逝きし世の面影 | パパ・パパゲーノ

逝きし世の面影

 渡辺京二の『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)という本の評判がえらく高い。


 江戸末期から明治初頭にかけて日本を訪れた外国人の残した記録を丹念に読み込んで、当時の日本人の生活と人情とを描き出した作品です。

 

 玉木正之(スポーツライターですが、オペラのガイド本も小説も書く、才能あふれる人)とか、安倍甲(あんばい・こう、秋田市に本拠を置く無明舎出版舎主)とか、練達の読書人がこぞって絶賛しました。


 西洋からきて日本国内を旅した旅行者が一様に驚いているのは、この国の清潔さです。異国人を接待する心配りの行き届いていることも驚きの対象でした。


 著者の渡辺氏はこう書いています。


   私にとって重要なのは在りし日のこの国の文明が、人間の生存をできうるかぎり気持ちのよいものにしようとする合意と、それにもとづく工夫によって成り立っていたという事実だ。


 たしかに、かつての日本人に対する郷愁が濃厚に出た本ですが、それによって現在の日本人を悪しざまに言い募るようなハシタナイ叙述にはなっていません。抑制のきいた文章でした。

 

 本書はもと福岡市の葦書房という版元の出版です。葦書房版は絶版になっています。平凡社から出ることになった経緯については、下のサイトをごらんください。10刷くらいまで重版しながら版権を譲渡せざるを得なかった苦渋の選択の事情を述べています。こちらも心に残る文章です。


http://www1.ocn.ne.jp/~ashi/yukishiyo-zeppan.htm


 本書にも登場した、イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社ライブラリー)も面白い読み物でした。イギリス生まれの婦人が東北地方を旅した記録。私のふるさとも通ったようです。最悪の場所だった、と書いてあったのが残念でした。