ある施設でピラティスのクラスを担当しているのですが、そこのお客様が大変面白いのです。
レッスンの前後に「アシダさんの今日言ってたアレ(床反力のこと)太極拳のこの時に使う動きと同じだね!」とか、「この動き(脊柱の分節化)が出来ないと、水泳のあの動きが出来ないね」などと、ピラティスの動きを他の運動の中に見出して報告して下さいます。
これは深い学びが出来ている証拠で、知識として頭に入り、身体で覚える事で、他の場面で「あっ!これはアレと同じ理屈なんだ!」と気づく、知識が駆動する汎用性を身に付けているのです。
私は最近、教育論を独学マンなのですが、知識の構造化の4つのプロセスの考え方が、とてもフィットネスのレッスンにおいても使える!と感じています。
そのプロセスとは
①宣言的な知識が繋がる
複数の実体験から高次の概念を得る事を指します。ピラティスに例えれば、「お腹からもっと脚を長く使いましょう」とか「頭から天井に吊られるように背を伸ばしましょう」などというそれぞれの種目を実践することから「エロンゲーション」という概念を得ることです。
②手続き的な知識が繋がる
身体動作の手続を踏む事で構造化した知識を得る事です。例えば、前方に歩く動作の一つ一つ「股関節から脚を前に振り出して踵を着地する」「重心を前足に移動して爪先で床を蹴る」などの手続きから、床反力を利用した足底の転がり運動を感じることが出来ます。この概念は身体に刷り込まれ、いずれ自動化し、技能の習熟度を高めていきます。パターン化と自動化とも呼びます。
③知識が場面と繋がる
知識が新たな場面と異なる状況と繋がる事です。
ピラティスでキャット&カウという動きがあって、流派によって呼び名は変わると思うのですが、背骨を反ったり丸めたりする動きがあります。
その動きが潰すような丸め方や、お腹が抜けるような反り方ではなく、腹圧を上手く利用して脊柱を引き伸ばしながら動かしていく方法なんですが、水泳のバタフライにその動きを見出した方がいるのです。空中でのキネティックチェーン(運動連鎖)では重力が関連しますが、四方から水中の水圧がかかった状態ではまた違います。反る動きは重力に落とされたような力の抜けた動きではなくて、どこかで押さなければ反れません。そういった空中と水中の運動の中に関連性を見出し、活用することが出来ます。
目の前に迫った問題を解決する時に、解決に必要な持っている知識を選択(セレクト)し、その状況や場面に適合させ(アジャスト)、必要に応じて知識を組み合わせて(コンビネーション)実行していく。これはまさに運動の場面ばかりでなく、生きる力ではないでしょうか。
④知識が目的や価値、手応えと繋がる
①〜③の知識の構造化を得た上で、学びを人生や社会に生かしていこうする姿勢の事を指します。そしてそれが手応えにつながり、さらに深く学ぶ姿勢へと再循環していきます。
例えば、ピラティスで言えば一つ一つの動きから分節化と連動、どちらも大切だと分かったとします。その知識から、どんな運動も動作を分解して分析をし、何が分節化されているのか、どこが連動しているのか見ることも出来るようになったとします。そして、そこから人生に起きた出来事ももフォーカスしたり、引いて観たりして、全体の流れで把握する大局観を得ることが出来るようになります。
すごいと思いません?ある体操が人生の大局観に繋がっちゃうんですよ。
ピークピラティスではこのプロセスを「こころの5つのパート」と呼んで説明したりしていますが、運動学習プロセスについてここまでハッキリ理解されたと感じるグループレッスン参加者に会うのは初めてかも知れません。
ある運動を介して、何もかもが繋がった様な感覚は、その人にとって最高に達成感を感じる瞬間で、自分は理解できたんだ、という自己効力感を高め、幸福感に繋がります。
人の成長の瞬間に立ち会うのは私にとっても最高の体験で、だから運動指導はやめられないし、教育現場ももっともっと面白くなるのです。
参考にした本は
田村学國學院大学教授による「深い学び」
平成29年の新学習指導要領の改訂を構造的に理解できる様、指導現場での例もふんだんに取り入れて解説された伝説の書ですが
子どもたちがこれからの世の中で生きていくために身に付けたい人間的な資質の定義は、青年期や大人の学習にも十分に応用できるものでした。
運動指導者は指導の方法に拘泥するだけでなく、その指導をもって、受ける側の何を達成させるのかをよく考えなくてはいけませんね!
ベースは対象者への愛だと思うんですが
そういう事言いはじめると胡散臭くなっちゃうので、理論からも攻めてみたというわけです。
ではまた!
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