ウクライナ戦争ではドローンが脚光を浴びたが、ウクライナ軍の公表するドローンの「大戦果」を見つつ、ふと疑問に感じるのは、どちらの軍にもこの蚊とんぼのような飛翔体を撃墜するドローンがないことである。

 ビデオではウクライナ軍は度々ドローンの撃墜を試みており、成功した例もあるが、空対空の火器を欠き、大昔の海賊が使った「かぎ竿」のようなものでようやく落とす様子はかなりしんどそうである。ドローンとドローンの間には2,000~3,000万立方平米ほどの空隙があり、これは同じ大きさの二次元平面に比べ200~300倍ほど大きいし、そこを飛翔して敵ドローンに「かぎ竿」を引っかけるには、戦闘機ドローンはかなりのエネルギーを携行する必要がある。思っているよりも厄介なのである。

 電磁波を浴びせて無力化する技術もあり、携帯型のジャミング装置が前線に配備されているが、着陸させるまで電磁波を浴びせる必要があり、空対空ドローン用には使いにくい。かぎ竿のほか、網を掛けたり鳥を訓練したりする方法も提案されているが、比較的多用されているのはF-16戦闘機やミグ29で、これらはもっと高額な飛翔体を撃破するアイテムだが、背に腹は代えられず、ドローンより何倍も高価なミサイルを目標に放っている。ウクライナ最初のF-16の墜落はこのドローン迎撃作戦中のことである。

 ドローンを用いた戦いが進化の途上にあることは間違いない。航空機の歴史では、観測気球に代わって戦場に出た初期の航空機は搭乗員がピストルやライフル銃を携行して敵機に撃ち掛けることから始まった。大戦の後期にはフォッカーがプロペラ同期式の機関銃を開発したことで最初の戦闘機が現れ、制空権確保→爆撃及び攻撃→地上部隊の進撃というパターンは100年以上も戦争の標準フォーマットになっている。

 ドローンの携行重量は平均的なものでは1kgほどで、大きさもA1の方眼紙に収まる程度であることから、帰還して再装填するよりは安上がりと爆薬を積んだまま突撃させる戦法が多用されている。

 これについては最近技術革新があり、ウクライナ・ロシア双方ともオペレータが突進したドローンからの映像で敵兵士の断末魔の様相を直接目にすることから、特攻ドローンは最終誘導で目標を外す、あるいは逸れるといったことが多くあり、特にロシア側に顕著だった。が、AIを搭載することでこの部分は自動化することになり、目標を指定するだけであとは殺害まで自動的にやってくれる運用が実用化している。この運用だと一人のオペレータが複数のドローンを使うことが可能になり、ドローンの量産はどちらも軌道に乗っていることから、制空用ドローンの開発は両軍にとって焦眉の急となっている。

 あまり想像したくない光景なのだが、もしドローン装備のロシア軍がどこかの一寒村に上陸し、村落にドローンを放てば、あとはAIが住民の皆殺しを自動的にやってくれる、そういうことも考えられる。死体の焼却もする火炎放射ドローンも使えば、上陸した兵士は何の良心の呵責を感じることなく、灰となった住人の遺骸を踏み越えて進軍することが可能になるかもしれない。

 大昔に日本海軍の海兵隊が飛行場を建設するために島嶼の住民全員を皆殺しにした事件があったが、これは事件にすらならないかもしれない。しかし、遙か遠くの都会で制空用ドローンを操縦するゲーム好きの少年が蛮行を未然に阻止するといったことも考えられる。中東でアルカイダの幹部を殺害したアメリカ軍のドローン操縦士は多くが非正規職員であり、母親もおり、イスラム国の首魁を殺害した後は幼稚園に子供を迎えに出向いていた。

 なお、ドローン操縦士は両軍の兵士から格別に恐れられ、恨まれているため、捕縛されると特にロシア軍で残忍な殺され方をすることが多い。つい先日も一人で300人を殺した元ゲーマーのウクライナ軍兵士が戦死したが、あまりぞっとしない最期だったようである。航続距離の問題で多くのドローンは戦線のすぐ近くで操縦されていることがある。

 航空機の歴史から紐解くと、現在の状況はしばらく続くだろうが、いずれ変化が訪れると考えられる。容量と質量の問題で、現在開発されている火器でドローン搭載に適当な火力のものはないが、ミニチュア大の空対空ミサイルや見越し照準装置など必要な技術が出揃えば、ドローンの制圧が可能になり、同時に戦線も動くこととなると思われる。

 こういう技術革新は経済封鎖でエレクトロニクス技術に出遅れたロシアよりは、西側・ウクライナで起こる可能性が高い。もちろんその前にロシアが財政破綻したり、ウクライナが降伏したり、ロシアが核兵器を使う可能性はそれなりにあるのだが。