久しぶりの更新。

ブログを始めて早数年、不定期とはいえ必ず月に一度は更新してきたのですが、このたび公私とも忙しく、そしてまたアメブロの編集が私のPC環境ではいまいち使いにくく、ついこのアジア映画ブログの更新をおそろかにしてしまいました。

 

しかし、細々と見続けてはいたんです。

 

大阪アジアン映画祭も二泊三日で計8本見てきたし、25年ぶりにデジタルリマスターで蘇ったエドワード・ヤン監督の傑作『牯嶺街少年殺人事件』も見ました。

 

そして今回、遅まきながら最後の最後に、日本では映画祭以外では劇場初公開となるキン・フー(胡金銓)監督・脚本の『侠女』を見てきたというわけです。これはやはり記事にせんと!

 

 

そもそもなぜ今キン・フーなのかというと、台湾のナショナル・フィルム・アーカイブであるTFI-国家電影中心が、自国の優れた映画を保存する事業の一環として2014年にキン・フー監督の2作品を修復したからなんですね。

 

その二つの作品とは、この『侠女』と『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』。

 

侠女の修復作業については、TFIがYouTubeにアップしてくれています。

 

 

それにしてもキン・フーと言えば北京出身で、香港に移ってからは60年代のショウ・ブラザーズをリー・ハンシャン(李翰祥)、チャン・チェ(張徹)らとともに支えた一人。

 

なんで台湾の国家的映画監督になるのか、疑問に思う人もいるかもしれないけれど、60年代後半から70年代初頭にかけては台湾に移り住み(といっても香港人としてビザが切れたら香港に一時戻ることを繰り返していた)、台湾映画としてこの2本を撮影したわけなんですね。

 

そして『残酷ドラゴン~』が全アジアを揺るがす大ヒットに!

 

そして本作『侠女」は中華圏映画として初めてとなるカンヌ国際映画祭高等技術委員会グランプリを受賞した作品となりました(第28回)。

そりゃ国家として誇るべき作品には間違いないわけです。

 

私の手元には韓国から取り寄せた侠女のDVDがあるのですが、お世辞にも映像はいいとは言えない。

ですが、映画が素晴らしいのはわかるので、いつか良い映像で見たいと思っていたわけです。

 

そこへきて、今回松竹メディア事業部が、TFIが修復した4Kデジタル版を公開してくれる運びに。

 

喜びいさんで、今回私はスケジュールのあった侠女のほうを劇場で見に行ってきたんです。

 

で、内容については旧知の名作ですし、松竹のキン・フー公式サイトにも詳しいので、割愛しますが、やはり映像が素晴らしい。

 

修復された映像はもちろん綺麗ですが、やはりキン・フー独特の風景をしつこく追う撮り方がいいし、アクションシーンのモンタージュの効果的な使用法は圧巻。

 

侠女の撮影については、キン・フー自身の口から、草思社から1997年9月に出た『キン・フー武侠電影作法』(山田宏一氏・宇田川幸洋氏によるインタビューを元に書き起こされたキン・フー伝記とも言える本)で詳しくその映像美の秘密を語っています。

 

 

この本の新装版が今年2017年5月18日に刊行されることになりました。

 

2014年の大阪アジアン映画祭では「追悼 ランラン・ショウ」特集にて、キン・フーの監督作である『大酔侠』が上映され、私も久々にキン・フー映画の魅力を実感することになったわけですが、今年はデジタル修復に、インタビュー本の復刊と、再びキン・フーが注目される年になっている感じです。

 

3時間という長い映画(もともと前後編で作られている)ですが、シューフォン姐さんの演技、ロイ・チャオの迫力、シー・チュンの書生役のはまりっぷりに見惚れ、のめりこみました。

 

いやぁ見て良かったです。

 

寡作だったキン・フー監督ですが、ツイ・ハークやアン・リーなど現代の巨匠になぜ深く愛されているかは、この侠女を見れば納得できます。

 

娯楽映画としては、『大酔侠』と『残酷ドラゴン~』に軍配があがりますが、風光明媚な景色をこれほどまでに画面でとらえていること。そしてロケ地は台湾がほとんどだと思いますが、さすが美術出身のキン・フーらしくチャチなものはひとつもないセットの使い方。さらにはアクションの迫力と神秘的な効果音とスローモーションと光の演出の三つが完璧に融合したシーンの撮り方。

いずれにもアジア的な映画美の一定の到達点を見ることができる作品なのです。

 

 

 

映画館での上映は最後数日となったようですが、もうすぐDVD&ブルーレイも発売されますので、ぜひ一度はご覧あれ!

ジャッキー・チェンの両親のたどってきた数奇な運命を元ネタに、華誼兄弟(Huayi Brothers)によって映画化された「三城記」。

(香港公開時ポスター)

 

2016年の8月24日にDVD化されていたのを、うっかりして今頃鑑賞。

 

ジャッキーについては大陸にこびへつらいすぎだとか、いろいろ文句もある人も多いだろうし、その両親の逸話が中国映画になっちゃうと、美化されすぎちゃうんじゃないかとか憶測もあるだろうけれど、いやはや映画として文句なく面白かった。

 

監督はあのメイベル・チャンだ。

いくら中国大陸の映画であろうが、作品性を犠牲にしたりはしない。

(こちらも香港公開時ポスター)

 

メイベル・チャンの映画だとレオン・ライ&スー・チー主演の「玻璃の城(原題:玻璃之城)」が、もっとも有名なチョウ・ユンファ&チェリー・チェン主演作の「誰かがあなたを愛してる(原題・秋天的童話)」よりも、けっこう私にとっては思い出深い。

 

メイベルの母校である香港大学の校舎が取り壊される前に撮ったという玻璃の城は、かんたんに言えば不倫を題材にした作品ながらも、1997年の大陸への返還後の北京語習得やら北米へ移民したインテリ二世たちの帰国といった極めて香港的な問題を扱っていて、興味深かったし、20年近い時間軸を描きながらも、監督の考えで、あえてスー・チーに老けメイクをしないことで、大人の恋愛を不潔なものに感じさせない工夫がされていた。

当時若かった私も、この映画を見て不倫モノという印象は持たなかった。それだけ世の中には理屈や道徳では割り切れない、どうしようもない感情もあるということを、そのちょっと前に公開された、ピーター・チャン監督の「ラブソング」とともにしみじみ感じたものだ。

 

メイベルは本作の前に、やはりジャッキー・チェンの家系を描いたドキュメンタリー作品「失われた龍の系譜―トレース・オブ・ザ・ドラゴン(原題:龍的深處 - 失落的拼圖」という作品を2003年に撮っている。

 

こちらは香港映画であったが、香港や中国では劇場公開されなかったらしい。

 

もちろん、ジャッキーの父である房志平が、国民党のスパイであったという(大陸中国にとって)あまり好ましくない事実が描かれていたからであろう。

 

で、本作「三城記」である。

 

こちらはフィクションを交えて描かれているという。

だが、房志平が国民党の特務員であったことははっきり描かれている。

 

作中、房志平がその後に国民党からも追われる身になり瀕死の重傷を負うが、そのとき共産党員からの支援で輸血をしたおかげで助かったということが作品のなかで描かれる。

 

もしかすると、この部分はフィクションであるかもしれない。

共産党に助けられた人間として描くことで、中国公開映画としてバランスをとっている可能性はある。

 

すでに房志平は故人であるので、この映画を撮ることができたのかもしれない。

 

ジャッキーの両親は、日中戦争後の国共内戦が激化するどさくさに、香港に逃れたあと、オーストラリア大使館で料理人として働くために、今度は豪州に渡っている。

しかも、料理人であったというのは事実らしいのだが、大使館で働いていたのは身を隠すためであったとも晩年ジャッキーに語っていたらしい。

 

まさに激動の人生である。

 

そうした極めてドラマチックな人生を送った夫婦を題材にした映画なのだから、フィクションをそう織り交ぜなくても十分にエンターティンメントになったであろう。

 

私もどこがフィクションで、どこが実話か、などと野暮なことを考えず、どっぷりと本作に入り込み、感動した。

 

まず、ジャッキーの父・房志平を演じたラウ・チンワンも、母・陳月栄を演じたタン・ウェイも良かった。

 

最近、神経質な役柄が多かったチンワンも、久しぶりに豪快な役柄を演じ、さらにはどことなくジャッキーパパに似ている顔が好作用し、とても似合っていた。

タン・ウェイがジャッキー・ママにどれだけ似ているかはわからない(パパに比べて露出が低いので)が、中国映画界を一時期追われたタン・ウェイだからか、生きるためにアヘン売りや賭博場で豪胆に生きたジャッキー・ママの秘めた強さのようなものを画面に伝えていて、こちらも似合っていた。

 

というわけで、最近の迷言でジャッキーのことを嫌いになった方々にも、この映画は見てもらいたい。

 

最後に一点私が前から気になっていることを。

 

ジャッキーは、メイベル・チャンによるドキュメンタリー「失われた龍の系譜」が撮影される数年前に、ジャッキー・パパから一人っ子ではなく、生き別れた二人の姉・二人の兄がいたことを初めて聞かされたことになっている。2000年頃の話だ。

*「失われた龍の系譜」の配給元であるMAXAMサイト(http://www.maxam.jp/trace/)にそう書かれている。

 

しかし、1980年代初頭に日本でケイブンシャから出ていた「ジャッキー・チェン大百科」あるいは秋田書店から出ていた「ジャッキー・チェン大全科」のどちらかには、ジャッキー・チェンに姉が二人いると確かに書かれていたのだ!

 

これは当時の香港映画評論家であった日野康一さんからもたらされていた情報なのかどうかはわからない。

だが、少なくとも香港マスコミは、ジャッキーに姉がいることはつかんでいたと思うのだ。日本でお子様向けの大百科だの大全科だのに情報が載っていたくらいだから。

 

それにしても、当時のお子様たちはジャッキーのことをもっと知ろうと必死にこうした書籍を読みあさったけれど、その背景に中国共産党と国民党の対立やら、香港から大陸に戻れなくなった人たちのことまでは考えてなかっただろうなぁ。

 

「ジャッキーにはお姉さんが二人いるんだ~」と無邪気に思っただけで、大陸に取り残された姉が二人いるとは考えなかっただろう。かくいう私もその事実とつきあわされたのは2005年に「失われた龍の系譜」が日本で公開された頃でした。いやはやお恥ずかしい。

 

デアゴスティーニから隔週で発刊されている「傑作カンフー映画」。

 

2016年8月30日の創刊号は、ブルース・リー「ドラゴン危機一発」(890円!)であった。

 

 

ブルーレイが890円である!

第二号からは1990円になるそうだが、それでも安い。

 

ちなみに第二号はやはりブルース・リー「ドラゴン怒りの鉄拳」。

 

 

私はなにせコアな香港映画ファンだから、ブルース・リーの映画Forune Starに版権がある4作(WBに版権がある「燃えよドラゴン」を除く主演作品)は、すべて数年前にパラマウント・ジャパンから出たエクストリーム・エディションのブルーレイで持っている。それぞれ4,743円だった。

 

やっちゃったー! と思うのはまだ早い。

 

問題は特典の多さである。

 

デアゴスティーニ版ブルーレイも日本語吹き替え版を収録していたり、予告編も入れている。まぁでもそれはDVD廉価版でもやっている。

 

エクストリーム・エディションのエクストリームたるゆえんは、

・日本劇場公開時パンフレット復刻版<縮刷版>

・香港公開時チラシ復刻版<縮刷版>

が封入されていたことだ。

縮刷版はブルーレイケースに入るサイズまで縮小されているから、けっこう読むのはつらいが読めないことはない。なにより貴重なパンフレットがミニサイズながらも手に入るのはファンには垂涎ものである。

  (画像はAmazonさんより拝借)

 

そして、映像特典の方もやれることはなんでもやるって態度がエクストリームであった。

 

たとえば、幻となっている没後10年目のリバイバル「リターン・オブ・ザ・ドラゴン」公開時のテレビCMまで入れてくれている。もちろん、誰かのエアチェックした映像(しかも冒頭の1秒くらいは乱れてしまってよく見えない)だから、とても保存状態はよいとは言えないし、通常だったらこのクオリティの映像を収録したりはしないだろう。しかし、マニアはそれでも見たいのである。

 

そういうマニア心理をよくわかっているから、エクストリームの4,743円はちっとも高くなかった。

 

収録音声にしても、単なる英語版ではなく、日本初公開時英語音声まで収録していて、「ドラゴン危機一発」で言うと、それまでDVDでソフト化されたものはどれも怪鳥音が入っていたのだが、日本初公開時やリバイバル時には、怪鳥音なしのアクションシーンだった本来のドラ一発が観賞できるのである。

 

そして、これらはブルース・リー映画に限らない。

 

たとえば、ジャッキー・チェン映画で、東映が配給した作品のほとんどには、日本で独自に主題歌を入れたりしていて、これがなかなか名曲なのだが、その後のソフト化の際は、新たに作品を版権会社から仕入れるために、東映オリジナルの主題歌は消えてしまっていた。

 

テレビ放送時にも、まだ東映に権利がある場合は、日本版主題歌が入っているバージョンで放送してくれるんだけれど、そのうちソフト化されたバージョンと同じになってしまう。

というか、そもそももうテレビ放送なんかされなくなっちゃうんだよね。

 

そうした東映配給版ジャッキー映画で、もっともテレビで放送される率が高いのは、「ドランクモンキー酔拳」だと思うけれど、おそらく今放送されても、日本語主題歌は『拳法混乱(カンフュージョン)』は流れないはず。石丸博也さんの吹き替えは入っていてもね。これは公開当時に映画で見た人や、その頃にテレビ放映されたバージョンを録画して何度も何度も見まくった人には物足りないはずなんだよねー。

それで廉価版のDVDで日本語版を買い求めても、あの聞き慣れた主題歌は入っていない!

物足りないよ、これじゃ! ってわけ。

刷り込みだよ、ほとんど。

 

日本版主題歌『拳法混乱(カンフュージョン)』がソフトに収録されたのは、2013年にソニー・ピクチャーズ・エンターティンメントから発売された35周年記念ブルーレイが最初だったんだよね。これは年季の入ったジャッキーファンには歓迎を持って受け入れられた(と、少なくとも私の周りのおっさんたちはそうだった)と思うよ。

 

それで話がデアゴスティーニに戻るんだけど、実はこの「傑作カンフー映画」シリーズの前は、隔週刊「ジャッキー・チェンDVD」ってシリーズをやっていて、先月に全66号で完結したばかり。

香港映画ファンとしてはジャッキーの全66号も、傑作カンフーの全30号どれもコンプリートしたいことはしたいけれど、思い入れのある作品は、最高の状態で手に入れたいもの。

 

具体的に言うと、隔週刊ジャッキーの第2号が、ドランクモンキー酔拳なんだけれど、日本語吹き替えすら付いてなDVDなんだなー、これが。

確認してないけれど、この扱いだと、日本語主題歌が入っているとはとうてい思えない。

おそらく満足できないなーと思って、隔週ジャッキーには、大いに興味をそそられつつも私は創刊号(「プロジェクトA」を収録)だけは買ったけれど、あとは手を出していなかったってわけ。

 

でもね、デアゴスティーニ版にも魅力があって、それは書籍として流通する宿命でもあるんだけれど、毎号毎号、注目のカンフー映画ライターやブルース評論家たちが健筆をふるっている(公式サイトでも「健筆」って表現されている)ってこと。

 

公式サイトを見ると、隔週カンフー映画の方ではブルース・リーの母校(ワシントン大ではなく、香港の中学・高校ね)を誌上訪問しちゃったり、「おお!」っと思う読み物があるんだなー。

 

ラサールってミッション系の教育機関の名を、鹿児島や函館の進学校としてではなく、ブルース・リーが通っていた香港の学校ってところから知ったような子ども時代からのファンには、たまらないんじゃないの、これ。

 

ということでデアゴスティーニ版の隔週カンフー映画、全30号をコンプするか迷い中。

以前、以下の記事で紹介した北海道・十勝が舞台の短編映画「my little guidebook」。


台湾女子主演の十勝映画『マイ・リトル・ガイドブック』


本作品は札幌国際短編映画祭でもお披露目されたほか、現在もYoutube で無料視聴可能。


無料で全編公開しちゃうのは、もちろん、十勝地域の観光入込などにも貢献することが期待されているからである。


前ブログにも書いたけど、資金をクラウドファンディングで集めて製作するなど、けっこう斬新なこの映画。


主演のウー・シンティ(呉心緹)ちゃんのかわいらしさもあって、それなりに面白い映画になっていました。


で、その続編が製作されたわけです。


タイトルは、「my little guidebook -ice-」。



そのタイトルどおり、前作が夏の十勝であったのに対し、今回は冬の十勝が舞台です。


今回もクラウドファンディングで300万円集めたほか、プロダクトプレースメントの手法を使って、十勝地域の企業からスポンサーシップで資金を集めています(そのかわりに劇中インタビューという形で、物語のなかでシンティちゃんが演じる旅行記者の取材を受けます)。


今回はこのプロダクトプレースメントの分がけっこうな額になっている模様で、上映時間は倍の一時間近いものになっていました。


私は、試写会に参加することができ、鑑賞してきました。


まだ、ポストプロダクションの途中ということで、オープニングとエンディングのクレジットが入ってなかったり、音楽も未完成とのことでしたが、それを除けばちゃんと仕上がっていました。


ただ、前回が短編映画のフォーマットどおり30分以内の上映時間だったのに対し、今回は一時間になっちゃっていたので、短編映画祭にはこのままでは出品できないでしょうね。


そこを一般作品として、映画祭に出品するのか、そのあたりは監督や製作者としても、まだ決めていないようでした。


映画としては十勝プロモーションの色合いが前作よりも濃くなっていて、もちろんプロダクトプレースメントの分、地元企業の登場シーンも出さなければならないために、それは致し方ないのですが、じゃっかん長めかなーと思わないでもありません。


とはいえ、シンティちゃんのギャラも前作(撮影したのは二年前)と比べてあがっているでしょうし、許容範囲かな。


でも、映画好きな私としては、素人考えで、どうせならもっとがんばって80分くらいの一般作品にしたてちゃえばいいのに、って思いました。

ま、プロモーション映画でもあるから、長くなればなるほど、使いづらくなっちゃうのかなぁ。


本作品、そのうちポスプロが終われば、前作同様に、Youtubeで全編公開されますので、お楽しみに!




シネマートでは6月末より<反逆の韓国ノワール2016>なる特集上映をやっていて、「極秘捜査」「鬼はさまよう」「殺人の輪廻」「名も無き復讐」の四作品が一日にして観られるというのを、新宿と心斎橋のシネマートでそれぞれ2週間ずつやっていた。


タイトル、そして予告編を観るだけでも、強烈な刺激に充ちた作品群であることはわかる。それらを一日で観られる! こりゃスゴイ。しかも地方在住でも一日だけ東京か大阪に行ければイイ。。。

いやはやスゴイ企画を考えるものである。すばらしきシネマート。


と、褒めてみたものの、地方在住の私は、この間に東京にも大阪にも行くことができず、ひとつも観ることができなかった。。。本当に残念。


で、韓国映画を観たいって気持ちにあらがえず、観に行ってきました「暗殺」を。


本作のほうはシネマートさんだけでなく、主要都市で7月16日公開。

さっすがタイトルにも書いた通り、韓国映画歴代TOP10入りの作品(微妙な宣伝文句?)です!




ストーリーはシネマートさんサイトから以下に色つき文字で拝借しますね。


1933年中国・杭州に設けられた韓国臨時政府は、日本政府要人と親日派を暗殺するため、独立軍最高のスナイパーのアン・オギュン、速射砲、爆弾専門家の3名を上海に結集させる。


(左からチェ・ジヌン演じる速射砲、チョン・ジヒョン演じるアン・オギュン、チェ・ドクムン演じる爆弾専門家)

臨時政府の警務隊長で、日本政府の密偵であるヨム・ソクチンは、彼らを招集する一方、仲間と政府を裏切り、巨額の報酬でハワイ・ピストルと呼ばれる殺し屋に暗殺団3名の殺害を依頼する。


(イ・ジョンジェ演じるヨム・ソクチン)




(ハ・ジョンウ演じるハワイ・ピストル)

ヨムの画策を知らぬまま、暗殺実行のため、上海から京城(現・ソウル)へと送り込まれた彼らには、非情なまでの運命が待ち受けていた…。

ストーリー抜粋は以上。


1933年の杭州、上海、そして京城が主な舞台になっているわけですね。


この時代、言うまでもなく映画の題材にはぴったりの時代でして、日本軍(関東軍)や韓国や中国の抗日戦士入り乱れての情報戦は緊張感があります。


そういえば、チョウ・ユンファ、コン・リー、渡辺謙、ジョン・キューザックの四人が主演した「シャンハイ」は1941年の上海が舞台。


トニー・レオン、タン・ウェイが主演した「ラスト、コーション」では1942年の上海が舞台になっています。


日中戦争開戦が1937年なので、今回の「暗殺」はちょうどその前、「シャンハイ」と「ラスト、コーション」は開戦後ということなるので、上海の描写もそのあたりに気をつけてみるとよいのでしょう。


本作、時代考証が徹底していると映画チラシには書かれています。


例えば、以下は暗殺の任を帯びた三名が、京城駅に降りたつくだりの劇中ショット。



日本酒らしきものを抱えていて、デザインは当時のお酒を再現したものなのか私には判別できませんがそれっぽいです。

後方には日本髪に着物の女性がいて、一目で日本人とわかります。


そして、このシーンでは、京城駅のアナウンスが、朝鮮語と日本語の2カ国語で流れています。

当時の朝鮮半島は日韓併合されていましたから、日本語教育も推進されていますが、当然併合後23年だと日本語を理解できない人もいるから現実にもそうだったんでしょう。


一方、以下は上海のカフェーでのシーン。



蓄音機が見えていますが、私はそれら美術よりも演じる俳優達の衣装が気になりました。

ここでハワイ・ピストル役のハ・ジョンウがしているスカーフが、物語の重要な小道具になるのですが、この二人が着ている衣装はどれもなかなかお洒落なんですね。


ちなみに衣装担当は、ハ・ジョンウが主演した「群盗」でも衣装担当だった方だそうです。

群盗は朝鮮王朝末期の1862年が舞台だそうだからだいぶん違う衣装で、しかもハ・ジョンウは身分が卑しいものということでボロを来ていたわけですが、本作とはエライ違いです。


さて、今回は内容にもなんにも触れず、時代だの衣装だのについて語っていますが、もちろん内容もかなり面白かったです。


監督は「10人の泥棒たち」も監督したチェ・ドンフンなんで、若干コミカルなシーンもあり。そのくせ火器をつかった爆発シーンや銃撃戦は圧巻です。


こういう作品がどんどん出てくる韓国映画はやっぱりパワーがあるなぁと再認識しました。


それにしても、「猟奇的な彼女」で華々しく登場して、その後は海外進出(アジエンスCM出演も!)やら、私生活では結婚やらで、人間的にも成長したチョン・ジヒョンは、本作でもなかなかの熱演。

「10人の泥棒たち」のジヒョンのはじけっぷりも面白かったけれど、本作のジヒョンは影がある役とお嬢さま然とした役とを演じ分け(? 詳細はネタバレになるんで語れずゴメン)てて、それぞれの魅力をチェ・ドンフン監督に引き出されていた感じ。




本作のこの役でジヒョンは韓国のアカデミー賞と呼ばれる大鐘賞の女優主演賞を受賞。「猟奇的な彼女」以来二度目の受賞だそうな。


このタイプの戦中映画だと、もっと反日ムードが前面に出ているかと観る前には若干恐れたけれど、そうではなかった。ただ主人公らが運命と時代に翻弄されたって感じの設定になっているところは、日本人にとっても見やすい映画になっていると思う。


オススメできる映画です。ただいま公開第一週ですし、これから順次主要都市以外にも公開されていくようですよ。


本ブログで石原裕次郎映画を取り上げるとは思っていなかったのだけれど、ここで紹介する『金門島にかける橋』は、1962年に日本の日活と、台湾の中央電影公司(中影)との合作映画。



2009年に裕次郎の23回忌を記念して、日活からゴールデントレジャーDVD-BOXが発売された。本作はレアもの作品を含む全90作品が収録されたDVD--BOXに含まれていた作品。

そして、2013年には『金門島にかける橋』として単独のDVDとしてソフト化されたもの。


なぜこの作品に行き着いたかと言うと、映画史の勉強のために買った岩本憲児[編]『日本映画の海外進出──文化戦略の歴史』という本のなかの一遍にあった「台湾における日本映画の断絶と交流─1950-1972」(蔡宜静[著])という論考を読んだことが発端。


この論考は、1950年代から1960年代の台湾映画市場について説明しているのですが、日本映画が大挙して輸入されていた事実について触れています。

この時期の台湾では、1955年あたりから、温泉地である北投において、台湾語映画がたくさん生産されていたことは、

台湾語とびかう『おばあちゃんの夢中恋人』

の記事の中で私も書いています。


その台湾語映画華やかな時代(1955年あたり)は、同時に日本映画やハリウッド映画も台湾映画館にくい込んでいたらしく、とくに日本映画は、文化的親近感もあって、台湾人にかなりの人気で受け容れられていたと、上書の蔡論文では説明しています。


さらに蔡論文では、あまりに日本映画が台湾の映画マーケットを席巻するので、本数制限をかけたり配給会社を絞ったりするのだけれど、日本の映画会社の側でも台湾マーケットが有望だと言うので、その網をかいくぐる方法を模索するなか、合作という手段が試みに行われたというのです。


その合作の試みは何本かあったらしいのだけれど、蔡論文が注目したのは、以下の三本。


・「金門島にかける橋」(1962、日活=中影)、松尾昭典監督、主演:石原裕次郎、芦川いづみ、華欣、二谷英明、唐宝雲


・「秦・始皇帝」(1962、大映=中影)、田中重雄監督、主演:勝新太郎、川口浩、宇津井健、若尾文子、中村玉緒


・「カミカゼ野郎 真昼の決斗」(1966、にんじんプロダクション=國光影業)、深作欣二監督、主演:千葉真一、高倉健、白蘭







これらの作品は、いずれも中華民国の軍隊の協力を得て、大規模な爆破シーンやマスゲームが展開されていることに特徴があります。

(秦・始皇帝では「協力」のクレジットとして中影のほかに、中華民国陸軍の名が!)


なかでも、本作「金門島にかける橋」は、実際に金門島で撮影され、まだまだ大陸側と両岸がにらみ合うなか、現実的に中台の砲撃が頻繁にあった時代に撮られている点で資料的価値も高いです。


最近、金門島を扱った台湾映画としては、2015年の大阪アジアン映画祭にも出品された『軍中楽園』(2014年台湾、ニウ・チェンザー監督)がありましたが、この映画の時代背景は1966年から3年間という設定。





しかし、実際には2010年代に撮影がされているわけで、金門島の風景・建築の実際の様子は、1960年代初頭に撮影されている「金門島にかける橋」のほうがリアル、というわけです。


というわけで、この映画でリアルな1960年代初頭の金門島の様子が観たい、というだけでDVDを買っちゃいました。


結果は満足。

映画の内容的にもまぁ良かったし、金門島だけでなく、台北の1960年代の様子もたっぷり観られたし。

そして、この時代の裕次郎のフレッシュな魅力もまた再認識しました。


裕次郎は好きだけれども、そんなに真面目に日活映画の裕次郎映画を観たことがなかった私。

たまたま比較的廉価なDVDだったから良かった。


しかし、アジア映画を趣味にしていると、どうしてもレンタルでは解決できず、海外DVDを取り寄せたりするから、出費がかさみます。


これは余談ですが、本作に出ていた芦川いづみの可憐さに、いまさら感動。

30代に入ると藤竜也と結婚してあっさり引退してその姿を見せない芦川さんですが、いまだファンが多いのも納得。

アジア映画に偏った私の女優データベースで、この可憐さに近い女優を挙げるとすると、「ドラゴン危機一発」のマリア・イーかな。


話が横道にそれましたが、本題に戻すと、1960年前後、多くの日本映画が流入した台湾では、その頃にブームだった台湾語映画でも、その多くが日本映画のパクリだったという指摘が前述の蔡論文でなされています。


「おばあちゃんの夢中恋人」でも多くの台湾語映画撮影シーンが出てきたし、エンドロールでは実際の台湾語映画の映像も流れてきますが、そういえばどことなく日本映画のにおいがしました。


そして、上記で書いた日本と台湾の合作映画の波なのですが、そのまま主流になることはありませんでした。


理由は、国民党の検閲。


この時代の日本・台湾の合作は蔡論文によると、多くの場合で台湾側が資金をかなり拠出しているんだそうです。確かに中華民国陸軍なんかを動員するという大がかりな映画で、それを日活や大映などの一介の映画会社が負担できるとは考えにくい。


そこまでして、大きな予算をかけて映画を作っても、国民党が検閲し、内容に調整が入ることも多かったようで、現実に「金門島にかける橋」の場合、日本公開が1962年末なのに対し、台湾での上映が1966年。


これでは資金を回収するのにタイムラグが生じて、あまり良い商売とは言えません。


中影は国民党系の映画会社ですが、検閲はやはり受けてしまうわけですね。


上記三本のなかで、「カミカゼ野郎 真昼の決斗」だけは、中影ではなく、國光影業という小さなプロダクションが製作に関わっていたのですが、実際にこの検閲のせいで公開できなかった間に、資金回収が遅くなったためなのか、倒産してしまったそうです。


こりゃ、すぐに日本・台湾合作が下火になるはずですね。


そして台湾映画市場は1960年代の後半にかけて、香港映画との蜜月関係に入っていきます。


その代表的な出来事のひとつが、香港のショウ・ブラザーズが台湾にリー・ハンシャン監督を分家させて1963年に設立した国聯公司。


リー・ハンシャンは、このちょっと前に香港で撮った「梁山泊與祝英台」を台湾でも大ヒットさせています。




そしてもうひとつ。私も好きなキン・フー監督がリー・ハンシャンを追うように台湾にやってきて、やはり自分の映画製作会社を設立。

1967年には「龍門客棧」を全アジア級に大ヒットさせます。




これら二つのトピックを観ても、香港映画が台湾を配給市場として考えていただけでなく、直接現地生産方式で台湾に入り込んでくる様子がわかります。


そして、1972年には日中国交正常化が行われ、台湾と日本の国交は断絶。合作映画を作る時代ではなくなってしまっただけでなく、日本映画の配給先としての台湾マーケットも消滅したわけですね。

(蔡論文の副題が、1950-1972となっているのはその意味です)


こうした背景を知って、裕次郎映画を観ると、なんとも感慨深いモノがあります。


さて、1962年当時の日本人のどれだけの人が、そうした中台の両岸関係や、台湾の映画マーケットと日本の映画会社との関係まで理解して、この映画を観たんでしょうねぇ。


裕次郎世代に聞いてみたいところです。

2012年に完成しつつも、長い間公開されることのなかった中日合作映画『スイートハート・チョコレート(原題:甜心巧克力 Sweet Heart Chocolate)。





2012年の第25回東京国際映画祭(TIFF)では、「アジアの風」部門に出品され、10月25日の上映後には、監督の篠原哲雄氏とプロデューサーのミシェル・ミー氏のティーチ・インもあった。

イベントレポートがTIFFのサイトに現時点で残っています(詳細は、こちらの25th TIFFサイト をご覧あれ)。


なぜこんなに長い間、公開されなかったのか?


公式発表では「日中関係の悪化」が原因とのこと。

中国では公開され、日本では公開されなかったわけですが、推測するに日本側の買い手がつかなかったということなのでしょう。


2013年9月には、韓国の第13回光州国際映画祭で、審査員大賞(同映画祭では最高賞にあたる)まで取ったのに、本当に残念なことでした。


こうした映画は古くなればなるほど配給するメリットは薄まってしまうので、私もなかば日本公開になるのを諦めていました。

せっかく私の愛する夕張がロケ地の映画だってーのに、悲しかった―。


で、二年、三年とたち、お蔵入りとなってしまったわけですが、運が向いてきたのは、尾道市・福山市で開催された「お蔵だし映画祭2014」にて、グランプリを取ったこと。


ん? お蔵だし映画祭!

そんな素晴らしいものがあったなんて!と、驚きましたね私は。


お蔵だし映画祭のホームページを見てみると、なんと、グランプリをとった作品は、「東京都内および広島県内他にて劇場公開されます」って書いてあるじゃないの!!


ホームページの上映プログラムを見てみたら、マイナー映画好きな私から見たら、なんとも魅力的なラインナップ。

2014年の映画祭コンペ出品作品のトップに、ありましたよ『スイートハートチョコレート』が。


そして、特別上映だから別枠かもしれないけど『ざわざわ下北沢』のように、2009年に公開された作品が再公開された例もある。


というか、この映画祭、マジ素晴らしいわ!


ただし、お蔵だし映画祭グランプリになっても、それで全てうまくいくというわけではないみたい。


本作『スイートハートチョコレート』は、公式サイトはFacebookページ のみ。


配給のための予算がぜんぜんない、ということが、その事実だけでも分かるわけですが、さらに、このFacebookページ上でも告知されていますが、「篠原哲雄監督 リン・チーリン主演「スイートハート・チョコレート」支援プロジェクト 」と称して、いわゆるクラウドファンディングによる宣伝支援金を募集していたようです。


目標金額は100万円。

「2016年02月12日18:42に募集開始し、2016年03月23日24:00に募集終了」とあるように、一ヶ月ちょっとで無事に100万円をかき集めることができました。

協力者は84人だったとのこと。


あーー、知ってたら私だって協力したのになぁ~。

これだから、地方在住は情報が届かないんだなぁ。


でもでも、皆様のおかげで、支援金のおかげでもって、無事に地方在住の私でも、ちゃんと上映されるという情報だけはキャッチして、初日に観ることができたというわけです。


84人の皆様、本当に感謝。


そして、支援プロジェクトで支援金額に応じたファンサービス(「リターン」と呼ぶようです)をしてくださっていた篠原哲雄監督にも感謝であります。


さて、前置きはこれくらいにしてレビューです。


本作、日本での全国公開ができなかったのは、もちろん日中関係の悪化もあっただろうけれど、大作主義の中国映画が押し寄せてくるなかで、映画のストーリー的に地味(失礼)ってこともあったと思う。



TIFFの内容紹介をそのまま引用させてもらうと、

愛する人に気持ちをこめて作ったチョコレートはどこにもない特別な味がする――。

海からきた画学生リンユエは夕張でレスキュー隊員をやっている守に出会い恋におちる。



守の死後、彼の遺志をついでリンユエは上海でチョコレートの店を開く。



守の兄貴分であり、密かに彼女に思いをよせていた総一郎は共に上海に渡り、ずっとそばで見守り続けていた。



上海と夕張を舞台に10年に渡る純愛を描いた『スイートハート・チョコレート』。



ふたりの男性の間でゆれるリンユエを演じるのは『レッドクリフ』のリン・チーリン、10年間そばで見守り続ける総一郎に実力派、池内博之、また守役には新人の福地祐介。



日中合作である篠原哲雄監督の新作は、美しい情景を舞台に、チョコレートをモチーフにして三者三様の愛の形、そして訪れる結末を見事に描き出している。

という感じ。


10年愛といえば、実生活であったらエライこっちゃだけど、映画的題材としては、ありふれているものね。


でもでも、この映画、ちょっとした隠し味があるんです。


チョコだけに隠し味。

これがなかなか美味いじゃない上手いんですよ。


ただ、残念ながら、その隠し味がきいてくるのは、後半になってからじわじわって感じ。しかも終盤まで観ないと、その効果をぜんぶは体感できない。


そもそも恋した男がなんで、すぐ死んじゃうの? とか、いくらなんでも10年も想い続ける女もあれだけど、それを10年も見守る男もどんだけ一途よ? など突っ込みどころをキチンと回収するのが、ラストのラスト。


これ以上はネタバレになるから書けないけれど、正直言って、冒頭シーンあたりは、いわゆるベタな青春恋愛ドラマのノリで観てるこっちも辛かった(もちろん、私がいい年したおっさんだからベタなシーンに恥ずかしくなったってのもある)。


けれども、そこはまぁ日本的に観ればハズいシーンでも、国際的に公開を狙った本作としては、あれくらいベタなほうがいいのかもしれん。


ともかく、映画の冒頭のほうの夕張ロケシーンは若干退屈です。

そして、その後に恋した男が死んでからの上海ロケシーンは、夕張や北海道の回想シーンと何回も行き来しつつノロノロ進むので、若干テンポが遅いような気もする。


「編集が悪いのか?」なんて一瞬うがった見方をしたりもした(すいません、監督)。


しかし、しかーし、この映画がラストのラストまで伏線を回収しながら進めるのに、この映画の編集方法が非常に効果的であったことをあとになって知る。

そうすると、きっと感動もひとしお、の人もいると思う。


かくいう私は、最後のシーンのちょっと前あたりからしっかり泣いた。

映画の冒頭、男女三人が雪でじゃれ遊びながら


「いったーい、やったわね~」

「えい! こうしてやる~」


とか青春的なぬるーいシーンにハズい思いをしたのもなんのその、しっかり泣いてたわけですな(笑)。


ま、映画の出来どうこうではないってのもある。


本作、ロケ地になった北海道では、中国人プロデューサーらが北海道庁を表敬訪問した際には、知事自ら「期待してます」的な挨拶を述べたくらい、注目度の高い映画だったわけ。

(そのときの模様は、こちらをご覧下さい


それがお蔵入りになったんじゃ、やっぱ浮かばれないわけですよ。

公開されて、本当に良かった!


しかし、そんなお膝元の北海道でも、リン・チーリン様が表敬訪問に来たのがニュースになったのは2012年の出来事だし、すっかり熱は覚めている?

宣伝費100万円では、あまり北海道でも話題になってないのかな~。


いやいや、劇中で10年もチーリンを待った池内博之を見習いなさいな、道民よ!


というわけで、こうして無事に待望の本作が観られて、いろんな皆様に感謝を込めつつの今回の記事でした!


ちなみに、どれだけ私が待望してたかってのは、本ブログの過去記事観るとわかる。


10/25東京国際映画祭『スイートハート・チョコレート』2012-10-10 記事
夕張映画祭招待作品『スイートハート・チョコレート』2013-01-17 記事


ながい道のりだったなぁ。

GW、時間があったので、久しぶりにオールドボーイの漫画版を読破。

たぶん、通しで読むのは四回目くらい。やっぱりイイ。

今回、韓国映画、ハリウッドリメイク、そしてマンガと三つを見比べてみた。

 

もともと、オールドボーイは韓国映画版(2003年)を最初に見た。

カンヌ映画祭グランプリの名に恥じぬ出来映え。

タランティーノが絶賛したというのは有名だが、そんな宣伝的逸話はいらないくらい、このポスター見たら、説得力があるビジュアルじゃないですか! 見たくなりますよねぇ。

 

そして、私はどっぷりとこの映画にはまり、特典DVD付きのセルDVDも入手しているくらいの入れ込みよう。

 

映画鑑賞後は原作を手に入れ、こちらも一気に読破した。

 

といっても、原作の方は、自分のイメージに合ってない絵柄だったこともあり、最初は違和感があったのだ。

 

ところがドッコイ。読み終わってみると、チェ・ミンシクの実写版オ・デス(主人公の名前ね)もいいけれど、漫画版の主人公の孤独でストイックなカッコ良さに惚れるのだ。

とにかく男が惚れるかっこよさがそこにはある。

 

原作が一番。

 

そう思ってしまうと、映画版はショッキングにしよう、どんでん返しを作ろう、という意図が見えて(もちろん何回も観てるからだが)、やはり原作のシンプルなかっこよさに回帰する。

 

ただ、万人受けするのは、やはり映画版だろう。

 

原作の「復讐」は、実に観念的で、映像的にはわかりにくいものなのだ。

だから、韓国映画版は近親相姦などのわかりやすい愛憎要素を入れている。

それでも、韓国映画がよく仕上がっていることのウラには、やはり原作に忠実な部分を残そうとし、原作の哲学をなんとか映画に入れ込もうとしたスタッフの努力があったと思う。

 

だから、韓国映画版には敬意を表するし、DVDの特典ディスクを観れば、監督や主演チェ・ミンシクら韓国スタッフ&キャストがどれだけの労力をかけたかがわかって、カンヌのグランプリもとるべくして取ったと思えるのだ。

 

で、話はハリウッド版(2013年)に移るのだけれど、こちらは駄作とは行かないまでも、全然印象に残らない仕上がり。最近観たばっかりだと言うのにね。

ハリウッド版にも近親相姦というタブーを入れたのは、原作からリメイクしたのではなくて、韓国映画からリメイクしたからなわけですが、ポスタービジュアルもトンカチを振りかざす韓国版とそっくり同じ。これはどうだろう?

 

しかし、ふたを開けてみれば、ジョシュ・ブローリンの演技は、ミンシクのように鬼気迫るというふうでもなく、監禁されるというシチュエーションは、

・漫画版10年

・韓国映画版15年

・ハリウッド映画版20年

とエスカレートしているのだが、なんだかそこまで長くなると、あまり説得力がない。

(たぶん、ハリウッド版では娘役をまだ十代という設定にはしたくなかったのだろう)

 

それから、韓国映画版のアクションシーンは美学があって、映画的魅力に充ちているけれど、ハリウッド版はその要素はなく、ユ・ジテのような意外性のある敵役の魅力にも欠けていて、ひらすら滑稽になってしまった。

 

これがあのスパイク・リー監督作品なの?って思ってしまうくらい。

 

いや、韓国映画の出来がいいだけなのかな。リメイクがダメって論評はありふれていてよくないよね。私がアジア映画好き過ぎるから、ハリウッドリメイクに魅力を感じないだけなのかな。

 

「インファナル・アフェア」が「ディパーテッド」になったときも、まったく面白くなかった。というか、観てる最中はそれなりに楽しんだかもしれないけど、あとになると印象に残っていないんだなぁ。この点、ハリウッド版オールド・ボーイもまったく一緒。

 

だってさ、「インファナル・アフェア」ってあとになってもずっと印象に残るシーン、たくさんあるじゃない。

屋上でヤンとラウが対決するシーンの緊張感しかり。エレベーターでヤンが頭を打ち抜かれるシーンの無情なことしかり。

それなのに、レオナルド・ディカプリオとマット・ディモンの対決シーンはほとんど記憶に残っていない。

 

話がディバーテッドのほうに行っちゃいました。

最終的に何が言いたかったかと言うと、日本の漫画コンテンツも捨てたモノじゃないってこと。

え? よくわからんって。

ま、とにかく韓国映画「オールド・ボーイ」が好きな方は、騙されたと思って、日本の漫画原作を読んでみてくださいな。かっこいいから!

 

今回は(も?)よくわからん記事ですいません。

去年の三月の大阪アジアン映画祭ではスケジュールの都合で見逃してしまい、10月以降の劇場上映でもなぜか見逃した『全力スマッシュ』。


今月DVDになったのでやっと観ることができました。




ま、この作品なら劇場公開してDVDにもなるだろうなっていう安心感もあったから、大阪アジアンでは無理して仕事休むようなことはせず、温存しておいたわけですが、予定通りDVDにまでなって良かった。


ストーリーはいたって簡単。


10年前、バドミントンのチャンピオンだったン・カウサウ(演じるは、ジョシー・ホー)は、試合中の暴力事件で、バドミントン界から追放される。


その後は兄の飲食店で働くも、ちょっと目を離せばサボるわ、間食するわで、ココロも身体もたるんだ日々を過ごしていた。



ある日、カウサウはひょんなことから、バドミントン同好会の怪しいオッサンたち3人(彼らのリーダー格のラウ・タウを演じるは、イーキン・チェン)に出会う。




3人は過去に強盗に手を染め、ムショ暮らしのあと、更正しようとバドミントンに打ち込んだという経歴の持ち主だった。


カウサウは最初は兄や親戚のチョン坊や(演じるはノナルド・チェン。チョン坊やというふざけたネーミングにふさわしい怪演!)の差し金で、3人を追い出そうとして同好会に入部するが、次第に3人のひたむきさに心動かされ、コーチとして彼らを鍛えるようになる。


そして、チョン坊やとの対決は、テレビで放送される大きなバドミントン大会の場へ。
3人を鍛えるだけでなく、自らも昔のバドミントンへの熱意を思い出し、たるんだボディをみるみるシャープに鍛えあげていくカウサウ。


バドミントン大会では、チーム全員がメキメキ上達した腕で、トーナメントを無事決勝まで進出。チョン坊や率いるチームとの対決はいかに。


と、こんな具合。


ジョシー・ホー主演映画というのは私も初鑑賞。

今までとりたてて注目してなかった女優だけれど、本作の中ではひたむきな感じのイイ表情を見せるのだ。



たるんだボディをシャープにした後の変身の仕方も、おっホントに引き締まったかも、と感じさせる。けっこう熱演していたと思う。


イーキンの汚れメイクはあまり観たくなかったが、やはり中年になったらなったなりの魅力がイーキンにはあるよ。




で、鑑賞後の感想。


日本の配給側としては、少林サッカーっぽく売り出していたようだけれども、あんなミラクルなプレーは出てこないし、バドミントンしているのが中年ばっかりの、地に足の付いた(?)スポ根ものです。


SFXも(冒頭のシャトルコック型隕石のシーンを除き)使っていないから「ありえねー」的なシーンはないのですが、ロナルドのはじけっぷりと、チームの特訓に手を貸す20年前のバドミントンチャンピオンでムショ帰りの老人を演じたアンドリュー・ラムのバカげた演技には笑えます。





それにしても、かなり汚れのヒッドイ老人を演じていた元チャンピオン役のアンドリューは作詞作曲家で、公式サイトによれば、香港ニューウェーブ(!)の代表的映画音楽家だっていうから驚き。


俳優もこなすような、こういうマルチな才人は、テディ・ロビン(なぜか本作のエンドロールで彼への謝辞があった!)とか、フランキー・チェンとか香港映画にはいっぱいいるんだよね。


ということで、中年のせつなさをスポーツでぶっとばそう、という私世代には向いた映画だと思います。


最後に、気になったのが映画.comのサイトにあった下の写真。




ポールの上で稽古するっていうカンフー映画にはおなじみのシチュエーションをバドミントンでやっているのだろうが、このシーン、DVD版にはなかったなぁ。

カットされたのかしらん。




台湾のチアン・ショウチョン(姜秀瓊)が監督し、東映のマークがついた日本映画『さいはてにて―やさしい香りと待ちながら―』(2015)。





配給が東映なくらいだから、そんなに観るのが困難な作品ではなかったはずなのに、なぜか見逃してしまい、DVDになってだいぶ経ってからの鑑賞。


それでもなぜか自分の家から一番近いレンタル屋にはなく、DVDは昨年の九月にはレンタル開始されていたはずだったのに、ようやく観た。


レビューするには、機を逸してすっかり遅くなってしまったけれど、良い映画で自分的には余韻が残ったので記事にしておきたいと思います。


ロケ地は石川県能登半島の珠洲市。

ここがまた「さいはて」というのにぴったりなロケーション。


ストーリーの最初はこんな感じ。


主人公の吉田岬(演じるは永作博美)は、四歳のとき両親が離婚し、母に引き取られたために、漁師だった父と離ればなれに。


以来、30年も父とは会っていない。


8年前に父の乗った漁船は遭難事故を起こし、行方不明になってしまった。

物語は、父の残した借金をとりたてにきた弁護士(演じるはイッセー尾形)が、娘の吉田岬と交渉する場面から始まる。


若くしてコーヒー豆輸入ネット販売で成功し、生活に余裕のあった岬は、「借金は私が払います」ときっぱり言い放つ。


ダメもとでとりたてにきていたはずの弁護士は、あっさりと借金を背負うことを申し出た岬に驚く。

そして、借金だけでなく、まったく資産価値のない漁師小屋は残されていると告げる。


岬は、父と過ごした唯一の思い出が残る漁師小屋でコーヒー焙煎をしようと思い立つ。


そして、<さいはて>に立てられた漁師小屋を久しぶりに訪れた岬は、荒れ果てた小屋をリフォームし、焙煎設備を運び込んで出荷体制を整えると、ここで今までの仕事を引き継ぎながら、父の帰りを待とうと決意する。




という具合。


サブタイトルになっている「やさしい香りと待ちながら」は、コーヒーの香りに包まれながら、父を待つという岬の気持ちを指している。


岬の商売の成功の経緯や、岬の母はどうなったか、岬自身に家族はいるのか、など一切語られない。


そして、


漁師小屋(いまは焙煎小屋)の近くの旅館に住んでいるが、ほとんどを金沢のキャバクラに出稼ぎに行って過ごす山崎絵里子(演じるは佐々木希)という名のシングルマザーと出会う。


そして、不在がちな絵里子の二人の子達、姉の有沙、弟の翔太との交流が自然に始まっていき・・・




というもの。


私は永作博美の演技は大好きで、彼女の出ている作品はほぼ全て観ている。

今回も主人公の背景設定が語られないために、観客には人物像もはっきり定まらないなか、30年前の父との邂逅を大事に想う、心のどこかに悲しみを宿した女性の雰囲気をしっかり出していて、すばらしかった。


対して、永作の相手役が佐々木希と知り、彼女の演技はよく知らなかったから「正直どうかなー」と思って見始めたが、実はこれがなかなか上手かった。


高校中退で、若くして子どもをこさえてしまった元ヤンキーという、ちょいあばずれなヤンママ(死語?)のキャバ嬢・絵里子の雰囲気はよく出ていたし、その後に岬役との交流で、徐々に本来の優しい人柄を取り戻して、性格を変えていく、その流れは若干性急な感じもしたが、難と言えばそれくらいで、演技はなかなかよかったと思う。


そして、なんといっても、子役に絡ませたのがよかったかもしれない。

絵里子の娘の有沙を演じたのは、テレビドラマ『明日、ママがいない』で芦田愛菜ちゃんとともに、茶の間を泣かせていた名子役(と、私が感じた)子だった。


その子は、上ドラマで、ピア美というあだ名の子を演じていた桜田ひよりちゃん。


私はこのドラマにはけっこう泣かされたが、ピア美のエピソードでは一番泣いた。


ドラマを見ているときは、芦田愛菜ちゃんは知っていても、この子の名前までは知らなかった。

けれど、この子の演技は、子役一流の教科書通りな泣きの演技なのだが、それがわかっていても胸に刺さるのだ。

今回も涙腺にグイグイ訴える泣きの演技で魅せてくれて、佐々木希とのからみのシーンをとても自然なものにしていた。


一方、弟役の子役くんは今回はじめて観ました。

こちらも上手い。

調べたら、保田盛凱清くんという子が演じていました。

子役っぽくない、つまり自然な演技が出来る子って感じ。


というわけで、上手い子役に支えられつつ、佐々木希がダメな母親役を演じるというのは、かなり絵柄的にも自然で、相乗効果を生んでいたように見えました。


いや、たぶん、佐々木希も実は演技が上手いんだと思う。


いままで彼女の演技をちゃんと観たのは『風俗行ったら人生変わったwww』(2013)というコメディ映画だけで、わざと大根役者的に演じさせられていた。が、しかし、それで余計に面白い映画にはなっていた。


てっきり、その通りのやや大根な役者(なんじゃ、そりゃ)だと思ってました。

いやはやゴメンなさい!

これからは佐々木さんの映画にも注目して参ります。


というわけで、永作と佐々木という映画でのキャリアには、大きな差がある二人の組み合わせだったわけですが、良い具合にマッチしていた映画になってます。


監督についても少し。


1969年生まれの台湾人女性監督のチアン・ショウチョン(姜秀瓊)は、そのキャリアを女優から始め、エドワード・ヤン(楊德昌)やホウ・シャオシェン(侯孝賢)にも師事したとか。


女優として我々が知り得やすいのは、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(1991)でしょう。

逆に言うと、それ以外の女優実績はほとんど知られていないのでは?

とはいえ彼女は、この映画で金馬奨の助演女優賞をとってます!


エドワード・ヤンらとの交流はこの頃からすでにあったんですね。


wikiの中文版で調べてみたら、たしかにエドワード・ヤンのやホウ・シャオシェン映画で助監督を何作か、やっています。

ちなみに、本作の中国語タイトルは、wiki中文版では『舟小屋物語』だって。

実際に釜山国際映画祭ではそのタイトルで上映された模様。


しかし、台湾で公開される際は、『寧静 珈琲館之歌』になった模様。




台湾版の映画ポスター(寧の字の一部に「ア」が、静の字には「ま」が隠れている!)



台北電影節(台湾の映画祭)では、観客賞と外国映画部門の主演女優賞(永作博美)をとったとか。


ところで、本作を演出するにあたって、チアン監督は自分のチームを連れてくるのではなく、日本の製作陣を使ったそう。

そのため、監督の自由度(台詞を変えるなど)が台湾よりも少なく、苦労したと「もっと台湾」というサイトのインタビューに答えています。


まだこの一作だけではチアン監督の力量は私にはわかりませんが、他の映画も観てみたいなと思わせる作風でした。

淡々とした作風は、もしかすると、師事したエドワード・ヤンとかホウ・シャオシェンの影響はあるかもだけれど、極端に静というわけではなく、ところどころの絵の撮り方がうまく、動がある感じがします。


映画のなかで使われたギターや波の音と画の組み合わせもよい感じでしたし、もう1本なにか観てみたいな~。


最後に余談。

本作が影響で、主演の永作さん、コーヒーにすっかりはまってしまったそうで、自分で焙煎したり、豆を選んだりしてプライベートな楽しみにしているんだとか。


影響されやすいので、「私もコーヒーを煎れる時間を楽しめるような大人になりたい」なんて思っちゃいました(笑)。

だって、ファンだしね~。