『シン・ウルトラマン』『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』『トップガン︰マーヴェリック』など、2021年上半期は様々なヒット作がこの世に産み落とされました。日本では批評的には賛否がパックリ分かれている作品は色々とありましたが、コロナ禍が少しずつ緩和されているということもあるのか、興行的には成功を果たしている作品、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、公開延期を経て遂に公開された作品、そして、日本のお国柄ならではなフランチャイズ化、シリーズ化された人気ドラマの劇場版、漫画の実写化作品が多くの人から認知されています。ただその一方、日本映画の中では上質な部類に入る出来なのにも関わらず、公開1週目では上映回数は4回だったのに、公開2週目になると、上映回数が1回に減らされている作品がいくつかあり、2022年は『ハケンアニメ!』を筆頭に洋画、邦画問わず、作品数の増加と短命な上映期間のせいで今年ベスト級の映画が観られない状態になるケースは非常に多くなることでしょう。

もちろん、ご多分に漏れず、日本の配給会社の複雑な事情が関わっているのか、メジャーなホラー・シリーズから割りと低予算で作られたB級映画まで、劇場未公開(DVDストレート)になっていたり、Amazon Prime VideoやU-NEXTでデジタル配信でのみのリリースになっていたりと多くの人から認知されにくい形式でリリースされている作品があるというのが現状です。

そこで、この記事では私が2022年12月25日〜2022年6月25日の劇場公開作品、またはレンタル店でリリースされた劇場未公開作品のなかからこれは素晴らしいと思った10本を紹介したいと思います。2021年のシネマランキング同様、ほとんどの映画ファンは劇場観賞で観た映画で10本を選んでいると思いますが、なかにはNetflix、Amazonプライムビデオで観た作品もベストに入れる人は少なくないと思いますので、劇場公開作品に加え、劇場未公開(DVDストレート)の作品もベスト映画に入れています。ちなみに、2022年は映画に時間を注ぎ過ぎたがため、もっとプライベートの時間に注ごうと思ったのですが、結果的に堕落したような生活を送ってしまい、映画ファンについていけるように過去の作品を勉強しようと旧作映画を定期的に観て、Twitterで映画と日本国内のドラマを評論しているフォロワーさんに強い影響を受けて、TVドラマにも力を入れてしまい、コンテンツ死にするほど滅茶苦茶あらゆるコンテンツに触れては、バタバタしている日々を送ってしまっています。ただ、上半期に観賞した新作映画は25本と弾数は少なめとなっていましたが、あくまでも私の個人的な好みが落とし込まれてはいますが、その年の上半期を代表とする10本になっていると断言できると思います。

では、早速、上半期のベスト映画10本、発表します。



10位
アライブフーン
劇場公開日︰2022年6月10日

元レーシングドライバーの土屋圭市さんが監修を務め、『パーフェクト・ブルー』や『L エル』などを手掛けてきた下山天監督によるドリフトレースで日本一を目指すeスポーツ選手の活躍ぶりを描いた、日本では珍しいカーレースのスポ  ーツ映画。日本国内では同日公開に『FLEE』や『わたし達はおとな』の評判が高かったせいか、先月公開された大作のヒットによって興行的に苦戦したせいなのか、多くの映画好きで熱狂的な支持を得ていたにも関わらず、埋もれがちになっていた日本映画のひとつで、フィリピン、シンガポール、タイ、フィリピン、カンボジア、ミャンマー、ベトナム、ラオス、ブルネイ、インドネシアといったアジア10カ国での公開が決まっています。

これは期待してたと言えば、期待してたんだけど、バイプレイヤー的な役割を担う俳優として『犬鳴村』などに出演されていたきづきさんや『クロステイル−探偵教室−』などの福山翔大さんが出演されている点、ある台湾映画と本作を比較したかったといった個人的な試みがあった点、そして、Twitterのフォロワーさんが激烈に絶賛していた点を受けて、近くの劇場で観たのですが、予告編などの宣伝で打ち出されている"CGゼロのカースタント"は予想以上に迫力満点で、とにかく撮影、編集、音響技術は王道的かつ定番的なストーリー、デフォルメを効かせた登場人物の造形、または演技パフォーマンスを補っていて、素晴らしいとしか言いようがなかったです。それでいて、配給会社の宣伝では明確な明示されてはいないものの、福島県を舞台にした地方映画の側面もあり、東日本大震災から11年経つ中で発信された良質なエンタメ映画とも言える作品です。



で、今年1月~4月にかけてヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催されていた『未体験ゾーンの映画たち2022』では似たような内容で台湾映画の『スリングショット』があるのですが、どうやら台湾映画のほうが企画は先だと思いますが、本作は偶然プロットが被っただけで、そういうリメイクではないとように思われます。なので、あくまでもこの台湾映画と10位に入れた日本映画を比較する前提で劇場に足を運んで観たわけで、出来れば、8月あたりには台湾映画のほうをDVDレンタルでこの目で確かめてみようかなと考えてます。




9位
愛なのに
劇場公開日︰2022年2月25日

『女子高生に殺されたい』『アルプススタンドのはしの方』などの城定秀夫監督が監督を務め、『愛がなんだ』の今泉力哉監督が脚本を手掛けた30代の古本屋店主と彼に想いを寄せる女子高生のある"愛"のかたちを描いたラブコメディ。ふたりの映画監督がお互いに脚本を提供し、R15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の第1弾として作られた1本です。

これは昨年、2021年6月18日にまだキャスト陣が発表されておらず、こういう企画で2本の映画が来年あたりには公開されるという情報を目にして、期待していて、正直言って、ミニシアター系の映画館で劇場観賞してからは3か月ほど経っているんだけど、劇場未公開のアクション映画をおうちで観ているにも関わらず、不思議と瀬戸康史さん演じる古本屋店主の多田浩司が河合優実さんが演じられている本を万引きした矢野岬を追跡するくだり、中島歩さん演じる若田亮介と浮気相手で、表面上はウェディングプランナーとしてお世話になっている向里祐香さん演じる熊本美樹がラブホテルの一室での会話シーン、そして、ゲスの極み乙女のドラマーでは"ほな・いこか"という名称でも活躍されているさとうほなみさん演じる多田が思いを寄せている女性、佐伯一花が彼と体の関係に及ぶシーンは忘れられないものがあり、ラブコメのみならず、艶笑コメディ(セックスコメディ)としても優れていた1作でした。あと、守谷文雄さん、佐倉萌さん、飯島大介さんといった城定秀夫監督作品の中では割りと常連に入る俳優が出演されていて、城定秀夫監督作品を結構な本数で観ている私からすれば、『猫は逃げた』の今泉力哉監督の割りと常連な俳優陣と比べると、比較的に登場シーンが多い分、好ましく観られ、特に守谷文雄さんと佐倉萌さん演じる岬の両親がどういうわけか、多田の自宅のアパートに行って問い詰めるくだりはストレートなメッセージ性があり、現代的、今日的で、様々な"愛"のかたちを肯定している辺りは滅茶苦茶心にグッと来ました。

ぶっちゃけ、ここにインド産のフライトパニックもの、もしくは、香港産の実話ベースのポリティカル・アクション映画を9位か10位に入れたいと思ったのですが、やっぱり、上半期のラインナップを振り返るにあたって、映画の物語の中に出てくる登場人物をまたこの目で観ておきたいという意味では、城定秀夫監督の『愛なのに』のほうがしっくり来るかなと思い、10本の中に入れました。

ちなみに、今泉力哉監督が監督を務め、城定秀夫監督が脚本を手掛けた『猫は逃げた』も観賞してはいるのですが、今泉力哉監督組作品の割りと常連俳優が登場していたりとか、クライマックスの主要人物2組のカップルによる数分間の長回しシーンであるとか、そして、その後の大団円シーンであるとか、滅茶苦茶いい映画ではあったのですが、時間が経ってみて、どうしても『愛なのに』と比較すると、テーマ的にもメッセージ的にもキャッチーさに欠けていて、城定秀夫監督が今泉力哉監督の作風に寄り添って執筆されているのは物語からして、分かるのですが、コミカルな面白さでは多少の物足りなさを覚えてしまう1作ではあったかなと思いましたね。それに、『愛なのに』で毎熊克哉さん演じる広重が明確に物語に絡んできて、しっかりとクロスオーバーされているのに対し、本作の『猫は逃げた』では瀬戸康史さんが多田として声の出演をしているのか、お笑い芸人オズワルドのツッコミ担当で、伊藤沙莉さんの実の弟である伊藤俊介さん演じる味澤忠太郎監督の劇中映画『裸のピクニック〜ノーパン夫婦〜』で流れる彼の声が大爆笑必至の笑いどころにはなってるんだけど、ここはパンフレットで情報を知っておかない限りは結構このクロスオーバー要素が分かりにくかったかなと思われます。





8位
TUBE 死の脱出
劇場公開日︰2022年1月21日

『HOSTILE ホスティル』のマチュー・テュリ監督・脚本による突然管のような空間に閉じ込められたことをきっかけに娘を事故で失った母親の死と生、喪失と再生を描いたワンシチュエーション物のサスペンススリラー。当初は『未体験ゾーンの映画たち2021』では限定公開されていたものの、新型コロナウイルスの影響でフランス本国での公開が延期となってしまい、公開中止になっていた作品です。


今年の『未体験ゾーンの映画たち2022』の上映作品27作品とコロナ禍でかなり弾数が減っている反面、コンプリートはしやすいものの、当たり外れがパックリ分かれていて、特にこの『TUBE 死の脱出』はライトな映画好きが観れば、数年前の私が軽い気持ちで観ていれば、滅茶苦茶ハズレだとレッテルを貼られていてもおかしくない内容なんですが、2022年現在の私からすれば、滅茶苦茶好きな作品でした。これは配給会社が『CUBE』のようなソリッド・シチュエーションスリラーとして宣伝されていて、そういうジャンル映画的な楽しさ、面白さを期待して観ると、大変肩透かしを食らいかねなくて、寓話的、宗教的な作りなため、冒頭の殺人犯アダムと思われるゾンビのような生き物、主人公である母親のリザが脱出したその先の展開は非常に解釈が必要不可欠にはなっているんだけど、リザと人物が暗くて狭い通路を這って歩き、出口を探し求めるという行為は人生の艱難辛苦、時間という体感的には短いのに長い、長いようで短いような煉獄、地獄を比喩的に表わしている。人生は苦難の連続であって、乗り越えても、乗り越えても、死ぬまであらゆる悲しみや苦しみ、憎しみから向き合い、受け入れなければいけないということを物語のメインの舞台となる"チューブ"という限定的かつ閉鎖的空間に集約されていると読み取れる作品ではあるかなと解釈しました。その意味では、単純に残された人が生きる道を再び歩んでいく話ではあるんだけど、リザが"チューブ"で待ち受けるトラップの数々は人生のあらゆる苦難、困難を象徴的に表しているようで、まだ年齢的に若い私には個人的にグサリと刺さった1本でした。





7位
ちょっと思い出しただけ
劇場公開日︰2022年2月14日

『くれなずめ』『バイプレイヤーズ』シリーズなどの松居大悟監督がクリープハイプの尾崎世界観さんが1991年のジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた楽曲『ナイトオンザプラネット』にまた更に着想を得て書き上げたオリジナル脚本を池松壮亮さんと伊藤沙莉さんのダブル主演で映画化した恋愛映画。第34回東京国際映画祭で観客賞とスペシャルメンション賞のダブル受賞を果たしています。

これはさっき書いた、昨年の東京国際映画祭で賞を受賞していて、昨年観た坂元裕二脚本の『花束みたいな恋をした』は恋愛映画の中では好ましくは観れたんだけど、時が経つにつれて、好き度の度合いがだんだん減ってきて、今となっては割りと諸手を挙げてハマれなかった映画のひとつではあったのですが、これは予習がてらジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』を観賞していたこともあってか、『ナイト・オン・ザ・プラネット』のリスペクト・オマージュが散りばめられていて、観てて、クスッと笑みがこぼれましたし、かつてはダンサーで、2021年現在では舞台照明のスタッフとして生計を立てている照生とタクシードライバーの葉、この2人の別れから出会いまでを照生の誕生日である7月26日のみにして、時制を遡らせて描いていて、そこで時制が次の前の年に入るくだりは『ナイト・オン・ザ・プラネット』のように見せていく辺りは文字テロップ、または登場人物の台詞で説明させないで、敢えて映像で語らせているところに語り口の上手さが感じられます。分かりやすく言えば、現在の年からだんだん前の年へと時制を遡る構成は有名な映画でやられている構成ではあるのですが、そこには人生のかけがえなさ、恋愛の輝かしさ、時間の流れの美しさと残酷さ、あらゆる事柄が浮かび上がってくるようになっていて、松居大悟監督の嫌味、ヤダ味、悪い癖は極力抑えられていた分、監督ならではなユーモアがありつつ、ひと言ではざっくりと語り切ることができない魅力に溢れている"実人生"で大切な1本なんじゃないかと思いました。

ちなみに、8月は3~4本、劇場で観ておきたい映画があるのですが、この『愛なのに』と『ちょっと思い出しただけ』、もしかしたら、いつもの記事よりは少しだけ文章を短くしたうえで、どちらか1本は感想記事を書いてみようかなと考えてます。





6位
スクリーム(2022)
レンタル・リリース日︰2022年5月25日

『スクリーム』シリーズの脚本を手掛けてきたケヴィン・ウィリアムソンさんが製作総指揮を務め、『レディ・オア・ノット』のマット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット監督コンビが贈る1996年から始まった『スクリーム』シリーズの新たなる章とでも言うべき正統なる続編。配給会社は何らかの事情で一般公開で上映できなかったのか、残念ながらDVDスルーでの日本公開になってしまった作品です。

この作品は何も予習せずに観るよりも、近々にシリーズを順に追って観たほうがより楽しむことができ、言ってみれば、シリーズが歩んできた歴史がうろ覚えな人にはちょっとついけいけない、厚みが感じられない恐れがあるかもしれませんが、前作が主人公の従姉妹にして、邦題の副題である"ネクスト・ジェネレーション"が別の意味で機能していたのに対し、本作では発端となった"ウッズボロー殺人事件"の加害者の血統、血筋を引いた隠し子が姉で、その血の繋がらない妹が新ヒロインになっていて、これが本当の意味で"ネクスト・ジェネレーション"にして次の世代に世代交代ができている素晴らしい物語となっていました。


また、ふたりの犯人の動機はシリーズ過去作と比べると、現実的に考えてみて、最もしょうもない、くだらない動機となっていて、この動機のせいで"犯人がどうしてそういう犯行を下すのかよく分からなかった"と思う方は少なくないと思いますが、メタ視点、メタ構造を持ってして、近年のハリウッド映画におけるリメイク・リブート、続編を作る作り手たちに一石を投じる、警告しているような批評的、批判的なメッセージを伝えていて、なおかつリブート・リメイク、続編を莫大な予算で製作する中で何が必要なのか、作り手は方向性を間違えた末に映画ファン、映画好きを傷つけていないのか…フランチャイズ化、シリーズ化されている映画の本質的、根源的な問い直しを一般観客に訴えかけている奥深い映画だと解釈しています。これは今後、漫画やアニメの実写化、海外映画のリメイクをする作り手にも当てはまるようなことではないのでしょうか…。


あと、この作品、本来はこの上半期ベストでは10位か9位に入れようかなと思っていたのですが、この間、6月中旬に放送されていた『世にも奇妙な物語 '22 特別編』はレコーダーで録画したうえで、1本の作品として放送回を観賞して、個人的には良いところと悪いところがとんとんで散見されてて、世にも好きではない視聴者からすれば、不評を買っている恐れが滅茶苦茶あるんじゃないかなと思ったんですよね。で、そのせいか、Twitterである方が否定的な意見を出していて、それを目にして、ファンとして"許せない"気持ちが強く生まれちゃって、ひょっとしたら、犯人のふたりが持った身勝手でしょうもない犯行動機と自分がファンだからこそ持った怒りというのは、本質的には似てるんじゃないかと思ったんですよね。だから、私が『世にも奇妙な物語』シリーズの作り手たちに怒ってて、このシリーズを根底から変えるような行為をしたいと頭の中で一瞬たりとも思ったことはないにせよ、人気シリーズを愛しているというファンの大切な思いが有害になるという意味では、様々なコンテンツを愛している人にとっては決して他人事ではない何かがあるという風に思いましたね。





5位
ハッチング 孵化
劇場公開日︰2022年4月15日

本作で長編映画監督デビューを飾っている女性監督、ハンナ・ベルイホルム監督による北欧発のモンスター・ホラー。毒親からの指導でバレエに打ち込む少女、ティンヤが見つけた謎の卵の孵化し、飼育することで巻き起こったある事件の顛末が語られています。

これは『ちょっと思い出しただけ』や『愛なのに』とは違い、TwitterでGAGAが来年4月にこのような北欧映画が公開されるとの情報を得て、ポスタービジュアルからして、とんでもない映画なんだろうと運命的な予感を感じてしまい、配信やDVDレンタルになってからでも良かったのですが、他県に行って、ミニシアター系の映画館で観賞してみたところ、これが衝撃的な映画体験が出来た作品で、私の実人生においてはミニシアター系の映画館にわざわざ足を運んだことには大変価値があったと思えますし、レンタルでもこの衝撃と興奮を味わえたかもしれないけど、劇場で観て本当に良かったと思わせてくれる物凄い怪作だったと思います。特に本作ではクリーチャー的な存在であるアッリの怪鳥だった頃のモンスター造形はアナログ技術が冴え渡っていて、観ている瞬間はドキドキワクワクが止まらなかったです。年間ベストの映画を選ぶ時には10本の中には入らない恐れはありますが、夏秋でよっぽどヤバい未公開映画がない限りは、仮にソフト化されて、レンタルが開始された時は毎度お世話になっている同じAmebaブログで映画レビューを書かれているとある映画レビュアーさんにオススメしたいと考えています。




4位
わたし達はおとな
劇場公開日︰2022年6月10日

2021年にNHK総合で放送されていたSFチックな青春ヒューマンドラマ『きれいのくに』で第10回市川森一脚本賞を受賞し、「劇団た組」の代表でもある新鋭の映像作家にして舞台演出家、脚本家、加藤拓也監督による大学のデザイン学科に在籍している優実と演劇サークルの公演のチラシの制作依頼をきっかけに出会った恋人の直哉が優実の妊娠をきっかけに亀裂が生じていく様子を描いた青春恋愛ドラマ。メ~テレと制作会社ダブによる映画シリーズ『(not)HEROINE movies』第1弾として小規模公開された1本です。

これは2021年はベストドラマ10本を発信していたわけじゃないんだけど、加藤拓也監督が脚本(一部の話は監督。)を手掛けた『きれいのくに』が今年ベスト級に素晴らしく、今は劇場版が公開されていたにも関わらず、ソフト化すらされてないんだけど、2.5次元俳優である鈴木裕樹さん主演の『カフカの東京絶望日記』で脚本を手掛けていたこともあり、昨年の情報解禁時には元々この加藤拓也監督の初の長編映画監督作品にはかなり期待していたのですが、これが初の長編映画にして傑作だと思いましたね。ざっくり言えば、倦怠カップル物の恋愛映画の系譜に入るような内容であり、大学生時代にいる若者の"リアル"な恋愛を描いたドキュメンタリックな胸糞悪い話なんですが、ちょっとどこかで観たことあるような普遍的な恋愛ドラマを加藤拓也監督の作家性、または演出力のお陰で現代的かつ今日的、非常に新鮮味のある日本映画になっていたと思います。特に演出面においては混乱していた人は少なからずいると思いますが、時制の前後を画面サイズの微妙な切り替えで差別化を図っていて、出会ってからある事を境に別れたのに、復縁しちゃうまでを描いた「過去」のパートはビスタサイズで、その後の「現在」のパートをスタンダードサイズに設定されていて、特にクライマックスとラストではそうした時制の前後がされていることによって、優実にとって絶頂期と過渡期のような時期の圧倒的な落差が表現されていて、凄く感心させられましたね。その意味では、優実の精神面で心を抉られるシーンが多くて、直哉のクズっぷりが強烈に印象に残るんだけど、事後に振り返ると、直哉だけでなく、優実も非があるように描かれていて、「一体どこでなら優実は引き返せたんだろう?」と思わされるし、「将人なら優実を幸せにできたんだろうか。」と友達や映画好きの仲間と語りたくなる1作だという風に言えます。もちろん、『愛なのに』と『猫は逃げた』でもそうなんですが、「劇団た組」の舞台や戯曲、演劇に出演されていた、いわゆる常連の俳優が出演されていて、『きれいのくに』だと、コメディリリーフ的な存在にいる貴志を演じられていた山脇辰哉さんがサブキャラのような立ち位置ですが、直哉の演劇サークル仲間を演じられていて、ポスタービジュアルに記載が無かった分、かなり驚きましたね。あと、直哉の元カノの伊藤を演じられていた山崎紘菜さんはTOHOシネマズの「シネマチャンネル」のナビゲーターを卒業されて以降は『汝の名』(TVドラマ)などで精力的に女優活動されていると思われますが、登場シーンは少なめなのに、後半のラストの長回しの前置きとしても機能しているある衝撃的な展開で迫真の演技を披露していて、お見事としか言いようがなかったです。

敢えて言えば、優実のお腹の子供というのが誰の子なのかを巡るにあたって、結局のところ、優実が桜田通さん演じる将人と何故コンタクトを取れないのかを有耶無耶にさせないで、明確に分かりやすく登場人物の端的な台詞で観客に分からせたほうが話が飲み込みやすくなったんじゃないかなと思ったのですが、作り手の加藤拓也監督からしてみれば、そういうミステリー的な論点はあんまり重要な論点ではなくて、優実と直哉の恋愛模様の危うさ、おっかなさであるとか、優実の成りゆきの妊娠を通して避妊の重要性、確実性が物語の本質的な部分かなと思うので、お腹の子供が誰なのかはそこまで考察する必要はないのかなと思いましたね。

あと、エンドクレジットは昨年の『Swallow/スワロウ』と同じように、本編中にクレジットが流れる作りになっていて、映画主題歌をバックに日常的な風景が映し出されてはいるんだけど、根本的に問題が解決してるようでしてないような感じは持たされてはいるんだけど、ある種の清々しさが伝わってきて、地味ながら滅茶苦茶切れ味のいいエンドクレジットだと思いました。





3位
マドンナ
リリース日︰2022年2月25日

近作の『オマージュ』が第34回の東京国際映画祭で上映され、ほとんどの作品が日本未公開でありながら国内外で高い評価を得ている気鋭の女性監督、監督による悲しい過去を持っている新人看護補助師が病院のVIP病棟に運ばれた妊婦の患者、チャン・ミナの歩んだ人生と恐ろしい真実を探る様子を描いたヒューマン・サスペンス。河瀨直美監督の『あん』も出品されていた、第68回(2015年)カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で招待され、出品されていた作品です。

これはブログの記事にはガッツリ解説込みで書いてはいるのですが、VIP病棟に運ばれ、違法な臓器移植によってお腹の子供もろとも命を奪われそうになっていた妊婦の患者、チャン・ミナが真の主人公だと思っていて、体罰を受けてきた高校時代、異性である会社の上司から搾取されてきたあの頃、化粧品工場で工場の送迎バスの運転手、パク・チョンテから受けてきた性的暴行など…とにかく私のような男性でも観ててキツイのですが、女性からすれば、見るに耐えられない展開の連続であり、初見で観た時は"もう二度と観たくない"ぐらい心にドスンと来ました。特にクライマックス手前で明かされるチャン・ミナが意識不明になる原因となったある衝撃的な展開があるんだけど、これは韓国映画らしくという見方が取れるんだけど、ここは直接的な表現があるわけではないのに、停止ボタンを押してもいいんじゃないかと思うほど、本当に胸糞悪かったです。ただ、クライマックス以降の展開はどうかなと思うところはあるにはあるんだけど、安易ではない希望や救いが落とし込まれていて、特にラストシーンは非常に涙無しでは観れないシーンとなっているので、是非この目で確かめてほしいです。





2位
クルードさんちのあたらしい冒険
リリース日︰2021年12月25日

『ヒックとドラゴン』『マダガスカル』のドリームワークス製作、『マダガスカル』シリーズのマーク・スウィフトさんが製作を務め、劇場用長編アニメとしては初の長編映画監督作品となっているジョエル・クロフォード監督がメガホンを取った、2013年にクリス・サンダース監督が監督を務めていた『クルードさんちのはじめての冒険』の続編。アメリカ本国では劇場公開当時、全米初登場第1位を獲得し、3週連続で首位に居座っていたほどの大ヒットを記録していたのですが、日本では残念ながら『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』が公開されていたにも関わらず、DVDスルーで2021年12月25日にBlu-ray&DVDの両方でリリースされた作品です。

これは人生経験上、ドリームワークス・アニメーションの劇場用長編アニメーションはあんまり観てなかったので、前作の『クルードさんちのはじめての冒険』と本作の『クルードさんちのあたらしい冒険』をセットで観たのですが、これは前作が生涯ベスト級に素晴らしかったうえに、本作は前作と違って、コメディ色の強い作風にはなっていて、味わいは変わっているんだけど、滅茶苦茶面白い作品で、前作は自然災害の脅威と恐怖、時代や環境の変化を描き出していて、2013年製作なのに現実世界におけるコロナ禍と根強く連想させているものがあって、非常に今だからこそ、映画ファンにとっては語られるべき作品だという風に考えられるし、前作のクルード一家のドラマを通して言えば、一歩前に進んでいくことへの大切さ、素晴らしさ、生き方や考え方に変えることが出来れば、人生はより見違えるものになるんじゃないかといった普遍性の高いメッセージがあって、特にラストは実質的な主人公の長女、イープのナレーションと相まって、おうちで初見でDVD観賞した時にとてつもないほどの感動が押し寄せてきたんですよね。

で、そこから前作の続きとなる本作は1本の線として順を追って観ておけば、一家の長女、イープと前作では彼女と恋愛関係に発展していたガイとの恋愛模様のその先が描かれていて、冒頭ではガイが彼が両親と離れ離れになってしまってからイープと出会うまでの経緯が見せられるんだけど、それだけでもう号泣必至で、本筋のひとつであるイープとガイの恋愛模様に加え、彼女と一家が出会うある意味コミュニティを形成しているベターマン家のひとり娘、ドーンとの友情もあって、イープの物語として観れば、親からの解放、自立をコミカルかつ上手く語り切っているんですよね。それに加えて、世間一般的な家庭内での家族問題であるとか、人種差別であるとか、子供のスマホ依存であるとか、女性同士の連携、連帯であるとか、現代的な題材、テーマ、問題があらゆるエピソードの中で浮き上がるように作られていて、前作のような感動は薄まっているんだけど、魅力的な登場人物から成る数々のギャグシーンで笑えて愉快な気持ちにさせてくれると同時に現代的なテーマ、メッセージで深く考えさせられるようになっている。

とはいえ、クルード家の父親、グラグとベターマン家の父親、フィルとのブロマンス的な関係は今振り返ってみても、やり過ぎのような気がして、単にどうでもよさ、つまらなさを生み出しかねない展開にはなってはいるんだけど、そのふたりのブロマンス的な関係をカバーするかのごとく、イープとガイが結ばれてからの結末は彼女は親から自立はできてるんだけど、グラグが納得できるような解決法が取られていて、安心しましたし、そして、何と言ってもラストシーンは平たく言えば、現実世界における社会、文化、文明、地域というのはこういう風に完成されていくだという風な解釈が出来て、なおかつ"世界"を知るということ、"世界"は広いということはあのラストショットのようなことを指しているのかなということを思わせてくれる名シーンだと思いました。これは6位の『スクリーム』同様、順を追って観ておいたほうが本作の素晴らしさが伝わりやすい作品ではあると思うのですが、もっと多くの方にレビューされて、もっと多くの方に名前だけでも、認知されていてほしいです。






1位
女子高生に殺されたい
劇場公開日︰2022年4月1日

『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督による漫画家の古屋兎丸さんが2015年に発表した同名漫画を監督・脚本兼任で実写映像化させたサイコ・サスペンス。主演の田中圭さん曰く、「日本映画として確実に傑作に入る。」と自信を持って豪語していた作品で、映画ファンの間では高い評価を得た実写作品です。

この作品は原作漫画は高校生ぐらいの頃から知っていて、自分が最も支持している日本の映画監督、城定秀夫監督のかなりメジャーな商業映画作品だったので、公開当日に県内のTSUTAYAで原作漫画を買って、県内では上映されていなかったこともあってか、自転車でダッシュで駅に行って、他県の往来の合間を縫って漫画を途中で読んだ段階で観てみたわけなんですが、漫画の実写化の中では作り手による改変が絶妙に上手く成功していて、再現度、解像度、完成度の高い実写映画になっていて、本当に素晴らしいです。元々漫画を読んでいない人がこの実写映画を観れば、主人公である東山春人が探し求めていた"キャサリン"が誰なのか、後半までは予測がつかないように謎解き要素を存分に堪能でき、逆に読んでいた人からすれば、人気女優として順当にキャリアを積んでいるあの実力派女優が封印されている別人格"キャサリン"を持つ女子高生を演じているため、その人の怪演を深く味わえるし、映画的なカタルシスが効いているクライマックスの文化祭の演劇のくだりには思わず唸らされること間違いないでしょう。

それで、何と言っても、その後のラストの数分間、ここは原作の改変が上手く効いているだけあって、原作のラストと比べると、シチュエーションは全然違うのですが、友人、または仲間に支えられて普通の人生を歩もうとしている"キャサリン"の人格を持つ女子高生とそれを傍観するしかない東山先生がすれ違うように映し出されるのですが、正確に言えば、この図式そのものは『ポケットモンスター』シリーズにおけるロケット団(ムサシ、コジロウ、ニャース)とピカチュウ、『ヤッターマン』におけるドロンボーとヤッターマンのようなある種の対立関係を連想させられるんだけど、「人って何のために生きてるんだろう?」「誰のために生きてるんだろう?」という問いかけが炙り出されているような感じがしてくるし、人生の目的や生きる意味の奥深さが落とし込まれているようで本当にどストライクに心に刺さりましたね。もちろん、これを実写化するにあたって、河合優実さんが演じているあおいがSF的なチート設定になっている分、そこが評価の分かれ目になっていると思いますが、これは小さなノイズに留められていて、単純にミステリーとしても、サスペンスとしても、優秀なので、想像以上に良かった作品でした。



・あとがき

今回の2022年の上半期の映画ランキングに関してましては、1位〜5位は実質的に既に決まっていて、私個人にとっては思い出深く、その年を代表する5本だと思っているのですが、6位の『スクリーム』の5作目だけは個人的な思いも相まって、ひょっとしたら、年間ベストの時には5位の『ハッチング 孵化』と入れ替わって、順位が上がる可能性は無くはないかなと思います。で、9位の『愛なのに』と10位の『ALIVEHOON』は入れようかいれまいか滅茶苦茶迷っちゃいまして、先に10位の『ALIVEHOON』は決まったのですが、『愛なのに』と『ザ・フライト』と迷った末に、リピートしてみたいのはどっちか、単純に1本の映画として好きなのはどれかといった2つの度合いを比べたら、『愛なのに』のほうが上だったので、それを9位に入れた感じですね。と言っても、10位の『ALIVEHOON』は評判が評判を呼んでいた『わたし達はおとな』とか、17日公開の新作映画が手強かったせいか、興行的に苦戦していたのはかなり残念だけど、普通の上映形態でも、カーレース映画として一見の価値がある映画体験を体験できて、あくまでも『未体験ゾーンの映画たち2022』の上映作品と比較する前提での劇場観賞ではあったんだけど、Twitterの評判には偽りなしで、評判通り素晴らしかったから、どうしても入れたかったということで、第10位に入れました。ちなみに、第11位に何か入れるとすれば、さっき書いたインド映画『ザ・フライト』で、これは観賞したあとの出来事なんだけど、本作で描かれている航空機事故は全然規模は違うのですが、4月にあった"知床観光船沈没事故"と重なるところがあって、あの事故の記者会見とか、その後の運航会社の実態なんかは加害者と被害者の関係について考えさせられたところは根深く考えられて、それを置いておいたとしても、主人公である航空会社の社長、ランヴィールがソリッドシチュエーションスリラーのようにプライベートジェットで閉じ込められる様はピン芸人のコントを見せられているようで楽しく、フライトパニックとして観れば、クライマックスからラストにかけて描かれている超絶怒涛の展開は世界的に有名なあの事件を絵的に思い出しかねないヤバいシーンなんだけど、思わず爆笑しちゃうほど愉快、痛快、爽快なB級アクションだったと思います。だからこそ、要約すれば、大変不謹慎ではあるんだけど、いわゆるお客様の安全を優先しなかった乗り物業界の会社の責任者には色んな意味でこういう映画を観てほしいなという意味では、9、10位に入れても良かったかなと思いましたね。


で、今後は年間ベストの10本をきめるにあたって、劇場で公開されている新作映画とレンタル店で取り扱っている最新の劇場未公開映画の中でこの7月~12月はあらゆる新作映画を観賞して、そこから上半期に観た新作映画を含めて、10本厳選するわけなんだけど、今、劇場で公開されている最新の劇場公開作品とレンタル店で取り扱っている劇場未公開映画、そこから更に近々で放送されているTVドラマを追っていくと、体力的にも、精神的にもキツくて、更に言えば、映画やドラマのレビューに集中し過ぎたせいか、プライベートの時間はあまり取れてない。厳密に言えば、今後の将来や人生における重要な時間をあんまり作れてないんですよね。もっと言えば、個人の問題なんですが、劇場公開作品7本と未公開作品3本にしたものの、元々はアタリなのかハズレなのか怪しい"地雷映画"というような枠組みの作品を観ていた分、それを専門的に観ている映画好きと一般的にメジャーな作品を観ている映画好き、どっちにも興味や関心を惹くような10本が選べるかどうか、結構不安ではあるんですよね。

なので、今後はこのブログ自体は過去の記事が滅茶苦茶アクセス数が増えちゃってて、人気ランキングが上位に上昇していることを踏まえて、出来れば、新作映画の本数を少しだけ増やしつつも、ブログの記事は更新頻度は減らす代わりに記事のクオリティはもっと向上させるようにしていけたらな…と思います。もちろん、これまでは基本、ネタバレありで書いていたのが原因で、否定的な意見が生じちゃっているリスクがある記事がほとんどなんですが、ネタバレをするにせよ、なるべく決定的なネタバレはしないようにしたほうがいいんじゃないかなと考えています。で、下手したら、こういうウェブサービスでいとも簡単に人気ブロガーになって、有名になることもなくはないので、最低限、まともな生活ができるような状態にしておいたがいいかな…なんて思っています。批判的な意見はあるかと思いますが、2022年の下半期もよろしくお願い致します。