静江ばあさんは何者か?の考察(携帯読者用) | 新・バスコの人生考察

静江ばあさんは何者か?の考察(携帯読者用)

 昨日、近所の弁当屋に行きました。お昼時だったため、店は混雑しています。列の最後尾に並んで何を注文しようかと考えていたところ、ひとりのおばあさんが僕のそばにやってきました。

 「あんた、お弁当を買おうと思ってんの?」

 このおばあさんは僕の近所に住んでいます。「静江ばあさん」と呼ばれている老婆で、僕とはそれほど親しいわけではありません。町で会ったときに、軽く世間話をするぐらいの関係です。僕は適当に返事をしてやり過ごそうとしたのですが、僕の肛門を、静江ばあさんがズボンの上から指でグリグリしてきたのです。

 「ちょ、ちょっと、何するんですか!」

 僕はワケがわかりません。おもわず声を上げたのですが、僕の肛門を3本の指でグリグリしながら、「お弁当ばっかり食べてたら、お尻におイボさんができるよ!」と叫んでそのままどっか行ったんですよ。

 はっ?はっ?

 「おイボさんができてからではもう遅いからな!この野郎!」

 全然意味わからん、こいつ!で、おイボさんってなんやねん!痔のことかなんか知らんけどおイモさんみたいに言うなよ!

 この静江ばあさんは、僕が子供のころに「マンマンチャ」と呼ばれていました。「マンマンチャ」という言葉の由来は謎です。誰かが最初に言い出して広まり、マンマンチャは当時、山小屋のような汚い家に住んでいました。近所の子供たちから差別され、大人たちも「マンマンチャと関わったらあかんで!」と罵ったのです。

 このマンマンチャは、異常なまでに気性が荒いです。

 「どつき回したろか、あんたら!」

 子供におちょくられるものならこのように声を荒げ、それでも歳とともに、性格は穏やかになっていきました。10年ほど前から近所の人たちに溶け込むようになり、今では「静江ばあさん」という名で、僕の近所に市民権を得たのです。

 この静江ばあさんは、とにかく得体が知れません。まったくつかみどころのない性格で、過去に人を殺していたとしても驚けないような人なのです。

 今回はこの静江ばあさんの特徴をご紹介して、「静江ばあさんは何者なのか?」を検証したいと思います。

 そこで今回は、「静江ばあさんは何者か?」の考察です。

 先ほども申し上げましたが、僕は静江ばあさんとは親しくありません。僕の両親をはじめ、近所の人たちも関わるとややこしいことから、ある程度距離を取った付き合い方をしています。話しかけるのも勇気を必要とされるぐらいで、現時点でわかっていることは以下の3つです。

●歳は80歳前後
●独身
●ボロボロの団地にひとり暮らし

 これらのことを踏まえていただき、以下に、静江ばあさんの特徴をご紹介します。

①貧乏である
 「マンマンチャ」と呼ばれていたころから、静江ばあさんは貧乏です。服がボロボロなのはもちろんのこと、カバンとしてミスタードーナツの空き箱を使用しているのです。

 こんなこと、あり得ます?いくら金ないか知りませんけど、ミスドの箱をカバンにするなんて普通じゃないでしょ!?

 しかも、荷物が少ないときは小さい箱、遠出をするときはロングサイズの空き箱と使い分けています。一度、雨の日にすれ違ったのですが、箱を濡らさないようにするためにスーパーの袋に入れていたのです。

 箱いらんやんけ、それ!箱なんて使わずに袋だけでええやろ!そもそも普段からスーパーの袋をカバンに使ったらええやんけ!

 「静江ばあさん、それ、スーパーの袋だけでいいんと違いますかね?」

 「チョーーイ!!!」

 意味わからん、こいつ!奇声あげればなんとかなると思ってやがる!

 静江ばあさんは、頭がカッパみたいにハゲています。中央部の丸いハゲを隠すために一時期、手作りのカツラを装着していました。ですがこれがえげつない代物で、ハゲと同じ形に白の画用紙を丸く切り、その上に髪の毛みたいに縮れさせた毛糸をボンドで貼り付けていたのです。

 そんなカツラあるか、お前!アホの子供の工作やんけ、そんなもん!

 しかも小賢しいことに、季節ごとに毛糸の色を変えてきます。春はピンク、夏は黄色と発想が安易で、冬場は雪を意識したのでしょう。白の画用紙の上に真っ白の毛糸を貼り付けていたのです。

 隠せてないやろ、それ!白に白やったらハゲを強調してるだけやろ!で、毛糸をけちってるからスカスカやねん、お前の頭!やるんやったら徹底的にやれや!

 むちゃくちゃなカツラで、上から見たら、ほとんどピカソの絵です。こんなカツラをかぶって手にはミスドの箱ですから、静江ばあさんが公園に来ると子供が怖がって帰るほどなのです。

②泥棒である
 貧しいこともあって、静江ばあさんは手癖が悪いです。基本的には泥棒で、民家の前に置いてある、返却する出前用の皿を何の躊躇もなく盗みます。隙があればなんでも盗む癖があり、ある時、近所の人が家の庭で飼っている猫がいなくなったのですが、普通に静江ばあさんの家にいたのです。

 ふざけんなよ、お前!どこの世界に猫盗む奴がおんねん!

 静江ばあさんは「道に迷ってたからうちでかくまってた!」と言い訳したらしいのですが、確実に盗んでいます。過去の泥棒実績がそのことを物語っており、なにしろその昔、近所の人の土地に勝手に畑を作って野菜を栽培し始めたのです。

 お前、土地盗むか、普通!?開き直りもええところやぞ、それ!

 畑作業に使用する道具も、近くの畑から拝借しています。注意されてやめたものの、今でも数年に1回ぐらいの割合で、人の土地を使って勝手に野菜を栽培するのです。

 土地こそ盗まれなかったものの、僕の家も被害に遭っています。静江ばあさんは、たまに野菜の煮物を僕の家に届けてくれるのですが、その煮物に使用した野菜の多くは僕の父親の畑から盗んだ野菜なのです。

 ふざけんなよ、お前!ていうかよく堂々と持ってきたな、俺の家に!

 「これ、煮物やから食べて!」

 「ありがとうございます!」

 なんで礼言わないとあかんねん、俺の家!礼言うんはちょっと違うやろ!

 「タッパは返してな!」

 俺の家のタッパやんけ、これ!このタッパ、うちの母親がお前の家におはぎ届けたときのタッパやんけ!

 静江ばあさんは、警察に届けられない範囲での小さな泥棒にとどめています。通報しにくい泥棒ばかりなので、僕らもお手上げなのです。

③裸を見せることに躊躇がない
 関西のオバハンほど品のない女性はいません。詳しくは書きませんが、僕の地元でも、裸を見られることに躊躇のないオバハンが多いです。僕の母親もそのひとりで、夏場など、上半身裸で家の中をうろつくことなどザラなのです。

 それでも、さすがに裸で外に出ることはありません。最低限の「女」は残しているのですが、静江ばあさんにそんな品はありません。つい先日も、団地の階段に座って上半身裸でスイカを食べていたのです。

 勘弁してくれよ、おい!シャレならんわ、このババア!

 「お帰り!」

 ごめん、話しかけんといて!知り合いと思われたくないから!

 それでも、だいぶマシになりました。僕が小学生のころなんて、年がら年中、裸で外にいました。当時は山小屋のようなボロボロの家に住んでおり、ある日学校の帰りに家の前を通りがかったところ、縁側でパンツ1枚になって足組みながら、特大のサトウキビを生で吸ってたんですよ。

 鬼太郎呼ぶぞ、もう!完全に妖怪やわ、お前みたいな奴!

 「お帰り!」

 だから話しかけんなって言ってるやろ!お前の知り合いと思われたら学校でいじめられるわ、俺!それぐらいの威力あるわ、お前の存在!

 静江ばあさんは当時、家の前でホルモンを焼いていました。大きな鉄板で炒めて販売していたのですが、暑くなると、上半身裸になります。炒める際は前かがみになり、両手に持ったコテで何度もひっくり返すのですが、乳が垂れすぎて、たまに鉄板で乳首をヤケドしていたのです。

 お前、どこの世界に乳首ヤケドする商売人がおんねん!で、垂れた乳を肩にかけて乳の下をタオルで拭くなよ、気持ち悪い!

 「熱っ!」

 そりゃそうやろ!ヤケドせんように乳首になんか貼っとけやって、服着たらええだけの話やんけ!何言ってんねん、俺!

 夏場のこの時期は、毎日のように外で裸になっています。周囲も見慣れたもので、「静江ばあさんが裸になったら夏」みたく、ちょっとした夏の風物詩になっているのです。

④隙があったら美智子さまの話をしてくる
 静江ばあさんは、皇后陛下を崇拝しまくっています。ほんじょそこらの右翼よりもはるかに崇拝しており、財布にいつも美智子さまのプロマイドを入れているほどなのです。

 静江ばあさんと一緒にいると、二言目には美智子さまの話です。なかでも、「皇居の庭にある松の枝を切ったときに、美智子さまが切り口に塗り薬を塗った話」が大好きで、僕は通算で50回以上は聞かされています。すれ違いざまに話されるぐらいの勢いで、つい先日もバスの停留所にいたところ、静江ばあさんが僕の隣にやってきました。

 「おはよう」

 「あっ、おはようございます」

 「美智子さまがさ……」

 いきなりなん!?会って5秒でもうその話すんの!?「仕事に行くの?」とかは訊かへんの!?

 「……そうですか」

 「それより、仕事かいな?」

 「そうです。最近、バスで行ってるんですよ」

 「そうかいな。それよりあんた、まだ独身やんな?」

 「そうです」

 「早く結婚しいや。早く美智子さまのような……」

 また出た、美智子さま!会って1分でもう2回出てきた!

 「それよりこの辺も木が茂ってんな」

 「そうですね」

 「切らなあかんで、これ。でも切ったらそこに塗り薬を塗るのが美智子さまのすばらしいところで……」

 ええ加減にせいよ、お前!右翼に雇われてんのか、お前!「一美智子につき100円」みたいなバイトしてんのか!?

 このあと一緒にバスに乗ったのですが、やってきた子供たちにも美智子さまの話をしていました。隙があったらその話をするので、聞かされるほうは大変なのです。

⑤虫の殺し方がすごい
 静江ばあさんは虫が嫌いです。なかでもセミが大嫌いで、うるさいという理由だけで手当たり次第に殺します。しかもその殺し方は恐ろしく、物干し竿で木を叩き、落ちてきたセミを手当たり次第踏んでいくのです。

 やりすぎやろ、お前!警察沙汰なるわ!

 「オラッ!オラッ!」

 怖すぎるわ!ていうか美智子さまの教えをどう思ってんねん、お前!あんなに優しい人を尊敬してんのにやってること全然違うやんけ!

 「男のくせにギャーギャー鳴きやがって!」

 意味わからん!悲しくて泣いてるんと違うわ、オスゼミ!

 僕はこの大量殺人を過去に何度も目撃してきました。殺人の際、落ちてきたセミが静江ばあさんの腕の関節に止まることがあり、普通ならこのとき、指ではじくでしょう。100歩譲って手で叩いて殺すのならまだわかるのですが、静江ばあさん、腕折るんですよ。ガッツポーズするみたいに腕の関節で圧死させるんですよ!

 そんな殺し方あるか、お前!寿命短いねんからそんなことやめたってくれよ!

 「生まれ変わって出直せ!」

 なんも悪いことしてへんわ、セミ!ただ鳴いてるだけやんけ!お前のほうこそ生まれ変わって出直せよ!

 静江ばあさんの殺しの対象は、虫だけにとどまりません。犬や猫は大好きなものの、気持ち悪い系の生物は軒並みぶち殺す癖があり、忘れもしない、2年前の夏のことです。

 その日は終戦記念日で、近くの公民館でちょっとした慰霊祭が行われていました。市会議員が式辞を口にし、戦争で亡くなられた人々の名前を読み上げます。途中で特攻隊員の話になり、参加者の多くが涙を流し始めました。

 僕も泣けてきました。隣にいる僕の母親にハンカチを借りて涙を拭き、僕らの列の端にいる静江ばあさんも号泣しているのです。

 高齢のため、静江ばあさんはイスに座っています。キャスターつきのイスで、静江ばあさんは、後ろをちらちら見ながらなにやら顔をしかめています。ふと見ると雨戸にヤモリが引っついており、静江ばあさんが急にキャスターを転がしてイスを雨戸のほうに移動させ、ヤモリに人殺せるぐらいのヒジテツ決めて何食わぬ顔で戻ってきたんですよ。

 勘弁してくれよ、この状況で!シャレならんわ、このババア!

 「ふぅ」

 ふぅやあるか、お前!ゴルゴ何ティーンやねん、お前!何を一仕事終えたみたいな息ついてくれとんねん!

 しかもこのあと、ヒジについた血を僕の母親のハンカチで拭いてましたからね。静江ばあさんが泣いているからハンカチを貸してあげたのに、返されたハンカチにおもいっきりイモリ殺したときの血がついてましたから。


 そして、最後。これこそが静江ばあさんの最大の特徴です。

⑥口が悪すぎる
 僕は30年以上生きていますが、静江ばあさんほど口の悪い人に出会ったことがありません。天性の口の悪さを持ち合わせており、差別的な言い回しが多すぎて、ここでは詳しく述べられません。ご紹介できるレベルで一例をあげると、太っている人のことを「ブタ」、ホームレスのことを「ゴミ野郎」と揶揄し、僕の近所に肝臓が悪くて顔に黄だんができている人がいるのですが、その人のことを陰で「プリン」と呼んでいるのです。

 言いすぎやろ、お前!病人つかまえて何を言ってくれとんねん!

 「プリンも、もう長くないな!」

 やかましいわ!「賞味期限が切れる」みたいな言い方すんなよ!

 とにかく口が悪く、今年の春先に、僕の近所でボヤ騒ぎがあったときのことです。ここの家主は小屋で乳牛を飼っており、年に1、2回、わらに火がついて大騒ぎになります。その日の深夜にボヤが発生し、消防車の音を聞いた僕は現場に向かいました。

 現場に到着すると、たくさんの野次馬がいます。消防車が消火作業を始めており、ふと見ると静江ばあさんがいます。ひとりの気の弱そうな若者をつかまえてなにやら悪態ついており、若者のほうは「違います!違います!」と連呼しています。気になった僕はふたりの真横に行って耳を澄ませたところ、どうやら静江ばあさんがこの若者のことを放火魔だと思っているらしく、「僕は犯人じゃありません!」と反論する若者に向かって、「嘘つき!お前の顔、どこからどう見ても火つける顔してるやんけ!」って言ったんですよ。

 ええ加減にせいよ、お前!この法治国家ですごいこと言ってるぞ、お前!

 「絶対、犯人こいつやわ!」

 根拠は顔だけやろ!そもそも火つけそうな顔ってどんな顔やねん!

 「なあ!?なあ!?」

 誰がうんって言うねん、お前!同意できるか、そんなもん!ナチスに訊かれてても「そんなことないですよ!」って反論するわ!

 これらのように異常なまでに口が悪く、僕も何度も被害に遭いました。なかでも1番腹が立ったのが大学受験のときで、僕はその日、第一志望の大学受験に失敗して落ち込んでいました。近所のパン屋の前にあるベンチに座ってうなだれていたところ、隣に静江ばあさんがやってきたのです。

 「あんた、大学、落ちたらしいやん」

 「そうなんですよ」

 「ざまあ見ろ」

 「……」

 「ざまあ見さらせ!」

 「向こう行けや、あんた!」

 「あんたのところはおじいちゃんが金持ちやからな。金持ちのところの血筋はだいたい受験に失敗しよる!」

 「やかましいわ、ボケ!あっちに行け!」

 あまりに悪態ついてくるため、僕は怒りました。静江ばあさんも僕の気迫に押されて立ち去ろうとしたのですが、去り際に、「なんで落ちたかわかるか?」と僕に質問してきたのです。

 僕はむかつきながらも、返す刀で「知らん。知ってるんやったら教えてくれや?」と返しました。すると僕のほうを見てカッと目を見開き、めちゃくちゃ高い声で「それはお前が朝ごはんを食べてへんからや!」って言ったんですよ。

 何言ってんねん、お前!頭ハゲ散らかしながら何言ってくれとんねん!

 「ミロを飲め、ミロを!ミロを飲んだら阪大受かる!」

 全然意味わからん、こいつ!で、言うんやったら東大にせいや!なんで中途半端な阪大の名前出してくんねん!

 静江ばあさんだけは、とにかくつかみどころがありません。付き合うのが大変で、少し絡まれるだけで体がくたくたになるのです。


 以上が、静江ばあさんにまつわるエピソードです。

 今回のエピソードを見てもわかるとおり、静江ばあさんは本当に救いようのない人間です。ですがひとつだけいいところがあり、手料理が得意で、頻繁に届けてくれます。つい先日も、僕の父親の畑で盗んだキュウリを使ったジャージャー麺を届けてくれたのです……。


楽しく生き抜くための 笑いの仕事術/