ウクライナ戦争についてはアメリカで新大統領が就任するまで動かないと前に書いたが、クルスク南方に展開している北朝鮮部隊については先月にスジャ南方のプレホボ村を襲撃し、同地のウクライナ部隊を敗走させて村を占拠したことがある。ウクライナ側の損失は300名を超え、DPRKも同程度の損失を受けたが、ごく客観的に見てこれはDPRKの勝利と言えよう。同村は現在はロシア軍の拠点になっており、奪回された様子はないからだ。

 が、同時に朝鮮人民軍の装備の立ち後れも明らかになった。人民軍はいわゆる第二次世界大戦形式の戦術、徒歩で地雷原を突破し、数を頼んで銃剣突撃する戦法を選んだが、これは条約に基づき対人地雷を装備していないウクライナ軍にとっては盲点となった。大隊規模の損失は彼らがこの種の攻撃を全く予期していなかったことの証左となる。

 しかし、占拠には成功したものの、後続する部隊に対してはウクライナ軍はドローンと砲兵隊を主軸とする反撃を試み、ここで人民軍はかなりの損失を出している。一説によると損失は一千~三千名の範囲であり、最大だとすでに一万名いる人民軍の三分の一が戦闘不能になったことがある。戦力としてのDPRKの脅威は消滅したと見ることができ、それでいてプレホボ村の戦略的価値はほぼゼロと言って差し支えない。

 似た状況の戦いは、昨年のハリコフやボルチャンスクへの奇襲攻撃があるが、この場合はロシア軍はオートバイや民生用車両など機動力は確保していた。そのため敗勢が明らかになった後は損失を出しつつも部隊は撤退に成功しているが、機動力のない人民軍の場合は兵力を逐次投入する以外に道はなく、それが望外の損失の原因の一つになったと考えられる。この戦いぶりから見て、この方面は人民軍の担当なのだろう。言われているようなロシア軍の補助などではなさそうだ。

 が、この現代戦の時代にあっても、土地を占領するということは歩兵を都市村落に踏み込ませることであり、そうして確保された拠点は容易には失われないものという教訓を人民軍の戦いは教えている。奇策を用い、ロシア兵がオートバイで逃走したリプシやボウチャンスクはウクライナの手に戻ったが、プレホボ村は旅団規模の損失を受けてもなお人民軍の手に残っているからだ。ロシア軍ならとうに放棄しているだろう。



 ここではもう一つ見える状況があり、上図は以前に私がクルスク方面の戦略配置図として図示したものを修正したものだが、この方面のロシア軍の規模は五万人(プラス人民軍一万人)と言われるが、実のところはもっと少ないのではないかと思えることがある。クルスクでの主戦場は人民軍のいるプレホボ村ではなくスジャ北西のゼレニ・スリャク村であり、付近にあるスナゴスチ貯水池である。ここに大部隊がいることは戦闘の数からして明らかであり、ウクライナ軍の防衛の主軸もこの村を通る街道沿いに行われている。

 もし、ロシア軍の規模が公称通り五万人なら、昨年作図したように三方向から分進合掌して都市を制圧すればそれでよく、人民軍の位置も想定通りスジャの北東で、二倍以上の兵力差なら都市を占領するかポフロフスクのように陥落寸前まで追い込むことはできたはずである。が、これまでの戦いぶりを見るに、実働兵力は三万人あるかないかではないだろうか。

 ウクライナ軍についてみると、ドローン戦術と諸兵科連携にはますます磨きが掛かっており、順序はいろいろだがドローンで敵部隊を攪乱してクラスター弾で一網打尽という流れるような手捌きには緒戦を考えると格段の差がある。戦場は人間が居られないような場所になりつつあり、これでは一千人でも一万人でも愚直な銃剣突撃では死者を増やすだけという感じである。こと平野部では一キロ前進するのも至難だろう。

 ロシア軍については、開戦当時ロシア軍の戦車は三千両、装甲車両は一万台あるとされていたが、三年間の戦争でほぼ全部が失われたことが報告されている。最新型の戦車はついぞ見なくなり、長期保管の古戦車まで引っ張り出して戦っていたがそれもなくなり、オートバイやラーダ自動車で突撃する姿が日常になりつつある。それでもクラボベ要塞は陥とし、ポフロフスクを包囲する情勢を示しているが、総司令官ゲラシモフ直卒のロシア本軍の実力をもってしてこれでは先が思いやられると同時に、彼らが駆逐されないのはウクライナ軍も同様に弱体化しているからだが、損失は一日千五百人を超え(昨年のほぼ倍だ)、当面は大きな勝利は望めないことについては、彼らも困っていると思われる。

----兵庫県知事選

 よく分からん選挙である。再選された知事はこれといった個性も理想もない若いだけが取り柄の人物で、彼をヨイショした広告会社の女性も頭空っぽの調子の良いだけの女で、それで東京からやってきて彼らを支援したNHK党の立花はデマと虚言だけが取り柄の騒動屋と来ている。よくもまあ大根役者ばかりこれだけ集めたものだ。

 前にも書いた通り、地方選挙はその土地ごとに事情があり、外野からは判断しがたいものである。判断には情報と慎重さが必要だが、聞くと神戸の人は「立花さんに真実を教えてもらった!」、「私たちは騙されていた!」と本当に言っているのだから、いったい何が起こったのだろうと思わせる。

 が、元々長期政権の後釜候補の勝率はそれほど高くない。前任者のイメージがどうしても染みついており、良い面もあれば悪い面もあり、大方にとっては「もう飽きた」というのが本当であるから、善政を敷いていても分かってもらえることはあまりないのである。善政そのものに飽きているのだから。

 私個人の見方としては、選挙で選ばれる首長はクルマの運転手である。クルマには色々な種類があり、高機能なクルマもあればシンプルなモデルもあるが、大事なことはその機能を理解して、乗客を安全に目的地に運ぶことである。

 ところが、たぶん40年前の大前研一あたりから始まり、ビートたけしの番組で名前を売って国会議員や首長になった政治家たちの言い分は違っているようだ。「改革」というのがそのキーワードであり、彼らの主張をクルマに喩えるなら、ハンドルを取り外してジョイスティックを付けたり、タイヤを外してキャタピラを付けるような提案ばかりである。機能を理解するのではなく、個々の装備につき、大前の場合はごく簡単なビジネス論理で要不要を勝手に決めつけ、全体との調和も考えずにいじり壊すようなものだったが、できるわけないので、この「改革」は実現しないものと相場は決まっている。

 政治学者の罪も重い。福祉国家(行政国家)とは世界大戦後に普及した概念だが、実を言うとこの概念の提案には民主主義に対するある種の諦観が含まれている。民衆は民衆自身で制度を修正できないという諦め、民衆の福利---最大多数の最大幸福を実現するには再配分を基本に厚生機能をビルドインする必要がある。それが福祉国家だというものである。民主主義(多数決原理)とは関係なく鼎立しうるこれは社会主義国の影響を受けたこともあるが、戦前ドイツの顛末がヒトラーと第二次世界大戦だったことを見れば、概念が受け容れられたことには一定の理由もある。

 「よりマシな方を選ぶのが政治」という言葉は、こうした制度の下でこそ意味を持つ。「改革」を連呼する人々に言いたいことは、その前に自分の乗っているクルマがキャデラックなのかスズキ・アルトなのか、まず考えようということである。センチュリーにはショーファーなりの、NBOXなら軽自動車なりのふさわしい使い方がある。一応彼らによれば、日本は中福祉中負担の国らしいから、クルマでいえばカローラくらいだろう。その中でどの機能を使えば乗員乗客を快適に目的地に運べるか、どんなクルマでも運転手次第で良くも悪くもなることは誰もが知っていることだ。しかし、「改革」の議論はこれと次元を異にする。

 福祉国家を上記のように考えるなら、「複雑」な政治状況に対処する方法はごく簡明である。制度を複雑にすれば良いのであり、それは需要と供給によって決せられるため、政治家個人の資質とは関係ないものだと言うことである。

 こういったことを政治学者は全く生徒に教えなかった。私はこの種の分野については世間一般より良い教育を受けた方だと思うけれども、そこでも聞かなかったのだから、世間一般の意識は「より良い運転手」ではなく、サムライが刀で革命した明治維新で、「維新」や「改革」なのだろう。

 確かに160年前の日本はあらゆる点で遅れていたから、産業から法制度、市民社会に至るまでありとあらゆる点を「改革」しなければいけなかったことは確かである。あちこちに喧嘩を売る血の気の多い政府の浪費を賄うために米本位制から金本位制に経済も改めなければいけなかったし、これは世界の平均よりだいぶ早かった。

 しかし、これに匹敵する体制変更の必要が現時点であるかといえば、その必要はないように見える。確かに日本ではおよそ60~70年ごとに大きな政変があるが、アメリカ合衆国は200年以上同じ体制のままだし、現代立憲国家のような緻密に作られた制度というものは、時間が経過したからといって、そうおいそれとモデルチェンジするものではないのである。

 

 現代のアメリカの問題は制度の問題というよりは、行政機構の作動不良である。ITや金融を除き、ほとんどの産業で労働環境の悪化と所得低下を起こしているのに政府は挙手傍観し、さらに言えばこの状況でもGDPの大部を占めるのはイーロン・マスクではなく、これらの人々の生産活動なのだから。

 ここでこと運転手として維新を見ると、その運転ぶりはあまり褒められたものとは言えない。根拠地である大阪の府政は混乱しているし、任命された区長も不適切、行政サービスの質は低下し、失政を糊塗するために大阪万博のような浪費に血道を挙げるしか芸も能もない。いちばんの不思議は、これだけ失政を重ねながら、10年以上も運転手の能力に疑問を持たれないことだろうか。維新という政党はその機構を見ると分かるが、「改革」を言う前に、クルマがどう動くかも理解していないようなのである。

 NHK党の立花はそんな時に現れた。彼が大型トラックはおろか軽自動車さえ運転するには危険人物であることは見れば分かる。ドライバーの一亜種として「危険運転性格」というものがあり、換車の理由が全て事故による破壊という危険性格が認知されているが(交通安全センターに行くと分かる)、立花は運転手ですらなく、単に選挙運動に仮装して選挙制度を破壊しているだけである。それが正義の使者のように言われているのだから、なんともはや。

 神戸の様子があまりにおかしいので、私も立花のビデオを数本見てみた。なるほどタイトルは大げさだが、中身から真実を探すのは、たらこスパゲティでタラコ一粒を探すくらいの労力が必要で、大部分は他ですでに公表済みの動画の再編集で、いったいこれのどこに人を動かす力があるのか首を捻るものだった。

 彼は「上っ面で物事を判断しない」人向けに動画を制作したとするが、構成そのものが彼の言う「上っ面」な人しか受け付けない内容で、立花自身の映像人としての経験不足と滑舌の悪さもあり、まとまった主張がどこにあるのか、観ても何の印象も残さないようなものに成り下がっていた。

 今の制度に改善すべき点がないとは言わない。直すべきは直すべきだろうし、活用されていない資源は活用すべきだろう。発注や役職に能力に見合わないものがあれば、それは公正な評価で見直すべきだろう。しかし、それが無知蒙昧と混乱と狂騒の中でしか行い得ないというのであれば、その主張はたぶん間違いだろうし、成果も貧しいものしかないだろう。

 私も言われたことがあるが、それが不満なら「日本から出て行け!」という人がいる。こんな維新とネトウヨばかりの国は出て行っても構わないと思っているが、行った先で困るので、出て行くなら一人当たり500万円の手切れ金をくださいと再反論することにする。実は私の独創ではなく、ウクライナ難民を巡ってある国の政府が本当に提示したことである。これがまともな政治感覚というものだ。

 

 「1年半でメモリの容量が倍になる」はムーアの法則だが、日常生活でこれを意識している人は日頃コンピュータ関連の仕事をしている人以外は少ないように思う。例えば私がサイトを始めたのは20年前だが、そこからやりくりすると20÷1.5=は13.3で、コンピュータの容量は1万倍(2^13.3)に増えている計算になる。パソコン通信の時代のファイルは数キロバイトで収まっていた。サイトの開設当初は無料サイトの上限一杯の50MBで400ページ以上のファイルをやりくりしていたことを思い出せば、宇宙は拡がっているのである。

※ジオシティーズ時代の話だが、そのため時折コンテンツを削って(削除)空き容量を増やす必要があった。

 数キロバイトのテキストファイルも画像など納めたWebページだと約百倍となり、今の動画サイトだと数十MB~GBの大きさのものが普通で、画像に比べれば動画の方が平均百倍ほど大きいことから、この20年で進歩した分は概ね動画に関連するもので消費され、これが現在のコンテンツの主流であり、我々の使える空間は実は大きく拡がっていることがある。20年前と同じではない。ここで100人の聴衆と1万人とでは用いる手段に違いがあるのは当たり前である。

 ただ、コンテンツの制作に時間が掛かるようになっていることも本当で、この文章のような「覚え書き」なら、ワープロを前にカタカタとキーボードを打てば事足りるが、YouTubeの人気コンテンツではテレビ番組並みの手間が掛かっており、寡占とランキングというネットの特徴から、そうしないと見てもらえない、旧式な表現方法はよほどのことがないと人の目に留まらないということがある。

 こういう中でネットの表現活動を続けていくには、それなりの嗜みが必要である。誰にも読んでもらえないことを覚悟で文章を書き続けるのは空しさを感じるものだし、読んでもらっても知り合いの常連十数人ではモチベーションも下がるというものだ。

 そこで当方が考えたのが「覚え書き」という形式で、文章制作に用いるコストや責任を思い切って下げる。基本的には無責任ということで、推敲もあまりせず、前後の矛盾もこの際無視して「書き捨て」に徹するというものである。

 人に訴えることを考えないのであるから、例えば兵庫知事選で斉藤知事が再選されても兵庫県民の民意などは私にはどうでも良い話であるし、世の中の多数派がどうだとか、流行だどうだとかいうことも一切無視である。そういうことに頭を使うことは勿体ないということだ。

 それで何かメリットあるのとかいえば、ないこともない。予め考えをまとめているため雑談のタネには使えるし、期待しているのもせいぜいその程度である。商品や役務を提供しているわけでなし、自己PRに対する期待値がほとんどないのであるから、これはこれでいいとなる。

 とりあえず、今の世界では動画サイトが花盛りだが、次はどこへ行くのだろうか。動画ほどリソースを消費し、誘引力のあるコンテンツの存在はほかにない。もうしばらくすれば、これまで作られた全動画や全文物を納めてもなお余りあるようなデジタル空間が現出することは確実だが、人工知能は有力な一つかもしれない。何でも収まるといっても、何でも目を通す時間は我々にはないために、煩瑣な作業を確実に遂行できるエージェントが必要である。ただ、確実に現れるとは言い切れない。

 現在のスタイルにも問題はないとは言えない。「独りよがり」というのがその最たるもので、その孤立はグループや学校職場でのそれとは根本的に異なる。これらについては懐柔することで円満な人間関係は築けるし、現に私もそうしているが、ネットの世界では人と折り合うことは個性を失うことである。基本的に私はこの世界では「人は分かり合えない」と考えている。「分かり合った」人間など、この世界では価値がないからだ。やっぱりエージェントが必要だ。

 兵庫県の話があったので、久しぶりに公職選挙法に目を通したが、ご多分に漏れずこの法律も遅れていて、メディアの進歩をほとんど捉えていないことがある。インターネット(ウェブサイト)での掲示は相変わらずの「文書図画」で、有償広告は禁止されているが、動画を配信してアファリエイトを入手する機会については考慮されていない。アファリエイトでの報奨も「有料(公選法142条の6)」だとするには、古道具のこれでは解釈論のウルトラCが必要だろう。

 いずれにしろ、個人が片隅でカタコトと書いたくらいでは影響力のある時代ではなくなっている。注目させるにはうんざりするほどの手間と空々しいナラティブが必要で、それは現実の智慧や洞察とはどこまでも関係のないもので、手間のための手間であり、資本の手でそういった手間を掛けて提供されているものの中身がおしなべて陳腐なことを見れば、本質的なものについては人を説得することなど諦めて、自分の道を追究した方が良いとなる。

 公選法のようなものについては、私はこれを制定した人間もその政府も信用していないために、違反したところで「それがどうなの」というのが率直な物言いである。わずか二週間足らずの選挙期間で候補者の人となりが分かるのか、報道の中立性を盾に開票まで各候補者の見識や政策の当否につき何の情報も提供しない態度は適正か。国会議員はともかく地方首長や議員は5選も6選もしているが、本当にふさわしい人物なのかといったことには、この法律は何も答えるところがない。
 

 斉藤の追及は買収罪で行くというのがテレビの方針のようだが、その見識自体余り考えられたものには見えない私としては、さっそく躱され手詰まりになっているようだが、この筋書きの先の見えた陳腐な内容が、派手好きの女性社長のスキャンダルと合わせつつ、しばらく延々と続くのだろうなと、うんざりする気分である。「国民」がそれで満足しているというなら、それは私ではないし、しゃあないか。

 

 ウクライナ戦争ではドローンが脚光を浴びたが、ウクライナ軍の公表するドローンの「大戦果」を見つつ、ふと疑問に感じるのは、どちらの軍にもこの蚊とんぼのような飛翔体を撃墜するドローンがないことである。

 ビデオではウクライナ軍は度々ドローンの撃墜を試みており、成功した例もあるが、空対空の火器を欠き、大昔の海賊が使った「かぎ竿」のようなものでようやく落とす様子はかなりしんどそうである。ドローンとドローンの間には2,000~3,000万立方平米ほどの空隙があり、これは同じ大きさの二次元平面に比べ200~300倍ほど大きいし、そこを飛翔して敵ドローンに「かぎ竿」を引っかけるには、戦闘機ドローンはかなりのエネルギーを携行する必要がある。思っているよりも厄介なのである。

 電磁波を浴びせて無力化する技術もあり、携帯型のジャミング装置が前線に配備されているが、着陸させるまで電磁波を浴びせる必要があり、空対空ドローン用には使いにくい。かぎ竿のほか、網を掛けたり鳥を訓練したりする方法も提案されているが、比較的多用されているのはF-16戦闘機やミグ29で、これらはもっと高額な飛翔体を撃破するアイテムだが、背に腹は代えられず、ドローンより何倍も高価なミサイルを目標に放っている。ウクライナ最初のF-16の墜落はこのドローン迎撃作戦中のことである。

 ドローンを用いた戦いが進化の途上にあることは間違いない。航空機の歴史では、観測気球に代わって戦場に出た初期の航空機は搭乗員がピストルやライフル銃を携行して敵機に撃ち掛けることから始まった。大戦の後期にはフォッカーがプロペラ同期式の機関銃を開発したことで最初の戦闘機が現れ、制空権確保→爆撃及び攻撃→地上部隊の進撃というパターンは100年以上も戦争の標準フォーマットになっている。

 ドローンの携行重量は平均的なものでは1kgほどで、大きさもA1の方眼紙に収まる程度であることから、帰還して再装填するよりは安上がりと爆薬を積んだまま突撃させる戦法が多用されている。

 これについては最近技術革新があり、ウクライナ・ロシア双方ともオペレータが突進したドローンからの映像で敵兵士の断末魔の様相を直接目にすることから、特攻ドローンは最終誘導で目標を外す、あるいは逸れるといったことが多くあり、特にロシア側に顕著だった。が、AIを搭載することでこの部分は自動化することになり、目標を指定するだけであとは殺害まで自動的にやってくれる運用が実用化している。この運用だと一人のオペレータが複数のドローンを使うことが可能になり、ドローンの量産はどちらも軌道に乗っていることから、制空用ドローンの開発は両軍にとって焦眉の急となっている。

 あまり想像したくない光景なのだが、もしドローン装備のロシア軍がどこかの一寒村に上陸し、村落にドローンを放てば、あとはAIが住民の皆殺しを自動的にやってくれる、そういうことも考えられる。死体の焼却もする火炎放射ドローンも使えば、上陸した兵士は何の良心の呵責を感じることなく、灰となった住人の遺骸を踏み越えて進軍することが可能になるかもしれない。

 大昔に日本海軍の海兵隊が飛行場を建設するために島嶼の住民全員を皆殺しにした事件があったが、これは事件にすらならないかもしれない。しかし、遙か遠くの都会で制空用ドローンを操縦するゲーム好きの少年が蛮行を未然に阻止するといったことも考えられる。中東でアルカイダの幹部を殺害したアメリカ軍のドローン操縦士は多くが非正規職員であり、母親もおり、イスラム国の首魁を殺害した後は幼稚園に子供を迎えに出向いていた。

 なお、ドローン操縦士は両軍の兵士から格別に恐れられ、恨まれているため、捕縛されると特にロシア軍で残忍な殺され方をすることが多い。つい先日も一人で300人を殺した元ゲーマーのウクライナ軍兵士が戦死したが、あまりぞっとしない最期だったようである。航続距離の問題で多くのドローンは戦線のすぐ近くで操縦されていることがある。

 航空機の歴史から紐解くと、現在の状況はしばらく続くだろうが、いずれ変化が訪れると考えられる。容量と質量の問題で、現在開発されている火器でドローン搭載に適当な火力のものはないが、ミニチュア大の空対空ミサイルや見越し照準装置など必要な技術が出揃えば、ドローンの制圧が可能になり、同時に戦線も動くこととなると思われる。

 こういう技術革新は経済封鎖でエレクトロニクス技術に出遅れたロシアよりは、西側・ウクライナで起こる可能性が高い。もちろんその前にロシアが財政破綻したり、ウクライナが降伏したり、ロシアが核兵器を使う可能性はそれなりにあるのだが。

 

 

 当選したものの、また雲行きが怪しくなっている兵庫県知事選だが、上記の記事を読むといくつか示唆に富む点がある。

1.前の選挙が問題(維新vs自民)

 斉藤が勝利した原因の一つはその前の選挙(2021年)で斉藤を支持した県民のイナーシャ(惰性)が少なからずあったことがある。先代、先々代の兵庫県知事は教養があり、人品骨柄も良く、官僚としても斉藤より格上(井戸:審議官(部長相当)、斉藤:理事官(主任・係長相当)で3ランク違う)で、これといって問題のある人物には見えなかったが、ケレン味のない分、面白みもなかった。井戸県政の時代には維新との対立があったが、隣接する大阪における集団精神錯乱(維新)と怪気炎もあり、堅実な官僚知事に県民が飽きたということがある。

 維新はインチキ政党だが、とりあえず改革を標榜しており、それが支持する斉藤は65歳の井戸の後継候補、金沢和夫よりも若く溌剌とした候補に見えたことがある。維新が勝った選挙の結果は書くでもないが、この有権者個々における「成功体験」が斉藤勝利の原動力の一つとなったことがあり、おそらくは最大の原因であろう

 民衆というのは得てして愚鈍で、考えることも情報を集めることも倦怠するものである。特に日本では一度投票した若い知事への支持はパワハラや少女売春ごときのスキャンダルで揺らぐことはなく、あの扇動屋立花のNHK党による「パワハラはなかった」論が染み渡るにしても、兵庫県民には嬉々としてそれを受け容れる素地が元々あったことがある。

※ 虚栄心とか羞恥心といったごく素朴な感情に訴えるものである。

 インフルエンサーを通じて、有権者に「スピン」があったこともある。今回の現象は兵庫県独自の現象で、SNSの普及により、今後も類似の現象は各所で起きるはずだが、その射程は案外短く、一般化はできないものと考える。「スピン」理論自体は何十年も前に紹介されたもので、今さら目新しいものでもない。

 

 兵庫県の複雑な政治状況、自民党の分裂を取り上げた郷原氏はそういう説明をしていないが、当方の見方はそういうものである。それに氏も任期5年の前任者(井戸)を既得権益呼ばわりは違うだろう。

※ 筆者の勘違いで、井戸知事は2001年から2021年まで5期20年務めており、5期を5年と取り違えた。従って、郷原氏は正しい。



2.公益通報制度の対象外

 この辺は引用文章からは判然としない。が、公益通報に関する下りは少し首を傾げるものがある。氏は前県民局長の告発した案件の大部分は公益通報者保護法の対象案件ではなく、保護法は限定列挙であるとしているが、この読みにくい法律の別表一号には一般法である刑法が挙げられていることがある。これは元々事業者における通報を前提とした法律で、別表8号の対象法は500余に上るが、地方自治法や公職選挙法は対象とされていない。

 それゆえ、告発案件7つのうち6つは限定列挙の対象外と氏は述べているが、対象法の列挙は極めて多種、多様に渡っており、法律家である氏でも全体の把握は困難なものである。例えば7のパワーハラスメントはうつ病を発症したなら刑法であれば傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)であるが、これは地自法に基づく各自治体の懲戒基準では停職程度の事案である。これはなまじ除外したばかりに処罰がより重くなるということになり、限定列挙は結果の妥当性を欠く。

 やはり限定列挙ではなく、事実上の例示列挙と見るべきではないか、それに告発者にこれほど多くの法令を精査して刑罰法規を選択せよというのは告発者に過大な負担を強いるもので、それこそ法の趣旨を形骸化するものではあるまいか。私の考えでは県民局長の告発は公益通報者制度の外部通報に該当し、法の保護を受けるべきであったと考える。

※ 制定者が限定列挙と考えていたことには疑いはないだろう。

 処罰のあり方にも問題がある。県民局長の告発の内容を見るに、処分はせいぜい戒告程度が相当で、停職や懲戒免職は明らかに行き過ぎである。斉藤は三条の「相当な理由(真実相当性)」を内部調査や処分の根拠としているが、これは規定の仕方からして、それを判断するのは県知事ではなく裁判所である(郷原同旨)。

※ 「相当な理由」は全てが真実というわけではなく、誤信により真実でなく、証明に失敗することがあるためである。その判断に首長は適していない。

 ここには困った問題があり、郷原説(二条)を取っても斉藤説(三条)を取っても、件の県民局長の告発は法の適用の埒外で保護されないという結論になることがある。

 下された処分は告発の内容に比べ明らかに重く、兵庫県で恣意的な処分(それ自体違法なもの)が行われたことは明らかである。なので、ここでも通報者は公益通報者保護法で保護すべきであったという結論に妥当性があることになる。

 私の考えは郷原氏の考えとは異なっているが、元より法律は完璧なものではないことがある。公益通報者保護法のように複雑で読みにくい法律の場合は運用を積み重ね、判例を集積して妥当な運用を模索する姿勢を示すことが不可欠だろう。


3.証明困難なネット工作

 一夜にして選挙後の流れを変えたのは文中にある折田楓氏のブログ記事だが、郷原氏は公選法221条(買収及び利害誘導罪)を問題にしているが、率直に言って疑問がある考えである。というのは、折田が選挙運動の主宰者だったことは事実としても、インフルエンサーや運動員は折田以外に何人もおり、折田が彼らを組織して選挙運動することに対価関係があったかといえば、なかったように見えるからだ。

 折田の会社への支払いも選挙ポスターの制作など一見して合法な内容であることは予想できることであり、それが法外に高額ならば上記の疑惑も理由なしとしないが、おそらくそうではないはずであることがある。

※ 郷原氏は無謀な折田氏の行動を立花氏に対する「嫉妬」としているが、ありそうな話ではある。

 ここは地道ではあるが、公選法142条の6(インターネット等を利用する方法による候補者の氏名等を表示した有料広告の禁止等)における罰則である公選法243条など用い、関連する個人や企業を一つ一つしらみ潰しに起訴していく方が早道ではないか。折田を中心とした陰謀組織の全容の解明は困難だろうし、組織を買収とすると、最近の選挙に多い勝手連や無所属候補の支持者もグレーゾーンになり、別の意味で悪影響が予想できるからである。

 郷原氏は当選無効に加え、公選法251条の3(公民権停止)をも含む重罰を予期しているが、これは郷原式ではなく、面ではなく点と点とを結び、当選無効(251条の2)を目指す方が平易と思われる。

 SNSを用いた広告に金の流れがあることは、最近の動画は編集など凝ったものが多く、不特定多数の視聴者にアピールするにはプロの手腕が不可欠なことがある。立花のように候補者とインフルエンサーを兼ねている例もあり、広告収入も入ることから、目立つ動画があれば、選挙ビジネスをしている立花は例外としても、それは候補者や選挙関係者に繋がる金の流れがあると推量してよいものになっている。

 

 

 上の画像は私も取っておいたのだが、あまり面白くないネタということで削除してしまった。が、週刊誌は見逃さなかったらしい。公選法はそれがインターネットでも選挙期間中の有償での文書図画の配布を禁止しており、折田さんの会社は企画会社であることから、選挙中のSNS工作の疑惑がある。ほか、元より近しい間柄で寄附、運動買収があるが、一見してあからさまでベタな選挙違反案件である。

 ただ、我が国の選挙制度というもの、万年与党の自民党の都合に合わせて作られているということもあり、告発はされるだろうが立件までされるかは疑問を持っていた。この種の話はどの選挙でも数多あるからだ。そもそも規制が緩いのも、他でもない自民党が選挙期間中にデマや怪文書など汚い手を多用していたことがある。

 地方選挙の場合、選挙区とその他で温度差があることがあり、こと外野の視線からは公平な論調は期待できない。実情を知るにはやはり現場に赴いてナマの声を聞く必要がある。

 ただ、それを差し引いても斉藤は「汚い勝ち方をしたな」という印象で、それは勝てば何をしても良いという志操の持ち主のようだが、禁じ手というのは一度使うと相手も同じ手を使うことから、二度と使えないから禁じ手なのである。つまり、政治に必殺技は使えない。

 私個人は政治は「一寸先がドブ」と日頃から広言しているし、今回の選挙も予想外の結果だったが、トランプ勝利同様、想定はしておくべきことと思ってはいた。蓋を開けてみるまでは分からないのである。

 もう一つ、政治というのはエントロピーの支配する世界で、諸相は移り変わり、「理想の花は必ず枯れる」運命にあることがある。良い政治、良い制度を作っても、必ず抜け道があり、堅牢な施策は崩れ去り、無秩序が取って代わるのである。飽きずに権力を追求できるような異常者しかお呼びでない世界である。そして、権力は必ず腐敗することは言うまでもないことである。

 当面の間は議会の応答が問題となるので、再度当選したことで不信任するか解散するかということになるが、私としてはこの事情なら再不信任も許容できると思っている。

 上に述べた通り、斉藤の勝ち方はあまりきれいなものではない。選挙期間中の異常な空気はこちらにも伝わっていたが、SNSに加え、統一教会まがいの運動員があり、また当選後すぐに自分を失職させた議会議員に報復を企図するなど、露骨な権力闘争で辟易するというのが本当だ。貪欲だが、この人物には理想というものがない。兵庫県民の民意などどうでも良いが、人物に再選されるだけの価値はない。

 SNS工作に選挙資金が流れていたなら公選法違反だし、おそらく違反しているが、禁じ手を使う相手には禁じ手で応じるのが正攻法である。そもそも内部告発を揉み消そうとしたことからして間違っているのだ。正直であることは日常生活でも政治家でも最上の手札だが、彼は正直でないし、選挙工作に尽力した折田楓氏もアッサリと切り捨てた。現在の斉藤は脆弱な状態にあり、私だったらそれを討つことを躊躇わない。

 ただ、政治というものは、国民というものは、往々にして正しい選択をしない。県議会が微温的に斉藤との共存を図るなら、兵庫県民はいずれそのツケを支払うことになるだろう。政治の腐敗は別に斉藤一人の専売特許ではないからだ。

 

(追記)

 「立花さんありがとう♡」という折田の記事は私も目を通したが、選挙以前から兵庫県の諮問委員などで斉藤と関わりのあるこの女性、選挙のことは何も知らんのだなとワキの甘さに開いた口が塞がらなかったことは覚えている。こういう広報をやる際の鉄則は「守秘義務の厳守」である。それを鬼の首を取ったようにベラベラ喋っているのだから、お調子者であることは斉藤も知っていたはずだが、見て背筋が寒くなったのではないか。

 

 一読した印象では、それでも伏せられていることがかなりあると思ったが、例えばスキャンダルまみれで一人で辻立ちしていた斉藤が数百人もの自分に都合の良い運動員をどうして集められたのかとか、大した理想も中身もない人物の何に人を動かす力があるのかは説明もなかったが(折田自身も斉藤に感心している様子は見られなかった、カスタマーの一人という書き方である)、書くわけないので、これは「変な連中と手を組んだな」というだけにしておく。

 

 おそらく記事は自民党の政治家に向けられたものだろう。本人もリスクは承知していたと思うが、それでも上げたあたり、彼女と彼女の属する団体が追い詰められていることの証左になる。正常な判断ができないのは往々にしてそういう場合だ。

 

 斉藤自身にも首を傾げる部分があり、キャリア官僚を20年も勤めた人物にしては職員への態度や通報制度への理解など垢抜けていない。この種の人物にしては下卑ており拙いという印象があったが、東大法卒から採用して20年も費やしてこの程度の人物しか育成できないのであれば、我が国のキャリア制度というものも相当程度劣化しており、人材育成機能が崩壊していると見ることもできる。

 

 もっともこれについては、私も別にやっているサブカル関連のウォッチで2000年あたりからどうもおかしいと思ってはいた。傾向が固定化したのは、東京オリンピックと、たぶん2012年から2020年まで続いた安倍内閣からだろう。

 

 

 北朝鮮部隊が展開したクルスクでウクライナ軍とロシア軍の戦闘が始まっているが、詳細の情報はなく、ロシア側の被害が累増しているので大規模戦闘が行われていることが推察できるのみである。ただ、Forbes誌によると先月ロシア軍が反攻したコレネヴォとスジャの中間、スナゴフチ貯水池のあるノヴォヴァノフカで激しい交戦があった模様だ。

※ウクライナは基本的に平野なので、戦闘は河川や貯水池の沿岸か、平野にもある鉱山や工場に依拠して行われることが多い。

 

ウフレダル要塞

 

アウディウカ要塞

 前日は同じ貯水池の南側にあるダリノ村が襲われたが、これはロシア軍が30台近い近い損失を受けて敗走している。現地のウクライナ人女性記者のレポートによれば、ウクライナ軍はこれでも全力ではなく、予備部隊が控えており、北朝鮮部隊は見なかったという話である。翌日のDavid Axeは正反対の論調を書いている。

 一方で二日前に司令官のシルスキーはキーウで美人IT企業家と歓談しており、自分の娘くらいの年齢の企業家に鼻の下を伸ばしていたところを見ると、その1週間前に彼はクルスクを視察しているが、ウクライナでいちばん有能な将軍がこれでいいのか(らしくない)とは見えてはいた。同じ頃にロシア軍5万はクルスクで区々攻撃を開始していたからだ。この司令官の気性からして、襲撃を受けたら戦場に飛んで行って陣頭指揮しそうなものだが、そうしていないことがある。スナゴストの時には急行していたのだが。

クルスク決戦の真っ最中にIT企業家と歓談するシルスキー司令官

 前に私はロシアにも用兵巧者がいると書いたが、やっぱりクビャンスクに出現してウクライナ参謀本部を慌てさせている。兵力も少なく、明らかな陽動だが、例によってわけの分からないところから現れ、前線奥深くのクビャンスクを直撃する手腕は相変わらずで、ウクライナ軍の軍服まで用意してゲリラ攻撃したらしい。

出てくるとは思っていたが、、

 ハルキウ襲撃以来度々見られる、このたぶん「中佐(直卒兵力からしてそのくらいである)」はシルスキーとは二度対戦しているが、速やかに討伐軍を送った総司令官の鋭鋒を逃れ、ハルキウでもスナゴストでも生き延びたようだ。私などは友人に似た親近感を感じるが、今回は前二回と比べてもケチい役回りで、活躍の割にロシア軍やプーチンらの評価は向上していないようだ。それにスジャのウクライナ軍はどうも「シルスキー式」の軍隊ではなさそうで、こんな陽動にはたぶん乗らない。

 「中佐」もたぶん分かっており、これは戦術だけでなく、中央とは繋がりがおそらくあり、戦略のセンスさえ感じる。行動が下級将校離れしていることから、案外、現在行方不明のスロビキンかもしれない。ラピンが大将に格下げになったのなら、元上級大将(半年だが)の彼は佐官への格下げもありそうだ。地理に通じているのは、今は北部方面軍になっているワグネルとの関係をまだ保っているからだろう。ワグネルも上の方になるとウクライナ軍、ロシア軍双方を凌ぐ戦闘巧者がいるし、場面によっては正規軍よりも優れた部分もあった。

※見切りの良いのもいつものことなので、クビャンスクで攪乱行動を取った後、今は早々に引き揚げて定宿であるシヴェルスク戦線に戻ったようだ。両戦区の距離は90キロしかなく、あるいはクビャンスクは陽動で、スラヴャンスクを目標に隷下の部隊をもう少し増やしたかもしれない。

※「中央と繋がり」というのは、この人は私と同じく相当利口なのでクリンキと同じくドローンで武装したスジャ要塞なんかにはたぶん挑まない。が、下っ端だと拒否権もないし、戦場も選べないので、選んでいるところを見ると多分そうなのだろうと思っている。いずれにしろ、戦争が終われば明らかになることである。

 戦いはまだ始まったばかりなので、北朝鮮軍も含め経過を見守る必要があるけれども、参考になるのは昨年のクリンキ攻防戦で、やはり海兵師団が活躍し、どう見ても死地で無理筋の戦場で異常な戦闘力を発揮したことがある。結局撤収したが、指揮官はクルスク攻略軍に配されたと聞いている。クリンキでロシア戦車は二百台やられたので、70台くらいの損失ではまだ序の口ということがある。それにロシア領であるスジャ攻略の要請はクリンキの比ではない。これは二百台では済まないのではないか?

※無茶筋、無理筋のクリンキ攻防戦は今考えればこの作戦の実験場だったといえる。

ヘルソン・クリンキ周辺

 プーチンは19日に記者会見をセッティングしたが、これは前線にはこの日までに目に見える戦果を挙げろという意味で、スジャ占領くらいはやってもらわなければ困るのだが、指令はガス計測所をダシに最大限の損失を与えようと目論んでいるウクライナ軍としては願ったり叶ったりといえ、改良型のドローン戦術でクリンキの惨劇再びといった様相になるかもしれない。

 で、北朝鮮軍はといえば、ウクライナがシルスキー式の機動戦術を取らないことで命拾いしたが、どうせ突撃は命ぜられるので、スジャ西側の戦いの旗色が悪くなれば。東側のこれの出戦はありうることになる。この軍隊の評価についてはウクライナはもちろんのこと、どうもプーチン以下ロシア側でもかなり低いようで、そもそも自動車を持っておらず、言語の問題で十分な支援も受けられないとなれば、数キロでも徒歩で突撃した結果は火を見るより明らかである。なのでプーチンは援助を出し惜しみし、金正恩にもっと出せと催促しているようだ。

※ウクライナドローンは最近は命中精度が上がっており、それが歩兵でもピンポイントで狙い撃って殺害し、死ななかった場合はとどめまで刺してくる。ドローンは(操作は人間なので)最終誘導時に命中精度が低下する例が多かったが、最近のはそれは見られない。AIを用いて改良したという話もある。

 アメリカではトランプ次期政権が決まったことでロシア軍への評価は急に高くなり、ウクライナへの評価は下がっているが、ウクライナは政権とのディールにドローン技術を用意しているという話もある(会談にはマスクもいた)。実戦で鍛えられたことで今やウクライナのドローン技術は世界一で、アメリカ製ドローンが次々と機能停止して墜落する中、日進月歩のウクライナドローン軍は実質的に戦場を支えている。これは沿岸防衛に苦慮している台湾などには興味のある話だろう。

 トランプ氏は選挙中はあれほどアメリカファースト、ウクライナ支援は止めろと連呼していたにも関わらず、当選後はウクライナ戦争に関心があるようである。関心はガザより明らかに高く、人事はメチャクチャらしいが、この人物にしては珍しいほどの真摯さで和平に取り組んでいる。何があったのだろうか。

 プーチン氏の方は前トランプ政権の時には当選した時にシャンパンを136本注文して祝ったという話だが、今回は祝電も送らず疑心暗鬼に見える。前回はアメリカ大統領を操る試みは結局失敗し、制裁はむしろ増え、ウクライナにジャベリンミサイルを与えたのはトランプであったので、また度重なるスキャンダルを乗り切ったことでモスクワご乱行テープ(ゴールデンシャワー)くらいではこの人物は怯みそうにないと悟ったこともあり、共和党の勝利もあって地上最強となった次期大統領の出方を伺っている様子である。トランプ・プーチン会談はたぶんあったが、マスクも加わって一方的にブチのめされたことで、バツの悪い思いをしたこともたぶんあっただろう。

 

 

(追記)

 

 16日の記事だが、「ああ、やっぱり」といった惨状になっており、ロシア軍にとってはクリンキの悲劇再びといった様相になっている。やはりロシア軍は強攻を続けるはずだが、ウクライナ軍のドローンはかなり潤沢にあるようである。兵力差もクリンキほどないので、19日の勝利宣言はたぶん無理だろう。

 

(追記2)

 

 

 いつもテレグラムと衛星写真を眺めているForbes誌のDavid Axe氏の論考。ハルキウ以来ずっといたのだが、毎日OSINTをチェックしているくせに、やっとコイツに気が付いたかというのが率直な感想。この分だと東大が何千万円も出して買ったMAXTARの衛星写真もあまり役には立っておらんだろうなと溜息をつく。

 

 前にウクライナの戦いはアメリカ大統領選が終わらないと何とも言えないと書いたが、選挙は終わったので戦線の様子を見ると、激しい戦いのが行われているのは上図のポフロフスク・クラホベ戦線である。おそらくゲラシモフのロシア本軍がおり、このロシアの正統大軍団はロシア名物の派閥争いにより、結局クルスクを助けには行かなかったので、戦況もあまり変わりないとなる。なお、ゲラシモフ元帥自身はより安全な、たまにミサイルが落ちる河畔町、より南のロストフ・ナ・ドヌーで日光浴をしているはずである。



 このところのロシア軍の損失はアウディウカや昨年の反転攻勢が児戯に思えるほどに増加傾向であり、昨年と比べるとおよそ二倍のペースで損失している。ただ、ここ三ヵ月間の様子を見ると損害の多かった砲兵や戦車の損失は減っており、装甲兵員輸送車やトラックの損耗が多いのは相変わらずだが、全般的に撃破に手数を要する高度兵器の損害は減っている。おそらくウクライナ軍の弾薬不足によると思われる。が、決定的に不足しているわけではない。

 大統領選挙は当のトランプすら開票前日まで敗北を予感していた様子(「公平な選挙」なら敗北を受け容れるとまで言っていた)だったので、結果を予測して戦略を立てることは両軍ともできなかったと思われる。が、いずれの場合でも言えたことはある。選挙が終わればアメリカ大統領が仲裁に乗り出すことから、来年1月20日の宣誓式までロシア軍は一寸でも多くの領土を削り取るべく、猛攻を掛けるだろうということである。目標はいつまでも陥ちない貯水池脇のウクライナ要塞クラホベのほか、補給の要であるポフロフスクと昨年までロシア占領地だったヴァリカ・ノヴォシルカだと思われる。ポフロフスクはすでに住民の避難を完了しており、ヴァリカの方も昨年の戦いでほぼ無人となっており、大ロシア軍にしては実に大したことのない戦略目標である。北方は北朝鮮軍が参戦したから盤石だ。



 しかし、改めて見ると大ロシア軍が総力を挙げて侵略したにも関わらず、三年近く経っても実にお粗末な成果しか挙げられていないことがある。クリミアは2014年からすでにロシア支配下にあった。これで戦争を始めて獲得した占領地はといえばヘルソンまでのウクライナ南部とドネツク市周辺を少々くらいで、ウクライナ第二の都市ハルキウや首都キーウはビクともしていない。一時はキーウ占領まで迫ったロシア軍のこの情けなさはどうだろう。港町オデーサは垂涎の的だったが、港に辿り着く前にドローンでロシア海軍が壊滅してしまった。その上クルスクではロシア領をウクライナ軍に削り取られており、北朝鮮に泣きついて援軍を乞う始末である。終戦でもロシア領は明け渡すわけには行かず、現在の交戦地で停戦も苦しいのである。

 年初は資金が枯渇してウクライナ軍の防戦は苦しいものになった。トランプ体制で同様の苦境に陥る可能性がまた出てきたが、こういう戦争はもううんざりだというのはウクライナもさることながら、支援国にも応分にあるだろう。同じパターンを二度も三度も繰り返すのは愚者のやることだ。トランプも資金不足も欧州には過去の苦い経験としてあるものである。



 前回と違うのは、これらヨーロッパ諸国にも以前の経験からトランプが信頼できない人物で、お気楽極楽のクリスタル・シティの秀才の集団(ジェイク・サリバンのような)に任せていてはとんでもないことになると分かっていることである。私が彼らの立場なら、この状況では何か策を弄する。それは今ある報道ではバレない、分からないようなものである。それは成功するかもしれないし(今は言わない方が良い)、これ以上はないというほど無残に(ウクライナ降伏、ゼレンスキー亡命など)失敗するかもしれないが、とにかくこのままではいないはずである。

 これも前回の例で言うならば、プーチンがトランプを操れるのはせいぜい1年間である。1年経てばアメリカ大統領は世界最強の権力者である。人形が自意識を持ち始め、操り人形師の言うことを聞かなくなることは、プーチンも前トランプ政権でさんざん経験したはずのことである。
 

(追記)

 このところの報道で北朝鮮軍が数日以内に投入されるらしいというものがあるが、クルスク方面の戦況は秘匿性が高く、両軍ともスジャ以外は正確な所在は不明である。が、地形を見るにロシア軍が度々突破を図っていた①セイム河畔からコレネヴォまでの地帯はロシアの主力軍がおり、②スジャの東側からフセル川を下る湿地帯に別働隊がいると思われる。あと、③正面のR200号線にもそれなりの規模の部隊を置くだろう。三方向から攻撃し、ウクライナ軍をスジャに追い込む計画である。

 

 

 北朝鮮部隊はおそらくスジャの東側のR200号線寄りあたりにいると思われ、このあたりは森林もあるが、移動橋を持たない人民軍は森林に身を隠しつつ、ロシア部隊と呼応して攻撃に出ると思われる。この位置だと、おそらく早々にかなりの損害を受ける。森林の外は③開けた平野で、ウクライナが長けているドローンと砲撃の多重攻撃を防ぐ術を人民軍は持っていないからだ。

 

 この方面のウクライナ部隊は数は少ないが装備はドネツクに配されている部隊より良く、指揮官は過去のクリンキで驚異的な粘りを見せたドローン指揮官と思われる。ドニエプル河畔で1年続いたこの戦いは犠牲も多かったが、重火器のない部隊を見くびっていたロシア軍が1個軍団丸ごと壊滅する損害も受けている。また、エイブラムス戦車も確認されている。

 

 敵軍の三倍というロシア軍の戦力は攻勢作戦のセオリーに則ったものだが、後の講和を睨んで奪回を急がされていることも本当である。朝鮮人民軍と呼応して首尾良くウクライナ軍の撃退に成功するか、それとも過去に前例のないような悲惨な損害を受けて敗戦するかは、現時点では五分と五分といえる。ただどの場合も、人民軍の損害率が戦闘に参加した他のロシア部隊より小さいということはないだろう。

 

 

(追記2)

関係者の所属部隊はスジャ近郊の前線から数キロの位置に展開し、上官の師団司令官と面会した際に「北朝鮮兵士が支援に来る。次の指示まで休んで備えるように」と命じられたと11日に通信アプリを通じて証言した。

 

 追記で書いた配置図は当方の推測だが、やっぱり同じ位置に配置するようである。軍事の論理は冷酷で、複数の部隊がある場合、最も弱い部隊が攻撃され、いちばん先に壊滅する。装備にしろ戦闘経験にしろ、この戦場で最弱なのは朝鮮人民軍であることは明らかで、それをこの位置に配置したということは、やはりウクライナ部隊を引き寄せる疑似餌ということである。

 

 

 おそらくスジャのウクライナ軍を突出させ、人民軍と交戦したところで呼応して左右両翼から進出し、挟み撃ちにして壊滅させる作戦だと思うが、あまりにも見え透いた計略でもある。これまでのシルスキーの戦術を見ると、これはエイブラムス戦車など西側供与の最新兵器で速攻し、突出したロシア軍は温存したドローンや砲兵で個々に迎撃するという感じだろうか。西側については航空機を使い遅滞戦術が取れるので、人民軍を壊滅させたエイブラムス部隊は東側のロシア軍の背後に回り込み、挟み撃ちでこれを討ち、スジャで残りを迎え撃つことが考えられる。先の図だとDPRK→②→①の順になり、ロシア軍は壊滅するだろう。ただ、R200号線に配されている部隊の規模によっては、防戦一方の戦いも考えられ、この場合はスジャは失陥し、ウクライナ軍は撤退することになる。どの場合でも朝鮮人民軍には厳しい戦いになるだろう。

 

バカすぎて読めたものじゃない

日本語の体をなしておらず、読めたものじゃない

 

 何年か前だったか、以前の2ちゃんねるほどではないにしろ、ネットに私の悪口を書く奴はいないわけではなく、エゴサーチをすると元滋賀の郵便局員らしい「ロケタッチャーが行く(現在は入院中)」と、「連載二千回記念」とかいう「三日坊主の悪あがき」というのがしつこく掛かってくる。どちらも面識はないが、まあ3年も前の悪口はどちらももう時効だろう。

 こんな連中は別に取り上げる必要はないのだが、「三日坊主」とかいう人については、この国の住人で「安倍晋三シンパのネトウヨで絵に描いたようなQアノン信者」はこれしか知らないので、先日の大統領選でトランプが勝ってさぞ嬉しいだろうとついでに探して見てみた。何せこの人、トランプのことを「ドナルド」と親しげに呼び、「歴代最高の名大統領」と意味不明のランキングまで披露していたのだから、どんな感じかなと。最初で最後だがリンクも張ってやろう。

 何だ、何も書いてない。まあ、文体からして無教養で私の敵じゃないけどさ。3年前の悪口は先にも述べた通り時効だから見逃してやるよ。「まともじゃない人(トランプに投票するような人)」の例として挙げたまでだ。(トランプも)実はあまり関心ないんだな、だったら喋るな、黙ってろ。

 


 前座、箸休めはこれくらいにして、本題に入ると、上図はNYタイムズによる先の大統領選における州ごとの色分けで、どこでも見られるが、誰が勝って誰が負けたかは一目瞭然で、「三日坊主」とかいう人も色盲でもない限りは分かるだろう。文字が読めないようだから文盲だとは思うが。

 人の悪口を書く奴(三日坊主、ロケタッチャーほか)、嘘をつく人間には共通項がある。それは自分が激烈に人を誹謗したり、人を騙すことは平気だが、他人も自分を誹謗したり、騙したりできることはまるで忘れているということである。鉄砲は撃っても防弾チョッキを着ていないなら、現実の戦いでは撃たれて死ぬだけである。これは「経験則」に書き加えても良いほど万人に当てはまる。私は批判は書くが誹謗は書かない。やられた場合は別だが。

 

 「三日坊主」みたいに区別のつかない奴はハナから相手にしてない。

 まあ見ての通り、トランプ大勝利である。特にハートランドと呼ばれる内陸部に顕著で、元々共和党が強いが、実は個人的に縁がないこともない地域なので、私の知るあの人もこの人もトランプなのかと暗澹たる気分になったことがある。

 

トランプ大勝利の図

 

 しかし実はそう悲観することもなさそうだ。図の右端を良く見ると、赤丸をしておいたが、メイン州とネブラスカ州はどうも割れたらしい。


ネブラスカ州


 先ずネブラスカから見ると、全体的には見ての通り真っ赤だが、人口の多い州都リンカンとオマハは真っ青だということがある。オマハの南にはエア・フォース・ワンの基地であるオフィット空軍基地がある。これはベルビュー郡で赤だが、支持率は55%でそんなに大勝したわけではない。それに基地の従業員はオマハからの通勤が多い。核弾道ミサイルや大統領専用機を擁するアメリカ軍の精鋭部隊はハリス支持なのである。


メイン州

 次いでメインを見ると、これはハリス勝利だが内訳は少々微妙で、ポートランドは青だが、郊外はトランプ支持が多いことがある。「レッド・オクトーバを追え」のラミアス艦長は原作ではソ連から亡命した後に隠棲し、メインの片田舎で釣りをしているはずだが、アメリカ右翼文学の元祖クランシーが創造した艦長は作者の傾向だとトランプに投票したかもしれないが、海沿い限定なので反対の可能性の方が高い。


テキサス州


 テキサスはニュースでもトランプ大勝の地域だが、実はテキサス州立大学のあるオースティンは青である。全土の地図を見ると悲観した様子にしかならないが、一覧すると、要するに私の知るあの人もこの人もトランプには投票しなかったようなのである。それで一安心した。


フロリダ州

 トランプ氏自身に微妙な結果もある。上図はフロリダだが、テレビにも頻出するトランプの別荘、かの女傑マージョリー・ポストが建てたマー・ア・ラゴはフロリダ州パームビーチにある。パームビーチは見ての通り青で、トランプは自分の従業員にはあまり好かれていないようである。ほか、大きな資産のあるシカゴとニューヨークもおしなべて青である。


イリノイ州(シカゴ)

 図は大ざっぱで個々については分からないが(秘密投票なので分かってもいけないが)、ことトランプについては、「三日坊主」みたいなQアノン信者や、扇動に同調するような頭も知恵も足りないバカ、考えない人の支持は盤石だが、実際に彼のために働いてくれる専門技術のある従業員だったり、戦地に赴いて戦ってくれるような軍人だったりの支持はあまりなさそうに見えることがある。エア・フォース・ワンも見た様子ではクルーの半数がハリス支持である。知識人は言うまでもない。トランプ支持者は烏合の衆である。



 これが何を意味するかは現時点では断言できない。けれども、新大統領は年頭に宣誓するものの、前回と違って(懲りたので)一流の人物は内閣に入らないようだし、支持の内訳もこんな感じである。これは半年もしないうちにダッチロール、空中分解して墜落するのではと心配したくなる。

 私としてはトランプはウクライナとガザの戦争さえ終わらせてくれればいい。今、彼らが協議している和平案はロシアに偏ったもので、トランプがプーチンには媚態、ゼレンスキーには厳しい姿勢で臨むことは明らかだが、それでも停戦すれば対処しうる余地がまだある。ロシアとの約束? そんなものは破ってしまえばいい。停戦すればウクライナはNATOに加盟することができ、NATO軍をキーウに派遣できる。その後に騒いだところで後の祭りである。本当は2022年にやるべきだった。

 

 約束を散々反故にしたのはプーチンもそうだったのだから、彼以外の人間がそれを守ってやる義理はないはずだ。ここは形だけの和平が必要だが、そうこうしている間にトランプもいなくなり、アメリカももっとまともな国になるかもしれない。それにNATO軍とアメリカ軍を東欧に旅行させるだけなら、戦争を続けるより安上がりである。まさか中国や北朝鮮から援軍も来ないだろう。

 

 

 「政治は一寸先がドブ」というのは先の衆院選でもあったが、こと選挙結果というものは、プーチンや金正恩のような独裁者が仕切っている国ならともかく、最後まで分からないものである。なのでどんな選挙でも、私は大勢が決まるまで聞かれてもコメントしないことにしている。

 ウクライナにとってもこれは困った話で、ここ半年ほどの様子を見ると同国は選挙の推移を慎重に観察しており、どちらに転んでも良いように布石を打っていた感じである。が、トランプが大統領になった場合は戦闘は現在の時点で凍結を余儀なくされるだろう。しかし、内心では2022年のラインがせいぜいと思っていたはずのゼレンスキーにとっては国民を説得しやすい結果である。何にせよ、戦争が終わることは良いことである。

 プーチンは以前に現大統領のバイデンとトランプを比較して、「バイデンの方が扱いやすい」とコメントしていたが、半分皮肉、半分本音であったかもしれない。あのミスターUSAは怒らせるとウクライナにNATO軍を本気で派遣しかねないからだ。破産を二度も経験した人間には核の脅しも通用しない。コロナでも生き延びたので、放射能を浴びても自分だけは生きられると本気で思っているかもしれない。そもそも度重なる訴訟で自分の会社が傾いているので、プーチンと違い守るものもごく少ない。ただし性格は単純で、栄誉を渇望しており、操りやすい人物ではある。

 不気味なのは、ここで停戦するとして、戦時体制に移行しつつあるロシアがトランプ後に再侵攻を企てかねないことである。ウクライナは資源地帯を占領され、残るのは農業くらいしかない。また、ゼレンスキー後のウクライナは混乱し、進んでいた改革も頓挫し、元の腐敗国家に後戻りするかもしれない。

 ウクライナでは先月辺りから戒厳令の解除が検討されており、そうなると任期切れのゼレンスキー政権は選挙を行うことになる。ゼレンスキーの人気は今だ高いが、ロンドンに追われたヴァレリー・ザルジニー将軍の出馬を求める声も相当数ある。ウクライナは官僚機構(立法、行政、司法)に対する信任度が極めて低く、この二人以外に国民に篤い支持のある政治家や官僚はいない。現在のウクライナの司法制度は質量共に戦前の日本くらいの水準である。

 ただ、アメリカも民主党政権が継続していた方が良かったかといえば、そうとも言えない部分がある。先日ヨーロッパの外交当局者や退役将軍らが連名でハリス次期政権に現在の「レッドライン」戦略の放棄を迫ったが、バイデン政権の安全保障担当補佐官ジェイク・サリバン謹製のウクライナに「勝たせない」戦略は欧州ではすこぶる評判が悪い。現在の持久作戦でもウクライナは月に数千人の死者を出している。人口の4分の1が逃げ出し、徴兵可能な母数は日に日に減りつつある。ロシアはより大きい損失を受けているが、同国の人口はウクライナの4倍である。

 とりあえず公約なのであるから、トランプはゼレンスキーをいなしつつ終戦を呼びかけることは間違いない。彼得意の「ディール」で、両軍は現在の線で停戦し、クルスクがあるが、ひょっとしたら2022年の線まで戻すことは可能かもしれない。ただプーチンという人物、約束を守らないこと、なし崩しに反故にすることには定評がある。ミンスク合意の時と同じく、この合意は守られないだろう。それでもトランプは彼一流の成果と得意満面に違いない。サリバンはもちろんクビだろう。このローズ奨学生の始末は、本当はアフガン撤退の際にやっておくべきだった。

 現在クルスクに展開している北朝鮮部隊については、帰国するかどうかは今の時点では分からない。停戦はすると思うが、戦闘行為が終わるとは思えないことがある。完全な停戦が実現すれば、ゼレンスキー政権はNATO、EU加盟への布石を進めることがあり、NATO諸国がウクライナ加盟に難色を示す理由の一つが2014年以降のウクライナでは戦闘行為が続いていたことがある。ロシアはミスターUSAと対立したいとは思っていないだろうが、戦いを止めることのデメリットも良く知っている。その点、この北朝鮮部隊は使いやすい。

 北朝鮮はいろいろな意味で変な国のため、その軍隊は正規軍より特殊部隊の方が数が多い。ドラマ「愛の不時着」でも若干言及されていたが、ごく小規模の部隊が特定の任務向けに訓練を受けており、ドラマでユン・セリの逃亡を助けた第5中隊も特殊部隊の一つである。ドラマでも第5中隊は潜入任務を命令され、特に訓練も受けずにアッサリとスポーツ使節を偽装して南に潜り込んだことがある。これはドラマの話であるが、青瓦台官邸爆破など訓練を受けた部隊の存在は知られているし、日本にも強盗団を装って各地を荒らしたこともある。つまり、連中は現在行われている大規模な会戦よりもゲリラ戦やコンビニ強盗の方がはるかに得意なのである。

 ただ、最初にウクライナ軍と遭遇した偵察中隊はドローン戦に長けた海兵部隊の攻撃であっけなく全滅し、あえてこの連中を使うメリットは分からないものだったが、停戦後にコンビニ強盗や電線切断、カップル襲撃にトラクター盗難などの用途に用いるなら、連中で実は十分である。ロシア兵より小兵で粗食に耐え、言語の問題を除けば、士気も能力もロシア兵の平均より高い。彼らについてはウクライナ軍は食い物で釣ろうとしている。あと、韓国軍が拡声器やビラを大量に持参してウクライナに入国する動きがある。

 私個人の意見としては、それが欺瞞に満ちたものであろうと、停戦には賛成である。ゼレンスキーはまだ若いし、それに比べプーチンは平均年齢の短いロシアでは長寿だが、節々に病を抱えた70歳の老人である。領土の一部を取られても挽回のチャンスはあるといえ、布石を堅実に打つことが前提だが、プーチン体制が弱化すれば現在ある問題の多くが解決できるはずである。


(補記)
 ゼレンスキーとプーチンは年齢には親子ほどの差があるが、実は政治キャリアはあまり変わらないことがある。KGBを辞めたプーチン(43歳)が母校のレニングラード大学で恩師に拾ってもらい卑職にありついた頃、CISの芸人大会で優勝したゼレンスキー(17歳)は自分の会社クヴァルタル95を創設していた。

 政界入りした恩師に従ったプーチン(46歳)が師の失脚でサンクトペテルブルクの地方公務員をクビになった頃、ゼレンスキー(20歳)は売れっ子芸人として東欧を行脚していた。彼はキエフ経済大学の出身であるが、この時期はモスクワを拠点に活動しており、学生になる前にすでに成功者だったのである。

 エリツィンに見出されたプーチンはその後エリツィンの衣鉢を継ぎ、ロシア大統領になるが、専制主義者(プーチン53歳)の台頭とそれによる芸風の逼塞に嫌気が差していたゼレンスキー(27歳)はスタジオを畳んでウクライナに戻っている。故国に戻った人気芸人に同国のテレビ局インターは取締役の椅子を用意した。

 後の2018年に当時のヤヌコビッチ政権が1億ドルでクヴァルタル95の買い取りを申し出るが、政権にプーチン(66歳)の影を感じたゼレンスキー(40歳)はやんわりと断っている。彼が主演した「国民の僕」は2016年にオンエアされ、国民的人気は元芸人をウクライナ大統領の地位に押し上げた。

 プーチン政権は20年続いているが、芸能を通じ政治と関わり続けたゼレンスキーのキャリアも同等程度の長さがあり、むしろある時期まではゼレンスキーの方がプーチンより遙かに恵まれ、知名度のある存在だったことがある。2000年になるまではゼレンスキーの方が借家住まいの公務員プーチンよりも名声があり、権力でなく独力で成功し、金銭的にも豊かだっただろう。

 ゼレンスキーの名を押し上げたCIS芸人大会は後にプーチンの介入が入り、芸風に現政権賛美を加えることという体制寄りのイベントに変質していった。政治漫才はヨーロッパで長い伝統があり、地下でもアネグトートは鋭い風刺としてロシア名物となっている。空気の変質はすでに一流の芸人だった彼にキナ臭さを感じさせ、意を決してロシアを出て行く動機となったものだろう。

 

 プーチンも借家のテレビでゼレンスキーの顔は一再ならず目にしていたはずである。プーチンはゼレンスキーのことはあまり知らないだろうが、ゼレンスキーは芸能活動での(苦い)経験を通してプーチンのことを良く知っている。そのため、アメリカ大統領選におけるウクライナの備えはどの国よりも考え抜かれたものになった。過去の恩讐もあり、彼らの対立はどうも一朝一夕のものではなさそうなのである。