毎日新聞なんかが鳴り物入りで報じていたロシア軍の「反撃」はどうも失敗のようである。コレネヴォから森林を抜けてスナゴストを脅かしたまでは良かったが、すぐにウクライナ軍がベゼロエから侵入して側背から攻撃し、しばらく見たところ、これ以上戦っても無駄と一昨日早々に手じまいしたようだ。これもハルキウと同じ見切りの良さで、ロシア軍にも気の利いた人がいたようである。

 プーチンに説明した計画では、ロシア軍は強力な反撃を受けたら旋回してベセロエ後方のボルフィンかコスタニフカを襲ったと思うから、これは手の内を読まれており、シルスキーも案外楽しんでいるかもしれない。より南のゲラシモフ相手の戦闘は芸のない肉弾攻撃で、用兵の妙を競う要素がほとんどないからだ。しかし、やはり年期の差、実働兵力の差は拭いがたいようだ。第2ラウンドはシルスキーの勝利だが、ロシアの方は負けた場合の言い訳は処刑されないよう、たぶん最初に説明はしてあるだろう。ハルキウ管区は指揮系統も複線的で複雑である。

 そもそも不十分な兵力と武器、それに派閥争いで「反撃」といっても大したことはできないことは自明だが、単に現場レベルではなく、より激しさを増したウクライナ諸都市へのミサイル攻撃はこの攻撃と連動したものと考える。ここを考究することで今回の攻撃の狙いが見えてくるかもしれない。

 ロシアのような大国が、ウクライナでも同じだと思うが、たかだか一人か二人の改革指向者の存否で大きく変わることはありえない。ハルキウ同様の用兵家同士の鍔迫り合いは今回もあったが、後に来るのはストームZで、これは双方の人心もモラルも腐食させる。いずれにしろ、スジャ攻略まではプーチンも期待してない。シヴェルスキー戦線はまたうるさくなっている。ロシア軍の「反撃」を、シルスキーから報告を受けたゼレンスキーは最初から無視していた。

 そのプーチンだが、いつミサイルの専門家になったのか、ウクライナ製ミサイルでも誘導装置にGPSを積んでいたら西側兵器とやけに詳細な説明とともにミサイル攻撃を牽制しているようだ。自分はイスカンデルやテポドンをじゃんじゃんウクライナに落としているのだが、今や北朝鮮はロシアの最大の弾薬供給国で、対米貿易に未練のある中国がイマイチ乗り気でないので、あの問題だらけのキムの国は総書記がまたカロリー制限しなければいけないほど潤っているようだ。

 バイデン政権は誰もが目を向けているのは次のハリス政権だが、一度約束した長距離ATACMSの制限解除をまた反故にしたあたり、やや知力に不安のある大統領に対するジェイク・サリバン補佐官の影響が窺える。サリバンはローズ奨学生の秀才だが、ベトナムであれこれ制限を付けて、やっぱり戦争に負けたマクナマラほか先輩の行状を復習すべきだろう。朝令暮改にゼレンスキーは呆れ、ロシアの航空機は(バイデンが逡巡している間に)飛行場から逃げてしまったので、今さらミサイルを受け取っても無駄と嘆いている。

 サリバンについては、履歴を見てもロシアとの関係は見られず、出自であるユダヤ系コミュニティの方が目立っている。副大統領のハリスと傾向が似ているため、おそらく次の政権でも引き続き補佐官を務めると思われるが、むしろ綺麗すぎて疑わしいものを感じる。それにアフガニスタンは明らかに彼の失敗であった。国際感覚のない、理論倒れの国際政治の専門家はむしろ悲劇である。

 問題はそのサリバンの田舎者ぶりがどうもウクライナにも見透かされているように見えることである。ATACMSはアテにはならず、業を煮やしたウクライナはたぶんパリャヌィツィアをモスクワに向けて撃つだろう。プーチンについては、バイデンやサリバンよりも、芸人時代に迫害されたゼレンスキーの方がよほど良く知っていることもある。
 

※マクナマラたち(ベスト・アンド・ザ・ブライテスト)を評して、「大西洋しか見えない田舎者」と評したのはハルバースタムである。