アサギに追われ、日奈子と彩耶華は書店に閉じ込められてしまった
アサギと距離はあるが、ずっと隠れている訳にはいかない
助けを呼ぼうにも、日奈子のスマホはアサギに壊され、彩耶華の鞄は書店の外だ
対抗出来る手段としては、日奈子のエスポワールしかない
だがそれを使ってしまえば、彩耶華にアゲハ族の事がバレてしまう
日奈子(どうしよう…!どうすれば…!)
どうにかして1番良い案がないか、日奈子は考える
すると彩耶華が口を開く
彩耶華「……日奈子さん、貴方だけでも逃げてください」
日奈子「!…え?」
アサギに聞こえないように彩耶華は話す
だが内容に内心驚く
日奈子「な、何を言ってるの?財前さんは?」
彩耶華「こうなってしまったのは、私のせいですわ。私が判断を誤ってしまったから、無関係の貴方にまでこんな目に…。奴の狙いは私、私が出て行けば問題ないですわ。その隙に貴方は逃げてください」
日奈子「そ、そんなのダメだよ…!財前さんを置いて行けないよ…!」
彩耶華「言ったハズですわ?巻き込みたくないから、避けていると。でしたら、その通りにさせていただけませんか?」
日奈子「だ、ダメだよ…!そんな事をして、ここであいつと戦ったら、財前さんはどうなるの?」
彩耶華「恐らく助からないでしょうね。武器は外ですし…ここには対抗出来る物はございません。これは自業自得です。さぁ、早く逃げてください。ここにいては…」
日奈子「…嫌だ」
彩耶華「!…貴方、まだ…」
日奈子「財前さん、言ったよね?両親を殺したネクロを探してるって…!そのネクロをまだ見つけていないのに、ここで諦めちゃうの?」
日奈子が震えながら彩耶華に問いかける
震えているのは、寒いからでも、泣いているからでもない
彩耶華に対して、怒っているのだ
日奈子「巻き込みたくないとか、こんな目に遭わせたとか…どうしてそう1人でやろうとするの?どうして1人で解決しようとするの?なんで…私や他の人を頼ろうとしないのよ…!」
彩耶華「頼ろうって…そんなことすれば」
日奈子「良いんだよ、迷惑かけても…!巻き込まれたって良い…!それで、彩耶華の辛さが消えるなら、私は嬉しいよ…!」
彩耶華「…!」
自分の呼び方が、「財前さん」から「彩耶華」に変わる
それだけでも違うのに、日奈子の言葉に彩耶華の心が、少し軽くなった気がした
その時、日奈子のエスポワールであるブレスレットが優しく光出した
日奈子「え…?」
彩耶華「!そ、それは…?」
その光に彩耶華も反応するが、日奈子は手で隠す
今までにない光景に日奈子は驚くが、このタイミングで光ったと言うことは、エスポワールに何か変化があったと言うことだ
彩耶華が見ている前ではあるが、日奈子は何かためになると思い、スイッチを入れてエスポワールを起動する
これまでブレスレットが籠手に変わっていたが、その籠手の形と色が変わった
手の甲の部分には、ハート型の綺麗な石が埋め込まれている
日奈子「これって…!」
形と色の変化に、日奈子は見覚えがあった
以前航平もハンドアックスから、バトルアックスに変化した
条件を達成する事で、能力が使えるエスポワールの進化だ
彩耶華「そ、それは…?貴方一体…」
日奈子「!」
目の前の出来事に戸惑う彩耶華
見られたからには、もう後戻りは出来ないが、考えている暇はない
日奈子は思うがまま、付与されたエスポワールの効果を使い出す
手の甲の部分にある石が、淡いピンク色に光ると、両手で対照的な曲線を作り、大きなハートを描く
ハートが描かれると、それは小さくなり、リボンがついた小さなプレゼントとなった
彩耶華「…な、なんですの?それ…」
日奈子「これは…“ギフト”。彩耶華に見て欲しいの」
そう言うと日奈子は、リボンを外して、プレゼントの蓋を開ける
中から小さな光が現れた
彩耶華「…!」
その光を見ると、彩耶華は眼を大きくさせる
なんと光の中央には、亡くなったハズの両親の姿が映っていた
彩耶華はその光を両手で優しく触れる
彩耶華「…!」
その光には、温かさを感じた
さらに光の中の光景が変化する
両親が自分に向けて手を差し伸べると、向きが変わる
これは自分目線の景色の様だ
彩耶華「お父様…お母様…っ」
優しく微笑む父親と母親は、彩耶華の手を引っ張り、前へと進んで行く
画面が揺れているところを見ると、走っているのだろう
走った先には、真っ赤な紅葉と黄色の銀杏の並木が並んだ道、そしてその向こうから手を振る人の影がある
日奈子と千咲達だ
4人の元へと到着すると、さらに日奈子が手を差し伸べてくれる
日奈子(このエスポワールは…その人が見たい景色を見せて、前向きな気持ちになれる力を与える。今なら、彩耶華の心に伝わるかもしれない…!)
彩耶華「……」
彩耶華は黙って静かに見ていた
今見ている景色は、どうやって作られたのか知らない
作り物だって分かっている、嘘だって分かっている
だが何故か、辛くても心が軽くなる気分になれる
両親と今を過ごし、友達もたくさんいるこの景色は、本当は自分が望んでいる物だ
……ポロッ…
彩耶華「……っ…!」
彩耶華の中で、心が軽くなったせいか、涙が流れ出した
それも、大粒の涙だ
日奈子「……彩耶華、頑張ったね」
泣き出す彩耶華に声をかけると、さらに彩耶華は涙を流す
両親を殺されてからずっと1人で復讐のために動いていた
それが実行されるのなら、傷付けたくないから友達もいらなかった
だが、こうして彩耶華を想う人が周りにはいるんだと気付いた
…フッ…と光は消えた
消えた後も彩耶華は泣いていたが、前より心がスーッと軽くなった
彩耶華「……もう、ズルいですわ。日奈子さん」
日奈子「え?」
彩耶華「…これで無理矢理、私を元気付けようなんて…本当にお節介ですわね」
日奈子「えっ…」
涙を拭いて日奈子に話す
もしかしたら“ギフト”の効果は効かなかったのかもしれない
そう思ったが、違った
彩耶華「そのせいで…ここから2人で出なければならなくなりましたわ」
日奈子「!…彩耶華…っ」