今年の収穫
今年も、読んだり聞いたり見たりしたものの中から、強く心に残ったものを並べてみます。順番はとくに意味はありません。
①『グラン・トリノ 』(クリント・イーストウッド監督・主演):頭抜けた傑作を毎年作っているクリントには脱帽の他ありません。中でも、この作品は、ヴェトナムからアメリカに移住したモン族(中国での呼び名は苗〈ミャオ〉族)の生活と運命とを、話の中心に据えたことで、物語の奥行きがうんと深いものになりました。『チェンジリング』も今年公開されたのですが、こちら一本でもベストテン入りしそうな作品ですから、監督イーストウッドは、今やエンジン全開状態なのではないでしょうか。ネルソン・マンデラを主人公にした映画も、もうアメリカでは上映されているようです。日本公開が待ち遠しい。
②ケン・フォレット『大聖堂――果てしなき世界 』:電話も、カーチェイスも、拳銃も、電気製品も、なんにもなくても、手に汗握るストーリーが作れる、ということをこれほど雄弁に示した作品もないでしょう。文庫本およそ1800ページを読ませてしまう筆力は並み大抵のわざではありません。ドストエフスキーにも長い長い作品はありますが、途中ダレるところがありますからね。トルストイだってそうです。文学史的にはかなうわけはありませんが、フォレットのストーリーテラーとしての才能は、二人の巨人をしのぐものがあります。
③池田学作品展:小布施町 の美術館で開催された展覧会。この画家の作品は、画集で見ただけではその圧倒的な力強さが分からない。細密きわまりないペンのタッチを、隅々まで見渡すには、まずは現物を見なければなりません。ある種の「狂気」なしにはできないだろうと思わせます。ところが、画家ご本人はいたってマイルドな、おだやかな性格の方であろうかと、お目にかかったときは感じました。どこかで展覧会があったら、このブログでも紹介しますから見てくださいね。
④『立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』(11月23日放送 NHKスペシャル):2年前、立花氏自身が膀胱がんの手術を受けるシーンもあるテレビ番組。がんとは何かを知りたいと思って、世界中の第一線のがん研究者たちに取材し――初めて立花氏が英語で質問する場面が放映されたのではないかしら。分かりやすい、簡潔な質問なのに感心しました――、結局、がんとは何かは、まだまだ分からないということはよく分かった、という話でした。がんの仕組みと生命の仕組みはほとんど全部重なっているのだなあ、ということが、見ているこちらにも伝わってきました。もし自分ががんに罹っても――生きている人の半分はがんになり、死ぬ人の三分の一はがんで死ぬ――、抗がん剤の副作用に苦しむのはいやだ、とつくづく思いました。これも再放送があるはずなので、見逃した方はぜひ。
⑤韓国映画『母なる証明』:話題の韓国現代映画です。息子に強く勧められて観ました。アタマの働きの弱い青年が、女子高校生殺害の容疑で逮捕される。貧乏しながら息子を育ててきた母が真相究明に一人で立ち向かうという話。ミステリー仕立てなので、ネタばらしをするわけにはいきませんが、人が生きている深淵をのぞかせてくれます。最後に大ドンデン返しがあるとだけ書いておきます。韓国の若手男優は、美男揃いで演技もうまい。この青年俳優もそうでした。母を演じたのは、大女優だそうです。目の力が並はずれています。アップになると、貧しい薬種屋のおかみさんと言うより、政権を牛耳る政治家かと見まごうばかりの知的な光を発します。
⑥ドニゼッティのオペラ『アンナ・ボレーナ』:これは今年になって聞き始めたものですが、とにかく音楽の流れがとてつもなく素晴らしい。グルベローヴァがアンナを歌うから魅力が倍増するのは確かですが、なんといっても、作曲者の手柄というべきです。通俗的なメロディーですが、通俗の説得力がすごい。ドニゼッティ中期の作品だそうですが、後期の傑作のどれと比べてもひけはとりません。アンナ・ボレーナは、アン・ブーリンのイタリア語風読みですね。ヘンリー8世の2番目の奥さん。エリザベス1世を産んだ女性。舞台にかかることは少ないようで、DVDも見つけられません。CDは幾種類か出ています。アマゾンで検索してみてください。
⑦ケルビーニ作曲『レクイエム』:これは、9月12日に、紀尾井ホール のステージで自分も合唱に加わったもの。自画自賛というのともちょっと違います。演奏会の評判がよかったので気を良くしています。そういう演奏に参加できたことが、ここに掲載する理由です。男声四部合唱の「レクイエム」。iPod に入れてしょっちゅう聞いています。
⑧ストラットフォード・アポン・エイヴォンの喫茶店で見かけた美女:今年、スペインに出かけて、とくにマドリッドで、たくさんの美少女を見ましたが、ストラットフォードのカフェ「ハサウェイ」にいたウェイトレスのお姉さんの美貌は抜きん出ていました。もう一度掲載します。
