History does not repeat itself, as the saying goes, but it does often rhyme.

Today, as Ukraine fights not just for its sovereignty but for the principles that underpin the democratic world, we are confronted with echoes of that fateful year. Once again, there are voices urging compromise, suggesting that stability can be purchased by sacrificing justice. Once again, there are those who believe appeasement can satisfy a dictator’s ambitions.

But as Czechs, we know too well the cost of such thinking. Munich did not bring peace. It ushered in occupation, destruction, and one of the darkest chapters of the 20th century.
(Jan Lipavský, Czech Foreigh Minister)

(訳)
諺にあるように、歴史は繰り返さないが、韻を踏むことはよくある。

今日、ウクライナが自国の主権だけでなく、民主主義世界を支える原則のために戦う中、私たちはあの運命の年が残したものに直面している。再び、妥協を促し、正義を犠牲にすることで安定が得られると示唆する声が上がっている。再び、宥和政策で独裁者の野望を満たすことができると考える人たちがいる。

しかしチェコ人として、私たちはそのような考えがもたらす代償をあまりにもよく知っています。ミュンヘンは平和をもたらさなかった。それは占領、破壊、そして20世紀の最も暗い章の一つをもたらしたのです。


(ヤン・リパフスキー、チェコスロバキア外務大臣)

2/4ヨーロピアン・プラウダ寄稿

 

 新大統領トランプが就任し、和平交渉の協議が始まったが、今のところこの協議はロシア寄りで、ゼレンスキーが除け者にされている理由は就任(2019年)から6年の彼はすでに任期切れで、ウクライナを代表して交渉する資格なく、協議は最高議会議長(2021年就任)相手に行うべきだというプーチンの主張をトランプや周囲のBAKAな国務長官たちが真に受けていることにあるとされる。

 ただこのレトリック、戒厳下で選挙が行えないことがあるし、行ったら行ったで投票所にミサイルが撃ち込まれることが確実なのであるから、ゼレンスキーが表見大統領として現職にとどまるのはやむを得ないといえ、ウクライナ国内ではこの問題はすでに解決されている。ここで私の見る所、ゼレンスキーの正当性に関するプーチンの主張は概ね以下の三つがある。

1.ゼレンスキーは賞味期限切れ
 先にも述べた通りゼレンスキーがウクライナ大統領に就任したのは2019年5月20日で、大統領の任期は5年なので、彼の任期は2024年5月20日に終了し、5月の最終日曜日または90日以内に選挙も行われていないので、5年以上の任期の例外を認めないウクライナ最高裁の判例、戒厳中の権限の維持に関する§83のような経過規定が大統領にないことから、2025年の現在では自称大統領は法的に国家元首ではないという主張。

2.現在のウクライナ政府は非合法政府
 2014年のマイダン革命で当時のヤヌコーヴィチ大統領がロシアに亡命し、ポロシェンコ政権が成立したが、当時EUと共に紛争の仲裁に当たっていたロシアによると、これは西側工作によるクーデターで非合法政権だという主張。当然、ポロシェンコの後を襲ったゼレンスキーも非合法大統領である。

3.CISみかじめ料
 上記二つとは理由が異なるが、現在のウクライナは1922年にレーニン、1939年と45年にスターリン、1954年にフルシチョフが繰り入れた領域を含むモザイク国家で、非合法政権は認めるにしろ、旧ソ連で取得した領土は返せという主張。ルーマニアで極右の大統領候補がリヴィヴを含む旧ルーマニア王国領を編入せよという主張をしているのも同様の文脈による。



※ あと、日本でも一部の国際政治学者が主張しているが、2000年以降のNATOの東方拡大はネオコンの陰謀という説もある。トランプはコンサバであってもネオコンではないので、ブレジンスキー(故人)などネオコンの親玉に義理立てする必要はあまりないが、このネオコンというもの、現在では諸派に分派し、著名な政治家、官僚、学者がみんな何某かのネオコンに類別されるようなものになっており、おそらくオバマやトランプも含み、ネオコンの現在は「ザ・リベラリスト」など、独立戦争時代からある概念で、現在は希釈されてしまったリベラルとあまり変わらないものになり果てている。日本でも良くテレビに出る小泉某などは東京ネオコン、石破茂は山陰ネオコン、山口二郎は左翼ネオコンなどとしておけば、当たらずといえども遠からずで、それで問題ないようなものである。

 

 というわけで、選挙の件で説得できても、ロシアが他の二つあるいはそれ以上の主張を繰り出してくることは確実であることから、事情を知らない新大統領とその取り巻きは交渉するつもりでロシアに説得されてしまうかもしれない。1922年と54年の領域についてはすでにロシア占領下にあることもある。

 何とも呆れた話だが、ロシアのこれらの主張は手前勝手な理屈で、何が何でも侵略を正当化したいとしか見えないものでもある。トランプとの協議にしても、一方当事者の頭越しに和平など実現するはずはない。どうなるかはやってみれば分かるが、やってみなくても分かるものを深謀遠慮、または知恵という。

 トランプはメキシコ、カナダ、中国に15~25%の関税を課したが、中国以外は撤回しており、今後も同様の手段に頼ることが予想できることから、EUではロシアを除くウクライナ、エジプトと地中海沿岸国および西アジア、トルコ、イスラエルを加えたブロック経済圏の動きがある。現在のEUよりは緩い枠組みで、トランプの横暴に対する緩衝材とする様子である。この枠組みでは食糧自給国のウクライナは一角を占める。

 

 歴史は繰り返さないが、トランプの歴史はすでに韻を踏んでおり、この先どうなるかはたぶん、これあるを予測していた者が少なくなかったこともあり、彼の予想とは大きく違ったものになるだろう。
 

Do we really want to live in a world where the aggressors and war criminals escape accountability while we, the democratic world, foot the bill for reconstruction? Do we really want to live in a world where Russia's frozen assets are returned, as if nothing ever happened?

 

This is not peace — it is surrender dressed up as diplomacy. 

(訳)

侵略者や戦争犯罪者が責任を逃れ、我々民主主義国が復興費用を負担する世界に我々は本当に住みたいのか? ロシアの凍結資産が、まるで何もなかったかのように返還される世界に我々は本当に住みたいのか?

 

これは平和ではない、外交の装いをした降伏だ。

 

(ヤン・リパフスキー、2/4ヨーロピアン・プラウダ)

 

 

 トランプ政権については、以前に1ヶ月目は混乱、3ヶ月目は造反、半年後には瓦解と書いたが、概ねそんなような感じになっている。ウクライナ戦争については、プーチンもゼレンスキーもミスターUSAの歓心を買うのに必死だが、期待できるのはせいぜい停戦で、後は両者の話し合い、実の所は殴り合いで決裂するのが関の山という感じがする。

"Iron will and indomitable spirit are the strength of our army! The struggle continues! Glory to Ukraine!"
(Oleksandr Syrskyi, Commander-in-Chief of the Armed Forces of Ukraine)


(訳)「鉄の意志と不屈の精神こそが我が軍の強さだ! 闘いは続く! ウクライナに栄光あれ!」(オレクサンドル・シルシキー、ウクライナ軍総司令官)

 最初の言葉はシルスキー(1/31のXツィート)だが、ウクライナ軍については報道で散々苦戦とか失陥とか脱走兵に戦意低下と報じられているが、実の所はこれが負けるとか降伏するといったことは信じられない様子である。シルスキーの戦術指揮と総力戦でウクライナ軍の戦闘技倆はかつてない向上を見せており、つい先日も北朝鮮派遣部隊1万人を退けたばかりだ。問題が指摘された調達や訓練も改善が進んでいる。ポフロフスクが陥ちても、この軍隊と国民は簡単には負けないだろう。

 むしろ問題はトランプ政権の要望でゼレンスキー政権が法律で禁じられている25歳以下の徴兵を求められている件だが、徴兵を禁じていたことには人口構成上の理由がある。人口ピラミッドではこの世代は40代世代の半分の人口しかなく、徴兵は将来世代に深刻な悪影響を残すことがある。2023、24年は出生率の三倍の死亡率が報告されており、元々の出生率も低く、戦争前の社会も25歳までに成人して家庭を持てるような社会ではそもそもなかったのである。

 そのため、隣国ロシアの体制変更は同国の強く望む所である。ここで停戦してロシアを退けたとしても、15~20年後には現在よりもさらに少ない兵力で対抗せざるを得なくなり、ロシアの侵略的傾向が変わらない限り、停戦はウクライナの国家衰亡を先延ばしするだけといったものになるからである。が、私個人の考えとしては、ロシアが大兵力を活かした歩兵戦に舵を切り始めたことで、この世代の徴兵は避けられないと考えている。

 今のところ、ウクライナで戦っているのはロシアの辺境民、残りはロシアの債務奴隷と犯罪者たちである。人口のベースは三千万人とウクライナとほぼ同じで、この連中を相手に戦っている限り、ウクライナが今すぐ敗北して全面降伏という事態は考えにくい。プーチンは意図的にインフレを引き起こし、SVOに協賛する債務奴隷を増やしているが、数は多くなく、戦争は五月雨式に続く。

 

※ 報道によると現在のロシアサラ金の年利は300%である。処罰を受けるとその場でSVOに参加させられるという刑事司法が見られるようになっている。

"In other words, totalitarian governments need to be constantly fighting enemies in order to survive. Both Hitler and Putin made use of manufactured external and internal threats for internal use and to maintain their unlimited power."
(Valerii Zaluzhnyi, Ukraine's Ambassador to the UK, former Commander-in-Chief of the Armed Forces of Ukraine)

 

(訳)「言い換えれば、全体主義政権は生き残るために常に敵と戦わなければならない。ヒトラーもプーチンも、内部で利用し、無制限の権力を維持するために、作り出された外部および内部の脅威を利用したのだ。」
(ヴァレリー・ザルジニー、駐英ウクライナ大使、前ウクライナ軍総司令官)

 

 上記の引用はザルジニー駐英大使(1/27、ウクラインスカ・プラウダ寄稿)だが、現場肌のシルスキーと違い、学際肌のこの元将軍はハンナ・アレントを引用しつつ、政権が戦争を続ける本質的理由を論述している。ナワリヌイの死はロシア内部に彼に対抗する勢力がいなくなったことを意味した。残るプーチンの敵はウクライナだけである。

 が、戦うにしてもミスターUSAの国のように、必ず負ける相手では困ることがある。旧ソ連はSDI構想でレーガン政権に対抗する宇宙作戦を企図したが、その時でも連邦のGDPはアメリカの半分で、彼の国ロシアはもっと小さな国である。相手にできる敵もウクライナあたりがせいぜいで、もし彼の国がもっと金持ちなら、彼は辺境国などには見向きもせずに、カザフの平原で宇宙戦艦を建造していただろう。

 ここには一つの示唆がある。もしも彼の国がかつての超大国と同等の規模で、現在と同じような体制であったなら、ふさわしい敵は別にいたということである。旧ソ連にとって、アフガニスタンでの悲惨な戦いは参加した兵士さえバツの悪さを感じるような国家の汚点であった。ベトナムや北朝鮮を支援した、超大国を向こうに回して遜色ない戦いならば彼らの誇りも満足しただろうが、中世国家のアフガニスタンは彼らにとっては知名度不足、役者不足だったのである。しかも負けた。

 

「勲章は売っていない」

 アフガニスタンの戦いがいかにバツが悪かったか、ロシア国民なら恥じ入らずにはいられない旧ソ連時代の歌。


 プーチンがチェチェンやアゼルバイジャン、グルシアやウクライナまで、注目度の低い戦争ばかり戦っていたのは、彼にはそれしかできないからである。このプーチンとロシア国民の屈折した感情が、この戦争がしつこく続く根本原因である。

 かつてのロシア帝国の皇帝も、自慢していたのは当時の世界最強国家、大英帝国に繋がる血統を持っていたことであり、ギリシャ国やなんとか・ハン国のそれではなかった。この点は先祖に中国の皇帝や朝鮮王朝があることに特に感慨を感じない、むしろ排斥し、皇室の血統を外国に求める必要のなかった我が国からは奇妙に見えるし、ロシアでそれが国民に支持された理由も分からないものである。

 ソ連崩壊後の経過からして、民主主義の実験が早い段階で頓挫したように、プーチン後のロシアが欧米張りの国民国家になる可能性はあまり高くないと考えられる。原爆まで落とされた世界戦史でも指折りの悲惨な敗戦を経験した我が国さえ、欧米化された国家観や価値観が、望ましくないとされた以前のそれに全面的に取って代わったわけではなかったことがある。ロシアはロシアであり、今後とも独自の国家観を維持しつつ、存在していく国である。それとどう折り合うか。

"Let lies cover everything, let lies rule everything, but let us insist on the smallest thing: let them rule not through me!"
(Aleksandr Isayevich Solzhenitsyn, Novelist, essayist, historian)


(訳)「嘘がすべてを覆い、嘘がすべてを支配しても構わない。しかし、最も小さなことにこだわろう。嘘が私を支配しないように!」
(アレクサンドル・イサエヴィチ・ソルジェニーツィン、小説家、随筆家、歴史家)


 最後はノーバヤ・ガゼータ紙(1/29)からの引用、情報を取るに際し、今のご時世だから私もネットが中心だが、普通の新聞の記事や傾向の違う新聞社の記事も読むようにしている。Yahoo!ニュースなどAIが選定した記事は偏る傾向があり、ツイッターXなどは特にそうで、そういう関与のない普通の新聞は清涼剤になるのである。

 ノーバヤ・ガゼータ紙はゴルバチョフの出資でムラトフ氏が創設したモスクワの新聞社で、氏自身もノーベル平和賞を受賞している。プーチン政権下では活動は決定的に逼塞され、氏も外国代理人の指名を受けたが、活動の場をネットに移し、現在も情報を発信し続けている。プーチン政権に取っては目の上のたんこぶのような新聞社である。設立国の性質上、速報性は皆無に等しいが、論説の重厚さはNYタイムズなど世界的にも著名な新聞社を凌ぐものである。私も時折参照している。

 件の文章はソルジェニーツィンだが、記事はSVOを巡りロシア社会に漠然と覆う不安を心理療法士が述べたものである。嘘と欺瞞が平然とはびこる社会において、あからさまな悪に加担しないようにするにはどうしたらよいか、改革を標榜し、その実は私益を図る人間に利用されないようにするにはどうすべきか、その心構えについて述べた一文である。なお、同じ論説には次のような一文もある。

“From my experience, even just comments on social media can sometimes be a great support for someone who feels isolated and whom you have never met in person.”
(Andrey Gronsky, psychotherapist)

(訳)「私の経験から言うと、ソーシャルメディア上のコメントだけでも、孤独を感じている人や直接会ったことのない人にとっては大きな支えになることがあります。」
(アンドレイ・グロンスキー、心理療法士)

 私も別に無意味なことをしているわけではない。

 不法移民を巡るアメリカとコロンビアのドツキ合戦はトランプの勝利に終わったが、小さな成功体験でもないよりはマシであり、また彼の単純な思考は80年続いたパレスチナ問題などなかったかのようであり、ガザ地区の住民を追い出して跡地にイスラエルと合弁の「トランプタウン」を建設するという計画らしい。まあ、日本でも北方四島の住民はほぼ同じ期間根室に移住したままだから。

 で、ウクライナはというと、国務長官の言では軍事援助には影響ないという話であるが眉唾で、民間援助はほぼ切られ、ディールな大統領令は全世界で滞りなく執行されているようである。ついでにチャシフ・ヤールとヴァリカ・ノボシルカが陥ちた。これも昨年にウクライナ軍が奪回した時から廃墟だったからどちらでも良いか。死人はたぶん出ているが、考えるのを止めよう。

 今回はそういった話ではなく、前回紹介した当事国の軍歌に二三付け加えたいと思う。ロシアはほとんどないが、ウクライナは2022年の侵攻以降、士気高揚にいくつかの軍歌を発表しており、結構良い曲が多い。「新軍の行進」は前回紹介したが、今回はそれ以外の曲。なお「チェルノバイカ」も前回紹介したが、マイナーなのでもう一度載せておく。

 

1.ウクライナ軍歌・愛国歌

 

「ウラジミールはダメだ」

 戦争1年目に公表された軍歌、説明通りフィンランド軍歌「モロトフはダメだ」の替え歌。この頃はバイラクタルがまだ有効だった。

 

 

「チェルノバイカ」

 前回に引き続き再掲、ヘルソン郊外のチェルノバイカでウクライナ軍が勝利したことを祝した歌。なお、この戦いでモルドヴィチェフ将軍が負傷し、現在は中央管区軍司令官(結構長続きしている)の彼のトラウマになっている。

 

 

「ウクライナが勝つ(ウクライナ・ペレモケ)」

 2022年5月に発表された愛国歌、ウクライナ軍参謀本部軍楽隊共演、歌手のうちМихайло Хома(DZIDZIO)とЄвген Кошовийはドラマ「国民の僕」に出演している。コンサートでは「勝利(ペレモケ)」の部分をあえて歌わずに観客に唱和させる演出が用いられている。

 

※ ウクライナ軍では軍楽隊は参謀本部の所属。なお、スペルではж(zh)があるので「ペレモジェ」だが、こなれていないので、演奏時の発音に近い「ペレモケ」とした。演奏により「ジェ」と聞こえる場面もある。細かく言う人もいるが、公的見解で統一された訳がない限り、外国語の音や訳をどう当てるかはこちらの自由である。

 

「地上に、空に、海に」

 2022年8月に発表された愛国歌、同じく参謀本部軍楽隊の共演なので、行進している軍人にペレモケと同じ面子が登場する。Михайло Хома(DZIDZIO)も引き続き登場。

 

 

2.その他

 

「コサックの忠誠」

 コサック民謡だが「国民の僕」ではEU委員との折衝の場面にユーモラスに用いられている。

 

 

「コサックの夜明け」

 ウクライナの歌手NAVKAによるコサック民謡

 

 

「隼よ」

 ウクライナの歌手Eileenによるコサック民謡

 

 

「鯨取りの歌」

 ウクライナの歌ではないが、アイリーンの一人演奏が面白い

 

 ウクライナの士気高揚の歌は他にもあるが、戦闘の長期化、膠着化により最近はあまり見られなくなっており、2022年頃の歌がメインである。ロシアでは同様の曲は既存の軍歌以外見られないが、これはロシアではこの戦争は「特別軍事作戦」で、戦争ではないことから、戦意高揚の歌は作られなかったものと思われる。

 

 目的はともかく、音楽性はどの曲も高いように見えるが、その背景としてコサック音楽の伝統があるだろうことを考慮して、その他ではコサック民謡をいくつか取り上げた。

 

 会社ぐるみで強姦事件を共謀したことによるフジテレビの記者会見はさすがに百戦錬磨のテレビ業界、はぐらかし技術の精華のような会見は延々10時間続き、視聴者を呆れさせると同時に筆者などは「ああ、やっぱり」という感じのものであった。しかし、諸悪の根源は会見に出ていない87歳の老いぼれた相談役で、フジテレビを事実上支配していたということだが、本当だろうかと思えることしきりである。少なくとも自分のひ孫ほどの歳の女キャスターの動向など、この老人は知らされていまい。

 ついに西松屋(サザエさんのスポンサー)にも見切りを付けられ、CMを見ればACばかりという惨状は、この記者会見では解決しなかったようだ。

 組織も人間と同じく起きている時もあれば眠っている時もある。起きている時は誰もが行く末に関心を持ち、動向にも敏感だが、眠っている時はごく少数の人間が運営をし、他はただ言われるままの仕事をするだけである。フジテレビはたぶん30年間眠っていたのだろう。

 いや、老いぼれる前は野心家だった日枝氏にとっては、眠っている方が何かと都合良かったのだろう。このあたりのメンタリティは投票率が上がることを恐れる自民党議員に通じるものがある。彼らが国民の過半数以上の支持を得たことなど、選挙制度始まって以来一度もないからだ。

 しかし、眠れる組織は力を発揮することができない。統一されて動くことを誰もが嫌がるのであり、おまけに敵をも作る。執行部とは違う傾向を持つ者、縁故やコネのない者、あるいは単なる好悪感情で相容れないものになるのであり、例えば私も自分自身は人畜無害な人間と思っているが、ある種の人々に取っては不倶戴天の敵である。敵なのであるから、私もこれに応じるには敵に対するようにしなければならない。人格の善し悪しなど関係ない。停滞した組織はそれがあるだけで、内にも外にも多くの敵を作るのだ。それは会社に限らない。およそ組織と名の付くありとあらゆるものにある。

 したがって、眠れる組織を率いる者は必然的に独裁者にならざるを得ない。意に沿わない者をパージし、自他共に認める三流の人物を手足に据える。辞めれば作りすぎた敵により八つ裂きにされるのであり、手足になる人物の弱みは当然握っておく必要がある。この点でも辞められない。弱みを握られた人物は自分が優位に立つや否や、弱みを知る上長を消しに掛かるからだ。

 

 見た様子を記せば、会見に出席したフジの役員どもは一人残らず例外なく、女性関係の弱みを持っているように見えた。着服はさすがに犯罪であるが、不倫の一つや二つは甲斐性くらいに思っているのではないか、そういうふうに仕向けられているのであり、拒絶するような清廉な人物はハナから登用されない仕組みなのである。

 これが正常なそれでないこと、就寝中の不随意運動のようなものだということは、まず意識しておく必要がある。正常な組織なら独裁者など存在し得ないし、少数の人間が組織を仕切ることなどあり得ないだろう。刻々と変化する現実には的確な対処が必要であり、選り好みなどしている余裕はないからだ。しかし、惰眠が余りにも長く続くと、不正常なものの方が正常だと錯覚してしまうから困ったものである。睡眠中の人間をいくら働かせてもでたらめな成果しかない(たぶん成果すらない)。世の中に彼らしかいなければそれでも良いだろうが、そういうことはあまりない。

 実を言うと、会見を一部見てみて、私などは「今の日本そのものだな」と溜息さえ出たのである。時には甘い汁を吸ったであろう人間がよってたかって老相談役を吊るし上げに掛かるのは、実は彼らも身勝手な人間だからで、そんな人間が後釜に座ったところで組織が眠っていることに変わりないのだから、やっぱり成果など上がらないだろう。ゴーン事件の後、何でもかんでも元会長に押しつけていた(今でも言っている)、それでいて会社は破綻した日産自動車の例を思い出す。フジの場合は反日枝イデオロギーが会社を潰すのだろう。何年か後には、今度の事件はフジ内部の権力闘争として矮小化された絵が提示されるに違いない。

 類例は非常に多いように思われる。が、多くの場合は厄介事を恐れてか、大多数の人間はこれに関わろうとしない。電車の痴漢を見て見ぬふりする大多数の乗客のように。そのようにして、この国はどんどん沈んでいくのである。

 悪人は司法を利用する。司法官僚とて役人であるから、持ち込まれた事件には通り一遍以上の関心は示さない。刑事ドラマのような洞察力と行動力に富んだ刑事などむしろ例外である。防犯カメラも必ずしも都合の良い場所にあるわけではない。だから悪人が事件を持ち込んだなら、多くは悪人の肩を持つ。そして、悪人の権利を尊重する。常識と寛容に富んだ善人の方が泣きを見るのである。この司法オートメーションにおいては、真実発見など二の次三の次である。

 少なくとも今の制度はこういうものだ。だが、正義の天秤のこのような用い方は本能的に間違いと感じるものだし、制裁を受けるべきは悪人の方だと感じもするだろう。では、どこをどう直せば良いのか。そういう提案が頻繁にでき、社会も関心を持つようなものが、起きている社会というものなのだろう。

 私個人の意見としては、この社会は別に起きなくても良いと思っている。事件につき、知ったふうな説明など、私は信じない。
 

 自身の事業の資金ショートで月に行きそびれた事業家の前澤友作氏が今の経済が左前なのは「国民が悪い」とのたまい、多少話題になった件があるが、彼の持論によると、一人が10%余分に買い物すればGDPも10%成長し、経済が潤うという話で、「経済はムードである」という話であるが、どこかおかしいと感じるのは、そもそも同じ品物、同じサービスを彼のような資本家の都合で以前の10%高で買わなければならない義理も道理も国民にはないということである。

 普通はこういう場合は自由競争の原理が働く。前澤ZOZOが物品を10%高売りすれば、追従する者もあるだろうが、抜け駆けする人間が必ずおり、値上げしない、もしくは値下げしてZOZOシェアを奪うというのがいちばんありそうな話である。ただ、最近の日本ではあまり機能していない。

 機能しない理由の一はまず規制が多く通達行政で市場競争のスタートラインに立てる業者が限られるということと、そこにIT技術など市場の流動化を押し進める技術が加わり、それがまた寡占状態でさらに限られるということである。

 規制それ自体の性質もある。例えば同じ商品でも「機能性表示食品」とか「消費者庁認定」の文字が加われば高く売ることができ、利ざやを改善できることは誰でも知っている。最近はこれに消費者アンケートが加わり、資本家は権威付けに熱心である。もちろんそのコストは消費者が負担する。

 IT技術については、スーパーに導入されているPOSシステムは価格の変更をキーボード一つで可能にしている。以前なら棚卸しして一枚一枚ラベルを貼っていたものが瞬時に変更できるわけであり、このせいでジャガイモは水曜日には安く、金曜日には高くなるのである。「物価が高い」上に、多くの消費者は「一番高い時に」買わされているのである。

 自由競争といったって、ざっと挙げてこれだけの障害がある。これで市場競争しろといったって、低調なのは当たり前で、まず競争条件を整えることから始めるべきだろう。が、そこにも陥穽がある。

 安倍時代の名物に「黒田バズーカ」という市場操作策があったが、主として年金資金を原資に国が買い漁った株式には優良企業のものが多くある。上場企業はほぼ全てが影響下にあると見て良く、大株主の欄に信託とかマスタートラストとかの文字を見たら合算すれば、これで奴らの覚えのめでたさを測ることができる。概ね12%前後、日産みたいに信用できない会社は6%ほどで、鴻海に買われたシャープなどは無保有か3%以下くらいである。安倍政権は株を買い漁ることで経済の準国有化を進めたのである。

 これだけのシェアの株式があれば当然役員を送り込むことができる。天下りも一人ならさほど手強くもないが、概して集団でやってくる。そうなればその企業は乗っ取られたも同然だ。自社に都合の良い規制を作ってもらう代わりに、自身では八百屋すら経営したことのない経営オンチの官僚により、先見性を失い、機動性を失い、社員の士気も失う。会社としては死んだも同然だ。

 だから先の前澤氏の言葉は、「さまざまな方法で国民に10%負担させる」という論法になるのである。市場経済の増進は本来は効率性と革新性によってなされるべきであるが、彼の論法ではラーメン一杯千百円の値上げラッシュが善になるのである。

 その結果、無辜の国民は時間も奪われる。10%余分に支払わなければならないことで10%余分な時間働かなければならないことになり、一日は24時間しかないことから、労働時間8時間の価値は7時間になり、1,000時間必要な商品の実用化には1,100時間が必要になるのである。

 我ながら悪いことばかり書いていると思えるが、そうなるとしか思えないのだから仕方がない。これでは政府は共産主義でも民間においては比較的自由で活力のある中国には敵わないだろう。

 アメリカでハリス候補が敗れた理由には、かつてオバマ政権が提示したリベラルの理想が現実においては齟齬を来していたという認識がある。制度は機能せず、オバマケアの保険金は給付されなかった。多様性の尊重は一部では文化破壊運動になり、それは住みにくい社会であった。そしてウクライナ戦争においては外交においても脆弱性を露呈した。法と秩序と倫理の美しい世界は人間性を失っていたのである。裕福な生まれで、マイノリティではあるがハーバード大学に進学したオバマはそれに気づかなかった。

 トランプの移民排斥運動は各界で苦言を呈されているが、その言い分もやや見苦しい。ミートパッカーやアマゾン配達員など低賃金労働に従事する不法移民者がいなくなれば経済はマヒするというものであるが、もっとひどい例は医療現場だが、他国の人間を牛馬のように使って得た繁栄は擁護に値するものなのか。

 アフガニスタンにしても、擁立されたのはアメリカかぶれの人物で、良質な雇用先は全てアメリカ企業に関連するものだった。内戦で疲弊した国の復興に充てられる能力のある人材は全て外国企業に吸い上げられ、自国ではない他国の「国益」に奉仕される姿を横目にタリバンが勢力を伸ばしたのである。

 ロシアにしても、グローバル経済では二流の構成員で、資源をダシに利用ばかりされる姿が冷戦後のこの国の姿だった。アメリカ人のお家芸であるダブルスタンダード、屈従の光景が、誇り高い国民に静かな怒りを醸成したことは想像に難くない。プーチンが戦争を仕掛けるにしても動機がある。

 我が国においてはどうか、なるほどインバウンドで外国人が大挙来訪し、観光産業はそれなりの収益を上げてはいる。が、この観光産業というもの、我が国でも格別に旧弊な業界で、ホテル経営者がウハウハと大金を稼いでいる下で、保険や年金すらまともに積んでもらえない使い捨て、低賃金の日本人、外国人労働者がごまんといるのである。

 それに観光が目玉になるというなら、なぜ日本人に欧米人と同じバカンスと長期休暇を与えようとしないのか。今のところ平日に旅行しているのは年金生活者ばかりである。インバウンドとは日本人が外国人観光客の奴隷になることか。

 つらつらと書いたが、時勢を考えるにあたっては、我々も仕入れ値と曜日に合わせて価格を自在に変えられるPOS店長と同じ柔軟性が必要である。二百年前の古道具だが、これは消費者に対してアンフェアであるから、機械化税は検討の余地はあるのではないか。IT化された株式市場ではキャピタルゲインに対する課税も再考の余地があるのではないか。そして拠点を無税地に自在に移すグローバル企業に対しては、トランプ同様の関税が有効なのではないか。施策に当たっては、イデオロギーに囚われない発想が必要だろう。

 とにかく、政府が言ったから、大手企業が足並み揃えてそう言ったからで「○月から千品目値上げ」といったニュースには辟易する。この国が自由経済の国でないことを自白しているようなもので、そんなものを「はいそうですか」と認める国民もろくなものではない。そう感じる昨今である。

 産業を奮い立たせたければ、調達コストは安くする必要がある。IT産業も初期の先駆者たちが投じたコストはほとんどタダか、取るに足らないようなものだった。安くなければ発明はできないのであり、発明ができなければ付加価値は生まれない。発明にはしょぼいものも偉大なものもあるが、とにかく、1+1>2にするのは人間の創意工夫なのである。

 ビル・ゲイツはアルテア(当時のマイコン)をタダで入手したし、スティーブ・ジョブスもインテルのチップは格安で入手したものである。いずれにしろ、当時の彼らには多額の投資を求められても応じる資力がなかった。アマゾンやフェイスブックに至っては最初期に必要としたものはテキストエディタだけである。低コストは時間を生み、時間は新たな発明に繋がる。しかし、前澤ZOZO商店に10%余分な金を支払う愚行は、見かけの増収増益以外は、なにものをも生み出すことはないだろう。

 

 価値=時間としたのはマルクスの価値論であるが、百年以上前の古道具と言わず、ここは原理原則に立ち戻り、使えるものは使うべきなのである。

 

"I can’t recall a single war where there was enough of everything. I hope our enemies are even more short on resources than we are. So we fight with what we have. And we just have to make rational use of what we do have."
(Oleksandr Syrskyi, Commander-in-Chief of the Armed Forces of Ukraine)

怒可以復喜、慍可以復悦、亡國不可以復存、死者不可以復生、故明君愼之、良將警之
(孫子・火攻篇四)

 下手な訳はあえて付けないが、そもそも私はこの程度のものを読めない人間(三日坊主某のような)を読者として想定してない。それにこれは「覚え書き」である。

 約束した24時間以内ではなかったが、トランプがプーチンに交渉を促し、プーチンも応ずる意思はありそうだが、反面ロシア国内では和平交渉はしないとも言っており、この「ディール」が首尾よく行くかどうかは、たぶん行かないが、注視すべきものとなっている。

 同時にトランプはかつてのダチ、金正恩とカショギ記者バラバラ殺人のムハンマド(サウジ皇太子)にも声を掛けており、数少ないプーチンの仲間を利得で抱き込もうという様子である。戦争では砲弾や兵隊を供給しているのが北朝鮮で、原油密輸の裏ルートを仕切っているのがサウジであることから、あと中国とインドがいるが、独裁者仲間の間でもプーチンは孤立を深めている。

 トランプ氏については、私は移民政策など彼の政治が滅茶苦茶だろうが、司教に文句を垂れる涜神の徒だろうが、釈放された1,600人の中にはストームZも顔負けの悪人が紛れ込んでいようが、閣僚に登用した人物がおしなべて三流で副大統領のバンスに至っては本人よりも奥さんを登用した方が百倍マシであろうが、この政権はウクライナ戦争だけ終わらせてくれれば、後はどうなっても良いと考えている。

 おそらく独特の本能から、トランプ氏はこの戦争の終結が自身のキャリアに最大の利得をもたらすもの、歴史に名を残すものであることを敏感に感じ取っていると思われる。ウクライナ問題は立ち入ればそう簡単に解決するような平易な問題では実はないが、非常の時には非常の人間が必要であり、単純さが物事を決することもある。

 国境線を現在のロシア占領地域で区切ることは領土不拡大の原則を謳った戦後の国際秩序からは許しがたい暴挙である。中国における台湾、38度線を挟んだ北朝鮮と韓国など領土拡大を狙う他の独裁者に口実を与える悪影響も否定できない。原則としては否定すべきだろう。

 が、ユーロマイダンに引き続くドンバス紛争がロシア人を手引きしたウクライナのロシア系住民によって引き起こされたことはある。ウクライナ人の中にも親ロシアの勢力があり、ゼレンスキー以前は政権自体もそうであった。ここでは「折り合いを付ける」ことが大事であり、格好などにこだわっていてはいられない。

 現時点ではウクライナもロシアも消耗し、欧州ではなし崩し的に講和の機運が高まりつつある。が、バルト三国を狙い、ウクライナ全面降伏を声高に主張するロシアにあっては、再侵略の阻止が喫緊の課題であり、平和維持軍への参加にアメリカが乗り気でないことから、平和の担保をいかに積むかが課題として残っている。

 今のロシアの世論では、現在ウクライナ軍としてロシア軍と戦っている部隊は大半が西側諸国の傭兵であり、クルスクに侵攻した部隊も主力はアメリカ傭兵部隊ということになっている。戦争がウクライナのような小国ではなく、NATO軍全軍を相手にした欧州大戦なのだという国内向けプロパガンダだが、事実とはだいぶ異なるために、プーチンも内と外の使い分けに苦労しているものである。が、見るところ、ロシア国民はそれほど戦争に乗り気でなく、真相についても気づいているように見える。

 

 それでも戦争を継続できるのは冷戦崩壊後のロシアの歪み、資源輸出に偏った経済とそれによって生じた許容しがたいほどの国内格差、ロシア兵の多くは義憤ではなくモスクワとは60倍の格差のある家計のために最貧地域から前線に志願しているのである。これはバブル崩壊後の我が国と同じ、失政による弊である。

 トランプの豪腕で和平の格好を付けることはできるのではないかと思われる。それを生かせるかどうかは当事国の指導者の手腕次第だが、現実というものは、得てして決まり通り、きれいには行かないものである。ウクライナの住民もロシアのそれも、「韓流ドラマを見たい」と看守にせがんでいる捕虜のいる北朝鮮の人々でさえも、今の人々は1945年のような単純な人々ではない。指導者よりも各々の国民の方が内面においてはより複雑である。

 

 20日にトランプ大統領が就任したが、パリ協定脱退、犯罪者1,600人恩赦など派手な行状とは裏腹に、24時間以内に解決すると豪語していたウクライナ戦争については一言もなく、プーチンは交渉に前向きという話だが、提示した条件はウクライナ全面降伏で、これも話にならない感じである。100以上の大統領令には全ての対外援助プログラムの90日間停止が含まれており、ウクライナがそれに含まれるのかは定かではないが、最悪のケースを想定しておいた方が良いかもしれない。

 ただ、昨年もねじれ議会による援助停止が戦況を危機的なものにしたが、90日くらいの援助停止なら耐え忍べそうな様子はある。各戦線ではロシア軍はポクロフスク、ヴェリカ・ノボロシカ、トレツクにチャシフ・ヤールの各都市を包囲しそうな様子だが、それ自体は前からあるもので、それが遅々として進まないのは、自動車戦力と砲弾が不足しているためである。北朝鮮式の切り込み戦術は各戦線でロシア軍を前進させたが、そのペースはひどく緩慢なものである。キーウにまで迫った当初のロシア軍ならば、これらの都市はすでに陥ちていただろう。払底したBMP装甲車に代わり、今のロシア軍が使っているのは普通乗用車とオートバイである。

 それに損失もバカにならない。現在のロシア軍は1日1,500人のペースで人員を失っているが、このペースだと月でおよそ5万人、年だと60万人を失うことになる。60万人といえば2022年以降現在までのロシア軍の損失にほぼ等しい。ロシアの人口は1.4億人で、それだけ見るならば損失率は0.4%だが、現在ウクライナに派遣されている兵士の出身はロシアでも低賃金地域の東部やシベリアで、ここの人口だけだと2千万人ほどなので、それで見ると3%、出生率換算だと全ロシアの年間出生数は200万人なので、該地域は30万人と、すでに出生数の2倍の住民を戦死させていることが分かる。

 首都モスクワを含むロシアで総力戦体制が取られていたならば、ロシアの人口とGDPはウクライナを圧倒するので、最終的には人海戦術で勝利を収めることはできるだろう。が、どう見てもそのようには見えないし、プーチンにそれだけの政治力があるようにも見えないことがある。人口の多い地域は戦争の影響を受けていないように見え、経済制裁の影響で失われた戦車、航空機の生産も軌道に乗っていない。

 ウクライナはすでに80万人を徴兵しており、徴兵対象年齢でない25歳以下を徴ずれば、兵員数でもロシア軍を上回る可能性がある。この状況では私はトランプ政権の国務長官と意見は同じである。今からでも兵力を増やし、ロシア軍を国内から追い出すべきだ。ウクライナが追い詰められているように見える今が若者を徴兵し、反撃するチャンスである。

 トランプの和平案については、どちらの側も半信半疑だが、ウクライナはNATO加盟とは別に外国軍隊を駐留させ、ロシア軍に対する牽制としたいようである。これはプーチンが最も嫌うシナリオで、そのためにウクライナ戦争を起こしたとさえいえるものだが、駐留軍といっても準NATO軍くらいのものでないと牽制にもならないことがある。アメリカ軍が理想的だが、どうも難しそうなことは見れば分かる話である。トランプの気まぐれに期待するしかない。

 イーロン・マスクの影響力は、この戦争ではやや過大評価されている可能性がある。バイデン政権の置き土産でドローン開発における米テック企業の協力が明らかになり、一昨年以降急速に進歩したウクライナドローンの開発に膨大な予算(23億ドル)が投じられたことが明らかになった。この分野にマスクの名はなく、ウクライナに対する米国の支援は表沙汰になっているものよりかなり複雑なもののようである。F-16戦闘機やエイブラムズ戦車は政治問題化し、投入にも時間が掛かったが、ドローンについてはバイデン政権を批判する共和党もトランプもほとんど無関心だったようだ。ロシアはランセット以降はめぼしい機種を開発していない。

 トランプ政権については、前回の様子を見ると1月目で混乱、3月目に閣僚が辞任し始め、半年後にほぼ瓦解という感じもする。前回の教訓から学んでいなければそうなるだろう。私としてはこの政権は戦争さえ止めてくれればよく、後はデタラメで一向に構わないが、あまり期待しない方が良いかもしれない。

 ゼレンスキーはダボス会議に出席して世界の指導者、経済リーダーと懇談し、講演も行うという話である。この東欧の一小国の元コメディアンは順調に人脈を拡げているが、ダボス会議はロシアは2022年以降出入り禁止である。戦況も思わしくないことから、誰に味方すれば良いのかはトランプでも分かると思うが、分からないかもしれない。
 

 

(補記)プーチンの汎ドニエストルいじめ

 

 ウクライナの隣国モルドバの一部で、ソ連崩壊時にロシア軍部隊が居残って人民共和国化した汎ドニエストル地方はロシアがクリミアの次に喉から手が出るほど欲しい港湾都市オデッサのすぐ西で、今回の戦争でも呼応して蜂起する可能性は我が国でも一部国際政治学者が指摘していた。が、これは過剰な期待というもので、ソ連崩壊から30年、地域の存立は専らロシアからの送金に依存し、装備も古く高齢化したこの軍団がウクライナに対抗して蜂起する可能性はほぼなかった。

 

 これが再びクローズアップされたのが最近で、何を思ったかロシアが突然パイプラインを止め、住民が電力不足、ガス不足の塗炭状態に陥ったことがある。モルドバ政府は援助を申し出たが、ソ連崩壊で時が止まっているドニエストル指導者はパイプライン停止は外国の陰謀と取り合わなかったことがある。おかげで今冬は住民は電気なし暖房なし食糧なしの悲惨な生活で、人道上ウクライナ政府も援助を申し出たが、プーチンの深謀遠慮はここでウクライナにドニエストルを助けさせ、ウクライナとモルドバのEU加盟を阻止することにあったようである。誰が言い出したか、EU加盟の条件としてウクライナはモルドバとセットで加入する必要があり、非公認軍事政権のドニエストルとの関わりはその可能性を無にするものということらしい。

 

 もちろんこんな策略は奏功せず、結局プーチンがパイプラインの元栓を開いてドニエストルを救ったが、ドニエストル指導者の頑迷さはモルドバとウクライナに挙手傍観以外の選択肢を与えなかったし、これがEU加盟の障害になるという議論も怪しいものである。たぶんドイツに拠点を持つロシアメディアのフェイクニュースだろう。思いつきのような策謀の犠牲になり、ひもじい思いをした住民こそ良い面の皮である。

 

 こういった策を弄すること自体、前線でのロシア軍がかなり苦しい状況にあることの証左となる。ウクライナはもちろん苦しいが、少なくとも指導者はダボス会議に出席する余裕がある。おそらくあらゆる指標でレッドアラートが点り、プーチンとしても何とかしたいものなのだろう。

 

 で、こういう場合、場末軍事政権の次くらいに目を付けられるのが我が日本である。例によって怪しげな秋波を送っているように見えるが、策謀などせず、さっさと戦争を止めれば良いものをと思うのは、私だけではないだろう。

 

 11月にクルスクに送られた北朝鮮部隊はほぼ壊滅したと思うが、この「小さな北朝鮮」の軍団は「大きな北朝鮮」であるロシアやウクライナに思わぬ影響をもたらしており、まさに「金正恩もビックリ」の様相が現出している。

 先月に国境付近の寒村プレホボ村を急襲したDPRK部隊は今月初旬にプレホボの北、スジャの南端にある小都市マクノフカに出現し、待ち受けていたウクライナ軍に包囲殲滅され、これ以上はないというほどの無残な敗北をして壊滅したが、その数日後、落ち武者狩りのウクライナ特殊部隊に二人が捕虜になり、ゼレンスキーの紹介で尋問の様子が公開されたが、実はここに至るまでが難儀であった。二人の捕虜を取る前に朝鮮兵が20名自爆し、ようやく捕らえた最初の兵士は傷がもとで死亡し、その次は自殺したため、そもそも映像にするまでに大変な苦労があったのである。

 人民軍が崩壊したこともあるが、片言の朝鮮語を話すウクライナ部隊が敵地奥深くに潜入し、捕虜を捜索する方法は、ウクライナ軍も朝鮮軍の影響を受けたものと思われる。彼らやロシアが構築した要塞網はこと戦車や自動火器に対しては鉄壁の防御力を誇ったが、ごくプリミティブな歩兵そのものの侵入には案外無防備で、DPRKとの戦いはウクライナ軍にそのことを気づかせることになった。

 ロシア軍については、DPRKの取る素朴な肉弾突撃は当初は嘲笑の的だったが、その突撃力が侮れないことを見たロシア軍は同様の戦法を各所で採用するようになっている。前線の外れで降車し、地図と時計を頼りに敵陣に肉薄する戦法はかつての日本軍の採った戦法だが、現代でも意外と有効で、そのためロシアは支配地域を徐々に拡げている。

 戦線は長く、両軍とも全ての戦線に目配りできるほどの兵力は配されていない。第二次世界大戦は数百万規模の歩兵の激突だった。現在の戦争は数万、全軍合わせても数十万単位でしかない。なのでウクライナでは兵力不足が顕在化している。ウクライナでは歩行ロボットに火炎放射器や機関銃を据え付けたドローンロボが実用化しているが、生身の歩兵はこれでは防げないようだ。

 しかし、ガダルカナルの戦いで日本軍が夥しい犠牲を出したように、この種の戦法は戦闘における犠牲者を大きいものにしている。プレポポを襲撃した人民軍もその後のウクライナ軍の反撃で多大な犠牲を出している。装備の整った敵相手には肉弾戦法は非情な結果を生む。

 トランプの就任まであと三日だが、ロシア軍は現在の損害率だとそれまでに5千人、一週間では1万人が犠牲になることになる。人口ではロシアはウクライナより有利だが、現在戦っているのはロシアでも低賃金の辺境民や犯罪者である。そろそろ払底しても良い頃だ。

 第一陣が壊滅したことを見た平壌ではおそらく第二陣を送るものと思われる。続く部隊が第一陣ほどの士気と戦闘力を維持しているとは思えないが、ほぼ全滅したにも関わらず、DPRK部隊の評価はウクライナ、ロシア双方で「ワグネル以上」と高い。ドローン戦には不慣れだが、長い兵役期間で射撃能力が高く、ロシア兵よりも忍耐力があり、降伏しない北朝鮮兵はウクライナ軍には初めて遭遇する敵である。

 人民軍の影響はウクライナの防空にも思わぬ結果を招来している。地上戦に引き抜かれたことによりウクライナ空軍は人員不足が顕在化しているが、さらに増援を求められたことにより同空軍の充足率は40%になんなんとする様子であり、航空機の維持や防空ミサイルの操作要員がこれほど不足すると都市の防空に無視できない影響がある。パトリオットミサイルを供与されても操作できる要員がいないために被爆を許してしまう事態が現実味を帯びている。

 しかし、だからといって人民軍の参戦で戦争がロシア側に有利に傾くというものでもない。朝鮮軍は重火器を欠き、自動車戦力がなく、ドローン戦にもほとんど無知である。DPRKの活躍は戦場の無人化に執心していた両軍の傾向に一石を投じたが、ことドローン技術では体系化と運用でウクライナがロシアを突き放しつつある。対策はやがて取られるものと思われ、朝鮮得意の肉弾戦術もやがて通用しなくなるものと思われる。かつての日本軍がそうであったように。

 

(補記)ついに戦闘機ドローン登場

 

 

 開戦から三年も経ってようやく出てきた制空用ドローンだが、動画のドローンはかぎ竿ではなく散弾銃を装備している。これまでそういう装備がなかったこともあり、小気味良いほどにドローンを撃ち落としていくが、照準装置がなく、対人射撃(ビデオ後半・北朝鮮兵と思われる)はたぶん当たらなかったと思われる。ドローンを落とすより生身の兵士を倒す方が難しい。WWⅠでは複葉機の搭乗員がピストルや信号銃を持ち込んで世界初の空中戦が行われたが、どうも同レベルであり、この分野はまだまだ原始的で発展途上の分野である。

 

 

 一昨日にマフホブカで北朝鮮軍が敗戦し、コレネヴォ回廊での防戦は続いているが、スジャのウクライナ・クルスク派遣軍が5日に北進を開始したという報道があり、構成から見てこれは3日にDPRKを殲滅した部隊で、そのままプレホボまで攻め込まずに北進したが、これまでの報道ではスジャのクルスク派遣軍は四方からロシア軍に包囲され、防戦一方のはずであった。

 これが攻勢に出た理由としては大統領選など情勢の変化もあるが、三月の戦闘でクルスク派遣のロシア軍については規模・実力とも報道されているほどではないこと。プレホボ村のDPRK師団が包囲殲滅を受け、ほぼ壊滅したことがあるように思う。

 

※ 戦闘というものは非情なもので、陸戦でも海戦でも、いちばん弱い部隊から壊滅し、いちばん弱い船から先に沈んでいく。この戦場でのDPRKは数も装備もロシア・北朝鮮連合軍中最弱であった。なので、配備された途端に撃滅されたことは驚くに値しない。これは古今東西変わりのない戦闘の鉄則で、クルスク派遣の北朝鮮第一次派遣軍(1.1万人)については、ここで壊滅したものと見て間違いないと思う。

 北進部隊はクルスク担当のウクライナ軍の半数から3分の1ほど(2~3個旅団相当)で、大きい兵力ではないが、回廊の防戦部隊は以前より小さい規模で二倍以上の規模のロシア軍を支えることになる。DPRKに至っては手当さえないといった感じであり、手薄な方面への北進はロシア軍を驚愕させていると思われる。時間差から見て、これはスジャで戦略予備として用意されていた部隊であり、マフホフカで人民軍を殲滅した部隊である。戦車や装甲車で構成され、これまでも、ここぞという時に投入されてきたウクライナ軍の切り札である。

 ウクライナ軍が補給を受け北進し、装甲車を中心に北のボリショエ・ソルダツコエに迫る様子は、DPRKの殲滅が一連の計画のうちにあり、人民軍が誘い出されたことを示唆している。進撃した距離はスジャからクルスクまでの旅程の三分の一であり、クルチャトフ原発はもっと近い所にある。原発は前回は見逃されたが、今回はどうか。

 この兵力でクルスクに迫ることはおそらくできないが、タイムリミットは今月の20日にある。新大統領が就任し、対ウクライナ政策が大きく転換され、その時点で停戦する可能性があることを見れば、ここでロシア領土を切り取ることには政略上の意味がある。

 クルスク・ソルダツコエ間の防備がどの程度かは不明だが、これまでの様子では以外と手薄なことがあり、これはコレネヴォ回廊の戦闘にも影響を及ぼすかもしれないし、すでに及ぼしているかもしれない。ロシア軍がコレネヴォかソルダツコエかの二択を迫られるようなことがあれば、やっぱりロシア兵力はさほどの規模ではないのである。どちらも守りたければ、これは南から兵力を引き抜く(ロシアでは政治案件でもある)以外にない。
 

 

(補記)

 クルスクではすでに過去の軍隊になってしまった朝鮮人民軍だが、実を言うと軍歌には音楽性の高い曲が多い。ロシアも同様であり、ここではプーチン戦争に参戦している当事国の軍歌を紹介しておく。

 

1.当事国軍歌

 

<朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)>

 

朝鮮人民軍軍歌

 パレードなどで流される代表的な曲、威勢の良さは諸国軍歌中随一。

 

 

「我々はあなたしか知らない」

 全編金正恩賛歌・キャラソンとされている曲。曲調に70年代シティポップの影響を指摘する者もいる。アメリカで演奏されたこともある。

 

そのアメリカでの演奏、演奏はウレク交響楽団

 

<ロシア連邦(RUS)>

 

「ロシアへの奉仕」

 ソ連時代から音楽性の高い曲が多いが、その集大成。ロシア軍に入りたくなってしまう。

 

「ソヴィエト・マーチ」

 元はアメリカ製コンピュータゲーム「レッド・アラート3」のために作曲された曲だが、ロシアでアレンジされ、事実上ロシア軍御用達軍歌になっている。

 

 

ロシア連邦国歌

 CISの時代のロシア共和国は別の歌を制定していたが、プーチンの時代に歌詞を一部変え、国歌として復活した旧ソビエト連邦の国歌。

 

<ウクライナ(UKR)>

 

「新軍の行進(我々は素晴らしい時代に生まれた)」

 たぶんウクライナでいちばん有名な軍歌。2017年と案外新しく、新生ウクライナの精神を体現している。様々なヴァリエーションがある。

 

元曲(新軍の行進)をウクライナのロックバンドVVがアレンジ(我々は素晴らしい時代に生まれた)したもの、こちらの方がポピュラー。

 

マリウポリ攻防戦の最中でも

 

 

地下壕の中でも

 

 

カリンカ(ウクライナ)

 ウクライナの歌手アイリーンによる。伝統的な愛国歌。

 

 

チェルノバイカ

 ヘルソン州の小村チェルノバイカでロシア軍が惨敗したことを祝した歌

 

2.教養として

 

<大日本帝国(IJE)>

 

「露営の歌」

 各地に派遣された日本軍兵士の愛称歌。「死んで帰れと励まされ」とは、当時日本は戦死すると恩給が遺族に支給されるからである。

 

「海行かば」

 日本海軍の歌。だいたい日本軍は出征すると「水漬く屍」とか、まともな葬式もしてもらえない例が多い。

 

<アメリカ合衆国(USA)>

 

「ジョニーが家に帰ってくる」

 歌詞は知らなくても誰もが一度は聞いたことのあるアメリカ軍を代表する軍歌。元は南北戦争時代の曲。

 

「ジョン・ブラウンの屍」

 これも聞いたことがあるはずの曲。アメリカは軍歌大国である。

 

<連合王国(UK)>

 

ルール・ブリタニア

 イギリス国歌よりも古いイギリスを代表する愛唱歌。集会やサッカーの試合などで歌われることが多い。

 

 先の続きである。続報が入り、1月3日にスジャ市南部のマフホフカでウクライナ軍とDPRK・ロシア空挺部隊の戦闘があり、大統領府の発表だとDPRK一個大隊が壊滅したという話である。これが大隊戦術群(三千人程度)の大隊なのか、通常の一個大隊(三百人ほど)なのかは報道からは分からない。



 これを図示すると上図のようになるが、当初の様子では司令部のあるガス計測所都市(スジャ)への攻撃は青線の方向で行われると考えていたが、先にも述べた通りロシア部隊は公式報告よりだいぶ少なく、R202号線方面とフセール河畔のロシア軍は元々存在しておらず、ガス都市を挟撃しているのはコレネヴォ方向のロシア軍とプレホボのDPRK(赤線)だけのようである。

 そもそも当初の様相でもDPRKの担当戦場は相当無理があった。幹線道路近辺の開けた平野で自動車装備のない人民軍が都市に向かって突出したら何が起こるかは火を見るよりも明らかで、例え一万人でも数キロの前進のうちにほぼ全滅するだろうと思われた。

 だから南下してプレホボ村を襲い、河畔の森林地帯を利用して都市に近接するのはそうするだろうと思えるものであるし、自動車装備の有無も森林と沼沢地帯のこの地形ではさほど不利にもならないとも考えられた。しかし、プレホボを占領して半月も経たないうちにもう攻勢に出るとは。現在までの所、マフホフカのDPRK部隊はクルスク戦線で最もスジャに近接した部隊である。が、マフホフカはそれ自体が罠のような地形の都市で、突入した部隊は包囲されあっけなく壊滅したものらしい。



 この攻撃にはロシア空挺部隊も加勢したが、この部隊は先月末にコレネヴォ方面でほぼ壊滅し、再建のためプレホボに移動した部隊のようだ。つまり戦力外のゾンビ兵力で、こんなもの、あってもなくても同じことだっただろう。第100何とか空挺師団というらしいが、開戦以降、通算して5~6回目の全滅で、クレムリンはどうも不名誉な隊史を持つ隊の兵隊は後送せず抹殺する方針らしい。まるで大戦末期の日本軍みたいである。

 しかし感心するのは、クルスク方面で一方面を受け持つ北朝鮮部隊が案外「律儀」なことで、行動の機敏さもロシア軍に勝るし、限られた条件の中では戦術的判断も決して間違ってはいない。まるでガダルカナルの日本軍のようだが、今のところ、食い物に釣られて降伏する者はいないようだ。

 つい先日戦死した北朝鮮将校のメモが回収され、メモにはドローン対策など図示されていたが、ドローン対策の下りはウクライナ軍ではロシア軍に教授された可能性を示唆しているが、おそらくロシアからの情報のない、人民軍独自の対策のように思う。ウクライナ軍のドローン攻撃は攻撃の他に敵部隊の攪乱も任務となっており、図示された戦術では部隊が動きを止めた瞬間にクラスター弾を撃ち込んで来るからだ。同じ場所を砲撃しないというアドバイスも戦術ドローンで弾着観測をしているウクライナ砲兵には意味のないアドバイスである。言語の問題もあり、ロシア軍はかなりの裁量(あるいは放任主義)を人民軍に与えているようだ。



 メモには他に部下の誕生日を祝福したり、故郷を懐かしむ字句が記されていたとされるが、望郷の下りはおそらく詩歌であろう。我が国では絶えてしまった文化だが、日本軍から伝授された80年前の歩兵戦術を今だに用いる人民軍ではなお健在のようであり、この朝鮮兵たちはあらゆる点で80年前の日本兵そっくりである。戦死した将校の知性教養は相当に高く、上級国民としてそれなりに考え抜かれた理由から戦闘参加を決意しており、あのおバカなISWとジェイク・サリバンのブレーンらが考えるような洗脳された狂信者ではない。これは食い物などでは釣られないだろう。

 平壌では派遣部隊の想定外の損害を受け、幹部会議を招集して増援部隊の派遣を検討しているという。昔の日本軍と同じく、この国も上の方はおかしくなっており、一寒村を落とすのに千人の犠牲で済んだなら、次は三千人、五千人と損失を許容できる規模の部隊を派遣すると思われる。一部はクルスクに定住し、畑作でも始めるかもしれない。

 これはえらいものを引き込んだなと思われるが、大きな北朝鮮であるロシアでは経済破綻の足音が近づいている。国内での所得格差10倍の超格差社会ロシアでは、今のところ兵隊は低賃金地域から徴兵されているが、戦費の方は値下げとは行かず、経済学者でもある新国防大臣ベロウゾフの軍事ケインズ政策はおそらく彼でも分かる通り、インフレを初めとする、経済学のセオリー通りの結果をもたらしつつある。この種の経済破綻には豊富な実例がある。

 ウクライナと西側諸国が金(食い物)で釣った方が良いのは、北朝鮮の一般兵ではなく、おそらくロシアと北朝鮮の指導者たちだろう。終戦と同時に訪れる経済破綻の恐怖は、80年前のどこかの国のように、一般市民よりも彼ら指導者たちの方がより良く意識しているもののはずであり、それ自体いろいろな理由を付け、戦争継続に正当性を与えてしまうものだからだ。