パパ・パパゲーノ -128ページ目

シモン・ボッカネグラ

 去年の今頃パリに行きました。泊ったホテルの目の前にオペラ座(バスティーユ)があった。ヴェルディの『シモン・ボッカネグラ』がかかっていたので見ることにしました。1万3千円くらいだったか。1階のオーケストラと呼ばれる席。指揮者の振る姿が見えました。


 初めて聞くオペラの上、話が何なのかも知らずに見たので、音楽の流れを追いかけるだけでした。日本語の字幕があるわけもなく、おぼつかないフランス語の字幕をたよりに、なんとかシモンと娘の再会の話のようだ、と見当をつけました。


 舞台は、現代の企業の中の権力争いのような演出です。出てくる男は背広を着ていたり、ジーパンをはいていたりする。あとで、メトロポリタンが録画したヴィデオを見たら、14世紀だかのスペインの話だったみたい。オペラを見に行くときは、予習してから行くべきですね。楽しみ方が違います。(これは歌舞伎を見るときにも言えます。歌舞伎は、今ではイヤホンガイドというものがあって、見るのに邪魔にならない程度に、しかし、的確に展開を解説してくれるので、じつにありがたい。)


 ただし、歌はどの歌手も素敵でした。オーケストラもよかった。序曲の出だしのメロディーが、初めて聞くのになつかしい感じがするのでした。


 幕あいにロビーに出たら、イブニング・ドレスに正装した婦人が何人もいました。和服を召した日本の婦人も見かけた。勝負の場所なのでしょうね。ガルニエのオペラ座のほうは、バックステージ・ツアーで見物しただけでした。劇場としてはこっちのほうがはるかにおもむきがあります。

ザ・シューター/ 極大射程

スティーヴン・ハンターの小説『極大射程』(新潮文庫)は、ヴェトナム戦争帰りの射撃の名人、いまはFBIの部員、ボブ・リー・スワガーが巨悪に立ち向かう趣向で、手に汗にぎる展開を見せます。ハンターの小説は、翻訳で読んでも、スピード感あふれる文章が素敵でした。


 マーク・ウォールバーグがスワガーに扮した新作映画『ザ・シューター/ 極大射程』が今公開中です。舞台設定や話の筋は原作と変えてあるようですが、その、超人的な射撃の腕前を見込まれて、ある、とんでもない計画に加担させられます。そこは原作と同じ。上役を演じるダニー・グローバー、上院議員役のネッド・ベイティなど、脇役に芝居上手を配していました。


 映画の原題は、ただ Shooter だけですが、小説の訳題とあわせたらしい。


 マーク・ウォールバーグは、儲け役を得たようです。ブルース・ウィリスのジョン・マクレーンのように、連作が作られる予感がします。


 見どころは、やはり、冷静な銃さばきです。1000メートルくらい離れた人の頭を一発でしとめるための、風の向き、気温などの諸元を微調整するあたり。また、ナパーム弾や、手榴弾のような火器も、バカスカ爆発します。すっきりします。


 ネタばれにならないようこの程度にとどめておきます。

小西甚一

 小西甚一(こにし・じんいち)先生が亡くなった(5月26日)のを知らずにいました。91歳だそうです。


 大学受験の古文の参考書は、この先生の『古文の読解』(旺文社)でした。「頭からシッポまで全部自分で書いた」という意味の断り書きがあったのはこの本だったか、あとで読んだ『古文研究法』(洛陽社)だったか。自分で書かずに名義だけ貸すセンセイが多いことへのアテツケですね。意地悪な感じはしなかったけれど。

 

 この本で勉強したおかげで、とっつきにくかった古文が風通しのいい、気持のいい科目に変わったのを昨日のことのように覚えています。『方丈記』も『枕の草子』も、なんだかスラスラ読めるようになった気がしたものです。古文を読むのは、そのとき貯めたモトデだけで、そのあと何年もまかなってきました。「学問のある人が、心をこめて書いた通俗の本というのはなんといいものだろう」というほどのことを中野重治が書いています。すぐ思い出したのは、小西先生のこの参考書でした。


 さらに、『俳句の世界』(講談社学術文庫)のおもしろくてためになることといったら。これはイケダさんが教えてくれた本です。「発生から現代まで」と副題がついています。これこそ、俳句の世界へ入る最上の道案内と言えるものです。

 この本には「歴史的仮名づかひ」も「現代仮名づかい」も使っていない、と書いてあります。それがどんなことを意味するか、現物にあたってみることをおすすめします。そんな仕掛けがあると気づかせさえせずに、スラスラ読ませる力技には舌をまくばかりです。


 ご冥福をお祈りします。

逝きし世の面影

 渡辺京二の『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)という本の評判がえらく高い。


 江戸末期から明治初頭にかけて日本を訪れた外国人の残した記録を丹念に読み込んで、当時の日本人の生活と人情とを描き出した作品です。

 

 玉木正之(スポーツライターですが、オペラのガイド本も小説も書く、才能あふれる人)とか、安倍甲(あんばい・こう、秋田市に本拠を置く無明舎出版舎主)とか、練達の読書人がこぞって絶賛しました。


 西洋からきて日本国内を旅した旅行者が一様に驚いているのは、この国の清潔さです。異国人を接待する心配りの行き届いていることも驚きの対象でした。


 著者の渡辺氏はこう書いています。


   私にとって重要なのは在りし日のこの国の文明が、人間の生存をできうるかぎり気持ちのよいものにしようとする合意と、それにもとづく工夫によって成り立っていたという事実だ。


 たしかに、かつての日本人に対する郷愁が濃厚に出た本ですが、それによって現在の日本人を悪しざまに言い募るようなハシタナイ叙述にはなっていません。抑制のきいた文章でした。

 

 本書はもと福岡市の葦書房という版元の出版です。葦書房版は絶版になっています。平凡社から出ることになった経緯については、下のサイトをごらんください。10刷くらいまで重版しながら版権を譲渡せざるを得なかった苦渋の選択の事情を述べています。こちらも心に残る文章です。


http://www1.ocn.ne.jp/~ashi/yukishiyo-zeppan.htm


 本書にも登場した、イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社ライブラリー)も面白い読み物でした。イギリス生まれの婦人が東北地方を旅した記録。私のふるさとも通ったようです。最悪の場所だった、と書いてあったのが残念でした。

水兵リーベ僕の船

  どなたかのブログを読んでいて、リンク先に飛んだら、「水兵リーベ僕の船」が出てきました。さあ、これが何だったか思い出せない。さっそくグーグルに相談。そうだった、元素の周期律表の覚え方だった。


  H He Li Be B C N F Ne

 水素 ヘリウム リチウム ベリリウム ホウ素…


と続くのでした。周期律の何であるかは、すっかり忘れてしまいました。化学の教科書で教わったということだけしか覚えていません。


 こういう語呂合わせは、一度覚えるとなかなか忘れませんね。ことばだけ覚えている場合もあるのは、上でみたとおりですけれど。

 記憶からいくつか取り出してみます。


 泣くよウグイス平安京 794年平安京遷都


 一夜(ひとよ)一夜に人見ごろ 1.41421356... ルート2(掛けると2になる数)

 富士山麓オームなく  2.2360679... 同じくルート5


 人殺し1564)の本をいろいろ1616)書いた シェイクスピアの生没年(1564-1616)


 青き実愛す か(赤) レンジ(橙) いろ(黄) どり(緑) 

            お(青) ンディゴ(藍) ミレ(菫)

            虹の七色の覚え方、少し無理もある語呂合わせ


 「泣くよウグイス」には、「泣くよ坊さん」とか、他のヴァージョンもいろいろあるようです。