぼれのボイス!

 綱引きをやったところで得られるものなどありません。お年寄りだと脳の血管が切れてもおかしくないので、一刻も早くやめるべきでしょう。

③百人一首の大会 3ナンナン
 百人一首には、「競技かるた」と呼ばれる大会があります。読み手が読み上げたカードを見つける速さを競う競技で、みなさまもテレビなどでご覧になったことがあるでしょう。

 ですが、興味のない人からしたら、こんなことにのめり込む気持ちがわかりません。綱引き以上に「だからなんやねん!」という話で、手でパーンとカードを叩かれたところでアホとしか思えないのです。

 やってどうすんねん、そんなこと!もうちょっと光の当たるところに魂ぶつけようや!

 「花の色は~、移りにけりないたづらに~」

 「はい!」

 だからなんやねん!見つけたからどうやねん!そんなん見つけんでええから自分の正しい生き方見つけろよ!

 しかも、カードを取ったときの顔面が気持ち悪いです。スパーンと切れ味よく手のひらを叩きつけ、「やったった!」とばかりに妙に得意げな顔をしやがるのです。

 腹立つわ、こいつ!で、読み上げてる奴の自分に酔ってる読み方も気持ち悪いねん!「私が今この場所を仕切ってます!」みたいな顔がめっちゃ腹立つねん!

 「花の色は……」

 「はい!」

 速っ、こいつ!手が早漏!

 「春……」

 「はい!」

 「わ……」

 「はい!」

 速すぎて引くわ!速すぎてドン引き!ちなみに早漏の俺も彼女に「速すぎて引くわ」って言われたことがあるって何言わすねん、お前!思い出したくない過去言わせんなよ!まだ引きずってんねんぞ!

 そもそも、「そのカード、ほんまに合ってんの?」という話です。競技かるたでは、叩いた勢いでほかのカードも何枚かふっ飛びます。真偽がどこかいかがわしく、典型的なナンナンといえるでしょう。

④テニスをするババア 4ナンナン
 昨今のババアは元気です。登山や水泳などスポーツに勤しむ人も多く、見ていて微笑ましいのですが、中にはババアのキャラを無視して煌びやかなウェアをまとい、うれしそうにテニスをしやがる奴がいるのです。

 勘弁してくれよ、おい!ババアが今さら何をラリーする必要があんねん!

 「ジュースやな!」

 やかましいわ!頭ハゲたゴリゴリのババアが何を一人前にジュースとか言ってくれとんねん!

 僕の近所に、市が運営する貸しテニスコートがあります。ここはオバハンとババアの巣窟で、施設全体に、獰猛なまでのどぎつい香水の匂いが充満しています。先日、近くを通りがかったときにネット越しに中を見たところ、80歳近いヒョロヒョロのババア2人が、ともに水色のスカート履いてラリーしてたんですよ。

 家帰れや、お前ら!家帰ってなんか煮っ転がしとけや!

 「ワンモア?お願い、もう1ゲームワンモア?」

 年金没収じゃ、お前ら!ワンモアとか言うババア、むしろ適当に理由つけて課税するわ!

 老いぼれ同士の戦いのため、ボールを打つだけで精一杯です。打ち返すボールに恐ろしいまでに力がなく、左右に打ち分けるテクニックなど皆無、お互いが立つ場所の前にポトンと落とすだけなのです。

 駆け引きせいや、少しはお前ら!やってて何がおもろいねん、これ!

 「(ウインクしながら)ワンモア?お願い、ワンモア?」

 射殺や、もう!じいさんには悪いけどスカート履いてウインクするようなババアを野放しにはできん、至近距離からトカレフでズドンや!

 しかもこの2人は、背が低いです。150センチぐらいしかないため、ラケットが異様に大きく見えます。そんな奴らがお互いの体の前にボールを落とし合うので見ていておかしく、腕に力がないことから、サーブ以外はすべて両手でラケットを持ちます。ラケットが間に合わずに空振りすることなどざらで、力みすぎて一度、隣のコートにラケット飛んで行ったんですよ。

 お前、何がどうなったらラケット飛んで行くねん!室伏みたいなことすんなよテニスで!

 「(舌出しながら)ワンモア?お願い、ワンモア?」

 撲殺や、もう!射殺のように楽には死なさんぞ、舌出すようなババアはじいさんが丹精こめてつくった大根を武器に撲殺や!しかもそのあとその大根を煮て、じいさんに「これ、つくりすぎたのでよかったら」と優しい隣人のフリしながらおすそ分けして、じいさんが食べてるときに「その大根、実はあんたのばあさんをさっき殴り殺したときの大根なんだよ、イヒヒ」って電話入れたるわ!

 お年寄りにはお年寄りなりの過ごし方があります。度が過ぎる行動はナンナンといえるでしょう。

⑤日本全国酒飲み音頭 5ナンナン
 『日本全国酒飲み音頭』という歌があります。最近、とあるCMのタイアップ曲として使用され、歌っているのはバラクーダという往年のコミックバンド。みなさまも「♪1月は正月で酒が飲めるぞ~!」という歌詞を耳にしたことがあるはずです。

 ですが、歌詞のグダグダさが尋常ではありません。この歌の歌詞は「♪2月は豆まきで酒が飲めるぞ!」「♪3月はひな祭りで酒が飲めるぞ!」など、その月のイベントを紹介しながら、それを酒を飲める理由としています。イベントのない月の歌詞は苦しく、5月は「♪5月は子供の日で酒が飲めるぞ!」で、6月に至っては「♪6月は田植えで酒が飲めるぞ!」なのです。

 無理矢理やんけ、お前!この国の全員が田植えやってるわけと違うわ!土百姓限定の話やろ、それは!

 「♪7月は七夕で酒が飲めるぞ~!」

 どう飲むねん、七夕で!病んでる奴の妙な短冊見ながらどう杯が進むねん!織姫と彦星のラブホ中継してくれるんやったらまだしもよ!

 「♪8月は暑いから酒が飲めるぞ~!」

 8月だけと違うわ、暑いの!7月も9月も暑いし、冬場でも松岡修造が隣におったらそれはそれで暑く感じるわ!

 「♪9月は台風で酒が飲めるぞ~!」

 そんな余裕ないわ、台風のとき!屍飛び交ってるような状況で酒なんか飲めるか!台風きてテンション上がる奴なんて病的なドMと世を厭うニートだけや!

 「♪10月は運動会で酒が飲めるぞ~!」

 2人目のお父さんか!運動会で酒浴びる親父なんて、育児放棄してるいかつい2人目のお父さんしかおらんぞ!ゴザに座って立てヒザでワンカップ飲みながら「太郎、ぶちかまさんかい!」とか言ってる奴や!

 「♪11月は何もないけど酒が飲めるぞ~!」

 言うてまいやがった!もうないから何もないって言うてまいやがった!

 「♪12月はドサクサで酒が飲めるぞ~!」

 開き直りやがった!開き直りがすごい、この歌!今の菅内閣みたい!

 この歌には2番もあり、各都道府県の名産品を紹介します。その歌詞は「♪北海道は毛ガニで酒が飲めるぞ!」「♪秋田はきりたんぽで酒が飲めるぞ!」など1番にも増してひどく、なにしろ鹿児島は「♪鹿児島は西郷隆盛と酒が飲めるぞ!」ですから。

⑥キャラが安定してない奴 6ナンナン
 たまに、キャラが安定していない人がいます。「自分、何キャラなん?」と訊きたくなるほどつかみどころがなく、接し方が非常に難しいのです。

 4ヶ月ほど前に、仕事で東京に行ったときのことです。仕事終わりに懇親会が開かれ、僕は「マナーコンサルタント」という肩書きの女性と席が隣になりました。

 マナーコンサルタントだけあって、この人は何ごともきちんとされています。40歳そこそこの東大出身の方で、食事のマナーは完璧。口にする言葉も異常なまでに丁寧で、テーブルのことを「おテーブル」、年齢を訊くときは「失礼ではございますが、お歳のほうはお幾つでございますでしょうか?」と質問するなど、気品に満ち溢れているのです。

 「バスコさんって、本をお出しになっておられるんですよね?」

 途中で僕に訊いてきました。品なく豚の角煮にかぶりつく僕を尻目に、平目のムニエルをナイフで綺麗に切りながらの質問です。僕は口をモゴモゴさせながら「そうっすよ」と返事をしたところ、フォークで刺した平目にレモンを絞りながら、「書籍化には、どうこぎつけたんですか?」って言ったんですよ。

 こぎつけたて、おい!こぎつけたとか言うの、東大出身の才女が!?こぎつけるなんて日本語、立ち飲み屋で串かつ食い散らかすような男臭い奴しか使わんぞ!

 「どのようにしてこぎつけおられたのですか?」

 こぎつけおられたってなんやねん!こぎつけおられた!?けなされてんのか敬われてんのかわからんわ、俺!

 「そ、それがいろいろとありましてね」

 「そうでしょうね。出版にこぎつけおられるなんて、生半可な努力では無理でございますでしょうからね」

 日本語ヘタやろ、さてはお前!よく聞いたら敬語むちゃくちゃやんけ!で、才女のわりに前歯ガタガタやんけ、こいつ!リアス式海岸みたいやんけ!

 このように、この人はキャラが安定していません。ちょいちょいおかしなことを口にし、途中で「好きな食べ物は何か」が話題になりました。僕は「ラーメンです」と返答したところ、この人が平目に添えられたクレソンをナイフで薄く削ぎ切りしながら「豚トロでございます」って言ったんですよ。

 豚トロ好きなん!?親父が外交官とか言ってる奴の好物は豚の死肉なんや!?

 「豚トロがあったらラガービール、何杯でもいけますわ」

 シャンパンと違うの!?三国語しゃべれる奴が豚の肩の肉食いながらラガー飲んでんの!?来てよかったわ俺、東京まで!お前みたいな奴と知り合えて遠いところ来たかいあったわ!

 しかもこの人、休日に競艇に行ってましたからね。旦那の影響でギャンブルにはまっているらしく、自分の部屋に、競艇のカレンダーを貼ってるらしいですから。


 そして、最後。これはナンナンどころの話ではありません。ナンナンなんて言い方では済まされず、「リカイフノウ」に認定したいと思います。

⑦迷惑メールの文章 1リカイフノウ
 出会い系に代表される、いわゆる迷惑メール。携帯やパソコンのメールに毎日のように送られ、一度も受信したことがない人などいないでしょう。

 迷惑メールは年々、巧妙になってきています。添付のURLをクリックさせようと必死で、先日僕の携帯に来た迷惑メールのタイトルが『全裸盆踊り大会のお知らせ』だったのです。

 誰が信用すんねん、そんなもん!行くわけあるか、ボケ!

 「8月15日 雨天決行です!」

 終戦記念日やんけ!お前、戦没者浮かばれるか、残ったもんがこんなことやってたら!散っていった奴らはこんな未来のために命捧げたんと違うぞ!

 迷惑メールのタイトルは、インパクトのあるものが多いです。このメールにかぎったことではなく、以下のような信じがたいタイトルが頻繁に送られてきます。

 『布団の中で相撲しませんか?』

 意味わからん!「穴春日」とかと違うわ、俺!

 『家がパン工場なのでお金はあります』

 そんなにないやろ、パン工場やったら!もっとマネー臭がプンプンの工場にせいや!「金色多めの仏壇つくってます」とか言えや!

 『主人のペ○スが取れて1年が過ぎました』

 何言ってんねん、お前!そもそもなんで取れてん!なんの末期症状やねん、その病気!

 『今、あなたの包茎が熱い!』

 関西ウォーカーか!何を情報誌の宣伝文句みたいに俺の包茎語ってくれとんねん!それよりいつのまに俺の下の息子がスポットライト浴びてんの!?そもそもスポットライト浴びたくても皮の中に引きこもってるから浴びようないやろ!

 『早漏でも大丈夫!』

 これは行こうかな!この出会いならほしい!なんか勇気づけられたわ、ありがとう!

 ひどいのはタイトルだけではありません。タイトルに輪をかけてひどいのが本文で、その昔、『信じてください!』というタイトルで以下の迷惑メールが来ました。

 「はじめまして。キーボード越しでこうしてメールとしてメッセージをお伝えてしているだけではおわかり頂けないかも知れませんが、私はチンパンジーでございます。数年に渡る知能訓練を受けて、自分の思考を文章としてアウトプットできるようになりました。最初、私は自分を人間だと思っていました。しかし様々な知識を得て、自分がほかと異なるのを理解し、チンパンジーであるのを今は知っています。私はあなたへの興味を止めることができません。人間界ではブサメンで非モテなあなたでも、チンパンジー界ではイケメンです。あなたはチンパンジー受けする顔なのでございます。私ならあなたをナンパすることができる、と飼育されてきました。イケモンキーのあなたに、私を知ってほしいという気持ちが日増しに強くなってきています。どうしてもあなたとのデートにこぎつけたいんです!」

 さっきのオバハンやろ、さてはお前!こぎつけるってさっきのオバハンやんけ、どう考えても!

 「檻の中の猿が自由を望むのはいけないことなのでございますでしょうか?」

 さっきのオバハンやんけ、完全に!そのおかしな敬語、どう見てもさっきのオバハンやんけ!さてはお前、歯の矯正代稼ぐために副業で働いてるやろ!?豚トロにかぶりつきながらこの文章打ったやろ!?

 迷惑メールというのは、本当にバカバカしいものが多いです。最近では見るのが楽しみなぐらいで、みなさまも一度、ゆっくりとご覧になってみてください。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみに⑥でご紹介した、マナーコンサルタントの女性。「好きな映画はなんですか?」という僕の質問に、「グラディエーター」と答えました……。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/

静江ばあさんは何者か?の考察(パソコン読者用)

 昨日、近所の弁当屋に行きました。お昼時だったため、店は混雑しています。列の最後尾に並んで何を注文しようかと考えていたところ、ひとりのおばあさんが僕のそばにやってきました。


 「あんた、お弁当を買おうと思ってんの?」


 このおばあさんは僕の近所に住んでいます。「静江ばあさん」と呼ばれている老婆で、僕とはそれほど親しいわけではありません。町で会ったときに、軽く世間話をするぐらいの関係です。僕は適当に返事をしてやり過ごそうとしたのですが、僕の肛門を、静江ばあさんがズボンの上から指でグリグリしてきたのです。


 「ちょ、ちょっと、何するんですか!」


 僕はワケがわかりません。おもわず声を上げたのですが、僕の肛門を3本の指でグリグリしながら、「お弁当ばっかり食べてたら、お尻におイボさんができるよ!」と叫んでそのままどっか行ったんですよ。


 はっ?はっ?


 「おイボさんができてからではもう遅いからな!この野郎!」


 全然意味わからん、こいつ!で、おイボさんってなんやねん!痔のことかなんか知らんけどおイモさんみたいに言うなよ!


 この静江ばあさんは、僕が子供のころに「マンマンチャ」と呼ばれていました。「マンマンチャ」という言葉の由来は謎です。誰かが最初に言い出して広まり、マンマンチャは当時、山小屋のような汚い家に住んでいました。近所の子供たちから差別され、大人たちも「マンマンチャと関わったらあかんで!」と罵ったのです。


 このマンマンチャは、異常なまでに気性が荒いです。


 「どつき回したろか、あんたら!」


 子供におちょくられるものならこのように声を荒げ、それでも歳とともに、性格は穏やかになっていきました。10年ほど前から近所の人たちに溶け込むようになり、今では「静江ばあさん」という名で、僕の近所に市民権を得たのです。


 この静江ばあさんは、とにかく得体が知れません。まったくつかみどころのない性格で、過去に人を殺していたとしても驚けないような人なのです。


 今回はこの静江ばあさんの特徴をご紹介して、「静江ばあさんは何者なのか?」を検証したいと思います。


 そこで今回は、「静江ばあさんは何者か?」の考察です。


 先ほども申し上げましたが、僕は静江ばあさんとは親しくありません。僕の両親をはじめ、近所の人たちも関わるとややこしいことから、ある程度距離を取った付き合い方をしています。話しかけるのも勇気を必要とされるぐらいで、現時点でわかっていることは以下の3つです。


●歳は80歳前後
●独身
●ボロボロの団地にひとり暮らし


 これらのことを踏まえていただき、以下に、静江ばあさんの特徴をご紹介します。


①貧乏である
 「マンマンチャ」と呼ばれていたころから、静江ばあさんは貧乏です。服がボロボロなのはもちろんのこと、カ
バンとしてミスタードーナツの空き箱を使用しているのです。


 こんなこと、あり得ます?いくら金ないか知りませんけど、ミスドの箱をカバンにするなんて普通じゃないでしょ!?


 しかも、荷物が少ないときは小さい箱、遠出をするときはロングサイズの空き箱と使い分けています。一度、雨の日にすれ違ったのですが、箱を濡らさないようにするためにスーパーの袋に入れていたのです。


 箱いらんやんけ、それ!箱なんて使わずに袋だけでええやろ!そもそも普段からスーパーの袋をカバンに使ったらええやんけ!


 「静江ばあさん、それ、スーパーの袋だけでいいんと違いますかね?」


 「チョーーイ!!!」


 意味わからん、こいつ!奇声あげればなんとかなると思ってやがる!


 静江ばあさんは、頭がカッパみたいにハゲています。中央部の丸いハゲを隠すために一時期、手作りのカツラを装着していました。ですがこれがえげつない代物で、ハゲと同じ形に白の画用紙を丸く切り、その上に髪の毛みたいに縮れさせた毛糸をボンドで貼り付けていたのです。


 そんなカツラあるか、お前!アホの子供の工作やんけ、そんなもん!


 しかも小賢しいことに、季節ごとに毛糸の色を変えてきます。春はピンク、夏は黄色と発想が安易で、冬場は雪を意識したのでしょう。白の画用紙の上に真っ白の毛糸を貼り付けていたのです。


 隠せてないやろ、それ!白に白やったらハゲを強調してるだけやろ!で、毛糸をけちってるからスカスカやねん、お前の頭!やるんやったら徹底的にやれや!


 むちゃくちゃなカツラで、上から見たら、ほとんどピカソの絵です。こんなカツラをかぶって手にはミスドの箱ですから、静江ばあさんが公園に来ると子供が怖がって帰るほどなのです。


②泥棒である
 貧しいこともあって、静江ばあさんは手癖が悪いです。基本的には泥棒で、民家の前に置いてある、返却する出
前用の皿を何の躊躇もなく盗みます。隙があればなんでも盗む癖があり、ある時、近所の人が家の庭で飼っている猫がいなくなったのですが、普通に静江ばあさんの家にいたのです。


 ふざけんなよ、お前!どこの世界に猫盗む奴がおんねん!


 静江ばあさんは「道に迷ってたからうちでかくまってた!」と言い訳したらしいのですが、確実に盗んでいます。過去の泥棒実績がそのことを物語っており、なにしろその昔、近所の人の土地に勝手に畑を作って野菜を栽培し始めたのです。


 お前、土地盗むか、普通!?開き直りもええところやぞ、それ!


 畑作業に使用する道具も、近くの畑から拝借しています。注意されてやめたものの、今でも数年に1回ぐらいの割合で、人の土地を使って勝手に野菜を栽培するのです。


 土地こそ盗まれなかったものの、僕の家も被害に遭っています。静江ばあさんは、たまに野菜の煮物を僕の家に届けてくれるのですが、その煮物に使用した野菜の多くは僕の父親の畑から盗んだ野菜なのです。


 ふざけんなよ、お前!ていうかよく堂々と持ってきたな、俺の家に!


 「これ、煮物やから食べて!」


 「ありがとうございます!」


 なんで礼言わないとあかんねん、俺の家!礼言うんはちょっと違うやろ!


 「タッパは返してな!」


 俺の家のタッパやんけ、これ!このタッパ、うちの母親がお前の家におはぎ届けたときのタッパやんけ!


 静江ばあさんは、警察に届けられない範囲での小さな泥棒にとどめています。通報しにくい泥棒ばかりなので、僕らもお手上げなのです。


③裸を見せることに躊躇がない
 関西のオバハンほど品のない女性はいません。詳しくは書きませんが、僕の地元でも、裸を見られることに躊躇
のないオバハンが多いです。僕の母親もそのひとりで、夏場など、上半身裸で家の中をうろつくことなどザラなのです。


 それでも、さすがに裸で外に出ることはありません。最低限の「女」は残しているのですが、静江ばあさんにそんな品はありません。つい先日も、団地の階段に座って上半身裸でスイカを食べていたのです。


 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、このババア!


 「お帰り!」


 ごめん、話しかけんといて!知り合いと思われたくないから!


 それでも、だいぶマシになりました。僕が小学生のころなんて、年がら年中、裸で外にいました。当時は山小屋のようなボロボロの家に住んでおり、ある日学校の帰りに家の前を通りがかったところ、縁側でパンツ1枚になって足組みながら、特大のサトウキビを生で吸ってたんですよ。


 鬼太郎呼ぶぞ、もう!完全に妖怪やわ、お前みたいな奴!


 「お帰り!」


 だから話しかけんなって言ってるやろ!お前の知り合いと思われたら学校でいじめられるわ、俺!それぐらいの威力あるわ、お前の存在!


 静江ばあさんは当時、家の前でホルモンを焼いていました。大きな鉄板で炒めて販売していたのですが、暑くなると、上半身裸になります。炒める際は前かがみになり、両手に持ったコテで何度もひっくり返すのですが、乳が垂れすぎて、たまに鉄板で乳首をヤケドしていたのです。


 お前、どこの世界に乳首ヤケドする商売人がおんねん!で、垂れた乳を肩にかけて乳の下をタオルで拭くなよ、気持ち悪い!


 「熱っ!」


 そりゃそうやろ!ヤケドせんように乳首になんか貼っとけやって、服着たらええだけの話やんけ!何言ってんねん、俺!


 夏場のこの時期は、毎日のように外で裸になっています。周囲も見慣れたもので、「静江ばあさんが裸になったら夏」みたく、ちょっとした夏の風物詩になっているのです。


④隙があったら美智子さまの話をしてくる
 静江ばあさんは、皇后陛下を崇拝しまくっています。ほんじょそこらの右翼よりもはるかに崇拝しており、
財布にいつも美智子さまのプロマイドを入れているほどなのです。


 静江ばあさんと一緒にいると、二言目には美智子さまの話です。なかでも、「皇居の庭にある松の枝を切ったときに、美智子さまが切り口に塗り薬を塗った話」が大好きで、僕は通算で50回以上は聞かされています。すれ違いざまに話されるぐらいの勢いで、つい先日もバスの停留所にいたところ、静江ばあさんが僕の隣にやってきました。


 「おはよう」


 「あっ、おはようございます」


 「美智子さまがさ……」


 いきなりなん!?会って5秒でもうその話すんの!?「仕事に行くの?」とかは訊かへんの!?


 「……そうですか」


 「それより、仕事かいな?」


 「そうです。最近、バスで行ってるんですよ」


 「そうかいな。それよりあんた、まだ独身やんな?」


 「そうです」


 「早く結婚しいや。早く美智子さまのような……」


 また出た、美智子さま!会って1分でもう2回出てきた!


 「それよりこの辺も木が茂ってんな」


 「そうですね」


 「切らなあかんで、これ。でも切ったらそこに塗り薬を塗るのが美智子さまのすばらしいところで……」


 ええ加減にせいよ、お前!右翼に雇われてんのか、お前!「一美智子につき100円」みたいなバイトしてんのか!?


 このあと一緒にバスに乗ったのですが、やってきた子供たちにも美智子さまの話をしていました。隙があったらその話をするので、聞かされるほうは大変なのです。


⑤虫の殺し方がすごい
 静江ばあさんは虫が嫌いです。なかでもセミが大嫌いで、うるさいという理由だけで手当たり次第に殺します。
しかもその殺し方は恐ろしく、物干し竿で木を叩き、落ちてきたセミを手当たり次第踏んでいくのです。


 やりすぎやろ、お前!警察沙汰なるわ!


 「オラッ!オラッ!」


 怖すぎるわ!ていうか美智子さまの教えをどう思ってんねん、お前!あんなに優しい人を尊敬してんのにやってること全然違うやんけ!


 「男のくせにギャーギャー鳴きやがって!」


 意味わからん!悲しくて泣いてるんと違うわ、オスゼミ!


 僕はこの大量殺人を過去に何度も目撃してきました。殺人の際、落ちてきたセミが静江ばあさんの腕の関節に止まることがあり、普通ならこのとき、指ではじくでしょう。100歩譲って手で叩いて殺すのならまだわかるのですが、静江ばあさん、腕折るんですよ。ガッツポーズするみたいに腕の関節で圧死させるんですよ!


 そんな殺し方あるか、お前!寿命短いねんからそんなことやめたってくれよ!


 「生まれ変わって出直せ!」


 なんも悪いことしてへんわ、セミ!ただ鳴いてるだけやんけ!お前のほうこそ生まれ変わって出直せよ!


 静江ばあさんの殺しの対象は、虫だけにとどまりません。犬や猫は大好きなものの、気持ち悪い系の生物は軒並みぶち殺す癖があり、忘れもしない、2年前の夏のことです。


 その日は終戦記念日で、近くの公民館でちょっとした慰霊祭が行われていました。市会議員が式辞を口にし、戦争で亡くなられた人々の名前を読み上げます。途中で特攻隊員の話になり、参加者の多くが涙を流し始めました。


 僕も泣けてきました。隣にいる僕の母親にハンカチを借りて涙を拭き、僕らの列の端にいる静江ばあさんも号泣しているのです。


 高齢のため、静江ばあさんはイスに座っています。キャスターつきのイスで、静江ばあさんは、後ろをちらちら見ながらなにやら顔をしかめています。ふと見ると雨戸にヤモリが引っついており、静江ばあさんが急にキャスターを転がしてイスを雨戸のほうに移動させ、ヤモリに人殺せるぐらいのヒジテツ決めて何食わぬ顔で戻ってきたんですよ。


 勘弁してくれよ、この状況で!シャレならんわ、このババア!


 「ふぅ」


 ふぅやあるか、お前!ゴルゴ何ティーンやねん、お前!何を一仕事終えたみたいな息ついてくれとんねん!


 しかもこのあと、ヒジについた血を僕の母親のハンカチで拭いてましたからね。静江ばあさんが泣いているからハンカチを貸してあげたのに、返されたハンカチにおもいっきりイモリ殺したときの血がついてましたから。



 そして、最後。これこそが静江ばあさんの最大の特徴です。


⑥口が悪すぎる
 僕は30年以上生きていますが、静江ばあさんほど口の悪い人に出会ったことがありません。天性の口の悪さを
持ち合わせており、差別的な言い回しが多すぎて、ここでは詳しく述べられません。ご紹介できるレベルで一例をあげると、太っている人のことを「ブタ」、ホームレスのことを「ゴミ野郎」と揶揄し、僕の近所に肝臓が悪くて顔に黄だんができている人がいるのですが、その人のことを陰で「プリン」と呼んでいるのです。


 言いすぎやろ、お前!病人つかまえて何を言ってくれとんねん!


 「プリンも、もう長くないな!」


 やかましいわ!「賞味期限が切れる」みたいな言い方すんなよ!


 とにかく口が悪く、今年の春先に、僕の近所でボヤ騒ぎがあったときのことです。ここの家主は小屋で乳牛を飼っており、年に1、2回、わらに火がついて大騒ぎになります。その日の深夜にボヤが発生し、消防車の音を聞

いた僕は現場に向かいました。


 現場に到着すると、たくさんの野次馬がいます。消防車が消火作業を始めており、ふと見ると静江ばあさんがいます。ひとりの気の弱そうな若者をつかまえてなにやら悪態ついており、若者のほうは「違います!違います!」と連呼しています。気になった僕はふたりの真横に行って耳を澄ませたところ、どうやら静江ばあさんがこの若者のことを放火魔だと思っているらしく、「僕は犯人じゃありません!」と反論する若者に向かって、「嘘つき!お前の顔、どこからどう見ても火つける顔してるやんけ!」って言ったんですよ。


 ええ加減にせいよ、お前!この法治国家ですごいこと言ってるぞ、お前!


 「絶対、犯人こいつやわ!」


 根拠は顔だけやろ!そもそも火つけそうな顔ってどんな顔やねん!


 「なあ!?なあ!?」


 誰がうんって言うねん、お前!同意できるか、そんなもん!ナチスに訊かれてても「そんなことないですよ!」って反論するわ!


 これらのように異常なまでに口が悪く、僕も何度も被害に遭いました。なかでも1番腹が立ったのが大学受験のときで、僕はその日、第一志望の大学受験に失敗して落ち込んでいました。近所のパン屋の前にあるベンチに座ってうなだれていたところ、隣に静江ばあさんがやってきたのです。


 「あんた、大学、落ちたらしいやん」


 「そうなんですよ」


 「ざまあ見ろ」


 「……」


 「ざまあ見さらせ!」


 「向こう行けや、あんた!」


 「あんたのところはおじいちゃんが金持ちやからな。金持ちのところの血筋はだいたい受験に失敗しよる!」


 「やかましいわ、ボケ!あっちに行け!」


 あまりに悪態ついてくるため、僕は怒りました。静江ばあさんも僕の気迫に押されて立ち去ろうとしたのですが、去り際に、「なんで落ちたかわかるか?」と僕に質問してきたのです。


 僕はむかつきながらも、返す刀で「知らん。知ってるんやったら教えてくれや?」と返しました。すると僕のほうを見てカッと目を見開き、めちゃくちゃ高い声で「それはお前が朝ごはんを食べてへんからや!」って言ったんですよ。


 何言ってんねん、お前!頭ハゲ散らかしながら何言ってくれとんねん!


 「ミロを飲め、ミロを!ミロを飲んだら阪大受かる!」


 全然意味わからん、こいつ!で、言うんやったら東大にせいや!なんで中途半端な阪大の名前出してくんねん!


 静江ばあさんだけは、とにかくつかみどころがありません。付き合うのが大変で、少し絡まれるだけで体がくたくたになるのです。



 以上が、静江ばあさんにまつわるエピソードです。


 今回のエピソードを見てもわかるとおり、静江ばあさんは本当に救いようのない人間です。ですがひとつだけいいところがあり、手料理が得意で、頻繁に届けてくれます。つい先日も、僕の父親の畑で盗んだキュウリを使ったジャージャー麺を届けてくれたのです……。



楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/



静江ばあさんは何者か?の考察(携帯読者用)

 昨日、近所の弁当屋に行きました。お昼時だったため、店は混雑しています。列の最後尾に並んで何を注文しようかと考えていたところ、ひとりのおばあさんが僕のそばにやってきました。

 「あんた、お弁当を買おうと思ってんの?」

 このおばあさんは僕の近所に住んでいます。「静江ばあさん」と呼ばれている老婆で、僕とはそれほど親しいわけではありません。町で会ったときに、軽く世間話をするぐらいの関係です。僕は適当に返事をしてやり過ごそうとしたのですが、僕の肛門を、静江ばあさんがズボンの上から指でグリグリしてきたのです。

 「ちょ、ちょっと、何するんですか!」

 僕はワケがわかりません。おもわず声を上げたのですが、僕の肛門を3本の指でグリグリしながら、「お弁当ばっかり食べてたら、お尻におイボさんができるよ!」と叫んでそのままどっか行ったんですよ。

 はっ?はっ?

 「おイボさんができてからではもう遅いからな!この野郎!」

 全然意味わからん、こいつ!で、おイボさんってなんやねん!痔のことかなんか知らんけどおイモさんみたいに言うなよ!

 この静江ばあさんは、僕が子供のころに「マンマンチャ」と呼ばれていました。「マンマンチャ」という言葉の由来は謎です。誰かが最初に言い出して広まり、マンマンチャは当時、山小屋のような汚い家に住んでいました。近所の子供たちから差別され、大人たちも「マンマンチャと関わったらあかんで!」と罵ったのです。

 このマンマンチャは、異常なまでに気性が荒いです。

 「どつき回したろか、あんたら!」

 子供におちょくられるものならこのように声を荒げ、それでも歳とともに、性格は穏やかになっていきました。10年ほど前から近所の人たちに溶け込むようになり、今では「静江ばあさん」という名で、僕の近所に市民権を得たのです。

 この静江ばあさんは、とにかく得体が知れません。まったくつかみどころのない性格で、過去に人を殺していたとしても驚けないような人なのです。

 今回はこの静江ばあさんの特徴をご紹介して、「静江ばあさんは何者なのか?」を検証したいと思います。

 そこで今回は、「静江ばあさんは何者か?」の考察です。

 先ほども申し上げましたが、僕は静江ばあさんとは親しくありません。僕の両親をはじめ、近所の人たちも関わるとややこしいことから、ある程度距離を取った付き合い方をしています。話しかけるのも勇気を必要とされるぐらいで、現時点でわかっていることは以下の3つです。

●歳は80歳前後
●独身
●ボロボロの団地にひとり暮らし

 これらのことを踏まえていただき、以下に、静江ばあさんの特徴をご紹介します。

①貧乏である
 「マンマンチャ」と呼ばれていたころから、静江ばあさんは貧乏です。服がボロボロなのはもちろんのこと、カバンとしてミスタードーナツの空き箱を使用しているのです。

 こんなこと、あり得ます?いくら金ないか知りませんけど、ミスドの箱をカバンにするなんて普通じゃないでしょ!?

 しかも、荷物が少ないときは小さい箱、遠出をするときはロングサイズの空き箱と使い分けています。一度、雨の日にすれ違ったのですが、箱を濡らさないようにするためにスーパーの袋に入れていたのです。

 箱いらんやんけ、それ!箱なんて使わずに袋だけでええやろ!そもそも普段からスーパーの袋をカバンに使ったらええやんけ!

 「静江ばあさん、それ、スーパーの袋だけでいいんと違いますかね?」

 「チョーーイ!!!」

 意味わからん、こいつ!奇声あげればなんとかなると思ってやがる!

 静江ばあさんは、頭がカッパみたいにハゲています。中央部の丸いハゲを隠すために一時期、手作りのカツラを装着していました。ですがこれがえげつない代物で、ハゲと同じ形に白の画用紙を丸く切り、その上に髪の毛みたいに縮れさせた毛糸をボンドで貼り付けていたのです。

 そんなカツラあるか、お前!アホの子供の工作やんけ、そんなもん!

 しかも小賢しいことに、季節ごとに毛糸の色を変えてきます。春はピンク、夏は黄色と発想が安易で、冬場は雪を意識したのでしょう。白の画用紙の上に真っ白の毛糸を貼り付けていたのです。

 隠せてないやろ、それ!白に白やったらハゲを強調してるだけやろ!で、毛糸をけちってるからスカスカやねん、お前の頭!やるんやったら徹底的にやれや!

 むちゃくちゃなカツラで、上から見たら、ほとんどピカソの絵です。こんなカツラをかぶって手にはミスドの箱ですから、静江ばあさんが公園に来ると子供が怖がって帰るほどなのです。

②泥棒である
 貧しいこともあって、静江ばあさんは手癖が悪いです。基本的には泥棒で、民家の前に置いてある、返却する出前用の皿を何の躊躇もなく盗みます。隙があればなんでも盗む癖があり、ある時、近所の人が家の庭で飼っている猫がいなくなったのですが、普通に静江ばあさんの家にいたのです。

 ふざけんなよ、お前!どこの世界に猫盗む奴がおんねん!

 静江ばあさんは「道に迷ってたからうちでかくまってた!」と言い訳したらしいのですが、確実に盗んでいます。過去の泥棒実績がそのことを物語っており、なにしろその昔、近所の人の土地に勝手に畑を作って野菜を栽培し始めたのです。

 お前、土地盗むか、普通!?開き直りもええところやぞ、それ!

 畑作業に使用する道具も、近くの畑から拝借しています。注意されてやめたものの、今でも数年に1回ぐらいの割合で、人の土地を使って勝手に野菜を栽培するのです。

 土地こそ盗まれなかったものの、僕の家も被害に遭っています。静江ばあさんは、たまに野菜の煮物を僕の家に届けてくれるのですが、その煮物に使用した野菜の多くは僕の父親の畑から盗んだ野菜なのです。

 ふざけんなよ、お前!ていうかよく堂々と持ってきたな、俺の家に!

 「これ、煮物やから食べて!」

 「ありがとうございます!」

 なんで礼言わないとあかんねん、俺の家!礼言うんはちょっと違うやろ!

 「タッパは返してな!」

 俺の家のタッパやんけ、これ!このタッパ、うちの母親がお前の家におはぎ届けたときのタッパやんけ!

 静江ばあさんは、警察に届けられない範囲での小さな泥棒にとどめています。通報しにくい泥棒ばかりなので、僕らもお手上げなのです。

③裸を見せることに躊躇がない
 関西のオバハンほど品のない女性はいません。詳しくは書きませんが、僕の地元でも、裸を見られることに躊躇のないオバハンが多いです。僕の母親もそのひとりで、夏場など、上半身裸で家の中をうろつくことなどザラなのです。

 それでも、さすがに裸で外に出ることはありません。最低限の「女」は残しているのですが、静江ばあさんにそんな品はありません。つい先日も、団地の階段に座って上半身裸でスイカを食べていたのです。

 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、このババア!

 「お帰り!」

 ごめん、話しかけんといて!知り合いと思われたくないから!

 それでも、だいぶマシになりました。僕が小学生のころなんて、年がら年中、裸で外にいました。当時は山小屋のようなボロボロの家に住んでおり、ある日学校の帰りに家の前を通りがかったところ、縁側でパンツ1枚になって足組みながら、特大のサトウキビを生で吸ってたんですよ。

 鬼太郎呼ぶぞ、もう!完全に妖怪やわ、お前みたいな奴!

 「お帰り!」

 だから話しかけんなって言ってるやろ!お前の知り合いと思われたら学校でいじめられるわ、俺!それぐらいの威力あるわ、お前の存在!

 静江ばあさんは当時、家の前でホルモンを焼いていました。大きな鉄板で炒めて販売していたのですが、暑くなると、上半身裸になります。炒める際は前かがみになり、両手に持ったコテで何度もひっくり返すのですが、乳が垂れすぎて、たまに鉄板で乳首をヤケドしていたのです。

 お前、どこの世界に乳首ヤケドする商売人がおんねん!で、垂れた乳を肩にかけて乳の下をタオルで拭くなよ、気持ち悪い!

 「熱っ!」

 そりゃそうやろ!ヤケドせんように乳首になんか貼っとけやって、服着たらええだけの話やんけ!何言ってんねん、俺!

 夏場のこの時期は、毎日のように外で裸になっています。周囲も見慣れたもので、「静江ばあさんが裸になったら夏」みたく、ちょっとした夏の風物詩になっているのです。

④隙があったら美智子さまの話をしてくる
 静江ばあさんは、皇后陛下を崇拝しまくっています。ほんじょそこらの右翼よりもはるかに崇拝しており、財布にいつも美智子さまのプロマイドを入れているほどなのです。

 静江ばあさんと一緒にいると、二言目には美智子さまの話です。なかでも、「皇居の庭にある松の枝を切ったときに、美智子さまが切り口に塗り薬を塗った話」が大好きで、僕は通算で50回以上は聞かされています。すれ違いざまに話されるぐらいの勢いで、つい先日もバスの停留所にいたところ、静江ばあさんが僕の隣にやってきました。

 「おはよう」

 「あっ、おはようございます」

 「美智子さまがさ……」

 いきなりなん!?会って5秒でもうその話すんの!?「仕事に行くの?」とかは訊かへんの!?

 「……そうですか」

 「それより、仕事かいな?」

 「そうです。最近、バスで行ってるんですよ」

 「そうかいな。それよりあんた、まだ独身やんな?」

 「そうです」

 「早く結婚しいや。早く美智子さまのような……」

 また出た、美智子さま!会って1分でもう2回出てきた!

 「それよりこの辺も木が茂ってんな」

 「そうですね」

 「切らなあかんで、これ。でも切ったらそこに塗り薬を塗るのが美智子さまのすばらしいところで……」

 ええ加減にせいよ、お前!右翼に雇われてんのか、お前!「一美智子につき100円」みたいなバイトしてんのか!?

 このあと一緒にバスに乗ったのですが、やってきた子供たちにも美智子さまの話をしていました。隙があったらその話をするので、聞かされるほうは大変なのです。

⑤虫の殺し方がすごい
 静江ばあさんは虫が嫌いです。なかでもセミが大嫌いで、うるさいという理由だけで手当たり次第に殺します。しかもその殺し方は恐ろしく、物干し竿で木を叩き、落ちてきたセミを手当たり次第踏んでいくのです。

 やりすぎやろ、お前!警察沙汰なるわ!

 「オラッ!オラッ!」

 怖すぎるわ!ていうか美智子さまの教えをどう思ってんねん、お前!あんなに優しい人を尊敬してんのにやってること全然違うやんけ!

 「男のくせにギャーギャー鳴きやがって!」

 意味わからん!悲しくて泣いてるんと違うわ、オスゼミ!

 僕はこの大量殺人を過去に何度も目撃してきました。殺人の際、落ちてきたセミが静江ばあさんの腕の関節に止まることがあり、普通ならこのとき、指ではじくでしょう。100歩譲って手で叩いて殺すのならまだわかるのですが、静江ばあさん、腕折るんですよ。ガッツポーズするみたいに腕の関節で圧死させるんですよ!

 そんな殺し方あるか、お前!寿命短いねんからそんなことやめたってくれよ!

 「生まれ変わって出直せ!」

 なんも悪いことしてへんわ、セミ!ただ鳴いてるだけやんけ!お前のほうこそ生まれ変わって出直せよ!

 静江ばあさんの殺しの対象は、虫だけにとどまりません。犬や猫は大好きなものの、気持ち悪い系の生物は軒並みぶち殺す癖があり、忘れもしない、2年前の夏のことです。

 その日は終戦記念日で、近くの公民館でちょっとした慰霊祭が行われていました。市会議員が式辞を口にし、戦争で亡くなられた人々の名前を読み上げます。途中で特攻隊員の話になり、参加者の多くが涙を流し始めました。

 僕も泣けてきました。隣にいる僕の母親にハンカチを借りて涙を拭き、僕らの列の端にいる静江ばあさんも号泣しているのです。

 高齢のため、静江ばあさんはイスに座っています。キャスターつきのイスで、静江ばあさんは、後ろをちらちら見ながらなにやら顔をしかめています。ふと見ると雨戸にヤモリが引っついており、静江ばあさんが急にキャスターを転がしてイスを雨戸のほうに移動させ、ヤモリに人殺せるぐらいのヒジテツ決めて何食わぬ顔で戻ってきたんですよ。

 勘弁してくれよ、この状況で!シャレならんわ、このババア!

 「ふぅ」

 ふぅやあるか、お前!ゴルゴ何ティーンやねん、お前!何を一仕事終えたみたいな息ついてくれとんねん!

 しかもこのあと、ヒジについた血を僕の母親のハンカチで拭いてましたからね。静江ばあさんが泣いているからハンカチを貸してあげたのに、返されたハンカチにおもいっきりイモリ殺したときの血がついてましたから。


 そして、最後。これこそが静江ばあさんの最大の特徴です。

⑥口が悪すぎる
 僕は30年以上生きていますが、静江ばあさんほど口の悪い人に出会ったことがありません。天性の口の悪さを持ち合わせており、差別的な言い回しが多すぎて、ここでは詳しく述べられません。ご紹介できるレベルで一例をあげると、太っている人のことを「ブタ」、ホームレスのことを「ゴミ野郎」と揶揄し、僕の近所に肝臓が悪くて顔に黄だんができている人がいるのですが、その人のことを陰で「プリン」と呼んでいるのです。

 言いすぎやろ、お前!病人つかまえて何を言ってくれとんねん!

 「プリンも、もう長くないな!」

 やかましいわ!「賞味期限が切れる」みたいな言い方すんなよ!

 とにかく口が悪く、今年の春先に、僕の近所でボヤ騒ぎがあったときのことです。ここの家主は小屋で乳牛を飼っており、年に1、2回、わらに火がついて大騒ぎになります。その日の深夜にボヤが発生し、消防車の音を聞いた僕は現場に向かいました。

 現場に到着すると、たくさんの野次馬がいます。消防車が消火作業を始めており、ふと見ると静江ばあさんがいます。ひとりの気の弱そうな若者をつかまえてなにやら悪態ついており、若者のほうは「違います!違います!」と連呼しています。気になった僕はふたりの真横に行って耳を澄ませたところ、どうやら静江ばあさんがこの若者のことを放火魔だと思っているらしく、「僕は犯人じゃありません!」と反論する若者に向かって、「嘘つき!お前の顔、どこからどう見ても火つける顔してるやんけ!」って言ったんですよ。

 ええ加減にせいよ、お前!この法治国家ですごいこと言ってるぞ、お前!

 「絶対、犯人こいつやわ!」

 根拠は顔だけやろ!そもそも火つけそうな顔ってどんな顔やねん!

 「なあ!?なあ!?」

 誰がうんって言うねん、お前!同意できるか、そんなもん!ナチスに訊かれてても「そんなことないですよ!」って反論するわ!

 これらのように異常なまでに口が悪く、僕も何度も被害に遭いました。なかでも1番腹が立ったのが大学受験のときで、僕はその日、第一志望の大学受験に失敗して落ち込んでいました。近所のパン屋の前にあるベンチに座ってうなだれていたところ、隣に静江ばあさんがやってきたのです。

 「あんた、大学、落ちたらしいやん」

 「そうなんですよ」

 「ざまあ見ろ」

 「……」

 「ざまあ見さらせ!」

 「向こう行けや、あんた!」

 「あんたのところはおじいちゃんが金持ちやからな。金持ちのところの血筋はだいたい受験に失敗しよる!」

 「やかましいわ、ボケ!あっちに行け!」

 あまりに悪態ついてくるため、僕は怒りました。静江ばあさんも僕の気迫に押されて立ち去ろうとしたのですが、去り際に、「なんで落ちたかわかるか?」と僕に質問してきたのです。

 僕はむかつきながらも、返す刀で「知らん。知ってるんやったら教えてくれや?」と返しました。すると僕のほうを見てカッと目を見開き、めちゃくちゃ高い声で「それはお前が朝ごはんを食べてへんからや!」って言ったんですよ。

 何言ってんねん、お前!頭ハゲ散らかしながら何言ってくれとんねん!

 「ミロを飲め、ミロを!ミロを飲んだら阪大受かる!」

 全然意味わからん、こいつ!で、言うんやったら東大にせいや!なんで中途半端な阪大の名前出してくんねん!

 静江ばあさんだけは、とにかくつかみどころがありません。付き合うのが大変で、少し絡まれるだけで体がくたくたになるのです。


 以上が、静江ばあさんにまつわるエピソードです。

 今回のエピソードを見てもわかるとおり、静江ばあさんは本当に救いようのない人間です。ですがひとつだけいいところがあり、手料理が得意で、頻繁に届けてくれます。つい先日も、僕の父親の畑で盗んだキュウリを使ったジャージャー麺を届けてくれたのです……。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/

木下さんは何者か?の考察⑩(パソコン読者用)

 先日のことです。


 その日、家には僕しかいませんでした。僕の母親は北海道旅行に行っており、父親も仕事でいません。昼過ぎに台所でひとり食事をしていたところ、近所のおじさんがやって来ました。


 「たけちゃん、何してんの?」


 このおじさんは、暇ができると僕の家に遊びに来ます。僕は仕事がたまっていたので相手をすることができず、おじさんは居間のソファーにゴロンと寝転びました。


 食事を終えた僕は、2階の部屋に戻りました。原稿の締め切りは近いです。集中して仕事を始めたのですが、1時間ほどして、1階から「よっしゃー!」と聞こえてきたのです。


 叫んだのはおじさんです。テレビで野球でも観ているのでしょう。僕はさして気にもせず仕事を再開させたのですが、10分ほどして再び「よっしゃー!」と聞こえてきたかと思えば、それから連続で妙な叫び声が耳に入っ

てきます。気になった僕は仕事を中断して1階に下りたところ、これ寝言やったんですよ。


 ソファーで眠りながら叫んでるんですよ!寝息を立てながら急に「よっしゃー!」と声を張り上げているのです!


 なんでやねん、お前!寝ながら叫ぶってどういうことやねん!


 怖くなった僕はおじさんの体をさすりました。目を覚ましたおじさんに、「おっちゃん、『よっしゃー!』って叫んでたけど何の夢を見てたん?」と質問したところ、「タイ人に襲われてた」って言ったんですよ。


 なんの夢やねん、それ!タイ人に襲われる夢ってなんやねん!


 「芝職人のタイ人がハサミで襲ってきた……」


 何者やねん、そいつ!何がどうなって芝職人選んでん、そのタイ人!そもそも「よっしゃー!」はなんやねん!襲われてんのになんでそんなうれしそうに叫ぶねん!


 僕は意味がわかりません。いろいろと質問したものの、このおじさんはワケのわからないことばかり返してきます。何の夢なのかがまったく謎で、言ってる本人も自分で何を言ってるのかわかってない感じなのです。


 このおじさんの名前は、木下さん。僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 日頃からおかしなことを連発し、つい先日も僕の家に現れたゴキブリを、床に置いてあるゴキブリホイホイをつかんで叩き始めたのです。


 そんな使い方ないわ、ゴキブリホイホイに!そんな使い方するんやったら買う必要ないわ!


 「このアホ!死ね、このアホ!」


 お前もや!お前もアホやねん!お前は教科書載ってもおかしくないぐらいのアホやねん!


 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察⑩です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で66歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。


検証エピソード①『常識力チェックⅡ』
 木下さんは、中学校すらまともに出ていません。頭の悪さは尋常ではなく、僕は「常識力チェック」と題して、
木下さんの知能をテストすることにしました。以前にも一度実施したことがあり、その時も『アメリカの首都は?』という質問に「ロンコン」と答えるなど、前代未聞の回答を連発したのです。


 問題は1問10点で、都合10問です。僕の両親、ならびにほかの近所の人にもやらせることで、木下さんに怪しまれないようにカモフラージュしました。白紙回答はなしで、答えがわからなくても何かを書くように、と説明しました。


 問題は、以下のような簡単なものばかりです。


 『兵庫県の県庁所在地を答えなさい』

 『人間の血液型を4種類答えなさい』

 『織田信長を暗殺したのは誰?』

 『サザエさん一家7名を全員答えなさい』


 僕の母親を中心に、僕の近所は頭の悪い人が多いです。それでもみんな50点以上は取ったのですが、1人だけ当たり前のように0点を叩き出した奴がいるのです。


 言わずもがな、木下さんです。


 もうね、前回にもましてひどいんですよ、間違い方が。まず、『兵庫県の県庁所在地を答えなさい』で、こんなもん、兵庫県に住む僕らが間違いようがないですよ。兵庫が地元じゃなくても「神戸」なんて誰でも答えられる話なのですが、木下さん、「兵庫県ちょう所」って書いてるんですよ。


 なんやねん、それ!兵庫県ちょう所!?どこ、それ!?ていうか、何それ!?で、問題の中に「県庁」ってあるんやから庁ぐらい漢字で書けよ!


 次に、『人間の血液型を4種類答えなさい』で、これも間違いようがないですよ。全員が「A、B、AB、O」と正解だったのですが、木下さんだけがいきなり「B」と書き、次に「C」、その次が「A」で、最後に「ジェット」と書いているのです。


 何言ってんねん、お前!なんで最後だけそんなんになんねん!ていうか枠からはずれすぎやねん、お前の答え!常識という枠からはずれすぎやねん!間違ってもいいから枠の中には入ってこいよ、せめて!


 続いて、『織田信長を暗殺したのは誰?』で、これはやや難しいです。実際、僕の母親は「武智なんとか」と回答するなど、年配の方であれば知らない人がいてもおかしくありません。ですので僕の母親のようにどこかかすっている、もしくは「徳川家康」「豊臣秀吉」ぐらいなら理解できるのですが、木下さんが以下の回答をしたのです。


 「中川はくしゃく」


 誰やねん、中川伯爵って!ちょっと待って、信長ってそんな平凡な名前の奴に殺されたん!?そもそもこの時代の日本になんで伯爵を名乗る奴がおんの!?


 「中川はくしゃく。」


 句読点ついてるやんけ、モーニング娘みたいに!そんなチャラい奴が信長の首取れるか、お前!


 それでも、これらは、まだましです。問題は『サザエさん一家7名を全員答えなさい』で、正解だったのは「かつおくん(なぜかくんづけ)」だけです。残り6人はむちゃくちゃで、以下のような信じがたい名前が書かれていたのです。


 「たらコ」


 たらおや!で、なんで「こ」だけカタカナやねん!


 「猫の子」


 タマのこと!?タマを家族に入れてもうてんの!?


 「沖縄さん」


 誰やねん、そいつ!沖縄さん!?そんなウミンチュ丸出しの奴おったっけ、サザエさん一家に!?


 「のもちゃん」


 野茂がおった!まさかの野茂がおった、サザエさん一家に!なんや、「来週のサザエさんは、かつお、トルネードに巻き込まれる!」とかそんなんか!?


 「木下さん」


 お前やんけ!お前やろ、木下って!ここ名前書く欄と違うわ!なんでこんなところに自分の名前記入すんねん


 「チャイ」


 書くなもう、お前!もうこれ以上書くな!採点する俺が体壊すからもう書かんといて!白紙の回答渡してくれたらそれで10点やるから!


 これ、マジですからね。ほかにも信じがたい誤答の連発で、なにしろ『日本国憲法の3大特色とは、国民主権、戦争放棄ともう1つは?』という問題に、「あくしゅ」と答えてましたから。


検証エピソード②『丼屋』
 これは、つい先日のお話です。


 その日の昼過ぎに、木下さんが僕の家にやって来ました。木下さんはニヤニヤとしています。台所のテーブルでココアを飲む僕の隣に座り、「すごくおいしい丼屋を見つけた!」と報告してきたのです。


 訊くと、そのお店はまぐろ丼が絶品らしいです。僕は丼ものは全部好きで、まぐろ丼も大好物です。昼ごはんを食べていなかったことから、すぐにでも行くことにしました。


 ですが、木下さんは教えてくれません。「内緒や!俺も苦労して見つけたからな!」と言って、お店の情報を一切くれません。僕が何度も頭を下げたところ、「じゃあ今からそこに連れて行ったるから俺の分をおごってくれ!」と、吹っかけてきやがったのです。


 僕は了承しました。イラッとしたものの、丼の値段なんてしれているでしょう。お店は少し遠いらしいので、ともに原付きに乗って向かうことになりました。


 僕らは近くの国道に乗りつけました。僕は木下さんの指示に従って後ろを走っていたのですが、5分、10分走っても到着しません。木下さんは病的な方向音痴です。方向音痴以前の問題で、家に向かって帰ってるときに、自分の家の前を通りすぎたこともあるほどなのです。


 「おっちゃん、店の名前はなんて言うの?」


 不安になった僕は訊きました。すると木下さんが、「忘れた」と言いやがったのです。


 「忘れたじゃないやろ!」


 「大丈夫や。場所はちゃんと覚えてるから」


 「ほんまに場所知ってんの?」


 「知ってるわ」


 「間違いないな?」


 「ほんまや言うてるやろ!」


 あまり問いただすと木下さんは怒ります。僕は言葉を呑み込み、これ以上は訊かないことにしました。


 家を出て15分が経過しました。交差点を何度も曲がり、民家のあいだの細道を行かされることもありました。気温は30℃を超えています。Tシャツは汗びっしょりで、僕はあと5分走って見つからなかったら帰ろうと決断したところ、木下さんが「あった!そこの交差点を左に曲がったところや!」と叫んだのです。


 僕は胸を撫で下ろしました。朝ごはんも食べていなかったことからお腹はペコペコです。絶品のまぐろ丼を想像して僕は意気揚々と左折したのですが、そこ、すき家やったんですよ。


 チェーン店やんけ!この国の丼を牛耳ってる一番多いチェーン店やんけ!


 「ここや、ここ!」


 ここややあるか、お前!なんでバイクで20分もかけてすき家に行かないとあかんねん!お前の普段の行動範囲が狭いだけでどこにでもあるわ、こんな店!


 「ここ、穴場やぞ!」


 穴場と違うわ、こんなチェーン店!なんやったらここに来るまでに2軒あったわ、すき家!すき家の角を曲がることすらあったわ!


 しかも木下さん、すき家でカレー食いましたからね。「まぐろ丼がうまい!」と豪語してたくせに、普通にカレーを注文してましたから。


検証エピソード③『アメンコ』
 僕の近所では、60歳を超えている男性は月に一度、公園の掃除をしなければなりません。僕の地域の決まりご
とで、朝の8時から掃除を始めます。輪番制で、毎日曜日に老人がたくさん集まって公園のゴミを片付けるのです。


 僕の父親は現在70歳です。高齢のため、あまり無理をさせたくはありません。僕が空いているときは、父親に代わって僕が掃除の係を引き受けていました。


 今年の春先のことです。その日は4月の第1日曜日で、僕は暇だったことから、父親に代わって掃除の係を引き受けました。


 公園には桜が咲いています。掃除係は20人近くおり、孫を連れてきて遊ばせている人もいます。木下さんもこの日の担当だったため、2人で桜を見ながら、ホウキとチリトリを使ってゴミを片付けていました。


 しばらくして、子供の2人組が現れました。小学校高学年ぐらいの男の子2人で、妙な歌を口ずさみ始めました


 「♪アメンコ!アメンコ!女のアメンコ!」


 公園の中をうろちょろしながら、これを2人で延々と口ずさんでいます。ニヤニヤとしながら何度も歌うので、気になった僕は「アメンコって何?」と訊いたところ、アメンコが女性器のことだというのが判明したのです。


 女性器の名称をストレートに口ずさんでいたら、学校の先生に怒られたらしいです。アメンコは彼らの造語で、この歌が学校で流行っているそうなのです。


 このアメンコソングには、ポニョの歌のような洗脳力があります。僕の耳から離れず、それは木下さんも同じなのでしょう。木下さんが「♪アメンコ!アメンコ!女のアメンコ!」と歌いながらゴミを片付け始めたのです。


 それでも「アメンコ」にしていることから、それほど害はありません。僕は木下さんにその意味を伝えることはせず、掃除を続行しました。


 10分ほどして、たくさんの子供が公園にやって来ました。若い女性が先導しており、幼稚園の子供が遠足に来たのでしょう。ジャングルジムに犬がつながれていたことから、たくさんの子供が犬の周りに集まりました。


 「♪アメンコ!アメンコ!女のアメンコ!」


 木下さんがアメンコを口ずさみながら子供に近づきました。木下さんは子供が大好きです。子供の頭を撫でながらアメンコを歌っていたのですが、何度も口ずさんでいるので混乱したのでしょう。途中から、「♪アメンコ!アメンコ!女のアマンコ!」って言いだしたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、こいつ!


 完全にアマンコって言ってるんですよ!しかも途中から、「♪アマンコ!アマンコ!女のアマンコ!」と全部アマンコで歌っているのです!


 お前、何考えてんねん!警察に通報されてもおかしくないねんぞ!


 「おっちゃん、アマンコって何?」


 「内緒!それは子供には教えられへん!」


 変態やんけ、完全に!そんな言い方したら確信犯で歌ってるみたいやんけ!


 「おっちゃん、こっちに来い!!!」


 僕は慌てて木下さんを連れ戻したのですが、引率の先生は木下さんから子供を遠ざけましたからね。「みんな、こっちにおいで!いいからこっちにおいで!」と、木下さんからおもいっきり離れている場所に移動させましたから。


検証エピソード④『ガム棒』
 木下さんは貧乏です。小遣いは月8000円で、自転車屋も昔から儲かっていません。奥さんに無理言ってもら
うなどして、なんとか生活しているのです。


 僕が高校生のときに、木下さんが夜な夜な町を徘徊し始めました。道すがらにある自動販売機には、お釣り口に小銭が入っていることがあります。お釣りを取り忘れた人がたまにおり、木下さんはそれを頂戴しようとして目に入るすべての自販機に手を突っ込み始めたのです。


 木下さんの家族からしたら、恥ずかしいです。ですが、注意しても聞きません。僕の母親が本気で怒ったことで、なんとかやめてくれました。


 それから15年以上経った、昨夏のことです。


 その日の深夜1時頃に、僕はタクシーで帰宅しました。タバコを切らしていたので近くの自販機に足を運んだところ、木下さんがいたのです。


 木下さんは、手に妙な物体を握っています。自販機のお釣り口にそれを差し込んでぐるりと一周させています。


 「おっちゃん、何してんの?」


 僕に気づいた木下さんがその物体を後ろに隠しました。僕は木下さんの手をつかんで確認したところ、割り箸の先に、大量のガムが引っ付けられています。20枚、30枚と噛んだガムが引っ付けられており、割り箸にブロッコリーが刺さっているかのようなのです。


 「おっちゃん、これ何?」


 「……」


 「いいから教えろ、これ何?」


 「……これはガム棒や」


 なんでもこのガム棒があれば、お釣り口に手を突っ込む必要はないそうです。小銭が入っていればガムの粘着力で引っ付いてくるらしく、問い詰めたところ、半年以上も前からこのガム棒を使って小銭を探しているそうなのです。


 「たけちゃん、お願いやから誰にも言わんといて!」


 木下さんの奥さんに報告したら、確実に怒られます。涙ながらにお願いされたため黙っておいてあげることにしたのですが、ほどなくして僕らの近くに、ボロボロの服を着たホームレスが現れたのです。


 そのホームレスを見た瞬間、木下さんの表情が急にきりりとしました。勇ましい顔つきになり、そのホームレスが木下さんに「お疲れさまです!」とあいさつをしてきたのです。


 言われた木下さんは、「おうっ」と、偉そうに返しました。「どうや?」と訊く木下さんに、そのホームレスは「さっぱりっすわ!」と返すなど、やけに仲がいいのです。


 このホームレスは、僕の近所に最近居つき始めた人です。僕らのそばにある自販機の下を覗いており、木下さんは自分がこの地域のお釣り泥棒の先駆者であるのをいいことに、やたらと先輩風を吹かしているのです。


 どんな縦の関係やねん、これ!聞いたことないわ、こんなしょうもない上下関係!


 「しっかりやれよ」


 「ありがとうございます!」


 なんでそんな偉そうやねん、お前!偉そうにする理由がわからん!


 このホームレスは、お釣り口には一切手を出しません。訊くと、木下さんとの棲み分けがあるそうです。木下さんはお釣り口、ホームレスは自販機の下と決められているらしく、木下さんはガム棒でお釣り口を、ホームレスは長い木の棒で自販機の下をつつくことだけを許されているらしいのです。


 その日から4ヵ月たった、昨年末のことです。


 僕はその日、行きつけのラーメン屋に行くために原付きバイクを走らせていました。そのラーメン屋は、僕の家からはかなり距離があります。到着して駐車場にバイクを停車させたところ、駐車場の近くに例のホームレスが

います。住み家を変更したのか僕の近所を離れている様子で、手にはガム棒を持っています。そのガム棒は木下さんが持っていたガム棒だったため、翌日、僕の家に来た木下さんにそのことを報告しました。


 「おっちゃん、こないだまでうちの近所にいたホームレス、俺の行きつけのラーメン屋の近くにいたで」


 「そうか」


 「手に、おっちゃんのガム棒を持ってたで」


 「そうか。やっとるか」


 木下さんは、ホームレスの活躍ぶりを聞いて満足そうな表情を浮かべました。僕が「なんでおっちゃんのガム棒を持ってんの?」と質問したところ、めちゃくちゃ得意げな顔で「引っ越すって言うから、餞別にやった」って言ったんですよ。


 なんの餞別やねん、それ!いらんわ、そんなしょうもない餞別!


 「俺はいつだってあの棒を作れる。でもあいつがあの棒を作ることは無理なんや!」


 全然かっこよくないわ!決め顔で言ってるけど全然かっこよくないわ!


 このあと木下さん、「今度、あいつの動きをチェックしに行ってくる!」って言いましたからね。弟子を見守る師匠のようにやたらと得意げに言いましたから。


検証エピソード⑤『吐いた』
 これは、僕が中学校3年生のときのお話です。


 その年の秋に、僕は交通事故に遭いました。僕は自転車通学をしており、上り坂から下ってくる車と正面衝突してしまったのです。


 車のフロントと額が接触し、吹っ飛ばされた衝撃で右ヒザの皿を骨折しました。頭から軽く血が出たものの、車のほうにそれほどスピードがなかったことから、検査をしても頭部に異常はありません。


 「入院する必要はありません。家に帰って、もし嘔吐することがあったら、もう一度病院に来てください」


 医者が釘を刺してきます。嘔吐するようなら精密な検査が必要になるらしく、不安に駆られながらも、ギプスをはめられた僕は母親が運転する車で家に帰りました。


 僕の父親は会社に戻り、僕は自分の部屋のベッドに入りました。時刻はお昼を過ぎています。何かあったらすぐに対応できるようにと、部屋のドアは半開きにしてあります。疲れた僕はうとうとし始めたのですが、騒ぎを聞きつけた木下さんが僕の部屋にやって来たのです。


 「たけちゃん、大丈夫か?大丈夫?ほんまに大丈夫!?」


 木下さんは声を張り上げています。「大丈夫やで」と返しても聞かず、何度も僕の体をさすってきます。僕の母親に注意されて部屋を出たものの、30分おきにやって来ては「大丈夫?」と訊いてくるのです。


 大丈夫や言うてるやろ、お前!お前のせいで寝られへんやんけ、俺!


 「大丈夫?どこかケガしてない?」


 ケガしてん、俺!ケガしたから寝とんねん、俺!


 それでも、本人に悪気はありません。僕はうっとうしいながらも、その都度優しく言葉を返していました。


 夕方になり、僕の母親は買物に行きました。家には木下さんしかいません。僕は小便をするために松葉杖でトイレに向かったところ、突然、嘔吐を催しました。頭がくらくらとし、大便器の中に吐いてしまったのです。


 「大丈夫か!?たけちゃん、大丈夫か!?」


 オロオロオロオロと吐き続ける僕のところに、木下さんが来ました。僕の母親から事情を聞いていたのでしょう。騒ぎ始め、「吐いたんか?たけちゃん、吐いたんか?」と、吐いてる僕を見ながら僕に吐いたかどうかを確認

し始めたのです。


 見たらわかるやろ、お前!そんなん訊かんでも吐いてるやろ、俺!


 「吐いたん?」


 「吐いた」


 「吐いたんか?」


 「吐いた」


 「お医者さんが『吐いたら病院に来なさい』って言ってたらしいけど吐いたんか?」


 吐いた言うてるやろ、お前!なんやったらお前、吐いてる俺の真横におるやろ!


 「吐いた吐いた!たけちゃんが吐いた吐いた吐いた吐いた吐いた!」


 静かにせいや、お前!イッシー発見したオバハンよりもうるさいやんけ、こいつ!


 「あかん、ふーちゃん(僕の母親)がおらへん!たけちゃん、俺、救急車呼ぶわ!」


 「大丈夫や!お母さんが帰ってくるまで待ってたらいいから!」


 「あかん!ふーちゃんなんて待ってられへん!えーと、救急車、救急車。あっもしもし、木下です!」


 誰やねん、お前!相手はお前のこと知らんわ、ボケ!


 「たけちゃんが吐いた!たけちゃんが吐いたから!」


 ちゃんと説明せいや最初っから!電話口でいきなりそんなこと言われてもなんのことかわからんやろ!


 「おっちゃん、ちゃんと事情を説明しろ!」


 「たけちゃんが車に撥ねられたんです!」


 話ややこしなるわ!そこの事情はいらんねん!なぜ救急車を呼ぶのかをきちんと説明せいや!


 「おっちゃん、ちょっと電話代われ!」


 「わかった」


 「もしもし?」


 「もしもし、車は逃げたんですか?」


 警察やんけ、これ!119番じゃなくて110番やんけ、これ!


 「いや、違います違います!」


 「吐いた吐いた!たけちゃんが吐いた吐いた!」


 「すいません、なんでもないんで!」


 「吐いた吐いた吐いた!」


 「おまわりさんすいません、近所のおじさんが間違って電話したんです!」


 「吐いた吐いた吐いオロオロオロオロ!」


 お前が吐いとるやんけ!叫びすぎてお前が吐いとるやんけ!


 「とりあえず電話切りますね!ガチャッ!」


 「オロオロオロオロ!オロオロオロオロ!」


 「おっちゃん、大丈夫?」


 俺が心配してるやんけ!なんで俺のほうが心配しないとあかんねん!


 「たけちゃん、水ちょうだい?」


 なんで俺がそんなことしないとあかんねん!俺、松葉杖やぞ、コラ!ていうか何なんマジでお前、さっきから!?これを理由に入院しそうやねんけど、俺!?


 しばらくして、僕の母親が家に帰ってきました。母親に連れられて病院に行ったのですが、僕は木下さんが吐いたゲロを思い出して、車内で吐きました。交通事故とは関係なく普通にもらいゲロをしてしまい、医者に「吐いた理由を詳しく教えて?」と訊かれてどう答えたらいいかわからなかったのです……。



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 毎度同様、木下さんのアホさだけは手のつけようがありません。ついさっきも僕に、「サバンナって何県にあんの?」と質問してきましたから……。


 

楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/

木下さんは何者か?の考察⑩(携帯読者用)

 先日のことです。

 その日、家には僕しかいませんでした。僕の母親は北海道旅行に行っており、父親も仕事でいません。昼過ぎに台所でひとり食事をしていたところ、近所のおじさんがやって来ました。

 「たけちゃん、何してんの?」

 このおじさんは、暇ができると僕の家に遊びに来ます。僕は仕事がたまっていたので相手をすることができず、おじさんは居間のソファーにゴロンと寝転びました。

 食事を終えた僕は、2階の部屋に戻りました。原稿の締め切りは近いです。集中して仕事を始めたのですが、1時間ほどして、1階から「よっしゃー!」と聞こえてきたのです。

 叫んだのはおじさんです。テレビで野球でも観ているのでしょう。僕はさして気にもせず仕事を再開させたのですが、10分ほどして再び「よっしゃー!」と聞こえてきたかと思えば、それから連続で妙な叫び声が耳に入ってきます。気になった僕は仕事を中断して1階に下りたところ、これ寝言やったんですよ。

 ソファーで眠りながら叫んでるんですよ!寝息を立てながら急に「よっしゃー!」と声を張り上げているのです!

 なんでやねん、お前!寝ながら叫ぶってどういうことやねん!

 怖くなった僕はおじさんの体をさすりました。目を覚ましたおじさんに、「おっちゃん、『よっしゃー!』って叫んでたけど何の夢を見てたん?」と質問したところ、「タイ人に襲われてた」って言ったんですよ。

 なんの夢やねん、それ!タイ人に襲われる夢ってなんやねん!

 「芝職人のタイ人がハサミで襲ってきた……」

 何者やねん、そいつ!何がどうなって芝職人選んでん、そのタイ人!そもそも「よっしゃー!」はなんやねん!襲われてんのになんでそんなうれしそうに叫ぶねん!

 僕は意味がわかりません。いろいろと質問したものの、このおじさんはワケのわからないことばかり返してきます。何の夢なのかがまったく謎で、言ってる本人も自分で何を言ってるのかわかってない感じなのです。

 このおじさんの名前は、木下さん。僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。

 日頃からおかしなことを連発し、つい先日も僕の家に現れたゴキブリを、床に置いてあるゴキブリホイホイをつかんで叩き始めたのです。

 そんな使い方ないわ、ゴキブリホイホイに!そんな使い方するんやったら買う必要ないわ!

 「このアホ!死ね、このアホ!」

 お前もや!お前もアホやねん!お前は教科書載ってもおかしくないぐらいのアホやねん!

 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。

 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察⑩です。

 木下さんは、うちの母親の同級生で66歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。

 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。

検証エピソード①『常識力チェックⅡ』
 木下さんは、中学校すらまともに出ていません。頭の悪さは尋常ではなく、僕は「常識力チェック」と題して、木下さんの知能をテストすることにしました。以前にも一度実施したことがあり、その時も『アメリカの首都は?』という質問に「ロンコン」と答えるなど、前代未聞の回答を連発したのです。

 問題は1問10点で、都合10問です。僕の両親、ならびにほかの近所の人にもやらせることで、木下さんに怪しまれないようにカモフラージュしました。白紙回答はなしで、答えがわからなくても何かを書くように、と説明しました。

 問題は、以下のような簡単なものばかりです。

 『兵庫県の県庁所在地を答えなさい』

 『人間の血液型を4種類答えなさい』

 『織田信長を暗殺したのは誰?』

 『サザエさん一家7名を全員答えなさい』

 僕の母親を中心に、僕の近所は頭の悪い人が多いです。それでもみんな50点以上は取ったのですが、1人だけ当たり前のように0点を叩き出した奴がいるのです。

 言わずもがな、木下さんです。

 もうね、前回にもましてひどいんですよ、間違い方が。まず、『兵庫県の県庁所在地を答えなさい』で、こんなもん、兵庫県に住む僕らが間違いようがないですよ。兵庫が地元じゃなくても「神戸」なんて誰でも答えられる話なのですが、木下さん、「兵庫県ちょう所」って書いてるんですよ。

 なんやねん、それ!兵庫県ちょう所!?どこ、それ!?ていうか、何それ!?で、問題の中に「県庁」ってあるんやから庁ぐらい漢字で書けよ!

 次に、『人間の血液型を4種類答えなさい』で、これも間違いようがないですよ。全員が「A、B、AB、O」と正解だったのですが、木下さんだけがいきなり「B」と書き、次に「C」、その次が「A」で、最後に「ジェット」と書いているのです。

 何言ってんねん、お前!なんで最後だけそんなんになんねん!ていうか枠からはずれすぎやねん、お前の答え!常識という枠からはずれすぎやねん!間違ってもいいから枠の中には入ってこいよ、せめて!

 続いて、『織田信長を暗殺したのは誰?』で、これはやや難しいです。実際、僕の母親は「武智なんとか」と回答するなど、年配の方であれば知らない人がいてもおかしくありません。ですので僕の母親のようにどこかかすっている、もしくは「徳川家康」「豊臣秀吉」ぐらいなら理解できるのですが、木下さんが以下の回答をしたのです。

 「中川はくしゃく」

 誰やねん、中川伯爵って!ちょっと待って、信長ってそんな平凡な名前の奴に殺されたん!?そもそもこの時代の日本になんで伯爵を名乗る奴がおんの!?

 「中川はくしゃく。」

 句読点ついてるやんけ、モーニング娘みたいに!そんなチャラい奴が信長の首取れるか、お前!

 それでも、これらは、まだましです。問題は『サザエさん一家7名を全員答えなさい』で、正解だったのは「かつおくん(なぜかくんづけ)」だけです。残り6人はむちゃくちゃで、以下のような信じがたい名前が書かれていたのです。

 「たらコ」

 たらおや!で、なんで「こ」だけカタカナやねん!

 「猫の子」

 タマのこと!?タマを家族に入れてもうてんの!?

 「沖縄さん」

 誰やねん、そいつ!沖縄さん!?そんなウミンチュ丸出しの奴おったっけ、サザエさん一家に!?

 「のもちゃん」

 野茂がおった!まさかの野茂がおった、サザエさん一家に!なんや、「来週のサザエさんは、かつお、トルネードに巻き込まれる!」とかそんなんか!?

 「木下さん」

 お前やんけ!お前やろ、木下って!ここ名前書く欄と違うわ!なんでこんなところに自分の名前記入すんねん!

 「チャイ」

 書くなもう、お前!もうこれ以上書くな!採点する俺が体壊すからもう書かんといて!白紙の回答渡してくれたらそれで10点やるから!

 これ、マジですからね。ほかにも信じがたい誤答の連発で、なにしろ『日本国憲法の3大特色とは、国民主権、戦争放棄ともう1つは?』という問題に、「あくしゅ」と答えてましたから。

検証エピソード②『丼屋』
 これは、つい先日のお話です。

 その日の昼過ぎに、木下さんが僕の家にやって来ました。木下さんはニヤニヤとしています。台所のテーブルでココアを飲む僕の隣に座り、「すごくおいしい丼屋を見つけた!」と報告してきたのです。

 訊くと、そのお店はまぐろ丼が絶品らしいです。僕は丼ものは全部好きで、まぐろ丼も大好物です。昼ごはんを食べていなかったことから、すぐにでも行くことにしました。

 ですが、木下さんは教えてくれません。「内緒や!俺も苦労して見つけたからな!」と言って、お店の情報を一切くれません。僕が何度も頭を下げたところ、「じゃあ今からそこに連れて行ったるから俺の分をおごってくれ!」と、吹っかけてきやがったのです。

 僕は了承しました。イラッとしたものの、丼の値段なんてしれているでしょう。お店は少し遠いらしいので、ともに原付きに乗って向かうことになりました。

 僕らは近くの国道に乗りつけました。僕は木下さんの指示に従って後ろを走っていたのですが、5分、10分走っても到着しません。木下さんは病的な方向音痴です。方向音痴以前の問題で、家に向かって帰ってるときに、自分の家の前を通りすぎたこともあるほどなのです。

 「おっちゃん、店の名前はなんて言うの?」

 不安になった僕は訊きました。すると木下さんが、「忘れた」と言いやがったのです。

 「忘れたじゃないやろ!」

 「大丈夫や。場所はちゃんと覚えてるから」

 「ほんまに場所知ってんの?」

 「知ってるわ」

 「間違いないな?」

 「ほんまや言うてるやろ!」

 あまり問いただすと木下さんは怒ります。僕は言葉を呑み込み、これ以上は訊かないことにしました。

 家を出て15分が経過しました。交差点を何度も曲がり、民家のあいだの細道を行かされることもありました。気温は30℃を超えています。Tシャツは汗びっしょりで、僕はあと5分走って見つからなかったら帰ろうと決断したところ、木下さんが「あった!そこの交差点を左に曲がったところや!」と叫んだのです。

 僕は胸を撫で下ろしました。朝ごはんも食べていなかったことからお腹はペコペコです。絶品のまぐろ丼を想像して僕は意気揚々と左折したのですが、そこ、すき家やったんですよ。

 チェーン店やんけ!この国の丼を牛耳ってる一番多いチェーン店やんけ!

 「ここや、ここ!」

 ここややあるか、お前!なんでバイクで20分もかけてすき家に行かないとあかんねん!お前の普段の行動範囲が狭いだけでどこにでもあるわ、こんな店!

 「ここ、穴場やぞ!」

 穴場と違うわ、こんなチェーン店!なんやったらここに来るまでに2軒あったわ、すき家!すき家の角を曲がることすらあったわ!

 しかも木下さん、すき家でカレー食いましたからね。「まぐろ丼がうまい!」と豪語してたくせに、普通にカレーを注文してましたから。

検証エピソード③『アメンコ』
 僕の近所では、60歳を超えている男性は月に一度、公園の掃除をしなければなりません。僕の地域の決まりごとで、朝の8時から掃除を始めます。輪番制で、毎日曜日に老人がたくさん集まって公園のゴミを片付けるのです。

 僕の父親は現在70歳です。高齢のため、あまり無理をさせたくはありません。僕が空いているときは、父親に代わって僕が掃除の係を引き受けていました。

 今年の春先のことです。その日は4月の第1日曜日で、僕は暇だったことから、父親に代わって掃除の係を引き受けました。

 公園には桜が咲いています。掃除係は20人近くおり、孫を連れてきて遊ばせている人もいます。木下さんもこの日の担当だったため、2人で桜を見ながら、ホウキとチリトリを使ってゴミを片付けていました。

 しばらくして、子供の2人組が現れました。小学校高学年ぐらいの男の子2人で、妙な歌を口ずさみ始めました。

 「♪アメンコ!アメンコ!女のアメンコ!」

 公園の中をうろちょろしながら、これを2人で延々と口ずさんでいます。ニヤニヤとしながら何度も歌うので、気になった僕は「アメンコって何?」と訊いたところ、アメンコが女性器のことだというのが判明したのです。

 女性器の名称をストレートに口ずさんでいたら、学校の先生に怒られたらしいです。アメンコは彼らの造語で、この歌が学校で流行っているそうなのです。

 このアメンコソングには、ポニョの歌のような洗脳力があります。僕の耳から離れず、それは木下さんも同じなのでしょう。木下さんが「♪アメンコ!アメンコ!女のアメンコ!」と歌いながらゴミを片付け始めたのです。

 それでも「アメンコ」にしていることから、それほど害はありません。僕は木下さんにその意味を伝えることはせず、掃除を続行しました。

 10分ほどして、たくさんの子供が公園にやって来ました。若い女性が先導しており、幼稚園の子供が遠足に来たのでしょう。ジャングルジムに犬がつながれていたことから、たくさんの子供が犬の周りに集まりました。

 「♪アメンコ!アメンコ!女のアメンコ!」

 木下さんがアメンコを口ずさみながら子供に近づきました。木下さんは子供が大好きです。子供の頭を撫でながらアメンコを歌っていたのですが、何度も口ずさんでいるので混乱したのでしょう。途中から、「♪アメンコ!アメンコ!女のアマンコ!」って言いだしたんですよ!

 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、こいつ!

 完全にアマンコって言ってるんですよ!しかも途中から、「♪アマンコ!アマンコ!女のアマンコ!」と全部アマンコで歌っているのです!

 お前、何考えてんねん!警察に通報されてもおかしくないねんぞ!

 「おっちゃん、アマンコって何?」

 「内緒!それは子供には教えられへん!」

 変態やんけ、完全に!そんな言い方したら確信犯で歌ってるみたいやんけ!

 「おっちゃん、こっちに来い!!!」

 僕は慌てて木下さんを連れ戻したのですが、引率の先生は木下さんから子供を遠ざけましたからね。「みんな、こっちにおいで!いいからこっちにおいで!」と、木下さんからおもいっきり離れている場所に移動させましたから。

検証エピソード④『ガム棒』
 木下さんは貧乏です。小遣いは月8000円で、自転車屋も昔から儲かっていません。奥さんに無理言ってもらうなどして、なんとか生活しているのです。

 僕が高校生のときに、木下さんが夜な夜な町を徘徊し始めました。道すがらにある自動販売機には、お釣り口に小銭が入っていることがあります。お釣りを取り忘れた人がたまにおり、木下さんはそれを頂戴しようとして目に入るすべての自販機に手を突っ込み始めたのです。

 木下さんの家族からしたら、恥ずかしいです。ですが、注意しても聞きません。僕の母親が本気で怒ったことで、なんとかやめてくれました。

 それから15年以上経った、昨夏のことです。

 その日の深夜1時頃に、僕はタクシーで帰宅しました。タバコを切らしていたので近くの自販機に足を運んだところ、木下さんがいたのです。

 木下さんは、手に妙な物体を握っています。自販機のお釣り口にそれを差し込んでぐるりと一周させています。

 「おっちゃん、何してんの?」

 僕に気づいた木下さんがその物体を後ろに隠しました。僕は木下さんの手をつかんで確認したところ、割り箸の先に、大量のガムが引っ付けられています。20枚、30枚と噛んだガムが引っ付けられており、割り箸にブロッコリーが刺さっているかのようなのです。

 「おっちゃん、これ何?」

 「……」

 「いいから教えろ、これ何?」

 「……これはガム棒や」

 なんでもこのガム棒があれば、お釣り口に手を突っ込む必要はないそうです。小銭が入っていればガムの粘着力で引っ付いてくるらしく、問い詰めたところ、半年以上も前からこのガム棒を使って小銭を探しているそうなのです。

 「たけちゃん、お願いやから誰にも言わんといて!」

 木下さんの奥さんに報告したら、確実に怒られます。涙ながらにお願いされたため黙っておいてあげることにしたのですが、ほどなくして僕らの近くに、ボロボロの服を着たホームレスが現れたのです。

 そのホームレスを見た瞬間、木下さんの表情が急にきりりとしました。勇ましい顔つきになり、そのホームレスが木下さんに「お疲れさまです!」とあいさつをしてきたのです。

 言われた木下さんは、「おうっ」と、偉そうに返しました。「どうや?」と訊く木下さんに、そのホームレスは「さっぱりっすわ!」と返すなど、やけに仲がいいのです。

 このホームレスは、僕の近所に最近居つき始めた人です。僕らのそばにある自販機の下を覗いており、木下さんは自分がこの地域のお釣り泥棒の先駆者であるのをいいことに、やたらと先輩風を吹かしているのです。

 どんな縦の関係やねん、これ!聞いたことないわ、こんなしょうもない上下関係!

 「しっかりやれよ」

 「ありがとうございます!」

 なんでそんな偉そうやねん、お前!偉そうにする理由がわからん!

 このホームレスは、お釣り口には一切手を出しません。訊くと、木下さんとの棲み分けがあるそうです。木下さんはお釣り口、ホームレスは自販機の下と決められているらしく、木下さんはガム棒でお釣り口を、ホームレスは長い木の棒で自販機の下をつつくことだけを許されているらしいのです。

 その日から4ヵ月たった、昨年末のことです。

 僕はその日、行きつけのラーメン屋に行くために原付きバイクを走らせていました。そのラーメン屋は、僕の家からはかなり距離があります。到着して駐車場にバイクを停車させたところ、駐車場の近くに例のホームレスがいます。住み家を変更したのか僕の近所を離れている様子で、手にはガム棒を持っています。そのガム棒は木下さんが持っていたガム棒だったため、翌日、僕の家に来た木下さんにそのことを報告しました。

 「おっちゃん、こないだまでうちの近所にいたホームレス、俺の行きつけのラーメン屋の近くにいたで」

 「そうか」

 「手に、おっちゃんのガム棒を持ってたで」

 「そうか。やっとるか」

 木下さんは、ホームレスの活躍ぶりを聞いて満足そうな表情を浮かべました。僕が「なんでおっちゃんのガム棒を持ってんの?」と質問したところ、めちゃくちゃ得意げな顔で「引っ越すって言うから、餞別にやった」って言ったんですよ。

 なんの餞別やねん、それ!いらんわ、そんなしょうもない餞別!

 「俺はいつだってあの棒を作れる。でもあいつがあの棒を作ることは無理なんや!」

 全然かっこよくないわ!決め顔で言ってるけど全然かっこよくないわ!

 このあと木下さん、「今度、あいつの動きをチェックしに行ってくる!」って言いましたからね。弟子を見守る師匠のようにやたらと得意げに言いましたから。

検証エピソード⑤『吐いた』
 これは、僕が中学校3年生のときのお話です。

 その年の秋に、僕は交通事故に遭いました。僕は自転車通学をしており、上り坂から下ってくる車と正面衝突してしまったのです。

 車のフロントと額が接触し、吹っ飛ばされた衝撃で右ヒザの皿を骨折しました。頭から軽く血が出たものの、車のほうにそれほどスピードがなかったことから、検査をしても頭部に異常はありません。

 「入院する必要はありません。家に帰って、もし嘔吐することがあったら、もう一度病院に来てください」

 医者が釘を刺してきます。嘔吐するようなら精密な検査が必要になるらしく、不安に駆られながらも、ギプスをはめられた僕は母親が運転する車で家に帰りました。

 僕の父親は会社に戻り、僕は自分の部屋のベッドに入りました。時刻はお昼を過ぎています。何かあったらすぐに対応できるようにと、部屋のドアは半開きにしてあります。疲れた僕はうとうとし始めたのですが、騒ぎを聞きつけた木下さんが僕の部屋にやって来たのです。

 「たけちゃん、大丈夫か?大丈夫?ほんまに大丈夫!?」

 木下さんは声を張り上げています。「大丈夫やで」と返しても聞かず、何度も僕の体をさすってきます。僕の母親に注意されて部屋を出たものの、30分おきにやって来ては「大丈夫?」と訊いてくるのです。

 大丈夫や言うてるやろ、お前!お前のせいで寝られへんやんけ、俺!

 「大丈夫?どこかケガしてない?」

 ケガしてん、俺!ケガしたから寝とんねん、俺!

 それでも、本人に悪気はありません。僕はうっとうしいながらも、その都度優しく言葉を返していました。

 夕方になり、僕の母親は買物に行きました。家には木下さんしかいません。僕は小便をするために松葉杖でトイレに向かったところ、突然、嘔吐を催しました。頭がくらくらとし、大便器の中に吐いてしまったのです。

 「大丈夫か!?たけちゃん、大丈夫か!?」

 オロオロオロオロと吐き続ける僕のところに、木下さんが来ました。僕の母親から事情を聞いていたのでしょう。騒ぎ始め、「吐いたんか?たけちゃん、吐いたんか?」と、吐いてる僕を見ながら僕に吐いたかどうかを確認し始めたのです。

 見たらわかるやろ、お前!そんなん訊かんでも吐いてるやろ、俺!

 「吐いたん?」

 「吐いた」

 「吐いたんか?」

 「吐いた」

 「お医者さんが『吐いたら病院に来なさい』って言ってたらしいけど吐いたんか?」

 吐いた言うてるやろ、お前!なんやったらお前、吐いてる俺の真横におるやろ!

 「吐いた吐いた!たけちゃんが吐いた吐いた吐いた吐いた吐いた!」

 静かにせいや、お前!イッシー発見したオバハンよりもうるさいやんけ、こいつ!

 「あかん、ふーちゃん(僕の母親)がおらへん!たけちゃん、俺、救急車呼ぶわ!」

 「大丈夫や!お母さんが帰ってくるまで待ってたらいいから!」

 「あかん!ふーちゃんなんて待ってられへん!えーと、救急車、救急車。あっもしもし、木下です!」

 誰やねん、お前!相手はお前のこと知らんわ、ボケ!

 「たけちゃんが吐いた!たけちゃんが吐いたから!」

 ちゃんと説明せいや最初っから!電話口でいきなりそんなこと言われてもなんのことかわからんやろ!

 「おっちゃん、ちゃんと事情を説明しろ!」

 「たけちゃんが車に撥ねられたんです!」

 話ややこしなるわ!そこの事情はいらんねん!なぜ救急車を呼ぶのかをきちんと説明せいや!

 「おっちゃん、ちょっと電話代われ!」

 「わかった」

 「もしもし?」

 「もしもし、車は逃げたんですか?」

 警察やんけ、これ!119番じゃなくて110番やんけ、これ!

 「いや、違います違います!」

 「吐いた吐いた!たけちゃんが吐いた吐いた!」

 「すいません、なんでもないんで!」

 「吐いた吐いた吐いた!」

 「おまわりさんすいません、近所のおじさんが間違って電話したんです!」

 「吐いた吐いた吐いオロオロオロオロ!」

 お前が吐いとるやんけ!叫びすぎてお前が吐いとるやんけ!

 「とりあえず電話切りますね!ガチャッ!」

 「オロオロオロオロ!オロオロオロオロ!」

 「おっちゃん、大丈夫?」

 俺が心配してるやんけ!なんで俺のほうが心配しないとあかんねん!

 「たけちゃん、水ちょうだい?」

 なんで俺がそんなことしないとあかんねん!俺、松葉杖やぞ、コラ!ていうか何なんマジでお前、さっきから!?これを理由に入院しそうやねんけど、俺!?

 しばらくして、僕の母親が家に帰ってきました。母親に連れられて病院に行ったのですが、僕は木下さんが吐いたゲロを思い出して、車内で吐きました。交通事故とは関係なく普通にもらいゲロをしてしまい、医者に「吐いた理由を詳しく教えて?」と訊かれてどう答えたらいいかわからなかったのです……。


 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。

 毎度同様、木下さんのアホさだけは手のつけようがありません。ついさっきも僕に、「サバンナって何県にあんの?」と質問してきましたから……。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/

本の紹介(パソコン読者用)

 こんにちわ。バスコでございます。


 今日はみなさまに、一冊の本をご紹介します。日頃からお世話になっている後藤眞智子さんという女性の方が書かれた子育ての本です。


 なぜか3兄弟全員が東大合格! 「勉強しろ」と絶対言わない子育て/後藤 眞智子


 講演家でもある後藤さんの息子さんは全員、東京大学に入りました。その子育てのスキルを自らの体験談を通じて紹介する、珍しいタイプの子育て本となっております。


 一般的なハウツー本や、大学の教授が書いたような小難しい本ではありません。本のタイトルに「勉強しろ、と絶対に言わない」とある通り、その教育論や子育て論は非常に緩やかなものです。このジャンル特有の説教臭さはなく、僕も読みましたが、濃度の濃い母乳をゆっくりと呑まされるような感じがしました。


 後藤さんは失礼ながら、高学歴でもなんでもない、普通の主婦です。「普通のオバチャンなのに子供を全員東大に入れた子育ての本」で、共感できる人は多いと思います。小さい子供さんがいる方は、ぜひ、ご覧になってみてください。


 つきましては東京にて、編集の方が主催する出版記念パーティーが行われます。僕もゲストとして後藤さんと絡むので、興味のある方はご参加ください。立食パーティーという、僕が一番苦手な形式のパーティーです。話しかけてくれたら助かります。以下に、パーティーの詳細が書かれたURLを載せて置きますね。


http://ameblo.jp/studiopocket/entry-10930565573.html


 最後になりましたが現在、人前で話す講師の仕事をちょいちょいやっております。今年の秋口から、僕個人が主催するちょっとした勉強会をやろうと思っています。僕の専門はコミュニケーション術ですが、テーマをお笑いの技術(発想)に絞って、ビジネスとは直接関係のない、相当コアな「笑いの勉強会」をやろうと思っています


 たとえば、以下のようなテーマです。


●「ボケの作り方」
●「ツッコミの作り方」
●「切り口の創り方(発想法)」

●「エピソードトークの話し方」
●「文章での笑いの取り方」
●「大喜利で、まあまあおもしろい答えが出せるようになる発想法」


 料金、会場などすべて未定ですが、興味のある方はご連絡ください。ある程度まとまった人数が集まったら、一般の方に、僕が直接お笑いを指導します。関東でも人数が集まるようなら開催する予定ですので。


 長くなりましたが、後藤さんの本ともども、よろしくお願いします。現在、することが多すぎてブログの更新が滞っておりますが、落ち着いたらまた効率よくアップしていきますので。


 バスコ


本の紹介(携帯読者用)

 こんにちわ。バスコでございます。

 今日はみなさまに、一冊の本をご紹介します。日頃からお世話になっている後藤眞智子さんという女性の方が書かれた子育ての本です。


 なぜか3兄弟全員が東大合格! 「勉強しろ」と絶対言わない子育て/後藤 眞智子


 講演家でもある後藤さんの息子さんは全員、東京大学に入りました。その子育てのスキルを自らの体験談を通じて紹介する、珍しいタイプの子育て本となっております。

 一般的なハウツー本や、大学の教授が書いたような小難しい本ではありません。本のタイトルに「勉強しろ、と絶対に言わない」とある通り、その教育論や子育て論は非常に緩やかなものです。このジャンル特有の説教臭さはなく、僕も読みましたが、濃度の濃い母乳をゆっくりと呑まされるような感じがしました。

 後藤さんは失礼ながら、高学歴でもなんでもない、普通の主婦です。「普通のオバチャンなのに子供を全員東大に入れた子育ての本」で、共感できる人は多いと思います。小さい子供さんがいる方は、ぜひ、ご覧になってみてください。

 つきましては東京にて、編集の方が主催する出版記念パーティーが行われます。僕もゲストとして後藤さんと絡むので、興味のある方はご参加ください。立食パーティーという、僕が一番苦手な形式のパーティーです。話しかけてくれたら助かります。以下に、パーティーの詳細が書かれたURLを載せて置きますね。

http://ameblo.jp/studiopocket/entry-10930565573.html

 最後になりましたが現在、人前で話す講師の仕事をちょいちょいやっております。今年の秋口から、僕個人が主催するちょっとした勉強会をやろうと思っています。僕の専門はコミュニケーション術ですが、テーマをお笑いの技術(発想)に絞って、ビジネスとは直接関係のない、相当コアな「笑いの勉強会」をやろうと思っています。

 たとえば、以下のようなテーマです。

●「ボケの作り方」
●「ツッコミの作り方」
●「切り口の創り方(発想法)」

●「エピソードトークの話し方」
●「文章での笑いの取り方」
●「大喜利で、まあまあおもしろい答えが出せるようになる発想法」

 料金、会場などすべて未定ですが、興味のある方はご連絡ください。ある程度まとまった人数が集まったら、一般の方に、僕が直接お笑いを指導します。関東でも人数が集まるようなら開催する予定ですので。

 長くなりましたが、後藤さんの本ともども、よろしくお願いします。現在、することが多すぎてブログの更新が滞っておりますが、落ち着いたらまた効率よくアップしていきますので。

 バスコ

グイグイはやめにするべきではないか?の考察②(パソコン読者用)

 先日、仕事で東京に行きました。日程は1泊2日で、2日目の朝に、現場に向かうために駅のプラットフォームに足を踏み入れたのですが、時刻は通勤ラッシュと重なっています。やってきた電車の車内はぎゅうぎゅう詰め

なのです。


 僕は強引に体をねじ込みました。おもいっきり突っ込んだおかげで車内の中央部に移動できたのですが、まだまだ人は入ってきます。これ以上入りようがないのに、ガンガンに人がなだれ込んできたのです。


 ふと見ると、外から駅員が乗客の背中を押しています。ヒザを入れるぐらいの勢いで乗客を中に詰め込みまくっているのです。


 これ、おかしいでしょ?駅員は乗客の安全を考えて、「これ以上は無理なので次の電車にしてください!」と指示するべきでしょ!?


 それでも、電車のドアは閉まりました。僕は窒息しそうなほど、周囲の乗客に体を挟まれています。僕の前にいる小柄なおばあさんに至っては、体を圧迫されすぎて死にそうな顔をしています。僕はこのおばあさんの安全を確保するために、座席の手すりを強引につかんでスペースを空けてあげました。


 5分ほどして、次の駅に到着しました。ドア付近の乗客が降車し始めたのを見て、このおばあさんは安堵の表情を浮かべています。僕もほっとしていたのですが、乗客が大量に降車したため、その勢いで僕を含めた数名が前のめりになりました。その際、僕の前に倒れ込んだこのおばあさんの上着がめくれたので何気に見たところ、背中に入れ墨入ってたんですよ。


 おもいっきり墨入ってるんですよ、このババア!「わては極道の妻です!」と言わんばかりに竜の入れ墨が入ってるんですよ!


 なんでやねん、お前!ちょっと待って、ヨボヨボのババアやのに入れ墨してんの!?俺、とんでもないもん見たわ、朝っぱらから!このあと仕事どころじゃないわ!


 「おばあさん、大丈夫ですか?」


 手なんて貸さんでええわ、こんな奴に!余裕でやっていけるわ、こんないかついババア!


 元はといえば、駅員の責任です。駅員がグイグイ乗客を詰め込まなければ、こんなホラーに遭遇することはありませんでした。すべては駅員のせいで、それを考えると腹が立ってきたのです。


 僕は人の強引さ、無神経さ、常識のなさ、謙虚のなさなどを「グイグイくるな!」という意味で、「グイグイ」と単位化しています。この駅員の行為は典型的なグイグイで、人を強引に詰め込む奴なんて迷惑以外の何物でもないのです。


 そこで今回は、「グイグイはやめにするべきではないか?」の考察②です。


 以下、僕が過去に遭遇したグイグイをご紹介します。被害者だけじゃなく、僕を含めた誰もが加害者になりかねないので、身に覚えのある方はご注意ください。


①焼肉屋で人の肉を奪ってくる 1グイグイ
 食べ放題じゃない焼肉屋に行くと、食べられる肉の枚数がかぎられています。周囲を気遣い、少し遠慮気味に食
べるのがある種の常識でしょう。


 ですが、ガンガンに箸でつかんでくる奴がいます。自分の目の前の肉だけではこと足りず、わざわざ手を伸ばして人の目の前の肉を奪ってくるのです。


 ふざけんなよ、お前!肉は民主主義やぞ!


 「タレ、足りてる?」


 そんなんええねん!肉のダメージがすごすぎて変な気遣いがむしろ腹立ってくんねん!


 皿に載せられた肉が届いた時、その場の誰もが「1人何枚か」ということを計算しています。「民主党って頼りないな」とか言いながらも、腹の中ではちゃっかし自分の取り分を計算しています。その割合を無視されると腹が立ち、しかもそんな奴にかぎって「個人的にユッケ頼んでいい?」とお願いしてくるのです。


 腹立つわ、こいつ!で、個人的にってどういうことやねん!みんなで分けて食ったらええやんけ!


 「新しい紙エプロン、いる?」


 そんなんええねん、だから!お前、そんなんしたからって好きなだけ肉食えると思うなよ!お前がキリストでもこの分厚いロースは死守するぞ、俺!


 それでも、このタイプはまだわかりやすいので許せます。中にはたちの悪い知能犯がおり、その知能犯は、自分の席に肉の皿が近いのをいいことに、みんなのために肉を焼く係を引き受けます。適当に肉を網に載せてるように見せかけて、でかめの肉をさりげなく自分の前に置きやがるのです。


 偽善者か、この野郎!俺は見逃さんぞ、お前が今1番分厚い牛タンを自分の目の前に置いたことを!


 「俺のことはいいから食べや!」


 嘘つけ!お前みたいな奴が1番悪質やねん!お前のやってることは財布をスリながら看病するナイチンゲールと一緒じゃ!支払いを必要とするボランティア行為や!


 肉を前にした人間は、例外なく卑しいです。態度にこそ出さないものの、内心ではむかついています。遊びに誘ってもらえなくなる可能性もあるので、くれぐれも個人プレーはやめましょう。


②写真を撮るときにポーズを強要してくる 2グイグイ
 どう写真を撮られるかは本人の自由です。ですが中には、ポーズを強要してくる人がいます。カメラを持ちなが
ら、「ピースをしろ!」「親指を立てろ!」などと指示を出してくるのです。


 お前、好きにさせろや、こっちの!思い出のタクトは自分で振らせろや!


 「タバコをくわえろ!」


 田舎のヤンキーか!田舎の悪童やんけ、そんなしょうもない撮られ方すんの!


 「肩を組め!」


 特攻隊か、俺ら!ゼロ戦をバックにした特攻直前の写真やんけ、肩組むなんて!おふくろに残す写真と違うわ、これ!


 僕はピースができません。「指を2本見せたところでどうやねん!」と思うのです。そもそもこのピースは「平和」という意味です。「何が平和なん?」という話で、それでもピースの強要ぐらいならまだ許せるのですが、ひどい場合、「『キャイーン!』をやれ!」と指示を出してくる奴がいるのです。


 できるか、そんなこと!キャイーンやるぐらいやったら舌噛んで死ぬわ、俺!


 「もしくは『アイーン!』をやれ!」


 0点のギャグばっかりやんけ!なんで0点のギャグを強要してくんねん!戦後の0点ギャグのツートップやぞ、キャイーンとアイーン!


 「1+1は?」


 ゴミやわ、もうこいつ!戦後のやばいギャグ全部言いやがった!マッカーサーに戻ってきてほしい!


 先日、被災地のボランティア団体に密着する番組が放送されていました。支援に一定の目処がついたことから、そのボランティア団体は帰ることになりました。被災者とともに記念写真を撮ることになったのですが、カメラを持つボランティアスタッフが被災者にピースを強要したのです。


 平和と違うやろ、今!何がピースやねん、こんな状況で!


 「(ピースをしながら)イェーイ!」


 トモダチ帰るわ!「コノクニハ、オモッテタヨリモヨユウガアル!」とか言いながらトモダチ作戦終わるわ!で、親指立ててる被災者がおんねんけどOKやったらボランティアに頼んなよ!


 写真をどう撮られるかは各自の自由です。くれぐれも強要するのはやめましょう。


③暑中見舞いを送ってくる 3グイグイ
 こんなITの時代に、いまだに暑中見舞いを送ってくる人がいます。『暑中お見舞い申し上げます』の書き出し
でこちらの体調を心配してくるのですが、そんなことをわざわざハガキに書いて送ってくる意味がわからないのです。


 勝手に申し上げんなよ、お前!そもそも申し上げるってなんやねん!なんでそんな丁寧やねん!


 『厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?』


 ほんまに興味あるか、こっちの体調に!?そもそもお前にも厳しい暑さが続いてるやろ!お互いが同じ状況やのになんでお前だけが心配してくんねん!


 それでも、申し上げられたわけです。こちらもハガキを買って申し上げ返さなければなりません。「お互いの体調を心配し合う」という妙なやり取りに疲れるんですね。


 加えて、以下のような型どおりの挨拶文にイラッとさせられます。


 『暑さ厳しき折柄、その暑さは収まる気配もございません』


 何を言うとねん、お前!書いてどうすんねん、そんなこと!


 『私は少々この暑さがこたえておりますが……』


 お前が夏バテしてるやんけ!なんで夏バテしてる奴が相手の体調を気遣ってくんねん!自分の心配せいよ、まず


 『先日、小百合さんにお会いしたのですが、彼女、それまでのキャリアを生かして転職したそうです。今度私たちで小百合さんの転職祝いをしてあげましょうよ。その前に私たちもがんばらなきゃね(汗)』


 なんやねん、ここ!なんやねん、マジでここ!余白やからって何書いても許されると思うなよ!


 昨夏も僕宛てに、仕事の知り合いから暑中見舞いが届きました。だるいながらにも「僕の体は大丈夫です」的なことを書いて送り返したのですが、8月の末に同じ人から『残暑が厳しいですが大丈夫ですか?』と、今度は残暑見舞いが届いたのです。


 大丈夫や言うてるやろ、お前!お前のせいで大丈夫じゃなくなるわ!


 『お変わりはないでしょうか?』


 変わるか、こんな短期間で!サイヤ人か、俺!


 暑中見舞いなんてもらっても迷惑なだけです。典型的なグイグイと言えるでしょう。


④筋肉を自慢してくる 4グイグイ
 マッチョな人にはナルシストが多いです。人に見せるために体を鍛えているところがあり、何かにつけて筋肉を
自慢してきます。たいして暑くもないのに無理矢理Tシャツを脱ぐ人もいるなど、人に見せつけてたくて仕方がないのでしょう。


 ですが、見せられたところで「だから何?」としか言いようがありません。「あっ、そう」という話で、妙に得意げなところがむしろ気持ち悪かったりするのです。


 先日、僕が通ってるスポーツジムに、プロのボディビルダーが来ました。力道山みたいなものすごいマッチョで、上はタンクトップで下はビキニを履いています。ボディビルの大会で優勝した人らしく、インストラクターを従えてのVIP待遇です。「俺様が来てやったよ!」みたいな顔で施設を周回しながら1人ひとりに声をかけ始めたのです。


 誰やねん、お前!全然興味ないわ、お前みたいな奴!


 「やってますか?」


 やってますかってなんやねん!何をクールにきめてくれとんねん!


 「筋肉はつけるのではなく、自分から迎えに行ってくださいよ」


 どういうことやねん、それ!で、なんで茶髪にグラサンかけてんの!?変な勘違いっぷりがめちゃくちゃ気持ち悪いねんけど!?


 声をかけるときには、「どうぞ、お触りになって」と言いながら上腕二等筋を見せつけてきます。物腰は非常にやわらかいのですが、自分に酔ってる紳士的な口調が気持ち悪くて仕方がないのです。


 全員に声をかけたあと、このオッサンはバーベルで鍛える場所に移動しました。周囲の目を意識しながら特大のバーベルを両手で頭上に持ち上げたところ、現場は拍手喝采です。するとこのオッサンはテンションが上がったのでしょう。顔面を紅潮させ、バーベルを持ったまま歩き始めました。「ウオー!」と叫びながら自分の怪力を見せつけ始めたのですが、ゆっくりと進むそのオッサンの腹筋を誰かが触った瞬間に「今触るなコラ」って言ったんですよ。


 怖っ、こいつ!全然紳士と違うやんけ、こんな奴!


 「今触るな、コラ!」


 ブチギレてるやんけ!何もかもが気持ち悪い!


 体を鍛えるのは勝手ですが、周りを巻き込んではいけません。自分のマッスルぶりを過度に見せつけるとグイグイになってしまうのです。


⑤小便が激しい 5グイグイ
 公衆便所や会社のトイレなど、男性の小便器はトイレに並列されています。中にはものすごい勢いで放尿する人
がいて、各小便器の間隔が狭いことから、小便のはね返りが隣の人にかかってくるのです。


 それでも、少しぐらいなら我慢できます。事実、僕もかけてしまったことがあります。少量なら問題ないのでしょうが、極々まれに、常軌を逸した大量の小便をかけてくる猛者がいるのです。


 先日、僕は仕事で、大阪のとあるお笑いの劇場にいました。夜の9時頃に急に小便がしたくなって知り合いと一緒にトイレに行ったところ、僕らがトイレに入るのと同時に、Sという芸人もトイレにやってきました。


 Sさんは吉本新喜劇に所属する重鎮です。ベロンベロンに酔っ払っており、「キリンの首にかぶりつきたいでんねん……」とワケのわからないことを呟いています。「やばい奴がきたな……」と思いながらも「お疲れさまで

す!」とあいさつし、僕らは小便器を1つ空けてチャックを下ろしたのですが、小便器がたくさんあるにもかかわらず、Sさんが僕らのあいだに入ってきたのです。


 なんでやねん、お前!なんで10個以上もあんのにわざわざあいだにくんねん!


 「おじゃまします!」


 ほんまに邪魔やわ!で、小便器から離れすぎやねん、お前!30センチ以上も離れてるから丸見えやんけ、お前の息子!


 それでも大先輩なので文句は言えません。僕はSさんを無視してチョロチョロと用を足し始めたのですが、このオッサンがブワーーーーって小便出し始めたんですよ!はね返りとかそんなレベルの話じゃない、えげつない量の小便を周囲に撒き散らし始めたのです!


 勘弁してくれよ、おい!なんぼほど出すねん、このオッサン!


 僕は怖くなってきました。急いで用を足し終えようと小便を出すスピードを速めたのですが、このオッサンの小便が途中から3分割されて僕らに直接かかってきたんですよ!左・真ん中・右と完全に3分割された小便で、僕

らの体はもちろん、僕の顔面に小便かかってきたんですよ!


 ええ加減にせいよ、コラ!なんぼ師匠やいうてもやっていいことと悪いことがあるぞ!


 「ごめりんこ!」


 ごめりんこやあるか、お前!ごめりんこやないねん、島木譲二!もう伏せ字やめるわ、お前はパチパチパンチでおなじみの島木譲二や!


 しかも途中から島木さん、あんぱん食ってましたからね。僕らに小便をかけながら、ポケットから出したあんぱんをもぐもぐかじってましたから。


⑥サウナで話しかけてくる 6グイグイ
 サウナの中にいる人は、自分との戦いに精一杯です。誰かと会話する余裕などないのに、平気な顔で話しかけて
くるフレンドリーなオッサンがいるのです。


 先日、僕は地元のスーパー銭湯に行きました。サウナに入って体を絞ることにしたのですが、木の長イスに座るやいなや、僕の隣に座るオッサンがワケのわからない話を連発してきたのです。


 「兄ちゃん」


 「……」


 「兄ちゃん」


 「なんですか?」


 「サウナ?」


 そりゃそうやろ!見たらわかるやろ、お前!サウナにサウナ以外の用事で入ってくる奴ってなんやねん!


 「そうです」


 「そうか。サウナか」


 ……なんやねん、それ!意味がわからん!ていうかお前もサウナやろ!


 「兄ちゃん、体重はどれキロぐらいあんの?」


 どれキロってなんやねん!どれキロ!?初めてやわ俺、そんな斬新な訊き方されたん!


 「67です」


 「67か」


 「おじさんはどれキロなんですか?」


 「はっ?」


 お前が言い出してんやろどれキロって!お前、最後まで自分の日本語に責任持てよ!島木譲二でも「ごめりんこ」って妙なギャグここ10年言い続けてるんやぞ!


 それでも、途中で会話はなくなりました。ようやく静かになれたので僕は安心していたのですが、ふと見ると、このオッサンが体をプルプルとさせています。両手を握り締め、目の前の時計を見ながら「あと4分、あと4分

……」と呟いています。僕は「大丈夫か、このオッサン……」と心配しながら見ていたのですが、このオッサンが急に出口に向かって猛スピードで走り出し、ドアのノブをつかむやいなや「よくやったほうやから今日の俺!!!」って言ったんですよ。


 何を言うとんねん、お前!さっきから全然意味わからんねん!


 「今日はいつもよりやれたから!ザブーン!」


 水風呂で言うな!頭おかしいんか、お前!


 サウナの中では、みんなギリギリの戦いをしています。くれぐれも話しかけないようにしましょう。



 そして、最後。これは、グイグイどころの話ではありません。グイグイではなく、「マジデヤメテクレ」に認定したいと思います。


⑦商品を選ぶお客さんにまとわりつく 1マジデヤメテクレ
 僕は昔からショッピングが嫌いです。だらだらと商品を見て歩くのが苦手で、なにより、各ショップの店員さん
が苦手なのです。


 たとえば、服屋。服屋の店員がまとわりついてきてうっとうしいのは有名な話ですが、しつこい奴は本当にしつこいです。こちらがあからさまに嫌悪感を示しても気づかず、行くところ行くところにまとわりついてくるのです。


 どっか行けや、お前!地縛霊か!


 「こちらの黄色のTシャツとかはどうでしょうか?」


 何を根拠に言ってんねん!俺がそのTシャツを好むと思うお前の判断材料はなんやねん!なんや、「黄色人種やから黄色のシャツが好きやろう!」とかそういうことか!?


 「このTシャツ、雑誌に載ったんですよ!」


 だからなんやねん!それはその編集の奴が個人的にいいと思っただけやろ!雑誌に載ったから買うとかないねん、服に!


 先日、僕はジーパンを買いに服屋に行きました。店に入ると、1人の男性店員が僕にまとわりついてきました。鼻にピアスをした死ぬほどチャラい奴で、その都度妙なセールストークを展開してきます。しかも20歳そこそこの奴なのに、年上の僕に対して態度が横柄なのです。


 「これ、いいよ!」


 「このTシャツも一緒に買ってくれたらジーパンは安くしとくよ!」


 僕に完全にため口で、頭にきた僕は注意しました。


 「お前、なんでそんな口のきき方やねん?」


 僕は声を荒げました。するとひるむかと思いきや、めちゃくちゃ高い声で「俺なりのやり方っす!!!」って言ったんですよ。


 なめてんのか、お前!お前のやり方とか知らんわ!


 「今までずっとこれでやってきたっす!」


 知らんがな、そんなもん!何の言い訳やねん、それ!


 僕は完全に頭にきました。「なめてんのか、お前!」と続けたところ、こいつが「すいませんでした」と謝罪したのですが、そのあとに小声で「シュン」って言ったんですよ。


 腹立つわ、こいつ!俺、1番嫌いやねん、こんな奴!


 「シュン……」


 シュンやあるか、お前!お前、そこの皮ベルト取ってこい!そのベルトでお前のチンチンを縛り上げてイク寸前でやめたるわ!


 結局、店長が出てきて僕に謝罪しました。ですが、「オッサンが古臭いことを言ってやがる!」とばかりに、どこか反省していない感じがします。言葉の節々にトゲがあり、僕の怒りは収まらなかったのです。


 店員の助けがほしければ、客は自分で呼びます。服屋しかり、家電量販店しかり。店に入った段階で店員の手助けがほしいことなど、まずありません。ため口を使ってくるなど論外、くれぐれも客にまとわりつくのはやめま

しょう。



 以上が、今回の考察です。


 ちなみに余談ですが、先ほどのチャラい店員。


 この店員は見かけのポップさとは裏腹に、名字は死ぬほど古風な「多田」でした。


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グイグイはやめにするべきではないか?の考察②(携帯読者用)

 先日、仕事で東京に行きました。日程は1泊2日で、2日目の朝に、現場に向かうために駅のプラットフォームに足を踏み入れたのですが、時刻は通勤ラッシュと重なっています。やってきた電車の車内はぎゅうぎゅう詰めなのです。

 僕は強引に体をねじ込みました。おもいっきり突っ込んだおかげで車内の中央部に移動できたのですが、まだまだ人は入ってきます。これ以上入りようがないのに、ガンガンに人がなだれ込んできたのです。

 ふと見ると、外から駅員が乗客の背中を押しています。ヒザを入れるぐらいの勢いで乗客を中に詰め込みまくっているのです。

 これ、おかしいでしょ?駅員は乗客の安全を考えて、「これ以上は無理なので次の電車にしてください!」と指示するべきでしょ!?

 それでも、電車のドアは閉まりました。僕は窒息しそうなほど、周囲の乗客に体を挟まれています。僕の前にいる小柄なおばあさんに至っては、体を圧迫されすぎて死にそうな顔をしています。僕はこのおばあさんの安全を確保するために、座席の手すりを強引につかんでスペースを空けてあげました。

 5分ほどして、次の駅に到着しました。ドア付近の乗客が降車し始めたのを見て、このおばあさんは安堵の表情を浮かべています。僕もほっとしていたのですが、乗客が大量に降車したため、その勢いで僕を含めた数名が前のめりになりました。その際、僕の前に倒れ込んだこのおばあさんの上着がめくれたので何気に見たところ、背中に入れ墨入ってたんですよ。

 おもいっきり墨入ってるんですよ、このババア!「わては極道の妻です!」と言わんばかりに竜の入れ墨が入ってるんですよ!

 なんでやねん、お前!ちょっと待って、ヨボヨボのババアやのに入れ墨してんの!?俺、とんでもないもん見たわ、朝っぱらから!このあと仕事どころじゃないわ!

 「おばあさん、大丈夫ですか?」

 手なんて貸さんでええわ、こんな奴に!余裕でやっていけるわ、こんないかついババア!

 元はといえば、駅員の責任です。駅員がグイグイ乗客を詰め込まなければ、こんなホラーに遭遇することはありませんでした。すべては駅員のせいで、それを考えると腹が立ってきたのです。

 僕は人の強引さ、無神経さ、常識のなさ、謙虚のなさなどを「グイグイくるな!」という意味で、「グイグイ」と単位化しています。この駅員の行為は典型的なグイグイで、人を強引に詰め込む奴なんて迷惑以外の何物でもないのです。

 そこで今回は、「グイグイはやめにするべきではないか?」の考察②です。

 以下、僕が過去に遭遇したグイグイをご紹介します。被害者だけじゃなく、僕を含めた誰もが加害者になりかねないので、身に覚えのある方はご注意ください。

①焼肉屋で人の肉を奪ってくる 1グイグイ
 食べ放題じゃない焼肉屋に行くと、食べられる肉の枚数がかぎられています。周囲を気遣い、少し遠慮気味に食べるのがある種の常識でしょう。

 ですが、ガンガンに箸でつかんでくる奴がいます。自分の目の前の肉だけではこと足りず、わざわざ手を伸ばして人の目の前の肉を奪ってくるのです。

 ふざけんなよ、お前!肉は民主主義やぞ!

 「タレ、足りてる?」

 そんなんええねん!肉のダメージがすごすぎて変な気遣いがむしろ腹立ってくんねん!

 皿に載せられた肉が届いた時、その場の誰もが「1人何枚か」ということを計算しています。「民主党って頼りないな」とか言いながらも、腹の中ではちゃっかし自分の取り分を計算しています。その割合を無視されると腹が立ち、しかもそんな奴にかぎって「個人的にユッケ頼んでいい?」とお願いしてくるのです。

 腹立つわ、こいつ!で、個人的にってどういうことやねん!みんなで分けて食ったらええやんけ!

 「新しい紙エプロン、いる?」

 そんなんええねん、だから!お前、そんなんしたからって好きなだけ肉食えると思うなよ!お前がキリストでもこの分厚いロースは死守するぞ、俺!

 それでも、このタイプはまだわかりやすいので許せます。中にはたちの悪い知能犯がおり、その知能犯は、自分の席に肉の皿が近いのをいいことに、みんなのために肉を焼く係を引き受けます。適当に肉を網に載せてるように見せかけて、でかめの肉をさりげなく自分の前に置きやがるのです。

 偽善者か、この野郎!俺は見逃さんぞ、お前が今1番分厚い牛タンを自分の目の前に置いたことを!

 「俺のことはいいから食べや!」

 嘘つけ!お前みたいな奴が1番悪質やねん!お前のやってることは財布をスリながら看病するナイチンゲールと一緒じゃ!支払いを必要とするボランティア行為や!

 肉を前にした人間は、例外なく卑しいです。態度にこそ出さないものの、内心ではむかついています。遊びに誘ってもらえなくなる可能性もあるので、くれぐれも個人プレーはやめましょう。

②写真を撮るときにポーズを強要してくる 2グイグイ
 どう写真を撮られるかは本人の自由です。ですが中には、ポーズを強要してくる人がいます。カメラを持ちながら、「ピースをしろ!」「親指を立てろ!」などと指示を出してくるのです。

 お前、好きにさせろや、こっちの!思い出のタクトは自分で振らせろや!

 「タバコをくわえろ!」

 田舎のヤンキーか!田舎の悪童やんけ、そんなしょうもない撮られ方すんの!

 「肩を組め!」

 特攻隊か、俺ら!ゼロ戦をバックにした特攻直前の写真やんけ、肩組むなんて!おふくろに残す写真と違うわ、これ!

 僕はピースができません。「指を2本見せたところでどうやねん!」と思うのです。そもそもこのピースは「平和」という意味です。「何が平和なん?」という話で、それでもピースの強要ぐらいならまだ許せるのですが、ひどい場合、「『キャイーン!』をやれ!」と指示を出してくる奴がいるのです。

 できるか、そんなこと!キャイーンやるぐらいやったら舌噛んで死ぬわ、俺!

 「もしくは『アイーン!』をやれ!」

 0点のギャグばっかりやんけ!なんで0点のギャグを強要してくんねん!戦後の0点ギャグのツートップやぞ、キャイーンとアイーン!

 「1+1は?」

 ゴミやわ、もうこいつ!戦後のやばいギャグ全部言いやがった!マッカーサーに戻ってきてほしい!

 先日、被災地のボランティア団体に密着する番組が放送されていました。支援に一定の目処がついたことから、そのボランティア団体は帰ることになりました。被災者とともに記念写真を撮ることになったのですが、カメラを持つボランティアスタッフが被災者にピースを強要したのです。

 平和と違うやろ、今!何がピースやねん、こんな状況で!

 「(ピースをしながら)イェーイ!」

 トモダチ帰るわ!「コノクニハ、オモッテタヨリモヨユウガアル!」とか言いながらトモダチ作戦終わるわ!で、親指立ててる被災者がおんねんけどOKやったらボランティアに頼んなよ!

 写真をどう撮られるかは各自の自由です。くれぐれも強要するのはやめましょう。

③暑中見舞いを送ってくる 3グイグイ
 こんなITの時代に、いまだに暑中見舞いを送ってくる人がいます。『暑中お見舞い申し上げます』の書き出しでこちらの体調を心配してくるのですが、そんなことをわざわざハガキに書いて送ってくる意味がわからないのです。

 勝手に申し上げんなよ、お前!そもそも申し上げるってなんやねん!なんでそんな丁寧やねん!

 『厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?』

 ほんまに興味あるか、こっちの体調に!?そもそもお前にも厳しい暑さが続いてるやろ!お互いが同じ状況やのになんでお前だけが心配してくんねん!

 それでも、申し上げられたわけです。こちらもハガキを買って申し上げ返さなければなりません。「お互いの体調を心配し合う」という妙なやり取りに疲れるんですね。

 加えて、以下のような型どおりの挨拶文にイラッとさせられます。

 『暑さ厳しき折柄、その暑さは収まる気配もございません』

 何を言うとねん、お前!書いてどうすんねん、そんなこと!

 『私は少々この暑さがこたえておりますが……』

 お前が夏バテしてるやんけ!なんで夏バテしてる奴が相手の体調を気遣ってくんねん!自分の心配せいよ、まず!

 『先日、小百合さんにお会いしたのですが、彼女、それまでのキャリアを生かして転職したそうです。今度私たちで小百合さんの転職祝いをしてあげましょうよ。その前に私たちもがんばらなきゃね(汗)』

 なんやねん、ここ!なんやねん、マジでここ!余白やからって何書いても許されると思うなよ!

 昨夏も僕宛てに、仕事の知り合いから暑中見舞いが届きました。だるいながらにも「僕の体は大丈夫です」的なことを書いて送り返したのですが、8月の末に同じ人から『残暑が厳しいですが大丈夫ですか?』と、今度は残暑見舞いが届いたのです。

 大丈夫や言うてるやろ、お前!お前のせいで大丈夫じゃなくなるわ!

 『お変わりはないでしょうか?』

 変わるか、こんな短期間で!サイヤ人か、俺!

 暑中見舞いなんてもらっても迷惑なだけです。典型的なグイグイと言えるでしょう。

④筋肉を自慢してくる 4グイグイ
 マッチョな人にはナルシストが多いです。人に見せるために体を鍛えているところがあり、何かにつけて筋肉を自慢してきます。たいして暑くもないのに無理矢理Tシャツを脱ぐ人もいるなど、人に見せつけてたくて仕方がないのでしょう。

 ですが、見せられたところで「だから何?」としか言いようがありません。「あっ、そう」という話で、妙に得意げなところがむしろ気持ち悪かったりするのです。

 先日、僕が通ってるスポーツジムに、プロのボディビルダーが来ました。力道山みたいなものすごいマッチョで、上はタンクトップで下はビキニを履いています。ボディビルの大会で優勝した人らしく、インストラクターを従えてのVIP待遇です。「俺様が来てやったよ!」みたいな顔で施設を周回しながら1人ひとりに声をかけ始めたのです。

 誰やねん、お前!全然興味ないわ、お前みたいな奴!

 「やってますか?」

 やってますかってなんやねん!何をクールにきめてくれとんねん!

 「筋肉はつけるのではなく、自分から迎えに行ってくださいよ」

 どういうことやねん、それ!で、なんで茶髪にグラサンかけてんの!?変な勘違いっぷりがめちゃくちゃ気持ち悪いねんけど!?

 声をかけるときには、「どうぞ、お触りになって」と言いながら上腕二等筋を見せつけてきます。物腰は非常にやわらかいのですが、自分に酔ってる紳士的な口調が気持ち悪くて仕方がないのです。

 全員に声をかけたあと、このオッサンはバーベルで鍛える場所に移動しました。周囲の目を意識しながら特大のバーベルを両手で頭上に持ち上げたところ、現場は拍手喝采です。するとこのオッサンはテンションが上がったのでしょう。顔面を紅潮させ、バーベルを持ったまま歩き始めました。「ウオー!」と叫びながら自分の怪力を見せつけ始めたのですが、ゆっくりと進むそのオッサンの腹筋を誰かが触った瞬間に「今触るなコラ」って言ったんですよ。

 怖っ、こいつ!全然紳士と違うやんけ、こんな奴!

 「今触るな、コラ!」

 ブチギレてるやんけ!何もかもが気持ち悪い!

 体を鍛えるのは勝手ですが、周りを巻き込んではいけません。自分のマッスルぶりを過度に見せつけるとグイグイになってしまうのです。

⑤小便が激しい 5グイグイ
 公衆便所や会社のトイレなど、男性の小便器はトイレに並列されています。中にはものすごい勢いで放尿する人がいて、各小便器の間隔が狭いことから、小便のはね返りが隣の人にかかってくるのです。

 それでも、少しぐらいなら我慢できます。事実、僕もかけてしまったことがあります。少量なら問題ないのでしょうが、極々まれに、常軌を逸した大量の小便をかけてくる猛者がいるのです。

 先日、僕は仕事で、大阪のとあるお笑いの劇場にいました。夜の9時頃に急に小便がしたくなって知り合いと一緒にトイレに行ったところ、僕らがトイレに入るのと同時に、Sという芸人もトイレにやってきました。

 Sさんは吉本新喜劇に所属する重鎮です。ベロンベロンに酔っ払っており、「キリンの首にかぶりつきたいでんねん……」とワケのわからないことを呟いています。「やばい奴がきたな……」と思いながらも「お疲れさまです!」とあいさつし、僕らは小便器を1つ空けてチャックを下ろしたのですが、小便器がたくさんあるにもかかわらず、Sさんが僕らのあいだに入ってきたのです。

 なんでやねん、お前!なんで10個以上もあんのにわざわざあいだにくんねん!

 「おじゃまします!」

 ほんまに邪魔やわ!で、小便器から離れすぎやねん、お前!30センチ以上も離れてるから丸見えやんけ、お前の息子!

 それでも大先輩なので文句は言えません。僕はSさんを無視してチョロチョロと用を足し始めたのですが、このオッサンがブワーーーーって小便出し始めたんですよ!はね返りとかそんなレベルの話じゃない、えげつない量の小便を周囲に撒き散らし始めたのです!

 勘弁してくれよ、おい!なんぼほど出すねん、このオッサン!

 僕は怖くなってきました。急いで用を足し終えようと小便を出すスピードを速めたのですが、このオッサンの小便が途中から3分割されて僕らに直接かかってきたんですよ!左・真ん中・右と完全に3分割された小便で、僕らの体はもちろん、僕の顔面に小便かかってきたんですよ!

 ええ加減にせいよ、コラ!なんぼ師匠やいうてもやっていいことと悪いことがあるぞ!

 「ごめりんこ!」

 ごめりんこやあるか、お前!ごめりんこやないねん、島木譲二!もう伏せ字やめるわ、お前はパチパチパンチでおなじみの島木譲二や!

 しかも途中から島木さん、あんぱん食ってましたからね。僕らに小便をかけながら、ポケットから出したあんぱんをもぐもぐかじってましたから。

⑥サウナで話しかけてくる 6グイグイ
 サウナの中にいる人は、自分との戦いに精一杯です。誰かと会話する余裕などないのに、平気な顔で話しかけてくるフレンドリーなオッサンがいるのです。

 先日、僕は地元のスーパー銭湯に行きました。サウナに入って体を絞ることにしたのですが、木の長イスに座るやいなや、僕の隣に座るオッサンがワケのわからない話を連発してきたのです。

 「兄ちゃん」

 「……」

 「兄ちゃん」

 「なんですか?」

 「サウナ?」

 そりゃそうやろ!見たらわかるやろ、お前!サウナにサウナ以外の用事で入ってくる奴ってなんやねん!

 「そうです」

 「そうか。サウナか」

 ……なんやねん、それ!意味がわからん!ていうかお前もサウナやろ!

 「兄ちゃん、体重はどれキロぐらいあんの?」

 どれキロってなんやねん!どれキロ!?初めてやわ俺、そんな斬新な訊き方されたん!

 「67です」

 「67か」

 「おじさんはどれキロなんですか?」

 「はっ?」

 お前が言い出してんやろどれキロって!お前、最後まで自分の日本語に責任持てよ!島木譲二でも「ごめりんこ」って妙なギャグここ10年言い続けてるんやぞ!

 それでも、途中で会話はなくなりました。ようやく静かになれたので僕は安心していたのですが、ふと見ると、このオッサンが体をプルプルとさせています。両手を握り締め、目の前の時計を見ながら「あと4分、あと4分……」と呟いています。僕は「大丈夫か、このオッサン……」と心配しながら見ていたのですが、このオッサンが急に出口に向かって猛スピードで走り出し、ドアのノブをつかむやいなや「よくやったほうやから今日の俺!!!」って言ったんですよ。

 何を言うとんねん、お前!さっきから全然意味わからんねん!

 「今日はいつもよりやれたから!ザブーン!」

 水風呂で言うな!頭おかしいんか、お前!

 サウナの中では、みんなギリギリの戦いをしています。くれぐれも話しかけないようにしましょう。


 そして、最後。これは、グイグイどころの話ではありません。グイグイではなく、「マジデヤメテクレ」に認定したいと思います。

⑦商品を選ぶお客さんにまとわりつく 1マジデヤメテクレ
 僕は昔からショッピングが嫌いです。だらだらと商品を見て歩くのが苦手で、なにより、各ショップの店員さんが苦手なのです。

 たとえば、服屋。服屋の店員がまとわりついてきてうっとうしいのは有名な話ですが、しつこい奴は本当にしつこいです。こちらがあからさまに嫌悪感を示しても気づかず、行くところ行くところにまとわりついてくるのです。

 どっか行けや、お前!地縛霊か!

 「こちらの黄色のTシャツとかはどうでしょうか?」

 何を根拠に言ってんねん!俺がそのTシャツを好むと思うお前の判断材料はなんやねん!なんや、「黄色人種やから黄色のシャツが好きやろう!」とかそういうことか!?

 「このTシャツ、雑誌に載ったんですよ!」

 だからなんやねん!それはその編集の奴が個人的にいいと思っただけやろ!雑誌に載ったから買うとかないねん、服に!

 先日、僕はジーパンを買いに服屋に行きました。店に入ると、1人の男性店員が僕にまとわりついてきました。鼻にピアスをした死ぬほどチャラい奴で、その都度妙なセールストークを展開してきます。しかも20歳そこそこの奴なのに、年上の僕に対して態度が横柄なのです。

 「これ、いいよ!」

 「このTシャツも一緒に買ってくれたらジーパンは安くしとくよ!」

 僕に完全にため口で、頭にきた僕は注意しました。

 「お前、なんでそんな口のきき方やねん?」

 僕は声を荒げました。するとひるむかと思いきや、めちゃくちゃ高い声で「俺なりのやり方っす!!!」って言ったんですよ。

 なめてんのか、お前!お前のやり方とか知らんわ!

 「今までずっとこれでやってきたっす!」

 知らんがな、そんなもん!何の言い訳やねん、それ!

 僕は完全に頭にきました。「なめてんのか、お前!」と続けたところ、こいつが「すいませんでした」と謝罪したのですが、そのあとに小声で「シュン」って言ったんですよ。

 腹立つわ、こいつ!俺、1番嫌いやねん、こんな奴!

 「シュン……」

 シュンやあるか、お前!お前、そこの皮ベルト取ってこい!そのベルトでお前のチンチンを縛り上げてイク寸前でやめたるわ!

 結局、店長が出てきて僕に謝罪しました。ですが、「オッサンが古臭いことを言ってやがる!」とばかりに、どこか反省していない感じがします。言葉の節々にトゲがあり、僕の怒りは収まらなかったのです。

 店員の助けがほしければ、客は自分で呼びます。服屋しかり、家電量販店しかり。店に入った段階で店員の手助けがほしいことなど、まずありません。ため口を使ってくるなど論外、くれぐれも客にまとわりつくのはやめましょう。


 以上が、今回の考察です。

 ちなみに余談ですが、先ほどのチャラい店員。

 この店員は見かけのポップさとは裏腹に、名字は死ぬほど古風な「多田」でした。


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