バカすぎて読めたものじゃない

日本語の体をなしておらず、読めたものじゃない

 

 何年か前だったか、以前の2ちゃんねるほどではないにしろ、ネットに私の悪口を書く奴はいないわけではなく、エゴサーチをすると元滋賀の郵便局員らしい「ロケタッチャーが行く(現在は入院中)」と、「連載二千回記念」とかいう「三日坊主の悪あがき」というのがしつこく掛かってくる。どちらも面識はないが、まあ3年も前の悪口はどちらももう時効だろう。

 こんな連中は別に取り上げる必要はないのだが、「三日坊主」とかいう人については、この国の住人で「安倍晋三シンパのネトウヨで絵に描いたようなQアノン信者」はこれしか知らないので、先日の大統領選でトランプが勝ってさぞ嬉しいだろうとついでに探して見てみた。何せこの人、トランプのことを「ドナルド」と親しげに呼び、「歴代最高の名大統領」と意味不明のランキングまで披露していたのだから、どんな感じかなと。最初で最後だがリンクも張ってやろう。

 何だ、何も書いてない。まあ、文体からして無教養で私の敵じゃないけどさ。3年前の悪口は先にも述べた通り時効だから見逃してやるよ。「まともじゃない人(トランプに投票するような人)」の例として挙げたまでだ。(トランプも)実はあまり関心ないんだな、だったら喋るな、黙ってろ。

 


 前座、箸休めはこれくらいにして、本題に入ると、上図はNYタイムズによる先の大統領選における州ごとの色分けで、どこでも見られるが、誰が勝って誰が負けたかは一目瞭然で、「三日坊主」とかいう人も色盲でもない限りは分かるだろう。文字が読めないようだから文盲だとは思うが。

 人の悪口を書く奴(三日坊主、ロケタッチャーほか)、嘘をつく人間には共通項がある。それは自分が激烈に人を誹謗したり、人を騙すことは平気だが、他人も自分を誹謗したり、騙したりできることはまるで忘れているということである。鉄砲は撃っても防弾チョッキを着ていないなら、現実の戦いでは撃たれて死ぬだけである。これは「経験則」に書き加えても良いほど万人に当てはまる。私は批判は書くが誹謗は書かない。やられた場合は別だが。

 

 「三日坊主」みたいに区別のつかない奴はハナから相手にしてない。

 まあ見ての通り、トランプ大勝利である。特にハートランドと呼ばれる内陸部に顕著で、元々共和党が強いが、実は個人的に縁がないこともない地域なので、私の知るあの人もこの人もトランプなのかと暗澹たる気分になったことがある。

 

トランプ大勝利の図

 

 しかし実はそう悲観することもなさそうだ。図の右端を良く見ると、赤丸をしておいたが、メイン州とネブラスカ州はどうも割れたらしい。


ネブラスカ州


 先ずネブラスカから見ると、全体的には見ての通り真っ赤だが、人口の多い州都リンカンとオマハは真っ青だということがある。オマハの南にはエア・フォース・ワンの基地であるオフィット空軍基地がある。これはベルビュー郡で赤だが、支持率は55%でそんなに大勝したわけではない。それに基地の従業員はオマハからの通勤が多い。核弾道ミサイルや大統領専用機を擁するアメリカ軍の精鋭部隊はハリス支持なのである。


メイン州

 次いでメインを見ると、これはハリス勝利だが内訳は少々微妙で、ポートランドは青だが、郊外はトランプ支持が多いことがある。「レッド・オクトーバを追え」のラミアス艦長は原作ではソ連から亡命した後に隠棲し、メインの片田舎で釣りをしているはずだが、アメリカ右翼文学の元祖クランシーが創造した艦長は作者の傾向だとトランプに投票したかもしれないが、海沿い限定なので反対の可能性の方が高い。


テキサス州


 テキサスはニュースでもトランプ大勝の地域だが、実はテキサス州立大学のあるオースティンは青である。全土の地図を見ると悲観した様子にしかならないが、一覧すると、要するに私の知るあの人もこの人もトランプには投票しなかったようなのである。それで一安心した。


フロリダ州

 トランプ氏自身に微妙な結果もある。上図はフロリダだが、テレビにも頻出するトランプの別荘、かの女傑マージョリー・ポストが建てたマー・ア・ラゴはフロリダ州パームビーチにある。パームビーチは見ての通り青で、トランプは自分の従業員にはあまり好かれていないようである。ほか、大きな資産のあるシカゴとニューヨークもおしなべて青である。


イリノイ州(シカゴ)

 図は大ざっぱで個々については分からないが(秘密投票なので分かってもいけないが)、ことトランプについては、「三日坊主」みたいなQアノン信者や、扇動に同調するような頭も知恵も足りないバカ、考えない人の支持は盤石だが、実際に彼のために働いてくれる専門技術のある従業員だったり、戦地に赴いて戦ってくれるような軍人だったりの支持はあまりなさそうに見えることがある。エア・フォース・ワンも見た様子ではクルーの半数がハリス支持である。知識人は言うまでもない。トランプ支持者は烏合の衆である。



 これが何を意味するかは現時点では断言できない。けれども、新大統領は年頭に宣誓するものの、前回と違って(懲りたので)一流の人物は内閣に入らないようだし、支持の内訳もこんな感じである。これは半年もしないうちにダッチロール、空中分解して墜落するのではと心配したくなる。

 私としてはトランプはウクライナとガザの戦争さえ終わらせてくれればいい。今、彼らが協議している和平案はロシアに偏ったもので、トランプがプーチンには媚態、ゼレンスキーには厳しい姿勢で臨むことは明らかだが、それでも停戦すれば対処しうる余地がまだある。ロシアとの約束? そんなものは破ってしまえばいい。停戦すればウクライナはNATOに加盟することができ、NATO軍をキーウに派遣できる。その後に騒いだところで後の祭りである。本当は2022年にやるべきだった。

 

 約束を散々反故にしたのはプーチンもそうだったのだから、彼以外の人間がそれを守ってやる義理はないはずだ。ここは形だけの和平が必要だが、そうこうしている間にトランプもいなくなり、アメリカももっとまともな国になるかもしれない。それにNATO軍とアメリカ軍を東欧に旅行させるだけなら、戦争を続けるより安上がりである。まさか中国や北朝鮮から援軍も来ないだろう。

 

 

 「政治は一寸先がドブ」というのは先の衆院選でもあったが、こと選挙結果というものは、プーチンや金正恩のような独裁者が仕切っている国ならともかく、最後まで分からないものである。なのでどんな選挙でも、私は大勢が決まるまで聞かれてもコメントしないことにしている。

 ウクライナにとってもこれは困った話で、ここ半年ほどの様子を見ると同国は選挙の推移を慎重に観察しており、どちらに転んでも良いように布石を打っていた感じである。が、トランプが大統領になった場合は戦闘は現在の時点で凍結を余儀なくされるだろう。しかし、内心では2022年のラインがせいぜいと思っていたはずのゼレンスキーにとっては国民を説得しやすい結果である。何にせよ、戦争が終わることは良いことである。

 プーチンは以前に現大統領のバイデンとトランプを比較して、「バイデンの方が扱いやすい」とコメントしていたが、半分皮肉、半分本音であったかもしれない。あのミスターUSAは怒らせるとウクライナにNATO軍を本気で派遣しかねないからだ。破産を二度も経験した人間には核の脅しも通用しない。コロナでも生き延びたので、放射能を浴びても自分だけは生きられると本気で思っているかもしれない。そもそも度重なる訴訟で自分の会社が傾いているので、プーチンと違い守るものもごく少ない。ただし性格は単純で、栄誉を渇望しており、操りやすい人物ではある。

 不気味なのは、ここで停戦するとして、戦時体制に移行しつつあるロシアがトランプ後に再侵攻を企てかねないことである。ウクライナは資源地帯を占領され、残るのは農業くらいしかない。また、ゼレンスキー後のウクライナは混乱し、進んでいた改革も頓挫し、元の腐敗国家に後戻りするかもしれない。

 ウクライナでは先月辺りから戒厳令の解除が検討されており、そうなると任期切れのゼレンスキー政権は選挙を行うことになる。ゼレンスキーの人気は今だ高いが、ロンドンに追われたヴァレリー・ザルジニー将軍の出馬を求める声も相当数ある。ウクライナは官僚機構(立法、行政、司法)に対する信任度が極めて低く、この二人以外に国民に篤い支持のある政治家や官僚はいない。現在のウクライナの司法制度は質量共に戦前の日本くらいの水準である。

 ただ、アメリカも民主党政権が継続していた方が良かったかといえば、そうとも言えない部分がある。先日ヨーロッパの外交当局者や退役将軍らが連名でハリス次期政権に現在の「レッドライン」戦略の放棄を迫ったが、バイデン政権の安全保障担当補佐官ジェイク・サリバン謹製のウクライナに「勝たせない」戦略は欧州ではすこぶる評判が悪い。現在の持久作戦でもウクライナは月に数千人の死者を出している。人口の4分の1が逃げ出し、徴兵可能な母数は日に日に減りつつある。ロシアはより大きい損失を受けているが、同国の人口はウクライナの4倍である。

 とりあえず公約なのであるから、トランプはゼレンスキーをいなしつつ終戦を呼びかけることは間違いない。彼得意の「ディール」で、両軍は現在の線で停戦し、クルスクがあるが、ひょっとしたら2022年の線まで戻すことは可能かもしれない。ただプーチンという人物、約束を守らないこと、なし崩しに反故にすることには定評がある。ミンスク合意の時と同じく、この合意は守られないだろう。それでもトランプは彼一流の成果と得意満面に違いない。サリバンはもちろんクビだろう。このローズ奨学生の始末は、本当はアフガン撤退の際にやっておくべきだった。

 現在クルスクに展開している北朝鮮部隊については、帰国するかどうかは今の時点では分からない。停戦はすると思うが、戦闘行為が終わるとは思えないことがある。完全な停戦が実現すれば、ゼレンスキー政権はNATO、EU加盟への布石を進めることがあり、NATO諸国がウクライナ加盟に難色を示す理由の一つが2014年以降のウクライナでは戦闘行為が続いていたことがある。ロシアはミスターUSAと対立したいとは思っていないだろうが、戦いを止めることのデメリットも良く知っている。その点、この北朝鮮部隊は使いやすい。

 北朝鮮はいろいろな意味で変な国のため、その軍隊は正規軍より特殊部隊の方が数が多い。ドラマ「愛の不時着」でも若干言及されていたが、ごく小規模の部隊が特定の任務向けに訓練を受けており、ドラマでユン・セリの逃亡を助けた第5中隊も特殊部隊の一つである。ドラマでも第5中隊は潜入任務を命令され、特に訓練も受けずにアッサリとスポーツ使節を偽装して南に潜り込んだことがある。これはドラマの話であるが、青瓦台官邸爆破など訓練を受けた部隊の存在は知られているし、日本にも強盗団を装って各地を荒らしたこともある。つまり、連中は現在行われている大規模な会戦よりもゲリラ戦やコンビニ強盗の方がはるかに得意なのである。

 ただ、最初にウクライナ軍と遭遇した偵察中隊はドローン戦に長けた海兵部隊の攻撃であっけなく全滅し、あえてこの連中を使うメリットは分からないものだったが、停戦後にコンビニ強盗や電線切断、カップル襲撃にトラクター盗難などの用途に用いるなら、連中で実は十分である。ロシア兵より小兵で粗食に耐え、言語の問題を除けば、士気も能力もロシア兵の平均より高い。彼らについてはウクライナ軍は食い物で釣ろうとしている。あと、韓国軍が拡声器やビラを大量に持参してウクライナに入国する動きがある。

 私個人の意見としては、それが欺瞞に満ちたものであろうと、停戦には賛成である。ゼレンスキーはまだ若いし、それに比べプーチンは平均年齢の短いロシアでは長寿だが、節々に病を抱えた70歳の老人である。領土の一部を取られても挽回のチャンスはあるといえ、布石を堅実に打つことが前提だが、プーチン体制が弱化すれば現在ある問題の多くが解決できるはずである。


(補記)
 ゼレンスキーとプーチンは年齢には親子ほどの差があるが、実は政治キャリアはあまり変わらないことがある。KGBを辞めたプーチン(43歳)が母校のレニングラード大学で恩師に拾ってもらい卑職にありついた頃、CISの芸人大会で優勝したゼレンスキー(17歳)は自分の会社クヴァルタル95を創設していた。

 政界入りした恩師に従ったプーチン(46歳)が師の失脚でサンクトペテルブルクの地方公務員をクビになった頃、ゼレンスキー(20歳)は売れっ子芸人として東欧を行脚していた。彼はキエフ経済大学の出身であるが、この時期はモスクワを拠点に活動しており、学生になる前にすでに成功者だったのである。

 エリツィンに見出されたプーチンはその後エリツィンの衣鉢を継ぎ、ロシア大統領になるが、専制主義者(プーチン53歳)の台頭とそれによる芸風の逼塞に嫌気が差していたゼレンスキー(27歳)はスタジオを畳んでウクライナに戻っている。故国に戻った人気芸人に同国のテレビ局インターは取締役の椅子を用意した。

 後の2018年に当時のヤヌコビッチ政権が1億ドルでクヴァルタル95の買い取りを申し出るが、政権にプーチン(66歳)の影を感じたゼレンスキー(40歳)はやんわりと断っている。彼が主演した「国民の僕」は2016年にオンエアされ、国民的人気は元芸人をウクライナ大統領の地位に押し上げた。

 プーチン政権は20年続いているが、芸能を通じ政治と関わり続けたゼレンスキーのキャリアも同等程度の長さがあり、むしろある時期まではゼレンスキーの方がプーチンより遙かに恵まれ、知名度のある存在だったことがある。2000年になるまではゼレンスキーの方が借家住まいの公務員プーチンよりも名声があり、権力でなく独力で成功し、金銭的にも豊かだっただろう。

 ゼレンスキーの名を押し上げたCIS芸人大会は後にプーチンの介入が入り、芸風に現政権賛美を加えることという体制寄りのイベントに変質していった。政治漫才はヨーロッパで長い伝統があり、地下でもアネグトートは鋭い風刺としてロシア名物となっている。空気の変質はすでに一流の芸人だった彼にキナ臭さを感じさせ、意を決してロシアを出て行く動機となったものだろう。

 

 プーチンも借家のテレビでゼレンスキーの顔は一再ならず目にしていたはずである。プーチンはゼレンスキーのことはあまり知らないだろうが、ゼレンスキーは芸能活動での(苦い)経験を通してプーチンのことを良く知っている。そのため、アメリカ大統領選におけるウクライナの備えはどの国よりも考え抜かれたものになった。過去の恩讐もあり、彼らの対立はどうも一朝一夕のものではなさそうなのである。
 

 今月に入ってから朝鮮日報のウクライナ関連記事がシニカルになっており、やれゼレンスキーの演説はつまらないだの、兵力不足のウクライナが街角で強制徴兵だのと全般的にロシアに有利な内容になっている。強制徴兵は動画は視聴したが、数秒の短いカットで青年が警官に羽交い締めにされているとしか見ようのないものだった。ロシアの間違いではないのか。

 だいたい変なニュースが流れる時には別の所で何かあるものである。朝鮮日報や中央日報は大韓民国の保守系新聞で、北朝鮮とは関係がないが、少し邪推すると北朝鮮から送られた数個大隊がそぞろに交戦を始め、死傷者が出ていることがあるかもしれない。

 ゼレンスキーが暴露した問題の大隊の仮称は「ブリヤート大隊」、一説によると三千人ほどの規模で、この規模は普通は旅団なので、ロシアのミニ師団「大隊戦術群」に倣った呼び名だろう。派遣されている場所も分かっており、ウクライナが侵攻したクルスクでウクライナ軍を迎撃に出撃している。死傷者は今後も増えると思われる。こんなことをしているのは、ロシアが兵力不足のせいである。

 韓国の外交は日本のそれより難しい。半島を通じロシア・中国と地続きのこの国は対ロ関係には常に警戒の目を向けており、つい先日も一度は決めたウクライナ援助を凍結したばかりだ。変数の一つには日本もあり、保守層は日本財界と緊密に結びついている。

 韓国としては、近年態度を硬化させている金正恩がロシアのプーチンに似た論法を使っていることも気になる所である。曰く、尹錫悦の韓国政府は極右であり、国民は西側プロパガンダに洗脳という言い草はそのままウクライナである。こういったプロパガンダが一巡した後に、2022年に何が起こったかを見れば、韓国政府もうかうかとしてはいられない。38度線からソウルまでは30キロくらいの距離しかないからだ。これは先日陥落したアウディウカからポフロフスクの距離にほぼ等しい。ウクライナで実見した朝鮮人民軍がドローン戦術など新戦法を用いる可能性もあればなおさらだ。カンナム地区に爆弾を落とされた場合の被害はヘルソンなどの比ではない。

※ さらに追完として、北朝鮮がこれまでロシアに供与した砲弾は300万発、「ブリヤート大隊」は1万人の師団規模の部隊で、ウクライナ軍との交戦は確認されていないが、これほどの物量と規模となると、北朝鮮が今すぐ韓国に攻め入る事態は考えにくい。なので、上記と異なり、タカ派化している金正恩(実際には妹の金与正)の発言は正面の弱化を隠蔽する示威の可能性が高い。

 

※ プーチンが朝鮮人民軍に依存する理由は国内の動員回避という見方もある。


 ロシアの側から見れば、以前の首脳会談で呼応して台湾に攻め入るはずの中国がロシア軍の苦戦を見て二の足を踏んでいるので、台湾はありそうにないとし、別のホットスポットを探しているようにも見える。ロケット技術も気前よく提供し、製造した砲弾を言い値で買っているのも、この地域に緊張を作り出し、欧米諸国、特に米国の関心を逸らすことがある。現在戦争が行われているイスラエルはウクライナとごく近く、同じ部隊がどちらにも対応しうるため、分散は十分でないと考えているのだろう。

 南北統一については、韓国はそれをしうるポテンシャルをすでに持っているが、専ら彼らの政治的都合で実現できないでいるというものである。緩衝地帯(北朝鮮)の消失はロシアと中国には脅威となるため、干渉が避けられないこともある。そして近年のアメリカは何をやるにしても非常に頼りない。

 ウクライナ情勢については大統領選が終わらない限り動かないと見ている。ハリスがやや不利になっているが、元々この人物はことウクライナ戦争に関しては傍観的な態度を取っていた。サリバンも引き続き雇用されると思われ、今以上の進展は期待できないが、変わってみないと分からないこともある。

 ウクライナは三年も戦争をやっているので、識者さんは戦い方の変化に気づいているか怪しい所もある。現在は両軍合わせて数十万機のドローンが用いられており、これは両軍の兵士の数よりも多い。ドローンはより強力な兵器の前には譲ることもあるが、ストームシャドーミサイルやATCAMSが切り札となると考えるのはもはや古い考えである。欧米諸国のこと外交におけるドローンの認識は極めて低い。支援として有効なのは高価なミサイルではなく、百万機のドローン生産工場なのだが、彼らはロシアの土俵で戦略を考えており、欧米諸国がロシアに大きく勝る点、経済力と生産力を活かした試みは未だ行われていない。

 

 不人気な首相を換えてそのまま三年間、任期一杯まで政権にしがみつくのかと思えた自民党だが、2009年の衆院選で大敗し、3年間野党で糊口を凌いだ経験は多くの自民党議員に取ってトラウマとなって残っていたものらしい。

 これは後知恵だが、山口二郎とか内田樹といった左派ブレーンの70代の先生たちは、この先生たちとは筆者などは30年来の付き合いだが、どうもある種のサイコパスと同じく、人の心を見るのに昏い。いずれにしても彼らは諸手を挙げて選挙に走った自民党議員の心理を理解していなかった。理解していればもう少しマシな応戦ができただろう。

 未来を予期することを難しい。正しく予測し、的確な対処をして未然に防いだとしても、起きなかったことは誰からも感謝されないのであり、実際にあるのは惨事が起きてから、あれが悪いこれが悪いという民衆の態度である。

 その点、2009~2012の民主党政権は政治のスケールを超えるような惨事が起きすぎた。リーマン危機と東日本大震災で、対処の困難はより以前の政治、自民党の安定政権で派閥が政治家養成機能を持ち、田中角栄や中曽根康弘のような政治家がいた時代でも変わりなかっただろう。

 意地の悪い見方をすれば、自民党は本来は自分らが受けるべき無能や非難を、たまたま政権の座にいなかったために、民主党が数十年分まとめて引き受けてくれ、それで民主党は崩壊したが、自民の方は災害が自分たちでなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしたというのが本当の所だろう。

 自民党にとっては15年前の下野と野党体験、そして震災は本当に天災以外の何ものでもなかったが、今はいくつかの政党に分かれている民主党においても、果たして貴重な与党経験、しかも類例のないもの、から、多くを学んでいたのかといえば、それは少々怪しい。組織の体質を変えた形跡がないからだ。

 で、石破さんに話を戻すと、かつての小泉と同じく、たぶん自民党としてはいちばん首相にしたくない(ネストリウス派キリスト教のような)政治家で、それでも総裁になったのは長い異端党員の任期のせいで国民に平たく知名度と人気があり、他の候補者と比べれば平均的なポイントが最も高かったということだろう。

 小泉は知名度はあったが定評がなく、高市は地元以外では知名度がない上に極右は万人の支持を得られないものだった。ほかにもいるが、皆周囲以外は知らないような人物で、飛び抜けた所もないものだった。

 石破氏の印象を言えば、かつてこの人物はモデルグラフィクスやアニメージュなどサブカル系の雑誌のインタビューに良く応じていたために、ミリヲタ、鉄ヲタ、プラモマニアの顔が良く知られている。就任後8日で衆議院を解散したことは、最初から選挙管理内閣と見られてはいたが、野党の体勢が整わないことを見た機を見るに敏であり、本質は戦術家という感じがする。そして私が見るに、これはこの局面では正しい判断である。

 選挙の見立ても正確で、「自公合わせて過半数」というのは駆け引きなしの率直な物言いだろう。このことから正確を重んじる性格が窺える。この人物には裏表がなく、行動はむしろ読みやすいタイプである。

 小泉と同じようなタイプを期待する向きには肩透かしかもしれない。人気取りのようなことは言わないし、概して言語不明瞭で形式的答弁をするにしても見え透いている。裏を返せば、官僚答弁でない自分の言葉で話した時には、それは実行するという意味である。やや視野の狭い人物なら、独裁者になるにはそう時間が掛からないかもしれない。しかも経験を積んでおり、政治の裏も表も知り尽くしている。

 彼の選挙区である鳥取を筆者は何度も旅したが、無料の鳥取自動車道に加え、山陰自動車道は快適な道路であった。細長い鳥取県をほぼ横断し、百数十キロを走行しても無料という道路は他県にはない。ほぼ同じ長さの静岡県を静清バイパスで横断するのに、どれだけ苦労するかを考えれば明らかだ。鳥取市は面白みのない街だが、もしこれらの道路がなければ、鳥取から米子までどれだけ時間が掛かるか。角栄すらできなかったことをやっているのである。そしてスキャンダルもほとんど見られない。

 先に戦術家と評したが、戦略家ではないように見える。一対一で彼に敵う政治家は稀だろうが、首相が乗っている自民党は泥船で、他の議員はこれといった胆力も機知もない政治家が大半である。石破政権はいくつかの政局では小気味よい働きをするかもしれないが、戦略レベルの効用はおそらくなく、我が国の凋落を押しとどめることはできないように見える。

 他党に対する自民党の強みは、選挙機関しかない維新、属人組織の立憲民主党、鳩山長老政治の国民民主、そしてプロパガンダ機関の共産党と比べ、政策検討機構を組織として持っている点である。野党のガラスの建屋は他の人物が首相ならそれほど弱点にもならなくて済んだ。

 が、機会があればガラスの擁壁を打ち壊しに掛かる人物(できることはやる)が首相になったのであり、これは野党には体質改善を強く迫るものになるだろう。石破は他に類例がいないタイプの政治家だが、柔軟な思考で彼と相対しうる相手が、野党にはいなさそうな所も終焉は自民より野党の方が早く来ると悲観させられる所である。

 そもそも野党は7条解散を批判してない。これが政略に利用されることは制憲当時から言われていたことである。憲法上明確に禁止するなど、対抗する論説を即座に展開できないことで、野党の政治主張は終わっているとも言えなくもない(選挙協力でも一致できる論点だろう。これだけ一致しても連立は組める)。資源を効果的に活用せず、不利な戦いを敢えてするのは、これまではそれで通用したかもしれないが、阿呆のすることである。

 

 コロナ明けに起こったこの戦争はあまりにもバカバカしいので、これが終戦のチャンスだと思ったことは私も何度かあった。特に開戦初年(2022年)、大変失礼なことだが、私はウクライナは3日で負けると思っていた。2014年はそうだったし、認識票を外したロシア軍(と言われている連中)が地元住民の手引きでクリミアやルハンシクをあっさりと占領し、それでいて国際社会はほとんど動揺しなかったのだから。財政破綻で核も持てなかった国の軍隊などこんなもので、しかも多民族国家なのだから、「ロシア派」が国を分割統治して一部はロシアに併合されたりしても、元々国境線自体旧ソ連時代の適当なものなのだから仕方あるまいなと。

 実際はそんなものではなかったことは見ての通り、戦争は三年目に突入し、ロシア軍は信じられないほど頑強な抵抗に直面し、常識外れの損害を出しながらも戦闘を続けている。制裁は思ったほど効果はなく、アメリカの優柔不断も相まって何十年でも戦争を続けそうな勢いだ。和平交渉も、ロシアには通常の国際政治の論理が通じないことで識者の多くは匙を投げている。

 が、最近の様子を見るとそうでもあるまいなという感じにも見える。クルスクのウクライナ軍排除に迅速に動かないこと、都市部、しかも通常は対象外の教育機関や介護施設を狙ったミサイル攻撃、軍事的に何の価値があるのだろう、と、ポフロフスクの戦線が停滞していること。思いのほか頑なで強気な外交姿勢、これらを俯瞰するとロシアには退却や戦線縮小の動きと見えるのである。

 ウクライナの国産ミサイルドローンがモスクワを攻撃圏内に収めたことも大きい。新型ドローンミサイル「パリャヌィツィア」は先ずクリミアで用いられ、月末にトヴェリ州とクラスノダール地方のロシア集積基地に対して用いられた。ここまで(500km以上)届くミサイルがあると思っていなかっただけに、数千トンの弾薬を含む基地は大爆発を起こしたが、これは重要な補給拠点の被爆と同時に、モスクワはこれらの基地と同じかより近い距離にあることがある。

 従来、この種の攻撃は英米製のミサイルと思われており、ロシアも釘を刺していたが、今やお伺いを立てることなしにクレムリンを攻撃できるのである。すでに攻撃できる兵器があるのなら、外国製ミサイル(ATACMS、ストームシャドー、タウラス)使用のハードルはずっと低くなる。なお、「パリャヌィツィア」の詳細は機密のため謎に包まれている。

 弾薬庫爆破は警告の意味もあるだろう。ロシアは核を含むより大きな攻撃力を持つが、元々この戦争はロシア国民には人気がない。遠いクルスクなら他人事と考えることができても、ウクライナがやられたようにショッピングセンターやモールが被爆し、遠いウラルに疎開などと言われたらプーチンも国民の反感を抑え込むことは難しいかもしれない。

 ただ、先にも述べた通り、和平の期待は今まで何度も裏切られてきた。今の状況ならロシアを2022年の線まで後退させることは可能かもしれないが、ウクライナにしろロシアにしろ誰がババを引くのか。適当な人がいなさそうなのが苦しいところである。

 ウクライナにしても疲弊の色はかなりある。同国は損失を公表していないが、頻繁な閣僚の交代、司令官の解任は厭戦気分や疲弊を示すものである。劣化がどの程度まで進んでいるのかは確たる資料がないが、ひょっとしたらこれが最後のチャンスかもしれない。

 ISWやForbes、あるいはベリングキャットの解説を鵜呑みにしたり、衛星写真で状況を観察するのは外国語を読む際に辞書を引くのに似ている。その場の点(単語)は分かるが、それで文意全体が掴めるとは限らない。間違えやすいところで、基礎的な文法の知識がないのに辞書片手に外国語と格闘しても、昔は私もよくやったが、得られるものはごく僅かである。情報は有用だが、読み方を間違えないようにしなければいけない。

 様子では、どうもゼレンスキーは読めているようだ。サリバンが読めているかどうかについては、これまでの彼の実績を考えるとかなり疑わしい。

 

 毎日新聞なんかが鳴り物入りで報じていたロシア軍の「反撃」はどうも失敗のようである。コレネヴォから森林を抜けてスナゴストを脅かしたまでは良かったが、すぐにウクライナ軍がベゼロエから侵入して側背から攻撃し、しばらく見たところ、これ以上戦っても無駄と一昨日早々に手じまいしたようだ。これもハルキウと同じ見切りの良さで、ロシア軍にも気の利いた人がいたようである。

 プーチンに説明した計画では、ロシア軍は強力な反撃を受けたら旋回してベセロエ後方のボルフィンかコスタニフカを襲ったと思うから、これは手の内を読まれており、シルスキーも案外楽しんでいるかもしれない。より南のゲラシモフ相手の戦闘は芸のない肉弾攻撃で、用兵の妙を競う要素がほとんどないからだ。しかし、やはり年期の差、実働兵力の差は拭いがたいようだ。第2ラウンドはシルスキーの勝利だが、ロシアの方は負けた場合の言い訳は処刑されないよう、たぶん最初に説明はしてあるだろう。ハルキウ管区は指揮系統も複線的で複雑である。

 そもそも不十分な兵力と武器、それに派閥争いで「反撃」といっても大したことはできないことは自明だが、単に現場レベルではなく、より激しさを増したウクライナ諸都市へのミサイル攻撃はこの攻撃と連動したものと考える。ここを考究することで今回の攻撃の狙いが見えてくるかもしれない。

 ロシアのような大国が、ウクライナでも同じだと思うが、たかだか一人か二人の改革指向者の存否で大きく変わることはありえない。ハルキウ同様の用兵家同士の鍔迫り合いは今回もあったが、後に来るのはストームZで、これは双方の人心もモラルも腐食させる。いずれにしろ、スジャ攻略まではプーチンも期待してない。シヴェルスキー戦線はまたうるさくなっている。ロシア軍の「反撃」を、シルスキーから報告を受けたゼレンスキーは最初から無視していた。

 そのプーチンだが、いつミサイルの専門家になったのか、ウクライナ製ミサイルでも誘導装置にGPSを積んでいたら西側兵器とやけに詳細な説明とともにミサイル攻撃を牽制しているようだ。自分はイスカンデルやテポドンをじゃんじゃんウクライナに落としているのだが、今や北朝鮮はロシアの最大の弾薬供給国で、対米貿易に未練のある中国がイマイチ乗り気でないので、あの問題だらけのキムの国は総書記がまたカロリー制限しなければいけないほど潤っているようだ。

 バイデン政権は誰もが目を向けているのは次のハリス政権だが、一度約束した長距離ATACMSの制限解除をまた反故にしたあたり、やや知力に不安のある大統領に対するジェイク・サリバン補佐官の影響が窺える。サリバンはローズ奨学生の秀才だが、ベトナムであれこれ制限を付けて、やっぱり戦争に負けたマクナマラほか先輩の行状を復習すべきだろう。朝令暮改にゼレンスキーは呆れ、ロシアの航空機は(バイデンが逡巡している間に)飛行場から逃げてしまったので、今さらミサイルを受け取っても無駄と嘆いている。

 サリバンについては、履歴を見てもロシアとの関係は見られず、出自であるユダヤ系コミュニティの方が目立っている。副大統領のハリスと傾向が似ているため、おそらく次の政権でも引き続き補佐官を務めると思われるが、むしろ綺麗すぎて疑わしいものを感じる。それにアフガニスタンは明らかに彼の失敗であった。国際感覚のない、理論倒れの国際政治の専門家はむしろ悲劇である。

 問題はそのサリバンの田舎者ぶりがどうもウクライナにも見透かされているように見えることである。ATACMSはアテにはならず、業を煮やしたウクライナはたぶんパリャヌィツィアをモスクワに向けて撃つだろう。プーチンについては、バイデンやサリバンよりも、芸人時代に迫害されたゼレンスキーの方がよほど良く知っていることもある。
 

※マクナマラたち(ベスト・アンド・ザ・ブライテスト)を評して、「大西洋しか見えない田舎者」と評したのはハルバースタムである。

 

 ポクロフスクでの攻勢はそのままに、クルスクでロシア軍が反撃を開始したというニュースが数日前から流れているが、タス通信の報道だとウクライナは国境線近くまで追い立てられ総崩れという話になっているが、私は信じておらず、ここ数日は静観していた。

 兆候としては小康状態だったウクライナ軍の撃破数がここに来て再び増えており、何かしらの戦闘が行われていることは確かだが、参謀本部の報告は全戦区の総和で、特定の戦区ではないことがある。戦車が撃破されたのはポクロフスクかもしれないし、ヘルソンかもしれない。これまで得た情報ではクルスク方面のロシア軍は3~6万人で、兵力は反攻にはやや不足のはずである。

 反撃を報じているのが専ら我が国とロイター、ロシア系のメディアで、ウクライナ系のメディアではなかったこともある。ようやく昨日になってNYタイムズでも報じられるようになったが、どうも「反撃のような何か」のようである。中隊規模で分掌して攻撃する戦法はおおよそ予測がつく、ハルキウで試された方法であるし、念のためシヴェルスキー方面の戦況を見てみると、案の定攻撃活動は弱化している。ロシアにも人材がいないわけではない。ハルキウの例だと今回も国境近くまで迫る可能性はあるが、思うにまた梯子を下ろされるのではないか。

※ 一部の部隊がウクライナ領内に逆侵攻という可能性はある。

 シルスキーの階級は上級大将で、相手はたぶん気の利いた中佐くらいである。が、ハリコフに続くパート2では、前回は出し抜かれた総司令官も対策を用意したようだ。森林を利用した戦いに長けた相手に適応する火炎放射ドローンで、10mの上空からテルミット焼夷弾の雨を降らせるえげつない兵器である。効果があるかどうかは定かではないが(たぶん戦車には効かない)、今やシルスキーはドローン戦術の第一人者である。

 8月以来いつまでも居座っているウクライナ軍がプーチンにとって忌々しい存在であることは間違いない。プーチンはクルスクはただの陽動で主戦場はポクロフスクと強弁はしているが、諸都市へのヒステリックな弾道ミサイル攻撃に今回の中途半端な反撃作戦は、この地域の占領がモスクワ市民の不安を煽り、政治問題化しつつあることを示している。が、ゲラシモフにワグネルと共闘する気はなく、これに長距離ミサイル攻撃が加わればクレムリンの不安はいや増すものになるだろう。

 実はすでに供与されていたが、長射程攻撃能力は封印されていたATACMSについては、英国のストームシャドーと併せてアメリカは封印解除に前向きである。ある意味泥縄といえるが、こんなミサイルの助けを借りなくてもウクライナ製ミサイルがモスクワを射程に捉えたことがある。支援国に遠慮の要らない国産ミサイルを使われるよりはと封印解除はすでに既定の方針だったと思われる。ロシアの核は侵攻されても使わなかったのだから、今や恐れるに足りない。ミサイルはシュレメチボ国際空港でもロシア国防省でもどこでも落とせばいい。

 もう一つの悪手は外貨欲しさのロシアがウクライナの侵攻後なおスロバキア、ハンガリー、オーストリアへのガス供給契約の履行を確約したことである。これでスジャの計測所は攻撃できない目標になってしまった。現在欧州向けのガスはドルシバ・パイプラインを経由しており、他のルートもあるが現状ではドルシバが唯一である。ロシア特有の戦略と戦術の不一致がここでも顕出している。

 今夏以降の一連の状況を見るに、大戦略ではウクライナが一歩進めたように見える。ロシアは侮られるようになり、戦場でもうまく行っていない。アウディウカから30キロしか離れていないポクロフスクを落とすのに半年も掛かっている。クラホベのウクライナ要塞も何ヶ月も前に抜けたはずが全然抜けてない。

 ウクライナ側にも問題はある。徴集兵で膨れ上がった軍の訓練が不十分なことで、初期のような機動力を活かした作戦に適さないことがある。が、ロシアのような十把一絡げに突撃させて戦死させるような作戦をウクライナ軍は取るわけにはいかない。肉弾戦法を多用したロシアはとうの昔に機動力を失っている。

 総司令官の判断としては、ここは多少失地しても兵を生還させ、経験値を積ませる必要がある。戦場においては最初の戦いで辛くも生き残った兵士がその後もスキルを上げ、後の戦いでも有利に立ち回ることがあり、戦死させてしまってはスキルは身に付かない。強攻策は賢明ではなく、先のクルスク攻撃のような易い敵と戦わせるべきである。戦争は長引くが、現在のゼレンスキー=シルスキーの指導部は前任者のザルジニーよりその点では一致していると思われ、意思疎通も円滑なことから、見たところ、その余裕は(支援が続く限り)まだありそうに見えることがある。

 というわけで、今の私の見立てはウクライナ有利である。戦争の風向きは変わったように見えるが、プロパガンダではロシアは強力な宣伝機関を有しており、様子が見えるようになるのは少し先になると思われる。

 

 クルスクの戦いは侵攻して一ヶ月になるがウクライナ軍が撃退された様子はなく、司令官のシルスキーは月初にポクロフスクに舞い戻って戦況を監督している。報道によるとクルスク正面でのロシア軍部隊は6万人、ポクフロスク方面はこの方面を担当するタブリア作戦軍のおよそ4倍、ウクライナ全域では50万が展開しているとされる。その多くがドネツク近郊にある。

 ポクロフスクはアウディウカを陥落させたロシア本軍(中央作戦軍)の最大の攻撃目標で、クルスク作戦時には防備から部隊を抜き出してロシア領に向かわせたゼレンスキー=シルスキーの計画は無謀と呼ばれた。が、CNNのインタビューに応じたシルスキーの言を見るに、十分な勝算あってのものだったと思われる。

 まず、ポクフロスク方面に展開しているロシア軍30万はいかにも多すぎる。将軍によると兵力比は1対4とのことであるが、通常、同種の攻勢作戦を行う場合のセオリーは敵の三倍とされる。つまり過剰兵力で、傾向がアウディウカ以降変わっていないことから、ロシア側には部隊を適切に動かせない、あるいは再配置できない事情があり、また戦域情報でも劣位にあることを伺わせる。

※ 派閥抗争だろうとは前から言っている。

 シルスキーは無人機部隊を使い、ポクロフスクにある敵軍のコミュニケーションを寸断し、数個師団の部隊を麻痺させ、迎撃目標を海兵旅団一つにまで絞り込んだ。現在ウクライナ軍は反撃に転じており、戦況は安定している。補給基地の攻略が長期化しているため、ロシア軍は市の南方、M04号線を挟んだ低地にあるノボグロディフカ、セリドベ方向からの攻勢を志向している。

 戦争捕虜はウクライナでは「為替資金」と呼ばれているが、これは同数のウクライナ捕虜と交換するためのものである。クルスクでかなり稼いだが、ここへ来てロシア側はポクロフスクで捕虜の即決処刑を頻繁に行っている。すでに60人近くが犠牲になっているという話もあり、戦時国際法に明らかに違反するこれはクレムリンの指示によるとされる。

 もう一つはドローンとミサイル攻撃である。昨年はインフラが主な標的だったが、今回はそれに加え教育機関というものが加わっている。弾道ミサイル攻撃を受けたポルダヴァは人口30万の中規模程度の都市で、陸軍士官学校とドローン学校があった。避難の間もなく被爆し、犠牲者は300人を超える。

 弾道ミサイルを迎撃しうるパトリオットは都市ではキーウからリヴィウまでの主要7都市に限定されていると思われ、順位18位のポルダヴァはほとんど無防備だったと思われる。使われた北朝鮮製ミサイルは、キーウだったらあえなく撃ち落とされたはずだが、これまで注目されたことのない、松江市くらいの中都市が被爆するとは思われていなかった。しかも不発弾の多いロシアにあって、今回はちゃんと起爆したこともある。

 ウクライナでは大規模な内閣改造があり、ゼレンスキーを除き、開戦当初のメンバーはほとんどいなくなった。現在のウクライナの課題は中長期的にはEUおよびNATOへの加盟、直近ではロシア領に対する長距離兵器使用許可だが、後者については供与された兵器はもちろんのこと、国産兵器でもモスクワを射程に捉えている。アメリカでは大統領選が佳境なので、これは少し様子を見る必要があるだろう。ハリスとトランプは今のところ5分と5分といった様子である。



 クルスク侵攻の影響についてみると、鈴木宗男と並んで「ロシアの代理人」と言った方が通りの良い佐藤優氏がロシアを訪問し、モスクワ市民の様子を伝えている。

 ウクライナ政府によると、この侵攻の目的は主力のあるポクロフスクへの圧力軽減と侵攻を通じロシア市民に動揺を与えることとあるが、氏によるとその効果はまったくないということである。が、モスクワ市民の深層心理は氏が述べ立てるよりも複雑である。

 氏はごく楽観的にウクライナの傭兵とナチス(氏の見解ではそうらしい)は戦時国際法の庇護を受ける資格なく虐殺され、モスクワは戦前より景気が良くなって市民は楽観的としているが、表層のみのことである。

 市民感情については、ノバヤ・ガゼータは抑圧支配の当然の効果として、クルスク攻撃に市民が動揺していないことは同じだが、多くの市民は戦争とプーチン政権を自分とは無関係、関わりたくないとしている心理を伝えている。

 

※ 日本でも政治に対する感情は似たようなものである。

 

 もちろん彼らは毎日千人以上のロシアの若者がドローンや大砲で殺されていることを知っているし、戦争の動機が権力欲で、プーチンとその取り巻きが腐敗していることも知っているが、自分たちの責任ではなく、また責任を負うつもりもないことを心中に期しているのである。自分の生活を脅かされない限り、彼らが政治的アクションを起こすことはない。

 

 パリャヌィツィアは電力インフラに向けて撃つのが良いだろう。私だったら官公庁の合同庁舎を狙う。モスクワは人口1千万の大都市で、目標はいくらでもある。

 クルスク攻撃の効果については、現状ではどの国でも定説がないことが本当である。ウクライナ政府の見立ては楽観的に過ぎるし、これまでの様子を見ても彼らがそう無邪気な人たちとも思えない。隠れた狙いがあるはずで、それについては今のところは良く分からないとなる。

 

 何でも投機のせいにするのは陰謀論だが、やっとまともな説明が出たのでご紹介したい。日本国際学園大学の荒幡教授の説明で、全体を記述したものとしては(今までと違い)かなり良く書けている。

 荒幡氏によると米不足の原因は

①減反政策・・・昨年より△10万トン
②インバウンド、精米ロス・・・9万トン
③パンなどの値上り・・・米への消費シフト

 筆者のいう投機などの影響については

「実は収穫から半年くらいたった春の時点で、お米は不足していて値段がどんどん上がっていました。
 お米は秋に収穫した時点で、『1俵(約60㎏)1万6000円で買う』などと契約している業者がいます。その場合は値上がりしませんが、そのときに在庫を多く持たず必要な分だけ買う当用買いの業者は、『どうも品薄らしい』という情報を得ると焦って『少し高くても買うか』となってしまいます。すると売る側もまた売値を上げて、どんどん価格が上がってしまう(荒幡)。」


 自主流通米の売価がJAの概算金との競り合いになっている事情は書けていると思うが、根底にあるのは時期柄による在庫不足という考え方のようだ。

 疑問点としては、以下の点の説明は上の説明でも不十分なように思う。

①「1俵(約60㎏)1万6,000円で買う」はなぜその価格なのか。
②店頭でインタビューすると口を揃えて「大阪から業者が買い出しに」というのはどういう事情か。

②-2 筆者が愛用している「日本晴」など廉価な米から消えていった理由は?
③不足は事実としても、堂島先物取引を認可しなければ価格はこれほど上がらなかったのでは?

 筆者が観察したのは長野と滋賀だが、時間差があり、長野の方は滋賀より2週間ほど遅れて現象が生じていた。東京は長野より早く不足したと思うが、滋賀の方はディスカウントストア→小売スーパーと傾向がハッキリ見て取れたのに対し、長野の方はややあいまいであった。そういうわけで、在庫切れの前に長野で仕入れたが、そもそも店頭で不足していなければ余分に買ったりしないのである。

 

※ 長野では米は潤沢だったので、7月末の帰省の際に姉に「来月はもっと不足するから今のうちに買っておいた方が良いよ」と忠告したが、その時は笑い話だったが、彼女は忠告が至言であったことに今ごろ気づいているに違いない。

 論調としては説得力の薄いインバウンドよりも減反政策など農水省の失政を槍玉に挙げる声が大きくなっていることから、主としてJAがこの方向に持っていきたいことは分かるが、そもそも農協が自主流通米と競り合って概算金を上げなければ価格は落ち着いたのである。農家としては少しでも高く売りたいことは当然だが、サンマのように高値の花になってしまっては消費はさらに落ち込むし、山口さんじゃないが本当にパスタ国になりかねない。農協の肩を持ちすぎるのも考えものなのである。なお、米の流通中、農協が占める割合は50%弱である。

 政治が介入して調整すべき事案だったと考える。が、自民党は代表選挙の最中で、首相はレームダック、旗を振る者もいないことから、無責任のツケを払わされるのは国民という構図は相変わらずなのだろう。価格決定のメカニズムから高止まりは供給回復後も続くと思うが、一昨年あたりからツケ回しされている物価高、そろそろガラガラポンにしたいと思っているのは筆者だけではないだろう。
 

 なお、衆院議員の任期の続く間、自民党は首相の首をすげ替えて、支持を失いつつ延命を続けるものと考えられる。米は下がらないだろう。

 

 ネット時代の常としてなにか事件が起こった場合に「原因はこれだ!」としたり顔で書いたり、「〇〇は誤解」と事の本質から目を離すようなことを書いたり、「〇〇は〇〇の問題」と当座の解決になりそうにない遠大な内容を記載した記事には注意が必要である。ウクライナ戦争など見ていると、この種記事のオンパレードなので、私もそのままでは鵜呑みにしない。

 しかし、異なるベクトルの記事が乱立し、どれもトンチンカンという例は、「令和のコメ騒動」が我が国ではウクライナを凌ぐ、近年稀に見る椿事だろう。ドイツに拠点を置くロシアのフェイクニュースファームでもこれほどひどくはない。

 インバウンドだとか、一般家庭の買い貯めという説にはあまり説得力がない。すでに購入量が制限されており、買い占めたくてもできないのが実情だ。少なくともエンドユーザーや飲食店のレベルでは無理である。

 話を食料自給率や農水省の施策に求めるのも何だかなという感じである。当座の解決にならないし、そもそも農水省の役人は一般より事情には詳しい。不足が明らかな状況で対策を取らないのは不自然なことだ。

 「米がなければパスタ」という言い分もあったが、パスタをタイ米に置き換えたときの惨状はある程度の年代には記憶のある所である。

 実を言うとこれらの記事にはおしなべて欠けているところがあり、私はそれを基準に判断しているけれども、様々な論調の記事を見ると「一つの現象にいろいろな言い分があるものだなあ」と感心してしまう。そしてどれも的外れに見える。

 欠けているものというのは、この現象は8月から始まった堂島取引所のコメ先物取引とJA(農協)の足の引っ張り合いであることが見て取れることがある。従来、米価は農協が一定の金額を提示し、産地や重量ごとに定額で取引されていた。

 が、2月に堂島取引所が認可を農水省から取得し、8月に取引を開始することが決まったことがある。従来農協が決めていた米価を市場に委ねることで、農家には売価の予想をしやすくし、市場メカニズムで価格を決定するというものだ。すでに金融商品が売り出されており、1単位60キロで誰でも取引できる。最初の終値は1単位17,500円ほどだった。

 価格の決定というのは難しい問題で、投機も一概に悪とはいえない。むしろ必要悪というべきで、これがなければ価格は力関係で変に歪められたり、恣意的に決められることもありうるのだから、市場での決定は長い目で見ればメリットは少なくない。

 問題なのは、農協の制度も併存して用いられていることである。今年の買取価格は鹿児島県で60キロ19,000円と、内容によるが堂島の価格を上回る例も報告されている。

 これだけ見れば、何が起こっているかは一目瞭然である。農家にしてみればできるだけ高く売れた方が良いのだから、農協と堂島の双方を見比べて高い方に売るのは当たり前である。

 堂島の方も過去に同種の取引を実践して失敗した例もあり、新しい取引では保管に費用のかかる現物売買ではなく、一種の債券市場で取引できるようにしたことも災いしただろう。この場合、取引以前に農産物は特定されていない上、生産者が引き渡しの段階で反故にする可能性も十分あるからだ。規制はあったはずだが、実際の所は取引を促進するために参入のハードルはごく低かったはずである。

 つまり、コメは足りているのだが、農協と先物市場の綱引きで、在庫は生産者とエンドユーザーの間で滞留しており、なおかつ報道で価格上昇が見込まれているために売り渋りがあり、市場に出てこない。これは制度に欠陥がある。

 実を言うと、私の場合は異変に気づくのはごく早かった。我が家の米は「日本晴」というごく変わった品種で、今の米はこれより美味しいが、安く販売されており、行きつけのJAストアでは一番安い。

 

 が、こういうのが一番危ない。導入したばかりの制度では、安い米ほど市場に出したときの値上がり幅が大きいからだ。なので真っ先に店頭から消え、こちらも事情を調べて上の仮説に行き着いたのが一月前である。今では魚沼産コシヒカリなど高い米も店頭から消えている。

 本当ならこれは首相自らが記者会見に応じ、釈明しても良い話である。米価の決定に新しい仕組みを導入すること、それにより米価は一時的に上がる可能性があるが、長期的には消費者のメリットであること。逃げ回る必要がある話とも思えない。現にモリヒロは逃げなかった。

 当然取り上げられて良い話が、今に至るまで伏せられていることには驚くばかりである。野党まで静まり返っていることから、かなり周到な根回しをしたのだろうし、それだけパニックも予測し得た話だと思うが、今の首相は生活感のなさでは歴代でも上位に入りそうな人物の一人である。

 維新の吉村の「備蓄米の放出」はリップサービスだと思うが、当の本人は先物債権を山ほど買い込んでいるに違いなく、それで不正な利益を目論んでいるのだろう。株式だったらインサイダーである。が、この先物取引の仕組み、前例がなかったこともあるが、どうもあちこちが穴だらけ、杜撰だらけのようである。


(補記)
 「コメがなければパスタを」は、私の地元の大学で客員教授をしている山口真由さんだが、私は信州大学はセンター試験以外で入ったことがないのでキャンパスで彼女の姿を本当に見るのかどうかは良く知らない。いるなら松本キャンパスのはずである。実を言うと、彼女の言説はかなりトンチンカンとは思ったが、別に不快も感じなかった。

 なぜかといえば、とうの昔にこちらもスパゲティを茹で置きしてナポリタンを作っていたからで、作り方は見よう見まねで覚えたが、さすが喫茶店料理、タマネギや魚肉ソーセージを加えても5分で作ることができ、味も良く、意外と飽きないと良いことづくめだったこともある。私は隠し味にリー・ペリンのウスターソースを加えるが、ニンニクは使わない。

 こういうのは本格派を気取ってはいけない。気取るとかえって不味くなる。時間を掛けてもいけない(焦げるからだ)。パスタ料理に魚肉ソーセージを刻んでいる私も複雑な気分だが、これはイタリア料理ではない、日本料理だと自分に言い聞かせることにしている。元は進駐軍の米兵のスパゲッティのトマトケチャップ掛けらしい。日本人の食生活もだいぶ変わっているのである。