大変長らくお待たせしました。新年明けましておめでとうございます。2023年はどれぐらい記事を投稿できるか、自信は無いのですが、マイペースに投稿していきたいので、今年もよろしくお願い致します。

2021年、『シン・ウルトラマン』『すずめの戸締まり』『ONE PIECE FILM RED』『トップガン︰マーヴェリック』『THE FIRST SLAM DUNK』など、今年も日本では数々のヒット作がこの世に生まれました。2022年は邦画、洋画問わず、色んな意味で豊作の年となっていて、『ハケンアニメ!』興行的には爆死しているのとは裏腹に、『大怪獣のあとしまつ』や『"それ"がいる森』は酷評が酷評を呼んで、逆に興行的にヒットを遂げていて、日本の映画業界としてはもうちょっとどうにかならなかったのかな…と思わざるを得ません。ただ、日本の実写映画は劇場用長編アニメーション映画と比べると、まだまだ興行的に厳しいのですが、『キングダム2 遥かなる大地へ』は実写邦画No.1ヒットを果たし、インディーズ系の配給会社が配給した作品だと、『死刑にいたる病』が10億越えのスマッシュヒットを遂げていて、なかなかの大健闘だった年でもありました。

今年、2022年は新作映画を66本(2021年1月〜2021年2月に開催されていた『未体験ゾーンの映画たち2022』などの特集上映の上映作品を含む)を観賞していて、そのうち、23本(1本は2回劇場観賞)は劇場で観賞しました。これは2019年ぐらいから毎年そうなんですが、大多数の映画ファンは劇場で観た映画だけで今年のベストを作っているかと思われますが、2022年上半期同様、主に劇場鑑賞よりもDVD観賞が多いので、DVDレンタルで観賞している作品も映画ランキングに入れています。

2022年は趣味の映画観賞を始めてから6周年を迎え、今は6年半、実質的に7年目になって、やっぱり、映画観賞を趣味にしてからは映画好きになって良かったこともあれば、映画好きになって犠牲にしてしまったこともあり、趣味の映画観賞を通してますます自分の人生と向き合い、見つめ直すようになった2021年でした。それで、逆を言えば、自分が好んで観ている未公開映画、ミニシアター系(単館系)の映画だけでなく、現在のシネコン系の映画も数々観るようになり、未公開映画ではジャケットだけならいかにもジャンル物っぽい見立てなのに、中身は地味な人間ドラマで、アート映画みたいな内容だったといった発見をすることはあるのですが、劇場で公開されている映画だと、「これはヒットするなぁ…。」「これはダメな日本映画だなぁ…。」と色んな見方や視野を広げて観ることができた年でした。

もっと言えば、2022年はどっちかと言えば、日本映画じゃなく、海外映画を観るのが多くて、余裕があったら特集記事を作って発表したいのですが、2022年に引退を発表したB・ウィリスの近々の出演作品を追っていたせいか、鑑賞作品の4分の1程度はちょっと当たり屋が観るような映画なんですが、鑑賞作品を振り返ってみて、「映画的な面白さは何か?」「「面白い」「つまらない」の基準とはどういうものか?」というのを突きつけられたようなラインナップだったと思います。

それでは、10位から1位まで一気に発表したいのですが、その前に、これは10本には入り切れず、どうしても個人的な想いが強かったので、チャンピオン枠でこの映画を入れてみました。


チャンピオン
『クルードさんちのあたらしい冒険』
リリース日︰2021年12月25日

『ヒックとドラゴン』『マダガスカル』『バッドガイズ』『ボス・ベイビー』のドリームワークス製作、日本では2023年3月17日に『シュレック』シリーズのスピンオフ、『長ぐつをはいた猫』の続編、『ぐつをはいたネコと9つの命』の公開を控えているジョエル・クロフォード監督がメガホンを取った、2013年にクリス・サンダース監督が監督を務めていた『クルードさんちのはじめての冒険』の続編。全米では週末興行収入ランキングで初登場1位、その年の第48回(2020)アニー賞にノミネートされている作品です。詳しい感想や解説は当時の記事と上半期ベストの記事で語っていますので、是非ご参照ください。

この作品、元々は上半期ベストでは第2位に入れていたのですが、2022年の年間ベストではどこに入れようか考えた結果、前作の『クルードさんちのはじめての冒険』が生涯ベスト級に心にグサリと突き刺さった以上、今年ベスト級と生涯ベスト級の映画の続編を同じ枠組みに入れて、映画ランキングに入れるのは、ちょっと食い合わせが悪いんじゃないかということに至りまして、ある種、不動の1位ということで、私の映画ランキング史上初の「チャンピオン枠」としてこの『クルードさんちのあたらしい冒険』を入れさせていただきました。

で、前作の2013年製作の『クルードさんちのはじめての冒険』は10年前に作られた作品なのにコロナ禍を経験しているからこその内容ではあるのですが、物語の本質は1組の家族が「外に籠もる日常」から「外にいる日常」へとライフスタイルを変える物語で、2022年でアニメ界隈で覇権を取った『ぼっち・ざ・ろっく!』の最終回で後藤ひとりが「引きこもりの日常」から「外に出る日常」へと変化するのと通じるような話で感慨深いのですが、続編の『クルードさんちのあたらしい冒険』は前作と比べると、コッテコテのコメディ要素が色濃くなってはいるのですが、「外にいる日常」を過ごしていたクルード家があらゆる意味で"壁"を隔てていたベターマン家と繋がる話になっていて、ベターマン家の視点からすれば、ベターマン家が「誰かと関わらなかった日常」から「誰かと人生を共有する日常」へと変化していく様子が垣間見え、
気軽にライトに楽しめるのに、意外と現代的なテーマを盛り込みつつ、自分が生きている世界の見え方を少しでも変えてくれる続編映画の新たなる傑作なんじゃないかなという風に思いました。


では、本題に入りまして、第10位〜1位、一気に発表したいと思います。


第10位
『窓辺にて』
劇場公開日︰2022年11月4日

『愛がなんだ』『あの頃。』『ちひろさん』など…恋愛ドラマを得意としている映画監督、今泉力哉監督が『街の上で』以来のオリジナル脚本、稲垣吾郎単独主演で発表した、妻の浮気を知っても何も感情が沸いてこないフリーライターの男が周囲の人々との関わりを通じて小さな変化が芽生える様子を描いた恋愛映画。第35回(2022年)東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、観客賞を受賞している作品です。

この作品、フリーライター、市川茂巳の重要そうで、そうでもないような人生の断面を切り取っていて、茂巳と『第50回 吉田十三賞』を受賞した女子高生作家の久保留亜の交流を中心に様々な人々と交流しているのですが、じっくりと数分程度の長回しで登場人物同士の台詞の掛け合いを独特な空気感と温度感で観客を惹き付けている割りにはちょっと冗長さが感じられ、登場人物のキャラの魅力はやや控えめで、娯楽性は低いんだけど、"何かを手にすること"と"何かを手放すこと"、そこに生じる選択と結果がどのように人生を豊かにしてくれるのかを深々と考えさせられ、後に大切にしなくちゃならなたあ何かを"手にすること"も人生を生きていく中で大切なことではあるけど、"手放すこと"、言い換えれば、何かを"捨てる"という選択も人生にとって大切な物事だということを肯定してくれているようで、フリーライターの茂巳が妻の紗衣と離婚に至るまでの話を筆頭に、スポーツ選手であるが正嗣が引退する話といい、留亜の叔父のカワナベがテレビマンの仕事を辞めて、山奥の森の山荘でひとりで生活をしている話といい、どれも味わい深く、特にカワナベのエピソードは中盤あたりで長回しで彼と茂巳のバルコニーでの会話と留亜がダイニングで静かに茂巳の小説を読む様子を同一に収めるショットが非常に印象的なんですが、カワナベの言う「無駄を大切にね」「やめることは何かを手に入れること」という台詞には今後、自分の人生にとって重要になる可能性を秘めている言葉で胸に響いていて、またDVDレンタルや配信で観る時は中盤のこの会話シーンは何度も見返したいなと思いました。

あと、この映画をベスト10に入れなきゃいけない理由がもうひとつありまして、実は…劇場鑑賞した劇場公開作品の中では唯一劇場鑑賞を2回行った作品なんですが、初見で劇場賞した時に物語の中盤、留亜と市川が公園にいるシーンで寝落ちしてしまいまして、起きては寝て、起きては寝てを繰り返した結果、あんまり内容が頭に入ってこなくて、鑑賞料金1000~2000円を失ってしまったんですよね。良く言えば、「贅沢な無駄遣い」、悪く言えば、金をドブに捨てたような行為と同じではあるのですが、逆に言えば、劇場鑑賞が2回できた機会が得られた分、今泉力哉監督の作家性やこの作品に込められたメッセージ性のようなものを感じ取れて、そういう意味では、2022年に映画鑑賞した歴史の中で1番黒歴史に残る映画として、黒歴史を挽回できて良かった映画として、10位に入れさせていただきました。


第9位
『マドンナ』
リリース日︰2022年2月25日
2023年3月10日に最新作『オマージュ』の全国劇場一般公開が控えている女性監督、シン・スンウォン監督が2015年に発表した、韓国の厳しい現実の中で生きる女性の生き辛さを"マドンナ"というあだ名で呼ばれている妊婦の女性、チャン・ミナを通して描いて見せた、社会派サスペンス。第68回(2015年)カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で出品されていた作品です。これは以前の記事で詳しい解説や感想を書いているので、そちらに目を通していただけると、助かります。

この作品、お話そのものは実質の主役はある過去を持っている新人看護補助師のムン・ヘリム、ある出来事から脳死状態で病院のVIP病棟に運ばれてきた妊婦の患者、チャン・ミナのふたりになっていて、ヘリムが病院の出資者である会長チョルオの息子、サンウに臓器提供の同意書に拇印を押させるために家族を探すよう依頼されたものの、ミナを知る人物と出会い、彼女の経歴を知るうちに驚愕の真実に近づいていくようになる話なのですが、体罰を受けてきた高校時代、異性である会社の上司から搾取されてきたあの頃、化粧品工場で工場の送迎バスの運転手、パク・チョンテから受けてきた性的暴行など…簡単に言えば、韓国映画らしい容赦なく、救いようがない展開の連続で、特に後半以降の性的暴行の描写は視覚的にあまりにも見るに耐えられない生き地獄を目撃しているようで、誰もがリモコンの停止ボタンを押してもおかしくないほど、本当に胸糞が悪く、非常に記憶に残るシーンではありました。

で、ブラック校則、ルッキズム、労働問題、男性からの女性搾取や差別、違法な臓器売買、様々な社会的な問題が浮き彫りにされていて、最初から最後まで暗くて重苦しく、後味は悪いのですが、チャン・ミナが病院で迎えるその先の結末はメリーバッドエンドなのは言うまでもないのですが、最後の最後、安易ではない希望や救いが落とし込まれていて、鑑賞した後は「人は何のために生きているのか?」、「生きていることに意味や価値はないのだろうか?」、「人生で必要なことってなんなのか?」、そして、「生まれてこなきゃよかった人間はこの世にいるのだろうか?」「生きていることは罪なのだろうか?」…生きるということの意味を物凄く真剣に考えさせられ、観る人に人生に重大な"お土産"みたいな何かを渡してくれる掘り出し物の1品ではないかなと思いました。


第8位
『スターフィッシュ』
全国劇場公開日︰2022年3月12日(初公開︰2022年1月19日)

ミュージシャンとしても活動されているA・T・ホワイト監督が自身の離婚や親友のサヤコ・グレイス・ロビンソン(Sayako Grace Robinson[])の死をきっかけに山小屋に籠もってひとりで脚本を書き上げたある意味「実話を基づいた物語」であり、親友を失った若い女性の旅路を描いた異色のSFヒューマンドラマ。前回投稿した『未体験ゾーンの映画たち2022』上映作品ベスト10でざっくりと触れています。

この作品、『未体験ゾーンの映画たち2022』の上映作品の中では『TUBE 死の脱出』のほうがダントツで1位であることは間違いないんだけど、上映作品17本の中では実は1番何度も見返したり、見直したりはしていて、若干難解で言語的な説明はあまり無く、映画全体を味わい尽くすにはかなり時間が必要な映画ではあるのですが、彼女の心象世界、精神世界とされる白く覆われた街、病気で亡くなったとされる親友のグレースが残したカセットテープ、事故で亡くなったとされる顔の無い恋人のエドワード、絶望、孤独の象徴とされる人間に襲いかかる邪悪なモンスター…オーブリーの身に降りかかっているとても現実とは思えない体験、或いは、オーブリー、恋人とされるエドワード、亡くなった親友のグレイスとの間の背景が見えてくるようになっていて、人間、誰しもが抱える深い喪失、後悔の念、罪悪感からどう向き合うか、それらをどう解放させていくのかを美しい映像と多彩な音楽と共に描いていて、観れば観るほど、オーブリーがあの"世界"で内面にあった傷が癒えていく過程が愛おしく思えてきてならず、本当に見事で非常に感動させられました。特にラストシーン、オーブリーが雪の積もった広々とした土地にあったドームの中に入り、体が浄化されていき、あの"世界"から消える瞬間、あれは彼女がラジオ局なのか、グレイスの住む家で息絶えたのか、それとも病院で奇跡的に目覚めたのか、その先に何が待っているのかは描かれてはいないんだけど、そこで挿し込まれるオーブリーとエドワードの2人が紡いできた日々、彼女に待ち受ける運命が後者だとするならば、彼女が罪の重さから解放されて、新しい1歩を進むんだなということが提示されているようで、とにかく本当に「圧巻」の二文字に尽きると思いましたね。


第7位
『スクリーム(2022)』
リリース日︰2022年5月25日

『スクリーム』シリーズの脚本を手掛けてきたケヴィン・ウィリアムソンさんが製作総指揮を務め、『レディ・オア・ノット』のマット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット監督のコンビによる1996年から始まった、映画ファンなら知る人ぞ知る『スクリーム』シリーズの4作目の『スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション』以来、11年ぶりの続編。全米では2022年1月14日に劇場公開されたのですが、日本では諸事情があるのか、5月25日にDVDリリース&レンタル開始。後に11月中旬頃にはNetflixを中心に動画配信サービスで配信されている作品です。詳しいネタバレありの感想や解説は以前の記事でガッツリ語っています。


『スクリーム』シリーズは本作のリリースに備えて、予習がてら過去4作品を順を追って鑑賞したあとに5作目である本作『スクリーム(2022)』を観てみたのですが、これは今までの『スクリーム』シリーズのシドニーの物語とは違う、新たなる主人公の視点で語られる新たな章の幕開けとしては過去4作品を観ていなくても、割りと大丈夫ではあったのですが、シリーズを順に追って観たほうがより楽しむことができ、前作から続投しているシドニー、デューイ、ゲイルらが登場している分、シドニーたちのこれまでの歩みを知っているからこそ味わい深く、ある人物の血筋を引いていた姉とその人物との血縁関係を持っていない妹が本当の意味で"ネクスト・ジェネレーション"、言い換えれば、シドニーから次の世代へとバトンタッチできている素晴らしい物語になっていると思いました。

ただ、この年間ベストに『スクリーム』の5作目を入れておいて何ですが、人気ホラーシリーズの続編だからこそ、肯定的な意見も否定的な意見も、様々な意見が出てくる作品なのですが、あれから思い返してみても、前作『スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション』から初登場した、マーリー・シェルトンさん演じる保安官のジュディ・ヒックスが5作目で殺人鬼のゴーストフェイスに殺されて退場されるどころか、割りと無能な警察チームの中の1人として扱われているのには個人的には滅茶苦茶納得出来なかったですね。少なくとも過去作から続投している登場人物に頼り過ぎないで、そういう登場人物を一切登場しないようバッサリ退場させるのは英断ではあるんですが、1997年当時からシリーズを追っている古参も、2022年からこの『スクリーム』にハマった新規でも楽しめるように工夫するのは良いことではありますが、前作『スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション』から続投しているジュディ、本作から初登場した息子のウェス、こればかりは親子共々、退場させないほうが良かったかなと思いましたね。

次回の『Scream Ⅵ』は本作の『スクリーム(2022)』で生き残った主人公のサラ・カーペンター、次回では主役である妹のタラ・カーペンター、チャド・マーティン、その妹のミンディ・マーティンがウッズボローからニューヨークに移り住むらしいのですが、新キャストには監督コンビが手掛けていた『レディ・オア・ノット』で主演を務めたサマーラ・ウィーヴィング、同じく『レディ・オア・ノット』に出演されていたヘンリー・ツェーニー、『ザ・ビーチ(2019)』のリアナ・リベラト、ジョン・ワッツ版『スパイダーマン』のトニー・レヴォロリ、そして、どういうわけか、4作目の『スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション』から登場したカービィ・リードを演じられていたヘイデン・パネッティーアさんが6作目で同じ役で再び出演するそうなんですが、この布陣の中にサマーラ・ウィーヴィングさんと再び出演するヘイデン・パネッティーアさんを迎えたということは意外な展開が予測されそうですが、予告編を観る限り、色々あって、唯一1作目から登板しているコートニー・コックスさん演じるゲイルがゴーストフェイス扮する犯人に絶体絶命の危機に追いやられているので、ゲイルが犠牲になるルートがあるのか、もしくは、前作と呼応するかたちでカーペンター姉妹が助け出す展開が用意されているのか、どっちかは考えられるかなと思いましたね。いずれにせよ、誰がゴーストフェイスに扮して人を殺めるのか、誰がゴーストフェイスに殺される被害者、犠牲者を演じるのか、非常に楽しみではあります。現時点では日本公開が劇場公開されるのか、DVDスルーになるのかは未定ですが、全米では3月10日公開とのことです。




第6位
『女子高生に殺されたい』
劇場公開日︰2022年4月1日

『アルプススタンドのはしの方』『愛なのに』『ビリーバーズ(2022)』『夜、鳥たちが啼く』など、ピンク映画やVシネマを主に手掛け、『アルプススタンドのはしの方』をきっかけに飛ぶ鳥を落とす勢いで職人監督的ながらハイペースに商業映画を作り続けている映画監督、城定秀夫監督による漫画家の古屋兎丸さんが2発表した同名コミックを実写化したサイコ・サスペンス。劇場公開当時の舞台挨拶で主演の田中圭さん曰く、「日本映画として確実に傑作に入る。」と自信を持って豪語していた作品で、映画ファンの間では高い評価を得た実写作品です。以前投稿した上半期ベストでは第1位に入れています。

2022年は『愛なのに』『ビリーバーズ(2022)』『夜、鳥たちが啼く』、そして、『女子高生に殺されたい』、2022年に公開された城定秀夫監督が監督が手掛けた4作品を全部観ているのですが、4作品の中では『女子高生に殺されたい』がダントツで1番面白かったですね。これは原作漫画を漫画レンタルしたうえで劇場鑑賞してみたのですが、莉子さん演じる君島京子や茅島みずきさん演じる沢木愛佳といったオリジナルキャラ、佐々木真帆の内面に潜む別人格"キャサリン"が覚醒する様、舞台演劇を生かした大見せ場、原作漫画と比べると、数々の改変が見受けられるのですが、それが全く改悪にはなっておらず、映画的な面白さに直結していて、2022年屈指の漫画の実写化作品になっていると思いました。もちろん、7月8日公開の『ビリーバーズ(2022)』も原作漫画と比較したうえで、鑑賞すると、これも漫画の実写化作品としては成功作という結論付けることが可能だとは思いますが、原作未読でも、原作を既読している人でも、最高に楽しめるのは『女子高生に殺されたい』なんじゃないかな…と個人的には思いました。


第5位
『ちょっと思い出しただけ』
劇場公開日︰2022年2月14日

『くれなずめ』『バイプレイヤーズ』シリーズ、ロマンポルノ50周年記念プロジェクト 新企画「ROMAN PORNO NOW」の第1弾『手』などで知られる松居大悟監督のクリープハイプの尾崎世界観さんが1991年のジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた楽曲『ナイトオンザプラネット』にまた更に着想を得て書き上げたオリジナル脚本を池松壮亮さんと伊藤沙莉さんのダブル主演で映画化した2022年を代表する日本の恋愛映画。坂元裕二脚本、土井裕泰監督の『花束みたいな恋をした』の系譜を引き継ぐような、ほろ苦くて、切ない味わいを持たらしてくれる逸品です。

これは実は…元々は映画ランキングを作るうえで、11位〜20位あたりに入れようと思っていた作品で、年末年始、映画締めをしようと最後に新作映画を1本観ようと考えていたのですが、今年(2022年)に観た新作映画を振り返って、「人生に必要な映画は何か?」を考えた時にコレを思い出してしまい、GEOの「レンタル100円祭り」で準新作で借りて見直して観たのですが、その結果、これがもう劇場鑑賞に引き続き、完全にノックアウトでした。お話そのものは構成上、「照生と葉の馴れ初め→恋人同士になる直前の照生と葉→まだ輝かしかった頃の照生と葉→別れる直前の照生と葉→あれから別れた照生と葉→コロナ禍の照生と葉の日常風景→照生と葉の再会、再出発」、このような話の流れを照生の誕生日、7月26日を通して2人の6年間に及ぶ恋愛模様を時間を遡って描いているんだけど、自分がこれまだ生きてきた5~6年間、どうしてたんだろう、どうやって生きてたんだろうと思い返してしまい、改めて、人生のかけがえなさやままならなさ、時間の流れの美しさと残酷さが浮かび上がっていて、どう考えても涙なしでは観られなくて、「あの数年間、手にしたもの、失ってしまったものはそれぞれあるけど、それでも生きていこう。」と鑑賞後は寂しい気持ちと晴れやかな気持ちになれる素晴らしい傑作だと思いました。監督の全作品を制覇しているわけではないのですが、松居大悟監督のフィルモグラフィーの中ではコレが最高傑作なのではないのでしょうか。


第4位
『TUBE 死の脱出』

『HOSTILE ホスティル』のマチュー・テュリ監督によるSFアクションスリラー。元々は前々回にあたる『未体験ゾーンの映画たち2021』の上映作品として2021年3月12日に劇場公開される予定だったのですが、日本では公開中止となり、1年のブランクを経て、『未体験ゾーンの映画たち2022』上映作品として劇場公開された作品です。詳しい感想や解説は以前の記事で触れていて、前回投稿した『未体験ゾーンの映画たち2022』上映作品ベスト10では第1位に入れていただいた作品です。


この作品、以前の『TUBE 死の脱出』の記事、2022年上半期の映画ランキング、『未体験ゾーンの映画たち2022』の上映作品のベスト10で散々語り尽くしてはいるのですが、いわゆる『CUBE』のようなソリッドシチュエーションスリラー、ワンシチュエーションスリラーとして認識して観れば、大変肩透かしを食らうかねないのですが、娯楽性は決して高くなく、寓話的、宗教的な要素のほうが前に出ていて、冒頭の殺人犯アダムと思われるゾンビのような生き物、主人公である母親のリザがあの閉鎖空間で死にかけたのに1度コンティニューできたり、最後の最後に脱出できると思ったのに失敗に終わり、また死ぬ運命かと思えば、攫ってきた宇宙人とされる存在が救いの手を差し伸べたりといったご都合主義的な展開、脱出した先に待ち受ける天国に近いような惑星の景色、配給会社の宣伝方法も相まって、非常に賛否は分かれるのですが、端的に言えば、事故で娘を失った母親の喪失と再生の物語をアート映画的な趣で語り切っているのですが、人生は苦難の連続であって、乗り越えても、乗り越えても、死ぬまであらゆる悲しみや苦しみ、憎しみから向き合い、受け入れなければいけない。この理不尽で、不条理な世の中であらゆる過酷な試練や逆境に耐え、寿命が尽きるまで生き続けなきゃいけないということを伝えていて、人間、生きている中で欠かせない根源的な問いを突きつけてくれる、滅茶苦茶刺さる人には刺さる作品だと思いました。


第3位
『バッドマン 史上最低のヒーロー』
劇場公開日︰2022年7月15日
『真夜中のパリでヒャッハー!』、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』などのフィリップ・ラショー監督が監督の過去作に出演しているお馴染みのキャスト・スタッフを迎えて贈る、MARVEL、DCを中心としアメコミヒーローのパロディネタをふんだんに散りばめたアクションコメディ。全仏では2022年2月22日に劇場公開され、本国初登場1位を獲得したヒット作です。

実はフィリップ・ラショー監督、いや…フィリップ・ラショー監督らチームの作品は全部観ていて、この監督の常連俳優であるタレク・ブダリさんが監督・脚本を務めている『パーフェクト・プラン 人生逆転のパリ大作戦!』『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』は割りと安心安定で面白いのですが、今までの礎を築いてきた、フィリップ・ラショー監督か作り上げた作品群のほうが完成度が高くて、『世界の果てまでヒャッハー!』『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』では一部のシーンでアメコミヒーローを笑いのネタにはしていたのですが、最新作の 『バッドマン 史上最低のヒーロー』では監督の持ち味の1つである誠意が込められた作品愛がギュッと詰まっていて、これまで過去作に散見されたアメコミヒーローの笑いのネタがより発展されているコメディ映画という風に感じられました。

で、日本の配給会社、株式会社アルバトロスはそんなに力を入れてなかったのか、日本では劇場公開当時は日本語の情報が少なくて、物販の映画パンフレットですら販売されてないのは残念なんですが、フィリップ・ラショー監督らチームが毎度欠かさずやっている、下品な下ネタであるとか、女、子供、老人、動物に対しての"痛みを伴う笑い"であるとかは相変わらず健在ではあるのですが、メインとなるアメコミヒーローのパロディネタを挟みつつ、フィリップ・ラショー監督自身が演じる売れない俳優のセドリックと警察署の署長を務めている父親のマイケルの親子関係の修復、再生がしっかり描かれていて、クライマックス、あの『アベンジャーズ』の1作目、または、今後のMCUのフェーズ5以降の『アベンジャーズ』の在るべき姿を連想させるようなセドリックらが戦闘態勢を整えるシーンで興奮すると思いきや、結局、セドリックのみが悪役に立ち向かって、あっさり悪役を倒す一連の展開には消化不良に感じる人は少数ながらいるかもしれませんが、その直後にセドリックが警察官を引退する父親に向けて、ある"プレゼント"が用意されていて、その後の展開で『アイアンマン』のアレみたいなパロディをしないで、父親への思いを本人の前に言葉を贈っていて、ここは本当に非常に見事なくだりだったんじゃないかなと思いました。

あと、もっと言えば、これも日本では情報が少なくて、あんまり触れられてないのですが、物語の大筋は記憶喪失のセドリックがヒーローだと信じ込んで、"バッドマン"として活躍する話ではあるんだけど、彼が失った記憶にはある忘れてはいけない大事な思い出があるということが大きな推進力となっていて、物語の要所要所で記憶を失った彼の記憶とされる過去の回想シーンが挟み込まれてはいるのですが、それがラストに分かった瞬間、目頭が熱くなるほどの感動が用意されていて、『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハーな大騒動になった件』では序盤の数分しか一切登場していなかった主人公のグレッグの元カノであり、アリバイ会社の女性スタッフのひとり、クララを演じられていたアリス・デュフールさんがセドリックを知る人物を好演されている分、2回目に観ると、滅茶苦茶彼女の置かれている立場やその立場にいることへの心情に肩入れしちゃうし、なんなら、『アリバイ・ドット・コム』の別の世界線を観ているようでニンマリしながらも、ホロリとさせられました。しかも、ラストシーン、セドリックが主演を飾った劇中映画『バッドマン』が映し出されているのですが、映画の物語に出てくるジョーカー似の悪役に捕らわれた家族を救おうとするバッドマンの物語が現実世界で"バッドマン"だと信じ込んでいたセドリックの物語と微妙にシンクロするようになっていて、今まで生きてきた中で大切なものを見失ってないか、自分の人生の現在地に立ってみて、見落としているものはないのか…そういう熱いメッセージがほんのりと感じられて、あのラストには最高に胸が熱くなりましたね。


第2位
『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
劇場公開日︰2022年10月14日(先行上映)、2022年10月28日(全国公開)

ある中学校の2年生のクラスの3学期に密着した、ドキュメンタリー映画『17歳の栞』で高い注目を浴びた竹林亮監督がメガホンを取り、監督の過去作にも携わっている夏生さえりさんが共同脚本として参加している、お仕事物にタイムループ物を組み合わせた、タイムループ物の新たなる傑作。ミニシアター系の作品ではかなりのロングランヒットを記録した、2022年を代表する日本映画です。

タイムループ物と言えば、これまで近年ではブラムハウス製作、クリストファー・ランドン監督の『ハッピー・デス・デイ』、マックス・バーバコウ監督の『パーム・スプリングス』、ジョー・カーナハン監督の『コンティニュー』、そして、個人的にはオールタイムベスト級の加藤悦生監督の『三尺魂』などがありますが、長編映画としては題材的には劇場でしか観られない『14歳の栞』で長編映画監督デビューを果たした竹林亮監督が長編第2作目で、物語の内容はさることながら、『カメラを止めるな!』や『アルプススタンドのはしの方』同様、ほぼほぼ映画やTVドラマではちょい役で見かけないような無名俳優で役者陣が固められていて、どのような出来なのかと劇場に行ってこの目で確かめてみたのですが、コレが『三尺魂』と肩を並べるほどの日本産タイムループ物の傑作でした。

主人公に当たる吉川朱海が先に同じ1週間を繰り返していることに気づいたとされる後輩社員の遠藤と村田がきっかけで異変に気づく展開は先にタイムループを堪能している人物とタイムループに巻き込まれた人物が合流するという意味では、『パーム・スプリングス』に近く、冒頭から既に登場人物がタイムループに巻き込まれているところから『コンティニュー』にちょっと類似しているのだが、『味噌汁専用炭酸タブレット』という需要があんまり無さそうな架空の商品、大和ビジョンの担当者の周囲が作った商品のPR映像でクスッと来る笑いどころを押さえつつ、月曜日から日曜日、あらかじめ1週間の流れをスマートに見せてから、主要人物である広告代理店の社員たちが次々とタイムループに自覚していき、それを繰り返す時間軸を生きる彼らが事態や問題を解決する展開は面白く、「遠藤と村田→吉川→森山→平→永久部長」、同じ職場にいる人間を立場順にひとりひとり気付かせる一連の流れは森山にタイムループに巻き込まれることを気付かせる時はドルオタの彼が推しているlyrical schoolのコンサートチケットを買わせて事態を回避させたり、平に気付かせる時は吉川が彼に充電させまいと"Indiana Jones"的なアクションでなんとか充電器の延長コードを隠したり、永久部長に気付かせる時は一同がPowerPointを使ったプレゼンで説得させたりとタイムループ物としては非常に新鮮味に溢れていて、純粋にニヤニヤしながら楽しめました。

物語は実質的には前半と後半、2部構成になっていて、後半以降は今までタイムループの件には関わらなかった事務職の聖子がようやく介入してからは永久部長が出版社に提出しなかった漫画を完成させ、それを編集者に送るのが本来の仕事と共にやりこなさなければならないのですが、物語に出てくる劇中の漫画『化けキツネの呪い』の物語の内容は本筋の物語、或いは、永久部長の半生と微妙にリンクするようになっていて、イラストレーター・漫画家のやじまりさんが劇中の漫画を手掛けられているのですが、1週間を何度も繰り返してはやり直す吉川たち、漫画家の夢を諦め、中間管理職な広告代理店の部長の道を歩んでいる永久部長、同じ人生を繰り返しては間違った選択を選び、失敗してしまう劇中漫画の主人公…映画的な表現はさぼど加えられてないはずなのに、『化けキツネの呪い』でバンドで成功を収めようとしたものの、最終的に平凡な人生を選んだ彼の生き方には現在進行形で現世で生きている自分の実人生に重なるところがあり、中学時代、高校時代、短大の時代、現在進行形で引き籠もりの日常を送っている現在、様々な失敗を思い出す度に胸が苦しくなり、ラストの「地味な人生だったな。もう1回やるか?」のくだりでは「より良く生きるとは何か?」「この先の人生をどう生きるか?」「本当の幸せとは何か?」、お仕事物としては職場の仲間同士の信頼関係、協力関係を通じて必要なこと、学べることが落とし込まれてはいるのですが、これまた"人生の選択"について深々と考えさせられる素晴らしい傑作だと思いました。

強いて言えば、エンドロール後にあるおまけのシーン、あそこで長村航希さん演じる遠藤の自己実現が描かれてはいるのですが、遠藤の自己実現は吉川のパソコンに送られてきたメールで提示されているのに、それを画的には見せてなくて、吉川たちがその後の姿が見れるので微笑ましい気持ちにはなるのですが、低予算なんだから、グリーンバックの合成で作った画像で具体的に見せたほうが分かりやすかったんじゃないかなと思いました。なんなら、それを具体的に見せたほうが加藤悦生監督の『三尺魂』を超えるぐらいの生涯ベスト級の1作になってたんじゃないかなと思いました。


第1位
『奈落のマイホーム』
劇場公開日︰2022年11月11日

『クライング・フィスト』(共同脚本)、『バトル・オーシャン 海上決戦』のチョン・チョルホンが脚本を手掛け、『光州5・18』『第7鉱区』『ザ・タワー 超高層ビル大火災』のキム・ジフン監督を務めた地盤沈下により発生した巨大な陥没穴から落ちたマンションの住人たちがどう脱出するかを描いた、韓国では2021年を代表するディザスター・パニック映画。第42回(2021年)青龍映画賞では2部門にノミネート。2021年公開の韓国映画としては観客動員数を100万人を突破させ、2021年韓国映画興行収入No.1大ヒットで、日本では2022年7月1日に劇場公開された『モガディシュ 脱出までの14日間』に続く、第2位の大ヒットを記録しています。

この作品、実を言うと、記憶が正しければ、2021年の秋冬あたりに韓国本国で映画の存在を知っていて、本作の海外版予告編には目を通していた時点でコメディ全開の内容といい、役者陣といい、迫力あるディザスター物ならではな見せ場といい、「これは滅茶苦茶面白そう!」と睨んでいた作品で、2022年の1月からずっと日本公開されるまで待ちに待ち、『モガディシュ 脱出までの14日間』が先に日本公開されたものの、2022年8月30日、日本公開が決定されたという情報が解禁された時は血が騒ぐほど大興奮しました。そして、『モガディシュ 脱出までの14日間』の次にヒットした韓国映画としてはあんまり映画ファンに広く浸透はされてないのですが、劇場公開当時は映画ファンからはかなり評判が高く、ずっと日本公開待ちに待った分、県外を往来してまで劇場で観に行ったのですが、これが気軽に楽しめるタイプのブロックバスター系の小規模公開作品ではありますが、これがもう映画的な面白さが詰まっていた至福の1作でした。

キム・ジフン監督の一貫した作家性が光っているのか、ジャンル的にはディザスター・パニックとコメディを組み合わせているのですが、序盤の30分はコッテコテのコメディ要素全開で登場人物の掛け合いが繰り広げられていて、3つの仕事を掛け持ちしているマンスの神出鬼没ぶりや引っ越しパーティーで見せたインターンのウンジュの意外な一面、夢のマイホームを買った割には客観的にはちょっと嫌なヤツだけど、なんだか微笑ましいドンウォンたち家族の日常など…様々なシーンが見せられてはいるんだけど、本題に入ると、巨大陥没穴(シンクホール)が発生するシーンはVFX技術がしっかりしてることも相まって、コッテコテのコメディ要素全開の前置きがあるからこそ、映画的な飛躍が効いていて、迫力満点で、なおかつ絶望感、恐怖感を生み出しているのが絶品で本当に堪らなかったです。奈落の底に落ちた後も面白く、生き残ったドンウォンやマンス、ドンウォンの引っ越しパーティーに来ていたキム代理とウンジュ、マンスの息子のスンテの5人がほとんど最後まで行動を共にしていき、事態発生時にタクシーに閉じ込められたキム代理がドンウォンに助けを求めようとしたら、後部座席のドアノブが外れちゃうハプニングであるとか、マンスがドンウォンが買ったアンティーク調のロッキングチェアを薪代わりに使った際に魅せたドンウォンの反応であるとか、一同が焚き火を囲って食べる鶏の泥焼きであるとか、兎にも角にも、深刻な状況なはずなのに、緊張感や切迫感は薄いんだけど、繰り出される笑いの連続には滅茶苦茶ホッコリさせられるものばかりでした。また、物語の終盤手前、主人公であるドンウォンが一家の父親として生き残っていた息子のゴウンを救う数少ない見せ場の直後、ゴウンがマンスたちのいる場所とは別の場所でなんとか生きていた隣人のお婆さんのオさんとゴウンと同年代の子ども、ソンフンの遺体があったのですが、お婆さんのオさんが取った自己犠牲は心に揺さぶられ、誰かの分まで生きるというのはどういうことなのか、絶体絶命に陥った時にどうあるべきか、オさんの複雑な内面には人間の本質のようなものが伝わってきて、奈落の底で起きている救出劇、生還劇は荒唐無稽でツッコミどころが多少あるのに、非常にノンフィクション的であり、非常に印象に残る場面でした。

そして、クライマックス、ビートルズの「Yellow Submarine」を彷彿とさせるようなアレが出てきてからは隣人のマンスが自己犠牲を払って死ぬのかと思いきや、死んでなくて、また死ぬのかと思いきや、結局、生きているの繰り返しの展開の連続で超人的な活躍を見せてくれるのですが、その後の後日談、ここで事故で生き残った5人とドンウォンの妻、ヨンイが高層マンションでもなく、欠陥住宅でもない、新しいライフスタイルを獲得したある人物たちの元に行って祝福するのですが、あそこでドンウォンの息子、ゴウンが不在になっているどころか、ゴウンが不在になっている理由や動機が一切語られていないのはどうかなと思わなくもないんだけど、ドンウォンとヨンイ、マンスとスンテ、キム代理とウンジュ、社会的地位は高くなくて、裕福とは言い難い暮らしをしている彼らが仲間同士で繋がり、鶏の泥焼きを食べて、笑い合う姿は多幸感に溢れていて、「それでも人生をどう生きるのか?」「幸せに生きることはどういうことなのか?」…鑑賞後は今後の人生を前向きに生きたいと思わせてくれる、とんでもない快作だと思いました。

個人的には日本の配給会社、GAGAさんの宣伝ではあんまりクレジットされてなくて、日本では全国一般劇場公開されてない作品は実質的には本作『奈落のマイホーム』のみではあるので目を瞑るべきだとは思うのですが、このランキングでは第9位に入れた『マドンナ』ではチャン・ミナを演じられていたクォン・ソヒォンさんがドンウォンの妻、ヨンイを好演されていて、『暗数殺人』では連続殺人鬼のカン・テオに殺害されるホステス、オ・ジヒを、『虐待の証明』では娘を虐待する母親(内縁の女性)、ミギョンを演じてられていて、日本で観られるこれまでの彼女の出演作品はどちらかと言えば、幸のない人生を送っている女性を演じてるのが多かったのですが、本作では事故で愛する夫と息子を失いかけてはいるのですが、夫と息子の無事を祈るいい母親を演じられていて、非常に好ましかったですね。

ということで、生涯ベスト級にちょっと近いには『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』なんですが、2022年、自分がずっと追い求めていて、出会うべくして出会った作品で、私が愛してやまないものがどういうものなのか…という意味では、『奈落のマイホーム』が不動の第1位だったんじゃないかなと思いました。



○ブログ主のシネマランキング2022(ベスト映画10本)
チャンピオン:クルードさんちのあたらしい冒険
1 奈落のマイホーム
2 MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない
3 バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー
4 TUBE 死の脱出
5 ちょっと思い出しただけ
6 女子高生に殺されたい
7 スクリーム(2022)
8 スターフィッシュ
9 マドンナ
10 窓辺にて

・総括
ということで、2022年のベスト映画10本(+1)はこのようなラインナップになりました。昨年のシネマランキング(2021年のベスト映画)は前回の記事では「あらゆる角度から人生の選択、生き方の選択について問い直す作品群」、「クリエイター、または表現者にとっての生きる意味、生きる価値の輝かしさ、愛おしさ、かけがえのなさがこの作品群には詰まっている」とテーマを語ったのですが、2022年のベスト映画にテーマを付けるとするのならば、「喪失と再生」「"それでも"生きる」といった感じでしょうか。


特にベスト3の『奈落のマイホーム』『MONDAYS』『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』がそうなのですが、大切な記憶を失い、夢や目標を失い、これまでの生活を失い、自分が今まで持っていた"何か"を失ってしまったけど、その先にある「見失ってみて初めて分かったこと」というのが明白に提示されている作品群なんじゃないかな…と思っています。もちろん、一部の作品はテーマ的に噛み合ってない作品があるとは思いますが、"これから"の人生、簡単そうに見えて、実際は非常に険しい道が続いてるかもしれませんが、現実から逃げ出したい時にふと思い出し、"それでも"生きようと前を向きたくなる、そういう映画こそ、私が選んだ10本だと思いました。

ということで、最低でも上半期ベストと年間ベストは毎年欠かさず投稿したいと思っていますので、2023年もよろしくお願い致します。