今回は実話ベースの恋愛ドラマではあるが、全体としては官能的、芸術的、幻想的で、シリアスながら対物性愛の当事者による純粋な恋愛、様々な愛のかたちへの受容と寛容の意義を伝えている普遍的で奇妙な恋愛ファンタジーを紹介します。

恋する遊園地

主演︰ノエル・ルメラン

出演︰エマニュエル・ベルコ/バスティアン・ブイヨン/サム・ルーウィック


・あらすじ(ネタバレ)

夕方、夢を見ていたジャンヌ・M・タントワは自室の机の前で目を覚ましました。バスタオル姿のジャンヌは趣味のミニチュア作りの最中に居眠りしていたらしく、仕事に向かおうと慌てた様子で衣服を身につけます。仕事の準備を済ませたジャンヌは母親のマーガレットの車に乗り込んで職場の遊園地に向かい、道中で母娘は仲睦まじげにオーディオから流れる音楽に乗せて歌い踊ります。ジャンヌは母親のマーガレットが父親と離婚してからは実家で二人暮らしをしていました。


遊園地に到着すると、ジャンヌは車から降りますが、園内をたむろしていた不良たちに「パンツが丸見えだぞ。」とからかわれます。更にマーガレットは「ココナツちゃん」とあだ名で娘を呼び、ジャンヌは「その呼び方、やめて。」と母親を注意しました。マーガレットは「お弁当、忘れてる。」と言って弁当を渡すと、車で立ち去っていきます。運営マネージャーから採用されたジャンヌは今日から遊園地の夜間の清掃スタッフとして働くことになっていました。


事務所のロッカールーム、ひとりになり、ジャンヌは歌を歌いながら制服に着替えていると、そこへ新しく運営マネージャーに就任したマルクが部屋に現れます。ジャンヌは前の運営マネージャーが辞めたあとに初出勤していたのです。マルクは「何も見てない」と言ってジャンヌに背中を向け、半裸だったジャンヌはその隙にシャツを身につけます。マルクは自分の名前を名乗り、ジャンヌに名前を尋ねると、ジャンヌは「新人だけど、あなた以外は全員知り合いよ。小さい頃からここの常連なの。」と話します。ジャンヌは明らかに異性の前で動揺していて、彼女の様子を見たマルクは「どうした?俺が怖いのか?」と言っておどけて見せます。マルクはもう一度名前をジャンヌに尋ねようとしますが、ジャンヌはマルクを無視して部屋をあとにします。ジャンヌは胸の動悸を抑えつつ、園内を歩いていると、園内に見慣れないアトラクションがあることに気づきます。ジャンヌは売店で働いていた女性に事情を聞くと、売店の女性は最近導入された新機のアトラクション『ムーブ・イット』だと教えます。ジャンヌは売店の女性から貰ったワッフルを口にしながら『ムーブ・イット』に特別な感情を抱き、マルクを見かけると、気づかれないようにパーカーのフードを深く被ります。

閉園時間になり、初仕事のジャンヌは倉庫から道具を引っ張り出し、園内の清掃作業に入りました。一通り周辺の施設の清掃を済ませたあと、ジャンヌは『ムーブ・イット』の清掃に入りますが、雑巾に自分の唾をつけ、座席の上のライト部分を磨くと、赤いライトがひとりでにチカチカと点滅します。故障しているのでしょうか、驚いたジャンヌは不思議に思います。


朝になり、初仕事を終えたジャンヌがバス停で始発のバスを待っていると、そこへマルクが車に乗ってジャンヌの前に現れます。彼女の名前を知っていたマルクは「乗ってけよ。遠慮するな、バスはまだ来ない。」家まで送るから車に乗るよう誘います。車に乗り込むと、その道中、マルクは「初仕事の感想は?」と聞きますが、ジャンヌは何も答えようとしません。マルクは気丈に振る舞い、冗談を言ってジャンヌを笑わせます。自宅に着き、帰宅したジャンヌが家の中に入ると、部屋着姿のマーガレットが腹筋にエクササイズグッズを着けた状態で娘を迎え入れます。マーガレットは家の前に停まったマルクの車を見て、「今の誰?友達できたの?」「初仕事どうだったの?」と聞きますが、ジャンヌは母親の言葉を無視して自室に籠もります。夕方になり、ジャンヌはワイヤーを工具で器用に折り曲げて『ムーブ・イット』のミニチュア作りに取り掛かっていました。マーガレットは「ジャンヌ!起こしたからね!」と言って扉を叩きながら夕食ができたことを伝えます。

その日の夜、閉園時間、ジャンヌは清掃道具が入ったカートを引きづると、昨日と同じように園内の清掃作業に入ります。一通り清掃作業を済ませたあと、ジャンヌは『ムーブ・イット』の元の行き、電源が入ってないアトラクションの前で笑顔を見せます。そして、彼女は昨日と同じように唾をつけた雑巾で座席の上のライト部分を磨きますが、近くで大きな物音が聞こえてきました。不審に感じたジャンヌは「誰かいるの?イタズラのつもり?」と呼びかけますが、返答はありません。大きな物音は鳴り止まず、座席から降りたジャンヌは誰かが園内に忍び込んでアトラクションの制御室に隠れていると思い、「隠れているの?」と声をかけると、応えるように不気味な物音と機械音が聞こえてきます。アトラクションの周辺には清掃していたジャンヌしかいません。薄気味悪く感じたジャンヌはアトラクションの前から立ち去ろうとしますが、立ち去ったあと、『ムーブ・イット』はひとりでにライティングで青い光を発光させます。ジャンヌが振り返ると、『ムーブ・イット』は電源がついてないままで、近くにはラジオの音が微かに聞こえていました。ジャンヌは逃げるようにアトラクションの前から去っていきます。

数日後、ジャンヌが自室でミニチュア作りをしていると、マーガレットに呼び出されます。マーガレットがジャンヌをリビングに連れて行くと、そこにはマルクの姿がありました。ジャンヌはマルクと付き合っていると思い、「マルクは私の上司よ。ふざけないでよ。あの人と寝ないで。」と詰め寄りますが、マーガレットは愛人として連れ込んだのではないと言います。どうやらマルクはジャンヌに好意があるようで、交友を深めようと手土産にブドウを携えてジャンヌの自宅を訪れていました。マルクは「そろそろ帰ります。」と言い出すと、マルクとジャンヌをくっつけようと考えたマーガレットは「行かないで、娘も歓迎しているから。あなたのことが好きみたい。」と嘘をつき、リビングに2人きりにさせました。マルクは部屋で回っているミラーボールを見て、「ミラーボール、いつも回してるの?」と尋ねると、ジャンヌは質問には答えず、「何か食べます?ブドウ以外に。」と渋々マルクを食事に誘いました。ジャンヌは自分で作った料理をマルクに振る舞い、マルクと一緒に台所のカウンターで食事します。マルクはカウンターにあった象の貯金箱を見て、「これは何?」と聞くと、ジャンヌはマルクと目を合わさないまま「いつか家を出るの。」と答えます。"ジャンヌは仕事で稼いだ金を"幸せ貯金"と書かれていた象の貯金箱に貯め、それなりに貯まったら自立して使おうとしていました。少し考えたジャンヌは「"物"に心が動いたことはある?」と質問します。マルクが「どういうこと?」と聞き返すと、ジャンヌは「例えば、物に触れた時、何かを感じて理解する。そうすると、心が通じた感じになるの。」と語り、マルクは「経験ないな。」と応えます。しかし、マルクは「でも、母から聞いた詩を思い出すよ。笑うなよ。確かこう言ってた。"命なき物よ。お前にも魂があり、僕らに愛を求めるのか?"」とある詩をジャンヌに教えます。ジャンヌはその詩を反芻します。マルクと打ち解けたジャンヌは彼を自分の部屋に連れていき、趣味で作った遊具のミニチュアを紹介します。部屋の棚にはジャンヌが鉄やワイヤー、自転車のタイヤを使って自由にアレンジして作ったミニチュアが置かれています。ジェシカは「外観はただの機械だけど、見つめてると、姿を変え、連れ去ってくれる。人間と一緒よ。見かけより複雑なの。」と自転車のタイヤで出来たミニチュアを動かしながら無機物である遊具の魅力を語り、マルクは「ステキだね。」と返します。ジャンヌは「こっちは"ジャンボ"だけど、こっちは作りかけよ。」と言ってワイヤーで作った『ムーブ・イット』の小さなミニチュアを見せます。ジャンヌは「どの遊具よりも美しい。導入してくれてすごく嬉しい。」と語ります。するとマルクは遊園地の全スタッフを対象とし、シーズン末に行われる従業員表彰にエントリーするよう勧め、清掃作業をする彼女の遊具の扱いを評価しました。マルクは「エントリーするか?」と尋ねますが、ジャンヌはすぐには答えられません。沈黙が続き、マルクが「君が好きだ。」と思いを伝えても、ジェシカの心は揺らぎません。マルクと別れたあと、ジャンヌは浴室で泡風呂に浸かりました。ジャンヌはマルクから教えてもらった詩を思い出して"ジャンボ"(『ムーブ・イット』)に対する好意を膨らませ
ます。

その日の夜、仕事中、ジャンヌは"ジャンボ"の元に会いに行きます。ジャンヌは遊具本体に触り、制御室に入って"ジャンボ"を勝手に起動させます。"ジャンボ"のアームは動き出し、赤と白の光を点滅させて発光します。彼女は電源を落とし、機体の上に乗ると、「あなたを"ジャンボ"と呼んでもいい?"ムーブ・イット"はあなたに似合わない。」と"ジャンボ"に語りかけます。そのまま機体の上に立っていた彼女はマーガレットからの着信を拒否しようとしますが、携帯を落とした挙げ句、機体から落ちかけてしまい、すかさず機体のアームにしがみつきます。彼女は「ママ、助けて!助けて!」と助けを求めて叫びますが、その直後、電源を落としていたはずの"ジャンボ"がひとりでに動き出し、アームでジャンヌをゆっくりと地面の上に降ろしました。警戒した彼女は制御室に入って電源がないか確認しますが、制御盤に電源は入っていません。すると"ジャンボ"はライティングを青く光らせながらアームを上昇して横に動かしました。驚いた彼女が「あなたなの?」と尋ねると、"ジャンボ"は応えるように青い光を点滅させます。


ジャンヌは恐る恐る"ジャンボ"に近寄り、"ジャンボ"がゆっくりとアームを下降させると、ジャンボ"のアームの中央部分に手をかざしますが、"ジャンボ"が放った光はひとりでに消えました。ジャンヌは懐中電灯をアームの中央部分に向けて素早く点滅させると、"ジャンボ"は応えるように光を点滅させ、次第に"ジャンボ"は彼女とコンタクトを取りたいのか、外側の座席を回転させながらあらゆる色の光を発光させます。ジャンヌが「待って、何を言っているか分からない。」と指示すると、"ジャンボ"はジェシカの指示に従って動きを止めます。ジェシカは「こうしましょう。私が質問する。赤は"NO"、緑は"YES"。分かった?」と指示を出し、"ジャンボ"は緑色に発光します。ジャンヌは「私に何かしてくれる?」と聞くと、緑と赤の中間、青色の光を発光させて曖昧に答え、ジャンヌは「心配しないで。サプライズは私も嫌い。」と返します。ジェシカは「それじゃあ…私を乗せてくれる?」と質問すると、"ジャンボ"は緑色に発光します。ジェシカは座席に座って安全ベルトを着けると、"ジャンボ"はアームを上昇して座席を縦横無尽に旋回させ、ジャンヌを喜ばせます。その頃、マーガレットが職場の酒場で働いていると、見知らぬ中年男性がカウンターに現れます。酒場に来た中年男性、ユベールは敬語でマーガレットに話しかけ、マーガレットが対応している時に「一緒にビールはどう?」と飲みに誘うと、ユベールは「君が欲しい。」とマーガレットにナンパを仕掛けました。マーガレットはユベールが注文したコーヒーを渡しますが、ユベールの言葉を聞いて彼に心惹かれます。



翌日、その日もジャンヌは"ジャンボ"の元に会いに行き、"彼"と心を通わせました。ジャンヌは白く発光している"ジャンボ"の機体の上に乗って嬉しそうに星空を眺めます。ジャンヌは「一緒にいると楽しいわね。」と聞くと、"ジャンボ"は青く発光しつつ、後から緑色に光らせます。ジャンヌは「今から会ってほしい人がいるの。」と大事な話を持ちかけました。

翌日、休園日、部屋着姿のジャンヌはマーガレットの部屋を訪れると、緊張した面持ちで「好きな人ができたの。ママはきっと会ったら、"ビックリ"って言うわ。」と報告します。読書をしながら話を聞いていたマーガレットは「マルクでしょ?違うの?」と娘の好きな人はマルクだと言い当てようとしますが、ジャンヌは首を横に振り、「今から会ってくれる?」と母親に確認します。ジャンヌはマーガレットを『ムーブ・イット』の前に連れていきました。マーガレットは「それで、種馬はどこ?」と聞くと、ジャンヌは「ここよ。」と答え、マーガレットは「どこなのよ。」と突っ込み、娘の制服に手を突っ込んで「いないじゃない。」とふざけ出し、ジャンヌは「ママ、ふざけないでよ。」と応じます。ジェシカは「"彼"よ。」と"ジャンボ"を紹介しますが、マーガレットは"ジャンボ"が生身の人間ではないことに気づいていません。ジャンヌはマーガレットと離婚した父親はお互いに愛していたかを質問すると、マーガレットは自分は愛していたが、元夫(父親)には自分に対する愛情は無かったと言います。マーガレットは娘に好きな人ができたことに内心驚いていました。ジャンヌは「私はママを愛している。」と思いを伝えると、マーガレットは娘を抱き寄せ、ジャンヌは「名前はジャンボよ。」と"彼"の名前を伝えます。ジャンヌの話は続き、「恋愛はセックスだけじゃない。説明が難しいけど…」と自分の恋心を吐露しかけますが、"彼"本人がいないと勘違いしていたマーガレットは「本人はどこなのよ?私は臆病な男が1番嫌いなの。」と訴えます。仕方なくジャンヌは「禁止されてるけど誰も見てないから。」と言ってマーガレットを強引に外側の座席に座らせ、制御室に行って"ジャンボ"を起動させます。"ジャンボ"のアームは上昇し出し、訳が分からないマーガレットは「どういうこと?相手はどこにいるの?ジャンヌ、やめて!」と混乱して娘に訴えかけます。ジャンヌは「素敵でしょ!彼の動きを感じて。」と声をかけ、「ジャンボ!回転して!」と母親の前で"ジャンボ"の名前を口にします。マーガレットはようやく"ジャンボ"が『ムーブ・イット』で、"彼"こそが娘が好意を抱いているモノであることに気づきます。マーガレットは「どういうことよ!ちっとも笑えない!」と切れ気味に突っ込み、"ジャンボ"が稼働しているのを見てはしゃいでいたジャンヌは電源を切りました。



その後、真実を知って動揺したマーガレットはジャンヌを車に乗せて家に戻りました。マーガレットは家の前で「冗談よね?」と確認して娘の顔色を伺うと、家の中に入り、ショックのあまり、思わず叫び声を上げます。玄関の扉は開けっ放しで、叫び声は外にいたジャンヌの耳に届いていました。それ以来、ジャンヌはマーガレットに口を聞いてくれないようになります。翌日、朝、ジャンヌは歯を磨いていたマーガレットに話しかけますが、マーガレットは一方的に娘の言葉を無視して歯を磨き続けます。

その日の夜、仕事中のジャンヌは機体の上に乗って休んでいると、"ジャンボ"は不安そうにライティングを赤色に光らせました。"彼"の心情を悟ったジャンヌは「大丈夫。時間が必要なだけよ。」と慰めます。すると"ジャンボ"は光るのをやめ、ジェシカをやさしく地面に降ろしますが、興奮しているのか、ジャンヌは"ジャンボ"の機体から黒い潤滑油が垂れていることに気づきます。"ジャンボ"はひとりでに電源を停止させ、ジャンヌは誘われるようにどこかに向かいます。彼女が向かったのは何も無い真っ白な空間の中でした。彼女は潤滑油がついた右手を眺めていると、頭上から潤滑油がポタポタと落ちてきました。彼女は身に着けていた紺色のワンピースを脱いでショーツ一枚になり、濡れたワンピースを凝視します。するとその直後、彼女は床に伸びた黒い潤滑油の水溜りが目の前に迫ってきていることに気づき、怖くなって後ろに引き下がります。恐る恐る右手で潤滑油の水溜りに触れると、水溜りは腕がすっぽり入るほど底が深く、手を突っ込むと、右腕は真っ黒に染まります。更に彼女が舌で水溜りを舐めると、身体に害がないものだと知り、潤滑油は何らかの意志を思っているかのごとく、たちまちにしてジャンヌの素肌を黒く染め上げました。性的興奮を得たジャンヌは気持ちよくなり、身体に身を委ねます。

翌朝、オイルまみれになったジャンヌはそのまま遊園地をあとにすると、近くの駐車場でマルクが車で自分を待ち伏せしているのを見かけます。ジャンヌは普段、マルクの送りの車で帰宅していて、マルクはいつものように好意を抱いているジャンヌを家まで送ろうとしていたのです。ジャンヌは茂みに隠れ、マルクに連絡すると、「始発のバスに乗ったの。ごめんなさい。」と嘘をついてマルクを帰らせます。帰宅すると、ジャンヌは汚れた体をシャワーで洗い流します。隣のマーガレットの部屋から母親とユベールの喘ぎ声が響き渡るなか、ジャンヌは自室のベッドでマルクから教わった詩を繰り返し反芻していました。

マーガレットの部屋で行われた情事は続き、普段着を身に着けたジャンヌはヘッドフォンに繋いだ状態でテレビを観ながら食事をしていましたが、その行為を終えたユベールがジャンヌの前に現れます。ユベールはジャンヌの隣に座り、ソファーにいた2人の間にぎこちない空気が流れます。その直後、マーガレットが自室から姿を現し、「ユベールよ。彼にゾッコンなの。」と恋人のユベールを紹介します。ユベールは「君の母さんは最高だよ。」とセックスの感想を言い、マーガレットは「セクシーなうえ、優しい男よ。」とジェシカに自慢します。ジェシカはユベールをあまり好きになれず、「会えて嬉しいわ。」とユベールに言い、ユベールはジャンヌに握手を求めますが、ジェシカは無視して自室に戻っていきます。ジェシカが去ったあと、マーガレットは「気にしないで。娘は人見知りなの。医者に相談したら「普通の人とは変わらない。」って言ってた。でも、"普通"が娘には難しいのよ。」と話します。

するとジャンヌは居心地悪いと感じ、荷物を持って家を出ていこうとします。マーガレットは玄関に行って「逃げないで、ただの男よ。私にオーガズムをくれるの。」とジャンヌに説得を試みると、ジャンヌは「どうする気なの?」と聞き返し、マーガレットが「こっちが聞きたいよ。」と言うと、ジャンヌは「ママと同じよ。ジャンボも私にくれる。」と応じます。マーガレットは「それは何なの?」と聞くと、ジャンヌは「オーガズム。」と答えます。ところが、娘の主張に理解できず、怒ったマーガレットはリビングに戻ろうとします。ジャンヌは涙ぐみながら「自分でもどうしようもないの。一緒にいると幸せになれる。それだけ。気がついたらこうなってた。だから拒否しないで聞いてほしい。」と説明しますが、マーガレットは「分かった。じゃあ説明してみてよ。振動でイクってこと?歯車で潤滑油を垂らすと…わーってなって滑りが良くて最高になるってこと?ショートしないの?あなたが濡れたら機械は錆びちゃう。分かってる?」とジェシカの主張を面白がり、怒りを露わにします。ジャンヌは「パパみたい。」と言い出すと、マーガレットは「私の家から出ていきなさい。お前の顔も見たくない!」と言い、「あの機械を忘れるまで戻ってこないで!」と言って、ジェシカを家から追い出しました。庭のテラスにいたユベールはタバコを吸いながら母娘の揉め事をこっそりと聞いていました。テラスを出たユベールは心配してマーガレットに声をかけますが、マーガレットは何も答えません。ジャンヌはバスに乗って後ろの席に座ると、周りにいた乗客から冷たい視線を向けられていることに恐怖を感じますが、我に返ると、乗客の冷たい視線は自分が抱えていた被害妄想だったことに気づきます。家を追い出されジャンヌは衝動的に"ジャンボ"を求めていました。


その後、職場の遊園地に着いたジャンヌは制服に着替え、事務所を出ると、心配したマルクが声をかけますが、ジャンヌは「ごめんなさい。」と言い残して立ち去ろうとします。マルクが「どうして逃げるんだ?俺が何かしたのか?」とジャンヌを引き留めると、ジャンヌは「話したくないの。」とマルクを拒絶します。マルクはどうにかなだめようとジャンヌに唇を奪おうとしますが、ジャンヌは「ママに頼まれた?ママに電話したんでしょ?」とマルクがマーガレットと裏で連絡を取り合っていると疑います。マルクは知らない様子を見せ、ジャンヌは潤滑油を差しに行くとアトラクションの整備を理由に園内に行ってしまいます。ジャンヌは道を歩いていた不良たちにぶつかり、怒った若者たちが無視したジャンヌに「どこ行くんだよ。」と詰め寄ると、ジャンヌは「触らないで。」と言って若者のひとりを押し倒し、先に進みました。ジャンヌの様子に違和感を覚えた若者たちは彼女のあとをつけます。その直後、ジャンヌは稼働していた"ジャンボ"の中に飛び込み、藁にもすがる思いで柱にしがみつきます。ジェシカは"ジャンボ"が動いているのを見て、ほっとした表情を浮かべますが、騒ぎを聞きつけたマルクが初老の係員に停止させるよう命じたうえ、「ジャンヌ、こっちに来い!」と危険だから戻ってくるよう呼びかけます。事故は免れましたが、ジャンヌが騒ぎを起こしたことに変わりはなく、乗っていた客に迷惑をかけてしまいます。不良のリーダーは「これじゃあ俺が悪者じゃないか。」と呟き、マルクはアトラクションを楽しみにしていた客に謝罪します。その頃、夜、マーガレットは仕事の合間にユベールとタバコと吸っていました。夕方の会話でジャンヌに何かがあったと悟っていたユベールは「ジャンヌに何があった?病気か?」と声をかけますが、マーガレットは多くを語りません。ユベールは「きっと戻ってくるさ。うちも妻と別れたあと、娘だけ戻ってきたんだ。たった1人でな。」と励まします。ユベールはかつては妻と娘と一緒に暮らしていて、今は妻と離婚していました。


翌朝、ジャンヌは帰宅しようと自室の窓から入りますが、自分の部屋にあったはずの大切な遊具のミニチュアがマーガレットによって壊され、部屋が荒らされていることに気づきます。ジャンヌは体重をかけてヨガをしていたマーガレットの上にのしかかり、「許さない!どうして壊したの?」と母親に詰問します。マーガレットはジャンヌの行動を止め、ジャンヌが「どうしてよ?"彼"がママに何かしたの?彼が何をしたっていうの?」と感情的になって問い詰めると、マーガレットは「するはずがない。存在しないんだから。」と答え、ジャンヌは「やめて。"彼"はいるのよ。」と応じます。2人はお互いに冷静さを取り戻し、マーガレットは「ジャンヌ、一緒に治そう。手伝うわ。私はここに存在するんだから。専門の医者だっている。」と娘が一種の精神病にかかっていると思って医者に診てもらうよう話を持ちかけますが、ジャンヌは強引にマーガレットを自分の部屋に連れて行くと、"ジャンボ"のミニチュアを触らせ、「これが存在しない?存在してるのよ。感じるでしょ。冷たくて、温かくて、硬くてすべすべしてる。ちゃんと存在してる。それに美しい。」と語り、「人間にはこんな風に気持ちが動かないの。これが愛じゃなければ何なの?心が波立つの。ママが男に感じるみたいに。」と訴えかけます。マーガレットは茫然とした表情で話を聞き、ジャンヌは天井に飾り付けられた電飾の灯りをつけると、ベッドの上に立ち、軽快な音楽に乗せて踊ろうとしますが、マーガレットは聞く耳を貸さないで去っていきます。母親からの理解を得られなかったジャンヌはそのまま職場の遊園地に行き、泣きながら事務所の控え室でワッフルを食べていました。


閉園時間になり、仕事中のジャンヌが"ジャンボ"の元に向かいます。ジャンヌが制御室の窓を綺麗に拭いていると、"ジャンボ"は積極的にライティングを光らせながらアームを回転し、アプローチを試みますが、塞ぎ込んでいたジャンヌは「やめて、ジャンボ。気分じゃない。」「邪魔しないで。今はラジオを聴きたいの。」と冷たくあしらいます。"ジャンボ"はそんな彼女の思いをよそにライティングを赤と緑に点滅させ、ジャンヌは「いい加減にして!」と突き放すように言うと、"ジャンボ"は一旦落ち着きました。ジャンヌは「どうしてやめないの?あなたの言葉なんてどうでもいい。」と激昂すると、側にあった鉄パイプを持って"ジャンボ"を何度も叩き、涙を流しながら「止まってよ。あなたを忘れたい。」「もう考えたくないの。お願いだから黙って。」と稼働する"ジャンボ"に告げます。すると怒った"ジャンボ"はライティングを赤く発光させると、機体から黒い潤滑油を放出して下にいたジャンヌに浴びせます。"ジャンボ"の心情を悟ったジャンヌは思わず逃げ出しますが、草地に躓くと、目の前の水溜りが黒い潤滑油になっていることに気づき、慌てて園内をあとにします。



大雨のなか、ジャンヌはゲートを開けて事務所に逃げ込みました。ジャンヌが扉を叩いて助けを求めると、夜遅くに残っていたマルクが現れ、びしょ濡れになっていた彼女を自分のオフィスに招き入れます。ジャンヌは小さな声で"ジャンボ"から潤滑油が漏れていたことを曖昧に伝えます。マルクはコップ一杯のお茶を用意すると、「今夜、俺が残ってて良かったよ。」と意味深な言葉を言います。ジャンヌはその言葉に引っ掛かりを覚えつつ、用意されたお茶を一杯飲みますが、お茶には少量のお酒が入っていました。ジャンヌから事情を聞いたマルクは「今夜は雨で見えないから明日、確認するよ。」と確認を保留します。マルクは「大丈夫か?」と声をかけますが、マルクに心の支えを求めていたのか、それともマルクが用意した飲み物の効果なのか、ジャンヌはショーツ一枚になってマルクの前に現れます。ジャンヌが身体を求めると、2人は裸になり、ソファーの上で体を重ねました。ところが、その最中、マルクはジャンヌとバックで行為を行っていましたが、四つん這いになっていたジャンヌは体を重ねても気持ち良くなれなかったことに気付かされます。ジャンヌは涙を流し、「結婚しない。あなたとは結婚しない。」と言い、マルクは「神父を呼ぶのはまだ早いな。」と冗談を言いますが、ジャンヌはマルクの前から去っていきます。気がつくと、ジャンヌは衝突していたはずの"ジャンボ"の下で横になっていました。


朝になり、心配したマルクは園内に行ってジャンヌを捜しに行きます。酔っていたジャンヌは吐き気を催すと、半裸になって"ジャンボ"に抱きつき、「そんな…許して。私はここよ。…お願い戻ってきて。あの人たちじゃダメなの。…私を1人にしないで。」「1人にしないで。私を見捨てないで。ママにも嫌われた。…ねぇ、ジャンボ。愛してる。あの男は何でもないの。信じて。」と泣きながら電源が入ってない"ジャンボ"に弁明します。そこへマルクがジャンヌの様子を目撃します。マルクは物音を立てたことで気づかれてしまい、ジャンヌは脱ぎ捨てた衣服を持ってその場から立ち去ります。マルクは"ジャンボ"の前で立ち尽くし、状況が整理できないでいました。マルクが事務所に戻ると、ロッカールームにはジャンヌが複雑な表情で座り込んでいました。マルクに自分の秘密が知られたことに気づいたのでしょう。マルクは「俺をからかってるのか?それとも本当にイカれたのか?」と問い詰めると、ジャンヌは「からかってない。」と答え、マルクは「なかなかの見ものだった。ジャンボに向かって愛の告白か?「ジャンボ、愛してる。あなただけを愛してる。」って。そうだろ。俺の立場はどうなるんだ?君の浮気相手は機械でそれを認めろって言うのか?頼むから説明してくれよ。俺には理解できない。」とジャンヌに詰問します。ジャンヌは「私たち、友達でしょ?」と自分たちは友人関係だと主張しますが、マルクは「君は友達と寝るのか?そうだろ。」と言い返します。ジャンヌは「止められないの。」と話すと、マルクは「あんなの人気のないクソ遊具だ。なぁ、君は人間なんだぞ。」と"ジャンボ"を悪く言います。理解を得られなかったジャンヌは「分かってないのはそっちよ。」と言い残して去っていきます。


その後、ジャンヌは職場で知り合った売店の女性の家に寝泊まりします。ジャンヌはユベールと一緒に寝ていたマーガレットに連絡すると、「大嫌い。」と母親に告げました。同じベッドにいたユベールがマーガレットを気にかけます。売店の女性は事情を話すよう促しますが、ジャンヌは多くを語りません。夜になり、誰からも理解を得られないと失望していたジャンヌは物置小屋で丸くなっていると、心配した"ジャンボ"がひとりでに動き出しました。ジャンヌが"ジャンボ"に近寄ると、"ジャンボ"は赤、青、緑とライティングを鮮やかに光らせながら外側の座席を回転させ、そのうち機体の周りに光が帯びるようになっていきます。ジャンヌは"ジャンボ"の放つ光に魅了されます。


約半年後、夜、シーズン末に差し掛かり、遊園地のスタッフによる従業員表彰が行われます。エントリーしていたジャンヌは遊園地から少し離れたパーティー会場に入ります。従業員表彰は遊園地周辺の住民も立ち入ることができ、マーガレットとユベールのカップルや遊園地によく来ていた不良たちが表彰を見に来ていました。ほどなくして壇上に司会・進行のマルクが現れ、マルクは「皆さん、シーズン末のパーティーにようこそ。近隣の皆さんと過ごす毎年恒例の感謝の集いです。合言葉は"楽しく、安全!"です。」とスタッフや住民に挨拶します。一同は拍手を送り、マルクは「温かい拍手に感謝しますが、皆さんの多くは早く何か食わせろと思ってるはずです。それともお酒が目当てかな。そうだろ?ファブリス(スタッフのひとり)。来る前にも飲んできたんだろ。」と笑いを誘います。マルクは「今年の最優秀従業員発表します。ご来場の皆さん、どうぞ拍手の準備を。今年、選ばれたのは…ジャンヌ・タントワ!最優秀従業員です!」とジャンヌの名前を呼びます。最優秀従業員に選ばれたジャンヌは驚き、不良たちはジャンヌの格好を見て「クリスマスツリーみたいだ。」と笑います。一同が温かい拍手を送り、ジャンヌは壇上に向かうと、マルクから表彰状と賞金の小切手を受け取ります。しかし、マルクの話は続き、「もう1つお知らせがあります。ご存知のように1年前、新しいアトラクションを導入しました。期待の星、『ムーブ・イット』です。しかし、残念なことに我々の努力が及ばず、お客さんからの人気はイマイチでした。そこで残念ながら、このシーズンを最後に『ムーブ・イット』は撤去される運びとなりました。遊具は新しい"住み処"に移ります。」とジャンヌのいる前で"ジャンボ"を撤去させると伝えたのです。ひどくショックを受けたジャンヌは思わず賞状を床に落とします。マルクは「ジャンヌ、それが君のためだ。」と説得しようとしますが、ジャンヌはマルクの胸ぐらを掴んで取り乱し、マルクは「落ち着けよ。もう決まったことなんだ。」と言います。一同は戸惑い、ジャンヌは壇上から降りますが、ショックのあまり、その場で気絶してしまい、ユベールがジャンヌを抱いてマーガレットと共に彼女の実家に連れて帰ります。

翌日、"ジャンボ"との突然の別れを聞かされたジャンヌは自室の窓際で涙をこぼしていました。マーガレットとユベールはジャンヌを心配しつつ、台所で朝食を共にします。そんななか、家に呼び鈴の音が鳴り、マーガレットが玄関に出て対応に当たると、家の前にはジャンヌを心配したマルクが彼女を訪ねに来ていました。どうやらジャンヌを病人扱いしていたマルクは理解を示していなかったマーガレットと秘密裏に連絡を取り合い、マーガレットはジャンヌの心の病気を克服させるためにも、マルクが"ジャンボ"を撤去させる提案に賛成していました。マルクは「明後日解体する。俺たちの決断は正しかったんだ。事の元凶を撤去するんだ。」と話すと、マーガレットは「それがあの子のためだから。」と返します。マルクは「そうだ。病院に入れるべきなんだよ。」と言いますが、そこへ会話を聞いていたユベールが2人の前に現れ、「家族のことに口出しするな。」とマルクに言います。ユベールは「あんた、恥ずかしくないのか?とっとと消えろ。」と言い、マーガレットが「彼は力になってくれた。」とマルクを擁護しますが、ユベールは「そのままであの子は幸せだったんだよ。確かに、あの子は変わってる。だが、それがあの子だろ。誰かを傷つけてるわけじゃない。」とジャンヌの味方になって肯定的な意見を言います。ユベールは「帰ってくれよ。」と切れ気味にマルクを追い返します。更にユベールは「君こそなんだ?あのバカの言うように娘を病院に入れるのか?君から男が離れていく理由がよく分かったよ。」と告げます。ユベールはマーガレットと同じ時間を過ごしている間、ジャンヌの気持ちを尊重しようとしていました。2人は家の中に戻り、マーガレットは「笑い者になるのを黙って見てろって言うの?失恋の傷はいずれ癒えるから。」と言いますが、彼女と別れて家を出る準備をしていたユベールは「君はあの子の父親を忘れたのか?」と返します。マーガレットは「ええ。」と答え、慌てて家を出るユベールを追いかけると、「愛してる。」とユベールの背中に向けて言いますが、ユベールは「言う相手が違うだろ。」と言い残して去っていきます。恋人からの信頼を失ったマーガレットは泣き崩れます。ジャンヌが扉を開けて覗き込むと、マーガレットは「ココナツちゃん。こっちに来て。」と声をかけたものの、ジャンヌは母親を見限って自室の扉を閉めました。ジャンヌは母親の泣き声が聞こえないよう両耳を手で塞ぎます。


数日後、解体当日、仕事帰りのマーガレットはテラスでタバコを吸うと、指を口に咥えながら物憂げな表情を浮かべます。するとそこへウェディングドレスを着たジャンヌがテラスに現れ、マーガレットはウェディングドレスを身に纏う娘を見て驚きます。ジャンヌは自分の貯金を切り崩してウェディングドレスを買っていたのです。ジャンヌは「会ってくる。」と言い残して立ち去りますが、マーガレットは「その前に口紅を塗ったら?結婚式は完璧でなくちゃ。」とジャンヌに声をかけます。ようやく母親が"ジャンボ"の存在を認め、理解してくれたことを嬉しく思ったジャンヌはテラスに引き返すと、2人は微笑み合い、ジャンヌはマーガレットの部屋で口紅を塗りました。マーガレットはジャンヌを連れて休園している遊園地へと向かいます。ジャンヌと"ジャンボ"の結婚式に立ち会うのです。


到着すると、ジャンヌはマーガレットの手を握って「おとぎ話を信じる人もいる。」と告げ、その言葉にマーガレットは優しく微笑みかけます。先に遊園地に来ていたユベールが2人の前に現れ、ユベールは「キレイだ。」とジャンヌのドレス姿を褒めると、ジャンヌは「ありがとう。」と応えます。ジャンヌ、マーガレット、ユベールは"ジャンボ"の機体の下に行き、マーガレットは「お前に、私に、最後はユベールに。」と言ってジャンヌの頬に3回キスをしました。ユベールが神父役を務め、「誓いの返事はどうする?」と聞くと、マーガレットは「機械は断らない。」と返しますが、ジャンヌは「ママ、やめて。私には("ジャンボ"の気持ちが)分かるから。」と言います。結婚式が始まり、ユベールは「ジャンヌ・M・タントワ。汝はジャンボを夫とし、彼を愛し、忠誠を尽くし、健やかな時も、病める時も…」と話し、マーガレットは感極まって涙を流します。マーガレットは誓いの言葉の続きを言うよう求めますが、ユベールが誓いの言葉を言っていたその時、園内に忍び込んだ不良たちが現れ、結婚式の一部始終を面白がって携帯で撮影していました。不良たちはジャンヌと"ジャンボ"の恋を馬鹿にしているのでしょう。仕方なくユベールが不良たちの対応に当たり、マーガレットが「死を分かつまで愛すると誓う?」とユベールの代わりに誓いの言葉を言うと、ジャンヌは「誓います。」と答えます。マーガレットは「ジャンボ、ジャンヌを妻とし、健やかな時も、病める時も、愛すると誓いますか?」と"ジャンボ"に誓いの言葉を言いますが、"ジャンボ"に反応はありません。戸惑うマーガレットは勝手に「誓いますって!」と伝えますが、ジャンヌは「まだ言ってない。」と返します。ジャンヌは「言って、ジャンボ。ジャンボ、お願い。」と囁いていたその時、突然ジャンヌの背後から向かい風が吹き、ジャンヌが身に纏っていたベールを飛ばして宙に浮かせます。ジャンヌは飛ばされたベール見て、"ジャンボ"が「YES」だと応えてくれたと認識します。ジャンヌは嬉しそうに「答えたよ。誓うって。」と言ってマーガレットを抱き締め、マーガレットは「神様、ありがとう。」と言ってガッツポーズをしました。式を済ませたマーガレットは不良たちと揉み合っていたユベールを呼びます。ジャンヌ、マーガレット、ユベールは慌てて園内から立ち去ることにし、ジャンヌは「愛してる。」と唇の動きで"ジャンボ"に伝えると、"ジャンボ"は応えるように軽く赤色の光を点滅させました。マーガレットはジャンヌと"ジャンボ"が心を通わせている様子を目撃して立ち尽くし、ジャンヌとユベールはマーガレットを連れて逃げ出します。不良たちは3人を追いかけ、ユベールが追っ手を気にするなか、母娘は幸せそうに笑顔で園内を駆け出します。

THE END






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感想・考察
この映画はゾーイ・ウィットック監督による遊園地で働く夜間の清掃スタッフが遊園地の絶叫系アトラクションに惹かれる姿を描いた恋愛ファンタジー。エッフェル塔と結婚した実在の女性から着想を得たオリジナルストーリーです。第53回シッチェス・カタロニア国際映画祭に出品されていた作品です。

どんな内容か知らなかったんだけど、日本公開が決まる前、なんとなくシッチェス・カタロニア国際映画祭の公式サイトに載っていた予告編を見て、滅茶苦茶気になっていた作品でした。レンタルで観賞してみたのですが、結論から言うと、ぶっちゃけ、脚本や演出に惜しいところが見受けられたんだけど、、普遍的なメッセージをちゃんと持っていて、恋愛の始まりやその衝動を表現しているでなく、受容、寛容さの意義を描いた見事な一作だと思いました。個人的には今年の上半期ベスト9位に入れるほど、非常に心に突き刺さった作品でした。

本作、『恋する遊園地』は「対物恋愛」を題材にしているんだけど、当事者のジャンヌと"ジャンボ"の恋愛関係だけでなく、ジャンヌの対物性愛が周囲に理解されないことへの葛藤や苦悩、対物性愛の困難をリアリティたっぷりに描き切っていました。全体的にシリアスなトーンでストーリーが進行していき、どこにでも有り得そうな恋愛ドラマとして、奔放な母親と人見知りな娘、そして母娘を尊重しようとしている母親の恋人による家族ドラマとして、幻想的なSFファンタジーとして、様々な視点・観点で楽しめる作品です。

それ故に、対物性愛の当事者であるジャンヌが遊具の"ジャンボ"といか恋人同士になった過程を切実かつ丁寧に描き出していて、他者や外部から共感し難い「対物性愛」の恋愛を生々しく、リアルに表現されていました。例えば、本作における最大のラブシーン、中盤でだだっ広い真っ白な空間の中、ジャンヌがショーツ一枚の姿でオイルまみれになるシーンは官能的でアーティスティックな表現になっていて、それまでは"ジャンボ"の魂が宿ったとされる潤滑油の水溜りが奇妙にも彼女に迫ってくるのである種SFホラー的な描写になってはいるんだけど、ジャンヌの心と"ジャンボ"の心が一つとなって相互理解、共感性を深めていったメタファーと言えるし、ジャンヌの内面が決定的に異性愛者から対物性愛として一線を超えてまで変化していく様をストレートに見せていると思いました。或いは、序盤でジャンヌと"ジャンボ"が初めてコミュニケーションを取った一連のくだり、ここは"ジャンボ"が携帯をうっかり落とした弾みで転落しかけたジャンヌを助け出したことが両者が初めてコンタクトを取るきっかけ、動機になっているんだけど、ここはフィクショナルながら少女漫画っぽい展開で非常に素敵だし、"ジャンボ"の存在そのものは機体の照明を使ったコミュニケーション方法も相まって、自然と実在感、存在感があって非常に魅力的で、後にストーリーが進むにつれ、紳士的なキャラクターにも読み取れるし、やんちゃで人懐っこいキャラクターのようにも読み取れる。

で、その一方で、ジャンヌが"ジャンボ"と直接的にコミュニケーションを取り合うシーンは基本、他者、第3者の目に触れられていない1人1機だけの特別な空間で繰り広げられる絡みとして描かれていて、ラストで"ジャンボ"が自らの意志で光っていた描写を除けば、母親のマーガレットや職場の上司マルクの第3者の視点が入ると、ジャンヌの精神病による幻覚、幻聴だと誤解されてしまいかねないという危うさ、痛々しさが機能していて、物語内でジャンヌの身に降りかかった出来事は本当に現実なのか、或いはある種の妄想なのかといった解釈が取れそうだなと感じました。特に中盤、周囲に理解されないことに失望して塞ぎ込んでいたジェシカが"ジャンボ"に暴力を振るったせいで彼女にオイルを降り注ぐシーンがあるんだけど、彼女が官能的に裸になってオイルまみれになるあたりは現実に反映されているので百歩譲るにしても、"ジャンボ"があんなに大量の潤滑油を放出させるのができるのか、近くの草地に潤滑油の水溜りなんてできるのかとある意味現実と妄想の境目が区別しにくい塩梅になっているんじゃないかと感じました。観ている人のなかにはジャンヌの身に起きていたこと全てが妄想だったという解釈を持っている人がいるかもしれないけど、個人的にはこれが実話を基にしたフィクションであることを踏まえると、2、3回観ても、孤独で内気なジャンヌが自分の世界を作り出している人間だったとしても、全部彼女の身に起きた現実の出来事なんじゃないかなと思いましたね。ジャンヌと"ジャンボ"が真夜中に過ごしてきた日々の時間はかけがえのないもので、「普通の恋愛」であったことは間違いないし、ジャンヌの遊具に対する情熱や愛情が"ジャンボ"の眠っていた魂を呼び起こしたとも言えると思いました。

加えて、当事者のジャンヌの視点だけでなく、第3者である母親のマーガレット、施設運営マネージャーのマルクの視点にフォーカスを当てていることで、絶妙に感情移入しやすいバランスで描き分けられていて素晴らしいと思いましたね。運営マネージャーのマルクはクライマックスの表彰式でジャンヌにいい知らせと悪い知らせを伝えるのはやり過ぎかなと思わなくもないけど、物語上、マルクは唯一一貫して旧態然の価値観を持っている人物と言えるし、ジャンヌを現実の厳しさに突き放しているうえ、彼女に社会的な支配、抑圧を与えている実質的な悪役だと思いました。対する母親のマーガレットは娘への愛情による温もりがあれば、おっぴろげた反応とか、笑いを誘いかねない台詞の節々でユーモアを感じさせてくれる自由奔放なキャラで、彼女が母親としてジャンヌが人ではない何かと恋愛関係を知った時の感情の爆発、或いはマイノリティな生き方、価値観を持った娘とどう向き合っていくか、どう受け入れるべきか、その葛藤や苦悩を明確に描き切っていると感じました。更に言えば、母親の恋人のユベールがいることによってこの現実世界にはあれからろくに話していなかった母と娘の不仲を修復させる大事な役割を果たしているし、ラストのユベールの活躍ぶりで母娘に寄り添って支えようとしている新しい家族の一員として印象深く位置付けされているんですよね。要するに、失恋の痛みを味わった母親と恋愛の悲しみを知る娘の親子ドラマに加え、彼がいることである意味家族ドラマとしての側面も機能しているんじゃないかなと感じました。

敢えて言えば、物語の構成上、90分台の映画の中でちゃんと物語の「起承転結」を成立させてはいるんだけど、「起承転結」における「起」と「転」のパートが短く、逆にジャンヌが上司や母親から理解を得られないことを示される「承」のパートが若干長めに構成されていることでしょう。確かに「承」のパートでジャンヌが現実を突きつけられ、居場所や理解者を無くしていくあたりを丁寧に描き出してはいるんだけど、その一方で、例えば、序盤にあるジャンヌが清掃スタッフとして園内を清掃する描写、ジャンヌが"ジャンボ"と直接的にコミュニケーションを取る描写が割りとあっさり見せられていて、シリアス方向に完全に振り切っているとはいえ、メインのジャンヌと"ジャンボ"の恋愛関係とジャンヌが周囲から理解を得られないことへの葛藤の比重はもう少し調整してテンポ良く見せてほしかったかなと思いましたね。加えて、終盤でジャンヌがパーティー会場であるビュッフェレストランで開かれた従業員表彰で最優秀従業員に選ばれるんだけど、恐らく時系列的には4か月〜6か月後、またはそれ以上の月日が流れてたとみられるんだけど、テロップを入れるか、BGMをバックにそれまでジャンヌが過ごしてきた時間をダイジェスト風に見せる描写を入れないと流石に唐突かなと思いました。

あと、全編通して遊園地によく来園しているとされる不良少年たちの扱いが良くも悪くも記号的な役割になっていて、ちょっと釈然としない気持ちにさせられましたね。あの不良たちのリーダー格の少年は同い年の子から小学校高学年をいつも従えていて、ジャンヌの顔と名前を覚えているどころか、ガッツリ彼女をからかっているんだけど、リーダー格の少年はただ単にジャンヌと交友を図りたいから群れを成してもなお絡みたいのか、或いはジャンヌの対物性愛を共感してなくて、馬鹿にしてけなしている頭の悪い人なのか、よく分からない描き込みになっていました。恐らく考えられるのは前者で、小中学校によくいる異性にちょっかいを出す男子みたいに好意を寄せていると思われるんだけど、ラストで不良少年たちが結婚式を撮影してジャンヌたちを追いかけ回す意味があったか疑問に残ります。だったら、リーダー格の少年が気絶したジャンヌを見て気にかける描写を入れて説得力を深めてほしかったですね。

あと、細かいところを挙げると、後半でジャンヌが窓から実家の自分の部屋に入った時に部屋が荒らされているのを目にするんだけど、ここはジャンヌの部屋に何があったか観客に想像させている、ジャンヌの心理描写を丁寧に見せているという見方もなくはないんだけど、後の展開になっても、空間の見せ方があんまり明確に見せられてないのはもったいないと思うし、或いは、中盤でジャンヌがマーガレットと口が利けなくなる関係になる展開で本作の挿入歌が挿入されてはいるんだけど、挿入歌を挿入するタイミングがかなり強引になっている感じが否めないなぁと思いましたね。

ということで、実質実話から着想を得たオリジナルストーリーなんだけど、元の実話を知っていても、知っていなくても、非常に楽しめられるし、一見、異様だけど普通の恋愛をしている当事者の視点、当事者に理解を示さない第三者の視点、両方とも感情移入でき、周囲とは違う個性、或いはマイノリティな価値観を持つ当事者とどう向き合っていくか、どう受け入れていくべきかを現実的ながら官能的に描いて見せた意外にも味わい深い作品でした。全体的にはシリアスで、ジャンヌと"ジャンボ"の恋愛関係が面白い反面、ジャンヌが周りの人から理解を得られない展開の数々は辛さ、痛々しさ、重苦しさはあるのですが、恋愛経験をして恋の喜びや悲しみを知っている人、日常生活で孤独を抱えてる人にこそ心を打つ映画なんじゃないかなと思いました。是非ともレンタルや配信で観賞してみてください。