コロナ明けに起こったこの戦争はあまりにもバカバカしいので、これが終戦のチャンスだと思ったことは私も何度かあった。特に開戦初年(2022年)、大変失礼なことだが、私はウクライナは3日で負けると思っていた。2014年はそうだったし、認識票を外したロシア軍(と言われている連中)が地元住民の手引きでクリミアやルハンシクをあっさりと占領し、それでいて国際社会はほとんど動揺しなかったのだから。財政破綻で核も持てなかった国の軍隊などこんなもので、しかも多民族国家なのだから、「ロシア派」が国を分割統治して一部はロシアに併合されたりしても、元々国境線自体旧ソ連時代の適当なものなのだから仕方あるまいなと。
実際はそんなものではなかったことは見ての通り、戦争は三年目に突入し、ロシア軍は信じられないほど頑強な抵抗に直面し、常識外れの損害を出しながらも戦闘を続けている。制裁は思ったほど効果はなく、アメリカの優柔不断も相まって何十年でも戦争を続けそうな勢いだ。和平交渉も、ロシアには通常の国際政治の論理が通じないことで識者の多くは匙を投げている。
が、最近の様子を見るとそうでもあるまいなという感じにも見える。クルスクのウクライナ軍排除に迅速に動かないこと、都市部、しかも通常は対象外の教育機関や介護施設を狙ったミサイル攻撃、軍事的に何の価値があるのだろう、と、ポフロフスクの戦線が停滞していること。思いのほか頑なで強気な外交姿勢、これらを俯瞰するとロシアには退却や戦線縮小の動きと見えるのである。
ウクライナの国産ミサイルドローンがモスクワを攻撃圏内に収めたことも大きい。新型ドローンミサイル「パリャヌィツィア」は先ずクリミアで用いられ、月末にトヴェリ州とクラスノダール地方のロシア集積基地に対して用いられた。ここまで(500km以上)届くミサイルがあると思っていなかっただけに、数千トンの弾薬を含む基地は大爆発を起こしたが、これは重要な補給拠点の被爆と同時に、モスクワはこれらの基地と同じかより近い距離にあることがある。
従来、この種の攻撃は英米製のミサイルと思われており、ロシアも釘を刺していたが、今やお伺いを立てることなしにクレムリンを攻撃できるのである。すでに攻撃できる兵器があるのなら、外国製ミサイル(ATACMS、ストームシャドー、タウラス)使用のハードルはずっと低くなる。なお、「パリャヌィツィア」の詳細は機密のため謎に包まれている。
弾薬庫爆破は警告の意味もあるだろう。ロシアは核を含むより大きな攻撃力を持つが、元々この戦争はロシア国民には人気がない。遠いクルスクなら他人事と考えることができても、ウクライナがやられたようにショッピングセンターやモールが被爆し、遠いウラルに疎開などと言われたらプーチンも国民の反感を抑え込むことは難しいかもしれない。
ただ、先にも述べた通り、和平の期待は今まで何度も裏切られてきた。今の状況ならロシアを2022年の線まで後退させることは可能かもしれないが、ウクライナにしろロシアにしろ誰がババを引くのか。適当な人がいなさそうなのが苦しいところである。
ウクライナにしても疲弊の色はかなりある。同国は損失を公表していないが、頻繁な閣僚の交代、司令官の解任は厭戦気分や疲弊を示すものである。劣化がどの程度まで進んでいるのかは確たる資料がないが、ひょっとしたらこれが最後のチャンスかもしれない。
ISWやForbes、あるいはベリングキャットの解説を鵜呑みにしたり、衛星写真で状況を観察するのは外国語を読む際に辞書を引くのに似ている。その場の点(単語)は分かるが、それで文意全体が掴めるとは限らない。間違えやすいところで、基礎的な文法の知識がないのに辞書片手に外国語と格闘しても、昔は私もよくやったが、得られるものはごく僅かである。情報は有用だが、読み方を間違えないようにしなければいけない。
様子では、どうもゼレンスキーは読めているようだ。サリバンが読めているかどうかについては、これまでの彼の実績を考えるとかなり疑わしい。