パパ・パパゲーノ -13ページ目

冬の星座

 西高東低の冬型の気圧配置になると、関東地方は晴れ晴れとした日が続きます。日本海側は決まって雪が降る。昔は、「裏日本」と呼びました。呼ばれるほうは面白くなかったけれど、実態を見ればたしかに「裏」でした。


 この季節、夜中に、自宅へ曲がる角から見上げると、ほぼ真上にオリオン座が見えます。いつも、むかし習った歌が頭の中によみがえってきます。


 木枯らし 途絶えて
 冴ゆる空より
 地上に降りしく
 奇
(くす)しき光よ
 もの皆憩える しじまの中に
 きらめき揺れつつ 星座は巡る


 ほのぼの明かりて
 流るる銀河
 オリオン舞い立ち
 スバルはさざめく
 無窮を指差す 北斗の針と
 きらめき揺れつつ 星座は巡る


 訳詩は、堀内敬三です。作曲はヘイズ。イギリスの人(?)。2番の歌詞に、オリオンと、北斗七星(北斗星に対向してWの形をしたカシオペアがあるのを覚えていますか?)が出てくるのですね。スバルは、おうし座(コメント欄参照)。


 記憶しているのは1番の歌詞だけでした。


 堀内先生は、日本の音楽教育の父と言うべき人ですね。日曜日朝のNHKラジオから「楽興の時」(シューベルト)が聞こえてきて、堀内先生の解説が始まるのでした。番組名は「音楽の泉」、今のご担当は皆川達夫先生。リムスキー=コルサコフ「シェーラザード」などは、この番組で教わって、感激して覚えたものです。




雪やこんこ

 今年も、1月3日から小安(おやす)温泉の「こまくさ」(→こちら )にいました。朝と夕方に温泉に浸かって、どっさり食べて、たっぷり昼寝をしてきました。「ごくらく、ごくらく」とつぶやかざるをえませんね。


 ハタハタの鮨、大根の柿漬け(?)、梅の実の酒粕漬け――いわゆる奈良漬け、初めて食べましたが、タネもサクサク食えるのでした。珍しい味――、みんな旨かった。びっくりしたのは、クジラの刺身。これがうまいのなんの。石巻港から直接取り寄せたんだとか。奥羽山脈(のトンネル)を抜けて届いたのでしょうね。


 毎日、雪が降っていました。サラサラ降り下りる雪でしたから、すでに積もっている雪の山が、うんと高くなるということもありません。それでも、除雪車が出て、道路を広げていました。


 由紀さおり・安田祥子姉妹が、童謡「雪」を歌っているのを、宿の部屋のテレビで聞きました。


  雪やこんこ 霰(あられ)やこんこ
  降っては 降っては
  ずんずん積もる
  山も野原も綿帽子(わたぼうし)かぶり
  枯れ木残らず花が咲く


 バスで行く道すがら、目にとまる風景はこの歌のとおりです。落葉樹の枝の、枝なりに雪が積もっているのがまことに風情があります。そこへ行くと、杉の木(常緑樹)の葉に積もった雪は、ボテッとしてイロケがありません。


 この童謡に出てきた「枯れ木残らず花が咲く」の「枯れ木」は、dead tree(デッド・ツリー:死んだ木)ではありえませんね。いつも引く『明鏡国語辞典』の語釈はこうなっています。


 かれき【枯れ木】枯れた木。また、葉の枯れ落ちた木。「枯れ木に花」「枯れ木も山の賑わい」⇔青木


 「葉の枯れ落ちた木」という説明をしている国語辞典は案外少ないのですね。『広辞苑』も、第3版までは、「落葉した樹木」という、現行の第6版にはある語釈はありませんでした。


 この童謡くらいしか、用例はないと思われます。「枯れ木に花」も、「枯れ木も山の賑わい」も、「枯れた木」という意味で使われています。「花咲か爺さん」も、死んだ木に咲かせたから面白いので、落葉した木だったら、季節を早めただけ、という理に落ちた話になってしまう。


雪の結晶       雪の結晶       雪の結晶       雪の結晶        雪の結晶     



 

一富士 二鷹

新年おめでとうございます。


1日から2日にかけて見る夢を初夢というのですね。


なんと、雑誌の校了が間に合わなくてあせりまくっている、というのが今年の初夢でした。


現場を離れて何年にもなるのに、まだ、こんな夢なんですねえ。


元日のテレビの圧巻は、辻井伸行さんのドキュメントでした。クライバーン・コンクールで優勝したホールでの凱旋公演で、ベートーヴェンのソナタ「熱情」を弾いたのを聞きました。第3楽章の、エンディングへむかって加速するテンポがなんとも心地よい。別の番組で、「辻井のベートーヴェン、辻井のショパンと言われるようなピアニストになりたい」と語っていましたが、もうすでにそうなっています。こんどはシューベルトを聞いてみたい。


ぼつぼつですが更新は続けます。また、お越し下さい。今年もどうぞよろしくお願いいたします。



元日や 一系の天子 不二の山  内藤鳴雪









今年の収穫

今年も、読んだり聞いたり見たりしたものの中から、強く心に残ったものを並べてみます。順番はとくに意味はありません。


①『グラン・トリノ 』(クリント・イーストウッド監督・主演):頭抜けた傑作を毎年作っているクリントには脱帽の他ありません。中でも、この作品は、ヴェトナムからアメリカに移住したモン族(中国での呼び名は苗〈ミャオ〉族)の生活と運命とを、話の中心に据えたことで、物語の奥行きがうんと深いものになりました。『チェンジリング』も今年公開されたのですが、こちら一本でもベストテン入りしそうな作品ですから、監督イーストウッドは、今やエンジン全開状態なのではないでしょうか。ネルソン・マンデラを主人公にした映画も、もうアメリカでは上映されているようです。日本公開が待ち遠しい。


②ケン・フォレット『大聖堂――果てしなき世界 』:電話も、カーチェイスも、拳銃も、電気製品も、なんにもなくても、手に汗握るストーリーが作れる、ということをこれほど雄弁に示した作品もないでしょう。文庫本およそ1800ページを読ませてしまう筆力は並み大抵のわざではありません。ドストエフスキーにも長い長い作品はありますが、途中ダレるところがありますからね。トルストイだってそうです。文学史的にはかなうわけはありませんが、フォレットのストーリーテラーとしての才能は、二人の巨人をしのぐものがあります。


③池田学作品展:小布施町 の美術館で開催された展覧会。この画家の作品は、画集で見ただけではその圧倒的な力強さが分からない。細密きわまりないペンのタッチを、隅々まで見渡すには、まずは現物を見なければなりません。ある種の「狂気」なしにはできないだろうと思わせます。ところが、画家ご本人はいたってマイルドな、おだやかな性格の方であろうかと、お目にかかったときは感じました。どこかで展覧会があったら、このブログでも紹介しますから見てくださいね。


④『立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』(11月23日放送 NHKスペシャル):2年前、立花氏自身が膀胱がんの手術を受けるシーンもあるテレビ番組。がんとは何かを知りたいと思って、世界中の第一線のがん研究者たちに取材し――初めて立花氏が英語で質問する場面が放映されたのではないかしら。分かりやすい、簡潔な質問なのに感心しました――、結局、がんとは何かは、まだまだ分からないということはよく分かった、という話でした。がんの仕組みと生命の仕組みはほとんど全部重なっているのだなあ、ということが、見ているこちらにも伝わってきました。もし自分ががんに罹っても――生きている人の半分はがんになり、死ぬ人の三分の一はがんで死ぬ――、抗がん剤の副作用に苦しむのはいやだ、とつくづく思いました。これも再放送があるはずなので、見逃した方はぜひ。


⑤韓国映画『母なる証明』:話題の韓国現代映画です。息子に強く勧められて観ました。アタマの働きの弱い青年が、女子高校生殺害の容疑で逮捕される。貧乏しながら息子を育ててきた母が真相究明に一人で立ち向かうという話。ミステリー仕立てなので、ネタばらしをするわけにはいきませんが、人が生きている深淵をのぞかせてくれます。最後に大ドンデン返しがあるとだけ書いておきます。韓国の若手男優は、美男揃いで演技もうまい。この青年俳優もそうでした。母を演じたのは、大女優だそうです。目の力が並はずれています。アップになると、貧しい薬種屋のおかみさんと言うより、政権を牛耳る政治家かと見まごうばかりの知的な光を発します。


⑥ドニゼッティのオペラ『アンナ・ボレーナ』:これは今年になって聞き始めたものですが、とにかく音楽の流れがとてつもなく素晴らしい。グルベローヴァがアンナを歌うから魅力が倍増するのは確かですが、なんといっても、作曲者の手柄というべきです。通俗的なメロディーですが、通俗の説得力がすごい。ドニゼッティ中期の作品だそうですが、後期の傑作のどれと比べてもひけはとりません。アンナ・ボレーナは、アン・ブーリンのイタリア語風読みですね。ヘンリー8世の2番目の奥さん。エリザベス1世を産んだ女性。舞台にかかることは少ないようで、DVDも見つけられません。CDは幾種類か出ています。アマゾンで検索してみてください。


⑦ケルビーニ作曲『レクイエム』:これは、9月12日に、紀尾井ホール のステージで自分も合唱に加わったもの。自画自賛というのともちょっと違います。演奏会の評判がよかったので気を良くしています。そういう演奏に参加できたことが、ここに掲載する理由です。男声四部合唱の「レクイエム」。iPod に入れてしょっちゅう聞いています。


⑧ストラットフォード・アポン・エイヴォンの喫茶店で見かけた美女:今年、スペインに出かけて、とくにマドリッドで、たくさんの美少女を見ましたが、ストラットフォードのカフェ「ハサウェイ」にいたウェイトレスのお姉さんの美貌は抜きん出ていました。もう一度掲載します。

           
     パパ・パパゲーノ


シャープペンシル

 嵐山光三郎『とっておきの銀座』(文春文庫)を読んでいたら、伊東屋で売っているシャープペンシルというのが出てきました。1本630円。伊東屋のオリジナルで、普通の鉛筆と同じ木の軸で、芯が取り換えできるものらしい。挿絵までついていて、「超おすすめ品です!」と書き添えてあります。ついこのあいだ、店の前を通ったばかりだなあ、すぐにもほしい。


 職業柄、鉛筆が必需品でした。校正刷りに、疑問点や質問を書き込み、著者にお送りしてその答えをもらう。印刷所に戻して、もう一度校正(再校)を出校してもらいます。鉛筆書きは、消しゴムで消してから渡すことになっていました。


 HBかBの鉛筆を削って使ってもよいのですが、いちいち小刀で削る時間もないし、電動鉛筆削りという便利なものもありましたが、これは、鉛筆の消耗が早くて、どうにももったいなかった。


 そこで、替え芯内蔵型のシャープペンシルを使うことにしましたが、なかなか具合のいいのが見つからない。すぐに芯がポキンと折れてしまう。10種類ほど買い換えた覚えがあります。その中には、製図用のシャープペンで有名なステッドラー社のもありました。値段も張ったはずです。使い方がむずかしいところがあって1年持ちませんでした。今は、パイロット製のS5というのを主に使っています。500円。芯が0.5ミリのB。指先で押さえる部分にゴムが貼ってあって使いやすい。ようやく手になじむシャープペンが持てたと思ったころには、鉛筆書き込みが必要な仕事が少なくなりました。


 伊東屋は、東京で一番有名と言ってもいい文房具屋さんです。二度か三度ほどそこで買い物をしたことがありますが、目移りして困るほどいろいろな文房具が揃っています。