最近、「闇金もしない強弁…自己破産者に返済強制した県」こんなタイトルの付けられた記事を読みました。


http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130119-OYT1T00510.htm


上記リンクによると、免責が確定した男性に対する返済強要についての事実関係は、記事によると以下のようなもののようです。


①県営住宅の家賃を滞納した男性が、自己破産を申立てて、免責が確定
②その後の03年1月、長崎県は、「家賃を支払えなければ差し押さえがある」とする公正証書を男性と作成。
③男性は11年9月まで24回にわたり、計約38万円を支払った。


長崎県は、免責の対象となった県営住宅の滞納家賃について、免責確定後に公正証書(公正証書を作ると、強制執行が可能となります。)を作らせた訳で、長崎県の担当者の対応は、非常に問題のあるものであったはずです。長崎県が男性に対してどのような発言・対応をして公正証書を作らせたのか、解明されるべきだと思います。



ところで、私は先ほど、「免責の対象となった県営住宅の滞納家賃」、と書きました。



なぜこのような書き方をしたかというと、「免責の対象となる債務」と、「免責の対象とはならない債務」があるからです。


そこで、今回は、「免責で払わなくても良くなる債務って、そもそもなに?」という話をしたいと思います。



え、免責になれば、破産になった時点(=破産手続開始決定時)に残ってた債務は、全て支払わなくてよくなるんじゃないの?と思われるかも知れません。



ではここで、免責許可の決定の効力についての規定である、破産法253条1項をみてみましょう。



(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない
一  租税等の請求権
二  破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三  破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償 請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四  次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条 の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条 (同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条 から第八百八十条 までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五  雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六  破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七  罰金等の請求権



破産法253条1項本文に書いてあることは、「免責が確定したら、原則として『破産債権』については、もう責任を負わないよ。」ということです。


そして、253条1項のうち、「ただし…」以下の所に書いてあるのは、
「ただ、『破産債権』であっても、253条1項1号から7号までの破産債権については、非免責債権だから、免責が確定しても払わなきゃいけないよ。」ということです。



非免責債権には、税金(1項1号)だとか、故意や重過失で人の命や身体を害してしまった時の損害賠償請求権(1項3号)、親族関係に係る請求権(1項4号)、罰金(1項7号)等があります。債権というと、貸したお金、というイメージがあるかと思いますが、債権、というのは平たく言うと、「その人に対して請求できること」なので、貸したお金には限らないわけですね。


それじゃあ、原則として免責になる、『破産債権』とはなにかというと、、


破産法2条5項に『破産債権』の定義があります。破産法2条5項は、


この法律に置いて、「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないものをいう。 



と定めています。…法律を読みなれていない人には分かりにくいですね(-。-;)。



でも、財団債権、という概念もあって、財団債権は破産債権ではないのね、ということは読み取って頂けるかと思います。


そして、先ほど破産法253条1項に戻りましょう。破産法253条1項本文では、


免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。


とされています。


そう、破産債権について、その責任を免れる、であって、財団債権は、免責の対象とはならない訳です。


つまり、破産法2条5項の破産債権の定義と、破産法253条1項の免責許可の決定の効力を合わせて考えると


「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」の全て
から
「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」だけど

財団債権に該当するもの

「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」だけど

非免責債権と規定されているもの
を除いたものが、免責の対象になる、ということですね。




なお、財団債権とはなんぞや、ということを書き始めると、それはそれでかなり書けてしまうのですが、ここでは、破産債権より優先して支払って貰える債権、と思っておいて下さい。



免責との関係で意識すべき財団債権は、①租税等の請求権の一部(破産法148条1項3号)と、破産者が個人事業者だった場合の、②破産者の使用人の給料(破産法149条1項)の一部・退職手当の一部(同条2項)です。



①②の財団債権が、破産手続終了後にも残っている場合は、免責の対象とならないことになります。


なお、租税等の請求権については、先ほどもみたように、財団債権に該当せず、破産債権となる部分についても非免責債権とされているので、結局、租税等の請求権は、免責の対象とならないことになります。


ちなみに、租税等の請求権とはなんぞや・・と言い出すと、実はこれもかなりいろいろ書けてしまうし、租税等の請求権に該当するかどうかの判断も、実は簡単ではないのです。



ただ、冒頭で照会した記事のような公営住宅の滞納家賃は、県や市の債権ではありますが、破産法がいう「租税等の請求権」にはあたりません。そして、このことは、県の徴収担当者であれば分かっているはずのことなんですよね。。((o(-゛-;)