弐の段 四 『其々の夜明け=中編=』
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僕は『鬼』になった。
僕の傍らには、白銀の輝きを放つ友が居て
そして僕たち二人の前には、雄雄しく逞しい、紫炎を放つ背中が在る。
僕は『鬼』になった。
『鬼』になって、仲間と師匠と一緒に、悪い『魔化魍』と
戦って
戦って
戦い抜いた
僕は『鬼』になった。
『鬼』になって、戦って 戦って 戦い抜いて。
気がつくと
僕は一人、真っ赤な世界に取り残されていた。
僕の手は血まみれで
足元も血の海になっていて
そこには 友と 師匠が
血に塗れて倒れ伏していた。
リ────ン
呆然とする僕の耳に
どこかで響く、弔いの音の様な鈴の音が聞こえた。
「!?」
明日夢はそこで飛び起きた。
身体の芯に、えも謂れぬ気だるさと、鉛の様な悪寒が残っている。
しかも、この芯まで凍りつくような寒さの中で、異様な火照りとじっとりとした脂汗が噴出して、顔といわず全身を濡らしていた。
(……夢?)
だが、思い返そうにも記憶がどんどん霧が立ち込める様に薄らいでいく。
明日夢はその時になって初めて、自分が自宅の自室に居ることに気がついた。
「あれ?」
まだ夢でも見ているのかと周囲を見回してみたが、間違いない。
確か自分は斬鬼の墓参りに行って、そこで『魔化魍』に追い回されて──
そこからの記憶が無い。
いや、何かを思い出せそうなのだが、まるで霞がかかったように思い出すことが出来ないのだ。
しかし、こうして自室に戻っているということは、あの魔化魍は退治されて、気を失った自分を誰かが部屋まで運んでくれた、と考えるほうが自然だろう──
──そうだろうか?
何か奇妙だ。
確かあの時、自分はひとみを抱えて車から飛び降りて、その衝撃で気絶したはずだ。
そこは確かに覚えている。
なら、猛士のメンバーが、直接家に送り届けるなどということが有り得るだろうか?
答えは否──
魔化魍退治が終わったなら、自分はまず病院に送られてしかるべきだし、明日夢が知る猛士のメンバーなら、誰でもそうする。
なら、本来なら自分が居る場所は、病院ということに当然なるはず。
そうして明日夢は、最初の自分の考えを否定した。
では、どうやって自分はこの部屋まで帰ってきた?
悪夢の余韻も手伝ってか、明日夢は軽い混乱状態に陥った。
とりあえず落ち着こうと、額に流れる汗を拭おうとしたその時。
明日夢は自分の手首と手の甲とに、梵字を更に崩したような紋様が現れている事に気がついた。
しかも手の甲の紋様は見ようによっては『鬼の顔』にも見える。
それが両手に現れていた。
「……っ なんだよ? これ」
慌ててそれが消えないかと擦ってみたが、まるで刺青が彫られたかのように消えることは無い。
いつ? いつの間に??
しかしそんな明日夢に、現実は更なる事実を突きつけてきた。
驚愕に思わずベッド上で身じろぎした時、枕元に冷たく鈍い感触が触れたのだ。
何かと思って見ると、それはあまりに無骨な──いっそ鉈と言ってもよさそうな──二振りの短刀だった。
荒々しく、禍々しい気配を放っているかのような錯覚を起こさせるそれは、手に取ると背筋が凍るような量感を以って、そこに確かに存在しているのだと主張している。
思い出せない。
おそらく、気絶してからこの部屋で目覚めるまでの間、「何か」があったのだ。
それがなんであったのか──
それを思い出しかけた、その時──
「おっはろー♪」
ノックもせずに、母が部屋に飛び込んできた。
とっさに後ろ手に短刀を隠しおおせたのは奇跡に近かったと、後になって思う。
「? 何やってんの? アンタ」
「い いきなり入ってくるなよ!」
半ば以上パニックに陥って、思わず語気荒く叫んでしまったが、母はきょとんとしてそんな明日夢を見つめ、そして妙に得心がいったかのように、アリスの童話に出てくるチェシャ猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ははーん? ま、受験も終わったことだし? アンタも若いオトコノコだしね?
ただ朝っぱらからってのはどんなもんかと思うのよ? 母さん」
──なんだか凄まじい誤解を招いてしまっているようだが、この得体の知れない短刀や刺青のことを知られるよりはマシだ。
それよりも
「ところで、朝っぱらからなんだよ? 一体」
「なんだとは随分ねぇ? 今日は終業式でしょ。 明日から楽しい冬休みなんだから、さっさとお勤めしておいで」
お勤めって、ヤクザじゃあるまいし──などと思いながら、とりあえず母に知られなかったことで安心したのか、多少気持ちがやや落ち着いたことを自覚する。
意外に自分の神経は太いのではないかと思ったのは、随分後の事だ。
「あ それと桐矢君が迎えに来てるわよ? 随分心配そうな顔してたけど、アンタ昨日なんかやらかした?」
京介が迎えに来ている?
その事に僅かな驚きを感じながら、明日夢は妙に納得した。
やはり、昨日自分に何かが起きたのは間違いなさそうだ。
なら、猛士の皆にこの短刀と刺青を見せれば、何か分かるかもしれない。
とりあえず「着替えるから出て行ってくれ」と母を部屋から退散させた後、明日夢はしばし考えて、件の短刀を手近にあったタオルで包んで学校指定のセカンドバッグの底板の更に下に入れ込み、期待と不安がない交ぜになった気分そのままに、汗で湿ったパジャマを乱暴に脱ぎ捨てた──
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僕は『鬼』になった。
僕の傍らには、白銀の輝きを放つ友が居て
そして僕たち二人の前には、雄雄しく逞しい、紫炎を放つ背中が在る。
僕は『鬼』になった。
『鬼』になって、仲間と師匠と一緒に、悪い『魔化魍』と
戦って
戦って
戦い抜いた
僕は『鬼』になった。
『鬼』になって、戦って 戦って 戦い抜いて。
気がつくと
僕は一人、真っ赤な世界に取り残されていた。
僕の手は血まみれで
足元も血の海になっていて
そこには 友と 師匠が
血に塗れて倒れ伏していた。
リ────ン
呆然とする僕の耳に
どこかで響く、弔いの音の様な鈴の音が聞こえた。
「!?」
明日夢はそこで飛び起きた。
身体の芯に、えも謂れぬ気だるさと、鉛の様な悪寒が残っている。
しかも、この芯まで凍りつくような寒さの中で、異様な火照りとじっとりとした脂汗が噴出して、顔といわず全身を濡らしていた。
(……夢?)
だが、思い返そうにも記憶がどんどん霧が立ち込める様に薄らいでいく。
明日夢はその時になって初めて、自分が自宅の自室に居ることに気がついた。
「あれ?」
まだ夢でも見ているのかと周囲を見回してみたが、間違いない。
確か自分は斬鬼の墓参りに行って、そこで『魔化魍』に追い回されて──
そこからの記憶が無い。
いや、何かを思い出せそうなのだが、まるで霞がかかったように思い出すことが出来ないのだ。
しかし、こうして自室に戻っているということは、あの魔化魍は退治されて、気を失った自分を誰かが部屋まで運んでくれた、と考えるほうが自然だろう──
──そうだろうか?
何か奇妙だ。
確かあの時、自分はひとみを抱えて車から飛び降りて、その衝撃で気絶したはずだ。
そこは確かに覚えている。
なら、猛士のメンバーが、直接家に送り届けるなどということが有り得るだろうか?
答えは否──
魔化魍退治が終わったなら、自分はまず病院に送られてしかるべきだし、明日夢が知る猛士のメンバーなら、誰でもそうする。
なら、本来なら自分が居る場所は、病院ということに当然なるはず。
そうして明日夢は、最初の自分の考えを否定した。
では、どうやって自分はこの部屋まで帰ってきた?
悪夢の余韻も手伝ってか、明日夢は軽い混乱状態に陥った。
とりあえず落ち着こうと、額に流れる汗を拭おうとしたその時。
明日夢は自分の手首と手の甲とに、梵字を更に崩したような紋様が現れている事に気がついた。
しかも手の甲の紋様は見ようによっては『鬼の顔』にも見える。
それが両手に現れていた。
「……っ なんだよ? これ」
慌ててそれが消えないかと擦ってみたが、まるで刺青が彫られたかのように消えることは無い。
いつ? いつの間に??
しかしそんな明日夢に、現実は更なる事実を突きつけてきた。
驚愕に思わずベッド上で身じろぎした時、枕元に冷たく鈍い感触が触れたのだ。
何かと思って見ると、それはあまりに無骨な──いっそ鉈と言ってもよさそうな──二振りの短刀だった。
荒々しく、禍々しい気配を放っているかのような錯覚を起こさせるそれは、手に取ると背筋が凍るような量感を以って、そこに確かに存在しているのだと主張している。
思い出せない。
おそらく、気絶してからこの部屋で目覚めるまでの間、「何か」があったのだ。
それがなんであったのか──
それを思い出しかけた、その時──
「おっはろー♪」
ノックもせずに、母が部屋に飛び込んできた。
とっさに後ろ手に短刀を隠しおおせたのは奇跡に近かったと、後になって思う。
「? 何やってんの? アンタ」
「い いきなり入ってくるなよ!」
半ば以上パニックに陥って、思わず語気荒く叫んでしまったが、母はきょとんとしてそんな明日夢を見つめ、そして妙に得心がいったかのように、アリスの童話に出てくるチェシャ猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ははーん? ま、受験も終わったことだし? アンタも若いオトコノコだしね?
ただ朝っぱらからってのはどんなもんかと思うのよ? 母さん」
──なんだか凄まじい誤解を招いてしまっているようだが、この得体の知れない短刀や刺青のことを知られるよりはマシだ。
それよりも
「ところで、朝っぱらからなんだよ? 一体」
「なんだとは随分ねぇ? 今日は終業式でしょ。 明日から楽しい冬休みなんだから、さっさとお勤めしておいで」
お勤めって、ヤクザじゃあるまいし──などと思いながら、とりあえず母に知られなかったことで安心したのか、多少気持ちがやや落ち着いたことを自覚する。
意外に自分の神経は太いのではないかと思ったのは、随分後の事だ。
「あ それと桐矢君が迎えに来てるわよ? 随分心配そうな顔してたけど、アンタ昨日なんかやらかした?」
京介が迎えに来ている?
その事に僅かな驚きを感じながら、明日夢は妙に納得した。
やはり、昨日自分に何かが起きたのは間違いなさそうだ。
なら、猛士の皆にこの短刀と刺青を見せれば、何か分かるかもしれない。
とりあえず「着替えるから出て行ってくれ」と母を部屋から退散させた後、明日夢はしばし考えて、件の短刀を手近にあったタオルで包んで学校指定のセカンドバッグの底板の更に下に入れ込み、期待と不安がない交ぜになった気分そのままに、汗で湿ったパジャマを乱暴に脱ぎ捨てた──
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