仮面ライダー響鬼・異伝=明日への夢= -2ページ目

【描かせていただきました】オリジナル仮面ライダー

弐の段 捌 『駆ける白銀』

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 眼前の『天狗』が朱塗りの小刀を(かざ)すと、いかなる(わざ)か、その小刀が刃渡り二尺ほどの太刀(たち)へと変化した。
 天狗はその太刀を抜刀すると、無造作に京介の脳天めがけて打ち下ろす。

 だが京介は冷静にその太刀筋の軌跡を読み、音叉をもってその太刀を受け流し、流れに任せるように太刀を逸らしながら身を(ひるがえ)した。

「させるかよ!」

 そして、受け流した衝撃で凛と鳴動する音叉を額に翳す。
 音叉の凄烈な音が京介の額から全身を震わせ、その『響き』が全身に『力』を(みなぎ)らせ、爆発するように開放される。

 お
 おおおおおおおおおおおおおお!!

「覇ぁ!!」

 白銀の炎が全身を(まと)い、裂帛の気合と共に弾けた。

 飛散した美しい炎の後に残されたのは、若々しく研ぎ澄まされた刃のような白銀の姿をした『鬼』であった。

 変身した京介は流れるような動作で音叉を腰に装着し、そのまま腰の後ろに装着してあった音撃棒を構える。
 そして眼前の『天狗』の相対しつつ、明日夢達の姿を目で追った。
 しかし、どういうわけかその姿を『認識出来ない』。強化された視力をもってしてもである。
 声は聞こえるのだが、その方向も前後左右と方向がまるででたらめだった。

 ──これが女の言っていた『神隠し』の術か。

 だが幸いな事に、『天狗』達の姿は認識出来る。
 ならば今は三人を逃がすために、どうにかしてこの二人を抑えなければならない。
 しかし、悔しいことに二人とも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の様子で、男の天狗の方は自分と戦う気満々のようだ。
 女の天狗も三人を──否、おそらくは明日夢と持田を追う様子。

 ならばやるべきことは決まっている。男の天狗をけん制しながら、女天狗を追って明日夢達を逃がす時間を稼がなければ。
 無論、頭で考えるほど楽な戦いではない。でもやるしか無いというのが今の状況であることには違いない。
 実を言えば天狗を倒すまではいかずとも、勝算の無い戦いではない。
 師や周囲の先達をも驚嘆させた『あの技』を使えば、あるいは──
 
 意を決し、京介は音撃棒を構えて男の天狗に突進した。






 ──なんだ、これは。
 
 明日夢は女天狗の爪を掴んだ己の腕を、驚愕と恐怖をもって凝視した。

 肩から先がまるで響鬼達『鬼』のように変化している。
 違っているのは、その手首。
 口蓋(こうがい)に鈴を咥えた鬼のレリーフが付いた『腕輪』が装着されていることだ。
 しかもその腕は『力』に満ち溢れ、しっかりと女天狗の爪を掴んで離さない。
 自分でも信じられない握力をもって、女天狗の手首を真綿を握りつぶすかのように締め上げる。
 だが、『鬼』になりきれていない部分。背筋や腹筋、足の筋肉が悲鳴を上げていた。
『鬼』になった部分との力のバランスがまるで取れてないこと、この上無い。

 それを見透かされたされたのだろうか。

「痛──っ!! 離しなさいよ! この『成り損ない』っ!!」

 女天狗は明日夢に蹴りを入れてその腕を引き剥がそうと足掻(あが)き始めた。

 二度三度と繰り返される女天狗の蹴りや拳が、明日夢の腹部や顔面を捉える。
 だが明日夢はその激痛に耐え、身体が悲鳴を上げるのも無視して女天狗の身体をぐいっと引き寄せた。
 そして女天狗がたたらを踏んで体勢が崩れた時──

「くぉおおおおおおおっ!!」

 明日夢はなんと、『力任せに女天狗を放り投げた』
 それは技ですらなかった。
 背筋に激痛が走り、腰が悲鳴を上げ、膝が笑い、それでも『ただ、腕力の剛力』のみで投げ飛ばしたのである。

「きゃ、ぐっ!」

 地下道のコンクリートの壁にしたたかに打ちのめされた女天狗は、よろよろと立ち上がり、頭を振って腰の小刀に手を伸ばした。
 そしてそれが伸びて小太刀の形を形作る。

「痛ぁ~。楽に殺してあげようと思ったのに……っ。あんた、私を怒らせたわね!?」

 よほど頭にきたのだろうか、殺気が膨大し羽に似た鱗状の表皮がぶわりと膨らんでいる。
 痛む右手首をさすりながらも、女天狗はその小太刀を逆手に持ち替えて構えた。

「たぁああっ!」

 襲い掛かる小太刀をとっさの勘でかわすが、元より戦闘術など何も納めていない明日夢では十分にかわすことなど出来はしなかった。
 制服が切り裂かれ、腹部に薄い血の線が走る。
 
「まだまだっ!」

 まるで舞を舞う様な女天狗の斬撃が、明日夢の身体に幾つもの切り傷を負わせていく。致命傷に至らないのが奇跡の様だ。

(このままじゃ、殺される……っ)

 相手が無手ならば、懐に飛び込んで剛力にあかせて締め上げるという手も使え無いではなかったが、武器を持った相手では無謀に近い。
 よしんば懐に入れても、あの小太刀の餌になるのは目に見えている。
 さりとて逃げだしても、腕以外は生身の自分が変身した女天狗相手に逃げ切れるとは思えない。
 それにひとみとあきらの事もある。
 この後に及んでは、二人の女の子だけでもまずは無事に逃がしたいとの思いもあった。

 明日夢は禍々しい鬼の腕となった自分の腕を見やった。
 もしも自分が完全に『変身』出来れば……
 そんな誘惑じみた思いと、変身したとき自分がどうなるかという恐怖がせめぎあう。

(せめて、武器でもあれば……っ!)

 そこまで思考して、明日夢は天啓のように思い出した。
 朝起きた時に枕元に有った、無骨な二振りの剣。
 あれは、確か学校指定のバッグの中に入れておいたはずだ。
 そう思い出して、素早く周囲を見渡す。

 ──有った。

 距離にして十余メートル。

 わずかな距離だが、今の明日夢には絶望的な距離にそれは有った。
 だた、逡巡するのもコンマ数秒。
 明日夢はまるで『引き寄せられる様に』バッグへ向かって駆け出していた。






 京介は苦戦を強いられていた。
 相手の武器は太刀。音撃棒ではいかんせんリーチが足りない。
 しかも、今京介が持っているのは練習用の音撃棒だ。
 実は自分専用の音撃棒も持っているのだが、今はまだ未完成で加えて「たちばな」に保管している。
 持ち前の器用さで相手の斬撃をいなしているが、こと打撃力に関しては不十分なダメージしか与えられないでいた。

「おらおらぁあ! 見かけどおりの青びょうたんかよっ!! 三下鬼がよっ!」

 嘲笑いながら男の天狗──確かハヤテと言っていたか──は、嬉々として斬撃を浴びせ続ける。
 京介はその言葉に(ほぞ)を噛んだ。
 ああ、それは分かっている。 自分は『強い』鬼ではない。
 確かに『鍛えて』人並み以上の力と体力を持つ『鬼』には成れた。
 しかし、一括りに『鬼』といっても個人の持つ素養は様々であり、鬼になってもそれは反映される。
 例えばトドロキなどは元々力自慢とタフさを備えており、()を与えられる前、修行時代の時ですらヒビキを腕相撲で負かす程の膂力を備えていた。
 対して、やはり元々身体能力の点で劣っていた京介は、免許皆伝を控えているとは言え、力強さや剛力とは縁が遠い鬼であったのだ。
 それに一時期自分が変身した後の身体の色に、随分コンプレックスを抱いていたものだ。
 ハヤテが言うように、力強さから程遠い銀に近い青白い色。 まるで貧弱な自分を具現化した様な体色を、かつての京介は嫌っていた。
 
 ──だが、今は違う。

 数合の打ち合いの後、京介は軽く後ろに跳躍してハヤテから距離を取った。
 そして全身をばねのように力ませていたのを緩め、背を伸ばして悠然と自然に構える。
 まるで『戦う気が無い様に』

「あん? どうした。もう(あきら)めちまったのかよ?」

 ハヤテはその様子を戦闘放棄したのかと挑発するような言葉を投げつけた。

 だが、次の瞬間──

「何!?」

 京介の姿が銀色の軌跡を描いて視界から突然消え失せた。
 そう認識する暇も無く、次の瞬間には突然背後から強力な打撃を与えられ、体勢の整っていなかったハヤテは無様に弾き飛ばされる。

「な、なんだ!?」

 すぐ様体勢を立て直して背後を見やると、そこには音撃棒を構えた京介の姿が有った。
 一体いつの間に? と、ハヤテが思う間もなく、京介の姿が再び銀色の軌跡を放って消え失せる。
 次にハヤテが気がついた時には、首を(から)め取られ、足を払われてアスファルトの地面にしたたかに叩きつけられていた。
 そして痛みをこらえて立ち上がろうとすると、そこには音撃棒を高々と振り上げて今まさに自分を打ち据えんとする白銀の鬼の姿が映る。
 ハヤテは慌てて身体を転がし、その打撃から逃れて体を建て直した。
 ダメージ自体は致命的では無いが、認識した途端にダメージを食らうというのは思いのほか効く。例えるなら鼻歌混じりにのん気に道を歩いていて、不意に後ろから殴られるようなものだ。
 ハヤテにとってまるで狐にでも化かされた気分であった。

「手前ェ……まさか『神隠し』を?」

「違う」

 京介は凛として答えた。
 ──これぞ、師たるヒビキが与え、周囲を驚嘆させた京介の『力』

「鬼動法『隠足(おんそく)
 ──これが、俺の『力』だ」
 
 確かに京介は身体能力的には『鬼』としてはそれほど高くは無い。せいぜいが中の下。下手をすれば下の上といったところだろう。
 しかし鬼になる前から持っていた持ち前の器用さと、『とある特技』を師であるヒビキが着目し、徹底的にその持ち味を育てた。
 その結果取得したのがこの『鬼』が使う独自の歩法の一つ『隠足』である。

 京介は身体能力こそ恵まれ無かったが、ある特技が有った。
 それは『気配をほぼ完全に殺すことが出来る』というものだ。

 京介はかつて、『鬼』に成りたくて「たちばな」の秘密の部屋に誰も悟られず入り込んだり、「あの」ヒビキと勢地郎の会話を、当人達に知られずに盗み聞きしたことさえあった。
 それを知ったヒビキは京介のその才覚に着目し、修行の際「俺に隙が出来たら一本取ってみろ」と命じたのである。
 そこで京介は任務で同行する際も、ヒビキの目論見通り気配を殺しながらヒビキに立ち向かっていった。
 もっとも、いつもは逆に投げ飛ばされるというのが定番であったのだが、それを繰り返して行く内に、他の鬼にはまず真似の出来ない『技』にまで昇華させていたのだ。
 そして『鬼』として身体のコントロールが出来るようになった時、ヒビキやサバキ、イブキといったベテラン以外、誰も京介のスピードと奇襲に対応出来ない程にまでこの技を研鑽していったのである。
 打撃力の不足は持ち前の器用さ。そして手数と奇襲で行う。
 ──それが、京介の戦闘スタイルなのだ。

「……随分調子に乗ってるじゃねぇかよ、おい」

 ハヤテがゆらりと立ち上がる。

「お互い様だろ」

 京介が再び構えを取る。

「なら──」

 ハヤテはそれまでの無造作な構えから一転して太刀を担ぐ様にして、前のめりの構えを取った。

「本気、出すとするかぁ!」

 ハヤテの怒声と共に背部から翼が展開。
 そしてハヤテはその名の通り疾風となって京介に襲い掛かった。






 その十余メートルは明日夢にとって果てしなく遠い距離であった。
 しかし、何かに引き寄せられるように明日夢はバッグに向かって駆け出しす。
 敵に背後を見せる。 その危険性が分かるが故に、あえて脇目も振らず走る、走る。

 感覚が引き伸ばされ、永劫とも思える数秒間が過ぎていく。

 ──後少し
 ────あと少し!!

 そしてようやくバッグに手が伸びたその時。

 背中に熱い物が走った。

 切られた、と実感したのはバッグをその手に抱き、無様にアスファルトの上をゴロゴロと転げて回り、向かい側の壁にぶつかってからだ。

「っ痛……」

 痛みに顔をしかめるが、今は傷の深さを気にかけている場合では無い。
 無我夢中で痛みの感覚が鈍麻しているのが幸いだ。
 手早くバッグのチャックに手をかけようとしたが、流石に事態はそう甘くは無かった。

「あんたさぁ……いい加減、往生際が悪いわよ?」

 目の前に女天狗──スズメの姿があった。
 すでに逆手に持った小太刀を両手で構え、高々と振り上げている。

「運が悪かった、としか言えないけどね? せめて成仏してよ」

 そしてその切っ先が振り降ろされようとした時。

「安達君っ 危ない!!」

 突然あきらの声が響いたかと思うと、スズメの上体が揺らいで(かし)いだ。

「何すんのよ! この半端者!!」

 相変わらずあきらの姿は『認識』出来ないが、どうやらスズメに組み付いた様に見える。

 そこで、ふと疑念が沸いた。
 何故あきらは自分の危機を知ることが出来たのだ?
 否、それ以前に『何故天狗の姿が認識出来るのか』と。
 おそらくだが、あきらにも天狗の──スズメの行動が『見えて』いたのだ。そして、その言動から明日夢の危機を察知して組み付いたと考えた方が腑に落ちる。
 つまりこの『神隠し』の術は天狗には効果が無いのだ。
 考えれば不思議な話ではある。
 逆に自分たちの姿を『認識させない』術の方が、たやすく明日夢達を物言わぬ骸と化してしまえたはずなのだ。
 ── 一体、どういう事なのだろう?

 だが今はそれを考えている時では無い。
 このままではあきらの命が危ういのだ。

 明日夢はバッグの底に爪を立て、それを力任せに引き裂いた。
 ガラン、という音がして、鉈にも似た二振りの剣がアスファルトの上に落ちる。
 それを躊躇いも無く、手に取った。


 ドク……ンっ


 その瞬間、下腹部の辺りが熱くなり、そこから『力』が溢れ出してくる。
 その『力』は心の臓に達して、強い鼓動を生み出した。
 更に全身に『力』が駆け巡り、額に痛いほどの熱気を感じる。


 異変が、起こり始めた。


「ぐうぅ……ぐるぅう……っ」

 知らず、明日夢の口から獣が唸る様なうめき声が漏れる。
 
「え? 何!?」

 あきらを振りほどこうと、もがいていたスズメはその声に反応して、明らかに狼狽した。

 明日夢の犬歯が牙の様に延び、顔面には歌舞伎役者のような隈取が浮かび上がっている。
 何よりもスズメが驚いていたのは──

「何で、何であんたが、『鬼』のあんたが『その剣』を持ってるの!?
 違う、『持てるの』!?
 ──あんた、あんた『一体何なの』よ!!」

 悲鳴にも似たその問いに、明日夢は答えなかった。
 その代わり
 
「ぐるぅぁああああああああ!!」

 絶叫と共に、明日夢の足元から瀑布(ばくふ)の如き水柱が屹立(きつりつ)し、その身を包む衣服を引き裂いていく。
 そして、轟音と共に爆ぜた水柱の後に(たたず)んでいた『モノ』は

 深海よりも深い群青の肌と、真紅の隈取を備えた仮面。
 鈍い金色の輝きを宿す、(たすき)の如き胸甲。


 ──完全な『鬼』と化した明日夢の姿であった。

 
 

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弐の段 漆 『変化(かわ)る腕』

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 仄暗い地下道。
 
 遠く列車が列車が通り過ぎる音が
 車が行き交う音が
 人々が足を進める音が

 遠く
 遠く──

 聞こえてくる。

 だが、『日常』たるその『音』が、今の明日夢達にとって、まるで遠い異国から聞こえてくるような、現実感を失った『音』に聞こえてくる。

 理由はただ一つ。

 今、眼前に立ちふさがる、一組の男女から発せられる殺気にも似た圧迫感が、四人から日常の「音」を奪い去っていた。

 その中の一人。男の方がずいっと歩みを進めてくる。
 細身で鋭い顔立ちと、獲物を狙うような切れ長な目が、まるで猛禽を思わせた。
 
「ふぅん……『鬼』が一人。潜在力は結構なモンだが、まだ駆け出しってぇところか」

 その言葉に、京介が三人を庇う様に前に出る。右手はいつでも音叉を抜ける状態にして、臨戦の構えにして。

「そこの女は……なんだ『鬼の成り損ない』か」

 嘲弄するかの様な男の言葉にも動ぜず、あきらは黙ってひとみを庇うように寄り添う。いざとなれば、すぐにでもひとみを逃がせるように。

「となるってぇと──」

 猛禽の目が、ひとみと明日夢を捕らえた。

「お前らが『茨木童子の後継者』だな?」
 
 男の口元がかっと笑みを形作る。まるで鷲が威嚇するような、異様な底冷えのする笑みだった。


 ──人外之モノ


 ひとみを除く少年達は、そう感じた。

「さぁて……」

 男は首をほぐす様に、ぐるりと首を回す。
 その様は、何故か大鷲を思わせた。

「そこの二人。 俺らと一緒に来てもらおうか」

 更に男は歩みを進めてくる。
 ただそれだけなのに、激しい嵐に打たれるような圧迫感が四人を襲った。

「まて、お前! 俺の友達になんの様だっ! 一体何を知っている!!
 大体、お前何者だ!」」

「ああん?」

 男は不愉快そうに怪訝な表情を浮かべて言った。

「あー面倒くせぇ。
 業腹だがな『俺達』が不甲斐ねぇせいで『茨木童子』の遺産が奪われた。
 んで、俺は『約定』に従って、その『遺産』を取り戻しに、こうして小汚ねぇ町に来てやったんだ。
 その調子だと、お前ら何も聞かされてねぇな?」

 男はあごで明日夢とひとみを示すと

「数日前、俺達の邑(むら)が襲われた。
 目的は──『茨木童子』てぇ旧い『鬼』の遺産」

 そう語る男のそばに、もう一人の女性がひたひたと近づいて言葉を繋ぐ。

「『私達』は、その危険な『遺産』を回収するために、この町に来た。
 それが──『私達』と『鬼』達との旧い『約定』……つまりぃ約束、ね?」

 言葉の最後にからかうようなニュアンスを含めて、女性が説明した。

「調べは一応ついているんだぜ? 昨日、お前ら『遺産』を奪った連中と戦ったろ?
 まぁ『鬼同士』の厄介ごとならどぉでもいい。問題は『やつら』が関わっていて、無様にもお前ら『鬼』が『遺産』の『苗床』を奪われたってぇことだ」

 男の言葉に京介の拳がギシリ……っと音を立てて握り締められる。
 その戦いに京介はなんら貢献していかった。
 師匠であるヒビキと事務局長である勢地郎の計らいで、久しぶりにフランスから帰ってきた母と、今思えばのんきに団欒を楽しんでいたからだ。

 だが、どうやら自分達が持ち得ない情報を、この男女は知っている。
 ならば例え自分が道化になっても聞き出す必要があった。
 ──何より、大切な友人を守るという気概もある。

「じゃぁ、俺達の近くにその『遺産』ってやつがあるっていうなら。俺の友達がその『遺産』の『苗床』にされたのなら、まずは俺達がそれを調べる。
 そして必要なら、その『約定』ってヤツが本当なら返す。必ずだ。
 第一、この二人をお前達はどうするつもりだ?
 この二人は、俺の大切な『友人』だ。 手荒な真似するつもりなら……っ!!」 

 その京介の言葉にげんなりした表情を見せて男は。

「ったく、面倒くせぇ熱血野郎だなおい。
 もうお前ら『鬼』の出番はねぇんだよ。それが『約定』だからな。
 で
 そこの『オトモダチ』をどうするか、てぇと……」

 男は腰に手をやって、一尺(約30cm)程の鞘が朱塗りの小刀を取り出して額にかざした。

「────殺して『遺産』を持ち帰る」

 言うや否や、男は額の前で小刀をわずかに引き抜いて、力強く鞘に戻した。

 チィ──ン……っと凄烈な音が地下道に鳴り響き、猛烈な風が渦巻く。

 四人はとっさにそれぞれ突風から身を庇うように、身体を寄せ合い、目をつぶった。
 ただ、京介だけは三人の盾のなるべく前に立ちふさがる。

 そして永遠とも言えそうな一瞬の後、風が、止んだ。

 その後に四人の前に姿を現したのは。


 顔には鳥を思わせる立体状の隈取。

 額と胸甲には大鷲を象ったレリーフ。

 腰には羽を十字にした文様のバックル。

 身体の表面には鳥の羽を思わせるような鱗状の表皮。


『鬼』似ていながら、明らかに別種の『存在』

 だから、京介は半ば絶句しながら相手に問うた。

「お前……何者なんだ!」

 その問いにその『存在』は嘲笑うかのように答えた。

「『天狗』だよ」

 ……と




「明日夢! みんなを連れて逃げろ!」

 謎の男の言葉を呆然と聞き入っていた明日夢は、京介の叫びにあきらとひとみの手をとって地下道の入り口まで走り出した。

 それでも脳裏に男の言葉が渦を巻く

『茨木童子の遺産』
『約定』
 
 ──そして明らかに自分とひとみが『苗床』と呼ばれたこと。

 何故、何故という言葉が考えを支配する。
 だが今出来ることは知れている。
『戦う力』を持たない自分に出来ることは、一刻も早く『猛士』のメンバーにこの事を伝えることだ。
 自分達の命が関わっている上に、何より一人『天狗』に立ち向かうであろう京介の身に何かが起こっては遅い。遅すぎる。

「あきらさん! 持田! 早く!!」

 だが、その必死さは無常にも打ち砕かれる。

「あら?  逃がさないわよ」

 それは男の傍らに居た少女の言葉。
 その言葉と共に突風が三人を襲い、繋いでいた手が離れて三人は吹き飛ばされた。
 そして通路に叩きつけられる。

 身体の痛み耐えながら、明日夢は声をかけた。

「二人とも無事!?」

「は、はいっ」

「う、うん!!」

 良かった。
 思いのほか元気そうなあきらとひとみの言葉に、明日夢は安堵した。
 
 ──だが、妙な違和感がある。

 二人の声は聞こえるのに、「方向が分からない」
 そして──「二人の姿が見えない」のだ。

「──秘幻法(ひげんほう)『神隠し』
 どう? お互い『見えない』でしょ?」

 少女の言葉が耳朶に響くが、まるであらゆる方向から聞こえるようで、やはり方向が分からない。
 というより「方向感覚」が失せていた。

「あ、安達君!? どこに居るの!」

「持田さん、落ち着いて!」

 少女二人の言葉は確かに聞こえるのだが、方向が分からないし、相変わらず姿は見えない。
 というより『認識できていない』

 励ますあきらの言葉にも、少なからぬ動揺があるのが感じられる。


 どうすれば

  どうすれば、いい!!

 あせる明日夢が周囲を見渡した時、地下道の入り口の光が遠く見えた。
 そこで危機に陥った時に働く、鋭敏な明日夢の思考が一つの可能性を導き出した。

「みんな! あの光に向かって走って!!」

 おそらく少女が言っていた『秘幻法・神隠し』とは、なんらかの力で脳に働きかけ『相手を無意識に視界から無視してしまう』ものだ。
 それが証拠に地下道はしっかり見えているし、光が差す方向も見えている。
 相手の声の方向が分からないのまでは流石に分からないが、おそらく『音』を操っているのだろう。

 ともあれ、出来る最善手は見えた。 後は逃げの一手だ。
 そして早くこの事を伝えないと京介の身が──

「ほう? 中々頭が働くじゃねぇか。
 ──けどな!」

「! させるかよ!!」

 その時地下道に済んだ音が響いた。
 そして明日夢の背後から白銀の凄烈な輝きが発せられる。

 お
 おおおおおおおおおおおおおお!!

「覇ぁ!!」

 轟く京介の裂帛の気合。
 間違いない。京介が『変身』したのだ。

「明日夢! ここは俺に任せて逃げろ!!」

「面白ぇ。『鬼』とは一度戦(や)って見たかったんだ。
 スズメ。『遺産』は任せたぜぇ」

「はいはい。ったく、しょうがないわね。男ってのは。
 返り討ちになんてなったら、お仕置きだかんね? ハヤテ」

「へっ! 俺が見習い風情の『鬼』相手に負けるかよ」

 そして再び鞘鳴りの音が聞こえ、澄んだ風が地下道を吹きぬけた。
 少女もまた『変身』したのだろう。

「二人とも、早く!!」

 明日夢はそう言って脱兎のごとく逃げ出した。
 あきらとひとみの事が気にかかるが、二人を認識出来ていない状態では守ることもままならない。

 幸い気配から二人も走り出したようだ。
 後は無事を天に祈るしか──

「って、ざーんねんでっしった♪」

 一陣の風が明日夢の上を走り、その前に女性のプロポーションを持つ『天狗』が居た。

「あんた、頭良さそうね? まさか『神隠し』のからくり見破られるとは思わなかったわ」

 この場合褒められても嬉しくもなんともないが、明日夢にもう一人の注意がひきつけられたのは幸いだった。
 これなら、女の子二人が逃げる時間は少しでも稼げる。

 しかし、陽気そうな、スズメと呼ばれた『天狗』が次に発した言葉は明日夢の背筋を凍らせるには十分だった。

「あんた、厄介そうだし『遺産』持ちみたいだからね。
 だから──」

 目の前の女『天狗』がその鋭い爪を振り上げる。

「──最初に、殺してあげる」

 そしてその爪が明日夢向かって振り下ろされた──






 リーン……


 リ──ン…………


 
 どこかで遠く鈴の音が聞こえてくる。

 そして、明日夢の胸の中から、荒々しく強大な『力』と『声』が頭の中を支配していく。

『声』言う。


 眼前の敵を殺せ、と。


 ──明日夢は、成すすべもなく『それ』を受け入れた。



『力』が全身を駆け巡る

 その『力』が両の腕に宿り、溢れ、そしてメキメキと音を立てて変形(へんぎょう)していく。



「な!?」

 驚いたのはスズメだけでは無い。

 一番驚いていたのは明日夢のほうだった。

 振り上げられたスズメの爪を受け止め、しっかり掴んだその己の手。

 制服の袖を破り捨てて現れたのは──




 禍々しい『鬼の腕』だった。


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弐の段 陸 『迫る翼』.

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 終業式を終えて「たちばな」に打ち上げに行こう、と言い出したのは京介だった。
 無論それは方便である。

 明日夢とひとみの身に起きた不可解な出来事を、少しでも把握しておきたいという勢地郎の──ひいては「猛士」の判断であった。

 このことは既に明日夢には知らせてある。
 だが猛士の真の活動を知らないひとみには知らせては居ない。

 そのことがひとみを除く三人とって、負い目のような非常に気まずい想いを生み出していた。

 最も明日夢自身に関しては、幼馴染の額に浮かんだ鬼のような文様。 そして自身の両腕に刻まれた文様のこともあって、京介とあきらとは違った危うさを感じとっていた。

 魔化魍に襲われた。 これはまだ良い。
 響鬼と出会ってから、日常茶飯事とは言えないものの、「慣れて」はいる。
 
 だが、あの時。斬鬼の墓参りに向かった時、魔化魍に襲われて自分はどうなった?
 行方知れずとなり、いつの間にか家に戻っていたという。

 そして、あの魔化魍から感じ取った、確証も無い直感めいたあの確信。
 ──狙われていたのが、自分とひとみだったということ。

 明日夢の中には話を聞いてから、「何故 何故」という言葉が消えないでいた。

 当然だろう。
 己が自分,とひとみの身の内に、「何か」が起きているのは間違いない。
 加えて、枕元にいつの間にか存在していた、無骨な二振りの短刀。
「それ」が響鬼たちが使う音撃武装に近しい代物であることは、今は確信が持てる。
 無論根拠はないのだが、音撃武器に似た「凄烈な」雰囲気があるのだ。

 ──だが、それは決して「人」を守るための物ではない。
 
 その印象は真逆の物。「浄化せず、敵を滅するだけの物」
 そう──明日夢はそう感じ、それを「畏れ」た。

 他にも不安は尽きない。

 いかなる結果を出されるのか恐ろしくて
 自分とひとみに何が起きたのかを知ることが恐ろしくて──

 明日夢の歩みは知らず重いものになっていた。
 談笑する三人の会話がなんだか煩わしく遠いものに聞こえる。

「でも桐矢君、出席日数ギリギリの割りに、成績あまり下がってなかったよね?」

「それはもう、学業も『鍛えてますから』」

 そう言って、京介が満面の笑顔でヒビキの仕草を真似ている。

「何それ? ヒビキさんの真似なの」

 そういうひとみの笑顔に屈託は無い。 ヒビキとの関係を知るあきらも、声を出さず笑っていた。

 そんな時だった

「どうしたの? 安達君。 なんか、様子が変だよ?」

 不意に眼前にひとみの顔があった。
 その表情は、「怪訝」と大書してある。
 思いにふけっていたので気が付かなかったが、明日夢は3人の数歩後ろを歩いていたのだ。 無論、陰鬱な想像に魅入られての事だったが。
 
 京介達と談笑してしたひとみがそれに気が付くのは、幼馴染のカンとでもいうのか。

 事情を知る京介とあきらは、そんな二人を見て微かに痛ましげな表情を浮かべていたが、ややあって京介は勤めて笑顔を作ると、二人の肩を叩いた。

「疲れているんだろ? 心配するなよ、持田。 それともあれかい? 明日夢。
 今更試験の結果が気になってしょうがないっていうんじゃないだろうな?」

 それは京介が明日夢の気を紛らわせようとした、彼なりの諧謔であった。
 しかし、明日夢はその諧謔が明日夢とひとみ、二人のためと知りながら、肩に乗せられた京介の手を思わず乱暴に払いのけた。

 ──嗚呼、カンに触る

 明日夢は自分で気付かない内に心に余裕が無くなっていたと、その事に気が付いたのは京介の手を払いのけて数呼吸した後だった。

「……ごめん」

「気にするな」

 謝罪する明日夢に、京介は優しげな瞳で応える。

 一方、そんな二人をおろおろと見やるひとみに、あきらが「心配ない」と目優しくで訴えていた。

 だが、一方で明日夢は気持ちが不安定になっている事に──いや、怒りっぽいとかそういう表現では足り無い。

 己が心の奥底にドス黒い怒りや負の感情が鎌首をもたげてきているような、そんな微かな恐怖感に怯え初めていた。

 理由は自分のとひとみの身に何かが起きたかも知れない、だけではない。

 ──明かに自分の中で何かが起き始めている。

 そんな明日夢の様子を見て、京介が明日夢の肩を軽く叩いて言った。

「心配なら支部……おやっさんに相談しろよ。相談に乗ってくれるさ。きっと、な?
 そしてヒビキさんも、さ」

 確かに、勢地郎は相談に乗ってくれるだろう。 悪いようにもしてくれないはずだ。

 ──しかし、明日夢はヒビキにこそ話を聞いて欲しかった。
 確かな答えを教えてはくれないかもしれない。
 でも、指針を与えてくれるかもしれない。

 ────今までと同じように

「──ああ」

 少なくとも「自分は一人ではない」という事が、僅かに明日夢の心を軽くした。
 
 勢地郎達「猛士」のメンバーが居るし、何よりヒビキはまだ生きている。

 なら、今は怯える時ではない。
 不安はあるが、歩みを止める理由にはならないからだ。
 京介の言葉が、心底ありがたかった。


 そうこうして居るうちに、四人は「たちばな」へと向かう最短距離の地下道に入った。
 車が一台通るかという細い道の上距離がそこそこあるが、京介が「仕事」で見つけた穴場である。
 暗いのが玉に瑕(きず)だが、日の高いうちはそれほど問題ない。
四人は年頃の少年少女の様に談笑しながら、その地下道に歩みを進めた。
 
「で、さ。今度メニューに載せる小豆プリン、日菜佳さんの自信作なんだってさ」

「日菜佳お姉さんの? 小豆プリンかぁ……想像もつかないなぁ」

「私は抹茶をベースにすれば、もっと美味しくなると思うんです。──個人的感想ですけどね」 
 
「小豆に抹茶のプリン? 健康にもよさそうだね。俺も試してみようかな」

「安達君? 美味しそうだからって、また桐矢君と大食い大会しないようにね?
 あと、お医者さん希望だからって、栄養学とかお医者さんみたいな事で物事判断すると損するよ?
 それと、美味しいものは美味しく食べる。楽しまないと、ね?」

 幼馴染のひとみに言われてはぐうの音も出ない。
 確かに大食い大会はその場のノリでやってしまいそうな気がする。

 最も摂取量で言えば、カロリーを人並み以上に消費する「鬼」である京介に敵うはずもないわけだが。

 そんな話をしていると、明日夢の食欲が刺激されてくる。
 ただ──「いくらでも食えそうな程の空腹感」に支配されそうな、そんな感じもあったが。 ──またぞろ不安が牙を研ぎ始める。

 いや

 物事ネガティブに考えては先に進めないと教えてくれたのはヒビキその人ではなかったか。
 師匠のしたり顔を思い出し、苦笑してそのことを忘れようとした。
 
 育ち盛りなんだから──そう自分を納得させようとしたその時だった。









 ────和やかに談笑し、地下道を抜けようとした四人の前に、「それ」は現れた。

 一人は猛禽を思わせる青年
 一人は小鳥のような可憐さを備えた少女。


「よぉやく見つけたぜ。『茨木童子』の後継者」




 青年は、得物を見つけた猛禽のように笑った──



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 仮面ライダー小説は近日再開予定ですが、その前に。
 
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