あもんはサラリーマンである
ひとつの会社の歯車となっている企業戦士である
そして
あもんは協調性に乏しいサラリーマンである
だけど
あもんは順応性の高いサラリーマンである
施主によりひとつのプロジェクトが生まれ
設計者がそれぞれの思いを図面化し
発注者がその図面をもとに金額と請負者を決定し
監理者が関係各所の調整をし
請負者が建物を建てる
建物を建てるには細密な打ち合わせが必要となってくる
施主、設計者、監理者、関係各所、地元近隣、関係省庁
多くの意見を総合的にまとめ実行していくのは請負者である
あもんの仕事はその請負者の現場監督である
古い建物から、もしくは更地から新しい建物を創るのが仕事である
ひとつの建物を創るということは
多くの年月経過と研ぎ澄まされた技術の実行が必要であり
そこには苦悩と享楽、罵声と感嘆などという多くの感情が存在をする
あもんは実際、ハンマーを持って仕事をするのではない
協力業者(職人)に指示を出し建物を創って貰うのである
設計図を基に仕事を細分化させ
二次元な図面を三次元にするための施工図を書き
無駄の無い時間を創作する工程を組み
創り上げられる建物の品質を確保し
労働者の安全と賃金を保障する
二四時間という決められた一日の中で
段取りと工事と書類整理の同時進行
今回の現場は夜しかできない施工もあった為
約1年の期間中、175日間の夜勤も務めた
あもんは労働基準法で定められている以上の労働時間の中で
ひとつひとつ工程を進めていった
あもんはこの現場のNO.2の立場であった
NO.2は現場実行部隊のトップの立場であり
全ての工程、手順、品質、安全を考察し責任を持つ立場である
あもんは建築の現場監督であるため
毎日、協力業者の前に立つ
前日に施工方法、手順を打ち合わせをし
出来あがった成果物を確認し
毎日、協力業者と接触をする
大きい現場は必然的に労働者が多くなるため
一日、100人以上の時だってある
工種が重なる時は協力業者との接触が多くなり
列に並んであもんの指示を待つという異様な風景も存在するのである
ひとつのプロジェクトを完成させた
施工期間20カ月 延べ労働人数 9,823人 延べ労働時間 81,156時間
ここにあもんが建てた建物がある
何十年も建ち続ける建物がある
何千人もの人々が利用する建物がある
地図に残るあもんが建てた建物がある
先日、プロジェクトの完成を祝い飲み会が開催された
メンバーは施主、発注者、監理者、関係各所、請負者である
協調性のないあもんはあまりこの手の飲み会には参加はしない
飲みにケーションのできない不器用なあもんであるからである
あもんの夜勤があったせいでもあるが
このメンバーでの飲み会は初めてであった
この日は惜しくもあもんは県外研修であり一次会は不参加であった
盛大であった一次会は飲み放題時間2時間半オーバーであったらしい
丁度、一次会の席をみんなが立ったころに現れたあもん
『遅くなってすみません』とあもんはみんなに挨拶をした
『おおぉぉぉ~あもんちゃん!』
みなさんはあもんより年上である
しかし、みなさんは大人であるから
いつもはあもんの立場からあもんを立ててくれて
『あもんさん』と呼ぶのである
しかし、この時は全員が全員
あもんのことを『あもんちゃん』と呼んでいるのである
『あもんちゃんと飲みたかったのに~~』
『あもんちゃんのお陰でいい建物できたよ~』
と固く両手で握手を迫ってきた
『いやいや、こちらこそありがとうございます!』と硬く握り返すあもん
20人程度に挨拶をしたが
みんなこのような挨拶をしてくるのである
『あもんちゃんがみんなを引っ張っていってくれたからいい建物が出来たよ~』
そう言ってくれる方もいた
あもんちゃんはモテモテである
あもんちゃんは仕事上では愛嬌の無い男である
無駄なおしゃべりはそこそこにし
出来ることとできないことをはっきりと言う男である
それはお金をもらう発注者に対しても同じである
時には関係各所などにきつく意見する時もあるのである
だけど、あもんちゃんは『分かりました』と言ったことには責任を持つ
例え、結果が大きな失敗を招いたとしても
やるべきことを真剣に遂行する志を持っている男である
あもんちゃんはツンデレなのである
二次会に行った
5対1の男女比となったラウンジのボックスで
両隣男同士肩寄せ合いというポジショニング
女性はお酒を注ぐという業務に専念をしていたが
ここでもあもんちゃんは連呼された
『あもんちゃんいい男じゃね~』
『あもんちゃんは何で結婚せんのん?』
『もしかして、あもんちゃんは男好き?』
『あもんちゃん、企業戦士で終わっちゃいけんで!』
『いやいや、あもんちゃんぐらい仕事ばっかりしてたら、女遊び出来んのんじゃけん』
『あもんちゃん、どの娘がいいんじゃ?けどママはワシのもんで~』
酒の匂いをプンプンさせたみんながあもんちゃんを連呼する
あもんちゃんはそれを聞き、ずっとニコニコしていた
あもんちゃんはニコニコである
サラリーマンは何故、会社の為に働くのであろう
決められたレールの上を何十年も
限られた人生の中のほとんどの時間を
会社の利益のために自分の人生の時間を費やすのであろう
失われた自分の時間を振り返れば
そのほとんどが悩みや苦しみ悔やみ
そして、疲労
人間は何のために生きているのだろう?
そんなことを深く考えた時期があった
何度もサラリーマンをやめたいと思った
しかし、そんな中で
『あもんちゃん』と呼ばれる飲み会があった
あもんちゃんはこの時決まって
サラリーマンっていいなと思う
人が物を創るということ
ひとりで物を創れるのは砂場のトンネルぐらいのものである
利用者が笑ってもらえる建物を創るということ
それには会社という組織が必然であり
人と人との繋がりが不可欠である
ひとつのプロジェクトを完成させるということ
そこには人と人との大きな輪ができるということであり
誰をも感動させる日常的なプロジェクトXがあるのである
サラリーマンはプロフェッショナルである
プロフェッショナルとは
どんな困難があっても“やり遂げる”人のことを言う
不満や愚痴をこぼす前に目の前の困難に挑戦し
培った技術と追及心からなる閃きを頼りに
ひとつの仕事を“やり遂げる”ことを続けなければいけない
今、あもんには
次なる仕事をやり遂げるという意志がある
そしてまた
『あもんちゃん』と呼ばれる日を楽しみにしている