小西甚一
小西甚一(こにし・じんいち)先生が亡くなった(5月26日)のを知らずにいました。91歳だそうです。
大学受験の古文の参考書は、この先生の『古文の読解』(旺文社)でした。「頭からシッポまで全部自分で書いた」という意味の断り書きがあったのはこの本だったか、あとで読んだ『古文研究法』(洛陽社)だったか。自分で書かずに名義だけ貸すセンセイが多いことへのアテツケですね。意地悪な感じはしなかったけれど。
この本で勉強したおかげで、とっつきにくかった古文が風通しのいい、気持のいい科目に変わったのを昨日のことのように覚えています。『方丈記』も『枕の草子』も、なんだかスラスラ読めるようになった気がしたものです。古文を読むのは、そのとき貯めたモトデだけで、そのあと何年もまかなってきました。「学問のある人が、心をこめて書いた通俗の本というのはなんといいものだろう」というほどのことを中野重治が書いています。すぐ思い出したのは、小西先生のこの参考書でした。
さらに、『俳句の世界』(講談社学術文庫)のおもしろくてためになることといったら。これはイケダさんが教えてくれた本です。「発生から現代まで」と副題がついています。これこそ、俳句の世界へ入る最上の道案内と言えるものです。
この本には「歴史的仮名づかひ」も「現代仮名づかい」も使っていない、と書いてあります。それがどんなことを意味するか、現物にあたってみることをおすすめします。そんな仕掛けがあると気づかせさえせずに、スラスラ読ませる力技には舌をまくばかりです。
ご冥福をお祈りします。