今月に入ってから朝鮮日報のウクライナ関連記事がシニカルになっており、やれゼレンスキーの演説はつまらないだの、兵力不足のウクライナが街角で強制徴兵だのと全般的にロシアに有利な内容になっている。強制徴兵は動画は視聴したが、数秒の短いカットで青年が警官に羽交い締めにされているとしか見ようのないものだった。ロシアの間違いではないのか。

 だいたい変なニュースが流れる時には別の所で何かあるものである。朝鮮日報や中央日報は大韓民国の保守系新聞で、北朝鮮とは関係がないが、少し邪推すると北朝鮮から送られた数個大隊がそぞろに交戦を始め、死傷者が出ていることがあるかもしれない。

 ゼレンスキーが暴露した問題の大隊の仮称は「ブリヤート大隊」、一説によると三千人ほどの規模で、この規模は普通は旅団なので、ロシアのミニ師団「大隊戦術群」に倣った呼び名だろう。派遣されている場所も分かっており、ウクライナが侵攻したクルスクでウクライナ軍を迎撃に出撃している。死傷者は今後も増えると思われる。こんなことをしているのは、ロシアが兵力不足のせいである。

 韓国の外交は日本のそれより難しい。半島を通じロシア・中国と地続きのこの国は対ロ関係には常に警戒の目を向けており、つい先日も一度は決めたウクライナ援助を凍結したばかりだ。変数の一つには日本もあり、保守層は日本財界と緊密に結びついている。

 韓国としては、近年態度を硬化させている金正恩がロシアのプーチンに似た論法を使っていることも気になる所である。曰く、尹錫悦の韓国政府は極右であり、国民は西側プロパガンダに洗脳という言い草はそのままウクライナである。こういったプロパガンダが一巡した後に、2022年に何が起こったかを見れば、韓国政府もうかうかとしてはいられない。38度線からソウルまでは30キロくらいの距離しかないからだ。これは先日陥落したアウディウカからポフロフスクの距離にほぼ等しい。ウクライナで実見した朝鮮人民軍がドローン戦術など新戦法を用いる可能性もあればなおさらだ。カンナム地区に爆弾を落とされた場合の被害はヘルソンなどの比ではない。

※ さらに追完として、北朝鮮がこれまでロシアに供与した砲弾は300万発、「ブリヤート大隊」は1万人の師団規模の部隊で、ウクライナ軍との交戦は確認されていないが、これほどの物量と規模となると、北朝鮮が今すぐ韓国に攻め入る事態は考えにくい。なので、上記と異なり、タカ派化している金正恩(実際には妹の金与正)の発言は正面の弱化を隠蔽する示威の可能性が高い。

 

※ プーチンが朝鮮人民軍に依存する理由は国内の動員回避という見方もある。


 ロシアの側から見れば、以前の首脳会談で呼応して台湾に攻め入るはずの中国がロシア軍の苦戦を見て二の足を踏んでいるので、台湾はありそうにないとし、別のホットスポットを探しているようにも見える。ロケット技術も気前よく提供し、製造した砲弾を言い値で買っているのも、この地域に緊張を作り出し、欧米諸国、特に米国の関心を逸らすことがある。現在戦争が行われているイスラエルはウクライナとごく近く、同じ部隊がどちらにも対応しうるため、分散は十分でないと考えているのだろう。

 南北統一については、韓国はそれをしうるポテンシャルをすでに持っているが、専ら彼らの政治的都合で実現できないでいるというものである。緩衝地帯(北朝鮮)の消失はロシアと中国には脅威となるため、干渉が避けられないこともある。そして近年のアメリカは何をやるにしても非常に頼りない。

 ウクライナ情勢については大統領選が終わらない限り動かないと見ている。ハリスがやや不利になっているが、元々この人物はことウクライナ戦争に関しては傍観的な態度を取っていた。サリバンも引き続き雇用されると思われ、今以上の進展は期待できないが、変わってみないと分からないこともある。

 ウクライナは三年も戦争をやっているので、識者さんは戦い方の変化に気づいているか怪しい所もある。現在は両軍合わせて数十万機のドローンが用いられており、これは両軍の兵士の数よりも多い。ドローンはより強力な兵器の前には譲ることもあるが、ストームシャドーミサイルやATCAMSが切り札となると考えるのはもはや古い考えである。欧米諸国のこと外交におけるドローンの認識は極めて低い。支援として有効なのは高価なミサイルではなく、百万機のドローン生産工場なのだが、彼らはロシアの土俵で戦略を考えており、欧米諸国がロシアに大きく勝る点、経済力と生産力を活かした試みは未だ行われていない。

 

 不人気な首相を換えてそのまま三年間、任期一杯まで政権にしがみつくのかと思えた自民党だが、2009年の衆院選で大敗し、3年間野党で糊口を凌いだ経験は多くの自民党議員に取ってトラウマとなって残っていたものらしい。

 これは後知恵だが、山口二郎とか内田樹といった左派ブレーンの70代の先生たちは、この先生たちとは筆者などは30年来の付き合いだが、どうもある種のサイコパスと同じく、人の心を見るのに昏い。いずれにしても彼らは諸手を挙げて選挙に走った自民党議員の心理を理解していなかった。理解していればもう少しマシな応戦ができただろう。

 未来を予期することを難しい。正しく予測し、的確な対処をして未然に防いだとしても、起きなかったことは誰からも感謝されないのであり、実際にあるのは惨事が起きてから、あれが悪いこれが悪いという民衆の態度である。

 その点、2009~2012の民主党政権は政治のスケールを超えるような惨事が起きすぎた。リーマン危機と東日本大震災で、対処の困難はより以前の政治、自民党の安定政権で派閥が政治家養成機能を持ち、田中角栄や中曽根康弘のような政治家がいた時代でも変わりなかっただろう。

 意地の悪い見方をすれば、自民党は本来は自分らが受けるべき無能や非難を、たまたま政権の座にいなかったために、民主党が数十年分まとめて引き受けてくれ、それで民主党は崩壊したが、自民の方は災害が自分たちでなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしたというのが本当の所だろう。

 自民党にとっては15年前の下野と野党体験、そして震災は本当に天災以外の何ものでもなかったが、今はいくつかの政党に分かれている民主党においても、果たして貴重な与党経験、しかも類例のないもの、から、多くを学んでいたのかといえば、それは少々怪しい。組織の体質を変えた形跡がないからだ。

 で、石破さんに話を戻すと、かつての小泉と同じく、たぶん自民党としてはいちばん首相にしたくない(ネストリウス派キリスト教のような)政治家で、それでも総裁になったのは長い異端党員の任期のせいで国民に平たく知名度と人気があり、他の候補者と比べれば平均的なポイントが最も高かったということだろう。

 小泉は知名度はあったが定評がなく、高市は地元以外では知名度がない上に極右は万人の支持を得られないものだった。ほかにもいるが、皆周囲以外は知らないような人物で、飛び抜けた所もないものだった。

 石破氏の印象を言えば、かつてこの人物はモデルグラフィクスやアニメージュなどサブカル系の雑誌のインタビューに良く応じていたために、ミリヲタ、鉄ヲタ、プラモマニアの顔が良く知られている。就任後8日で衆議院を解散したことは、最初から選挙管理内閣と見られてはいたが、野党の体勢が整わないことを見た機を見るに敏であり、本質は戦術家という感じがする。そして私が見るに、これはこの局面では正しい判断である。

 選挙の見立ても正確で、「自公合わせて過半数」というのは駆け引きなしの率直な物言いだろう。このことから正確を重んじる性格が窺える。この人物には裏表がなく、行動はむしろ読みやすいタイプである。

 小泉と同じようなタイプを期待する向きには肩透かしかもしれない。人気取りのようなことは言わないし、概して言語不明瞭で形式的答弁をするにしても見え透いている。裏を返せば、官僚答弁でない自分の言葉で話した時には、それは実行するという意味である。やや視野の狭い人物なら、独裁者になるにはそう時間が掛からないかもしれない。しかも経験を積んでおり、政治の裏も表も知り尽くしている。

 彼の選挙区である鳥取を筆者は何度も旅したが、無料の鳥取自動車道に加え、山陰自動車道は快適な道路であった。細長い鳥取県をほぼ横断し、百数十キロを走行しても無料という道路は他県にはない。ほぼ同じ長さの静岡県を静清バイパスで横断するのに、どれだけ苦労するかを考えれば明らかだ。鳥取市は面白みのない街だが、もしこれらの道路がなければ、鳥取から米子までどれだけ時間が掛かるか。角栄すらできなかったことをやっているのである。そしてスキャンダルもほとんど見られない。

 先に戦術家と評したが、戦略家ではないように見える。一対一で彼に敵う政治家は稀だろうが、首相が乗っている自民党は泥船で、他の議員はこれといった胆力も機知もない政治家が大半である。石破政権はいくつかの政局では小気味よい働きをするかもしれないが、戦略レベルの効用はおそらくなく、我が国の凋落を押しとどめることはできないように見える。

 他党に対する自民党の強みは、選挙機関しかない維新、属人組織の立憲民主党、鳩山長老政治の国民民主、そしてプロパガンダ機関の共産党と比べ、政策検討機構を組織として持っている点である。野党のガラスの建屋は他の人物が首相ならそれほど弱点にもならなくて済んだ。

 が、機会があればガラスの擁壁を打ち壊しに掛かる人物(できることはやる)が首相になったのであり、これは野党には体質改善を強く迫るものになるだろう。石破は他に類例がいないタイプの政治家だが、柔軟な思考で彼と相対しうる相手が、野党にはいなさそうな所も終焉は自民より野党の方が早く来ると悲観させられる所である。

 そもそも野党は7条解散を批判してない。これが政略に利用されることは制憲当時から言われていたことである。憲法上明確に禁止するなど、対抗する論説を即座に展開できないことで、野党の政治主張は終わっているとも言えなくもない(選挙協力でも一致できる論点だろう。これだけ一致しても連立は組める)。資源を効果的に活用せず、不利な戦いを敢えてするのは、これまではそれで通用したかもしれないが、阿呆のすることである。

 

 コロナ明けに起こったこの戦争はあまりにもバカバカしいので、これが終戦のチャンスだと思ったことは私も何度かあった。特に開戦初年(2022年)、大変失礼なことだが、私はウクライナは3日で負けると思っていた。2014年はそうだったし、認識票を外したロシア軍(と言われている連中)が地元住民の手引きでクリミアやルハンシクをあっさりと占領し、それでいて国際社会はほとんど動揺しなかったのだから。財政破綻で核も持てなかった国の軍隊などこんなもので、しかも多民族国家なのだから、「ロシア派」が国を分割統治して一部はロシアに併合されたりしても、元々国境線自体旧ソ連時代の適当なものなのだから仕方あるまいなと。

 実際はそんなものではなかったことは見ての通り、戦争は三年目に突入し、ロシア軍は信じられないほど頑強な抵抗に直面し、常識外れの損害を出しながらも戦闘を続けている。制裁は思ったほど効果はなく、アメリカの優柔不断も相まって何十年でも戦争を続けそうな勢いだ。和平交渉も、ロシアには通常の国際政治の論理が通じないことで識者の多くは匙を投げている。

 が、最近の様子を見るとそうでもあるまいなという感じにも見える。クルスクのウクライナ軍排除に迅速に動かないこと、都市部、しかも通常は対象外の教育機関や介護施設を狙ったミサイル攻撃、軍事的に何の価値があるのだろう、と、ポフロフスクの戦線が停滞していること。思いのほか頑なで強気な外交姿勢、これらを俯瞰するとロシアには退却や戦線縮小の動きと見えるのである。

 ウクライナの国産ミサイルドローンがモスクワを攻撃圏内に収めたことも大きい。新型ドローンミサイル「パリャヌィツィア」は先ずクリミアで用いられ、月末にトヴェリ州とクラスノダール地方のロシア集積基地に対して用いられた。ここまで(500km以上)届くミサイルがあると思っていなかっただけに、数千トンの弾薬を含む基地は大爆発を起こしたが、これは重要な補給拠点の被爆と同時に、モスクワはこれらの基地と同じかより近い距離にあることがある。

 従来、この種の攻撃は英米製のミサイルと思われており、ロシアも釘を刺していたが、今やお伺いを立てることなしにクレムリンを攻撃できるのである。すでに攻撃できる兵器があるのなら、外国製ミサイル(ATACMS、ストームシャドー、タウラス)使用のハードルはずっと低くなる。なお、「パリャヌィツィア」の詳細は機密のため謎に包まれている。

 弾薬庫爆破は警告の意味もあるだろう。ロシアは核を含むより大きな攻撃力を持つが、元々この戦争はロシア国民には人気がない。遠いクルスクなら他人事と考えることができても、ウクライナがやられたようにショッピングセンターやモールが被爆し、遠いウラルに疎開などと言われたらプーチンも国民の反感を抑え込むことは難しいかもしれない。

 ただ、先にも述べた通り、和平の期待は今まで何度も裏切られてきた。今の状況ならロシアを2022年の線まで後退させることは可能かもしれないが、ウクライナにしろロシアにしろ誰がババを引くのか。適当な人がいなさそうなのが苦しいところである。

 ウクライナにしても疲弊の色はかなりある。同国は損失を公表していないが、頻繁な閣僚の交代、司令官の解任は厭戦気分や疲弊を示すものである。劣化がどの程度まで進んでいるのかは確たる資料がないが、ひょっとしたらこれが最後のチャンスかもしれない。

 ISWやForbes、あるいはベリングキャットの解説を鵜呑みにしたり、衛星写真で状況を観察するのは外国語を読む際に辞書を引くのに似ている。その場の点(単語)は分かるが、それで文意全体が掴めるとは限らない。間違えやすいところで、基礎的な文法の知識がないのに辞書片手に外国語と格闘しても、昔は私もよくやったが、得られるものはごく僅かである。情報は有用だが、読み方を間違えないようにしなければいけない。

 様子では、どうもゼレンスキーは読めているようだ。サリバンが読めているかどうかについては、これまでの彼の実績を考えるとかなり疑わしい。

 

 毎日新聞なんかが鳴り物入りで報じていたロシア軍の「反撃」はどうも失敗のようである。コレネヴォから森林を抜けてスナゴストを脅かしたまでは良かったが、すぐにウクライナ軍がベゼロエから侵入して側背から攻撃し、しばらく見たところ、これ以上戦っても無駄と一昨日早々に手じまいしたようだ。これもハルキウと同じ見切りの良さで、ロシア軍にも気の利いた人がいたようである。

 プーチンに説明した計画では、ロシア軍は強力な反撃を受けたら旋回してベセロエ後方のボルフィンかコスタニフカを襲ったと思うから、これは手の内を読まれており、シルスキーも案外楽しんでいるかもしれない。より南のゲラシモフ相手の戦闘は芸のない肉弾攻撃で、用兵の妙を競う要素がほとんどないからだ。しかし、やはり年期の差、実働兵力の差は拭いがたいようだ。第2ラウンドはシルスキーの勝利だが、ロシアの方は負けた場合の言い訳は処刑されないよう、たぶん最初に説明はしてあるだろう。ハルキウ管区は指揮系統も複線的で複雑である。

 そもそも不十分な兵力と武器、それに派閥争いで「反撃」といっても大したことはできないことは自明だが、単に現場レベルではなく、より激しさを増したウクライナ諸都市へのミサイル攻撃はこの攻撃と連動したものと考える。ここを考究することで今回の攻撃の狙いが見えてくるかもしれない。

 ロシアのような大国が、ウクライナでも同じだと思うが、たかだか一人か二人の改革指向者の存否で大きく変わることはありえない。ハルキウ同様の用兵家同士の鍔迫り合いは今回もあったが、後に来るのはストームZで、これは双方の人心もモラルも腐食させる。いずれにしろ、スジャ攻略まではプーチンも期待してない。シヴェルスキー戦線はまたうるさくなっている。ロシア軍の「反撃」を、シルスキーから報告を受けたゼレンスキーは最初から無視していた。

 そのプーチンだが、いつミサイルの専門家になったのか、ウクライナ製ミサイルでも誘導装置にGPSを積んでいたら西側兵器とやけに詳細な説明とともにミサイル攻撃を牽制しているようだ。自分はイスカンデルやテポドンをじゃんじゃんウクライナに落としているのだが、今や北朝鮮はロシアの最大の弾薬供給国で、対米貿易に未練のある中国がイマイチ乗り気でないので、あの問題だらけのキムの国は総書記がまたカロリー制限しなければいけないほど潤っているようだ。

 バイデン政権は誰もが目を向けているのは次のハリス政権だが、一度約束した長距離ATACMSの制限解除をまた反故にしたあたり、やや知力に不安のある大統領に対するジェイク・サリバン補佐官の影響が窺える。サリバンはローズ奨学生の秀才だが、ベトナムであれこれ制限を付けて、やっぱり戦争に負けたマクナマラほか先輩の行状を復習すべきだろう。朝令暮改にゼレンスキーは呆れ、ロシアの航空機は(バイデンが逡巡している間に)飛行場から逃げてしまったので、今さらミサイルを受け取っても無駄と嘆いている。

 サリバンについては、履歴を見てもロシアとの関係は見られず、出自であるユダヤ系コミュニティの方が目立っている。副大統領のハリスと傾向が似ているため、おそらく次の政権でも引き続き補佐官を務めると思われるが、むしろ綺麗すぎて疑わしいものを感じる。それにアフガニスタンは明らかに彼の失敗であった。国際感覚のない、理論倒れの国際政治の専門家はむしろ悲劇である。

 問題はそのサリバンの田舎者ぶりがどうもウクライナにも見透かされているように見えることである。ATACMSはアテにはならず、業を煮やしたウクライナはたぶんパリャヌィツィアをモスクワに向けて撃つだろう。プーチンについては、バイデンやサリバンよりも、芸人時代に迫害されたゼレンスキーの方がよほど良く知っていることもある。
 

※マクナマラたち(ベスト・アンド・ザ・ブライテスト)を評して、「大西洋しか見えない田舎者」と評したのはハルバースタムである。

 

 ポクロフスクでの攻勢はそのままに、クルスクでロシア軍が反撃を開始したというニュースが数日前から流れているが、タス通信の報道だとウクライナは国境線近くまで追い立てられ総崩れという話になっているが、私は信じておらず、ここ数日は静観していた。

 兆候としては小康状態だったウクライナ軍の撃破数がここに来て再び増えており、何かしらの戦闘が行われていることは確かだが、参謀本部の報告は全戦区の総和で、特定の戦区ではないことがある。戦車が撃破されたのはポクロフスクかもしれないし、ヘルソンかもしれない。これまで得た情報ではクルスク方面のロシア軍は3~6万人で、兵力は反攻にはやや不足のはずである。

 反撃を報じているのが専ら我が国とロイター、ロシア系のメディアで、ウクライナ系のメディアではなかったこともある。ようやく昨日になってNYタイムズでも報じられるようになったが、どうも「反撃のような何か」のようである。中隊規模で分掌して攻撃する戦法はおおよそ予測がつく、ハルキウで試された方法であるし、念のためシヴェルスキー方面の戦況を見てみると、案の定攻撃活動は弱化している。ロシアにも人材がいないわけではない。ハルキウの例だと今回も国境近くまで迫る可能性はあるが、思うにまた梯子を下ろされるのではないか。

※ 一部の部隊がウクライナ領内に逆侵攻という可能性はある。

 シルスキーの階級は上級大将で、相手はたぶん気の利いた中佐くらいである。が、ハリコフに続くパート2では、前回は出し抜かれた総司令官も対策を用意したようだ。森林を利用した戦いに長けた相手に適応する火炎放射ドローンで、10mの上空からテルミット焼夷弾の雨を降らせるえげつない兵器である。効果があるかどうかは定かではないが(たぶん戦車には効かない)、今やシルスキーはドローン戦術の第一人者である。

 8月以来いつまでも居座っているウクライナ軍がプーチンにとって忌々しい存在であることは間違いない。プーチンはクルスクはただの陽動で主戦場はポクロフスクと強弁はしているが、諸都市へのヒステリックな弾道ミサイル攻撃に今回の中途半端な反撃作戦は、この地域の占領がモスクワ市民の不安を煽り、政治問題化しつつあることを示している。が、ゲラシモフにワグネルと共闘する気はなく、これに長距離ミサイル攻撃が加わればクレムリンの不安はいや増すものになるだろう。

 実はすでに供与されていたが、長射程攻撃能力は封印されていたATACMSについては、英国のストームシャドーと併せてアメリカは封印解除に前向きである。ある意味泥縄といえるが、こんなミサイルの助けを借りなくてもウクライナ製ミサイルがモスクワを射程に捉えたことがある。支援国に遠慮の要らない国産ミサイルを使われるよりはと封印解除はすでに既定の方針だったと思われる。ロシアの核は侵攻されても使わなかったのだから、今や恐れるに足りない。ミサイルはシュレメチボ国際空港でもロシア国防省でもどこでも落とせばいい。

 もう一つの悪手は外貨欲しさのロシアがウクライナの侵攻後なおスロバキア、ハンガリー、オーストリアへのガス供給契約の履行を確約したことである。これでスジャの計測所は攻撃できない目標になってしまった。現在欧州向けのガスはドルシバ・パイプラインを経由しており、他のルートもあるが現状ではドルシバが唯一である。ロシア特有の戦略と戦術の不一致がここでも顕出している。

 今夏以降の一連の状況を見るに、大戦略ではウクライナが一歩進めたように見える。ロシアは侮られるようになり、戦場でもうまく行っていない。アウディウカから30キロしか離れていないポクロフスクを落とすのに半年も掛かっている。クラホベのウクライナ要塞も何ヶ月も前に抜けたはずが全然抜けてない。

 ウクライナ側にも問題はある。徴集兵で膨れ上がった軍の訓練が不十分なことで、初期のような機動力を活かした作戦に適さないことがある。が、ロシアのような十把一絡げに突撃させて戦死させるような作戦をウクライナ軍は取るわけにはいかない。肉弾戦法を多用したロシアはとうの昔に機動力を失っている。

 総司令官の判断としては、ここは多少失地しても兵を生還させ、経験値を積ませる必要がある。戦場においては最初の戦いで辛くも生き残った兵士がその後もスキルを上げ、後の戦いでも有利に立ち回ることがあり、戦死させてしまってはスキルは身に付かない。強攻策は賢明ではなく、先のクルスク攻撃のような易い敵と戦わせるべきである。戦争は長引くが、現在のゼレンスキー=シルスキーの指導部は前任者のザルジニーよりその点では一致していると思われ、意思疎通も円滑なことから、見たところ、その余裕は(支援が続く限り)まだありそうに見えることがある。

 というわけで、今の私の見立てはウクライナ有利である。戦争の風向きは変わったように見えるが、プロパガンダではロシアは強力な宣伝機関を有しており、様子が見えるようになるのは少し先になると思われる。

 

 クルスクの戦いは侵攻して一ヶ月になるがウクライナ軍が撃退された様子はなく、司令官のシルスキーは月初にポクロフスクに舞い戻って戦況を監督している。報道によるとクルスク正面でのロシア軍部隊は6万人、ポクフロスク方面はこの方面を担当するタブリア作戦軍のおよそ4倍、ウクライナ全域では50万が展開しているとされる。その多くがドネツク近郊にある。

 ポクロフスクはアウディウカを陥落させたロシア本軍(中央作戦軍)の最大の攻撃目標で、クルスク作戦時には防備から部隊を抜き出してロシア領に向かわせたゼレンスキー=シルスキーの計画は無謀と呼ばれた。が、CNNのインタビューに応じたシルスキーの言を見るに、十分な勝算あってのものだったと思われる。

 まず、ポクフロスク方面に展開しているロシア軍30万はいかにも多すぎる。将軍によると兵力比は1対4とのことであるが、通常、同種の攻勢作戦を行う場合のセオリーは敵の三倍とされる。つまり過剰兵力で、傾向がアウディウカ以降変わっていないことから、ロシア側には部隊を適切に動かせない、あるいは再配置できない事情があり、また戦域情報でも劣位にあることを伺わせる。

※ 派閥抗争だろうとは前から言っている。

 シルスキーは無人機部隊を使い、ポクロフスクにある敵軍のコミュニケーションを寸断し、数個師団の部隊を麻痺させ、迎撃目標を海兵旅団一つにまで絞り込んだ。現在ウクライナ軍は反撃に転じており、戦況は安定している。補給基地の攻略が長期化しているため、ロシア軍は市の南方、M04号線を挟んだ低地にあるノボグロディフカ、セリドベ方向からの攻勢を志向している。

 戦争捕虜はウクライナでは「為替資金」と呼ばれているが、これは同数のウクライナ捕虜と交換するためのものである。クルスクでかなり稼いだが、ここへ来てロシア側はポクロフスクで捕虜の即決処刑を頻繁に行っている。すでに60人近くが犠牲になっているという話もあり、戦時国際法に明らかに違反するこれはクレムリンの指示によるとされる。

 もう一つはドローンとミサイル攻撃である。昨年はインフラが主な標的だったが、今回はそれに加え教育機関というものが加わっている。弾道ミサイル攻撃を受けたポルダヴァは人口30万の中規模程度の都市で、陸軍士官学校とドローン学校があった。避難の間もなく被爆し、犠牲者は300人を超える。

 弾道ミサイルを迎撃しうるパトリオットは都市ではキーウからリヴィウまでの主要7都市に限定されていると思われ、順位18位のポルダヴァはほとんど無防備だったと思われる。使われた北朝鮮製ミサイルは、キーウだったらあえなく撃ち落とされたはずだが、これまで注目されたことのない、松江市くらいの中都市が被爆するとは思われていなかった。しかも不発弾の多いロシアにあって、今回はちゃんと起爆したこともある。

 ウクライナでは大規模な内閣改造があり、ゼレンスキーを除き、開戦当初のメンバーはほとんどいなくなった。現在のウクライナの課題は中長期的にはEUおよびNATOへの加盟、直近ではロシア領に対する長距離兵器使用許可だが、後者については供与された兵器はもちろんのこと、国産兵器でもモスクワを射程に捉えている。アメリカでは大統領選が佳境なので、これは少し様子を見る必要があるだろう。ハリスとトランプは今のところ5分と5分といった様子である。



 クルスク侵攻の影響についてみると、鈴木宗男と並んで「ロシアの代理人」と言った方が通りの良い佐藤優氏がロシアを訪問し、モスクワ市民の様子を伝えている。

 ウクライナ政府によると、この侵攻の目的は主力のあるポクロフスクへの圧力軽減と侵攻を通じロシア市民に動揺を与えることとあるが、氏によるとその効果はまったくないということである。が、モスクワ市民の深層心理は氏が述べ立てるよりも複雑である。

 氏はごく楽観的にウクライナの傭兵とナチス(氏の見解ではそうらしい)は戦時国際法の庇護を受ける資格なく虐殺され、モスクワは戦前より景気が良くなって市民は楽観的としているが、表層のみのことである。

 市民感情については、ノバヤ・ガゼータは抑圧支配の当然の効果として、クルスク攻撃に市民が動揺していないことは同じだが、多くの市民は戦争とプーチン政権を自分とは無関係、関わりたくないとしている心理を伝えている。

 

※ 日本でも政治に対する感情は似たようなものである。

 

 もちろん彼らは毎日千人以上のロシアの若者がドローンや大砲で殺されていることを知っているし、戦争の動機が権力欲で、プーチンとその取り巻きが腐敗していることも知っているが、自分たちの責任ではなく、また責任を負うつもりもないことを心中に期しているのである。自分の生活を脅かされない限り、彼らが政治的アクションを起こすことはない。

 

 パリャヌィツィアは電力インフラに向けて撃つのが良いだろう。私だったら官公庁の合同庁舎を狙う。モスクワは人口1千万の大都市で、目標はいくらでもある。

 クルスク攻撃の効果については、現状ではどの国でも定説がないことが本当である。ウクライナ政府の見立ては楽観的に過ぎるし、これまでの様子を見ても彼らがそう無邪気な人たちとも思えない。隠れた狙いがあるはずで、それについては今のところは良く分からないとなる。

 

 何でも投機のせいにするのは陰謀論だが、やっとまともな説明が出たのでご紹介したい。日本国際学園大学の荒幡教授の説明で、全体を記述したものとしては(今までと違い)かなり良く書けている。

 荒幡氏によると米不足の原因は

①減反政策・・・昨年より△10万トン
②インバウンド、精米ロス・・・9万トン
③パンなどの値上り・・・米への消費シフト

 筆者のいう投機などの影響については

「実は収穫から半年くらいたった春の時点で、お米は不足していて値段がどんどん上がっていました。
 お米は秋に収穫した時点で、『1俵(約60㎏)1万6000円で買う』などと契約している業者がいます。その場合は値上がりしませんが、そのときに在庫を多く持たず必要な分だけ買う当用買いの業者は、『どうも品薄らしい』という情報を得ると焦って『少し高くても買うか』となってしまいます。すると売る側もまた売値を上げて、どんどん価格が上がってしまう(荒幡)。」


 自主流通米の売価がJAの概算金との競り合いになっている事情は書けていると思うが、根底にあるのは時期柄による在庫不足という考え方のようだ。

 疑問点としては、以下の点の説明は上の説明でも不十分なように思う。

①「1俵(約60㎏)1万6,000円で買う」はなぜその価格なのか。
②店頭でインタビューすると口を揃えて「大阪から業者が買い出しに」というのはどういう事情か。

②-2 筆者が愛用している「日本晴」など廉価な米から消えていった理由は?
③不足は事実としても、堂島先物取引を認可しなければ価格はこれほど上がらなかったのでは?

 筆者が観察したのは長野と滋賀だが、時間差があり、長野の方は滋賀より2週間ほど遅れて現象が生じていた。東京は長野より早く不足したと思うが、滋賀の方はディスカウントストア→小売スーパーと傾向がハッキリ見て取れたのに対し、長野の方はややあいまいであった。そういうわけで、在庫切れの前に長野で仕入れたが、そもそも店頭で不足していなければ余分に買ったりしないのである。

 

※ 長野では米は潤沢だったので、7月末の帰省の際に姉に「来月はもっと不足するから今のうちに買っておいた方が良いよ」と忠告したが、その時は笑い話だったが、彼女は忠告が至言であったことに今ごろ気づいているに違いない。

 論調としては説得力の薄いインバウンドよりも減反政策など農水省の失政を槍玉に挙げる声が大きくなっていることから、主としてJAがこの方向に持っていきたいことは分かるが、そもそも農協が自主流通米と競り合って概算金を上げなければ価格は落ち着いたのである。農家としては少しでも高く売りたいことは当然だが、サンマのように高値の花になってしまっては消費はさらに落ち込むし、山口さんじゃないが本当にパスタ国になりかねない。農協の肩を持ちすぎるのも考えものなのである。なお、米の流通中、農協が占める割合は50%弱である。

 政治が介入して調整すべき事案だったと考える。が、自民党は代表選挙の最中で、首相はレームダック、旗を振る者もいないことから、無責任のツケを払わされるのは国民という構図は相変わらずなのだろう。価格決定のメカニズムから高止まりは供給回復後も続くと思うが、一昨年あたりからツケ回しされている物価高、そろそろガラガラポンにしたいと思っているのは筆者だけではないだろう。
 

 なお、衆院議員の任期の続く間、自民党は首相の首をすげ替えて、支持を失いつつ延命を続けるものと考えられる。米は下がらないだろう。

 

 ネット時代の常としてなにか事件が起こった場合に「原因はこれだ!」としたり顔で書いたり、「〇〇は誤解」と事の本質から目を離すようなことを書いたり、「〇〇は〇〇の問題」と当座の解決になりそうにない遠大な内容を記載した記事には注意が必要である。ウクライナ戦争など見ていると、この種記事のオンパレードなので、私もそのままでは鵜呑みにしない。

 しかし、異なるベクトルの記事が乱立し、どれもトンチンカンという例は、「令和のコメ騒動」が我が国ではウクライナを凌ぐ、近年稀に見る椿事だろう。ドイツに拠点を置くロシアのフェイクニュースファームでもこれほどひどくはない。

 インバウンドだとか、一般家庭の買い貯めという説にはあまり説得力がない。すでに購入量が制限されており、買い占めたくてもできないのが実情だ。少なくともエンドユーザーや飲食店のレベルでは無理である。

 話を食料自給率や農水省の施策に求めるのも何だかなという感じである。当座の解決にならないし、そもそも農水省の役人は一般より事情には詳しい。不足が明らかな状況で対策を取らないのは不自然なことだ。

 「米がなければパスタ」という言い分もあったが、パスタをタイ米に置き換えたときの惨状はある程度の年代には記憶のある所である。

 実を言うとこれらの記事にはおしなべて欠けているところがあり、私はそれを基準に判断しているけれども、様々な論調の記事を見ると「一つの現象にいろいろな言い分があるものだなあ」と感心してしまう。そしてどれも的外れに見える。

 欠けているものというのは、この現象は8月から始まった堂島取引所のコメ先物取引とJA(農協)の足の引っ張り合いであることが見て取れることがある。従来、米価は農協が一定の金額を提示し、産地や重量ごとに定額で取引されていた。

 が、2月に堂島取引所が認可を農水省から取得し、8月に取引を開始することが決まったことがある。従来農協が決めていた米価を市場に委ねることで、農家には売価の予想をしやすくし、市場メカニズムで価格を決定するというものだ。すでに金融商品が売り出されており、1単位60キロで誰でも取引できる。最初の終値は1単位17,500円ほどだった。

 価格の決定というのは難しい問題で、投機も一概に悪とはいえない。むしろ必要悪というべきで、これがなければ価格は力関係で変に歪められたり、恣意的に決められることもありうるのだから、市場での決定は長い目で見ればメリットは少なくない。

 問題なのは、農協の制度も併存して用いられていることである。今年の買取価格は鹿児島県で60キロ19,000円と、内容によるが堂島の価格を上回る例も報告されている。

 これだけ見れば、何が起こっているかは一目瞭然である。農家にしてみればできるだけ高く売れた方が良いのだから、農協と堂島の双方を見比べて高い方に売るのは当たり前である。

 堂島の方も過去に同種の取引を実践して失敗した例もあり、新しい取引では保管に費用のかかる現物売買ではなく、一種の債券市場で取引できるようにしたことも災いしただろう。この場合、取引以前に農産物は特定されていない上、生産者が引き渡しの段階で反故にする可能性も十分あるからだ。規制はあったはずだが、実際の所は取引を促進するために参入のハードルはごく低かったはずである。

 つまり、コメは足りているのだが、農協と先物市場の綱引きで、在庫は生産者とエンドユーザーの間で滞留しており、なおかつ報道で価格上昇が見込まれているために売り渋りがあり、市場に出てこない。これは制度に欠陥がある。

 実を言うと、私の場合は異変に気づくのはごく早かった。我が家の米は「日本晴」というごく変わった品種で、今の米はこれより美味しいが、安く販売されており、行きつけのJAストアでは一番安い。

 

 が、こういうのが一番危ない。導入したばかりの制度では、安い米ほど市場に出したときの値上がり幅が大きいからだ。なので真っ先に店頭から消え、こちらも事情を調べて上の仮説に行き着いたのが一月前である。今では魚沼産コシヒカリなど高い米も店頭から消えている。

 本当ならこれは首相自らが記者会見に応じ、釈明しても良い話である。米価の決定に新しい仕組みを導入すること、それにより米価は一時的に上がる可能性があるが、長期的には消費者のメリットであること。逃げ回る必要がある話とも思えない。現にモリヒロは逃げなかった。

 当然取り上げられて良い話が、今に至るまで伏せられていることには驚くばかりである。野党まで静まり返っていることから、かなり周到な根回しをしたのだろうし、それだけパニックも予測し得た話だと思うが、今の首相は生活感のなさでは歴代でも上位に入りそうな人物の一人である。

 維新の吉村の「備蓄米の放出」はリップサービスだと思うが、当の本人は先物債権を山ほど買い込んでいるに違いなく、それで不正な利益を目論んでいるのだろう。株式だったらインサイダーである。が、この先物取引の仕組み、前例がなかったこともあるが、どうもあちこちが穴だらけ、杜撰だらけのようである。


(補記)
 「コメがなければパスタを」は、私の地元の大学で客員教授をしている山口真由さんだが、私は信州大学はセンター試験以外で入ったことがないのでキャンパスで彼女の姿を本当に見るのかどうかは良く知らない。いるなら松本キャンパスのはずである。実を言うと、彼女の言説はかなりトンチンカンとは思ったが、別に不快も感じなかった。

 なぜかといえば、とうの昔にこちらもスパゲティを茹で置きしてナポリタンを作っていたからで、作り方は見よう見まねで覚えたが、さすが喫茶店料理、タマネギや魚肉ソーセージを加えても5分で作ることができ、味も良く、意外と飽きないと良いことづくめだったこともある。私は隠し味にリー・ペリンのウスターソースを加えるが、ニンニクは使わない。

 こういうのは本格派を気取ってはいけない。気取るとかえって不味くなる。時間を掛けてもいけない(焦げるからだ)。パスタ料理に魚肉ソーセージを刻んでいる私も複雑な気分だが、これはイタリア料理ではない、日本料理だと自分に言い聞かせることにしている。元は進駐軍の米兵のスパゲッティのトマトケチャップ掛けらしい。日本人の食生活もだいぶ変わっているのである。
 

 ウクライナの戦いはアメリカの新大統領の誕生待ちだと思っていたが、その大統領就任式まではまだ半年もある。クルスク州からロシア領内に侵入したウクライナ軍だが、徐々に範囲を拡大しており、ロシア側の反撃はごく乏しい。

 



 スジャの北にはセイム川という未整備の蛇行する河が流れており、天然の要害になっている。ウクライナ国境から発し、クルチャトフの東で会合するE38号線とR200号線が主な攻撃線で、部隊はこの二つの道とウクライナ国境の形成する三角形のいずれかにいるはずである。面積はおよそ三千平方キロで、公式報告では半分、おそらくは三分の二がウクライナ軍の占領下にある。モスクワまでの距離はおよそ500キロである。

 この作戦の目的は種々言われているが、①緩衝地帯の創設なら目的は達成したと言って良い。②補給線の寸断については、ロシアの主要補給線であるM4国道ははるか東で、長射程ロケットの射程内にはあるが、もっと近い攻撃位置はウクライナ領内にもある。③ポクフロスクへの圧力軽減については、そもそも管掌している部隊が異なり、あまり役に立っていないとなる。

 ウクライナははるか南、スジャ南方70キロのボロス村を占領したとの報告があるが、侵攻以降の同国のドローン攻撃を見ると何か試しているようにも見える。おおよそ想像がつくが、思うに彼らの懸念はロシア内部の意思決定システムだろう。

 ドローン攻撃はクルスク州のほか、ブリャンスク州やロストフ州、はるか遠くのキーロフ州で行われており、場所も距離も分散し、キーロフ州の製油所に至っては千キロ以上遠方である。なお、ウクライナ軍ドローンの最長攻撃距離は昨月のムルマンスクにおける1,800キロである。

 が、ドローンは速度が遅く、被撃墜率も高く、あまり効率的な兵器とは言い難い。ムルマンスクといったら飛行には6時間くらいは掛かるだろう。4月のイランによるシャヘドドローンの攻撃も到達まで3時間を要している。これは98%以上が撃墜された。

 実はロシアは戦術核を使う機会を逸していることがある。ロシア本土への攻撃には核攻撃で応じるとはクレムリンは前々から言っているが、使うならウクライナ軍がスジャの検問所を突破した時に使うべきであった。威嚇には十分であり、侵攻作戦はここで頓挫したし、政治的効果も満点であっただろう。

 ところがかなり時間の掛かった突破にはこれを用いず、検問所はロシア自身で爆破して遁走している。広範囲に散開した軍隊には核はあまり効果的ではなく、ここでロシアは最初の機会を逸している。

 続いてはシルスキーがスジャに軍司令官事務所を恒久的に設けると宣言した時点で、一時的な寇掠ではなく、ある程度の期間継続して占領することを明らかにしたことで、ロシアには核を撃つ理由が十二分にあった。

 さらに続いては昨日のボロス村である。周囲の村から程よく離れており、撃ってくださいと言わんばかりの場所だが、たぶん落とさないであろう。

 旧ソ連ならどうだったか、これは躊躇いなく撃ったと思われる。シルスキーは旧ソ連で教育を受けた将軍でソ連軍の戦闘教義は知り尽くしているし、それゆえ、核攻撃は予測していたと思われる。なので、クルスク侵攻作戦と付随する攻撃には相手の出方を伺うジャブ的部分が少なからず見られるのである。

 今のところ、ロシアの反撃はポクロフスクにおける毎度の攻撃と巡航ミサイル攻撃の強化に限られており、クルスクは若干の手当をしたのみで対応を決めかねている様子がある。クルスクなど人口密集地に近づくにつれ、巻き添えになる住民も多くなり、核に依存した防衛体制は使えないものになる。

 今のところ、ウクライナに供与されている長距離兵器には西側の制限が掛かっており、ストームシャドーミサイルを除けばウクライナにはクルスクからモスクワを攻撃できる兵器はない。


 ただ、独自兵器の開発も進んでおり、先日実戦配備された新型ドローン「パリャニッツァ」はウクライナらしからぬ洗練された形状をしており、ターボジェットエンジンで600キロ以上の射程を持つという。もはやドローンではなく巡航ミサイルだと思うが、あえて「ドローン」を名乗る理由はおそらく遠隔操作で操縦できるからだろう。あと、ロシアの「ランセット」で用いられた嚮導機を中心とした編隊飛行などの技術も実装されている可能性が高い。この場合、一人のオペレータで数機~十数機の同型機を誘導することができ、攻撃力は高いものになる。

 大統領選に際して、ゼレンスキーは新終戦計画をバイデンとハリス、そしてトランプに開示するという話である。クルスク一州のほんの端を占領しただけでロシアと取引できるとは思えないので、これはおそらくロシア中枢に強力な一撃を与える能力をウクライナが保有していること、それを担保にした交渉となるだろう。親プーチンのトランプから「計画」がクレムリンに漏れることは織り込み済みだろうし、この場合は漏れてくれないと困ることになる。
 

 ウクライナがスームィからクルスク州に攻め入って3週間、当初の計画では隣接するブリャンスク州も対象になっており、兵力は現在判明しているところでは7個旅団だが、迅速に攻め入りスジャの町を確保した所までは良かったが、ロシア軍の反応が思いのほか鈍く、もう一押しが必要な状況になっている。

 ロシア軍が一部は包囲されて孤立したものの、大部分の部隊が迅速に退却したことについては、これは当初の計画としてあったものと思われる。国境守備に当たっていたのはロシアの徴集兵で、プーチンが公約で戦闘に参加させないことを誓約したもので、ウクライナ軍が検問所を破った場合にはクルスクまで後退することは予め言い含められていたのだろう。

 ウクライナ軍は二方面から進行し、会合点は原発の町クルチャトフである。すでに近郊に達しており、占拠を計画しているかどうかは定かではないが、他にはスジャのガス計測所以外目ぼしい目標がないことから、ロシア軍が態勢を整えて反撃してきた場合はどうするのだろうと思わせる。

 ウクライナ軍の戦いは国際人道法に準拠したもののため、仮に原発を占拠してもロシアのように爆発させたりすることはできない。原発は価値の乏しい目標で、個人的な見方では、この侵攻作戦はモスクワを直撃しなければ意味がないように見える。クレムリンを攻撃するには、少なくともATACMSの有効射程である300km以内に近接する必要がある。なお、ATACMSのこの種の使用をアメリカはウクライナに許可していない。

 ロシア側の反応は得てして緩慢である。現在ロシア軍主力はアウディウカから40キロ北西のポフフロスク攻略に戦力を集中しており、ウクライナ側が押されていることは分かるが、よりモスクワに近いクルスクの危機に際してロストフ・ナ・ドヌーのゲラシモフが送ったのは事実上解体されている西部管区軍と東部管区軍の泡沫部隊で、後は過去の戦いで半壊した南部管区軍の親衛旅団とあまりにやる気ない戦力である。兵力も乏しく、7個旅団もいるウクライナ軍はとうてい追い払えない。

 ポフフロスクを陥しても、ウクライナ軍は格段に防御の厚いパブログラードに後退するだけであり、クルスクの方がより切迫した状況に見えるが、この反応の鈍さはクルスク原子力発電所はすでに見切りを付けられているのか、よりありそうなこととしてゲラシモフとストームZ軍団(北部方面軍)の反目が修復不能のものになっているかである。

 

 先にも述べた通り、原発はカードとして使えないので、ウクライナがポフフロスク戦線の好転を図ってクルスクを攻撃したというなら、ただロシア領に攻め入っただけではダメで、モスクワにHIMARSを撃ち込む以外ないのである。そうすればいかにゲラシモフがストームZが嫌いでも、主力を首都防衛に差し向けざるを得なくなるだろう。

 先にロシア軍の後退は規定の方針と書いたが、ストームZ以前にこの地区の防禦を担当していたのは中央管区軍で、クルスク方面は参謀本部に転出した前司令官のラピン将軍である。転出は栄転ではなく、階級も上級大将から大将に格下げになったが、この方面のウクライナ軍の攻撃については早くから警告を発していたとされる。国境付近の要塞を占拠したウクライナ軍はラピンらの築いたロシア式築城術の堅牢さに舌を巻いたというインタビューもある。徴集兵の後退も彼の指示によると思われるが、緒戦の損傷を抑えるための有益な施策も、すぐ後にトンビに油揚げをさらわれるのがこの将軍と中央管区軍のいつもの光景であるから、彼にできることは何もないだろう。上官のジドコみたいに怪死するのもイヤである。

 

 ラピンの古巣である中央管区軍はこの戦争ではロシアの数少ない「まとも」な軍隊で、現在はセベロドネツク付近にいるが、リマンとの間にあるシヴェルスキー戦線では巧みな戦闘を続けており、ハリコフ以降のウクライナ参謀本部は報告書で一項を割いて動向を観測している。

 ウクライナ戦争はアメリカの支援なしにはウクライナが戦い抜くことはできなかったが、その支援については中途半端、勝たない程度の手助けという評価が定着していた。折しもバイデン政権が末期であり、次期大統領候補にカマラ・ハリスの名が浮上していることから、すでに消されてしまったが、欧州の識者の論考にはバイデン政権の対ウクライナ政策のピント外れと立案したサリバン補佐官に対する轟々たる非難と、ハリス新大統領にウクライナ政策の再考を促す内容のものもある。トランプは副大統領の人選で失敗し、再選の芽は早々に潰えたようだ。

 

 ジェイク・サリバンはバイデン政権の安全保障担当補佐官で、ヨーロピアン・プラウダの論考を読んだ際にはウクライナの屍山血河の元凶はこの男と名前出しちゃって良いのかなと思ったが、案外著名人であり、地位もコンドリーザ・ライスやコリン・パウエルと同じであり、その割には軽量級だが、スウェーデン国際政治学者の論考は(たぶん横槍で)すぐに下げられたことはあるが、それなりに重要閣僚であり、前から指摘していたバイデン政権の「ヤジロベエ(親ロシア・ウクライナ懐疑派)」のもう一方として名前くらいは記憶しておいても良いかもしれない。