(あらすじ)※Amazonより
第169回直木三十五賞候補作
『ジェノサイド』の著者、11年ぶりの新作!
マスコミには決して書けないことがある―
都会の片隅にある踏切で撮影された、一枚の心霊写真。
同じ踏切では、列車の非常停止が相次いでいた。
雑誌記者の松田は、読者からの投稿をもとに心霊ネタの取材に乗り出すが、
やがて彼の調査は幽霊事件にまつわる思わぬ真実に辿り着く。
1994年冬、東京・下北沢で起こった怪異の全貌を描き、
読む者に慄くような感動をもたらす幽霊小説の決定版!
◆◇
第169回直木賞候補作である。
(どうでもいいけど直木賞の正式名は「直木三十五賞」なのね。・・って今更!!
ってことは芥川賞の正式名は芥川龍之介賞なのか?と調べたらやっぱりそうだった。・・って今更!!)
あもる一人直木賞(第169回)選考会の様子はこちら・・
冲方丁の「骨灰」
を読んだ後だったもんで
まさか2作続けてホラーを読まされるとは思わんかった・・と大後悔。
そうでなくてもホラー系が苦手なあもちゃん、真夜中に読むホラーとかイヤすぎた。
(安易に読む順番を決めるからこういうことになるのだ。)
震えながら読んでいたら、突然壁が「ピシッ」とか音を立てるもんだから
ひっっ
とか声が出る始末。ほんと怖かったデス。
しかし結果的(直木賞選考的)には同じジャンルで比較しやすかったため、2作連続で読んでよかった。
一方は察しの悪い主人公(「骨灰」)、こちらはものすごく察しのいい柔軟な主人公(松田)。
それだけでイライラが解消されるってもんである。
しかも作品の完成度は文句なしにこちらの「踏切の幽霊」に軍配。
私、途中で泣いちゃったからね。
1人の女性が殺された。
その彼女はずっと偽名で生きてきて、容疑者はすぐに捕まったものの、この被害者がどこの誰かも分からないまま、名無しの権兵衛で裁判は粛々と進められていく。
本名も正体も誰にも知られないままひっそりと命を終えていったその描写に、まず胸がギュッと詰まった。
正しい名前で生きていられるということは当たり前なことではあるが、幸せなことであるのだと思い知る。
主人公の松田(元新聞記者)はその被害女性の正体を明らかにすべく取材に乗り出すが、その取材を進めていくうちに思わぬ真実に辿り着いてしまうのであった。
取材を進めるうちに、松田の過去も描かれる。
奥さん一筋だった松田がいかに奥さんを愛していたか、が細部にわたって描かれる。
霊媒師によって生きていた頃の奥さんの思いを伝えられた松田は泣きそうになる。
そして泣けない松田の代わりに私が泣いてあげました(笑)
取材が行き詰まり、その突破口となったのが序盤に軽く声をかけていた霊媒師だった時には
「あ〜そういやこの作品、ホラーだったな」
と思い直す。
それまでは心霊写真等のホラー要素も登場してはいるものの、全体的に電車事故と殺人事件、そして警察への取材などのサスペンス的要素がほとんどであったため(物語の入り方として心霊現象と事件との絡ませ方がすごく上手だった)、霊媒師の登場に多少面食らったのも事実。
サスペンスとホラーが上手く混ざり合っているかというと、多少強引なところもあるのがちょっとマイナスか。
政治家の汚職事件と殺人事件との絡みがかなり強引だった気がする。
しかも最終的に女性の幽霊が自分を殺した犯人とその奥にいる真犯人を殺すし〜。
いや、殺すならそんなまどろっこしいことせずに最初からヤればよかったのでは?
とも思ったのだが・・
そういや踏切に現れた幽霊の女性は、当初は何をするでもなくぼんやりと現れるだけであった。
自分でも自分の存在や自分の思いなども分かっていなかったのかもしれない。
(幽霊に思いを馳せるのも変な話だが笑)
それが松田と出会ったことで、自分でもわからなかった自分の思い
・自分の正体(名前など)を知ってほしい
・自分を殺した人を探しあて、事件を解明してほしい
・そして自分が何をしていたのかを知ってほしい
を知り、そして松田にその思いを託した。
・・ということがわかると、まあそんなに強引でもないか、とも思うことにする。
でもやっぱり政治家の登場はやりすぎだったかなあ。
人間を1人始末するって結構大変だと思う。
それを何があったか存じませぬが、不要だからって簡単に始末できるかなあ。
しかも懇意のヤクザに頼むとか、一生弱みを握られそう。
大体ヤクザでもなかなか殺人(しかも一般人相手)には手を染めにくいと思うのに。
←黒ちゃんこと黒川博行氏の作品からの知識w
それでもやっぱりいい作品はいい作品。
結末はともかく最初から最後まで楽しめたし、主人公の松田同様奥さん一途(表向き・・?)な汗かき夫にこの作品を勧めた。
女性より男性に私は勧めたい。男性が好きそうな作品。
ホラーと言いつつ、サスペンス要素が多いから楽しめると思う。
後日、中野さんが読みたがっていたのでお貸ししましたらば
「ジーンとして泣いてしまった」
とのことであった。
わかる〜!手に手を取り合ってその思いを話し合いたい( ´∀`)人(´∀` )
↓中野さんに貸した話はこちら
物語の最後の最後、生前の被害女性がなぜ踏切のそばに立っていたのか、そして命果てる前になぜ助けを呼ばず踏切まで歩いて行ったのか、の事実がサラリと明かされた時、ああそうだったのか、と寂しくなったね。
大袈裟に重々しくなく、しかも松田の推測という形でその事実が明かされたのはよかった。
そして私はその最後まで名が明かされなかった被害女性の魂があるべきところに戻れますように、と私も松田と共に祈った。
高野さんってこんなに上手だったっけ?
あと高野さんってこんなに熱い人だったっけ?・・って文章しか知らんけど。
前回候補作の「ジェノサイド」から11年。
鍛錬すればするほど人は成長していくものなのだ、と勇気をもらった。
結局直木賞は惜しくも受賞ならず、ではあったが、発表当日講評に立った選考委員の浅田次郎氏から
「高野和明さんの「踏切の幽霊」は面白いホラーという意見が多く、「踏切というものが小説内で果たす機能を読み解くと、大変深い作品に思えてくる」という意見も出た。私もとても面白く読んだ。」
というかなり手応えあり、の選評をもらっていてそこは本当に良かったなあと思ったね。
しかも私が思ったとおり、男性が好きそう、にドンピシャでありました。
1ヶ月後の選評でも浅田氏は高野さんの作品を高く評価しておりました。
一方、同じく選考委員の伊集院静氏の高野さん作品に対する選評はかなりひどくて、別記事を書いたほど。
伊集院氏の
「私が幽霊やオカルトを好まないところがあり、作者の意図に及ぶことが到底できなかったので、作品の佳し悪しの言及は避けたい。」
こんな選評読んだら、高野さんガッカリしちゃうだろうな、と辛かった。
オカルトやホラーは苦手なあもちゃんだったけど、すんごく面白く読んだよ!って高野さんのことまるで知らんけど、高野さんのとこに走っていって私の思いを伝えたい気分であった。
その後、改めて伊集院氏の選評全体を読んで
「これちゃんと推敲した?って。色々と変だったけどそれ以上に、色々と抜け落ちてる気がする。酔っ払って書いたんじゃなかろうね。」
と思っていたのだが、その数ヶ月後、病気で亡くなったというニュースを耳にし、色々体に支障があって選評とかそれどこじゃなかったのかもしれん、とも思いましたな。
選考委員の角田さんが、政治家の描写と理由について否定的な選評を出していて、「政治家の汚職事件と殺人事件との絡みがかなり強引」とした私の感想とほぼ同じであった。
そしてそして直木賞の良心、三浦しをんちゃんの登場により私はゴキゲン!
高野さんを大絶賛、受賞作である永井さんの「木挽町のあだ討ち」とW受賞で推したらしい。
・・・それはさすがに褒めすぎでは?と高野さんを激推してたあもちゃんも若干ヒイタ笑。
何度もいうが、11年前の「ジェノサイド」から随分と上手になったなあ、と本当に高野さんの上達ぶりに感心した。
いや「ジェノサイド」も面白いは面白かったが、完成度が違うというかその巧さは段違い。
また浅田さんやしをんちゃんら数人の選考委員が気にしてくれていたし(約1名触れてもくれない人がいたが)、高野さんの今後に大いに期待していきたい。