チーフ・エディターのブログ

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音楽配信の仕事上年間クラシック中心に毎年1,200枚ハイレゾの新譜を聴く中で気になったものを1日1枚。

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Franco Fagioli (Pentaton) 96Khz/24bit

モーツアルトがオペラの中でカストラートによって歌われることを想定した曲を随分と作っていたことをこのアルバムを聴くまで気に留めた事もなかった。

 

モーツァルトのオペラというと普通は4大オペラということで、ダ・ポンテ三部作のフィガロ、ドンジョバンニ、コジファンテゥッテと魔笛があまりにも有名すぎて他はあったんだっけと思ってしまうくらいだが。。

 

実際モーツアルトは17ものオペラを完成させている。その作品群の中で配役としてカストラートが歌う場面も普通にあったのだろう。現代では去勢された男性歌手というのはいないでしょう。このアルバムではそのオペラからのアリア。及び宗教作品などを収録してある。

 

歌うのはトップ・カウンターテナーのフランコ・ファジョーリ。魅力はやはり、女性歌手では難しい男性ならではの豊かな声量とその迫力。

 

今ではソプラノ歌手によって歌われる華やかで有名な『エクスルターテ・ユビラーテ』にしても、もともとはカストラートを想定して作曲されたものなので、これを聴くとモーツアルトが想定していた『歌』というものは、しなやかで優美というよりも結構力強いものなのだと想像することができる。それにしても、この歌手はなかなか凄い。

 

演奏もKammerorchester Baselが脇を固めて言うことなし。とても楽しく聴けたアルバムだった。

 

 

 

 

 

2023-485

 

 

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Ensemble Gilles Binchois (Evidence) 96Khz/24bit

1400年頃に北フランスで生まれたギョーム・ド・デュファイはそれまでの中世の音楽要素を集大成し、それをベースにした彼のイマジネーション溢れる作品はその頃から始まるルネサンス音楽の発展に大いに寄与したと言われている。とても有名で録音もよく出てくるのは循環ミサ形式で書かれた傑作のミサ曲群だが、結構いい感じの世俗曲・シャンソンも80曲余り作っている。世俗曲なので愛のうたが多いのだが600年前と言うことを考えると随分洗練されている。中世ど真ん中の頃の吟遊詩人が歌う世俗曲とは一味違った抒情的な旋律、柔らかな和声の絡みなどで何か独特の優美な世界観を作り出している。

 

合唱はアンサンブル・ジル・バンショワ。バンショワもちょうどデュファイと同時期の作曲家。その名を冠しているグループだけあり、ルネサンス、フランドル派合唱のプロフェッショナルとしてこれ以上ないと言うくらいに美しいアンサンブルを披露している。シャンソンは夜聴いてもミサ曲のようにしんみりすることはないし、かと言って600年も前のラブソングなので抒情的と言ってもそこは控えめ。ただアルバムジャケットの絵ではド派手ハートマークいっぱいで当時の騎士はこんな愛の伝え方をしていたのだろうかという方に興味がむいてしまう。。詩の内容を想像しながらただただ美しい旋律と和声の動きを味わいながら騎士の時代の愛情表現に思いを馳せることができる。

 

2023-168

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Constance Luzzati.  (Paraty)

ジャン=フィリップ・ラモー。1683-1764。バロック期のフランスを代表する作曲家であるがクープランほどには知られていない。ラモーは遅咲きの人で教会のオルガニストとして生計を立てていた。音楽理論家としては名を知られてはいたが、作曲家としては50歳近くになって一気にその才能を開花させ、それ以降80歳で亡くなるまでのほぼ30年間に約30ものオペラを作り人気を博したという中高年にとっては何とも勇気づけられる活躍をした人だ。

 

このアルバムはラモーがその50歳になる以前に作曲したクラヴサン組曲。それをハープだけで忠実に演奏した初めてのものだそうだ。演奏者のluzzattiは音楽院で5年間18世紀にフランスで出版されたクラヴサンの作品をほぼ全部研究したそうで実際流石に飽きたそうだがラモーの作品はその中でも宝石のような輝きを持っていたという。

 

ラモーの時代フランスではこれを演奏できるハープはまだ存在しなかったそうで、その後ペダル付きが発明されてから他の楽器用に作られた様々な作品がハープ用に編曲されたという。その中にはハープで演奏した方がより適していると感じる楽曲も多くあると言う。ハープの方が一音一音は豊かに表現できるわけだから。もっとも当時奏でられたであろう音色で再現しようとすると弦も調弦もずいぶんと違うためそこが苦労のしどころだったそうだ。

 

この曲はハープで奏でられるとあまりバロックという感じがしない。タイトルは『ハーモニクス』と言うことで、音楽用語として『ハーモニー』という言葉に意味を持たせた最初の人であるラモーに因んでもいる。ハープ特有のオブラートに包まれたような音色はBGMにもちょうどよく作業を妨げられることもない。

 

2023-263

 

 

 

 

 

 

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William Winant (Cold Blue Music) 96Khz/24bit

これはとても幻想的なソロ・ヴィブラフォンによる9楽章の現代音楽。速弾きや曲芸的なテクニックを見せつけるということもなく無く、ゆっくりとしたシンプルな旋律でヴィブラフォン響かせ、スピーカーで聴くと部屋の中がヴィブラフォンのゆらゆら揺れる芳醇な音色でいっぱいになる。

 

アメリカの現代作曲家Peter Garlandはバスケット(籠)が大好きでコレクターでもある。彼の籠、籠職人に対する憧れというものは、それが伝統的な人々の暮らし、季節に根ざして調和しているからだという。大体において本当の籠作りは辺鄙な場所で営まれておりそこでの生活はスローペースで、せわしない都市に生きる芸術家とのものとは違う。そのようなアートと籠づくりのようなクラフトワークとは何が違うのだろう? そこには違いがあるはずで、その接点をいつも探しているのだと言う。常々、籠のようによく出来ていて、美しく、実用的で、頑丈な作品を書きたいと思っているそうだ。

 

アートとクラフトワークとの違いなんて考えたこともなかったが、言われてみるとバスケットというものは規則性のある編み方で、よく見てみるとそれが織りなす模様は芸術的で美しい。でも、芸術作品にしようと思ってやっているわけではない。

 

このアルバムで展開されている曲目も、単純化された音楽の構造、強烈な協和音、ミニマルという彼のこれまでの作曲スタイルに沿ったものになっている。籠の紋様もそう言えば、まるで同じような旋律が徐々に変化していくミニマル音楽のようだ。

 

このような作品を演奏しているのはパーカッショニストの、William Winantでグラミー賞にもノミネートされた現代音楽パーカッショニストとしての第一人者。作曲家のGarlandとは50年以上の付き合いになるそうでこの作品の解釈としてはこれ以上のプレイヤーはいないだろう。

 

2023-251

 

 

 

 

 

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Stenhammer Quartet  (BIS)  96Khz/24bit

フィンランドのシベリウス(1865 - 1957)、デンマークのニールセン(1865 - 1931)と同時代に生きたスウェーデンを代表する作曲家ステンハンマル(1871-1927)。彼らは互いに友人同士でシベリウスは交響曲6番を献呈したりもしている。ノルウェーのグリーグは1843年生まれなので一つ世代違いになる。

 

このデンマークとフィンランドのお二人に比べると知名度では相当劣るのだが、これは作品の質どうこうという事よりこれまでの国外での演奏機会、紹介のされかたの違いによるのだろう。最近は同じスウェーデン出身の指揮者ブロムステットが盛んに演奏会で取り上げている。ブロムステットはイエテボリのステンハンマル協会の初代会長でもあった(今でもそうかもしれない)。

 

このアルバムは弦楽四重奏の一番から六番までの全集仕立てでのニューリリースでしかもSACDという豪華さ。発行はやっぱりスウェーデンに本社のあるBIS Record. 演奏はステンハンマル四重奏団というオールスウェーデン。なるほど録音自体はここ10年で順次リリースしたものをまとめて高音質化して出したという事だな。全集の良いところは順番に聴いていくと作曲家のスタイルの変遷を辿ることができて、当然そこには公私に何かしらの理由が存在するわけで、それが大体においてデリケートな作曲家にとってはその芸術表現にその影響を及ぼしている。彼の場合は当時大国であるロシアと強国ドイツによる圧迫でスカンジナヴィアも難しい国際情勢と民族意識の高まり、流行りつつあった新しい作曲手法の影響なども当然あるだろう。

細かい作曲技法までは云々できないが1894年の第一番と1916年の第六番に至るまで徐々に充実度が上がっているのは感じることができる。四番以降は完成度もずいぶん高く五番も独特のリズムがあって面白い。これをスカンジナヴィア的というのであろうか。ロマン派音楽は甘すぎて聴く気がしないけど現代音楽はもっと聴く気がしないという時にちょうどいいのがこの頃の北欧系。もっと聴かれてもいい作曲家だと思う。

 

2023-208

 

 

 

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Edin Karamazov ,  Pavel Steidl (APARTE) 96Khz/24bit

エディン・カラマゾフは15年ぐらい前にスティングが同じ英国のジョン・ダウランドの作品を歌ったDGから出した『ラビリンス』というアルバムで共演したのでよく覚えている。カラマゾフっていう名前自体インパクトがあるのでそうそう忘れるものではないというのもあるが。その『ラビリンス』のMVではリュート・ギター専門のカラマゾフと一緒にスティングがリュートをちゃんと弾いているので、ベーシストなのにもギターだけでなくリュートも弾けるのかと感心した。そのカラマゾフ氏が同業のギタリストSteidlと組んでモーツァルト、ハイドン、シューベルトという、もしこれがピアノとか弦楽奏だとしたら余りにもありきたりだと思われてしまうであろう三大作曲家の作品を新たに2台のギター用に編曲して演奏している。

 

ハイドン、モーツァルトのピアノ曲を2台のギターで情感豊かに奏でておりピアノとはまた別の表情が魅力的だが、でもなんと言ってもシューベルトの『アルペジオーネd821』がとてもいい。もともと、アルペジオーネというのは19世紀前半に発明された楽器でチェロを小型にしたような形をしているが、ギター職人によって考案されたため24のフレットがある。変わった楽器だが短命に終わった。シューベルトはこの半分ギターのような楽器のためにこの曲を書いたのでギター的な演奏も考慮していたのだろう、今ではチェロで演奏されることが多いがこの曲の持つ流麗で軽快な親しみ易いメロディーは、乾いて軽やかなギターサウンドによく合っている。名曲に新たな息吹を吹き込んだよう。

 

2023-251

 

 

 

 

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 Maxim Emelyanychev, Il Pomo d'Oro  (APARTE )

マキシム・エメリャニチェフが自ら率いるイル・ポモドーロと開始したモーツァルトの交響曲全集その第一弾は8歳の時に作曲した第1番と最後の交響曲第41番。毎回、協奏曲が含まれるという事で記念すべき最初に選ばれた協奏曲はピアノ協奏曲23番。

 

交響曲の方もシリーズ一枚目ということもあり気合の入った聴きてを引き込むような演奏でそれはそれで素晴らしいのだが、23番のピアノが実に自在で魅力的なインタープリテーション、こういう23番は聴いたことがないという結構白眉な内容で強い印象を残す。使用しているのは1823年制フォルテピアノのレプリカで当時の音色を模倣しており、モーツァルトもきっとこのように指揮振りしながらこんなふうに自由自在に23番を弾いたのだろうなぁとその演奏風景が目に浮かぶよう。エメリャニチェフは凄いピアニストだ。

 

41番はモーツァルトが好んだC-D-F-E音型の終楽章での大胆な使用で有名でもある。1番はあまり聴く事もないけれども、並べられると、そうかモーツァルトは既に8歳の時に作曲した第1番第二楽章でも使っていたのかと、つまり結果的に最初と最後の交響曲で使われるという事になってしまうのだな。これは全くの偶然かそれとも決められていた運命?

 

2023-285

 

 

 

 

 

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Walter Klein,Ivan Klansky, Tatiana Nikolayeva etc (Praga Digitals) 96Khz/24bit

さまざまなな理由のために右手を使えなくなってしまった人のために作曲された作品集。いわゆる『左手のためのピアノ曲』というものは結構存在しており、音楽の教科書に出てくるような偉大な作曲家も作品を残している。多いのは事故、戦争で右手を失くしたか、或いは舘野泉さんのように病気により不自由になってしまったというケースであるが、このアルバムで最初に収められているブラームスの『シャコンヌ、左手の為に』はクララ・シューマンが右手を故障して使えない時に作ってあげた曲というものもある。

 

アルバムの副題はホルマンに捧ぐとなっている。チェコのピアニスト、オタカー・ホルマン(1894-1967)の場合は第一次世界大戦従軍時に弾が右の掌を貫通して不自由になってしまった。ホルマンはそれでピアノが弾けなくなったというわけではなく、元々ヴァイオリニストを目指しており右手で弓を持つことができなくなってしまいヴァイオリニストになることは諦めざるを得なかったのだが、音楽家の道は捨てきれずピアニストとしてやってみる事を選んだ。それはもちろん左手の。そして相当な努力をしてピアニストとして成功を収め当時最も尊敬されるピアニストとなった。同時代のチェコの大作曲家達、マルティーヌ、ヤナーチェックも彼のために作曲をしたという事(ここで収められている2曲)がその事実を物語っている。

 

アルバム最後の曲でタチアナ・ニコラーエワがロジェストベンスキーとの共演でシュトラウスの”Piano Concerto for left hand” を取り上げているのは珍しくちょっとした驚きだった。しかも、これ左手だけで弾いているとはとても思えない超絶技巧的で2度びっくり。華麗な演奏は感動すら覚える。

 

演奏会でも聴く機会がほとんどなく録音も多いとは言えないレアな曲という範疇に入ってしまうのだが、普通ではないだけにそれぞれ作曲の背景には演奏者と結びついた特有のストーリーがあって味わい深い曲達だと言える。

2023-72

 

 

 

 

 

 

 

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Tim Allhoff(P)Robert Mehlhart / Cantatorium

このアルバムジャケットは不思議だと思いませんか? タイトルもアーティスト名も何も書いていない。タイトルは書くまでもなく、見ればわかるように宗教音楽なのだろうという察しはつく。ただ、単なる宗教音楽そのものではない。

 

題材はグレゴリアンチャント。グレゴリオ聖歌の研究者として知られるメールハルト神父という方が指揮をしているカントリウムという男性合唱団にピアノを組み合わせるというありそうで無かった共演。荘厳なグレゴリアンチャントの単旋律の合唱の中に穏やかで優しい音色のピアノが浮き上がるように入ってくる。或いは先行するピアノの調べの中にチャントがかぶさってくる。似たようなコンセプトでフランドルのポリフォニーの合唱とジャズトリオの組み合わせによる瞑想風音楽は聴いたことがあるが、グレゴリアンチャント+ピアノは初めて。別々にしてもとてもいい音楽だけれども、二つが合わさってそれ以上のものになっている。

 

ティム・アルホフは1980年ドイツのアウクスブルク生まれで、ジャズ畑のピアニストだがネオクラシックの分野でドイツの有名なエコー音楽賞を受賞したこともあるそうでこのピアノのセンスが素晴らしくよい。最も古い音楽の一つと言われるグレゴリアンチャントと現代のピアノによるモダンな旋律が時を越えて混じり合いなんとも言えない穏やかで癒しの世界を創り出している。

 

2023-162

 

 

 

 

 

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La Reveuse (harmonia mundi) 96Khz/24bit

鳥のさえずりは実に妙なる調べをもつものとして作曲家のインスピレーションを刺激し、またそれを作品に取り込んだり旋律に反映させようとしてきた作曲家も少なからずいる。もともと、ヒトが言葉を持つ前は鳥とほぼ同じような方法で声を出してコミュニケーションをとっていたと言われておりそれが発達して言語になったというのがわかってきているので作曲家だけでなく私達が鳥の鳴き声に惹かれるというのもわかる気がする。

 

このアルバムでは人間と動物との関わり、ほとんど鳥をテーマにした作品を集めている。ルネサンスの時期からバロックへ、さらには19世紀近代へ。ファンエイク、クープラン、サンサーンス、ブリテン、ラヴェルなどそうそうたる作曲家が作品を残している。現代ではヴァンサン・ブショの『絶滅危惧種の謝肉祭』組曲。組曲の中には『センザンコウ』、『インドガーヴィル』、アルバムジャケットにもなっているマダガスカルにいた『ドードー鳥』などが取り上げられている。最後の曲は『人類』。

2023-158

 

 

 

 

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